(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092803
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】滅菌用包材、滅菌容器および滅菌方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/26 20060101AFI20220616BHJP
A61L 2/28 20060101ALI20220616BHJP
A61L 2/20 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A61L2/26
A61L2/28
A61L2/20 104
A61L2/20 106
A61L2/20 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205722
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潤
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB07
4C058DD15
4C058EE26
4C058JJ14
4C058JJ15
4C058JJ16
(57)【要約】
【課題】大型の滅菌装置を用いなくても、滅菌容器の内部で滅菌処理が可能であり、かつ、滅菌処理の確実性と処理時間の短縮を両立することが可能な滅菌用包材、滅菌容器および滅菌方法を提供する。
【解決手段】滅菌対象物の収容空間に接する面16を有する内層11と、内層11の外側に積層された外層12と、内層11と外層12との間に形成されたインジケータ13と、を備える滅菌用包材10であって、内層11は、少なくとも一部の領域に貫通孔15を有する樹脂フィルムから形成され、インジケータ13は、収容空間から内層11を透過した滅菌剤を検知することが可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌対象物の収容空間に接する面を有する内層と、
前記内層の外側に積層された外層と、
前記内層と前記外層との間に形成されたインジケータと、を備え、
前記内層は、少なくとも一部の領域に貫通孔を有する樹脂フィルムから形成され、
前記インジケータは、前記収容空間から前記内層を透過した滅菌剤を検知することが可能であることを特徴とする滅菌用包材。
【請求項2】
前記内層と前記外層との間に接着層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載の滅菌用包材。
【請求項3】
前記接着層が、前記内層と前記インジケータとの間に積層されていることを特徴とする請求項2に記載の滅菌用包材。
【請求項4】
前記インジケータが、過酸化水素、エチレンオキサイド、オゾン、有機過酸化物から選択される滅菌剤を検知することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の滅菌用包材。
【請求項5】
前記外層が、樹脂フィルムから形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の滅菌用包材。
【請求項6】
前記滅菌対象物の収容空間が、請求項1~5のいずれか1項に記載の滅菌用包材を用いて形成されていることを特徴とする滅菌容器。
【請求項7】
請求項6に記載の滅菌容器を用いて、
前記収容空間に前記滅菌対象物を収容する工程と、
前記収容空間に滅菌剤を封入する工程と、
前記滅菌剤により前記滅菌対象物を滅菌する工程と、
前記インジケータが、前記収容空間から前記内層を透過した前記滅菌剤を検知することにより、滅菌処理の完了を検知する工程と、
を有することを特徴とする滅菌方法。
【請求項8】
前記滅菌剤により前記滅菌対象物を滅菌する工程、またはその後の工程において、前記滅菌用包材を介して前記滅菌剤を前記収容空間の外側に拡散させることを特徴とする請求項7に記載の滅菌方法。
【請求項9】
前記滅菌処理の完了を検知した後の工程において、前記滅菌容器の内部で前記滅菌剤の少なくとも一部を分解させることを特徴とする請求項7または8に記載の滅菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌用包材、滅菌容器および滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、通気性基材の片面のみに表示剤を塗布してインジケータを形成し、滅菌バッグを構成するガス透過性基材の内面にインジケータを固着し、表示剤の塗布面をガス不透過性基材の内面に対向させた滅菌バッグが記載されている。
特許文献2には、基材フィルム上に滅菌インジケータインキ層を形成し、ラミネート層を介して基材フィルムを被覆フィルムに接着し、被覆フィルムの周辺部を滅菌紙の周辺部と熱融着した滅菌バックが記載されている。
【0003】
特許文献3には、過酸化水素の拡散による透過を許容しかつ規制する過酸化水素透過量調整機能性包装体内にプレフィルドシリンジを収納し、包装体内に過酸化水素水を添加した後に包装体を封止し、プレフィルドシリンジの外面を滅菌可能な高濃度の過酸化水素雰囲気を維持した後に、包装体の拡散を利用して過酸化水素を包装体内より流出させる製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4855053号公報
【特許文献2】特開2001-70414号公報
【特許文献3】特許第5325247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の滅菌バッグは、高温水蒸気またはエチレンオキサイドガスを滅菌バッグの外部から内部に透過させる方法の滅菌処理に用いられる。この場合、紙や不織布等のガス透過性の素材を滅菌バッグの少なくとも片側に用いて、滅菌バッグを収容可能なオートクレーブ等のチャンバー内で滅菌処理を行う必要があるため、滅菌装置が大型化する問題がある。
【0006】
特許文献3に記載の製造方法は、包装体の内部に封入した過酸化水素の雰囲気を長時間維持することにより、プレフィルドシリンジの外面が滅菌される。この場合、過酸化水素が存在する範囲は、特許文献1、2に記載の滅菌処理方法より小さくなるが、過酸化水素の拡散速度の調整が困難である。包装体における過酸化水素の拡散速度が速すぎると、滅菌が完了する前に過酸化水素が外部に流出する恐れがある。
【0007】
特許文献3に記載の製造方法において、包装体における過酸化水素の拡散速度を遅くすれば、より確実な滅菌処理が可能になると考えられる。しかし、過酸化水素が包装体の外部に流出するのに時間がかかると、過酸化水素が完全に流出したと見込まれるまで包装体を出荷することができない。このため、滅菌処理中の包装体を過剰に長い期間にわたって保管し続ける必要が生じる恐れがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、大型の滅菌装置を用いなくても、滅菌容器の内部で滅菌処理が可能であり、かつ、滅菌処理の確実性と処理時間の短縮を両立することが可能な滅菌用包材、滅菌容器および滅菌方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、滅菌対象物の収容空間に接する面を有する内層と、前記内層の外側に積層された外層と、前記内層と前記外層との間に形成されたインジケータと、を備え、前記内層は、少なくとも一部の領域に貫通孔を有する樹脂フィルムから形成され、前記インジケータは、前記収容空間から前記内層を透過した滅菌剤を検知することが可能であることを特徴とする滅菌用包材を提供する。
【0010】
前記内層と前記外層との間に接着層が積層されていてもよい。
前記接着層が、前記内層と前記インジケータとの間に積層されていてもよい。
前記インジケータが、過酸化水素、エチレンオキサイド、オゾン、有機過酸化物から選択される滅菌剤を検知してもよい。
前記外層が、樹脂フィルムから形成されていてもよい。
また、本発明は、前記滅菌対象物の収容空間が、前記滅菌用包材を用いて形成されていることを特徴とする滅菌容器を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記滅菌容器を用いて、前記収容空間に前記滅菌対象物を収容する工程と、前記収容空間に滅菌剤を封入する工程と、前記滅菌剤により前記滅菌対象物を滅菌する工程と、前記インジケータが、前記収容空間から前記内層を透過した前記滅菌剤を検知することにより、滅菌処理の完了を検知する工程と、を有することを特徴とする滅菌方法を提供する。
【0012】
前記滅菌剤により前記滅菌対象物を滅菌する工程、またはその後の工程において、前記滅菌用包材を介して前記滅菌剤を前記収容空間の外側に拡散させてもよい。
前記滅菌処理の完了を検知した後の工程において、前記滅菌容器の内部で前記滅菌剤の少なくとも一部を分解させてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、滅菌剤の透過性が低い滅菌用包材を用いることにより、大型の滅菌装置を用いなくても、滅菌容器の内部で滅菌処理が可能である。また、インジケータが滅菌剤を検知するまでの時間を調整することで、滅菌処理の確実性と処理時間の短縮を両立することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の滅菌用包材を模式的に示す断面図である。
【
図2】第2実施形態の滅菌用包材を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施形態の滅菌容器を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に、第1実施形態の滅菌用包材10を模式的に示す。また、
図2に、第2実施形態の滅菌用包材17を模式的に示す。また、
図3に、実施形態の滅菌容器20を模式的に示す。
【0016】
滅菌用包材10,17は、滅菌容器20を形成するために用いることができる。滅菌容器20は、滅菌対象物の収容空間23を有する収容部21を備えている。収容空間23は、収容部21の内部空間である。収容部21を形成する滅菌用包材10,17,18の周囲は、封止部22により封止されている。
【0017】
滅菌用包材10,17には、インジケータ13が積層されている。収容空間23に接する面16とインジケータ13との間は、内層11により被覆されている。滅菌用包材10,17は、収容空間23に接する面16を有する内層11と、内層11の外側に積層された外層12と、内層11と外層12との間に形成されたインジケータ13と、を備えている。滅菌用包材10,17が積層フィルムであってもよい。
【0018】
滅菌用包材10,17の内層11は、少なくとも一部の領域に貫通孔15を有する樹脂フィルムから形成されている。内層11と外層12との間には、内層11と外層12とを接着するため、接着層14が積層されている。第1実施形態の滅菌用包材10の場合は、接着層14が、内層11とインジケータ13との間に積層されている。この場合は、接着層14を通じて滅菌剤が透過し、インジケータ13に到達してもよい。第2実施形態の滅菌用包材17の場合は、接着層14が、外層12とインジケータ13との間に積層されている。この場合は、接着層14を介することなく、滅菌剤が貫通孔15からインジケータ13に到達してもよい。
【0019】
滅菌用包材18の構成は特に限定されないが、滅菌用包材18が、インジケータ13を有する滅菌用包材10,17であってもよい。滅菌用包材18の構成が、インジケータ13を省略したこと以外は、滅菌用包材10,17と同様でもよい。滅菌用包材18が、インジケータ13を有することなく、接着層14を介して内層11と外層12とを積層した積層体であってもよい。滅菌用包材18の内層11には、全面にわたって貫通孔15を省略してもよい。滅菌用包材10,17,18の外層12は、収容空間23の密封性の観点から、少なくとも1層に、貫通孔を有しない樹脂フィルムを含むことが好ましい。
【0020】
内層11の材質としては、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、アイオノマー樹脂等から選択される熱可塑性樹脂が挙げられる。内層11が2種以上の材質を積層して形成されてもよい。内層11が2層以上から構成される場合、貫通孔15がそれぞれの内層11を連続するように貫通して形成されることが好ましい。
【0021】
内層11の材質の選択は、貫通孔15を通じた滅菌剤の透過性に加えて、滅菌剤に対する耐久性等を考慮することが好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂フィルムまたは飽和ポリエステル系樹脂フィルムが特に好適である。内層11は、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂であることが好ましい。この場合、滅菌用包材10,17,18の内層11同士を対向させ、熱可塑性樹脂の熱溶融によって封止部22を形成することができる。内層11の封止部22を形成する領域に貫通孔15が存在する場合には、熱溶融の際に封止部22の貫通孔15が狭窄、閉鎖等を生じてもよい。
【0022】
内層11の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば1~100μm程度の範囲内で適宜設定することができる。内層11の厚さの具体例としては、例えば、1μm、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、これらの値の中間の値、近傍の値等が挙げられる。
【0023】
内層11に貫通孔15を形成する穿孔方法としては、内層11を他の層と積層する前に、針状の突起を有する治具を用いて、内層11を形成する樹脂フィルムを処理してもよい。治具がローラ状であると、ローラの回転に伴って、樹脂フィルムを搬送しながら、連続的に貫通孔15を形成することができる。貫通孔15の形状は特に限定されないが、例えば、円形、楕円形、多角形等が挙げられる。針状の突起は、例えば、円錐状、楕円錐状、多角錐状等の形状であってもよい。穿孔時に突起を加熱して、周囲のフィルムを軟化、溶融、気化、除去、収縮等により開口させてもよい。穿孔屑の発生を抑制するため、周囲のフィルムを収縮させてもよい。周囲のフィルムの隆起を抑制するため、周囲のフィルムを厚さ方向に加圧してもよい。
【0024】
貫通孔15の寸法は、特に限定されるものではないが、例えば1μm~2mm程度の範囲内の直径で適宜設定することができる。貫通孔15の寸法の具体例としては、例えば、1μm、5μm、10μm、20μm、50μm、100μm、200μm、500μm、1mm、1.5mm、2mm、これらの値の中間の値、近傍の値等が挙げられる。貫通孔15の形状が円形でない場合は、最大径、最大径と最小径との平均値、断面積に対応する円の直径等を貫通孔15の寸法としてもよい。
【0025】
隣接する貫通孔15の間隔は、特に限定されるものではないが、例えば10~1000μm程度の範囲内で適宜設定することができる。収容空間23に接する面16に沿った貫通孔15の形状が、インジケータ13の形状より小さいことが好ましい。内層11に形成される貫通孔15の個数は、特に限定されないが、例えば、滅菌用包材10,17の厚さ方向でインジケータ13と重なり合う領域において、1~10000個程度、またはそれ以上の個数が挙げられる。さらに、貫通孔15が、滅菌用包材10,17の厚さ方向に垂直な面内において、インジケータ13から離れた領域に存在してもよい。貫通孔15を透過した滅菌剤がインジケータ13に到達しやすい範囲に、貫通孔15が形成されていることが好ましい。
【0026】
貫通孔15の分布は、特に限定されるものではないが、内層11の表面積当たりの貫通孔15の個数、内層11の表面積に対して貫通孔15の断面積の合計が占める割合(開口率)等で表すことができる。単位面積当たりの貫通孔15の個数としては、例えば、1~10000個/cm2等が挙げられる。貫通孔15の開口率としては、例えば、0.1~50%等が挙げられる。貫通孔15を有する内層11は、不織布に比べて貫通孔15の配置が規則的または局所的となり、樹脂フィルムの光透過性が低下しにくい。このため、滅菌用包材10,17を通じた滅菌対象物の視認性を確保することができる。
【0027】
貫通孔15は、滅菌用包材10,17の厚さ方向でインジケータ13と重なり合う領域に形成されてもよい。貫通孔15が、滅菌用包材10,17の厚さ方向に垂直な面内において、インジケータ13と異なる領域、例えば、インジケータ13の近傍の領域に形成されてもよい。内層11と外層12との間で、滅菌剤が接着層14を面内方向に透過してもよい。貫通孔15の分布は、インジケータ13と重なり合う領域またはその近傍の範囲内で特定してもよい。インジケータ13と重なり合う領域と、それ以外の領域とで、貫通孔15の分布が同一でもよく、異なってもよい。滅菌用包材10,17の全面にわたって内層11に均等に貫通孔15が分布する場合、インジケータ13に対する貫通孔15の位置合わせが不要となり、生産性が向上する。
【0028】
外層12の材質としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、エラストマー、紙、セロハン、金属箔等の1種または2種以上が挙げられる。外層12が2種以上の材質を積層して形成されてもよい。外層12が樹脂層を含む場合に、外層12の樹脂層を形成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、アイオノマー樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0029】
外層12に使用される樹脂層が、内層11に使用される樹脂層と同一でもよく、それぞれの樹脂層が異なってもよい。内層11が熱溶着する温度条件において、外層12が熱溶融しない樹脂層から形成されてもよい。外層12の厚さは、特に限定されず、内層11より薄くてもよく、内層11と同程度の厚さでもよく、内層11より厚くてもよい。外層12は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム等の二軸延伸樹脂フィルムを有してもよい。二軸延伸樹脂フィルムの厚さは、例えば1~50μm程度でもよい。
【0030】
滅菌用包材10,17,18の内層11または外層12の樹脂層を形成する材質において、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂、環状オレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0031】
ポリエチレン(PE)系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、酸変性ポリエチレン等が挙げられる。
ポリプロピレン(PP)系樹脂としては、ホモポリプロピレン、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、酸変性ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレン(CPP)、延伸ポリプロピレン(OPP)、等が挙げられる。
環状オレフィン系樹脂としては、ノルボルネン等の環状オレフィンとエチレン等の非環状オレフィンとの共重合体(COC)、ノルボルネン等の環状オレフィンの1種または2種以上からなるポリマー(COP)が挙げられる。
【0032】
滅菌用包材10,17,18の内層11または外層12の樹脂層を形成する材質において、ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、結晶性ポリエステル、非晶性ポリエステル、変性ポリエステル等が挙げられる。
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0033】
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
アイオノマー樹脂としては、エチレン系アイオノマー樹脂、スチレン系アイオノマー樹脂、フッ素系アイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0034】
滅菌用包材10,17,18の内層11および外層12を形成する樹脂層等は、適宜の方法で積層することができる。複数の樹脂層等を積層する方法としては、特に限定されるものではないが、熱ラミネート、押出ラミネート、共押出ラミネート、ドライラミネート等が挙げられる。内層11と外層12との間には、接着剤、接着性樹脂、粘着剤、アンカー剤等を用いて、接着層14を積層してもよい。内層11または外層12が他の層と対向する面には、他の層との密着性、接着性等を向上する目的で、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、放電処理、火炎処理等の表面処理を施してもよい。
【0035】
接着層14を形成する材料としては、特に限定されないが、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、ポリエチレンイミン、チタンアルコキシド等の有機チタン化合物などが挙げられる。貫通孔15を有する内層11の接着に用いる場合は、短時間で接着が完了し、貫通孔15に侵入しにくい材料が好ましい。接着層14は1層でもよく、2層以上の組み合わせでもよい。接着層14の厚さ(接着される層間に2層以上の接着層14を有する場合は合計の厚さ)は、特に限定されないが、例えば1~10μm程度でもよい。接着層14は薄いため、貫通孔15とインジケータ13との間に介在しても、滅菌剤の透過を妨げにくい。特に図示しないが、外層12が2層以上を有する場合の外層12の層間にも、接着層14を積層することができる。
【0036】
滅菌用包材10,17は、インジケータ13が形成されていない領域に、または滅菌用包材10,17の厚さ方向におけるインジケータ13の外側の層として、バリア性を有するバリア層を有してもよい。例えば、外層12が2層以上の層を含む場合に、そのうち少なくとも1層をバリア層としてもよい。バリア層が滅菌用包材10,17,18の全面にわたって形成されてもよく、滅菌用包材10,17,18の一部の領域においてバリア層が省略されてもよい。
【0037】
バリア層によって透過が抑制される対象物としては、水蒸気、酸素(O2)等の少なくとも1種以上が挙げられる。バリア層が、滅菌剤の透過を抑制してもよい。バリア性を有する層を形成する材質、すなわち、バリア性材料は、バリア性の目的、程度等に応じて適宜選択することができる。バリア性材料の具体例としては、アルミニウム箔等の金属箔、アルミニウム蒸着層等の金属層、シリカやアルミナ等の無機化合物、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のバリア性樹脂が挙げられる。
【0038】
収容部21において収容空間23の両側をそれぞれ別の滅菌用包材10,17,18で覆う場合、両方の滅菌用包材10,17,18にバリア層を積層してもよく、一方の滅菌用包材10,17,18のみにバリア層を積層してもよい。両方の滅菌用包材10,17,18において、上述のバリア層を省略してもよい。バリア層が積層される滅菌用包材10,17,18は、インジケータ13が形成されている滅菌用包材10,17であってもよく、インジケータ13が形成されていない滅菌用包材18であってもよい。
【0039】
インジケータ13は、内層11または外層12のいずれかの面の適宜の領域に対して、印刷、塗布、接着、混練等により、滅菌用包材10,17中に積層することができる。インジケータ13は、滅菌容器20に収容された滅菌対象物の滅菌処理に使用される滅菌剤を検知することが可能な材料であればよい。収容部21において収容空間23の両側をそれぞれ別の滅菌用包材10,17,18で覆う場合、両方の滅菌用包材10,17にインジケータ13を形成してもよく、一方の滅菌用包材10,17のみにインジケータ13を形成してもよい。
【0040】
インジケータ13のクラス分類は特に限定されず、JIS T11140-1(ISO11140-1)におけるクラス1(プロセスインジケータ)、クラス2(特定の試験用インジケータ)、クラス3(シングルバリアブルインジケータ)、クラス4(マルチバリアブルインジケータ)、クラス5(インテグレーティングインジケータ)、クラス6(エミュレーティングインジケータ)から、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0041】
滅菌剤としては、殺菌剤、消毒剤等として使用できる薬剤であれば特に限定されないが、ガスまたは蒸気として収容空間23に充満させることが可能な滅菌剤が好ましい。滅菌用包材10,17,18のうち、少なくとも貫通孔15を有する内層11に対して、適度な透過性を有する滅菌剤が好ましい。また、滅菌用包材10,17,18を介して収容部21の外側に拡散させることが可能な滅菌剤が好ましい。また、収容部21内で分解させることが可能な滅菌剤が好ましい。
【0042】
滅菌剤の具体例としては、過酸化水素、エチレンオキサイド、オゾン、有機過酸化物から選択される少なくとも1種が挙げられる。有機過酸化物としては、過ギ酸、過酢酸等の有機過酸が挙げられる。その他の滅菌剤としては、ホルムアルデヒド等のアルデヒド系滅菌剤、二酸化塩素等の塩素系滅菌剤等が挙げられる。2種以上の滅菌剤を併用してもよい。2種以上の滅菌剤を用いる場合は、インジケータ13が少なくとも1種の滅菌剤を検知すればよい。
【0043】
インジケータ13は、滅菌剤の接触または滅菌剤との化学反応により、外観変化を生じる指示薬を含有することで、ケミカルインジケータとして機能する。インジケータ13の外観変化としては、変色(ある色から別の色への変化)、発色(無色から有色への変化)、色の消失(有色から無色への変化)等が挙げられる。
【0044】
インジケータ13は、滅菌剤の存在を検知したときに速やかに外観変化を生じてもよく、滅菌剤の存在が所定の条件で継続したときに徐々に外観変化を生じてもよい。インジケータ13は、滅菌剤を検知した後で滅菌剤が不存在となったときに、可逆的な外観変化を生じてもよい。インジケータ13が滅菌剤により不可逆的に外観変化を生じ、その後、滅菌剤が不存在となっても、滅菌剤を検知したときの外観を維持してもよい。
【0045】
滅菌剤の指示薬として用いられる化合物としては、特に限定されるものではないが、酸塩基指示薬、吸着指示薬、金属指示薬、有機色素等が挙げられる。色素の発色または変色を調整するため、助剤等の添加剤を用いてもよい。
【0046】
酸塩基指示薬としては、ブロモチモールブルー(ブロモチモールスルホンフタレイン)、フェノールレッド(フェノールスルホンフタレイン)、クレゾールレッド(クレゾールスルホンフタレイン)、コンゴーレッド、フェノールフタレイン、クレゾールフタレイン、マラカイトグリーン、メチルバイオレット等が挙げられる。
【0047】
吸着指示薬としては、例えば、コンゴーレッド、フェノールレッド、メチルレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモフェノールブルー、チタンイエロー、エオシン、フルオレセイン、ジクロルフルオレセイン、ジブロムフルオレセイン、アルミノン、アリザリン、クルクミン等が挙げられる。吸着指示薬をアルミニウム、チタン、ジルコニウム等の金属イオンと錯形成して得られる金属錯体を滅菌剤の指示薬として用いてもよい。
【0048】
金属指示薬としては、金属イオンと錯イオンを形成して、変色または発色する化合物が挙げられる。金属指示薬の具体例としては、モーダントブルー29、エリオクロムブラックT、キシレノールオレンジ、アリザリンレッドS、1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール、ムレキシド、ヘマトキシリン、フタレインコンプレクソン、メチルチモールブルー等の有機色素;タイロン、N-ベンゾイル-N-フェニルヒドロキシルアミン、スルホサリチル酸二水和物、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物、ジメチルグリオキシム、オキシン、ジチゾン等のキレート剤が挙げられる。金属指示薬をアルミニウム、チタン、ジルコニウム等の金属イオンと錯形成して得られる金属錯体を滅菌剤の指示薬として用いてもよい。
【0049】
吸着指示薬または金属指示薬を金属イオンと併用して滅菌剤の指示薬とする場合には、エチルアセトアセテート、アセチルアセトネート、トリエタノールアミネート等の多価配位子を有する金属キレート化合物等を吸着指示薬または金属指示薬と混合することで、滅菌剤の指示薬を調製してもよい。変色速度の制御等の目的で、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを配合してもよい。
【0050】
有機色素としては、上述した指示薬の中に例示したもの以外にも、各種のトリフェニルメタン系色素、シアニン色素、アゾ色素、アントラキノン系色素などが挙げられる。
指示薬が滅菌剤と接触することにより発色する場合は、滅菌剤と接触する前の指示薬が無色または淡色であってもよい。この場合、滅菌剤と接触した状態を容易に識別することができる。
【0051】
滅菌剤の指示薬から塗布、印刷等によりインジケータ13を作製するには、指示薬とバインダー、溶剤等のビヒクル(展色剤)を含有するインジケータインクを用いることができる。インジケータインク用のバインダーとしては、メチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0052】
インジケータインク用の溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0053】
インジケータインクを内層11または外層12の適宜の領域に塗布、印刷等で層状のインジケータインク層を形成することで、インジケータ13を形成することができる。インジケータ13におけるインジケータインク層の平面形状は特に限定されず、所定の範囲または全面にわたるベタ状であってもよく、文字、図形、模様などを構成するようにパターン化されたパターン状であってもよい。例えば、縦横の各辺または短辺が1~2cm程度の範囲内にインジケータ13を形成してもよい。
【0054】
内層11にインジケータ13を形成した上に、外層12を積層してもよい。外層12にインジケータ13を形成した上に、内層11を積層してもよい。内層11と外層12との間に接着層14が介在する場合は、接着層14の厚さの範囲内でインジケータ13が形成されてもよい。インジケータ13を印刷等で形成する場合は、内層11または外層12の厚さに比べて、インジケータ13の厚さを小さくすることができる。層間の接着に使用される接着層14の厚さは、特に限定されないが、例えば1~10μm程度でもよい。
【0055】
印刷方式は、特に限定されないが、グラビア印刷、凸版印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット等が挙げられる。第1実施形態の滅菌用包材10の場合は、貫通孔15を有しない外層12にインジケータ13を形成すると、インジケータインクの塗布が容易になる。第2実施形態の滅菌用包材17の場合は、外層12の上に接着層14を形成した上に、インジケータインクをインクジェットのように非接触の印刷方式を用いる等して、接着層14の上にインジケータ13を形成してもよい。
【0056】
特に図示しないが、印刷基材にインジケータ13を形成してインジケータ片を作成してもよい。この場合は、インジケータ片を、内層11または外層12に接着等で固定してもよい。印刷基材が小片状である場合は、印刷基材ごとインジケータ13を内層11と外層12との間に封入してもよい。印刷基材が離型性を有する場合は、印刷基材から小片状のインジケータインク層が剥離するようにして、内層11または外層12にインジケータインク層を転写してもよい。
【0057】
インジケータ13または接着層14の一部が、貫通孔15の内部に入り込んでもよいが、貫通孔15を通じて、インジケータ13または接着層14が収容空間23に接する面16に突出しないことが好ましい。このため、インジケータ13または接着層14を形成するための材料が貫通孔15を有する内層11に接している間、材料の流動性が適度に低くなるように制御することが好ましい。
【0058】
滅菌容器20の容器としての形状は、特に限定されないが、例えば、袋状容器、箱状容器、トレイ容器、カップ容器、ブリスター容器等が挙げられる。2枚の滅菌用包材10,17,18の間に収容空間23を形成するには、軟包装袋のように柔軟な収容部21を形成し、滅菌対象物の形状に合わせて収容部21が膨らむようにしてもよい。この場合は、滅菌対象物を収容する前を滅菌容器20に扁平にすることができるので、空の滅菌容器20を多数積み重ねても、かさばらない利点がある。
【0059】
収容空間23における滅菌対象物の移動を規制するため、収容部21が滅菌対象物を支持する構造物を有してもよい。滅菌対象物を支持する構造物が、収容部21に固定されてもよい。滅菌対象物を支持する構造物が、収容部21に固定されることなく、収容空間23に収容されてもよい。ブリスター容器等のように、収容部21自体が滅菌対象物を支持する構造を有してもよい。
【0060】
収容部21が軟包装袋から形成される場合は、収容部21の周囲の一部において、封止部22の形成を省略し、収容空間23に挿入するための開口部として開放してもよい。例えば、平面形状が矩形状の収容部21の場合は、四辺のうち三辺にあらかじめ封止部22を形成し、残る一辺の開口部から滅菌対象物を収容空間23に収容した後、開口部の辺に封止部22を形成することができる。
【0061】
収容部21において収容空間23の両側をそれぞれ覆う一対の滅菌用包材10,17,18のうち、少なくとも一方において、収容部21の内面が凹、外面が凸となるような凹凸を形成してもよい。凹凸が滅菌対象物を収容可能な寸法を有してもよい。滅菌対象物を収容可能な収容空間23を凹凸状に形成した容器本体と、扁平なシート状の蓋材とを組み合わせることで、滅菌容器を構成することができる。収容空間23の周囲は、蓋材と接合することが可能なフランジ状に形成してもよい。空の容器本体に滅菌対象物を収容した後、収容空間23の周囲のフランジ部を蓋材と接合することで、封止部22を形成することができる。
【0062】
滅菌対象物としては、特に限定されるものではないが、容器、医療機器、医療用品等が挙げられる。滅菌対象物が容器である場合、医薬品、動植物の細胞、組織、培養物等の内容物が封入されている容器包装体において、容器の外面等を滅菌対象としてもよい。2点以上または2種以上の滅菌対象物が、同時に収容空間23に収容されていてもよい。
【0063】
滅菌対象物となる容器としては、アンプル、バイヤル、シリンジ、バッグ等が挙げられる。医療機器または医療用品は、特に限定されるものではないが、滅菌容器20に収容して流通し得る小型の機械器具等として、メス、ナイフ、はさみ、さじ、へら、ピンセット、カテーテル、シリンジ、注射針、鉗子、縫合糸、縫合針、包帯、ガーゼ、レンズ、手袋、指サック等が挙げられる。
【0064】
滅菌容器20の収容空間23に滅菌剤を封入する工程は、滅菌対象物を収容する工程と同時に行ってもよい。滅菌剤の封入工程および滅菌対象物の収容工程の順序は限定されず、いずれが前でも後でもよい。滅菌対象物を収容空間23に収容する際に、滅菌対象物と滅菌剤とを同一の開口部から入れてもよい。滅菌剤を収容空間23に供給する際、滅菌剤を水溶液等の溶液としてもよく、カプセル等の容器または多孔質物体等の担体に保持させてもよい。この場合、収容部21を閉鎖した後で、溶液、容器、担体等から滅菌剤を揮発または放出させることができる。
【0065】
収容部21が滅菌対象物を収容するための開口部とは別に、滅菌容器20が、収容空間23に滅菌剤を注入することが可能な注入口を有してもよい。注入口は、例えば、収容部21または封止部22の一部に穴を形成するか、筒、栓等の部材を付属させることで、形成することができる。滅菌対象物を収容空間23に収容する際に、注入口が開放されていてもよい。注入口が任意の開閉が可能な構造であってもよい。
【0066】
滅菌剤が液状、粉末状、ガス状等の流動状である場合は、チューブ等の管を注出口に通して収容空間23に滅菌剤を供給してもよい。注入口から滅菌剤を注入した後の注入口は、蓋等を用いて閉鎖することができる。ゴム栓等の弾性的な栓を注入口に用いてもよい。この場合は、注射針等を栓に刺し入れて、滅菌剤を収容空間23に注入した後、栓から注射針等を抜き去ると、注射針等により形成された貫通孔が弾性的に閉鎖される。
【0067】
滅菌容器20を用いた滅菌方法は、収容空間23に滅菌対象物を収容する工程と、収容空間23に滅菌剤を封入する工程と、滅菌剤により滅菌対象物を滅菌する工程と、を備えている。上述のように、収容空間23に滅菌対象物および滅菌剤が共存する状態で、所望の期間、保管することにより、滅菌剤が滅菌対象物に作用して、滅菌対象物を滅菌することができる。
【0068】
滅菌用包材10,17,18のうち、少なくとも貫通孔15を有する内層11は、滅菌剤を徐々に透過させる性質を有する。貫通孔15を有する内層11を透過した滅菌剤を、インジケータ13が検知することにより、滅菌処理の完了を検知することができる。貫通孔15を有する内層11における滅菌剤の透過速度は、滅菌剤の種類や環境温度等に応じて、貫通孔15の形状、寸法、位置、分布等により調整することができる。
【0069】
例えば、滅菌処理が完了する時間が最短でT1、最長でT2とし、インジケータ13が滅菌剤を検知する時間が最短でT3、最長でT4とする場合、少なくともT2≦T3の条件を満たすことにより、インジケータ13が滅菌剤を検知した段階で、滅菌処理が完了したことを確保することができる。
【0070】
インジケータ13が例えば変色等の外観変化により、滅菌剤の検知を確認できるようにした構成である場合は、滅菌処理前の外観とは異なる滅菌処理後の外観を呈した段階で、インジケータ13が滅菌剤を検知した状態と判断される。インジケータ13が、滅菌処理前の外観と、滅菌処理後の外観との間に、中間的な外観を呈する場合は、中間的な外観を呈している間に滅菌処理を中止せず、滅菌処理後の外観を呈した段階で滅菌処理を完了させることができる。例えば、インジケータ13が黄色から青色に変化する場合は、中間の緑色を呈する間も、滅菌処理を継続させる。
【0071】
インジケータ13が滅菌剤を検知するのに要する検知時間は、収容空間23に存在する滅菌剤が貫通孔15を有する内層11を透過してインジケータ13に到達するのに要する到達時間と、インジケータ13に到達した滅菌剤がインジケータ13の外観を変化させるのに要する変化時間とを含むことができる。上述したように、貫通孔15を有する内層11が滅菌剤を徐々に透過させる性質を有することから、到達時間には所定の時間を要する。これに比べて、変化時間はごく短時間でもよく、到達時間より短い所定の時間であってもよい。変化時間が、到達時間と同程度の時間であってもよく、到達時間より長くてもよい。
【0072】
到達時間および変化時間を適宜設定することにより、所望の検知時間を得ることができる。到達時間は、貫通孔15の形状、寸法、位置、分布等により、調整することができる。変化時間は、インジケータ13における指示薬の種類、濃度、配置等により、調整することができる。滅菌処理中に滅菌容器20が配置される温度等の環境条件が、到達時間または変化時間に影響する場合は、環境条件も適当な範囲内に調整することが望ましい。
【0073】
貫通孔15を有する内層11が、例えば、貫通孔15以外の領域において均一な樹脂層から形成される場合には、紙や不織布のように、繊維および空隙からなる複合的な構造物と比べて、到達時間をより長くすることができ、しかも、到達時間の調整が容易になる。これにより、滅菌処理が完了するまでに要する時間に対して、所望の検知時間を設定することが容易になる。
【0074】
滅菌用包材10,17,18が徐々に滅菌剤を透過させる場合、滅菌剤により滅菌対象物を滅菌する滅菌工程、または滅菌工程より後の工程において、滅菌用包材10,17,18を介して滅菌剤を収容空間23の外側に拡散させる拡散工程を実施してもよい。滅菌工程において滅菌剤が滅菌用包材10,17,18を透過する拡散速度と、拡散工程において滅菌剤が滅菌用包材10,17,18を透過する拡散速度とは、同一でもよく、異なってもよい。例えば温度の上昇等により拡散速度が速くなる場合は、拡散工程における拡散速度が滅菌工程における拡散速度よりも速くしてもよい。収容部21の密封を維持したまま、収容部21から外部に滅菌剤を拡散させることが好ましい。
【0075】
インジケータ13を有する滅菌用包材10,17のみならず、インジケータ13を有しない滅菌用包材18においても、収容空間23に接する面16を有する内層11に貫通孔15を配置してもよい。内層11に形成する貫通孔15の形状、寸法、位置、分布等により、収容部21の密封を維持したまま、滅菌剤の拡散速度を調整することができる。滅菌用包材10,17,18を通じた滅菌剤の拡散速度が、インジケータ13の有無によらず、同等であってもよい。
【0076】
滅菌用包材10,17,18が実質的に滅菌剤を透過させない場合、一部の滅菌剤は滅菌工程で消費されるが、残りの滅菌剤が収容空間23に残留し得る。滅菌工程の完了が検知された後に、残留した滅菌剤の分解工程を行うことが好ましい。分解工程には、滅菌剤の種類や残留量等に応じて、熱、光、紫外線、放射線、触媒、薬剤等を用いることができる。
【0077】
例えば過酸化水素を滅菌剤とする場合は、残留した過酸化水素が水と酸素に分解されるまで、熱分解等により分解工程を実施してもよい。収容部21の密封を維持したまま、収容部21の内部で滅菌剤の少なくとも一部を分解させることが好ましい。分解工程に用いる処理は、収容部21を密閉したまま、収容部21の外側から収容空間23に到達させることができる物理的作用を用いることが好ましい。
【0078】
上述の拡散工程と分解工程を併用することも可能である。拡散工程だけでは滅菌剤の減少速度が遅い場合であっても、分解工程を併用することにより、収容空間23に残留する滅菌剤の量を効率的に低減させることができる。拡散工程と分解工程を併用する場合も、収容部21の密封を維持したまま、処理を行うことが好ましい。
【0079】
収容部21に滅菌対象物および滅菌剤を密封して滅菌工程を開始した後、拡散工程または分解工程が完了するまで、滅菌容器20を放置してもよい。この場合は、滅菌処理の完了に際して、インジケータ13の外観変化が不可逆的であることが好ましい。上述の拡散工程により、収容空間23から滅菌剤を放出させることが可能な場合は、分解工程を省略して、拡散工程のみを実施してもよい。所定の条件を設定することにより、適宜の時間の放置を継続するだけで、拡散工程または分解工程を完了させることも可能である。
【0080】
滅菌処理の完了に際して、インジケータ13の外観変化が可逆的である場合は、収容部21の外部からカメラ等を用いて、インジケータ13の外観変化を自動で監視してもよい。インジケータ13の外観変化を自動で監視する場合は、滅菌処理の完了後に、上述の拡散工程または分解工程を自動で開始するように、監視システムと処理システムとを連動させてもよい。
【0081】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10,17…滅菌用包材、11…内層、12…外層、13…インジケータ、14…接着層、15…貫通孔、16…収容空間に接する面、20…滅菌容器、21…収容部、22…封止部、23…収容空間。