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  • 特開-光学ガラスおよび光学部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089966
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび光学部品
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20220609BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20220609BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20220609BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20220609BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C03C3/097
C03C3/062
C03C3/064
C03C3/066
C03C3/068
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069457
(22)【出願日】2022-04-20
(62)【分割の表示】P 2019525531の分割
【原出願日】2018-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2017123207
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安間 伸一
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 達雄
(57)【要約】
【課題】高屈折率かつ光透過率が良好でありながら、連続溶解による溶解性も高く、製造特性が良好な光学ガラスを提供する。
【解決手段】屈折率(n)が1.64以上の光学ガラスであって、次の式(1)
【数1】
(式中、A450、A550、A650、A750は、それぞれ波長450nm、550nm、650nm、750nmにおける厚さ10mmの光学ガラスの吸光度、P450、P550、P650、P750は、それぞれプランクの放射則における波長450nm、550nm、650nm、750nmの光の放射輝度、を表す。)で表されるP valueが、7.0<P value<10.0の範囲であり、波長450nm、550nm、650nmおよび750nmにおける、10mm厚換算の内部透過率が全て91%以上である光学ガラス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(nd)が1.64以上の光学ガラスであって、
光学ガラスの組成はP系であり、母組成の合計を100%としたとき、酸化物基準の質量%表示での含有量は、Pが10~70質量%であり、
次の式(1)
【数1】
(式中、A450は波長450nmにおける板厚10mmの前記光学ガラスの吸光度、P450はプランクの放射則における、1300℃、波長450nmの光の放射輝度、A550は波長550nmにおける板厚10mmの前記光学ガラスの吸光度、P550はプランクの放射則における、1300℃、波長550nmの光の放射輝度、A650は波長650nmにおける板厚10mmの前記光学ガラスの吸光度、P650はプランクの放射則における、1300℃、波長650nmの光の放射輝度、A750は波長750nmにおける板厚10mmの前記光学ガラスの吸光度、P750はプランクの放射則における、1300℃、波長750nmの光の放射輝度、をそれぞれ表す。)で表されるP valueが、7.0<P value<10.0の範囲であり、
波長450nm、550nm、650nmおよび750nmにおける、10mm厚換算の内部透過率が全て91%以上であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
さらに、高屈折率成分としてNb、Ta、LiO、SrO、BaO、TiO、ZrO、WO、Bi、TeOおよびLn(LnはY、La、Gd、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)からなる群から選ばれる少なくとも1種を1%以上含有する請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
前記A450が0.025<A450<1.000の範囲、前記A550は0.003<A550<0.500の範囲、前記A650が0.003<A650<0.500の範囲および前記A750が0.003<A750<0.500の範囲、の少なくとも1つを満たす請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
Cr、NiO、FeおよびPtから選ばれる少なくとも1つの熱線吸収成分を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
前記熱線吸収成分としてCrを含有し、前記光学ガラス中における前記Crの含有量が0.5~10質量ppmである請求項4に記載の光学ガラス。
【請求項6】
前記熱線吸収成分としてNiOを含有し、前記光学ガラス中における前記NiOの含有量が0.5~10質量ppmである請求項4または5に記載の光学ガラス。
【請求項7】
前記熱線吸収成分としてFeを含有し、前記光学ガラス中における全Feの含有量が2~40質量ppmである請求項4~6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
前記熱線吸収成分としてPtを含有し、前記光学ガラス中における前記Ptの含有量が0.5~10質量ppmである請求項4~7のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
前記光学ガラスを構成するガラスの母組成が、酸化物基準の質量%表示で、ガラス形成成分として、SiO、BおよびPからなる群から選ばれる少なくとも1種を10~80質量%、修飾酸化物としてMgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、LiO、NaO、KO、CsO、RbO、Ln(LnはY、La、Gd、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を合計で5~70質量%、中間酸化物としてAl、TiO、ZrO、WO、Bi、TeO、Ta、Nbからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を合計で0~50質量%、を含有する請求項1~8のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
ガラス転移点(Tg)が500~700℃、50~350℃での熱膨張係数αが50~150×10-7/Kである、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項11】
板厚が0.01~2mmの板状である請求項1~10のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項12】
一の主表面の面積が8cm以上である請求項1~11のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項13】
請求項11または12に記載の板状の光学ガラスを有することを特徴とする光学部品。
【請求項14】
前記板状の光学ガラスの表面に反射防止膜を有する請求項13に記載の光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよび光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェアラブル機器、例えばプロジェクター付きメガネ、眼鏡型やゴーグル型ディスプレイ、仮想現実拡張現実表示装置、虚像表示装置などに用いられるガラスとしては、画像の広角化、高輝度・高コントラスト化、導光特性向上、回折格子の加工容易性などの面から、高屈折率であることが求められる。また、従来、車載用カメラ、ロボット用視覚センサーなどの用途に、小型で撮像画角の広い撮像ガラスレンズが用いられており、このような撮像ガラスレンズに対しては、より小型で広い範囲を撮影するために、高屈折率であることが求められる。
【0003】
このような高屈折率の光学ガラスとしては、表示画像の解像度の向上とデバイスの軽量化に資するガラスとして、所定の屈折率と所定の板厚を有する導光板(例えば、特許文献1参照)や、分光透過率の経時的な劣化が抑制されたガラスとして、Sbの含有量を低減し、Pt成分やFe成分の含有量を調整して、ソラリゼーションの低減された光学ガラス(例えば、特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-032673号公報
【特許文献2】特開2010-105902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような用途の光学ガラスは、高い光透過率が求められ、不純物、特に着色成分と呼ばれる成分をなるべく含有させないようにしているため、一般に、熱線の吸収特性が低い。これにより、ガラスの製造時における溶解方法として、バーナーからの熱線(赤外光、可視光)をガラスに吸収させて加熱、溶解させる連続溶解を用いる場合には、ガラスが十分にまたは効率よく溶解できない場合があった。
【0006】
すなわち、ガラスがバーナーからの熱線を多く吸収するほど暖まりやすく、ガラスの溶解を容易にかつ十分に行えるため、連続溶解における製造特性が高くなる。ただし、この熱線の吸収特性が高いと、ガラス自体が着色されている場合が多く、高屈折率であり、光透過率の高い特性が求められる光学ガラスとしての使用に適さないおそれが高い。
【0007】
そこで、本発明は、上述のような課題を解消するためになされ、高屈折率かつ光透過率が良好でありながら、その製造にあたっては、連続溶解による溶解性が高く、製造特性が良好な光学ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学ガラスは、屈折率(n)が1.64以上の光学ガラスであって、
次の式(1)
【数1】
(式中、A450は波長450nmにおける板厚10mmの前記光学ガラスの吸光度、P450はプランクの放射則における、1300℃、波長450nmの光の放射輝度、A550は波長550nmにおける板厚10mmの前記光学ガラスの吸光度、P550はプランクの放射則における、1300℃、波長550nmの光の放射輝度、A650は波長650nmにおける板厚10mmの前記光学ガラスの吸光度、P650はプランクの放射則における、1300℃、波長650nmの光の放射輝度、A750は波長750nmにおける板厚10mmの前記光学ガラスの吸光度、P750はプランクの放射則における、1300℃、波長750nmの光の放射輝度、をそれぞれ表す。)で表されるP valueが、7.0<P value<10.0の範囲であり、波長450nm、550nm、650nmおよび750nmにおける、10mm厚換算の内部透過率が全て91%以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光学部品は、本発明の光学ガラスを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学ガラスおよび光学部品によれば、高屈折率で、かつ、光透過率が良好な製品を提供でき、また、その製造にあたっては、連続溶解による溶解性が高く、製造特性が良好であって、生産効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】プランクの放射則における、1300℃での分光放射輝度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の光学ガラスおよび光学部品の実施形態について説明する。
本実施形態である光学ガラスは、上記のように所定の屈折率(n)、P valueおよび光透過率を有しており、これら各特性について順番に説明する。
【0013】
本実施形態の光学ガラスは1.64以上の高い屈折率(n)を有する。屈折率(n)が1.64以上であるので、本実施形態の光学ガラスは、ウェアラブル機器に用いる光学ガラスとして画像の広角化、高輝度・高コントラスト化、導光特性向上、回折格子の加工容易性などの面で好適である。また車載用カメラ、ロボット用視覚センサーなどの用途に用いられる小型で撮像画角の広い撮像ガラスレンズとしては、より小型で広い範囲を撮影するために好適である。この屈折率(n)は好ましくは、1.68以上であり、より好ましくは1.72以上、さらに好ましくは1.76以上、特に好ましくは1.78以上である。
【0014】
一方で屈折率(n)が大きすぎるガラスは密度が高くなりやすく、また失透温度も高くなりやすい傾向があり、屈折率(n)は好ましくは1.85以下、より好ましくは1.83以下、さらに好ましくは1.82以下、特に好ましくは1.81以下である。
【0015】
また、本実施形態の光学ガラスは所定のP valueを有する。ここで、P valueは、波長450nm、550nm、650nmおよび750nmの各波長における、光学ガラスの吸光度と、プランクの放射則における各波長の光の放射輝度とを波長ごとに積算した値の和に対して、常用対数(log10)をとった値を表す。
【0016】
すなわち、本明細書におけるP valueは、次の式(1)で表される。
【数2】
(式中、A450、P450、A550、P550、A650、P650、A750、およびP750は上記と同一である。)
【0017】
プランクの放射則は、黒体からの電磁輻射の分光放射輝度を表し、周波数と温度の関数として表される。例えば、1300℃におけるプランクの放射則は、図1に示した通りであり、長波長側ほど強度が大きくなっている。なお、ここで用いたプランクの放射則(1300℃)における単位時間、表面積、立体角、波長あたりの放射輝度は、波長450nmの放射輝度が1.2×10(J/s・m・sr・m)、550nmの放射輝度が4.7×10(J/s・m・sr・m)、650nmの放射輝度が1.2×1010(J/s・m・sr・m)、750nmの放射輝度が2.4×1010(J/s・m・sr・m)である。
【0018】
また、吸光度は、光学ガラスの吸光度であり、そのガラスの組成によって異なるが、吸光度が高いほど熱線の吸収特性が高くなる。
【0019】
すなわち、ガラスの溶解に関しては、上記のプランクの放射則と吸光度とを考慮することで、特定の波長における熱線の吸収特性を評価できる。本実施形態においては、波長として、450nm、550nm、650nmおよび750nmの4つの波長を考慮して、光学ガラスの熱線の吸収特性を評価している。
【0020】
高屈折な光学ガラスとするための成分であるNbやTiを含有するガラスを溶解する場合、これら成分の還元による着色を低減させるために、溶解雰囲気を酸化雰囲気とするのが一般的である。この場合、Fe、Cr、Ni、Ptといった熱線の吸収特性を有する元素は、750nmより短波長側に吸収を持ち、それぞれ異なる波長での吸収特性を有する。
【0021】
一方、プランクの放射則から、熱線の放射輝度は短波長側ほど弱いため、溶融時の熱線吸収特性を比較するに当たっては、450nmより長波長側を考慮すれば概ね問題ない。
【0022】
以上より、450nmから750nm間の波長について、100nm間隔で各波長での熱線吸収特性を総合的に考慮することで、光学ガラスとしての熱線吸収特性を評価でき、上記式(1)のP valueが所定の範囲であればガラスの溶解特性が比較的良好である。
【0023】
本実施形態においては、P valueは、7<P value<10を満たす範囲が求められ、7.5<P value<9.5の範囲が好ましく、8<P value<9の範囲がより好ましい。
【0024】
ここで、光学ガラスの吸光度A450は0.025<A450<1.000の範囲、光学ガラスの吸光度A550は0.003<A550<0.500の範囲、光学ガラスの吸光度A650は0.003<A650<0.500の範囲、光学ガラスの吸光度A750は0.003<A750<0.500の範囲、の少なくとも1つを満たすことが好ましく、2つ以上を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。これらの吸光度は、上記のようにプランクの放射則と合わせて熱線の吸収特性に影響し、上記範囲について、1つの範囲を満たす場合には、長波長側において満たすことが好ましい。
【0025】
なお、本実施形態において、吸光度は、板厚10mmの光学ガラスに対して、光照射した際の光強度の減衰度合を表し、入射光強度に対する透過光強度の比の常用対数で表される。
【0026】
また、本実施形態の光学ガラスは、波長450nm、550nm、650nmおよび750nmにおける、10mm厚換算の内部透過率が全て91%以上である。ウェアラブル機器等に用いられる光学ガラスは、高い内部透過率が求められ、特に可視光の波長領域において高い内部透過率が求められる。
【0027】
本実施形態では、上記した熱線の吸収特性を高めつつ、この内部透過率も高いという相反しやすい特性について、いずれも実用的な範囲となるように良好なバランスを付与した。
【0028】
ここで、内部透過率τは、入射側および出射側における表面損失を除いた透過率であり、厚さの異なる一対の試料のそれぞれの表面反射損失を含む透過率の測定値を用い、計算により求められる。本明細書における内部透過率は、波長450nm、550nm、650nmおよび750nmの各測定波長において、厚さ1mmと厚さ10mmの試料について測定された透過率T1mm、T10mmから、次の式(2)を用いて計算により算出できる。
【0029】
【数3】
(式中、τは厚み10mmの試料における内部透過率、T1mmは試料厚さ1mmで得られる表面反射損失を含む透過率、T10mmは試料厚さ10mmで得られる表面反射損失を含む透過率、を表す。)
【0030】
ここで、本実施形態における光学ガラスの内部透過率は、波長450nmにおける内部透過率τ450、波長550nmにおける内部透過率τ550、波長650nmにおける内部透過率τ650、波長750nmにおける内部透過率τ750、は全て91%以上である。
【0031】
ここで、上記4つの波長とした理由は以下の通りである。
ウェアラブル機器等の光学部品では、その用いられるガラス中に可視光を導光させて像を映し出すことがある。その際、可視光の一部の波長範囲で透過率が低下すると、映し出される像が着色し色再現性が低下する。そのため、可視光の全域において高い透過率を実現する必要がある。
【0032】
透過率を測定する波長としては、まずガラスを高屈折率とする成分であるNb、Ti、Biといった元素や、熱線吸収の調整成分として含まれるFe、Cr、Niなどは紫外域から可視域の短波長側に吸収を持つため人の目で検知できる波長の短波長側の端部である450nmでの測定が特性の評価に有効である。また、650nmにはCrに起因する吸収が現れるため特性の評価に有効である。その他の波長については、着色を抑制し、光学ガラス用途として好適な波長を検討したところ、可視域の長波長側の端部である750n
mと、上記評価波長の中間波長である550nmにおける透過率の確認が、可視光域において着色を抑制できているか否か、すなわち光学ガラス用途として好適か否かの評価に有効であった。
【0033】
また、本実施形態の光学ガラスは、4.0以下の比重が好ましい。本実施形態の光学ガラスは、上記した比重であると、ウェアラブル機器に用いられた場合にユーザーの装着感を好ましくでき、車載用カメラ、ロボット用視覚センサーなどに用いられた場合に、装置全体の重量を減量できる。この比重(d)は好ましくは3.8以下であり、より好ましくは3.6以下、さらに好ましくは3.5以下、よりさらに好ましくは3.4以下である。
【0034】
一方で本実施形態の光学ガラスにおいて、ガラス表面に傷を付けにくくするためには、比重(d)は、2.0以上が好ましい。この比重(d)は、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.3以上であり、よりさらに好ましくは2.4以上であり、特に好ましくは2.7以上である。
【0035】
また、本実施形態の光学ガラスの粘性は、logη=2となる温度Tが950~1200℃の範囲が好ましい(ここで、ηはずり応力が0のときの粘度(dPa・s)である)。Tは溶解性の基準温度であり、ガラスのTが高すぎると、高温で溶解する必要が生じるため、高屈折率ガラスの場合、特に短波長側の可視光透過率が低下するおそれがある。このTはより好ましくは1180℃以下であり、さらに好ましくは1150℃以下、よりさらに好ましくは1130℃以下、特に好ましくは1110℃以下である。
【0036】
一方でTが低すぎると、粘性カーブが急峻になり、製造するにあたり粘性の制御が困難になる問題がある。本実施形態の光学ガラスの粘性を、上記した範囲のTとすると、製造特性が良好となる。このTは好ましくは、970℃以上であり、より好ましくは990℃以上、さらに好ましくは1010℃以上、よりさらに好ましくは1030℃以上である。
【0037】
また、本実施形態の光学ガラスの失透温度は、1200℃以下が好ましい。このような特性を有すると、成形時におけるガラスの失透を抑制でき、製造効率の高いフロート法、フュージョン法、ロールアウト法といった成型方法による成形性が良好である。この失透温度は、より好ましくは1175℃以下、さらに好ましくは1150℃以下、さらにより好ましくは1125℃以下、特に好ましくは1100℃以下である。ここで、失透温度とは、加熱、溶融したガラスを自然放冷により冷却する際に、ガラス表面および内部に長辺又は長径で1μm以上の結晶の認められない最も低い温度である。
【0038】
また、本実施形態の光学ガラスのヤング率(E)は、60GPa以上が好ましい。このような特性を有すると、薄いガラス板としてウェアラブル機器に用いた際や、レンズとして車載用カメラ、ロボット用視覚センサーなどに用いられた場合に、たわみが少ないという利点がある。このEは、より好ましくは70GPa以上であり、さらに好ましくは80GPa以上、よりさらに好ましくは85GPa以上、特に好ましくは90GPa以上である。
【0039】
また、本実施形態の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、500~700℃の範囲が好ましい。本実施形態の光学ガラスを、上記した範囲のTgとすると、プレス成型およびリドロー成形における成形性が良好である。このTgは、より好ましくは520℃~680℃であり、さらに好ましくは540℃~660℃、さらにより好ましくは560℃~640℃、特に好ましくは570℃~620℃である。Tgは、例えば熱膨張法によって測定できる。
【0040】
また、本実施形態の光学ガラスのアッベ数(v)は、50以下が好ましい。具体的には、本実施形態の光学ガラスを導光板のようなガラス板に適用する場合は、上記した範囲の低いvとすると、ウェアラブル機器の光学設計が容易になる。vは、より好ましくは46以下であり、さらに好ましくは42以下、よりさらに好ましくは38以下、特に好ましくは34以下である。
【0041】
本実施形態の光学ガラスのvの下限は特に限定しないが、概ね10以上、具体的には15以上、より具体的には20以上が好ましい。
【0042】
また、本実施形態の光学ガラスの50~350℃における熱膨張係数(α)は、50~150(×10-7/K)の範囲が好ましい。本実施形態の光学ガラスは、上記した範囲のαとすると、周辺部材との膨張マッチングが良好である。このαは、より好ましくは60~135(×10-7/K)であり、さらに好ましくは70~120(×10-7/K)、さらにより好ましくは80~105(×10-7/K)、特に好ましくは90~100(×10-7/K)である。
【0043】
本実施形態の光学ガラスは、厚さが0.01~2.0mmのガラス板が好ましい。厚さが0.01mm以上であれば、光学ガラスの取り扱い時や加工時の破損を抑制できる。また、光学ガラスの自重によるたわみを抑えられる。この厚さは、より好ましくは0.1mm以上であり、さらに好ましくは0.3mm以上であり、よりさらに好ましくは0.5mm以上、特に好ましくは0.7mm以上である。一方で厚さが2.0mm以下であれば、光学ガラスを用いた光学素子を軽量化できる。この厚さは、より好ましくは1.5mm以下であり、さらに好ましくは1.0mm以下であり、よりさらに好ましくは0.8mm以下、特に好ましくは0.6mm以下である。
【0044】
本実施形態の光学ガラスの一の主表面の面積は、ガラス板である場合においては、8cm以上が好ましい。この面積が8cm以上であれば、多数の光学素子を配置でき生産性が向上する。この面積はより好ましくは30cm以上であり、さらに好ましくは170cm以上であり、よりさらに好ましくは300cm以上であり、特に好ましくは1000cm以上である。一方で面積が6500cm以下であればガラス板の取り扱いが容易になり、ガラス板の取り扱い時や加工時の破損を抑制できる。この面積はより好ましくは4500cm以下であり、さらに好ましくは4000cm以下であり、よりさらに好ましくは3000cm以下であり、特に好ましくは2000cm以下である。
【0045】
また、本実施形態の光学ガラスの一の主表面の表面粗さRaは、2nm以下が好ましい。この範囲のRaとすると、一の主表面にインプリント技術等を用いて所望形状のナノ構造を形成でき、また所望の導光特性が得られる。このRaは、より好ましくは1.7nm以下であり、さらに好ましくは1.4nm以下、さらにより好ましくは1.2nm以下、特に好ましくは1nm以下である。ここで、表面粗さRaは、JIS B0601(2001年)で定義された算術平均粗さである。本明細書では、10μm×10μmの異なる3つのエリアを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した結果を平均した値である。
【0046】
また、本実施形態の光学ガラスのソラリゼーションは、3.0%以下が好ましい。これにより、光学ガラスを組み込んだ機器は、長期間の使用によってもカラーバランスが悪くなり難くなる。特に、使用温度が高いほどソラリゼーションはより大きく低減するため、車載用等、高温下で用いられる場合に、本実施形態の光学ガラスは特に有用となる。このソラリゼーションは、好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.3%以下、さらに好ましくは2.0%以下、である。なお、本明細書において「ソラリゼーション」とは、ガラスに紫外線を照射した場合の450nmにおける分光透過率の劣化量を表す。具体的には、日本光学ガラス工業改規格JOGIS04-1994「光学ガラスのソラリゼーショ
ンの測定方法」に従い、高圧水銀等の光を照射した前後の分光透過率をそれぞれ測定して求められる。
【0047】
[ガラス成分]
次に、本実施形態の光学ガラスが含有し得る各成分の組成範囲の一実施形態について詳細に説明する。本明細書において、各成分の含有量は、特に断りのない限り、酸化物基準のガラス母組成の全質量に対する質量%で示す。ここでガラス母組成は、以下に説明する熱線吸収成分、SbおよびSnOを除いた成分である。
【0048】
本実施形態の光学ガラスにおける高屈折率かつ光透過率が良好であって、さらに溶解性が高いという特性を満たす母組成としては、例えば、酸化物基準の質量%表示で、ガラス形成成分として、SiO、BおよびPからなる群から選ばれる少なくとも1種を5~80質量%、修飾酸化物としてMgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、LiO、NaO、KO、CsO、Ln(LnはY、La、Gd、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を合計で5~70質量%、中間酸化物としてAl、TiO、ZrO、WO、Bi、TeO、Ta、Nbからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を合計で0~50質量%、を含有する組成が挙げられる。
【0049】
このような光学ガラスの組成としては、具体的には、(1)La-B系、(2)SiO系、(3)P系の光学ガラスが挙げられる。なお、ガラス組成における含有量の説明で、単に「%」「ppm」との表記は、特に説明をしている場合を除き「質量%」「質量ppm」を意味する。
【0050】
(1)La-B系としては、例えば、母組成の合計を100%としたとき、Laを5~70%、Bを5~70%含有するガラスが例示できる。
【0051】
La成分を5%以上含有することで、所望の高屈折率にでき、且つ分散を小さく(アッベ数を大きく)できる。従って、La成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは15%、さらに好ましくは20%、さらに好ましくは30%を下限とする。
他方で、La成分の含有量を70%以下にすることで、ガラスの溶融性の低下を抑えられ、ガラスの耐失透性を高められる。従って、La成分の含有量は、好ましくは60%、より好ましくは50%、さらに好ましくは40%、さらに好ましくは30%を上限とする。
【0052】
は、ガラス形成成分であり、Bの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、5~70%が好ましい。
成分を5%以上含有することで、ガラスの耐失透性を高められ、且つガラスの分散を小さくできる。従って、B成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは20%、さらに好ましくは35%を下限とする。
他方で、B成分の含有量を70%以下にすることで、より大きな屈折率を得易くでき、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B成分の含有量は、好ましくは60%、より好ましくは50%、さらに好ましくは40%、さらに好ましくは30%を上限とする。
【0053】
MgOは任意成分である。MgOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%が好ましい。MgO成分を含有することで、ガラスの機械的強度を向上できる。MgOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは8%以上である。MgOの含有量が2
0%以下であれば失透温度を低くし、好ましい製造特性が得られる。MgOの含有量は、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは3%以下である。
【0054】
CaOは任意成分である。CaOの含有量は、母組成の合計100%としたとき、0~30%が好ましい。CaO成分を含有することで、ガラスの化学的耐久性を向上できる。CaOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。CaOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。CaOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0055】
SrOは任意成分である。SrOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%が好ましい。SrO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上できる。SrOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。SrOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。SrOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0056】
BaOは任意成分である。BaOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~40%が好ましい。BaO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上できる。BaOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。BaOの含有量が40%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。BaOの含有量は、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0057】
ZnOは任意成分である。ZnOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%が好ましい。ZnO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上できる。ZnOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。ZnOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。ZnOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0058】
LiOは任意成分である。LiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~15%が好ましい。LiOを含有させると、強度(Kc)およびクラック耐性(CIL)を向上できる。LiOの含有量は、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、特に好ましくは5%以上である。一方、LiOの含有量が15%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。LiOの含有量は好ましくは10%以下であり、より好ましくは7%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0059】
NaOは任意成分である。NaOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。NaOの含有量が20%以下であれば良好なクラック耐性が得られる。NaOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは7%以下であり、特に好ましくは5%以下である。本実施形態の光学ガラスがNaOを含有する場合、失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られ、その含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さら
に好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上である。
【0060】
Oは任意成分である。KOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。KOの含有量が20%以下であれば良好なクラック耐性が得られる。KOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。本実施形態の光学ガラスがKOを含有する場合、失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。その含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上である。
【0061】
また、本実施形態の光学ガラスにおいては、任意成分としてアルカリ金属成分(LiO+NaO+KO)を含有できる。LiO+NaO+KOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。LiO+NaO+KOが2%以上であれば、Tが低くなり易く、溶解温度が低くなり着色を抑えられる。LiO+NaO+KOは、好ましくは4%以上であり、より好ましくは6%以上であり、さらに好ましくは8%以上であり、特に好ましくは10%以上である。また、LiO+NaO+KOの含有量を20%以下にすることで失透温度を下げ好ましい製造特性が得られる。LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、特に好ましくは6%以下である。
【0062】
本実施形態の光学ガラスにおいて、アルカリ金属成分(LiO、NaO、KO)のなかでも、LiOは、ガラスの強度を向上させる成分であるが、その量が多いとTが低くなり易く失透し易くなる。そこで、本実施形態の光学ガラスでは、酸化物基準の質量%による比の値で、LiO/(LiO+NaO+KO)は0.45以下が好ましい。LiO/(LiO+NaO+KO)を0.45以下とすることで、Tが高くなりやすく、失透し難くなりガラスの易成形性が向上する。LiO/(LiO+NaO+KO)は、より好ましくは0.4以下であり、さらに好ましくは0.35以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
【0063】
CsOは任意成分である。CsOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。CsOの含有量が0%超であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。本実施形態の光学ガラスがCsOを含有する場合、その含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上である。一方、CsOの含有量が20%以下であれば良好なクラック耐性が得られる。CsOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。
【0064】
Ln(LnはY、La、Gd、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)は任意成分である。Lnの合量としての含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。Lnを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。Lnの合量としての含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、Lnの含有量が55%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。そのため、合量としての含有量は、好ましくは55%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0065】
Alは任意成分である。Alの含有量は、母組成の合計を100%とした
とき、0~55%以下である。Alを含有させると、ガラスの強度を高めるとともにガラスの安定性を向上できる。Alの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは8%以上である。
また、Alの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。Alの含有量は、好ましくは15%以下であり、よりAlの含有量10%以下であり、さらにAlの含有量8%以下であり、特にAlの含有量5%以下である。
【0066】
TiOは任意成分である。TiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。TiOを含有させると、ガラスの屈折率を高めるとともにガラスの安定性を向上できる。TiOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、TiOの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。TiOの含有量は、好ましくは35%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0067】
ZrOは任意成分である。ZrOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。ZrOを含有させると、ガラスの屈折率を高めるとともに化学耐久性を向上できる。ZrOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、ZrOの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。ZrOの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0068】
WOは任意成分である。WOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。WOを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。WOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、WOの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。WOの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0069】
Biは任意成分である。Biの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。Biを含有させる、ガラスの屈折率を向上できる。Biの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、Biの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。Biの含有量は、好ましくは35%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0070】
TeOは任意成分である。TeOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。TeOを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。TeOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、TeOの含有量が55%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。TeOの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0071】
Taは任意成分である。Taの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。Taを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。Taの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、Taの含有量が30%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。Taの含有量は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0072】
Nbは任意成分である。Nbの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。Nbを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。Nbの含有量は、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上であり、特に好ましくは30%以上である。
また、Nbの含有量が55%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。Nbの含有量は、好ましくは35%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0073】
(2)SiO系としては、例えば、SiOを10~70%含有し、高屈折率成分としてNb、Ta、LiO、SrO、BaO、TiO、ZrO、WO、Bi、TeOおよびLn(LnはY、La、Gd、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)からなる群から選ばれる少なくとも1種を1%以上含有するガラスが例示できる。
【0074】
SiOは、ガラス形成成分である。SiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、10~70%である。SiOの含有量が10%以上で、ガラスの粘性がlogη=2となる温度Tを好ましい範囲にし、ガラスに高い強度とクラック耐性を付与し、ガラスの安定性および化学的耐久性を向上できる。SiOの含有量は、好ましくは15%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。一方、SiOの含有量が70%以下で、高い屈折率を得るための成分を含有できる。SiOの含有量は、好ましくは60%以下であり、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは40%以下である。
【0075】
Nbは、任意成分である。Nbの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、5%以上とすることでガラスの屈折率を高めるとともに、アッベ数(v)を小さくできる。Nbの含有量は、より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは25%以上であり、特に好ましくは30%以上である。
【0076】
また、Nbの含有量が70%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。Nbの含有量は、好ましくは60%以下であり、より好ましくは55%以下であり、さらに好ましくは50%以下である。
【0077】
Taは任意成分である。Taの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。Taの含有量は、1%以上とすることで屈折率を向上できる。Taの含有量は、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、Taの含有量が30%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。Taの含有量は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0078】
また、本実施形態の光学ガラスにおいては、任意成分としてアルカリ金属成分(LiO+NaO+KO)を含有できる。LiO+NaO+KOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。LiO+NaO+KOが2%以上であれば、Tが低くなり易く、溶解温度が低くなり着色を抑えられる。LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは4%以上であり、より好ましくは6%以上であり、さらに好ましくは8%以上であり、特に好ましくは10%以上である。また、LiO+NaO+KOの含有量を20%以下にすることで失透温度を下げ、好ましい製造特性が得られる。LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、特に好ましくは6%以下である。
【0079】
本実施形態の光学ガラスにおいて、アルカリ金属成分(LiO、NaO、KO)のなかでも、LiOは、ガラスの強度を向上させる成分であるが、その量が多いとTが低くなり易く失透し易くなる。そこで、本実施形態の光学ガラスでは、酸化物基準の質量%による比の値で、LiO/(LiO+NaO+KO)は0.45以下が好ましい。LiO/(LiO+NaO+KO)を0.45以下とすることで、Tが高くなりやすく、失透し難くなりガラスの易成形性が向上する。LiO/(LiO+NaO+KO)は、より好ましくは0.4以下であり、さらに好ましくは0.35以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
【0080】
LiOは任意成分である。LiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~15%が好ましい。LiOを含有させると、強度(Kc)およびクラック耐性(CIL)を向上できる。LiOの含有量は、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、特に好ましくは5%以上である。一方、LiOの含有量が15%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。LiOの含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは7%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0081】
SrOは任意成分である。SrOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%が好ましい。SrO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上させることができる。SrOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。この含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。SrOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0082】
BaOは任意成分である。BaOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~50%が好ましい。BaO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上させることができる。より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。この含有量が50%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。BaOの含有量は、より好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0083】
TiOは任意成分である。TiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。TiOを含有させると、ガラスの屈折率を向上させ、ガラスの安定性を向上できる。TiOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、TiOの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑
えられる。TiOの含有量は、好ましくは35%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0084】
ZrOは任意成分である。ZrOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。ZrOを含有させると、ガラスの屈折率を向上させ、化学耐久性を向上できる。ZrOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、ZrOの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。ZrOの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0085】
WOは任意成分である。WOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。WOを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。WOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、WOの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。WOの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0086】
Biは任意成分である。Biの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。Biを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。Biの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、Biの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。Biの含有量は、好ましくは35%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0087】
TeOは任意成分である。TeOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。TeOを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。TeOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、TeOの含有量が55%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。TeOの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0088】
Ln(LnはY、La、Gd、Yb、およびLuからなる群から選ばれる1種以上である。)を含有することで、ガラスの屈折率を向上できる。Lnの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。一方、Lnの含有量が、母組成の合計を100%としたとき、55%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。Lnの含有量は、合計で、好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、特に好ましくは15%以下である。
【0089】
SiO系の好ましい組成(SiO系組成A)としては、酸化物基準の質量%表示で、Nb:5%~65%、BaO、TiO、ZrO、WO、およびLn(LnはY、La、Gd、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である)からなる群から選ばれる少なくとも1種を0%~30%、SiO:15%~50%、LiO+NaO+KOが2%~20%であり、LiO/(LiO+NaO+KO)が0.45以下を含有する高屈折率ガラス組成物が例示できる。当該高屈折率ガラスの具体的な組成としては、さらに次の成分を含有できる。B:0%~10%、MgO:0%~10%、CaO:0%~15%、SrO:0%~15%、BaO:0%~15%、LiO:0%~9%、NaO:0%~10%、KO:0%~10%、Al:0%~5%、TiO:0%~15%、WO:0%~15%、ZrO:0%~15%、ZnO:0%~15%。
【0090】
また、SiO系の別の好ましい他の組成(SiO系組成B)としては、酸化物基準の質量%表示で、SiO:25~40%、RO:0~10%、R’O:0~20%、LiO/R’O≦0.45、Ln:0~30%、Nb:20~55%を含有する高屈折率ガラス組成物が例示できる。また、SiO系の別の好ましい組成(SiO組成C)としては、酸化物基準の質量%表示で、SiO:15~30%、Nb:40~65%、RO:0~10%、R’O:0~20%、LiO/R’O≦0.45である高屈折率ガラス組成物が例示できる。別の好ましい組成(SiO系組成D)としては、酸化物基準の質量%表示で、SiO:25~40%、CaO:0~5%、SrO:3~10%、BaO:5~15%、LiO:4~8%、NaO:0.3~3%、RO>2×R’O、LiO/R’O:0.65~0.95、TiO:3~15%、ZrO:3~8%、Nb:10~30%を含有する高屈折率ガラス組成物が例示できる。なお、ここでROは、アルカリ土類金属成分(MgO、CaO、SrO、BaO)の合量を、R’Oはアルカリ金属成分(LiO、NaO、KO)の合量を表す。
【0091】
(3)P系としては、例えば、Pを10~70質量%含有し、高屈折率成分としてNb、Ta、LiO、SrO、BaO、TiO、ZrO、WO、Bi、TeOおよびLn(LnはY、La、Gd、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)からなる群から選ばれる少なくとも1種を1%以上含有するガラスが例示できる。
【0092】
はガラスを構成するガラス形成成分であり、ガラスに製造可能な安定性を持たせ、ガラス転移点と液相温度を小さくする作用が大きい。しかし、Pの含有量が、母組成の合計を100%としたとき、10%未満であると十分な効果が得られない。Pの含有量は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上である。また、Pの含有量が70%以下であれば、良好な化学的耐久性が得られる。Pの含有量は、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下、特に好ましくは50%以下である。
【0093】
なお、高屈折率成分については、上記(2)SiOと同一であるため、説明は省略する。
【0094】
また、本実施形態の光学ガラスには、上記母組成に加え熱線吸収成分を含有する。ここで熱線吸収成分としては、Cr、NiO、FeおよびPtが挙げられる。本実施形態においては、これらの熱線吸収成分の少なくとも1種が上記P valueを満たすように含有されていればよい。
【0095】
Crは、可視光域において、450nmと650nm付近の吸収係数が比較的大きい成分であり、550nmと750nm付近においても吸収係数を有する。そのため、熱線吸収特性を良好にするためには含有することが特に好ましい成分である。
【0096】
このCrの含有量は、光学ガラス中に好ましくは0.5ppm以上であり、より好ましくは1ppm以上であり、さらに好ましくは2ppm以上であり、特に好ましくは3ppm以上である。一方でCrの含有量を10ppm以下とすることで、ウェア
ラブル機器の使用時に可視光の吸収が抑えられ、内部透過率が向上する。そのため、この含有量は、好ましくは10ppm以下であり、より好ましくは8ppm以下であり、さらに好ましくは6ppm以下であり、特に好ましくは5ppm以下である。
【0097】
NiOは、可視光域において、450nm付近の吸収係数が比較的大きい成分である。そのため、熱線吸収特性を良好にするためには含有することが好ましい成分である。
【0098】
このNiOの含有量は、光学ガラス中に、好ましくは0.5ppm以上であり、より好ましくは1ppm以上であり、さらに好ましくは2ppm以上であり、特に好ましくは3ppm以上である。一方でNiOの含有量を10ppm以下とすることで、ウェアラブル機器の使用時に可視光の吸収が抑えられ、内部透過率が向上する。そのため、この含有量は、好ましくは10ppm以下であり、より好ましくは8ppm以下であり、さらに好ましくは6ppm以下であり、特に好ましくは5ppm以下である。
【0099】
Feは、可視光域において、450nm付近の吸収係数を有する成分である。Feの吸収係数は、本実施形態における熱線吸収成分としては低いが、ガラス中に不可避的に含有され、その含有量が比較的大きいため、熱線吸収特性を良好にできる。
【0100】
このFeの含有量は、全Feとして、光学ガラス中に、好ましくは2ppm以上であり、より好ましくは4ppm以上であり、さらに好ましくは7ppm以上であり、特に好ましくは10ppm以上である。一方でFeの含有量を40ppm以下とすることで、ウェアラブル機器の使用時に可視光の吸収が抑えられ、内部透過率が向上する。そのため、この含有量は、好ましくは40ppm以下であり、より好ましくは35ppm以下であり、さらに好ましくは30ppm以下であり、特に好ましくは25ppm以下である。
【0101】
Ptは、可視光域において、450nm付近の吸収係数が比較的大きい成分であり、550nm付近においても吸収係数を有する。そのため、熱線吸収特性を良好にするために好ましい成分である。
【0102】
このPtの含有量は、光学ガラス中に、好ましくは0.5ppm以上であり、より好ましくは1ppm以上であり、さらに好ましくは2ppm以上であり、特に好ましくは3ppm以上である。一方でPtの含有量を10ppm以下とすることで、ウェアラブル機器の使用時に可視光の吸収が抑えられ、内部透過率が向上する。そのため、この含有量は、好ましくは10ppm以下であり、より好ましくは6ppm以下であり、さらに好ましくは4ppm以下であり、特に好ましくは2ppm以下である。
【0103】
ただし、これらの熱線吸収成分は、一般に着色成分であり、光学ガラスにおいて内部透過率を低減させる成分ともなるため、過度に含有しないように配合する。
【0104】
さらに本実施形態の光学ガラスには、SbおよびSnOのうちの少なくとも一種が含有されることが好ましい。これらは必須の成分ではないが、屈折率特性の調整、溶融性の向上、着色の抑制、透過率の向上、清澄、化学的耐久性の向上などの目的で添加できる。これらの成分を含有させる場合、それらの含有量は、合計で、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下である。
【0105】
本実施形態のガラス基板は、ガラス基板の少なくとも一方の主表面上に、反射防止膜、反射膜、紫外線吸収膜、赤外線吸収膜等の膜を設けてもよい。これらの膜は、ガラス基板の一方の主表面上のみに備えられてよいし、両方の主表面上に備えられてもよい。
【0106】
これらの膜はいずれも公知の膜とすればよく、例えば、反射防止膜は、ガラス基板よりも屈折率の低い材料を単層で成膜したものや、高屈折率膜と低屈折率膜とを交互に積層した構成としたもの等が挙げられる。なお、ここでいう高屈折率膜とは、波長550nmでの屈折率が1.9以上の膜であり、低屈折率層膜とは、波長550nmでの屈折率が1.6以下の膜である。
【0107】
[光学ガラスおよびガラス成形体の製造方法]
本実施形態の光学ガラスは、例えば以下のように製造される。
すなわち、まず、上記所定のガラス組成となるように原料を秤量し、均一に混合する。得られた原料混合物を、連続溶解炉に投入し、バーナーにより加熱して原料混合物を溶解し、脱泡、撹拌などにより均質化した後、連続溶解炉から流出させ、冷却し、固化させて本実施形態の光学ガラスが得られる。
【0108】
さらに、この光学ガラスは、溶融したガラスをフロート法、フュージョン法、ロールアウト法といった成型方法によって板状に成形すればガラス板にできる。また、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等の手段を用いて、ガラス成形体を作製できる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のレンズプリフォームを作製し、このレンズプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したレンズプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりできる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0109】
また、溶融方法についても、上記連続溶融法が適しているが、それ以外にも、従来公知の方法により光学ガラスとしてもよい。例えば、原料を混合して得た混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融し、その後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝、強化白金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1200~1400℃の温度範囲で2~10時間溶融し、脱泡、撹拌などにより均質化して泡切れ等を行った後、金型に鋳込んで徐冷して光学ガラスにもできる。
【0110】
このようにして作製されるガラス板やガラス成形体のような光学部材は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、(1)ウェアラブル機器、例えばプロジェクター付きメガネ、眼鏡型やゴーグル型ディスプレイ、仮想現実拡張現実表示装置、虚像表示装置などに使われる導光体、フィルターやレンズ等、(2)車載用カメラ、ロボット用視覚センサーに使われるレンズやカバーガラス等に好適に用いられる。車載用カメラのような過酷な環境に曝される用途であっても好適に用いられる。また、有機EL用ガラス基板,ウエハーレベルレンズアレイ用基板、レンズユニット用基板、エッチング法によるレンズ形成基板、光導波路といった用途にも好適に用いられる。
【0111】
以上説明した本実施形態の光学ガラスは高屈折率かつ低密度であるとともに、製造特性が良好であり、ウェアラブル機器、車載用、ロボット搭載用、の光学ガラスとして好適である。
【実施例0112】
表1~3に示す化学組成(酸化物換算の質量%)となるように原料を秤量した。原料は、いずれも、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、水酸化物、メタリン酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定して使用した。なお、清澄剤(Sb)および熱線吸収成分については、酸化物として添加した上、得られたガラス中の上記成分の含有量をICP質量分析法にて分析し光学ガラス全体に対する質量比として得られた値を記載した。Ptについては、ICP質量分
析法にて分析し光学ガラス全体に対するPt元素の質量比として得られた値を記載した。なお、Ptは溶解に用いた白金容器から溶出したPtも含まれる。ICP質量分析法を用いた微量成分は、Agilent Technologies製のICP質量分析装置(Agilent 8800)から求めた。なお熱線吸収成分については、製造ライン中のSUS部材等から混入する成分も、上記のように意図的に添加された成分と同様の効果を示す。
【0113】
秤量した原料を均一に混合し、白金容器内に入れて、約1400℃で約5時間溶融、清澄、撹拌後、およそ650℃に予熱した縦50mm×横100mmの長方形のモールドに鋳込み後、約1℃/分で徐冷して例1~19のサンプルとした。
【0114】
[特性]
上記で得られた各サンプルについて、ガラス転移点(Tg)、熱膨張係数(α)、比重(d)、屈折率(n)、内部透過率、吸光度、P valueを次のように測定した。得られた結果を表1~2に併せて示した。なお、空欄は未測定の特性である。
【0115】
ガラス転移点(Tg):示差熱膨張計(TMA)を用いて測定した値(℃)であり、JIS R3103-3(2001年)により求めた。
【0116】
熱膨張係数(α):示差熱膨張計(TMA)を用いて30~350℃の範囲における線熱膨張係数を測定し、JIS R3102(1995年)により30~350℃の範囲における平均線熱膨張係数(×10-7/K)を求めた。
【0117】
比重(d):JIS Z8807(1976、液中で秤量する測定方法)に準じて測定した。
【0118】
屈折率(n):サンプルのガラスを一辺が30mm、厚さが10mmの三角形状プリズムに加工し、屈折率計(Kalnew社製、機器名:KPR-2000)により測定した。
【0119】
内部透過率・吸光度:波長450nm、550nm、650nmおよび750nmの各測定波長において、厚さ1mmと厚さ10mmのサンプルについて各透過率T1mm、T10mmを測定し、上記式(2)を用いて、これらの透過率から各測定波長における内部透過率および吸光度を算出した。なお、透過率の測定は、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 U-4100)を用いて行った。
【0120】
P value:上記測定で得られた吸光度とプランクの放射則(1300℃)における、波長450nm、550nm、650nm、750nmの放射輝度から、上記式(1)によりP valueを各例の光学ガラスに対して算出した。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【0124】
上記各実施例(例1~13)の光学ガラスは、いずれも、屈折率(n)が1.64以上と高屈折率である。また、これら光学ガラスは、P valueが7~10の範囲にあるため製造特性が良好であり、さらに、450nm~750nmにおける内部透過率が91%以上である。そのため、ウェアラブル機器や車載用カメラやロボット用視覚に用いられる光学ガラスに好適である。
【0125】
一方、比較例である例14~17のガラスは屈折率に劣り、例18~19のガラスは屈折率が良好であるが、内部透過率が若干劣る。
【0126】
以上より、本実施例の光学ガラスは、高屈折率かつ低密度であるとともに、製造特性が良好であり、ウェアラブル機器、車載用、ロボット搭載用、等の光学ガラスとして好適である。
図1