IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社Mizkan Holdingsの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091357
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】抗ウィルス剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20220614BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20220614BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220614BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220614BHJP
   A01N 37/02 20060101ALI20220614BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220614BHJP
   C12J 1/00 20060101ALN20220614BHJP
   A23L 3/3517 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
A61K31/19
A61P31/12
A61P43/00 121
A61P31/14
A61P31/16
A61P39/02
A61Q11/00
A61Q19/10
A61K8/36
A61K8/37
A61K31/22
A61P17/00 101
A01N37/02
A01P1/00
C12J1/00 Z
A23L3/3517
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204153
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100185856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 栄二
(72)【発明者】
【氏名】吉本 靖東
(72)【発明者】
【氏名】土屋 凱寛
【テーマコード(参考)】
4B021
4B128
4C083
4C206
4H011
【Fターム(参考)】
4B021LW02
4B021LW03
4B021LW04
4B021LW10
4B021MC01
4B021MK20
4B021MK21
4B128BC10
4B128BX04
4B128BX10
4C083AC271
4C083AC272
4C083AC341
4C083AC342
4C083CC23
4C083CC41
4C083DD08
4C083DD27
4C083EE12
4C083EE31
4C206DA02
4C206DB04
4C206DB43
4C206NA05
4C206ZA90
4C206ZB33
4C206ZC37
4C206ZC75
4H011AA04
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB06
4H011BC18
4H011DA13
4H011DF04
(57)【要約】
【課題】本発明は、飛沫感染や直接手で触れたことによる感染拡大が問題となるウィルスの感染拡大防止のために、生体に対しても安全であり、またウィルスに汚染した物に散布、噴霧または塗布しても効果がある酢酸の抗ウィルス活性を高めた新たな抗ウィルス剤を提供することにある。
【解決手段】酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む抗ウィルス剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む抗ウィルス剤。
【請求項2】
酢酸エチルの濃度が0.0005~1%(v/v)である、請求項1に記載の抗ウィルス剤。
【請求項3】
酢酸の濃度が0.1~20%(v/v)である、請求項1又は2に記載の抗ウィルス剤。
【請求項4】
ウィルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV2、インフルエンザウィルス、ノロウィルスまたはコクサッキーウィルスである、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ウィルス剤。
【請求項5】
洗浄剤、消毒剤または弱毒化剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ウィルス剤。
【請求項6】
食料品、調理器具または食器を洗浄、消毒または弱毒化するための食用酢である、請求項5に記載の抗ウィルス剤。
【請求項7】
口腔内洗浄、消毒もしくは弱毒化、または皮膚洗浄、消毒もしくは弱毒化するための、請求項5に記載の抗ウィルス剤。
【請求項8】
ウィルスで汚染された物に、請求項5に記載の抗ウィルス剤を塗布、散布または噴霧する、ウィルスの消毒または弱毒化方法。
【請求項9】
ウィルスで汚染された物に、塗布、散布または噴霧してウィルスを消毒または弱毒化するための、請求項5に記載の抗ウィルス剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む抗ウィルス剤及びこれを用いた、ウィルスの洗浄、消毒または弱毒化方法に関する
【背景技術】
【0002】
一般に、ウィルスは20ナノメートル~300ナノメートル程度の大きさからなる微小な粒子であって、主としてタンパク質からなるカプシドと、その内部にある核酸(DNAまたはRNA)から構成されている。ウィルスの複製は、殆ど全ての作用を宿主細胞に依存している。ウィルスが宿主細胞の内部に侵入すると、カプシド内の核酸を放出した後、ウィルスを構成する要素が複製される。宿主細胞内で作製された新たなウィルス粒子は、その宿主細胞から放出され、他の宿主細胞に感染することにより増殖し、時には生体に対して重篤な感染症を引き起こすことがある。
【0003】
コロナウィルスとは、プラス鎖1本鎖RNAウィルスで、そのRNAを取り囲むエンベロープ(envelope)と呼ばれるリポムコタンパク質からなる膜に覆われた構造を持つウィルスである。コロナウィルスは、人間に対して接触感染等により呼吸器系や腸管系に感染症を起すということが以前より知られている。2002年~2003年には、新種のコロナウィルスによるSARS(重症急性呼吸器症候群)が、2012年には、MERS(中東呼吸器症候群)が流行し、さらに、2019年~2020年には、COVID-19(コロナウィルス感染症2019)が世界的に大流行して大きな社会問題となっている。
【0004】
コロナウィルスは、ヒトの風邪の15~30%の原因であり、動物、特にネコ(FIPV:ネコ感染性腹膜炎ウィルス)、家禽(IBV:トリ感染性気管支炎ウィルス)、マウス(MHV:マウス肝炎ウィルス)、ブタ(TGEV:伝染性胃腸炎ウィルス、PEDV:ブタ流行性下痢症ウィルス、PRCoV:ブタ呼吸器コロナウィルス、HEV:赤血球凝集性脳脊髄炎ウィルス)、及びウシ(BCoV:ウシコロナウィルス)の呼吸器及び消化器感染の原因である。
【0005】
インフルエンザウィルスは、呼吸器感染症であるインフルエンザを引き起こす。日本国では、毎年冬に数百万人のインフルエンザ患者が報告されており、高い罹患率と死亡率を伴う。特に、乳幼児や高齢者にとっては重要な疾患であって、高齢者では肺炎の合併率が高く、死亡者の多くが高齢者である。また、昨今、高病原性H5N1型トリインフルエンザウィルスが世界的に猛威を振るっており、いつヒトからヒトへ感染する新型ウィルスが登場してパンデミックを引き起こしてもおかしくない状況である。インフルエンザ治療剤については、有効性が認知されている一方で、副作用や耐性株の出現等の問題がある。また、アマンタジンでは、A型ウィルスのM2蛋白を阻害する効果があるがB型ウィルスの蛋白には結合できず効果がない等、同じ活性成分でもウィルスの型によって効果が異なることが知られている。このように、インフルエンザウィルスに有効で安全性の高い薬剤は少ないうえに、耐性ウィルスの出現なども問題視されているため、新規メカニズムの抗インフルエンザ剤の開発が行われている。
【0006】
ノロウィルスは、消化器疾患である感染性胃腸炎を引き起こすウィルスであって、カキなどの貝類の摂食による食中毒の原因になる。ノロウィルスは、感染者の糞便や吐瀉物、それらが乾燥したものから出る塵埃を介して経口感染する。ノロウィルスの集団感染は、世界各地の学校や乳幼児施設、高齢者施設などで散発的に発生しており、脱水症状から重症となって死亡する例もある。ノロウィルスは、核酸の変異を繰り返して、ヒトからヒトへ感染するよう変異することがあり、新型のノロウィルスが大流行することがある。このため、新規メカニズムのノロウィルス治療剤の開発が行われている。
【0007】
コクサッキーウィルスは、ヒトにおいて無菌性髄膜炎、手足口病、ヘルパンギーナ、心筋炎(時に心筋症を導く)、および膵炎を含む、ある範囲の疾患の発症と関連しており、そしてI型糖尿病の病原因子でありうる。コクサッキーウィルスは、糞口感染または飛沫感染により伝播する消化器感染ウィルスであり、ウィルス生活サイクルに人体外の自然環境(下水や河川、井戸水など)の下にある時期が含まれるため、堅固なウィルス粒子構造を持ち、一般に化学的処理や物理的処理に対して抵抗性が高い。
【0008】
従来のウィルス撃退法としては、生体の免疫応答を誘導する方法を応用したワクチンが主流であった。しかし、コロナウィルス等のすべてに有効なワクチンはなく、現在も早急な開発が望まれている。また、ワクチン以外のウィルス撃退法には、抗ウィルス剤の存在がある。ウィルスは、細菌や真菌と異なり、生体の細胞に寄生し、宿主細胞の酵素などを用いて増殖する病原体であるため、有効な抗ウィルス剤の開発についても、遅々として成果が上がっていない状況である。加えて、従来開発されている多くの抗ウィルス剤については、ウィルスの増殖を抑制すると同時に生体の細胞の生存・増殖に必要な合成機構なども阻害してしまうことが多く、副作用を生じるものが少なくない。このような背景のなか、安全性の高い抗ウィルス剤の開発が望まれている。
【0009】
一方、感染予防対策としては消毒剤の存在がある。有効なワクチンや抗ウィルス剤の開発に到っていない現状では、ウィルス感染を防ぐためには、感染経路が接触感染であるといわれていることからも、ウィルスとの接触を避けるために、人体や手指などの消毒を心がけることが効果的である。
【0010】
一般にウィルスに対する消毒方法としては紫外線照射、熱(熱湯:80℃、10分など)、次亜塩素酸ナトリウム、過酢酸、グルタルアルデヒド、ヨウ素系消毒剤、消毒用アルコール(80%消毒用エタノール)などである。しかし、紫外線照射、熱湯、次亜塩素酸ナトリウムや過酢酸では直接生体に使用するには副作用が大きく使用は困難である。また、グルタルアルデヒドは生体には刺激が強くこれも使用は困難である。加えて、ヨウ素系消毒剤は血液や喀痰が混入した場合、効果が著しく低下する。消毒用アルコールでは揮発性が強く、効果が一時的であり、また生体への作用も強い。
【0011】
酢酸は食用酢にも含まれている、非常に安全な弱酸である。酢酸は、SARSコロナウィルス(SARS-CoV)やSARSコロナウィルス2(SARS-CoV-2)を有効に失活させることが報告されている(非特許文献1、2、3)。また、酢酸を吸入(インハレーション)することにより、非重篤COVID-19の症状が緩和された(非特許文献4)。トリインフルエンザウィルスが酢酸により失活することが報告されており、またヒトノロウィルスのサロゲートであるテュレーンウィルスが酢酸とドデシル硫酸ナトリウムとの組み合わせにより失活することが報告されている(非特許文献5、6)。酢酸によるウィルスの不活性化は、酸性条件でのウィルス表面の糖タンパクの変性が原因であると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Med. Microbiol. Immunol. 2005 194:1-6
【非特許文献2】Research Square,Preprints, DOI:https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-37750/v1H.; Posted:24 Jun, 2020
【非特許文献3】bioRxiv,preprint doi: https://doi.org/10.1101/2020.07.08.193193;posted:July 20,2020
【非特許文献4】European Archives of Oto-Rhino-Laryngology, DOI: https://doi.org/10.1007/s00405-020-06067-8 , Published on line:24 May, 2020
【非特許文献5】Polut. Sci. 2009 88:1181-1185
【非特許文献6】J. Food Prot. 2018 81(2):279-283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、コロナウィルス、ノロウィルス、インフルエンザウィルス及びコクサッキーウィルスのように、飛沫感染や直接手で触れたことによる感染拡大が問題となるウィルスの感染拡大防止のために、生体に対しても安全であり、またウィルスに汚染した物に散布、噴霧または塗布しても効果がある酢酸の抗ウィルス活性を高めた新たな抗ウィルス剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む組成物が、生体に対しても安全であり、ウィルスを不活性化する効果に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記に関するものである:
[1]酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む抗ウィルス剤。
[2]酢酸エチルの濃度が0.0005~1%(v/v)である、[1]に記載の抗ウィルス剤。
[3]酢酸の濃度が0.1~20%(v/v)である、[1]又は[2]に記載の抗ウィルス剤。
[4]ウィルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV2、インフルエンザウィルス、ノロウィルスまたはコクサッキーウィルスである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の抗ウィルス剤。
[5]洗浄剤、消毒剤または弱毒化剤である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の抗ウィルス剤。
[6]食料品、調理器具または食器を洗浄、消毒または弱毒化するための食用酢である、[5]に記載の抗ウィルス剤。
[7]口腔内洗浄、消毒もしくは弱毒化または皮膚洗浄、消毒もしくは弱毒化するための、[5]に記載の抗ウィルス剤。
[8]ウィルスで汚染された物に、[5]に記載の抗ウィルス剤を塗布、散布または噴霧する、ウィルスの消毒または弱毒化方法。
[9]ウィルスで汚染された物に、塗布、散布または噴霧してウィルスを消毒または弱毒化するための、[5]に記載の抗ウィルス剤の使用。
[10][1]~[7]のいずれか1項に記載の抗ウィルス剤を含む抗ウィルス組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む抗ウィルス剤を提供することが可能となる。本抗ウィルス剤は、生体に対して安全であり、かつウィルスを不活性化する効果に優れているため、ウィルスに汚染された物だけではなく、生体に対しても洗浄剤、弱毒化剤または消毒剤として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0018】
なお、本開示で引用する特許公報、特許出願公開公報、及び非特許文献等は、何れもその全体が援用により、あらゆる目的において本開示に組み込まれるものとする。
【0019】
本開示において、数値に対して適用された場合の「~」とは、規定された基準値以上で、かつ規定された基準値以下の範囲に入る値の範囲を指す。本開示において数値に対して適用された濃度についての%は、特に説明のない限り%(v/v)を示す。
【0020】
本発明は抗ウィルス剤に関する。「ウィルス」とは、他生物の細胞を利用して自己を複製させる、感染性を有する、タンパク質の殻とその内部に入っている核酸からなる構造体である。ウィルスの基本構造は、粒子の中心にあるウィルス核酸と、それを取り囲むカプシドと呼ばれるタンパク質の殻から構成された粒子であり、ウィルスによっては、エンベロープと呼ばれる膜成分を含むものがある。ウィルス核酸は、通常、DNAかRNAのどちらか一方である。ウィルスが持つ核酸の種類によって、ウィルスはDNAウィルスとRNAウィルスに大別される。さらに、それぞれの核酸が一本鎖か二本鎖か、一本鎖のRNAであればmRNAとしての活性を持つか持たないか(プラス鎖RNAかマイナス鎖RNAか)、環状か線状か、などによって細かく分類される。
【0021】
ウィルスに関する限定されない情報は、例えば、Knipe,DMおよびHowley, PM(監修)Fields Virology,第I巻および第II巻,第5版. Lippincott Williams and Wilkins, 2007; Buechen-Osmond, C.(監修),(2006)Index to ICTVdB virus descriptions.: ICTVdB-The Universal Virus Database, バージョン4中.ICTVdB Management,Mailman School of Public Health,コロンビア大学,米国ニューヨーク州ニューヨーク;ならびに“ICTVdB-The Universal Virus Database”,バージョン4,2006年4月.http://www.ictvdb.org/Ictv/ICTVindex.htm)およびICTVdb Virus Descriptions(http://www.ictvdb.org/ICTVdB/index.htm)に見出される。国際微生物学連合の国際ウィルス分類学委員会(ICTV)の最新の報告: “Virus Taxonomy: VIIIth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses”, 2005, C.M. Fauquet, M.A. Mayo, J. Maniloff, U. Desselberger,およびL.A. Ball(監修), Elsevier Academic ressが、ウィルス分類学(分類および命名)の標準および定義参考文献と見なされ、これを、ICTVによって続いて認可される分類学的提案が補足する。(ICTVウェブサイト上、http://talk.ictvonline.org/media/22/default.aspx/.
http://talk.ictvonline.org/files/ictv_official_taxonomy_updates_since_the_8th_report/default.aspxとして改訂として入手可能)(Carstens,
EBおよびBall,L. Ratification vote on taxonomic proposals to the International Committee on Taxonomy of Viruses. Archives of Virology, 第154巻,第7号,2008、ならびにCarstens,E.Ratification vote on taxonomic proposals to the International Committee on Taxonomy of Viruses(2009)Archives of Virology, 第155巻,第1号,2009もまた参照されたい)。The Virus Taxonomy: 2009 リリースv4(2010年3月20日)(ICTVウェブサイト上、http://ictvonline.org/virusTaxonomy.aspで入手可能)が最新の分類学を示す。
【0022】
「コロナウィルス」とは、核酸としてプラス鎖RNAを有する1本鎖RNAウィルスであるコロナウィルス科のウィルスを指し、例えばコロナウィルス属及びトロウィルス属を含む。ウィルス粒子は直径80~120nmの球形ないし多形性を示し、糖脂質、糖タンパクからなるエンベロープを有する。また、コロナウィルスのエンベロープには、スパイクタンパクが配列しており、このスパイクタンパクが、宿主細胞の糖タンパクレセプターへの吸着や融合など、ウィルス感染に関与している。
【0023】
コロナウィルスの例としては、非限定的にヒトコロナウィルス(Human Coronavirus: HCo-V)229E、ヒトコロナウィルス(Human Coronavirus: HCo-V)OC43、ヒトコロナウィルス(Human Coronavirus: HCo-V)HKU1、中東呼吸器症候群コロナウィルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウィルス(SARS-CoV-1、-2)、ブタ伝染性胃腸炎ウィルス(Transmissible Gastroenteritis Virus:TGEV)、ブタ流行性下痢ウィルス(Porcine Epidemic Diarrhea Virus:PEDV)、ブタ呼吸器コロナウィルス(Porcine Respiratory Coronavirus:PRCoV)、ブタ伝染性胃腸炎ウィルス(Swine Transmissible Gastroenteritis Virus:STGV)、イヌコロナウィルス(Canine Coronavirus:CCoV)、ネココロナウィルス(Feline Coronavirus:FECoV)、ネコ伝染性腹膜炎ウィルス(Feline Infectious Peritonitis Virus:FIPV):ウシコロナウィルス(Bovine Coronavirus:BCoV)、マウス肝炎ウィルス(Mouse Hepatitis Virus:MHV)、ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウィルス(Porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus: HEV)、ラットコロナウィルス(Rat Coronavirus :RCV):ニワトリ伝染性気管支炎ウィルス(Infectious Bronchitisvirus:IBV)、シチメンチョウコロナウィルス(Turkey Coronavirus :TCoV)ウサギコロナウィルス(Rabbit Coronavirus)などが含まれる。
【0024】
「インフルエンザウィルス」とは、オルソミクソウィルス科に属するエンベロープを有する一本鎖マイナス鎖RNAウィルスである。直径約100nmの粒子サイズを有し、内部タンパクの抗原性に基づいて、A、B及びC型に分かれる。世界中で大流行するインフルエンザは、主にはA型インフルエンザウィルスによるものであり、このA型インフルエンザウィルスは、ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)の2種類のエンベロープ糖タンパク質を有し、抗原性の違いによってHAでは16種(H1~H16型)、NAでは9種(N1~N9型)の亜型に区別され、その組み合わせによってH1N1~H16N9までの亜型に分類される。例えば、「Aソ連型」として知られているH1N1、「A香港型」として知られているH3N2、H1N2、H2N2、高病原性トリインフルエンザとして有名になったH5N1などがある。本発明の抗ウィルス剤は、A型及びB型インフルエンザウィルスに用いられる。なお、A型及びB型インフルエンザウィルスの亜型としては特に限定されず、これまで単離された亜型であっても将来単離される亜型であってもよい。
【0025】
「ノロウィルス」は、カリシウィルス科、ノロウィルス属に分類されるエンベローブを持たないプラス鎖の一本鎖RNAウィルスである。ウィルス粒子は直径30-38nmの正二十面体であり、ウィルスの中では小さい部類に属する。本発明の抗ウィルス剤が不活性化の対象とするノロウィルスは、ヒトノロウィルス、ネコカリシウィルス、及びマウスノロウィルス(MNV)の少なくとも1種である。
【0026】
「コクサッキーウィルス」は、ピコルナウィルス科エンテロウィルス属に分類されるエンベロープを持たない直鎖の一本鎖プラス鎖RNAウィルスである。コクサッキーウィルスは、マウスにおける病原性の初期の観察に基づいてA群とB群の2群に分かれる。A群ウィルスは皮膚・粘膜感染を起こすことが多く、ヘルパンギーナ、手足口病、急性出血性結膜炎の原因ウィルスであり、B群ウィルスは心臓、胸膜、膵臓、肝臓に感染しやすく、胸膜痛、心筋炎、心膜炎、肝炎(肝炎ウィルスの関与しない肝炎)、糖尿病を起こすとされる。例示的なコクサッキーウィルスには、血清型CV-A2、CV-A3、CV-A4、CV-A5、CV-A6、CV-A7、CV-A8、CV-A10、CV-A12、CV-A14、CV-A16、CV-B1、CV-B2、CV-B3、CV-B4、CV-B5、CV-B6、CV-A9、CV-A1、CV-A11、CV-A13、CV-A17、CV-A19、CV-A20、CV-A21、CV-A22、CV-A24が含まれる。コクサッキーウィルスが細胞感染を起こす場合は、アデノウィルスと同じCoxsackievirus and adenovirus receptorを介する。
【0027】
酢酸とは、カルボン酸の一種であり、エタン酸(ethanoic acid)とも呼ばれる弱酸である。酢酸は、氷酢酸(例えば、関東化学社製17114-08)でもよく、他の成分を含む各種の酢、例えば食酢を使用してもよい。本発明において「食酢」とは特に限定されず、リンゴ酢、ワイン酢、米酢、玄米酢、粕酢、穀物酢、合成酢、蒸留酢などを広く指すものである。これらの食酢は、例えば、原料を仕込んで醪を造り、糖化・酒精発酵及び酢酸発酵を行った後に醪を圧搾して固液分離し、得られた酢酸発酵液の除菌、濾過、酸度調整及び加熱殺菌等の諸工程を順次行うことにより製造され、その後容器に充填されて最終製品となり、市販されている。
【0028】
本発明の抗ウィルス剤における酢酸の含有率は、十分な抗ウィルス活性を有する観点から、例えば0.1%(v/v)以上、0.2%(v/v)以上、0.5%(v/v)以上、0.8%(v/v)以上、1%(v/v)以上、1.5%(v/v)以上、2%(v/v)以上、2.5%(v/v)以上、または3%(v/v)以上とすることができ、また酸刺激性、酸刺激臭を抑える観点から、例えば20%(v/v)以下、15%(v/v)以下、12%(v/v)以下、10%(v/v)以下、9.5%(v/v)以下、9%(v/v)以下、8.5%(v/v)以下、8%(v/v)以下、7.5%(v/v)以下、7%(v/v)以下、6.5%(v/v)以下、または6%(v/v)以下とすることができる。酢酸含有率の具体的な範囲としては、例えば0.1~30、0.2~25、0.5~20、1~20、1~15、1~12、1~10、1~9.5、1~9、1~8.5、1~8、1~7.5、1~7、1~6.5、1~6、2~20、2~15、2~12、2~10、2~9.5、2~9、2~8.5、2~8、2~7.5、2~7、2~6.5、2~6、3~20、3~15、3~12、3~10、3~9.5、3~9、3~8.5、3~8、3~7.5、3~7、3~6.5、または3~6%(v/v)とすることができる。
【0029】
本発明において、酢酸エチルとは、CHCOOCで示される有機化合物であり、果実臭を有する。本発明において酢酸エチルは、人工的に化学合成したものであっても、天然物に由来するもの、たとえば酵母による醗酵代謝物として得られるものであってもよい。本発明の抗ウィルス剤における酢酸エチルの含有量は、十分な抗ウィルス活性を発揮する観点から、例えば0.0005%(v/v)以上、0.001%(v/v)以上、0.002%(v/v)以上、0.003%(v/v)以上、0.004%(v/v)以上、0.005%(v/v)以上、0.006%(v/v)以上、0.007%(v/v)以上、0.008%(v/v)以上、0.009%(v/v)以上、または0.01%(v/v)以上とすることができ、また、刺激臭を抑えるとともに十分な抗ウィルス活性を発揮する観点から、例えば1%(v/v)以下、0.9%(v/v)以下、0.8%(v/v)以下、0.7%(v/v)以下、0.6%(v/v)以下、0.5%(v/v)以下、0.4%(v/v)以下、0.3%(v/v)以下、0.2%(v/v)以下、または0.1%(v/v)以下とすることができる。酢酸エチル含有率の具体的な範囲としては、例えば0.0005~1、0.0005~0.9、0.0005~0.8、0.0005~0.7、0.0005~0.6、0.0005~0.5、0.0005~0.4、0.0005~0.3、0.0005~0.2、0.0005~0.1、0.0005~0.05、0.001~1、0.001~0.9、0.001~0.8、0.001~0.7、0.001~0.6、0.001~0.5、0.001~0.4、0.001~0.3、0.001~0.2、0.001~0.1、0.001~0.05、0.002~1、0.002~0.9、0.002~0.8、0.002~0.7、0.002~0.6、0.002~0.5、0.002~0.4、0.002~0.3、0.002~0.2、0.002~0.1、0.002~0.05、0.003~1、0.003~0.9、0.003~0.8、0.003~0.7、0.003~0.6、0.003~0.5、0.003~0.4、0.003~0.3、0.003~0.2、0.003~0.1、0.003~0.05、0.005~1、0.005~0.9、0.005~0.8、0.005~0.7、0.005~0.6、0.005~0.5、0.005~0.4、0.005~0.3、0.005~0.2、0.005~0.1、0.005~0.05、0.008~1、0.008~0.9、0.008~0.8、0.008~0.7、0.008~0.6、0.008~0.5、0.008~0.4、0.008~0.3、0.008~0.2、0.008~0.1、0.008~0.05、0.01~1、0.01~0.9、0.01~0.8、0.01~0.7、0.01~0.6、0.01~0.5、0.01~0.4、0.01~0.3、0.01~0.2、0.01~0.1または0.01~0.05%(v/v)とすることができる。
【0030】
本発明の抗ウィルス剤における酢酸及び酢酸エチルの溶媒としては、特に制限されるものではないが、通常は水性溶媒が好ましい。水性溶媒としては、精製水、イオン交換水、蒸留水などの水、アルコール、塩素水、又はこれらの混合液などを用いることが可能であるが、塗布、散布又は噴霧、安全性という点から、水を用いることが好ましい。特に密閉性のある居住空間内や家畜小屋に噴霧する場合、そこに居留するヒトを含めた動物の安全性、引火のおそれがないという点から、水を用いることが最も好ましい。
【0031】
本発明の抗ウィルス剤のpHとしては、ウィルスの感染力を低下させるために、酸性であることが好ましく、例えば、pH6以下、5以下、4以下、3以下、2.9以下、2.8以下、2.7以下、又は2.6以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の抗ウィルス剤は、有効成分としての酢酸及び酢酸エチルの他に、酢酸及び酢酸エチルの抗ウィルス活性を阻害しない範囲で、さらに1種又は2種以上の他の成分を含有していてもよい。斯かるその他の成分としては、例えば各種の植物抽出物;スパイス、ハーブ、フレーバー等の各種香味成分;アミノ酸系調味料、核酸系調味料、有機酸系調味料、旨味調味料、香辛料抽出物等の各種呈味・風味成分;粘度調整剤、安定剤、pH調整剤、着色料等の各種添加剤等が挙げられる。
【0033】
例えば、一態様によれば、本発明の抗ウィルス剤は、酢酸及び酢酸エチルの抗ウィルス活性を阻害しない範囲で、緑茶抽出物、アロエ抽出物、及び熊笹抽出物からなる群より選ばれる1種以上を含有してもよい。これらは、酢酸及び酢酸エチルの殺ウィルス性の強化に役立つことが期待できる上に、酢酸及び酢酸エチルの刺激臭の緩和に役立つからである。特に、臭いに敏感なヒトや嗅覚に優れた犬等の動物には、密閉性の高い空間内で使用する場合、臭いの緩和は重要だからである。
【0034】
緑茶の抽出物としては、粉砕した緑茶を熱湯で抽出し、精製し濃縮した液を使用する。緑茶の抽出物の主成分は茶ポリフェノールである。茶ポリフェノールは、分子内にフェノール性水酸基を複数もつ化合物の総称で、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピガテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどを主要成分とする。緑茶抽出物の消毒剤中の含有率は0.01~1質量%であることが好ましい。
【0035】
アロエの抽出物とは、主にアロエが葉に持つゼリー状の身(葉肉)を圧搾抽出法で抽出し、熱可塑性を加えて濃縮安定化したエキスをいう。このようなアロエエキスに代えて、主成分であるアントラキノン誘導体のアロインやバーバロインを用いても良い。アロエ抽出物には、アロインやバーバロインの他、アロエ-エモジン、アロエシン、アロエニンなども含まれる。アロエ抽出物の消毒剤中の含有率は0.01~1質量%であることが好ましい。
【0036】
熊笹の抽出物は、低温高圧圧搾抽出法で、熊笹を抽出することにより得られる。低温高圧圧搾抽出法は、熊笹を高圧に設定した機械装置によって温度を上げずに抽出する方法で、その時に絞り出された液を濃縮した液が熊笹抽出物となる。熊笹は、日本や中国に広く分布しているイネ科のササの1種である。熊笹の抽出物には、主成分であるトリテルペノール(β-アミリン・フリーデン)の他、還元リグニン、還元糖、グルコースなどの糖類も含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合成品の混合物を用いることもできる。熊笹抽出物の消毒剤中の含有率は0.01~1質量%であることが好ましい。
【0037】
本発明の「洗浄剤」とは、本発明の抗ウィルス剤と界面活性剤を含有した洗浄剤である。なお、本発明の抗ウィルス剤に界面活性剤が含有されているものは、そのままでも本発明の洗浄剤になる場合がある。こうした洗浄剤としては、例えば、台所用洗浄剤、トイレ用洗浄剤、風呂用洗浄剤等の家庭用洗浄剤;シャンプー、ハンドソープ、ボディーソープ等の身体洗浄剤(皮膚洗浄剤);うがい薬等の口腔内洗浄剤が挙げられる。
【0038】
本発明において、「消毒剤」、「弱毒化剤」という用語は、病原性コロナウィルスを死滅または弱める、酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含有する化学薬剤を意味する。本発明の消毒剤または弱毒化剤は、コロナウィルスと、例えば10秒、30秒、1分、5分、10分間接触させることにより、コロナウィルスの感染力を低下させ、またはコロナウィルスを死滅させることができる。コロナウィルスの感染はプラークアッセイにて測定することができ、コロナウィルスの感染力は50% Tissue culture infective doses(TCID50)として算出できる(非特許文献1~3、Reedら、Am. J. Hyg. (1938)27,493)。本発明の抗ウィルス剤は、10秒間のコロナウィルスとの接触で、5、10、50、75、80、90、95、99、99.5または99.9%以上コロナウィルスの感染力を低下させ、またはコロナウィルスを死滅させることができ、1分間のコロナウィルスとの接触で、5、10、50、75、80、90、95、99、99.5または99.9%以上コロナウィルスの感染力を低下させ、またはコロナウィルスを死滅させることができ、5分間のコロナウィルスとの接触で、5、10、50、75、80、90、95、99、99.5、99.9または99.99%以上コロナウィルスの感染力を低下させ、またはコロナウィルスを死滅させることができる。
【0039】
本発明の一態様として、抗ウィルス剤は、宿主内から外界に放出され、次の宿主への感染のために外界で待機状態にあるコロナウィルスの感染力を低下させるための洗浄剤/消毒剤/弱毒化剤として用いられる。具体的には、散布器、噴霧器などを用いて、感染可能性のある領域(家畜小屋、病室、居室)内で直接散布または噴霧したり、雑巾等に含浸させて、床、壁、てすりに塗布して用いる。本発明の抗ウィルス剤は、大気中に浮遊あるいは居室内の床や壁に付着して生存しているウィルスの感染力を十分低下させるとともに、ヒトや家畜などの生体内に吸入されても十分安全であるから、感染可能性ある居室空間内、家畜小屋内に十分量、塗布、散布または噴霧することができる。なお、噴霧に際しては、できるだけ細かい液滴として噴霧することが好ましく、炭酸ガス、酸素ガス、窒素ガス等のガスを用いて噴霧することが好ましい。
【0040】
本発明の一態様として、抗ウィルス剤は、ウィルスで汚染した、またはその虞のある食料品や調理器具、食器を直接的に洗浄、消毒または弱毒化するために用いられる。食料品としては、野菜類、果物類、肉類、魚類、卵類、穀物類、菓子類およびこれ等の包装紙等があげられるが、酢酸及び酢酸エチルの抗ウィルス活性を阻害しない範囲で、特に限定されない。調理器具としては、オーブン、オーブンレンジ、電子レンジ、トースター、炊飯器、七輪、コンロ、ガスレンジ、クッキングヒーター、IH調理器具等の熱源、鍋、釜、やかん、フライパン、土鍋、蒸し器、落し蓋、飯盒、圧力鍋等の加熱容器、包丁、まな板、目打ち、スライサー、パイカッター、ジャカードなどの切るための調理器具、ミキサー、フードプロセッサー等の砕くための調理器具、おろし器、ジューサー、すり鉢、すりこ木等の擦るための調理器具、ボウル、泡だて器、篩、麺棒、笊、お玉杓子、計量カップ等があげられるが、酢酸及び酢酸エチルの抗ウィルス活性を阻害しない範囲で、特に限定されない。食器としては、皿、椀、コップ、鉢、杯、瓶、箱、箸、ナイフ、フォーク、匙、膳、盆、プレート等があげられるが、酢酸及び酢酸エチルの抗ウィルス活性を阻害しない範囲で、特に限定されない。
【0041】
本発明の一態様として、抗ウィルス剤は、ウィルスで汚染した、またはその虞のある口腔内を直接的に洗浄、消毒または弱毒化するために用いられる。口腔内を洗浄、消毒または弱毒化のために本発明の抗ウィルス剤をうがい薬として、例えば、10秒間、30秒間、1分間、3分間、5分間以上使用することができ、抗ウィルス作用を高めるために、1回、2回、3回または5回以上繰り返すことができる。なお、本発明の抗ウィルス剤を用いたうがいの後、必要であれば水等で口腔内を洗浄してもよい。
【0042】
本発明の一態様として、抗ウィルス剤は、ウィルスで汚染された、またはその虞のある皮膚等を直接的に洗浄、消毒または弱毒化するために用いられる。皮膚等として、ウィルスに汚染されやすい指先、手、足、首、顔及び頭の皮膚があげられるが、これに限定されない。皮膚等を洗浄、消毒または弱毒化のために本発明の抗ウィルス剤を直接皮膚等に塗布して、例えば、10秒間、30秒間、1分間、3分間、5分間以上使用することができ、抗ウィルス作用を高めるために、1回、2回、3回または5回以上繰り返すことができる。なお、本発明の抗ウィルス剤を皮膚等に処理した後、必要であれば水等で皮膚等を洗浄することができる。
【0043】
本発明の一態様として、ウィルスで汚染された物に、酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む抗ウィルス剤を塗布、散布または噴霧する、ウィルスの消毒または弱毒化方法があり、また、本発明の一態様として、ウィルスで汚染された物に、塗布、散布または噴霧してウィルスを消毒または弱毒化するための、酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む抗ウィルス剤の使用がある。本発明の抗ウィルス剤は、そのまま使用することができ、また、例えば、本発明の抗ウィルス剤の濃縮液を使用時に水で希釈して使用することもできる。
【0044】
本発明の抗ウィルス剤は、短時間で高い抗ウィルス効果を発揮することから、SARS-CoV、MERS-CoV又はSARS-CoV2に対して特に有効である。本発明の抗ウィルス剤は、短時間で高い抗ウィルス効果を発揮することから、SARS-CoV2に対して特に有効である。
【0045】
本発明のウィルス不活化剤や消毒剤の適用場面としては、ウィルスの感染経路である接触感染、空気感染、飛沫感染などによる感染に対して適用することができる。また、その侵入経路となるヒトの皮膚や鼻粘膜または口腔などからの侵入防止を目的として使用することができる。
【0046】
また、コロナウィルス等のウィルスは鳥などの動物にも感染し得ることから、家禽舎内外、鶏肉処理場内外、家禽舎や鶏肉処理場に入る空気、排泄物、家禽舎や肉処理場の出入口での履物(たとえば長靴)などに、洗浄剤、消毒剤または弱毒化剤として、散布、噴霧又は塗布するなどしてもよい。
【実施例0047】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお,本発明はこれにより限定されるものではない。
【0048】
実施例1:抗ウィルス剤を用いたSARS-CoV2の不活性化
1.材料および方法
(1)抗ウィルス剤:
氷酢酸(関東化学社製)を希釈して、4、5、6%(v/v)の酢酸水溶液を調製した。また、4%(v/v)酢酸水溶液に酢酸エチル(関東化学社製)を終濃度0.001、0.01、0.1%(v/v)にて添加した。
(2)コロナウィルス:
SARS-CoV2(Hu/DP/Kng/19-020株、大阪大学より供与)を使用した。
(3)コロナウィルスの抗ウィルス剤処理:
2×10TCID50/mLのコロナウィルス溶液と抗ウィルス剤を1:9の割合で混合し、室温で1または5分間インキュベートした。その後、100倍量のDulbecco’s modified Eagle medium(Gibco社製)を添加して、抗ウィルス剤処理を停止した。
(4)コロナウィルスのプラークアッセイ:
VeroE6-TMPRSS2細胞(大阪大学より供与)を使用して、非特許文献3に従ってプラークアッセイを行った。TCID50はBehrens-Karber法に従って算出した。
【0049】
2.結果
(1)酢酸水溶液によるコロナウィルスの不活性化
表1に示すように、酢酸の濃度に依存して酢酸水溶液のpHが低下するとともに、コロナウィルスの感染力が低下した。また、酢酸水溶液の処理時間に依存して、コロナウィルスの感染力が低下した。
【0050】
【表1】
【0051】
(2)酢酸及び酢酸エチル水溶液によるコロナウィルスの不活性化
表2に示すように、酢酸エチルを4%酢酸水溶液に添加しても、pHはほとんど変化しなかった。一方、酢酸エチルを0.001、0.01、及び0.1%(v/v)の濃度で添加したところ、添加しなかった場合と比較して、コロナウィルスの感染力はそれぞれ11.250%、96.875%、及び86.250%低下し、0.01%の酢酸エチルが至適濃度であった。
【0052】
【表2】
【0053】
以上のことから、酢酸及び酢酸エチルを有効成分として含む抗ウィルス剤は、短時間でコロナウィルスを不活性化するのに優れた組成物であることが分かった。