(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093867
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】光源装置および画像取得装置
(51)【国際特許分類】
G02B 23/26 20060101AFI20220617BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
G02B23/26 B
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206581
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮田 忠明
【テーマコード(参考)】
2H040
2H149
【Fターム(参考)】
2H040BA08
2H040CA04
2H040CA09
2H040GA02
2H040GA06
2H040GA11
2H149AA21
2H149AB01
2H149BA02
2H149DA02
2H149DA12
2H149FC10
(57)【要約】
【課題】偏光状態を変化させることのできる光源装置を提供する。
【解決手段】本開示の光源装置(100)は、被写体(500)の一部の領域(52B)が吸収または反射する光の波長域に含まれるピーク波長を有し、直線偏光したレーザ光Lを出射するレーザ光源(10)と、レーザ光源から出射されたレーザ光を透過させ、レーザ光の偏光状態を変化させる偏光制御素子(12)と、光を伝搬させる長軸方向に直交する断面が、長軸方向に直交する進相軸と、長軸方向および進相軸の両方に直交する遅相軸とを含む複屈折光ファイバ(13)とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体の一部の領域が吸収または反射する光の波長域に含まれるピーク波長を有し、直線偏光したレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を透過させ、前記レーザ光の偏光状態を変化させる偏光制御素子と、
光を伝搬させる長軸方向に直交する断面が、前記長軸方向に直交する進相軸と、前記長軸方向および前記進相軸の両方に直交する遅相軸とを含む、複屈折光ファイバと、
前記偏光制御素子を透過した前記レーザ光を前記複屈折光ファイバの入射端に集光する収束レンズと、
を備え、
前記偏光制御素子は、前記レーザ光の光軸周りに回転可能に支持された複屈折素子と、前記複屈折素子を前記レーザ光の光軸周りに回転させるアクチュエータとを有している、光源装置。
【請求項2】
前記偏光制御素子は、前記アクチュエータによって前記複屈折素子を回転させて前記複屈折光ファイバに入射する前記レーザ光の偏光軸を回転させ、
前記複屈折光ファイバは、前記複屈折素子の前記回転に応じて異なる方向に偏光した前記レーザ光を出射する、請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
Lbをビート長、Nを0以上の整数とするとき、前記複屈折光ファイバの長さは、Lb×(N+1/2)である、請求項1または2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記レーザ光のピーク波長は410nm以上660nm以下の範囲にある、請求項1から3のいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項5】
前記被写体は生体組織である、請求項1から4のいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項6】
照明光を出射する照明光源をさらに有し、
前記照明光源は、
励起レーザ光を出射するレーザダイオードと、
前記励起レーザ光によって照射されて蛍光を発する蛍光体と、
を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項7】
前記照明光源から出射された前記照明光を伝搬させる光ファイバを備える、請求項6に記載の光源装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の光源装置と、
撮像装置と、
前記光源装置および前記撮像装置の動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記光源装置における前記アクチュエータを駆動して、前記複屈折光ファイバから出射される前記レーザ光の偏光状態を変化させる、画像取得装置。
【請求項9】
前記撮像装置は、前記被写体からの光を透過する偏光フィルタを有している、請求項8に記載の画像取得装置。
【請求項10】
前記撮像装置は、それぞれの偏光透過軸の向きが異なる複数のパターン化偏光子が設けられたイメージセンサを有している、請求項8に記載の画像取得装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光源装置、および、当該光源装置を備える画像取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源から出射されたレーザ光はコヒーレント光であるため、高い干渉性を有している。レーザ光が粗面などの散乱媒体によって散乱されると、散乱光にはランダムな位相分布が付与され、不規則な干渉が生じる。その結果、「スペックル」と呼ばれるコントラストの高い斑点の模様が観察される。
【0003】
一方、散乱媒体である血球を有する生体組織をレーザ光で照射し、その生体組織から得られるスペックルに基づいて、血球の移動速度(血流速度)を測定するレーザスペックルコントラストイメージング(LSCI)技術が開発されている。LSCI技術におけるスペックルは、血流速度の検出に必要な「信号」として利用される。
【0004】
特許文献1は、生体の所定部位に異なる複数の偏光状態にあるレーザ光を照射し、病変部等からの表出組織を識別可能に表示することができる内視鏡を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の内視鏡では、レーザ光が光ファイバを伝搬する過程でレーザ光の偏光状態が意図せず変化してしまう可能性がある。
【0007】
本開示の実施形態は、光ファイバを利用して照射されるレーザ光の偏光状態の変化を抑制することが可能な光源装置および画像取得装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の光源装置は、例示的な実施形態において、被写体の一部の領域が吸収または反射する光の波長域に含まれるピーク波長を有し、直線偏光したレーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を透過させ、前記レーザ光の偏光状態を変化させる偏光制御素子と、光を伝搬させる長軸方向に直交する断面が、前記長軸方向に直交する進相軸と、前記長軸方向および前記進相軸の両方に直交する遅相軸とを含む、複屈折光ファイバと、前記偏光制御素子を透過した前記レーザ光を前記複屈折光ファイバの入射端に集光する収束レンズとを備える。前記偏光制御素子は、前記レーザ光の光軸周りに回転可能に支持された複屈折素子と、前記複屈折素子を前記レーザ光の光軸周りに回転させるアクチュエータとを有している。
【0009】
本開示の画像取得装置は、例示的な実施形態において、上記の光源装置と、撮像装置と、前記光源装置および前記撮像装置の動作を制御する制御装置とを備える。前記制御装置は、前記光源装置における前記アクチュエータを駆動して、前記複屈折光ファイバから出射される前記レーザ光の偏光状態を変化させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、光ファイバを利用して照射されるレーザ光の偏光状態の変化を抑制することが可能な光源装置と、そのような光源装置を備える画像取得装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、レーザ光源10から出射されたレーザ光Lが被写体50の表面55によって反射される様子を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、表面55上において近接する2つの点O1、O2の像が撮像面22S上に形成される様子を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、撮像面22S上に形成され得るスペックルパターンの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態における光源装置100を備える画像取得装置1000の構成例を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、人の血液に含まれるヘモグロビンの吸光係数の波長依存性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、白色光で照らされている被写体500の画像と、レーザ光源10および偏光制御素子12によって形成されたスペックルパターンとが重畳した画像の例を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、
図6の画像における異なる3種類の領域52A、52B、52Cの位置を示す図である。
【
図8】
図8は、偏光画像の例を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、レーザ光Lを構成する光線の反射を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、屈折率N=1.5の被写体500の表面55に空気(屈折率は1.0)中から光線が入射する場合における、入射角Ψと反射率との関係を示すグラフである。
【
図11A】
図11Aは、被写体500を照射するレーザ光の偏光軸D1と、撮像装置200が備える偏光フィルタの偏光透過軸D2との関係を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、偏光フィルタを透過した反射光成分から取得される画像を構成する、ある画素における信号出力(画素値)の角度Φの依存性を示すグラフである。
【
図12】
図12は、偏光制御素子12の構成例を示す図である。
【
図13】
図13は、レーザ光Lの光軸周りに回転可能に支持された複屈折素子120を模式的に示す図である。
【
図14】進相軸120Aに平行または45度傾斜した偏光軸を有する直線偏光が複屈折素子120を透過する様子を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、本実施形態における複屈折光ファイバ13の内部における偏光状態の変化を模式的に示す斜視図である。
【
図16】
図16は、複屈折光ファイバ13の断面構成例を模式的に示す図である。
【
図17】
図17は、撮像素子22の撮像面22Sにおける画素220の配列の一部と、画素220を覆う位置に置かれたパターン化偏光子224a、224b、224c、224dとの関係を模式的に示す平面図である。
【
図18A】
図18Aは、撮像素子22の撮像面22Sにおける画素220の配列の一部と、幾つかの画素220から得られる信号を示す図である。
【
図18B】
図18Bは、撮像素子22の撮像面22Sにおける画素220の他の配列の一部と、幾つかの画素220から得られる信号を示す図である。
【
図19】
図19は、撮像面22Sにおける画素220の配列の一部と画素ブロックの範囲の例を模式的に示す図である。
【
図20】
図20は、内視鏡用の光源装置100の構成例を模式的に示す図である。
【
図21】
図21は、内視鏡に適用された画像取得装置1000の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、レーザ光源10から出射されたレーザ光Lが被写体50の表面55によって反射される様子を模式的に示す図である。レーザ光Lは、可干渉性(コヒーレンス)が高い。本開示におけるレーザ光Lの波長は、例えば可視光の範囲にある。可視光の範囲は、例えば380nmから750nmまでの範囲である。被写体50の典型例は、生体組織である。生体組織のような被写体50の表面55、および/または、表面55から内部側に位置する表層領域には、レーザ光Lの波長程度の微視的な構造が不規則に存在している。被写体50の表面55に入射したレーザ光Lの一部は、表面55によって反射される。このとき、表面55から被写体50の表層領域に侵入したレーザ光Lの一部は、被写体50の表層領域で吸収されるか、多重散乱によって再び表面55から入射側の空間に戻ってくる。被写体50が生体組織である場合、表面55それ自体が平滑な粘膜で覆われていたとしても、細胞または細胞内微小粒子などによってレーザ光Lの散乱が発生し得る。以下、被写体50の表面55および表層領域をあわせて「散乱部」と称する場合がある。散乱部で散乱され、入射側の空間に戻ってきたレーザ光Lを「散乱光」と呼ぶことにする。散乱光には、表面55の微細な凹凸および多重散乱などによって空間的にランダムな位相分布が付加されるが、可干渉性は失われていない。
【0013】
撮像装置200は、レンズを含む撮像光学系20と、イメージセンサなどの撮像素子22とを備えている。レーザ光Lが被写体50の表面55に入射して発生した散乱光の一部は、撮像装置200の撮像光学系20によって集められ、撮像素子22の撮像面(観測面)22S上に収束する。なお、レーザ光Lが被写体50に入射するとき、散乱だけではなく、鏡面反射も発生し得る。このため、「反射光」の用語は、被写体50に入射した光の戻り光を広く含み、散乱光に限定されない。
【0014】
撮像面22Sでは、撮像光学系20の働きによって被写体50の結像が生じる。撮像面22S上の各位置に収束する光線の束は、表面55上の対応する位置およびその近傍で散乱された光波の重ね合わせである。より詳細には、表面55上の各点から出た光線の束が結像によって撮像面上に収束するとき、各点の撮像面上における像は、回折限界および収差などによって定まる「点拡がり分布」を有する。
【0015】
図2は、表面55上において近接する2つの点O1、O2の像が撮像面22S上に形成される様子を模式的に示す図である。点O1、O2のそれぞれが撮像面22S上に形成する2つの像は、相互に部分的に重なり合う点拡がり分布P1、P2を有している。点拡がり分布P1、P2のそれぞれの大きさは、撮像光学系20の開口数NAおよびレーザ光Lの波長λによって決まる。2つの点拡がり分布P1、P2が重なり合うということは、点拡がりをもたらす光線の起点、すなわち点O1、O2が、撮像光学系20の解像限界以下の距離内にあることを意味する。解像限界の長さをdとする。このような解像限界dを直径とする領域を「解像領域」と称する場合がある。解像領域のひとつが、
図2の表面55上における円(直径:d)によって模式的に表されている。
【0016】
撮像面22S上の2つの点拡がり分布P1、P2が重なり合う領域では、被写体50の解像領域内からの散乱光が干渉して、位相差に応じた明暗の模様が形成される。このような明暗模様は、表面55の凹凸、および、被写体50の散乱部における多重散乱のランダム性に依存するため、統計量によって評価され得る不規則なスペックルパターンを形成する。
【0017】
図3は、撮像面22S上に形成され得るスペックルパターンの一例を示す図である。
図3では、細かい粒状の明暗模様が観察される。明るい部分では光強度が相対的に高く、暗い部分では光強度が相対的に低い。スペックルの最小寸法は、撮像光学系20の開口数NAおよびレーザ光Lの波長λによって決まる点拡がり分布の大きさ程度である。
【0018】
散乱光の干渉は3次元空間内で生じる。このため、スペックルパターンを規定する「光強度振幅」の分布は、本来、3次元の位置座標に依存する。このような3次元空間内に客観的に存在するスペックルパターンは、「客観的スペックル(objective speckle)」または「非結像系スペックル」と呼ばれる。一方、撮像装置200によって観測されるスペックルパターンは、撮像光学系20の位置、向き、および開口数NAなどに依存し、「主観的スペックル(subjective speckle)」または「結像系スペックル」と呼ばれる。撮像装置200によって実際に観測されるスペックルは、撮像素子22の撮像面22S上におけるスペックルの「強度」の分布である。以下、本開示における「スペックルパターン」は、特に断らない限り、撮像装置200によって観測される主観的スペックルの二次元パターンを意味する。
【0019】
図1における被写体50、レーザ光源10、および撮像装置200が静止しているとき、客観的スペックルおよび主観的スペックルも静止している。しかし、被写体50の表面55、または被写体50の表層領域における細胞組織が運動している場合、散乱光の位相分布が時間的に変化するため、客観的スペックルおよび主観的スペックルも時間的に変動し得る。例えば、被写体50の表層付近に血管が存在し、血管内を赤血球が流れている場合、赤血球による散乱光の位相分布が時間的に変化するため、撮像面22S上において血管の像が形成されている領域では、スペックルが時間的に変化する。
【0020】
従来、例えば、内視鏡用光源としてレーザ光源を用いる場合、スペックルパターンは画像情報に対するノイズとなるため、可能な限り除去する必要があると考えられてきた。このため、スペックルパターンを形成しないように、レーザ光源から出射されたレーザ光の可干渉性を種々の方法によって低減することが行われてきた。
【0021】
本開示の光源装置では、特定波長を有するレーザ光の偏光状態を可変に制御することにより、レーザ光の反射率を変化させ、それによって被写体の領域に応じて明暗の程度が異なるスペックルパターンを形成する。こうして、従来は取得できなかった画像情報の取得が可能になる。以下、本開示の実施形態における光源装置および画像取得装置の実施形態を説明する。
【0022】
<実施形態>
以下、本開示の実施形態における光源装置および画像取得装置を説明する。
【0023】
まず、
図4を参照する。
図4は、本実施形態における光源装置100を備える画像取得装置1000の構成例を模式的に示す図である。
【0024】
図示されている画像取得装置1000は、光源装置100と、撮像装置200と、光源装置100および撮像装置200の動作を制御する制御装置300とを備えている。制御装置300は、表示装置400に接続されている。撮像装置200、制御装置300、および表示装置400の詳細については後述する。
【0025】
本実施形態における光源装置100は、偏光したレーザ光を出射するレーザ光源10と、レーザ光源10から出射されたレーザ光を透過させ、レーザ光の偏光状態を変化させる偏光制御素子12と、複屈折光ファイバ13とを備えている。複屈折光ファイバ13は、光を伝搬させる長軸方向に直交する断面が、長軸方向に直交する進相軸と、長軸方向および進相軸の両方に直交する遅相軸とを含む。また、
図4には記載されていないが、光源装置100は、偏光制御素子12を透過したレーザ光を複屈折光ファイバ13の入射端に集光する収束レンズを備えている。
【0026】
レーザ光源10の典型例は、半導体レーザ素子(レーザダイオード)である。レーザ光源10は、被写体500の一部の領域52Bが、他の領域52Aに比べて、相対的に強く吸収または強く反射する光の波長域に含まれるピーク波長λを有するレーザ光を出射する。レーザ光源10は、可干渉性を有するレーザ光を出射することにより、被写体500の領域52Aおよび領域52Bに互いに異なるスペックルコントラストを有するスペックルパターンを形成することができる。ここで、例えば「領域52Aにスペックルパターンを形成する」とは、「撮像装置200が取得する画像において、領域52Aの像の部分にスペックルパターンを形成する」ことを意味する。領域52Aの像の部分に形成されるスペックルパターンは、領域52Aで生じた散乱光の干渉に基づく。このため、被写体500の領域52Aと領域52Bとの間で、ピーク波長λのレーザ光に対する吸収・反射特性および散乱特性が異なる場合、スペックルパターンから抽出される特徴量に基づいて、領域52Aと領域52Bを識別または判別することが可能になる。ピーク波長λは、撮像装置200によって検出可能な波長範囲にあればよい。ピーク波長λは、例えば410nm以上660nm以下の範囲にある。
【0027】
図5は、ヘモグロビンの吸光係数の波長依存性を示すグラフである。ヘモグロビンは、ヒトを含む全ての脊椎動物の血液中に見られる赤血球の中に存在するタンパク質である。
図5において、ヘモグロビンの吸光係数が実線Hで示されている。
図5には、参考のために、ヒトの体内組織による散乱係数も破線Sによって示されている。
図5に示されるように、波長が約400nm以上約600nm以下の領域では、赤外領域に比べると、ヘモグロビンによる光吸収が相対的に大きい。特に、約415nmの波長では、ヘモグロビンの吸光係数が特異的に高くなり、吸光ピークHpを示す。一方、波長が約1350nmを超えると、水による吸光係数(不図示)が急激に増加する。符号Wの白抜き矢印で示される約650nm以上約1350nm以下の波長範囲内では、ヘモグロビンまたは水による光の吸収が相対的に少なく、散乱が生じやすくなる。このため、
図5の白抜き矢印で示される波長範囲Wの光は、他の波長範囲に比べて生体内部の奥深くに侵入しやすく、この波長範囲Wは「生体の窓」と称されている。ヒトの生体組織の内部から情報を取得したい場合、波長範囲Wの光で生体組織を照射することが行われる。ただし、従来、このような目的のためには、スペックルノイズが発生しないように可干渉性のない光(インコヒーレント光)が用いられてきた。
【0028】
本開示の実施形態では、レーザ光源10が、被写体500の一部の領域が吸収または反射する光の波長域に含まれるピーク波長λを有するレーザ光を出射する。このため、被写体500の吸収・反射特性に応じて異なるスペックルコントラストを有するスペックルパターンを形成することが可能になる。ピーク波長λは、約415nmである必要はなく、例えば410~420nmの範囲から選択され得る。
【0029】
なお、ピーク波長λのレーザ光には例えば数nm程度のスペクトル幅が存在する。ピーク波長λは、被写体の一部の領域が特異的に吸収または反射する光の波長と一致している必要はない。例えば、被写体の一部の領域が特異的に吸収または反射する光の波長が約415nmである場合において、レーザ光のピーク波長λは、例えば420nmであってもよい。そのような場合でも、被写体の当該領域はレーザ光の吸収または反射を引き起こし得るからである。人間の目の視感度は555nm付近で最も高くなる。このため、被写体の一部の領域が吸収する波長域内における吸収ピークの波長よりも555nmに近いピーク波長を有するレーザ光でスペックルパターンを形成する方が、人間の目で認識しやすい色の模様が観察される。ただし、スペックルパターンの実際の色(例えば紫色)を、画像処理により、人間の目の視感度が高い波長(555nm)に近い波長の色(例えば緑色)に変換し、スペックルを強調して表示装置400に表示させてもよい。
【0030】
本開示の実施形態における光源装置100は、外部(具体的には制御装置300)からの制御信号に応答してレーザ光の偏光状態を変化させる偏光制御素子12を備えている。後述するように、偏光制御素子12によって偏光状態が変化したレーザ光を複屈折光ファイバ13に入射し、伝搬させることにより、被写体500に入射するレーザ光の偏光状態を制御することが可能である。偏光状態を変化させることにより、スペックルパターンも変化する。偏光状態の変化を高速で実行すれば、異なるスペックルパターンが重畳され、スペックルパターンのコントラストは低下する。このため、例えば、スペックルパターンから情報を得たり、反射光に含まれる偏光成分から偏光情報を取得したりする動作モードと、スペックルパターンを抑制して通常の観察を行う動作モードとを切り替えて実行することが可能になる。
【0031】
本実施形態において、光源装置100は、照明光を出射する照明光源として、白色光源14を有している。本開示において、「白色」の光とは、赤色(R)、黄色(Y)、緑色(G)、および青色(B)の各色の波長範囲に属する波長成分を少なくとも2つ、より好ましくは全色含む光を広くカバーする。ここで、R光の波長範囲は、例えば620nmから660nmである。G光の波長範囲は、例えば500nmから540nmである。B光の波長範囲は、例えば430nmから480nmである。Y光の波長範囲は、例えば550nmから590nmである。白色光源14からは、R光、G光、B光が同時に放射される必要はなく、例えば約30ミリ秒の期間内にR光、G光、B光が、順次、放射されていれば、目には、それらの色成分の加色混合が生じて白色を認識することが可能になる。また、B光で蛍光体を励起して、Y光を放射させてもよい。B光およびY光の混色により、白色化が生じる。CCD(Charged-Coupled Devices)またはCMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)イメージセンサなどの撮像素子が30フレーム毎秒(=30fps)で画像データの読み出し動作を行う場合、1フレーム期間は約33ミリ秒である。このため、1フレーム期間内において、R光、G光、B光などを、順次または同時に放射すれば、白色化が達成され得る。このため、R光、G光、B光などを、順次または同時に放射し得る光源は、「白色光源」に含まれる。本実施形態において、白色光源14の典型例は、LED(Light Emitting Diode)またはLD(Laser Diode)である。白色光源14がLDを含む場合、後述するように、スペックルを発生しないように構成される。
【0032】
撮像装置200は、白色光源14から放射された光で被写体500が照らされることにより、被写体500の画像を取得することができる。内視鏡が使用される環境では、白色光源14のような照明光源がないと、被写体500の明瞭な画像を取得することは困難であるが、本開示の光源装置100は、内視鏡以外の用途にも使用され得る。例えば皮膚または目の状態を観察するための光源としても利用され得る。そのような用途では、他の照明装置または太陽光によって被写体500を照らすことができるため、上記の白色光源14は必須ではなくなる。なお、内視鏡が使用される環境下において、白色化されていない光(好ましくは広帯域光)で被写体500を照らしても、画像処理によって被写体500の観察を行うことは可能である。
【0033】
本実施形態では、白色光で照らされている被写体500の画像と、レーザ光源10および偏光制御素子12によって形成されたスペックルパターンとを重畳して表示装置400に表示させることができる。白色光だけでは病変部の見落としが発生し得るような場合に、スペックルパターンの存在が見落としの防止に寄与し得る。
【0034】
図6は、白色光で照らされている被写体500の画像と、レーザ光源10および偏光制御素子12によって形成されたスペックルパターンとが重畳した画像(合成画像)の例を模式的に示す図である。
図7は、
図6の合成画像における異なる3種類の領域52A、52B、52Cの位置を示す図である。
図6では、簡単のため、白色光で照らされている被写体500の画像が示す微細な構造の記載が省略されており、スペックルパターンのみが表されている。領域52A、52B、52Cは、スペックルパターンの特徴量(例えば明るさおよびコントラストなど)に基づいて、相互に判別され得る。
図6の例において、領域52Bは、波長λのレーザ光を領域52Aよりも吸収しやすい。このため、領域52Bにおけるスペックルの明るさは、全体として、領域52Aにおけるスペックルの明るさに比べて相対的に減少している。これに対して、領域52Cは、波長λのレーザ光を領域52Aよりも反射しやすい。このため、領域52Cにおけるスペックルの明るさは、全体として、領域52Aにおけるスペックルの明るさに比べて相対的に増加している。このようなスペックルパターンに基づく領域の判別は、レーザ光源10から出射されるレーザ光のピーク波長λが、被写体500の一部の領域52A、52B、52Cが特異的に吸収または反射する光の波長域に含まれ、かつ、レーザ光の可干渉性が高く維持されているために実現する。一方、白色光源14から放射された光のみで被写体500が照らされているならば、
図6のスペックルパターンは観察されないため、領域52A、52B、52Cの識別が困難な場合がある。
【0035】
レーザ光のピーク波長λが約415nmである場合、上記の領域52Bは、例えばヘモグロビンを含む血液成分が他の領域よりも多く存在している領域であり得る。ヘモグロビンを含有する赤血球は、本来、レーザ光を散乱してスペックルパターンの形成に寄与し得る。しかし、レーザ光がヘモグロビンに強く吸収される場合には、散乱光の強度が低下するため、スペックルの強度(明るさ)も低下してしまう。なお、赤血球を含む血液が血管内を流れている場合、赤血球による散乱光の位相が時間的に変動する。そのため、時間的に平均化されたスペックルのコントラストは低下する。
【0036】
スペックルパターンに基づく上記の領域判別は、生体組織における病変などの異常を示す領域を検出することに寄与する。このような検出は、人間が視覚に基づいて行う例に限定されず、情報処理技術を用いて「機械的」に行ってもよい。後述するように、スペックルパターンから種々の特徴量を抽出することができるため、これらの特徴量に基づいて、領域の分割(セグメンテーション)または分類を実行することが可能になる。特徴量に基づく領域の分割または分類は、深層学習などの機械学習によって作成された学習済みモデルを用いても実行され得る。
【0037】
通常の白色光源による照明だけでは、生体組織における病変部と周辺部との間に明瞭なコントラスト差が発生せず、画像からは識別することが困難な場合がある。そのような場合、上記のスペックルパターンを利用することにより、見落としの発生を抑制することが可能になる。このため、本実施形態における光源装置は、特に内視鏡用の光源として優れた効果を発揮し得る。
【0038】
図8は、偏光画像の例を模式的に示す図である。偏光画像は、特定の方向に偏光透過軸を有する偏光フィルタを介した撮像を行うことにより取得される。偏光透過軸の方向を変えると、偏光画像の明暗パターンも変化し得る。
【0039】
図9は、レーザ光Lを構成する光線の反射を模式的に示す図である。この光線は、被写体500の表面55に入射角Ψで入射し、入射角Ψに等しい反射角で反射されている。ここで「入射角Ψ」は、被写体500における表面55の法線(点線)と入射光線との間の角度である。実際の被写体500の表面55は、平坦ではなく、起伏を有し得る。例えば、被写体500がヒトまたは動物の臓器である場合、粘膜表面に凹凸が存在するため、表面55の法線は、位置に応じて異なる方向を指す。
【0040】
図10は、屈折率N=1.5の被写体500の表面55に空気(屈折率は1.0)中から光線が入射する場合における、入射角Ψと反射率との関係を示すグラフである。実線は光線がS波偏光(偏光軸が入射面に垂直)、破線は光線がP波偏光(偏光軸が入射面に平行)である場合を示す。
図10のグラフは、フレネルの式から算出される。
【0041】
図10に示されるように、光線の反射率は、光線の偏光軸の向きに依存する。このため、被写体500を照射するレーザ光Lの偏光軸を回転させると、S波偏光の画像とP波偏光の画像との間で反射光強度の差異が顕著に観察される画素または画素群が観察され得る。そのような画素または画素群は、被写体500における表面55において光線の入射角Ψが例えば60°程度になる傾斜した領域に相当し得る。このように、画素単位で取得される反射光強度の偏光依存性を測定すれば、被写体500の表面55における凹凸の情報(法線方向の情報)を取得することが可能になる。
【0042】
上記の反射光強度の偏光依存性を取得するためには、被写体500を照射するレーザ光の偏光軸状態を可変にすることが望ましい。
【0043】
図11Aは、被写体500を照射するレーザ光の偏光軸D1と、撮像装置200が備える偏光フィルタの偏光透過軸D2との関係を示す図である。ここでは、簡単のため、撮像装置200の水平横方向をX軸とする。レーザ光の偏光軸D1は、このX軸を基準として反時計回りに角度θ1だけ回転した方向を向いている。偏光フィルタの偏光透過軸D2は、X軸を基準として反時計回りに角度θ2だけ回転した方向を向いている。偏光軸D1と偏光透過軸D2との間には、角度Φ=θ1-θ2が形成されている。
【0044】
図11Bは、被写体500からの反射光のうち偏光フィルタを透過した成分から取得される画像を構成する、ある画素における信号出力(画素値)の角度Φの依存性を示すグラフである。Φ=0°のとき、すなわち、偏光軸D1と偏光透過軸D2とが一致するとき、画素値は最大値I
maxを示す。また、Φ=90°のとき、すなわち、偏光軸D1と偏光透過軸D2とが直交するとき、画素値は最小値I
minを示す。最小値I
minは、ゼロではない。散乱による反射成分は、入射したレーザ光の偏光軸D1とは異なる方向に偏光している成分を含む。その結果、角度Φがどのような値であっても、画素値はゼロにはならない。
【0045】
図11Bの波形が得られると、偏光度ρ=(I
max-I
min)/(I
max+I
min)が算出可能になる。
図11Bの正確な波形を取得するためには、θを連続的に変化させることが好ましいが、θが異なる複数の値で画素値I(θ)を測定すれば、データフィッテングにより、I
maxおよびI
minの大きさを推定することができる。
【0046】
図11Bに示す波形は、画素によって異なり得る。言い換えると、被写体500の部位によって、レーザ光の偏光反射率の特性が異なる。
図8に模式的に示される偏光画像は、被写体500を照射するレーザ光の偏光軸を回転させると、異なる明暗の分布を示し得る。
【0047】
被写体500を照射するレーザ光の偏光軸D1と同じ方向に偏光透過軸D2を有する偏光フィルタを介して撮像を行う場合、被写体500で反射しても偏光が崩れなかった成分が画像を構成する。これに対して、被写体500を照射するレーザ光の偏光軸D1のみを例えば90°回転させると、上記の偏光透過軸D2を有する偏光フィルタを透過し得る反射光成分は、被写体500で反射されるとき、偏光方向が90°回転した成分が画像を構成することになる。
【0048】
このようにレーザ光の偏光軸D1を回転させることにより、種々の偏光画像を取得することができる。偏光画像において、同じ位置にある画素であっても、入射するレーザ光の偏光軸D1に依存して反射光の強度が変化し得る。これは、被写体500の表面における部位によって、反射特性が異なり、しかも、同じ部位であってもレーザ光の偏光方向に依存して反射光の強度が変化し得るからである。
【0049】
次に、
図12から
図16を参照して、本実施形態において、レーザ光の偏光軸D1を回転させるための構成の例を説明する。
【0050】
偏光制御素子12は、レーザ光源10から出射されたレーザ光Lを透過させ、レーザ光Lの偏光状態を変化させることができる素子である。
図12に示されるように、偏光制御素子12は、レーザ光Lの光軸周りに回転可能に支持された複屈折素子120と、複屈折素子120をレーザ光Lの光軸周りに回転させるアクチュエータ122とを有している。
【0051】
図13は、レーザ光Lの光軸(Z軸)周りに回転可能に支持された複屈折素子120を模式的に示す図である。図中の矢印Rは、時計回り方向の回転を示している。図示されている例において、複屈折素子120の進相軸120Aは、Y軸の正方向に対して時計回りに45°傾斜している。この傾斜の角度は、アクチュエータ122の働きによって変更され得る。
【0052】
複屈折素子120の進相軸120Aは、屈折率が最も高くなる方向に平行な軸である。
図14の上段に示されるように、進相軸120Aに平行な偏光軸を有する直線偏光が複屈折素子120を透過しても、偏光軸の回転は生じない。しかし、例えば複屈折素子120が1/2波長板である場合、
図14の下段に示すように、入射光の偏光軸に対して1/2波長板の進相軸120Aが45°傾いていると、偏光軸に45°×2=90°の回転が発生する。
【0053】
図15は、本実施形態における複屈折光ファイバ13の内部における偏光状態の変化を模式的に示す斜視図である。
図16は、複屈折光ファイバ13の断面構成例を模式的に示す図である。
【0054】
図示された状態の複屈折光ファイバ13は、
図16に示されるように、光を伝搬させる長軸(Z軸)方向に直交する断面が、長軸方向に直交する進相軸FAと、長軸方向および進相軸の両方に直交する遅相軸SAとを含む光ファイバである。このような屈折率異方性を実現するため、複屈折光ファイバ13は相対的に屈折率の高いコア13Aと、コア13Aの外周に位置するクラッド13Bとを有し、クラッド13Bには一対の応力付与部13Cが挿入されている。応力付与部13Cがクラッド13Bに形成する応力分布に起因して
図16の下段に示す屈折率分布が形成される。X軸方向における屈折率分布とY軸方向における屈折率分布とは異なる形状を有しており、Y軸方向の偏光軸を有する直線偏光は、X軸方向の偏光軸を有する直線偏光よりも速く伝搬される。この性質は、複屈折光ファイバ13が曲がった状態でも維持される。
【0055】
図16に示されるような構成を備える複屈折光ファイバ13は、「PANDAファイバ」とも呼ばれる偏波保持ファイバである。偏波保持ファイバは応力付与部13Cで発生する応力のため、コア13Aは、X軸方向の引っ張り応力とY軸方向の圧縮応力を受け、光弾性効果により、複屈折が誘起される。偏光軸がX軸に平行な直線偏光(X偏波モード)の伝搬定数をβX、偏光軸がY軸に平行な直線偏光(Y偏波モード)の伝搬定数をβY、波数をkとすると、複屈折Δβは(βX-βY)/kである。Δβがゼロより大きくなると、X偏波モードとY偏波モードとが結合しにくくなる。このため、PANDAファイバは、X偏波モードまたはY偏波モードの直線偏光を、その偏光状態を保持したまま伝搬させることができる。
【0056】
本実施形態では、例えば第1の動作状態では、X偏波モードまたはY偏波モードの直線偏光を伝搬させる。そして、第2の動作状態では、X偏波モードおよびY偏波モードが合成された偏光状態にある直線偏光(X軸およびY軸に45°で交差する方向に偏光した光)を伝搬させる。第2の動作状態では、Lb=2π/Δβで表される「ビート長」の伝搬距離を周期として偏光状態が変化する。本実施形態では、Nを0以上の整数とするとき、複屈折光ファイバ13の長さは、Lb×(N+1/2)である。なお、
図15の例において、複屈折光ファイバ13の進相軸FAは、
図14の下段に示される複屈折素子120の進相軸120Aに平行である。
【0057】
図14に示すように、複屈折素子120を回転させることにより、複屈折光ファイバ13に入射するレーザ光の偏光軸を回転させることが可能である。そして、複屈折光ファイバ13に入射するレーザ光の偏光軸を回転させることにより、複屈折光ファイバ13から出射されるレーザ光の偏光状態を制御することができる。具体的には、複屈折光ファイバ13から出射されるレーザ光の偏光状態を直交する2つの方向でスイッチングすることが可能になる。このことは、
図10を参照して説明したS波偏光とP波偏光とを切り替えて被写体500を照射することを可能にする。
【0058】
なお、複屈折光ファイバ13の内部でレーザ光の偏光状態を変化させる代わりに、偏光状態を保持したまま、複屈折光ファイバ13そのものを軸周りに90度捩じることによっても、複屈折光ファイバ13から出射されるレーザ光の偏光方向を直交する2つの方向でスイッチングすることが可能になる。
【0059】
図17は、撮像装置200が有する撮像素子22の撮像面22Sにおける画素220の配列の一部と、画素220を覆う位置に置かれたパターン化偏光子224a、224b、224c、224dとの関係を模式的に示す平面図である。パターン化偏光子224a、224b、224c、224dは、それぞれ、45°ずつ異なる方向を向いた偏光透過軸を有している。簡単のため、撮像素子22の光軸は、複屈折光ファイバ13の長軸方向と同軸であるとする。パターン化偏光子224a、224b、224c、224dは、それぞれ、X軸に対する角度θ2=0°、45°、90°、135°の偏光透過軸を有している。ある偏光状態にあるレーザ光で被写体500を照射しているとき、パターン化偏光子224a、224b、224c、224dによって覆われた4個の画素220から出力された信号の強度(画素値)に基づいて、
図11Bに示される正弦波カーブ上の4点に相当するデータを取得することが可能である。
【0060】
こうして取得された正弦波カーブに基づいて、被写体500の各部位における偏光反射特性を4画素単位の分解能で取得することができる。
【0061】
更に、
図12のアクチュエータ122を用いて複屈折素子120を高速で回転させると、撮像素子が画像データの読み出し動作を行うときの1フレーム期間(例えば約33ミリ秒)の間に、被写体500を照射するレーザ光の偏光状態を変化させることが可能になる。1フレーム期間内に異なる複数の偏光状態でレーザ光を照射すると、偏光状態に応じてコヒーレンスが変わるため、個々の偏光状態で異なるスペックルパターンが形成され、それらが重畳される。その結果、各フレーム期間内で複数のスペックルパターンが重なり合って、そのコントラストが低下する。このように本実施形態によれば、レーザ光の偏光状態を可変にすることにより、そのレーザ光のコヒーレンスを制御してスペックルコントラストを増減させることも可能になる。
【0062】
本開示の実施形態によれば、被写体の観察者が、
図4の表示装置400に表示される映像を視認しながら、随時、スペックルコントラストを増減させることが可能になる。具体的には、
図4に示される被写体500の観察者、あるいは画像取得装置1000の操作者は、不図示の入力デバイスを用いて制御装置300を操作し、偏光制御素子12の動作を制御することが可能である。例えば、最初は、スペックルパターンを形成しない状態で被写体500の像を観察し、適宜、スペックルパターンを通常の被写体像に重畳することが可能になる。また、被写体を照射するレーザ光の偏光状態を制御することによって、被写体から偏光情報を所得して被写体の表面状態を更に詳しく観察することが可能になる。
【0063】
次に、撮像装置200によって得られる画像信号の例を説明する。撮像装置200は、
図1に示されるように、撮像光学系20と撮像素子22を有している。
【0064】
図18Aは、ある偏光状態にあるレーザ光で被写体を照射したとき、撮像素子22の撮像面22Sにおける画素220の配列の一部と、幾つかの画素220から得られる信号を示す図である。個々の画素220は、入射光量に応じた電気信号を出力する光電変換部を有している。各画素220は、不図示の配線を介して読み出し回路などに接続されている。
図18Aの上段には、2行4列に配置された8個の画素220と、撮像面22S上に形成されたスペックル222とが模式的に示されている。
図18Aの下段には、上段のB1-B1線が横切る4個の画素220からそれぞれ出力された信号S11、S12、S13、S14の大きさが、各バーの高さで表わされている。撮像素子22の前面には偏光フィルタが配置され得る。この偏光フィルタの偏光透過軸の向きが変わると、各画素220から得られる信号の大きさも変化し得る。偏光フィルタの透過軸は、全ての画素220について共通であってもよいし、
図17に示すように異なっていてもよい。被写体を照射するレーザ光の偏光状態を変化させることにより、撮像面22Sに形成されるスペックルパターンも変化し得る。
【0065】
図18Aから明らかなように、この例における画素220はスペックル222よりも小さい。画素220がスペックル222よりも大きい場合、スペックルパターンを明瞭に観察することは難しい。スペックルパターンが静止しているとき、各画素220から出力される信号の大きさは、時間的に一定である。
【0066】
図18Bは、
図18Aの例よりも、各画素220のサイズおよび配列ピッチが小さな例を示している。
図18Bの上段には、4行8列に配置された32個の画素220と、撮像面22S上に形成されたスペックル222とが模式的に示されている。
図18Bの下段には、上段のB2-B2線が横切る8個の画素220からそれぞれ出力された信号S21、S22、S23、S24、S25、S26、S27、S28の大きさが、各バーの高さで表わされている。
【0067】
図18Aおよび
図18Bから明らかなように、画素220のサイズおよび配列ピッチが小さいほど、スペックルパターンを高精細に観察することが可能になる。ピーク波長λのレーザ光によって形成されるスペックルパターンを観察するには、画素220が波長λの光に応答して光電変換を行う必要がある。撮像装置200がカラーイメージセンサである場合、
図18Aおよび
図18Bに示されている各画素220は、例えば、Rサブ画素、Gサブ画素、およびBサブ画素を含む。これらのサブ画素は、各画素220内において、例えばベイヤ配列の位置に置かれる。この場合、画像信号は、RGBのそれぞれの信号成分を含む。レーザ光のピーク波長が例えば約415nmである場合、スペックルパターンの明るい模様は、Bサブ画素によって検知され得る。
【0068】
撮像装置200に用いられ得る撮像素子(イメージセンサ)は、フレーム単位で画素信号を読み出すことができる。読み出しレートが例えば30フレーム毎秒の場合、1フレームの期間は、約33ミリ秒である。この場合、約33ミリ秒毎に画素信号が読み出される。ある画素220から得られる画素信号は、その画素220が、1フレームの期間よりも短い露光時間内に光電変換によって蓄積した電荷の量に応じた大きさを有している。従って、露光時間の間にスペックルが画素サイズよりも長い距離だけ移動したならば、スペックルパターンを明瞭に検出することは困難になる。このため、スペックルパターンを観察するモードでは、スペックルパターンが高速度で移動しないようにすることが望ましい。スペックルパターンは、
図4の被写体500に対して光源装置100および撮像装置200が移動すると変化する。また、複屈折素子120を回転させるなどして、光源装置100から出射されるレーザ光Lのコヒーレンスを時間的に変化させても、スペックルパターンは変化し得る。このため、スペックルパターンを静止させるには、被写体500に対して光源装置100および撮像装置200を実質的に静止し、光源装置100からコヒーレンスの高いレーザ光Lで被写体500を照射することが望ましい。
【0069】
スペックルパターンを統計的に評価するための量(統計量)として、「スペックルコントラスト」が知られている。「スペックルコントラスト」は、以下の式によって定義される。
C=σ/J ・・・(式1)
ここで、Cはスペックルコントラスト、Jは光強度の空間平均値、σは光強度の標準偏差である。
【0070】
図18Aおよび
図18Bに示される画素220から出力される信号の大きさから、撮像面22S上における「光強度」の空間分布が測定され得る。その結果、Jおよびσを算出できる。
【0071】
図19を参照して、複数の画素から構成されるブロック単位でスペックルコントラストを算出する例を説明する。
図19は、撮像面22Sにおける画素220の配列の一部と画素ブロックの例を模式的に示す図である。
【0072】
図19の例において、撮像面22Sの位置(i,j)にある画素(i,j)のスペックルコントラストCは、例えば、画素(i,j)を中心に含む7×7個の画素のブロックBLから得られる画素信号に基づいて決定することができる。具体的には、その画素ブロックBL内の全ての画素の信号から、平均値Jおよび標準偏差σを算出することにより、C(i,j)を取得できる。画素ブロックBLは、7×7個に限定されず、9×9個であってもよいし、他のサイズを有していてもよい。着目する中心の画素(i,j)を行方向または列方向に1画素ずつシフトするように画素ブロックBLをスライドさせながら、全ての画素についてC(i,j)を算出すれば、C(i,j)の二次元配列、すなわちコントラスト像を得ることができる。個々の画素がスペックルよりも充分に小さい場合、隣接する幾つかの画素信号を加算することにより、画素密度を実質的に低下させてから、C(i,j)を算出してもよい。このようなC(i,j)は、ローカルなスペックルコントラストと呼ぶことができる。ローカルなスペックルコントラストは、病変部を他の部分から識別するための特徴量として機能し得る。スペックルコントラストの算出は、
図4の画像処理装置(演算処理回路)32によって実行され得る。画像処理装置32は、プロセッサ30とともに動作して、撮像装置200から得られる画像信号に基づいて画像データを生成する。こうして作成された画像データは、表示装置400によって表示され得る。
【0073】
本実施形態によれば、人間の目によってスペックルパターンの違いを検知しにくい場合でも、画像処理装置32が生成するコントラスト像に基づいた定量的な評価を行うことにより、病変部などの検知が容易になる。また、被写体を照射するレーザ光の偏光状態を変化させることにより、被写体表面の部位によって異なり得る偏光特性の情報を取得することが可能になる。このような偏光特性は病変部の形状変化などの検知に有効である。
【0074】
なお、前述したように、撮像面22S上におけるスペックルの最小サイズは、撮像装置200が有する撮像光学系20の開口数NAおよびレーザ光Lの波長λに依存する。より正確には、撮像面22S上におけるスペックルの最小サイズは、2.44×λ(1+M)×Fナンバで表される。Mは、撮像光学系20による横倍率(像倍率)であり、FナンバはF値とも呼ばれ、2/NAに等しい。(1+M)×Fナンバは、「実効Fナンバ」と呼ばれる。撮像面22Sにおける画素220のサイズおよび配列ピッチなどを考慮して、横倍率Mを適切な範囲に設定することにより、病変部の種類に応じて検出に適した大きさのスペックルを撮像面22S上に形成することが可能である。
【0075】
スペックルパターンの特徴量は、スペックルコントラストに限られず、信号/ノイズ比率(SN比)であってもよい。スペックルの平均サイズまたは個数密度などを画像処理によって算出し、それらをスペックルパターンの特徴量として採用してもよい。
【0076】
次に、
図20を参照しながら、光源装置100を内視鏡用光源として用いる形態を説明する。
【0077】
図20は、内視鏡用の光源装置100の構成例を模式的に示す図である。図示されている光源装置100は、偏光制御素子12によってコヒーレンスが制御されたレーザ光を、複屈折光ファイバ13に光学的に結合させる集光レンズ126を有している。内視鏡の具体的な構成は任意である。内視鏡は、軟性鏡に限られず、硬性鏡であってもよい。
【0078】
以下、光源装置100の詳細を説明する。
図20の光源装置100は、レーザ光源10と、偏光制御素子12と、白色光源14とを備えている。
【0079】
レーザ光源10は、例えば、ピーク波長λが415nmの青紫色レーザダイオード(LD)10Vを含む。青紫色LD10Vから出射されたレーザ光は、レンズ110でコリメートされた後、集光レンズ112によって偏光制御素子12の複屈折素子120上に収束される。複屈折素子120を透過したレーザ光は、集光レンズ126によって複屈折光ファイバ13の入射側端面に収束され、複屈折光ファイバ13に光学的に結合する。複屈折光ファイバ13を伝搬するレーザ光は、やがて内視鏡の先端部分から放射され、生体組織である被写体を照射する。偏光画像を取得するモードでは、偏光制御素子12を通過したレーザ光の偏光状態が制御され、所望の偏光状態にあるレーザ光で被写体を照射することが可能になる。一方、白色光で被写体を照明しながら観察を行うモードでは、レーザ光源10からのレーザ光の出射が停止され得る。上記のいずれの観察モードにおいても、被写体は、白色光源14から出射された白色光によって照らされ得る。
【0080】
図20の例における白色光源14は、赤色LD14R、緑色LD14G、および青色LD14Bを有している。これらのLD14R、14G、14Bから出射されたレーザ光は、それぞれ、レンズ142によってコリメートされる。赤色LD14Rから出射されたレーザ光は、コリメートされた後、ダイクロイックミラー144Rで反射され、次にダイクロイックミラー144Bを通過して、集光レンズ146に入射する。緑色LD14Gから出射されたレーザ光は、コリメートされた後、ダイクロイックミラー144Rおよびダイクロイックミラー144Bを通過して集光レンズ146に入射する。青色LD14Bから出射されたレーザ光は、コリメートされた後、ダイクロイックミラー144Bで反射され、集光レンズ146に入射する。こうして、LD14R、14G、14Bから出射されたレーザ光は、集光レンズ146によって、回転する拡散素子148上に収束する。この回転する拡散素子148により、スペックルを形成しないレベルまでレーザ光のコヒーレンスが低減される。拡散素子148は、例えば毎分3600回転またはそれ以上の速度で回転するようにモータによって駆動される。回転する拡散素子148を透過したレーザ光は、集光レンズ150によって光ファイバなどの光導波路60の入射側端面に収束され、光導波路60に光学的に結合する。光導波路60を伝搬するレーザ光(白色光)は、やがて内視鏡の先端部分から放射され、生体組織である被写体を照射する。
【0081】
図20の例では、白色光を構成する3原色の色成分が、いずれも、LD(レーザダイオード)から出射されたレーザ光であるが、本開示の実施形態における白色光源の構成は、この例に限定されない。白色光を構成する3原色の色成分の一部または全部がLEDから放射された光であってもよいし、タングステンランプなどのランプから放射された光であってもよい。LEDまたはランプから放射される光はインコヒーレントであるため、回転する拡散素子148は必要なくなる。あるいは、青色レーザダイオードまたは紫外レーザダイオードから出射された励起レーザ光で蛍光体を励起し、白色光を生成してもよい。蛍光体が発する蛍光は、インコヒーレントである。紫外のレーザ光で蛍光体を励起して白色光を形成する場合も、可視光成分の全ては蛍光によって構成されるため、回転する拡散素子148は必要なくなる。また、青色のレーザ光で蛍光体を励起する場合も、レーザ光は蛍光体を透過する過程で散乱され、黄色成分の蛍光と混色されるため、必ずしも回転する拡散素子148を使用する必要はない。
【0082】
次に
図21を参照して、内視鏡に適用された画像取得装置1000の構成例を説明する。
【0083】
図21に示される画像取得装置1000は、光源装置100と、撮像装置200と、光源装置100および撮像装置200の動作を制御する制御装置300とを備えている。制御装置300は、プロセッサ30および画像処理装置32を有しており、表示装置400に接続されている。光源装置100の構成は、例えば
図20を参照して説明した構成と同様であり得る。プロセッサ30は、典型的には、半導体集積回路を備えるマイクロコントローラである。不図示のメモリには、プロセッサ30の動作を制御するプログラムが記憶されている。
【0084】
図21の画像取得装置1000は、光源装置100および制御装置300に接続された内視鏡600を備えている。内視鏡600は、光源装置100の偏光制御素子12から出射されたレーザ光を伝搬させる複屈折光ファイバ13を有している。同様に、内視鏡600は、白色光源14から出射された白色光を伝搬させ光導波路60を有している。光導波路60および複屈折光ファイバ13は、それぞれ、照明光学系62A、62Bに光学的に接続されている。光導波路60の典型例は、光ファイバである。照明光学系62A、62Bから、それぞれ、白色光およびレーザ光が被写体に向けて放射される。
【0085】
内視鏡600は、さらに撮像装置200と、撮像装置200を制御装置300に接続する信号伝送路64とを有している。撮像装置200の撮像素子は、小型のイメージセンサであり、被写体の撮像を行って画像信号を出力する。撮像素子には、特定方向に偏光透過軸を有する偏光フィルタが設けられている。この偏光フィルタは、例えば、
図17に示されるパターン化偏光子であってもよい。撮像素子から出力された画像信号は、信号伝送路64を通って制御装置300の画像処理装置32に与えられる。画像処理装置32は、画像信号に基づいて、被写体の画像を表示装置400に表示させる。スペックルパターンを観察するモードにおいて、画像処理装置32は、スペックルコントラストおよび偏光度を算出し、算出値に基づいて特定領域の区分を強調する画像を重畳し得る。
【0086】
制御装置300のプロセッサ30は、操作者による入力に従って、レーザ光の偏光状態を変化させる制御信号を偏光制御素子12に送る。この制御信号に応答して、偏光制御素子12は、レーザ光の偏光状態(例えば、直線偏光の偏光方向)を変化させる。
【0087】
光源装置100から放射される光を内視鏡600の先端部分まで導く構成は多様であり、図示されている例に限定されない。白色光は、内視鏡600内の光導波路を伝搬してきた励起光が、内視鏡600の先端部分に配置された蛍光部材に入射して形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示の光源装置は、被写体から光学的に情報を取得して被写体の状態を診断するための光源として様々な用途で利用され得る。特に被写体が生体組織である場合、本開示の光源は、生体組織の表面または内部からの情報を非侵襲に取得することを可能にするため、内視鏡用光源として有用である。また、本開示の光源装置および画像取得装置は、工業用内視鏡のように、生体組織以外の被写体から有益な情報を得る用途にも利用され得る。
【符号の説明】
【0089】
10・・・レーザ光源、12・・・偏光制御素子、14・・・白色光源、30・・・プロセッサ、32・・・画像処理装置、50・・・被写体、100・・・光源装置、200・・・撮像装置、300・・・制御装置、400・・・表示装置、500・・・被写体、600・・・内視鏡