(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090182
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】有機酸モノグリセリド添加による揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇抑制
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20220610BHJP
A23L 13/50 20160101ALN20220610BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23L13/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202397
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】春口 真祐
(72)【発明者】
【氏名】椹木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】関口 竹彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 賀美
【テーマコード(参考)】
4B026
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG04
4B026DK01
4B026DX01
4B042AC05
4B042AD18
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK05
4B042AK06
4B042AP05
(57)【要約】
【課題】加熱による粘度上昇を抑制する揚げ物用油脂組成物を提供する。
【解決手段】加熱による粘度上昇を抑制する揚げ物用油脂組成物を提供する。前記揚げ物用油脂組成物は、有機酸モノグリセリドを含むことを特徴とする、油脂組成物である。前記揚げ物用油脂組成物に含まれる有機酸モノグリセリドの濃度は、0.005質量%以上0.01質量%未満であることが好ましい。前記揚げ物用油脂組成物を用いて揚げ物調理する場合には、加熱による粘度上昇が抑制されるため、揚げ物用油脂組成物として好適に利用される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸モノグリセリドを有効成分とする、揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇抑制剤。
【請求項2】
油脂と、有機酸モノグリセリドを含有する揚げ物用油脂組成物であって、前記揚げ物用油脂組成物中の、前記有機酸モノグリセリドの含有量が0.005質量%以上0.01質量%未満である、揚げ物用油脂組成物。
【請求項3】
前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上である、請求項2に記載の揚げ物用油脂組成物。
【請求項4】
揚げ物用油脂組成物中に、有機酸モノグリセリドをその含有量が0.005質量%以上0.01質量%未満となるように添加する工程を含む、揚げ物用油脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上である、請求項4に記載の揚げ物用油脂組成物の製造方法。
【請求項6】
揚げ物用油脂組成物に、有機酸モノグリセリドの含有量が0.005質量%以上0.01質量%未満となるように添加することを含む、揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制する方法。
【請求項7】
前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上である、請求項6に記載の揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制する効果に優れた有機酸モノグリセリド及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物用油脂組成物の加熱時の変化は、高温で反応が進むため、その反応速度が高く、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、遊離脂肪酸、過酸化物が瞬間的に生成する。また、過酸化物が分解して各種ラジカルが生成し、当該ラジカル同士が結合して重合物などが生成する。また、加熱による油脂組成物の重合物の生成が進むことにより、粘度が上昇する。特に、スーパー、飲食店、レストラン等で使用される業務用の加熱調理用油脂は、長時間にわたって大量の揚げ物を高温で加熱調理することが多いため、粘度上昇が早く進行し、揚げ物の風味や外観にも悪影響を及ぼす。このため短期間で廃棄・交換しなければならず、経済面、環境面でも負担が大きいため、粘度上昇を含む揚げ物用油脂組成物の加熱による劣化を抑制する技術が必要とされている。
【0003】
揚げ物用油脂組成物の加熱による劣化の指標としては、油脂の加水分解や酸化などによって生成した遊離脂肪酸量を間接的に示す酸価が代表的に用いられており、加熱による酸価上昇を抑制することが検討されてきた。たとえば、特許文献1では、油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を4~20質量%含有し、アルカリ金属の含有量が0.1~5.0質量ppmであることを特徴とする、加熱調理用油脂組成物が、加熱による油脂の酸価上昇を抑制することが開示されている。しかしながら、消費者の嗜好や食品等事業者からのニーズの多様化に鑑みれば、従来とは由来の異なる、揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制する新たな素材の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機酸モノグリセリドを用いれば、揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
有機酸モノグリセリドを有効成分とする、揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇抑制剤。
[2]
油脂と、有機酸モノグリセリドを含有する揚げ物用油脂組成物であって、前記揚げ物用油脂組成物中の、前記有機酸モノグリセリドの含有量が0.005質量%以上0.01質量%未満である、揚げ物用油脂組成物。
[3]
前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上である、請求項2に記載の揚げ物用油脂組成物。
[4]
揚げ物用油脂組成物中に、有機酸モノグリセリドをその含有量が0.005質量%以上0.01質量%未満となるように添加する工程を含む、揚げ物用油脂組成物の製造方法。
[5]
前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上である、請求項4に記載の揚げ物用油脂組成物の製造方法。
[6]
揚げ物用油脂組成物に、有機酸モノグリセリドの含有量が0.005質量%以上0.01質量%未満となるように添加することを含む、揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制する方法。
[7]
前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上である、請求項6に記載の揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制する方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、加熱による揚げ物用油脂組成物の粘度上昇抑制剤であって、前記粘度上昇抑制剤は有機酸モノグリセリドを有効成分とすることを特徴とする。前記有機酸モノグリセリドは油脂中に配合してなる油脂組成物として用いてもよい。
【0008】
本発明は、油脂と有機酸モノグリセリドを含むことを特徴とする、加熱による粘度上昇を抑制し得る揚げ物用油脂組成物である。
【0009】
前記油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、落花生油、パーム核油、ヤシ油、米胚芽油等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂、魚油、乳脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド、あるいはこれら油脂に分別、硬化、エステル交換等の加工工程を1また2以上施した加工油脂などが挙げられる。前記油脂は、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上が混合されたものを用いてもよい。
【0010】
前記有機酸モノグリセリドは、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド)の水酸基に有機酸が結合した構造を有する。前記有機酸モノグリセリドを構成する有機酸としては、特に限定されないが、たとえば、クエン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、酒石酸、等が挙げられる。そのうち、クエン酸、コハク酸、酢酸及び乳酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、クエン酸、コハク酸及び酢酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましく、クエン酸及びコハク酸よりなる群から選ばれる1種又は2種であることが更に好ましく、クエン酸であることが更により好ましい。
【0011】
前記有機酸モノグリセリドを構成する脂肪酸残基としては、特に限定されないが、たとえば、オレイン酸、エルカ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、これら脂肪酸の混合脂肪酸、あるいはパーム油、菜種油、サフラワー油、大豆油等由来の混合脂肪酸の脂肪酸残基とすることができる。
【0012】
前記有機酸モノグリセリドの例としては、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、コハク酸モノオレイン酸グリセリン、クエン酸モノステアリン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノステアリン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノオレイン酸グリセリン、乳酸モノオレイン酸グリセリン、乳酸モノステアリン酸グリセリンなどが挙げられる。これら有機酸モノグリセリドは、食品添加用の乳化剤として市販されているものを使用することができる。
【0013】
前記揚げ物用油脂組成物に含まれる有機酸モノグリセリドの濃度は、0.005質量%以上0.01質量%未満であることが好ましい。
【0014】
前記揚げ物用油脂組成物には、効果を損なわない範囲で、油脂以外の添加剤を含んでいてもよい。油脂以外の前記添加剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ビタミンE 、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ 、オリザノール、ジグリセリド、シリコーン、トコフェロール、レシチン、着色料、及び香料などが挙げられる。前記添加剤の添加量は、前記揚げ物用油脂組成物100質量部に対して、3質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。
【0015】
前記揚げ物用油脂組成物の製造方法では、前記揚げ物用油脂組成物の前記有機酸モノグリセリド濃度が、好ましくは0.005質量%以上0.01質量%未満となるように添加する工程を含む。
【0016】
本発明の揚げ物用油脂組成物の製造方法は、必要に応じて、他の添加剤を添加する工程も含んでいてもよい。
【0017】
本発明の揚げ物用油脂組成物の加熱による粘度上昇を抑制する方法は、揚げ物用油脂組成物に、前記揚げ物用油脂組成物中の有機酸モノグリセリド濃度が、好ましくは0.005質量%以上0.01質量%未満となるように添加することを含む。前記揚げ物用油脂組成物としては、上述の油脂を使用することができる。
【0018】
前記揚げ物用油脂組成物に、有機酸モノグリセリドを添加する手法としては、上述する手法を使用することができる。有機酸モノグリセリドが添加される揚げ物用油脂組成物は、他の添加剤を含有する揚げ物用油脂組成物でも、有機酸モノグリセリドをあらかじめ含む揚げ物用油脂組成物でもよく、未使用のものでも、調理に使用したものでもよい。
【実施例0019】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
〔油脂組成物に含まれる食用油脂〕
以下に、本実施例において用いた食用油脂を挙げる。
・キャノーラ油:Jキャノーラ油、株式会社J-オイルミルズ製
【0021】
〔油脂組成物に含まれる有機酸モノグリセリド〕
以下に、本実施例において用いた有機酸モノグリセリドを挙げる。
・有機酸モノグリセリド:ポエムKー37V、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、HLB7.0、酸価45~65、理研ビタミン株式会社製
【0022】
以下に、本実施例において用いたフライドチキンを挙げる。
・フライドチキン:骨なしフライドチキン、GX381、味の素冷凍食品株式会社製
【0023】
<試験1>
〔試験油の調製〕
キャノーラ油、有機酸モノグリセリドを表1に示す配合で調製した。なお、比較例1の有機酸モノグリセリドを含まないキャノーラ油を、対照とした。
【0024】
〔揚げ物調理試験〕
表1に記載の比較例1と実施例1~3の試験油を用いて、揚げ物調理試験を行った。具体的には、試験油500gをステンレスジョッキに投入し、180℃に設定した。上記180℃に設定した試験油を用い、8時間の間に1個あたり約80gのフライドチキンを30個、それぞれの揚げ時間を5分間で、揚げ物調理した。次に、揚げ物調理に供した同一の試験油を室温保存し、その翌日も上記と同様の揚げ物調理を行った。このように、1日あたり8時間で2日間、延べ16時間揚げ物調理を行った試験油をそれぞれサンプリングした。なお、本試験に使用したフライドチキンは冷凍のまま揚げ物調理に供した。
【0025】
〔粘度の測定〕
サンプリングした比較例1と実施例1~3の試験油について、粘度をそれぞれ測定した。具体的には、粘度計(E型粘度計TVE25、東機産業株式会社製)を用い、30℃、100rpmで撹拌し、試験油の粘度を測定した。なお、粘度抑制率は以下の式に従って算出した。
粘度抑制率(%)
=(1-(実施例1~3それぞれの試験油の揚げ物調理試験後の粘度)÷(比較例1の試験油の揚げ物調理試験後の粘度))×100
【0026】
その結果、粘度抑制率を見ると、表1のように有機酸モノグリセリドを含まない対照の比較例1の試験油と比較して、有機酸モノグリセリドを添加した実施例1~3の試験油では粘度上昇が0.3~0.8%、抑制された。以上の結果より、有機酸モノグリセリドを含む試験油では加熱による粘度上昇が抑制されることが明らかとなった。
【0027】