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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093828
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】挟持部材付き車両用窓ガラス
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/17 20060101AFI20220617BHJP
   E05F 11/38 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B60J1/17 C
B60J1/17 B
E05F11/38 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206525
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】若林 隆介
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴文
【テーマコード(参考)】
3D127
【Fターム(参考)】
3D127BB01
3D127CB05
3D127CC05
3D127DD19
3D127DF18
3D127DF26
(57)【要約】
【課題】車両用窓ガラスとして合わせガラスを採用した場合であっても、耐久性の高い挟持部材付き車両用窓ガラスを提供する。
【解決手段】挟持部材14の本体部16を構成する第1側壁部22に、第2側壁部24に向かって突出し、且つ第1側壁部22よりも軟質な第1凸状部材34を備え、第1凸状部材34を、第1側壁部22において、X軸方向(第3方向)の両端側に配置する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアに取り付けられ、上下に摺動する挟持部材付き車両用窓ガラスであって、
前記挟持部材付き車両用窓ガラスは、車外側のガラス板と車内側のガラス板とが中間膜を介して接合された合わせガラスと、前記合わせガラスの下辺に取り付けられ、前記合わせガラスの縁部を挟持する挟持部材とを備え、
前記挟持部材は、底部と、
前記底部から垂直な第1方向に延設される第1側壁部と、
前記第1方向に垂直な第2方向に離間し、かつ、前記底部から前記第1方向に延設され、前記第1側壁部と対面する第2側壁部と、
前記第1側壁部は、前記第2側壁部に向かって突出し、且つ前記第1側壁部よりも軟質な第1凸状部材と、
を備え、
前記第1凸状部材は、前記第1側壁部において、前記第1方向及び前記第2方向にそれぞれ垂直な第3方向の両端側に配置されている、
挟持部材付き車両用窓ガラス。
【請求項2】
前記第2側壁部は、前記第2方向において前記第1凸状部材と対向する位置であり、前記第1凸状部材との間で前記合わせガラスを挟持する、第2凸状部材を有する、
請求項1に記載の挟持部材付き車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記第3方向において、前記底部は、前記合わせガラスの前記車外側のガラス板又は前記車内側のガラス板の下縁部に対応する位置に段差部を有する、
請求項1又は2に記載の挟持部材付き車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記第1凸状部材は、前記第1方向に延設される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の挟持部材付き車両用窓ガラス。
【請求項5】
前記第1側壁部は、前記第1方向において、互いに離間し、かつ、1つの前記第1凸状部材を前記第1側壁部に固定するための第1固定部と第2固定部を有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の挟持部材付き車両用窓ガラス。
【請求項6】
前記第1固定部は、前記第1側壁部に前記第3方向に沿って形成された第1突起部であり、
前記第2固定部は、前記第1側壁部に前記第3方向に沿って形成され、前記第1突起部とは前記第1方向に離間して設けられた第2突起部であり、
前記第1凸状部材は、前記第1突起部に係合する第1開口部と、前記第2突起部に係合する第2開口部とを有する、
請求項5に記載の挟持部材付き車両用窓ガラス。
【請求項7】
前記第1凸状部材は、熱可塑性エラストマー系樹脂を含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載の挟持部材付き車両用窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挟持部材付き車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドアに上下に摺動可能に取り付けられた車両用窓ガラスは、ドアパネルの内部に配置された昇降装置(「レギュレータ」とも言う。)の駆動力により昇降移動される。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された自動車用窓ガラスは、その下縁部の一部にホルダ(「チャンネル」とも言う。本明細書では、「ホルダ」及び「チャンネル」を総じて「挟持部材」と言う。)が取り付けられており、このホルダが支持部材を介してレギュレータに取り付けられている。
【0004】
また、上記のホルダは、本体部と、本体部の上端に一体的に取り付けられた挟持部とを有し、金属又は樹脂材料などで形成されている。挟持部は、間隔をあけて配置された一対の挟持片を有し、これら挟持片の間に自動車用窓ガラスの下縁部が配置され、接着剤などによって固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-94880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の挟持部材付き車両用窓ガラスは、挟持部材を車両用窓ガラスに装着した場合、挟持部材の全体が撓むことで車両用窓ガラスを保持しているため、以下の問題がある。
【0007】
すなわち、挟持部材については、挟持部材が撓んだ状態で車両に配置されてしまうので、挟持部材に生じている残留応力に起因して挟持部材が早期に劣化する場合がある。
【0008】
車両用窓ガラスについても同様に、挟持部材の装着により残留応力が生じている。この場合、車両用窓ガラスとして、表面に圧縮応力層が形成された強化ガラスを採用した場合には耐久性に問題はないが、強化ガラスと比較して許容応力の小さい未強化ガラスにより構成された合わせガラスを採用した場合には耐久性に問題がある。
【0009】
近年、車両のドアに取り付けられ、上下に摺動する車両用窓ガラス(ドアガラス)においても合わせガラスが採用される車種が増えてきており、この場合、挟持部材の装着により生じる合わせガラスの残留応力を抑制する必要があるが、現状では十分とは言えず、耐久性に問題を抱えている。
【0010】
このように、従来の挟持部材付き車両用窓ガラスは、挟持部材においても耐久性に問題があり、また、車両用窓ガラスとして特に合わせガラスを採用した場合には、合わせガラスの耐久性にも問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、車両用窓ガラスとして合わせガラスを採用した場合であっても、耐久性の高い挟持部材付き車両用窓ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的を達成するため、本発明の挟持部材付き車両用窓ガラスは、車両のドアに取り付けられ、上下に摺動する挟持部材付き車両用窓ガラスであって、挟持部材付き車両用窓ガラスは、車外側のガラス板と車内側のガラス板とが中間膜を介して接合された合わせガラスと、合わせガラスの下辺に取り付けられ、合わせガラスの縁部を挟持する挟持部材とを備え、挟持部材は、底部と、底部から垂直な第1方向に延設される第1側壁部と、第1方向に垂直な第2方向に離間し、かつ、底部から第1方向に延設され、第1側壁部と対面する第2側壁部と、第1側壁部は、第2側壁部に向かって突出し、且つ第1側壁部よりも軟質な第1凸状部材と、を備え、第1凸状部材は、第1側壁部において、第1方向及び第2方向にそれぞれ垂直な第3方向の両端側に配置されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、挟持部材及び合わせガラスに生じる残留応力を低減できるので、車両用窓ガラスとして合わせガラスを採用した場合であっても、耐久性の高い挟持部材付き車両用窓ガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の挟持部材付き車両用窓ガラスが搭載された車両の要部右側面図
図2図1に示した挟持部材付き車両用窓ガラスの構成を示した正面図
図3図2に示した挟持部材付き車両用窓ガラスの3―3線に沿う断面図
図4図2に示した挟持部材の拡大斜視図
図5図4に示した挟持部材の上面図
図6】第1凸状部材を除く挟持部材の外観を示した斜視図
図7】第1側壁部に対する第1凸状部材の装着構造を示した説明図
図8】合わせガラスに挟持部材を装着する場合の第1凸状部材の状態を示した説明図
図9】合わせガラスに挟持部材を装着した場合の第1凸状部材の状態を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明に係る挟持部材付き車両用窓ガラスの実施形態を説明する。
【0016】
なお、本明細書において、方向と位置を表わす「上」「下」「車内」「車外」「車幅」「前方」「後方」は、挟持部材付き車両用窓ガラスが車両に搭載された場合の「上」「下」「車内」「車外」「車幅」「前方」「後方」を意味する。
【0017】
図1には、実施形態に係る挟持部材付き車両用窓ガラス10(以下、「車両用窓ガラス10」と略称する。)が車両200に搭載された一例が示されている。図2は、図1の車両用窓ガラス10の構成を示した正面図である。なお、図1及び図2では、車両200の前方を矢印Aで示し、後方を矢印Bで示している。また、本明細書においては、互いに直交するXYZ軸の三次元座標系を用いて説明する。Z軸方向は、車両200の上下方向であり、第1方向に相当する。Y軸方向は車両200の車幅方向(図1及び図2の紙面奥行き方向)であり、第2方向に相当する。X軸方向は、矢印A及びBで示した車両200の前後方向であり、第3方向に相当する。
【0018】
図1に示す車両用窓ガラス10は、一例として、フロントサイドガラスに適用されたものであり、車両200のフロントサイドドア202に組み付けられる。また、車両用窓ガラス10は、フロントサイドドア202のドアパネル204の内部に配置された昇降装置50(図2参照)に連結され、昇降装置50からの駆動力により昇降移動されてフロントサイドドア202の窓用開口部206を開閉する。
【0019】
図2に示す昇降装置50は、モータ52と、ガイドレール54と、スライダ56と、第1ワイヤ58と、第2ワイヤ60と、ドラム62とを有している。また、昇降装置50と協同して、車両用窓ガラス10の昇降をガイドするフロントサッシュ64及びリヤサッシュ66がフロントサイドドア202(図1参照)に設けられている。
【0020】
ガイドレール54は、その長手方向が車両用窓ガラス10の摺動方向に沿うように配置される。スライダ56は、車両用窓ガラス10に連結される部材であり、ガイドレール54に対しガイドレール54の長手(上下)方向に沿って摺動自在に係合されている。第1ワイヤ58は、一端がドラム62に連結され、他端がスライダ56に連結されている。第2ワイヤ60は、一端がドラム62に連結され、他端がスライダ56に連結されている。フロントサッシュ64は、車両用窓ガラス10を構成する合わせガラス12の前縁部12Aを摺動自在に支持し、リヤサッシュ66は、合わせガラス12の後縁部12Bを摺動自在に支持している。
【0021】
上記の昇降装置50によれば、モータ52によってドラム62が一方向に回転されると、第1ワイヤ58がドラム62に巻き取られ、第2ワイヤ60がドラム62から送り出される。これにより、スライダ56がガイドレール54に沿って上昇することにより、車両用窓ガラス10が、フロントサッシュ64及びリヤサッシュ66にガイドされながら上昇する。
【0022】
また、モータ52によってドラム62が他方向に回転されると、第1ワイヤ58がドラム62から送り出され、第2ワイヤ60がドラム62に巻き取られる。これにより、スライダ56がガイドレール54に沿って下降することにより、車両用窓ガラス10が、フロントサッシュ64及びリヤサッシュ66にガイドされながら下降する。
【0023】
図3は、図2に示した車両用窓ガラス10の3―3線に沿う断面図である。すなわち、図3は、車両200の後方側から前方側を見たときの車両用窓ガラス10の断面図である。
【0024】
実施形態では、車両用窓ガラス10を構成する合わせガラス12として、2枚の未強化のガラス板70、72を、中間膜74を介して接合された合わせガラスが採用されている。未強化のガラス板70、72とは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものであり、ガラスの表面に圧縮応力層を形成した強化ガラスよりも許容応力が小さいものである。本例の合わせガラス12では、車両用窓ガラス10を車両200に取り付けた場合、ガラス板70が車外側に位置し、ガラス板72が車内側に位置する。
【0025】
<ガラス板>
ガラス板70、72としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス又は石英ガラスなどの無機ガラスが採用されている。これらのうちでも、製造コストと成形性の観点からソーダライムガラスが特に好ましい。ガラス板70、72の成形法についても特に限定されないが、フロート法を例示できる。また、ガラス板70、72として、紫外線又は赤外線を吸収するガラス板を採用してもよい。また、ガラス板70、72としては透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたものであってもよい。
【0026】
合わせガラス12は、正面視(図2参照)で略台形状に構成されており、前縁部12A、後縁部12B、上縁部12C及び下縁部12Dによって周縁部が形成されている。また、合わせガラス12は、車両200(図1参照)に取り付けられた状態で、XYZ軸の三次元方向における断面形状が車両200の外側に膨らんだ湾曲形状、すなわち、X軸方向及びY軸方向に湾曲した複曲形状を有している。合わせガラス12の曲率半径は1000mm以上100000mm以下であることが好ましい。ガラス板70とガラス板72の曲率半径は同じでもよいし、異なっていてもよい。なお、合わせガラス12はX軸方向またはY軸方向にのみ湾曲した単曲形状であってもよい。合わせガラス12の曲げ成形には、重力成形、プレス成形、又はローラー成形などが採用される。
【0027】
合わせガラス12のうち車外側のガラス板70の厚みは、1mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板70の厚みが1mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラス12の質量が大きくなり過ぎず、車両200の燃費の点で好ましい。また、ガラス板70の厚みは、1.3mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.4mm以上2.6mm以下が更に好ましい。
【0028】
合わせガラス12のうち車内側のガラス板72の厚みは、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板72の厚みが0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりの質量が大きくなり過ぎない。
【0029】
ガラス板70、72の厚み同じであってもよいし、異なっていてもよい。ガラス板70、72の厚みが同じである場合、ガラス板70、72の厚みは、それぞれ1.0mm以上1.6mm以下であれば、合わせガラス12の軽量化と遮音性を両立できる。
【0030】
合わせガラス12の中間膜74は、ポリビニルブチラール(PVB)からなる中間膜のほか、特に耐水性が要求される場合には、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が好ましく用いられる。また、アクリル系光重合型プレポリマー、アクリル系触媒重合型プレポリマー、アクリル酸エステル・酢酸ビニルの光重合型プレポリマー又はポリビニルクロライドなども使用可能である。中間膜74は、単層構造又は複数層構造のいずれでもよい。また、中間膜74は、透明であってもよいし、着色されていてもよい。
【0031】
なお、合わせガラスを構成するガラス板70、72の枚数は、本例の2枚に限定されず、3枚以上でもよい。中間膜74は、3枚以上のガラス板を接合する場合は、2枚以上用いてもよい。
【0032】
[挟持部材]
図2及び図3に示すように、合わせガラス12の下縁部12Dの一部には、一対の挟持部材14、14が下縁部12Dに沿ったX軸方向(第3方向)に間隔を開けて備えられている。
【0033】
図4は、挟持部材14の拡大斜視図である。図5は、挟持部材14の上面図である。図4及び図5に示すように、挟持部材14は、本体部16と連結部18とを有する。
【0034】
〔本体部〕
本体部16は、図3に示すように、断面略U字形状に形成されて合わせガラス12の下縁部12Dに装着される。具体的に説明すると、本体部16は、底部20と、第1側壁部22と、第2側壁部24とを備えている。
【0035】
底部20は、Z軸方向(第1方向)に沿う断面形状が略矩形状に構成され、X軸方向(第3方向)に長手軸を有するブロック状に構成される。第1側壁部22は、底部20から垂直なZ軸方向に延設されており、Z軸方向の断面形状が略矩形状に構成される。第2側壁部24は、Z軸方向に垂直なY軸方向(第2方向)に離間し、かつ、底部20からZ軸方向に延設され、第1側壁部22と対面されている。なお、図3では、第2側壁部24は、Z軸方向の断面形状が第1側壁部22よりも厚みの薄い略矩形状に構成されているが、これに限定されない。Z軸方向の断面形状において、第1側壁部22と第2側壁部24の厚みが同じであってもよいし、第1側壁部22の厚み方が第2側壁部24の厚みより厚くてもよい。このように構成された本体部16は、底部20と第1側壁部22と第2側壁部24とで画成される装着用の収容部に合わせガラス12の下縁部12Dが収容され、その後に充填される又は予め充填された接着剤26によって下縁部12Dに固定される。
【0036】
また、第1側壁部22と第2側壁部24の互いに対向する内側面には、複数のリブ28が形成されている。これらのリブ28は、Z軸方向に長手軸を有する薄板状に形成されており、X軸方向に間隔を開けて備えられている。これらのリブ28により接着剤26がY方向へ流れやすい様な流路を形成し、接着剤がガラス全面に介在し易くすることができる。また、これらのリブ28により第1側壁部22と第2側壁部24の強度が補強されている。
【0037】
〔連結部〕
連結部18は、本体部16と一体に構成されると共に、一例として第2側壁部24の下部からZ軸方向の下方側に延設されている。連結部18には、連結孔30が備えられており、この連結孔30に挿入される図2のボルト32をスライダ56のアーム57に締結することにより、挟持部材14がスライダ56に連結される。
【0038】
図3及び図4に示した本体部16及び連結部18は、一例として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)又はポリアセタール樹脂(POM)などの硬質なエンジニアリングプラスティックによって構成されている。なお、本体部16及び連結部18は、樹脂製に限定されるものではなく金属製であってもよい。但し、以下に説明する軟質の第1凸状部材34を二色成形法により第1側壁部22に装着する場合には、本体部16及び連結部18は樹脂製であることが好ましい。
【0039】
〈第1凸状部材〉
図4に示すように、第1凸状部材34は、第1側壁部22に備えられる。この第1凸状部材34は、第2側壁部24に向かって突出し、且つ第1側壁部22よりも軟質な材料によって構成されている。また、第1凸状部材34は、図5に示すように、第1側壁部22において、Z軸方向(第1方向)及びY軸方向(第2方向)にそれぞれ垂直なX軸方向(第3方向)の両端側に配置されている。また、第1凸状部材34は、Z軸方向に延設されている。
【0040】
このように配置された第1凸状部材34、34は、挟持部材14が合わせガラス12の下縁部12Dに装着された場合、図5に示すように、湾曲形状の合わせガラス12の車内側の面に弾性をもって当接する。
【0041】
第1凸状部材34は、一例として、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂(PE)又はポリプロリレン樹脂(PP)などの熱可塑性エラストマー系樹脂を含んでいる。第1凸状部材34の材料として熱可塑性エラストマー系樹脂を含むことにより、第1凸状部材34は合わせガラス12の車内側の面に押されて弾性変形する。その結果として、挟持部材14(特に本体部16)に生じる残留応力を低減でき、且つ合わせガラス12に生じる残留応力も低減できる。また、熱可塑性エラストマー系樹脂は粗面化し易いため、合わせガラス12の車内側の面に接する面を粗面化することにより、第1凸状部材34と合わせガラス12の車内側の面との間に生じる摩擦抵抗を大きくできる。その結果として、合わせガラス12と挟持部材14とをより強固に固定できる。
【0042】
〈第2凸状部材〉
図5に示すように、第2側壁部24は、第2凸状部材36を有する。第2凸状部材36は、Y軸方向(第2方向)において第1凸状部材34と対向する位置に配置され、第1凸状部材34との間で合わせガラス12を挟持する。
【0043】
第2凸状部材36は、第2側壁部24と一体に構成され、且つ第1凸状部材34と同様にZ軸方向に延設されている。また、第2凸状部材36のX軸方向における幅も、第1凸状部材34の幅と略同じ長さに形成されている。
【0044】
更に、Y軸方向において、第1側壁部22からの第1凸状部材34の突出長さL1、及び第2側壁部24からの第2凸状部材36の突出長さL2は、第1側壁部22からのリブ28の突出長さL3、及び第2側壁部24からのリブ28の突出長さL4よりも、それぞれ長めに設定されている。このように上記の突出長さL1~L4を設定することにより、湾曲形状の合わせガラス12であってもリブ28に当接することなく、挟持部材14のX軸方向の両端側に配置された第1凸状部材34と第2凸状部材36とによって挟持できる。その結果として、合わせガラス12がリブ28に接触することに起因する、挟持部材14及び合わせガラス12の残留応力の発生を防止できる。なお、第2凸状部材36は、車両用窓ガラス10において必須の部材ではないが、第2側壁部24が第2凸状部材36を有することにより、挟持部材14及び合わせガラス12に生じる残留応力をより一層低減できる。
【0045】
<段差部>
一方、図3から図5に示すように、底部20は、合わせガラス12のガラス板72の下縁部72Dに対応する位置に段差部38を有する。段差部38は、X軸方向(第3方向)に形成されており、ガラス板72の下縁部72Dが載置される。その結果として、図3に示すように、ガラス板72の下縁部72Dから中間膜74の下縁部74Aがはみ出ている場合には、下縁部74Aが段差部38に隣接した溝部39に収容される。段差部38の高さは、想定される中間膜74の下縁部74Aのはみ出し長さに基づき設定されている。なお、ガラス板72の下縁部72Dからガラス板70の下縁部70Dがはみ出している場合も下縁部70Dが溝部39に収容される。また、上記の段差部38は、ガラス板70の下縁部70Dに対応する位置に形成されていてもよい。
【0046】
以上説明したように実施形態の車両用窓ガラス10によれば、挟持部材14の第1側壁部22に、第2側壁部24に向かって突出し、且つ第1側壁部22よりも軟質な第1凸状部材34を備え、第1凸状部材34を、第1側壁部22において、X軸方向(第3方向)の両端側に配置したので、挟持部材14及び合わせガラス12に生じる残留応力を低減できる。その結果、車両用窓ガラス10として合わせガラス12を採用した場合であっても、耐久性の高い車両用窓ガラス10を提供できる。
【0047】
また、実施形態の車両用窓ガラス10によれば、第2側壁部24は、第1凸状部材34との間で合わせガラス12を挟持する第2凸状部材36を有しているので、挟持部材14及び合わせガラス12に生じる残留応力をより一層低減できる。
【0048】
また、実施形態の車両用窓ガラス10によれば、底部20は、合わせガラス12のガラス板72の下縁部72Dに対応する位置に段差部38を有しているので、中間膜74のはみ出た下縁部74A、又はガラス板70のはみ出た下縁部70Dを溝部39に収容できる。その結果、合わせガラス12の下縁部12Dに挟持部材14の底部20を確実に当接できるので、挟持部材14と合わせガラス12との相対的な位置精度が向上する。つまり、段差部38が無い場合、中間膜74のはみ出た下縁部74A、ガラス板70のはみ出た下縁部70Dが底部20に接触することで、挟持部材14が合わせガラス12に対して傾いて装着され、上記の位置精度が低下するという合わせガラス特有の問題があるが、底部20に段差部38を有することにより、この問題を解消できる。
【0049】
次に、第1凸状部材34を二色成形法により第1側壁部22に装着する手順について簡単に説明する。図6は、第1凸状部材34を除く挟持部材14の外観を示した斜視図である。図7は、第1側壁部22に対する第1凸状部材34の装着構造を示した説明図である。
【0050】
まず、第1凸状部材34を除く挟持部材14を一次側成形品として製造する。具体的には、第1凸状部材34を除く挟持部材14を製造するためのキャビティを有する一次金型を作製し、この一次金型のキャビティにエンジニアリングプラスティックの溶融樹脂を射出する。これにより、図6に示した挟持部材14を製造できる。
【0051】
ここで、図6に示した挟持部材14の第1側壁部22は、1つの第1凸状部材34(図7参照)を第1側壁部22に固定するための第1固定部40と第2固定部42を有している。これらの第1固定部40及び第2固定部42は、Z軸方向(第1方向)において、互いに離間して配置されている。
【0052】
具体的に説明すると、第1固定部40は、第1側壁部22に第3方向に沿って形成された第1突起部41として構成されており、第2固定部42は、第1側壁部22に第3方向に沿って形成され、第1突起部41とは第1方向に離間して設けられた第2突起部43として構成されている。第1突起部41及び第2突起部43は、それぞれ、第1側壁部22を構成する主壁部22Aと、第1側壁部22のX軸方向の両側に配置された副壁部22BとをX軸方向で連結するように形成される。
【0053】
次に、一次側成形品である挟持部材14に、二次側成形品である第1凸状部材34を成形する。具体的には、第1凸状部材34を製造するキャビティを有する二次金型を作製し、この二次金型を第1固定部40と第2固定部42とを覆うように第1側壁部22に装着する。そして、二次金型のキャビティに熱可塑性エラストマー系樹脂を含んだ溶融樹脂を射出する。これにより、図7に示した第1凸状部材34を第1側壁部22に形成できる。
【0054】
上記のように形成された第1凸状部材34は、第1突起部41の外周部分に上記の溶融樹脂が注入されることから、第1突起部41に係合する第1開口部44が形成される。同様に、第2突起部43の外周部分に上記の溶融樹脂が注入されることから、第2突起部43に係合する第2開口部46が形成される。その結果として、第1凸状部材34は、図7の如く、第1凸状部材34をX軸方向(第3方向)から見た場合に8字形状に形成される。なお、第1凸状部材34の形状は、8字形状に限定されず、ラダー(ladder:梯子)形状のような形状であれば好ましい。
【0055】
図8は、合わせガラス12の下縁部12Dに挟持部材14を装着する場合の第1凸状部材34の状態を示した説明図である。
【0056】
図8の如く、合わせガラス12の下縁部12Dに挟持部材14を装着していくと、装着時に生じる合わせガラス12と第1凸状部材34との間の摩擦抵抗により、第1凸状部材34には、合わせガラス12との接触点Pを回転中心とする回転力が矢印C方向に付与される。このとき、第1凸状部材34は、Z軸方向に離間した第1突起部41と第2突起部43とに、第1開口部44と第2開口部46とが係合されているので、上記の回転力が付与された場合であっても、第1凸状部材34は第1側壁部22に装着された初期の位置に保持される。その結果として、図9に示すように、合わせガラス12の下縁部12Dに挟持部材14が装着された場合、第1凸状部材34は合わせガラス12によって弾性変形されて合わせガラス12の車内側の面に密着される。これにより、挟持部材14及び合わせガラス12に生じる残留応力を効果的に低減できる。
【0057】
なお、実施例では、挟持部材14を二色成形法によって成形するとしたが、二色成形法に限らず、例えば、第1側壁部22に対して第1凸状部材34を後付けて接着したり係止したりして挟持部材14を構成してもよい。
【0058】
以上、本発明について説明したが、本発明は、上記の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、いくつかの改良又は変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0059】
10…車両用窓ガラス、12…合わせガラス、14…挟持部材、16…本体部、18…連結部、20…底部、22…第1側壁部、24…第2側壁部、26…接着剤、28…リブ、30…連結孔、32…ボルト、34…第1凸状部材、36…第2凸状部材、38…段差部、39…溝部、40…第1固定部、41…第1突起部、42…第2固定部、43…第2突起部、44…第1開口部、46…第2開口部、50…昇降装置、52…モータ、54…ガイドレール、56…スライダ、57…アーム、58…第1ワイヤ、60…第2ワイヤ、62…ドラム、64…フロントサッシュ、66…リヤサッシュ、70…ガラス板、72…ガラス板、74…中間膜、200…車両、202…フロントサイドドア、204…ドアパネル、206…窓用開口部
図1
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図6
図7
図8
図9