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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009270
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】圧力分布センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
G01L5/00 101Z
G01L5/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171427
(22)【出願日】2021-10-20
(62)【分割の表示】P 2018018015の分割
【原出願日】2018-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 周介
(72)【発明者】
【氏名】牛島 洋史
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AB09
2F051BA01
(57)【要約】
【課題】 気流のような非常に小さな圧力の微少な変化であっても精度良く検出することのできるシート状の圧力分布センサの提供。
【解決手段】 2次元面内の圧力分布を計測するシート状の圧力分布センサである。残存部を与えて環状に打ち抜いて形成された舌状部をマトリクス状に複数有する可撓性シート体の舌状部を片持ち梁として残存部近傍の歪みを計測する計測手段を与えられていることを特徴とする。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流による2次元面内の圧力分布を計測するシート状の圧力分布センサであって、
可撓性シート体にマトリクス状に複数の素子部を形成するように打ち抜き部を与えられており、
前記打ち抜き部の内部には、幅を減じたくびれ部を有して環状に打ち抜いて形成された舌状部が前記くびれ部で前記打ち抜き部の外周部と接続されて片持ち梁を形成して与えられ、
歪みゲージが前記打ち抜き部の前記外周部から前記くびれ部に沿って前記舌状部の内部まで延びるように与えられていることを特徴とする圧力分布センサ。
【請求項2】
前記可撓性シート体は、他の可撓性シート体の上に間にスペーサを挟み与えられて全体としての撓みを抑制されていることを特徴とする請求項1記載の圧力分布センサ。
【請求項3】
前記打ち抜き部は前記可撓性シート体を四角形に打ち抜いて与えられ、前記舌状部は楕円形片に前記くびれ部を接続してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧力分布センサ。
【請求項4】
前記くびれ部は、前記四角形の1つの角部に接続していることを特徴とする請求項3記載の圧力分布センサ。
【請求項5】
前記可撓性シート体は可撓性を有する他のシートの上に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の圧力分布センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元面内の圧力分布を計測するシート状の圧力分布センサに関し、特に、気流のような非常に小さな圧力の微少な変化であっても精度良く検出することのできる圧力分布センサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子や圧電フィルムを利用した圧力センサが各種工業製品や計測機器に用いられている。このような圧力センサを面内に複数配置し2次元面内の圧力分布を計測できるようにした圧力分布センサも提案されている。更に、このような圧力分布センサのうち、可撓性を有するフレキシブルなシート状に形成し、平面だけでなく曲面や複雑形状の表面についての圧力分布の計測を与え、また、圧力付加時の衝撃を吸収し破壊することなく圧力分布を計測できるようにしたセンサシートなども提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、フィルム上にマトリクス配線を与えてその交点に薄膜トランジスタを形成し、該薄膜トランジスタの表面に感圧導電体を形成した圧力センサ装置を開示している。フィルムにはポリイミドやポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子フィルムを用いるとしており、この上の配線や薄膜トランジスタについては印刷技術を利用できるので、大面積を低価格で実現できるとしている。
【0004】
また、特許文献2では、マトリクス配線の交差点を圧力計測点として圧力センサを配置した圧力計測シートを用いた歩行解析装置を開示している。圧力センサは、印加された圧力の大きさに応じて電気的な特性値を変化させる感圧層からなり、内部に感圧インクを充填した層状構造体であって、表面に圧力が加えられるとその電気抵抗が低下する圧力素子となっている。
【0005】
ところで、面に対して物体が接触することにより与えられる圧力とは異なり、気流のような場合にあっては、その与える圧力は非常に小さくなる。
【0006】
例えば、特許文献3では、工作対象物への気体の吹きつけ時に該工作対象物の受ける圧力を推定するためのセンサとして、片持ち梁(支持梁)を利用してその支持部の歪みゲージにより気体から受ける荷重を計測する圧力センサを開示している。ここでは、工作対象物を乾燥させるなどの目的で与えられるブロワからの比較的強い気流を計測の対象としているが、片持ち梁を利用することで比較的小さな気流の計測であっても可能となり得るであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-150146号公報
【特許文献2】特開2006-284404号公報
【特許文献3】特開2016-121978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したような2次元面内の圧力分布を計測するシート状の圧力分布センサにおいても、気流のような非常に小さな圧力を受けたときの圧力分布を計測することが求められ、片持ち梁構造を利用することが考慮できる。しかしながら、可撓性を有するシート状の基板の上に片持ち梁構造を与えることは、基板の可撓性を妨げるとともに、計測精度を低下させ、特に、気流のような非常に小さな圧力の微少な変化に対する影響は大きい。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、2次元面内の圧力分布を計測するシート状の圧力分布センサであり、気流のような非常に小さな圧力の微少な変化であっても精度良く検出することのできる圧力分布センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による圧力分布センサは、2次元面内の圧力分布を計測するシート状の圧力分布センサであって、残存部を与えて環状に打ち抜いて形成された舌状部をマトリクス状に複数有する可撓性シート体の前記舌状部を片持ち梁として前記残存部近傍の歪みを計測する計測手段を与えられていることを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、基板である可撓性シート体自体を片持ち梁に形成することで、2次元面内の圧力分布を計測できて、気流のような非常に小さな圧力の微少な変化であっても精度良く検出することができるのである。
【0012】
上記した発明において、前記舌状部は舌先端に向けて部分的に幅を減じたくびれ部を有し、前記くびれ部に前記計測手段を与えられていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、くびれ部により可動片としての舌状部の撓みを調整できて、気流のような非常に小さな圧力の微少な変化であってもより精度高く検出することができるのである。
【0013】
上記した発明において、前記舌状部は前記可撓性シート体を四角形に打ち抜いて前記四角形の内部に与えられていることを特徴としてもよい。また、前記舌状部は、前記四角形の内部に間隙を設けて与えられていることを特徴としてもよい。更に、前記舌状部は、前記四角形の1つの角部に前記残存部を有することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、舌状部の可撓性シート体からの影響を抑制できて、気流のような非常に小さな圧力の微少な変化であってもより精度高く検出することができるのである。
【0014】
上記した発明において、前記計測手段は歪みゲージであることを特徴としてもよい。また、前記可撓性シート体にはマトリクス配線が与えられており、前記マトリクス配線の各格子に前記舌状部が与えられ、前記歪みゲージが前記マトリクス配線に結線されていることを特徴としても良い。かかる発明によれば、プリント技術により、精度の高い圧力分布センサを容易に製造できるようになるのである。
【0015】
上記した発明において、前記可撓性シート体は間にスペーサを与えられてシートの上に設けられていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、舌状部のシートからの影響を抑制できて、気流のような非常に小さな圧力の微少な変化であってもより精度高く検出することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による実施例における圧力分布センサの平面図である。
図2】圧力分布センサの要部の平面図である。
図3】圧力分布センサの要部の側断面図である。
図4】圧力分布センサの製造工程を示す平面図である。
図5】歪みゲージの形状を示す平面図である。
図6】圧力分布センサの要部の平面図である。
図7】動作試験1に用いた圧力分布センサの素子の配置を示す平面図である。
図8】動作試験1の結果として電気抵抗を示すグラフである。
図9】動作試験2の結果として抵抗変化量を示すグラフである。
図10】圧力分布センサの改変例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明による1つの実施例である圧力分布センサ10について、図1乃至図3を用いて説明する。
【0018】
図1に示すように、圧力分布センサ10は、可撓性を有するシート体1を基板として、かかるシート体1に沿った2次元面内の圧力分布を計測するセンサである。シート体1には、マトリクス状に複数並べられた舌状部3が形成されている。舌状部3は、残存部4を残した環状にシート体1を打ち抜いた打ち抜き部2によって形成される。つまり、舌状部3は、残存部4によって周囲のシート体1と接続されて、片持ち梁となっている。これによって、舌状部3は、周囲の気流のような非常に小さな圧力の微少な変化によってシート体1の両面側に揺動可能な可動片となって残存部4を撓ませることができる。なお、打ち抜き部2は、必ずしも加工方法を打ち抜きに限定するものではなく、例えば、レーザーやカッターによる切り出し加工によるものとすることもできる。
【0019】
本実施例において、複数の舌状部3は、シート体1を四角形に打ち抜いた打ち抜き部2によってかかる四角形の内部にそれぞれ間隙を与えられて配置され、かかる四角形とともに互いに縦横に並べられて上記したマトリクスを形成している。つまり、打ち抜き部2によって形成された舌状部3と、後述する歪ゲージ15とを含む素子20が縦横に並べられている。また、舌状部3は、その長さを長くできるように残存部4を四角形の角部に接続させることが好ましい。特に、舌状部3は、舌先端3aに向けて部分的に幅を減じたくびれ部を有しているとかかるくびれ部を優先的に撓ませるので、可動片としての舌状部3の撓みを調整できる。本実施例では、かかるくびれ部として残存部4を有している。これらのようにすることで、舌状部3によって残存部4を撓ませたときに、打ち抜き部2の周囲のシート体1や他の舌状部3に撓みの影響を与えないようにすることができる。なお、上記したマトリクスは、舌状部3を、例えば0.3mm~30cmの範囲内の所定のピッチで配置すると圧力分布センサとして適当である。
【0020】
シート体1としては、例えば、厚さ10μm~2mm程度の可撓性を有する材料を用いることができる。シート体1のヤング率は好ましくは10GPa以下である。このようなシート体1の材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、アクリロニトリル・スチレン、ポリメチルメタアクリル、ポリビニールアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド(ナイロン)、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、フェノール樹脂(ベークライト)、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタンを例示できる。
【0021】
図2を併せて参照すると、圧力分布センサ10の素子20は、さらに残存部4近傍の歪みを計測する計測手段を備える。かかる計測手段として、例えば、歪みゲージ15を用い得る。歪みゲージ15は、打ち抜き部2の外周側から残存部4に沿って舌状部3の内部まで延びるように取り付けられている。歪みゲージ15は抵抗線であり、その変形に基づく抵抗の変化によって残存部4近傍の歪みを計測できる。ここで、上記したように、舌状部3は、周囲のシート体1に影響を与えないよう残存部4を優先的に撓ませることができ、残存部4近傍の歪みを精度よく計測できる。
【0022】
歪みゲージ15は、シート体1に配置された配線に結線されて外部に接続される。配線としては、上記した打ち抜き部2の四角形の周囲のそれぞれの辺に沿うようにして縦方向に延びる縦配線11及び横方向に延びる横配線12を備えるマトリクス配線とすることができる。また、縦配線11及び横配線12の交差する交差点は絶縁体からなる絶縁層13を間に挟むように重ねられて互いに接触しないようにされる。ここでは、シート体1の上面に下から縦配線11、絶縁層13、横配線12の順に配置されている。そして、歪みゲージ15は、かかる交差点を跨ぐようにしてその両極のそれぞれを縦配線11及び横配線12に接続させている。つまり、液晶表示装置の分野で用いられるパッシブマトリクスと同様である。この場合、クロストークを低減させるため、配線(縦配線11及び横配線12のそれぞれ)1本あたりの抵抗は、歪みゲージ15の1つあたりの抵抗の1/100以下とされることが好ましい。なお、縦配線11及び横配線12の交差点を絶縁層13の代わりに半導体で接続し、アクティブマトリクスと同様にスイッチングさせるようにしてもよい。この場合はクロストークをスイッチングにより低減できるので、上記した配線と歪みゲージ15との抵抗の比は特に限定されない。
【0023】
図3を併せて参照すると、歪みゲージ15と、縦配線11及び横配線12との接続部において、シート体1の上に縦配線11及び横配線12が配置され、これらを部分的に上から覆うように歪みゲージ15の両極が形成される。上記したように、縦配線11は、横配線12との交差点において絶縁層13を挟んで横配線12の下側に配置されるので、歪みゲージ15との接続部においてもシート体1の表面からの高さを横配線12よりも低くするようにしてもよい。
【0024】
縦配線11及び横配線12は、上記したクロストークの低減のため、例えば抵抗率を1×10-4Ωcm以下とする材料からなることが好ましい。縦配線11及び横配線12の寸法としては、厚さ10nm~1mm、幅1μm~1cm、及び、長さ10cm~10mの範囲で適宜設定し得るが、歪みゲージ15との関係において所望の電気抵抗となるようにされる。このような縦配線11及び横配線12の材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、チタン、鉄、鉛、ニッケル、クロム、ITO、IZO、などの金属や金属酸化物、これらからなる合金、さらには、これらの金属粒子と樹脂とを混錬してインキ化したペースト類を用いることができる。縦配線11及び横配線12は、例えば、スパッタ法による成膜やエッチングによるパターン化、めっき成膜エッチングによるパターン化、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法によって形成させることができる。
【0025】
他方、歪みゲージ15は、上記したクロストークの低減のため、1つあたりの電気抵抗を配線1本あたりの電気抵抗の100倍以上とされることが好ましい。このような電気抵抗を得るために、例えば抵抗率を1×10-4Ωcmよりも大きくする材料を用いることが好ましい。このような材料として、例えば、グラファイトやカーボンブラックなどのカーボン系材料、ニッケル-鉄-クロムの合金であるニクロム系合金材料、そして導電性高分子材料などを用い得る。これらはいずれも変形に応じて電気抵抗を変化させ、歪みゲージ15として好適に用い得る。なお、抵抗率の低い材料であっても、厚さや幅を小さくしたり、長さを長くしたりすることで電気抵抗を大きくでき、歪みゲージ15として用いることができる。このような歪みゲージ15は、例えば、スパッタ法による成膜やメッキ成膜をした上でエッチングによってパターン化して形成したり、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの印刷技術によって形成したりすることができる。
【0026】
以上のような圧力分布センサ10であれば、基板である可撓性のシート体1自体を打ち抜いて舌状部3を片持ち梁に形成することで、2次元面内の圧力分布を計測できる。つまり、気体や液体などの流体の非常に小さな圧力の微少な変化であっても、その変化による流れを精度良く検出することができ、圧力分布を計測できるのである。
【0027】
特に、舌状部3は、上記したように舌先端3aに向けて部分的に幅を減じたくびれ部として残存部4を有しており、かかるくびれ部である残存部4を優先的に撓ませる。詳細には、長さLの片持ち梁に荷重Pがかかったときの変位Wの式によって説明できる。片持ち梁の材料のヤング率をE、断面二次モーメントをIとして変位Wは以下のように表せる。
W=PL/3EI (式1)
断面二次モーメントIは、梁の断面を長方形とする場合、その幅をh、厚さをbとして以下のように表せる。
I=bh/12 (式2)
つまり、幅hの3乗が断面二次モーメントIに寄与し、変位Wに寄与することが判る。よって、幅hを小さくすることで変位Wを大きくすることができる。つまり、上記したようにくびれ部を与えることで舌状部3の可動片としての変形を大きくでき、圧力の微小な経変化でもさらに精度よく検出できる。
【0028】
[動作試験]
上記したような圧力分布センサを製作して、空気を部分的に吹き付けたときの動作試験を行ったので、その詳細について図4乃至図9を用いて説明する。
【0029】
<製作>
まず、動作試験に用いる圧力分布センサを製作した。
【0030】
幅、長さともに200mm、厚さ0.1mmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用意した。このPENフィルムのヤング率を引張試験によって測定したところ5.0GPaであった。
【0031】
図4に示すように、このPENフィルムをシート体1として、その表面に配線及び歪みゲージを形成させた上で、舌状部3を形成させた。
【0032】
詳細には、図4(a)に示すように、まず、PENフィルムからなるシート体1の上に、縦配線11を形成させた。縦配線11は、印刷用の銀ペースト(GOAGT93C、DIC株式会社製)のスクリーン印刷によって得た。縦配線11は、幅0.2mm、厚さ10μm、長さを150mmとして、横方向に10mm間隔で13か所に配置された。印刷後に銀ペーストはシート体1とともに150℃で30分間加熱されて、硬化された。縦配線11の1本あたりの抵抗値を測定したところ21Ωであった。寸法に照らし合わせて算出される縦配線11の抵抗率は4×10-4Ωcmとなった。
【0033】
図4(b)に示すように、縦配線11の上にドット状の絶縁層13をスクリーン印刷にて形成させた。絶縁層13は、上面視で一辺の長さを0.5mmとする正方形とし、厚さを20μmとした。絶縁層13は、縦及び横の両方向に10mm間隔で13行13列の配列とされた。絶縁層13の材料としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)、ポリイミド、フェノール樹脂(ベークライト)、ユリア樹脂、メラミン樹脂、を例示できる。
【0034】
図4(c)に示すように、横配線12を絶縁層13の上に重ねて形成させた。横配線12も縦配線11と同様に、印刷用の銀ペーストのスクリーン印刷によって得た。横配線12は、幅0.2mm、厚さ35μm、長さ150mmとして、縦方向に10mm間隔で13か所に配置された。縦配線11及び絶縁層13の上に配置させるため、縦配線11及び絶縁層13の厚さの合計よりも厚さを大とした。印刷後に銀ペーストはシート体1とともに150℃で30分間加熱されて、硬化された。横配線12の1本あたりの抵抗値を測定したところ7.0Ωであった。寸法に照らし合わせて算出される横配線12の抵抗率は縦配線11と同じく4×10-4Ωcmとなった。
【0035】
以上により、169個の交差点を有するパッシブマトリクスとなる配線が形成された。このとき、縦配線11及び横配線12の導通をテスターで調べたところ、短絡はなく、絶縁層13によって縦配線11及び横配線12のそれぞれは互いに電気的に絶縁されていることが確認された。
【0036】
さらに、図4(d)に示すように、歪みゲージ15を形成させた。歪みゲージ15は、導電性のカーボンペースト(CH-8、十条ケミカル株式会社製)によって得た。両極を縦配線11及び横配線12のそれぞれに接続させるよう縦配線11及び横配線12の交差点を跨がせて、配線によってできる正方形の対角線方向に延ばし中間部で折り返すように配置した。
【0037】
また、図5を併せて参照すると、歪みゲージ15は、電極部分16と中間部17の幅を広くして、長さあたりの電気抵抗を上記した対角線の方向に延びる部分18で大きくするようにされた。具体的には、電極部分16の幅W1を0.5mm、中間部17n幅W2を0.1mm、その他の部分の幅W3を80μmとした。また、電極部分16から中間部17までの距離を7mmとし、厚さを45μmとした。
【0038】
歪みゲージ15は、このような形状に上記したカーボンペーストを印刷した上で、シート体1とともに150℃で30分間加熱され、硬化されることで得られた。歪みゲージ15の1つあたりの電気抵抗は40kΩであった。つまり、縦配線11及び横配線12の両者に対して100倍以上の電気抵抗となった。また、寸法に照らし合わせて算出される歪みゲージ15の抵抗率は1×10-2Ωcmとなった。
【0039】
次いで、図4(e)に示すように、残存部4を残した環状の打ち抜き部2を切除して、舌状部3を形成し、素子20を13行13列のマトリクス状に配置した圧力分布センサ10を得た。打ち抜き部2は、炭酸ガスレーザーによって切断加工した。
【0040】
図6を併せて参照すると、舌状部3は略楕円形に形成され、かかる楕円形の長軸にあたる残存部4から先端までの長さ3Lを7.5mm、短軸にあたる幅3Wを5.0mmとされた。また、残存部4の長さ及び幅はともに1.0mmとした。打ち抜き部2は舌状部3及び残存部4を内側に形成し、外周側を略正方形の形状とした。かかる正方形の辺の長さ2Lは8.0mmとされた。
【0041】
<動作試験1>
このようにして製作された圧力分布センサ10を用い、マトリクス状に複数形成された可動片である舌状部3のうちの1つだけを変位させたときに、隣接して配置された他の舌状部3に与える影響について調査した。
【0042】
まず、図7に示すように、1つの素子20と、これに対して縦方向及び横方向に隣接する他の素子21~24について、気流の発生していない状態で、すなわち舌状部(舌状片)3の変位のない状態で、縦配線11及び横配線12を含む歪みゲージ15の電気抵抗を計測した。計測にはインピーダンスアナライズ装置を用いた。その結果、全ての素子について電気抵抗は40kΩであった。
【0043】
そして、エアブロー装置を用い、直径5mmの円筒形のノズルから中央の素子20に対して気流を吹きかけた。このとき、気流が素子20の舌状部3のみに吹きかかるようにし、周囲のシート体1や他の素子21~24に吹きかかることのないようにした。エアブローによる気流の流量を変化させてそれぞれの素子の電気抵抗を計測した。
【0044】
図8に示すように、気流を吹きかけた中央の素子20については、気流の流量の増大に伴って電気抵抗も増大した。これに対して、気流を吹きかけなかった素子21~24については、気流の増大によらず、常に電気抵抗は40kΩを示した。つまり、可撓性のシート体1を用いたにも関わらず、舌状部3の可動片としての動作が他の素子の電気抵抗の計測に影響を与えないのである。
【0045】
<動作試験2>
【0046】
さらに、上記した13行13列の素子20を有する圧力分布センサ10を用いて、全ての素子を用いた動作試験を行った。
【0047】
まず、無風状態において、全ての素子20について縦配線11及び横配線12を含む歪みゲージ15の電気抵抗を計測した。このとき、全ての素子20についての電気抵抗は40kΩであった。さらに、エアブロー装置を用い、直径8cmの円筒形のノズルから圧力分布センサ10の中央に気流を吹きかけた。この時の各素子の電気抵抗を測定し、40kΩからの差分を得て、抵抗変化量として記録した。
【0048】
図9に示すように、得られた抵抗変化量は13行13列の素子のうち、7行7列の中央の素子について最も大きく、周囲に向けて小さくなった。つまり、圧力分布センサ10の中央に向けた気流による各素子20の舌状部3の動作に基づく残存部4近傍の歪みをそれぞれ計測できる。これによって、気流に基づくシート体1に沿った2次元面内の圧力分布を計測することができる。
【0049】
以上のように、圧力分布センサ10によれば、2次元面内の圧力分布を計測できる。また、シート体1は可撓性を有するため、この2次元面を曲面にするなど計測のための設置場所を比較的自由に選択できる。他方、このような可撓性を有するシート体1を基板として用いているにも関わらず、環状の打ち抜き部2によって舌状部3を形成したことで、複数の素子20のそれぞれが互いに影響を与えることなく残存部4近傍の歪みを計測できて、流体の非常に小さな圧力の微少な変化であっても、その変化による流れを精度良く検出することができる。
【0050】
なお、図10に示すように、圧力分布センサとしては、シート体1の他にさらに第2シート体9を備えるようにした圧力分布センサ10’としてもよい。この場合、シート体1と第2シート体9との間にはスペーサ8を挟み、舌状部3の可動片としての動作を確保できるだけの空間を設けるようにする。このようにすることで、可撓性を有するシート体1の全体としての撓みや変位を抑制して、舌状部3へのシート体1からの影響を抑制できる。つまり、より小さな圧力の変化であっても精度よく検出できる。なお、同図においては、縦配線11、横配線12、絶縁層13及び歪みゲージ15の図示を省略している。
【0051】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるだろう。
【符号の説明】
【0052】
1 シート体
2 打ち抜き部
3 舌状部
4 残存部
10 圧力分布センサ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10