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特開2022-92436溶射材、溶射皮膜、溶射皮膜の形成方法、プラズマエッチング装置用部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092436
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】溶射材、溶射皮膜、溶射皮膜の形成方法、プラズマエッチング装置用部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/04 20060101AFI20220615BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
C23C4/04
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205254
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】塩尻 泰広
(72)【発明者】
【氏名】水津 竜夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 研良
(72)【発明者】
【氏名】水野 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】益田 敬也
【テーマコード(参考)】
4K031
5F004
【Fターム(参考)】
4K031AA08
4K031AB02
4K031AB07
4K031CB50
4K031DA04
5F004AA13
5F004BB29
(57)【要約】
【課題】耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護し、デバイスの安定生産や部材の長寿命化に寄与することのできる溶射皮膜を提供する。
【解決手段】本発明の一態様である溶射材は、希土類フッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で含み、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で含み、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含む複合化物からなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類フッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で含み、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で含み、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含む複合化物からなる溶射材。
【請求項2】
前記希土類フッ化物はフッ化イットリウムである請求項1に記載の溶射材。
【請求項3】
前記複合化物は、一次粒子の平均粒子径が10μm以下である、フッ化イットリウム、フッ化マグネシウム、およびフッ化カルシウムの造粒粉であり、当該造粒粉の平均粒子径は5μm以上40μm以下である請求項2に記載の溶射材。
【請求項4】
前記複合化物は、前記造粒粉を焼結して得られた造粒焼結粉である請求項3に記載の溶射材。
【請求項5】
希土類フッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で含み、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で含み、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含み、結晶相と非晶質相を含み、結晶化度が1%以上75%以下である溶射皮膜。
【請求項6】
前記希土類フッ化物はフッ化イットリウムである請求項5に記載の溶射皮膜。
【請求項7】
気孔率が2.0面積%以下である請求項5又は6に記載の溶射皮膜。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の溶射材を用いて、請求項5~7のいずれか一項に記載の溶射皮膜を形成する溶射皮膜の形成方法。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか一項に記載の溶射皮膜によって表面が被覆されたプラズマエッチング装置用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射材、溶射皮膜、溶射皮膜の形成方法、およびプラズマエッチング装置用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造分野においては、一般に、真空チャンバーの内部で、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン系ガスのプラズマを用いたドライエッチングにより、半導体基板の表面に微細加工を施すことが行われている。また、ドライエッチング後には、半導体基板を取り出した後のチャンバーの内部を、酸素ガスプラズマを用いてクリーニングすることが行われている。これに伴い、チャンバー内の反応性プラズマに晒される部材に腐食減肉(エロージョン)が生じ、腐食が生じた部分が粒子状に脱落してパーティクルとなるおそれがある。このパーティクルが半導体基板に付着すると、回路に欠陥をもたらす可能性がある。
【0003】
そこで、従来より、パーティクルの発生を低減させることを目的として、チャンバー内の反応性プラズマに晒される部材に耐プラズマエロージョン性の高い溶射皮膜を設けることで、その部材をプラズマエロージョンから保護することが行われている。
例えば、特許文献1には、耐プラズマエロージョン性の高い溶射皮膜として、CaF2、MgF2、YF3、AlF3、CeF3から選択される少なくとも一種を主体とし、気孔率が2%以下である緻密質の弗化物セラミックスで構成された層を設けることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、プラズマエロージョンを受けたときにサイズの大きなパーティクルを発生しにくい皮膜を形成するために、希土類元素と周期表の第2族元素とを含む溶射用粉末を反応性プラズマに曝される部材に溶射して、酸化物皮膜を形成することが記載されている。
特許文献3には、耐プラズマエロージョン性が向上された溶射皮膜を形成し得る溶射材として、複数のフッ化イットリウム微粒子が一体化されてなる複合粒子を含み、Lab色空間における明度Lは91以下である溶射材が記載されている。
【0005】
特許文献4には、耐プラズマ性が高く、剥がれ難く、耐酸性に優れ、表面抵抗値が高い溶射皮膜を基材の表面に有する皮膜付き基材として、以下の構成(1)~(4)を満たすものが記載されている。(1)皮膜の厚さが10~1000μmである。(2)皮膜は、希土類元素(Ln)のフッ化物および酸化物を主成分として含む。(3)皮膜の表面において、希土類元素(Ln)の酸化物を主成分とし、単斜晶構造を備え、直径が10nm~1μmの粒子状部分[α1]と、希土類元素(Ln)のフッ化物を主成分とし、斜方晶構造を備え、直径が10nm~1μmの粒子状部分[β1]とが、希土類元素(Ln)のフッ化物を主成分とするアモルファスのマトリックス中に分散して存在している。(4)皮膜の表面について光学顕微鏡を用いて200倍で観察すると、最大直径が50~1000μmである白色のシミ状部分が確認され、このシミ状部分が観察視野内に占める面積率が0.01~2%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-219574号公報
【特許文献2】特許第6261980号公報
【特許文献3】WO2018/052129号パンフレット
【特許文献4】特開2017-172021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~4に記載された溶射皮膜には、耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護するという点で改善の余地がある。
本発明の課題は、耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護し、デバイスの安定生産や部材の長寿命化に寄与することのできる溶射皮膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様は、希土類フッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で含み、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で含み、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含む複合化物からなる溶射材を提供する。
本発明の第二態様は、希土類フッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で含み、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で含み、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含み、結晶相と非晶質相を含み、結晶化度が1%以上75%以下である溶射皮膜を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第一態様の溶射材によれば、耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護し、デバイスの安定生産や部材の長寿命化に寄与することのできる溶射皮膜を形成することが可能になる。
本発明の第二態様の溶射皮膜は、耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護し、デバイスの安定生産や部材の長寿命化に寄与することのできる溶射皮膜となることが期待できる。
本発明の第一態様の溶射材を用いた溶射皮膜の形成方法によれば、耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護し、デバイスの安定生産や部材の長寿命化に寄与することのできる溶射皮膜を形成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、この発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定はこの発明の必須要件ではない。
この実施形態の溶射材は、希土類元素のフッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含む複合化物からなる。フッ化マグネシウムの割合は20mol%以上40mol%以下であることが好ましい。
【0011】
希土類元素のフッ化物はフッ化イットリウムであることが好ましい。
この複合化物は、平均粒子径が10μm以下である、フッ化イットリウム一次粒子、フッ化マグネシウム一次粒子、およびフッ化カルシウム一次粒子の造粒粉であり、この造粒粉の平均粒子径は5μm以上40μm以下であることが好ましい。
この複合化物は、造粒粉を焼結して得られた造粒焼結粉であることが好ましい。
この実施形態の溶射材を一般的な条件で溶射することで形成された溶射皮膜は、希土類元素のフッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含み、結晶質相と非晶質相を含み、結晶化度は1%以上75%以下である溶射皮膜となる。溶射皮膜の結晶化度はX線回折で得られる回折パターンに基づいて算出することができる。
【0012】
希土類元素のフッ化物はフッ化イットリウムであることが好ましい。
溶射皮膜の気孔率は2.0面積%以下であることが好ましい。
この実施形態の溶射皮膜の形成方法は、希土類元素のフッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含む複合化物を用いて、希土類元素のフッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で、フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含み、結晶質相と非晶質相を含む溶射皮膜を形成する方法である。
【0013】
この方法で用いる複合化物は、希土類元素のフッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で、フッ化マグネシウムを20mol%以上40mol%以下の割合で、フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含むことが好ましい。
この方法で用いる複合化物を構成する希土類元素のフッ化物はフッ化イットリウムであることが好ましい。
この実施形態の溶射皮膜の形成方法によれば、気孔率が2.0面積%以下である溶射皮膜を形成することができる。
【0014】
この実施形態の溶射皮膜の形成方法によれば、結晶化度が1%以上75%以下である溶射皮膜を形成することができる。
この実施形態のプラズマエッチング装置用部品は、上述の溶射皮膜によって表面が被覆されたプラズマエッチング装置用部品である。
この実施形態の溶射材によれば、耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護し、デバイスの安定生産や部材の長寿命化に寄与することのできる溶射皮膜を形成することが可能になる。
【0015】
この実施形態の溶射皮膜は、耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護し、デバイスの安定生産や部材の長寿命化に寄与することのできる溶射皮膜となることが期待できる。
この実施形態の溶射皮膜の形成方法によれば、耐プラズマエロージョン性に優れ、長期にわたりプラズマエッチング装置の部材をプラズマエロージョンから保護し、デバイスの安定生産や部材の長寿命化に寄与することのできる溶射皮膜を形成することが可能になる。
【0016】
[溶射材の製造方法について]
本発明の第一態様の溶射材を構成する複合化物は、希土類元素のフッ化物および第2族元素のフッ化物を少なくとも含む材料で形成されている。この複合化物は、希土類元素のフッ化物からなる一次粒子および第2族元素のフッ化物からなる一次粒子を、例えば球状に造粒することで製造することができる。また、この造粒粉をさらに、一次粒子の組成を維持したまま焼結することで製造することもできる。
【0017】
造粒の手法としては特に制限されず、公知の各種の造粒法を採用することができる。例えば、具体的には、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、スプレードライ法等の手法の1つ以上を採用することができる。好ましくはスプレードライ法である。造粒粉の焼成には、一般的なバッチ式焼成炉や、連続式焼成炉等を特に限定されることなく利用することができる。
一般的な造粒粉においては、一次粒子である微細粒子が、例えばバインダを介して単に一体的に集合(バインダによる結合)した状態である。このような造粒粉における微細粒子の間隙には、比較的大きな気孔が介在する。このように、一般的な造粒粉においては、比較的大きな気孔が擬最粒子間に存在することで「造粒」の意義を有している。
【0018】
これに対し、造粒粉を焼結させると、バインダが消失して、微細粒子は表面エネルギーを低下すべく直接結合する。これにより、上記のとおり一体的に結合された複合粒子が実現される。なお、焼結が進行すると、結合部分(界面)の面積が次第に増加し、結合強度がより一層高められる。また、焼結粒子における物質移動により、微細粒子はより安定な球形へと丸みを帯びる。これと同時に、造粒粉の内部に 存在する気孔が排出されて、緻密化が生じる。
【0019】
焼結のための焼成条件は、十分に焼結が進行した状態において、一次粒子の組成が変化しなければ特に制限されない。焼成条件は、例えば、非酸化性雰囲気中で、600℃以上融点未満(例えば1200℃未満)で加熱することをおおよその目安とすることができる。
焼成雰囲気は、組成が変化されないように、例えば、不活性雰囲気、真空雰囲気とすることができる。この場合の不活性雰囲気とは、酸素非含有雰囲気であり、アルゴン(Ar),ネオン(Ne),ヘリウム(He)等の希ガス雰囲気、窒素(N2)等の非酸化性雰囲気等とすることができる。なお、バッチ式焼成炉を用いる場合、例えば、炉内の雰囲気を非酸化性雰囲気とすればよい。また、連続式焼成炉を用いる場合は、例えば、焼成炉内のうちでも加熱が行われる領域(焼結が進行する領域)に非酸化性気流を導入して焼結を実施すればよい。
【0020】
[基材について]
本発明の第二態様の溶射皮膜によって表面が被覆されたプラズマエッチング装置用部品(表面に皮膜を備える皮膜付き基材)において、溶射皮膜が形成される基材については特に限定されない。例えば、溶射材の溶射に供して所望の耐性を備え得る材料からなる基材であれば、その材質や形状等は特に制限されない。基材を構成する材料としては、例えば、各種の金属,半金属およびそれらの合金を含む金属材料や、各種の無機材料等が挙げられる。
【0021】
具体的には、金属材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄鋼、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、金、銀、ビスマス、マンガン、亜鉛、亜鉛合金等の金属材料;シリコン(Si),ゲルマニウム(Ge)等のIV族半導体、セレン化亜鉛(ZnSe),硫化カドミウム(CdS),酸化亜鉛(ZnO)等のII-VI族化合物半導体、ガリウムヒ素(GaAs),リン化インジウム(InP),窒化ガリウム(GaN)等のIII-V族化合物半導体、炭化ケイ素(SiC)、シリコンゲルマニウム(SiGe)等のIV族化合物半導体、銅・インジウム・セレン(CuInSe)などカルコパイライト系半導体等の半金属材料;などが例示される。無機材料としては、フッ化カルシ ウム(CaF),石英(SiO)の基板材料,アルミナ(Al),ジルコニア(ZrO)等の酸化物セラミックス、窒化ケイ素(Si),窒化ホウ素(BN),窒化チタン(TiN)等の窒化物セラミックス、炭化ケイ素(SiC),タングステンカーバイド(WC)等の炭化物系セラミックス等が例示される。
【0022】
これらの材料は、いずれか1種が基材を構成していてもよく、2種以上が複合化されて基材を構成していてもよい。なかでも、汎用されている金属材料のうち比較的熱膨張係数の大きい、各種SUS材(いわゆるステンレス鋼であり得る。)等に代表される鉄鋼、インコネル等に代表される耐熱合金、インバー,コバール等に代表される低膨張合金、ハステロイ等に代表される耐食合金、軽量構造材等として有用な1000シリーズ~7000シリーズアルミニウム合金等に代表されるアルミニウム合金等からなる基材が好適例として挙げられる。
かかる基材は、例えば、半導体デバイス製造装置を構成する部材であって、反応性の高い酸素ガスプラズマやハロゲンガスプラズマに晒される部材であってよい。なお、例えば、上述の炭化ケイ素(SiC)等は、用途などの便宜上、化合物半導体や無機材料等として異なるカテゴ リーに分類され得るが、同一の材料であり得る。
【0023】
[溶射皮膜の形成方法について]
第二態様の溶射皮膜は、第一態様の溶射材を公知の溶射方法に基づく溶射装置に供することで形成することができる。つまり、粉体状の溶射材を、燃焼または電気エネルギー等の熱源により軟化または溶融した状態で吹き付けることで、かかる材料からなる溶射皮膜を形成する。この溶射材を溶射する溶射方法は特に制限されない。例えば、好適には、プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、フレーム溶射法、爆発溶射法等の溶射方法を採用することが例示される。
【0024】
溶射皮膜の特性は、溶射方法およびその溶射条件にある程度依存することがあり得る。しかしながら、いずれの溶射方法および溶射条件を採用した場合であっても、ここに開示される溶射材を用いることで、その他の溶射材料を用いた場合と比較して、耐プラズマエロージョン性が向上された溶射皮膜を形成することが可能となる。
プラズマ溶射法とは、溶射材を軟化または溶融するための溶射熱源としてプラズマ炎を利用する溶射方法である。電極間にアークを発生させ、かかるアークにより作動ガスをプラズマ化すると、かかるプラズマ流はノズルから高温高速のプラズマジェットとなって噴出する。プラズマ溶射法は、このプラズマジェットに溶射材料を投入し、加熱、加速 して基材に堆積させることで溶射皮膜を得るコーティング手法一般を包含する。
【0025】
なお、プラズマ溶射法は、大気中で行う大気プラズマ溶射(APS:atmospheric plasma spraying)や、大気圧よりも低い気圧で溶射を行う減圧プラズマ溶射(LPS:low pressure plasma spraying)、大気圧より高い加圧容器内でプラズマ溶射を行う加圧プラズマ溶射(high pressure plasma spraying)等の態様であり得る。かかるプラズマ溶射によると、例えば、一例として、溶射材料を5000℃~10000℃程度のプラズマジェットにより溶融および加速させることで、溶射材料を300m/s~600m/s程度の速度にて基材へ衝突させて堆積させることができる。
【実施例0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
[溶射材の作製]
<No.1>
先ず、平均一次粒子径が3.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体と、平均一次粒子径が4.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、YF3が50mol%、CaF2が20mol%、MgF2が30mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、1.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、Ar雰囲気、800℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が50mol%、CaF2が20mol%、MgF2が30mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は30μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.1の溶射材とした。
【0027】
<No.2>
先ず、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が4.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、YF3が64mol%、MgF2が36mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、1.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、真空雰囲気、780℃の条件で、約180分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が64mol%、MgF2が36mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は25μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.2の溶射材とした。
【0028】
<No.3>
先ず、平均一次粒子径が0.5μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体と、平均一次粒子径が5.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、YF3が50mol%、CaF2が25mol%、MgF2が25mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、1.5質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、N2雰囲気、850℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が50mol%、CaF2が25mol%、MgF2が25mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は30μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.3の溶射材とした。
【0029】
<No.4>
先ず、平均一次粒子径が2.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が4.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体と、平均一次粒子径が3.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、YF3が64mol%、CaF2が12mol%、MgF2が24mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、1.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、Ar雰囲気、860℃の条件で、約150分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が64mol%、CaF2が12mol%、MgF2が24mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は34μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.4の溶射材とした。
【0030】
<No.5>
先ず、平均一次粒子径が3.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体と、平均一次粒子径が8.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、YF3が50mol%、CaF2が20mol%、MgF2が30mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、1.5質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、真空雰囲気、830℃の条件で、約180分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が50mol%、CaF2が20mol%、MgF2が30mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は22μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.5の溶射材とした。
【0031】
<No.6>
No.1でスプレードライ法にて造粒を行って得られた造粒粉を焼結せずに、そのままNo.6の溶射材とした。篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は32μmであった。
【0032】
<No.7>
No.2でスプレードライ法にて造粒を行って得られた造粒粉を、マルチ雰囲気炉に導入し、Ar雰囲気、850℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が64mol%、MgF2が36mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は46μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.7の溶射材とした。
【0033】
<No.8>
No.2でスプレードライ法にて造粒を行って得られた造粒粉を、マルチ雰囲気炉に導入し、Ar雰囲気、870℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が64mol%、MgF2が36mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は52μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.8の溶射材とした。
【0034】
<No.9>
No.2でスプレードライ法にて造粒を行って得られた造粒粉を、マルチ雰囲気炉に導入し、真空雰囲気、850℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が64mol%、MgF2が36mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は10μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.9の溶射材とした。
【0035】
<No.10>
No.2でスプレードライ法にて造粒を行って得られた造粒粉を、マルチ雰囲気炉に導入し、真空雰囲気、860℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が64mol%、MgF2が36mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は8μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.10の溶射材とした。
【0036】
<No.11>
先ず、平均一次粒子径が3.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が0.8μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体と、平均一次粒子径が4.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、YF3が30mol%、CaF2が20mol%、MgF2が50mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、2.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、N2雰囲気、800℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が30mol%、CaF2が20mol%、MgF2が50mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は25μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.11の溶射材とした。
【0037】
<No.12>
先ず、平均一次粒子径が3.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が2.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体を、YF3が30mol%、CaF2が70mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、1.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、Ar雰囲気、750℃の条件で、約180分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が30mol%、CaF2が70mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は48μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.12の溶射材とした。
【0038】
<No.13>
先ず、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体を、YF3が71mol%、CaF2が29mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、2.5質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、真空雰囲気、900℃の条件で、約30分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が71mol%、CaF2が29mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は26μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.13の溶射材とした。
【0039】
<No.14>
先ず、平均一次粒子径が2.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が2.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体を、YF3が80mol%、CaF2が20mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、1.5質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、Ar雰囲気、800℃の条件で、約60分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が80mol%、CaF2が20mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は49μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.14の溶射材とした。
【0040】
<No.15>
先ず、平均一次粒子径が5.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体を、YF3が91mol%、CaF2が9mol%となる比率で、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、全粉体100質量部に対し、1.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、N2雰囲気、700℃の条件で、約240分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成は、YF3が91mol%、CaF2が9mol%で変化せず、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は25μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.15の溶射材とした。
【0041】
<No.16>
先ず、平均一次粒子径が5.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体を、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、粉体100質量部に対し、1.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、真空雰囲気、1050℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成はYF3が100mol%で、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は25μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.16の溶射材とした。
【0042】
<No.17>
先ず、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体を、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、粉体100質量部に対し、1.5質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、真空雰囲気、1200℃の条件で、約120分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成はCaF2が100mol%で、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は25μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.17の溶射材とした。
【0043】
<No.18>
先ず、平均一次粒子径が4.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、粉体100質量部に対し、2.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉をマルチ雰囲気炉に導入し、Ar雰囲気、1050℃の条件で、約60分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成はMgF3が100mol%で、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は25μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.18の溶射材とした。
【0044】
<No.19>
先ず、平均一次粒子径が0.5μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均一次粒子径が1.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体と、平均一次粒子径が5.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、YF3が50mol%、CaF2が25mol%、MgF2が25mol%となる比率で混合して、混合物を得た。
次に、得られた混合物を、マルチ雰囲気炉に導入し、Ar雰囲気、1150℃の条件で、約120分間の焼成の条件で溶融した後、溶融した塊をロールジョークラッシャーやグラインダーで粉砕し、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径が30μmの粉体を得た。得られた粉体の組成は、YF3が50mol%、CaF2が25mol%、MgF2が25mol%で変化しなかった。このようにして得られた粉体をNo.19の溶射材とした。
【0045】
<No.20>
先ず、平均粒子径が30.0μmのフッ化イットリウム(YF3)粉体と、平均粒子径が30.0μmのフッ化カルシウム(CaF2)粉体と、平均粒子径が30.0μmのフッ化マグネシウム(MgF2)粉体を、YF3が50mol%、CaF2が25mol%、MgF2が25mol%となる比率で混合して、平均粒子径が30.0μmの混合粉体を得た。このようにして得られた混合粉体をNo.20の溶射材とした。
【0046】
<No.21>
先ず、平均一次粒子径が3.0μmの酸化イットリウム(Y23)粉体を、樹脂バインダとともに分散媒に分散させて、原料分散液を得た。樹脂バインダは、粉体100質量部に対し、1.0質量部の割合とした。
次に、噴霧乾燥器を用い、原料分散液を気流中に噴霧して、噴霧液滴から分散媒を蒸発させることで造粒粉を作製した。つまり、スプレードライ法にて造粒を行った。次に、得られた造粒粉を大気焼成炉に導入し、大気雰囲気、1600℃の条件で、約300分間の焼成を行うことにより、造粒焼結粉を得た。得られた造粒焼結粉の組成はY23が100mol%で、篩や気流で分級された粒子の平均粒子径は25μmであった。このようにして得られた造粒焼結粉をNo.21の溶射材とした。
【0047】
[溶射皮膜の形成]
No.1~No.21の溶射材を基材に溶射して溶射皮膜を形成した。
溶射条件は、以下の通りとした。
先ず、被溶射材である基材として、アルミニウム合金(A6061)からなる板材(20mm×20mm×2mm)を用意した。基材の溶射面には、アルミナ研削材によるブラスト処理を施した。
溶射は、市販のプラズマ溶射装置(Oerlikon Metco社製Metco(商標)F4 Series)を用い、大気圧プラズマ溶射法により行った。溶射条件は、プラズマ作動ガスとしてアルゴンガスと水素ガスを用い、プラズマを発生させ、厚さ200μmの溶射皮膜を形成した。
このようにして得られたNo.1~No.21の溶射皮膜について、以下に示す方法により、気孔率、結晶化度、およびエロージョンレート調べた。その結果を、各溶射材の構成とともに表1に示す。
【0048】
(気孔率)
気孔率の算出は、以下の方法で行った。
先ず、No.1~No.21の各溶射皮膜が形成された基材を、溶射皮膜が形成されている面に対して垂直に切断し、この切断物を樹脂に埋めて切断で生じた断面を研磨した後、この皮膜断面の画像を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM―IT300LA)を用いて撮影した。次に、この皮膜断面画像を、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製、WinROOF2018)を用いて解析することにより、皮膜断面の画像における気孔部分の面積を特定し、気孔部分の面積が全断面に占める割合(面積%)を算出した。この算出値を気孔率とした。その結果を、表1の「溶射皮膜」の「気孔率」の欄に示す。
【0049】
(結晶化度)
No.1~No.21の各溶射皮膜をX線回折装置(株式会社リガク製SmartLab)の試料ホルダーに設置し、回折パターンを得た。その後、得られた回折パターンに基づいた非晶質相の散乱積分強度、結晶相の散乱積分強度を定義し、以下に記す計算式より結晶化度を算出した。なお、散乱積分強度は、回折ピークの面積に相当する。
「結晶化度=結晶相の散乱積分強度/(結晶相の散乱積分強度+非晶質相の散乱積分強度)」
その結果を、表1の「溶射皮膜」の「結晶化度」の欄に示す。
【0050】
(エロージョンレート)
No.1~No.21の各溶射皮膜を鏡面研磨したのち、誘導結合(ICP)型のプラズマエッチング装置(サムコ株式会社製、RIE―101iPH)のチャンバー内ステージに設置されたシリコンウェハ上に載置した。
続いて、フッ素系(CF4)、酸素、Arの混合ガス(流量比 7:1:9)を用いてプラズマを発生させ、シリコンウェハおよび溶射皮膜をエッチングした。各プラズマによる暴露時間は、45分とした。
【0051】
このようにしてプラズマ暴露試験を行った後、プラズマによるシリコンウェハおよび溶射皮膜の厚み減少量をエッチング量(エロージョン量)として測定した。各溶射皮膜のプラズマエロージョンレートは、シリコンウェハのエロージョンレートを100とした場合の値に換算した。シリコンウェハおよび溶射皮膜の厚みの減少量は、レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X250/X260)にて、マスキングしたサンプル中央部分と、プラズマ暴露面との段差を計測することで求めた。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果から以下のことが分かる。
No.1~No.10の例では、溶射材及び溶射皮膜のいずれもが、「希土類元素のフッ化物を40mol%以上80mol%以下の割合で含むこと」、「フッ化マグネシウムを10mol%以上40mol%以下の割合で含むこと」、「フッ化カルシウムを0mol%以上40mol%以下の割合で含むこと」、および「希土類元素のフッ化物はフッ化イットリウムであること」を満たす。
【0054】
また、No.1~No.10の例では、溶射材を構成する複合化物が「平均粒子径が5μm以下である、フッ化イットリウム一次粒子、フッ化マグネシウム一次粒子、およびフッ化カルシウム一次粒子の造粒粉であるか、この造粒粉を焼結して得られた造粒焼結粉であること」を満たす。
そのため、No.1~No.10の溶射材を一般的な条件で溶射することで形成された溶射皮膜は、結晶相と非晶質相を含む溶射皮膜となり、溶射皮膜の気孔率を2.1面積%以下に、溶射皮膜の結晶化度を32.7%以上71.5%以下にすることができた。また、形成された溶射皮膜のエロージョンレートを15.0%以下にすることができた。特に、No.1~No.3、No.5、No.6、No.9、No.10では、形成された溶射皮膜のエロージョンレートを13.0%以下にすることができた。
【0055】
また、No.1~No.10の溶射材のうち、平均粒子径が40μm以下であるNo.1~No.6、No.9、No.10の溶射材は、溶射皮膜の気孔率を1.5面積%以下にすることができた。
これに対して、No.11~No.21の溶射材を一般的な条件で溶射することで形成された溶射皮膜は、結晶化度が92.7%以上と高く、エロージョンレートは14.6%以上であり、特にNo.12~No.18は気孔率が2.8面積%以上と高い値となった。