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特開2022-90560ブドウ抽出物、並びに、ブドウ抽出液の製造方法、ブドウ抽出精製物の製造方法およびブドウ抽出乾燥物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090560
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】ブドウ抽出物、並びに、ブドウ抽出液の製造方法、ブドウ抽出精製物の製造方法およびブドウ抽出乾燥物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20220610BHJP
   A61K 36/87 20060101ALI20220610BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20220610BHJP
   C07H 17/065 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/87
A61K31/7048
C07H17/065
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203032
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】西澤 直美
【テーマコード(参考)】
4B018
4C057
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD08
4B018MD09
4B018MD42
4B018MD52
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4B018MF07
4C057AA06
4C057BB02
4C057DD01
4C057KK07
4C086AA04
4C086EA11
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C088AB56
4C088AC04
4C088BA10
4C088CA08
4C088NA20
(57)【要約】
【課題】ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出する。乾燥粉末の状態にしても固結し難い、ハンドリング性に優れるブドウ抽出物を提供する。
【解決手段】ブドウを、15℃以上50℃以下の抽出温度で、極性溶媒および酸成分を含む抽出剤を用いて抽出する工程を含む、ブドウ抽出液の製造方法。マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量が、乾燥質量換算で3質量%以上であり、糖の含有量が、乾燥質量換算で80質量%以下である、ブドウ抽出物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルビジン-3,5-ジグルコシドおよび糖を含むブドウ抽出物であって、
前記マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量が、乾燥質量換算で3質量%以上であり、
前記糖の含有量が、乾燥質量換算で80質量%以下である、ブドウ抽出物。
【請求項2】
ブドウを、15℃以上50℃以下の抽出温度で、極性溶媒および酸成分を含む抽出剤を用いて抽出する工程を含む、ブドウ抽出液の製造方法。
【請求項3】
前記極性溶媒が、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびテトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項2に記載のブドウ抽出液の製造方法。
【請求項4】
前記抽出剤が、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、塩酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項2または3に記載のブドウ抽出液の製造方法。
【請求項5】
前記ブドウが、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)、サンカクヅル(Vitis flexuosa)、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)とサンカクヅル(Vitis flexuosa)の交配種、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)とヨーロッパブドウ(Vitis Vinifera)の交配種、および、サンカクヅル(Vitis flexuosa)とヨーロッパブドウ(Vitis Vinifera)の交配種からなる群より選択される1種以上のブドウの果皮を含む、請求項2~4の何れかに記載のブドウ抽出液の製造方法。
【請求項6】
前記ブドウが、破砕処理または圧搾処理されたものである、請求項2~5の何れかに記載のブドウ抽出液の製造方法。
【請求項7】
請求項2~6の何れかに記載のブドウ抽出液の製造方法を用いて製造したブドウ抽出液を精製する工程を含む、ブドウ抽出精製物の製造方法。
【請求項8】
前記精製は、
前記ブドウ抽出液を樹脂と接触させる工程(a)と、
前記工程(a)の後に、前記樹脂を酸性水溶液で洗浄する工程(b)と、
前記工程(b)の後に、前記樹脂を、酸性水溶液とアルコールとの混合液に接触させる工程(c)と、
を含む、請求項7に記載のブドウ抽出精製物の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂が、芳香族系樹脂、置換芳香族系樹脂およびアクリル酸系樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項8に記載のブドウ抽出精製物の製造方法。
【請求項10】
前記酸性水溶液が、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、塩酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項8または9に記載のブドウ抽出精製物の製造方法。
【請求項11】
請求項7~10の何れかに記載のブドウ抽出精製物の製造方法を用いて製造したブドウ抽出精製物を乾燥する工程を含む、ブドウ抽出乾燥物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ抽出物、並びに、ブドウ抽出液の製造方法、ブドウ抽出精製物の製造方法およびブドウ抽出乾燥物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アントシアニンは、視覚障害改善作用、抗酸化作用、血管強化作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用など様々な生理活性を示すことが知られている。そのため、アントシアニンを含有する生物資源の利用が図られている。
【0003】
例えば、ブルーベリー果実の抽出物については、抗癌剤(特許文献1)や脳機能改善用組成物(特許文献2)としての応用が報告されている。また、ビルベリーに含まれるアントシアニンによってアミロイドβタンパク質の凝集を抑制する試みもなされている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-277271号公報
【特許文献2】特開2007-145825号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】MY.Yoshida, et al., "Anthocyanin suppresses the toxicity of Aβdeposits through diversion of molecular forms in vitro and in vivo models of Alzheimer's disease" Nutritional Neuroscience, 2016年、Vol.19(1)、p.32-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在日本では、高齢化の進展による認知症患者数の増加を受け、認知症治療剤市場は大幅に拡大を続けており、市場規模は、2022年には2013年から比較して1.75倍まで拡大するとの予想もある。一般に、認知症の内科的な治療法には副作用の問題等があり、患者の負担が大きい。一方、生物資源由来の物質は、副作用が少なく、安全で、日常的又は継続的な摂取に適している。そのため、神経機能調節作用を示す生物資源由来の物質に期待が寄せられている。
【0007】
ここで、生物資源に関しては、上記のとおり、アントシアニンについて、これまでブルーベリーやビルベリーが中心に研究が行われている。しかし、ブドウを生物資源として利用する研究に関しては十分とはいえなかった。
【0008】
そこで、本発明者は、生物資源としてブドウに注目し、研究を進めたところ、下記式(1)で表わされるマルビジン-3,5-ジグルコシドを含有するブドウ抽出物が、食品組成物や医薬組成物などの原料として有用であることを見出した。
なお、ブドウ抽出物中のマルビジン-3,5-ジグルコシドは、例えばクロリド等の、カウンターアニオンを有した形態であってもよい。また、生物資源として抽出に用いられるブドウの部位や状態は限定されず、根、茎、葉または果実(果皮、果肉、種子)であってもよいし、ワインなどを製造する際に生じる搾りかす等であってもよい。
【化1】
【0009】
しかし、本発明者が検討を重ねたところ、抽出条件によってはブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを十分に抽出できない場合があることが明らかとなった。そのため、マルビジン-3,5-ジグルコシドを含有するブドウ抽出物を食品組成物や医薬組成物などの原料として使用するためには、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出する技術を確立する必要があった。
【0010】
また、本発明者が更に検討を重ねたところ、所定の抽出方法を用いればブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出することは可能となるものの、当該抽出方法で得られる抽出液を乾燥させてなる乾燥粉末は、吸湿により固結し易く、ハンドリングし難いことが明らかとなった。
【0011】
そこで、本発明は、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、乾燥粉末の状態にしても固結し難い、ハンドリング性に優れるブドウ抽出物の提供を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の抽出剤を用いて所定の抽出温度で抽出を行うことにより、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出できることを見出した。また、本発明者は、マルビジン-3,5-ジグルコシドの乾燥質量換算の含有量が所定値以上であり、且つ、糖の乾燥質量換算の含有量が所定値以下であるブドウ抽出物は、乾燥粉末の状態にしても固結し難いこと、並びに、抽出後に精製を行うことにより抽出物中のマルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量を高めつつ糖の含有量を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のブドウ抽出物は、マルビジン-3,5-ジグルコシドおよび糖を含むブドウ抽出物であって、前記マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量が、乾燥質量換算で3質量%以上であり、前記糖の含有量が、乾燥質量換算で80質量%以下であることを特徴とする。このように、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量が上記下限値以上であれば、食品組成物や医薬組成物などの原料として有利に使用することができる。また、糖の含有量が上記上限値以下であれば、乾燥粉末の状態にしても吸湿による固結を抑制することができる。
なお、本発明において、マルビジン-3,5-ジグルコシドおよび糖の乾燥質量換算の含有量は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のブドウ抽出液の製造方法は、ブドウを、15℃以上50℃以下の抽出温度で、極性溶媒および酸成分を含む抽出剤を用いて抽出する工程を含むことを特徴とする。このように、所定の抽出剤を用いて所定の抽出温度で抽出を行えば、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出し、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量が多いブドウ抽出液を得ることができる。
【0015】
ここで、本発明のブドウ抽出液の製造方法において、前記極性溶媒は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびテトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの溶媒を使用すれば、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを良好に抽出することができる。
【0016】
また、本発明のブドウ抽出液の製造方法において、前記抽出剤は、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、塩酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの酸成分を用いれば、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを良好に抽出することができる。
【0017】
更に、本発明のブドウ抽出液の製造方法では、前記ブドウが、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)、サンカクヅル(Vitis flexuosa)、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)とサンカクヅル(Vitis flexuosa)の交配種、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)とヨーロッパブドウ(Vitis Vinifera)の交配種、および、サンカクヅル(Vitis flexuosa)とヨーロッパブドウ(Vitis Vinifera)の交配種からなる群より選択される1種以上のブドウの果皮を含むことが好ましい。これらのブドウの果皮は、マルビジン-3,5-ジグルコシド含有量が高く、アントシアニンの組成において特異的であるからである。
【0018】
そして、本発明のブドウ抽出液の製造方法では、前記ブドウが、破砕処理または圧搾処理されたものであることが好ましい。破砕処理または圧搾処理したブドウを使用すれば、マルビジン-3,5-ジグルコシドの収量を更に高めることができる。
【0019】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法は、上述したブドウ抽出液の製造方法の何れかを用いて製造したブドウ抽出液を精製する工程を含むことを特徴とする。上述した製造方法により得られるブドウ抽出液を精製すれば、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量を高めつつ糖の含有量を低減させ、乾燥粉末の状態にしても固結し難いブドウ抽出精製物を得ることができる。
【0020】
ここで、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法において、前記精製は、前記ブドウ抽出液を樹脂と接触させる工程(a)と、前記工程(a)の後に、前記樹脂を酸性水溶液で洗浄する工程(b)と、前記工程(b)の後に、前記樹脂を、酸性水溶液とアルコールとの混合液に接触させる工程(c)とを含むことが好ましい。樹脂を使用し、工程(a)~工程(c)を実施すれば、ブドウ抽出精製物中のマルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量を更に高めつつ糖の含有量を更に低減させることができる。
【0021】
また、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法では、前記樹脂が、芳香族系樹脂、置換芳香族系樹脂およびアクリル酸系樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの樹脂を使用すれば、ブドウ抽出液を良好に精製することができる。
【0022】
更に、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法では、前記酸性水溶液が、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、塩酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの酸成分を含む酸性水溶液を使用すれば、ブドウ抽出液を良好に精製することができる。
【0023】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のブドウ抽出乾燥物の製造方法は、上述したブドウ抽出精製物の製造方法の何れかを用いて製造したブドウ抽出精製物を乾燥する工程を含むことが好ましい。上述した製造方法により得られるブドウ抽出精製物を乾燥すれば、固結し難いブドウ抽出乾燥物を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のブドウ抽出液の製造方法によれば、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出することができる。
また、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法、ブドウ抽出乾燥物の製造方法およびブドウ抽出物によれば、乾燥粉末の状態にしても固結し難い、ハンドリング性に優れるブドウ抽出物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のブドウ抽出物は、例えば本発明のブドウ抽出精製物の製造方法およびブドウ抽出乾燥物の製造方法を用いて製造することができ、食品組成物や医薬組成物などの原料として有利に用いることができる。また、本発明のブドウ抽出液の製造方法は、マルビジン-3,5-ジグルコシドをブドウから抽出する際に用いることができる。そして、本発明のブドウ抽出液の製造方法により得られるブドウ抽出液は、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法によりブドウ抽出精製物を得る際の原料として用いることができる。また、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法により得られるブドウ抽出精製物は、本発明のブドウ抽出乾燥物の製造方法によりブドウ抽出乾燥物を得る際の原料として用いることができる。
【0026】
(ブドウ抽出物)
本発明のブドウ抽出物は、マルビジン-3,5-ジグルコシドおよび糖を含み、任意に、溶媒を更に含有し得る。即ち、本発明のブドウ抽出物は、溶液、分散液またはペーストの状態であってもよいし、乾燥した固体状態であってもよい。
そして、本発明のブドウ抽出物は、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量が、乾燥質量換算で3質量%以上であり、糖の含有量が、乾燥質量換算で80質量%以下であることを必要とする。
なお、本発明のブドウ抽出物は、マルビジン-3,5-ジグルコシド、デルフィニジン-3-グルコシド、マルビジン-3-グルコシド、マルビシン-3-クマロイルグルコシド、マルビシン-3-クマロイルグルコシド-5-グルコシド、レスベラトロール等の、マルビジン-3,5-ジグルコシド以外のアントシアニン(以下、「その他のアントシアニン」と称することがある。)を更に含有していてもよい。本発明において、これらのアントシアニンは、例えばクロリド等の、カウンターアニオンを有した形態であってもよい。
【0027】
<マルビジン-3,5-ジグルコシド>
マルビジン-3,5-ジグルコシドは、前述した式(1)で表わされる化合物である。また、本発明において、マルビジン-3,5-ジグルコシドは、例えばクロリド等の、カウンターアニオンを有した形態であってもよい。
【0028】
そして、ブドウ抽出物の乾燥質量中におけるマルビジン-3,5-ジグルコシドの割合は、3質量%以上であることが必要であり、8質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。マルビジン-3,5-ジグルコシドの割合の上限は、100質量%未満であれば特に限定されないが、通常は50質量%以下である。マルビジン-3,5-ジグルコシドの割合が上記下限値以上であれば、加工時や製剤時の取扱容易性およびコストを優れたものとすることができるので、食品組成物や医薬組成物などの原料として有利に使用することができる。
【0029】
<糖>
ブドウ抽出物に含まれる糖としては、特に限定されることなく、フルクトースおよびグルコース等の、ブドウに含まれている糖が挙げられる。
【0030】
そして、ブドウ抽出物の乾燥質量中における糖の割合は、80質量%以下であることが必要であり、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。糖の割合の下限は、0質量%超であれば特に限定されないが、通常は3質量%以上である。糖の割合が上記上限値以下であれば、乾燥粉末の状態とした際に吸湿により固結するのを抑制することができる。
【0031】
<溶媒>
ブドウ抽出物に含まれ得る溶媒としては、特に限定されることなく、水、酸性水溶液等の水溶液、アルコール等の有機溶媒、または、それらの2種以上の混合液が挙げられる。ここで、酸性水溶液としては、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、塩酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも一種の水溶液が挙げられる。また、アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。
なお、特に限定されるものではないが、ハンドリング性の観点からは、ブドウ抽出物の固形分濃度は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
【0032】
<ブドウ抽出物の用途>
ブドウ抽出物は、マルビジン-3,5-ジグルコシドを含有しており、抗老化、抗ストレス、抗疲労、学習能力回復・向上、記憶力回復・向上、反射反応能力回復・向上などの効能を有し得る。また、ブドウ抽出物は生物資源由来の物質であるため、副作用が少なく、安全で、日常的または継続的な摂取に適している。
そのため、ブドウ抽出物は、食品組成物や医薬組成物を製造する際の原料として好適に用いることができる。なお、食品組成物や医薬組成物の投与対象としては、哺乳動物が挙げられ、例えば、ヒト、家畜(ウマ、ウシ、ブタ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ等)、実験(試験)動物(マウス、ラット等)であり、好ましくはヒトである。
【0033】
[食品組成物]
ここで、上記ブドウ抽出物を含有する食品組成物は、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、機能性表示食品、特別用途食品、特定保健用食品または栄養機能食品であることができる。
【0034】
食品組成物は、食品の製造で許容される成分を含むことができる。当該成分としては、例えば、担体、賦形剤(例えば、乳糖、デンプン、ショ糖、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン)、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、溶剤(水、食塩水、エタノール等の有機溶媒)が挙げられる。食品は、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、有機酸、有機塩基、香料等を含むこともできる。
【0035】
食品組成物の形態は、特に限定されず、固体、液体、混合物、懸濁液、ペースト、ゲル、粉末、カプセルが挙げられ、飲料、菓子、調味料、惣菜、加工食品とすることができる。食品組成物は、サプリメントであってもよい。
【0036】
食品組成物の使用方法(対象となる疾患および症状等、投与方法(投与対象、投与量、期間))は、目的に応じて設定することができる。具体的には、抗老化、抗ストレス、抗疲労、学習能力回復・向上、記憶力回復・向上、反射反応能力回復・向上用の食品組成物が挙げられる。
【0037】
[医薬組成物]
また、上記ブドウ抽出物を含有する医薬組成物は、医薬品または医薬部外品であることができる。
【0038】
医薬組成物は、製薬上許容される成分を含むことができる。当該成分としては、例えば、担体、賦形剤(例えば、乳糖、デンプン、ショ糖、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン)、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、溶剤(例えば、水、食塩水、エタノール等の有機溶媒)が挙げられる。また、他の薬理活性を有する薬理成分を含むこともできる。
【0039】
医薬組成物は、医薬品または医薬部外品として使用することができる。医薬組成物は、経口投与用であっても、非経口投与であってもよく、好ましくは、経口投与である。経口投与の場合、散剤、錠剤、コーティング剤、糖衣錠、ソフトカプセルまたはハードカプセル、液剤、乳濁剤、懸濁剤の形態が挙げられる。非経口投与の場合、坐剤、注射剤、輸液、軟膏、クリーム、ゲル剤の形態が挙げられる。
【0040】
医薬組成物の使用方法(対象となる疾患および症状等、投与方法(投与対象、投与量、期間))は、目的に応じて設定することができる。具体的には、抗老化、抗ストレス、抗疲労、学習能力回復・向上、記憶力回復・向上、反射反応能力回復・向上用の医薬組成物が挙げられる。
【0041】
(ブドウ抽出液の製造方法)
本発明のブドウ抽出液の製造方法は、ブドウを原料(被抽出物)としてマルビジン-3,5-ジグルコシドを含有するブドウ抽出液を製造する方法であり、ブドウを、15℃以上50℃以下の抽出温度で、極性溶媒および酸成分を含む抽出剤を用いて抽出する工程(抽出工程)を含む。なお、本発明のブドウ抽出液の製造方法は、抽出工程の前にブドウを前処理する前処理工程を含んでいてもよい。また、本発明のブドウ抽出液の製造方法の抽出工程で得られる抽出液は、ろ過等の任意の固液分離方法を用いてブドウ抽出残渣と分離することができる。
【0042】
<前処理工程>
前処理工程では、ブドウに前処理を施し、抽出工程においてマルビジン-3,5-ジグルコシドが良好に抽出され得るようにする。
【0043】
ここで、前処理方法としては、特に限定されることなく、破砕処理、圧搾処理および乾燥処理からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なお、破砕処理は、例えばミキサーを用いて行うことができ、圧搾処理は、例えば果実しぼり器を用いて行うことができ、乾燥処理は、例えば凍結乾燥器を用いて行うことができる。
【0044】
<抽出工程>
抽出工程では、ブドウを、15℃以上50℃以下の抽出温度で、極性溶媒および酸成分を含む抽出剤を用いて抽出する。このように、上記所定の抽出剤を用いて上記所定の抽出温度で抽出を行うことにより、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出することができる。
【0045】
[ブドウ]
ここで、本発明における被抽出物は、ブドウであれば部位や状態は限定されず、ブドウの根、茎、葉および果実(果皮、果肉、種子)、並びに、ワインなどを製造する際に生じる搾りかす等からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
中でも、アントシアニン、特にマルビジン-3,5-ジグルコシドが多く含まれている観点からは、被抽出物は少なくともブドウの果皮を含むことが好ましい。また、果実から果皮のみを分離する作業は煩雑であることから、簡便性の観点からは、被抽出物はブドウの果実であることが好ましい。
ここで、被抽出物となるブドウとしては、任意のブドウを用いることができるが、マルビジン-3,5-ジグルコシド含有量が高く、アントシアニンの組成において特異的であるという観点から、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)、サンカクヅル(Vitis flexuosa)、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)とサンカクヅル(Vitis flexuosa)の交配種、ヤマブドウ(Vitis Coignetiae)とヨーロッパブドウ(Vitis Vinifera)の交配種、および、サンカクヅル(Vitis flexuosa)とヨーロッパブドウ(Vitis Vinifera)の交配種からなる群より選択される1種以上のブドウを用いることが好ましく、これらのブドウの果皮を用いることがより好ましい。
【0046】
[抽出剤]
抽出剤としては、極性溶媒および酸成分を含有する抽出剤を用いることができる。
【0047】
ここで、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを良好に抽出する観点からは、極性溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびテトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましく、水、メタノール、エタノール、エタノール水溶液、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはテトラヒドロフランを用いることがより好ましく、水、エタノールまたはエタノール水溶液を用いることが更に好ましい。
【0048】
また、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを良好に抽出する観点からは、酸成分としては、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、塩酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましく、ギ酸、塩酸またはクエン酸を用いることがより好ましく、塩酸を用いることが更に好ましい。
【0049】
そして、抽出剤の組成は、極性溶媒および酸成分の存在下で抽出を行うことができれば特に限定されないが、酸性条件下でブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを良好に抽出する観点からは、抽出剤中の酸成分の濃度は、0.000001mol/L以上であることが好ましく、0.00001mol/L以上であることがより好ましく、0.0001mol/L以上であることが更に好ましく、0.1mol/L以下であることが好ましく、0.01mol/L以下であることがより好ましい。
【0050】
[抽出温度]
抽出温度は、15℃以上50℃以下であることが必要であり、20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましく、45℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。抽出温度が上記下限値以上であれば、マルビジン-3,5-ジグルコシドを短時間で効率的に抽出することができる。また、抽出温度が上記上限値以下であれば、マルビジン-3,5-ジグルコシドが熱により破壊されるのを抑制し、収量を高めることができる。
【0051】
[その他の抽出条件]
抽出時間は、特に限定されることなく、例えば1時間以上12時間以下とすることができる。
また、抽出は、ソックスレー抽出器、高速高圧抽出装置などの任意の抽出装置を用いて行うことができる。
【0052】
<抽出液の組成>
そして、抽出工程を経て得られるブドウ抽出液は、通常、マルビジン-3,5-ジグルコシドと、抽出剤とを含有し、任意に、糖、および/または、その他のアントシアニンを更に含有する。なお、糖およびその他のアントシアニンとしては、本発明のブドウ抽出物に関して上述したものと同様のものが挙げられる。
【0053】
(ブドウ抽出精製物の製造方法)
本発明のブドウ抽出精製物の製造方法は、本発明のブドウ抽出液の製造方法を用いて製造したブドウ抽出液を精製する工程(精製工程)を含む。なお、ブドウ抽出液は、減圧濃縮などの任意の濃縮方法を用いて濃縮した後に精製してもよい。ここで、マルビジン-3,5-ジグルコシドが破壊されるのを抑制する観点からは、濃縮は50℃以下で行うことが好ましい。
【0054】
<精製工程>
精製工程では、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有割合の向上および/または糖の除去の少なくとも一方を達成可能な任意の精製方法を用いてブドウ抽出液を精製し、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有割合を高めつつ糖の含有割合を低減させたブドウ抽出精製物を得る。
なお、ブドウ抽出液を得る際の被抽出物に果肉などの糖を多く含む部位が含まれている場合にはブドウ抽出液中の糖の含有量が高くなり得るが、このように精製工程を実施すれば、糖の含有割合を低減させることができる。
【0055】
ここで、精製方法としては、特に限定されることなく、例えば、合成吸着樹脂を用いた精製方法や、イオン交換樹脂を用いた精製方法などの樹脂を用いた精製方法が挙げられ、中でも合成吸着樹脂を用いた精製方法が好ましい。
【0056】
精製に使用し得る樹脂としては、マルビジン-3,5-ジグリコシドを含むアントシアニンを物理吸着し得る樹脂であれば特に限定されることなく、合成吸着樹脂が好ましく、芳香族系樹脂(例えば、スチレン系樹脂)、置換芳香族系樹脂およびアクリル酸系樹脂がより好ましく、ポリスチレン-ジビニルベンゼン架橋の疎水性合成吸着樹脂が更に好ましい。これらの合成吸着樹脂は、通常はイオン交換樹脂のような官能基は有しておらず、1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
なお、芳香族系樹脂または置換芳香族系樹脂としては、ダイヤイオンHP20、ダイヤイオンHP21、セパビーズSP850、セパビーズSP825L、セパビーズSP700(以上、三菱ケミカル(株)社製)、Macronet MN250、PuroSorb PAD600、PuroSorb PAD550、PuroSorb PAD900、PuroSorb PAD350(以上、ピュロライト(株)社製)、アンバーライトFPX66(Rohm & HaaS社製)等が挙げられる。
また、アクリル酸系樹脂としては、PuroSorb PAD610、PuroSorb PAD950(以上、ピュロライト(株)社製)、アンバーライトXAD-7HP(Rohm & HaaS社製)等が挙げられる。
【0058】
また、精製に使用し得る樹脂は、吸着能の観点から、細孔径が40Å以上700Å以下であることが好ましい。
更に、精製に使用し得る樹脂は、吸着能の観点から、比表面積が400m/g以上1100m/g以下であることが好ましい。
【0059】
そして、樹脂を用いた精製方法では、ブドウ抽出液を樹脂と接触させる工程(a)と、工程(a)の後に、樹脂を酸性水溶液で洗浄する工程(b)と、工程(b)の後に、樹脂を、酸性水溶液とアルコールとの混合液に接触させる工程(c)とを実施することが好ましい。工程(a)~工程(c)を実施することで、マルビジン-3,5-ジグルコシドを含むアントシアニンを選択的に回収しつつ、水溶性の色素類、糖類、蛋白質、アミノ酸等の不要な成分を除去することができる。
【0060】
[工程(a)]
ここで、工程(a)においてブドウ抽出液を樹脂と接触させる方式は、特に限定されず、バッチ式であってもよいし、カラム等を用いた連続式であってもよい。中でも、工程(a)は、樹脂を充填したカラムにより連続式で行うことが好ましい。
【0061】
なお、バッチ式でブドウ抽出液を樹脂と接触させる場合は、特に限定されることなく、樹脂1容量に対して1~50容量のブドウ抽出液を1時間~1晩、接触させることができる。
また、連続式でブドウ抽出液を樹脂と接触させる場合は、特に限定されることなく、樹脂1容量に対して1~50容量のブドウ抽出液を空間速度(SV)が1~5h-1となるように接触させることができる。
【0062】
そして、樹脂にマルビジン-3,5-ジグルコシドを含むアントシアニンを選択的に吸着させる観点からは、ブドウ抽出液を樹脂と接触させる温度は、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましく、60℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、25℃以下であることが更に好ましい。
【0063】
[工程(b)]
工程(b)では、樹脂を酸性水溶液で洗浄し、非吸着成分を除去する。ここで、酸性水溶液は、pHが6以下であることが好ましい。そして、酸性水溶液としては、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、塩酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む水溶液を用いることが好ましく、ギ酸、塩酸またはクエン酸を含む水溶液を用いることがより好ましく、塩酸を含む水溶液を用いることが更に好ましい。
【0064】
なお、工程(a)においてバッチ式でブドウ抽出液を樹脂と接触させた場合は、樹脂と上清とを分離した後で酸性水溶液による樹脂の洗浄を行えばよい。
また、工程(a)において連続式でブドウ抽出液を樹脂と接触させた場合は、酸性水溶液を空間速度(SV)が5h-1程度になるように通液して洗浄を行えばよい。
【0065】
そして、非吸着成分を良好に除去する観点からは、樹脂を酸性水溶液で洗浄する温度は、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましく、60℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、25℃以下であることが更に好ましい。
【0066】
[工程(c)]
工程(c)では、洗浄後の樹脂を、酸性水溶液とアルコールとの混合液に接触させ、樹脂に吸着しているアントシアニンを遊離させる。ここで、混合液は、pHが6以下であることが好ましい。そして、酸性水溶液としては、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、塩酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む水溶液を用いることが好ましく、ギ酸、塩酸またはクエン酸を含む水溶液を用いることがより好ましく、塩酸を含む水溶液を用いることが更に好ましい。また、アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはブタノールを用いることが好ましく、メタノールまたはエタノールを用いることがより好ましい。
【0067】
なお、工程(c)をバッチ式で実施する場合は、樹脂と混合液を1時間程度接触させればよい。
また、工程(c)を連続式で実施する場合は、混合液を空間速度(SV)が5h-1程度になるように通液すればよい。
【0068】
そして、マルビジン-3,5-ジグルコシドを含むアントシアニンを良好に遊離させる観点からは、樹脂を酸性水溶液で洗浄する温度は、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましく、60℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、25℃以下であることが更に好ましい。
【0069】
<ブドウ抽出精製物の組成>
そして、ブドウ抽出液を精製して得られるブドウ抽出精製物は、通常、液状またはペースト状の組成物であり、マルビジン-3,5-ジグルコシドと、糖と、精製に用いた溶媒(例えば、酸性水溶液とアルコールとの混合液など)とを含有し、任意に、その他のアントシアニンを更に含有する。
なお、ブドウ抽出精製物は、上述した本発明のブドウ抽出物に該当するものであってもよい。即ち、ブドウ抽出精製物は、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量が、乾燥質量換算で、3質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、ブドウ抽出精製物は、糖の含有量が、乾燥質量換算で、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが一層好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0070】
(ブドウ抽出乾燥物の製造方法)
本発明のブドウ抽出乾燥物の製造方法は、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法を用いて製造したブドウ抽出精製物を乾燥する工程(乾燥工程)を含む。なお、任意に、本発明のブドウ抽出乾燥物の製造方法では、乾燥の前に濃縮などの前処理をブドウ抽出精製物に施してもよい。
【0071】
<乾燥工程>
ここで、ブドウ抽出精製物は、任意の乾燥方法を用いて乾燥させることができるが、マルビジン-3,5-ジグルコシドが破壊されるのを抑制する観点からは、温度50℃以下で乾燥させることが好ましく、凍結乾燥または噴霧乾燥により乾燥させることがより好ましい。
【0072】
<ブドウ抽出乾燥物の組成>
そして、ブドウ抽出精製物を乾燥させて得られるブドウ抽出乾燥物は、通常、粉末状などの固体状の組成物であり、マルビジン-3,5-ジグルコシドと、糖とを含有し、任意に、その他のアントシアニンを更に含有する。
なお、ブドウ抽出乾燥物は、上述した本発明のブドウ抽出物に該当するものであってもよい。即ち、ブドウ抽出乾燥物は、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量が、乾燥質量換算で、3質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、ブドウ抽出乾燥物は、糖の含有量が、乾燥質量換算で、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが一層好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【実施例0073】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって制限されない。
実施例および比較例において、マルビジン-3,5-ジグルコシド、グルコースおよびフルクトースの定量、並びに、ブドウ抽出物の固結性評価は、以下の方法で行った。
【0074】
<マルビジン-3,5-ジグルコシドの定量>
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、以下の条件で実施した。
溶離液としてA液(5%ギ酸含有超純水)とB液(メタノール:アセトニトリル(体積比)=1:1)の2液を用いたグラジエントの系で分析を実施した。カラムはZORBAX SB-C18(直径4.6mm×長さ250mm、粒子径:3.5μm)を用い、流速1mL/分、検出器はUV550nmで実施した。なお、グラジエント条件は、下記の表1の通りである。成分の同定および定量は、HPLC分析のライブラリーで確認するとともに、標準品の測定値との対比により行った。
【表1】
<グルコースおよびフルクトースの定量>
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、以下の条件で実施した。
溶離液として水とアセトニトリルを用いた系で分析を実施した。カラムはHILIC pak VG-50 4E(直径4.6mm×長さ250mm、粒子径:5μm)を用い、流速0.6mL/分、検出器はELSDで実施した。成分の同定および定量は、HPLC分析のライブラリーで確認するとともに、標準品の測定値との対比により行った。
<固結性評価>
得られた粉末(ブドウ抽出乾燥物)をサンプル瓶にとり、25℃にて空気中に蓋を開けた状態で静置した。0時間後(静置直後)、0.25時間後、0.5時間後、1時間後、2時間後および3時間後に試料の状態を観察し、吸湿による固結性を以下に示した基準で評価した。
◎:流動性良好で、固結していない
〇:固結しているが、瓶を振ると流動性あり
△:固結しているが、物理的に潰せば流動性を確保できる
×:固結しており、流動性を確保できない
【0075】
(実施例1)
ブドウ(富士の夢:行者の水(サンカクヅル)とメルロー(ヨーロッパブドウ)の交配種)の果実1kgをラボミキサー(ポータブル充電ミキサー、型式:GN-A01)により破砕し、ビーカーへ加えた(前処理工程)。次に、1N塩酸水溶液を0.5質量%添加したエタノール2Lを抽出剤としてビーカーへ加え、25℃にて5時間攪拌して抽出を行った(抽出工程)。得られた抽出物をセライトろ過により、上清(抽出液)と沈殿物に分離した。上清のマルビジン-3,5-ジグルコシドの量を、HPLCにより測定した。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例2~12および比較例1~7)
ブドウの品種、前処理工程の内容および抽出工程の内容の少なくとも1つを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして抽出液を得た。そして、実施例1と同様にしてマルビジン-3,5-ジグルコシドの量を測定した。結果を表2に示す。
なお、前処理工程において圧搾を行う場合には、圧搾機(3L果実しぼり器)を用いた。また、比較例3では、塩酸に替えて水酸化ナトリウムを用いることによりpHを11に調整した。
【0077】
【表2】
【0078】
表2より、実施例1~12では、無極性溶媒を用いた比較例1~2、アルカリ性条件下で抽出を行った比較例3、低温で抽出を行った比較例4~5および高温で抽出を行った比較例6~7と比較し、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出することができることが分かる。
【0079】
(実施例13)
実施例1で得られた上清(抽出液)を50℃以下で約1Lまで減圧濃縮した後、1倍量の水を加えて50℃以下で更に減圧濃縮し、ブドウ抽出水溶液1Lを得た。
得られたブドウ抽出水溶液300mLを、合成吸着樹脂(商品名:ダイヤイオンHP20、三菱ケミカル(株)製)40mLを充填したオープンカラムにて、温度25℃、空間速度(SV)=5h-1で通液した(工程(a))。その後、pH3に調整した塩酸水溶液を温度25℃でオープンカラムに通して洗浄し、非吸着成分を除去した(工程(b))。次に、1N塩酸水溶液を0.5質量%添加したエタノール溶液300mLを温度25℃、空間速度(SV)=5h-1でオープンカラムに通液して、エタノール画分(ブドウ抽出精製物)を得た(工程(c))。得られたエタノール画分を減圧濃縮後、凍結乾燥して粉末(ブドウ抽出乾燥物)を得た。
そして、得られた粉末について、窒素雰囲気下で乾燥質量を測定した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量分析および固結性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0080】
(実施例14)
実施例13と同様にしてブドウ抽出水溶液を得た。
得られたブドウ抽出水溶液50mLを加えたビーカーに、合成吸着樹脂(商品名:ピュロライトPAD900、ピュロライト(株)製)20mL加え、25℃にて5時間攪拌した(工程(a))。その後、上清と合成吸着樹脂を吸引ろ過にて分離し、合成吸着樹脂をpH3に調整した塩酸水溶液100mLで洗浄し、非吸着成分を除去した(工程(b))。次に、合成吸着樹脂を1N塩酸水溶液を0.5質量%添加したエタノール溶液50mLに加え、25℃で2時間攪拌した(工程(c))。その後、上清と合成吸着樹脂を吸引ろ過にて分離し、上清に水50mLを加えて、50mLまで減圧濃縮した。これを凍結乾燥して粉末(ブドウ抽出乾燥物)を得た。
そして、得られた粉末について、窒素雰囲気下で乾燥質量を測定した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量分析および固結性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0081】
(実施例15~19)
工程(a)~工程(c)の実施条件を表3に示すように変更した以外は実施例13または実施例14と同様にして粉末(ブドウ抽出乾燥物)を得た。
そして、得られた粉末について、窒素雰囲気下で乾燥質量を測定した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量分析および固結性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0082】
(比較例8)
実施例13と同様にしてブドウ抽出水溶液を得た。
得られたブドウ抽出水溶液100mLを減圧濃縮後、そのまま凍結乾燥し、粉末を得た。
そして、得られた粉末について、窒素雰囲気下で乾燥質量を測定した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量分析および固結性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3より、精製を行った実施例13~19では、精製を行わなかった比較例8に比べ、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量を高めつつ糖の含有量を低減できており、得られた粉末が固結し難いことが分かる。また、表3より、実施例13~16では、カチオン交換樹脂を使用した実施例17、精製温度が低い実施例18および精製温度が高い実施例19と比較し、マルビジン-3,5-ジグルコシドの含有量を更に高めつつ糖の含有量を更に低減できており、得られた粉末が更に固結し難いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のブドウ抽出液の製造方法によれば、ブドウからマルビジン-3,5-ジグルコシドを高収量で抽出することができる。
また、本発明のブドウ抽出精製物の製造方法、ブドウ抽出乾燥物の製造方法およびブドウ抽出物によれば、乾燥粉末の状態にしても固結し難い、ハンドリング性に優れるブドウ抽出物が提供できる。