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特開2022-92544ニオブ粉末、ニオブ粉末製造用部材及びこれらの製造方法並びにニオブ部材の製造方法
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  • 特開-ニオブ粉末、ニオブ粉末製造用部材及びこれらの製造方法並びにニオブ部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092544
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】ニオブ粉末、ニオブ粉末製造用部材及びこれらの製造方法並びにニオブ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20220615BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20220615BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20220615BHJP
   B22F 9/14 20060101ALI20220615BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20220615BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20220615BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220615BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220615BHJP
   C22B 34/24 20060101ALI20220615BHJP
   C22B 9/14 20060101ALI20220615BHJP
   C22F 1/18 20060101ALN20220615BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220615BHJP
【FI】
B22F1/00 R
C22C27/02 102A
B22F9/08 A
B22F9/14 Z
B22F3/105
B22F3/16
B33Y10/00
B33Y70/00
C22B34/24
C22B9/14
C22F1/18 F
C22F1/00 625
C22F1/00 624
C22F1/00 628
C22F1/00 660Z
C22F1/00 661Z
C22F1/00 685Z
C22F1/00 687
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205420
(22)【出願日】2020-12-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】増居 浩明
(72)【発明者】
【氏名】篠澤 精一
【テーマコード(参考)】
4K001
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K001AA18
4K001EA02
4K001EA13
4K001FA10
4K001FA12
4K017AA03
4K017BA07
4K017CA07
4K017EF02
4K017FA15
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】 3Dプリンターによる部材製作等に使用できる高純度のニオブ粉末、ニオブ粉末製造用部材及びこれらの製造方法並びにニオブ部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であることを特徴とするニオブ粉末。
【請求項2】
円相当径による平均粒径が20~200μmであることを特徴とする請求項1記載のニオブ粉末。
【請求項3】
残留比抵抗比RRRが300以上のニオブ粉末製造用部材を、3×10-2Pa以下の真空下での、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により粉末化したものであることを特徴とする請求項1又は2記載のニオブ粉末。
【請求項4】
ニオブ粉末を製造するニオブ粉末製造用部材であって、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であることを特徴とするニオブ粉末製造用部材。
【請求項5】
残留比抵抗比RRRが300以上であることを特徴とする請求項4記載のニオブ粉末製造用部材。
【請求項6】
ニオブ粉末を製造するニオブ粉末製造用部材の製造方法であって、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、Ti、Al、CrおよびCoのそれぞれが50ppm以下のニオブインゴットを、冷間で塑性加工することにより、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であるニオブ粉末製造用部材を得ることを特徴とするニオブ粉末製造用部材の製造方法。
【請求項7】
請求項4又は5のニオブ粉末製造用部材を原料とし、3×10-2Pa以下の真空下で、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であるニオブ粉末を得ることを特徴とするニオブ粉末の製造方法。
【請求項8】
円相当による平均粒径が20~200μmであるニオブ粉末を得ることを特徴とする請求項7記載のニオブ粉末の製造方法。
【請求項9】
ニオブ粉末を用いて積層造形法、又は噴霧法によってニオブ部材を製作するニオブ部材の製造方法であって、請求項1~3の何れか一項記載のニオブ粉末を原料として成形し、脱ガス処理を行うことにより、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であり、残留比抵抗比RRRが300以上であるニオブ部材を製造することを特徴とするニオブ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンターによる部材製作等に使用できる高純度のニオブ粉末、このニオブ粉末を製造するためのニオブ粉末製造用部材、及びこれらの製造方法並びにニオブ部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、超伝導加速空洞には、ニオブ(Nb)製の複雑形状をした部材が数多く用いられている。これらの部材は、ニオブ材を塑性加工、切削加工などをすることにより製作されており、コストと時間がかかる。そこで、コストダウンと、製作時間の短縮のため、ニオブ製の複雑形状をした部材を3Dプリンターによって製作することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、3Dプリンターで製作したパーツの性能は、現行の塑性加工や切削加工によって製作されたパーツの性能に及ばず、現状では3Dプリンターによって製作されたパーツへの置き換えは不可能である。
【0004】
具体的には、ニオブ製の超伝導加速空洞の性能は、測定が煩雑な極低温での熱伝導度に変えて、残留比抵抗比(Residual Resistance Ratio:RRR)で評価される。そして、加速空洞用パーツとして使用するためには、RRR(300K/9.3K程度)が300以上必要とされる場合が多い。しかしながら、3Dプリンターで製作したパーツではRRRが300を超えることが不可能であった。例えば、ニオブ粉末を用いたレーザー積層造形(SLM)で得られたパーツのRRRの最大値は135と報告されている(非特許文献1)。
【0005】
3Dプリンターで使用される金属粉末の製造方法は、一般的にはアトマイズ法であるが、高融点金属であるニオブを溶融するのが非常に困難であり、また、るつぼを使用するのでコンタミが含まれやすく、サテライト粉末や粒内のポア(欠陥)が多いという問題もあり、高純度なニオブ粉末を製造するのは困難である。
また、プラズマアトマイズ法によるニオブ粉末の製造の報告もあるが、高純度なニオブ粉末は得られていないのが現状である(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-141196号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Romain Gerard, Fritz MOTSCHMANN, “Metal Additive Manufacturing at CERN and development of niobium for SRF”, Presentation Material of TESLA TECHNOLOGY COLLABORAION 2020, Esplanade des Particules 1, 1217 Meyrin, Switzerland
【非特許文献2】P. Frigola, R. Agustsson, L. Faillace, A. Murokh, G. Ciovati, W. Clemens, P. Dhakal, F. Marhauser, R. Rimmer, J. Spradlin, S. Williams, J. Mireles, P. A., Morton, R. B., Wicker, “ADVANCE ADDITIVE MANUFACTURING METHOD FOR SRF CAVITIES OF VARIOUS GEOMETRIES”, Proceedings of SRF2015, Whistler, BC, Canada
【非特許文献3】Cesar A. Terrazas, Jorge Mireles, Sara M. Gaytan, Philip A. Morton, Alejandro Hinojos, Pedro Frigola, Ryan B. Wicker, “Fabrication and characterization of high-purity niobium using electron beam melting additive manufacturing technology”, Int J Adv Manuf Technol (2016) 84 : 1115 - 1126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑み、3Dプリンターによる部材製作等に使用できる高純度のニオブ粉末、ニオブ粉末製造用部材及びこれらの製造方法並びにニオブ部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成する本発明の第1の態様は、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であることを特徴とするニオブ粉末にある。
【0010】
ここで、円相当による平均粒径が20~200μmである。
また、残留比抵抗比RRRが300以上のニオブ粉末製造用部材を、3×10-2Pa以下の高真空下での、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により粉末化したものである。
【0011】
本発明の第2の態様は、ニオブ粉末を製造するニオブ粉末製造用部材であって、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であることを特徴とするニオブ粉末製造用部材にある。
ここで、残留比抵抗比RRRが300以上である。
【0012】
本発明の第3の態様は、ニオブ粉末を製造するニオブ粉末製造用部材の製造方法であって、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、Ti、Al、CrおよびCoのそれぞれが50ppm以下のニオブインゴットを、冷間で塑性加工することにより、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であるニオブ粉末製造用部材を得ることを特徴とするニオブ粉末製造用部材の製造方法にある。
【0013】
本発明の第4の態様は、第2の態様のニオブ粉末製造用部材を原料とし、3×10-2Pa以下の高真空下で、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であるニオブ粉末を得ることを特徴とするニオブ粉末の製造方法にある。
ここで、円相当による平均粒径が20~200μmであるニオブ粉末を得る。
【0014】
本発明の第5の態様は、ニオブ粉末を用いて積層造形又は噴霧法によってニオブ部材を製作するニオブ部材の製造方法であって、第1の態様のニオブ粉末を原料として成形し、脱ガス処理を行うことにより、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であり、残留比抵抗比RRRが300以上であるニオブ部材を製造することを特徴とするニオブ部材の製造方法にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のニオブ粉末は、ASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素含有量が規格値以下、すなわち、Zrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下であると同時に、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下であり、且つ不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であり、全く新規な高純度なものである。
【0016】
また、本発明のニオブ粉末製造用部材は、ASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素含有量が規格値以下、すなわち、Zrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下であると同時に、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下であり、且つ不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量がASTM B393(Type5)規格値以下、すなわち、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であり、全く新規な高純度なものである。
【0017】
ここで、本発明のニオブ粉末製造用部材は、ASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素含有量が規格値以下、すなわち、Zrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下であると同時に、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下であるニオブインゴットを、冷間での塑性加工により、線状などのニオブ粉末製造用部材とすることで製造することができる。
【0018】
また、本発明のニオブ粉末は、本発明のニオブ粉末製造用部材を高真空下でのプラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により製造できる。
【0019】
さらに、本発明のニオブ粉末を用いて積層造形又は噴霧法によってニオブ部材を製作した後に、脱ガス処理を行うことにより、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素含有量が規格値以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であり、残留比抵抗比RRRが300以上であるニオブ部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例2のニオブ粉末の表面及び断面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明のニオブ粉末は、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下である。
【0022】
ここで、不純物金属元素としてのZr、Ta、W、Ni、Fe、Si、Ti、Al、CrおよびCoは、ASTM B393(Type5)規格で指定されており、規格値が以下の表1に示すように定められており、Zrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、Ti、Alのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下は、規格値のとおりである。
【0023】
本発明のニオブ部材は、例えば、3Dプリンターによる部材製作等に使用できるものであり、且つ製作したパーツの性能が、現行の塑性加工や切削加工によって製作されたパーツの性能と同等以上となり、特に、残留比抵抗比RRRが300以上であるパーツを製作することできるという効果を奏するものである。
【0024】
このような効果を奏する本発明のニオブ粉末は、ASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素含有量が規格値以下であることは勿論、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下であり、しかも、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であるという特徴を有する。不純物金属元素の含有量やガス成分元素の含有量が極めて少ないことが、3Dプリンターにより部材製作を行っても、製作したパーツの性能が、現行の塑性加工や切削加工によって製作されたパーツの性能と同等以上となる。
【0025】
不純物金属元素としては、ASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素の含有量が規定値以下であることは勿論であるが、Mg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下である点が特徴となる。Mg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfは、例えば、3Dプリンターによる部材製作等に使用した際に製作したパーツの性能に影響を与える元素であり、それぞれの含有量が30ppm以下、好ましくは、それぞれの含有量が10ppm以下であるのがよい。また、ASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素の中で、特にAlの含有量は30ppm以下であることが好ましい。
【0026】
【表1】
【0027】
また、本発明では、特に、ガス成分の含有量が、パーツの性能、特に、残留比抵抗比RRRに大きく影響を与えるという新たな知見に基づき、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であることとし、これにより、残留比抵抗比RRRが300以上のパーツの製作を実現した。
【0028】
また、本発明のニオブ粉末は、円相当による平均粒径が20~200μmであることが好ましい。ここで、円相当による平均粒径は、JIS8827-1:2018により測定するものである。
【0029】
本発明のニオブ粉末を3Dプリンターで使用する場合には、円相当による平均粒径が20~200μmであるニオブ粉末を用いるのが好ましい。また、このような3Dプリンターにより製作されたパーツは、本発明のニオブ粉末を用いているので、性能が向上したものであり、特に、残留比抵抗比RRRが300以上であるパーツを製作することができる。
【0030】
このような本発明のニオブ粉末を得るためには、同様に高純度なニオブ粉末製造用部材を用いる必要がある。特に、残留比抵抗比RRRが300以上のニオブ粉末製造用部材を用い、詳細は後述するが、3×10-2Pa以下の高真空下での、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により粉末化するのが好ましい。
【0031】
本発明のニオブ粉末製造用部材は、ニオブ粉末を製造するニオブ粉末製造用部材であって、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素含有量が規格値以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量がASTM B393(Type5)規格値以下であることを特徴とするものである。
【0032】
ここで、ニオブ粉末製造用部材に関してASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素含有量、並びに不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素の含有量の規格値は以下の表2に示すとおりである。
【0033】
【表2】
【0034】
このようなニオブ粉末製造用部材は、上述した本発明のニオブ粉末を製造するために必要で、ニオブ粉末と少なくとも同等の高純度である必要がある。
【0035】
また、特に、残留比抵抗比RRRが300以上であることが好ましい。これにより、上述した本発明の高性能なニオブ粉末を得ることができるからである。
【0036】
本発明のニオブ粉末製造用部材は、ワイヤなどの線状部材、又は棒状部材などを挙げることができるが、本発明のニオブ粉末を得るためには、線状部材であることが好ましい。
【0037】
このような本発明のニオブ粉末製造用部材を製造するためには、ASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素の含有量が規格値以下であり、且つMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下であるニオブインゴットを用意し、これを塑性加工してニオブ粉末製造用部材の形状とする必要がある。
【0038】
この際、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量がASTM B393(Type5)規格値以下であるニオブ粉末製造用部材とするために、冷間で塑性加工を行う必要がある。熱間で塑性変形を行うと、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素の含有量が上昇してしまうからである。
【0039】
冷間での塑性加工は、インゴットから、徐々に加工して棒状体とし、さらに、棒状体から線状体とすることにより行われる。
ここで、冷間とは、特に加熱することなく塑性加工を行うことで有り、常温で塑性加工を行えばよいが、加工温度が100℃を超えるような場合には、不活性ガスなどにより100℃以下に冷却して行う必要がある。
【0040】
本発明のニオブ粉末を製造するためには、上述した本発明のニオブ粉末製造用部材を原料とし、3×10-2Pa以下の高真空下で、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により粉末化する必要がある。
【0041】
まず、高真空下で粉末化するのは、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であるニオブ粉末を得るためである。
【0042】
ここで、高真空下は、3×10-2Pa以下、好ましくは、1×10-2Pa以下である。
【0043】
このような高真空下で粉末化、特に、円相当による平均粒径が20~200μmであるニオブ粉末とするためには、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法を採用する必要があり、特に、アークアトマイズ法を採用するのが好ましい。
【0044】
ここで、プラズマアトマイズ法は、線状体のニオブ粉末製造用部材を原料として、これをプラズマによって発生した熱で溶湯化し、プラズマジェットにて分断することで粉末化するものである。
【0045】
また、アークアトマイズ法は、2本の線状体のニオブ粉末製造用部材を原料として、2本の原料間に発生するアーク放電により原料を溶解し、不活性ガスを衝突させることにより、粉末化するものである。
【0046】
これらのガスアトマイズ法は、るつぼを使用せずに、高融点金属でも溶解・粉末化するので、コンタミの可能性がなく、高純度なニオブ粉末を得ることができる。特に、通常のガスアトマイズを行う数Pa~10Paの環境ではなく、上述したような高真空下で行うことにより、サテライトが少なく、流動性の高い球状の粉末となり、ポアの少ない粉末となる。
【0047】
特に、アークアトマイズ法は、高真空下での粉末の製造に好適であり、本発明のニオブ粉末を得る手法として最適である。
【0048】
本発明のニオブ粉末の用途は特に制限されないが、積層造形又は噴霧法によって高性能なニオブ部材を製造するために用いることができる。
【0049】
この際、特に、成形品を脱ガス処理することにより、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつASTM B393(Type5)規格で指定されている不純物金属元素含有量が規格値以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量がASTM B393(Type5)規格値以下であり、残留比抵抗比RRRが300以上であるニオブ部材を製造することができる。
【0050】
ここで、脱ガス処理は、ニオブに含まれるガス成分の拡散現象を利用した精製処理であり、例えば、チタンゲッタリング処理である。チタンゲッタリング処理は、ニオブ部材表面にチタン膜を蒸着し、1×10-4Pa~1×10-5Pa程度の真空環境、1200℃の環境で熱処理することで、ニオブ部材内部のガス成分を減少させる処理である。
【実施例0051】
(実施例1)
(ニオブ粉末製造用部材の製造)
表3の不純物含有量のニオブインゴットを用い、室温の環境下で冷間で塑性加工を繰り返し、直径2mmの線状体(ワイヤ)を製造し、実施例1のニオブ粉末製造用部材とした。
【0052】
線状体の不純物含有量は表3のとおりである。
分析値の評価について、金属成分は島津製作所製ICPS-8100または日立ハイテクサイエンス製SPS3520UVによるICP発光分光分析法を用いて評価した。OとN元素はLECO製TC600による不活性ガス融解―赤外線吸収法を用いて評価した。C元素はLECO製CS844による非分散型赤外線吸収法を用いて評価した。H元素はLECO製RH404による不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて評価した。
【0053】
残留抵抗比RRRは306であった。
なお、残留抵抗比RRRの測定は、サンプルを冷凍機で冷却しながら温度と4端子法による抵抗値を測定し、9.3Kと293Kの時の抵抗値で293Kの抵抗値を基準とした抵抗比をRRR値とした。
【0054】
(比較例1)
表3の不純物含有量のニオブインゴットを用い、インゴット温度が300~500℃の環境下で塑性加工を繰り返し、直径2mmの線状体(ワイヤ)を製造し、比較例1のニオブ粉末製造用部材とした。
線状体の不純物含有量は表4のとおりである。
RRRは54であった。
【0055】
【表3】
【0056】
(実施例2)
(ニオブ粉末の製造)
実施例1のニオブ粉末製造用部材を用い、アークアトマイズ法により、ニオブ粉末を得た。アークアトマイズ法は、2.7×10-2Paの環境で行い、アークアトマイズの条件は、電圧20V、Arガス純度4N、Arガス圧0.6MPa、ワイヤ送り速度4.4m/minとした。
得られたニオブ粉末の不純物含有量は表4の通りである。
また、円相当による平均粒径は62μmであった。
なお、実施例2のニオブ粉末の粉末表面と粉末断面の拡大写真を図1に示す。
【0057】
(比較例2)
実施例1のニオブ粉末製造用部材を用い、アークアトマイズ法により、ニオブ粉末を得た。アークアトマイズ法は、9.3Paの環境で行い、アークアトマイズの条件は、電圧20V、Arガス純度4N、Arガス圧0.6MPa、ワイヤ送り速度4.4m/minとした。
得られたニオブ粉末の不純物含有量は表4の通りである。
また、円相当による平均粒径は73μmであった。
【0058】
【表4】
【0059】
(実施例3)
(ニオブ部材の製造)
実施例2のニオブ粉末を用い、3Dプリンターによる部材製作を行った。部材の形状は2×2×50mmの角棒であり、成形後、チタンゲッタリングによる脱ガス処理を行った。
チタンゲッタリングによる脱ガス処理は、1×10-4Paの真空環境で、1200℃の環境、処理時間50時間の条件で行った。チタンゲッタリング後の部材の不純物含有量は表5の通りである。
製造したニオブ部材のRRRは、351であった。また、チタンゲッタリング前のRRRは6.3であった。
【0060】
(比較例3)
チタンゲッタリングを行わなかった以外は実施例3と同様に行った。
製造したニオブ部材のRRRは6.3であった。
【0061】
(比較例4)
比較例2のニオブ粉末を用い、3Dプリンターによる部材製作を行った。部材の形状は2×2×50mmの角棒であり、成形後、チタンゲッタリングによる脱ガス処理を行った。
チタンゲッタリングによる脱ガス処理は、1×10-4Paの真空環境で、1200℃の環境、処理時間50時間の条件で行った。チタンゲッタリング後の部材の不純物含有量は表5の通りである。
製造したニオブ部材のRRRは、79あった。また、チタンゲッタリング前のRRRは3.6であった。
【表5】


図1
【手続補正書】
【提出日】2021-04-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であることを特徴とするニオブ粉末。
【請求項2】
円相当径による平均粒径が20~200μmであることを特徴とする請求項1記載のニオブ粉末。
【請求項3】
残留比抵抗比RRRが300以上のニオブ粉末製造用部材を、3×10-2Pa以下の真空下での、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により粉末化したものであることを特徴とする請求項1又は2記載のニオブ粉末。
【請求項4】
ニオブ粉末を製造するニオブ粉末製造用部材の製造方法であって、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、Ti、Al、Cr+Coの総量が50ppm以下のニオブインゴットを、冷間で塑性加工することにより、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であるニオブ粉末製造用部材を得ることを特徴とするニオブ粉末製造用部材の製造方法。
【請求項5】
ニオブ粉末を製造するニオブ粉末製造用部材であって、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であるニオブ粉末製造用部材を原料とし、3×10-2Pa以下の真空下で、プラズマアトマイズ法又はアークアトマイズ法により、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素としての酸素、窒素、炭素、および水素のそれぞれの含有量が300ppm以下であるニオブ粉末を得ることを特徴とするニオブ粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ニオブ粉末製造用部材の残留比抵抗比RRRが300以上であることを特徴とする請求項5記載のニオブ粉末の製造方法。
【請求項7】
円相当による平均粒径が20~200μmであるニオブ粉末を得ることを特徴とする請求項5又は6記載のニオブ粉末の製造方法。
【請求項8】
ニオブ粉末を用いて積層造形法、又は噴霧法によってニオブ部材を製作するニオブ部材の製造方法であって、請求項1~3の何れか一項記載のニオブ粉末を原料として成形し、脱ガス処理を行うことにより、不純物金属元素としてのMg、V、Mn、Cu、Mo、B、BeおよびHfのそれぞれの含有量が30ppm以下、かつZrが100ppm以下、Taが1000ppm以下、Wが70ppm以下、Niが30ppm以下、Fe、Si、TiおよびAlのそれぞれが50ppm以下、Cr+Coの総量が50ppm以下で、不純物ガス成分元素の含有量が、酸素が40ppm以下、窒素が30ppm以下、炭素が30ppm以下、および水素が5ppm以下であり、残留比抵抗比RRRが300以上であるニオブ部材を製造することを特徴とするニオブ部材の製造方法。