(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088924
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】接合用金属ペースト、接合体、半導体装置、及び接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20220608BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20220608BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220608BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20220608BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20220608BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20220608BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20220608BHJP
B22F 1/102 20220101ALN20220608BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B1/22 D
H01B1/00 K
H01B1/00 L
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F9/00 B
B22F7/04 D
B22F7/08 E
H01L21/52 E
B22F1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201064
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】石川 大
(72)【発明者】
【氏名】中子 偉夫
(72)【発明者】
【氏名】名取 美智子
(72)【発明者】
【氏名】根岸 征央
(72)【発明者】
【氏名】川名 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】広沢 清
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 きわ
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5F047
5G301
【Fターム(参考)】
4K017AA08
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4K018KA32
5F047AA02
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5G301DA03
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5G301DD03
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(57)【要約】
【課題】 被着面に金や銀を有している部材を接合する場合であっても充分な接合強度を得ることができる接合用金属ペースト、それを用いる接合体及び半導体装置、並びに接合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 接合用金属ペーストは、(A)銅粒子と、(B)ニッケル粒子及びニッケル化合物のうちの少なくとも一種と、(C)分散媒と、を含み、(B)成分の含有量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の質量の合計を基準として、15質量%以上50質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)銅粒子と、(B)ニッケル粒子及びニッケル化合物のうちの少なくとも一種と、(C)分散媒と、を含み、
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分、前記(B)成分及び前記(C)成分の質量の合計を基準として、15質量%以上50質量%以下である、接合用金属ペースト。
【請求項2】
前記(C)成分が、大気圧下における沸点が250℃以上400℃以下であり、末端にヒドロキシル基を有し、分子鎖中にエーテル結合を有するポリエーテルアルコール系化合物を含む、請求項1に記載の接合用金属ペースト。
【請求項3】
前記(C)成分が、大気圧下における沸点が100℃以上250℃未満であり、末端にヒドロキシル基を有し、分子鎖中にエーテル結合を有しないアルコール系化合物を更に含む、請求項2に記載の接合用金属ペースト。
【請求項4】
前記(B)成分として、体積平均粒径が0.01μm以上1μm以下のニッケル粒子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合用金属ペースト。
【請求項5】
前記(B)成分として、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、ギ酸ニッケル、及び酢酸ニッケルからなる群より選択される1種又は2種以上のニッケル化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の接合用金属ペースト。
【請求項6】
前記(A)成分として、体積平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下のサブマイクロ銅粒子を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の接合用金属ペースト。
【請求項7】
前記(A)成分として、体積平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下のサブマイクロ銅粒子と、体積平均粒径が2μm以上50μm以下のマイクロ銅粒子と、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の接合用金属ペースト。
【請求項8】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分及び前記(B)成分の質量の合計を基準として、70質量%以上95質量%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の接合用金属ペースト。
【請求項9】
第一の部材と、第二の部材と、前記第一の部材と前記第二の部材とを接合する請求項1~8のいずれか一項に記載の接合用金属ペーストの焼結体と、を備える、接合体。
【請求項10】
第一の部材と、第二の部材と、前記第一の部材と前記第二の部材とを接合する請求項1~8のいずれか一項に記載の接合用金属ペーストの焼結体と、を備え、
前記第一の部材及び前記第二の部材の少なくとも一方が半導体素子である、半導体装置。
【請求項11】
第一の部材、請求項1~8のいずれか一項に記載の接合用金属ペースト、及び第二の部材がこの順に積層されている積層体を用意する工程と、
前記積層体における前記接合用金属ペーストを焼結する焼結工程と、
を備える、接合体の製造方法。
【請求項12】
前記第一の部材及び前記第二の部材の少なくとも一方が半導体素子である、請求項11に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合用金属ペースト、並びに、それを用いた接合体、半導体装置、及び接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造する際、半導体素子とリードフレーム等(支持部材)とを接合する接合層を形成するため、様々な接合材が用いられている。例えば、150℃程度までの温度で動作させるパワー半導体、LSI等の接合には、接合層の形成に高鉛はんだが用いられてきた。近年、半導体素子の高容量化及び省スペース化が進み、半導体を175℃以上で高温動作させる要求が高まっている。このような半導体装置の動作安定性を確保するためには、接合層に接続信頼性及び高熱伝導特性が必要となる。しかし、175℃以上の温度域では、従来用いられてきた高鉛はんだの接合層では接続信頼性に課題が生じ、熱伝導率も不十分(30Wm-1K-1)なため、代替材が求められている。
【0003】
代替材の一つとして、銀粒子の焼結現象により形成される焼結銀層が提案されている(下記特許文献1を参照)。焼結銀層は、熱伝導率が高く(>100Wm-1K-1)、パワーサイクルに対する接続信頼性が高いことが報告されており注目されている(下記非特許文献1を参照)。しかし、接続信頼性を確保するには焼結銀層の緻密度向上のために高加圧を伴う熱圧着プロセスが必須であり、半導体素子チップの損傷や熱圧着工程のスループットの低下などの課題がある。更に、銀は材料コストが高いことも課題となっている。
【0004】
別の代替材として、銅を用いた焼結銅層が提案されている。銅は、銀に比べて機械的強度に優れており焼結銀層ほど緻密度を上げなくても高温信頼性が得られやすく、材料コストも低く抑えることができる。このような焼結銅層として、酸化銅粒子を還元・焼結して得られる焼結銅層が提案されている(下記特許文献2及び下記非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4247800号
【特許文献2】特許第5006081号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. Khazaka, L. Mendizabal, D. Henry: J. ElecTron. Mater, 43(7), 2014, 2459-2466
【非特許文献2】T. Morita、 Y. Yasuda: Materials Transactions、 56(6)、 2015、 878-882
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、半導体素子や基板は、防錆等の観点から表面めっきとして金(Au)や銀(Ag)の貴金属が多用されている。しかし、焼結銅は被着面に金や銀を有している部材に対する接合性が低くなる傾向にあり、接合強度が得られにくい。
【0008】
そこで、本発明は、被着面に金や銀を有している部材を接合する場合であっても充分な接合強度を得ることができる接合用金属ペースト、それを用いる接合体及び半導体装置、並びに接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、(A)銅粒子と、(B)ニッケル粒子及びニッケル化合物のうちの少なくとも一種と、(C)分散媒と、を含み、(B)成分の含有量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の質量の合計を基準として、15質量%以上50質量%以下である、接合用金属ペーストを提供する。
【0010】
上記の接合用金属ペーストによれば、被着面に金や銀を有している部材を接合する場合であっても充分な接合強度を得ることができる。
【0011】
このような効果が得られる理由について本発明者らは以下のとおり推察する。
(i)まず、従来の焼結銅と被着面に金や銀を有している部材との接合性が低い理由については、焼結銅と金界面または銀界面との間で不均衡拡散に伴うカーケンダルボイドが形成されることが考えられる。
(ii)これに対し、上記の接合用金属ペーストによれば、ニッケル粒子又はニッケル化合物が還元されて生じるニッケル粒子が、金界面または銀界面に存在することで、カーケンダルボイドの形成が抑制される。これはニッケルの金や銀に対する拡散速度が、銅の金や銀に対する拡散速度よりも遅いためと考えられる。
(iii)また、上記の接合用金属ペーストは、(B)成分を特定の含有量で含むことにより、被着面に対するタック性を発現することができ、上述した(ii)において、還元されて生じるニッケル粒子を金界面または銀界面に適度な量で存在させることができるとともに、銅とニッケルが焼結によって固溶強化することで高強度化し、金や銀に対して充分な接合強度が得られたと考えられる。
なお、タック性は、ニッケル粒子の場合、強磁性であるため印刷後のペーストにおいて凝集状態を形成し易く、分散媒の保持力が増加することにより発現すると考えられ、特に被着面に強磁性層(例えば、半導体チップの裏面めっき(Ti/Ni/Au及びTi/Ni/Agなど)、基板側めっき(Ni/Au,Ni/Pd/Au,Ni/Agなど))が含まれる場合は発現しやすいと考えられる。ニッケル化合物の場合、化合物が分散媒との親和性が高い基を有することができ、分散媒の保持力が増加することにより、タック性が発現すると考えられる。また、(B)成分の含有量が50質量%を超えると、タック性が低下するが、これは(B)成分が偏析したペースト膜が形成されやすくなるためと推察される。
【0012】
また、上記の接合用金属ペーストによれば、部材を接合する焼結体を形成するガス雰囲気として水素及びギ酸等の還元ガスを含むことが望ましいが、例えば、水素及びギ酸等の還元ガスを含まない無酸素雰囲気(例えば、窒素及びArガス等の雰囲気)を用いる場合であっても、2MPa以下の比較的低い圧力を用いて熱圧着することで充分な接合強度を得ることができる。
【0013】
上記(C)成分は、大気圧下における沸点が250℃以上400℃以下であり、末端にヒドロキシル基を有し、分子鎖中にエーテル結合を有するポリエーテルアルコール系化合物を含んでいてもよい。この場合、接合用金属ペーストのタック性が得られやすくなるとともに、銅粒子、更には銅よりも還元しにくいニッケルを還元させやすくなり、接合強度を一層向上させることができる。
【0014】
上記(C)成分は、室温での作業中の溶剤の揮発しにくさの観点、並びに、上記の(A)成分及び(B)成分に対する還元性の観点から、大気圧下における沸点が100℃以上250℃未満であり、末端にヒドロキシル基を有し、分子鎖中にエーテル結合を有しないアルコール系化合物を更に含んでいてもよい。分散媒が、上記のポリエーテルアルコール系化合物と、上記のアルコール系化合物とを含むことにより、大面積の部材であってもボイドの発生を抑制しつつ充分な接合強度を得ることが容易となる。このような効果が得られる理由については、有機保護剤で被覆されている金属粒子を用いる場合であっても、低沸点のアルコール系化合物によって、銅粒子を被覆する有機保護剤が反応し、比較的低温で脱離する効果が得られやすくなるとともに、高沸点のポリエーテルアルコール系化合物が、より高い加熱温度までペースト中に存在することで銅粒子やニッケル粒子の酸化層、ニッケル化合物を還元することができ、またエーテル結合を有していることで分解されやすく、焼結体に残留しにくいことが考えられる。
【0015】
接合用金属ペーストは、上記(B)成分として、体積平均粒径が0.01μm以上1μm以下のニッケル粒子を含むことができる。この場合、接合用金属ペーストのタック性が得られやすくなる。このような効果が得られる理由として、微粒子同士が集合して凝集状態が形成されやすくなることで、その凝集状態と同じサイズの粒子径のニッケル粒子よりも比表面積が大きくなり、より多くの分散媒を凝集状態として保持することができることが考えられる。
【0016】
接合用金属ペーストは、上記(B)成分として、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、ギ酸ニッケル、及び酢酸ニッケルからなる群より選択される1種又は2種以上のニッケル化合物を含むことができる。このようなニッケル化合物は、分散媒(例えば、上述したポリエーテルアルコール系化合物及びアルコール系化合物など)との親和性が高い基(例えば、水酸基、カルボキシル基など)を有しており、分散媒を保持しやすく、接合用金属ペーストのタック性を発現させやすくすることができる。
【0017】
接合用金属ペーストは、上記(A)成分として、体積平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下のサブマイクロ銅粒子を含むことができる。
【0018】
接合用金属ペーストは、上記(A)成分として、体積平均粒径が0.1μm以上0.9μm以下のサブマイクロ銅粒子と、体積平均粒径が2μm以上50μm以下のマイクロ銅粒子と、を含むことができる。
【0019】
接合用金属ペーストは、上記(B)成分の含有量が、(A)成分及び(B)成分の質量の合計を基準として、70質量%以上95質量%以下であってもよい。
【0020】
本発明の別の側面は、第一の部材と、第二の部材と、第一の部材と第二の部材とを接合する上記の接合用金属ペーストの焼結体と、を備える、接合体を提供する。
【0021】
上記の接合体によれば、上記接合用金属ペーストの焼結体によって接合されていることにより、部材の少なくとも一方が被着面に金や銀を有する場合であっても部材同士が充分な接合強度で接合された接合体となり得る。
【0022】
また、本発明の別の側面は、第一の部材と、第二の部材と、第一の部材と第二の部材とを接合する上記の接合用金属ペーストの焼結体と、を備え、第一の部材及び第二の部材の少なくとも一方が半導体素子である、半導体装置を提供する。
【0023】
上記の半導体装置は、半導体素子が被着面に金や銀を有する場合であっても上記接合用金属ペーストの焼結体が充分な接合性を有することから、充分な接合強度を有することができる。
【0024】
更に、本発明の別の側面は、第一の部材、上記の接合用金属ペースト、及び第二の部材がこの順に積層されている積層体を用意する工程と、積層体における接合用金属ペーストを焼結する焼結工程と、を備える、接合体の製造方法を提供する。
【0025】
上記の接合体の製造方法によれば、部材の少なくとも一方が被着面に金や銀を有する場合であっても部材同士が充分な接合強度で接合された接合体を得ることができる。
【0026】
上記の接合体の製造方法において、第一の部材及び第二の部材の少なくとも一方が半導体素子であってもよい。この場合、半導体素子が被着面に金や銀を有する場合であっても充分な接合強度を有する半導体装置を接合体として得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、被着面に金や銀を有している部材を接合する場合であっても充分な接合強度を得ることができる接合用金属ペースト、それを用いる接合体及び半導体装置、並びに接合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態の接合用金属ペーストを用いて製造される接合体の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本実施形態の接合用金属ペーストを用いて製造される半導体装置の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0030】
[接合用金属ペースト]
本実施形態の接合用金属ペーストは、(A)銅粒子(以下、「(A)成分」という場合がある。)と、(B)ニッケル粒子及びニッケル化合物のうちの少なくとも一種(以下、「(B)成分」という場合がある。)と、(C)分散媒(以下、「(C)成分」という場合がある。)と、を含む。
【0031】
<(A)銅粒子>
銅粒子としては、サブマイクロ銅粒子及びマイクロ銅粒子が挙げられる。
【0032】
(サブマイクロ銅粒子)
サブマイクロ銅粒子は、250℃以上380℃以下の温度範囲で、焼結性を有する銅粒子であればよい。サブマイクロ銅粒子としては、粒径が0.1μm以上0.9μm以下の銅粒子を含むものが挙げられ、例えば、体積平均粒径が、0.1μm以上0.9μm以下の銅粒子を用いることができる。サブマイクロ銅粒子の体積平均粒径が0.1μm以上であれば、サブマイクロ銅粒子の合成コストの抑制、良好な分散性、有機保護剤の使用量の抑制といった効果が得られやすくなる。サブマイクロ銅粒子の体積平均粒径が0.9μm以下であれば、サブマイクロ銅粒子の焼結性が優れるという効果が得られやすくなる。より一層上記効果を奏するという観点から、サブマイクロ銅粒子の体積平均粒径は、0.12μm以上0.8μm以下であってもよく、0.15μm以上0.8μm以下であってもよく、0.15μm以上0.6μm以下であってもよく、0.2μm以上0.5μm以下であってもよく、0.3μm以上0.45μm以下であってもよい。
【0033】
なお、本願明細書において体積平均粒径とは、50%体積平均粒径を意味する。例えば、銅粒子の体積平均粒径を求める場合、原料となる銅粒子、又は接合用金属ペーストから揮発成分を除去した乾燥銅粒子を、分散剤を用いて分散媒に分散させたものを光散乱法粒度分布測定装置(例えば、島津ナノ粒子径分布測定装置(SALD-7500nano,株式会社島津製作所製))で測定する方法等により求めることができる。光散乱法粒度分布測定装置を用いる場合、分散媒としては、ヘキサン、トルエン、α-テルピネオール、4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン等を用いることができる。
【0034】
粒子が球状でない場合は、下記方法により粒子の粒径を最大粒径として求めることができる。銅粒子の長径をSEM像から算出する方法を例示する。銅粒子の粉末を、SEM用のカーボンテープ上にスパチュラで載せ、SEM用サンプルとする。このSEM用サンプルをSEM装置により100~5000倍で観察する。このSEM像の銅粒子に外接する長方形を画像処理ソフトにより作図し、長方形の長辺をその粒子の長径とする。他の金属粒子においても、同じ方法により粒子径を求めることができる。
【0035】
サブマイクロ銅粒子の形状は、特に限定されるものではない。サブマイクロ銅粒子の形状としては、例えば、球状、塊状、針状、フレーク状、略球状及びこれらの凝集体が挙げられる。分散性及び充填性の観点から、サブマイクロ銅粒子の形状は、球状、略球状、フレーク状であってもよく、燃焼性、分散性、フレーク状マイクロ粒子との混合性等の観点から、球状又は略球状であってもよい。本明細書において、「フレーク状」とは、板状、鱗片状等の平板状の形状を包含する。
【0036】
サブマイクロ銅粒子は、分散性、充填性、及びフレーク状マイクロ粒子との混合性の観点から、アスペクト比が5以下であってもよく、3以下であってもよい。本明細書において、「アスペクト比」とは、粒子の長辺/厚みを示す。粒子の長辺及び厚みの測定は、例えば、粒子のSEM像から求めることができる。
【0037】
サブマイクロ銅粒子は、炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸の有機保護剤で処理されていることが好ましい。すなわち、サブマイクロ銅粒子は、炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸で被覆されていることが好ましい。
【0038】
炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、メチルヘプタン酸、エチルヘキサン酸、プロピルペンタン酸、ペラルゴン酸、メチルオクタン酸、エチルヘプタン酸、プロピルヘキサン酸、カプリン酸、メチルノナン酸、エチルオクタン酸、プロピルヘプタン酸、ブチルヘキサン酸、ウンデカン酸、メチルデカン酸、エチルノナン酸、プロピルオクタン酸、ブチルヘプタン酸、ラウリン酸、メチルウンデカン酸、エチルデカン酸、プロピルノナン酸、ブチルオクタン酸、ペンチルヘプタン酸、トリデカン酸、メチルドデカン酸、エチルウンデカン酸、プロピルデカン酸、ブチルノナン酸、ペンチルオクタン酸、ミリスチン酸、メチルトリデカン酸、エチルドデカン酸、プロピルウンデカン酸、ブチルデカン酸、ペンチルノナン酸、ヘキシルオクタン酸、ペンタデカン酸、メチルテトラデカン酸、エチルトリデカン酸、プロピルドデカン酸、ブチルウンデカン酸、ペンチルデカン酸、ヘキシルノナン酸、パルミチン酸、メチルペンタデカン酸、エチルテトラデカン酸、プロピルトリデカン酸、ブチルドデカン酸、ペンチルウンデカン酸、ヘキシルデカン酸、ヘプチルノナン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸、エチルシクロヘキサンカルボン酸、プロピルシクロヘキサンカルボン酸、ブチルシクロヘキサンカルボン酸、ペンチルシクロヘキサンカルボン酸、ヘキシルシクロヘキサンカルボン酸、ヘプチルシクロヘキサンカルボン酸、オクチルシクロヘキサンカルボン酸、ノニルシクロヘキサンカルボン酸等の飽和脂肪酸;オクテン酸、ノネン酸、メチルノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレイン酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸;テレフタル酸、ピロメリット酸、o-フェノキシ安息香酸、メチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、ペンチル安息香酸、ヘキシル安息香酸、ヘプチル安息香酸、オクチル安息香酸、ノニル安息香酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。
【0039】
これらのうち、ギ酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、が好ましい。このような有機酸と上記サブマイクロ銅粒子とを組み合わせることで、サブマイクロ銅粒子の分散性と焼結時における有機酸の脱離性を両立できる傾向にある。
【0040】
有機保護剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
有機保護剤の処理量は、サブマイクロ銅粒子の表面に一分子層~三分子層付着する量であってもよい。この量は、サブマイクロ銅粒子の表面に付着した分子層数(n)、サブマイクロ銅粒子の比表面積(Ap)(単位m2/g)と、有機保護剤の分子量(Ms)(単位g/mol)と、有機保護剤の最小被覆面積(SS)(単位m2/個)と、アボガドロ数(NA)(6.02×1023個)から算出できる。具体的には、有機保護剤の処理量は、有機保護剤の処理量(質量%)={(n・Ap・Ms)/(SS・NA+n・Ap・Ms)}×100の式に従って算出される。
【0042】
サブマイクロ銅粒子の比表面積は、乾燥させたサブマイクロ銅粒子をBET比表面積測定法で測定することで算出できる。有機保護剤の最小被覆面積は、有機保護剤が直鎖飽和脂肪酸の場合、2.05×10-19m2/1分子である。それ以外の有機保護剤の場合には、例えば、分子モデルからの計算、又は「化学と教育」(上江田捷博、稲福純夫、森巌、40(2),1992,p114-117)に記載の方法で測定できる。有機保護剤の定量方法の一例を示す。有機保護剤は、接合用金属ペーストから分散媒を除去した乾燥粉の熱脱離ガス・ガスクロマトグラフ質量分析計により同定でき、これにより有機保護剤の炭素数及び分子量を決定できる。有機保護剤の炭素分割合は、炭素分分析により分析できる。炭素分分析法としては、例えば、高周波誘導加熱炉燃焼/赤外線吸収法が挙げられる。同定された有機保護剤の炭素数、分子量及び炭素分割合から上記式により有機保護剤量を算出できる。
【0043】
有機保護剤の上記処理量は、0.1質量%以上10質量%以下であってもよく、0.5質量%以上5質量%以下であってもよく、1.0質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0044】
また、有機保護剤の処理量(付着量)を実験的に測定する方法としては、TG-DTA(示差熱‐熱重量同時測定、Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis)測定を用いることができる。有機保護剤によって処理された銅粒子を、無酸素雰囲気中でTG-DTA測定することで、有機保護剤の脱離による重量減少が観察される。その重量減少が始まる温度が有機保護剤の脱離の開始温度である。重量減少が停止したときの温度が、有機保護剤材の脱離の完了温度であり、初期から減少した重量が有機保護剤の処理量である。
【0045】
例えば、サブマイクロ銅粒子(三井金属鉱業株式会社製「CH-0200」)((有機保護剤:ドデカン酸)の窒素雰囲気中におけるTG-DTA測定においては、ドデカン酸が、140℃~195℃、240℃~320℃の二段階で脱離していることが示され、この銅粒子の有機保護剤(ドデカン酸)の脱離開始温度は140℃であり、ドデカン酸の処理量は約2.5質量%であることが求められる。
【0046】
本実施形態においては、上記サブマイクロ銅粒子における上記カルボン酸化合物の脱離の開始温度が、140℃以上380℃以下の範囲にあることが望ましい。
【0047】
本実施形態に係るサブマイクロ銅粒子としては、市販されているものを用いることができる。市販されているサブマイクロ粒子としては、例えば、CH-0200(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径0.36μm)、HT-14(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径0.41μm)、CT-500(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径0.72μm)、Tn-Cu100(太陽日酸社製、体積平均粒径0.12μm)が挙げられる。
【0048】
上記サブマイクロ銅粒子は良好な焼結性を有するため、銅ナノ粒子を主に用いた接合材にみられる高価な合成コスト、良好でない分散性、焼結後の体積収縮の低下等の課題を低減することができる。
【0049】
(マイクロ銅粒子)
マイクロ銅粒子は、粒径が2.0μm以上50μm以下の銅粒子を含むものが挙げられ、例えば、体積平均粒径が2.0μm以上50μm以下の銅粒子を用いることができる。マイクロ銅粒子の体積平均粒径が上記範囲内であれば、接合用金属ペーストを焼結した際の体積収縮を充分に低減でき、接合用金属ペーストを焼結させて製造される接合体の接合強度を確保することが容易となり、接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示す傾向にある。上記効果が得られやすくなるという観点から、マイクロ銅粒子の体積平均粒径は、下限が2μm以上であってもよく、3μm以上であってもよく、上限が20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。
【0050】
マイクロ銅粒子の形状は、特に限定されるものではない。マイクロ銅粒子の形状としては、例えば、球状、塊状、針状、フレーク状、略球状、及びこれらの凝集体が挙げられる。マイクロ銅粒子の形状は、中でも、フレーク状が好ましい。フレーク状のマイクロ銅粒子を用いることで、接合用金属ペースト内のマイクロ銅粒子が、接合面に対して略平行に配向することにより、接合用金属ペーストを焼結させたときの体積収縮を抑制でき、接合用金属ペーストを焼結させて製造される接合体の接合強度を確保することが容易となる。接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示す傾向にある。上記効果が得られやすくなるという観点から、フレーク状のマイクロ銅粒子としては、中でも、アスペクト比が4以上であってもよく、6以上であってもよい。
【0051】
マイクロ銅粒子は、炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸の有機保護剤で処理されている、すなわち、炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸で被覆されているか、酸化銅層によって被覆されていることが好ましい。分散安定性及び耐酸化性の観点から、マイクロ銅粒子は有機保護剤で処理されていることが好ましい。有機保護剤は上述したものを用いることができる。有機保護剤は、接合時に除去されるものであってもよい。このような有機保護剤としては、例えば、ドデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、リノール酸、リノレイン酸、オレイン酸等の脂肪族カルボン酸;テレフタル酸、ピロメリット酸、o-フェノキシ安息香酸等の芳香族カルボン酸;セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソボルニルシクロヘキサノール、テトラエチレングリコール等の脂肪族アルコール;p-フェニルフェノール等の芳香族アルコール;オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミン;ステアロニトリル、デカニトリル等の脂肪族ニトリル;アルキルアルコキシシラン等のシランカップリング剤;ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、シリコーンオリゴマー等の高分子処理剤等が挙げられる。
【0052】
有機保護剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
有機保護剤の処理量は、粒子表面に一分子層以上の量であってもよい。このような有機保護剤の処理量は、マイクロ銅粒子の比表面積、有機保護剤の分子量、及び有機保護剤の最小被覆面積により変化する。有機保護剤の処理量は、粒子の質量に対して、通常0.001質量%以上である。マイクロ銅粒子の比表面積、有機保護剤の分子量、及び有機保護剤の最小被覆面積については、上述した方法により算出することができる。
【0054】
有機保護剤の処理量を実験的に測定する方法についても上述した方法と同様である。
【0055】
例えば、マイクロ銅粒子3L3N(有機保護剤:ドデカン酸)の窒素雰囲気中におけるTG-DTA測定においては、185℃~345℃で重量減少が示されることにより、有機保護剤が185℃~345℃で脱離していることが分かり、この銅粒子の有機保護剤(ドデカン酸)の脱離開始温度は185℃であり、有機保護剤の処理量(付着量)は約3.2質量%であることが求められる。
【0056】
マイクロ銅粒子を被覆する炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸は、その脱離開始温度が、180℃以上380℃以下の範囲にあることが望ましい。
【0057】
本実施形態に係るマイクロ銅粒子は、市販されているものを用いることができる。市販されているマイクロ粒子としては、例えば、MA-C025KFD(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径7.5μm)、3L3N(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径8.0μm)、1110F(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径3.8μm)、HWQ3.0μm(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径3.0μm)が挙げられる。
【0058】
ところで、銅粒子としてサブマイクロ銅粒子のみから接合用金属ペーストを調製する場合、分散媒の乾燥に伴う体積収縮及び焼結収縮が大きいため、接合用金属ペーストの焼結時に被着面より剥離しやすくなり、半導体素子等の接合においては充分なダイシェア強度及び接続信頼性が得られにくい。一方、銅粒子としてマイクロ銅粒子のみから接合用金属ペーストを調製する場合、焼結温度が高温化し、400℃以上の温度と10MPa以上の加圧力の加圧焼結工程を必要とする傾向にある。本実施形態においては、(B)成分と、銅粒子としてサブマイクロ銅粒子及びマイクロ銅粒子とを併用することで、接合用金属ペーストを焼結させたときの体積収縮が抑制されるとともに、部材の被着面が金を有する場合であっても接合体は充分な接合強度を有することが容易となる。接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示すという効果が得られやすくなる。
【0059】
本実施形態の接合用金属ペーストにおけるサブマイクロ銅粒子及びマイクロ銅粒子の合計含有量は、金属ペーストに含まれる金属粒子及び半金属粒子の質量の合計を基準として、20質量%以上80質量%以下であってもよく、40質量%以上75質量%以下であってもよく、50質量%以上70質量%以下であってもよい。
【0060】
サブマイクロ銅粒子の含有量は、サブマイクロ銅粒子の質量及びマイクロ銅粒子の質量の合計を基準として、50質量%以上99.5質量%以下であってもよい。サブマイクロ銅粒子の上記含有量が50質量%以上であれば、マイクロ銅粒子の間を充分に充填することができ、接合用金属ペーストを焼結させて製造される接合体の接合強度を確保することが容易となり、接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示す傾向にある。サブマイクロ銅粒子の含有量が99.5質量%以下であれば、接合用金属ペーストを焼結した時の体積収縮を充分に抑制できるため、接合用金属ペーストを焼結させて製造される接合体の接合強度を確保することが容易となり、接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示す傾向にある。上記効果が得られやすくなるという観点から、サブマイクロ銅粒子の含有量は、サブマイクロ銅粒子の質量及びマイクロ銅粒子の質量の合計を基準として、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、75質量%以上であってもよく、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、60質量%以上99.5質量%以下であってもよく、60質量%以上95質量%以下であってもよく、60質量%以上90質量%以下であってもよく、70質量%以上85質量%以下であってもよく、75質量%以上80質量%以下であってもよい。
【0061】
本実施形態の接合用金属ペーストは、サブマイクロ銅粒子及びマイクロ銅粒子以外の銅粒子として、銅ナノ粒子を含んでいてもよい。銅ナノ粒子は、体積平均粒径が0.001μm以上0.09μm以下であってもよく、0.01μm以上0.09μm以下であってもよく、0.03μm以上0.09μm以下であってもよい。接合用金属ペーストが銅ナノ粒子を含んでいる場合、その含有量は、接合用金属ペーストの増粘及び焼結時の体積収縮増加を避ける観点から、金属粒子の全質量を基準として、30質量%未満が好ましく、20質量%以下がより好ましい。銅ナノ粒子は、含まれなくてもよい。銅ナノ粒子の形状は、特に限定されるものではない。接合用金属ペーストが銅ナノ粒子を含む場合、焼結温度の低下効果が得られる。また、粒子間の空隙を埋めるように銅ナノ粒子を混合することで、焼結後の銅焼結体の緻密度を上げることができ、ダイシェア強度の向上や接続信頼性の向上効果が得られる。
【0062】
<(B)ニッケル粒子及びニッケル化合物のうちの少なくとも一種>
(ニッケル粒子)
ニッケル粒子としては、例えば、体積平均粒径が0.01μm以上10μm以下のニッケル粒子を用いることができる。ニッケル粒子の体積平均粒径が上記範囲内であれば、接合用金属ペーストを焼結した際の体積収縮を充分に低減でき、接合用金属ペーストを焼結させて製造される銅とニッケルの合金の接合体の接合強度を確保することが容易となり、接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示す傾向にある。
【0063】
接合用金属ペーストは、接合用金属ペーストのタック性が得られやすくなる点で、上記(B)成分として、体積平均粒径が0.01μm以上1μm以下のニッケル粒子を含むことができる。ニッケル粒子の体積平均粒径は、0.05μm以上0.8μm以下であってもよく、0.1μm以上0.5μm以下であってもよい。
【0064】
本実施形態においては、ニッケル粒子(METAL FOIL & POWDERS MFG CO.製、50%体積平均粒径1.5μm)、ニッケル粒子(METAL FOIL & POWDERS MFG CO.製、50%体積平均粒径3.0μm)、ニッケル粒子(Strem Chemicals, Inc.製、50%体積平均粒径5.5μm)、ニッケル粉(東邦チタニウム製、50%体積平均粒径0.4μm)、ニッケル粉(東邦チタニウム(株)製、50%体積平均粒径0.3μm)、ニッケル粉(東邦チタニウム(株)製、50%体積平均粒径0.2μm)、ニッケル粉(東邦チタニウム(株)製、50%体積平均粒径0.18μm)、ニッケルナノ粒子(イーエムジャパン(株)製、50%体積平均粒径0.1μm)等の市販品を用いることができる。
【0065】
ニッケル粒子の形状は、特に限定されるものではない。ニッケル粒子の形状としては、例えば、球状、塊状、針状、フレーク状、略球状、及びこれらの凝集体が挙げられる。ニッケル粒子の形状は、中でも、球状又はフレーク状が好ましい。
【0066】
ニッケル粒子は、炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸の有機保護剤で処理されている、すなわち、炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸で被覆されているか、酸化銅層によって被覆されていることが好ましい。分散安定性及び耐酸化性の観点から、ニッケル粒子は有機保護剤で処理されていることが好ましい。有機保護剤は上述したものを用いることができる。有機保護剤は、接合時に除去されるものであってもよい。このような有機保護剤としては、例えば、ドデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、リノール酸、リノレイン酸、オレイン酸等の脂肪族カルボン酸;テレフタル酸、ピロメリット酸、o-フェノキシ安息香酸等の芳香族カルボン酸;セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソボルニルシクロヘキサノール、テトラエチレングリコール等の脂肪族アルコール;p-フェニルフェノール等の芳香族アルコール;オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミン;ステアロニトリル、デカニトリル等の脂肪族ニトリル;アルキルアルコキシシラン等のシランカップリング剤;ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、シリコーンオリゴマー等の高分子処理剤等が挙げられる。
【0067】
有機保護剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
有機保護剤の処理量は、粒子表面に一分子層以上の量であってもよい。このような有機保護剤の処理量は、ニッケル粒子の比表面積、有機保護剤の分子量、及び有機保護剤の最小被覆面積により変化する。有機保護剤の処理量は、粒子の質量に対して、通常0.001質量%以上である。ニッケル粒子の比表面積、有機保護剤の分子量、及び有機保護剤の最小被覆面積については、上述した方法により算出することができる。
【0069】
有機保護剤の処理量を実験的に測定する方法についても上述した方法と同様である。
【0070】
ニッケル粒子における有機保護剤の脱離開始温度は、350℃以下であってもよく、320℃以下であってもよく、300℃以下であってもよい。これらの場合、ニッケル粒子及び銅粒子(特にはサブマイクロ銅粒子)の焼結反応をより低温で開始することができ、金や銀界面でのカーケンダルボイドの発生を抑制しやすくなる。これにより、接合強度を高めることが容易となる。
【0071】
(ニッケル化合物)
ニッケル化合物としては、例えば、体積平均粒径が0.01μm以上10μm以下のニッケル金属を含む酸化物、水酸化物、塩、錯体等を用いることができる。ニッケル化合物の体積平均粒径が上記範囲内であれば、接合用金属ペーストを焼結した際の体積収縮を充分に低減でき、接合用金属ペーストを焼結させて製造される銅とニッケルの合金の接合体の接合強度を確保することが容易となり、接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示す傾向にある。ニッケル化合物の体積平均粒径は、0.05μm以上5μm以下であってもよく、0.1μm以上1μm以下であってもよい。
【0072】
本実施形態においては、酸化ニッケル粒子(富士フイルム和光純薬(株)製)、水酸化ニッケル(II)(富士フイルム和光純薬(株)製)、ギ酸ニッケル(II)二水和物(富士フイルム和光純薬(株)製)、酢酸ニッケル(II)四水和物(富士フイルム和光純薬(株)製)等の市販品を用いることができる。
【0073】
ニッケル化合物の形状は、特に限定されるものではない。ニッケル化合物の形状としては、例えば、球状、塊状、針状、フレーク状、略球状、及びこれらの凝集体が挙げられる。ニッケル粒子の形状は、中でも、球状又はフレーク状が好ましい。
【0074】
ニッケル化合物の還元温度は、350℃以下であってもよく、320℃以下であってもよく、300℃以下であってもよい。これらの場合、ニッケル化合物が還元されて発生したニッケル粒子と銅粒子(特にはサブマイクロ銅粒子)の焼結反応をより低温で開始することができ、金や銀界面でのカーケンダルボイドの発生を抑制しやすくなる。これにより、接合強度を高めることが容易となる。
【0075】
本実施形態の接合用金属ペーストにおける(B)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の質量の合計を基準として、15質量%以上50質量%以下であってもよく、20質量%以上45質量%以下であってもよく、30質量%以上40質量%以下であってもよい。(B)成分の含有量が上記の範囲であれば、被着面に金や銀を有している部材を接合する場合であっても充分な接合強度を得ることが容易となる。
【0076】
また、同様の観点から、(B)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の質量の合計を基準として、15.7質量%以上71.4質量%以下であってもよく、20質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0077】
本実施形態の接合用金属ペーストにおける(A)成分及び(B)成分の含有量の合計は、金属ペースト全量を基準として、70質量%以上95質量%以下であってもよく、75質量%以上90質量%以下であってもよい。
【0078】
(A)成分と(B)成分との割合は、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が18.75質量部以上250質量部以下であってもよく、30質量部以上200質量部以下であってもよく、50質量部以上100質量部以下であってもよい。
【0079】
本実施形態の接合用金属ペーストが、(A)成分として、サブマイクロ銅粒子及びマイクロ銅粒子を含み、(B)成分として、粒子径が0.01μm以上0.9μm以下のサブマイクロサイズの粒子(ニッケル粒子又はニッケル化合物)(以下、「粒子(B-SM)」という場合がある。)を含む場合、上述したサブマイクロ銅粒子及びマイクロ銅粒子の含有量の関係において、サブマイクロ銅粒子の一部を置換するように粒子(B-SM)の含有量を設定することができる。
【0080】
サブマイクロ銅粒子と粒子(B-SM)の配合質量比は、サブマイクロ銅粒子/粒子(B-SM)=2~60の範囲であってもよい。この範囲においては、サブマイクロ銅粒子と粒子(B-SM)によってマイクロ銅粒子の間を充分に充填することができ、接合用金属ペーストを焼結させて製造される接合体の接合強度を確保することが容易となり、接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示す傾向にある。上記効果が得られやすくなるという観点から、サブマイクロ銅粒子と粒子(B-SM)の配合質量比は、サブマイクロ銅粒子/粒子(B-SM)=5~19の範囲であってもよい。
【0081】
本実施形態の接合用金属ペーストが、(A)成分として、サブマイクロ銅粒子及びマイクロ銅粒子を含み、(B)成分として、粒子径が1μm以上10μm以下のマイクロサイズの粒子(ニッケル粒子又はニッケル化合物)(以下、「粒子(B-M)」という場合がある。)を含む場合、上述したサブマイクロ銅粒子及びマイクロ銅粒子の含有量の関係において、マイクロ銅粒子の一部を置換するように粒子(B-M)の含有量を設定することができる。
【0082】
マイクロ銅粒子と粒子(B-M)の配合質量比は、マイクロ銅粒子/粒子(B-M)=0.2~23の範囲であってもよい。この範囲においては、マイクロ銅粒子と粒子(B-M)の間に、サブマイクロ銅粒子(又はサブマイクロ銅粒子及び粒子(B-SM)が充分に充填することができ、接合用金属ペーストを焼結させて製造される接合体の接合強度を確保することが容易となり、接合用金属ペーストを半導体素子の接合に用いる場合は半導体装置が良好なダイシェア強度及び接続信頼性を示す傾向にある。上記効果が得られやすくなるという観点から、マイクロ銅粒子と粒子(B-M)の配合質量比は、マイクロ銅粒子/粒子(B-M)=1~11の範囲であってもよい。
【0083】
本実施形態の接合用金属ペーストにおいて、サブマイクロ銅粒子及び粒子(B-SM)の合計含有量は、金属ペーストに含まれる、サブマイクロ銅粒子の質量、粒子(B-SM)の質量、マイクロ銅粒子及び粒子(B-M)の質量の合計を基準として、50質量%以上99.5質量%以下であってもよい。また、サブマイクロ銅粒子及び粒子(B-SM)の合計含有量は、サブマイクロ銅粒子の質量、粒子(B-SM)の質量、マイクロ銅粒子及び粒子(B-M)の質量の合計を基準として、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、75質量%以上であってもよく、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、60質量%以上99.5質量%以下であってもよく、60質量%以上95質量%以下であってもよく、60質量%以上90質量%以下であってもよく、70質量%以上85質量%以下であってもよく、75質量%以上80質量%以下であってもよい。
【0084】
マイクロ銅粒子及び粒子(B-M)の合計含有量は、金属ペーストに含まれる、サブマイクロ銅粒子の質量、粒子(B-SM)の質量、マイクロ銅粒子及び粒子(B-M)の質量の合計を基準として、0.5質量%以上50質量%以下であってもよい。また、サブマイクロ銅粒子及び粒子(B-M)の合計含有量は、金属ペーストに含まれる、サブマイクロ銅粒子の質量、粒子(B-SM)の質量、マイクロ銅粒子及び粒子(B-M)の質量の合計を基準として、25質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、0.5質量%以上40質量%以下であってもよく、5質量%以上40質量%以下であってもよく、10質量%以上40質量%以下であってもよく、15質量%以上30質量%以下であってもよく、20質量%以上25質量%以下であってもよい。
【0085】
(その他の金属粒子、半金属粒子)
本実施形態の接合用金属ペーストは、金属粒子として、上述した銅粒子及びニッケル粒子以外の金属粒子(第二の金属粒子ともいう)又は半金属粒子を含んでいてもよい。第二の金属粒子又は半金属粒子としては、Mg、Al、Si、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ag、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Cd、In、Sn、Sb、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Biから選ばれる少なくとも1種類の元素を含む金属粒子又は半金属粒子であってもよい。第二の金属粒子又は半金属粒子の組成は、金属単体でもよいし、2種類以上の金属を含む合金(固溶体、金属間化合物、不均一な混合物)、又は、金属化合物(金属酸化物及び金属窒化物など)であってもよい。
【0086】
第二の金属粒子を添加することで、焼結銅の中に第二の金属粒子に由来する金属元素が固溶或いは分散した状態となり、降伏応力、疲労強度等の機械的な特性が改善することで接合強度及び接続信頼性を更に高めることができる。また、半金属粒子を添加することによっても同様の効果を得ることができる。
【0087】
第二の金属粒子及び半金属粒子の粒子形状は、特に制限されないが、例えば、球状、塊状、針状、フレーク状、略球状及びこれらの凝集体が挙げられる。分散性及び充填性の観点から、第二の金属粒子及び半金属粒子の形状は、球状、略球状、フレーク状であってもよく、燃焼性、分散性、他の銅粒子との混合性等の観点から、球状又は略球状であってもよい。
【0088】
第二の金属系粒子及び半金属粒子の体積平均粒径は、0.01μm以上50μm以下であってもよく、0.02μm以上20μm以下であってもよく、0.03μm以上5μm以下であってもよい。第二の金属粒子及び半金属粒子の体積平均粒径が上記範囲内であれば、銅粒子の焼結を阻害しにくくなる。
【0089】
第二の金属粒子の有機保護剤の処理の有無は特に限定されるものではないが、分散安定性及び耐酸化性の観点から、第二の金属粒子は有機保護剤で処理されていてもよい。有機保護剤は、接合時に除去されるものであってもよい。第二の金属粒子の具体的な有機保護剤としては、サブマイクロ銅粒子又はマイクロ銅粒子に使用される上記有機保護剤を使用できる。
【0090】
第二の金属粒子としては、市販されているものを用いることができる。市販されている第二の金属粒子としては、例えば、銀粒子AgC239(50%体積平均粒径10μm、福田金属箔株式会社製)、亜鉛粒子(50%体積平均粒径5μm、Alfa Aeser社製)、鉄粉末(50%体積平均粒径45μm、和光純薬工業(株)製)、コバルト粉末Cobalt Powder S-160(50%体積平均粒径3.0μm、フリーポートコバルト社製)などが挙げられる。
【0091】
第二の金属粒子及び半金属粒子の含有量は、金属ペーストに含まれる金属粒子及び半金属粒子の質量の合計を基準として、0.001質量%以上10質量%以下であってもよく、0.01質量%以上5質量%以下であってもよく、0.1質量%以上2質量%以下であってもよい。第二の金属粒子及び半金属粒子の含有量が、上記範囲内であれば、接合用金属ペーストの焼結性に影響を与えにくい。
【0092】
<(C)分散媒>
分散媒としては、末端にヒドロキシル基を有し、分子鎖中にエーテル結合を有しないアルコール系化合物(以下、「アルコール系分散媒」ともいう)、及び、末端にヒドロキシル基を有し、分子鎖中にエーテル結合を有するポリエーテルアルコール系化合物(以下、「ポリエーテルアルコール系分散媒」ともいう)などを用いることができる。
【0093】
本実施形態の接合用金属ペーストは、分散媒として、上記のアルコール系分散媒と、上記のポリエーテルアルコール系分散媒とを含んでいてもよい。
【0094】
(アルコール系分散媒)
アルコール系分散媒としては、例えば、ジヒドロターピネオール、ターピネオール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、α-テルピネオール、イソボニルシクロヘキサノール(MTPH)等の一価及び多価アルコール類などが挙げられる。
【0095】
アルコール系分散媒の沸点は、100℃以上250℃未満であってもよく、120℃以上230℃以下であってもよく、150℃以上210℃以下であってもよい。なお、本明細書における沸点とは、大気圧下(1気圧)における沸点を意味する。
【0096】
アルコール系分散媒の脱離温度は、銅粒子の有機保護剤よりも低温か、同等程度の温度で脱離することが望ましい。なお、有機保護剤が複数種ある場合、最も低い温度で脱離する有機保護剤の脱離温度以下の脱離温度を有するアルコール系分散媒を用いることが好ましい。具体的な、アルコール系分散媒の脱離開始温度としては、20℃以上150℃以下であることが好ましく、30℃以上100℃以下であることがより好ましく、40℃以上80℃以下であることが更に好ましい。なお、本明細書における脱離温度とは、大気圧下(1気圧)における脱離が開始する温度を意味する。
【0097】
分散媒の脱離温度を実験的に測定する方法としては、TG-DTA(示差熱‐熱重量同時測定、Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis)測定を用いることができる。分散媒を、無酸素雰囲気中でTG-DTA測定することで、分散媒の脱離による重量減少が観察される。その重量減少が始まる温度が分散媒の脱離の開始温度である。重量減少が停止したときの温度が、分散媒の脱離の完了温度である。
【0098】
例えば、ジヒドロターピネオールの窒素雰囲気中におけるTG-DTA測定においては、70℃~165℃で重量減少が示されることにより、ジヒドロターピネオールが70℃~165℃で脱離していることが分かり、ジヒドロターピネオールの脱離開始温度は70℃であることが求められる。
【0099】
アルコール系分散媒の含有量は、接合用金属ペーストの全質量を基準として、0.1質量%以上30質量%以下であってもよく、1質量%以上20質量%以下であってもよく、5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0100】
(ポリエーテルアルコール系分散媒)
ポリエーテルアルコール系分散媒としては、例えば、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリンなどが挙げられる。
【0101】
ポリエーテルアルコール系分散媒の沸点は、250℃以上400℃以下であってもよく、250℃以上380℃以下であってもよく、250℃以上350℃以下であってもよい。この場合、接合用金属ペーストのタック性が得られやすくなるとともに、銅粒子、更には銅よりも還元しにくいニッケルを還元させやすくなり、接合強度を一層向上させることができる。
【0102】
ポリエーテルアルコール系分散媒の脱離温度は、銅粒子及びニッケル粒子(又はニッケル化合物)の有機保護剤よりも同等以上の温度(有機保護剤が複数種ある場合、最も低い温度で脱離する有機保護剤の脱離温度以上の温度)で脱離し、かつ、400℃以下であってもよい。具体的な、ポリエーテルアルコール系低沸点の脱離開始温度としては、90℃以上400℃以下であってもよく、150℃以上380℃以下であってもよく、200℃以上350℃以下であってもよい。
【0103】
例えば、テトラエチレングリコールの窒素雰囲気中におけるTG-DTA測定においては、155℃~265℃で重量減少が示されていることにより、テトラエチレングリコールが155℃~265℃で脱離していることが分かり、テトラエチレングリコールの脱離開始温度は155℃であることが求められる。また、ポリエチレングリコール300(PEG300)の窒素雰囲気中におけるTG-DTA測定においては、160℃~360℃で重量減少が示されていることにより、PEG300が160℃~360℃で脱離していることが分かり、PEG300の脱離開始温度は160℃であることが求められる。
【0104】
また、接合用金属ペーストは、銅粒子及びニッケル粒子(又はニッケル化合物)の有機保護剤の脱離温度との差が0℃以上100℃以下である脱離温度を有するポリエーテルアルコール系分散媒を含むことができる。更に、ポリエーテルアルコール系分散媒の脱離温度と、銅粒子及びニッケル粒子(またはニッケル化合物)の有機保護剤の脱離温度の差は、0℃以上100℃以下であってもよい。ポリエーテルアルコール系分散媒が複数種あり、有機保護剤が複数種ある場合、最も高い温度で脱離するポリエーテルアルコール系分散媒の脱離温度と、最も低い温度で脱離する有機保護剤の脱離温度との差が0℃以上100℃以下であってもよい。
【0105】
更に、接合用金属ペーストは、分散媒として、テトラエチレングリコールとPEG300とを含むことができる。これらのポリエーテルアルコール系分散媒を併用することで、分散媒の脱離温度を連続的に変化させることができ、これにより、分散媒が金属ペーストの系外へ徐々に脱離し、金属ペースト内にボイドが形成されにくくなる。
【0106】
ポリエーテルアルコール系分散媒の含有量は、接合用金属ペーストの全質量を基準として、0.1質量%以上30質量%以下であってもよく、1質量%以上20質量%以下であってもよく、5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0107】
本実施形態の接合用金属ペーストがアルコール系分散媒とポリエーテルアルコール系分散媒とを含む場合、アルコール系分散媒とポリエーテルアルコール系分散媒との含有割合は、アルコール系分散媒の含有量が、アルコール系分散媒及びポリエーテルアルコール系分散媒の含有量の合計を基準として、10質量%以上90質量%以下であってもよく、30質量%以上70質量%以下であってもよく、40質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0108】
更に、上記の接合用金属ペーストにおけるアルコール系分散媒及びポリエーテルアルコール系分散媒の含有量の合計は、接合用金属ペーストの全質量を基準として、1質量%以上30質量%以下であってもよく、5質量%以上20質量%以下であってもよく、7質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0109】
本実施形態の接合用金属ペーストは、窒素雰囲気中におけるTG-DTA測定において500℃での重量減少率が95%以下である分散媒を含まないものであってもよい。
【0110】
例えば、フロログルシノールの窒素雰囲気中におけるTG-DTA測定においては、200℃から重量減少が示され、フフロログルシノールの脱離開始温度は200℃であることが確認されるが、500℃になっても完全に脱離していない(重量減少率68%)。また、Dグルコースの窒素雰囲気中におけるTG-DTA測定においては、210℃から重量減少が示され、Dグルコースの脱離開始温度は210℃であることが確認されるが、500℃になっても完全に脱離していない(重量減少率85%)。本実施形態の接合用金属ペーストは、このような分散媒を含まないものであってもよい。
【0111】
本実施形態の接合用金属ペーストは、上述したアルコール系分散媒及びポリエーテルアルコール系分散媒以外の分散媒を含んでもよい。分散媒の例としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(DPMA)、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、N、N-ジメチルホルムアミド等の酸アミド、シクロヘキサノン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、炭素数1~18のアルキル基を有するメルカプタン類、炭素数5~7のシクロアルキル基を有するメルカプタン類が挙げられる。炭素数1~18のアルキル基を有するメルカプタン類としては、例えば、エチルメルカプタン、n-プロピルメルカプタン、i-プロピルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、i-ブチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン及びドデシルメルカプタンが挙げられる。炭素数5~7のシクロアルキル基を有するメルカプタン類としては、例えば、シクロペンチルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン及びシクロヘプチルメルカプタンが挙げられる。
【0112】
(添加剤)
接合用金属ペーストには、必要に応じて分散剤、表面保護剤、増粘剤、チキソ性付与剤等の添加剤を更に含んでもよい。接合用金属ペーストが添加剤を含む場合、200℃以下の温度で不揮発性又は非分解性である添加剤の含有率は20質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよい。添加剤の含有率が上記範囲であれば、接合用金属ペーストの焼結性の低下を抑制しやすい。
【0113】
本実施形態の接合用金属ペーストは、接合用金属ペーストに含まれる炭素数1~20の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸の含有量の合計が、接合用金属ペースト全量を基準として、0.1質量%以上10質量%以下であってもよく、0.5質量%以上5質量%以下であってもよく、1質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0114】
(接合用金属ペーストの調製)
接合用金属ペーストは、上述の(A)成分(例えば、サブマイクロ銅粒子、マイクロ銅粒子)、(B)成分(例えば、ニッケル粒子、ニッケル化合物又は両方)、必要に応じてその他の金属粒子及び任意の添加剤を、(C)成分である分散媒に混合して調製することができる。各成分の混合後に、撹拌処理を行ってもよい。接合用金属ペーストは、分級操作により分散液の最大粒径を調整してもよい。このとき、分散液の最大粒径は20μm以下とすることができ、10μm以下とすることもできる。
【0115】
接合用金属ペーストは、サブマイクロ銅粒子、有機保護剤、分散媒をあらかじめ混合して、分散処理を行ってサブマイクロ銅粒子の分散液を調製し、更にマイクロ銅粒子、その他の金属粒子及び任意の添加剤を混合して調製してもよい。このような手順とすることで、サブマイクロ銅粒子の分散性が向上してマイクロ銅粒子との混合性が良くなり、接合用金属ペーストの性能がより向上する。サブマイクロ銅粒子の分散液を分級操作によって凝集物を除去してもよい。サブマイクロ銅粒子及び有機保護剤は、有機保護剤で処理されたサブマイクロ銅粒子であってもよい。
【0116】
撹拌処理は、撹拌機を用いて行うことができる。撹拌機としては、例えば、自転公転型攪拌装置、ライカイ機、二軸混練機、三本ロールミル、プラネタリーミキサー、薄層せん断分散機が挙げられる。
【0117】
分級操作は、例えば、ろ過、自然沈降、遠心分離を用いて行うことができる。ろ過用のフィルタとしては、例えば、金属メッシュ、メタルフィルター、ナイロンメッシュが挙げられる。
【0118】
分散処理としては、例えば、薄層せん断分散機、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、ハイシアミキサー、狭ギャップ三本ロールミル、湿式超微粒化装置、超音速式ジェットミル、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0119】
接合用金属ペーストは、成型する場合には各々の印刷・塗布手法に適した粘度に調整してもよい。接合用金属ペーストの粘度としては、例えば、25℃におけるCasson粘度が0.05Pa・s以上2.0Pa・s以下であってもよく、0.06Pa・s以上1.0Pa・s以下であってもよい。
【0120】
本実施形態の接合用金属ペーストによれば、被着面に金や銀を有している部材を接合する場合であっても充分な接合強度を得ることができる。このような効果が得られる理由について本発明者らは以下のとおり推察する。まず、従来の焼結銅と被着面に金や銀を有している部材との接合性が低い理由については、焼結銅と金界面(または銀界面)との間で不均衡拡散に伴うカーケンダルボイドが形成されることが考えられる。これに対し、上記の接合用金属ペーストによれば、ニッケル粒子(又はニッケル化合物)が金や銀界面に存在することでカーケンダルボイドの形成が抑制されるとともに、銅とニッケルの合金化によって銅-ニッケルの焼結体の機械的な強度が向上し、充分な接合強度が得られたと考えられる。
【0121】
また、本実施形態の接合用金属ペーストによれば、部材を接合する焼結体を形成するガス雰囲気として、例えば、水素及びギ酸等の還元ガスを含まない無酸素雰囲気(例えば、窒素及びArガス等の雰囲気)を用いる場合であっても充分な接合強度を得ることができる。
【0122】
また、本実施形態の接合用金属ペーストが分散媒として上記のアルコール系分散媒とポリエーテルアルコール系分散媒とを含む場合、部材同士を水素を含まない雰囲気中、低加圧で接合する場合であっても、充分な接合強度を得ることが容易となる。また、大面積の部材であってもボイドの発生を抑制しつつ接合することができ、ボイドに起因する接合強度及び接合信頼性の低下を防止することができる。
【0123】
<焼結体及びその製造方法>
本実施形態の焼結体は、本実施形態の接合用金属ペーストの焼結体であり、部材同士を接合することができる。
【0124】
本実施形態の焼結体の製造方法は、本実施形態の接合用金属ペーストを焼結する工程を備える。当該工程としては、例えば、接合用金属ペーストを部材等に塗布した後、焼結することが挙げられる。塗布する手法としては、接合用金属ペーストを堆積させられる手法であればよい。このような手法として、インクジェット印刷、スーパーインクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、ジェットプリンティング法、ディスペンサー、ジェットディスペンサ、ニードルディスペンサ、カンマコータ、スリットコータ、ダイコータ、グラビアコータ、スリットコート、凸版印刷、凹版印刷、グラビア印刷、ステンシル印刷、ソフトリソグラフ、バーコート、アプリケータ、粒子堆積法、スプレーコータ、スピンコータ、ディップコータ、電着塗装等を用いることができる。接合用金属ペーストの厚みは、1μm以上であってもよく、5μm以上であってもよく、10μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。また、接合用金属ペーストの厚みは、3000μm以下であってもよく、1000μm以下であってもよく、500μm以下であってもよく、300μm以下であってもよく、250μm以下であってもよく、200μm以下であってもよく、150μm以下であってもよい。
【0125】
塗布された接合用金属ペーストは、焼結時の流動及びボイドの発生を抑制する観点から、適宜乾燥させてもよい。乾燥時のガス雰囲気は大気中であってもよく、窒素、希ガス等の無酸素雰囲気中であってもよく、水素、ギ酸等の還元雰囲気中であってもよい。乾燥方法は、常温放置による乾燥であってもよく、加熱乾燥であってもよく、減圧乾燥であってもよい。
【0126】
加熱乾燥又は減圧乾燥には、例えば、ホットプレート、温風乾燥機、温風加熱炉、窒素乾燥機、赤外線乾燥機、赤外線加熱炉、遠赤外線加熱炉、マイクロ波加熱装置、レーザー加熱装置、電磁加熱装置、ヒーター加熱装置、蒸気加熱炉、熱板プレス装置等を用いることができる。乾燥の温度及び時間は、使用した分散媒の種類及び量に合わせて適宜調整してもよい。乾燥の温度及び時間としては、大気中あるいは無酸素雰囲気中で、50~150℃で乾燥することができる。
【0127】
接合用金属ペーストを加圧・加熱処理することで焼結を行うことができる。加圧・加熱処理には、例えば、圧着機構を備えた加熱装置、プレス機等を用いることができる。また、圧着機構を有しない加熱装置、例えば、ホットプレート、温風乾燥機、温風加熱炉、窒素乾燥機、赤外線乾燥機、赤外線加熱炉、遠赤外線加熱炉、マイクロ波加熱装置、レーザー加熱装置、電磁加熱装置、ヒーター加熱装置、蒸気加熱炉等、であっても、接合用金属ペーストを部材で挟んだ積層体を、冶具や錘を用いて加圧状態とし、その状態でこれらの装置を使用して加熱することによっても加圧焼結接合が可能である。
【0128】
焼結時のガス雰囲気は、焼結体、接合する部材の酸化抑制の観点から、無酸素雰囲気であってもよい。焼結時のガス雰囲気は、接合用金属ペーストの銅粒子の表面酸化物を除去するという観点から、還元雰囲気であってもよい。無酸素雰囲気としては、例えば、窒素、希ガス等の無酸素ガスの導入、又は真空下が挙げられる。還元雰囲気としては、例えば、純水素ガス中、フォーミングガスに代表される水素及び窒素の混合ガス中、ギ酸ガスを含む窒素中、水素及び希ガスの混合ガス中、ギ酸ガスを含む希ガス中等が挙げられる。
【0129】
本実施形態においては、被着面に金や銀を有する部材を、水素を含まない雰囲気中、低加圧で接合する場合であっても、充分な接合強度で接合することができる。水素を含まない雰囲気としては、窒素、希ガス、これらの混合ガス中、又は真空下が挙げられる。低加圧の条件としては、2MPa以下が挙げられる。
【0130】
加熱処理時の到達最高温度は、接合する部材への熱ダメージの低減及び歩留まりを向上させるという観点から、200℃以上450℃以下であってもよく、250℃以上400℃以下であってもよく、250℃以上350℃以下であってもよく、250℃以上300℃以下であってもよい。
【0131】
到達最高温度保持時間は、分散媒を全て揮発させ、また、歩留まりを向上させるという観点から、1分間以上60分間以下であってもよく、1分間以上40分間未満であってもよく、1分間以上30分間未満であってもよい。
【0132】
<接合体及び半導体装置>
以下、図面を参照しながら好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限られるものではない。
【0133】
図1は、本実施形態の接合用金属ペーストを用いて製造される接合体の一例を示す模式断面図である。本実施形態の接合体100は、第一の基部1a及び第一の金属層1bを有する第一の部材1と、第二の基部3a及び第二の金属層3bを有する第二の部材3と、第一の部材と第二の部材とを接合する焼結体2と、を備える。
【0134】
第一の部材1及び第二の部材3としては、例えば、IGBT、ダイオード、ショットキーバリヤダイオード、MOS-FET、サイリスタ、ロジック、センサー、アナログ集積回路、LED、半導体レーザー、発信器等の半導体素子、リードフレーム、金属板貼付セラミックス基板(例えばDBC)、LEDパッケージ等の半導体素子搭載用基材、銅リボン、金属ブロック、端子等の給電用部材、放熱板、水冷板等が挙げられる。
【0135】
第一の部材1及び第二の部材3は、接合用金属ペーストの焼結体2と接する面に、接合用金属ペーストの焼結体2と金属結合を形成する第一の金属層1b及び第二の金属層3bを設けることができる。第一の金属層1b及び第二の金属層3bを構成する金属としては、例えば、銅、ニッケル、銀、金、パラジウム、白金、鉛、錫、コバルト等が挙げられる。これらの金属は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、第一の金属層1b及び第二の金属層3bは、上記金属を含む合金であってもよい。合金に用いられる金属としては、上記金属の他に、亜鉛、マンガン、アルミニウム、ベリリウム、チタン、クロム、鉄、モリブデン等が挙げられる。第一の金属層1b及び第二の金属層3bを有する部材としては、例えば、各種金属メッキを有する部材、ワイヤ、金属メッキを有するチップ、ヒートスプレッダ、金属板が貼り付けられたセラミックス基板、各種金属メッキを有するリードフレーム又は各種金属からなるリードフレーム、銅板、銅箔が挙げられる。本実施形態においては、第一の金属層1b及び第二の金属層3bのうちの少なくとも一方を構成する金属が金である場合においても、焼結体2との接合性は充分になり得る。
【0136】
接合体のダイシェア強度は、第一の部材及び第二の部材を充分に接合するという観点から、10MPa以上であってもよく、15MPa以上であってもよく、20MPa以上であってもよく、30MPa以上であってもよい。ダイシェア強度は、万能型ボンドテスタ(4000シリーズ、DAGE社製)等を用いて測定することができる。
【0137】
次に、本実施形態の接合用金属ペーストを用いた接合体の製造方法について説明する。
【0138】
本実施形態の接合用金属ペーストを用いた接合体の製造方法は、第一の部材、上記接合用金属ペースト、及び第二の部材がこの順に積層されている積層体を用意する工程と、積層体における接合用金属ペーストを焼結する焼結工程と、を備える。
【0139】
上記積層体は、例えば、上述した第二の部材の必要な部分に本実施形態の接合用金属ペーストを設け、次いで接合用金属ペースト上に上述した第一の部材を配置することにより用意することができる。この場合、第一の部材、該第一の部材の重さが働く方向側に、上記接合用金属ペースト、及び第二の部材がこの順に積層された積層体を用意することができ、この積層体の接合用金属ペーストを、第一の部材の重さのみ、又は第一の部材の重さと必要に応じて所定の圧力(好ましくは1MPa以上2MPa以下)とを受けた状態で焼結することができる。なお、第一の部材の重さが働く方向とは、重力が働く方向ということもできる。
【0140】
本実施形態の接合用金属ペーストを、第二の部材の必要な部分に設ける方法としては、接合用金属ペーストを堆積させられる方法であればよい。このような方法としては、上述した塗布方法を用いることができる。接合用金属ペーストの厚みについても上述の範囲とすることができる。
【0141】
第二の部材上に設けられた接合用金属ペーストは、焼結時の流動及びボイドの発生を抑制する観点から、適宜乾燥させてもよい。乾燥条件は、上述した焼結体の乾燥方法と同等の条件を用いることができる。
【0142】
接合用金属ペースト上に第一の部材を配置する方法としては、例えば、チップマウンター、フリップチップボンダー、カーボン製又はセラミックス製の位置決め冶具が挙げられる。
【0143】
積層体を加熱処理することで、接合用金属ペーストの焼結を行う。焼結条件は、上述した焼結体の焼結方法と同等の条件を用いることができる。
【0144】
本実施形態の接合用金属ペーストを用いることにより、積層体を加圧加熱焼結して充分な接合強度を有する接合体を得ることができる。例えば、積層体に対して1MPa以上、好ましくは2MPa以下の圧力を加えた状態で積層体を加熱することにより、充分な接合強度を有する接合体を得ることができる。焼結時に受ける圧力が上記範囲内であれば、錘や加圧機構を備えた冶具などで達成可能であり、特別な加圧装置が不要なため歩留まりを損なうこと無く、ボイドの低減、ダイシェア強度及び接続信頼性をより一層向上させることができる。
【0145】
上記接合体において、第一の部材及び第二の部材の少なくとも一方は、半導体素子であってもよい。半導体素子としては、例えば、ダイオード、整流器、サイリスタ、MOSゲートドライバ、パワースイッチ、パワーMOSFET、IGBT、ショットキーダイオード、ファーストリカバリダイオード等からなるパワーモジュール、発信機、増幅器、LEDモジュール等が挙げられる。このような場合、上記接合体は半導体装置となる。得られる半導体装置は充分なダイシェア強度及び接続信頼性を有することができる。また、第一の部材及び第二の部材の少なくとも一方は、被着面に金を有していてもよい。
【0146】
図2は、本実施形態の接合用金属ペーストを用いて製造される半導体装置の一例を示す模式断面図である。
図2に示す半導体装置200は、金属層5b及び基部5aを有するリードフレーム5上に、本実施形態に係る接合用金属ペーストの焼結体2を介して接続された、金属層4b及び基部4aを有する半導体素子4と、これらをモールドするモールドレジン6とからなる。半導体素子4は、ワイヤ7を介して金属層8b及び基部8aを有するリードフレーム8に接続されている。
【0147】
本実施形態の接合用金属ペーストを用いて製造される半導体装置としては、例えば、ダイオード、整流器、サイリスタ、MOSゲートドライバ、パワースイッチ、パワーMOSFET、IGBT、ショットキーダイオード、ファーストリカバリダイオード等からなるパワーモジュール、発信機、増幅器、高輝度LEDモジュール、センサー等が挙げられる。
【0148】
上記半導体装置は、上述した接合体の製造方法と同様にして製造することができる。すなわち、半導体装置の製造方法は、第一の部材及び第二の部材の少なくとも一方に半導体素子を用い、第一の部材、上記接合用金属ペースト、及び第二の部材がこの順に積層された積層体を用意し、積層体に対して1MPa以上、好ましくは2MPa以下の圧力を加えた状態で積層体を加熱することにより、接合用金属ペーストを焼結する工程を備えてもよい。このような工程としては、例えば、リードフレーム8上に接合用金属ペーストを設け、半導体素子4を配置して加圧加熱する工程が挙げられる。得られる半導体装置は、比較的低加圧での接合を行った場合であっても、充分なダイシェア強度及び接続信頼性を有することができる。本実施形態の半導体装置は、充分な接合力を有し、熱伝導率及び融点が高い銅の焼結体を備えることにより、充分なダイシェア強度を有し、接続信頼性に優れるとともに、パワーサイクル耐性にも優れたものになり得る。
【実施例0149】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0150】
[接合用金属ペーストの調製]
表1又は2の配合に従って接合用金属ペーストを調製した。
【0151】
(実施例1)
分散媒としてジヒドロターピネオール(日本テルペン化学株式会社製)8質量%、テトラエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)4質量%、ポリエチレングリコール300(PEG300)(富士フイルム和光純薬株式会社製)4質量%を混合した。そこに、サブマイクロ銅粒子としてCH-0200(三井金属鉱業株式会社製、50%体積平均粒径0.36μm)50質量%、マイクロ銅粒子として3L3N(福田金属箔粉工業株式会社製、50%体積平均粒径8.0μm)14質量%、ニッケル粒子としてニッケルナノ粒子(50%体積平均粒径0.1μm、イーエムジャパン製)20質量%を秤量し加え、自動乳鉢で5分間混合した。混合物をポリ瓶に移した後、2000rpm、2分間、減圧の条件でシンキー社製攪拌機(あわとり練太郎 ARE-310)にかけて接合用金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表1に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表1に示す。
【0152】
(実施例2及び3)
ニッケルナノ粒子の配合量を表に示す割合に変えたこと以外は、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表1に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表1に示す。
【0153】
(実施例4)
ニッケルナノ粒子に代えて、ニッケル粒子(50%体積平均粒径3.0μm、METAL FOIL & POWDERS MFG CO.製)を表1に示す配合量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表1に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表1に示す。
【0154】
(実施例5)
ニッケル化合物として、水酸化ニッケル(II)(50%体積平均粒径6μm、富士フイルム和光純薬製)を表1に示す配合量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表1に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表1に示す。
【0155】
(実施例6)
ニッケル化合物として、ギ酸ニッケル(II)二水和物(50%体積平均粒径7μm、富士フイルム和光純薬製)を表1に示す配合量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表1に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表1に示す。
【0156】
(実施例7)
ニッケルナノ粒子(50%体積平均粒径0.1μm、イーエムジャパン製)と、ニッケル粒子(50%体積平均粒径3.0μm、METAL FOIL & POWDERS MFG CO.製)とを併用し、表2に示す配合量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表2に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表2に示す。
【0157】
(実施例8)
実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表2に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表2に示す。
【0158】
(実施例9)
マイクロ銅粒子とニッケル粒子を表2に示す配合量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表2に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表2に示す。
【0159】
(実施例10)
ニッケル化合物として、水酸化ニッケル(II)(50%体積平均粒径6μm、富士フイルム和光純薬製)を表2に示す配合量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表2に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表2に示す。
【0160】
(比較例1)
ニッケル粒子を配合せずに、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表3に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表3に示す。
【0161】
(比較例2及び3)
ニッケル粒子としてニッケルナノ粒子(50%体積平均粒径0.1μm、イーエムジャパン製)を表3に示す割合で配合したこと以外は、実施例1と同様にして金属ペーストを得た。この金属ペーストを用いて、表3に示す接合条件(雰囲気、温度、加圧力及び時間)で接合体を作製し、ダイシェア強度の測定を行った。評価結果を表3に示す。
【0162】
各実施例及び比較例における各特性の測定は以下の方法で実施した。
【0163】
(1)タック性
金属ペーストを、AuまたはAgのめっき付き銅板(19mm×25mm×3mm)上に、厚さ100μmのステンレス板に3mm×3mm正方形の開口が9個設けられたメタルマスクを載せ、メタルスキージを用いてステンシル印刷により塗布した。これをホットプレート(アズワン株式会社製、EC HOTPLATE EC-1200N)にて大気中、60℃で30分加熱した。シリコンチップ(面積3mm×3mm、厚み400μm、金属ペーストとの被着面としてAuめっき層またはAgめっき層を有する)を、乾燥した金属ペースト上に卓上型ダイボンダー(TRESKY製、T-300-FC3)を用いて荷重9N(1MPa)で載せ、積層体を得た。この積層体を180°傾けシリコンチップが自重で落下するかどうかを判定した。落下したものはタック性なし(タック強度<0.01MPa)と評価した。チップが自重で落下しなかったサンプルは、ダイシェア試験によりタック強度の測定を行った。50Nのロードセルを装着した万能型ボンドテスタ(4000シリーズ、DAGE社製)を用い、測定スピード500μm/s、測定高さ100μmでシリコンチップを水平方向に押し、接合体のタック強度を測定した。5個の積層体を測定した値の平均値をタック強度とした。
【0164】
(2)Auに対するダイシェア強度
金属ペーストを、Auめっき銅板(19mm×25mm×3mm)上に、厚さ100μmのステンレス板に3mm×3mm正方形の開口が9個設けられたメタルマスクを載せ、メタルスキージを用いてステンシル印刷により塗布した。これをホットプレート(アズワン株式会社製、EC HOTPLATE EC-1200N)にて大気中、60℃で30分加熱した。シリコンチップ(面積3mm×3mm、厚み400μm、金属ペーストとの被着面としてAuめっき層を有する)を、乾燥した金属ペースト上に卓上型ダイボンダー(TRESKY製、T-300-FC3)を用いて荷重9N(1MPa)で載せ、積層体を得た。積層体を真空半田付装置(神港精機株式会社製)にセットし、1気圧となるよう水素ガス(実施例8は窒素)を流しながら、表1~3に示す所定の加圧力、温度、時間で積層体を加圧加熱接合し、銅板とシリコンチップを銅焼結体で接合した接合体を得た。この接合体を窒素ガスにて冷却し、50℃以下になったら空気中に取り出した。
【0165】
得られた接合体の接着強度は、ダイシェア強度により評価した。1kNのロードセルを装着した万能型ボンドテスタ(4000シリーズ、DAGE社製)を用い、測定スピード500μm/s、測定高さ100μmでシリコンチップを水平方向に押し、接合体のダイシェア強度を測定した。5個の接合体を測定した値の平均値をダイシェア強度とした。
【0166】
(3)Agに対するダイシェア強度
金属ペーストを、Agめっき銅板(19mm×25mm×3mm)上に、厚さ100μmのステンレス板に3mm×3mm正方形の開口が9個設けられたメタルマスクを載せ、メタルスキージを用いてステンシル印刷により塗布した。これをホットプレート(アズワン株式会社製、EC HOTPLATE EC-1200N)にて大気中、60℃で30分加熱した。シリコンチップ(面積3mm×3mm、厚み400μm、金属ペーストとの被着面としてAgめっき層を有する)を、塗布した金属ペースト上に卓上型ダイボンダー(TRESKY製、T-300-FC3)を用いて荷重9N(1MPa)で載せ、積層体を得た。積層体を真空半田付装置(神港精機株式会社製)にセットし、1気圧となるよう水素ガス(実施例8は窒素)を流しながら、表1~3に示す所定の加圧力、温度、時間で積層体を加圧加熱接合し、銅板とシリコンチップを銅焼結体で接合した接合体を得た。この接合体を窒素ガスにて冷却し、50℃以下になったら空気中に取り出した。
【0167】
得られた接合体の接着強度は、ダイシェア強度により評価した。1kNのロードセルを装着した万能型ボンドテスタ(4000シリーズ、DAGE社製)を用い、測定スピード500μm/s、測定高さ100μmでシリコンチップを水平方向に押し、接合体のダイシェア強度を測定した。5個の接合体を測定した値の平均値をダイシェア強度とした。
【0168】
【0169】
【0170】
1…第一の部材、1a…第一の基部、1b…第一の金属層、2…焼結体、3…第二の部材、3a…第二の基部、3b…第二の金属層、4…半導体素子、4a…半導体素子の基部、4b…半導体素子の金属層、5…リードフレーム、5a…基部、5b…金属層、6…モールドレジン、7…ワイヤ、8…リードフレーム、8a…基部、8b…金属層、100…接合体、200…半導体装置