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特開2022-89621配糖体の分解方法及びアグリコンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089621
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】配糖体の分解方法及びアグリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 231/12 20060101AFI20220609BHJP
   C07C 235/08 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C07C231/12
C07C235/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202160
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】曽根 圭太
(72)【発明者】
【氏名】有福 征宏
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 久美子
(72)【発明者】
【氏名】山下 慎司
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 知里
(72)【発明者】
【氏名】木下 幹朗
(72)【発明者】
【氏名】宮下 和夫
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC16
4H006BC37
4H006BN10
4H006BV22
(57)【要約】
【課題】、アミド結合を有する配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを効率的に生成することができる配糖体の分解方法、及び、アミド結合を有するアグリコンの収率を向上できるアグリコンの製造方法を提供すること。
【解決手段】アミド結合を有する配糖体を含む原料及び水を含む反応液を水熱処理することで、配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを生成する分解工程を有し、反応液のpHが6.0未満である、配糖体の分解方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド結合を有する配糖体を含む原料及び水を含む反応液を水熱処理することで、前記配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを生成する分解工程を有し、
前記反応液のpHが6.0未満である、配糖体の分解方法。
【請求項2】
前記配糖体が、スフィンゴ糖脂質を含む、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
前記配糖体が、グルコシルセラミドを含む、請求項1又は2に記載の分解方法。
【請求項4】
前記原料が植物原料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項5】
前記反応液中の前記配糖体の含有量が、反応液全量を基準として、0.05質量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項6】
前記水熱処理は、温度110~300℃の条件で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により配糖体を分解する分解工程と、
前記分解工程で得られた分解生成物からアミド結合を有するアグリコンを抽出する抽出工程と、
を含む、アグリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配糖体の分解方法及びアグリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配糖体は、糖と、非糖部となるアグリコンとがグリコシド結合により結合した有機化合物である。配糖体及びアグリコンは、天然に存在する有機化合物群であり、様々な植物の花、葉、根、茎、果実及び種子等に含まれている。アグリコンは、種類によって特徴及び作用が異なる。アグリコンの中でも、スフィンゴイド塩基に由来する構造と、脂肪酸に由来する構造とがアミド結合を介して結合しているフリーセラミドは、皮膚科学の分野において、皮膚に外用することで皮膚のバリア機能の維持に役立つと考えられている。
【0003】
フリーセラミドを製造する方法として、例えば、特許文献1には、栗の果皮からエタノールによりフリーセラミドを抽出する方法が、特許文献2には、醤油の搾り粕をエタノール抽出し、溶媒分画してフリーセラミドを精製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/021476号
【特許文献2】特開2020-97539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のフリーセラミドの製造方法では、フリーセラミドの収率が低いという問題がある。そのため、フリーセラミドの収率を向上できる製造方法の開発が求められている。
【0006】
植物原料には、フリーセラミドと、グルコースとがグリコシド結合により結合したグルコシルセラミドを配糖体として含むものがあるが、これをフリーセラミドとして回収できれば、フリーセラミドの収率を向上できる。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アミド結合を有する配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを効率的に生成することができる配糖体の分解方法、及び、アミド結合を有するアグリコンの収率を向上できるアグリコンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、アミド結合を有する配糖体を含む原料及び水を含む反応液を水熱処理することで、配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを生成する分解工程を有し、反応液のpHが6.0未満である、配糖体の分解方法を提供する。
【0009】
上記方法によれば、アミド結合を有する配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを効率的に生成することができる。
【0010】
また、本発明者らは、アミド結合を有する配糖体を水熱処理により分解した場合、アミド結合の加水分解反応が進行し、アミド結合を有するアグリコンの収率が低下することを見出した。例えば、アミド結合を有する配糖体として、グルコシルセラミドを用いた場合には、グルコシド結合よりもアミド結合の加水分解反応が進行することで、サイコシンが副生してしまう。この問題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、反応液のpHを6.0未満とすることで、アミド結合の加水分解反応が抑制され、且つ、配糖体が有するグリコシド結合の加水分解反応が促進されることを見出した。その結果、配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを効率的に生成することができる。
【0011】
上記方法において、上記配糖体は、スフィンゴ糖脂質を含んでいてもよい。上記方法によれば、スフィンゴ糖脂質を特に効率的に分解することができる。
【0012】
上記方法において、上記配糖体は、グルコシルセラミドを含んでいてもよい。上記方法によれば、グルコシルセラミドを特に効率的に分解することができる。
【0013】
上記方法において、上記原料は、植物原料であってよい。
【0014】
上記方法において、上記反応液中の上記配糖体の含有量は、反応液全量を基準として、0.05質量%以上であってよい。上記配糖体の質量割合が0.05質量%以上であることにより、配糖体を特に効率的に分解することができる。
【0015】
上記方法において、上記水熱処理は、温度110~300℃の条件で行われてもよい。上記範囲内の温度であると、配糖体の分解をより促進することができる。
【0016】
本発明はまた、上記本発明の方法により配糖体を分解する分解工程と、上記分解工程で得られた分解生成物からアミド結合を有するアグリコンを抽出する抽出工程と、を含む、アグリコンの製造方法を提供する。かかる製造方法によれば、アミド結合を有するアグリコンを高い収率で製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アミド結合を有する配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを効率的に生成することができる配糖体の分解方法、及び、アミド結合を有するアグリコンの収率を向上できるアグリコンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(配糖体の分解方法)
本実施形態に係る配糖体の分解方法は、アミド結合を有する配糖体(以下、単に「配糖体」ともいう。)を含む原料及び水を含む反応液を水熱処理することで、配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコン(以下、単に「アグリコン」ともいう。)を生成する分解工程を有する。反応液のpHは、6.0未満である。アミド結合は、カルボキシル基(-COOH)とアミノ基(-NH)とが脱水縮合して形成される化学結合である。
【0021】
配糖体は、アミド結合を有するアグリコンと糖とがグリコシド結合により結合した親水性の化合物である。本発明に供される配糖体は、例えば、スフィンゴ糖脂質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
スフィンゴ糖脂質は、スフィンゴシンと糖とがグリコシド結合により結合している。スフィンゴ糖脂質としては、例えば、グルコシルセラミドが挙げられる。
【0023】
配糖体の元となる糖としては特に限定されず、アグリコンとグリコシド結合により結合して上述した配糖体を形成することができる公知の糖が挙げられる。
【0024】
配糖体分解処理に処する原料は、配糖体以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、アミド結合を有するアグリコン、水溶性食物繊維、難溶性食物繊維、糖類、タンパク質、有機酸等が挙げられる。原料における配糖体の含有量は、原料の固形分全量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.25~30質量%であることがより好ましく、0.5~15質量%であることが更に好ましい。原料がアグリコンを更に含む場合、配糖体の含有量は、アグリコンの含有量1質量部に対して、0.25質量部以上であることが好ましく、0.5~100質量部であることがより好ましく、5~50質量部であることが更に好ましい。
【0025】
原料としては、例えば、植物及び海草が挙げられる。具体的には、植物並びに海草の花、葉、根、茎、果実及び種子等を用いることができる。植物としては、例えば、ダイズ等のマメ科植物、メロン等のウリ科植物、イネ、トウモロコシ等のイネ科植物、ビート等のヒユ科の植物、クリ等のブナ科の植物、ひまわり等のキク科植物、モモ等のバラ科の植物が挙げられる。本実施形態に係る配糖体の分解方法は、配糖体を分解するため、アグリコンの含有量が少ない原料であっても、原料として用いることができる。アグリコンとしてフリーセラミドを得る場合、原料は、得られるフリーセラミドが溶解性に優れることから、植物原料であることが好ましい。
【0026】
植物原料を用いた場合に、得られるフリーセラミドが溶解性に優れる理由について、本発明者らは、以下のように考えている。すなわち、植物原料には、脂肪酸及びスフィンゴイド塩基に由来する構造の炭素数等が異なる複数種のグルコシルセラミドが含まれている。そのため、植物原料を用いた場合、得られるフリーセラミドには、脂肪酸及びスフィンゴイド塩基に由来する構造の炭素数等が異なる複数種のフリーセラミドが含まれている。そして、構造の異なる複数種のフリーセラミドが含まれることで、フリーセラミドの結晶化が抑制され、フリーセラミドは溶解性に優れる。
【0027】
反応液は、水以外の溶媒を含んでいてもよい。水以外の溶媒としては、例えば、アルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。反応液が水以外の溶媒を含む場合、水及び水以外の溶媒に占める水の割合は、5質量%以上であってよい。
【0028】
上記反応液のpHは、6.0未満であり、アミド結合の加水分解反応を抑制し、グリコシド結合の加水分解反応を進行させることで、配糖体を一層効率的にアグリコンに分解する観点から、5.5以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.5以下であることが更に好ましい。上記反応液のpHは、配糖体を効率的にアグリコンに分解し、且つ、後述する抽出工程を経て得られる分解生成物に含まれるアグリコン及び配糖体の合計収率を向上させることから、2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、3.0以上であることが更に好ましい。
【0029】
反応液のpHの調整は、所定の配糖体を含む原料紛の水溶液に酸、塩基を溶解させることで可能となる。使用する酸、塩基には皮膚外用剤として認められている物質を使用することが好ましい。酸としては、例えば、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等を挙げることができる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム等を挙げることができる。
【0030】
水熱処理は、原料を水と共に耐圧性の密閉容器内に封入し、密閉したまま100℃を超える温度で加熱することで行うことができる。上記原料及び水を含む反応液が密閉容器内で加熱されることで、密閉容器内が加熱及び加圧環境となり、亜臨界状態の水による水熱処理(水熱合成)が行われる。水熱処理は、反応液を撹拌しながら行ってもよい。耐圧性の密閉容器としては、水熱処理に使用可能な公知の容器を特に制限なく用いることができる。密閉容器における反応液の充填率は、高い分解効率を得る観点から、密閉容器の容積を基準として20体積%以上であることが好ましく、40~80体積%であることがより好ましい。
【0031】
反応液中の配糖体の含有量は、特に限定されないが、反応液全量を基準として、例えば、0.05質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。反応液中の配糖体の含有量が上記範囲内であると、配糖体の分解を効率的に行うことができる。
【0032】
水熱処理の反応条件は特に限定されないが、例えば、110~300℃で0.5~20時間とすることができる。反応温度は、120~200℃であることが好ましく、140~195℃であることがより好ましい。反応温度が110℃以上であると、アミド結合の加水分解反応がより良好に進行しやすい傾向があり、300℃以下であると、原料及びアグリコンの炭化が進行しにくく、収率がより向上する傾向がある。反応時間は、0.2~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。反応時間が0.2時間以上であると、反応がより進みやすくなる傾向があり、20時間以下であると、反応の進行とコストとのバランスがとりやすくなる傾向がある。
【0033】
水熱処理時の容器内の圧力は、上記反応温度に対応する飽和蒸気圧又はそれ以上であればよいが、装置の耐圧性の観点から、飽和蒸気圧であることが好ましい。密閉容器内に水蒸気を供給する場合、上述した反応温度の飽和水蒸気を供給することが好ましい。水熱処理時の密閉容器内の圧力は、例えば、0.2~1.6MPaとすることができる。
【0034】
上記条件で水熱処理を行うことで、アミド結合を有する配糖体を分解してアミド結合を有するアグリコンを効率的に生成することができる。
【0035】
(アグリコンの製造方法)
本実施形態に係るアグリコンの製造方法は、配糖体を分解する分解工程と、分解工程で得られた分解生成物からアミド結合を有するアグリコンを抽出する抽出工程と、を含む。分解工程は、上述した本実施形態に係る配糖体の分解方法により配糖体を分解する工程である。
【0036】
抽出工程では、分解工程で得られた分解生成物からアグリコンを抽出する。分解生成物には、アグリコンの他に、糖、分解されずに残った配糖体、水溶性及び難溶性セルロース並びにその分解物等が含まれている。ここで、アグリコンは疎水性であるのに対し、糖、配糖体、水溶性セルロース及びその分解物は親水性である。そのため、水熱処理後の水溶液に不溶な成分にはアグリコンが高濃度で含まれており、水熱処理後に水溶液と不溶分とを分離することで、アグリコンを濃縮することができる。また、さらに水不溶分を、アグリコンを溶解する溶媒、例えばエタノール、酢酸エチル、ヘキサン、トルエン等、及び、それらの混合溶媒に溶解し、不溶物をろ過等により除去することで、アグリコンをさらに抽出・精製することができる。その後、ろ液を乾燥させることにより、高濃度のアグリコンを得ることができる。
【0037】
本実施形態に係るアグリコンの製造方法において、配糖体としてグルコシルセラミドを用いた場合、アグリコンとしてフリーセラミドが得られる。得られたフリーセラミドは、例えば、皮膚外用剤の成分として好適に用いることができる。このような皮膚外用剤の形態は、特に制限されないが、例えば、液状、乳液、軟膏、クリーム、ゲル及びエアゾールであってもよい。このような皮膚外用剤は、例えば、医薬品、医薬部外品及び化粧品であってもよい。
【0038】
得られたフリーセラミドを皮膚外用剤の成分として用いる場合、フリーセラミドを溶媒に溶解させて用いてもよい。このような溶媒としては、皮膚外用剤に一般的に配合されるものであれば、特に制限されないが、例えば、トリス(2-エチルヘキサン酸)グリセロール等のグリセリン、2-エチルヘキサン酸ヘキサデシル及びミリスチン酸イソプロピル等のエステル油、流動パラフィン等の炭化水素、並びにエタノール等のアルコールが挙げられる。
【実施例0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<フリーセラミドの製造>
(実施例1)
フリーセラミド含有量0.5質量%、グルコシルセラミド含有量3質量%であるニップンセラミドCP(商品名、日本製粉株式会社製)3gを超純水147gに溶解/分散させ、クエン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.005gを更に加え、反応液を得た。得られた反応液のpHをpHメータで測定したところ、4.0であった。この反応液を容量200mlのテフロン(登録商標)容器に入れた。次いで、槽内容積2mの熱風循環式オートクレーブ(株式会社芦田製作所製)に容器を収容し、180℃で1時間、反応液を水熱処理した。水熱処理は、ボイラーからオートクレーブの槽(圧力容器)内に180℃の飽和水蒸気を供給し、槽内圧力が180℃の水の飽和水蒸気圧である1MPaになるように水蒸気の供給量及び圧力弁を調整しながら行った。水熱処理後の槽内の圧力は、圧力0.9MPa、槽内の温度は180℃であった。槽内の圧力が0.7MPa、槽内の温度が165℃となるまで、オートクレーブを10分間自然冷却した。自然冷却後、バルブを開き、装置に取り付けられているコンプレッサーを用いて、圧力1MPaの圧縮空気を槽内に送り込んだ。圧縮空気を送り込んだ直後の槽内の圧力は、1MPaを超えていたため、排気弁の開閉を手動で行うことにより、0.75MPaを下回らない圧力を維持しながら、圧縮空気を槽内に導入し、圧縮空気による冷却を開始した。冷却中、適宜、その時点での飽和水蒸気圧を下回らないよう槽内圧力を低下させながら冷却を行った。圧縮空気による冷却開始から2時間後に、溶液の温度が100℃を下回った(水分散液の飽和水蒸気圧が常圧(0.1MPa)を下回った)ため、槽の蓋を開けて容器を取り出し、常温(25℃)まで自然冷却した。冷却後、容器内面に析出又は付着した配糖体分解物を、薬さじを用いて取り出した。
【0041】
次に、容器内の溶液及び固形分を目開き0.2μmの親水化PTFE製メンブレンフィルター(Omnipore 0.2μm JG(メルク-ミリポア社、商品名))を用いて、ダイアフラムポンプを用いて減圧濾過した。得られた固形物を、オーブンで120℃にて5時間乾燥して、粉末状の配糖体分解物を得た。次いで配糖体分解物をエタノールにて5%分散液になるよう調整し、還流下60℃で1時間処理し、目開き0.2μmの親水化PTFE製メンブレンフィルター(Omnipore 0.2μm JG(メルク-ミリポア社、商品名))を用いて、ダイアフラムポンプを用いて減圧濾過した。得られた溶液を60℃加温下でダイアフラムポンプを用いて真空乾燥し、フリーセラミド濃縮物の粉末を0.156g得た。
【0042】
(実施例2)
クエン酸の配合量を0.266gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、フリーセラミド濃縮物の粉末を0.115g得た。反応液のpHは、2.6であった。
【0043】
(比較例1)
反応液を調整する際にクエン酸を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、フリーセラミド濃縮物の粉末を0.115g得た。反応液のpHは、7.0であった。
【0044】
(比較例2)
反応液として、ニップンセラミドCP(商品名、日本製粉株式会社製)3gを超純水147gに溶解/分散させ、水酸化ナトリウム粉末を0.134g更に添加した溶液を反応液として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フリーセラミド濃縮物の粉末を0.04g得た。反応液のpHは、12.0であった。
【0045】
<フリーセラミド、グルコシルセラミド及びサイコシンの含有量の測定>
(実施例1、2及び比較例1、2)
得られたフリーセラミド濃縮物の粉末について、フリーセラミド、グルコシルセラミド及びサイコシンの濃度を以下の方法により測定した。まず、フリーセラミド濃縮物の粉末20mgを希釈倍率が50倍となるようにクロロホルム:メタノール=2:1の混合溶媒により希釈し、溶液を得た。得られた溶液0.1mLを薄層クロマトグラフィー(TLC)によりフリーセラミド、グルコシルセラミド及びサイコシンをそれぞれ分離した。展開溶媒は、フリーセラミド及びグルコシルセラミドを分離する際には、クロロホルム:メタノール=95:12の混合溶媒を、サイコシンを分離する際には、クロロホルム:メタノール:2Nアンモニア水溶液=80:20:2の混合溶媒を用いた。分離されたフリーセラミド、グルコシルセラミド及びサイコシンについて、ガスクロマトグラフィーを用いて定量分析した。標準物質として、市販のフリーセラミド、グルコシルセラミド及びサイコシン標準生成試料に内部標準物質として構成スフィンゴイド塩基を添加し、内部標準法にて定量分析した。結果を表1に示した。表1に示す含有量は、フリーセラミド濃縮物の粉末100gに含まれる、フリーセラミド、グルコシルセラミド及びサイコシンのそれぞれの物質量(mmol)である。また、フリーセラミド及びグルコシルセラミドを合計した収率と、フリーセラミドの収率を表1に示した。フリーセラミド及びグルコシルセラミドを合計した収率は、得られたフリーセラミド濃縮物の粉末中のフリーセラミドの物質量及びグルコシルセラミドの物質量の合計を原料中のフリーセラミドの物質量及びグルコシルセラミドの物質量で除した値である。フリーセラミドの収率は、得られたフリーセラミド濃縮物の粉末中のフリーセラミドの物質量を原料中のフリーセラミドの物質量及びグルコシルセラミドの物質量で除した値である。
【0046】
【表1】
【0047】
<フリーセラミド濃縮物の粉末の溶解性の評価>
(実施例1、比較例1)
得られたフリーセラミド濃縮物の粉末と、トリス(2-エチルヘキサン酸)グリセロールとをガラス瓶中で混合し、混合溶液を得た。混合は、混合溶液におけるフリーセラミド及びグルコシルセラミドの合計濃度が0.1質量%となるように行った。なお、実施例1のフリーセラミド濃縮物の粉末におけるフリーセラミド及びグルコシルセラミドの合計濃度は、57質量%であった。比較例1のフリーセラミド濃縮物の粉末におけるフリーセラミド及びグルコシルセラミドの合計濃度は、45質量%であった。混合溶液に対して超音波処理を1時間行った。混合溶液について、濁りの有無と、塊状の沈殿の有無を目視で確認した。評価は、25℃で行った。評価は、超音波処理直後と、1日経過後の混合溶液について行った。結果を表2に示した。
【0048】
(比較例3~5)
フリーセラミド濃縮物の粉末に代えて、下記の市販品をそれぞれ用いて混合溶液を調整したこと以外は、実施例1と同様にして溶解性の評価をした。
比較例3:TIC-001(商品名、ヒトセラミド、製品中におけるフリーセラミド濃度:90質量%以上、グルコシルセラミドは含有せず、高砂香料工業株式会社製)
比較例4:CERAMIDE III(商品名、ヒトセラミド、製品中におけるフリーセラミド濃度:90質量%以上、グルコシルセラミドは含有せず、エボニック社製)
比較例5:ニップンセラミドCP(商品名、日本製粉株式会社製)
【0049】
【表2】
【0050】
上記実施形態に係る製造方法により製造されたフリーセラミド濃縮物の粉末は、植物原料を用いているため、市販品のフリーセラミド及びグルコシルセラミドと比較して、溶解性に優れることが示された。