(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092308
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20220615BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20220615BHJP
G06Q 10/04 20120101ALI20220615BHJP
【FI】
G06F17/50 604A
G06F17/50 604D
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205057
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100153040
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】花岡 恭平
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
5L049
【Fターム(参考)】
5B046GA01
5B046JA01
5B046KA05
5B146DC01
5B146DC03
5B146DL08
5L049AA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】製品等の設計プロセスにおいて目的変数を構成する製品等の特性及び設計変数の最適化を低負荷で可能とする設計支援装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】設計支援装置10は、設計パラメータ群と特性項目の観測値とからなる実績データを取得するデータ取得部11と、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布等として予測する予測モデルを構築するモデル構築部12と、各予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出され全ての特性項目の目標値が達成される全体達成確率を含む目標達成確率項を含み、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目の特性の向上に関する指標値を出力とする単一の目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部13と、目標指向獲得関数の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得部14と、設計パラメータ群候補を出力する出力部15と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、前記複数の設計パラメータを求める設計支援装置であって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部と、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築部と、
前記設計パラメータ群を入力とし全ての前記特性項目に示される特性の向上に関する前記設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部であって、前記目標指向獲得関数は、全ての特性項目の前記目標値が達成される確率であって前記予測モデルに基づいて前記設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を含む目標達成確率項を少なくとも含む、獲得関数構築部と、
前記目標指向獲得関数の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得部と、
前記設計パラメータ群取得部により取得された前記設計パラメータ群を出力する出力部と、
を備える設計支援装置。
【請求項2】
前記設計パラメータ群取得部は、前記目標指向獲得関数の出力を最適化する少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記設計パラメータ群取得部は、複数の前記設計パラメータ群を所定のアルゴリズムにより取得する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記全体達成確率は、各特性項目の前記目標値に対する達成確率の総乗であり、
各特性項目の前記目標値に対する達成確率は、前記設計パラメータ群を各特性項目の前記予測モデルに入力することにより得られる前記観測値の確率分布に基づく、
請求項1~3のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記目標達成確率項は、前記全体達成確率または前記全体達成確率の対数からなる、
請求項4に記載の設計支援装置。
【請求項6】
前記獲得関数構築部は、前記設計パラメータ群を入力とし前記特性項目に示される特性の向上に関する前記設計パラメータ群の指標値を出力とする獲得関数を前記特性項目ごとに構築し、
前記目標指向獲得関数は、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項をさらに含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項7】
前記目標指向獲得関数は、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項と前記目標達成確率項との和を含む、
請求項6に記載の設計支援装置。
【請求項8】
前記目標指向獲得関数は、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項と前記目標達成確率項との積を含む、
請求項6に記載の設計支援装置。
【請求項9】
前記獲得関数構築部は、LCB(Lower Confidence Bound)、EI(Expected Improvement)及びPI(Probability of Improvement)のうちのいずれかにより、各特性項目の前記獲得関数を構築する、
請求項6~8のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項10】
前記獲得関数構築部は、前記設計パラメータ群に応じて発生する、前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品の作製に係る時間及び費用のうちの少なくともいずれかを含むコストに関するコスト値を含み、該コスト値が大きいほど、前記設計パラメータ群の好適の程度が減ぜられたことを示す前記指標値を出力する前記獲得関数を構築する、
請求項6~9のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項11】
前記予測モデルは、前記設計パラメータ群を入力とし、前記観測値の確率分布を出力とする回帰モデルまたは分類モデルであり、
前記モデル構築部は、前記実績データを用いた機械学習により、前記予測モデルを構築する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項12】
前記予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルである、
請求項11に記載の設計支援装置。
【請求項13】
複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、前記複数の設計パラメータを求める設計支援装置における設計支援方法であって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得ステップと、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築ステップと、
前記設計パラメータ群を入力とし全ての前記特性項目に示される特性の向上に関する前記設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部であって、前記目標指向獲得関数は、全ての特性項目の前記目標値が達成される確率であって前記予測モデルに基づいて前記設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を含む目標達成確率項を少なくとも含む、獲得関数構築ステップと、
前記目標指向獲得関数の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得ステップと、
前記設計パラメータ群取得ステップにおいて取得された前記設計パラメータ群を出力する出力ステップと、
を有する設計支援方法。
【請求項14】
コンピュータを、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、前記複数の設計パラメータを求める設計支援装置として機能させるための設計支援プログラムであって、
前記コンピュータに、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得機能と、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築機能と、
前記設計パラメータ群を入力とし全ての前記特性項目に示される特性の向上に関する前記設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部であって、前記目標指向獲得関数は、全ての特性項目の前記目標値が達成される確率であって前記予測モデルに基づいて前記設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を含む目標達成確率項を少なくとも含む、獲得関数構築機能と、
前記目標指向獲得関数の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得機能と、
前記設計パラメータ群取得機能により取得された前記設計パラメータ群を出力する出力機能と、
を実現させる設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習を活用した製品設計が研究されている。製品設計の一分野として、例えば、機能性材料の設計においては、例えば、実験及び作製済みの材料に関する原材料配合比と特性とのペアからなる学習データとを用いた機械学習により材料の特性を推定するモデルを構築し、未実験の原材料配合比に対する特性の予測が行われている。このような特性の予測により実験計画を立てることにより、効率的に材料の特性及び原材料配合比等のパラメータを最適化することが可能となり、開発効率の向上が図られている。また、このような最適化の手法として、ベイズ最適化が有効であることが知られており、ベイズ最適化を用いて設計値を出力する設計装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、材料等の製品開発においては、複数の目的変数(特性)が与えられた状況で、設計変数に応じて変化する複数の特性を向上させるために、複数の目的変数の最適化が行われる。これを多目的最適化という。目的変数間にトレードオフがある場合において、最適解(パレート解)は複数存在し、一つに定まらない。例えば、各目的変数に対して目標値が設定される場合に、最適なパレート解を得るために、多くのパレート解を求めて、設計目標に近いパレート解を選択するというアプローチを取ることが考えられる。しかしながら、このようなアプローチでは、多くの目的関数の評価が必要であり、その処理負荷が膨大となり現実的ではない。このような問題は、材料設計に限られず、製品設計全般に共通のものである。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製プロセスにおいて目的変数を構成する製品の特性及び設計変数の最適化を、より少ない実験回数により低負荷で可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る設計支援装置は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータを求める設計支援装置であって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部と、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築部と、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部であって、目標指向獲得関数は、全ての特性項目の目標値が達成される確率であって予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を含む目標達成確率項を少なくとも含む、獲得関数構築部と、目標指向獲得関数の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得部と、設計パラメータ群取得部により取得された設計パラメータ群を出力する出力部と、を備える。
【0007】
本開示の一側面に係る設計支援方法は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータを求める設計支援装置における設計支援方法であって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得ステップと、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築ステップと、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部であって、目標指向獲得関数は、全ての特性項目の目標値が達成される確率であって予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を含む目標達成確率項を少なくとも含む、獲得関数構築ステップと、目標指向獲得関数の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得ステップと、設計パラメータ群取得ステップにおいて取得された設計パラメータ群を出力する出力ステップと、を有する。
【0008】
本開示の一側面に係る設計支援プログラムは、コンピュータを、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータを求める設計支援装置として機能させるための設計支援プログラムであって、コンピュータに、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得機能と、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築機能と、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部であって、目標指向獲得関数は、全ての特性項目の目標値が達成される確率であって予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を含む目標達成確率項を少なくとも含む、獲得関数構築機能と、目標指向獲得関数の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得機能と、設計パラメータ群取得機能により取得された設計パラメータ群を出力する出力機能と、を実現させる。
【0009】
このような側面によれば、実績データに基づいて特性項目の観測値を予測する予測モデルが構築される。この予測モデルは、観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するので、与えられた設計パラメータ群に応じて、特性項目の目標値に対する達成確率を算出できる。また、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目の目標値の充足に関する指標値を出力とする目標指向獲得関数が構築される。この目標指向獲得関数は、全ての特性項目の目標値の達成に関する全体達成確率を含む目標達成確率項を含むので、目標指向獲得関数から出力される指標値には、全体達成確率が反映される。従って、目標指向獲得関数から出力される指標値を目的変数とする最適化により、特性項目に関する目標達成可能な設計パラメータ群を得ることができる。
【0010】
他の側面に係る設計支援装置では、設計パラメータ群取得部は、目標指向獲得関数の出力を最適化する少なくとも一つの設計パラメータ群を取得することとしてもよい。
【0011】
このような側面によれば、特性項目に関する目標達成に近付くことが可能な設計パラメータ群を得ることができる。
【0012】
他の側面に係る設計支援装置では、設計パラメータ群取得部は、複数の設計パラメータ群を所定のアルゴリズムにより取得することとしてもよい。
【0013】
このような側面によれば、次の実験に供される複数の設計パラメータ群を容易に得ることができる。
【0014】
他の側面に係る設計支援装置では、全体達成確率は、各特性項目の目標値に対する達成確率の総乗であり、各特性項目の目標値に対する達成確率は、設計パラメータ群を各特性項目の予測モデルに入力することにより得られる観測値の確率分布に基づくこととしてもよい。
【0015】
このような側面によれば、観測値の確率分布を出力するように予測モデルが構成されるので、設計パラメータ群に応じた各特性項目の目標値の達成確率を得ることができる。そして、各特性項目の目標値の達成確率の総乗により算出される全体達成確率が、目標指向獲得関数の目標達成確率項に含まれるので、目標指向獲得関数からの指標値に全体達成確率が適切に反映される。
【0016】
他の側面に係る設計支援装置では、目標達成確率項は、全体達成確率または全体達成確率の対数からなることとしてもよい。
【0017】
このような側面によれば、目標達成確率項が、全体達成確率または全体達成確率の対数からなるので、目標指向獲得関数からの指標値に全体達成確率が適切に反映される。
【0018】
他の側面に係る設計支援装置では、獲得関数構築部は、設計パラメータ群を入力とし特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする獲得関数を特性項目ごとに構築し、目標指向獲得関数は、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項をさらに含むこととしてもよい。
【0019】
このような側面によれば、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項が目標指向獲得関数に含まれるので、設計パラメータ群に応じた特性項目ごとの特性の向上が、目標指向獲得関数からの指標値に適切に反映される。
【0020】
他の側面に係る設計支援装置では、目標指向獲得関数は、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項と目標達成確率項との和を含むこととしてもよい。
【0021】
このような側面によれば、設計パラメータ群に応じた、特性項目ごとの特性の向上の程度及び全ての特性項目の目標値の達成に関する全体達成確率の大きさが、目標指向獲得関数からの指標値に適切に反映される。
【0022】
他の側面に係る設計支援装置では、目標指向獲得関数は、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項と目標達成確率項との積を含むこととしてもよい。
【0023】
このような側面によれば、設計パラメータ群に応じた、特性項目ごとの特性の向上の程度及び全ての特性項目の目標値の達成に関する全体達成確率の大きさが、目標指向獲得関数からの指標値に適切に反映される。
【0024】
他の側面に係る設計支援装置では、獲得関数構築部は、LCB(Lower Confidence Bound)、EI(Expected Improvement)及びPI(Probability of Improvement)のうちのいずれかにより、各特性項目の獲得関数を構築することとしてもよい。
【0025】
このような側面によれば、各特性項目に示される特性の向上の評価に好適な獲得関数が構築される。
【0026】
他の側面に係る設計支援装置では、獲得関数構築部は、設計パラメータ群に応じて発生する、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製に係る時間及び費用のうちの少なくともいずれかを含むコストに関するコスト値を含み、該コスト値が大きいほど、設計パラメータ群の好適の程度が減ぜられたことを示す指標値を出力する獲得関数を構築することとしてもよい。
【0027】
このような側面によれば、設計パラメータ群の取得に際して、製品の作製に係るコストが考慮される。従って、製品の作製及び実験等に関するコストの低減が可能となる。
【0028】
他の側面に係る設計支援装置では、予測モデルは、設計パラメータ群を入力とし、観測値の確率分布を出力とする回帰モデルまたは分類モデルであり、モデル構築部は、実績データを用いた機械学習により、予測モデルを構築することとしてもよい。
【0029】
このような側面によれば、予測モデルが所定の回帰モデルまたは分類モデルとして構築されるので、特性項目の観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標の取得が可能な予測モデル得られる。
【0030】
他の側面に係る設計支援装置では、予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルであることとしてもよい。
【0031】
このような側面によれば、設計パラメータ群に基づく特性項目の観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標としての予測が可能な予測モデルが構築される。
【発明の効果】
【0032】
本開示の一側面によれば、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製プロセスにおいて目的変数を構成する製品等の特性及び設計変数の最適化を、より少ない実験回数により低負荷で可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施形態に係る設計支援装置が適用される材料設計のプロセスの概要を示す図である。
【
図2】実施形態に係る設計支援装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る設計支援装置のハードブロック図である。
【
図4】作製済みの材料に関する設計パラメータ群の例を示す図である。
【
図5】作製済みの材料に関する観測値の例を示す図である。
【
図6】材料設計における特性項目及び設計パラメータの最適化のプロセスを示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る設計支援装置における設計支援方法の内容の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0035】
図1は、実施形態に係る設計支援装置が適用される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計のプロセスの一例である材料設計のプロセスの概要を示す図である。なお、以下において、「製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品」を「製品等」と記載する。本実施形態の設計支援装置10は、当該製品等の特性を示す複数の特性項目及び各特性項目の目標値を有するあらゆる製品等の設計のプロセスに適用できる。設計支援装置10は、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより製品等の設計パラメータ及び目的変数の最適化を図る手法に適用されることができる。具体的には、設計支援装置10は、材料の開発・設計の他に、例えば、自動車及び薬品等の製品の設計、薬品の分子構造の最適化等に適用できる。本実施形態では、上述のとおり、製品等の設計の一例としての材料設計の例により、設計支援装置10による設計支援処理を説明する。
【0036】
図1に示されるように、設計支援装置10による設計支援処理は、プラント及び実験室A等における材料の作製及び実験に適用される。即ち、設定された設計パラメータ群xにより、プラント及び実験室A等において材料が作製され、作製された材料に基づいて、材料の特性を示す複数の特性項目の観測値yが取得される。なお、プラント及び実験室Aにおける材料作製及び実験は、シミュレーションであってもよい。この場合には、設計支援装置10は、次のシミュレーションの実行のための設計パラメータ群xを提供する。
【0037】
設計支援装置10は、設計パラメータ群x及び設計パラメータ群xに基づいて作製された材料の複数の特性項目の観測値yからなる実績データに基づいて、複数の特性項目及び設計パラメータの最適化を行う。具体的には、設計支援装置10は、作製済みの材料に関する設計パラメータ群x及び観測値yに基づいて、次の作製及び実験のための、より好適な特性を得られる可能性がある設計パラメータ群xを出力する。
【0038】
例えば、本実施形態の設計支援装置10は、材料製品の設計において、複数の設計変数をチューニングして、複数の目標特性を達成するという目的のために適用される。材料製品の設計の一例として、ある材料を複数のポリマー及び添加剤を混ぜて作製する場合において、設計支援装置10は、各ポリマー及び添加剤の配合量等の設計パラメータ群を設計変数とし、特性項目である弾性率、熱膨張率の観測値を目的変数として、複数の特性項目の目標値を達成するような設計パラメータ群のチューニングに用いられる。
【0039】
図2は、実施形態に係る設計支援装置の機能構成の一例を示すブロック図である。設計支援装置10は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される材料の設計において、材料の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータを求める装置である。
図2に示すように、設計支援装置10は、プロセッサ101に構成された機能部、設計パラメータ記憶部21及び観測値記憶部22を含み得る。各機能部については後述する。
【0040】
図3は、実施形態に係る設計支援装置10を構成するコンピュータ100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、コンピュータ100は、設計支援装置10を構成しうる。
【0041】
一例として、コンピュータ100はハードウェア構成要素として、プロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、および通信制御装置104を備える。設計支援装置10を構成するコンピュータ100は、入力デバイスであるキーボード、タッチパネル、マウス等の入力装置105及びディスプレイ等の出力装置106をさらに含むこととしてもよい。
【0042】
プロセッサ101は、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する演算装置である。プロセッサの例としてCPU(Central Processing Unit)およびGPU(Graphics Processing Unit)が挙げられるが、プロセッサ101の種類はこれらに限定されない。例えば、プロセッサ101はセンサおよび専用回路の組合せでもよい。専用回路はFPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラム可能な回路でもよいし、他の種類の回路でもよい。
【0043】
主記憶装置102は、設計支援装置10等を実現するためのプログラム、プロセッサ101から出力された演算結果などを記憶する装置である。主記憶装置102は例えばROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)のうちの少なくとも一つにより構成される。
【0044】
補助記憶装置103は、一般に主記憶装置102よりも大量のデータを記憶することが可能な装置である。補助記憶装置103は例えばハードディスク、フラッシュメモリなどの不揮発性記憶媒体によって構成される。補助記憶装置103は、コンピュータ100を設計支援装置10等として機能させるための設計支援プログラムP1と各種のデータとを記憶する。
【0045】
通信制御装置104は、通信ネットワークを介して他のコンピュータとの間でデータ通信を実行する装置である。通信制御装置104は例えばネットワークカードまたは無線通信モジュールにより構成される。
【0046】
設計支援装置10の各機能要素は、プロセッサ101または主記憶装置102の上に、対応するプログラムP1を読み込ませてプロセッサ101にそのプログラムを実行させることで実現される。プログラムP1は、対応するサーバの各機能要素を実現するためのコードを含む。プロセッサ101はプログラムP1に従って通信制御装置104を動作させ、主記憶装置102または補助記憶装置103におけるデータの読み出しおよび書き込みを実行する。このような処理により、対応するサーバの各機能要素が実現される。
【0047】
プログラムP1は、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、これらのプログラムの少なくとも一つは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0048】
再び
図2を参照して、設計支援装置10は、データ取得部11、モデル構築部12、獲得関数構築部13、設計パラメータ群取得部14及び出力部15を備える。設計パラメータ記憶部21及び観測値記憶部22は、
図2に示されるように、設計支援装置10に構成されてもよいし、設計支援装置10からアクセス可能な他の装置として構成されてもよい。
【0049】
データ取得部11は、作製済みの材料に関しての実績データを複数取得する。実績データは、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とのペアからなる。設計パラメータ記憶部21は、実績データにおける設計パラメータ群を記憶している記憶手段であって、例えば主記憶装置102及び補助記憶装置103等に構成されてもよい。観測値記憶部22は、実績データにおける観測値を記憶している記憶手段である。
【0050】
図4は、設計パラメータ記憶部21に記憶されている設計パラメータ群の例を示す図である。
図4に示されるように、設計パラメータ記憶部21は、1回目(t=1)から(T-1)回目(t=T-1)の材料作製における設計パラメータ群x
tを記憶している。設計パラメータ群xは、一例として、原材料Aの配合量、原材料Bの配合量及び設計パラメータdを含んでもよく、設計パラメータの数に応じた次元数のベクトルデータを構成しうる。設計パラメータは、例示したものの他、例えば、分子構造及び画像等の非ベクトルデータ等であってもよい。また、複数の分子の種類から最適な分子を選ぶ問題を扱う場合には、設計パラメータは、複数の分子のうちの選択肢を示すデータであってもよい。
【0051】
図5は、観測値記憶部22に記憶されている観測値yの例を示す図である。
図5に示されるように、観測値記憶部22は、1回目(t=1)から(T-1)回目(t=T-1)の材料作製において作製された材料の特性を示す複数の特性項目(m=1~M)の観測値y
m,tを記憶している。特性項目mは、一例として、ガラス転移温度、接着力及び特性項目Mを含んでもよい。また、各特性項目には、目標値y
m(target)が設定されている。設計パラメータ群x
tと観測値y
m,tとのペアが実績データを構成する。
【0052】
設計支援装置10は、1回目(t=1)から(T-1)回目(t=T-1)の材料作製における実績データに基づいて、各特性項目の観測値がそれぞれの目標値ym(target)を超えるような若しくは各特性項目の観測値がそれぞれの目標値ym(target)により近付くような、T回目の設計パラメータ群xTを求める。
【0053】
モデル構築部12は、実績データに基づいて予測モデルを構築する。予測モデルは、設計パラメータ群xに基づいて、特性項目mの観測値ymを確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するモデルである。予測モデルを構成するモデルは、観測値ymを確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測可能なモデルであればよく、その種類は限定されない。観測値ymを確率分布の代替指標として予測する予測モデルは、例えば、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布(ランダムフォレスト)、モンテカルロドロップアウトにより得られる分布(ニューラルネットワーク)、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布(任意の機械学習手法)等を代替指標として、観測値の確率分布を予測する。
【0054】
例えば、予測モデルは、設計パラメータxを入力とし、観測値ymの確率分布を出力とする回帰モデルであってもよい。予測モデルが回帰モデルである場合には、予測モデルは、例えば、ガウス過程回帰、ランダムフォレスト及びニューラルネットワークといった回帰モデルのうちのいずれか一つにより構成されてもよい。モデル構築部12は、実績データを用いた周知の機械学習の手法により、予測モデルを構築してもよい。モデル構築部12は、実績データを予測モデルに適用して当該予測モデルのパラメータを更新する機械学習の手法により、予測モデルを構築してもよい。
【0055】
また、予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルであってもよい。観測値の確率分布、又はその代替指標の予測は、モデル固有の手法によって得ることができる。観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標は、ガウス過程回帰及びベイジアンニューラルネットワークであれば予測値の事後分布に基づいて、ランダムフォレストであれば、アンサンブルを構成する予測器の予測の分布に基づいて、線形回帰であれば予測区間及び信頼区間に基づいて、及び、ニューラルネットワークであればモンテカルロドロップアウトに基づいて得ることができる。但し、各機械学習モデルに対する観測値の分布またはその代替指標の算出方法は上記手法に限定されない。
【0056】
また、任意のモデルを、観測値の確率分布またはその代替指標を予測できるモデルに拡張することもできる。例えば、ブートストラップ法等で複数個のデータセットを構築し、それぞれに対して予測モデルを構築することで得られる、各モデルの予測値の分布を、観測値の確率分布の代替指標として用いるモデルが例として挙げることができる。但し、機械学習モデルを観測値の確率分布またはその代替指標を予測できるモデルに拡張する方法は上記手法に限定されない。
【0057】
また、予測モデルは、線形回帰、PLS回帰、ガウス過程回帰、ランダムフォレストなどのバギングアンサンブル学習、勾配ブースティングなどのブースティングアンサンブル学習、サポートベクターマシーン、及びニューラルネットワーク等により構築されてもよい。
【0058】
ガウス過程回帰として構築される予測モデルでは、教師データの説明変数を構成する実績データにおける設計パラメータ群x及び目的変数を構成する観測値y並びに予測対象の設計パラメータxをモデルに入力することにより、観測値の確率分布が予測される。
【0059】
また、モデル構築部12は、予測モデルのハイパーパラメータを周知のハイパーパラメータチューニングの手法により、チューニングしてもよい。即ち、モデル構築部12は、実績データにおける説明変数である設計パラメータ群xを表すベクトルと、目的変数である観測値yを用いた最尤推定により、ガウス過程回帰により構築される予測モデルのハイパーパラメータを更新してもよい。
【0060】
また、予測モデルは、分類モデルにより構築されてもよい。予測モデルが分類モデルである場合には、モデル構築部12は、実績データを用いた周知の確率分布の評価が可能な機械学習の手法により予測モデルを構築できる。
【0061】
このように、モデル構築部12が所定の回帰モデルまたは分類モデルにより予測モデルを構築することにより、任意の設計パラメータ群xに基づいて、特性項目の観測値の確率分布の取得が可能となる。
【0062】
また、予測モデルは、一の特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するシングルタスクモデル、または、複数の特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するマルチタスクモデルであってもよい。このように、特性項目の性質に応じて適宜に構成されたマルチタスクモデルまたはシングルタスクモデルにより予測モデルを構築することにより、予測モデルによる観測値の予測の精度を向上できる。
【0063】
獲得関数構築部13は、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する。目標指向獲得関数は、少なくとも目標達成確率項を含む。目標達成確率項は、予測モデルに基づいて前記設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を含む。全体達成確率は、全ての特性項目の目標値が達成される確率である。
【0064】
具体的には、獲得関数構築部13は、以下の式(1)に示すような目標指向獲得関数A’(x)を構築する。
A’(x)=g(P(x)) ・・・(1)
式(1)において、g(P(x))は、目標達成確率項である。即ち、目標指向獲得関数A’(x)は、少なくとも目標達成確率項g(P(x))を含む。
【0065】
目標達成確率項は、全体達成確率P(x)を含む。例えば、全体達成確率P(x)は、各特性項目の目標達成事象が互いに独立であるとすると、以下の式(2)にように定義されてもよい。
P(x)=Π1<=m<=MPm(x) ・・・(2)
即ち、全体達成確率P(x)は、各特性項目m(m=1~M)の達成確率Pm(x)の総乗である。予測モデルが、設計パラメータ群xに基づいて特性項目の観測値の確率分布を予測できるので、各特性項目の達成確率Pm(x)は、各特性項目の予測モデルを用いた設計パラメータ群xを入力変数とする関数として表現できる。また、全体達成確率P(x)は、各特性項目の達成確率の算出を経ないで、全ての特性項目の予測モデルに基づいた設計パラメータ群xを入力変数とする関数として表現されてもよい。
【0066】
目標達成確率項g(P(x))は、全体達成確率P(x)を含んで構成される。例えば、目標達成確率項g(P(x))は、式(3)に示されるように全体達成確率P(x)からなることとしてもよいし、式(4)に示されるように、全体達成確率P(x)の対数からなることとしてもよい。
g(P(x))=P(x) ・・・(3)
g(P(x))=log(P(x)) ・・・(4)
また、目標達成確率項は、全体達成確率P(x)または全体達成確率P(x)の対数にさらに係数が乗じられた項であってもよいし、さらに他の要素が加算されるための項を含んでもよい。
【0067】
このように本実施形態の一例では、観測値の確率分布を出力するように予測モデルが構成されるので、設計パラメータ群に応じた各特性項目mの目標値の達成確率Pm(x)を得ることができる。そして、各特性項目mの目標値の達成確率Pm(x)の総乗により算出される全体達成確率が、目標指向獲得関数の目標達成確率項に含まれるので、目標指向獲得関数からの指標値に全体達成確率が適切に反映される。
【0068】
獲得関数構築部13は、目標達成確率項に加えて、各特性項目mの獲得関数Am(x)の重み付け和の項をさらに含む目標指向獲得関数を構築してもよい。獲得関数Am(x)の重み付け和の項は、例えば、以下の式(5)のように示される。
ΣwmAm(x) ・・・(5)
式(5)において、wmは、各特性項目mに対する重みであって、予め任意に設定されてもよい。また、Am(x)及びP(x)が、最大化が好適な関数と、最小化が好適な関数との2タイプを含む場合には、2タイプのうちの一方に-1を乗じて、Am(x)及びP(x)が最大化好適関数又は最小化好適関数に統一されてもよい。
【0069】
獲得関数構築部13は、式(6)のように、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項と前記目標達成確率項との和を含む目標指向獲得関数A’(x)を構築してもよい。
A’(x)=ΣwmAm(x)+g(P(x)) ・・・(6)
【0070】
また、獲得関数構築部13は、式(6)のように、各特性項目の獲得関数の重み付け和の項と前記目標達成確率項との積を含む目標指向獲得関数A’(x)を構築してもよい。
A’(x)=ΣwmAm(x)×g(P(x)) ・・・(7)
【0071】
獲得関数構築部13は、式(6)及び式(7)に例示されるような目標指向獲得関数A’(x)の構築のために、設計パラメータ群を入力変数とし特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする獲得関数を特性項目mごとに構築してもよい。具体的には、獲得関数構築部13は、予測モデルに基づいて、特性項目mごとの獲得関数Am(x)を構築する。獲得関数Am(x)は、設計パラメータ群xを入力変数とし、各特性項目mに示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする関数である。獲得関数は、予測モデルにより予測される特性項目の観測値を向上させるために、説明変数としての設計パラメータ群の解としての好適の程度(最適解に近いこと、又は、最適解の探索に好適であることを含む)を示す指標値を出力する関数である。
【0072】
獲得関数構築部13は、例えば、LCB(Lower Confidence Bound)といった周知の関数により獲得関数を構築してもよい。
【0073】
LCBは、関数の出力を最小化する場合に用いられ、LCBの値を最小化することで好適な設計パラメータが得られる。獲得関数をLCBにより構築する場合、獲得関数構築部13は、以下の式(9)のように獲得関数Am(x)を定義及び構築する。
Am(x)=m(x)-aσ(x) ・・・(9)
上記獲得関数の式は、予測モデルにより予測される観測値が正規分布に従うと仮定した場合の信頼区間下限を表す式であって、上記式におけるm(x)は予測の平均、σ(x)は予測の分散、aは任意のパラメータである。
【0074】
予測モデルがガウス回帰過程として構築される場合には、ガウス過程回帰のモデルの事後分布の理論式に、教師データの説明変数を構成する実績データにおける設計パラメータ群x及び目的変数を構成する観測値y並びに予測対象の設計パラメータ群xを入力することにより、m(x)及びσ(x)が求められる。
【0075】
また、獲得関数構築部13は、EI(Expected Improvement)及びPI(Probability of Improvement)といった周知の関数により獲得関数Am(x)を構成してもよい。
【0076】
なお、獲得関数構築部13は、設計パラメータ群xによる材料の作製及び実験にかかるコスト(時間及び費用等)を定義したコスト関数cost(x)を含めた獲得関数を特性項目ごとに構築してもよい。獲得関数構築部13は、コスト関数により算出されるコスト値が大きいほど、設計パラメータ群xの好適の程度が減ぜられたことを示す指標値を出力する獲得関数を構築する。
【0077】
具体的には、出力が最大化されることが好適な獲得関数を構築する場合には、獲得関数構築部13は、コスト関数により算出されるコスト値が大きいほど、小さい指標値を出力するような獲得関数を構築する。獲得関数構築部13は、以下の式(10)のような獲得関数Am(x)’を構築してもよい。
Am(x)’=Am(x)-cost(x) ・・・(10)
また、出力が最小化されることが好適な獲得関数を構築する場合には、獲得関数構築部13は、コスト関数により算出されるコスト値が大きいほど、大きい指標値を出力するような獲得関数を構築する。獲得関数構築部13は、以下の式(11)のような獲得関数Am(x)’を構築してもよい。
Am(x)’=Am(x)+cost(x) ・・・(11)
なお、コスト関数を含む獲得関数は、上記の例に限られず、コスト関数またはコスト値を指標値に乗じたり、指標値を除したりする項を含んでもよい。
【0078】
このような、コストが考慮された獲得関数を含む目標指向獲得関数の最適化を図ることにより、材料の作製及び実験において、材料の作製に係るコストが考慮されることとなるので、材料の作製及び実験等に関するコストの低減が可能となる。
【0079】
設計パラメータ群取得部14は、目標指向獲得関数の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する。具体的には、一例として、設計パラメータ群取得部14は、目標指向獲得関数の出力を最適化する少なくとも一つの設計パラメータ群を取得してもよい。具体的には、設計パラメータ群取得部14は、獲得関数構築部13により構築された目標指向獲得関数A’(x)から出力される指標値を目的変数とする最適化を実施し、最適解として設計パラメータ群xを取得する。
【0080】
また、一例として、設計パラメータ群取得部14は、複数の設計パラメータ群を所定のアルゴリズムにより取得してもよい。具体的には、設計パラメータ群取得部14は、目標指向獲得関数に対して、バッチベイズ最適化の手法を適用することにより、複数の設計パラメータ群を取得してもよい。バッチベイズ最適化の手法は、例えば、Local Penalization等の手法であってもよいが、その手法は限定されない。
【0081】
出力部15は、設計パラメータ群取得部14により取得された設計パラメータ群を出力する。即ち、出力部15は、1回目(t=1)から(T-1)回目(t=T-1)の材料作製における実績データに基づいて得られた設計パラメータ群を、T回目の材料の作製のための設計パラメータ群xTとして出力する。
【0082】
また、設計パラメータ群取得部14により複数の設計パラメータ群が取得される場合には、出力部15は、(T-1)回目の次回以降のN回分の材料作製のための設計パラメータ群として、取得された設計パラメータ群を出力する。複数回分の材料作製のための設計パラメータ群は、同時の実験及び材料作製に供されてもよい。
【0083】
出力の態様は限定されないが、出力部15は、例えば、所定の表示装置に表示させたり所定の記憶手段に記憶させたりすることにより、設計パラメータ群候補を出力する。
【0084】
図6は、材料設計における特性項目及び設計パラメータ群の最適化のプロセスを示すフローチャートである。
【0085】
ステップS1において、設計パラメータ群が取得される。ここで取得される設計パラメータ群は、初期の材料作製(実験)のためのものであって、任意に設定された設計パラメータ群であってもよいし、既に行われた実験等に基づいて設定された設計パラメータ群であってもよい。
【0086】
ステップS2において、材料作製が行われる。ステップS3において、作製された材料の特性項目の観測値が取得される。ステップS2における作製条件としての設計パラメータ群とステップS3において取得された各特性項目の観測値とのペアは、実績データを構成する。
【0087】
ステップS4において、所定の終了条件が充足されたか否かが判定される。所定の終了条件は、設計パラメータ群及び特性項目の観測値の最適化のための条件であって任意に設定されてもよい。最適化のための終了条件は、例えば、作製(実験)及び観測値の取得の所定回数への到達、観測値の目標値への到達及び最適化の収束等であってもよい。所定の終了条件が充足されたと判定された場合には、最適化のプロセスが終了される。所定の終了条件が充足されたと判定されなかった場合には、プロセスは、ステップS5に進む。
【0088】
ステップS5において、設計支援装置10による設計支援処理が行われる。設計支援処理は、次の材料作製のための設計パラメータ群を出力する処理である。そして、プロセスは、再びステップS1に戻る。
【0089】
なお、ステップS1~S5により構成される処理サイクルの1サイクル目において、設計パラメータ群及び特性項目の観測値のペアが初期データとして複数得られる場合には、ステップS1~S4の処理は省略される。初期データが得られない場合には、ステップS1において、例えば実験計画法及びランダムサーチ等の任意の方法で得られた設計パラメータ群が取得される。処理サイクルの2サイクル目以降では、ステップS1において、ステップS5において出力された設計パラメータ群が取得される。
【0090】
図7は、実施形態に係る設計支援装置10における設計支援方法の内容の一例を示すフローチャートであって、
図6におけるステップS5の処理を示す。設計支援方法は、プロセッサ101に設計支援プログラムP1が読み込まれて、そのプログラムが実行されることにより、各機能部11~15が実現されることにより実行される。
【0091】
ステップS11において、データ取得部11は、作製済みの材料に関しての実績データを複数取得する。実績データは、設計パラメータ群と特性項目のそれぞれの観測値とのペアからなる。
【0092】
ステップS12において、モデル構築部12は、実績データに基づいて、予測モデルを構築する。
【0093】
ステップS13において、獲得関数構築部13は、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする目標指向獲得関数を構築する。目標指向獲得関数は、少なくとも目標達成確率項を含む。
【0094】
ステップS14において、設計パラメータ群取得部14は、目標指向獲得関数の出力を単目的最適化することにより、設計パラメータ群を取得する。具体的には、設計パラメータ群取得部14は、獲得関数構築部13により構築された目標指向獲得関数A’(x)から出力される指標値を目的変数とする最適化を実施し、最適解として設計パラメータ群xを取得する。
【0095】
ステップS15において、出力部15は、ステップS14において選択された設計パラメータ群候補を、次の材料作製(ステップS1)のための設計パラメータ群として出力する。
【0096】
次に、コンピュータを、本実施形態の設計支援装置10として機能させるための設計支援プログラムについて説明する。
図8は、設計支援プログラムの構成を示す図である。
【0097】
設計支援プログラムP1は、設計支援装置10における設計支援処理を統括的に制御するメインモジュールm10、データ取得モジュールm11、モデル構築モジュールm12、獲得関数構築モジュールm13、設計パラメータ群取得モジュールm14及び出力モジュールm15を備えて構成される。そして、各モジュールm11~m15により、データ取得部11、モデル構築部12、獲得関数構築部13、設計パラメータ群取得部14及び出力部15のための各機能が実現される。
【0098】
なお、設計支援プログラムP1は、通信回線等の伝送媒体を介して伝送される態様であってもよいし、
図8に示されるように、記録媒体M1に記憶される態様であってもよい。
【0099】
以上説明した本実施形態の設計支援装置10、設計支援方法及び設計支援プログラムP1によれば、実績データに基づいて特性項目の観測値を予測する予測モデルが構築される。この予測モデルは、観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するので、与えられた設計パラメータ群に応じて、特性項目の目標値に対する達成確率を算出できる。また、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目の目標値の充足に関する指標値を出力とする目標指向獲得関数が構築される。この目標指向獲得関数は、全ての特性項目の目標値の達成に関する全体達成確率を含む目標達成確率項を含むので、目標指向獲得関数から出力される指標値には、全体達成確率が反映される。従って、目標指向獲得関数から出力される指標値を目的変数とする最適化により、特性項目に関する目標達成可能な設計パラメータ群を得ることができる。
【0100】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0101】
10…設計支援装置、11…データ取得部、12…モデル構築部、13…獲得関数構築部、14…設計パラメータ群取得部、15…出力部、21…設計パラメータ記憶部、22…観測値記憶部、100…コンピュータ、101…プロセッサ、102…主記憶装置、103…補助記憶装置、104…通信制御装置、105…入力装置、106…出力装置、M1…記録媒体、m10…メインモジュール、m11…データ取得モジュール、m12…モデル構築モジュール、m13…獲得関数構築モジュール、m14…設計パラメータ群取得モジュール、m15…出力モジュール、P1…設計支援プログラム。