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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093419
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】酸素過剰型金属酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20220616BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20220616BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
C01G51/00 A
B01J20/06 C
B01D53/04 220
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068484
(22)【出願日】2022-04-18
(62)【分割の表示】P 2018032692の分割
【原出願日】2018-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2017169736
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆
(72)【発明者】
【氏名】山原 圭二
(72)【発明者】
【氏名】本橋 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 美和
(72)【発明者】
【氏名】田邉 豊和
(57)【要約】
【課題】酸素吸脱着速度及び酸素最大吸着量に優れた、新規な酸素過剰型金属酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】共沈法を用いて、下記一般式(1)で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物の前駆体を得る工程、及び該前駆体を700℃以上、950℃未満で加熱処理する工程を含み、該前駆体を得る工程における加熱処理の時間が6時間以下である、酸素過剰型金属酸化物の製造方法。
jkmn7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
jkmn7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有する結晶相を含み、該結晶相に面欠陥を有し、
前記結晶相は六方晶構造であって、前記面欠陥は[001]と垂直方向に存在する欠陥であることを特徴とする、酸素過剰型金属酸化物。
【請求項2】
前記結晶相中における前記面欠陥の密度が1%以上である、請求項1に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項3】
前記結晶相が、前記一般式(1)中のAとDの秩序配置が乱れた面欠陥を有する、請求項1又は2に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のAがYを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項5】
前記一般式(1)中のDがBaを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項6】
前記一般式(1)中のEがCoを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項7】
Y、Ba及びCoを少なくとも0.8~1.2:0.8~1.2:3.2~4.8の化学量論比で含有し、
粉末X線回折測定において、下記(a)~(d)のすべてを有する回折パターンで特徴付けられるLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有する結晶相を含み、
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
該結晶相の[001]と垂直方向に面欠陥を有することを特徴とする、酸素過剰型金属酸化物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用いた酸素吸脱着装置。
【請求項9】
350℃未満で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、350℃以上で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させる請求項8に記載の酸素吸脱着装置。
【請求項10】
200℃以上400℃以下において、酸素存在下で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させる請求項8に記載の酸素吸脱着装置。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用い、350℃未満で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、350℃以上で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させることにより、酸素を濃縮する酸素濃縮装置。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用い、200℃以上400℃以下において、酸素存在下で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させることにより、酸素を濃縮する酸素濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素過剰型金属酸化物並びに、酸素吸脱着装置及び酸素濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池や排ガス浄化装置の三元触媒など幅広い技術分野において、温度変化により酸素の吸脱着を行うことができる材料の開発が求められている。このような材料としては、ZrO-CeO(CZ)、Bi11(BIMEVOX)、YBaCu6+δ(Y-123)等の金属酸化物(セラミックス材料)が知られている。
【0003】
このような金属酸化物として、本発明者らは、酸素不定比性(不定比量:δ)を持つ酸素過剰型金属酸化物を新たに開発し、既に報告している。すなわち、YBaCo7+δ等の一般式A7+δで表される酸素過剰型金属酸化物が、500℃以下の低温域、特に200~400℃で多量の酸素を急速に吸収し、温度が上がると酸素を放出するという、顕著な熱重量変化特性を備えることを見出し、これが高性能酸素貯蔵用又は酸素選択膜用のセラミックスとして適した性能を有することを報告している(特許文献1参照。)。また、この酸素過剰型金属酸化物は、酸素の吸脱着時に相変化を生じさせていることが報告されている(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/004684号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】O. Chmaissem et al., J. Solid State Chem. 181, 664 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、さらなる検討を進め、上記の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着能力のさらなる向上を模索した。そして、酸素吸脱着能力のうち酸素吸脱着速度及び酸素最大吸着量に改善余地があることを見出した。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、酸素吸脱着速度に優れ、最大酸素吸着量が大きい、新規な酸素過剰型金属酸化物を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、上記の酸素過剰型金属酸化物を用いた、新規な酸素吸脱着装置及び酸素濃縮装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、上述した一般式A7+δで表される従来の酸素過剰型金属酸化物と同様のストイキオメトリを有しながらも、従来よりも酸素脱吸着の裕度(Tolerance)に優れる結晶構造を有する酸素過剰型金属酸化物の合成に成功し、この酸素過剰型金属酸化物を用いることで上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下(1)~(18)に示す具体的態様を提供する。
(1)下記一般式(1):
jkmn7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上で
あり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有する結晶相を含み、該結晶相に面欠陥を有することを特徴とする、酸素過剰型金属酸化物。
【0010】
(2)前記結晶相中における前記面欠陥の密度が1%以上である、上記(1)に記載の酸素過剰型金属酸化物。
(3)前記結晶相は六方晶構造であって、前記面欠陥は[001]と垂直方向に存在する欠陥である、上記(1)又は(2)に記載の酸素過剰型金属酸化物。
(4)前記結晶相が、前記一般式(1)中のAとDの秩序配置が乱れた面欠陥を有する、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
(5)前記一般式(1)中のAがYを含む、上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
(6)前記一般式(1)中のDがBaを含む、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
(7)前記一般式(1)中のEがCoを含む、上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【0011】
(8)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用いた、酸素吸脱着装置。
(9)350℃未満で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、350℃以上で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させる、上記(8)に記載の酸素吸脱着装置。
(10)200℃以上400℃以下において、酸素存在下で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させる、上記(8)に記載の酸素吸脱着装置。
(11)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用い、350℃未満で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、350℃以上で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させることにより、酸素を濃縮する、酸素濃縮装置。
(12)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用い、200℃以上400℃以下において、酸素存在下で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させることにより、酸素を濃縮する、酸素濃縮装置。
(13)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、貯蔵した酸素を用いて酸化反応を行うことを特徴とする、酸化反応装置。
(14)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する温熱を用いて加熱を行うことを特徴とする、加熱装置。
(15)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する冷熱を用いて冷却を行うことを特徴とする、冷却装置。
(16)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する温熱及び/又は冷熱を用いて熱交換を行うことを特徴とする、熱交換装置。
【0012】
また、本発明は、以下(17)に示す態様としても定義可能である。
(17)Y、Ba及びCoを少なくとも0.8~1.2:0.8~1.2:3.2~4.8の化学量論比で含有し、
粉末X線回折測定において、下記(a)~(d)のすべてを有する回折パターンで特徴付けられるLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有する結晶相を含み、
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
該結晶相に面欠陥を有する、酸素過剰型金属酸化物。
【0013】
(18)共沈法を用いて、
下記一般式(1):
jkmn7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物の前駆体を得る工程、及び
該前駆体を700℃以上、950℃未満で加熱処理する工程を含み、
該前駆体を得る工程における加熱処理の時間が6時間以下であることを特徴とする酸素過剰型金属酸化物の製造方法。
【0014】
本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、500℃以下の温度範囲で温度または酸素分圧を上下動させると、低温度領域で異常な熱重量変化を示す。本発明者らの知見によれば、その異常な熱重量変化は、上述した酸素不定比性(不定比量:δ)の変化によるものであることが解明された。すなわち、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、典型的には、350℃未満で急速に多量の酸素を吸着し、350~400℃程度の高温度領域で急速に多量の酸素を放出する。また、200℃以上400℃以下において、酸素存在下で多量の酸素を吸着し、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下では急速に多量の酸素を放出する。
【0015】
しかも驚くべきことに、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、面欠陥の全くない酸素過剰型金属酸化物と比較して、酸素吸脱着速度および最大吸着量が非常に高いという優れた特性を有していることが見出された。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、改善された酸素吸脱着性能を有する新規な酸素過剰型金属酸化物を提供することができる。より具体的には、酸素吸脱着量に優れるのみならず、酸素吸脱着速度が高い酸素過剰型金属酸化物を提供することができるので、酸素貯蔵用又は酸素選択用の実用的なセラミックス材料が実現される。そして、本発明の酸素過剰型金属酸化物を用いることで、実用性能に優れる酸素濃縮装置及び酸素吸脱着装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(001)上のBa,Yからなる六角形ユニット(a)と変形ユニット(b)の模式図である。
図2】比較例1のHAADF-STEM像(1500万倍)である。
図3】実施例1のHAADF-STEM像(1000万倍)である。
図4】実施例1の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気ガス切替時の酸素吸着及び酸素脱着の挙動を示す図である。
図5】実施例2の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気ガス切替時の酸素吸着及び酸素脱着の挙動を示す図である。
図6】実施例3の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気ガス切替時の酸素吸着及び酸素脱着の挙動を示す図である。
図7】比較例1の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気ガス切替時の酸素吸着及び酸素脱着の挙動を示す図である。
図8】実施例1の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気温度スイング時の酸素吸着及び酸素脱着の挙動を示す図である。
図9】実施例2の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気温度スイング時の酸素吸着及び酸素脱着の挙動を示す図である。
図10】実施例3の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気温度スイング時の酸素吸着及び酸素脱着の挙動を示す図である。
図11】比較例1の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気温度スイング時の酸素吸着及び酸素脱着の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0019】
<結晶相の組成・構造>
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、下記一般式(1)で表されるストイキオメトリを有する結晶相を含む。
jkmn7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
【0020】
ここで本明細書において、上記一般式(1)で表される「ストイキオメトリを有する」とは、化学量論的に上記一般式(1)中に示される各元素A、D、E、G及びOを上記一般式(1)に示す割合で少なくとも含み、これらA、D、E、G及びO以外の元素(以下、単に「他の元素」ともいう。)をさらに含有していてもよいことを意味する。すなわち、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、上記一般式(1)中に示される元素以外に、不可避不純物として或いは任意の配合成分として、他の元素を含有していてもよい。
【0021】
上記一般式(1)中、Aは、3価の希土類元素及び2価のCaよりなる群から選択される1種又は2種以上である。3価の希土類元素としては、Sc、Y及び原子番号57~71のランタノイドが挙げられ、これらの中でも、Yが好ましい。また、Aが占めるサイト(Aサイト)には複数の元素が固溶可能であるから、Aが、Y及びCaの2種であることも好ましく、さらにはAが3種以上の元素から構成されていてもよい。ここでAは、Yを50モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。なお、Yの含有割合の上限は特に限定されないが、Aは、Yを100モル%以下含むことが好ましく、より好ましくは99.9モル%以下、さらに好ましくは99.5モル%以下である。
【0022】
上記一般式(1)中、Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上である。アルカリ土類金属元素としては、Sr、Baが挙げられる。なお、本明細書において、Caは、上記一般式(1)中のAに該当するものとし、Dに該当しないものとする。ここでDは、Ba又はSrを含むことが好ましい。また、Dが占めるサイト(Dサイト)には、複数の元素が固溶可能であるから、Dが、Ba及びSrの2種であることも好ましく、さらにはDが3種以上の元素から構成されていてもよい。ここでDは、Baを50モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。なお、Baの含有割合の上限は特に限定されないが、Dは、Baを100モル%以下含むことが好ましく、より好ましくは99.9モル%以下、さらに好ましくは99.5モル%以下である。
【0023】
E及びGは、それぞれ独立して、酸素の4配位をとる元素、すなわち酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上である。本明細書中で酸素4配位元素とは、「4個の酸素原子が配位又は結合した元素」の意味であり、以下も同様である。ここで、EとGは同一の元素とはならないものとして取り扱う。酸素4配位元素は、特に限定されないが、Co、Fe、Zn、Al等が好ましい。また、E及びGのうち、少なくとも1種は遷移金属元素である。ここでEは、Coを含むことが好ましい。また、EとGの合計を基準に、Coを50モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは87.5モル%以上である。なお、Coの含有割合の上限は特に限定されないが、EとGの合計を基準に、Coを100モル%以下含むことが好ましく、より好ましくは99.9モル%以下、さらに好ましくは99.5モル%以下である。
【0024】
上記一般式(1)中、j、k、m及びnは、これらの合計を6として規格化した値である。すなわち、j+k+m+n=6としたとき、それぞれ独立して、j>0、k>0、m≧0、n≧0である。ここで、1.2>j>0.8が好ましく、より好ましくは1.1>j>0.9である。また、1.2>k>0.8が好ましく、より好ましくは1.1>k>0.9である。さらに、4.8≧m+n≧3.2が好ましく、より好ましくは4.4≧m+n≧3.6である。また、nは0であってもよく、その場合は4.8≧m≧3.2が好ましく、より好ましくは4.4≧m≧3.6である。
【0025】
上記一般式(1)中、不定比量δは、0<δ≦1.5であることが好ましく、より好ましくは0<δ≦1.4、さらに好ましくは0<δ≦1.25である。
【0026】
一方で、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物に含まれる結晶相は、Y、Ba及びCoを少なくとも0.8~1.2:0.8~1.2:3.2~4.8の化学量論比で含有し、粉末X線回折測定において、下記(a)~(d)のすべてを有する回折パターンで特徴付けられるLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有する結晶相であってもよい。
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
【0027】
本実施形態の結晶相は、上述の一般式(1)で表されるストイキオメトリを有する結晶相を含むことが特徴であってもよく、それとは別の結晶相(例えば、上記LuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有する結晶相)を含むことが特徴であってもよい。本実施形態の結晶相は、上述の一般式(1)で表されるストイキオメトリを有する結晶相を含むことが好ましい。
【0028】
ここで、粉末X線回折測定においては、各ピークの解析は、六方晶LuBa(Zn,Al)型構造であるとして指数付けして行う。なお、粉末X線回折測定において使用する線源は、特に限定されないが、一般的に用いられているCuKαで測定することができる。粉末X線回折測定の2θの測定間隔は、特に限定されないが、測定精度の観点から0.02°以下が好ましい。
また、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物において、Mn、FeやCo等を多く含む場合には、蛍光X線が発生し、バックグラウンド強度が高くなってしまうことがある。このような場合には、モノクロメータを用いたり、あるいはエネルギーフィルタ機能を持つ検出器を使用することにより、低エネルギーのX線をカットすることができる。また、XRD測定装置に蛍光X線低減モードが搭載されている場合には、それを使用することが好ましい。
また、X線の検出器としては、半導体検出器を用いることが、高感度である点から好ましい。また半導体検出器を用いることは、検出精度の点で、CuKβ線のカットに比較的シンプルなNiフィルターを使用しても検出感度が確保できる点からも好ましい。
【0029】
なお、上記の粉末X線回折測定において、六方晶LuBa(Zn,Al)型の結晶構造と類似の回折ピークを有するとは、下記(a)~(d)の明確なピークをすべて有することを意味する。
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
【0030】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物に含まれ得る結晶相の具体例としては、特に限定されないが、YBaCo7.0+δ、ScBaCo7.0+δ、YSrCo7.0+δ、ScSrCo7.0+δ等が挙げられる。さらに、M. Valldor, Solid State Sciences 6,251(2004) の第254頁の表2及び表3に記載されている化合物、例えばLuBaCo7.0+δ、YbBaCo7.0+δ、TmBaCo7.0+δ、ErBaCo7.0+δ、HoBaCo7.0+δ、DyBaCo7.0+δや、上記例示の化合物において、BaをSrに代えたものが挙げられる。また、具体的な元素の組み合わせとして、YBaCoZnO7.0+δ、YBaCoZn7.0+δ、YBaCoZn7.0+δ、YBaCoFeO7.0+δ、YBaZnFeO7.0+δ等が挙げられる。さらに、これらの化合物において、YをScに代えたもの、BaをSrに代えたもの、又は、YをScに代え、かつ、BaをSrに代えたものも挙げられる。具体的な元素の組み合わせの他の例としては、CaBaZnFe7.0+δ、CaBaZnFeAlO7.0+δ、CaBaCoZnAlO7.0+δ、CaBaCoZnAlO7.0+δ、CaBaCoAlO7.0+δ、CaBaCoFeO7.0+δ、CaBaCoZnFeO7.0+δ、CaBaCoZnFeO7.0+δ、CaBaCoFe7.0+δ、CaBaCoZnFe7.0+δ、CaBaCoZnO7.0+δ、及び、CaBaCoZn7.0+δ等が挙げられる。さらに、これらの化合物において、BaをSrに代えたものも挙げられる。
【0031】
本実施形態において、酸素過剰型金属酸化物のストイキオメトリは、例えば、ICP(Inductively coupled plasma)発光分析法や、ヨウ素滴定法等の酸化還元滴定等により測定することができる。なお、酸素については、製造条件、大気中での放置時間やその温度によって、多少の脱吸着が生じるため、不活性ガス中でアニール処理をした後に測定することが好ましいことは言うまでもない。
【0032】
<面欠陥>
本実施形態の特徴は、上述した酸素過剰型金属酸化物の結晶相が、面欠陥を有することにある。すなわち、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、従来知られている上記一般式A7+δで表される酸素過剰型金属酸化物と同様に上記一般式(1)で表されるストイキオメトリ、および/またはLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有する結晶相を含むことに加えて、該結晶相に面欠陥を有することに一つの特徴がある。
【0033】
結晶の規則性が非常に高く、結晶相に欠陥を全く含まないものと比べて、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、酸素の最大吸着量および酸素吸脱着速度が速く、実用上重要となる単位時間内での酸素の取出し能力に優れることが、本発明者らの知見により見出された。その理由は定かではないが、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物においては、結晶相中に導入された面欠陥により酸化物イオンが高速で移動するための拡散パスが十分に確保され、酸素放出相と酸素吸蔵相の相変化が容易に生じているものと推察される。但し、作用は、これらに限定されない。
【0034】
面欠陥の密度は、透過電子顕微鏡(TEM)および走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察することにより算出することができる。この面欠陥密度が大きい酸素過剰型金属酸化物は、酸素の吸脱着速度が高く、単位時間あたりの酸素供給能力に優れる。
面欠陥の確認のため、具体的には、1000万倍または1500万倍で観察した[0-10]方位のHAADF-STEM像を用いる。非特許文献に詳述されている通り、従来知られているYBaCo7+δ等の結晶構造は、六方晶構造であり、[001]方向に三角格子面とカゴメ格子面が順に積層した構造を有している。本実施形態の酸素過剰型金属酸化物に含まれる結晶相は六方晶構造であって、面欠陥が[001]と垂直方向に存在する欠陥であることが好ましい。[001]の垂直方向とは、[100]方向又は[0-10]方向を意味し、好ましくは[100]方向である。また、面欠陥はAとDの秩序配置(YBaCo7+δ等の結晶構造の場合にはYとBaの秩序配置)が乱れた面欠陥であることが好ましい。面欠陥としては、例えば、逆位相境界、結晶粒界、双晶境界、積層欠陥、界面、結晶表面、磁壁等が挙げられ、特に三角格子面の逆位相境界や構成元素の秩序配置の乱れた面欠陥等が多くみられる。
【0035】
面欠陥密度の算出方法は、六方晶構造の[001]方向に注目し、[001]方向に交互に積層した三角格子層とカゴメ格子層を1組として数え、観察した視野に含まれる全ての組数と逆位相などの面欠陥の個数から算出することができる。
例えば、図1(a)及び図1(b)に隣接する六角形ユニットモデルを示す。図1(a)に示す(010)上のBa,Yからなる六角形ユニットにおいて、[100]の最近接のBa同士を結んだ線分の中点より線分に最近接のYが上側に存在する場合は上向き矢印、下側に存在する場合は下向き矢印とする。図2に示した比較例1では、上向き矢印と下向き矢印が交互に観察され、YとBaの配置に長距離秩序が存在することがわかる。一方、図3に示した実施例1では、図1(b)に示した変形ユニットが随所に観察される。矢印の向きが同一になる箇所で長距離秩序が乱れている。この乱れは面欠陥と考えることができ、点線の矢印で示す。面欠陥密度は、点線の矢印の数を全ての矢印の数で除することにより算出する。図3では、点線の矢印の数と全ての矢印の数はそれぞれ14個、40個であることから、面欠陥密度は35%となる。
結晶相に面欠陥が全くないと、酸素吸着量が少なく、酸素吸放出速度も小さくなるため、面欠陥密度は1%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、特に好ましくは30%以上である。面欠陥密度は結晶構造維持の観点から50%未満であることが好ましく、より好ましくは45%以下である。
【0036】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、優れた酸素吸脱着能力を有し、500℃以下、好ましくは200℃~450℃の温度範囲で、温度を上下動させると、低温側で酸素を吸着(吸収)し、高温側で酸素を脱着(放出)する。すなわちこれは、大気中では、吸着速度と放出速度が400℃近傍で平衡することを利用しており、大気中から酸素を吸脱着して取り出す場合、典型的には、350℃未満で酸素を吸着し、350~400℃程度の高温度領域で急速に酸素を放出することができる。通常の酸化物と異なり、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物では、酸素放出反応が高酸素濃度下でも生じる。そのため、温度上昇と下降を繰り返すことで、酸素濃度を大気中より高めた気体を作ることもできるし、また逆に、酸素濃度を下げることに使用することもできる。すなわち、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、繰り返しの使用サイクルが要求される酸素貯蔵用又は酸素選択膜用の実用化材料として、有利な特性を備えているものである。
【0037】
また、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、酸素放出速度(酸素脱着速度)が0.2wt%/分以上であることが好ましく、より好ましくは0.4wt%/分以上である。本明細書において酸素放出速度とは、350℃1気圧の窒素中に静置し重量変化を生じなくなった時点の重量を基準重量とし、次いで350℃1気圧の酸素中に静置し重量変化が起こらなくなるまで酸素吸収させた後、雰囲気ガスを350℃1気圧の窒素に切り替えたとき、前記基準重量より1.0wt%重い状態から前記基準重量より0.5wt%重い状態まで減少するまでの、単位時間あたりの重量変化(wt%/分)を意味する。
【0038】
さらに、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、酸素吸着速度が0.5wt%/分以上であることが好ましく、より好ましくは1.0wt%/分以上である。本明細書において酸素吸着速度とは、後述する実施例における雰囲気ガス切替による酸素吸着量・酸素吸着放出速度の測定を行った際の単位時間あたりの重量変化(wt%/分)で表されるものであって、酸素吸着量を0.0wt%から1.0wt%にする際の酸素吸着速度を意味する。
【0039】
酸素の吸着量及び脱着量の制御は、温度によるものと、酸素分圧によるものが使用できる。温度による場合は、圧力に関しては特に限定されないが、通常0~100気圧の範囲で行なわれる。典型的には、大気圧下で行えばよいが、使用条件に応じて、加圧条件下で或いは減圧条件下で行うこともできる。そして、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物を用いることで、例えば、350℃未満で酸素を吸着し350~400℃程度の高温度領域で酸素を放出させる酸素吸脱着装置や、350℃未満で酸素を吸着し350~400℃程度の高温度領域で酸素を放出させて酸素を濃縮する酸素濃縮装置を実現することができる。
次に酸素分圧を変化させることで制御する場合を説明する。200℃以上400℃以下において、酸素分圧を変化させると、酸素分圧の高い側で酸素を吸着(吸収)し、吸着時より低い側で酸素を脱着(放出)する。吸脱着の最適な酸素分圧は吸脱着時の酸素過剰型金属酸化物の温度に依存する。吸脱着時の温度が低いほど、低い酸素分圧で酸素を吸収する傾向を有し、高いほど、酸素分圧を増加させても、吸着する酸素量が減少する傾向を有する。典型的には、吸着時は大気圧(酸素分圧20kPa)下で行えばよいが、加圧条件下で行うこともでき、脱着時は吸着時より低い酸素分圧下で行えばよく、減圧条件下で行うこともできる。本実施形態の酸素過剰型金属酸化物では、酸素分圧が高いほど、吸着する酸素量が増加する傾向を有するため、酸素分圧の高低を繰り返すことで、酸素濃度を大気中より高めた気体を作ることもできるし、酸素濃度を下げることに使用することもできる。
また、温度と圧力の両方を変化させて制御してもよい。
【0040】
なお、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の使用態様は、特に限定されない。例えば、粉末、粉末を凝集させた凝集体或いは多孔質体、担体の表面に担持させた複合材、樹脂等のマトリックス中に分散させた膜として用いることができる。また、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、酸素貯蔵用セラミックスや酸素選択膜用セラミックスとして用いることができる。
【0041】
また、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の上述した酸素吸脱着原理を用いることで、酸素を貯蔵、分離及び/又は濃縮する酸素貯蔵・分離・濃縮装置;貯蔵した酸素を用いて酸化反応を行う酸化反応装置;貯蔵した酸素を用いて酸素富化を行う酸素濃縮装置;酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する温熱を用いて加熱を行う加熱装置;酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する冷熱を用いて冷却を行う冷却装置;酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する温熱及び/又は冷熱を用いて熱交換を行う熱交換装置などを実現することができる。
【0042】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着原理を用いた上述の装置に供給する酸素を含むガス及び、酸素を含まないガス中の二酸化炭素濃度は0.01vol%以下が望ましく、水分濃度は1.0vol%以下であることが、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸着量・酸素吸着放出速度を高く維持できるので望ましい。そのため、上述の装置に供給するガスは、二酸化炭素及び水分を除去するための一般的な方法、例えば特開2010-210190等に記載の方法で前処理することができる。
【0043】
具体的には、吸着による前処理精製の一つに温度スイング吸着法(TSA法)がある。これは、複数の吸着筒を有する前処理精製装置によって行われる。吸着筒には、ガスの流入口側に水を除去するための吸着剤(たとえば活性アルミナ、シリカゲル、K-A型ゼオライト、Na-A型ゼオライト等)を充填し、その下流側に二酸化炭素を除去するための吸着剤(たとえばNa-X型ゼオライト等)を充填する。この前処理精製装置を用い、相対的に低い温度で原料空気中の不純物を吸着する吸着工程と、相対的に高い温度で行われる吸着剤の再生工程とを交互に行うことで、連続してガスを精製する。
【0044】
圧力スイング吸着法(PSA法)は、TSA法と同様に、複数の吸着筒を有する前処理精製装置によって行われる。PSA法では、相対的に高い圧力で原料空気中の不純物を吸着する吸着工程と、相対的に低い圧力で行われる吸着剤の再生工程とを交互に行うことで、連続して空気を精製する。PSA法においても、吸着筒の空気の流入口側に水を除去するための吸着剤(たとえば活性アルミナ、シリカゲル、K-A型ゼオライト、Na-A型ゼオライト等)を充填し、その下流側に二酸化炭素を選択的に吸着する吸着剤(たとえばNa-X型ゼオライト等)を充填することは、TSA法と同様である。
上述の酸素貯蔵・分離・濃縮装置、酸化反応装置、酸素濃縮装置、加熱装置、冷却装置、熱交換装置において、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物に限らず、前記一般式(1)で表されるストイキオメトリを有する結晶相を含む酸素過剰型金属酸化物を用いる場合には、同様に供給するガス中の二酸化炭素濃度を0.01vol%以下、水分濃度を1.0vol%以下とすることが好ましい。二酸化炭素濃度および水分濃度を所定の範囲に調整することで、前記一般式(1)で表されるストイキオメトリを有する結晶相を含む酸素過剰型金属酸化物の酸素吸着量・酸素吸着放出速度を高く維持することができる。
【0045】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物を用いて製造される高濃度酸素は種々の産業分野で利用可能である。特に限定はされないが、例えば、高濃度酸素を用いると、反応性の高い高濃度の酸素中で燃料を燃焼させることになり、燃焼温度が上昇しボイラー等の効率が向上できる、使用する燃料が低減できる、それに伴い排ガス量が削減されるために装置全体が小型化、軽量化され、効率向上やコスト削減につながる、同伴窒素ガス含量が抑えられる為に有害な窒素酸化物を削減できる、等の利点がある。
【0046】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物を用いて製造される高濃度酸素の具体的な用途としては、特に限定はされないが、金属加工バーナー用途、各種炉吹込み用途(製鋼、非鉄金属溶解など)、水処理用途(酸素曝気)、硫化水素発生抑制用途、バイオ関連・培養・発酵用途、ガラス加工バーナー用途、製紙工業用途(漂白)、酸化反応用途、オゾン発生器用途(水処理、漂白等)、燃焼装置用途、ガソリンやディーゼルエンジン等の内燃機関用途、燃料電池用途、航空機での酸素発生用途、輸送関連用途、酸素富化空気を室内に導入する等の空調機用途、健康用酸素ガス用途、医療分野用途、活魚飼育用途、食品加工用途、ガス充填包装用途などが挙げられる。
【0047】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の製造方法は、上述したストイキオメトリ及び面欠陥を有するものが得られる限り、特に限定されない。上述した面欠陥密度及び/又は粉末X線回折パターンを再現性よく簡易且つ低コストで得る観点からは、低温焼成プロセスを用いた製法が好ましい。低温焼成プロセスで本実施形態の酸素過剰型金属酸化物を得るためには、構成元素が均一に混合した前駆体が必要であり、前駆体は構成元素のイオンを含む溶液から難溶性塩として構成元素を同時に沈殿させた粉を仮焼成することで、製造することが好ましい。
以下、詳述する。
【0048】
好ましい低温焼成プロセスとしては、上記の酸素過剰型金属酸化物の前駆体を、酸素含有量が大気中より低い低酸素雰囲気下、従来よりも比較的に低温で焼成する製法が挙げられる。ここで、前駆体としては、前記A、D、E及びGの酸化物、炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、硝酸塩及び/又はこれらの水和物を少なくとも含むものを用いることができる。このとき、前駆体は、A、D、E、Gの酸化物や酢酸塩等を、前記一般式(1)で表されるストイキオメトリに対応する有効モル比で含むことが好ましい。ここでいう有効モル比とは、焼成処理後、前記一般式(1)で表されるストイキオメトリを実現するために必要とされるモル比を意味する。
【0049】
(イ)例えばYBaCo7+δの酸素過剰型金属酸化物を得る場合、Yの酸化物、Baの炭酸塩、Coの酸化物をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した混合物を、(ロ)Yの酢酸塩、Baの酢酸塩、Coの酢酸塩をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した水溶液を仮焼成した混合物を、(ハ)さらには該水溶液をクエン酸で塩交換した水溶液を仮焼成した混合物を、(ニ)Yの硝酸塩、Baの硝酸塩、Coの硝酸塩をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した硝酸塩水溶液をスプレードライした粉を仮焼成した混合物を、(ホ)Yの硝酸塩、Baの硝酸塩、Coの硝酸塩をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した硝酸塩水溶液を噴霧熱分解した混合物を、(ヘ)Yの酢酸塩、Baの酢酸塩、Coの酢酸塩をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した酢酸塩水溶液を噴霧熱分解した混合物を、(ト)Yの硝酸塩、Baの硝酸塩、Coの硝酸塩をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した硝酸塩水溶液を炭酸アンモニウム水溶液に添加または炭酸アンモニウム水溶液を上記硝酸塩水溶液に添加することで生じた沈殿物を仮焼成した混合物等を、前駆体として用いることができる。なお、以下において上記沈殿物を、いわゆる共沈粉と記載することがある。
【0050】
前駆体の製造方法として、構成元素の均一性、製造性及び面欠陥を有する結晶相を得、面欠陥の密度を制御するという観点から、(ト)のいわゆる共沈粉を使用することが好ましい。前駆体の製造方法(ト)は、一般に共沈法と呼ばれている。原料塩は硝酸塩の他に酢酸塩、クエン酸塩等の水溶性塩を使用することができる。また、酸化物や炭酸塩等の非水溶性塩を硝酸などの酸に溶解することで調整してもよい。沈殿剤は、炭酸アンモニウムの他に、炭酸水素アンモニウム、カルバミド酸アンモニウム、アンモニア水等を単独または混合物として使用することができる。また、仮焼成の時間は特に限定されないが、通常7時間未満、好ましくは6時間以下、より好ましくは5時間以下であり、通常1時間以上、好ましくは2時間以上である。また、仮焼成の温度は特に限定されないが、通常500℃以上、好ましくは600℃以上であり、通常950℃未満、好ましくは850℃未満である。
【0051】
上記の低温焼成プロセスにおける焼成温度は、従来行われていた1050℃より低ければ特に限定されない。面欠陥を有する結晶相を得、面欠陥の密度を制御することで、酸素吸脱着性能に優れ、繰り返し使用による酸素吸着量の低減が抑制された酸素過剰型金属酸化物を効率よく得る観点から、焼成温度は700℃以上、950℃未満であることが好ましく、より好ましくは720℃以上、900℃未満、さらに好ましくは750℃以上、850℃未満である。ここで、950℃未満の焼成温度とは、焼成時に保持される設定温度であり、焼成炉の設定温度である。このため焼成中の温度コントロールの際に、一時的に950℃を短時間超えてしまっても、それが極端に過度でない限り、例えば50K程度の温度上昇で、ごく短時間であれば、本実施形態において意図する「950℃未満の焼成温度」に包含されるものとする(上記仮焼成の温度も同様である。)。なお、焼成時の昇温速度は、使用する焼成炉の特性や生産性等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。一般的には、0.5℃/分~10℃/分程度が目安とされる。また、焼成時間も特に限定されない。一般的には、5~24時間程度が目安とされる。
【0052】
上記の低温焼成プロセスは、酸素含有量が大気中より低い低酸素雰囲気下、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満であることが好ましい。ここで、酸素含有量が大気中より低い低酸素雰囲気とは、酸素含有量が20体積%以下であることを意味し、実質的に酸素を含有しない無酸素雰囲気(酸素含有量が0体積%)を含む概念である。酸素吸脱着性能に優れ、繰り返し使用による酸素吸着量の低減が抑制された酸素過剰型金属酸化物を効率よく得る観点から、低温焼成プロセスにおいて、酸素含有量は5体積%以下が好ましく、より好ましくは3体積%以下、さらに好ましくは1体積%以下であり、特に好ましくは20ppm以下である。また、焼成温度、すなわち焼成工程の最高温度になる時点では、酸素濃度が5体積%以下であることがより好ましい。なお、酸素含有量の下限は、特に限定されず、0体積%以上であればよい。具体的には、酸素含有量が上記の好ましい範囲内にある不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、N2ガス、Arガス等が例示される。また、処理圧力は、特に限定されない。一般的には常圧下で行えばよいが、加圧下や減圧下で行うこともできる。特に炉外からの酸素の流入を防ぐ点からは、加圧下で焼成することが好ましい。
【0053】
さらに焼成温度で処理中の炉内雰囲気ガス中に二酸化炭素が存在すると、酸素過剰型金属酸化物に吸着し、酸素の吸脱着能力が低下するため、降温開始直前には炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度は0.01vol%未満が好ましく、0vol%がより好ましい。前駆体から二酸化炭素が発生する場合、特に原料に炭酸塩が含まれている場合には、その吸着を防ぐ点からは減圧下で焼成することが好ましい。
【0054】
通常、酸素過剰型金属酸化物に吸着する二酸化炭素としては、炉外からの流入によるもの、または前駆体が反応して酸素過剰型金属酸化物となる過程で発生するものが挙げられる。なかでも前駆体から発生する二酸化炭素濃度の調整は困難であるが、本発明者らの検討により、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度を低く保つことができれば、より容易に本実施形態の酸素過剰型金属酸化物を得られることが明らかとなった。よって、低温焼成プロセスの昇温中、及び/又は焼成時間中に、二酸化炭素濃度が高くなったとしても、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度を0.01vol%未満とすることで本発明の効果を得ることができる。降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度を0.01vol%未満とするためには、具体的には、焼成時間、焼成温度、前駆体の量、供給する雰囲気ガスの流量、減圧時の真空度等を適宜調整して、降温開始直前までに発生した二酸化炭素を十分に炉外へ排気すればよい。なお、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度は、降温開始時の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度と同一とみなすことができる。また、当該二酸化炭素濃度の測定方法としては、前駆体焼成時に、炉内の中央付近に吸気管を挿入し、理研計器株式会社製のポータブルマルチガス測定器(RX-515)を用いて、降温開始時の二酸化炭素濃度を測定する方法が挙げられる。
【0055】
上記の低温焼成プロセスを行った後、大気中で冷却等することで本実施形態の酸素過剰型金属酸化物が得られる。本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、好ましくは酸素を脱着させたときにLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有する。
【0056】
なお、得られる酸素過剰型金属酸化物の化学組成は、常法にしたがって求めることができ、例えばヨウ素滴定法やICP発光分析法等によって求めることができる。具体的には、一般式A7+δで表される酸素過剰型金属酸化物(例えばYBaCo7+δ)の化学組成は、次の手順で求めることができる。
(1)ICP発光分析法により、Y、Ba及びCoのモル比を求める。
(2)前記モル比から、前記(1)式におけるj、k、m、nの値を、j+k+m+n=6を満たすように規格化する。
(3)ヨウ素滴定法でCoの平均価数を求める。
(4)Coの平均価数及び(2)で規格化したj、k、m、nの値から、電荷バランスを考慮して、酸素原子の数を求める。
(5)以上の計算結果から、化学組成を決定する。
【実施例0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。なお、以下において特に断りのない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0058】
(実施例1)
出発原料として、Y(NO・6HO、Ba(NO、Co(NO・6HOを、Y:Ba:Co=1:1:4のモル比になるように秤量し、純水に溶解して、硝酸塩水溶液を作製した(水溶液A)。金属(Y、Ba及びCoの合計量)の1.3倍モルの炭酸アンモニウムを秤量し、純水に溶解して、炭酸アンモニウム水溶液を作製した(水溶液B)。撹拌下の水溶液Bに、水溶液Aを全量滴下し、滴下終了後、3時間撹拌を継続した。得られた沈殿物を吸引濾過により回収し、水洗を実施した。水洗後の沈殿物を120℃で一晩乾燥させた後、メノウ乳鉢中で粉砕及び混合した。得られた混合粉末を空気中600℃で3時間仮焼成することにより、前駆体を作製した。得られた前駆体をアルミナ坩堝に入れ、気密性の高い電気炉中にセットし、窒素気流中750℃で12時間焼成した。その後、雰囲気を窒素に保ったまま室温まで冷却し電気炉から処理物を取り出すことで、実施例1の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo7+δ)を得た。
【0059】
(実施例2)
前駆体の焼成条件を850℃に変更すること以外は、実施例1と同様に行って、実施例2の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo7+δ)を得た。
【0060】
(実施例3)
前駆体の焼成条件を900℃に変更すること以外は、実施例1と同様に行って、実施例3の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo7+δ)を得た。
【0061】
(比較例1)
出発原料として、Y、BaCO、Coを、Y:Ba:Co=1:1:4のモル比になるように秤量した。次に、これらをメノウ乳鉢中で粉砕混合、錠剤成型し、大気中1200℃で12時間焼成した。その後、急冷することで、比較例1の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo7+δ)を得た。
【0062】
<粉末X線回折測定>
得られた実施例1、2、3及び比較例1の酸素過剰型金属酸化物の粉末X線回折測定を行った。測定範囲は2θが10°から65°の範囲で行った。測定の間隔は0.02°、使用した装置と条件は、以下のとおりである。
装置:オランダ PANalytical社製X‘Pert Pro MPD
加速電圧:45kV
電流:30mA
【0063】
実施例1、2、3及び比較例1のいずれにおいても、強度の強いすべての回折線を、六方晶LuBa(Zn,Al)と同じ単位格子の回折線に指数付けすることができた。
【0064】
<TEM及びSTEM観察>
得られた実施例1、2、3及び比較例1の酸素過剰型金属酸化物を、メノウ乳鉢により微粉末化し、2-プロパノール中に分散させた。その上澄み液をTEM観察用マイクログリッド貼付メッシュ(日新EM株式会社)に滴下することで、TEM観察に適した粒径200nm以下の微粒子をメッシュ上に分散させ、TEM観察用サンプルとした。
200kVの加速電圧下においてTEM及びSTEM観察を行った。観察中のコンタミを防ぐために、極低倍率でのビームシャワーを30分行った。
装置:JEM-ARM200F
【0065】
<面欠陥密度の算出方法>
1000万倍または1500万倍、[0-10]方位のHAADF-STEM像から、[001]方向に注目した。[001]方向には三角格子層とカゴメ格子層が交互に積層しており、三角格子層とカゴメ格子層を1組として、その全体の個数と逆位相境界などの面欠陥の個数から面欠陥密度を算出した。実施例1、2、3においては、1000万倍、それぞれ11視野(440組の{001}面)、7視野(280組の{001}面)、10視野(400組の{001}面)の観察を実施し、面欠陥密度を33%(146面の面欠陥を確認)、22%(62面の面欠陥を確認)、2%(8面の面欠陥を確認)と算出した。一方、比較例1では、1500万倍、3視野(120組の{001}面)の観察を実施、面欠陥の存在は確認されなかった。
【0066】
<雰囲気ガス切替による酸素吸着量・酸素吸着放出速度の測定>
得られた実施例1、2、3及び比較例1の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸着量及び酸素吸着放出速度の測定を行った。ここでは、実施例1、2、3及び比較例1の酸素過剰型金属酸化物を、窒素気流中(酸素分圧0.002kPa以下)、350℃で保持し、ガス雰囲気を酸素(酸素分圧101kPa)に切り換えた際の重量変化を計測した。図4~7は、実施例1、2、3及び比較例1の酸素過剰型金属酸化物の熱重量変化を示すグラフである。図4~7に示すとおり、ガス切換直後から酸素吸収に伴う急激な重量増加を示した。酸素吸着量を0.0wt%から1.0wt%にする際の酸素吸着速度は、比較例1では0.12wt%/分であるのに対し、実施例1、2、3ではそれぞれ1.37wt%/分、2.00wt%/分、1.94wt%/分と約11~16倍に向上していることがわかり、実施例の酸素過剰型金属酸化物は、酸素吸着速度が1.3wt%/分以上という優れた酸素吸着能力を有していることが確認された。また、酸素吸着時の飽和重量は、実施例1、2、3では約2.5wt%であったが、比較例1では1.2wt%と半分程度であった。続いて、酸素(酸素分圧101kPa)から窒素(酸素分圧0.002kPa以下)にガス切り替えをしたところ、酸素放出に伴う急激な重量減少が見られた。酸素吸着量を1.0wt%から0.5wt%にする際の酸素放出速度は、比較例1では0.11wt%/分であるのに対し、実施例1、2、3ではそれぞれ0.95wt%/分、0.72wt%/分、0.42wt%/分と約4~8倍に向上していることがわかり、実施例1,2,3の酸素過剰型金属酸化物は、酸素放出速度が0.4wt%/分以上という優れた酸素放出能力を有していることが確認された。
【0067】
<雰囲気温度スイングによる酸素吸着量の測定>
次いで、得られた実施例1、2、3及び比較例1の酸素過剰型金属酸化物の雰囲気温度スイングによる酸素吸着量の測定を行った。その結果を、図8~11に示す。ここでは、空気中(酸素濃度21%)、9分間470~480℃に保って酸素を放出させた後、再度470℃→230℃を7分で降温させ、230℃→470℃を5分で昇温させることを3回繰り返した。温度と重量の測定間隔は1秒おきに行った。その際の酸素吸着脱着に伴う重量変化を測定した。図8~11中、温度変化は点線で示し、重量変化は実線で示す。
【0068】
図11に示すとおり、比較例1の酸素過剰型金属酸化物の重量変化は、約0.5wt%と小さく、酸素吸着時の温度スイングへの追随性(応答性)が悪く、酸素吸着速度が低いことも判明した。一方、図8~10に示すとおり、実施例1、2、3の酸素過剰型金属酸化物の重量変化は、1.7wt%以上と大きく、酸素吸着時の温度スイングへの追随性(応答性)が良く、酸素吸着速度が高いことも判明した。以上のことから、実施例の酸素過剰型金属酸化物は、最大酸素吸着量が大きく実用的であるのみならず、酸素吸着速度が高いことが確認された。
【0069】
また、各サイクルの酸素の最大吸着量と、その平均を表1に示す。
【表1】
【0070】
この結果から、最大吸着量の絶対値を比較すると、本試験条件で酸素の吸脱着を行った場合、本発明の酸素過剰型金属酸化物は、比較例1に対して、約3.4倍以上の酸素吸着量を有することがわかる。このことは、本発明の酸素過剰型金属酸化物を用いて装置を構成する際、大きさや重量を約3割に削減可能であることを意味し、極めて大きな効果である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の酸素過剰型金属酸化物は、酸素吸脱着能力に優れ、酸素吸脱着速度が非常に高く、酸素貯蔵用、酸素濃縮用、酸素分離用又は酸素選択膜用の実用化材料として、広く且つ有効に利用可能である。また、従来と比べて酸素吸脱着能力が高められているので、これらの用途における小型化及び省エネルギー化にも資する。さらに、比較的に低温域で作動する材料であることから、燃料電池や自動車の排ガス浄化装置の三元触媒等、寒冷地用の実用化材料としても殊に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共沈法を用いて、
下記一般式(1):
jkmn7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物の前駆体を得る工程、及び
該前駆体を700℃以上、950℃未満で加熱処理する工程を含み、
該前駆体を得る工程における加熱処理の時間が6時間以下であることを特徴とする、酸素過剰型金属酸化物の製造方法。