(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090046
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】上限臨界溶液温度を有する組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20220609BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20220609BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220609BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220609BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20220609BHJP
A61Q 1/10 20060101ALI20220609BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/02
A61K47/32
A61Q19/00
A61Q1/00
A61Q1/10
A61K9/06
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070697
(22)【出願日】2022-04-22
(62)【分割の表示】P 2017092520の分割
【原出願日】2017-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2016094038
(32)【優先日】2016-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 千恵
(72)【発明者】
【氏名】奥山 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】内山 聖一
(57)【要約】
【課題】化粧料又は皮膚外用剤として使用するために適した上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する組成物を提供すること。
【解決手段】モノマー質量仕込み比の異なるアクリルアミドとアクリロニトリルとの6種類の共重合体の水溶液の上限臨界溶液温度を決定後、各共重合体を含む水溶液に陰イオン性界面活性剤等の界面活性剤を添加したところ、いずれの共重合体の混合溶液においても上限臨界溶液温度が低下した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料又は皮膚外用剤として使用するための、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する組成物。
【請求項2】
共重合体が、モノマー質量仕込み比アクリルアミド:アクリロニトリルが77.5:22.5~85:15であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
共重合体が、8000~200000の重量平均分子量を有することを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
共重合体が、ランダム共重合体であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の組成物。
【請求項5】
ランダム共重合体が、フリーラジカル重合によって合成されたランダム共重合体であることを特徴とする請求項4記載の組成物。
【請求項6】
ランダム共重合体が、RAFT重合によって合成されたランダム共重合体であることを特徴とする請求項4記載の組成物。
【請求項7】
ドデシル硫酸ナトリウム1~20mMを添加した場合に温度感受性を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の組成物。
【請求項8】
界面活性剤を含まない1w/v%水溶液における光透過率-温度カーブの微分曲線の最大値が50d%T/dT以上であることを特徴とする請求項6又は7記載の組成物。
【請求項9】
アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する組成物からなる化粧料又は皮膚外用剤に、界面活性剤を接触させることを特徴とする上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を低下させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度を有する組成物の用途に関し、より詳細には、化粧料又は皮膚外用剤として使用するための上記組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料は、なめらかなのに密着する、化粧もちが良いのに落としやすいなど、しばしば真逆の性能を併せもつことが要求される。例えば、フィルムマスカラに用いられる高分子重合体について、水では落ちないがお湯では落ちる等、ある特定の刺激に応答して機能を発現することが求められている。
【0003】
上記刺激としては、温度の他、pH、光等が知られているが、温度によって構造変化を起こす温度応答性重合体として、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が周知であり、ポリ(N-アクリロイルグリシンアミド)等についての報告(例えば、非特許文献1参照)等もある。かかる温度応答性重合体について化粧料への配合検討が行われてきたが、化粧料への応用が進められているとは言い難い。その理由の一つとして、機能発現を望まない場面でも、当該温度刺激によって性質が変化してしまうことが挙げられる。例えば、温度応答性重合体が配合された製品では、高温の環境で性質が変わることにより品質の安定性が損なわれるおそれがあるとされている。
【0004】
一方、ポリアクリルアミドが水に溶解し、ポリアクリロニトリルがN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性溶媒にのみ溶解し、DMSO-H2Oは自由に混ざり合うこと等から、アクリルアミド(AAm)とアクリロニトリル(AN)との共重合体の溶解性について検討が行われており、AAm/AN組成比=0/100~100/0の間の範囲にわたり共重合体の合成が行われ、得られた共重合体の組成分析を赤外及び紫外吸収スペクトル法や比重法等により行うとともに各種溶媒への溶解性が測定されている(例えば、非特許文献2参照)。また、アクリルアミド(AAm)とアクリロニトリル(AN)との共重合体の水溶液は、上限臨界溶液温度を有し、AAm/AN組成比を変更することにより、上限臨界溶液温度を調整できることが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
他方、化粧料や皮膚外用剤を使用する際には、効果の持続時間や使用目的を考慮して、一定時間後に洗い流す必要がある場合が多いが、洗顔を行うために適した水の温度については、様々な意見がある。例えば、肌温度よりも少し高い40℃前後のお湯を用いる洗顔を行うと、毛穴が開いて化粧料等をよく落とすことができるため、汚れ落ちという点では優れているが、必要以上に皮脂や水分が肌から失われるおそれがあるとされている。それに対して冷水による洗顔は、毛穴をひきしめることができるが、毛穴に化粧料等が詰まった状態のままになるおそれもあるとされている。また、熱帯地域、寒冷地域、水中等特殊な環境においても化粧料や皮膚外用剤を維持又は容易に落とすことが必要な場合があり、化粧料や皮膚外用剤として使用される組成物は、幅広い温度範囲において対応できることも要求されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Howard C. H.,Norman W. S., Polymer letters vol.2 (1964)
【非特許文献2】高橋他、工業化学雑誌70巻6号(1967)988-992頁
【非特許文献3】Seuring et al., Macromolecules 2012, 45, 3910-3918
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、化粧料又は皮膚外用剤として使用するために適した上限臨界溶液温度を有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アクリルアミド(AAm)とアクリロニトリル(AN)とをモノマーとして使用し、モノマー質量仕込み比([(AAm):(AN)])を様々に変更することにより、アクリルアミドとアクリロニトリルとのランダム共重合体([poly(AAm-co-AN)])をフリーラジカル重合により6種類合成した。かかる6種類の共重合体を水に溶解して、各共重合体含有水溶液について降温及び昇温を行い、光透過率の変化を測定することにより、各共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度を決定したところ、[(AAm):(AN)]におけるANの比率が増加するにつれて、共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度が上昇することを確認した。次に、上記6種類の[poly(AAm-co-AN)]含有水溶液に界面活性剤を添加したところ、各共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度が低下することを見いだした。そこで、各共重合体が界面活性剤含有水溶液に溶解している場合に、水溶液に溶解している場合と比較して上限臨界溶液温度がどれほど低下するかを確認した。
【0009】
次いで、可逆的付加開裂連鎖移動(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer:RAFT)重合により[poly(AAm-co-AN)]を6種類合成し、各共重合体を水に溶解した各共重合体含有水溶液について降温及び昇温を行い、光透過率の変化を測定することにより、各共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度を決定した。RAFT重合により合成された[poly(AAm-co-AN)]含有水溶液は、フリーラジカル重合により合成された場合と比較して水溶液中における単位温度当たりの透過率変化が大きいことを見いだし、したがって水溶液の温度応答の感度が高くなることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の事項により特定されるとおりのものである。
[1]化粧料又は皮膚外用剤として使用するための、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する組成物。
[2]共重合体が、モノマー質量仕込み比アクリルアミド:アクリロニトリル=77.5:22.5~85:15であることを特徴とする前記[1]記載の組成物。
[3]共重合体が、8000~200000の重量平均分子量を有することを特徴とする前記[1]又は[2]記載の組成物。
[4]共重合体が、ランダム共重合体であることを特徴とする前記[1]~[3]のいずれか記載の組成物。
[5]ランダム共重合体が、フリーラジカル重合によって合成されたランダム共重合体であることを特徴とする前記[4]記載の組成物。
[6]ランダム共重合体が、可逆的付加開裂連鎖移動重合によって合成されたランダム共重合体であることを特徴とする前記[4]記載の組成物。
[7]ドデシル硫酸ナトリウム1~20mMを添加した場合に温度感受性を有することを特徴とする前記[1]~[6]のいずれか記載の組成物。
[8]界面活性剤を含まない1w/v%水溶液における光透過率-温度カーブの微分曲線の最大値が50d%T/dT以上であることを特徴とする前記[6]又は[7]記載の組成物。
[9]アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する組成物からなる化粧料又は皮膚外用剤に、界面活性剤を接触させることを特徴とする上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を低下させる方法。
また、本発明の他の態様として、[10]アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する化粧料又は皮膚外用剤、[11]化粧料又は皮膚外用剤を製造するための、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する組成物の使用、[12]化粧料成分又は皮膚外用剤成分に、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を配合することを特徴とする上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する化粧料又は皮膚外用剤の製造方法、[13]化粧料又は皮膚外用剤として使用するための、上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有するアクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化粧料又は皮膚外用剤として使用するための組成物は、上限臨界溶液温度を有するアクリルアミドとアクリロニトリルとのポリマーと、化粧料成分又は皮膚外用剤成分とを含む化粧料や皮膚外用剤であり、上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有することから、水や汗によっては落ちない(溶解しない)が、温水で容易に落とす(溶解させる)ことが可能となる。また、本発明の組成物によると、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体が溶解している水溶液に界面活性剤を添加することにより上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を低下させることができるので、用途や使用温度環境に合わせて洗浄効果の高い化粧料や皮膚外用剤を提供することができ、例えば、特定の温度の水で洗った場合は溶解性を示さないが、界面活性剤を含む洗浄料を用いて水で洗顔する場合には、上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度がより低くなるため、上記特定の温度においても組成物中の重合体が容易に溶解して、従来よりも低い温度で洗顔することができるため肌への負担が少なくなる。
【0012】
また、本発明の組成物によると、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体が溶解している水溶液に、汗に含まれる塩(例えば、NaCl)を添加することにより上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度は低下しないため、汗によっては化粧料が除去されることがなく、洗浄したいときにのみ効果的に化粧料や皮膚外用剤を除去することができる。
【0013】
さらに、本発明の組成物におけるアクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体として、フリーラジカル重合に代えてRAFT重合によって合成されたランダム共重合体を用いる場合、組成物溶液の温度応答の感度が高くなる、すなわち単位温度当たりの組成物溶液の透過率変化が大きくなることから、洗浄に用いる水中の界面活性剤の濃度が非常に低い場合又は界面活性剤が含まれていない場合においても、化粧料等が特定の狭範囲の温度で容易に溶解することにより洗浄効果が顕著に高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】アクリルアミドとアクリロニトリルのモノマー質量仕込み比([(AAm):(AN)])が異なる、ランダム共重合体(poly(AAm-co-AN))(以下、単に[poly(AAm-co-AN)]ともいう。)であって、フリーラジカル重合により合成された6種類の[poly(AAm-co-AN)](F1~F6)について、それぞれの1w/v%水溶液の光透過率(縦軸)と溶液の温度(横軸)とをプロットしたグラフを示す。
【
図2】F1~F6について、それぞれの1w/v%水溶液に終濃度100mMのドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate:SDS)を添加した混合溶液について、光透過率と溶液の温度とをプロットしたグラフを示す。
【
図3】フリーラジカル重合により合成された[Poly(AAm-co-AN)][82.5:17.5](F3)の1w/v%水溶液に終濃度5mM、10mM、15mM、20mM、30mM及び100mMのSDSを添加した各混合溶液の光透過率と溶液の温度とをプロットしたグラフを示す。
【
図4】F1~F6について、それぞれの1w/v%水溶液に終濃度100mMのセチルトリメチルアンモニウムクロライド(cetyltrimethylammonium chloride:CTAC)を添加した混合溶液の光透過率と溶液の温度をプロットしたグラフを示す。
【
図5】F1~F6について、それぞれの1w/v%水溶液に終濃度100mMのNaClを添加した混合溶液の光透過率と溶液の温度とをプロットしたグラフを示す。
【
図6】RAFT重合により合成された[Poly(AAm-co-AN)][82.5:17.5]であって、Mwが12400であるR1の共重合体の、1w/v%水溶液及び0.1w/v%水溶液について、透過率と溶液の温度とをプロットしたグラフ(A)及び(A1)と、それらの微分曲線(a)及び(a1)に示す。また、F1の共重合体の1w/v%水溶液及び0.1w/v%水溶液について、透過率と溶液の温度とをプロットしたグラフ(F)及び(F1)と、それらの微分曲線(f)及び(f1)に示す。
【
図7】RAFT重合により合成された重量平均分子量(Mw)が異なる4種類の[Poly(AAm-co-AN)][82.5:17.5](R1~R4)について、それぞれの1w/v%水溶液の光透過率と溶液の温度とをプロットしたグラフ(A)~(D)と、それらの微分曲線をそれぞれ(a)~(d)に示す。
【
図8】R5、R2、R6、及びR5とR6とが1:1の混合物の共重合体の水溶液の透過率と溶液の温度とをプロットしたグラフ(E)、(B)、(G)、(H)とそれらの微分曲線をそれぞれ(e)、(b)、(g)、(h)に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の組成物としては、化粧料又は皮膚外用剤として使用するための、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する組成物であれば特に制限されず、組成物には、前記共重合体の他、化粧料成分や皮膚外用剤成分が含まれる。また、本発明の化粧料又は皮膚外用剤の上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を低下させる方法としては、アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含む上限臨界溶液温度を有する組成物に、陰イオン性界面活性剤等の界面活性剤を接触させる方法であれば特に制限されない。本発明において「化粧料又は皮膚外用剤として使用するための・・・組成物」とは、化粧料又は皮膚外用剤に用途が限定された組成物の用途発明であることを意味し、また「上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する組成物」とは、組成物を含む溶液が、特定の条件下で上限臨界溶液温度を有する、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有することになる組成物を意味する。
【0016】
上記アクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体としては、下記式(1)で示されるアクリルアミドと、下記式(2)で示されるアクリルニトリルとを、モノマーとして重合することにより合成される共重合体(poly(acrylamide-co-acrylonitrile) )(poly(AAm-co-AN))を挙げることができ、上記共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれでもよいが、官能基の均一分散性という点から下記式(3)で示されるランダム共重合体が好ましい。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
上記ランダム共重合体(poly(AAm-co-AN))の合成方法としては、ラジカルを反応中心としてポリマー鎖が伸張していくラジカル反応を挙げることができ、具体的には、幅広い分子量分布を有するポリマーが得られるフリーラジカル重合による合成方法や、ラジカル重合の簡便性と汎用性を保ちつつ、分子構造の制御を可能にするリビングラジカル重合による合成方法、なかでも、分子量分布(Mw/Mn)がより小さい共重合体を製造できるRAFT重合による合成方法を挙げることができる。
【0021】
上記フリーラジカル重合による合成方法としては、アクリルアミドとアクリルニトリルとをモノマーとして用いて共重合させるために、重合温度にて十分にラジカルを発生させる重合開始剤と、重合反応に適した溶媒とを用いる、従来公知の方法を挙げることができ、合成された共重合体の反応溶液には未反応のモノマー等の夾雑物が共存しているので、精製処理をさらに行うことにより、[poly(AAm-co-AN)]を調製することが好ましい。
【0022】
上記RAFT重合による合成方法としては、アクリルアミドとアクリルニトリルとをモノマーとして用いて共重合させるために、重合温度にて十分にラジカルを発生させる重合開始剤と、重合反応に適した溶媒と、さらに末端活性ラジカルの反応性を制御して擬似リビング的に重合を進行させるための、可逆的付加開裂連鎖移動剤(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer:RAFT剤)とを用いる、従来公知の方法を挙げることができる。
【0023】
上記共重合体のアクリルアミドとアクリロニトリルのモノマー質量仕込み比[(AAm):(AN)]としては、1:99~99:1が好ましく、50:50~95:5が好ましく、70:30~90:10がより好ましく、77.5:22.5~85:15が最も好ましい。なお、本発明の効果を奏する限りにおいて、他のモノマー成分を用いることもできる。
【0024】
上記重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物系重合開始剤;などを挙げることができる。
【0025】
上記重合反応に適した溶媒としては、DMSO、水、DMF等を挙げることができる。
【0026】
上記RAFT剤としては、O-エチル-S-(1-フェニルエチル)ジチオカーボネート、O-エチル-S-(2-プロポキシエチル)ジチオカーボネート、O-エチル-S-(1-シアノ-1-メチルエチル)ジチオカーボネート等のジチオカーボネート類、ジチオプロピオン酸シアノエチル、ジチオプロピオン酸ベンジル、ジチオ安息香酸ベンジル、ジチオ安息香酸アセトキシエチル等のジチオエステル類、S-ベンジル-N,N-ジメチルジチオカルバメート、ベンジル-1-ピロールカルボジチオエート等のジチオカルバメート類、ジベンジルトリチオカーボネート、シアノメチルドデシルトリチオカーボネート(cyanomethyl dodecyl trithiocarbonate:CMDT)等のトリチオカーボネート類などを挙げることができる。
【0027】
RAFT重合における、モノマーの総モル数を1とした場合のRAFT剤の配合モル数としては、好ましくは0.0001~0.01、より好ましくは0.0002~0.005、さらに好ましくは0.0003~0.003を挙げることができる。
【0028】
本発明の[poly(AAm-co-AN)]の、フリーラジカル重合による具体的な調製方法としては、アクリロニトリルをDMSOに溶解し、アクリルアミドを添加した溶液を脱気して開始溶液とし、AIBN等の開始剤を加えて、50~70℃にて5~10時間反応させる方法(上記非特許文献1参照)や、各割合のアクリロニトリルとアクリルアミドとを脱酸素水に添加し、過硫酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウムに硫酸第一鉄アンモニウム溶液等の開始剤を加えて、窒素気流中、40℃にて10分間重合させ、重合反応物は、反応停止後、すぐにメタノール又は水に落として沈殿させ、得られた沈殿物を、洗浄、乾燥後、アクリロニトリルとアクリルアミドの割合に応じてDMSO又は水に溶解し、メタノールに再沈殿させて精製する方法(SEN-I GAKAISHI、Vol.32, No.1(1976)参照)を挙げることができる。そしてまた、仕込モノマー組成を、0.25molのAN+AAm、0.3%/モノマーのK2S2O8、0.78%/モノマーのNaHSO3、酢酸0.05mL、203mLのH2Oとし、重合時間1~3時間、重合温度40℃とするAAm/AN=0/100~30/70モル組成の共重合体や、仕込組成を、0.146molのAN+AAm、0.0485%/モノマーのK2S2O8、88mLのH2O、1.54mLのイソプロパノールとし、重合時間2時間、重合温度50℃とするAAm/AN=70/30~100/0モル組成の共重合体や、仕込組成を、0.25molのAN+AAm、0.14%/モノマーのBPO、50mLのDMFとし、重合時間1~4時間、重合温度60℃とするAAm/AN=0/100~100/0モル組成の共重合体を合成し、DMF、水、メタノール、エタノール等適切な精製用溶媒を用いて精製する方法(上記非特許文献2参照)などを挙げることができる。
【0029】
本発明における[poly(AAm-co-AN)]の、RAFT重合による具体的な調製方法としては,アクリルアミドやアクリロニトリル等のモノマーをDMSOに溶解し、CMDT等のRAFT剤を加えて脱気して開始溶液とし、AIBN等の開始剤を開始溶液に添加し、60~80oCにて2~7時間反応させた後、室温まで冷却し、冷却された反応溶液をメタノールに注ぎ、析出した共重合体を30~50℃で12~48h程度乾燥する方法(Polym.Chem. 2016,7,1979-1986等)を例示することができる。
【0030】
なお、アクリロニトリルは揮発性が高く、脱気中に揮発する恐れがある。このため、仕込み量に近い組成比の共重合体、すなわち、目的の上限臨界溶液温度を有する共重合体を得るためには、アクリロニトリルは反応溶液を加温し重合反応を開始させる直前に、ガスタイトシリンジ等を用いて加えることが望ましい。
【0031】
本発明における[poly(AAm-co-AN)]の重量平均分子量(Mw)としては、フリーラジカル重合による共重合体[poly(AAm-co-AN)]の場合、8000~200000を挙げることができ、25000~175000が好ましく、50000~150000がより好ましく、85000~120000がさらに好ましく、RAFT重合による共重合体[poly(AAm-co-AN)]の場合、8000~200000を挙げることができ、8500~100000が好ましく、9000~90000がより好ましい。上記重量平均分子量の算出方法としては、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、標準物質を用いて検量線を作成の上、算出する方法を挙げることができる。
【0032】
本発明におけるpoly(AAm-co-AN)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)としては、1.0~5.0が好ましく、1.1~4.5がより好ましい。さらに、フリーラジカル重合による[poly(AAm-co-AN)]の場合、1.5~3.0を好適に挙げることができ、また、RAFT重合による[poly(AAm-co-AN)]の場合、1.1~2.0をそれぞれ好適に例示することができる。
【0033】
本発明の組成物を共重合体とともに構成する上記化粧料成分又は皮膚外用剤成分としては、化粧料又は皮膚外用剤に一般に用いられる成分、例えば、アルコール類、保湿剤、ゲル化剤、粉体、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、pH調整剤、美肌用成分、香料、水等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0034】
上記アルコール類としては、例えばエタノール、イソプロパノール等の低級アルコールや、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、エリスリトール等の多価アルコールや、ソルビトール、マルトース、キシリトール、マルチトール等の糖アルコールや、コレステロール、シトステロール、フィトステロール、ラノステロール等のステロール類などを挙げることができる。上記保湿剤としては、例えば、尿素、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ピロリドンカルボン酸塩等を挙げることができる。
【0035】
上記ゲル化剤としては、皮膚外用剤又は化粧料に一般に用いられる水性ゲル化剤又は油性ゲル化剤であれば特に制限されず、例えば、水性ゲル化剤としては、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、キャロブガム、グァーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード(マルメロ等由来の)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ等由来の)、アルゲコロイド、トラントガム、ローカストビーンガム等の植物系高分子や、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子や、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子や、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子や、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系高分子や、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子や、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系高分子や、ポリエチレングリコール、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等の無機系ゲル化剤増粘剤などを挙げることができ、油性ゲル化剤としては、アルミニウムステアレート、マグネシウムステアレート、ジンクミリステート等の金属セッケンや、N-ラウロイル-L-グルタミン酸、α,γ-ジ-n-ブチルアミン等のアミノ酸誘導体や、デキストリンパルミチン酸エステル、デキストリンステアリン酸エステル、デキストリン2-エチルヘキサン酸パルミチン酸混合エステル等のデキストリン誘導体や、脂肪酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステルや、モノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール等のソルビトールのベンジリデン誘導体や、ジメチルベンジルドデシルアンモニウムモンモリロナイトクレー、ジメチルジオクタデシルアンモニウムモンモリロナイトクレー等の有機変性粘土鉱物などを挙げることができる。
【0036】
上記粉体としては、例えば、無機粉体、有機粉体、金属石鹸粉末、有色顔料、パール顔料、金属粉末、タール色素、天然色素等を挙げることができ、その粒子形状(球状、針状、板状等)や、粒子径(煙霧状、微粒子、顔料級等)や、粒子構造(多孔質、無孔質等)を問わない。これらの粉体はそのまま使用してもよいが、2種以上の粉体を複合化したものを用いてもよく、油剤、シリコーン化合物、フッ素化合物等で表面処理を施してもよい。
【0037】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、パラアミノ安息香酸等の安息香酸系紫外線吸収剤や、アントラニル酸メチル等のアントラニル酸系紫外線吸収剤や、サリチル酸メチル等のサリチル酸系紫外線吸収剤や、パラメトキシケイ皮酸オクチル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤や、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤や、ウロカニン酸エチル等のウロカニン酸系紫外線吸収剤などを挙げることができる。
【0038】
上記防腐剤や抗菌剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール、サリチル酸、石炭酸、パラクロルメタクレゾール、ヘキサクロロフェン、塩化ベンザルコニウム、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、感光素、イソプロピルメチルフェノール等を挙げることができる。上記酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン等を挙げることができる。
【0039】
上記pH調整剤としては、例えば、乳酸、乳酸塩、クエン酸、クエン酸塩、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等を挙げることができる。
【0040】
上記美肌用成分としては、例えば、アルブチン、グルタチオン、ユキノシタ抽出物等の美白剤や、ロイヤルゼリー、感光素、コレステロール誘導体等の細胞賦活剤・肌荒れ改善剤や、ノニル酸ワレニルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β-ブトキシエチルエステル、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、α-ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ-オリザノール等の血行促進剤や、酸化亜鉛、タンニン酸等の皮膚収斂剤や、イオウ、チアントロール等の抗脂漏剤などを挙げることができる。
【0041】
本発明の化粧料又は皮膚外用剤として使用するための組成物は、上限臨界溶液温度を有するアクリルアミドとアクリロニトリルとの共重合体を含むことから、本発明の組成物を含む溶液(組成物溶液)は、上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する。かかる組成物を含む溶液における溶媒としては、例えば毛髪、まつ毛、まゆ毛等の体毛、皮膚、唇、爪などに塗布された化粧料や皮膚外用剤を洗浄するための溶媒を挙げることができ、具体的には水や洗浄水を挙げることができ、かかる洗浄水としては水に上限臨界溶液温度を低下させる界面活性剤が添加された混合溶媒である洗浄水を挙げることができる。また、本発明の効果を奏する限りにおいて、他の洗浄成分等をさらに含めることができる。上限臨界溶液温度、もしくは、急激に溶解度が上昇する温度を有する本発明の組成物を含む溶液は、透過率が100%である清澄な溶液から、光透過率が0%である懸濁液を含む。
【0042】
上記水としては、化粧料や皮膚外用剤を洗浄するために使用可能な水であれば特に制限されず、水道水、天然水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、ミリQ水等の超純水等を例示することができる。
【0043】
上記界面活性剤としては、SDS、デオキシコール酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤;CTAC、塩化ベンザルコニウム等の陽イオン性界面活性剤;を挙げることができるが、陰イオン性界面活性剤を好適に挙げることができる。
【0044】
上記界面活性剤の濃度としては、洗浄剤やすすぎ液に含まれうる通常の濃度であれば特に制限されず、0mM超、5mM以上、10mM以上、15mM以上、20mM以上、30mM以上、100mM以上を例示することができ、例えば、1~20mMを好適に例示することができる。
【0045】
本発明における組成物の上限臨界溶液温度、もしくは急激に溶解度が上昇する温度の決定方法としては、例えば、上記組成物を1w/v%の割合で水に溶解した組成物溶液を冷却し、次いで冷却組成物溶液の温度を1分あたり0.3~2.0℃のいずれかの割合で上昇させ、該組成物溶液の光透過率を0.5℃毎に測定した場合に、1)得られた透過率-温度曲線において、透過率の変化している直線部分と、清澄状態の水溶液の透過率(100%)を表す水平線の交点の温度を、上限臨界溶液温度として決定する方法や、2)得られた透過率-温度曲線において、透過率が急激に上昇した温度を、急激に溶解度が上昇する温度として決定する方法が挙げられる。上記冷却組成物溶液の温度の上昇速度の割合は、各組成物を含む溶液の透過率の変化の大小に合わせて適宜決定することができる。
【0046】
上記光透過率の測定方法としては、上記組成物溶液中の光透過率の変化を測定するために適した波長の光を用いて測定する方法であれば特に制限されず、上記波長としては、可視光域の波長が好ましく、具体的には、650~700nm、好ましくは660~680nmの波長を挙げることができる。光透過率を測定する際のセルホルダ内の温度の維持は、温度コントローラー等の温度制御装置を用いて行うことができる。
【0047】
本発明の組成物における上限臨界溶液温度は、化粧料や皮膚外用剤の使用態様や洗浄条件に適している範囲において特に限定されず、組成物の上限臨界溶液温度としては、10~70℃を挙げることができ、20~60℃が好ましく、30~50℃がさらに好ましく、中でも35~45℃が特に好ましい。また、かかる化粧料や皮膚外用剤用を構成する本発明の組成物の上限臨界溶液温度が、水に界面活性剤を添加することにより、例えば、5~50℃、10~30℃、15~25℃、10~15℃、5~10℃低下することが好ましい。
【0048】
さらに、RAFT重合による[Poly(AAm-co-AN)]を用いる組成物において、界面活性剤を含まない水で洗い流す場合の1w/v%水溶液における光透過率-温度カーブの微分曲線として、50d%T/dT以上、好ましくは85d%T/dT以上である場合を、好ましい態様として挙げることができる。かかる組成物は、単位温度当たりの透過率変化が大きく、7℃以下、好ましくは5℃以下、さらに好ましくは3℃以下の狭い温度範囲で、溶液が溶解・凝集の変化を示す組成物である。RAFT重合によるPoly(AAm-co-AN)において、単位温度当たり透過率変化が大きい理由としては、各ポリマー鎖のユニット比がそろっているため、わずかな温度変化により性状の変化が大きくなると考えられる。そのため、2種類以上のRAFT重合による[Poly(AAm-co-AN)]を混合して用いた場合には、単位温度当たり透過率変化が小さくなるおそれがある。
【0049】
本発明の組成物は、様々な用途や使用温度環境に合わせて洗浄効果の高い化粧料や皮膚外用剤として用いることができる。例えば、本発明の組成物であるフリーラジカル重合によるPoly(AAm-co-AN)[85:15]を化粧料として使用した場合、22℃の水のみで洗浄したときには、上記組成物の水溶液での上限臨界溶液温度が28℃であることから、化粧料を洗い落とすことが困難であるが、界面活性剤(SDS)を含む洗浄剤を使用して22℃の水で洗浄したときには、上限臨界溶液温度が低下するため、Poly(AAm-co-AN)[85:15]が溶解し、化粧料が非常によく落ちることから、加温された水の供給が難しい場合に有利となる。
【0050】
また、本発明の組成物であるRAFT重合によるPoly(AAm-co-AN)[85:15]であって、Mwが28300程度の共重合体を含む組成物を化粧料として使用した場合、かかる組成物は水溶液中において単位温度当たり透過率変化が高く、体表面温付近の35℃では水に溶けない組成物が、40℃のお湯で完全に溶解するため、汗をかいても化粧料等が落ちないが、お湯だけで洗顔することが可能となるため、肌への負担が少ない、非常に優れた化粧料等として使用されうる。
【0051】
本発明の組成物は、1種又は2種以上のpoly(AAm-co-AN)を含み、化粧料や皮膚外用剤として使用されるが、本発明における化粧料としては、化粧水、クリーム、乳液、美容液等の基礎化粧料や、シャンプー、リンス、トリートメント等の頭髪化粧料や、ファンデーション、チーク、アイライナー、アイシャドー、マスカラ、アイブロウ、フェイスパウダー等のメイクアップ化粧料や、日焼け止め化粧料等の下地化粧料(医薬部外品を含む)や、マニキュアを例示することができ、皮膚外用剤としては、リニメント剤、ローション剤、軟膏剤等の外用医薬品等を例示することができる。
【0052】
上記poly(AAm-co-AN)の、本発明の化粧料又は皮膚外用剤への配合割合としては、本発明の効果が奏される限り特に制限されないが、通常、化粧料又は皮膚外用剤全体に対して、0.01~80質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましく、1~20質量%がさらに好ましく、1種又は2種以上を適宜組み合わせて配合することもできる。
【0053】
本発明の組成物からなる化粧料や皮膚外用剤の形態としては、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、固形状を例示することができる。
【0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0055】
[実施例1]
(フリーラジカル重合による[Poly(AAm-co-AN)]の合成)
モノマー質量仕込み比[アクリルアミド(AAm):アクリロニトリル(AN)]が、それぞれ77.5:22.5、80:20、82.5:17.5、85:15、87.5:12.5、90:10である、6種類のランダム共重合体Poly(AAm-co-AN)を、上記非特許文献3を参考にして以下の手順によりフリーラジカル重合法により合成した。
【0056】
アクリルアミドと、AIBNとをDMSO(12mL)に溶解し、30分間アルゴンガスを吹き込むことにより溶存酸素を除いた。アクリルアミドに対応する割合のアクリロニトリルを、ガスタイトシリンジを用いて添加して反応溶液とし、アルゴン雰囲気下で60℃にて5.5時間反応させた後、室温まで冷却した。冷却された反応溶液を250mLのメタノールに注ぎ、析出した共重合体をろ取した。得られた共重合体をさらに150mLのメタノールで洗浄した後、デシケータにて終夜乾燥した。
【0057】
共重合体中のAAmとANのユニット比は、IR測定によりAAmのアミノ基由来のピーク(1659cm-1付近)とANのシアノ基由来のピーク(2242cm-1付近)の比率を、標準試料と比較することによって決定した。標準試料としては、AAmホモポリマーとANホモポリマーを80:20,85:15,90:10,95:5のモル分率で混合し作製したものを使用した。IR測定はNicolet iS10フーリエ変換赤外分光装置(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、全反射測定(ATR)法を用いて行った。
【0058】
共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて決定した。測定にはJASCO PU-2080ポンプ、JASCO RI-2031示差屈折検出器、JASCO 2060カラムオーブン(以上すべて日本分光製)、Shodex GPC KD806-Mカラム(昭和電工製)を使用した。検量線はプルラン標準試料(昭和電工製)を用いて作成し、移動相にはDMSOを用いた。
【0059】
フリーラジカル重合により合成された6種類のPoly(AAm-co-AN)(F1~F6)の特性について以下の表1に示す。
【0060】
【0061】
[実施例2]
[フリーラジカル重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定]
上記F1~F6の共重合体について、水を溶媒として溶解し、1w/v%水溶液について0.5℃刻みで降温及び昇温を行い、各共重合体の溶解性を、670nmにおける透過率の変化を測定することにより確認した。昇温又は降温の速度は、それぞれ1℃/minとし、測定温度に到達後直ちに測定を開始した。これ以降、温度応答の再現性は、同一サンプルに対して温度変化を繰り返す(1stCooling-1stHeating-2ndCooling-2ndHeating)ことで確認した。また、測定温度が15℃以下となる場合は、セルの結露を防ぐため、セルホルダにアルゴンガスを流しながら測定した。光透過率はJASCO-V650紫外可視吸光光度計(日本分光製)を用いて測定し、セルホルダ内の温度調整はJASCO ETC-717温度コントローラ(日本分光製)を用いて行った。結果を、光透過率(縦軸)とそれぞれの溶液の温度(横軸)をプロットしたグラフとして
図1(a)~(f)にそれぞれ示す。なお、上限臨界溶液温度は、得られた透過率-温度曲線において、透過率の変化している直線部分と、透過率100%を表す水平線の交点とした。
【0062】
(結果)
図1(a)~(f)から明らかなとおり、上記F1~F6の共重合体を含有する水溶液について、いずれも光透過率-温度カーブを描いた。また、上限臨界溶液温度の相違はあるものの、全ての共重合体含有水溶液において可逆的な溶解・凝集の現象を繰り返した。
【0063】
図1において、上記F1~F6の共重合体の1w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度と降温時の上限臨界溶液温度は以下のとおりであった。
上記F1のPoly(AAm-co-AN)[77.5:22.5]の昇温時の上限臨界溶液温度は68℃、降温時の上限臨界溶液温度は66℃(
図1(a));
上記F2のPoly(AAm-co-AN)[80:20]の昇温時の上限臨界溶液温度は58℃、降温時の上限臨界溶液温度は56℃(
図1(b));
上記F3のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5]の昇温時の上限臨界溶液温度は45.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は42.5℃(
図1(c));
上記F4のPoly(AAm-co-AN)[85:15]の昇温時の上限臨界溶液温度は31℃、降温時の上限臨界溶液温度は28℃(
図1(d));
上記F5のPoly(AAm-co-AN)[87.5:12.5]の昇温時の上限臨界溶液温度は19.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は16.5℃(
図1(e));
上記F6のPoly(AAm-co-AN)[90:10]の昇温時の上限臨界溶液温度は9℃、降温時の上限臨界溶液温度は6.5℃(
図1(f));
【0064】
表1の各共重合体含有水溶液において、アクリルアミドのモノマー仕込み比が高くなるにつれて、昇温時の上限臨界溶液温度と降温時の上限臨界溶液温度のいずれもが低くなることが確認された。
【0065】
[実施例3]
[共重合体混合溶液の上限臨界溶液温度の測定]
化粧料や皮膚外用剤を洗浄するための洗浄液モデルとして、水溶液にSDSを添加した混合溶媒を用いた共重合体混合溶液について検討を行った。上記F1~F6のポリマーの1w/v%水溶液にSDSを終濃度100mMとなるように添加した共重合体混合溶液について、実施例2と同様に、溶解性を確認した。結果を
図2に示す。
【0066】
(結果)
図2から明らかなとおり、上記F1~F6の共重合体含有混合溶液において、モノマー仕込み比が[77.5:22.5]及び[80:20]の場合に、上記混合溶液は、光透過率-温度カーブを描き、上限臨界溶液温度の相違はあるものの、可逆的な溶解・凝集の現象を繰り返した。
【0067】
より詳細には、上記F1のPoly(AAm-co-AN)[77.5:22.5]+SDS100mM混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は70℃以上、降温時の上限臨界溶液温度は69℃であって、SDS添加前と比べ上限臨界溶液温度に大きな違いはなかった(
図2(a))。上記F2のPoly(AAm-co-AN)[80:20]+SDS100mM混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は53℃、降温時の上限臨界溶液温度は47℃であり、光透過率-温度カーブの傾きがなだらかになり、昇温時及び降温時の上限臨界溶液温度はいずれも低くなった(
図2(b))。上記F3のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5]+SDS100mM混合溶液(
図2(c))、上記F4の[Poly(AAm-co-AN)][85:15]+SDS100mM混合溶液(
図2(d))、上記F5のPoly(AAm-co-AN)[87.5:12.5]+SDS100mM混合溶液(
図2(e))、上記F6のPoly(AAm-co-AN)[90:10]+SDS100mM混合溶液(
図2(f))においては、光透過率-温度カーブが描かれず、混合溶液は凝集性を示すことなく溶解したままであった。
【0068】
[実施例4]
上記F3のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5]について、さらに検討を続けた。
【0069】
上記F3のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5]の1w/v%水溶液に、終濃度がそれぞれ5mM、10mM、15mM、20mM、30mM、100mMとなるようにSDSを添加した混合溶液について、実施例2と同様に、各混合溶液の溶解性を確認した。結果を
図3(a)~(f)に示す。
【0070】
(結果)
上記F3のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5]の1w/v%水溶液に、終濃度が5mMとなるようにSDSを添加した混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は44.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は41℃であり(
図3(a))、終濃度が10mMとなるようにSDSを添加した混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は36℃、降温時の上限臨界溶液温度は29.5℃であって、昇温時及び降温時の上限臨界溶液温度は、SDSが水溶液に添加されない場合に比べて、15℃前後いずれも低くなった(
図3(b))。
終濃度が15mMとなるようにSDSを添加した混合溶液の、昇温時の上限臨界溶液温度は27℃、降温時の上限臨界溶液温度は17℃であって、昇温時及び降温時の上限臨界溶液温度は、SDSが水溶液に添加されない場合に比べて、20℃前後いずれも低くなった(
図3(c))。
終濃度が20mMとなるようにSDSを添加した混合溶液の、降温時の上限臨界溶液温度は9.5℃であった。昇温時の光透過率-温度カーブが描かれなかった(
図3(d))。
終濃度が30mM及び100mMとなるようにSDSを添加した混合溶液においては、光透過率-温度カーブが描かれず、混合溶液は凝集性を示すことなく溶解したままであった(
図3(e)及び(f))。
【0071】
[実施例5]
界面活性剤としてSDS(終濃度100mM)の代わりに陽イオン性界面活性剤であるCTAC(終濃度100mM)を用い、実施例3と同様に検討を行った。結果を
図4(a)~(f)に示す。
【0072】
(結果)
図4から明らかなとおり、上記F1~F6の共重合体のCTAC混合溶液について、モノマー仕込み比がF6[90:10]を除く、F1[77.5:22.5]、F2[80:20]、F3[82.5:17.5]、F4[85:15]及びF5[87.5:12.5]の場合に、光透過率-温度カーブを描いた。またかかる5つの共重合体含有混合溶液において上限臨界溶液温度の相違はあるものの、可逆的な溶解・凝集の現象を繰り返した。
【0073】
上記F1~F6の共重合体を含有するCTAC(終濃度100mM)混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度と降温時の上限臨界溶液温度は以下のとおりであった。
上記F1のCTAC混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は66℃、降温時の上限臨界溶液温度は62.5℃(
図4(a));
上記F2のCTAC混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は54℃、降温時の上限臨界溶液温度は50℃(
図4(b));
上記F3のCTAC混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は42℃、降温時の上限臨界溶液温度は38℃(
図4(c));
上記F4のCTAC混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は27.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は23.5℃(
図4(d));
上記F5のCTAC混合溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は17.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は13℃(
図4(e));
上記F6のCTAC混合溶液は、凝集性を示さなかった(
図4(f))。このF6のCTAC混合溶液を除くF1~F5のいずれのCTAC混合溶液においても、上限臨界溶液温度は低温側にシフトした。しかし、その低下効果は、SDSに比べると弱かった。
【0074】
[比較例]
SDS(終濃度100mM)の代わりに塩化ナトリウム(終濃度100mM)を用い、実施例3と同様に検討を行った。結果を
図5(a)~(f)に示す。
【0075】
(結果)
図5(a)~(f)から明らかなとおり、これら6つのF1~F6共重合体の水溶液について塩化ナトリウムを添加した場合、上限臨界溶液温度の変化はいずれの共重合体溶液においてもほとんど見られなかった。
【0076】
[実施例6]
(RAFT重合による[Poly(AAm-co-AN)]の合成)
モノマー質量仕込み比[アクリルアミド(AAm):アクリロニトリル(AN)]が、80:20~85:15の範囲にあり、CMDTの含量が相違する6種類のランダム共重合体、Poly(AAm-co-AN)(表2のR1~R6)を、Polym. Chem. 2016, 7, 1979-1986を参考にして以下の手順によりRAFT重合法により合成した。
【0077】
アクリルアミドとAIBNとをDMSO(6mL)に溶解し、CMDTを加えてさらに溶解した後、30分間アルゴンガスを吹き込むことにより溶存酸素を除いた。アクリルアミドに対応する割合のアクリロニトリルを、ガスタイトシリンジを用いて添加して反応溶液とし、アルゴン雰囲気下で70oCにて3.5時間反応させた後、室温まで冷却した。
冷却された反応溶液を150mLのメタノールに注ぎ、析出した共重合体をろ取した。得られた共重合体をさらに150mLのメタノールで洗浄した後、デシケータにて終夜乾燥した。
【0078】
共重合体中のAAmとANのユニット比、共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、前記[フリーラジカル重合によるPoly(AAm-co-AN)共重合体の合成]に記載されている方法を用いて測定を行った。
【0079】
RAFT重合により合成された6種類の[Poly(AAm-co-AN)](R1~R6)の特性について以下の表2に示す。
【0080】
【0081】
[実施例7]
[RAFT重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定1]
上記R1の共重合体について、水を溶媒として溶解し、1w/v%水溶液又は0.1w/v%水溶液について0.5℃刻みで降温及び昇温を行い、各共重合体の溶解性を確認した。RAFT重合で合成した共重合体は、単位温度当たりの透過率変化が大きいため、昇温又は降温の速度を、それぞれ0.5℃/minとした他は、実施例2の[フリーラジカル重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定]に記載されている方法で測定を行った。結果を、光透過率(縦軸)とそれぞれの溶液の温度(横軸)をプロットしたグラフとして
図6(A)及び(A1)にそれぞれ示す。また、上記R1の共重合体含有水溶液のグラフの微分曲線を、それぞれ
図6(a)及び(a1)に示す。比較として、フリーラジカル重合により合成された前記F3の共重合体の1w/v%水溶液及び0.1w/v%水溶液についての同様の検討結果を
図6(F)及び(F1)に、それらの微分曲線を
図6(f)及び(f1)に示す。
【0082】
(結果)
図6から明らかなとおりR1の[Poly(AAm-co-AN)][82.5:17.5]の1w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は30℃、降温時の上限臨界溶液温度は27.5℃(
図6(A))であり、0.1w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は28℃、降温時の上限臨界溶液温度は25.5℃(
図6(A1))であった。一方、上記F3の[Poly(AAm-co-AN)][82.5:17.5]の1w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は45.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は42.5℃(
図6(F))であり、0.1w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度は39.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は37℃(
図6(F1))であった。
【0083】
また、RAFT重合で合成した[Poly(AAm-co-AN)]の水溶液は、1w/v%水溶液(
図6(a))及び0.1w/v%水溶液(
図6(a1))の降温時の上限臨界溶液温度単位温度当たりの透過率変化の最大値は、それぞれ190d%T/dT、90d%T/dTであり、フリーラジカル重合で合成した[Poly(AAm-co-AN)]の1w/v%水溶液(
図6(f))及び0.1w/v%水溶液(
図6(f1))におけるそれぞれの値27d%T/dT、6d%T/dTとを比較して、単位温度当たりの透過率変化が顕著に大きかった。
【0084】
[実施例8]
[RAFT重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定2]
上記合成された6種類の共重合体Poly(AAm-co-AN)のうち、いずれもユニット比が[82.5:17.5]であってMwが異なる、上記R1~R4の共重合体の1w/v%水溶液について、0.5℃刻みで降温及び昇温を行い、各共重合体の溶解性を、670nmにおける透過率の変化を測定することにより確認した。昇温又は降温の速度を、0.5℃/minとした他は、実施例2の[フリーラジカル重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定]に記載されている方法で測定を行った。結果を、光透過率(縦軸)とそれぞれの溶液の温度(横軸)をプロットしたグラフとして
図7(A)~(D)にそれぞれ示す。また、それらの微分曲線を、それぞれ
図7(a)~(d)に示す。
【0085】
(結果)
図7(A)~(D)から明らかなとおり、上記R1~R4の共重合体の水溶液について、いずれも光透過率-温度カーブを描いた。また、上限臨界溶液温度の相違はあるものの、全ての共重合体含有溶液において可逆的な溶解・凝集の現象を繰り返した。
【0086】
図7において、上記R1~R4の共重合体の1w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度と降温時の上限臨界溶液温度は以下のとおりであった。
上記R1のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5](Mw:9970)の昇温時の上限臨界溶液温度は30℃、降温時の上限臨界溶液温度は27.5℃(
図7(A));
上記R2のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5](Mw:26400)の昇温時の上限臨界溶液温度は30℃、降温時の上限臨界溶液温度は28.5℃(
図7(B));
上記R3のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5](Mw:38700)の昇温時の上限臨界溶液温度は32.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は29.5℃(
図7(C));
上記R4のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5](Mw:74800)の昇温時の上限臨界溶液温度は30℃、降温時の上限臨界溶液温度は29℃(
図7(D));
【0087】
図7(A)~(D)の結果から明らかなとおり、ユニット比が同じであるがMwが相違する、4種類のRAFT重合による[Poly(AAm-co-AN)]を含む、各水溶液において、昇温時及び降温時の上限臨界溶液温度はそれほど相違がなかった。しかし、
図7(a)~(d)から明らかなとおり、単位温度当たりの透過率変化について検討すると、
図6のF3の水溶液と比較して、透過率変化はいずれもより大きく、共重合体の水溶液における温度応答の感度が高いことが確認された。具体的には、R1では、降温時のd%T/dTの最大値は190であり、R2では105であり、R3では100であり、R4では115であった。また、分子量が小さいほど透過率変化の度合いは大きい傾向があり、なかでも分子量の一番小さいR1において、透過率変化は顕著に大きかった。
【0088】
[実施例9]
[RAFT重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定3]
上記R5、R2、R6及びR5とR6とが1:1の混合物について、水を溶媒として溶解した、1w/v%水溶液について0.5℃刻みで降温及び昇温を行い、各共重合体の溶解性を確認した。昇温又は降温の速度を、0.5℃/minとした他は、実施例2の[フリーラジカル重合により合成された共重合体含有水溶液の上限臨界溶液温度の測定]に記載されている方法で測定を行った。結果を、光透過率(縦軸)とそれぞれの溶液の温度(横軸)をプロットしたグラフとして上記R5、R2、R6、及びR5とR6とが1:1の混合物の共重合体含有水溶液のプロット
図8(E)、(B)、(G)、(H)に示す。またそれらの微分曲線を、それぞれプロット
図8(e)、(b)、(g)、(h)に示す。
【0089】
(結果)
図8(E)、(B)、(G)、(H)から明らかなとおり、上記R5、R2、R6、及びR5とR6とが1:1の混合物の共重合体の水溶液について、いずれも光透過率-温度カーブを描いた。また、上限臨界溶液温度の相違はあるものの、全ての共重合体含有溶液において可逆的な溶解・凝集の現象を繰り返した。
【0090】
図8において、上記R5、R2、R6、及びR5とR6とが1:1の混合物の共重合体の1w/v%水溶液の昇温時の上限臨界溶液温度と降温時の上限臨界溶液温度は以下のとおりであった。
上記R5のPoly(AAm-co-AN)[85:15]の昇温時の上限臨界溶液温度は12.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は10.5℃(
図8(E));
上記R2のPoly(AAm-co-AN)[82.5:17.5]の昇温時の上限臨界溶液温度は30℃、降温時の上限臨界溶液温度は28.5℃(
図8(B));
上記R6のPoly(AAm-co-AN)[85:15]の昇温時の上限臨界溶液温度は37℃、降温時の上限臨界溶液温度は36℃(
図8(G));
上記R5と上記R6とが1:1の混合物の昇温時の上限臨界溶液温度は37.5℃、降温時の上限臨界溶液温度は34℃(
図8(H));であった。
【0091】
図8の結果より、(E)、(B)、(G)等RAFT重合により合成された[Poly(AAm-co-AN)]を1種類含む各水溶液において、昇温時及び降温時の上限臨界溶液温度は、
図6のF3の水溶液と比較して、透過率変化はいずれもより大きく、共重合体の水溶液における温度応答の感度が高いことが確認された。一方、(H)のRAFT重合により合成された[Poly(AAm-co-AN)]を2種類含む水溶液の単位温度当たりの透過率変化は非常に小さくなり、温度応答の感度は低下した。このことから、RAFT重合により合成された[Poly(AAm-co-AN)]の透過率変化の増加は、RAFT重合により合成された共重合体において、各ポリマー鎖のユニット比がそろっていることによるものと考えられる。
【0092】
[実施例10]
下記処方及び製造方法によりマスカラを調製した。
(成分) (質量%)
(1)水素添加ポリイソブテン 残量
(2)パルミチン酸デキストリン 2.0
(3)ミツロウ 9.0
(4)カルナウバロウ 5.0
(5)ポリメチルシルセスキオキサン 5.0
(6)ジステアルジモニウムヘクトライト 1.0
(7)タルク 5.0
(8)黒酸化鉄 5.0
(9)無水ケイ酸 1.0
(10)精製水 10.0
(11)実施例1のF3;poly(AAm-co-AN)[85:15] 1.0
【0093】
(製造方法)
A.成分(1)~(5)を100℃で加熱溶解し、70℃になるまで冷却する。
B.Aに成分(6)~(9)を加え均一に混合する。
C.成分(10)~(11)を70℃で均一に混合溶解したのち、Bに加えて70℃で乳化し、室温に冷却してマスカラを得た。
【0094】
以上のようにして得られたマスカラは、水や汗によっては落ちないが、42℃のお湯と石鹸を用いることで容易に落とすことができた。上記石鹸は界面活性剤成分として脂肪酸ナトリウムを含む。
【0095】
[実施例11]
下記処方及び製造方法により軟膏を調製した。
(成分) (質量%)
(1)ステアリルアルコール 18.0
(2)モクロウ 15.0
(3)ポリオキシエチレン(20モル)モノオレイン酸エステル 0.3
(4)トコフェロール 0.1
(5)ワセリン 30.0
(6)グリセリン 10.0
(7)精製水 残量
(8)実施例6のR6;poly(AAm-co-AN)[80:20] 3.0
【0096】
(製造方法)
A:成分(1)~(5)を70℃で均一に混合する。
B:成分(7)、(8)を70℃で均一に混合溶解したのち、成分(6)を加え均一に混合する。
C:AにBを加え70℃で乳化し、室温に冷却して軟膏を得た。
【0097】
以上のようにして得られた軟膏は、水や汗によっては落ちないが、42℃のお湯を用いることで容易に落とすことができた。