(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009254
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】銅又は銅合金の板条並びにトラバースコイル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
C23C26/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171152
(22)【出願日】2021-10-19
(62)【分割の表示】P 2019020020の分割
【原出願日】2017-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】泉 千尋
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB03
4K044BC01
4K044BC05
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】テンションパットとの摩擦に起因する金属粉の発生しにくい銅又は銅合金の板条のトラバースコイル及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】表面に油が塗布され、前記油の量が100~500mg/m2であることを特徴とする銅又は銅合金の板条。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅又は銅合金の板条並びにトラバースコイル及びその製造方法に関し、特に、表面にめっき処理が施された銅又は銅合金の板条並びにこれを巻き取って得られるトラバースコイル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、端子、コネクタなどの電気・電子部品に用いられる銅および銅合金の条は、コイルに巻き取られた形状をもって製品とされる。コイルには、パンケーキコイルとトラバース巻きコイルとがある。パンケーキコイルは、条のエッジ面(断面)を同一の平面に維持しながら重ね合せて巻き取ったコイルであり、パンケーキコイルの幅は条の幅と同じである。一方、トラバース巻きコイルは、条の幅より長い円筒形のボビンに条をらせん状に幅方向にずらしながら巻き取ったコイルであり、トラバース巻きコイルの幅は条の幅より長い。
パンケーキコイルは、条のエッジが同一の平面上に揃っているため、いったんコイルに巻き取ってしまえば、条が幅方向へずれることはない。一方、トラバース巻きコイルは、条をらせん状にずらしながら巻き取ったものであるため、重なり合った条が幅方向へずれやすく、また、条のエッジと条の板面とが接触する状態で巻き取ったものである。そのため、トラバース巻きコイルは、パンケーキコイルに比べ、微振動が長時間にわたって加わると、条同士が擦れ合うことにより発生するキズ(擦過キズ)が生じやすい傾向がある。微振動の発生源としては、トラック等によるコイルの輸送における振動やコイルを巻き戻してプレス機へ送る際の機械的な振動などがあげられる。
【0003】
かかる擦過キズを防止するため、特許文献1には、ベンゾトリアゾール又はその誘導体による防錆皮膜が形成された銅又は銅合金板条の表面に、さらに油が塗布し、合紙を挿入してコイルに巻き取る方法が開示されている。合紙はコイル層間のスリップを防ぐことができるため、製造時、輸送時等において巻きズレなどによりコイル表面が相互にこすり合うことによってできる傷を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、トラバースコイルに巻き取られた銅又は銅合金の板条を巻き戻し、これを端子、コネクタなどの電気・電子部品に用いられる形状にプレス加工する場合、特許文献1に記載された方法では、以下の問題点があった。
すなわち、トラバースコイルに巻き取られた銅および銅合金の条は、巻き戻され端子、コネクタに用いられる形状にプレス加工されるに際し、巻き戻された条は、テンションパットと称される機構により押圧されるとともに一定の張力が付与され、プレス機内部へ案内される。ここでは、テンションパットのフェルト面が条の上面と下面に所定の押圧力で接触し、条が移動することにより条の表面はフェルトで擦られる。テンションパットを用いる目的は条にテンションを付与すること、および、条の表面に付着した汚れをふき取ることである。
テンションパットに汚れが堆積し塊りを形成すると、押圧で保持できないほどの形状になったものは、パットから脱落し条に付着し、汚れの塊りが付着した条はプレス機の内部へ案内される。汚れの塊りの付着した条をプレスすると、プレス製品に打ちキズが生じたり、プレスの金型が変形したり、プレスの金型が破損したりする不具合が生じる。
従来、テンションパットに堆積する汚れは、トラバースコイルで擦過キズが発生した際の金属粉だと考えられていた。そこで、特許文献1のように、コイル間に合紙を挿入する方法を採ることによって、擦過キズを防止し、テンションパットに堆積する汚れの量を減らす試みがなされた。
しかし、本発明者らが試行錯誤した結果、擦過キズが防止され、外観が良好なものであってもテンションパットに金属粉が付着する場合があることが分かった。この金属粉は、軽微な摩耗により発生しためっき金属粉、および、パットで擦られて摩耗により発生しためっき金属粉の両方がテンションパットに付着したものである。特に、特にリフローすずめっきが施された条は、硬度の低いすずで表面が覆われているため、めっき金属粉が発生しやすく、プレス工程の不具合が生じやすい。
特許文献1に記載される発明は、擦過キズの防止について一定の効果を上げることができるが、上記のように、テンションパットに付着する金属粉を減らすには十分ではないため、プレス工程の不具合の防止に関しては改善の余地があった。
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、具体的には、テンションパットとの摩擦に起因する金属粉の発生しにくい銅又は銅合金の板条のトラバースコイル及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような形態を含むものである。
(1)表面に油が塗布され、前記油の量が100~500mg/m2であることを特徴とする銅又は銅合金の板条。
(2)前記銅又は銅合金の板条の表面に金属めっきを有することを特徴とする(1)に記載の銅又は銅合金の板条。
(3)前記金属めっきがリフローすずめっきであることを特徴とする(2)に記載の銅又は銅合金の板条。
(4)前記油が石油系炭化水素又は合成エステルであることを特徴とする(1)~(3)のいずれか1項に記載の銅又は銅合金の板条。
(5)銅又は銅合金の板条のトラバースコイルであって、前記銅又は銅合金の板条の表面に、動粘度が3~12mm2/sである油が塗布され、前記油の量が100~500mg/m2であることを特徴とするトラバースコイル。
(6)前記銅又は銅合金の板条の表面に金属めっきを有することを特徴とする(5)に記載のトラバースコイル。
(7)前記金属めっきがリフローすずめっきであることを特徴とする(6)に記載のトラバースコイル。
(8)前記油が石油系炭化水素又は合成エステルであることを特徴とする(5)~(7)のいずれか1項に記載のトラバースコイル。
(9)銅又は銅合金の板条の表面に、動粘度が3~12mm2/sである油を、その量が100~500mg/m2となるように塗布した後、当該銅又は銅合金の板条をトラバースコイルに巻き取ることを特徴とするトラバースコイルの製造方法。
(10)前記銅又は銅合金の板条の表面に金属めっきを有することを特徴とする(9)に記載のトラバースコイルの製造方法。
(11)前記金属めっきがリフローすずめっきであることを特徴とする(10)に記載のトラバースコイルの製造方法。
(12)前記油が石油系炭化水素又は合成エステルであることを特徴とする(9)~(11)のいずれか1項に記載のトラバースコイルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、テンションパットとの摩擦に起因する金属粉の発生を有効に抑制することができ、プレス工程の不具合を減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(銅又は銅合金板条)
本発明において、銅又は銅合金板条の種類としては特に制限はない。ただし、テンションパットとの摩耗により発生する金属粉やめっき金属粉を有効に減少させるという観点から、本発明は、表面に金属めっきを有する銅又は銅合金板条に適用することが好ましい。特に、リフローすずめっきが施された条は、硬度の低いすずで表面が覆われており、めっき金属粉が発生しやすいので、本発明を好適に用いることができる。
【0009】
(油)
本発明において、塗布する油は金属の摩擦や摩耗を防止する一般的な潤滑油である。例えば、石油系炭化水素又は合成エステル等の油を用いることができる。油の塗布量は、100~500mg/m2とする。100mg/m2未満であると、板条製造からプレス加工されるまでの数ヶ月の期間を考慮した場合に、その効果を維持することができず、500mg/m2を越えると、効果に差異がなく無駄であり、過剰な油がコイル端面から染み出して関連設備を汚染するなどの取り扱い上の問題が発生する。以上の観点から、油の塗布量は200~450mg/m2がより好ましく、300~400mg/m2がさらにより好ましい。
油の動粘度は、3~12mm2/sとする。3mm2/s未満の動粘度の低い油は揮発し易く、銅又は銅合金板条に塗布した後、それがプレス加工されるまでの間の期間、効果を維持することが難しく、また、テンションパットとの摩耗により発生する金属粉やめっき金属粉を減らすことができない。12mm2/sを越えると、塗布することが難しいばかりでなく、その後の取扱いが困難となる場合もある。以上の観点から、油の動粘度は、4~10mm2/sがより好ましく、4~8mm2/sがさらにより好ましい。
【0010】
銅又は銅合金板条に上記動粘度の油を上記量になるまで塗布する方法としては、静電塗布、滴下、噴霧などの方法が考えられるが、具体的な必要に応じてそれぞれの方法を選択することができる。いずれの方法を選択しても、銅又は銅合金板条の表面に油をむらなく塗布することが望ましいので、上記動粘度及び量の範囲内において油の及び量を調整して、銅又は銅合金板条の表面に均一に油が塗布された状態にすることが望ましい。
銅又は銅合金板条に油を塗布した後、これをトラバースコイルに巻き取れば、テンションパットとの摩耗により発生する金属粉やめっき金属粉を有効に減少させることができ、その結果、テンションパットに蓄積する汚れが銅又は銅合金板条に付着する現象の発生が減少し、その後のプレス工程での不具合も減少する。
【実施例0011】
以下に本発明の実施例を示すが、実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0012】
(実施例、比較例)
幅20mm、厚み0.2mmのリフローすずめっき銅合金条に表1に示す動粘度及び量の潤滑油(炭化水素系)を塗布し、トラバースコイルに巻き取った後に、防錆紙にて梱包をし300kmの距離をトラックで搬送し、さらに同一のルートにてトラバースコイルを生産した工場へ引き返した。引き返した日から7日の期間を経過した後、同工場にて、トラバースコイルから油が染み出していないかを確認し、トラバースコイルを巻き戻し、巻き戻されたリフローすずめっき銅合金条の擦過キズの有無を確認し、テンションパットと同一の材質のフェルトを用いた摩耗試験後におけるフェルトの汚れの有無を評価した。結果は表1に示す。
【0013】
各実施例及び比較例の評価方法は以下のとおりである。
(油染み出しの有無)
トラバースコイルを梱包した外装の防錆紙に油が染み出していないかを目視で確認した。評価基準は以下の通りである。評価が染み出しなしであれば、過剰な油による汚染がなく、プレス機で取り扱う際においても実用上問題ないと判断した。
染み出しなし:防錆紙に外観上の異常はない。
染み出しあり:防錆紙に油のしみが認められる。
染み出しあり:防錆紙が油で濡れている。
(擦過キズの有無)
巻き直しラインにトラバースコイルを巻き戻し、巻き戻された銅合金板条表面の擦過キズの有無を目視にて観察した。
(テンションパットの汚れの有無)
トラバースコイルから切り出した試料を摩擦試験装置(スガ試験機株式会社製、スガ磨耗試験機)上に置き、試料表面にと同一の材質のフェルトを載せ、フェルトの上に30gのウェイトを荷重した状態で、フェルトを試料表面で1cmの振幅で往復運動(走査距離10mm、走査速度13mm/s、往復回数30回)させた。
その後、試料側のフェルト表面を観察し、すず粉の付着度合を目視評価した。評価基準は以下の通りである。評価が汚れなしであれば、すず粉の発生が殆ど無く、プレス機のテンションパットにおいても実用上問題ないと判断した。
汚れなし:フェルトにすず粉の付着が見られない。
汚れあり:フェルトにすず粉の付着が薄く認められる。
汚れあり:フェルトにすず粉の付着が濃く認められる。
【0014】
【0015】
実施例1~23は、本発明規定の動粘度及び量の油を塗布したものであるので、擦過キズがなく、テンションパットの汚れもなく、油の染み出しもなかった。
比較例1は、油の動粘度が好ましい範囲を下回り、テンションパットの汚れが発生した。
比較例2は、油の付着量が好ましい範囲を下回り、テンションパットの汚れが発生した。
比較例3は、油の動粘度および付着量のいずれもが好ましい範囲を下回り、擦過キズが発生するとともにテンションパットの汚れが発生した。
比較例4は、油の動粘度が好ましい範囲を上回り、油の未着部が散見された。油の未着部については、擦過キズが発生するとともにテンションパットの汚れが発生した。ただし、油の染み出しはなかった。
比較例5は、油の付着量が好ましい範囲を上回り、擦過キズおよびテンションパットの汚れのいずれも発生しなかったが、油の染み出しがあった。
比較例6は、油の動粘度および付着量のいずれもが好ましい範囲を上回り、擦過キズおよびテンションパットの汚れのいずれも発生しなかったが、油の染み出しがあった。