(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090819
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】亜鉛電池用電解液及び亜鉛電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/26 20060101AFI20220613BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20220613BHJP
H01M 10/32 20060101ALI20220613BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
H01M10/26
H01M10/30 A
H01M10/32 A
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203362
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】櫛部 有広
【テーマコード(参考)】
5H028
5H032
【Fターム(参考)】
5H028AA06
5H028EE02
5H028EE06
5H028FF04
5H032AA02
5H032AS03
5H032AS12
5H032CC18
5H032EE02
5H032EE13
5H032EE17
(57)【要約】
【課題】亜鉛電池において優れた寿命性能を得ることが可能な亜鉛電池用電解液を提供する。
【解決手段】アルカリ金属水酸化物と、キレート剤と、を含有し、キレート剤が、アミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤及びホスホン酸系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、亜鉛電池用電解液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属水酸化物と、キレート剤と、を含有し、
前記キレート剤が、アミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤及びホスホン酸系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、亜鉛電池用電解液。
【請求項2】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムを含む、請求項1に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項3】
前記キレート剤が、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸及びこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項4】
前記キレート剤が、アセトヒドロキサム酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項5】
前記キレート剤が、エチドロン酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項6】
界面活性剤を更に含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項7】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項6に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項8】
正極と、負極と、請求項1~7のいずれか一項に記載の亜鉛電池用電解液と、を備える、亜鉛電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、亜鉛電池用電解液、亜鉛電池等に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛電池は、水酸化カリウム水溶液等の水系電解液を用いる水系電池であることから、高い安全性を有すると共に、亜鉛電極とニッケル電極との組み合わせにより、水系電池としては高い起電力を有することが知られている。さらに、ニッケル亜鉛電池は、優れた入出力性能に加えて低コストであることから、産業用途(例えば、バックアップ電源等の用途)及び自動車用途(例えば、ハイブリッド自動車等の用途)への適用可能性が検討されている。
【0003】
ニッケル亜鉛電池の充放電反応は、例えば、下記式に従って進行する(放電反応:右向き、充電反応:左向き)。
(正極)2NiOOH+2H2O+2e- → 2Ni(OH)2+2OH-
(負極)Zn+2OH- → Zn(OH)2+2e-
【0004】
上記式に示されるように、ニッケル亜鉛電池では、放電反応により水酸化亜鉛(Zn(OH)2)が生成する。水酸化亜鉛は電解液に可溶であり、水酸化亜鉛が電解液に溶解すると、テトラヒドロキシド亜鉛酸イオン([Zn(OH)4]2-)が電解液中に拡散する。その結果、負極の形態変化(変形)が進行すると共に充電電流の分布が不均一となること等により、負極上の局所で亜鉛の析出が起こり、デンドライト(樹枝状結晶)が発生する。ニッケル亜鉛電池では、充放電の繰り返しによりデンドライトが成長した場合、デンドライトがセパレータを貫通して短絡が発生するため、上記デンドライトの発生は寿命性能の低下につながる。これに対し、例えば、特許文献1では、ニッケルめっきを施した不織布を正負極板間に介在させて亜鉛デンドライトによる正負極間の内部ショートを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニッケル亜鉛電池等の亜鉛電池には、寿命性能の更なる向上が求められる。
【0007】
本開示の一側面は、亜鉛電池において優れた寿命性能を得ることが可能な亜鉛電池用電解液を提供することを目的とする。本開示の他の一側面は、当該亜鉛電池用電解液を備える亜鉛電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、アルカリ金属水酸化物と、キレート剤と、を含有し、キレート剤が、アミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤及びホスホン酸系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、亜鉛電池用電解液を提供する。
【0009】
本開示の他の一側面は、正極と、負極と、上述の亜鉛電池用電解液と、を備える、亜鉛電池を提供する。
【0010】
上述の亜鉛電池用電解液及び亜鉛電池によれば、優れた寿命性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一側面によれば、亜鉛電池において優れた寿命性能を得ることが可能な亜鉛電池用電解液を提供することができる。本開示の他の一側面によれば、当該亜鉛電池用電解液を備える亜鉛電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書において「膜」又は「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。単位「C」とは、満充電状態から定格容量を定電流放電するときの電流の大きさを相対的に表したものである。単位「C」は、“放電電流値(A)/電池容量(Ah)”を意味する。例えば、定格容量を1時間で放電させることができる電流を「1C」、2時間で放電させることができる電流を「0.5C」と表現する。
【0013】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施形態に係る亜鉛電池用電解液(以下、場合により、単に「電解液」という)は、亜鉛電池(例えば亜鉛二次電池)の電解液として用いられる。本実施形態に係る亜鉛電池は、正極と、負極と、本実施形態に係る電解液と、を備える。亜鉛電池は、負極として亜鉛電極を備えることができる。亜鉛電池としては、正極がニッケル電極であるニッケル亜鉛電池(例えばニッケル亜鉛二次電池);正極が空気極である空気亜鉛電池(例えば空気亜鉛二次電池);正極が酸化銀極である銀亜鉛電池(例えば銀亜鉛二次電池)等が挙げられる。
【0015】
本実施形態に係る電解液は、アルカリ金属水酸化物と、キレート剤と、を含有し、当該キレート剤は、アミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤及びホスホン酸系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。本実施形態に係る電解液によれば、優れた寿命性能を得ることができる。
【0016】
このような効果が得られる要因としては、例えば下記の要因が挙げられるが、下記要因に限定されない。すなわち、電解液が特定のキレート剤を含有することで、このキレート剤が負極の亜鉛の表面に配位する。これにより、亜鉛の溶出及び拡散が抑制されるため、電池性能の劣化が抑制される。
【0017】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物は、水溶液中で電離(解離)していてよく、塩として存在していてもよい。アルカリ金属水酸化物は、優れた寿命性能を得やすい観点から、水酸化カリウム及び水酸化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、水酸化カリウムを含んでもよい。
【0018】
電解液におけるアルカリ金属水酸化物の含有量(アルカリ金属水酸化物の合計量)は、優れた寿命性能を得やすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲であってよい。アルカリ金属水酸化物の含有量は、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は、30質量%以上であってよい。アルカリ金属水酸化物の含有量は、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は、35質量%以下であってよい。これらの観点から、アルカリ金属水酸化物の含有量は、10~50質量%であってよい。
【0019】
電解液における水酸化カリウムの含有量は、優れた寿命性能を得やすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲であってよい。水酸化カリウムの含有量は、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は、30質量%以上であってよい。水酸化カリウムの含有量は、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は、35質量%以下であってよい。これらの観点から、水酸化カリウムの含有量は、10~50質量%であってよい。
【0020】
電解液における水酸化リチウムの含有量は、優れた寿命性能を得やすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲であってよい。水酸化リチウムの含有量は、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.8質量%以上、又は、1質量%以上であってよい。水酸化リチウムの含有量は、3質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、又は、1.2質量%以下であってよい。これらの観点から、水酸化リチウムの含有量は、0.1~3質量%であってよい。
【0021】
本実施形態に係る電解液は、キレート剤を含有し、当該キレート剤は、アミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤及びホスホン酸系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。キレート剤は塩(ナトリウム塩等)であってよく、塩の水和物であってもよい。
【0022】
アミノカルボン酸系キレート剤は、アミノ基及びカルボキシル基を有するキレート剤である。アミノカルボン酸系キレート剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、第2級アミン化合物又は第3級アミン化合物であってよく、第2級アミン化合物であってよい。
【0023】
アミノカルボン酸系キレート剤が有するアミノ基の数は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。アミノ基の数は、4以下、3以下、2以下、又は、1であってよい。アミノ基の数は、1以上、又は、2以上であってよい。これらの観点から、アミノ基の数は、1~4であってよい。
【0024】
アミノカルボン酸系キレート剤が有するカルボキシル基の数は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。カルボキシル基の数は、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下、又は、1であってよい。カルボキシル基の数は、1以上、2以上、3以上、又は、4以上であってよい。これらの観点から、カルボキシル基の数は、1~6、2~5、又は、2~4であってよい。
【0025】
アミノカルボン酸系キレート剤の炭素数は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。炭素数は、20以下、15以下、12以下、10以下、8以下、6以下、5以下、又は、4以下であってよい。炭素数は、4以上、5以上、6以上、8以上、又は、10以上であってよい。これらの観点から、炭素数は、4~20であってよい。
【0026】
アミノカルボン酸系キレート剤としては、イミノ二酢酸(IDA)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸(EDTA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン-N,N,N’,N’-四酢酸(DPTA-OH)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N”,N”-五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン(DHEG)等のアミノ酢酸及びその塩;エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸(EDDS)、エチレンジアミン-N,N’-ジグルタミン酸及びこれらの塩などが挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、アミノ酢酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸及びこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、イミノ二酢酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。
【0027】
ヒドロキサム酸系キレート剤は、ヒドロキサム酸基(-CO-NHOH)を有するキレート剤(但し、アミノカルボン酸系キレート剤に該当する化合物を除く)である。ヒドロキサム酸系キレート剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、ヒドロキサム酸基を有する脂肪族化合物(脂肪族ヒドロキサム酸)、ヒドロキサム酸基を有する芳香族化合物(芳香族ヒドロキサム酸)、及び、これらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。
【0028】
ヒドロキサム酸系キレート剤が有するヒドロキサム酸基の数は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。ヒドロキサム酸基の数は、3以下、2以下、又は、1であってよい。ヒドロキサム酸基の数は、1以上であってよい。これらの観点から、ヒドロキサム酸基の数は、1~3であってよい。
【0029】
ヒドロキサム酸系キレート剤の炭素数は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。炭素数は、20以下、15以下、12以下、10以下、8以下、5以下、3以下、又は、2以下であってよい。炭素数は、2以上であってよい。これらの観点から、炭素数は、2~20であってよい。
【0030】
ヒドロキサム酸系キレート剤としては、アセトヒドロキサム酸、オクタノヒドロキサム酸等の脂肪族ヒドロキサム酸及びその塩;ベンゼンスルホヒドロキサム酸、サリチルヒドロキサム酸、スベロイルアニリドヒドロキサム酸等の芳香族ヒドロキサム酸及びその塩などが挙げられる。ヒドロキサム酸系キレート剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、脂肪族ヒドロキサム酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、アセトヒドロキサム酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。
【0031】
ホスホン酸系キレート剤は、ホスホノ基(-PO(OH)2)を有するキレート剤(但し、アミノカルボン酸系キレート剤又はヒドロキサム酸系キレート剤に該当する化合物を除く)である。ホスホン酸系キレート剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、ホスホノ基を有する脂肪族化合物(脂肪族ホスホン酸)、ホスホノ基を有する芳香族化合物(芳香族ホスホン酸)、及び、これらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。
【0032】
ホスホン酸系キレート剤が有するホスホノ基の数は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。ホスホノ基の数は、5以下、4以下、3以下、又は、2以下であってよい。ホスホノ基の数は、1以上、又は、2以上であってよい。これらの観点から、ホスホノ基の数は、1~5、又は、2~4であってよい。
【0033】
ホスホン酸系キレート剤は、ホスホノ基以外の官能基を有してよい。ホスホノ基以外の官能基としては、ヒドロキシ基(水酸基)、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。ホスホン酸系キレート剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、ヒドロキシ基を有してよい。
【0034】
ホスホン酸系キレート剤の炭素数は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。炭素数は、20以下、15以下、12以下、10以下、8以下、5以下、3以下、又は、2以下であってよい。炭素数は、2以上であってよい。これらの観点から、炭素数は、2~20であってよい。
【0035】
ホスホン酸系キレート剤としては、エチドロン酸(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP))、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)等の脂肪族ホスホン酸及びその塩などが挙げられる。ホスホン酸系キレート剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、脂肪族ホスホン酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、エチドロン酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。
【0036】
キレート剤がアミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤、又は、ホスホン酸系キレート剤を含む場合、キレート剤におけるアミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤、又は、ホスホン酸系キレート剤の含有量は、優れた寿命性能を得やすい観点から、キレート剤の含有量(電解液に含まれるキレート剤の合計量)を基準として、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、又は、99質量%以上であってよい。キレート剤は、実質的にアミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤、又は、ホスホン酸系キレート剤からなる態様(実質的にキレート剤の100質量%がアミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤、又は、ホスホン酸系キレート剤である態様)であってもよい。
【0037】
キレート剤の分子量は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。キレート剤の分子量は、50以上、60以上、65以上、70以上、又は、75以上であってよい。キレート剤の分子量は、2000以下、1500以下、1000以下、800以下、600以下、500以下、又は、400以下であってよい。これらの観点から、キレート剤の分子量は、50~2000であってよい。キレート剤の分子量は、100以上、150以上、200以上、250以上、300以上、又は、350以上であってよく、350以下、300以下、250以下、200以下、150以下、又は、100以下であってよい。
【0038】
電解液におけるキレート剤の含有量(電解液に含まれるキレート剤の合計量)は、優れた寿命性能を得やすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲であってよい。キレート剤の含有量は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、又は、2質量%以上であってよい。キレート剤の含有量は、20質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、2.5質量%以下、又は、2質量%以下であってよい。これらの観点から、キレート剤の含有量は、0.01~20質量%、0.05~10質量%、0.1~8質量%、0.5~5質量%、又は、1~3質量%であってよい。
【0039】
キレート剤の含有量は、優れた寿命性能を得やすい観点から、アルカリ金属水酸化物100質量部に対して下記の範囲であってよい。キレート剤の含有量は、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、5.5質量部以上、又は、6質量部以上であってよい。キレート剤の含有量は、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、12質量部以下、10質量部以下、8質量部以下、7質量部以下、又は、6.5質量部以下であってよい。これらの観点から、キレート剤の含有量は、1~30質量部であってよい。
【0040】
キレート剤は、アミノカルボン酸系キレート剤、ヒドロキサム酸系キレート剤、及び、ホスホン酸系キレート剤以外のキレート剤(以下、「キレート剤X」という)を含んでよい。キレート剤Xとしては、ヒドロキシ尿素、ポリアミノ酸系キレート剤等が挙げられる。
【0041】
キレート剤Xの含有量は、優れた寿命性能を得やすい観点から、電解液の全質量を基準として、1質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は、0.001質量%以下であってよい。電解液が実質的にキレート剤Xを含有しない(電解液に含まれるキレート剤Xの含有量が実質的に0質量%である)態様であってよい。
【0042】
本実施形態に係る電解液は、優れた寿命性能を得やすい観点から、界面活性剤(キレート剤を除く)を更に含有してもよい。電解液が界面活性剤を含有することによって、優れた寿命性能を得やすくなる理由としては、以下のように推察されるが、下記理由に限定されない。すなわち、電解液が界面活性剤を含有することで、電極材中の亜鉛の表面に被膜が形成されるため、電極材中の亜鉛が酸化することを抑制できる。亜鉛の酸化が抑制されることにより、電極材の表面に不働態(酸化亜鉛)が形成されにくくなることから、電池性能の低下を抑制できると推察される。
【0043】
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤(非イオン性界面活性剤)、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を含んでよい。
【0044】
ノニオン性界面活性剤は、ノニオン性の親水基と、疎水基とを有している。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン含有エステル化合物;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のポリオキシエチレン含有エーテル化合物などが挙げられる。ノニオン性界面活性剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを含んでよく、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含んでよい。
【0045】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンウンデシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンペンタデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル等が挙げられる。
【0046】
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0047】
アニオン性界面活性剤は、アニオン性の親水基と、疎水基とを有している。アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル(例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スチレン-アクリル酸共重合体のアルカリ塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸モノエタノールアミン、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ステアリン酸モノエタノールアミン、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、スチレン-アクリル酸共重合体のモノエタノールアミン等が挙げられる。アニオン性界面活性剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルを含んでよく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルを含んでよい。
【0048】
カチオン性界面活性剤は、カチオン性の親水基と、疎水基とを有している。カチオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン又はその塩、アルキルアミドアミン塩、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、塩化ベンゼトニウム塩等の第4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤などが挙げられる。カチオン性界面活性剤は、優れた寿命性能を得やすい観点から、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩及びジアルキルジメチルアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩を含んでよい。
【0049】
モノアルキルトリメチルアンモニウム塩としては、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリデシルトリメチルアンモニウムブロミド、トリデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ペンタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ペンタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0050】
ジアルキルジメチルアンモニウム塩としては、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジトリデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジトリデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジペンタデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジペンタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジヘプタデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジヘプタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0051】
界面活性剤がノニオン性界面活性剤、又は、アニオン性界面活性剤を含む場合、界面活性剤におけるノニオン性界面活性剤、又は、アニオン性界面活性剤の含有量は、優れた寿命性能を得やすい観点から、界面活性剤の含有量(界面活性剤の合計量)を基準として、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、又は、99質量%以上であってよい。界面活性剤は、実質的にノニオン性界面活性剤、又は、アニオン性界面活性剤からなる態様(実質的に界面活性剤の100質量%がノニオン性界面活性剤、又は、アニオン性界面活性剤である態様)であってもよい。
【0052】
界面活性剤がノニオン性界面活性剤、及び、アニオン性界面活性剤を含む場合、ノニオン性界面活性剤の含有量に対するアニオン性界面活性剤の含有量の質量比(アニオン性界面活性剤の含有量/ノニオン性界面活性剤の含有量)は、優れた寿命性能を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。質量比は、0.1以上、0.3以上、0.5以上、0.7以上、又は、1以上であってよい。質量比は、3以下、2.5以下、2以下、1.5以下、1.2以下、又は、1以下であってよい。これらの観点から、質量比は、0.1~3であってよい。
【0053】
電解液における界面活性剤の含有量(界面活性剤の合計量)は、優れた寿命性能を得やすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲であってよい。界面活性剤の含有量は、0.001質量%以上、0.003質量%以上、0.005質量%以上、又は、0.01質量%以上であってよい。界面活性剤の含有量は、0.1質量%以下、0.08質量%以下、0.05質量%以下、又は、0.01質量%以下であってよい。これらの観点から、界面活性剤の含有量は、0.001~0.1質量%であってよい。
【0054】
本実施形態に係る電解液は、水(例えばイオン交換水)等の液状媒体を含有できる。
【0055】
以下、上記実施形態に係る電解液が用いられる亜鉛電池の一例として、ニッケル亜鉛電池について説明する。
【0056】
本実施形態に係る亜鉛電池は、例えば、電槽と、電槽に収容された電極群(例えば極板群)及び電解液と、を備える。本実施形態に係る亜鉛電池は、化成後又は未化成のいずれであってもよい。
【0057】
電極群は、例えば、正極(例えば正極板)と、負極(例えば負極板)と、正極及び負極の間に配置されたセパレータと、を備える。正極及び負極は、例えば、正極の主面と負極の主面とが対向した状態で、セパレータを介して交互に積層されている。電極群は、複数の正極及び複数の負極から構成されていてよい。複数の正極同士及び複数の負極同士は、例えば、ストラップで連結されていてよい。
【0058】
正極は、正極集電体(集電体)と、当該正極集電体に支持された正極材(電極材)と、を有している。正極材は、正極集電体の少なくとも一方の主面に配置されてよく、正極集電体の両方の主面に配置されてよい。負極は、負極集電体と、当該集電体に支持された負極材と、を有する。負極材は、負極集電体の少なくとも一方の主面に配置されてよく、負極集電体の両方の主面に配置されてよい。正極及び負極のそれぞれは、化成前及び化成後のいずれであってもよい。
【0059】
集電体(正極集電体又は負極集電体)は、電極材(正極材又は負極材)からの電流の導電路を構成する。集電体は、例えば、平板状、シート状等の形状を有している。集電体は、発泡金属、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属繊維のフェルト状物等によって構成された3次元網目構造の集電体などであってよい。
【0060】
集電体を構成する材料の具体例としては、白金;ニッケル(発泡ニッケル等);錫、ニッケル等の金属めっきを施した金属材料(銅、真鍮、鋼等)などが挙げられる。
【0061】
電極材(正極材又は負極材)は、層状の電極材層(正極材層又は負極材層)であってよい。例えば、集電体上に電極材層が形成されていてよく、集電体が3次元網目構造を有する場合には、集電体の網目の間に電極材が充填されて電極材層が形成されていてもよい。
【0062】
集電体の厚さは、0.01mm以上、0.05mm以上、0.08mm以上、又は、0.10mm以上であってよい。集電体の厚さは、1.0mm以下、0.80mm以下、0.50mm以下、0.30mm以下、0.20mm以下、又は、0.10mm以下であってよい。これらの観点から、集電体の厚さは、0.01~1.0mmであってよい。
【0063】
正極材は、ニッケルを含む正極活物質(電極活物質)を含有する。亜鉛電池がニッケル亜鉛電池である場合、正極活物質は、ニッケルを含むことができる。正極活物質としては、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、水酸化ニッケル等が挙げられる。正極材は、例えば、満充電状態ではオキシ水酸化ニッケルを含有し、放電末状態では水酸化ニッケルを含有する。正極活物質の含有量は、例えば、正極材の全質量を基準として50~99質量%であってもよい。
【0064】
正極材は、正極活物質以外の添加剤を含有することができる。添加剤としては、結着剤(バインダー)、導電剤、膨張抑制剤、希土類金属化合物(例えば酸化イットリウム)等が挙げられる。結着剤としては、親水性又は疎水性のポリマー等が挙げられ、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸ナトリウム(SPA)、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)などが挙げられる。結着剤の含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して0.01~5質量部であってよい。導電剤としては、コバルト化合物(金属コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト等)などが挙げられる。導電剤の含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して1~20質量部であってよい。膨張抑制剤としては、酸化亜鉛等が挙げられる。膨張抑制剤の含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して0.01~5質量部であってよい。
【0065】
負極材は、亜鉛を含む負極活物質を含有する。負極活物質としては、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。負極活物質は、これらの成分のうちの一種を単独で含んでいてよく、複数種を含んでいてもよい。負極材は、例えば、満充電状態では金属亜鉛を含有し、放電末状態では酸化亜鉛及び水酸化亜鉛を含有する。負極活物質は、例えば粒子状であってよく、金属亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子、水酸化亜鉛粒子等を含んでよい。負極活物質の含有量は、例えば、負極材の全質量を基準として50~99質量%である。
【0066】
負極材は、負極活物質以外の添加剤を含有することができる。添加剤としては、結着剤(バインダー)、界面活性剤、導電剤等が挙げられる。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。結着剤の含有量は、例えば、負極活物質100質量部に対して0.5~10質量部であってよい。導電剤としては、インジウム化合物(酸化インジウム等)などが挙げられる。導電剤の含有量は、例えば、負極活物質100質量部に対して1~20質量部であってよい。
【0067】
セパレータは、正極及び/又は負極を収容可能なように、開口部を有する袋状であってよい。亜鉛電池において、例えば、当該開口部は鉛直方向上方に開口する。セパレータの当該開口部の開口方向に直交する方向の側部(例えば、正極及び/又は負極が亜鉛電池に収容された場合に水平方向に位置する側部)は、遮蔽されていてよく、開口していてよい。遮蔽部は、例えば、セパレータを熱溶着することにより形成できる。セパレータは、単層の多孔膜であってよく、複数の多孔膜の積層体であってよい。
【0068】
セパレータの材料としては、有機材料(樹脂材料等)、無機材料などが挙げられる。樹脂材料としては、ポリアミド系ポリマー(例えばポリアミド)、オレフィン系ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン)、ナイロン系ポリマー(例えばナイロン)等が挙げられる。無機材料としては、アルミナ、チタニア、二酸化珪素等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩などが挙げられる。セパレータは、イオン交換樹脂膜、セロハン系再生樹脂膜、無機-有機セパレータ、ポリオレフィン系不織布等であってよい。
【0069】
セパレータは、親水化する観点から、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を含有してよく、界面活性剤処理、スルホン化処理、フッ素ガス処理、アクリル酸グラフト重合処理、コロナ放電処理、プラズマ処理等により表面処理が施されていてよい。親水化することにより、電解液と馴染みやすく、充分な電流密度を得やすい。
【0070】
以上説明したニッケル亜鉛電池の製造方法は、例えば、亜鉛電池の構成部材を得る構成部材製造工程と、構成部材を組み立てて亜鉛電池を得る組立工程と、を備える。構成部材製造工程では、少なくとも電極(正極及び負極)を得る。
【0071】
電極は、例えば、電極材(正極材及び負極材)の原料に対して溶媒(例えば水)を加えて混練することにより電極材ペースト(ペースト状の電極材)を得た後、電極材ペーストを用いて電極材層を形成することにより得ることができる。
【0072】
正極材の原料としては、正極活物質の原料(例えば水酸化ニッケル)、添加剤(例えば前記結着剤)等が挙げられる。負極材の原料としては、負極活物質の原料(例えば金属亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛)、添加剤(例えば結着剤)等が挙げられる。
【0073】
電極材層を形成する方法としては、例えば、電極材ペーストを集電体に塗布又は充填した後に乾燥することで電極材層を得る方法が挙げられる。電極材層は、必要に応じて、プレス等によって密度を高めてもよい。
【0074】
組立工程では、例えば、構成部材製造工程で得られた正極及び負極を、セパレータを介して交互に積層した後、正極同士及び負極同士をストラップで連結させて電極群を作製する。次いで、この電極群を電槽内に配置した後、電槽の上面に蓋体を接着して未化成の亜鉛電池(ニッケル亜鉛電池)を得る。
【0075】
続いて、本実施形態に係る電解液を未化成の亜鉛電池の電槽内に注入した後、一定時間放置する。次いで、所定の条件にて充電を行うことで化成することにより亜鉛電池(ニッケル亜鉛電池)を得る。化成条件は、電極活物質(正極活物質及び負極活物質)の性状に応じて調整することができる。
【0076】
以上、正極がニッケル電極であるニッケル亜鉛電池(例えばニッケル亜鉛二次電池)の例を説明したが、亜鉛電池は、正極が空気極である空気亜鉛電池(例えば空気亜鉛二次電池)であってもよく、正極が酸化銀極である銀亜鉛電池(例えば銀亜鉛二次電池)であってもよい。
【0077】
空気亜鉛電池の空気極としては、空気亜鉛電池に使用される公知の空気極を用いることができる。空気極は、例えば、空気極触媒、電子伝導性材料等を含む。空気極触媒としては、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒を用いることができる。
【0078】
空気極触媒としては、空気亜鉛電池における正極として機能するものを用いることが可能であり、酸素を正極活物質として利用可能な種々の空気極触媒が使用できる。空気極触媒としては、酸化還元触媒機能を有するカーボン系材料(黒鉛等)、酸化還元触媒機能を有する金属材料(白金、ニッケル等)、酸化還元触媒機能を有する無機酸化物材料(ペロブスカイト型酸化物、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、スピネル酸化物等)などが挙げられる。空気極触媒の形状は、例えば粒子状であってよい。空気極における空気極触媒の含有量は、空気極の合計量に対して、5~70体積%、5~60体積%、又は、5~50体積%であってよい。
【0079】
電子伝導性材料としては、導電性を有し、かつ、空気極触媒とセパレータとの間の電子伝導を可能とするものを用いることができる。電子伝導性材料としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類;鱗片状黒鉛のような天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等のグラファイト類;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類;銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末類;ポリフェニレン誘導体等の有機電子伝導性材料;これらの任意の混合物などが挙げられる。電子伝導性材料の形状は、粒子状であってよく、その他の形状であってもよい。電子伝導性材料は、空気極において厚さ方向に連続した相をもたらす形態で用いられてよい。例えば、電子伝導性材料は、多孔質材料であってよい。また、電子伝導性材料は、空気極触媒との混合物又は複合体の形態であってよく、前述したように、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒であってもよい。空気極における電子伝導性材料の含有量は、空気極の合計量に対して、10~80体積%、15~80体積%、又は、20~80体積%であってよい。
【0080】
銀亜鉛電池の酸化銀極としては、銀亜鉛電池に使用される公知の酸化銀極を用いることができる。酸化銀極は、例えば酸化銀(I)を含む。
【実施例0081】
以下、実施例により本開示を具体的に説明する。但し、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0082】
<電解液の調製>
(実施例1~5)
イオン交換水、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、表1に示すキレート剤、ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(TritonX-100、シグマアルドリッチ社製))、及び、アニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(モノエステル及びジエステルの混合物、Rhodafac社製、商品名:RA-600)を混合することにより電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%、キレート剤の含有量:2質量%、ノニオン性界面活性剤:0.005質量%、アニオン性界面活性剤:0.005質量%)を調製した。なお、上記成分の含有量は、電解液の全質量を基準とする。キレート剤として水和物を用いる場合、キレート剤の含有量は水和物の使用量を示す。
【0083】
(比較例1)
キレート剤を用いないことを除き実施例1~5と同様に行うことにより、電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%、ノニオン性界面活性剤:0.005質量%、アニオン性界面活性剤:0.005質量%)を調製した。
【0084】
<正極の作製>
空隙率95%の発泡ニッケルからなる格子体を用意し、格子体を加圧成形することで正極集電体を得た。次いで、コバルトコート水酸化ニッケル粉末、金属コバルト、水酸化コバルト、酸化イットリウム、CMC(カルボキシメチルセルロース)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)及びイオン交換水を所定量秤量した後に混合することによって得られた混合液を攪拌することにより正極材ペーストを作製した。この際、固形分の質量比を、「水酸化ニッケル:金属コバルト:酸化イットリウム:水酸化コバルト:CMC:PTFE=88:10.3:1:0.3:0.3:0.1」に調整した。正極材ペーストの水分量は、正極材ペーストの全質量基準で27.5質量%に調整した。次いで、正極材ペーストを正極集電体上に塗布した後、80℃で30分乾燥した。その後、ロールプレスにて加圧成形し、正極材(正極材層)を両面に有する未化成の正極を得た。
【0085】
<負極の作製>
負極集電体として、錫メッキを施した銅パンチングメタル(開孔率:50%、厚さ:0.10mm)を用意した。次いで、酸化亜鉛、金属亜鉛、HEC(ヒドロキシエチルセルロース、住友精化株式会社製、商品名:AV-15F)、界面活性剤(BASF社製、商品名:Dispex AA 4140)及びイオン交換水を所定量秤量した後に混合することによって得られた混合液を攪拌することにより負極材ペーストを作製した。この際、固形分の質量比を「酸化亜鉛:金属亜鉛:HEC:界面活性剤=84.5:11.5:3.5:0.5」に調整した。負極材ペーストの水分量は、負極材ペーストの全質量基準で32.5質量%に調整した。次いで、負極材ペーストを負極集電体上に塗布した後、80℃で30分乾燥した。その後、ロールプレスにて加圧成形し、負極材(負極材層)を両面に有する未化成の負極を得た。
【0086】
<ニッケル亜鉛電池の作製>
電池組立て前に、多孔膜(宇部興産株式会社製、商品名:UP3355、透気度:440sec/100mL)を界面活性剤(シグマアルドリッチジャパン合同会社製、商品名:Triton(登録商標)-X100)で親水化処理した。親水化処理は、Triton-X100が1質量%の量で含まれる水溶液に多孔膜を24時間浸漬した後、室温で1時間乾燥する方法で行った。なお、多孔膜の透気度は親水化処理後の値を示す。多孔膜を3.0cm×10.0cmに裁断した後に半分に折ることにより多孔膜A(3.0cm×5.0cm)を得た。この多孔膜Aの一対の両側面(長辺)を熱溶着することで袋状の多孔部材を得た後、未化成の正極1枚をこの袋状の多孔部材に収容することにより正極体を得た。また、多孔膜Aの一対の両側面(長辺)を熱溶着することで袋状の多孔部材を得た後、未化成の負極1枚をこの袋状の多孔部材に収容することにより負極体を得た。
【0087】
ニッポン高度紙工業製のVL100(材料:セルロース、厚さ:100μm、透気度:0.3sec/100mL)を3.0cm×10.0cmに裁断した後に半分に折ることにより得られた不織布(3.0cm×5.0cm)を正極体と負極体との間に挟みつつ2枚の正極体と3枚の負極体とを交互に積層した後に同極性の極板同士をストラップで連結させることにより電極群(極板群)を作製した。この電極群を電槽内に配置した後、電槽の上面に蓋体を接着することにより未化成のニッケル亜鉛電池を得た。次いで、電解液を未化成のニッケル亜鉛電池の電槽内に注入した後、24時間放置した。その後、32mA、15時間の条件で充電を行うことにより、化成後のニッケル亜鉛電池(公称容量:320mAh)を作製した。
【0088】
<特性評価>
実施例1~5及び比較例1のニッケル亜鉛電池を用いて、ニッケル亜鉛電池の寿命性能(サイクル寿命性能)の評価を行った。具体的な評価方法を以下に示し、結果を表1に示す。
【0089】
40℃において、電流値が16mA(0.05C)に減衰するまで105.7mA(0.33C)、1.88Vの定電圧でニッケル亜鉛電池の充電を行った後、電池電圧が1.1Vに到達するまで105.7mA(0.33C)の定電流でニッケル亜鉛電池の放電を行うことを1サイクルとする試験を行った。放電容量が1サイクル目の放電容量に対して60%を下回った場合に試験を終了し、試験終了までに行ったサイクル数によって寿命性能を評価した。
【0090】