(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094152
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池廃棄物の処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20220617BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20220617BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220617BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20220617BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20220617BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20220617BHJP
C22B 3/16 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B21/00
C22B3/44 101A
C22B23/00 102
C22B47/00
C22B3/06
C22B3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207008
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】後田 智也
(72)【発明者】
【氏名】河村 寿文
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA11
4K001DB02
4K001DB22
4K001JA03
4K001JA09
(57)【要約】
【課題】液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンを中和により有効に析出させ、その析出物を比較的容易に分離させることができるリチウムイオン電池廃棄物の処理方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池廃棄物を処理する方法であって、リチウムイオン電池廃棄物から得られ少なくともアルミニウム及び鉄を含む電池粉を酸で浸出させ、固液分離により浸出残渣を除去し、少なくともアルミニウムイオン及び鉄イオンを含む浸出後液を得る浸出工程と、前記浸出後液にリン酸及び/又はリン酸塩、並びに酸化剤を添加し、pHを2.0~3.5の範囲内に上昇させて、前記浸出後液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンをそれぞれリン酸アルミニウム及びリン酸鉄として析出させ、固液分離により中和残渣を除去して中和後液を得る中和工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池廃棄物を処理する方法であって、
リチウムイオン電池廃棄物から得られ少なくともアルミニウム及び鉄を含む電池粉を酸で浸出させ、固液分離により浸出残渣を除去し、少なくともアルミニウムイオン及び鉄イオンを含む浸出後液を得る浸出工程と、
前記浸出後液にリン酸及び/又はリン酸塩、並びに酸化剤を添加し、pHを2.0~3.5の範囲内に上昇させて、前記浸出後液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンをそれぞれリン酸アルミニウム及びリン酸鉄として析出させ、固液分離により中和残渣を除去して中和後液を得る中和工程と
を含む、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記中和工程で、前記浸出後液への前記リン酸及び/又はリン酸塩の添加量を、当該リン酸及び/又はリン酸塩中のリンが、前記浸出後液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンの合計に対して0.6倍モル当量~1.2倍モル当量になる量とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記浸出後液が、前記電池粉に由来するマンガンイオンをさらに含み、
前記中和工程でpHを前記範囲内として、前記マンガンイオンの析出を抑制しながら、前記リン酸アルミニウム及びリン酸鉄を析出させる、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記浸出後液が、前記電池粉に由来するコバルトイオン及びニッケルイオンのうちの一種以上の金属イオンをさらに含み、
前記中和後液に対し、カルボン酸系抽出剤を含む溶媒を使用して平衡pHを6.5~7.5とし、前記中和後液中のマンガンイオン及び前記一種以上の金属イオンを当該溶媒に抽出した後、当該溶媒からマンガンイオン及び前記一種以上の金属イオンを逆抽出して金属混合溶液を得る金属抽出工程をさらに含む、請求項3に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記金属抽出工程で、抽出時に、前記中和後液に含まれるリンを当該中和後液に残して、前記溶媒に抽出されるマンガンイオン及び前記一種以上の金属イオンから分離させる、請求項4に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項6】
前記金属抽出工程で、前記溶媒に含まれる前記カルボン酸系抽出剤が、ネオデカン酸を含む、請求項4又は5に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項7】
前記金属混合溶液から、マンガンの金属塩と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上の金属塩とを含む混合金属塩を析出させる析出工程をさらに含む、請求項4~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項8】
前記析出工程で、前記金属混合溶液を水酸化ナトリウムで中和し、マンガンの水酸化物と、コバルトの水酸化物及びニッケルの水酸化物のうちの一種以上の水酸化物とを含む混合金属塩を析出させる、請求項7に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項9】
前記混合金属塩が、リチウムイオン電池の製造に用いられる、請求項7又は8に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
近年は、製品寿命もしくは製造不良その他の理由より廃棄されたリチウムイオン電池廃棄物から、そこに含まれるコバルトやニッケル等の有価金属を湿式処理により回収することが、資源の有効活用の観点から広く検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池廃棄物から有価金属を回収するには、たとえば、焙焼その他の所定の工程を経て得られる電池粉を酸に浸出させ、その電池粉中のニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、鉄等が溶解した浸出後液を得る。
その後、特許文献1~3等に記載されているように、溶媒抽出もしくは中和等により、浸出後液に溶解している各元素のうち、アルミニウム、鉄及びマンガン等を順次に又は同時に除去し、ニッケルやコバルト等の有価金属を溶媒抽出によって分離と濃縮を行う。これにより、各金属が溶解した溶液が得られる。ニッケルやコバルトは各溶液から電気分解等によってそれぞれ回収する。
【0004】
これに関連して、特許文献4~8には、浸出後液に溶解しているアルミニウム及び鉄を、中和及び酸化により除去する技術について記載されている。具体的には、特許文献4及び5では、「リチウムイオン電池スクラップを浸出し、それにより得られる浸出後液に対して固液分離を行い、第一分離後液を得る浸出工程と、第一分離後液に酸化剤を添加して、第一分離後液のpHを3.0~4.0の範囲内に調整した後、固液分離を行い、第一分離後液中の鉄を除去して第二分離後液を得る脱鉄工程と、第二分離後液を、pH4.0~6.0の範囲内に中和した後、固液分離を行い、第二分離後液中のアルミニウムを除去して第三分離後液を得る脱アルミニウム工程とを含む」としている。また特許文献6及び7では、「リチウムイオン電池スクラップを浸出して、浸出後液を得る浸出工程と、浸出後液を、pH4.0~6.0の範囲内に中和した後、固液分離を行い、浸出後液中のアルミニウムを除去して第一分離後液を得る脱アルミニウム工程と、第一分離後液に酸化剤を添加して、pHを3.0~5.0の範囲内に調整した後、固液分離を行い、第一分離後液中の鉄を除去して第二分離後液を得る脱鉄工程とを含む」としている。
【0005】
このような中和で特にアルミニウムを除去するに当り、pHを比較的高い値に上昇させると、液中のアルミニウムイオン濃度を有効に低下させることができるが、条件によってはニッケル及びコバルトまで若干析出して沈殿する場合がある。この場合、ニッケル及びコバルトのロスが懸念される。
【0006】
ここで、特許文献8には、「(A)コバルト成分を含むリチウムイオン電池廃材を無機酸で浸出し、(B)浸出した水溶液のリンとアルミニウムイオンのモル比を0.6~1.2に調整し、酸化電位を500mV以上で、鉄イオンを酸化し、(C)該水溶液のpHを3.0~4.5に調整し、不純物金属を沈殿除去し、精製溶液を取得し、(D)この精製溶液に蓚酸を添加してコバルト蓚酸塩を、又は、この精製溶液のpHを6~10に調整してコバルト水酸化物又はコバルト炭酸塩を沈澱として取得することを特徴とするリチウムイオン電池廃材からの高純度コバルト化合物の回収法」が提案されている。ここで、「(B)」及び「(C)」に関し、より詳細には、「(B)工程において、コバルトを含有する浸出した水溶液のリンとアルミニウムイオンのモル比を、亜リン酸,正リン酸などを添加して、0.6~1.2の範囲に調整後に、溶液中に過酸化水素水などの酸化剤を添加して、酸化電位を500mV以上として、2価の鉄イオンを3価に酸化する。リンとアルミニウムイオンのモル比が0.6未満であると、次の(C)工程におけるpH調整時のアルミニウム除去が不完全となり、逆に1.2を超えてもそれ以上の大きな効果は得られない。また、酸化電位が500mV未満では、鉄の酸化が不完全である。」、「更に、(C)工程において、苛性ソーダ水溶液などのアルカリ剤を添加し、pHを3.0~4.5に調整すると、水酸化鉄及びリン酸アルミニウムが沈殿するので、該沈澱を濾過等により除去して精製溶液を取得する。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-180439号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0135547号明細書
【特許文献3】特開2014-162982号公報
【特許文献4】国際公開第2017/159745号
【特許文献5】米国特許出願公開第2019/0106768号明細書
【特許文献6】国際公開第2017/159743号
【特許文献7】米国特許出願公開第2019/0084839号明細書
【特許文献8】特開平11-006020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献8に記載されているようにリン酸等を添加すれば、pHをそれほど高くしなくても、液中のアルミニウムイオンがリン酸アルミニウムとして析出するので、これを沈殿させて除去することが可能である。また、この中和時にpHをある程度低く維持することで、コバルトやニッケル等の有価金属のロスを抑えることができる。
【0009】
他方、特許文献8では、鉄については水酸化鉄として沈殿させることとしている。水酸化鉄は多くの場合、ゲル状の沈殿物を形成し、濾過等によって液体から分離させることが容易ではない。このことは、リチウムイオン電池廃棄物の処理効率の低下を招く。
【0010】
この明細書では、液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンを中和により有効に析出させ、その析出物を比較的容易に分離させることができるリチウムイオン電池廃棄物の処理方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この明細書で開示するリチウムイオン電池廃棄物の処理方法は、リチウムイオン電池廃棄物から得られ少なくともアルミニウム及び鉄を含む電池粉を酸で浸出させ、固液分離により浸出残渣を除去し、少なくともアルミニウムイオン及び鉄イオンを含む浸出後液を得る浸出工程と、前記浸出後液にリン酸及び/又はリン酸塩、並びに酸化剤を添加し、pHを2.0~3.5の範囲内に上昇させて、前記浸出後液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンをそれぞれリン酸アルミニウム及びリン酸鉄として析出させ、固液分離により中和残渣を除去して中和後液を得る中和工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0012】
上述したリチウムイオン電池廃棄物の処理方法によれば、液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンを中和により有効に析出させ、その析出物を比較的容易に分離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一の実施形態に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法を示すフロー図である。
【
図2】実施例の試験例1におけるpHの変化に対する液への各種金属の分配率の変化を表すグラフである。
【
図3】実施例の試験例2におけるpHの変化に対する液へのアルミニウムの分配率の変化を表すグラフである。
【
図4】実施例の試験例3におけるpHの変化に対する液への各種金属の分配率の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、上述したリチウムイオン電池廃棄物の処理方法の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法は、
図1に示すように、リチウムイオン電池廃棄物に前処理を施すこと等によって得られる電池粉に対して、浸出工程及び中和工程を行う。電池粉は少なくともアルミニウム及び鉄を含むものであり、浸出工程では、この電池粉を酸で浸出させるとともに、固液分離により浸出残渣を除去することにより、少なくともアルミニウムイオン及び鉄イオンを含む浸出後液を得る。
【0015】
その後、中和工程では、浸出後液にリン酸及び/又はリン酸塩と、酸化剤とを添加し、pHを2.0~3.0の範囲内に上昇させて、浸出後液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンをそれぞれリン酸アルミニウム及びリン酸鉄として析出させる。ここでは、アルミニウムイオン及び鉄イオンの多くは、水酸化物等ではなくリン酸塩として析出し、中和残渣に含まれる。それにより、その中和残渣を、濾過等の固液分離により液体から容易に分離させて除去することができる。中和工程での固液分離後、当該中和残渣が除去されて中和後液が得られる。
【0016】
なお、この実施形態では、
図1に示すように、中和後液に対して抽出工程及び析出工程を順次に行い、混合金属塩を得ることとしているが、中和工程後の処理はこれに限らない。
【0017】
(リチウムイオン電池廃棄物)
対象とするリチウムイオン電池廃棄物は、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用され得るリチウムイオン二次電池で、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄されたものである。このようなリチウムイオン電池廃棄物から有価金属を回収することは、資源の有効活用の観点から好ましい。またここでは、有価金属であるコバルト及び/又はニッケルとマンガンとを高純度で回収し、リチウムイオン二次電池の製造に再度使用できるものとすることを目的とする。
【0018】
リチウムイオン電池廃棄物は、その周囲を包み込む外装として、アルミニウムを含む筐体を有する。この筐体としては、たとえば、アルミニウムのみからなるものや、アルミニウム及び鉄、アルミラミネート等を含むものがある。また、リチウムイオン電池廃棄物は、上記の筐体内に、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択される一種の単独金属酸化物又は、二種以上の複合金属酸化物等からなる正極活物質や、正極活物質が、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)その他の有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)を含むことがある。またその他に、リチウムイオン電池廃棄物には、銅、鉄等が含まれる場合がある。さらに、リチウムイオン電池廃棄物には通常、筐体内に電解液が含まれる。電解液としては、たとえば、エチレンカルボナート、ジエチルカルボナート等が使用されることがある。
【0019】
(前処理)
リチウムイオン電池廃棄物に対しては、多くの場合、前処理を行う。前処理には、焙焼工程、破砕工程及び篩別工程が含まれることがある。リチウムイオン電池廃棄物は、前処理を経ることにより電池粉になる。
【0020】
焙焼工程では、上記のリチウムイオン電池廃棄物を加熱する。この焙焼工程は、たとえば、リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウム、コバルト等の金属を、溶かしやすい形態に変化させること等を目的として行う。焙焼工程では、リチウムイオン電池廃棄物を、たとえば450℃~1000℃、好ましくは600℃~800℃の温度範囲で0.5時間~4時間にわたって保持する加熱を行うことが好適である。ここでは、ロータリーキルン炉その他の各種の炉や、大気雰囲気で加熱を行う炉等の様々な加熱設備を用いて行うことができる。
【0021】
焙焼工程の後は、リチウムイオン電池廃棄物の筐体から正極活物質等を取り出すための破砕工程を行うことができる。破砕工程では、リチウムイオン電池廃棄物の筐体を破壊するとともに、正極活物質が塗布されたアルミニウム箔から正極活物質を選択的に分離させる。
破砕工程には、種々の公知の装置ないし機器を用いることができるが、特に、リチウムイオン電池廃棄物を切断しながら衝撃を加えて破砕することのできる衝撃式の粉砕機を用いることが好ましい。この衝撃式の粉砕機としては、サンプルミル、ハンマーミル、ピンミル、ウィングミル、トルネードミル、ハンマークラッシャ等を挙げることができる。なお、粉砕機の出口にはスクリーンを設置することができ、それにより、リチウムイオン電池廃棄物は、スクリーンを通過できる程度の大きさにまで粉砕されると粉砕機よりスクリーンを通じて排出される。
【0022】
破砕工程でリチウムイオン電池廃棄物を破砕した後は、たとえばアルミニウムの粉末を除去する目的で、適切な目開きの篩を用いて篩分けする篩別工程を行う。それにより、篩上にはアルミニウムや銅が残り、篩下にはアルミニウムや銅がある程度除去された電池粉を得ることができる。
【0023】
前処理を経て得られる電池粉は、少なくともアルミニウム及び鉄を含むものである。電池粉は、アルミニウム含有量が、たとえば1質量%~10質量%、典型的には3質量%~5質量%であり、鉄含有量が、たとえば1質量%~5質量%、典型的には1質量%~3質量%である。
電池粉にはさらに、マンガンと、コバルト及び/又はニッケルとを含む場合がある。たとえば、電池粉中のコバルト含有量は0質量%~30質量%、ニッケル含有量は0質量%~30質量%、マンガン含有量は0質量%~30質量%である。また、電池粉は、リチウムを2質量%~8質量%で含むことがある。その他、電池粉には、銅等が含まれ得る。
【0024】
(浸出工程)
浸出工程では、上記の電池粉を硫酸等の酸性浸出液に添加し、酸により浸出させる。その後、フィルタープレスやシックナー等を用いた固液分離により、浸出残渣と浸出後液とに分離させ、浸出残渣を除去する。
【0025】
なお必要に応じて、上記の酸性浸出液による浸出の前に予め、電池粉を水と接触させ、リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムのみを浸出して分離させてもよい。この場合、電池粉を水と接触させてリチウムを浸出させた後の水浸出残渣を、上記の酸性浸出液に添加して酸浸出を行う。
【0026】
浸出工程での酸浸出は公知の方法ないし条件で行うことができるが、pHを0.0~3.0とすることが好適である。酸浸出が終了した後、浸出後液のpHは0.5~2.0になることがある。酸化還元電位(ORP値、銀/塩化銀電位基準)については、たとえば、酸による浸出直後は-250mV~0mVになり、固液分離後の浸出後液では300mV程度になる場合がある。
【0027】
ここで得られる浸出後液は、少なくともアルミニウムイオン及び鉄イオンを含むものである。浸出後液はその他に、マンガンイオン、さらにコバルトイオン及びニッケルイオンのうちの一種以上の金属イオンを含むことがある。なお、電池粉に含まれることのある銅は、酸浸出で溶解させずに、浸出残渣に残して除去することができる。銅も浸出して浸出後液中に溶解している場合は、後述する中和工程の前に電解により銅を除去する工程を行ってもよい。
【0028】
浸出後液は、たとえば、コバルトイオン濃度が10g/L~30g/L、ニッケルイオン濃度が10g/L~30g/L、マンガンイオン濃度が10g/L~30/L、アルミニウムイオン濃度が1.0g/L~5.0/L、鉄イオン濃度が1.0g/L~5.0g/Lである場合がある。
【0029】
(中和工程)
中和工程では、浸出後液からアルミニウムイオンの少なくとも一部及び鉄イオンの少なくとも一部を析出させ、その析出物を含む中和残渣を固液分離により除去する。これにより、中和後液が得られる。
【0030】
ここでは、より詳細には、浸出後液にリン酸及び/又はリン酸塩、並びに酸化剤を添加し、pHを2.0~3.5の範囲内に上昇させる。これにより、浸出後液に含まれていたアルミニウムイオン及び鉄イオンはそれぞれ、リン酸アルミニウム及びリン酸鉄となって析出して析出物に含まれる。
【0031】
このようなリン酸塩は、水酸化物に比して、固液分離時に濾過等によって分離させることが容易であるから、当該分離が困難になることによる処理効率の低下が有効に抑制される。この実施形態では、中和残渣がそのようなリン酸アルミニウム及びリン酸鉄等のリン酸塩を含むので、当該中和残渣を濾過等の固液分離により液体から容易に分離させることができる。言い換えれば、仮に中和による析出物に水酸化鉄等の水酸化物が多く含まれていた場合、ゲル状等の形態をなす水酸化物は液体からの分離が難しく、リチウムイオン電池廃棄物の処理効率を低下させる。
【0032】
またここでは、浸出後液にリン酸及び/又はリン酸塩を添加して、アルミニウムイオン及び鉄イオンをリン酸アルミニウム及びリン酸鉄として析出させるので、その際にpHをそれほど大きく上昇させることを要しない。pHを2.0~3.5の範囲内という比較的低い値に上昇させれば、リン酸アルミニウム及びリン酸鉄が有効に析出し、アルミニウム及び鉄を除去できることから、このときのコバルトやニッケル等のロスを抑制することができる。
【0033】
すなわち、pHを3.5よりも高い値に上昇させた場合は、浸出後液中のコバルトイオンやニッケルイオンまで析出し、それらの有価金属のロスを招く。一方、pHが低すぎると、リン酸アルミニウム及びリン酸鉄の析出が不十分になることが懸念される。この観点から、中和時のpHは、2.5~3.5とすることが好ましい。
【0034】
また、浸出後液に、電池粉に由来するマンガンイオンが含まれていた場合、この中和時のpHを高くしすぎると、マンガンイオンまでリン酸マンガンとして析出することがある。後述するように、金属混合溶液、さらには混合金属塩を作製するのであれば、中和工程で多くのマンガンイオンが析出して除去されることは、コバルト及び/又はニッケルとマンガンとの組成比が大きく変化し得るので望ましくない。この実施形態では、pHを上述した範囲内とすることにより、そのようなマンガンイオンの析出を抑制しながら、アルミニウム及び鉄を除去することができる。
【0035】
中和工程では、浸出後液にリン酸及び/又はリン酸塩を添加する。ここでいうリン酸は、たとえば五酸化二リン(P2O5)が水和して生成され、リン酸骨格をもつ化合物(いわゆるリン酸類)を意味し、オルトリン酸(H3PO4)、二リン酸(H4P2O7)等が含まれる。また、リン酸塩は、リン及び酸素から構成される多原子イオンもしくは基を含む化合物であり、具体的には、リン酸三ナトリウム(Na3PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、その水和物等が挙げられる。このようなリン酸及び/又はリン酸塩を浸出後液に添加してpHを上述したように上昇させると、たとえばアルミニウムについてはAl2(SO4)3+2H3PO4+6NaOH→2AlPO4+3Na2SO4+6H2O等の反応が起こり、リン酸アルミニウム(AlPO4)及びリン酸鉄(Fe3(PO4)2、FePO4)が生成される。
【0036】
浸出後液へのリン酸及び/リン酸塩の添加量は、そのリン酸及び/又はリン酸塩中のリンが、浸出後液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンの合計に対して0.6倍モル当量~1.2倍モル当量になる量とすることが好ましい。リン酸及び/リン酸塩の添加量を、アルミニウムイオン及び鉄イオンの合計に対して0.6倍モル当量以上のリンを含む量にすることにより、浸出後液中のアルミニウムイオン及び鉄イオンがリン酸アルミニウム及びリン酸鉄として十分に沈殿し、それらをより一層有効に除去することができる。リン酸及び/リン酸塩の添加量は、過剰添加によるコストの増大を抑制するため、リン酸及び/又はリン酸塩中のリンがアルミニウムイオン及び鉄イオンの合計に対して1.2倍モル当量以下になる量とすることが望ましい。この添加量は、0.6倍モル当量~1.2倍モル当量とすることが好適である。
【0037】
なお浸出後液には、リチウムイオン電池廃棄物の電解液等に由来するリンが少量ながら含まれる場合があるが、そのようなリンも中和工程で消費され得る。
【0038】
また、浸出後液には酸化剤も添加する。酸化剤の添加により液中の鉄は2価から3価へ酸化され、リン酸鉄として析出しやすくなる。酸化剤としては、鉄を酸化できるものであれば特に限定されないが、たとえば、過酸化水素や二酸化マンガンを用いることができる。酸化剤として用いる二酸化マンガンは試薬でもよいし、二酸化マンガンを含む正極活物質や、正極活物質を浸出して得られるマンガン含有浸出残渣でもよい。あるいは、バブリングによる空気ないし酸素の供給でもよい。
鉄を沈殿させるため、酸化時の酸化還元電位(ORP値、銀/塩化銀電位基準)は、好ましくは300mV~900mV、たとえば600mV程度とする。なお、酸化剤の添加に先立って、pHを低下させるため、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸等の酸を添加することができる。
【0039】
リン酸及び/又はリン酸塩並びに酸化剤の添加後は、アルカリを添加してpHを上記の範囲に調整することができる。アルカリは特に限らないが、硫酸を含む浸出後液である場合は、カルシウム系ではなく、ナトリウム系の水酸化ナトリウムが好ましい。
【0040】
中和後液は、多くの場合、マンガンイオンを含み、さらにコバルトイオン及びニッケルイオンのうちの一種以上の金属イオンをさらに含むことがある。その他、中和後液は、中和で除去されずに残ったアルミニウムイオンや、リチウムイオンを含む場合がある。
たとえば、中和後液中のコバルトイオン濃度は0g/L~20g/L、ニッケルイオン濃度は0g/L~20g/L、マンガンイオン濃度は1g/L~20g/Lである場合がある。中和後液中のアルミニウムイオン濃度は、0.1g/L~2g/Lとなることがある。また、リチウムイオン濃度は、たとえば2.0g/L~5.0g/Lである場合がある。
【0041】
(抽出工程)
中和工程の後は、溶媒抽出法を用いた抽出工程を行うことができる。中和後液にアルミニウムイオンが残留している場合は、はじめに、アルミニウムイオンを抽出して除去し、その後、コバルトイオン及びニッケルイオンのうちの一種以上の金属イオンとマンガンイオンとをともに抽出するとともに逆抽出する。但し、中和後液にアルミニウムイオンがほぼ含まれていなければ、アルミニウムの除去のための溶媒抽出は省略することができる。
【0042】
アルミニウムイオンを除去するには、中和後液中のマンガンイオン等を水相に残しつつ、アルミニウムイオンを溶媒(有機相)に抽出する。これにより、その抽出残液では、アルミニウムイオンが除去されて、少なくとも、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンと、マンガンイオンとが含まれる。ここで、アルミニウムイオンの抽出後のマンガンイオン濃度は、アルミニウムイオンの除去前のマンガンイオン濃度の80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0043】
ここでは、マンガンイオンがあまり抽出されずアルミニウムイオンが抽出されるのであれば、リン酸エステル系抽出剤やカルボン酸系抽出剤など種々の抽出剤を用いることができ、それに応じて抽出時に適切な平衡pHとする。このうち、カルボン酸系抽出剤としては、たとえばネオデカン酸、ナフテン酸等が挙げられる。なかでも、できるだけマンガンイオンを抽出せずにアルミニウムイオンを抽出するとの観点から、ネオデカン酸が好ましい。カルボン酸系抽出剤は、炭素数8~16のカルボン酸を含むことが好適である。具体的には、シェル化学社製のVersatic Acid 10(「VA-10」ともいう。)等を使用可能である。この場合、抽出時の平衡pHは、好ましくは4.0~5.0、より好ましくは4.3~4.7とする。低すぎる平衡pHでは、アルミニウムイオンが十分に溶媒に抽出されず、中和後液中に多量に残存してしまうおそれがある。一方、高すぎる平衡pHでは、アルミニウムイオンが水酸化されて固体の水酸化アルミニウムとなり、溶媒によって抽出できなくなる。カルボン酸系抽出剤を含む溶媒を使用して、このような平衡pHとすれば、ほぼ全てのアルミニウムイオンを除去しつつ、ほとんどのマンガンイオンを水相に残すことができる。
【0044】
抽出剤を用いる場合、典型的には炭化水素系有機溶剤で希釈して溶媒とする。有機溶剤としては芳香族系、パラフィン系、ナフテン系等が挙げられる。たとえば、溶媒中のリン酸エステル系抽出剤の濃度は20体積%~30体積%とし、また、溶媒中のカルボン酸系抽出剤の濃度は20体積%~30体積%とすることがある。但し、これに限らない。なお、O/A比は1.0~5.0とする場合がある。
【0045】
上記の抽出は、一般的な手法に基いて行うことができる。その一例としては、溶液(水相)と溶媒(有機相)を接触させ、典型的にはミキサーにより、これらをたとえば5~60分間撹拌混合し、イオンを抽出剤と反応させる。抽出時の温度は、常温(15~25℃程度)から60℃以下とし、抽出速度、分相性、有機溶剤の蒸発の理由により35~45℃で実施することが好ましい。その後、セトラーにより、混合した有機相と水相を比重差により分離する。後述するコバルトイオン及び/又はニッケルイオンならびにマンガンイオンの抽出も、実施的に同様にして行うことができる。
【0046】
アルミニウムイオンの抽出後は、たとえば、コバルトイオン濃度が0g/L~20g/L、ニッケルイオン濃度が0g/L~20g/L、マンガンイオン濃度が1g/L~20g/L、アルミニウムイオン濃度が0.001g/L以下である場合がある。
【0047】
コバルトイオン及びニッケルイオンのうちの一種以上の金属イオン並びに、マンガンイオンの抽出は、それらの二種又は三種がともに抽出されるとともに逆抽出される条件で行う。これにより、中和後液に含まれることがあるナトリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン等の不純物を水相に残して、上記の金属イオン及びマンガンイオンから分離させて、上記の金属イオン及びマンガンイオンを含む逆抽出後液としての金属混合溶液が得られる。
【0048】
この抽出では、カルボン酸系抽出剤を含む溶媒を使用し、平衡pHを6.5~7.5とすることが好ましい。平衡pHがこの範囲内であれば、コバルトイオン及び/又はニッケルイオン並びにマンガンイオンを有効に抽出できるとともに、不純物を水相に残すことができる。平衡pHは6.8~7.2とすることがさらに好ましい。
【0049】
カルボン酸系抽出剤は、先述したところと同様に、ナフテン酸等でもよいがネオデカン酸を含むことが好ましく、また炭素数8~16のカルボン酸を含むことが好ましく、特にVA-10が好適である。ネオデカン酸を含むカルボン酸系抽出剤を用いたときは、他の金属イオンを抽出せずに、コバルトイオン及び/又はニッケルイオン並びに、マンガンイオンを有効に抽出することができる。カルボン酸系抽出剤は、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系等の有機溶剤で希釈して溶媒とすることができる。溶媒中のカルボン酸系抽出剤の濃度は20体積%~30体積%とすることが好ましい。これにより、不純物の多くを水相に残しつつ、マンガンイオン、並びに、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを十分に抽出することができる。O/A比は1.0~1.5とすることが好適である。O/A比がこの範囲であれば、不純物がほぼ抽出されずに、マンガンイオン並びに、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンが十分に抽出される。
【0050】
中和後液は、中和工程でリン酸及び/又はリン酸塩を添加したこと等に起因して、リンを含むことがあるが、当該リンは、コバルトイオン及びニッケルイオンのうちの一種以上の金属イオン並びにマンガンイオンを溶媒で抽出する際に水相に残り、それらの一種以上の金属イオン及びマンガンイオンから分離させることができる。
【0051】
コバルトイオン及び/又はニッケルイオン並びにマンガンイオンを溶媒に抽出した後、当該溶媒に対して逆抽出を行い、コバルトイオン及び/又はニッケルイオン並びにマンガンイオンを水相に移す。具体的には、溶媒を、硫酸もしくは塩酸等の逆抽出液と混合させ、ミキサー等により、たとえば5分~60分にわたって撹拌する。逆抽出液としては硫酸を使用することが好ましい。硫酸の逆抽出液を用いた場合、逆抽出後液である金属混合溶液は硫酸溶液になる。逆抽出液の酸濃度は、溶媒中のマンガンイオン並びに、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを効果的に逆抽出するため、0.05g/L~200g/L(pH:-0.6~3.0)に調整することが好ましく、1.5g/L~15g/L(pH:0.5~1.5)に調整することがより好ましい。逆抽出の温度は、常温から60℃以下とすることができ、逆抽出速度、分相性、有機溶剤の蒸発の理由により35~45℃で実施することが好ましい。
【0052】
金属混合溶液には、コバルトイオン及び/又はニッケルイオン並びに、マンガンイオンが含まれる。たとえば、金属混合溶液中のコバルトイオン濃度は0g/L~50g/L、ニッケルイオン濃度は0g/L~50g/L、マンガンイオン濃度は1g/L~50g/Lである場合がある。金属混合溶液には、不純物として、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムが含まれることがあるが、当該不純物の合計濃度は1.0g/L以下であることが好ましい。
【0053】
析出工程では、上記の抽出工程で得られる金属混合溶液(逆抽出後液)から、コバルト及び/又はニッケル並びにマンガンの各金属塩を含む混合金属塩を析出させる。
【0054】
ここでは、たとえば、金属混合溶液に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して、pHを9.0~10.0とし、コバルト及び/又はニッケル並びにマンガンを沈殿させる。このときの酸化還元電位(ORP値、銀/塩化銀電位基準)は、たとえば0mV~600mVとすることができる。液温は、60℃~90℃とすることができる。
【0055】
その後の固液分離により得られる混合金属塩には、コバルト及び/又はニッケル並びにマンガンの各金属塩、たとえば水酸化コバルト及び/又は水酸化ニッケル並びに水酸化マンガン等が混合して含まれ得る。また、中和残渣は、各金属の酸化物Co3O4、Mn3O4、Mn2O3、Ni3O4などを含む場合がある。
【0056】
なお、必要に応じて、上記の中和残渣を水等で洗浄した後、硫酸酸性溶液に溶解させ、これを加熱濃縮し又は冷却することにより、硫酸コバルト及び/又は硫酸ニッケル並びに硫酸マンガンを含む混合金属塩としてもよい。
【0057】
上述したようなコバルト及び/又はニッケル並びにマンガンの各水酸化物又は各硫酸塩等を含む混合金属塩は、たとえば、コバルトの含有量が0質量%~60質量%、ニッケルの含有量が0質量%~60質量%、マンガンの含有量が1質量%~60質量%である場合がある。また、混合金属塩は、不純物としてのナトリウムの含有量が60質量ppm以下、カルシウムの含有量が10質量ppm以下、マグネシウムの含有量が10質量ppm以下であることが好ましい。
このような混合金属塩は、コバルト、ニッケル及びマンガンの各メタルよりも、低コストで容易に回収でき、しかもリチウムイオン電池の製造に好適に用いられ得る。
【実施例0058】
次に、上述したようなリチウムイオン電池廃棄物の処理方法を試験的に実施したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0059】
(試験例1)
リチウムイオン電池廃棄物に焙焼、破砕及び篩別を行って得られた電池粉を、硫酸酸性溶液に浸出させ、浸出残渣を分離させて浸出後液を得た。この浸出後液に対し、リン酸を添加せずにNaOHを添加して中和を行った場合と、リン酸を添加した後にNaOHを添加して中和を行った場合における各金属の液分配率を、
図2(a)及び(b)にそれぞれ示す。なお、ここで用いたリン酸は、浸出後液中のアルミニウムイオンの量に対して1.2倍モル当量のリンを含むものであった。
【0060】
リン酸を添加しなかった場合、
図2(a)に示すように、pH4.5以上でアルミニウムを90%以上分離できたが、ニッケル及びコバルトが4~10%ロスする結果となった。
【0061】
一方、リン酸を添加した場合は、
図2(b)に示すように、pHを2.0~3.5とすればアルミニウムを沈殿させて分離することが可能であった。特にpHが3.5のときは、アルミニウムを90%以上分離でき、pH3.5時点でのニッケル及びコバルトロスが1~3%に抑えられた。また、
図2(b)より、pHが3.5を超えるとマンガンが多く析出することが解かる。マンガンの析出を抑制するとの観点からも、pHは3.5以下とすることが好ましい。したがって、pHを2.0~3.5とすることにより、ニッケル、コバルト及びマンガンの析出を抑制しながら、アルミニウムを分離できることが解かる。
【0062】
(試験例2)
浸出後液へのリン酸の添加量を、浸出後液中のアルミニウムイオンと鉄イオンの量に対するリンの量で0.0倍モル当量、0.6倍モル当量、0.9倍モル当量、1.2倍モル当量と変化させ、中和を行った場合のアルミニウムの液分配率を、
図3に示す。
【0063】
ニッケル及びコバルトのロスを抑えるため中和時のpHを3.5以下とした場合、アルミニウムを有効に除去するには、
図3より、リン酸の添加量は0.6倍モル当量以上、さらに0.9倍モル当量以上にすることが望ましいといえる。
【0064】
(試験例3)
浸出後液に対し、リン酸を添加せず酸化剤としての過酸化水素を添加して鉄を酸化した後にNaOHで中和を行った場合と、リン酸及び当該酸化剤を添加した後にNaOHで中和を行った場合における各金属の液分配率を、
図4(a)及び(b)にそれぞれ示す。
【0065】
図4(b)に示すところから解かるように、中和前に鉄を酸化することにより、さらに低いpH領域で、アルミニウムのみならず鉄をも有効に沈殿させることができる。