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特開2022-88306含フッ素重合体組成物およびガスケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088306
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】含フッ素重合体組成物およびガスケット
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20220607BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20220607BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220607BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20220607BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/00
C08K5/00
C08F8/00
F16J15/10 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116423
(22)【出願日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2020200372
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
(72)【発明者】
【氏名】河合 剛
(72)【発明者】
【氏名】淀川 正英
(72)【発明者】
【氏名】別府 祥太朗
【テーマコード(参考)】
3J040
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3J040FA07
3J040HA02
3J040HA07
3J040HA15
4J002BD121
4J002BD171
4J002DA036
4J002DE136
4J002DE236
4J002DG046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002EK007
4J002ER008
4J002FD016
4J002FD147
4J002FD158
4J002GJ02
4J100AC22P
4J100AC24P
4J100AC27P
4J100AC30P
4J100AC37P
4J100DA49
4J100HA53
4J100HC01
4J100HC29
4J100HC36
4J100HC51
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用いられ、架橋時の加工性に優れ、かつ、高温下における苛性ソーダに対する長期耐久性に優れる架橋物を製造できる、含フッ素重合体組成物およびガスケットの提供。
【解決手段】本発明の含フッ素重合体組成物は、苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用い、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する含フッ素重合体と、架橋剤とを含み、動的粘弾性試験によって、周波数50cpm、振動角6.98%、測定温度100℃の条件で測定される含フッ素重合体の損失正接が0.10~0.60である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用いる含フッ素重合体組成物であって、
ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する含フッ素重合体と、架橋剤と、を含み、
動的粘弾性試験によって、周波数50cpm、振動角6.98%、測定温度100℃の条件で測定される前記含フッ素重合体の損失正接が、0.10~0.60であることを特徴とする、含フッ素重合体組成物。
【請求項2】
前記含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’が5~600kPaである、請求項1に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項3】
前記架橋剤の含有量が、前記含フッ素重合体の100質量部に対して、0.1~10質量部である、請求項1または2に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項4】
架橋助剤をさらに含み、
前記架橋助剤の含有量が、前記含フッ素重合体の100質量部に対して、0.1~15質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項5】
フィラーをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項6】
前記フィラーの体積基準累積50%径が、5~800nmである、請求項5に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項7】
前記フィラーの含有量が、前記含フッ素重合体の100質量部に対して、1~80質量部である、請求項5または6に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項8】
前記含フッ素重合体が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位とを有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項9】
前記含フッ素重合体が、さらに、重合性不飽和結合を2個以上有する単量体に基づく単位を有する、請求項8に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項10】
苛性ソーダ製造装置用のガスケットであって、
請求項1~9のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物を用いて得られ、前記含フッ素重合体組成物中の含フッ素重合体を架橋した架橋物を有することを特徴とする、ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体組成物およびガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素重合体は、耐熱性、耐薬品性、耐油性、耐候性および電気絶縁性等に優れる点から、多様な分野で用いられている。例えば、特許文献1では、所定の重量平均分子量を有し、両末端にヨウ素原子を有する含フッ素重合体と、ラジカル発生剤と、を有する接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/068659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では含フッ素重合体を接着剤として用いているが、含フッ素重合体は接着剤以外の用途にも広く用いられる。具体的には、含フッ素重合体を架橋させた架橋物は、耐熱性および耐薬品性等に優れるため、車両、船舶、航空機、一般機械、建築等の分野におけるシール材(例えば、Oリング、パッキン、オイルシール、ガスケット)として用いる場合がある。
上記シール材の中でも、苛性ソーダ製造装置用のガスケットは、過酷な条件下で使用される。ここで、苛性ソーダは、電解装置および濃縮装置を有する苛性ソーダ製造装置を用いて製造される。具体的には、電解装置を用いた塩化ナトリウムの電気分解によって苛性ソーダ水溶液を製造した後、濃縮装置によって苛性ソーダ水溶液を濃縮する。
苛性ソーダ水溶液の濃縮装置は、苛性ソーダ水溶液を蒸気によって加熱するためにプレート式熱交換器を有する場合がある。プレート式熱交換器は、苛性ソーダ水溶液を流通させる流路が設けられたプレートを複数枚組み合わせた構造を備え、プレートに設けられた流路の周縁部等にガスケットが配置される。ガスケットは、高温下で苛性ソーダと長期間接触する場合があるので、このような環境下で使用した場合であっても耐久性に優れることが求められる。
また、含フッ素重合体の架橋物を製造する際の加工性に優れることが求められる。
本発明者らが、特許文献1に記載されたような含フッ素重合体の架橋物を評価したところ、含フッ素重合体の種類によっては、含フッ素重合体の架橋時における加工性、および、含フッ素重合体の架橋物の高温下における苛性ソーダに対する長期耐久性について、改善の余地があることを知見した。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用いられ、架橋時の加工性に優れ、かつ、高温下における苛性ソーダに対する長期耐久性に優れる架橋物を製造できる、含フッ素重合体組成物およびガスケットの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、架橋剤と、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有し、損失正接が所定範囲内の含フッ素重合体と、を含む含フッ素重合体組成物を用いれば、所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1] 苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用いる含フッ素重合体組成物であって、
ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する含フッ素重合体と、架橋剤と、を含み、
動的粘弾性試験によって、周波数50cpm、振動角6.98%、測定温度100℃の条件で測定される上記含フッ素重合体の損失正接が、0.10~0.60であることを特徴とする、含フッ素重合体組成物。
[2] 上記含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’が5~600kPaである、[1]に記載の含フッ素重合体組成物。
[3] 上記架橋剤の含有量が、上記含フッ素重合体の100質量部に対して、0.1~10質量部である、[1]または[2]に記載の含フッ素重合体組成物。
[4] 架橋助剤をさらに含み、
上記架橋助剤の含有量が、上記含フッ素重合体の100質量部に対して、0.1~15質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載の含フッ素重合体組成物。
[5] フィラーをさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の含フッ素重合体組成物。
[6] 上記フィラーの体積基準累積50%径が、5~800nmである、[5]に記載の含フッ素重合体組成物。
[7] 上記フィラーの含有量が、上記含フッ素重合体の100質量部に対して、1~80質量部である、[5]または[6]に記載の含フッ素重合体組成物。
[8] 上記含フッ素重合体が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位とを有する、[1]~[7]のいずれかに記載の含フッ素重合体組成物。
[9] 上記含フッ素重合体が、さらに、重合性不飽和結合を2個以上有する単量体に基づく単位を有する、[8]に記載の含フッ素重合体組成物。
[10] 苛性ソーダ製造装置用のガスケットであって、
[1]~[9]のいずれかに記載の含フッ素重合体組成物を用いて得られ、上記含フッ素重合体組成物中の含フッ素重合体を架橋した架橋物を有することを特徴とする、ガスケット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用いられ、架橋時の加工性に優れ、かつ、高温下における苛性ソーダに対する長期耐久性に優れる架橋物を製造できる、含フッ素重合体組成物およびガスケットを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、上記単量体1分子に由来する原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。「単量体に基づく単位」は、以下、単に「単位」ともいう。
「ゴム」とは、JIS K 6200:2008により定義される性質を示すゴムを意味し、「樹脂」とは区別される。
【0010】
〔含フッ素重合体組成物〕
本発明の含フッ素重合体組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用いる。また、本組成物は、架橋剤と、動的粘弾性試験によって後述の条件で測定される損失正接が0.10~0.60であり、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する含フッ素重合体(以下、「特定含フッ素重合体」ともいう。)と、を含む。
本組成物は、苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用いられ、架橋時の加工性に優れ、高温下における苛性ソーダに対する長期耐久性に優れる架橋物を製造できる。以下において、「高温下における苛性ソーダに対する長期耐久性」を「長期耐久性」と略記する場合がある。
【0011】
本発明において架橋時の加工性に優れるとは、金型に導入した含フッ素重合体組成物を加熱プレスして含フッ素重合体が架橋した架橋物を得る際に、架橋物の離型性に優れ、かつ、架橋物の表面平滑性に優れクラックの発生を抑制できることを意味する。
本組成物を用いた場合に架橋時の加工性に優れる理由の一つとしては、損失正接が上記範囲内にある含フッ素重合体を用いたためと考えられる。
損失正接(tanδ)は、動的粘弾性試験によって測定され、貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比を意味する。損失正接は、0に近いほど弾性体に近く、値が大きいほど粘性体に近い性質を表す指標である。含フッ素重合体の損失正接が0.60以下であることで、含フッ素重合体の粘性が極端に高くなりすぎず、金型に対する架橋物の付着を抑制できたと推測される。また、含フッ素重合体の損失正接が0.10以上であることで、含フッ素重合体が適度な柔らかさを有しているので、架橋物にクラックが発生することを抑制できたと推測される。このように、含フッ素重合体の損失正接が上記範囲内あることで、粘性と弾性の性質が良好にバランスして、加工性が良好になったと考えられる。
【0012】
本発明における長期耐久性は、含フッ素重合体組成物を用いて得られた架橋物を高温下で苛性ソーダ水溶液に浸漬した後、高温下で圧縮永久歪試験を行った際の、圧縮永久歪率によって評価するものとし、上記圧縮永久歪率が小さい場合に長期耐久性に優れるとする。
本組成物を用いて得られた架橋物が長期耐久性に優れる理由の一つとしては、損失正接が上記範囲内にあり、かつ、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する含フッ素重合体を用いたためと考えられる。
損失正接が大きくなると、含フッ素重合体がある程度の流動性を有することとになる。言い換えれば、分子量が小さく流動性のある含フッ素重合体は、大きな損失正接を示す。ここで、含フッ素重合体のヨウ素原子および臭素原子は、含フッ素重合体の分子の端部に導入されることが多く、含フッ素重合体の架橋点として機能する。含フッ素重合体の分子量が低い場合、分子の末端に存在する架橋点の数が増えて、架橋物の圧縮永久歪率が小さくなると考えられる。
ただし、含フッ素重合体の損失正接が大きくなりすぎた場合には、含フッ素重合体の架橋点が増えすぎて、柔軟性が低下する結果、架橋物の圧縮永久歪率が高くなると考えられる。
このように、含フッ素重合体の損失正接と、含フッ素重合体の架橋物の圧縮永久歪率とが密接に関連していると推測される。
損失正接が上記範囲内である特定含フッ素重合体は、架橋物の圧縮永久歪率が小さいといえる。そのため、高温下で苛性ソーダに長期間浸漬した場合であっても、その性質が高いレベルで維持されたものと推測される。
【0013】
<特定含フッ素重合体>
特定含フッ素重合体は、フッ素原子と、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方とを有し、架橋によってゴムの性質を示すポリマーである。
ここで、ヨウ素原子および臭素原子は、含フッ素重合体を架橋する際の架橋部位となる。
特定含フッ素重合体は、本発明の効果がより優れる点から、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)に基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、を有することが好ましい。
【0014】
特定含フッ素重合体がTFE単位およびプロピレン単位を有する場合、特定含フッ素重合体は、さらに重合性不飽和結合を2個以上有する単量体(以下、「DV」ともいう。)に基づく単位を有していてもよい。DV単位を有することで、損失正接を後述の値に調節しやすくなる。
【0015】
DV単位は、重合性不飽和結合を2個以上有する単量体に基づく単位である。
重合性不飽和結合の具体例としては、炭素原子-炭素原子の二重結合(C=C)、炭素原子-炭素原子の三重結合(C≡C)が挙げられる。
DVにおける重合性不飽和結合の数は、重合反応性がより優れる点から、2~6個が好ましく、2または3個がより好ましく、2個が特に好ましい。
DVは、さらにフッ素原子を有するのが好ましい。
【0016】
DVは、式(1)で表される単量体であることが好ましい。
(CR1112=CR13a114 (1)
式(1)中、R11、R12およびR13はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基を示し、a1は2~6の整数を示し、R14は、a1価の炭素数1~10のパーフルオロ炭化水素基または該パーフルオロ炭化水素基の末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基を示す。複数のR11、複数のR12および複数のR13はそれぞれ、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに同一であるのが特に好ましい。
a1は2または3が好ましく、2が特に好ましい。
【0017】
DVの重合反応性がより優れる点から、R11、R12、R13がフッ素原子または水素原子であるのが好ましく、R11、R12、R13の全てがフッ素原子であるか水素原子であるのがより好ましく、架橋物の耐熱性および耐薬品性の点から、R11、R12、R13の全てがフッ素原子であるのが特に好ましい。
14は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、直鎖状または分岐鎖状が好ましく、直鎖状が特に好ましい。R14の炭素数は、2~10が好ましく、3~8がより好ましく、3~6がさらに好ましく、3~5が特に好ましい。
14は、エーテル性酸素原子を有していても、有していなくてもよいが、架橋反応性やゴム物性がより優れる点から、エーテル性酸素原子を有しているのが好ましい。
14におけるエーテル性酸素原子の数は1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1または2が特に好ましい。R14におけるエーテル性酸素原子は、R14の末端に存在していることが好ましい。
【0018】
式(1)で表される単量体のうち、好適な単量体の具体例としては、式(2)で表される単量体、式(3)で表される単量体が挙げられる。
【0019】
(CF=CF)21 (2)
式(2)中、R21は、2価の炭素数2~10のパーフルオロアルキレン基または該パーフルオロアルキレン基の末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基を示す。
【0020】
式(2)で表される単量体の具体例としては、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF=CF2、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF(CF)CFOCF=CF、CF=CFO(CFO(CF(CF)CFO)CF=CF、CF=CFOCFO(CFCFO)CF=CF、CF=CFO(CFO)O(CF(CF)CFO)CF=CF、CF=CFOCFCF(CF)O(CFOCF(CF)CFOCF=CF、CF=CFOCFCFO(CFO)CFCFOCF=CFが挙げられる。
式(2)で表される単量体のうち、より好適な単量体の具体例としては、CF=CFO(CFOCF=CF(以下、「C3DVE」ともいう。)、CF=CFO(CFOCF=CF(以下、「C4DVE」または「PBDVE」ともいう。)が挙げられる。
【0021】
(CH=CH)31 (3)
式(3)中、R31は、2価の炭素数2~10のパーフルオロアルキレン基または該パーフルオロアルキレン基の末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基を示す。
【0022】
式(3)で表される単量体の具体例としては、CH=CH(CFCH=CH、CH=CH(CFCH=CH、CH=CH(CFCH=CHが挙げられる。
式(3)で表される単量体のうち、より好適な単量体の具体例としては、CH=CH(CFCH=CH(以下、「C6DV」ともいう。)が挙げられる。
【0023】
DVを共重合させると、重合中にDVの末端にある重合性二重結合が反応して、分岐鎖を有する特定含フッ素重合体が得られる。
【0024】
特定含フッ素重合体は、上記以外の単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)に基づく単位を有していてもよい。他の単量体の具体例としては、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」ともいう。)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」ともいう。)、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」ともいう。)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」ともいう。)に基づく単位、下式(5)で表される単量体、エチレンが挙げられる。また、上記以外の単量体であって、ハロゲン原子を有する単量体(以下、「他のハロゲン原子を有する単量体」ともいう。)も挙げられる。
【0025】
特定含フッ素重合体は、VdF単位を有していてもよいが、架橋物が耐薬品性(特に、耐アミン性)に優れる点から、VdF単位を実質的に有しないことが好ましい。
ここで、「VdF単位を実質的に有しない」とは、VdF単位の含有量が、特定含フッ素重合体の全単位に対して、0.1モル%以下であることを示す。
【0026】
PAVE単位は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位である。
PAVEは、重合反応性およびゴム物性に優れる点から、式(4)で表される単量体が好ましい。
CF=CF-O-Rf4 (4)
式(4)中、Rf4は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を示す。Rf4の炭素数は、重合反応性がより優れる点から、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~5がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
パーフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0027】
PAVEの具体例としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(以下、「PMVE」ともいう。)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(以下、「PEVE」ともいう。)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(以下、「PPVE」ともいう。)が挙げられ、これらの中でも、PMVE、PPVEが好ましい。
【0028】
式(5)は下記の通りである。
CF=CF-O-Rf5 (5)
式(5)中、Rf5は、炭素数1~8のエーテル性酸素原子を1~5個含むパーフルオロアルキル基を示す。Rf5の炭素数は、1~6が好ましく、1~5が特に好ましい。
【0029】
式(5)で表される単量体の具体例としては、パーフルオロ(3,6-ジオキサ-1-ヘプテン)、パーフルオロ(3,6-ジオキサ-1-オクテン)、パーフルオロ(5-メチル-3,6-ジオキサ-1-ノネン)が挙げられる。
【0030】
他のハロゲン原子を有する単量体としては、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する単量体が好ましい。このような単量体の具体例としては、CF=CFBr、CH=CHCFCFBr、CF=CF-O-CFCF-I、CF=CF-O-CFCF-Br、CF=CF-O-CFCFCH-I、CF=CF-O-CFCFCH-Br、CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCFCH-I、CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCFCH-Brが挙げられる。
【0031】
特定含フッ素重合体がTFE単位を含む場合の含有量は、特定含フッ素重合体の全単位に対して、30~70モル%が好ましく、40~60モル%が特に好ましい。
特定含フッ素重合体がプロピレン単位を含む場合の含有量は、特定含フッ素重合体の全単位に対して、30~70モル%が好ましく、40~60モル%が特に好ましい。
特定含フッ素重合体がDV単位を含む場合の含有量は、特定含フッ素重合体の全単位に対して、0.01~2モル%が好ましく、0.03~0.5モル%がより好ましく、0.05~0.4モル%がさらに好ましく、0.1~0.3モル%が特に好ましい。
特定含フッ素重合体が他の単量体単位を含む場合の含有量は、特定含フッ素重合体の全単位に対して、0.01~10モル%が好ましく、0.05~5モル%が特に好ましい。
【0032】
特定含フッ素重合体に含まれる各単位の好適な組み合わせを以下に示す。
組み合わせ1:TFE単位と、プロピレン単位との組み合わせ
組み合わせ2:TFE単位と、プロピレン単位と、DV単位との組み合わせ
【0033】
組み合わせ1~2における共重合組成は、下記のモル比であるのが好ましい。下記のモル比であると、共重合体の架橋反応性がより一層優れ、さらに架橋物の機械特性、耐熱性、耐薬品性、耐油性、および耐候性等が優れる。
組み合わせ1:TFE単位/プロピレン単位=40~60/40~60(モル比)
組み合わせ2:TFE単位/プロピレン単位/DV単位=38~60/38~60/0.01~2(モル比)
【0034】
特定含フッ素重合体は、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する。
特定含フッ素重合体が有するヨウ素原子または臭素原子としては、後述のヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤に由来するヨウ素原子または臭素原子、上述のヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する単量体に基づく単位中のヨウ素原子または臭素原子が挙げられる。中でも、後述のヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤に由来するヨウ素原子または臭素原子であるのが好ましい。
連鎖移動剤を用いた場合、特定含フッ素重合体(高分子鎖)の末端にヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を導入できる。
ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する単量体を用いた場合、特定含フッ素重合体の側鎖にヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を導入できる。
【0035】
特定含フッ素重合体は、ヨウ素原子および臭素原子のうち、特定含フッ素重合体の架橋反応性の点から、ヨウ素原子を有するのが好ましい。
【0036】
ヨウ素原子および臭素原子の含有量の合計は、特定含フッ素重合体の全質量に対して、0.01~5.0質量%が好ましく、0.05~2.0質量%がより好ましく、0.1~1.0質量%が特に好ましい。含有量の合計が上記範囲にあると、特定含フッ素重合体の架橋反応性が向上して、架橋物の機械特性が優れる。
なお、ヨウ素原子および臭素原子の含有量の合計とは、一方の原子のみを含む場合には一方の原子の含有量を意味し、両方の原子を含む場合には各原子の含有量の合計を意味する。
【0037】
特定含フッ素重合体は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
特定含フッ素重合体の含有量は、本組成物の全質量に対して、40~95質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましく、60~80質量%が特に好ましい。
【0038】
(特定含フッ素重合体の物性)
特定含フッ素重合体の損失正接は、0.10~0.60であり、本発明の効果がより優れる点から、0.20~0.57が好ましく、0.25~0.55がより好ましく、0.40~0.50が特に好ましい。
特に、特定含フッ素重合体の損失正接が0.40~0.50の場合、特定含フッ素重合体の架橋物の苛性ソーダ水溶液に浸漬する前の圧縮永久歪にも特に優れる。
本発明のガスケットが苛性ソーダに暴露される場合、まず含フッ素重合体の架橋物の表面が暴露され、次第に内側が侵食される。すなわち、含フッ素重合体の架橋物の表面のみが曝露され、内側は苛性ソーダの影響を受けない場合があるので、含フッ素重合体の架橋物の苛性ソーダ水溶液に浸漬する前の圧縮永久歪にも優れることが好ましい。
本発明における特定含フッ素重合体の損失正接は、動的粘弾性試験によって、周波数50cpm、振動角6.98%、測定温度100℃の測定条件で測定される。測定装置としては、動的粘弾性試験を実施できる装置を用いればよく、例えば架橋特性測定機(アルファーテクノロジーズ社製、商品名「RPA2000」)が挙げられる。
特定含フッ素重合体の損失正接の調節する方法としては特に限定されないが、例えば、特定含フッ素重合体の組成、連鎖移動剤の仕込み量および、分子量(貯蔵弾性率G’)を調節する方法が挙げられる。
【0039】
特定含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’は、5~600kPaが好ましく、120~320kPaがより好ましく、130~170kPaが特に好ましい。特定含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’が5kPa以上であると、硬度がより優れる。特定含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’が600kPa以下であると、架橋時の加工性がより優れる。
特に、特定含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’が130~170kPaであると、含フッ素重合体の架橋物の苛性ソーダ水溶液に浸漬する前の圧縮永久歪にも優れる。
ここで、貯蔵弾性率G’は、特定含フッ素重合体の重量平均分子量の目安であり、貯蔵弾性率G’の値が大きいと重量平均分子量が大きいことを示し、貯蔵弾性率G’の値が小さいと重量平均分子量が小さいことを示す。本発明における含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’は、ASTM D5289およびASTM D6204に準拠して測定される値であり、詳細な測定条件は実施例に示す通りである。
特定含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’の調節方法としては特に限定されないが、例えば、特定含フッ素重合体の製造時の重合温度、連鎖移動剤の仕込み量等を調節する方法が挙げられる。
【0040】
(特定含フッ素重合体の製造方法)
特定含フッ素重合体の製造方法の一例としては、連鎖移動剤およびラジカル重合開始剤の存在下、上記単量体を重合する方法が挙げられる。
【0041】
連鎖移動剤としては、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の鎖状または環状のアルカン、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、tert-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン等のメルカプタン類が挙げられる。中でも、特定含フッ素重合体の架橋反応性の点から、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤が好ましい。
連鎖移動剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤の具体例としては、I-Rf6-I(式中、Rf6は、炭素原子数1~8のパーフルオロアルキレン基または炭素原子数2~8のパーフルオロオキシアルキレン基を表す。)で表される化合物、I-Rf7-Br(式中、Rf7は、炭素原子数1~8のパーフルオロアルキレン基または炭素原子数2~8のパーフルオロオキシアルキレン基を表す。)で表される化合物、I-R1-I(式中、R1は、炭素原子数1~8のアルキレン基または炭素原子数2~8のオキシアルキレン基を表す。)で表される化合物が挙げられる。
I-Rf6-Iの具体例としては、ジヨードジフルオロメタン、1,2-ジヨードパーフルオロエタン、1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨードパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、1,7-ジヨードパーフルオロヘプタン、1,8-ジヨードパーフルオロオクタンが挙げられる。中でも、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサンが好ましく、1,4-ジヨードパーフルオロブタンが特に好ましい。
I-Rf7-Brの具体例としては、1-ヨード-4-ブロモパーフルオロブタン、1-ヨード-6-ブロモパーフルオロヘキサン、1-ヨード-8-ブロモパーフルオロオクタンが挙げられる。中でも、1-ヨード-4-ブロモパーフルオロブタン、1-ヨード-6-ブロモパーフルオロヘキサンが好ましく、1-ヨード-4-ブロモパーフルオロブタンが特に好ましい。
I-R1-Iの具体例としては、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨードプロパン、1,4-ジヨードブタン、1,5-ジヨードペンタン、1,6-ジヨードヘキサン、1,8-ジヨードオクタンが挙げられる。
これらのヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤の存在下に上記単量体を重合させると、含フッ素重合体にヨウ素原子および/または臭素原子を導入できる。
【0043】
ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有する連鎖移動剤を使用する場合の仕込み量は、特定含フッ素重合体の重合に使用する単量体の全仕込み量100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.3~5質量部がより好ましく、0.5~1.5質量部が特に好ましい。0.1質量部以上であれば、重合時間を短縮できるので、特定含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’を上述の値に調節しやすくなり、また、特定含フッ素重合体の損失正接を上述の値に調節しやすくなる。また、10質量部以下であれば、ゴム物性が良好となる。
【0044】
重合温度は、単量体の組成、ラジカル重合開始剤の分解温度等により適宜選択される。重合温度は、0~60℃が好ましく、10~50℃がより好ましく、20~40℃が特に好ましい。
【0045】
特定含フッ素重合体の製造時に使用する上記以外の成分、製造方法の詳細については、国際公開第2017/057512号の段落0033~0053に記載の方法を参照できる。
【0046】
<架橋剤>
本組成物は、架橋剤を含む。架橋剤は、特定含フッ素重合体を架橋するために使用される。架橋剤の具体例としては、有機過酸化物、ポリオール、アミンが挙げられ、架橋物の生産性、耐熱性、耐薬品に優れる点から、有機過酸化物が好ましい。
有機過酸化物の具体例としては、ジアルキルパーオキシド類、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-m-ジイソプロピルベンゼン、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシドが挙げられる。
ジアルキルパーオキシド類の具体例としては、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、tert-ブチルパーオキシマレイン酸、tert-ブチルパーオキシソプロピルカーボネートが挙げられる。
架橋剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0047】
架橋剤の含有量は、本発明の効果がより優れる点から、特定含フッ素重合体の100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~3質量部がより好ましく、0.8~2質量部が特に好ましい。
【0048】
<架橋助剤>
本組成物は、架橋助剤を含むことが好ましい。架橋助剤は、特定含フッ素重合体の架橋反応性を向上させるために使用される。
架橋助剤は、同一分子内に反応性官能基を2個以上有する化合物が好ましい。反応性官能基の具体例としては、炭素-炭素二重結合含有基、ハロゲン原子、酸無水物残基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、水酸基が挙げられる。架橋助剤の同一分子内に存在する複数の反応性官能基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
炭素-炭素二重結合含有基の具体例としては、ビニル基、アリル基およびメタリル基等のアルケニル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基等の不飽和アシル基、マレイミド基が挙げられる。炭素-炭素二重結合含有基は、炭素数2~4のアルケニル基が好ましく、アリル基が特に好ましい。
架橋助剤の具体例としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアリルトリメリテート、m-フェニレンジアミンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N’,N’’,N’’’-テトラアリルテレフタールアミド、ビニル基含有シロキサンオリゴマー(ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルビニルシロキサン等)が挙げられる。これらの中でも、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレートが好ましく、トリアリルイソシアヌレートが特に好ましい。
架橋助剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
本組成物が架橋助剤を含む場合、その含有量は、本発明の効果がより優れる点から、特定含フッ素重合体の100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましく、1.0~6.0質量部がより好ましく、2.5~5.5質量部が特に好ましい。
【0050】
<フィラー>
本組成物は、フィラーを含むことが好ましい。架橋物の充填剤や補強材として機能する。
フィラーの具体例としては、カーボンブラック、硫酸バリウム、メタケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、二酸化珪素、クレー、タルクが挙げられ、中でも、カーボンブラックが好ましい。
【0051】
フィラーの体積基準累積50%径(D50)は、5~800nmであるのが好ましく、30~600nmであるのがより好ましく、100~500nmであるのが特に好ましい。フィラーのD50が5nm以上であると、架橋物の圧縮永久歪がより向上するので、架橋物の長期耐久性がより優れる。フィラーのD50が800nm以下であると、架橋物の靭性に優れる。
フィラーの体積基準累積50%径(D50)は、レーザー回折・散乱法により求められる。すなわち、レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
【0052】
本組成物がフィラーを含む場合、その含有量は、架橋物の長期耐久性がより優れる点から、特定含フッ素重合体の100質量部に対して、1~80質量部が好ましく、10~70質量部がより好ましく、25~50質量部が特に好ましい。
【0053】
<他の成分>
本組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、上記以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、受酸剤(例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、2価金属の酸化物(酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉛等))、スコーチ遅延剤(例えば、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基含有化合物類、ハイドロキノン等のキノン類、2,4-ジ(3-イソプロピルフェニル)-4-メチル-1-ペンテン等のα-メチルスチレンダイマー類)、クラウンエーテル(例えば、18-クラウン-6)、離型剤(例えば、ステアリン酸ナトリウム)が挙げられる。
本組成物が他の成分を含有する場合、他の成分の含有量の合計は、特定含フッ素重合体の100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.3~7質量部がより好ましく、0.7~3質量部が特に好ましい。
【0054】
本組成物の調製方法としては、上記各成分を混合および攪拌する方法が挙げられ、特に限定されない。
【0055】
<用途>
本組成物は、苛性ソーダ製造装置用のガスケットの製造に用いる。
苛性ソーダ製造装置は、通常、塩化ナトリウムを電気分解して苛性ソーダ水溶液を得るための電解装置と、苛性ソーダ水溶液を濃縮するための濃縮装置と、を有する。また、濃縮装置は、熱交換器(特に、プレート式熱交換器)を有しており、熱交換器は、苛性ソーダ水溶液を流通させるための流路と、流路の周縁部に設けられたガスケットとを有する。
本組成物は、上記熱交換器用のガスケットの製造に用いることが好適である。
【0056】
[ガスケット]
本発明のガスケットは、苛性ソーダ製造装置用のガスケットであって、上述の本組成物を用いて得られ、本組成物中の特定含フッ素重合体を架橋した架橋物を有するガスケットである。
本組成物中の特定含フッ素重合体の架橋方法としては、本組成物を加熱することによって架橋する方法が好ましい。
加熱による架橋方法の具体例としては、加熱プレス架橋、スチーム架橋、熱風架橋が挙げられる。これらの方法から、含フッ素重合体組成物の形状や用途を考慮して適宜選択すればよい。
加熱条件は、100~400℃で1秒~24時間が好ましい。
【0057】
本組成物を加熱して(1次架橋して)なる架橋物を、さらに加熱して2次架橋してもよい。2次架橋を行うことにより、架橋ゴムの機械特性、圧縮永久歪、その他の特性を安定化または向上できる。
2次架橋を行う際の加熱条件は、80~350℃で30分間~48時間が好ましい。
【0058】
特定含フッ素重合体を加熱によって架橋する以外の架橋方法としては、含フッ素重合体組成物に放射線を照射して特定含フッ素重合体を架橋する方法が挙げられる。照射する放射線の具体例としては、電子線、紫外線が挙げられる。
【0059】
本発明のガスケットは、特定含フッ素重合体の架橋とともにガスケット形状に加工して得られたものであってもよいし、得られた架橋物をガスケット形状に加工して得られたものであってもよい。
本発明のガスケットは、特定含フッ素重合体を溶媒に溶かして溶液とし、その溶液を用いてガスケット形状に加工して得られたものであってもよいし、その溶液を基材に塗布することで得られたものであってもよい。上記溶液には、上述の架橋剤などの成分を加えてもよい。
【実施例0060】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例1~例2は実施例であり、例3~例5は比較例である。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0061】
〔含フッ素重合体の組成の測定〕
含フッ素重合体中のTFE単位の含有量(モル%)は、19F-核磁気共鳴(NMR)分析から算出した。含フッ素重合体中のプロピレン単位の含有量については、Hおよび13C-核磁気共鳴(NMR)分析から算出した。
含フッ素重合体中のC3DVE単位は、次のように算出した。重合後のラテックスを凝集して含フッ素重合体を取り出した後のろ液およびラテックスの洗浄のあとに残ったろ液を、ディスクフィルターでろ過し、得られた液体をイオンクロマトグラフ測定装置(ダイアインスツルメンツ社製、自動試料燃焼装置イオンクロマトグラフ用前処理装置AQF-100型とイオンクロマトグラフを組み合わせた装置)で分析した。
反応器に添加したC3DVEの量(C3DVEの仕込み量)に対して3質量%以上のフッ化物イオンが検出された場合は、C3DVEの仕込み量から、上記イオンクロマトグラフの測定結果に基づいて算出した上記液体中のC3DVEの量を差し引いた値の分だけC3DVEが重合されたものとし、C3DVE単位の含有量(モル%)を算出した。
C3DVEの仕込み量に対して3質量%以上のフッ化物イオンが検出されない場合は、仕込みに使用したC3DVEはすべて重合したものとして、C3DVE単位の含有量(モル%)を算出した。
また、含フッ素重合体中のヨウ素原子の含有量は、上述したイオンクロマトグラフ測定装置により測定した。
また、含フッ素重合体中のクロトン酸ビニル(CV)の含有量は、赤外分光法により帰属のピークを用いて測定した。
【0062】
〔含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’〕
架橋特性測定機(アルファーテクノロジーズ社製、RPA-2000)を用いて、ASTM D5289およびASTM D6204にしたがい、温度:100℃、振幅:0.5度、振動数:50回/分の条件で測定した値を含フッ素重合体の貯蔵弾性率G’とした。
【0063】
〔含フッ素重合体の損失正接〕
架橋特性測定機(アルファーテクノロジーズ社製、RPA-2000)を用いて、以下の測定条件による動的粘弾性試験によって、各例で使用した含フッ素重合体の損失正接を測定した。
<測定条件>
周波数:50cpm
振動角:6.98%(0.5度)
測定温度:100℃
【0064】
〔評価試験〕
70tプレス機を用いて、160℃で12分間保持して、含フッ素重合体組成物中の含フッ素重合体を架橋して、JIS K6262:2013に準じた測定用サンプル(架橋物)を得た。
【0065】
<加工性>
上記測定用サンプルを製造する際に、金型から架橋物を離型する際の離型性、および、得られた架橋物の表面状態に基づいて、以下の基準により加工性を評価した。
A:離型時にエアーを吹き付けただけで架橋物が脱型する。また、架橋物の表面平滑性が優れ、かつ、クラックの発生も無い。
B:離型時にエアーを吹き付けただけでは架橋物が脱型しない。また、架橋物の表面平滑性に優れ、クラックの発生が無い。
C:離型時にエアーを吹き付けただけでは架橋物が脱型しない。また、架橋物の表面平滑性が不十分であるか、または、クラックが発生している。
【0066】
<長期耐久性>
180℃の50質量%の濃度の苛性ソーダ水溶液中に、上記測定用サンプルを1500時間浸漬した。浸漬後の測定用サンプルを十分に乾燥した後、JIS K 6262:2013に準じ、測定用サンプルを200℃で22時間保持した際の圧縮永久歪率(%)を測定して、得られた値に基づいて、以下の基準により高温下における苛性ソーダに対する長期耐久性を評価した。
圧縮永久歪率は次の計算式で算出した。なお、圧縮永久歪率が0%に近いほど優れている。
圧縮永久歪率(%)={(測定用サンプルの元の厚さ)-(測定用サンプルを圧縮装置から取り外してから30分後の厚さ)}÷{(測定用サンプルの元の厚さ)-(スペーサーの厚さ)}×100
A:圧縮永久歪率が35%未満
B:圧縮永久歪率が35%以上
【0067】
<苛性ソーダ浸漬前の圧縮永久歪>
JIS K 6262:2013に準じ、上記測定用サンプルを200℃で22時間保持した際の圧縮永久歪率(%)を測定して、得られた値に基づいて、以下の基準により圧縮永久歪を評価した。
A:圧縮永久歪率が8%未満
B:圧縮永久歪率が8%以上、15%未満
C:圧縮永久歪率が15%以上
【0068】
〔含フッ素重合体Aの製造〕
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス鋼製の耐圧反応器の内部を脱気した後、反応器に、イオン交換水の1500g、リン酸水素二ナトリウム12水和物の59g、水酸化ナトリウムの0.7g、tert-ブタノールの197g、ラウリル硫酸ナトリウムの9g、1,4-ジヨードパーフルオロブタンの9g、C3DVEの9.8gおよび過硫酸アンモニウムの6gを加えた。さらに、100gのイオン交換水に0.4gのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物(以下、「EDTA」ともいう。)および0.3gの硫酸第一鉄7水和物を溶解させた水溶液を、反応器に加えた。このときの反応器内の水性媒体のpHは9.5であった。
ついで、25℃で、TFE/プロピレン=88/12(モル比)の単量体混合ガスを、反応器の内圧が2.50MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、その後、水酸化ナトリウムでpHを10.0に調整したヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム2水和物(以下、「ロンガリット」ともいう。)の2.5質量%水溶液(以下、ロンガリット2.5質量%水溶液と記す。)を反応器に加え、重合反応を開始させた。以降、ロンガリット2.5質量%水溶液を、高圧ポンプを用いて連続的に反応器に加えた。
TFE/プロピレンの単量体混合ガスの圧入量の総量が1000gとなった時点で、ロンガリット2.5質量%水溶液の添加を停止し、反応器の内温を10℃まで冷却し、重合反応を停止し、含フッ素重合体Aのラテックスを得た。ロンガリット2.5質量%水溶液の添加量は68gであった。重合時間は6時間であった。
上記ラテックスに塩化カルシウムの5質量%水溶液を添加して、含フッ素重合体Aのラテックスを凝集し、含フッ素重合体Aを析出させた。含フッ素重合体Aをろ過し、回収した。ついで、含フッ素重合体Aをイオン交換水により洗浄し、100℃のオーブンで15時間乾燥させ、白色の含フッ素重合体の980gを得た。
含フッ素重合体Aにおける各単位の含有量(モル比)は、TFE単位/プロピレン単位/C3DVE単位=56/43.8/0.2であった。また、含フッ素重合体A中のヨウ素原子の含有量は0.5質量%であった。
【0069】
〔含フッ素重合体Bの製造〕
1,4-ジヨードパーフルオロブタンの量を調整した以外は、含フッ素重合体Aと同様に方法により、含フッ素重合体Bを製造した。
含フッ素重合体Bにおける各単位の含有量(モル比)は、TFE単位/プロピレン単位/C3DVE単位=56/43.8/0.2であった。また、含フッ素重合体B中のヨウ素原子の含有量は0.5質量%であった。
【0070】
〔含フッ素重合体Cの製造〕
TFE単位とプロピレン単位を有するAFLAS 100S(製品名、AGC社製)を含フッ素重合体Cとして用いた。
含フッ素重合体C中のヨウ素原子および臭素原子の含有量はいずれも0質量%であった。
【0071】
〔含フッ素重合体Dの製造〕
特許第5055718号公報の段落0044~0046に記載の方法を参考にして、含フッ素重合体Dを得た。
含フッ素重合体Dにおける各単位の含有量(モル比)は、TFE単位/プロピレン単位/CV単位=56/43.8/0.2であった。また、含フッ素重合体B中のヨウ素原子および臭素原子の含有量はいずれも0質量%であった。なお、CV単位とは、クロトン酸ビニルに基づく単位を意味する。
【0072】
〔含フッ素重合体Eの製造〕
国際公開第2009/119202に記載の実施例1を参考にして、含フッ素重合体Eを得た。
含フッ素重合体Eにおける各単位の含有量(モル比)は、TFE単位/プロピレン単位=56/44であった。また、含フッ素重合体E中のヨウ素原子の含有量は0.3質量%であった。
【0073】
〔例1~例5〕
表1に示す成分および配合量に調合し、オープンミルロールで混錬して、各例における含フッ素重合体組成物を得た。
得られた含フッ素重合体組成物を用いて、上述の評価試験を実施した。評価結果を表1に示す。
【0074】
含フッ素重合体を除く表1に記載の各成分の概要を以下に示す。
・MTカーボン:Cancarb社製、D50:470nm、補強材
・TAIC:商品名、三菱ケミカル社製、トリアリルイソシアネート、架橋助剤
・St-Ca:東京化成工業社製、ステアリン酸カルシウム、受酸剤
・パーカドックス14:商品名、化薬アクゾ社製、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、架橋剤(有機過酸化物)
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示す通り、架橋剤と、ヨウ素原子および臭素原子の少なくとも一方を有し、損失正接が0.10~0.60の含フッ素重合体と、を含む含フッ素重合体組成物を用いれば、架橋時の加工性に優れ、かつ、高温下における苛性ソーダに対する長期耐久性に優れる架橋物を製造できるのが確認された(例1~2)。したがって、例1~2の含フッ素重合体組成物を用いて得られた架橋物は、苛性ソーダ製造装置用のガスケットに好適であるといえる。