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特開2022-91405組換え微生物および当該微生物を用いた2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091405
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】組換え微生物および当該微生物を用いた2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220614BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220614BHJP
   C12P 7/42 20060101ALI20220614BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N1/19 ZNA
C12P7/42
C12N15/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204225
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(72)【発明者】
【氏名】中川 史子
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 誠久
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD29
4B064AD30
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA15X
4B065AA24X
4B065AA26X
4B065AA30X
4B065AA41X
4B065AA41Y
4B065AA45X
4B065AA50X
4B065AA79X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD27
4B065BD29
4B065CA10
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】組換え微生物、及び該組換え微生物を用いた、醗酵による2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の工業的に効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を発現する組換え微生物であって、前記蛋白質が、特定のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、組換え微生物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を発現する組換え微生物であって、
前記蛋白質が、配列番号1、2または3で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、組換え微生物。
【請求項2】
プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を発現する組換え微生物であって、
当該組換え微生物には:
(a)配列番号1、2または3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列を有するDNA、
(c)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列を有するDNAと緊縮条件下でハイブリダイズし、かつ、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
(d)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列と80%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列からなり、かつ、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
(e)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列によりコードされる蛋白質のアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAであって、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、または
(f)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列の縮重異性体からなるDNA
が導入されている、組換え微生物。
【請求項3】
前記蛋白質が、Cgl、RjoおよびPnaからなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子によってコードされる蛋白質である、請求項1または2に記載の組換え微生物。
【請求項4】
前記組換え微生物が、大腸菌、コリネ型細菌、シュードモナス型細菌、放線菌、酵母菌、乳酸菌、枯草菌またはポラロモナス型細菌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組換え組成物。
【請求項5】
前記組換え微生物が、エスケリキア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、バシルス(Bacillus)属またはポラロモナス(Polaromonas)属に属する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組換え微生物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組換え微生物を用いて、プロトカテク酸を2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸に変換することを含む、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項7】
以下の蛋白質からなる群より選択される少なくとも一つの蛋白質を用いて、プロトカテク酸を2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸に変換することを含む、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法:
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(5)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(6)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(7)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質、
(8)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質、および
(9)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え微生物および当該微生物を用いた2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸は、抗菌剤および抗腫瘍剤として利用される鉄錯体又は白金錯体の配位子、麻薬鎮痛剤の中間体などとして、様々な用途に用いられる。
【0003】
2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を化学的に製造する方法としては、例えば、安息香酸あるいはサリチル酸から鉄(II)と過酸化水素とを用いて、ヒドロキシ基を付加する方法がある(非特許文献1)。
【0004】
また、微生物を用いた2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法としては、天然由来のシュードモナス・エアルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)T1の粗精製酵素を用いることにより、試験管内でプロトカテク酸を酸化させることにより2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を生成できることが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を化学的に製造する上述の方法では、選択的なヒドロキシ基の付加が困難であり、収率は数%と低い。また、この方法は、将来的な枯渇が懸念される石油を原料とする点に課題がある。
【0006】
また、組換え微生物を用いた2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の醗酵製造法は未だ確立されていない。特に、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法は現状、天然の菌体由来の粗精製酵素を用いたプロトカテク酸からの製造のみに限られることから、効率的ではなく、工業的規模の生産には適さない。なお、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸と構造の類似する、没食子酸および1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンについては、組換え微生物を用いた製造方法が提案されている(特許文献1、2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-65839号公報
【特許文献2】特開2009-213392号公報
【特許文献3】特表2002-539798号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mehmet A. Oturan and Jean Pinson, The Journal of Physical Chemistry, 99, 13948-13954 (1995)
【非特許文献2】Edye E. Groseclose and D. W. Ribbon, Biochemical and Biophysical Research Communications, 55:897-903 (1973)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまでシュードモナス・エアルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来の酵素のみがプロトカテク酸の6位の酸化活性を有することが知られていたが、その他の菌由来の酵素は見いだされていない。本発明の課題は、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の工業的に効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、シュードモナス・エアルギノーサ由来の酵素以外の、3-ヒドロキシ安息香酸の6位を酸化させる酵素、特に、シュードモナス・エアルギノーサ由来の酵素よりも工業的に有利なプロトカテク酸6位酸化酵素活性を有する特定の酵素を見出した。すなわち、以下で示す配列番号1、配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する酵素、および、これらのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する酵素は、シュードモナス・エアルギノーサ由来の酵素よりも優れたプロトカテク酸6位酸化酵素活性を有する。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである:
[1]プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を発現する組換え微生物であって、
前記蛋白質が、配列番号1、2または3で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、組換え微生物;
[2]プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を発現する組換え微生物であって、
当該組換え微生物には:
(a)配列番号1、2または3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列を有するDNA、
(c)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列を有するDNAと緊縮条件下でハイブリダイズし、かつ、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
(d)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列と80%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列からなり、かつ、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
(e)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列によりコードされる蛋白質のアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAであって、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、または
(f)配列番号5、6、7、8、9、10、11、12または13で表されるポリヌクレオチド配列の縮重異性体からなるDNA
が導入されている、組換え微生物;
[3]前記蛋白質が、Cgl、RjoおよびPnaからなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子によってコードされる蛋白質である、[1]または[2]に記載の組換え微生物;
[4]前記組換え微生物が、大腸菌、コリネ型細菌、シュードモナス型細菌、放線菌、酵母菌、乳酸菌、枯草菌またはポラロモナス型細菌である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組換え組成物;
[5]前記組換え微生物が、エスケリキア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、バシルス(Bacillus)属またはポラロモナス(Polaromonas)属に属する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組換え微生物;
[6][1]~[5]のいずれか1項に記載の組換え微生物を用いて、プロトカテク酸を2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸に変換することを含む、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法;
[7]以下の蛋白質からなる群より選択される少なくとも一つの蛋白質を用いて、プロトカテク酸を2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸に変換することを含む、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法:
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(5)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(6)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(7)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質、
(8)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質、および
(9)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、組換え微生物を用いた、醗酵による2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の工業的に効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明にかかる組換え微生物は、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を発現するよう改変が行われた遺伝子組換え微生物である。プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質は、以下に示すとおり、プロトカテク酸の6位を酸化することによって、プロトカテク酸を2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸に変換する。本発明において、組換え微生物に関して、「プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を発現する」とは、組換え微生物が当該蛋白質を生成する能力を有していることを意味し、本来当該蛋白質を発現する能力を有する宿主微生物に対して、さらに当該蛋白質を発現するような改変が行われている場合、および、本来は当該蛋白質を発現する能力を有さない宿主微生物に対して、当該蛋白質を発現するような改変が行われている場合の両方を含むものとする。本明細書では、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を、「プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質」とも称し、また、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を、「プロトカテク酸6位酸化酵素活性」とも称する。
【0014】
宿主微生物が、本来プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質を発現する能力を有する宿主微生物である場合、組換え微生物に関して、「プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質を発現する」とは、宿主微生物と比較して、プロトカテク酸6位酸化酵素活性が少なくとも維持されているか、または、当該活性が増強されていることをいい、好ましくは、宿主微生物と比較して、プロトカテク酸6位酸化酵素活性が増強されていることをいう。すなわち、本明細書において、当該蛋白質に関して、「発現」の語には、当該蛋白質の「活性の維持」および「活性の増強」が含まれるものとする。本来プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質を発現する能力を有する宿主微生物、および、本来は当該蛋白質を発現する能力を有さない宿主微生物については、後述する。
【0015】
【化1】
【0016】
ここで、プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質には、当該蛋白質のアミノ酸配列において、1つまたは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含む蛋白質であって、当該酵素蛋白質と機能的に同等な蛋白質も含まれる。ここで「機能的に同等な蛋白質」とは、その酵素蛋白質の活性と同等の活性を備えた蛋白質であり、「機能的に同等な蛋白質」には、その酵素蛋白質のアミノ酸配列と、例えば80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.5%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上または99.9%以上の配列同一性を有する蛋白質が含まれる。
【0017】
したがって、「プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質」の語には、下記で特定する配列番号に示されるアミノ酸配列と80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.5%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上または99.9%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、プロトカテク酸6位酸化酵素活性を有する蛋白質を包含する。
【0018】
ここで、プロトカテク酸6位酸化酵素活性は、当業者によって周知の方法によって評価することができ、例えば、本発明にかかる組換え微生物を培養した後、培地の上清中の2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸濃度を高速液体クロマトグラフィーで定量する方法が挙げられる。
【0019】
アミノ酸配列に関し、「配列同一性」は、公知の方法によって決定することができ、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool:https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)にて使用することのできるアライメントサーチツールを用いて得られる。ポリヌクレオチド配列の「配列同一性」についても同様に、公知の方法によって決定することができる。
【0020】
プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質としては、例えば、
・配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
・配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、および
・配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質
が挙げられる。
【0021】
配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来の蛋白質Cglである。配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質は、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)由来の蛋白質Rjoである。配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質は、ポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)由来の蛋白質Pnaである。
【0022】
本発明にかかる組換え微生物は、上記のプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質をコードするDNAが導入された組換え微生物であってよく、あるいは、上記のプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質をコードするDNAを含む組換え体DNAで形質転換した微生物であってもよい。
【0023】
プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質をコードする遺伝子は、
(a)上記で特定する配列番号で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA、
(b)下記で特定する配列番号で表されるポリヌクレオチド配列を有するDNA、
(c)下記で特定する配列番号で表されるポリヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列を有するDNAと緊縮条件下でハイブリダイズし、かつ、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
(d)下記で特定する配列番号で表されるポリヌクレオチド配列と80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.5%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上または99.9%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列からなり、かつ、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
(e)下記で特定する配列番号で表されるポリヌクレオチド配列によりコードされる蛋白質のアミノ酸配列に対して1つまたは複数個(例えば1~10個、好ましくは1~7個、さらに好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個もしくは1個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAであって、プロトカテク酸の6位を酸化する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、および
(f)下記で特定する配列番号で表されるポリヌクレオチド配列の縮重異性体からなるDNA
を包含する。
【0024】
ここで、「緊縮条件」とは、例えば、「1xSSC、0.1%SDS、60℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.1xSSC、0.1%SDS、60℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.1xSSC、0.1%SDS、68℃」程度の条件である。
【0025】
プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質をコードするDNAとしては、例えば、
・配列番号5、8または11で表されるポリヌクレオチド配列を有するDNA、
・配列番号6、9または12で表されるポリヌクレオチド配列を有するDNA、および
・配列番号7、10または13で表されるポリヌクレオチド配列を有するDNA
が挙げられる。配列番号5~13の各々については後述する。
【0026】
一態様において、プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質をコードするDNAは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来のCgl(配列番号8)、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)由来のRjo(配列番号9)およびポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)由来のPna(配列番号10)からなる群より選択される。
【0027】
本発明で用いられる微生物は、上記のポリヌクレオチド配列を有するDNA種をベクターDNAに連結することで組換え体DNAを作製し、当該組換え体DNAを用いて宿主の菌株を形質転換することにより取得することができる。ただし、これらのDNA種に限定されるものではなく、その目的を達成できるDNA種であればすべて使用できる。
【0028】
【表1-1】
【0029】
【表1-2】
【0030】
【表1-3】
【0031】
本発明で用いられる微生物は、上記のプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質を発現可能な組換え微生物であれば特に制限はなく、例えば、大腸菌、コリネ型細菌、シュードモナス型細菌、放線菌、酵母菌、乳酸菌、枯草菌またはポラロモナス型細菌である。本発明で用いられる微生物は、好ましくは、エスケリキア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、バシルス(Bacillus)属またはポラロモナス(Polaromonas)属に属する。本発明に係る組換え微生物は、これらの微生物株を変異処理することにより、得られる。微生物の親株はアメリカ・タイプ・カルチャー・コレクション(以下、必要に応じてATCCと略記する)、独立行政法人製品基盤技術基盤機構・生物遺伝資源部門(以下、必要に応じてNBRCと略記する)、独立行政法人 理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター等から入手することができる。
【0032】
本発明で宿主微生物として用いられる微生物は、本来はプロトカテク酸6位酸化酵素を発現する能力を有さない微生物であってよい。「本来はプロトカテク酸6位酸化酵素を発現する能力を有さない微生物」には、例えば、当該酵素のアミノ酸配列と配列同一性70%以下のアミノ酸配列を有する蛋白質を発現する微生物が含まれる。「本来はプロトカテク酸6位酸化酵素を発現する能力を有さない微生物」としては、例えば、エスケリキア(Escherichia)属のエスケリキア・コリ(Escherichia coli)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属のコリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、シュードモナス(Pseudomonas)属のシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、ストレプトマイセス(Streptomyces)属のストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、サッカロマイセス(Saccharomyces)属のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ラクトコッカス(Lactococcus)属のラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトバシルス(Lactobacillus)属のラクトバシルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ならびに、バシルス(Bacillus)属の枯草菌(Bacillus subtilis)および納豆菌(Bacillus subtilis natto)が挙げられる。ただし、本発明に使用することのできる菌株は上記菌株に限定されるものではなく、その目的を達成できる菌株であればすべて使用できる。
【0033】
本発明で宿主微生物として用いられる微生物は、本来プロトカテク酸6位酸化酵素を発現する能力を有する微生物であってもよい。「本来プロトカテク酸6位酸化酵素を発現する能力を有する微生物」としては、コリネ型細菌、ロドコッカス属、ポラロモナス型細菌等に属する微生物を挙げることができ、例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ロドコッカス(Rhodococcus)属のロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)、および、ポラロモナス(Polaromonas)属のポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)が挙げられる。
【0034】
これらの本来プロトカテク酸6位酸化酵素を発現する能力を有する微生物を用いる場合には、当該酵素の発現強化に適切なプロモーター、エンハンサー等の発現機構を好ましく選択することができる。コリネ型細菌、ロドコッカス属、ポラロモナス型細菌の当該蛋白質の遺伝子発現を増強することが可能なプロモーターは、宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。
【0035】
本来プロトカテク酸6位酸化酵素を発現する能力を有する微生物において、当該酵素遺伝子の発現を強化するには、例えば、コリネ型細菌には、Kmプロモーター、benプロモーター、vanプロモーター等を使用することができ、ロドコッカス属細菌には、tipAプロモーター等を使用することができ、ポラロモナス型細菌には、nagプロモーター等を用いることができる。
【0036】
以下に、DNAのクローニングと形質転換株の作製方法について詳しく述べる。
【0037】
目的とするプロトカテク酸6位酸化酵素のDNAは、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、又はポラロモナス(Polaromonas)属の細菌由来のプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質をコードする遺伝子(以下、「プロトカテク酸6位酸化酵素遺伝子」とも称する。)、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)、又はポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)由来のプロトカテク酸6位酸化酵素遺伝子の塩基配列に基づいて設計する。
【0038】
目的とするプロトカテク酸6位酸化酵素のDNAは、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)RHA1、又はポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)CJ2のプロトカテク酸6位酸化酵素遺伝子の塩基配列、すなわち配列番号8、9又は10で表される塩基配列に基づいて設計することができる。
【0039】
上記のプロトカテク酸6位酸化酵素遺伝子のDNAを連結するベクターとしては、エスケリキア・コリBL21株等において自立複製可能なベクターであればプラスミドベクター、ファージベクター等いずれも使用可能である。このようなベクターとしては、具体的には、pET-15b、pUC118(タカラバイオ社製)、pUC18、pBR322、pHelix1(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)、ZAP Express(ストラタジーン社製)等を用いることができる。
【0040】
上記のようにして、ベクターにDNAを連結して得られた組換え体DNAの宿主としては、例えば、エスケリキア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、バシルス(Bacillus)属またはポラロモナス(Polaromonas)属に属する微生物を用いることができる。ベクターにDNAを連結して得られた組換え体DNAの宿主としては、好ましくは、エスケリキア(Escherichia)属またはコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する微生物を用いることができる。エスケリキア(Escherichia)属に属する微生物としては、例えば、エスケリキア・コリが挙げられ、エスケリキア・コリに属する微生物であればいずれでも用いることができる。具体的には、エスケリキア・コリ(Escherichia coli) DH5α、エスケリキア・コリJM105、エスケリキア・コリBL21等を挙げることができる。
【0041】
エスケリキア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、バシルス(Bacillus)属、またはポラロモナス(Polaromonas)属に属する微生物の中に、プロトカテク酸6位酸化酵素遺伝子を導入する場合、これら微生物の中で自立複製可能なベクターを用いる。好ましくは、当該微生物のいずれかとエスケリキア・コリBL21株の両方の微生物の中で自立複製可能なシャトル・ベクターを用いて、組換え体DNAを宿主となる当該微生物に導入することができる。
【0042】
宿主への組換え体DNAの導入方法としては、上記宿主へDNAを導入することのできる方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)〕、エレクトロポレーション法〔Nucleic Acids Res., 16, 6127 (1988)〕、市販のコンピテント・セルを用いる方法等を挙げることができる。
【0043】
上記において決定されたDNAの塩基配列に基づいて、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成装置等の既存のDNA合成装置を用いて化学合成することによっても、目的とするDNAを調製することができる。
【0044】
上記のプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質を発現する形質転換体は、下記の方法を用いて上記のDNAを宿主で発現させることによって得られる。
【0045】
上記のプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質をコードするDNAを用いる際には、必要に応じて、本発明の蛋白質をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製することができる。また、当該蛋白質をコードする部分の塩基配列を、宿主の発現に最適なコドンとなるように、塩基を置換することにより、当該蛋白質の生産率を向上させることもできる。本発明のDNAを発現する形質転換体は、上記DNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換え体DNAを作製し、当該組換え体DNAを、当該発現ベクターに適合した宿主に導入することにより取得することができる。形質転換体を得るためのこれらの方法は、単独で行ってもよく、複数を組み合わせて行ってもよい。
【0046】
例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来のCglの塩基配列(配列番号8)、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)由来のRjoの塩基配列(配列番号9)、およびポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)由来のPnaの塩基配列(配列番号10)について、大腸菌における発現に最適なコドンとなるよう塩基の置換を行ったものを、それぞれ、配列番号5、配列番号6および配列番号7として下記表に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組込が可能で、本発明のDNAを転写できる位置にプロモーターを含むものが用いられる。
【0049】
細菌等の原核生物を宿主細胞として用いる場合は、本発明のDNAを含む組換え体DNAは原核生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明のDNAおよび転写終結配列により構成された組換え体DNAであることが好ましい。当該組換え体DNAには、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0050】
ここで使用されるプロモーターは、宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。プロモーターとしては、例えば以下のものが挙げられる:
(1) trpプロモーター(Ptrp)およびlacプロモーター(Plac)等の大腸菌に由来するプロモーター、
(2) PLプロモーター、PRプロモーターおよびT7プロモーター等の、ファージに由来するプロモーター、
(3) trpプロモーターとlacプロモーターとを融合したtacプロモーター、および、lacプロモーターとT7プロモーターとを融合したlacT7プロモーター等の人為的に設計改変されたプロモーター、
(4) Kmプロモーター(例えばpHSG298のカナマイシン耐性遺伝子のプロモーター)、
(5) benプロモーター等の、コリネバクテリウム・グルタミカムに由来する安息香酸代謝系のプロモーター、
(6) vanプロモーター等の、コリネバクテリウム・グルタミカムに由来するバニリン酸代謝系のプロモーター、
(7) tipAプロモーター等の、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に由来するチオストレプトン誘導型のプロモーター、ならびに、
(8) nagプロモーター等の、ポラロモナス・ナフタレニボランスに由来するナフタレン代謝系のプロモーター。
上記プロモーターは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用可能である。
【0051】
上記プロモーターは、「本来プロトカテク酸6位酸化酵素を発現する能力を有する微生物」においても単独でまたは2種以上組み合わせて使用可能であり、なかでも、(4)~(8)のプロモーターは、コリネ型細菌等の発現強化に、単独でまたは2種以上を組み合わせて、更には、(1)~(3)のプロモーターと組み合わせて、好ましく使用できる。
【0052】
本発明の別の側面は、上記組換え微生物を用いた2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法に関する。本製造方法において、本発明の組換え微生物によって発現するプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質が、プロトカテク酸を2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸に変換する。
【0053】
上記のようにして得られる本発明の組換え微生物を、好ましくは1mM~1Mのプロトカテク酸を含む培地で培養することで、培養物中に2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を製造することができる。本発明の微生物を培地に培養する方法は、微生物の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。ここで、本発明の組換え微生物が生成するプロトカテク酸には、生成した後も当該微生物の菌体内に保持されるものと、生成した後、菌体から培地へと放出されるものとが含まれる。本発明の組換え微生物によって生成されたプロトカテク酸を「本発明の組換え微生物由来のプロトカテク酸」とも称する。前記菌体内に保持されるプロトカテク酸は、その一部または全部が、菌体内でプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質によって2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸に変換されることもある。本明細書で使用される「プロトカテク酸を含む培地」の語に関し、「プロトカテク酸」には、本発明の組換え微生物由来のプロトカテク酸(すなわち、本発明の組換え微生物によって生成されて菌体内に保持されるプロトカテク酸、および、本発明の組換え微生物によって生成されて菌体から培地へと放出されるプロトカテク酸)を含まないものとし、外部から培地に添加されたプロトカテク酸のみを意味するものとする。微生物の培養に用いられる「1mM~1Mのプロトカテク酸を含む培地」は、対象となる微生物に適した培地に、終濃度が1mM~1Mとなる量のプロトカテク酸を添加することで調製することができる。
【0054】
本発明の微生物の培養は、炭素源、窒素源、無機塩、各種ビタミン等を含む通常の栄養培地で行うことができ、炭素源としては、例えばブドウ糖、ショ糖、果糖等の糖類、エタノール、メタノール等のアルコール類、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸類、廃糖蜜等が用いられる。窒素源としては、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等がそれぞれ単独または混合して用いられる。また、無機塩としては、例えばリン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム等が用いられる。この他にペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンステイープリカー、カザミノ酸、ビオチン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することができる。2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を生産するための原料であるプロトカテク酸としては、外部から培地に添加したプロトカテク酸、および/または、上記成分を含む培地で本発明にかかる組換え微生物によって生成されたプロトカテク酸、すなわち、本発明の組換え微生物由来のプロトカテク酸、を利用することができる。
【0055】
培養は、通常、通気攪拌、振とう等の好気条件下で行う。培養温度は、本発明の微生物が生育し得る温度であれば特に制限はなく、また、培養途中のpHについても本発明の微生物が生育し得るpHであれば特に制限はない。培養中のpH調整は、酸またはアルカリを添加して行うことができる。
【0056】
本発明にかかる2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法は、その製造方法のいずれかの段階で、本発明の組換え微生物を用いるものである。上記のとおり、本発明の組換え微生物を、プロトカテク酸を含む培地で培養することで培養物中に2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を生成させることができるが、この方法に代えて、またはこの方法に加えて、本発明の組換微生物を培養した後、プロトカテク酸を含む水性媒体中に、当該微生物の培養物もしくは当該培養物の処理物を加えることにより、当該媒体中に2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を生成させることもできる。すなわち、プロトカテク酸から2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸への変換は水性媒体中で行われる。本明細書において「プロトカテク酸を含む水性媒体」の語に関し、「プロトカテク酸」は、本発明の組換え微生物由来のプロトカテク酸を含まず、外部から水性媒体に添加されたプロトカテク酸を意味するものとする。
【0057】
当該培養物の処理物として、本発明の微生物を担体に固定化したものを用いてもよい。その場合には、培養物から回収されたまま、あるいは適当な緩衝液、例えばpH6~10の0.02~0.2M程度のリン酸緩衝液等で洗浄された菌体を使用することができる。また、培養物から回収された菌体を、超音波、圧搾、界面活性剤による細胞壁の溶解等の手段で破砕して得られる破砕物、当該破砕物を水等で抽出して得られるプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質を含む抽出物、当該抽出物を更に硫安塩析、カラムクロマトグラフィー等の処理を行って得られるプロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質の部分精製成分等を担体に固定化したものも、本発明の2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造に使用することができる。プロトカテク酸6位酸化酵素蛋白質を担体に固定化したものは、例えば、バイオリアクター内での反応に用いることができる。
【0058】
これら菌体、菌体破砕物、抽出物または精製酵素の固定化は、それ自体既知の通常用いられている方法に従い、アクリルアミドモノマー、アルギン酸、またはカラギーナン等の適当な担体に菌体等を固定化させる方法により行うことができる。
【0059】
反応に用いる水性媒体は、プロトカテク酸を含む水溶液または適当な緩衝液、例えばpH3~10の0.02~0.2M程度のリン酸緩衝液とすることができる。この水性媒体には、さらに菌体の細胞膜の物質透過性を高める必要のあるときには、トルエン、キシレン、非イオン性界面活性剤等を0.05~2%(w/v)添加することもできる。反応に用いる水性媒体は、対象となる微生物に応じて選択された培地であってもよい。水性媒体が培地の場合、水性媒体は、液体培地、リン酸緩衝液、蛋白質安定剤などを含んでもよい。
【0060】
反応原料となるプロトカテク酸の水性媒体中の濃度は、0.1mM~1M程度が適当である。上記の水性媒体における酵素反応温度およびpHは特に限定されないが、通常10~60℃、好ましくは15~50℃が適当であり、反応液中のpHは5~10、好ましくは6~9付近とすることができる。また、pHの調整は、酸またはアルカリを添加して行うことができる。発明で使用する酵素は、菌体抽出液をそのまま又はそれから遠心分離、濾過等で集め、これを水又は緩衝液に懸濁して得ることができる。このようにして得られた酵素をプロトカテク酸および水の存在下、反応させるが、反応液中のプロトカテク酸の濃度は酵素の活性を阻害しない範囲で可能な限り高くすることが有利である。反応は静置、攪拌および振盪からなる群より選択されるいずれか1以上の方法で行ってもよい。また、酵素を適当な支持体に固定化してカラムに充填し、プロトカテク酸を含む溶液を流す方法を、先述した方法に加えて、又は、単独で行ってもよい。反応温度は、通常10~60℃、好ましくは15~50℃であり、反応液中のpHは5~10、好ましくは6~9付近である。
【0061】
なお、上記水性媒体に、反応時に抗酸化剤を添加すると、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の生成収率が一層向上する場合がある。抗酸化剤としては、アスコルビン酸等が挙げられる。添加濃度は、酸化剤の種類によって異なるが、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の生成を阻害しない濃度で加えることが望ましく、通常は0.1~50mM、好ましくは0.2~10mMである。
【0062】
本発明のさらに別の側面は、以下の蛋白質からなる群より選択される少なくとも一つの蛋白質を用いて、プロトカテク酸を2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸に変換することを含む、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造方法に関する:
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.5%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上または99.9%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(5)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.5%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上または99.9%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(6)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して配列同一性80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.5%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上または99.9%以上のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(7)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個、1~7個、1~5個、1~3個、1~2個もしくは1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質、
(8)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個、1~7個、1~5個、1~3個、1~2個もしくは1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質、および
(9)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質に対して、1~10個、1~7個、1~5個、1~3個、1~2個もしくは1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質。
【0063】
本発明に係る製造方法において、プロトカテク酸から2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸への変換は、先述の水性媒体中の他、バイオリアクター中で行ってもよい。この場合には、バイオリアクター内では例えば、上記蛋白質を、容器内に収容される水性媒体もしくは固形媒体に浮遊させるか、または、担体に固定し、プロトカテク酸を2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸へ変換する。
【0064】
上記のとおり、本発明は、組換え微生物を用いた、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の醗酵製造法を提案するものである。本発明の組換え微生物を用いることにより、当該微生物の醗酵によって2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸が生産されるため、効率的に目的物質を得ることができ、さらに、工業的規模で生産への応用も期待される。
【0065】
以上、本発明を実施するための形態を例示したが、上記実施形態はあくまでも例として示されるものであり、発明の範囲を限定することを意図するものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。
【0066】
なお、本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。
【0067】
以下に本発明の方法を実施例により具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0068】
[実施例1]
プロトカテク酸を原料とする大腸菌による2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の生産を下記のようにして行った。
【0069】
(1)3-ヒドロキシ安息香酸6位酸化酵素蛋白質のデータベース検索
3-ヒドロキシ安息香酸の6位を酸化させる酵素群であるCD1.14.12.24の酵素群の中から、シュードモナス・エルギノーサT1由来のプロトカテク酸6位酸化酵素の配列とアミノ酸配列同一性が75%未満であり、大腸菌での発現実績があり、かつ、サブユニット数の異なる蛋白質として、3種類を選定した(下記表3参照)。配列同一性は、ナショナル・センター・フォア・バイオテクノロジー・インフォメーション(以下、NCBIと略記する)のジェンバンク(GenBank;以下、GBと略記する)データベースから、配列番号4に示すシュードモナス・エルギノーサT1由来のプロトカテク酸6位酸化酵素のアミノ酸配列を問い合わせ配列としてBLAST相同性解析法を用いて算出した。それぞれの蛋白質の略号とシュードモナス・エルギノーサT1由来のプロトカテク酸6位酸化酵素との配列同一性(%)を表3に示した。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
(2)DNAの配列デザインとDNAの取得
表3記載の3種類の蛋白質をコードするDNAをIn-Fusion法(タカラバイオ社)によりベクターpET-15bに組み込むため、当該ベクターを制限酵素NdeIで切断した断片の末端15塩基の配列と同一になるように、当該DNAの両末端に配列を追加してデザインした。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のアミノ酸配列は配列番号11、ロドコッカス・ジョスティRHA1のアミノ酸配列は配列番号12、ポラロモナス・ナフタレニボランスCJ2のアミノ酸配列は配列番号13に示す通りにデザインした。上記の配列デザインを行ったDNAは、二本鎖DNAの状態でIntegrated DNA Technology株式会社に依頼して取得した。
【0073】
【表5】
【0074】
(3)In-Fusion法によるベクタープラスミドへの挿入
pET-15bに対して制限酵素NdeI(New England Biolabs社製)で処理を行った後、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて上記の配列デザインを行ったDNAを導入し、それぞれの遺伝子を発現するプラスミドpET-15b_Cgl、pET-15b_RjoおよびpET-15b_Pnaを作製した。
【0075】
(4)DNA導入ベクターの増幅・抽出
上記(3)で作製したプラスミドをそれぞれ、増幅に適する菌株であるエスケリキア・コリDH5αのコンピテントセル(ニッポンジーン社製)に導入することにより、形質転換株DH5α_pET-15b_Cgl、DH5α_pET-15b_RjoおよびDH5α_pET-15b_Pnaを作製した。上記形質転換株を、カルベニシリンが終濃度50μMになるように添加したLB倍地で培養した後、プラスミドミニキット(日本ジェネティクス社製)で精製・抽出を行い、100~150ng/μLのpET-15b_Cgl、pET-15b_RjoおよびpET-15b_Pnaを得た。
【0076】
(5)醗酵生産に用いる形質転換株の作製
上記(4)で作製したプラスミドpET-15b_Cgl、pET-15b_RjoおよびpET-15b_Pnaをそれぞれ、エスケリキア・コリBL21(DE3)のコンピテントセル(ニッポンジーン社製)に導入することにより、形質転換株BL21_pET-15b_Cgl、BL21_pET-15b_RjoおよびBL21_pET-15b_Pnaを作製した。
【0077】
(6)上記形質転換株を用いた2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸の製造
上記(5)で得られた3種類の形質転換体を4mLのLB培地で一晩培養した。プラスミドを維持するために、カルベニシリンが終濃度50μMになるようにLB培地に添加した。一晩培養後、4mLのTB培地に1/100容量接種し、37℃で培養し対数増殖期にIPTG(isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside)を終濃度400μMになるように添加し、蛋白誘導を行った。IPTG添加と同時に終濃度10mMのプロトカテク酸を添加し、25℃で培養した。プロトカテク酸添加後24時間、48時間の培養液を採取し、冷却遠心機(久保田製作所製、Model 6000)で4℃、10分、3000rpmで遠心分離を行い、培養上清を得た。
【0078】
上記培養上清をバイアルに移し、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)を用い、移動相にpH2.5リン酸緩衝液、カラムにCOSMOSIL 5C18-MS-II(COSMOSIL社製)を用いて2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を検出した。結果、培養時間24時間の時点で、BL21_pET-15b_Cgl、BL21_pET-15b_RjoおよびBL21_pET-15b_Pnaについてそれぞれ、0.6mM、0.1mMおよび1.6mMの2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸が観察された。
【0079】
また培養時間48時間の時点で、BL21_pET-15b_Cgl、BL21_pET-15b_RjoおよびBL21_pET-15b_Pnaについてそれぞれ、0.8mM、0.2mMおよび1.8mMの2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸が観察された。消費されたプロトカテク酸はそれぞれ、1.4mM、0.3mMおよび3.4mMであり、得られた2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸のモル収率はそれぞれ、61%、50%および53%であった。なお、シュードモナス・エアルギノーサ由来の遺伝子を導入した大腸菌をプロトカテク酸存在下で培養しても、2,4,5-トリヒドロキシ安息香酸は確認されなかった。
【配列表】
2022091405000001.app