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特開2022-89886含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089886
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/336 20060101AFI20220609BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20220609BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C08G65/336
C09K3/18 102
C09K3/18 104
C09D183/12
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063181
(22)【出願日】2022-04-06
(62)【分割の表示】P 2018152397の分割
【原出願日】2018-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2017167973
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】石関 健二
(72)【発明者】
【氏名】山本 弘賢
(57)【要約】
【課題】初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、表面層を有する物品およびその製造方法の提供。
【解決手段】A-O-(Rf1O)-Aで表される含フッ素エーテル化合物。ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基またはAであり、Aは-Rf2-Q-C(X)[-Q-SiR3-nであり、Rf1はフルオロアルキレン基であり、mは2~500の整数であり、Rf2はフルオロアルキレン基であり、Qは単結合またはアルキレン基であり、Xはフッ素原子、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、Qはアルキレン基であり、Rは1価の炭化水素基であり、Lは加水分解性基であり、nは0~2の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式1で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
-O-(Rf1O)-A 式1
ただし、
は、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基または下式g1で表される基であり、
は、下式g1で表される基であり、
f1は、フルオロアルキレン基であり、
mは、2~500の整数であり、
(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
-Rf2-Q-C(X)[-Q-SiR3-n 式g1
ただし、
f2は、フルオロアルキレン基(ただし、Q側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、
は、単結合またはアルキレン基であり、
Xは、フッ素原子、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、
は、アルキレン基であり、
Rは、1価の炭化水素基であり、
Lは、加水分解性基であり、
nは、0~2の整数であり、
2個の[-Q-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項2に記載の含フッ素エーテル組成物と、
液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項4】
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項2に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
【請求項5】
タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項2に記載の含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項7】
ウェットコーティング法によって請求項3に記載のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項8】
下式2で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
1a-O-(Rf1O)-A2a 式2
ただし、
1aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基または下式g2で表される基であり、
2aは、下式g2で表される基であり、
f1は、フルオロアルキレン基であり、
mは、2~500の整数であり、
(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
-Rf2-Q-C(X)[-Q2a-CH=CH 式g2
ただし、
f2は、フルオロアルキレン基(ただし、Q側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、
は、単結合またはアルキレン基であり、
Xは、フッ素原子、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、
2aは、単結合またはアルキレン基であり、
2個の[-Q2a-CH=CH]は、同一であっても異なっていてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示す表面層を基材の表面に形成できるため、表面処理剤に好適に用いられる。含フッ素エーテル化合物を含む表面処理剤は、表面層が指で繰り返し摩擦されても撥水撥油性が低下しにくい性能(耐摩擦性)および拭き取りによって表面層に付着した指紋を容易に除去できる性能(指紋汚れ除去性)が長期間維持されることが求められる用途、たとえば、タッチパネルの指で触れる面を構成する部材、メガネレンズ、ウェアラブル端末のディスプレイの表面処理剤として用いられる。
【0003】
耐摩擦性および指紋汚れ除去性に優れる表面層を基材の表面に形成できる含フッ素エーテル化合物としては、下記のものが提案されている。
下式Iで表される化合物等(特許文献1)。
CFO-(CFO)p1-(CO)q1-CF-C(OH)[-CHCHCH-Si(OCH 式I
ただし、p1:p2=47:53、p1+q1≒43である。
【0004】
下式IIで表される化合物等(特許文献2)。
CFO-(CFO)p1-(CO)q1-CF-C[-O-CHCHCH-Si(OCH][-CHCHCH-Si(OCH 式II
ただし、p1は5~100の整数であり、q1は5~100の整数であり、p1+q1は10~105の整数である。
【0005】
下式IIIで表される化合物等(特許文献3)。
CFO-(CFO)p1-(CO)q1-CF-C[-O-Si(OCH][-CHCHCH-Si(OCH 式III
ただし、p1は5~100の整数であり、q1は5~100の整数であり、p1+q1は10~105の整数である。
【0006】
下式IVで表される化合物等(特許文献4)。
CFO-(CFO)p1-(CO)q1-CF-C[-OC(O)-CH][-CHCHCH-Si(OCH 式IV
ただし、p1は5~100の整数であり、q1は5~100の整数であり、p1+q1は10~105の整数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-199906号公報
【特許文献2】特開2016-204656号公報
【特許文献3】特開2016-210854号公報
【特許文献4】特開2016-222859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の化合物は、反応性が高い水酸基を有するため、副反応によって副生物が生じ、保存安定性に劣る(特許文献3の段落[0008]、特許文献4の段落[0008]参照)。また、残存する水酸基によって、特許文献1に記載の化合物からなる表面層の撥水撥油性、耐薬品性等が低下する。
特許文献2~4に記載の化合物は、特許文献1に記載の化合物の水酸基を他の基で保護した誘導体である。しかし、特許文献2~4に記載の化合物は、特許文献1に記載の化合物の水酸基に由来するエーテル結合、C-O-Si結合またはエステル結合を有する。エーテル結合、C-O-Si結合、エステル結合は、光、薬品等によって切断されやすいため、特許文献2~4に記載の化合物からなる表面層は、耐光性および耐薬品性に劣る。
【0009】
本発明は、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル化合物;含フッ素エーテル化合物を含む含フッ素エーテル組成物およびコーティング液;初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する物品およびその製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、表面処理剤に好適に用いられる含フッ素エーテル化合物の中間体として有用な含フッ素エーテル化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記[1]~[8]の構成を有する含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品、物品の製造方法、含フッ素エーテル化合物の他の態様を提供する。
【0011】
[1]下式1で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
-O-(Rf1O)-A 式1
ただし、Aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基または下式g1で表される基であり、Aは、下式g1で表される基であり、Rf1は、フルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
-Rf2-Q-C(X)[-Q-SiR3-n 式g1
ただし、Rf2は、フルオロアルキレン基(ただし、Q側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、Qは、単結合またはアルキレン基であり、Xは、フッ素原子、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、Qは、アルキレン基であり、Rは、1価の炭化水素基であり、Lは、加水分解性基であり、nは、0~2の整数であり、2個の[-Q-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
[2]前記[1]の含フッ素エーテル化合物の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[3]前記[1]の含フッ素エーテル化合物または[2]の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
[4]前記[1]の含フッ素エーテル化合物または[2]の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
[5]タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、[4]の物品。
[6]前記[1]の含フッ素エーテル化合物または[2]の含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
[7]ウェットコーティング法によって[3]のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
[8]下式2で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
1a-O-(Rf1O)-A2a 式2
ただし、A1aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基または下式g2で表される基であり、A2aは、下式g2で表される基であり、Rf1は、フルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
-Rf2-Q-C(X)[-Q2a-CH=CH 式g2
ただし、Rf2は、フルオロアルキレン基(ただし、Q側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、Qは、単結合またはアルキレン基であり、Xは、フッ素原子、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、Q2aは、単結合またはアルキレン基であり、2個の[-Q2a-CH=CH]は、同一であっても異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含フッ素エーテル化合物によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明の含フッ素エーテル組成物によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明のコーティング液によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明の物品は、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する。
本発明の物品の製造方法によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する物品を製造できる。
本発明の含フッ素エーテル化合物の他の態様は、表面処理剤に好適に用いられる含フッ素エーテル化合物の中間体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、式1で表される化合物を化合物1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
また、式g1で表される基を基g1と記す。他の式で表される基も同様に記す。
オキシフルオロアルキレン単位の化学式は、その酸素原子をフルオロアルキレン基の右側に記載して表すものとする。
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
「加水分解性シリル基」とは、加水分解反応してシラノール基(Si-OH)を形成し得る基を意味し、式g1中のSiR3-nである。
「表面層」とは、基材の表面に形成される層を意味する。
含フッ素エーテル化合物の「数平均分子量」は、H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めて算出される。末端基は、たとえば式1中のAまたは式g1中のSiR3-nである。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0014】
[含フッ素エーテル化合物]
本発明の含フッ素エーテル化合物は、化合物1である。
-O-(Rf1O)-A 式1
ただし、Aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基または基g1であり、Aは、基g1であり、Rf1は、フルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
-Rf2-Q-C(X)[-Q-SiR3-n 式g1
ただし、Rf2は、フルオロアルキレン基(ただし、Q側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、Qは、単結合またはアルキレン基であり、Xは、フッ素原子、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、Qは、アルキレン基であり、Rは、1価の炭化水素基であり、Lは、加水分解性基であり、nは、0~2の整数であり、2個の[-Q-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0015】
としては、表面層の潤滑性および耐摩擦性がさらに優れる点から、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基が好ましい。Aがペルフルオロアルキル基である化合物1は、Aが末端にCF-を有するため、化合物1の一方の末端がCF-となり、他方の末端が加水分解性シリル基となる。一方の末端がCF-であり、他方の末端が加水分解性シリル基である化合物1によれば、低表面エネルギーの表面層を形成できるため、表面層の潤滑性および耐摩擦性がさらに優れる。一方、Aが基g1である化合物1は、両末端に加水分解性シリル基を有するため、表面層の潤滑性および耐摩擦性がやや不充分である。
のペルフルオロアルキル基の炭素数は、化合物1によって形成される表面層の潤滑性および耐摩擦性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。
【0016】
f1の炭素数は、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性がさらに優れる点から、1~6が好ましい。
f1としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、直鎖のフルオロアルキレン基が好ましい。
f1としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。
全Rf1のうちのペルフルオロアルキレン基の割合は、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0017】
mは、2~200の整数が好ましく、5~150の整数がより好ましく、10~100の整数が特に好ましい。mが前記範囲の下限値以上であれば、表面層の撥水撥油性がさらに優れる。mが前記範囲の上限値以下であれば、表面層の耐摩擦性がさらに優れる。すなわち、化合物1の数平均分子量が大きすぎると、単位分子量あたりに存在する加水分解性シリル基の数が減少し、表面層の耐摩擦性が低下する。
【0018】
(Rf1O)において、2種以上のRf1Oが存在する場合、各Rf1Oの結合順序は限定されない。たとえば、CFOとCFCFOが存在する場合、CFOとCFCFOがランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
2種以上のRf1Oが存在するとは、炭素数の異なる2種以上のRf1Oが存在すること、水素原子数が異なる2種以上のRf1Oが存在すること、および水素原子の位置が異なる2種以上のRf1Oが存在すること、および、炭素数が同一であっても側鎖の有無や側鎖の種類(側鎖の数や側鎖の炭素数等)が異なる2種以上のRf1Oが存在することをいう。
2種以上のRf1Oの配置については、たとえば、{(CFO)m1(CFCFO)m2}で表される構造は、m1個の(CFO)とm2個の(CFCFO)とがランダムに配置されていることを表す。また、(CFCFO-CFCFCFCFO)m5で表される構造は、m5個の(CFCFO)とm5個の(CFCFCFCFO)とが交互に配置されていることを表す。
【0019】
(Rf1O)としては、(Rf1O)の少なくとも一部に下記の構造を有するものが好ましい。
{(CFO)m1(CFCFO)m2}、
(CFCFO)m3
(CFCFCFO)m4
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5
(CFCFCFCFCFO)m6(CFO)m7
(CFCFCFCFCFO)m6(CFCFO)m7
(CFCFCFCFCFCFO)m6(CFO)m7
(CFCFCFCFCFCFO)m6(CFCFO)m7
(CFCFCFCFCFO-CFO)m8
(CFCFCFCFCFO-CFCFO)m8
(CFCFCFCFCFCFO-CFO)m8
(CFCFCFCFCFCFO-CFCFO)m8
(CFO-CFCFCFCFCFO)m8
(CFO-CFCFCFCFCFCFO)m8
(CFCFO-CFCFCFCFCFO)m8
(CFCFO-CFCFCFCFCFCFO)m8
ただし、m1は1以上の整数であり、m2は1以上の整数であり、m1+m2は2~500の整数であり、m3およびm4は、それぞれ、2~500の整数であり、m5は、1~250の整数であり、m6およびm7は、それぞれ1以上の整数であり、m6+m7は、2~500の整数であり、m8は、1~250の整数である。
【0020】
(Rf1O)としては、化合物1を製造しやすい点から、下記のものが好ましい。
{(CFO)m1(CFCFO)m2}、
(CFCFCFO)m4
(CFCFO){(CFO)m1(CFCFO)m2-2}、
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5-1CFCFO、
(CFCFCFCFCFO-CFO)m8
(CFCFCFCFCFCFO-CFO)m8
(CFCFO-CFCFCFCFCFO)m8-1CFCFO、
(CFCFO-CFCFCFCFCFCFO)m8-1CFCFO。
ただし、m2-2、m5-1およびm8-1については1以上の整数となるように、m2、m5およびm8の数は選択される。
【0021】
f2の炭素数としては、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性がさらに優れる点から、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~5が特に好ましい。
f2としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、直鎖のフルオロアルキレン基が好ましい。
f2としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。
f2の構造は、化合物1を製造する際の原料および合成方法に依存する。
【0022】
のアルキレン基の炭素数は、1~6が好ましい。
としては、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、単結合が好ましい。
【0023】
Xは、たとえば、後述する化合物4の水酸基をフッ素原子、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基に置換した基である。Xがフルオロアルキル基の場合、Xとしては、表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、ペルフルオロアルキル基が好ましい。
Xのアルキル基またはフルオロアルキル基の炭素数は、1~6が好ましい。
Xとしては、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、フッ素原子が好ましい。
【0024】
の炭素数は、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、2~6がより好ましく、2~4が特に好ましい。
【0025】
SiR3-nは、加水分解性シリル基である。
化合物1は、少なくとも片側の末端に加水分解性シリル基を2個有する。末端に加水分解性シリル基を2個以上有する化合物1は基材と強固に化学結合するため、表面層は耐摩擦性に優れる。
また、化合物1は、一方の末端のみに加水分解性シリル基を有することが好ましい。一方の末端のみに加水分解性シリル基を有する化合物1は凝集しにくいため、表面層は外観に優れる。
【0026】
Lは、加水分解性基である。加水分解性基は、加水分解反応によって水酸基となる基である。すなわち、化合物1の末端のSi-Lは、加水分解反応によってシラノール基(Si-OH)となる。シラノール基は、さらに分子間で反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して、化学結合(基材-O-Si)を形成する。
【0027】
Lとしては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が特に好ましい。
Lとしては、化合物1の製造をしやすい点から、アルコキシ基またはハロゲン原子が好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物1の保存安定性に優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物1の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0028】
Rは、1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリル基等が挙げられる。
Rとしては、1価の飽和炭化水素基が特に好ましい。1価の飽和炭化水素基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。Rの炭素数がこの範囲であると、化合物1を製造しやすい。
【0029】
nは、0または1が好ましく、0が特に好ましい。1個の加水分解性シリル基にLが複数存在することによって、基材との密着性がより強固になる。
【0030】
SiR3-nとしては、Si(OCH、SiCH(OCH、Si(OCHCH、SiCl、Si(OCOCH、Si(NCO)が好ましい。工業的な製造における取扱いやすさの点から、Si(OCHが特に好ましい。
化合物1中の2個のSiR3-nは、同一であっても異なっていてもよい。化合物1を製造しやすい点から、同一の基であることが好ましい。
【0031】
化合物1としては、たとえば、化合物1-1~1-7が挙げられる。下式の化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、表面層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、耐薬品性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から好ましい。
【0032】
【化1】
【0033】
ただし、Gはポリフルオロポリエーテル鎖、すなわち化合物1の一方の末端に加水分解性シリル基を有する場合はA-O-(Rf1O)-Rf2-(ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基である。)であり、化合物1の両末端に加水分解性シリル基を有する場合は-Rf2-O-(Rf1O)-Rf2-である。Gの好ましい形態は、上述した好ましいA、(Rf1O)およびRf2を組み合わせたものとなる。
【0034】
(化合物1の製造方法)
化合物1は、化合物2とHSiR3-nとをヒドロシリル化反応させる方法によって製造できる。
1a-O-(Rf1O)-A2a 式2
ただし、A1aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基または基g2であり、A2aは、基g2である。
-Rf2-Q-C(X)[-Q2a-CH=CH 式g2
ただし、Q2aは、単結合またはアルキレン基であり、2個の[-Q2a-CH=CH]は、同一であっても異なっていてもよい。
(Rf1O)、Rf2、QおよびXは、化合物1で説明した(Rf1O)、Rf2、QおよびXと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0035】
1aとしては、表面層の潤滑性および耐摩擦性がさらに優れる点から、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基が好ましい。
1aのペルフルオロアルキル基の炭素数は、表面層の潤滑性および耐摩擦性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。
【0036】
2aとしては、化合物2を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、単結合または炭素数1~4のアルキレン基が好ましく、単結合または炭素数1~2のアルキレン基が特に好ましい。
2a-CH=CHは、ヒドロシリル化後に基g1におけるQとなる。
【0037】
(化合物2の製造方法)
化合物1において式g1中のXがフッ素原子の場合、化合物2は、たとえば、下記のようにして製造できる。
化合物3(ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基である。)とグリニャール試薬(CH=CH-Q2a-MgBrまたはCH=CH-Q2a-MgCl)とを反応させて化合物4を得る。
A-O-(Rf1O)-Rf2-Q-C(O)Z 式3
A-O-(Rf1O)-Rf2-Q-C(OH)[-Q2a-CH=CH 式4
【0038】
化合物4と求核的フッ素化剤とを反応させて化合物2aを得る。
A-O-(Rf1O)-Rf2-Q-CF[-Q2a-CH=CH 式2a
ただし、Zは、フッ素原子、塩素原子、アシルオキシ基、アルコキシ基、水酸基またはジアルキルアミノ基である。
(Rf1O)、Rf2、QおよびQ2aは、化合物1および2で説明した(Rf1O)、Rf2、QおよびQ2aと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0039】
化合物3は、国際公開第2009/008380号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121986号、国際公開第2015/087902号、国際公開第2017/038830号、国際公開第2017/038832号等に記載の方法によって製造できる。
【0040】
求核的フッ素化剤としては、4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニルサルファートリフルオリド、ピリジニウムポリ(ヒドロゲンフルオリド)、ジエチルアミノサルファートリフルオリド、ビス(2-メトキシエチル)アミノサルファートリフルオリド、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-N,N-ジメチルアミン、(ジエチルアミノ)ジフルオロスルホニウムテトラフルオロボラート、ジフルオロ(モルホリノ)スルホニウムテトラフルオロボラート、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)-2,2-ジフルオロ-4-イミダゾリン等が挙げられる。
【0041】
化合物1において式g1中のXが水素原子の場合、化合物2は、たとえば、下記のようにして製造できる。
化合物4とハロゲン化剤またはスルホン酸エステル化剤とを反応させて化合物5を得る。
A-O-(Rf1O)-Rf2-Q-CT[-Q2a-CH=CH 式5
ただし、Tは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸基またはトリフルオロメタンスルホン酸基である。
【0042】
ハロゲン化剤としては、塩化水素、塩化チオニル、塩化スルフリル、三塩化リン、五塩化リン、リン酸トリクロリド、塩化オキサリル、四塩化炭素-トリフェニルホスフィン、臭化水素、三臭化リン、五臭化リン、四臭化炭素-トリフェニルホスフィン、ヨウ化水素、ヨウ素-トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
スルホン酸エステル化剤としては、メタンスルホニルクロリド、p-トルエンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホン酸無水物等が挙げられる。
【0043】
次いで、化合物5とヒドリド還元剤とを反応させて化合物2bを得る。
A-O-(Rf1O)-Rf2-Q-CH[-Q2a-CH=CH 式2b
ヒドリド還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
【0044】
化合物1において式g1中のXがアルキル基またはフルオロアルキル基の場合、化合物2は、たとえば、下記のようにして製造できる。
化合物5とアルキル化剤またはフルオロアルキル化剤とを反応させて化合物2cを得る。
A-O-(Rf1O)-Rf2-Q-CR[-Q2a-CH=CH 式2c
ただし、Rは、アルキル基またはフルオロアルキル基である。
【0045】
アルキル化剤としては、アルキルリチウム(たとえばメチルリチウム、エチルリチウム)等の有機リチウム試薬、アルキルマグネシウムブロミド(たとえばメチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド)等のグリニャール試薬、ジアルキル亜鉛(たとえばジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛)等の有機亜鉛試薬が挙げられる。
フルオロアルキル化剤としては、フルオロアルキルリチウム(たとえば3,3,3-トリフルオロプロピルリチウム、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチルリチウム、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルリチウム)等の有機リチウム試薬、フルオロアルキルマグネシウムブロミド(たとえば3,3,3-トリフルオロプロピルマグネシウムブロミド、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチルマグネシウムブロミド、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルマグネシウムブロミド)等のグリニヤール試薬、Ruppert-Prakash試薬((トリフルオロメチル)トリメチルシラン)等のトリフルオロメチル化試薬が挙げられる。
【0046】
以上説明した化合物1にあっては、下記の理由から、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
化合物1は、(Rf1O)を有するため、フッ素原子の含有量が多い。そのため、化合物1は、初期撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性に優れる表面層を形成できる。
化合物1は、水酸基を有しないため、撥水撥油性、耐薬品性に優れる表面層を形成できる。また、化合物1は、ポリフルオロポリエーテル鎖と加水分解性シリル基との間にエーテル結合、C-O-Si結合およびエステル結合を有しないため、ポリフルオロポリエーテル鎖と加水分解性シリル基との間の結合が光、薬品等によって切断されにくい。そのため、化合物1は、耐光性、耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
【0047】
[含フッ素エーテル組成物]
本発明の含フッ素エーテル組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、化合物1の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含む。
【0048】
他の含フッ素エーテル化合物としては、化合物1の製造工程で副生する含フッ素エーテル化合物(以下、「副生含フッ素エーテル化合物」とも記す。)、化合物1と同様の用途に用いられる公知の含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。
他の含フッ素エーテル化合物としては、化合物1の特性を低下させるおそれが少ない化合物が好ましい。
【0049】
副生含フッ素エーテル化合物としては、未反応の化合物2、化合物3、化合物4、他;化合物1の製造におけるヒドロシリル化の際に、アリル基の一部がインナーオレフィンに異性化した含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。
公知の含フッ素エーテル化合物としては、市販の含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。本組成物が公知の含フッ素エーテル化合物を含む場合、化合物1の特性を補う等の新たな作用効果が発揮される場合がある。
【0050】
化合物1の含有量は、本組成物のうち、60質量%以上100質量%未満が好ましく、70質量%以上100質量%未満がより好ましく、80質量%以上100質量%未満が特に好ましい。
他の含フッ素エーテル化合物の含有量は、本組成物のうち、0質量%超40質量%以下が好ましく、0質量%超30質量%以下がより好ましく、0質量%超20質量%以下が特に好ましい。
化合物1の含有量および他の含フッ素エーテル化合物の含有量の合計は、本組成物のうち、80~100質量%が好ましく、85~100質量%が特に好ましい。
化合物1の含有量および他の含フッ素エーテル化合物の含有量が前記範囲内であれば、表面層の初期の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる。
【0051】
本組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、化合物1および他の含フッ素エーテル化合物以外の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、化合物1や公知の含フッ素エーテル化合物の製造工程で生成した副生物(ただし、副生含フッ素エーテル化合物を除く。)、未反応の原料等の製造上不可避の化合物が挙げられる。
また、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の添加剤が挙げられる。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
他の成分の含有量は、本組成物のうち、0~9.999質量%が好ましく、0~0.99質量%が特に好ましい。
【0052】
[コーティング液]
本発明のコーティング液(以下、「本コーティング液」とも記す。)は、化合物1または本組成物と液状媒体とを含む。本コーティング液は、溶液であっても分散液であってもよい。
【0053】
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、含フッ素有機溶媒でも非フッ素有機溶媒でもよく、両溶媒を含んでもよい。
含フッ素有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、C13H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-2000)、C13(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)、CCHFCHFCF(ケマーズ社製、バートレル(登録商標)XF)等が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物としては、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、CFCHOCFCFH(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AE-3000)、COCH(3M社製、ノベック(登録商標)7100)、COC(3M社製、ノベック(登録商標)7200)、CCF(OCH)C(3M社製、ノベック(登録商標)7300)等が挙げられる。
フッ素化アルキルアミンとしては、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等が挙げられる。
フルオロアルコールとしては、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
非フッ素有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル、エステルが挙げられる。
液状媒体は、2種以上を混合した混合媒体であってもよい。
【0054】
化合物1または本組成物の含有量は、本コーティング液のうち、0.001~10質量%が好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
液状媒体の含有量は、本コーティング液のうち、90~99.999質量%が好ましく、99~99.99質量%が特に好ましい。
【0055】
[物品]
本発明の物品(以下、「本物品」とも記す。)は、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に有する。
表面層は、化合物1を、化合物1の加水分解性シリル基の一部または全部が加水分解反応し、かつ脱水縮合反応した状態で含む。
【0056】
表面層の厚さは、1~100nmが好ましく、1~50nmが特に好ましい。表面層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、表面処理による効果が充分に得られやすい。表面層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、利用効率が高い。表面層の厚さは、薄膜解析用X線回折計(RIGAKU社製、ATX-G)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0057】
基材としては、撥水撥油性の付与が求められている基材が挙げられる。基材の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。基材の表面にはSiO膜等の下地膜が形成されていてもよい。
基材としては、タッチパネル用基材、ディスプレイ用基材、メガネレンズが好適であり、タッチパネル用基材が特に好適である。タッチパネル用基材の材料としては、ガラスまたは透明樹脂が好ましい。
【0058】
[物品の製造方法]
本物品は、たとえば、下記の方法で製造できる。
・化合物1または本組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に形成する方法。
・ウェットコーティング法によって本コーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に形成する方法。
【0059】
ドライコーティング法としては、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の手法が挙げられる。化合物1の分解を抑える点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着時には、鉄、鋼等の金属多孔体に化合物1または本組成物を含浸させたペレット状物質を用いてもよい。本コーティング液を鉄、鋼等の金属多孔体に含浸させ、液状媒体を乾燥させて、化合物1または本組成物が含浸したペレット状物質を用いてもよい。
【0060】
ウェットコーティング法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【実施例0061】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において「%」は特に断りのない限り「質量%」である。なお、例1、2、4、5は実施例であり、例3、6は比較例である。
【0062】
[例1]
(例1-1)
国際公開第2013/121984号の実施例の例2-3に記載の方法にしたがって化合物3-1を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)CFCFO-CFCFCF-C(O)OCH 式3-1
単位数xの平均値:13、化合物3-1の数平均分子量:4,730。
【0063】
(例1-2)
50mLの3つ口ナスフラスコに、テトラヒドロフランの5.0g、1,3-ビストリフルオロメチルベンゼンの10g、1Mのアリルマグネシウムブロミドの4.0mLを入れた。例1-1で得た化合物3-1の10gを滴下した後、60℃で4時間加熱した。25℃まで冷却し、1.2Mの塩酸水溶液中へ溶液を滴下した。分液操作によって有機層を回収し、水で1回洗浄して有機層を回収した。回収した有機層をエバポレータで濃縮し、化合物4-1の7.1gを得た。
【0064】
【化2】
【0065】
化合物4-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:テトラメチルシラン(TMS)) δ(ppm):2.4~2.6(4H)、5.2~5.3(4H)、5.9~6.0(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-88(54F)、-90(2F)、-116(2F)、-121(2F)、-125(52F)。
単位数xの平均値:13、化合物4-1の数平均分子量:4,780。
【0066】
(例1-3)
50mLの3つ口フラスコに、4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニルサルファートリフルオリド(宇部興産社製、FLUOLEAD(登録商標))の1.0g、AC-2000の14gを入れ、氷浴で冷却した。ピリジニウムポリ(ヒドロゲンフルオリド)の0.26mLを加え、例1-2で得た化合物4-1の7.0gを滴下した。25℃で10時間撹拌し、再度氷浴で冷却した。エタノールの2mLを加えた後、25℃で1時間撹拌した。炭酸カリウム水溶液で中和した後、水で1回洗浄して有機層を回収した。回収した有機層をエバポレータで濃縮し、粗生成物の7.1gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して、化合物2-1の6.3g(収率90%)を分取した。なお、化合物2-1の単位数xの平均値は13、化合物2-1の数平均分子量は4,780である。
【0067】
【化3】
【0068】
(例1-4)
10mLのテトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルコキシビニルエーテル)共重合体(PFA)製ナスフラスコに、例1-3で得た化合物2-1の5.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2質量%)の0.03g、トリメトキシシランの0.36g、アニリンの0.01gおよび1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの2.0gを入れ、25℃で8時間撹拌した。溶媒等を減圧留去し、孔径0.5μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物1-1aの5.2g(純度99%以上、収率99%)を得た。なお、化合物1-1aの単位数xの平均値は13、化合物1-1aの数平均分子量は5,020である。
【0069】
【化4】
【0070】
[例2]
(例2-1)
国際公開第2014/163004号の例4-1~4-3に記載の方法にしたがって化合物3-2を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-C(O)OCH 式3-2
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物3-2の数平均分子量:4,230。
【0071】
(例2-2)
50mLの3つ口ナスフラスコに、例2-1で得た化合物3-2の10g、AC-2000の15gを入れ、0℃に冷却した。5Mのナトリウムメトキシドのメタノール溶液の2gを加えて撹拌した後、5-ヘキセン-2-オンの1gを入れ、さらに撹拌した。室温に昇温した後、1Mの塩酸水溶液中へ溶液を滴下した。分液操作によって有機層を回収し、水で1回洗浄して有機層を回収した。回収した有機層をエバポレータで濃縮し、化合物3-3の9gを得た。
【0072】
【化5】
【0073】
化合物3-3のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):5.8(1H)、5.0(2H)、2.5(2H)、2.0(4H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-52.4~-55.8(42F)、-82.2(3F)、-89.4~-91.1(92F)、-130.5(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物3-3の数平均分子量:4,250。
【0074】
(例2-3)
100mLの3つ口ナスフラスコに、1,3-ビストリフルオロメチルベンゼンの30g、1Mのアリルマグネシウムクロリドの8.0mLを入れた。例2-2で得た化合物3-3の9gを滴下した後、室温で撹拌した。1Mの塩酸水溶液中へ溶液を滴下した。分液操作によって有機層を回収し、水で1回洗浄して有機層を回収した。回収した有機層をエバポレータで濃縮し、化合物4-2の3gを得た。
【0075】
【化6】
【0076】
化合物4-2のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):5.8(2H)、5.0(4H)、2.5(4H)、2.0(4H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-52.4~-55.8(42F)、-82.2(3F)、-89.4~-91.1(92F)、-130.5(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物4-2の数平均分子量:4,300。
【0077】
(例2-4)
50mLの3つ口フラスコに、4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニルサルファートリフルオリド(宇部興産社製、FLUOLEAD(登録商標))の1.0g、AC-2000の15gを入れ、氷浴で冷却した。ピリジニウムポリ(ヒドロゲンフルオリド)の0.3mLを加え、例2-3で得た化合物4-2の3gを滴下した。25℃で撹拌し、再度氷浴で冷却した。エタノールの2mLを加えた後、25℃で撹拌した。炭酸カリウム水溶液で中和した後、水で1回洗浄して有機層を回収した。回収した有機層をエバポレータで濃縮し、粗生成物の3gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して、化合物2-2の2gを分取した。
【0078】
【化7】
【0079】
化合物2-2のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):5.8(2H)、5.0(4H)、2.5(4H)、1.9(4H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-52.4~-55.8(42F)、-82.2(3F)、-89.4~-91.1(92F)、-120(2F)、-130.5(2F)、-160(1F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物2-2の数平均分子量:4,300。
【0080】
(例2-5)
10mLのPFA製ナスフラスコに、例2-4で得た化合物2-2の2.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2質量%)の0.03g、トリメトキシシランの0.36g、アニリンの0.01gおよび1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの2.0gを入れ、25℃で撹拌した。溶媒等を減圧留去し、孔径0.5μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物1-7aの2gを得た。
【0081】
【化8】
【0082】
化合物1-7aのNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):3.4-3.8(18H)、1.2-1.9(12H)、0.7(4H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-52.4~-55.8(42F)、-82.2(3F)、-89.4~-91.1(92F)、-120(2F)、-130.5(2F)、-160(1F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物1-7aの数平均分子量:4,400。
【0083】
[例3]
10mLのPFA製ナスフラスコに、例1-2で得た化合物4-1の5.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2質量%)の0.03g、トリメトキシシランの0.36g、アニリンの0.01gおよび1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの2.0gを入れ、25℃で8時間撹拌した。溶媒等を減圧留去し、孔径0.5μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物10-1の5.2g(純度99%以上、収率99%)を得た。
【0084】
【化9】
【0085】
化合物10-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):0.6~0.8(4H)、1.6~1.8(4H)、1.9~2.0(4H)、3.6(27H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-88(54F)、-90(2F)、-116(2F)、-121(2F)、-125(52F)。
単位数xの平均値:13、化合物10-1の数平均分子量:5,020。
【0086】
[例4~6:物品の製造および評価]
例1~3で得た各化合物を用いて基材を表面処理し、例4~6の物品を得た。表面処理方法として、各例について下記のドライコーティング法を用いた。基材としては化学強化ガラスを用いた。得られた物品について、下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0087】
(ドライコーティング法)
ドライコーティングは、真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR350M)を用いて行った(真空蒸着法)。例1~2で得た各化合物の0.5gを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を1×10-3Pa以下に排気した。化合物を配置したボートを昇温速度10℃/分以下の速度で加熱し、水晶発振式膜厚計による蒸着速度が1nm/秒を超えた時点でシャッターを開けて基材の表面への製膜を開始させた。膜厚が約50nmとなった時点でシャッターを閉じて基材の表面への製膜を終了させた。化合物が堆積された基材を、200℃で30分間加熱処理し、ジクロロペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、AK-225)にて洗浄して基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0088】
(評価方法)
<接触角の測定方法>
表面層の表面に置いた、約2μLの蒸留水またはn-ヘキサデカンの接触角を、接触角測定装置(協和界面科学社製、DM-500)を用いて測定した。表面層の表面における異なる5箇所で測定し、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。
【0089】
<初期接触角>
表面層について、初期水接触角および初期n-ヘキサデカン接触角を前記測定方法で測定した。評価基準は下記のとおりである。
初期水接触角:
◎(優) :115度以上。
○(良) :110度以上115度未満。
△(可) :100度以上110度未満。
×(不可):100度未満。
初期n-ヘキサデカン接触角:
◎(優) :66度以上。
○(良) :65度以上66度未満。
△(可) :63度以上65度未満。
×(不可):63度未満。
【0090】
<耐摩擦性(スチールウール)>
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、スチールウールボンスター(♯0000)を圧力:98.07kPa、速度:320cm/分で1万回往復させた後、水接触角を測定した。摩擦後の撥水性(水接触角)の低下が小さいほど摩擦による性能の低下が小さく、耐摩擦性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :1万回往復後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :1万回往復後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :1万回往復後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):1万回往復後の水接触角の変化が10度超。
【0091】
<耐摩擦性(消しゴム)>
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、Rubber Eraser(Minoan社製)を荷重:4.9N、速度:60rpmで3万回往復させた後、水接触角を測定した。摩擦後の撥水性(水接触角)の低下が小さいほど摩擦による性能の低下が小さく、耐摩擦性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :1万回往復後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :1万回往復後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :1万回往復後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):1万回往復後の水接触角の変化が10度超。
【0092】
<指紋汚れ除去性>
人工指紋液(オレイン酸とスクアレンとからなる液)を、シリコンゴム栓の平坦面に付着させた後、余分な油分を不織布(旭化成社製、ベンコット(登録商標)M-3)にて拭き取って、指紋のスタンプを準備した。指紋スタンプを表面層上に乗せ、荷重:9.8Nにて10秒間押しつけた。指紋が付着した箇所のヘーズをヘーズメータにて測定し、初期値とした。指紋が付着した箇所について、ティッシュペーパーを取り付けた往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、荷重:4.9Nにて拭き取った。拭き取り一往復毎にヘーズの値を測定し、ヘーズが初期値から10%以下になる拭き取り回数を測定した。拭き取り回数が少ないほど指紋汚れを容易に除去でき、指紋汚れ拭き取り性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :拭き取り回数が3回以下。
○(良) :拭き取り回数が4~5回。
△(可) :拭き取り回数が6~8回。
×(不可):拭き取り回数が9回以上。
【0093】
<耐光性>
表面層に対し、卓上型キセノンアークランプ式促進耐光性試験機(東洋精機社製、SUNTEST XLS+)を用いて、ブラックパネル温度:63℃にて、光線(650W/m、300~700nm)を1,000時間照射した後、水接触角を測定した。促進耐光試験後の水接触角の低下が小さいほど光による性能の低下が小さく、耐光性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :促進耐光試験後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :促進耐光試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :促進耐光試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):促進耐光試験後の水接触角の変化が10度超。
【0094】
<耐光性+耐摩擦性(スチールウール)>
前記耐光性の試験後に、前記耐摩擦性(スチールウール)の試験を行い、耐摩擦性(スチールウール)の評価基準にて評価した。
【0095】
<耐薬品性(耐アルカリ性)>
物品を、1規定の水酸化ナトリウム水溶液(pH=14)に5時間浸漬した後、水洗、風乾し、水接触角を測定した。試験後における水接触角の低下が小さいほどアルカリによる性能の低下が小さく、耐アルカリ性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が2度以下。
〇(良) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が10度超。
【0096】
<耐薬品性(耐塩水性)>
JIS H8502に準拠して塩水噴霧試験を行った。すなわち、物品を、塩水噴霧試験機(スガ試験機社製)内で300時間塩水雰囲気に暴露した後、水接触角を測定した。試験後における水接触角の低下が小さいほど塩水による性能の低下が小さく、耐塩水性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):塩水噴霧試験後の水接触角の変化が10度超。
【0097】
<潤滑性>
人工皮膚(出光テクノファイン社製、PBZ13001)に対する表面層の動摩擦係数を、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(新東科学社製、HHS2000)を用い、接触面積:3cm×3cm、荷重:0.98Nの条件で測定した。動摩擦係数が小さいほど潤滑性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :動摩擦係数が0.2以下。
○(良) :動摩擦係数が0.2超0.3以下。
△(可) :動摩擦係数が0.3超0.4以下。
×(不可):動摩擦係数が0.4超。
【0098】
【表1】
【0099】
化合物1を用いた例4~5は、初期の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、耐光性および耐薬品性に優れていることを確認した。
従来の含フッ素エーテル化合物を用いた例6は、耐光性および耐薬品性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、潤滑性や撥水撥油性の付与が求められている各種の用途に用いることができる。たとえばタッチパネル等の表示入力装置;透明なガラス製または透明なプラスチック製部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート;電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート;導通しながら撥液が必要な部材へのコート;熱交換機の撥水・防水・滑水コート;振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等に用いることができる。より具体的な使用例としては、ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの、携帯電話、携帯情報端末等の機器のタッチパネルシートやタッチパネルディスプレイ等人の指あるいは手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器、トイレ、風呂、洗面所、キッチン等の水周りの装飾建材、配線板用防水コーティング熱交換機の撥水・防水コート、太陽電池の撥水コート、プリント配線板の防水・撥水コート、電子機器筐体や電子部品用の防水・撥水コート、送電線の絶縁性向上コート、各種フィルタの防水・撥水コート、電波吸収材や吸音材の防水性コート、風呂、厨房機器、トイレタリー用防汚コート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート、機械部品、真空機器部品、ベアリング部品、自動車部品、工具等の表面保護コートが挙げられる。
【手続補正書】
【提出日】2022-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式1で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
-O-(Rf1O)-A 式1
ただし、
は、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基または下式g1で表される基であり、
は、下式g1で表される基であり、
f1は、フルオロアルキレン基であり、
mは、2~500の整数であり、
(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
-Rf2-Q-C(X)[-Q-SiR3-n 式g1
ただし、
f2は、フルオロアルキレン基(ただし、Q側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、
は、単結合またはアルキレン基であり、
Xは、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、
は、アルキレン基であり、
Rは、1価の炭化水素基であり、
Lは、加水分解性基であり、
nは、0~2の整数であり、
2個の[-Q-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項2に記載の含フッ素エーテル組成物と、
液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項4】
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項2に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
【請求項5】
タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項2に記載の含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項7】
ウェットコーティング法によって請求項3に記載のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項8】
下式2で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
1a-O-(Rf1O)-A2a 式2
ただし、
1aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基または下式g2で表される基であり、
2aは、下式g2で表される基であり、
f1は、フルオロアルキレン基であり、
mは、2~500の整数であり、
(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
-Rf2-Q-C(X)[-Q2a-CH=CH 式g2
ただし、
f2は、フルオロアルキレン基(ただし、Q側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、
は、単結合またはアルキレン基であり、
Xは、水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、
2aは、単結合またはアルキレン基であり、
2個の[-Q2a-CH=CH]は、同一であっても異なっていてもよい。