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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091702
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】赤外線検出素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20220614BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H01L31/10 A
G01J1/02 C
G01J1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193661
(22)【出願日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020204465
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】安田 大貴
【テーマコード(参考)】
2G065
5F849
【Fターム(参考)】
2G065AB02
2G065BA09
2G065BA14
2G065BB27
2G065DA08
5F849AA03
5F849AB07
5F849BA04
5F849CB01
5F849CB05
5F849CB14
5F849DA02
5F849DA44
5F849FA05
5F849FA13
5F849GA06
5F849HA07
5F849HA12
5F849HA13
5F849LA01
5F849XB03
5F849XB18
5F849XB40
(57)【要約】
【課題】波長9.5μmにおけるS/N特性の高い量子型の赤外線検出素子を提供する。
【解決手段】赤外線検出素子(1)は、波長9.5μmに感度を有する赤外線検出素子であって、第1導電型半導体層(21)の少なくとも一部と、受光層(22)と、第2導電型半導体層(23)と、がこの順で積層されたメサ型化合物半導体積層部(20)と、メサ型化合物半導体積層部の側面と直接接するように設けられた第1保護膜(31)と、を備え、受光層はInAsSb1-x(0.05≦x≦0.2)であり、第1保護膜は、酸化シリコンであり、かつ、メサ型化合物半導体積層部の側面に対して垂直方向の膜厚が5nm以上70nm以下であり、メサ型化合物半導体積層部は基板の一方の主面上に配置され、基板の一部と、第1導電型半導体層のメサ型化合物半導体積層部に含まれない領域の一部が側面となる凹部を有し、凹部の側面及び底面が第1保護膜に覆われる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長9.5μmに感度を有する赤外線検出素子であって、
第1導電型半導体層の少なくとも一部と、受光層と、第2導電型半導体層と、がこの順で積層されたメサ型化合物半導体積層部と、
前記メサ型化合物半導体積層部の側面と直接接するように設けられた第1保護膜と、を備え、
前記受光層はInAsSb1-x(0.05≦x≦0.2)であり、
前記第1保護膜は、酸化シリコンであり、かつ、前記メサ型化合物半導体積層部の前記側面に対して垂直方向の膜厚が5nm以上70nm以下であり、
前記メサ型化合物半導体積層部は基板の一方の主面上に配置され、
前記基板の一部と、前記第1導電型半導体層の前記メサ型化合物半導体積層部に含まれない領域の一部が側面となる凹部を有し、
前記凹部の側面及び底面が前記第1保護膜に覆われる、
赤外線検出素子。
【請求項2】
前記第1保護膜の膜厚は5nm以上50nm以下である、
請求項1に記載の赤外線検出素子。
【請求項3】
前記第1保護膜の膜厚は5nm以上40nm以下である、
請求項1又は2に記載の赤外線検出素子。
【請求項4】
前記受光層はInAsSb1-x(0.08≦x≦0.16)である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線検出素子。
【請求項5】
前記第1保護膜の上面に更に窒化シリコンからなる第2保護膜を備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の赤外線検出素子。
【請求項6】
前記メサ型化合物半導体積層部のメサ角度が50度以上80度以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の赤外線検出素子。
【請求項7】
前記メサ型化合物半導体積層部の側面に対して垂直方向の前記第1保護膜の膜厚tと、前記メサ型化合物半導体積層部の最上面に対して垂直方向の前記第1保護膜の膜厚tが、0.75<t/t≦1を満たす、
請求項1から6のいずれか一項に記載の赤外線検出素子。
【請求項8】
前記基板の他方の主面が光入射面である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の赤外線検出素子。
【請求項9】
前記凹部の深さよりも前記第1保護膜の膜厚が薄い、
請求項1から8のいずれか一項に記載の赤外線検出素子。
【請求項10】
少なくとも波長9.5μmの光を透過するバンドパスフィルタを更に備える、
請求項1から9のいずれか一項に記載の赤外線検出素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は波長9.5μmに感度を有する量子型の赤外線検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に波長が2μm以上の長波長帯の赤外線は、その熱的効果及びガスによる赤外線吸収の効果から、人体を検知する人感センサ、非接触温度センサ及びガスセンサ等に使用されている。例えばガスセンサは、大気環境の監視及び保護、更には火災の早期検知などにも使用可能であり、近年注目されている。特に波長2.5μmから波長10.0μmまでの領域は各種ガスに固有の吸収帯が数多く存在し、ガスセンサに用いるのに適した波長帯である。例えば、波長9.5μmにはアルコールの吸収帯が存在する。アルコール検出器で測定した呼気中のアルコール濃度と自動車のエンジンを連動させたアルコールインターロック装置は、飲酒運転による事故を未然に防ぐことのできるシステムとして普及が期待されている。
【0003】
赤外線を使用したガスセンサの原理は次のようなものである。例えば、赤外線の光源と赤外線検出素子の間の空間にガスが注入されると、特定のガスは特定の波長の赤外線を吸収するため、ガスの注入前と注入後の波長スペクトルを解析することでガスの種類及び濃度を測定することが出来る。ここで、赤外線検出素子としては、例えば焦電センサ、サーモパイルのような熱型の赤外線検出素子と、半導体受光素子を使用した量子型の赤外線検出素子がある。熱型の赤外線検出素子に比べて、量子型の赤外線検出素子は、応答が高速という利点がある。
【0004】
ここで、特許文献1によれば、光吸収層の材料としてInAsSbを用いた場合、その混晶組成を変えることで、赤外線検出のピーク波長を7.3μmから10μmまで制御可能である。例えば9.5μm帯に大きな感度をもつ量子型の赤外線検出素子は、アルコールセンサとして期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/027228号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、光吸収層の材料としてInAsSbを用いた、波長9.5μmに感度を有する量子型の赤外線検出素子は、更なるS/N特性向上が望まれている。
【0007】
上記に鑑みてなされた本開示の目的は、波長9.5μmにおけるS/N特性の高い量子型の赤外線検出素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る赤外線検出素子は、
波長9.5μmに感度を有する赤外線検出素子であって、
第1導電型半導体層の少なくとも一部と、受光層と、第2導電型半導体層と、がこの順で積層されたメサ型化合物半導体積層部と、
前記メサ型化合物半導体積層部の側面と直接接するように設けられた第1保護膜と、を備え、
前記受光層はInAsSb1-x(0.05≦x≦0.2)であり、
前記第1保護膜は、酸化シリコンであり、かつ、前記メサ型化合物半導体積層部の前記側面に対して垂直方向の膜厚が5nm以上70nm以下であり、
前記メサ型化合物半導体積層部は基板の一方の主面上に配置され、
前記基板の一部と、前記第1導電型半導体層の前記メサ型化合物半導体積層部に含まれない領域の一部が側面となる凹部を有し、
前記凹部の側面及び底面が前記第1保護膜に覆われる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、波長9.5μmにおけるS/N特性の高い量子型の赤外線検出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施形態に係る赤外線検出素子を表す断面図である。
図2図2は、第2の実施形態に係る赤外線検出素子を表す断面図である。
図3図3は、第3の実施形態に係る赤外線検出素子の構造を表す断面図である。
図4図4は、比較例1の赤外線検出素子の構造を表す断面図である。
図5図5は、比較例2の赤外線検出素子の構造を表す断面図である。
図6図6は、第1保護膜の膜厚tと波長9.5μmにおける赤外線検出素子の感度の関係を示すグラフである。
図7図7は、第1保護膜の膜厚tと波長9.5μmにおける赤外線検出素子のDの関係を示すグラフである。
図8図8は、受光層のAs組成xと波長9.5μmにおける赤外線検出素子の感度の関係を示すグラフである。
図9図9は、受光層のAs組成xと波長9.5μmにおける赤外線検出素子のDの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[赤外線検出素子]
本開示の一実施形態に係る赤外線検出素子は、波長9.5μmに感度を有する赤外線検出素子であって、第1導電型半導体層の少なくとも一部と、受光層と、第2導電型半導体層と、がこの順で積層されたメサ型化合物半導体積層部と、メサ型化合物半導体積層部の側面と直接接するように設けられた第1保護膜と、を備え、第1保護膜は酸化シリコンであり、かつ、膜厚が5nm以上70nm以下であることを満たすものである。
【0012】
ここで、波長9.5μmに感度を有する赤外線検出素子とはD(比検出感度)が5×10[cm・√Hz/W]以上の素子のことを言う。Dは1Wの光入力があったときに、検出素子の交流的なS/Nがどれだけあるかを示すもので、検出素子面積によらず材料の特性そのものを比較できるパラメータである。S/N特性が高い赤外線検出素子は、Dが高い赤外線検出素子と言い換えることができる。
【0013】
(赤外線検出素子のDの測定方法)
赤外線検出素子のDの測定は例えば以下のように行うことができる。測定において、点光源黒体炉、波長9.5μmを中心透過波長とするバンドパスフィルタ、受光感度が既知の校正されたサーモパイルが用いられる。点光源黒体炉の開口部から出射された赤外線がバンドパスフィルタを通過してサーモパイルに入射するように、バンドパスフィルタとサーモパイルを配置する。サーモパイルは点光源黒体炉の開口部から10cmの位置に配置される。このときのサーモパイルの出力値から、点光源黒体炉の開口部から10cm離れた位置での放射照度が算出される。次に、サーモパイルが測定対象の赤外線検出素子に置き換えられて、赤外線検出素子の出力電流値が測定される。また、赤外線検出素子の雑音電流と検出素子面積が測定される。
【0014】
は以下の式(1)から求められる。Sは赤外線検出素子の出力電流(信号)である。Nは雑音電流である。Pは入射エネルギー[W/cm]である。Aは検出素子面積[cm]である。また、Δfは雑音帯域幅[Hz]を表す。
【0015】
【数1】
【0016】
本実施形態において、点光源黒体炉の駆動条件は、温度を500℃、光チョッピング周波数を10Hz、アパーチャを22.2mmとし、1Hzの雑音帯域幅での室温におけるDが測定された。
【0017】
[化合物半導体積層部]
本実施形態の赤外線検出素子における化合物半導体積層部は、メサ構造を有している。化合物半導体積層部は、PN接合又はPIN接合によるフォトダイオード構造を含むものであれば特に制限されない。第1導電型半導体層と第2導電型半導体層は反対の導電型である。例えば第1導電型半導体層がp型であれば第2導電型半導体層はn型である。例えば第1導電型半導体層がn型であれば第2導電型半導体層はp型である。第1導電型半導体層及び第2導電型半導体層の材料としては、InSb、InAsSb、AlInSb等があるがこれらに制限されず、また、複数の材料による積層構造であってよい。
【0018】
受光層には波長9.5μmの赤外線を受光可能なバンドギャップを有するInAsSb1-x(0.05≦x≦0.2)を用いることが好ましい。より好ましくはInAsSb1-x(0.08≦x≦0.16)を用いるのが良い。
【0019】
化合物半導体積層部は、第1導電型半導体層と受光層の間に、第1導電型半導体層よりもバンドギャップの大きい第1ワイドバンドギャップ層を更に備えていてよい。また、化合物半導体積層部は、第2導電型半導体層と受光層の間に、第2導電型半導体層よりもバンドギャップの大きい第2ワイドバンドギャップ層を更に備えていてよい。ワイドバンドギャップ層は受光層からの拡散電流を防ぐ層として機能する。この場合、ワイドバンドギャップ層は受光層に対し、十分なバンドオフセットが取れればよく、バンドギャップが広い材料を選択することが好ましい。ワイドバンドギャップ層の材料は、特に限定されないが、AlInAsSb、AlInSbなどが一例として挙げられる。
【0020】
(受光層のAs組成の測定方法)
受光層のAs組成は、受光層の格子定数をスペクトリス株式会社製X線回折装置X´Pert MPDを用いて、X線回折(XRD:X-ray Diffaction)法による逆光子空間マッピングで求められる。具体的には2θをある値に固定して、ロッキングカーブ測定を行った後、2θを少しだけ変化させて、再びロッキングカーブ測定を行うことを繰り返す。得られた逆格子空間マッピング像の受光層のピーク位置から、受光層の基板面内方向の格子定数aと基板表面に対する法線方向の格子定数cが求められる。受光層の結晶のポアソン比νを用いると、無歪みのときの格子定数aと測定した格子定数a、c及びΔa=a-aの関係は以下の式(2)で表される。
【0021】
【数2】
【0022】
多くの半導体結晶の場合νは1/3に近いので、近似的にΔa=(c-a)/2とし、無歪みのときの受光層の格子定数aが決定される。
【0023】
そして、求めた受光層の格子定数aからベガード則を用いてAs組成xが決定される。ベガード則は具体的には以下の式(3)で表される。
【0024】
【数3】
【0025】
ここでaInAsはInAsの格子定数である。aInSbはInSbの格子定数である。aInAsSbは上記のX線回折により求まるInAsSb1-xの格子定数aである。aInAsは6.058Åが使用される。また、aInSbは6.4794Åが使用される。
【0026】
[保護膜]
本実施形態の赤外線検出素子における第1保護膜はメサ型化合物半導体積層部の側面と直接接するように設けられた酸化シリコンであり、メサ型化合物半導体積層部の側面に対して垂直方向の膜厚が5nm以上70nm以下である。膜厚はより好ましくは5nm以上50nm以下が良い。更により好ましくは5nm以上40nm以下が良い。
【0027】
第1保護膜の上面には更に窒化シリコンからなる第2保護膜を備えていてよい。窒化シリコンは耐湿性に優れていることが知られており、赤外線検出素子を保護するのに好適である。
【0028】
メサ型化合物半導体化積層部の側面とこの側面上に直接接するように設けられる第1保護膜との界面にはダングリングボンドが形成される。上記の界面は電流のリークパスとなり、赤外線検出素子の受光感度を低下させる要因となる。そのため、メサ型化合物半導体化積層部の側面と第1保護膜との接触面積を少なくする観点からメサ型化合物半導体積層部のメサ角度は50度以上が好ましい。
【0029】
また、受光層だけでなく、保護膜のような受光層以外の構成材料が赤外線を吸収し、赤外線検出素子の受光感度を低下させる。受光層として用いられるInAsSb1-x(0.05≦x≦0.2)の波長9.5μmにおける屈折率が約4で、第1保護膜として用いられる酸化シリコンの波長9.5μmにおける屈折率が約2.7であるため、受光層から第1保護膜へ入射する波長9.5μmの赤外線の全反射角は約42度となる。したがって、受光層からメサ型化合物半導体積層部の側面に接する第1保護膜へ赤外線が入射して吸収損失となることを避ける観点から、メサ型化合物半導体積層部のメサ角度は50度以上が好ましい。
【0030】
ここで、メサ角度が大きいと、第1保護膜の被覆性悪化などの問題が発生するため、メサ角度は80度以下が好ましい。
【0031】
ここで、メサ角度とはメサ型化合物半導体積層部の側面と化合物半導体の積層面とがなす角度を言う。メサ型化合物半導体積層部の側面は、2段階以上の角度を有してよい。2段階以上の角度を有する場合には、一番下の1段階目の側面と、積層面とがなす角度がメサ角度となる。
【0032】
詳細について後述するが、第1保護膜の膜厚変化に対する赤外線検出素子の波長9.5μmにおける感度変化が大きいため、均一な膜厚であることが望ましい。応力集中による第1保護膜の剥がれを避けるため、メサ型化合物半導体積層部の側面に対して垂直方向の第1保護膜の膜厚tと最上面に対して垂直方向の第1保護膜の膜厚tはなるべく近いほうが好ましい。
【0033】
具体的には、膜厚tと膜厚tとが、0.75<t/t≦1を満たすことが好ましい。例えば、後述する複数の赤外線検出素子を電気的に分離するためのエッチングを施した後に、PCVD等を用いることによって、赤外線検出素子の全面に第1保護膜(酸化シリコン)が成膜され得る。このとき一般的に、斜面上に成膜される膜は平面上に成膜される膜よりも薄くなる。
【0034】
従来、酸化シリコンのハードマスクを200~500nm形成したのちに、複数の赤外線検出素子を電気的に分離するためのエッチングが行われていた。この場合に、酸化シリコンのハードマスクもエッチングによって削られるが、残った酸化シリコンが第1保護膜として用いられた。一般的に斜面部分のエッチングの方が平面部分のエッチングより早く進むため、メサ型化合物半導体積層部の側面と最上面の酸化シリコン残膜の膜厚均一性を保つのは難しかった。例えば、従来方法で作製した後述の比較例2では、酸化シリコンの膜厚tが197nm、膜厚tが277nmであった。本実施形態に係る赤外線検出素子では、後述する手法によって、均一な膜厚の酸化シリコンを製膜する。
【0035】
(保護膜の膜厚の測定方法)
保護膜の膜厚は断面TEM(TEM:Transmission Electron Spectroscopy)法により測定することが可能である。具体的には、およそ500nm以下の厚みの試料作製を日立ハイテクノロジーズ社製FIB装置(FB-2100)を用いてFIB法により行い、日立製STEM装置(HD-2300A)を用いて加速電圧200kVにて透過像で断面観察を行い保護膜の膜厚を測定した。
【0036】
[基板]
本実施形態の赤外線検出素子は、メサ型化合物半導体積層部が基板の一方の主面上に配置され、基板の他方の主面が光入射面であることが好ましい。
【0037】
メサ型化合物半導体積層部の上面には電流を外部に取り出すための電極が設けられるが、電極が設けられない他方の主面を光入射面にすることにより、効率的に赤外線をメサ型化合物半導体積層部に入射することが可能になる。このとき、基板側から光を入射することになるため、受光層よりもバンドギャップが大きな材料を基板として用いる必要がある。一例としては、基板としてGaAs基板、Si基板、InP基板、InSb基板が挙げられるがこの限りではない。受光層よりもバンドギャップが大きく、かつ、化合物半導体の結晶成長が容易であることから、GaAs基板が好ましい。
【0038】
基板はドナー不純物又はアクセプター不純物によるドーピングの制限がない。ただし、基板上に形成された独立の複数の赤外線検出素子を直列又は並列に接続可能にする観点から、半絶縁性であること又は化合物半導体積層部とは絶縁分離可能であることが望ましい。
【0039】
基板上に形成した複数の赤外線検出素子を直列又は並列に接続するためには、各赤外線検出素子を電気的に分離する必要がある。電気的に分離するためには各赤外線検出素子の第1導電型半導体層が他の赤外線検出素子とつながらないように第1導電型半導体層(特に最下層部)をエッチング等により除去すればよい。除去する方法としては、例えばドライエッチング法を用いればよい。このときエッチングされてほしくない第1導電型半導体層の領域には、レジストを設けてマスクとして用いるか、酸化シリコン等を設けてハードマスクとして用いればよい。酸化シリコンをハードマスクとして用いた場合、エッチング後に残った酸化シリコンを第1保護膜として使用することが考えられる。しかしながら、プロセス上の面内ばらつき及び生産上での装置揺らぎを考慮すると、エッチング後の酸化シリコンの残膜を5nm以上70nm以下に制御することは難しい。そのため、マスクとして使用した物質はエッチング後に除去し、PCVD等を用いて全面に均一な酸化シリコンを成膜し、第1保護膜とする。そのため、本実施形態の赤外線検出素子は、基板の一部と、第1導電型半導体層のメサ型化合物半導体積層部に含まれない領域の一部が側面となる凹部を更に備え、凹部の側面及び底面が第1保護膜に覆われている。ここで、凹部の深さよりも第1保護膜の膜厚が薄くなっており、第1保護膜は凹部内に埋め込まれている。
【0040】
[バンドパスフィルタ]
本実施形態の赤外線検出素子は、少なくとも波長9.5μmの光を50%以上透過するバンドパスフィルタを更に備えていてよい。バンドパスフィルタを備えることで、赤外線検出素子の感度波長域を制限することができ、アルコールセンサとして利用するときに他の波長域に吸収帯をもつ干渉ガスの影響を受けづらくなる。
【0041】
[電極部]
本実施形態の赤外線検出素子は、更にメサ型化合物半導体積層部の第1導電型半導体層に電気的に接続される第1の電極と、メサ型化合物半導体積層部の第2導電型半導体層に電気的に接続される第2の電極を備える。電極の構成材料としては、化合物半導体積層部とのコンタクト抵抗が低いもの、電気抵抗が低いものであることが好ましい。具体的にはTi、Ni、Pt、Cr、Al、Cuなどがあげられる。また電極は複数の電極材料の積層体で構成されていてよい。
【0042】
以下、図面を参酌しながら、本実施形態の赤外線検出素子の構成例が説明される。
【0043】
図1は、第1の実施形態に係る赤外線検出素子の断面模式図である。赤外線検出素子1は、基板10と、第1導電型半導体層21と、受光層22と、第2導電型半導体層23と、を備える。第1導電型半導体層21の上部21aと、受光層22と、第2導電型半導体層23とがメサ型化合物半導体積層部20となる。メサ型化合物半導体積層部20のメサ角度はθである。また、第1の実施形態に係る赤外線検出素子は、メサ型化合物半導体積層部20の側面と直接接触するように第1保護膜31を更に備える。第1保護膜31はメサ型化合物半導体積層部20の最上面及び第1導電型半導体層21の下部21bの上面とも直接に接している。また基板10の一部と、第1導電型半導体層21の下部21bの側面とで囲まれる凹部40を有し、第1保護膜31はその表面とも直接接している。更に、第1の実施形態に係る赤外線検出素子1は、第1保護膜31の上面に第2保護膜32を更に備える。凹部40の側面及び底面を酸化シリコンの第1保護膜31で覆うことで、凹部からのリークの影響を抑えることができる。
【0044】
また、凹部40の深さ(図1のd)よりも第1保護膜31の膜厚(図1のt)が薄く、凹部において、第1保護膜31は凹部40内に埋め込まれており、第1保護膜31の上面が凹部40の上面(上端)よりも低くなっている。これにより、吸湿性が高い酸化シリコンの第1保護膜31においても、吸湿膨張した時に凹部40の第1保護膜31が設けられていない空間が緩衝領域としてはたらいて、第1保護膜31の膜剥がれを防止でき、絶縁性が良い状態が保たれる。
【0045】
さらに、凹部40の深さよりも第1保護膜31と第2保護膜32を足した膜厚が薄く、凹部において、第2保護膜32も凹部40内に埋め込まれており、第2保護膜32の上面は凹部40の上面(上端)よりも低くなっていてよい。
【0046】
図2は、第2の実施形態に係る赤外線検出素子の断面模式図である。図1の赤外線検出素子と比較して、メサ型化合物半導体積層部20の側面が傾斜角度の異なる側面を有している。この場合、上記のとおり一番下の1段階目の側面(第1化合物半導体層の上部21aの側面)と、積層面(第1化合物半導体層の下部21bの上面)とがなす角度θをメサ角度とする。
【0047】
図3は、第3の実施形態に係る赤外線検出素子の断面模式図である。図1の赤外線検出素子と比較して、メサ型化合物半導体積層部20が、第1ワイドバンドギャップ層24と、第2ワイドバンドギャップ層25を更に備えている。また、第1保護膜31及び第2保護膜32が部分的に除去されて、メサ型化合物半導体積層部20の頂部の一部及び第1化合物半導体層の下部21bの上面の一部においてコンタクトホールが形成されて、そこに接するように電極部50が設けられている。
【実施例0048】
[実施例1]
基板10としての半絶縁性GaAs基板上に、MBE装置を用いて、第1導電型半導体層21、第1ワイドバンドギャップ層24、受光層22、第2ワイドバンドギャップ層25、第2導電型半導体層23、が順次積層された。この積層工程では、
第1導電型半導体層21として、Snを7×1018[cm-3]ドーピングしたn型InSb層を1μmと、
第1ワイドバンドギャップ層24として、Snを7×1018[cm-3]ドーピングしたn型Al0.18In0.82Sb層を0.02μmと、
受光層22として、Znを3×1017[cm-3]ドーピングしたInAs0.14Sb0.86層を2.4μmと、
第2ワイドバンドギャップ層25として、Znを3×1018[cm-3]ドーピングしたp型Al0.18In0.82Sb層を0.02μmと、
第2導電型半導体層23として、Znを3×1018[cm-3]ドーピングしたp型InSb層を0.5μmと、が形成された。
【0049】
次いで、化合物半導体積層部上にレジストパターンが形成され、エッチングを施すことで、メサ型化合物半導体積層部が作製された。更に各赤外線検出素子が電気的に独立になるように、再びレジストパターンが形成されて、素子分離のためのエッチングを行うことで、凹部40が形成された。レジストパターンの除去後、全面(GaAs基板及びGaAs基板上に形成されたメサ型化合物半導体積層部)にPCVDを用いて第1保護膜として5nmの酸化シリコン層が形成された。次いで、この酸化シリコン層上にPCVDを用いて第2保護膜として200nmの窒化シリコン層が形成された。この2層の保護膜の一部にコンタクトホールが形成され、コンタクトホールを覆うようにチタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部が形成されて、643個の直列接続された赤外線検出素子が得られた。得られた赤外線検出素子は、図3に示した断面模式図のような構造となる。第1保護膜の酸化シリコン層の側面に対して垂直方向の第1保護膜の膜厚tは4nmであった。また、第1保護膜の酸化シリコン層の最上面に対して垂直方向の第1保護膜の膜厚tは5nmであった。
【0050】
[実施例2]
第1保護膜である酸化シリコン層の膜厚tを14nm、膜厚tを17nmとした以外は、実施例1と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0051】
[実施例3]
第1保護膜である酸化シリコン層の膜厚tを21nm、膜厚tを24nmとした以外は、実施例1と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0052】
[実施例4]
第1保護膜である酸化シリコン層の膜厚tを40nm、膜厚tを47nmとした以外は、実施例1と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0053】
[実施例5]
第1保護膜である酸化シリコン層の膜厚tを51nm、膜厚tを60nmとした以外は、実施例1と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0054】
[実施例6]
第1保護膜である酸化シリコン層の膜厚tを68nm、膜厚tを80nmとした以外は、実施例1と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0055】
[比較例1]
半絶縁性GaAs基板上に、MBE装置を用いて、第1導電型半導体層、第1ワイドバンドギャップ層、受光層、第2ワイドバンドギャップ層、第2導電型半導体層、が順次積層された。この積層工程では、
Snを7×1018[cm-3]ドーピングしたn型InSb層を1μmと、
Snを7×1018[cm-3]ドーピングしたn型Al0.18In0.82Sb層を0.02μmと、
Znを3×1017[cm-3]ドーピングしたInAs0.14Sb0.86層(受光層)を2.4μmと、
Znを3×1018[cm-3]ドーピングしたp型Al0.18In0.82Sb層を0.02μmと、
Znを3×1018[cm-3]ドーピングしたp型InSb層を0.5μmと、が形成された。
【0056】
次いで、化合物半導体積層部上にレジストパターンが形成され、エッチングを施すことで、メサ型化合物半導体積層部が作製された。更に各赤外線検出素子が電気的に独立になるように、再びレジストパターンが形成され、素子分離のためのエッチングが行われた。レジストパターンの除去後、全面(GaAs基板及びGaAs基板上に形成されたメサ型化合物半導体積層部)にPCVDを用いて保護膜として窒化シリコン(Silicon Nitride)層が200nmの厚さで形成された。この窒化シリコン層の一部にコンタクトホールが形成され、コンタクトホールを覆うようにチタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部が形成されて、643個の直列接続された赤外線検出素子が得られた。得られた赤外線検出素子は、図4に示した断面模式図のような構造となる。
【0057】
[比較例2]
半絶縁性GaAs基板上に、MBE装置を用いて、第1導電型半導体層、第1ワイドバンドギャップ層、受光層、第2ワイドバンドギャップ層、第2導電型半導体層、が順次積層された。この積層工程では、
Snを7×1018[cm-3]ドーピングしたn型InSb層を1μmと、
Snを7×1018[cm-3]ドーピングしたn型Al0.18In0.82Sb層を0.02μmと、
Znを3×1017[cm-3]ドーピングしたInAs0.14Sb0.86層(受光層)を2.4μmと、
Znを3×1018[cm-3]ドーピングしたp型Al0.18In0.82Sb層を0.02μmと、
Znを3×1018[cm-3]ドーピングしたp型InSb層を0.5μmと、が形成された。
【0058】
次いで、化合物半導体積層部上にレジストパターンが形成され、エッチングを施すことで、メサ型化合物半導体積層部が作製された。更に各赤外線検出素子が電気的に独立になるように、酸化シリコン(Silicon Oxide)のハードマスクが350nmの厚さで形成されて、素子分離のためのエッチングが行われた。その後、全面(GaAs基板及びメサ型化合物半導体積層部上に形成されている酸化シリコン層)にPCVDを用いて窒化シリコン(Silicon Nitride)層が200nmの厚さで形成された。この2層の保護膜の一部にコンタクトホールが形成され、コンタクトホールを覆うようにチタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部が形成されて、643個の直列接続された赤外線検出素子が得られた。得られた赤外線検出素子は、図5に示した断面模式図のような構造となる。赤外線検出素子作製後の酸化シリコン層の膜厚tは197nmであった。また、膜厚tは277nmであった。
【0059】
<評価(1)>
実施例1~6及び比較例1、2で得られた赤外線検出素子の波長9.5μmにおける感度とDが測定された。感度はFT-IR装置にて測定した。具体的には、光源にIR光源を用いて、IV変換アンプ及びロックインアンプを用いて信号増幅及びノイズ除去を行った上で、赤外線検出素子からの出力が測定された。Dは上記の測定方法で測定された。
【0060】
実施例1~6及び比較例1、2の測定結果に基づいて、図6及び図7に示される関係が得られた。図6は、第1保護膜の膜厚tと波長9.5μmの感度の関係を示す。図7は、第1保護膜の膜厚tと波長9.5μmのDの関係を示す。
【0061】
図7に示すように、第1保護膜(酸化シリコン層)の膜厚tが5nm以上70nm以下であれば、波長9.5μmにおいてDの高い、すなわちS/N特性の高い、赤外線検出素子が実現できる。膜厚tは5nm以上50nm以下がより好ましい。膜厚tは5nm以上40nm以下が更に好ましい。
【0062】
[実施例7]
基板10としての半絶縁性GaAs基板上に、MBE装置を用いて、第1導電型半導体層21、第1ワイドバンドギャップ層24、受光層22、第2ワイドバンドギャップ層25、第2導電型半導体層23、が順次積層された。この積層工程では、
第1導電型半導体層21として、Snを7×1018[cm-3]ドーピングしたn型InSb層を1μmと、
第1ワイドバンドギャップ層24として、Snを7×1018[cm-3]ドーピングしたn型Al0.18In0.82Sb層を0.02μmと、
受光層22として、Znを3×1017[cm-3]ドーピングしたInAs0.06Sb0.94層を2μmと、
第2ワイドバンドギャップ層25として、Znを3×1018[cm-3]ドーピングしたp型Al0.18In0.82Sb層を0.02μmと、
第2導電型半導体層23として、Znを3×1018[cm-3]ドーピングしたp型InSb層を0.5μmと、が形成された。
【0063】
次いで、化合物半導体積層部上にレジストパターンが形成され、エッチングを施すことで、メサ型化合物半導体積層部が作製された。更に各赤外線検出素子が電気的に独立になるように、再びレジストパターンが形成されて、素子分離のためのエッチングが行われた。レジストパターンの除去後、全面(GaAs基板及びGaAs基板上に形成されたメサ型化合物半導体積層部)にPCVDを用いて17nmの酸化シリコン層が形成された。次いで、この酸化シリコン層上にPCVDを用いて200nmの窒化シリコン層が形成された。この2層の保護膜の一部にコンタクトホールが形成され、コンタクトホールを覆うようにチタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部が形成されて、486個の直列接続された赤外線検出素子が得られた。
【0064】
[実施例8]
受光層をInAs0.094Sb0.906とした以外は、実施例7と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0065】
[実施例9]
受光層をInAs0.133Sb0.867とした以外は、実施例7と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0066】
[実施例10]
受光層をInAs0.188Sb0.812とした以外は、実施例7と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0067】
[参考例1]
受光層をInSbとした以外は、実施例7と同様の方法で赤外線検出素子が得られた。
【0068】
<評価(2)>
実施例7~10及び参考例1の赤外線検出素子について、評価(1)と同様の方法で、波長9.5μmにおける感度とDが測定された。実施例7~10及び参考例1の測定結果に基づいて、図8及び図9に示される関係が得られた。図8は、受光層のAs組成xと波長9.5μmの感度の関係を示す。図9は、受光層のAs組成xと波長9.5μmのDの関係を示す。
【0069】
図9に示すように、受光層はInAsSb1-x(0.05≦x≦0.2)のときに、異なるAs組成の受光層を用いる赤外線検出素子と比べて、波長9.5μmにおいてDの高い、すなわちS/N特性の高い、赤外線検出素子が実現できる。受光層はInAsSb1-x(0.08≦x≦0.16)がより好ましい。
【符号の説明】
【0070】
1 赤外線検出素子
10 基板
20 メサ型化合物半導体積層部
21 第1導電型半導体層
22 受光層
23 第2導電型半導体層
24 第1ワイドバンドギャップ層
25 第2ワイドバンドギャップ層
31 第1保護膜
32 第2保護膜
40 凹部
50 電極部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9