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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090466
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20220610BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20220610BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20220610BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
H01L21/205
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202883
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】安田 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】藤井 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】馬 雷
【テーマコード(参考)】
5F004
5F045
5F131
【Fターム(参考)】
5F004BB22
5F004BB25
5F004BB29
5F004CA04
5F045EJ03
5F045EM05
5F045EM09
5F131AA02
5F131BA04
5F131BA19
5F131CA03
5F131CA22
5F131CA32
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EA11
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB82
5F131EB87
(57)【要約】
【課題】基板の大型化に対応しつつ、従来よりも吸着する対象物の冷却能力を大幅に向上させることができる静電チャック装置を提供する。
【解決手段】静電力によって対象物を吸着する静電チャック装置であって、表面側が前記対象物を吸着する吸着面をなす吸着プレート1と、冷媒が流れる内部流路を具備するベースプレート2と、を備え、前記内部流路21が、前記ベースプレート2の中央部から外周部に向かって放射状に冷媒が流れる放射状流路L2と、前記ベースプレート2の外周部から中央部に向かって集中するように冷媒が流れる集中流路L4と、を具備し、前記ベースプレート2内において前記放射状流路L2と前記集中流路L4を積層させて形成した。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電力によって対象物を吸着する静電チャック装置であって、
表面側が前記対象物を吸着する吸着面をなす吸着プレートと、
冷媒が流れる内部流路を具備するベースプレートと、を備え、
前記内部流路が、
前記ベースプレートの中央部から外周部に向かって放射状に冷媒が流れる放射状流路と、
前記ベースプレートの外周部から中央部に向かって集中するように冷媒が流れる集中流路と、を具備し、
前記ベースプレート内において前記放射状流路と前記集中流路が積層させて形成された静電チャック装置。
【請求項2】
前記吸着プレートの裏面側と前記ベースプレートと表面側の間に設けられる熱衝撃緩和層をさらに備えた請求項1記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記放射状流路と前記集中流路とが、前記ベースプレート内に設けられた内部隔壁薄板で2層に仕切られている請求項1又は2いずれかに記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記内部流路が、
前記ベースプレートの中央部において当該ベースプレートの厚み方向に延びるとともに、前記放射状流路の中央部に冷媒を流入させる流入流路と、
前記放射状流路の外周部と、前記集中流路の外周部との間を厚み方向に接続する接続流路と、
前記流入配管の外側において前記ベースプレートの厚み方向に延びるとともに、前記集中流路の中央部から冷媒を前記ベースプレート外へと流出させる流出流路と、をさらに具備する請求項1乃至3いずれかに記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記ベースプレートの内部において前記集中流路よりも裏面側に真空断熱層が形成されている請求項1乃至4いずれかに記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記放射状流路、及び、前記集中流路が、多数のフィンを並べたフィン構造により形成された請求項1乃至5いずれかに記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記吸着プレートの吸着面前記対象物の被吸着面との間に熱伝導性ガスを供給するガス供給機構をさらに備え、
前記ガス供給機構が、前記吸着プレートの前記吸着面に開口するように形成された複数のガス供給流路と、
前記吸着面上に区成され、各ガス供給流路により個別に熱伝導性ガスが供給される複数のガス供給領域と、
前記各ガス供給領域に対して供給される熱伝導性ガスの流量を個別にそれぞれ制御する複数の流量制御装置と、を備えた請求項1乃至6いずれかに記載の静電チャック装置。
【請求項8】
前記ベースプレートの裏面側にラティス構造が形成された請求項1乃至7いずれかに記載の静電チャック装置。
【請求項9】
前記ラティス構造が、トポロジー最適化により形成された構造である請求項8記載の静電チャック装置。
【請求項10】
前記ラティス構造が、前記ベースプレートが所定値以上の強度を有するとともに、所定値以下の熱容量を有することを拘束条件とするトポロジー最適化により決定される構造である請求項9記載の静電チャック装置。
【請求項11】
前記ベースプレートが、チタン(Ti)を含む金属粒子、又は、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、及び、クロム(Cr)を少なくとも含む合金粒子を用いた3Dプリンティング、又は、アディティブマニュファクチャリングで形成された請求項1乃至10いずれかに記載の静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力により対象物を吸着する静電チャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマエッチング装置、プラズマCVD装置等のプラズマ処理装置を用いた半導体製造プロセスにおいては、真空チャンバ内でシリコンウエハを固定するために静電チャック装置が用いられている。この静電チャック装置は、静電力により対象物を吸着する吸着プレートと、吸着プレートの裏面に接触する金属製のベースプレートとを備えている。ベースプレート内に形成された内部流路には冷媒が流されており、吸着プレートに吸着されているシリコンウエハに加わるプラズマ熱はベースプレート側へと逃される。このようにして、シリコンウエハの表面温度分布の均一化を図っている。また、吸着プレートとシリコンウエハとの間の微小な凹凸による隙間にはヘリウム等の熱伝導性ガスが供給され、熱伝達効率を高めている。
【0003】
特許文献1及び2に記載の静電チャックのベースプレートは、エンドミル等による溝加工によって螺旋状の流路が面板部に形成された円板状の本体と、本体の溝の開口部を塞ぐように拡散接合等によって接合される薄円板状の蓋体と、を備えている。また、ベースプレート内の流路はベースプレートの側面に両端部がそれぞれ開口しており、一方の開口から冷媒が導入され、冷媒はベースプレート内のほぼ全域を流通した後にもう一方の開口から外部に導出される。
【0004】
ところで、本体に形成されている螺旋状の流路は隣接する部分同士が半径方向に対して所定幅以上離れるように形成されている。これは、必要とされる強度以上で本体に対して蓋体を拡散接合するには、接合代が所定幅以上必要となるからである。
【0005】
ベースプレート内には接合代によって冷媒が流れていない部分が多く存在することや、螺旋状の流路であるためにベースプレート内で所望の流量で均一に冷媒を流しにくいこと等に起因して、ベースプレートの冷却面である表面には温度ムラが生じてしまう。この結果、シリコンウエハの全体を均一に冷却できない可能性がある。
【0006】
また、接合代の分だけ中実の構造体となってしまい、熱容量もその分大きくなるので、ベースプレートの温度自体が下げにくくなったり、冷却速度も遅くなったりするといった問題もある。
【0007】
加えて、拡散接合により製造されていたベースプレートであれば、例えばアルミ(Al)が使用されていたため、その大きさには求められる機械的強度からベースプレートの大きさには制約があった。上述したような金属又は合金についてはある決まったサイズ以上に大きな母材はそもそも販売されていないため、機械加工によって従来よりも大きなベースプレートを製造することはできなかった。このため、基板の大型化に対応して静電チャック装置を大型化することも難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-113588号公報
【特許文献2】特開2002―126900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述したような問題を一挙に解決するものであり、基板の大型化に対応しつつ、従来よりも吸着する対象物の冷却能力を大幅に向上させることができる静電チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明に係る静電チャック装置は、静電力によって対象物を吸着する静電チャック装置であって、表面側が前記対象物を吸着する吸着面をなす吸着プレートと、冷媒が流れる内部流路を具備するベースプレートと、を備え、前記内部流路が、前記ベースプレートの中央部から外周部に向かって放射状に冷媒が流れる放射状流路と、前記ベースプレートの外周部から中央部に向かって集中するように冷媒が流れる集中流路と、を具備し、前記ベースプレート内において前記放射状流路と前記集中流路が積層させて形成されたことを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、前記ベースプレート内に前記放射状流路及び前記集中流路を形成しているので、従来のように螺旋状に流路を形成した場合と比較して例えば金属粒子による3Dプリンティングやアディティブマニュファクチャリングで前記ベースプレートを形成しやすい。このため、ベースプレートを本体と蓋体の2つの部材で構成して、それぞれを拡散接合しなくてもよいので、接合代を作る必要がない。したがって、前記ベースプレート内の全体にわたって前記放射状流路、及び、前記集中流路を均一に形成でき、しかもその流路容積を従来よりも大きくできる。この結果、当該ベースプレート内を流れる冷媒量を従来よりも増加させられるとともに、前記ベースプレートの熱容量も低減でき、冷却温度も大幅に下げる事が可能となる。
【0012】
また、3Dプリンティングやアディティブマニュファクチャリングであれば金属粒子同士が溶融結合されるので、空洞率が高くても機械的強度を高く保つことも可能となる。加えて、上記のような造形方法を用いれば、切削用の大きな母材が存在しない高強度の材料であっても、従来よりもサイズの大きいベースプレートを作成でき、基板の大型化に対応できる。
【0013】
さらに、前記ベースプレート内において表面側に形成された放射状流路から前記ベースプレート内において裏面側に形成された集中流路へと冷媒が流れるように構成されているので、各放射状流路を流れる冷媒同士での熱交換によって冷媒温度を均一化し、前記ベースプレート全体での温度ムラを低減できる。
【0014】
前記ベースプレートと前記吸着プレートとの間の温度差による熱衝撃によって、吸着プレートが歪んでしまうのを防げるようにするには、前記ベースプレートと前記吸着プレートとの間に熱衝撃緩和層が設けられていればよい。すなわち、前記ベースプレートが冷媒によって極低温まで冷却されたとしても、熱衝撃は前記吸着プレートに直接伝達されず、前記熱衝撃緩和層で緩和できる。したがって、冷却温度を従来よりも低下させて前記吸着プレートが歪んでしまうのを防ぐことができる。
【0015】
前記放射状流路を流れる冷媒と、前記集中流路を流れる冷媒との間で熱交換が生じやすくして、前記ベースプレート全体の温度が低温度で均一にするには、前記放射状流路と前記集中流路とが、前記ベースプレート内に設けられた内部隔壁薄板で2層に仕切られていればよい。
【0016】
前記吸着プレートに吸着されている前記対象物において高温となりやすい、中央部を強く冷却できるとともに、前記放射状流路と前記集中流路との間で冷媒を循環させて前記対象物の温度ムラは小さくするには、前記内部流路が、前記ベースプレートの中央部において当該ベースプレートの厚み方向に延びるとともに、前記放射状流路の中央部に冷媒を流入させる流入流路と、前記放射状流路の外周部と、前記集中流路の外周部との間を厚み方向に接続する接続流路と、前記流入配管の外側において前記ベースプレートの厚み方向に延びるとともに、前記集中流路の中央部から冷媒を前記ベースプレート外へと流出させる流出流路と、をさらに具備するものであればよい。
【0017】
冷却されている前記ベースプレートに結露が発生するのを防いだり、冷媒が外気によって温められることにより冷却効率が低下するのを防いだりするには、前記ベースプレートの内部において前記集中流路よりも裏面側に真空断熱層が形成されていればよい。
【0018】
前記吸着プレートに吸着されている前記対象物と冷媒との間の熱交換効率を高められるとともに、前記放射状流路内、及び、前記集中流路内で所定の機械的強度を実現するには、前記放射状流路、及び、前記集中流路が、多数のフィンを並べたフィン構造により形成されたものであればよい。このようなものであれば、フィン構造は熱交換だけでなく、前記ベースプレート内における支持構造として作用させて、機械的強度を得ることができる。
【0019】
前記吸着プレートに対して吸着されている前記対象物における温度ムラをさらに細かく解消できるようにするには、前記吸着プレートの吸着面前記対象物の被吸着面との間に熱伝導性ガスを供給するガス供給機構をさらに備え、前記ガス供給機構が、前記吸着プレートの前記吸着面に開口するように形成された複数のガス供給流路と、前記吸着面上に区成され、各ガス供給流路により個別に熱伝導性ガスが供給される複数のガス供給領域と、前記各ガス供給領域に対して供給される熱伝導性ガスの流量を個別にそれぞれ制御する複数の流量制御装置と、を備えたものであればよい。
【0020】
前記ベースプレートを形成している金属材料の量をできる限り減らし、熱容量を小さくして、温度を下げやすくしつつ、所定サイズ以上の前記対象物を吸着した場合に必要となる機械的強度も実現できるようにするには、前記ベースプレートの裏面側にラティス構造が形成されていればよい。
【0021】
前記ラティス構造が、トポロジー最適化により形成された構造であれば、前記ベースプレートに必要とされる特性を満たした形状にすることができる。
【0022】
より好ましくは、前記ラティス構造が、前記ベースプレートが所定値以上の強度を有するとともに、所定値以下の熱容量を有することを拘束条件とするトポロジー最適化により決定される構造であればよい。このようなものであれば、前記ベースプレートに必要とされる特性を十分に満たしたラティス構造にすることができる。
【0023】
前述したようなフィン構造やラティス構造のように機械加工では形成するのが難しい形状であっても形成できるようにしつつ、従来よりもサイズの大きい対象物を吸着するのに必要なサイズの前記ベースプレートを製造できるようにするには、前記ベースプレートが、チタン(Ti)を含む金属粒子、又は、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、及び、クロム(Cr)を少なくとも含む合金粒子を用いた3Dプリンティング、又は、アディティブマニュファクチャリングで形成されたものであればよい。すなわち、3Dプリンティング、又は、アディティブマニュファクチャリングを用いれば、上記のような大きなサイズの母材が存在しない高強度の金属材料によって非常に大きいサイズの対象物を吸着し、しかも、十分に冷却することができる静電チャック装置を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明に係る静電チャック装置であれば、前記ベースプレートが前記放射状流路と前記集中流路を具備しているので、例えば3Dプリンティングやアディティブマニュファクチャリングによる作成がしやすく、従来のように拡散接合のための接合代のような部分を大きく形成する必要がない。したがって、機械的強度を保ちながら、前記ベースプレート内の流路容積を大きくして、冷媒量を増やせるとともに、前記ベースプレートの熱容量も低減できる。この結果、前記ベースプレートの温度を従来よりも大きく低下させることが可能となる。また、機械的強度を高く保つ事が可能な材料を使用して基板の大型化に対応できるサイズの前記ベースプレートを作成することも可能となる。加えて、放射状流路及び集中流路を流れる冷媒間での熱交換によって、冷媒の温度を均一化して、前記ベースプレートにおける温度ムラを低減できる。したがって、均熱板のような部材を用いる必要がなく、前記吸着プレートに吸着されている前記対象物を均一に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態における静電チャック装置の全体構成を示す模式図。
図2】同実施形態の静電チャック装置の構成を模式的に示す断面図。
図3】同実施形態のベースプレートの一部を切り欠いた状態を上方から視た模式的斜視図。
図4】同実施形態のベースプレートの一部を切り欠いた状態を下方から視た模式的斜視図。
図5図3及び図4の模式的斜視図における切断端面を拡大した模式図。
図6】同実施形態の放射状流路の流れを示す模式図。
図7】同実施形態の集中流路の流れを示す模式図。
図8】同実施形態の吸着プレートの表面の構成を示す模式図。
図9】同実施形態の吸着プレートの裏面の構成を示す模式図。
図10図8に示すA-A線断面の模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態における静電チャック装置100について各図を参照して説明する。
【0027】
本実施形態の静電チャック装置100は、図1及び図2に示すように、例えばプラズマを用いた半導体製造装置の真空チャンバC内において、処理対象となるウエハWを静電吸着するためのものである。具体的にこの静電チャック装置100は、表面側にウエハWを静電吸着する吸着面を有する吸着プレート1と、吸着プレート1を冷却する冷却面を有するベースプレート2と、吸着プレート1の裏面側と吸着プレート1の冷却面との間に設けられた熱衝撃緩和層3と、吸着プレート1の吸着面とウエハWの非吸着面との間に熱伝導性ガス(バックサイドガス)を供給するガス供給機構GA、GB、GCと、ベースプレート2内に冷媒を供給する冷媒供給機構Fと、を備えている。なお、真空チャンバCは、真空ポンプV1よって真空排気されるように構成されている。
【0028】
吸着プレート1は、図1図2に示すようにセラミックスやガラス等の絶縁性材料からなる円形平板状をなすものである。吸着プレート1内には内部電極(図示しない)が埋設されており、電源11により電圧が印加される。内部電極に電圧が印加されると、吸着プレート1内で誘電分極現象が生じ、吸着プレート1の表面側が吸着面となる。吸着プレート1は、例えば双極式のものであるが、これに限らず単極式のものであってもよい。なお、本明細書において吸着プレート1の表面とはウエハWが吸着される側の面であり、吸着プレート1の裏面とはベースプレート2と対向する側の面である。
【0029】
熱衝撃緩和層3は例えばスーパーインバー(登録商標)等の低熱膨張金属で形成された円形状の薄板又は薄膜で形成される。熱衝撃緩和層3としては、ベースプレート2を構成する材料の熱膨張率以下、かつ、吸着プレート1を構成する材料の熱膨張率以上の熱膨張率を有するものであればよい。
【0030】
ベースプレート2は、図1図2図3図4に示すように、吸着プレート1よりも厚みの大きい中空構造を有する円形平板状の金属形成体である。本実施形態ではチタン(Ti)を含む金属粒子を用いた3Dプリンティング又はアディティブマニュファクチャリングによって、ベースプレート2が形成されている。すなわち、ベースプレート2は、図2の模式的縦断面図に示すように冷却面となる表面側から順番に、冷媒が流れる内部流路21と、内部流路21の下側に形成された真空断熱層22と、真空断熱層22の下側に設けられたラティス構造23と、を備えており、これらが層状をなしている。なお、本明細書においてベースプレート2の表面とは吸着プレート1を冷却する冷却面が形成されている側であり、裏面側とは冷却面とは反対側のことを言う。言い換えると、静電チャック装置100として構成された場合に、吸着プレート1及びベースプレート2において吸着対象であるウエハW側を向く面を表面、その反対側の面を裏面ということもできる。
【0031】
図1に示すように内部流路21は、ベースプレート2の外部にある冷媒供給機構Fと接続され、ベースプレート2と冷媒供給機構Fとの間で冷媒が循環するように構成されている。冷媒供給機構Fは例えば冷媒を冷却するチラーユニットや供給ポンプ等を具備しており、例えば-80℃以下の冷媒がベースプレート2内に供給されるように温度制御を行っている。
【0032】
具体的には内部流路21は、図2図3図4に示すようにベースプレート2の中央部から軸方向に沿って冷媒が流入、流出するとともに、ベースプレート2内部の冷却面側においてベースプレート2の半径方向(面板方向)に沿った往路と復路が2層をなすように構成されている。図2に示すように内部流路21の往路はベースプレート2の中央部から冷媒が湧き出し、外周部で下側にある復路へ折り返す。内部流路21の復路ではベースプレート2の外周部から中央部に向かって冷媒が流れる。
【0033】
内部流路21の詳細な構造について、図3図4図5を参照しながら説明する。図3図4はベースプレート2の一部を切り欠いて内部構造が見えるようにした模式的斜視図であり、図5は、図3図4における切り欠いた部分の端面の拡大図である。なお、図3及び図4ではラティス構造23については省略表記している。また、図5においてクロスハッチングをしている部分はラティス構造23を示すが、ラティス構造23を簡略表記するものであり、実際の形状とは異なっている。
【0034】
内部流路21は、ベースプレート2の中央部において軸方向(ベースプレート2の厚み方向)に沿って延び、冷媒供給機構Fから冷媒が流入する流入流路L1と、流入流路L1から流入した冷媒がベースプレート2の中央部から外周側へ向かってと流れる放射状流路L2と、放射状流路L2の下側に形成され、放射状流路L2を通過した冷媒がベースプレート2の外周側から中央部に向かって流れる集中流路L4と、放射状流路L2と集中流路L4の外周部同士を軸方向に接続する概略円環状の接続流路L3と、ベースプレート2の中央部において軸方向に沿って延び、集中流路L4を通過した冷媒がベースプレート2の外部へと流出する流出流路L5と、を備えている。
【0035】
図3乃至図5に示すように流入流路L1はベースプレート2の中心軸に沿って延びる流路であり、流出流路L5は、流入流路L1を形成する円筒状の隔壁内を通る小径の中空円筒として複数形成されている。流入流路L1及び流出流路L5は例えば二重管構造で実現されても構わない。また、放射状流路L2と集中流路L4はベースプレート2内において積層させて形成されており、ベースプレート2の半径方向(面板方向)に沿って延びる概略薄板円板状の内部隔壁薄板2Pで仕切られている。
【0036】
放射状流路L2は、図6の各矢印で示すように中央部にある流入流路L1の開口から湧き出した冷媒が最外周にある接続流路L3に向かって放射状に流れるように構成されている。より具体的には放射状流路L2は、複数のフィンを並べたフィン構造(図示しない)によってその放射状の流れが形成されているとともに、冷媒とベースプレート2との間で熱交換が生じるように形成されている。
【0037】
集中流路L4は、図7の各矢印で示すように最外周にある接続流路L3から、中央部にある流入流路L1の開口に向かって冷媒が集中するように構成されている。より具体的には集中流路L4は、複数のフィンを並べたフィン構造(図示しない)によってその放射状の流れが形成されているとともに、冷媒とベースプレート2との間で熱交換が生じるように形成されている。
【0038】
なお、図6及び図7における矢印は流線そのものを示すものではなく、大まかな流れ方向を示すものである。すなわち、放射状に流れる、又は、集中するように流れるとはベースプレート2の半径軸に沿って直線的に流体が流れることだけでなく、中央部から外周部に至るまでに流線が湾曲していたり、蛇行していたりしても構わない。
【0039】
また、放射状流路L2、集中流路L4を構成するフィンは、例えば翼断面が楕円形状をなすものであり、内部隔壁薄板2Pと冷却面を形成するベースプレート2の表面板との間、又は内部隔壁薄板2Pと真空断熱層22を形成する隔壁との間を接続する。すなわち、フィン構造自体が構造体として各部材や冷媒の重量を支える。
【0040】
フィン構造における各フィンの配置、形状についてはFEM解析やトポロジー最適化の結果に基づいて決定される。最適化の際の拘束条件としては、例えばフィン構造での熱交換量、フィン構造が支持するべき重量、ベースプレート2としての重量制限、放射状流れを形成する各流線の形状等の一部又は全部が挙げられる。
【0041】
このような内部流路21がベースプレート2内に形成されているので、例えば放射状流路L2だけをベースプレート2内に形成した場合と比較して、ベースプレート2の温度ムラを緩和できる。すなわち、放射状流路L2を流れている冷媒は中央部が最も冷媒温度が低く、外周部が最も冷媒温度が高くなるように温度勾配が発生するのに対して、集中流路L4では外周側が最も冷媒温度が低く、中央部が最も高くなるように温度勾配が発生する。放射状流路L2と集中流路L4は同軸で積層されて内部隔壁薄板2Pのみを介して形成されているので、各流路を流れる冷媒間の熱交換により、それぞれの逆向きの温度勾配が緩和されて、全体において平均温度からの乖離を小さくできる。したがって、ベースプレート2の半径方向に対する温度ムラを低減でき、均熱板を用いなくてもウエハWに冷却ムラによる温度ムラが発生するのを防ぐことができる。
【0042】
次に真空断熱層22及びラティス構造23について図2及び図5を参照しながら説明する。真空断熱層22は集中流路L4の下側、すなわち、ベースプレート2の裏面側において集中流路L4と外気とを隔絶するように設けられている。このようにして、集中流路L4を流れる冷媒によって結露等が生じるのを防ぐとともに、外部への熱の流出を防ぐようにしてある。
【0043】
ラティス構造23(格子構造)は、真空断熱層22の下側に設けられており、例えばトポロジー最適化によってその形状が決定されたものである。より具体的にはベースプレート2が所定値以上の強度を有するとともに、所定値以下の熱容量を有することを拘束条件とするトポロジー最適化により決定される構造である。なお、他の拘束条件を用いてもよい。また、レベルセット法や密度法等様々な手法のトポロジー最適化によってラティス構造23が決定されてもよい。また、ラティス構造23は、例えば孔を有した基本立体形状を1つのセルとして、このセルが繰り返されることで形成される構造であってもよい。
【0044】
最後にガス供給機構GA、GB、GC及び吸着プレート1の詳細について図1図8図9図10を参照しながら説明する。なお、図8図9についてはわかりやすさのため、ガス流通孔12は吸着プレート1に対する比率よりも大きく記載しており、図10のガス流通孔12の大きさとは一致しない。
【0045】
本実施形態では吸着プレート1に対して図8に示すように120度ごとに分割された3つのゾーンZA、ZB、ZCごとバックサイドガスの供給流量を制御し、それぞれの流量を独立に制御できるように構成されている。すなわち、3つの独立したガス供給機構GA、GB、GCに設けられた各マスフローコントローラによってゾーンZA、ZB、ZCごとにバックサイドガスの供給流量を制御する。
【0046】
図8に示すように吸着プレート1には両面を貫通するガス流通孔12が形成されている。また、各ゾーンZA、ZB、ZCに属するガス流通孔12同士は図9に示すように吸着プレート1の裏面において形成されているガス流通溝13により各々連通させてある。例えば各ゾーンZA、ZB、ZCのガス流通孔12のうち、内周側にあるものの1つとガス供給ラインが接続され、それぞれ個別のマスフローコントローラでバックサイドガスが供給される。また、図8のA-A線断面図である図9に示すようにベースプレート2には吸着プレート1のガス流通孔12とガス供給機構GA、GB、GCのガス供給ラインとの間を接続するガス連結孔24が形成されている。
【0047】
このように構成された本実施形態の静電チャック装置100であれば、ベースプレート2内に放射状流路L2と集中流路L4をフィン構造によって形成しているので、従来のように螺旋状に流路を形成した場合と比較して例えば金属粒子による3Dプリンティングやアディティブマニュファクチャリングで前記ベースプレート2を形成しやすい。このため、ベースプレート2を本体と蓋体の2つの部材で構成して、それぞれを拡散接合しなくてもよいので、接合代を作る必要がない。したがって、ベースプレート2内の全体にわたって放射状流路L2、及び、集中流路L4を均一に形成でき、ベースプレート2内に均一に冷媒を流すとともに、その流量も増加させることができる。
【0048】
また、放射状流路L2及び集中流路L4におけるフィン構造やラティス構造23によってベースプレート2の中空率を高くし、ベースプレート2の熱容量を小さくできる。このため、冷媒量の増加と熱容量の低減により熱伝導率の悪い金属材料でもベースプレート2の冷却温度を従来よりも低くしたり、冷却速度を向上させたりできる。
【0049】
さらに、放射状流路L2や集中流路L4であれば、螺旋状の流路に比べて流れを設計通りにしやすいので、ベースプレート2における温度ムラをそもそも生じにくくできる。
【0050】
加えて、ベースプレート2はチタンによる3Dプリンティングやアディティブマニュファクチャリングにより形成されているので、従来の接合方法のような接合境界面が存在せず、冷却による熱衝撃についても強くすることができる。また、ベースプレート2の冷却面を形成する隔壁の厚みを薄くして、吸着プレート1と冷媒が流れている内部流路21との距離を近づけることができる。このため、吸着プレート1に吸着されているウエハWを従来よりも冷却しやすい。さらに、3Dプリンティングやアディティブマニュファクチャリングであれば、機械加工で作成することが難しい大きさのベースプレート2であっても製造することができる。例えばチタン等の金属はサイズの大きい母材を用意しにくいものも材料として選択可能となる。したがって、ウエハWの大型化に対応して従来では実現しにくかったサイズの静電チャック装置100も実現できる。
【0051】
さらに、低熱容量化や薄肉化を行ってもラティス構造23により機械的強度は十分に保つことができる。また、吸着プレート1とウエハWとの間に供給されるバックサイドガスの流量は複数のゾーンZA、ZB、ZCに分けて、それぞれ個別の圧力計測可能なマスフローコントローラ(もしくは圧力式マスフローコントローラ)により制御できるので、ウエハWにおける温度分布が発生しないようにきめ細かく温度制御できる。
【0052】
その他の実施形態について説明する。
【0053】
内部流路の構成については前述した実施形態に示したものに限られない。例えばベースプレートの表面側に集中流路が配置され、ベースプレートの裏面側に放射状流路が形成されてもよい。具体的にはベースプレートの外側周面から集中流路内へと冷媒が流入し、集中流路を通過した冷媒が中央部に形成された接続流路によって放射状流路の中央部へと流れ、その後再び外側周面からベースプレート外へと流出するように構成してもよい。すなわち、放射状流路と集中流路はベースプレート内において積層して形成されていればよい。
【0054】
ベースプレートを形成する金属についてはチタンに限られない。例えばインコネル(登録商標)のようなニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、及び、クロム(Cr)を少なくとも含む合金粒子を用いた3Dプリンティング又はアディティブマニュファクチャリングによってベースプレートを形成してもよい。
【0055】
本発明に係る静電チャック装置が用いられるのはプラズマ処理等の用途に限られない。その他のチャンバ内で行われる半導体製造プロセスで本発明に係る静電チャック装置を用いてもよい。
【0056】
ラティス構造が設けられる位置は前述した実施形態の位置に限られない。例えばベースプレート内において空隙を形成して、熱容量を低減するためにラティス構造を形成してもよい。放射状流路と集中流路とを仕切る内部隔壁薄板が中空部分を有しており、その中空部分にラティス構造が形成されていてもよい。
【0057】
吸着プレートと対象物との隙間に供給される熱伝導性ガスについてはヘリウム等の貴ガスが挙げられるが、その他のガスであってもよい。また、熱伝導性ガスが供給されるゾーンの分割数については2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。ゾーンの分割数を多くするほど、ウエハ等の対象物の温度制御をより細やかに実現できる。
【0058】
吸着プレートの材質や形状等によって熱衝撃に対して十分な耐性があるならば、ベースプレートと吸着プレートとの間に熱衝撃緩和層を設けずに、ベースプレートの冷却面に対して吸着プレートを直接設けてもよい。
【0059】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0060】
100 :静電チャック装置
1 :吸着プレート
11 :電源
12 :ガス流通孔
13 :ガス流通溝
2 :ベースプレート
2P :内部隔壁薄板
21 :内部流路
L1 :流入流路
L2 :放射状流路
L3 :接続流路
L4 :集中流路
L5 :流出流路
22 :真空断熱層
23 :ラティス構造
24 :ガス連結孔
3 :熱衝撃緩和層
C :真空チャンバ
F :冷媒供給機構
GA :ガス供給機構
GB :ガス供給機構
GC :ガス供給機構
V1 :真空ポンプ
W :ウエハ
ZA :ゾーン
ZB :ゾーン
ZC :ゾーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10