IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-触媒除去方法及び重合体の製造方法 図1
  • 特開-触媒除去方法及び重合体の製造方法 図2
  • 特開-触媒除去方法及び重合体の製造方法 図3
  • 特開-触媒除去方法及び重合体の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088686
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】触媒除去方法及び重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/08 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
C08F6/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019036339
(22)【出願日】2019-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌生
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100GA18
4J100GA19
4J100HG02
(57)【要約】
【課題】重合体溶液から均一系触媒を除去する、触媒除去効率の高い、触媒除去方法、及び、均一系触媒が除去された重合体溶液からの重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液から均一系触媒を除去するに際して、重合体溶液に、添加剤と水とを特定範囲の体積比で含む添加剤水溶液を添加して、特定範囲の周速で混合、攪拌し、次いで、さらに、重合体溶液に対して水を特定範囲の体積比で添加して、特定範囲の周速で混合、攪拌し、得られる重合体溶液を相分離させて水相を除去することにより、重合体溶液から均一系触媒を効率良く除去でき、除去後に、重合体溶液をスチームストリッピングにより非水溶性有機溶媒を除去し、乾燥することにより、重合体を得ることができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液から均一系触媒を除去する触媒除去方法であって、
非水溶性有機溶媒中で金属成分を含む均一系触媒を用いて重合反応を行って、金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液を得る工程1、
工程1で得られた重合体溶液に、添加剤と水とを10/90~90/10の体積比(vol/vol)で含む添加剤水溶液を添加し、混合、攪拌して、混合重合体溶液を得る工程2、
工程2で得られた混合重合体溶液100に対して水を5~100の体積比(vol/vol)で添加し、混合、攪拌して、水混合重合体溶液を得る工程3、及び
工程3で得られた水混合重合体溶液を相分離させて水相を除去して、前記均一系触媒を除去する工程4、を含み、
工程1の重合体溶液の粘度がη(mPa・s)であるとき、工程2及び工程3における混合、攪拌の攪拌翼の周速V(m/s)をそれぞれ下記式1及び下記式2の範囲で混合、攪拌する、前記触媒除去方法。
0.25η0.27≦V≦100η-0.23 式1
0.07η0.27≦V≦0.35η0.25 式2
【請求項2】
前記添加剤がアルコール類又はエーテル類である、請求項1に記載の触媒除去方法。
【請求項3】
工程4の相分離を、液体サイクロン式装置を用いて行う、請求項1又は2に記載の触媒除去方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒除去方法により、均一系触媒が除去された重合体溶液を、スチームストリッピングにより脱溶媒して重合体のクラムを得て、次いで乾燥することを含む、重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒除去方法及び重合体の製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液から均一系触媒を除去する触媒除去方法、及び、触媒除去方法により均一系触媒が除去された重合体溶液からの重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共役ジエン系重合体や芳香族ビニル系重合体などの重合体は、耐衝撃性などに優れた樹脂であり、射出成型品、シート、フィルム等に広く使用されている。これらの重合体は、通常、炭化水素などの非水溶性有機溶媒中で重合用モノマーを、金属成分を含む均一系触媒の存在下に重合し、得られる重合体溶液から均一系触媒を除去し、次いで、重合体溶液から非水溶性有機溶媒を除き、乾燥することによって製造されている。
【0003】
重合体溶液から均一系触媒を除去する場合に、均一系触媒中の金属成分が得られる重合体中に残留することがある。重合体中に残留した金属成分は、重合体を製造するための設備腐食の原因となることがある。また、重合体中に残留した金属成分は、空気や紫外線などにより反応して重合体の分解を招来し、重合体ペレットの形状異常などの工程トラブルの原因となることや、重合体の色相に影響を与えることがある。さらに、重合体中に残留した金属成分は、重合体の吸湿性を増加させることや、触媒残渣由来の異物混入などの品質問題の原因となることがある。
【0004】
金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液から均一系触媒を除去する触媒除去方法として、特許文献1には、重合体溶液の粘度を特定範囲として、液体サイクロン式分離装置を用いて重合体溶液と水とを含む混合液から水を分離して、水に溶解した均一系触媒を除去する方法が記載されている。また、特許文献2には、均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液に、水とともに、アルコールやエーテルなどの添加剤を特定量配合して、均一系触媒を添加剤に親和させて水に溶解させ、その後に、重合体溶液を相分離させて水層を除去することにより、重合体溶液から均一系触媒を除去する触媒除去方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2016/152890号
【特許文献2】国際公開第WO2016/136876号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載された方法は、金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液から均一系触媒を除去する触媒除去方法として優れた方法ではあるが、未だ十分に満足し得るものではない。触媒除去後に得られる重合体溶液中の触媒除去率が十分に高く、添加剤の残留濃度が低く、水の残留量も低い、均一系触媒を効率良く除去する触媒除去方法の開発が望まれている。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、本発明は、触媒除去後に得られる重合体溶液中の触媒除去率が十分に高く、添加剤の残留濃度が低く、水の残留量も低い、均一系触媒を効率良く除去する触媒除去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、触媒除去率が十分に高く、添加剤の残留濃度が低く、水の残留量も低い、均一系触媒を効率良く除去する触媒除去方法を達成することを目的として鋭意検討した結果、金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液から均一系触媒を除去するに際して、重合体溶液に、添加剤と水とを特定範囲の体積比で含む添加剤水溶液を添加して、特定範囲の周速で混合、攪拌し、次いで、さらに、重合体溶液に対して水を特定範囲の体積比で添加して、特定範囲の周速で混合、攪拌し、得られる重合体溶液を相分離させて水相を除去することにより、上記目的を達成できることを見出して本発明を完成させた。
【0009】
かくして、本発明は、金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液から均一系触媒を除去する触媒除去方法であって、
非水溶性有機溶媒中で金属成分を含む均一系触媒を用いて重合反応を行って、金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液を得る工程1、
工程1で得られた重合体溶液に、添加剤と水とを10/90~90/10の体積比(vol/vol)で含む添加剤水溶液を添加し、混合、攪拌して、混合重合体溶液を得る工程2、
工程2で得られた混合重合体溶液100に対して水を5~100の体積比(vol%)で添加し、混合、攪拌して、水混合重合体溶液を得る工程3、及び
工程3で得られた水混合重合体溶液を相分離させて水相を除去して、前記均一系触媒を除去する工程4、を含み、
工程1の重合体溶液の粘度がη(mPa・s)であるとき、工程2及び工程3における混合、攪拌の攪拌翼の周速V(m/s)をそれぞれ下記式1及び下記式2の範囲で混合、攪拌する、前記触媒除去方法に関する。
0.25η0.27≦V≦100η-0.23 式1
0.07η0.27≦V≦0.35η0.25 式2
【0010】
本発明では、前記添加剤はアルコール類又はエーテル類が好ましい。前記工程4の相分離は、液体サイクロン式装置を用いて行うのが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記触媒除去方法により、均一系触媒が除去された重合体溶液を、スチームストリッピングにより脱溶媒して重合体のクラムを得て、次いで乾燥することを含む、重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒除去方法によれば、触媒除去後に得られる重合体溶液中の触媒除去率が十分に高く、添加剤の残留濃度が低く、水の残留量も低く、均一系触媒を効率良く除去することができる。また、本発明の触媒除去方法により均一系触媒が除去された重合体溶液から、重合体を製造することにより、均一系触媒中に含まれる金属成分の残留量が極めて低減された重合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の工程2及び工程3における混合、攪拌の際の攪拌翼の周速の最適範囲を示すグラフである。
図2】各実施例及び各比較例で採用した、工程2における混合、攪拌の際の攪拌翼の周速を示すグラフである。
図3】各実施例及び各比較例で採用した、工程3における混合、攪拌の際の攪拌翼の周速を示すグラフである。
図4】重合体溶液から均一系触媒を除去する本発明の触媒除去方法を好適に実施し得る一つの実施形態における各工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の重合体溶液の脱溶媒方法について、詳細に説明する。
【0015】
工程1について
本発明の重合体溶液の脱溶媒方法における工程1は、非水溶性有機溶媒中で金属成分を含む均一系触媒を用いて重合反応を行って、金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液を得る工程である。
【0016】
金属成分を含む均一系触媒は特に限定されない。均一系触媒とは、非水溶性有機溶媒に溶解する触媒をいう。その具体例としては、有機アルカリ金属成分化合物;有機アルカリ土類金属成分化合物;ランタン系列金属成分化合物などを主触媒とする均一系触媒;及びシクロペンタジエニルチタン化合物等が挙げられる。
【0017】
有機アルカリ金属成分化合物としては、例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウムなどの有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン、1,3,5-トリス(リチオメチル)ベンゼンなどの有機多価リチウム化合物;ナトリウムナフタレンなどの有機ナトリウム化合物;カリウムナフタレンなどの有機カリウム化合物等が挙げられる。
【0018】
有機アルカリ土類金属成分化合物としては、例えば、ジ-n-ブチルマグネシウム、ジ-n-ヘキシルマグネシウム、ジエトキシカルシウム、ジステアリン酸カルシウム、ジ-t-ブトキシストロンチウム、ジエトキシバリウム、ジイソプロポキシバリウム、ジエチルメルカプトバリウム、ジ-t-ブトキシバリウム、ジフェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ジステアリン酸バリウム、ジケチルバリウムなどが挙げられる。
【0019】
ランタン系列金属成分化合物を主触媒とする均一系触媒としては、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウムなどのランタン系列金属成分と、カルボン酸、及びリン含有有機酸などとからなるランタン系列金属成分の塩を主触媒とし、これと、アルキルアルミニウム化合物、有機アルミニウムハイドライド化合物、有機アルミニウムハライド化合物などの助触媒とからなる均一系触媒等が挙げられる。
【0020】
シクロペンタジエニルチタン化合物としては、例えば、シクロペンタジエニルチタンハロゲン化合物、シクロペンタジエニル(アルコキシ)チタンハロゲン化合物、ビス(シクロペンタジエニル)チタンジハロゲン化合物、ビス(シクロペンタジエニル)チタンジアルキル化合物、ビス(シクロペンタジエニル)チタンジアリル化合物及びビス(シクロペンタジエニル)チタンジアルコキシ化合物などが挙げられる。ここで、シクロペンタジエニルチタン化合物は還元剤と混合使用するか、還元剤なしに単独で使用することができる。シクロペンタジエニルチタン化合物と併せて使用される還元剤としては、例えば、有機アルキルアルミニウム化合物、有機アルキルマグネシウム化合物、有機リチウム化合物、有機アルカリ金属成分水素化物など多様な有機アルカリ金属成分化合物が挙げられる。
【0021】
これらの均一系触媒の中でも、有機アルカリ金属成分化合物が好ましく、有機モノリチウム化合物または有機多価リチウム化合物などの有機リチウム化合物がより好ましい。これらの均一系触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
非水溶性有機溶媒は、重合体が溶解するものであれば特に限定されない。非水溶性有機溶媒の具体例としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの飽和炭化水素;1-ブテン、2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテンなどの不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどの含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの含ハロゲン系炭化水素;プロピレングリコール等を挙げることができる。これらの中でも、不飽和炭化水素、飽和炭化水素及び芳香族炭化水素が好ましく、飽和炭化水素がより好ましい。これらの非水溶性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
重合体は、非水溶性有機溶媒に溶解するものであれば、特に限定されず、通常使用される重合体が対象とされる。重合体としては、例えば、アクリル重合体、イソプレン重合体、スチレン・ブタジエン重合体(SBR)、低シスブタジエン重合体、高シスブタジエン重合体、高トランスブタジエン重合体、スチレン・イソプレン共重合体、ブタジエン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン重合体、スチレン・アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、ポリスチレン・ポリブタジエン・ポリスチレントリブロック共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、ポリイソプレン・SBRブロック共重合体などの共役ジエン系重合体又はビニル芳香族系重合体等が挙げられる。また、エピクロロヒドリン重合体、フッ素重合体、シリコーン重合体、ウレタン重合体等も挙げられる。これらの重合体は、末端や分子鎖中に、アミノ基、水酸基、アルコキシシリル基、シラノール基の官能基の少なくとも1つで変性されていてもよい。本発明における重合体溶液には、1種単独または2種以上の重合体が非水溶性有機溶媒に溶解していてもよい。
【0024】
重合体溶液を得る重合反応としては、前記重合体を得るのに必要な重合用モノマーを用いた、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位アニオン重合、配位カチオン重合、リビング重合等の通常の重合反応が挙げられる。重合は、金属成分を含む均一系触媒の存在下、通常0~150℃の温度範囲で、溶液重合、スラリー重合等の重合形態で行われる。
【0025】
本発明では、重合体溶液の粘度は、50~1000000mPa・sが好ましく、特に1000~100000mPa・sが好ましい。重合体溶液中の重合体濃度は、10~60重量%が好ましく、特に20~50重量%が好ましい。
【0026】
工程2について
工程2は、工程1で得られた重合体溶液に、添加剤と水とを10/90~90/10の体積比(vol/vol)で含む添加剤水溶液を添加し、混合、攪拌して、混合重合体溶液を得る工程である。工程2では、重合体溶液中の均一系触媒を添加剤と親和させ、添加剤と親和した均一系触媒を水に溶解させることができる。
【0027】
本発明で用いる添加剤は、アルコール類又エーテル類が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。エーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの中でも、均一系触媒との親和性の観点から、アルコール類が好ましく、炭素数3以下のアルコールがより好ましく、メタノールがさらに好ましい。
【0028】
水としては、蒸留水や脱イオン水などが好ましい。
【0029】
工程2では、工程1で得られた重合体溶液に、添加剤と水とを10/90~90/10の体積比(vol/vol)で含む添加剤水溶液、すなわち、添加剤濃度が10~90vol%の添加剤水溶液を添加し、混合、攪拌して、混合重合体溶液を得る。添加剤水溶液における添加剤と水との体積比が10/90未満、すなわち、添加剤濃度が10vol%未満であると、触媒除去後に得られる重合体溶液中の触媒除去率が十分でなく、体積比が90/10超、すなわち、添加剤濃度が90vol%超であると、重合体溶液中の触媒除去率が高くはなっても、重合体溶液中の添加剤の残留量が多くなり、望ましくない。添加剤水溶液における添加剤と水との体積比は10/90~80/20(vol/vol)(添加剤濃度が10~80vol%)が好ましく、添加剤と水との体積比は20/80~60/40(添加剤濃度が20~60vol%)が特に好ましい。
【0030】
添加剤水溶液の添加量は、重合体溶液100に対して通常0.1~100の体積比(vol%)であり、添加剤水溶液を0.07~30の体積比(vol%)で添加するのが好ましく、0.1~10の体積比(vol%)で添加するのが特に好ましい。
【0031】
重合体溶液への添加剤水溶液の混合、攪拌は、攪拌翼を有する撹拌式の混合装置を用いて行われる。撹拌翼は傾斜パドル、アンカ、タービン、ディスパ、マリーン(プロペラ)翼などが挙げられ、タービン、ディスパなど高せん断で液滴状に分散できるような構造が好ましい。その際の攪拌翼の周速は、後記する範囲である。混合、攪拌する時間は特に限定されず、通常0.01~60分、好ましくは0.1~30分である。方式はバッチ、連続、循環などが挙げられるが、連続式もしくは循環方式が好ましい。混合、攪拌する際の温度は特に限定されず、通常10~100℃、好ましくは20~80℃である。
【0032】
工程3について
工程3は、工程2で得られた混合重合体溶液100に対して水を5~100の体積比(vol%)で添加し、混合、攪拌して、水混合重合体溶液を得る工程である。本発明では、工程2で得られた混合重合体溶液に対して、さらに、水を特定範囲の体積比で添加し、混合、攪拌することによって、触媒除去後に得られる重合体溶液中の触媒除去率を十分に高くすることができる。混合重合体溶液100に対して、水を5未満の体積比、あるいは100超の体積比で添加し、混合、攪拌した場合には、触媒除去後に得られる重合体溶液中の触媒除去率を十分に高くすることができない。混合重合体溶液100に対して水を、好ましくは5~30の体積比(vol%)で、特に好ましくは10~20の体積比(vol%)で添加し、混合、攪拌できる。
【0033】
混合重合体溶液への水の混合、攪拌は、攪拌翼を有する撹拌式の混合装置を用いて行われる。その際の攪拌翼の周速は、後記する範囲である。混合、攪拌する時間、混合、攪拌する際の温度などは、前記した工程2と同様である。
【0034】
工程2及び工程3での攪拌翼の周速について
本発明においては、前記した工程2及び工程3での混合、攪拌の際の攪拌翼の周速V(m/s)は、工程1の重合体溶液の粘度がη(mPa・s)であるとき、それぞれ下記式1及び下記式2の範囲である。
0.25η0.27≦V≦100η-0.23 式1
0.07η0.27≦V≦0.35η0.25 式2
ここで、周速V(m/s)は、攪拌翼が回転する直径の円の外周での速度である。
【0035】
本発明により、工程1の重合体溶液の粘度η(mPa・s)と、工程2及び工程3における混合、攪拌の際の攪拌翼の周速V(m/s)との関係が、触媒除去後に得られる重合体溶液中の触媒除去効率に及ぼす影響について検討した結果、重合体溶液の粘度η(mPa・s)と攪拌翼の周速V(m/s)との間に、図1で示した関係にあるときに、重合体溶液中の触媒除去効率が最適になることを見出した。
【0036】
具体的には、工程2については、特定粘度を有する重合体溶液(後記する製造例1の重合体溶液)を用い、特定濃度の添加剤水溶液(メタノール濃度10vol%のメタノール水溶液)を、攪拌翼の回転数(周速)を段階的に変化させたときに、得られた混合重合体溶液が乳化すると、脱触媒が困難になり、乳化していないと、脱触媒を効率的に行えることを見出し、各粘度の重合体溶液を準備して乳化するポイントを検索して、境界線を引いて、図1で示した、工程2での攪拌翼の周速の最適範囲を求めた。
【0037】
工程3についでは、工程2で得た適切な条件の混合重合体溶液に対して、特定の体積比(約15vol%)で水を添加しながら、攪拌翼の回転数(周速)を段階的に順次低下させて、逐次サンプルを採取して調べた結果、回転数を高くし過ぎると重合体に水が取り込まれて部分凝固が起こり、触媒への水への移行が阻害されるため、脱溶媒効率が低下し、回転数を落とし過ぎると、水が重合体溶液中に混合されず、触媒は殆ど抽出されず、脱溶媒効率が低下することを見出し、このようにして得られた上限と下限の回転数(周速)をプロットして、図1で示した、工程3での攪拌翼の周速の最適範囲を求めた。
【0038】
図1中、式1-1は、V=100η-0.23の直線を示し、式1-2は、V=0.25η0.27の直線を示し、式2-1は、V=0.35η0.25の直線を示し、式2-2は、V=0.07η0.27の直線を示す。また、図2に、後記する実施例1~7並びに比較例1、2及び4で採用した工程2における周速の位置を示した。同様に、図3に、実施例1~7並びに比較例1、2及び4~7で採用した工程3における周速の位置を示した。後記する実施例及び比較例から分るように、本発明では、図1で示した、工程2及び工程3での攪拌翼の周速の最適範囲で混合、攪拌を行うことにより、重合体溶液中の均一系触媒を効果的に除去することができる。
【0039】
以上のとおり、本発明では、工程2及び工程3での混合、攪拌の際の攪拌翼の周速V(m/s)を、工程1の重合体溶液の粘度がη(mPa・s)であるとき、それぞれ前記式1及び前記式2の範囲とすることにより、重合体溶液中の触媒除去効率が最適となる。
【0040】
工程4について
工程4は、工程3で得られた水混合重合体溶液を相分離させて水相を除去して、前記均一系触媒を除去する工程である。工程4では、工程3で得られた水混合重合体溶液が重合体溶液相と水相に分離される。水相には、添加剤と親和した均一系触媒が抽出されるため、水相を除去することにより、重合体溶液から均一系触媒が除去される。工程4における重合体溶液相と水相との分離は、液体サイクロンにより行うことができる。この液体サイクロンは、例えば、特許文献1(国際公開第WO2016/152890号)に記載の液体サイクロン式分離装置を用いて実施できる。液体サイクロン式分離装置は、例えば、2~4つの液体サイクロン式分離装置を直列に設置して、各液体サイクロン式分離装置にて、工程4における重合体溶液相と水相との分離を実施してもよい。液体サイクロン式分離装置では、その内部に工程3で得られた水混合重合体溶液を導入し、混水混合重合体溶液を旋回させることで遠心力を利用して重合体溶液と水とを分離することができる。水混合重合体溶液を液体サイクロン式分離装置内に導入する際には、混水混合重合体溶液の流入速度は0.1~5m/sが好ましく、特に0.5~2m/sが好ましい。また、工程4における重合体溶液相と水相との分離は、比重差を利用したデカンター分離機、遠心分離機又は向流抽出機を用いることによっても実施することができる。あるいは、工程3で得られた水混合重合体溶液を、そのまま静置することによっても、重合体溶液相と水相とを分離することもできる。
【0041】
以下に、重合体溶液から均一系触媒を除去する本発明の触媒除去方法を好適に実施し得る一つの実施形態における各工程の概略図である図4に基づいて、本発明の触媒除去方法について説明する。
【0042】
図4の重合反応容器1内で、非水溶性有機溶媒中で金属成分を含む均一系触媒を用いて重合反応を行って、金属成分を含む均一系触媒及び非水溶性有機溶媒を含む重合体溶液を製造する前記工程1を実施する。この重合体溶液を、ポンプ11により、重合体溶液貯蔵タンク2へ移送する。ポンプ12により、流量測定器16及び圧力測定器20を経て、重合体溶液を混合攪拌タンク3へ移送する。他方、添加剤水溶液を、ポンプ13により、流量測定器17を経て、混合攪拌タンク3へ移送する。混合攪拌機タンク3内で、重合体溶液と添加剤水溶液とを、前記式1の範囲の周速で、混合、攪拌して、前記工程2を実施して、混合重合体溶液を得る。この混合重合体溶液を、圧力測定器21を経て、混合攪拌タンク4へ移送する。他方、水を、ポンプ14により、流量測定器18を経て、混合攪拌タンク4へ移送する。混合攪拌機タンク4内で、混合重合体溶液と水とを、前記式2の範囲の周速で、混合、攪拌して、前記工程3を実施して、水混合重合体溶液を得る。この水混合重合体溶液を、水混合重合体溶液貯蔵タンク5へ移送する。次いで、この水混合重合体溶液を、ポンプ15により、圧力測定器22及び流量測定器19を経て、圧力測定器23を介して直列に配置された液体サイクロン式分離装置6及び液体サイクロン式分離装置7へ移送されて、前記工程4が実施される。すなわち、工程3で得られた水混合重合体溶液を相分離させて水相を除去して、前記均一系触媒を除去する工程が実施される。工程4で分離された分離水は、分離水回収タンク8及び分離水回収タンク9に貯蔵される。均一系触媒を除去された脱触媒重合体溶液は、圧力測定器24及び圧力測定器25を経て、脱触媒重合体溶液貯蔵タンク10に貯蔵される。かくして、得られた脱触媒重合体溶液は、次いで、スチームストリッピングによる凝固工程に付すことができる。
【0043】
前記した本発明の触媒除去方法により、金属成分を含む均一系触媒が除去された脱触媒重合体溶液は、スチームストリッピングにより脱溶媒して重合体のクラムを得て、次いで乾燥することにより、目的とする重合体を製造することができる。
【0044】
スチームストリッピング方法は、特に限定されず、通常の方法を採用することができる。例えば、脱溶媒タンクに前記脱触媒重合体溶液を移送し、脱溶媒タンクに温水及びスチームを導入して、スチームストリッピングにより前記した非水溶性有機溶媒が除去される。スチームストリッピングは、非水溶性有機溶媒の沸点以上の温度で、非水溶性有機溶媒と水とが共沸する場合は共沸温度以上で実施される。通常120℃以下の温度で実施される。スチームストリッピングを実施する際には、重合体の酸化劣化、熱的劣化を防止するために、フェノール系酸化防止剤やリン酸系酸化防止剤など安定剤を、前記脱触媒重合体溶液に添加することもできる。また、界面活性剤などの分散剤を前記脱触媒重合体溶液に添加して、前記脱触媒重合体溶液中に生成する重合体のクラムの分散性を向上させることもできる。
【0045】
前記した脱溶媒により、温水中にクラム状の重合体が分散したスラリー液を得ることができる。得られたスラリー液を、メッシュを備えたスクリーン等で、含水状態のクラムと分散剤を含んだ水に分離される。クラム状の重合体は脱水工程で脱水され、乾燥されて、目的とする重合体を得ることができる。
【実施例0046】
以下に、製造例、実施例及び比較例を記載して、本発明を更に詳細に説明する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
1.重合体溶液の製造例1(工程1)
耐圧反応器を用い、シクロヘキサン89重量部、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)0.0012重量部およびスチレン9.6重量部を40℃で攪拌しているところに、金属成分を含む均一系触媒としてn-ブチルリチウム0.0434重量部を添加し、50℃に重合温度を上げながら1時間重合し、ポリスチレンブロック重合体を得た。この時点でのスチレンの重合転化率は100%であった。
【0048】
反応液の一部を採取して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定により、ポリスチレンブロック重合体の重量平均分子量を測定した。ポリスチレンブロック重合体の重量平均分子量は14×10であった。重量平均分子量は、テトラヒドロフランをキャリアーとし、ポリスチレン換算値として高速液体ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定した。
【0049】
引き続き、イソプレン38.4重量部を反応温度が50℃~60℃の間になるように温度制御しながら1時間かけて添加し、添加終了後にさらに1時間重合し、スチレン-イソプレンジブロック共重合体を得た。この時点でのイソプレンの重合転化率は100%であった。反応液の一部を採取して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、スチレン・イソプレンジブロック共重合体((b)成分とする。)の重量平均分子量を測定したところ、99×10であった。
【0050】
次いで、カップリング剤としてジメチルジクロロシラン0.0262重量部を添加して2時間カップリング反応を行ない、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体((a)成分とする)を形成し、重合体溶液を得た。重合体溶液中における金属成分を含む均一系触媒の含有量は、重合体に対し、重量基準で100ppmであった。重合体溶液中における金属成分を含む均一系触媒の含有量は、前記の方法で測定した。
【0051】
反応液の一部を採取して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定を行ったところ、上記トリブロック共重合体中のスチレン単位含有量は20%、(a)成分の重量平均分子量は188×10、(a)成分と(b)成分の重量比は6:4であった。(a)成分と(b)成分の割合は、高速液体ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより得られた各共重合体のピーク面積から求めた。液中における金属成分を含む均一系触媒の含有量は、前記の方法で測定した。また、重合体溶液の粘度を、ブルックフィールド製B型粘度計を用いて30℃にて測定したところ、16000mPa・sであった。
【0052】
2.重合体溶液の製造例2(工程1)
耐圧反応器を用い、シクロヘキサン153重量部、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)0.0012重量部およびスチレン9.6重量部を40℃で攪拌しているところに、金属成分を含む均一系触媒としてn-ブチルリチウム0.0434重量部を添加し、50℃に重合温度を上げながら1時間重合し、ポリスチレンブロック重合体を得た。この時点でのスチレンの重合転化率は100%であった。
【0053】
反応液の一部を採取して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定により、ポリスチレンブロック重合体の重量平均分子量を測定した。ポリスチレンブロック重合体の重量平均分子量は14×10であった。なお、重量平均分子量は、テトラヒドロフランをキャリアーとし、ポリスチレン換算値として高速液体ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定した。
【0054】
引き続き、イソプレン38.4重量部を反応温度が50℃から60℃の間になるように温度制御しながら1時間かけて添加し、添加終了後にさらに1時間重合し、スチレン-イソプレンジブロック共重合体を得た。この時点でのイソプレンの重合転化率は100%であった。反応液の一部を採取して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、スチレン-イソプレンジブロック共重合体((b)成分とする。)の重量平均分子量を測定したところ、99×10であった。
【0055】
次いで、カップリング剤としてジメチルジクロロシラン0.0262重量部を添加して2時間カップリング反応を行ない、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体((a)成分とする。)を形成し、重合体溶液を得た。重合体溶液中における金属成分を含む均一系触媒の含有量は、重合体に対し、重量基準で100ppmであった。重合体溶液中における金属成分を含む均一系触媒の含有量は、前記の方法で測定した。
【0056】
反応液の一部を採取して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定を行ったところ、上記トリブロック共重合体中のスチレン単位含有量は20%、(a)成分の重量平均分子量は188×10、(a)成分と(b)成分の重量比は6:4であった。なお、(a)成分と(b)成分の割合は、高速液体ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより得られた各共重合体のピーク面積から求めた。また、重合体溶液の粘度を、ブルックフィールド製B型粘度計を用いて30℃にて測定したところ、1600mPa・sであった。
【0057】
実施例1
製造例1で製造された重合体溶液を用いて、図4に示した工程1~工程4に従って、以下に具体的に記載した方法により、重合体溶液から均一系触媒を脱触媒し、次いで、重合体を製造した。
【0058】
1.工程1(重合体溶液製造)
前記した製造例1を、図4の重合反応容器1内で行い、金属成分(リチウム)を含む均一系触媒(n-ブチルリチウム)と非水溶性有機溶媒(シクロヘキサン)を含み、粘度ηが16000mPa・sの重合体溶液(重合体溶液1)を得た。
【0059】
2.工程2(添加剤水溶液添加)
工程1で得た重合体溶液1の全量を重合体溶液貯蔵タンク2にポンプ11で移送した。重合体溶液貯蔵タンク2より毎分0.3L(流量測定器16で確認)でポンプ12を起動して送液し、混合攪拌タンク3の内部が満杯になり、圧力測定器20の圧力が上がり始めた時に、混合攪拌タンク3の回転数を6000回転(周速V=8.8m/s)にセットし、モーターを起動した。回転数が6000rpmになったところでポンプ13を起動し、所定の流量になるようにポンプ13を調整し流量測定器17で確認しながら連続的に添加剤水溶液(添加剤濃度は10vol%で、添加剤としてメタノールを用いた)と重合体溶液1を混合し、混合重合体溶液(重合体溶液2)を得た。工程2及び以下の工程3の混合攪拌にはプライミクス製ラボ・リューションMARK IIにホモミック・ラインフロー30型の容器(内容積0.3L)を組み合わせたものを用いた。攪拌翼の形状はタービン翼である。
【0060】
3.工程3(水添加)
混合攪拌タンク3より出てきた混合重合体溶液(重合体溶液2)は、次の混合攪拌タンク4に接続されており、混合攪拌タンク4の内部が満杯になり、圧力測定器22の測定圧力が増加し始めた時に、回転数2000rpmで混合を開始した。回転数が2000rpm(周速V=2.93m/s)に到達した時に、ポンプ14より水を所定の流量になるようポンプ14を操作し、流量測定器18を監視しながら水を添加し、水と重合体溶液2を混合し水混合重合体溶液(重合体溶液3)を得た。
【0061】
混合攪拌タンク4より出てきた最初の水混合重合体溶液は移送途中で約1L取り除き、残りは水混合重合体溶液貯蔵タンク5に移送した。
【0062】
4.工程4(水相分離)
水混合重合体溶液貯蔵タンク5にある重合体溶液3を、ポンプ15を起動して移送を開始し、液体サイクロン式分離装置6の入口流速が1m/sになるようにポンプ15の出力を調整した。重合体溶液3は、直列に2つ接続された液体サイクロン式分離装置6および液体サイクロン式分離装置7で、均一系触媒を含む水溶液と、均一系触媒が除去された脱灰重合体溶液(重合体溶液4)に分離され、脱触媒重合体溶液貯蔵タンク10にすべての脱灰重合体溶液が移送された。得られた脱灰重合体溶液の一部を取り出し、山本電気工業製油中水分計により水分を測定した。また、ヘッドスペースーガスクロマトグラフィーにより脱灰重合体溶液中の添加剤濃度を測定した。
【0063】
5.スチームストリッピングによる凝固工程及び乾燥
脱触媒重合体溶液貯蔵タンク10の脱灰された脱灰重合体溶液4の全量を、他の脱触媒重合体溶液貯蔵タンクに移送して、この脱触媒重合体溶液貯蔵タンクで、重合体に対して0.1重量部となるように、安定剤としてイルガノックス565(BASF製)(4-[[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)を添加して撹拌し、内温を70℃に加温した。
【0064】
分散剤としてアデカスタブLo-7(アデカ製界面活性剤、第1級アルコールエトキシレート、曇点45℃、HLB:11.7)(20%水溶液)を0.14g/min、約98℃のセラム水を流速1.4L/min.でフィードし、0.6MPaの飽和蒸気を約0.04L/hで連続的に投入して、安定剤を混合した重合体溶液4を0.1L/minで移送し、スチームストリッピングにより凝固操作を行った。得られた重合体の凝固クラムを取り出し、真空乾燥して目的とする重合体を得た。
【0065】
得られた重合体中のリチウム量を計測したところ5.9ppmであった。製造例1の溶液の一部を真空乾燥して、同様にリチウム量を計測したところ100ppmであったので、触媒の除去率は94.1%であることがわかった。
【0066】
表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。
【0067】
比較例1
工程2のミキサーの回転数を8000回転(周速V=11.73m/s)とした以外は、実施例1と同様に行った。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、工程4で得られた重合体溶液4中の水分濃度がやや高くなり、添加剤の含有量も高いことがわかった。また、触媒の除去率は68%と低く、工程2の周速を大きくしたために低下したものと考えられた。
【0068】
実施例2
工程2の添加剤水溶液の添加剤濃度を20vol%とした以外は、実施例1と同様に行った。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、触媒の除去率が96.7%と向上していた。
【0069】
実施例3
工程2の添加剤水溶液の添加剤濃度を40vol%とした以外は、実施例1と同様に行った。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、触媒の除去率は97.5%とさらに向上していた。
【0070】
実施例4
工程2の添加剤水溶液の添加剤濃度を80vol%とした以外は、実施例1と同様に行った。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、触媒の除去率は93.5%であった。
【0071】
比較例2
工程2の添加剤水溶液の添加剤濃度を100vol%(添加剤のみを添加した)とした以外は、実施例1と同様に行った。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、触媒の除去率93%と実施例1~4の添加剤水溶液と比較すると劣る結果となった。また、工程4で得られた重合体溶液4中の添加剤濃度は0.3%もあり、工程2で添加剤水溶液を用いた実施例1~4に比べると非常に高いことがわかる。工程4で得られる重合体溶液4中の添加剤の残留量が多いと、排水の処理に時間と費用が掛かるためよくなく、実施例1~4及び後記する実施例5~7のように低濃度にできることは工業的な生産において有益な方法であるといえる。
【0072】
実施例5
製造例2で得られた、金属成分(リチウム)を含む均一系触媒(n-ブチルリチウム)と非水水溶性有機溶媒(シクロヘキサン)を含み、粘度ηが1600mPa・sの重合体溶液を用い、工程3の周速を2.2m/s(1500rpm)とした以外は、実施例1と同様に実施した。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、触媒の除去率は94.5%であった。
【0073】
実施例6
実施例5の工程4の水相分離操作で、液体サイクロン式分離装置を用いずに、重合体溶液3を、そのまま水混合重合体溶液貯蔵タンク5の中で、3日間静置した。その後、下部に溜まった水を取り除き、得られた重合体溶液を、実施例1に記載した他の脱触媒重合体溶液貯蔵タンクに移送した。以後は実施例1と同様に操作して重合体を得た。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、水相分離に3日かけてもすべての項目で実施例5よりは劣る結果となり、液体サイクロン式分離装置サイクロンを用いる分離工程を経るほうが、効率的に触媒除去が行えていることがわかる。しかしながら、触媒の除去率は93.5%と高く満足のいくものであった。また、比較例2と比べてやや改善されており、工程2で用いた添加剤水溶液の添加剤濃度が40%であるためであると考えられる。
【0074】
実施例7
工程2の回転数を6000rpmから8000rpmと高くし、周速を11.73m/sとした以外は、実施例4と同様に操作した。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、実施例4と比較して触媒の除去率が高く、工程4で得られた重合体溶液4中の添加剤濃度と水分量が低下し、また、触媒の除去方法としては向上していることがわかる。
【0075】
比較例3
工程3で水を添加しなかった以外は、実施例5と同様に操作した。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、触媒の除去効率が著しく低下していることがわかる。
【0076】
比較例4
工程2で回転数を1000rpmと低くし、周速を1.47m/sとした以外は、実施例5と同様に操作した。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、工程2の回転数を下げて、周速が低下したために触媒の除去効率の著しい低下が起こっていると考えられた。
【0077】
比較例5
工程2の添加剤水溶液の添加剤濃度を2vol%とし、流速を0.061L/min.とし、工程3で水を添加しなかった以外は、実施例5と同様に操作した。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、工程2の添加剤水溶液の添加剤濃度を下げたために、触媒除去率が低下していると考えられた。
【0078】
比較例6
比較例5の工程2の流速を約半分の0.030L/minにし、工程3の添加剤水溶液の添加剤濃度を2vol%で、0.030L/min.とした以外は、比較例5と同様に操作した。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、工程3で添加剤を用いると触媒除去率がやや向上しているが、実施例1~7と比べると劣る結果である。
【0079】
比較例7
工程2の添加剤水溶液の添加剤濃度を0%とした以外は、比較例4と同様に操作した。表1に各種条件及び得られた評価結果を纏めて示した。表1に示したとおり、添加剤がないために触媒除去効率が低下しており、工程4で得られる重合体溶液4中の水分濃度が著しく高くなっていることがわかる。水分濃度が高いと、スチームストリッピング時により多くのスチームが必要になるため、このような手法は望ましくないといえる。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示した、工程4で得られた重合体溶液4中の水分濃度は、山本電気工業製の油中水分計(MAE-13N2)を用いて測定した。工程4で得られた重合体溶液4中の添加剤量は、アジレント社製ヘッドスペース-ガスクロマトグラフィーを用いて、160℃で30分間加熱して発生したガス中に含まれる添加剤を測定した。
【0082】
表1に示した触媒の除去率は、次のようにして測定した。先ず、工程4で得られた脱触媒された重合体溶液4を、スチームストリッピングを実施する凝固タンクに入れ、重合体に対して0.1重量部の添加量となるように、イルガノックス565のシクロヘキサン10%溶液を添加して撹拌し均一化したのち、スチームストリッピングを実施した。また、分散剤としてアデカ Lo-7を水中に25ppmになるように添加して、スチームストリッピングを行った。得られた重合体のクラムを真空乾燥して、約1g秤量し、強酸で分解処理を行った後、誘導結合プラズマ(IPC; Inductively Coupled Plasma)を用いた元素分析を行い、重合体中の残留金属量を測定した。工程4での処理前の重合体溶液3を真空乾燥して、得られた重合体を、同様にIPC測定を行い、(1-[処理後の金属濃度]/[処理前の金属濃度])×100%として、触媒の除去率を算出した。
【0083】
以上から、本発明の触媒除去方法によれば、触媒除去率が高く、残留添加剤濃度及び残留水分量を下げることができるので、本発明の触媒除去方法は工業的に優れた方法であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の触媒除去方法によれば、触媒除去後に得られる重合体溶液中の触媒除去率が十分に高く、添加剤の残留濃度が低く、水の残留量も低く、均一系触媒を効率良く除去することができる。また、本発明の触媒除去方法により均一系触媒が除去された重合体溶液から、重合体を製造することにより、均一系触媒中に含まれる金属成分の残留量が極めて低減された重合体を得ることができる。したがって、本発明の触媒除去方法及び重合体の製造方法は、工業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0085】
1 重合反応容器
2 重合体溶液貯蔵タンク
3、4、5 混合攪拌タンク
6、7 液体サイクロン式分離装置
8、9 分離水回収タンク
10 脱触媒重合体溶液貯蔵タンク
11、12、13、14、15 ポンプ
16、17、18、19 流量測定器
20、21、22、23、24、25 圧力測定器
図1
図2
図3
図4