(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089460
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】厚膜導体及びその形成用組成物並びに該形成用組成物を含んだ厚膜導体ペースト
(51)【国際特許分類】
C03C 8/18 20060101AFI20220609BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20220609BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C03C8/18
H01B1/22 A
C03C8/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201873
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】粟ケ窪 慎吾
【テーマコード(参考)】
4G062
5G301
【Fターム(参考)】
4G062AA08
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5G301DE01
(57)【要約】
【課題】 ガラスグレーズ基板の表面に形成した導体層の表面にガラス成分が浮き出すことのない厚膜導体形成用組成物を提供する。
【解決手段】 ビヒクルとの混錬により厚膜導体ペーストの原料として使用される厚膜導体形成用組成物であって、好適にはAu、Ag、Pd、及びPtからなる群から選ばれる単体の金属粉末又は合金粉末からなる導電粉末と、バナジウム及び亜鉛を含有する好適にはガラス転移点が350℃以上550℃以下の鉛フリーガラス粉末とを含み、ガラスを含有する膜が表面に形成された基板上に焼成により形成される厚膜導体層の原料として使用される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電粉末と、バナジウム及び亜鉛を含有する鉛フリーガラス粉末とを含み、ガラスを含有する膜が表面に形成された基板上に焼成により形成される厚膜導体層の原料として使用されることを特徴とする厚膜導体形成用組成物。
【請求項2】
前記導電粉末が、Au、Ag、Pd、及びPtからなる群から選ばれる単体の金属粉末又は合金粉末であることを特徴とする、請求項1に記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項3】
前記鉛フリーガラス粉末は、ガラス転移点が350℃以上550℃以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項4】
バナジウムを含有しないガラス粉末を更に含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の厚膜導体形成用組成物とビヒクルとを含むことを特徴とする厚膜導体ペースト。
【請求項6】
基板の上に形成されたガラスを含有する膜の表面に形成され、導電物及びガラスを含み、該ガラスがバナジウム及び亜鉛を含むことを特徴とする厚膜導体。
【請求項7】
前記導電物が、Au、Ag、Pd、及びPtからなる群から選ばれる単体又は合金であることを特徴とする、請求項6に記載の厚膜導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスグレーズ基板等のガラスを含有する膜が表面に形成された基板上に形成される厚膜導体及びその形成用組成物、並びに該形成用組成物を含んだ厚膜導体ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
熱反応材料からなる熱感紙や熱転写リボンなどの紙媒体に熱によって印字を行う印字装置の1種であるサーマルプリンタは、低価格、低騒音、メンテナンスフリー等の特徴があり、家庭用ファクシミリ、券売機などの幅広い用途に用いられている。このサーマルプリンタのうち、上記の紙媒体に印字するデバイスであるサーマルプリントヘッドは、ガラスグレーズ基板と、その表面に形成された所定のパターンを有する電極と、該電極による通電により発熱する抵抗体と、これらを駆動するドライバICとから主に構成される。
【0003】
例えば特許文献1には、アルミナ等のセラミック基板の表面にガラスペーストなどを印刷して焼成することで形成されたガラスグレーズ層を有するガラスグレーズ基板と、このガラスグレーズ基板の表面に導電ペースト及び抵抗ペーストをそれぞれ原料に用いて厚膜技術により形成された電極及び発熱抵抗体と、これら電極及び発熱抵抗体を覆うようにガラスペーストを塗布して焼成することで形成された耐摩耗性及び平滑性を備えた保護層とから構成されるサーマルプリントヘッドが開示されている。
【0004】
上記の導体ペーストは、一般に銀粉末などの金属粉末と、結合剤となるガラス粉末とを糊状のビヒクルに分散させることで作製される。一方、上記の抵抗ペーストは、ルテニウム酸化物などの導電性粉末と、結合剤となるガラス粉末とを糊状のビヒクルに分散させることで作製される。なお、上記の導電ペーストや抵抗ペーストに用いるビヒクルは、有機溶剤に樹脂等を溶解することで一般に作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、サーマルプリントヘッドの基板は、ガラス質のガラスグレーズ層で表面が覆われたセラミック基板を用いるため、セラミック基板の表面に直に電極等の導体層を形成する場合の材料として使用する厚膜導体ペーストをそのまま使用すると問題が生ずることがあった。すなわち、セラミック基板の表面に直に導体層を形成する場合の材料として使用する厚膜導体組成物を含んだ厚膜導体ペーストを、ガラスグレーズ層の表面に印刷して焼成すると、これにより形成される導体層の表面にガラス成分の浮き出し(染み出しと称することもある)が生じ、該導体層の表面を電気的接続用の端子として使用する場合や、該導体層の表面に電気的接続された状態で抵抗体等の素子を形成する場合にそれらの電気的接続が不良又は不安定になることがあった。
【0007】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、ガラスグレーズ基板にように、ガラスを含有する膜が表面に形成されている基板上に焼成により厚膜導体層を形成しても、その表面にガラス成分が浮き出すことのない厚膜導体形成用組成物及びこれを含んだ厚膜導体ペーストを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る厚膜導体形成用組成物は、導電粉末と、バナジウム及び亜鉛を含有する鉛フリーガラス粉末とを含み、ガラスを含有する膜が表面に形成された基板上に焼成により形成される厚膜導体層の原料として使用されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガラスを含有する膜が表面に形成された基板上に焼成により厚膜導体層を形成しても、その表面にガラス成分が浮き出すのを抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の比較例の厚膜導体のSEM写真(×5000)である。
【
図2】本発明の実施例の厚膜導体のSEM写真(×5000)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.厚膜導体形成用組成物
本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物は、基板表面にガラスグレーズ層が形成されたにガラスグレーズ基板のように、ガラスを含有する膜が表面に形成された基板上に焼成により形成される厚膜導体層の原料として使用されるものであり、導電粉末と、バナジウム及び亜鉛を含有する鉛フリーガラス粉末とを含んでいる。以下、これら導電粉末及び鉛フリーガラス粉末の各々について説明した後、厚膜導体形成用組成物について詳細に説明する。
【0012】
1.1 導電粉末
上記した本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物の一方の主構成要素である導電粉末は、一般的な厚膜導体の材料に用いるものでよく、例えば、Au、Ag、Pd、及びPtなどの貴金属が好適に用いられ、これらの貴金属からなる群から選んだ1種のみから構成される単体の金属粉末若しくはその合金粉末、又はそれら単体の金属粉末や合金粉末の2種以上を組み合わせた混合粉末の形態で用いられる。これらの中では、融点が低い点やコストの観点からAg単体の粉末若しくはそれとPd単体との混合粉末、Ag及びPdの合金粉末、又はそれらの混合粉末を使用することが好ましい。
【0013】
上記の導電粉末の数平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、厚膜導体ペーストの形態に調製したときの塗布性の観点から0.1μm以上5.0μm以下であることがより好ましい。この数平均粒径が10μmを超えると、焼成の際に昇温時間がかかりすぎる場合がある。また、Ag粉末及びPd粉末の混合粉末ように2種類以上の混合粉末を用いる場合には、厚膜導体ペーストの形態に調製したときの塗布性の観点やこれら異なる種類の粉末の均質な分散の観点から、これら異なる種類の粉末は数平均粒径が互いに異なるものを用いるのが好ましく、例えば上記の0.1μm以上5.0μm以下の金属粉末に対して数平均粒径が1/10~1/2程度の小粒径の金属粉末を配合するのが好ましい。具体的には、Ag粉末及びPd粉末の混合粉末の場合は、Ag粉末の数平均粒径を0.1μm以上3.0μm以下とし、Pd粉末の数平均粒径を0.01μm以上0.3μm以下とすることが好ましい。
【0014】
上記のように2種類以上の混合粉末を用いる場合は、混合粉末全体を100質量部としたとき、最も大きな数平均粒径を有する種類の金属粉末が10~80質量部含まれるように配合するのが好ましい。ここで数平均粒径とは、測定対象となる粉末を走査型電子顕微鏡で撮像することで得たSEM画像中の粒子群の長さを算術平均したものである。なお、導電粉末の形状については特に限定はなく、粒状、塊状、フレーク状等の種々の形状のものを用いることができる。なお、用途に応じて好適な形状が適宜選択されることがある。この導電粉末を用いて後述するように厚膜導電ペーストを調製し、これを塗布及び焼成することにより、所定のパターン形状を有する厚膜導体層を形成することができる。
【0015】
1.2 V及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末
上記した本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物のもう一方の主構成要素である鉛フリーガラス粉末は、V及びZnを含有している。この鉛フリーガラス粉末は、更にBaやCaなどのアルカリ土類元素を含んでもよいし、B、Bi、Alを含んでもよい。このような鉛フリーガラスとしては、V2O5-ZnO-アルカリ土類酸化物系ガラス粉末や、V2O5-ZnO-B2O3系ガラス粉末や、V2O5-ZnO-Bi2O3系ガラス粉末等のガラス粉末を挙げることができる。また、上記の添加元素のほかSi、Fe、Cuなどを鉛フリーガラス粉末に加えてもよい。
【0016】
上記のV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末は、Vがその酸化物V2O5換算で30~60質量%含まれ、Zがその酸化物ZnO換算で20~50質量%含まれるように配合するのが好ましい。Vが添加されることで鉛フリーガラスは熱による溶融性が変わるため、Vが酸化物V2O3換算で30質量%未満では、ガラス転移点が後述する望ましい温度範囲の上限より高くなり、逆に60質量%を超えるとガラス転移点がこの望ましい温度範囲の下限より低くなる。
【0017】
一方、Znが酸化物ZnO換算で50質量%を超えるとガラス化しにくくなり、逆に20質量%未満ではZnを添加した効果が生じにくくなる。このV及びZnを含有する鉛フリーガラスは、結晶化ガラスでもよいし、結晶化しないガラスでもよい。なお、本発明においては、鉛フリーガラス粉末を、鉛を含まないガラス粉末か、又は不可避的不純物として鉛を100質量ppm以下含むガラス粉末と定義する。
【0018】
厚膜導電ペーストを焼成処理することで厚膜導体を形成する際の焼成温度を考慮して、このV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末はガラス転移点が350℃以上550℃以下であることが望ましい。このガラス転移点が350℃未満では厚膜導体の表面に後述するガラス浮き出しが生じる可能性がある。逆に、このガラス転移点が550℃を超えると後述するステインが発生する可能性がある。ここで、ガラス転移点は、測定対象のガラス粉末を再溶融などにより成形したロッド状の試料に対して、熱機械分析法(TMA)にて大気中で測定して得た熱膨張曲線の屈曲点を示す箇所の温度として求めることができる。
【0019】
V及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末の形状については特に限定はなく、球状や針状等の種々の形状のものを用いることができる。また、V及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末は、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定した体積累計粒度分布のD50径(メジアン径)が0.5μm以上30μm以下であることが好ましい。この範囲内の粒度分布を有する鉛フリーガラス粉末であれば、本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物を製造すべく前述した導電粉末と混合する際、この鉛フリーガラス粉末が効率よく磨砕されるので、より細かくなって導電粉末と鉛フリーガラス粉末とを均質に分散させることができる。
【0020】
1.3 厚膜導体形成用組成物
厚膜導体形成用組成物に上記の導体粉末とガラス粉末とを含めることで、これを導体ペーストの形態に調製してアルミナ等のセラミック基板の表面に塗布及び焼成することで厚膜導体を形成したとき、当該ガラス粉末はセラミック基板と厚膜導体との互いの接着がより一層強固になるように作用する。
【0021】
ところで、上記のように厚膜導体組成物にガラスを含めることで、これを材料に用いてセラミック基板の表面に形成した厚膜導体の接着強度が高まるのであれば、セラミック基板の表面にガラスグレーズ層のようなガラスを含有する膜が形成されている場合は、その表面に形成する厚膜導体の材料となる厚膜導体形成用組成物には、セラミック基板との接着を強固にするためにガラス粉末を含有させる必要はないように思われる。
【0022】
しかしながら、厚膜導体形成用組成物にガラス粉末を含有させずにAg粉末などの導電粉末のみを含有させた場合は、この厚膜導体形成用組成物を材料に用いてガラスグレーズ層の表面に形成した厚膜導体は、その表面にガラス成分が浮き出して導電性を低下させる問題が発生することがある。厚膜導体形成用組成物にはガラス粉末を含有させなかったので、この浮き出したガラス成分はガラスグレーズ層に由来するものである。
【0023】
この場合、ガラスグレーズ層の表面に形成した厚膜導体の表面にガラス成分の浮き出しが発生するのを予測するのは難しい。なぜなら、厚膜導体の形成の際、セラミック基板の表面にガラスグレーズ層の材料であるガラス粉末を含んだガラスペーストが塗布されたままで未焼成のとき、このガラスペースト層の表面に厚膜導体形成用組成物を含んだ厚膜導電ペーストを塗布し、これら未焼成のガラスペースト層と厚膜導電ペースト層とを同時に焼成するのであれば、この未焼成のガラスペースト層のガラス粉末の溶融が進行するので、ガラス成分の濃度がゼロの厚膜導体形成用組成物に向ってガラス成分の濃度過剰なガラスペースト層から該ガラス成分が拡散し、これにより焼成後の厚膜導体の表面にガラス成分が浮き出しやすくなると考えることができる。他方、既に膜状に焼成されたガラスを含む膜であるガラスグレーズ層の表面に厚膜導電ペーストを塗布及び焼成することで厚膜導体を形成する場合は、その表面までガラス成分が拡散して浮き出ることを予測するのは難しい。
【0024】
これに対して、本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物は、前述したようにV及びZnを含有する鉛フリーガラスを含有しているので、ガラスグレーズ基板のようにセラミック基板の表面にガラス粉末を含んだガラスペーストを塗布及び焼結することで形成したガラスを含有する膜の表面に、該厚膜導体形成用組成物を含んだ厚膜導電ペーストを塗布及び焼成して厚膜導体層を形成した場合であっても、この厚膜導体層の表面にガラス成分が浮きだすのを抑制することができる。
【0025】
本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物は、導電粉末100質量部に対してV及びZnを含有する鉛フリーガラスを0.8質量部以上4質量部以下含有するように配合することが望ましい。このV及びZnを含有する鉛フリーガラスの配合割合が0.8質量部未満では、焼成後の厚膜導体の表面のガラス成分の浮き出しを抑制できないことがある。逆に、このV及びZnを含有する鉛フリーガラスの配合割合が4質量部を超えてもガラス成分の浮き出し抑制の効果がほとんど変わらないので不経済になる。
【0026】
なお、V及びZnを含有する鉛フリーガラスの代わりにV2O5粉末を含有させた厚膜導体形成用組成物を材料に用いた場合であっても、焼成により形成される厚膜導体の表面にガラス成分が浮き出るのを抑制できるが、この場合は、厚膜導体の周囲のガラスグレーズ層の表面に、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察されるステインと称するシミ状の模様が発生することがある。
【0027】
このステインは厚膜導体に悪影響を及ぼすおそれがあり、該厚膜導体に電気的接続用の端子の役割を担わせる際や、該厚膜導体に電気的接続された状態で抵抗体等の素子を形成する際に、その電気的接続が不良又は不安定になることがある。これに対して、本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物では、焼成後に得られる厚膜導体の表面にガラス成分の浮き出しやステインが発生するのをいずれも効果的に抑制することができるので、上記の電気的接続の問題が生じにくくなる。
【0028】
本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物は、上記のV及びZnを含有する鉛フリーガラスに加えて、Vを含有しないガラス粉末を含有させてもよい。これにより、厚膜導体の表面にNi電気めっきを施したりする際に、該厚膜導体に対して耐薬品性の向上などの特性を付与することができる。なお、Vを含有しないガラス粉末を含有させる場合であっても、上記のV及びZnを含有する鉛フリーガラスは導電粉末100質量部に対して0.8質量部以上含有させるのが好ましく、これにより、前述した厚膜導体の表面のガラス成分の浮き出しを抑制することができる。Vを含有しないガラス粉末の添加量は特に限定はなく、厚膜導体の使用目的に応じて適宜選択できるが、一般的には導電粉末100質量部に対し0.8質量部から3質量部含有させることが望ましい。
【0029】
Vを含有しないガラス粉末には、SiO2-B2O3-アルカリ土類酸化物系ガラス粉末や、Bi2O3-SiO2-B2O3系ガラス粉末や、ZnO-SiO2-B2O3系ガラス粉末等の鉛フリーガラス粉末を用いてもよいし、SiO2-B2O3-PbO系ガラス粉末を用いてもよい。これらの中では、近年の環境保護を考慮して鉛フリーガラス粉末を用いることが望ましい。また、厚膜導体を焼成により形成する際の焼成温度を考慮して、上記のVを含有しない鉛フリーガラス粉末は、ガラス転移点が400℃以上600℃以下であるか、若しくは軟化点が500℃以上700℃以下であるか、又はこれらガラス転移点の温度条件と軟化点の温度条件の両方を満たすのが好ましい。
【0030】
更に、上記のVを含有しない鉛フリーガラスのガラス転移点が、セラミック基板の表面に形成されるガラスを含有する膜を構成するガラスのガラス転移点以下であるか、あるいは上記のVを含有しない鉛フリーガラスの軟化点が、セラミック基板の表面に形成されるガラスを含有する膜を構成するガラスの軟化点以下であることが望ましい。なお、前述したV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末のガラス転移点と同様に、Vを含有しない鉛フリーガラス粉末のガラス転移点は、測定対象のガラス粉末を再溶融により形成したロッド状の試料に対して、熱機械分析法(TMA)にて大気中で測定して得た熱膨張曲線の屈曲点を示す箇所の温度として求めることができる。
【0031】
上記のVを含有しないガラス粉末のガラス転移点や軟化点の条件は、そのガラス組成を適宜調整することで満たすことができる。また、上記のVを含有しないガラス粉末は、SiO2の含有量が15質量%以上60質量%以下であることが好ましい。このSiO2の含有量が15質量%未満では、厚膜導体中のガラスの耐候性、耐水性及び耐薬品性が低下しやすくなり、その結果、厚膜導体にNiめっき等を行う際にめっき不良等の問題が発生するおそれがある。逆に、SiO2の含有量が60質量%を超えると、ガラスが軟化する温度が高くなりすぎて厚膜導体とセラミックス基板との密着性が低下するおそれがある。
【0032】
前述したV及びZnを含有する鉛フリーガラスと同様に、Vを含有しない鉛フリーガラスは、結晶化ガラスでもよいし結晶化しないガラスでもよい。また、Vを含有しないガラス粉末の形状についても特に限定はなく、球状や針状等の種々の形状のものを用いることができる。但し、前述したV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末とは異なり、Vを含有しない鉛フリーガラス粉末はレーザー回折を利用した粒度分布計により測定した体積累計粒度分布のD50径(メジアン径)が、1μm以上10μm以下であることが好ましく、厚膜導体ペーストの形態に調製したときの塗布性や、導電粉末との均質な分散の観点から0.5μm以上3μm以下であることがより好ましい。このD50径が10μmを超えると、Vを含有しない鉛フリーガラス粉末と導電粉末とを互いに均質に分散させるのが困難になりやすく、その結果、厚膜導電ペーストに調製したときにVを含有しないガラス粉末が該ペースト内で偏在して厚膜導体と基板との接着強度が低下するおそれがある。
【0033】
本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物は、上記したV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末のほか、本発明の効果を阻害しない範囲で添加物として酸化物を添加してもよい。このような酸化物としては、例えば、厚膜導体の接着強度、耐酸性、はんだ濡れ性などを向上させる働きを有する、Bi2O3、SiO2、CuO、ZnO、TiO2、ZrO2、Mn3O4などを挙げることができ、これら酸化物の粉末を必要に応じて1種又は2種以上添加してもよい。但し、抵抗値の温度の上昇を抑える観点から、これら酸化物の合計含有量は、導電粉末100質量部に対して10質量部程度を上限にすることが好ましい。
【0034】
2.厚膜導体ペースト及びその調製方法
上記した本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物を作製する場合は、先ず必須の構成要素として、導電粉末と、V及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末とを用意し、更に必要に応じてVを含有しないガラス粉末や酸化物を用意する。そして、これらを所定の配合割合となるように秤取って一般的な粉体混合機で混合する。これにより、粉末状の厚膜導体形成用組成物を作製することができる。この粉末状の厚膜導体形成用組成物に対して、溶剤及び樹脂を所定の配合割合となるように添加して混練することで厚膜導体ペーストを調製することができる。上記の溶剤には、一般的な導電ペーストで用いられるターピネオールやブチルカルビトール等を好適に用いることができる。また、上記の樹脂についても、一般的な導電ペーストで用いられるエチルセルロースやメタクリレートなどを好適に用いることができる。
【0035】
上記の樹脂及び溶剤は、予め混合することで有機ビヒクルを作製し、この有機ビヒクルを粉末状の厚膜導体形成用組成物と混練することで厚膜導体ペーストを調製してもよい。この有機ビヒクルには、コストや取扱いの容易性の観点から、例えば、エチルセルロースをターピネオールに溶解したものが好適に用いられる。この有機ビヒクルを構成する樹脂と溶剤との配合割合は、最終的に調製される厚膜導体ペーストの印刷性や塗布方法を考慮して適宜定められるが、一般的には樹脂100質量部に対して溶剤100~2000質量部程度の配合割合が好ましい。
【0036】
上記の有機ビヒクルを用いて厚膜導体ペーストを調製する場合は、導電粉末100質量部に対して、有機ビヒクルの配合割合を15質量部以上250質量部以下にすることが好ましく、印刷性や塗布の容易性、厚膜導体ペースト内での粒子の沈降の抑制や厚膜導体の緻密性を考慮すると、20質量部以上100質量部以下にすることがより好ましい。この有機ビヒクルの配合割合が15質量部未満では、厚膜導体ペーストの粘度が高くなりすぎて塗布が実質的に不可能となる場合があり、逆にこの配合割合が250質量部を超えると厚膜導体ペースト内で粒子の沈降が生じたり焼成後の厚膜導体膜の緻密性が大きく低下したりする問題が生じるおそれがある。
【0037】
上記した厚膜導体ペーストの調製の際に行われる粉末状の厚膜導体形成用組成物と有機ビヒクルとの混練方法、又は該組成物と溶剤と樹脂との混練方法には特に限定はないが、湿式混練ミル、ロールミル、テーパロールミルなどの混練機を用いることが好ましく、これにより効率よく混練することができる。
【0038】
3.厚膜導体及びその形成方法
本発明の実施形態の厚膜導体組成物は、上記した厚膜導体ペーストの形態でガラスグレーズ基板のようなガラスを含有する膜が表面に形成された基板上に所定の印刷パターンとなるように塗布された後、好適にはピーク温度550~900℃の範囲内で厚膜導体の用途に応じた焼成温度で焼成処理が施されて厚膜導体が形成される。
【0039】
上記のガラスグレーズ基板は、ガラス転移点が400℃以上のガラス粉末を含有するガラスペーストをアルミナ等のセラミック基板の表面に塗布して焼成することにより作製することができ、これにより形成されるガラスグレーズ層は、上記の焼成の際にガラス粉末を構成する粒子群が互いに融着したり熔融したりすることで形成されるガラスを含む膜である。このガラスグレーズ層は、用途に応じたガラス転移点を有するように、ガラスを構成するガラス粉末としてSiO2のほか、種々の酸化物を一般に含んでいる。なお、厚膜導体とは、スパッタリング等の薄膜技術によって形成される薄膜導体に対して用いられる用語であり、その膜厚は一般的には5~15μm程度である。
【0040】
以上、本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物及びこれを材料に用いて調製された厚膜導体ペーストについて、ガラスグレーズ基板の表面に該厚膜導体ペーストを塗布及び焼成することで厚膜導体を形成する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、ガラスグレーズ基板以外にほうろう基板の表面に該厚膜導体ペーストを塗布及び焼成することで厚膜導体を形成する場合にも好適に適用することができる。更には、厚膜抵抗体の表面に該厚膜導体ペーストを塗布及び焼成することで厚膜導体を形成する場合にも好適に適用することができる。
【0041】
例えば、特許第2777206号に開示されているように、セラミック基板の表面に、先ずRuO2粉末、ガラス粉末、及び有機ビヒクルを含有する抵抗ペーストを塗布、乾燥、及び焼成することにより抵抗被膜を形成し、次にAg等の導電粉末、ガラス粉末、及び有機ビヒクルを含有する導電ペーストを塗布、乾燥、及び焼成することにより電極を形成することで厚膜抵抗器を作製する場合は、この導電ペーストの材料に本発明の実施形態の厚膜導体形成用組成物を好適に用いることができる。次に、本発明の厚膜導体形成用組成物について、実施例を挙げてより具体的に説明を行うが、本発明はこの実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例0042】
組成がそれぞれ異なる複数種類の厚膜導体形成用組成物を作製し、それらの各々を用いて調製した厚膜導体ペーストをガラスグレーズ層が表面に形成されたセラミック基板上に塗布して焼成することで厚膜導体を形成し、その表面の状態を評価した。以下、厚膜導体形成用組成物粉末の作製、厚膜導電ペーストの作製、厚膜導体の作製、及び厚膜導体の評価の順に説明する。
【0043】
[厚膜導体形成用組成物粉末の作製]
先ず、厚膜導体形成用組成物を構成する導電粉末として、形状の異なる3種類の銀粉末A、B及びCと、銀及びパラジウムの合金粉末とを用意した。銀粉末Aは数平均粒径が0.3μmの球状粉末であり、銀粉末Bは数平均粒径が15.0μmの鱗片状粉末であり、銀粉末Cは数平均粒径が1.0μmの塊状粉末である。他方、銀及びパラジウムの合金粉末は、数平均粒径が0.2μmの球状粉末である。また、上記厚膜導体形成用組成物を構成する鉛フリーガラス粉末として下記表1に示すV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末と、下記表2に示すVを含有しない鉛フリーガラス粉末とを用意した。
【0044】
【0045】
【0046】
なお、上記表1に示すV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末のガラス転移点はTMAで測定した。また、上記表2に示すVを含有しない鉛フリーガラス粉末の軟化点は、ガラス粉末を示差熱分析法(TG-DTA)で分析することで得た示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度で求めた。更に、添加物として粉末状のBi2O3及びV2O5を用意した。これら導電粉末、鉛フリーガラス粉末、及び添加物を下記表3に示す配合割合となるようにそれぞれ秤り取って粉体混合機で混合することで実施例1~9及び比較例1~5の厚膜導体形成用組成を作製した。なお、総ガラス質量部とは導電粉末100質量部に対するV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末とVを含有しない鉛フリーガラス粉末の合計量であり、Vガラス質量部とは導電粉末100質量部に対するV及びZnを含有する鉛フリーガラス粉末の量である。
【0047】
【0048】
[厚膜導電ペーストの作製]
次に、エチルセルロースが7質量%、及び溶剤としてのターピネオール溶液が93質量%の配合割合となるようにそれぞれ秤取って混合した後、加熱によりエチルセルロースを溶解させて有機ビヒクルを作製した。得られた有機ビヒクルを、上記にて作製した実施例1~9及び比較例1~5の厚膜導体形成用組成物粉末の各々に対して上記表3の配合割合となるように秤取って3本ロールミルに装入し、それらを混練することにより厚膜導体ペーストを調製した。
【0049】
[厚膜導体の作製]
このようにして調製した実施例1~9、比較例1~5の厚膜導体形成用組成物をそれぞれ含む14種類の厚膜導体ペーストをガラスグレーズ基板の表面にスクリーン印刷機によりスクリーン印刷し(塗布工程)、ベルト式乾燥炉を用いて150℃で5分間かけて乾燥処理し(乾燥工程)、ベルト炉を用いてピーク温度600℃で5分間かけて焼成処理した(焼成工程)。なお、厚膜導体ペーストのスクリーン印刷では、焼成後の膜厚が10μmとなるよう印刷条件を調整した。これにより14種類の厚膜導体を製造した。
【0050】
上記のガラスグレーズ基板には、96%アルミナ基板(縦25.4mm×横25.4mm×厚み1mm)の全表面に膜厚20μmのガラスグレーズ層が焼成により形成されたものを用いた。このガラスグレーズ層は、TG-DTAで測定した軟化点600℃の鉛フリーガラス粉末(Bの酸化物B2O3を1質量%、SiO2を22質量%、Al2O3を3質量%、ZnOを1質量%、Bi2O3を73質量%をそれぞれ含有する)80質量%と、上記の厚膜導体ペーストで使用したものと同じ有機ビヒクル20質量%とを3本ロールミルで混練して調製したガラスグレーズペーストを上記96%アルミナ基板に塗布した後、ベルト式乾燥炉を用いて150℃で5分間かけて乾燥処理し、得られた乾燥膜をベルト炉を用いてピーク温度600℃保持時間で5分間かけて焼成処理することで形成した。
【0051】
[厚膜導体の評価]
上記にて作製した14種類の厚膜導体の各々に対して、先ず表面の状態を評価するため、SEMで撮像し、ガラス成分の浮き出しの有無を調べた。その結果、比較例5を除く全ての比較例で厚膜導体の表面にガラス成分とみられる物質の浮き出しが確認された。なお、
図1に比較例1の厚膜導体のSEM写真を示す。この
図1では、浮き出したガラス成分からなる膜の下部に導電粉末を構成する粒子群が焼結している状態が確認できる。一方、実施例1~9の全てにおいて厚膜導体の表面には比較例1~4のようなガラス成分とみられる物質の浮き出しは確認されなかった。なお、
図2に実施例1の厚膜導体のSEM写真を示す。
【0052】
また、SEMで撮像し、ガラスグレーズ層の表面のうち厚膜導体の周囲にステインが発生しているか否か確認した。その結果、比較例4と5で厚膜導体の周囲のガラスグレーズ層の表面にステインが確認されたが、それ以外では確認されなかった。