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  • 特開-ディスクブレーキパッド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094170
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】ディスクブレーキパッド
(51)【国際特許分類】
   F16D 69/00 20060101AFI20220617BHJP
   F16D 65/092 20060101ALI20220617BHJP
   F16D 69/04 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
F16D69/00 B
F16D65/092 D
F16D69/04 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207041
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】13-15 Quai Alphonse Le Gallo 92100 Boulogne-Billancourt,France
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 一
(72)【発明者】
【氏名】原 泰啓
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良尚
(72)【発明者】
【氏名】緒方 義夫
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058BA46
3J058BA68
3J058CA44
3J058CA47
3J058EA08
3J058FA01
3J058GA52
3J058GA55
3J058GA57
3J058GA58
3J058GA62
3J058GA64
3J058GA65
3J058GA90
3J058GA92
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バックプレートの軽量化によってディスクブレーキパッドの軽量化を図ると共に、耐腐食性、ひいては耐候性に優れながらも高い機械的強度を維持し、且つ、バックプレートの熱劣化を抑制できるディスクブレーキパッドを提供すること。
【解決手段】バックプレート1の一方の面に摩擦材(上張材)2が下張材3を介して配置されたディスクブレーキバッド100であって、前記バックプレートが、アルミニウム、アルミニウム合金及びアルミニウム複合材からなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記下張材が、金属を含有しないか、又は金属を含有していても、その含有量は下張材中0.5質量%未満であり、前記下張材のpHが6.0~9.0であり、前記下張材が結合材を下張材中30質量%以上及び有機繊維を下張材中20質量%以上含有する、ディスクブレーキパッド。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックプレートの一方の面に摩擦材(上張材)が下張材を介して配置されたディスクブレーキバッドであって、
前記バックプレートが、アルミニウム、アルミニウム合金及びアルミニウム複合材からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記下張材が、金属を含有しないか、又は金属を含有していても、その含有量は下張材中0.5質量%未満であり、
前記下張材のpHが6.0~9.0であり、
前記下張材が結合材を下張材中30質量%以上及び有機繊維を下張材中20質量%以上含有する、ディスクブレーキパッド。
【請求項2】
前記結合材が、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、エラストマー分散フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂及びメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のディスクブレーキパッド。
【請求項3】
前記有機繊維が、麻、木綿、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維及び架橋構造を有するフェノール樹脂繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のディスクブレーキパッド。
【請求項4】
前記下張材が、黒鉛を含有しないか、又は黒鉛を含有していても、その含有量は2質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のディスクブレーキパッド。
【請求項5】
前記バックプレートの比重が5以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のディスクブレーキパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ディスクブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の環境対応化及び低燃費化の進行に伴い、自動車の各部品の軽量化が検討及び実施されている。通常、自動車における原材料の構成は、金属材が半分以上を占めているが、車体の軽量化のため、その使用量は年々低下傾向にある。また、車体の軽量化にあたっては、近年、素材として、アルミニウム、アルミニウム合金もしくはアルミニウム複合材又は樹脂の使用が増加傾向にある。鋼板の比重は約7.8であり、これに比べてアルミニウムの比重は約2.7、樹脂の比重は約1であって軽いため、アルミニウム等及び樹脂などの素材を使用することにより、車体の50%以下の軽量化が見込める。このような軽量化への動きの中、車両においては、ボディ、フレームのみならず、車両を構成する各要素に対しても軽量化の要求が大きくなってきている。
【0003】
このような車体軽量化の要求は、車両の制動に用いられるブレーキシステムの構成要素の一つであるディスクブレーキパッドにおいても同様に大きくなってきている。具体的には、従来、ディスクブレーキパッドには鋼製の板材からなるバックプレートが用いられていたが、近年では、軽量素材であるアルミニウム又はその合金等からなるバックプレートが提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-046078号公報
【特許文献2】特開2013-060974号公報
【特許文献3】特開2015-135177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ディスクブレーキパッドの軽量化のため、バックプレートをこれまでの鋼製のものから、アルミニウム、アルミニウム合金及びアルミニウム複合材といった軽量化素材に変更することを検討した。しかし、これらの軽量化素材では、バックプレートと下張材の接着界面にて特定条件下で腐食が進行してしまうという問題が生じた。また、腐食の原因ではないかと考えた下張材の特定成分を低減することを検討したところ、その場合にはディスクブレーキパッドのせん断強度等の機械的強度が低下したり、バックプレートが熱劣化したりする等の問題が生じた。
【0006】
これらのことから、本開示は、バックプレートの軽量化によってディスクブレーキパッドの軽量化を図ると共に、耐腐食性、ひいては耐候性に優れながらも高い機械的強度を維持し、且つ、バックプレートの熱劣化を抑制できるディスクブレーキパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、下張材において特定成分の含有量を制限(完全な排除も含む。)しながら、特定成分の含有量を所定値以上にすることによって、バックプレートを軽量化したときにもディスクブレーキパッドの耐腐食性が改善され、高い機械的強度を維持でき、且つ、バックプレートの熱劣化も抑制し得ることを見出し、本開示に至った。本開示は、係る知見に基づいて完成したものである。
【0008】
本開示の一実施形態は下記[1]~[5]の通りである。
[1]バックプレートの一方の面に摩擦材(上張材)が下張材を介して配置されたディスクブレーキバッドであって、
前記バックプレートが、アルミニウム、アルミニウム合金及びアルミニウム複合材からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記下張材が、金属を含有しないか、又は金属を含有していても、その含有量は下張材中0.5質量%未満であり、
前記下張材のpHが6.0~9.0であり、
前記下張材が結合材を下張材中30質量%以上及び有機繊維を下張材中20質量%以上含有する、ディスクブレーキパッド。
[2]前記結合材が、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、エラストマー分散フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂及びメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]に記載のディスクブレーキパッド。
[3]前記有機繊維が、麻、木綿、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維及び架橋構造を有するフェノール樹脂繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]又は[2]に記載のディスクブレーキパッド。
[4]前記下張材が、黒鉛を含有しないか、又は黒鉛を含有していても、その含有量は2質量%以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のディスクブレーキパッド。
[5]前記バックプレートの比重が5以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のディスクブレーキパッド。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、バックプレートの軽量化によってディスクブレーキパッドの軽量化を図ると共に、耐腐食性、ひいては耐候性に優れながらも高い機械的強度を維持し、且つ、バックプレートの熱劣化を抑制できるディスクブレーキパッドを提供することができる。
また、バックプレートの比重が鋼より小さいため、ディスクブレーキパッドの軽量化を図ることで、二輪車及び四輪の自動車等の車体の軽量化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ディスクブレーキパッドを示す模式図(上面図)である。
図2】バックプレートの一方の面に摩擦材(上張材)が下張材を介して配置されたディスクブレーキパッドの図1におけるA-A断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の好ましい実施形態について詳細に説明する。但し、以下の実施形態において、その構成要素は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、数値範囲の下限値及び上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値又は上限値と任意に組み合わせられる。数値範囲「AA~BB」という表記においては、両端の数値AA及びBBがそれぞれ下限値及び上限値として数値範囲に含まれる。なお、本明細書中に特定項目の数値の下限値と上限値とが分かれて記載されている場合であっても、その下限値と上限値とを任意に組み合わせて数値範囲を形成することができる。
さらに、本明細書において、下張材中の各成分の含有率は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、下張材中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
また、本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も本実施形態に含まれる。
【0012】
[ディスクブレーキパッド]
本実施形態として、二輪車及び四輪の自動車等に取り付けられている制動用の摩擦部材として用いられるディスクブレーキパッドの一例を図1及び図2に示す。図1はディスクブレーキパッド100の上面図であり、図2図1のA-A線における断面図の一例である。このディスクブレーキパッド100は、バックプレート1、摩擦材(上張材とも称する)2及び下張材3から構成される。より詳細には、バックプレート1の一方の面11(ここではバックプレート1の上面)に下張材3が直接固着されており、該下張材を介して、つまり該下張り材の上に摩擦材(上張材)2が固着されている。
【0013】
本実施形態の一態様について図2を用いて説明する。鋼より比重の軽い素材である、アルミニウム、アルミニウム合金及びアルミニウム複合材からなる群から選択される少なくとも1種を含有するバックプレート1の一方の面に摩擦材(上張材)2が下張材3を介して配置されたディスクブレーキパッドであって、
前記バックプレートが、アルミニウム、アルミニウム合金及びアルミニウム複合材からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記下張材が、金属を含有しないか、又は金属を含有していてもその含有量は下張材中0.5質量%未満であり(以下、「特徴1」と称することがある。)、
前記下張材のpHが6.0~9.0であり(以下、「特徴2」と称することがある。)、
前記下張材が結合材を下張材中30質量%以上及び有機繊維を下張材中20質量%以上含有する(以下、「特徴3」と称することがある。)、ディスクブレーキパッドである。
【0014】
ここで、摩擦材(上張材)2は、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、下張材3は、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材2とバックプレート1との間に介在する、摩擦材2とバックプレート1との接着部付近のせん断強度及び耐クラック性向上を目的とした層のことである。
まず、バックプレート1について詳述する。
【0015】
[バックプレート]
バックプレートはディスクブレーキ用のバックプレートである。該バックプレートは、アルミニウム、アルミニウム合金及びアルミニウム複合材からなる群から選択される少なくとも1種(以下、軽量化素材Aと称することがある。)を含むものであり、つまり、鋼より比重の軽い素材を含有するものである。本実施形態では、軽量化素材Aを含むバックプレートを、軽量化バックプレートと称することがある。
該バックプレートは、前記軽量化素材Aを好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上、特に好ましくは95体積%以上、最も好ましくは99体積%以上含有するものであり(いずれも100体積%を含む。)、100体積%が軽量化素材Aからなるものであってもよい。
バックプレートの比重は、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下であり、さらに好ましくは2以下である。バックプレートの比重の下限は特に制限されるものではないが、0.1以上であってもよいし、1以上であってもよい。
【0016】
(アルミニウム、アルミニウム合金)
アルミニウムは比重が約2.7と小さいため、軽量化素材として好適である。一方で、機械的強度の観点から、バックプレートはアルミニウム合金を含むことが好ましく、50質量%以上がアルミニウム合金からなることがより好ましく、80質量%以上がアルミニウム合金からなることがさらに好ましく、90質量%以上がアルミニウム合金からなることがよりさらに好ましく、95質量%以上がアルミニウム合金からなることが特に好ましく、99質量%以上がアルミニウム合金からなることが最も好ましく(いずれも100質量%を含む。)、100質量%がアルミニウム合金からなるものであってもよい。
アルミニウム合金としては、2XXX系(Al-Cu系)、3XXX系(Al-Mn系)、4XXX系(Al-Si系)、5XXX系(Al-Mg系)、6XXX系(Al-Mg-Si系)、7XXX系(Al-Zn系)等の展伸用アルミニウム合金;AC1C(Al-Cu系)、AC1B(Al-Cu系)、AC2A(Al-Cu-Si系)、AC2B(Al-Cu-Si系)、AC3A(Al-Si系)、AC4A、AC4C(Al-Si-Mg系)、AC4B(Al-Si-Cu系)、AC4D(Al-Si-Cu-Mg系)、AC5A(Al-Cu-Ni-Mg系)、AC7A(Al-Mg系)、AC8A(Al-Si-Cu-Ni-Mg系)、AC8B(Al-Si-Cu-Ni-Mg系)、AC9A(Al-Si-Cu-Mg系)、AC9B(Al-Si-Cu-Mg系)等の鋳物用アルミニウム合金;ADC1(Al-Si系)、ADC3(Al-Si-Mg系)、ADC5(Al-Mg系)、ADC6(Al-Mg-Mn系)、ADC10(Al-Si-Cu系)、ADC12(Al-Si-Cu系)、ADC14(Al-Si-Cu-Mg系)等のダイキャスト用アルミニウム合金などを用いることができる。また、これらを熱処理(時効処理)等して調質したものを用いることができる。
【0017】
(アルミニウム複合材)
アルミニウム複合材は、前記アルミニウム合金中にセラミックス粒子を分散させるか、又はセラミックスの多孔質成形体に前記アルミニウム合金を含浸させることで製造することができる。
アルミニウム複合材はアルミニウム合金に比してヤング率が高くなるため、バックプレートとして用いると、ブレーキパッドの剛性を高くすることができ、好適である。分散強化するセラミックス粒子としては、Al、TiO、SiO、ZrO等の酸化物系セラミックス、SiC、TiC等の炭化物系セラミックス、TiN等の窒化物系セラミックスを用いることができる。
【0018】
アルミニウム合金及びアルミニウム複合材料の中でも、Cu又はZn等を含むものは、時効硬化による調質によって、バックプレートの機械的強度を向上させる機能も有する。
バックプレートの製造に、Cu又はZn等を含むアルミニウム合金又はアルミニウム複合材料を用いる場合、時効硬化処理を熱圧成形時もしくは加熱処理時に又はその両方において同時に行うことができる。この場合、ブレーキパッドの機械的強度が向上する上に、製造工程も簡略化されるために好ましい。
【0019】
バックプレートの素材に軽量化素材Aを使用することのみで何の問題もなく安易に軽量化できるわけではなく、次の問題が生じる。つまり、バックプレートの素材を軽量化するだけでは、バックプレートと下張材の接着界面にて特定条件下で腐食が進行してしまうという問題が生じる。そこで、その腐食の問題を解決しようとすると、今度は、ディスクブレーキパッドの機械的強度の低下の問題及びバックプレートの熱劣化等の問題が生じる。
これらの問題について、本実施形態では、前記特徴1~3等によって解決した。
【0020】
次に、下張材について詳述する。
<下張材>
本実施形態で用いる下張材は、前記特徴1~3を有するものである。
(金属)
前記特徴1の通り、本実施形態で用いる下張材は、金属を含有しないか、又は金属を含有していても、その含有量は0.5質量%未満である。これにより、下張材とバックプレートの界面付近における腐食を低減することができる。これは、下張材とバックプレートとの電食反応を抑制したためであると推察する。
また、金属は比重が高いため、金属を含まないか又はその含有量を低減することで、下張材の比重を低減でき、ディスクパッドの軽量化にも寄与している。さらに、熱伝導性の高い金属を含まないか又はその含有量を低減することで、下張材の熱伝導性が低減し、ディスクロータからバックプレートに伝わる熱量が低減する。そのため、バックプレートに用いられる前記軽量化素材Aの熱劣化を防止する効果も有する。この観点から、下張り材の厚み方向の熱伝導率は、0.40W/m・K以下が好ましく、0.15~0.40W/m・Kであってもよく、0.20~0.37W/m・Kであってもよく、0.25~0.35W/m・Kであってもよい。
以上の観点から、下張材における金属の含有量は、好ましくは0~0.5質量%、より好ましくは0~0.3質量%、さらに好ましくは0~0.1質量%、特に好ましくは0~0.05質量%、最も好ましくは0質量%である。
【0021】
金属としては、銅、鉄、亜鉛、ニッケル、チタン、スズ、アンチモン、ビスマス、モリブテン、タングステン等、及びそれらの合金が挙げられ、これらをいずれも含有しないか、又はこれらの合計含有量を前記範囲内に抑えることが好ましい。金属の含有量とは、金属元素(例えば鉄であれば鉄元素(Fe))の下張材中の含有量を示す。
金属の形状としては特に制限はなく、金属粉、金属片、金属繊維等が挙げられる。
【0022】
(pH)
前記特徴2の通り、本実施形態で用いる下張材は、pHが6.0~9.0である。バックプレートが鋼鉄製である場合には、下張材のpHを塩基性に偏らせることによって鋼板製バックプレート及び鋼鉄製ディスクロータを用いた際の錆発生を抑制する効果がある。しかし、前記軽量化バックプレートは両性金属の特性を示し、pHが中性から酸性又は塩基性に偏るほど腐食の進行速度が増すため、pHを前記範囲に調整する。下張材のpHを前記範囲とすることで、アラミド繊維等の有機繊維が下張材のpHの増大によって分解することを抑制できる。
以上の観点から、pHは、好ましくは6.5~8.5、より好ましくは6.8~8.5である。
【0023】
pHを前記範囲に調整する方法に特に制限はないが、例えば、下張材が、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムを含まないか、又は含んでいてもそれらの合計含有量を0.5質量%未満とする方法が挙げられる。水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムの合計含有量は、前記pHの観点から、好ましくは0~0.3質量%、より好ましくは0~0.1質量%、さらに好ましくは0~0.05質量%、特に好ましくは0質量%である。
【0024】
(黒鉛)
本実施形態の下張材は、黒鉛を含有しないか、又は黒鉛を含有していても、その含有量は2質量%以下であることが好ましい。摺動性の確保のために通常は配合する黒鉛の含有量をあえて制限することによって、下張材とバックプレートの界面付近における腐食を低減することができる。これは、黒鉛の含有量の制限によって、下張材中の黒鉛の含有量を制限することで、孔食の起点となる箇所が低減し、軽量化バックプレートに孔食が発生し難くなるためであると推察する。
孔食抑制の観点から、黒鉛の含有量は、好ましくは0~1質量%、より好ましくは0~0.5質量%、さらに好ましくは0~0.3質量%、特に好ましくは0~0.1質量%、最も好ましくは0質量%である。
【0025】
本実施形態でいう黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれも該当する。当該黒鉛の平均粒子径に特に制限はない。
黒鉛としては、膨張黒鉛、膨張化黒鉛、易黒鉛、難黒鉛等と称される黒鉛も含まれる。
【0026】
(結合材)
結合材は、下張材に含まれ得る有機充填材、無機充填材及び繊維基材等を結合することで一体化し、所定の形状と、せん断強度等の機械的強度を与える機能を有する。本実施形態の下張材に含まれる結合材に特に制限はなく、下張材の結合材として一般的に用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
該熱硬化性樹脂としては、特に制限されるものではないが、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、エラストマー分散フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂及びメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。ここで、変性フェノール樹脂としては、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。エラストマー分散フェノール樹脂としては、アクリルエラストマー分散フェノール樹脂、シリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等が挙げられる。
特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂が好ましく、フェノール樹脂がより好ましい。
【0027】
なお、結合材として用いられる前記フェノール樹脂は、成形性の観点から、熱溶融型フェノール樹脂であり、熱不溶融型フェノール樹脂は含まれない。ここでの「熱溶融型」とは、粒子状のフェノール樹脂5gを、2枚の0.2mm厚ステンレス板間に挿入し、100℃に加温したプレス機で、50kgの総荷重で2分間プレスしたときに、粒子状のフェノール樹脂同士が互いに融着する性質と定義される。
結合材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記特徴3の通り、下張材における結合材の含有量は、軽量化バックプレートへの断熱効果及び下張材におけるせん断強度等の機械的強度の観点から、下張材中、30質量%以上であり、好ましくは30~50質量%、さらに好ましくは35~45質量%である。当該効果は、後述の有機繊維の含有量の特定による効果と相まって十分なものとなる。下張材における結合材の含有量が30質量%以上であることにより、軽量化バックプレートへの断熱の効果に優れると共に、金属を制限したことによる下張材の機械的強度の低下の問題を解消できる。
【0029】
(有機繊維)
有機繊維とは、有機物を主成分とする繊維状の材料である。下張材に熱伝導性が低い有機繊維を所定量以上含有させることで、下張材が断熱材として機能するため、制動中の上張材の温度上昇によって軽量化バックプレートの機械的強度が低下して破損することを防ぐことができる。
前記有機繊維としては、特に制限されるものではないが、麻、木綿、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、架橋構造を有するフェノール樹脂繊維からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。
有機繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
有機繊維としては、耐熱性の観点から、アラミド繊維が好ましい。また、下張材の機械的強度向上の観点から、有機繊維として、フィブリル化有機繊維を含有することが好ましく、フィブリル化アラミド繊維を含有することがより好ましい。フィブリル化有機繊維とは、分繊化し、毛羽立ちをもった有機繊維であり、商業的に入手することができる。言うまでもなく、本実施形態の下張材は、フィブリル化有機繊維と共にその他の有機繊維を含有していてもよい。
【0030】
前記特徴3の通り、有機繊維の含有量は、断熱材としての機能及び機械的強度の観点から、下張材中、20質量%以上であり、20~40質量%であることがより好ましく、25~35質量%であることがさらに好ましい。当該効果は、前述の結合材の含有量の特定による効果と相まって十分なものとなる。有機繊維の含有量が下張材中20質量%以上であることにより、軽量化バックプレートへの断熱の効果に優れると共に、金属を制限したことによる下張材の機械的強度の低下の問題を解消できる
【0031】
以下、本実施形態の下張材が含有し得るその他の成分について順に説明する。その他の成分としては、例えば、有機充填材、無機充填材、無機繊維等が挙げられる。本実施形態の下張材は、前記成分に加えて、さらに、有機充填材、無機充填材及び無機繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0032】
(有機充填材)
有機充填材は、制振性及び耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整剤としての機能を発現し得るものである。ここで、本実施形態において、該有機充填材は繊維形状のもの(例えば前述の有機繊維)を含まない。有機充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記有機充填材としては、摩擦材組成物に一般的に用いられる有機充填材を使用することができ、例えば、カシューパーティクル、ゴム、メラミンダスト等が挙げられる。さらに、有機充填材として、熱不溶融型フェノール樹脂を使用することも好ましい。これらの中でも、摩擦係数の安定性及び耐摩耗性を良好とする観点並びに鳴きを抑制する観点から、カシューパーティクル、ゴム、熱不溶融型フェノール樹脂が好ましい。
また、有機充填材としては、カシューパーティクルとゴムとを併用してもよいし、カシューパーティクルをゴムで被覆したものを用いてもよい。
【0033】
前記カシューパーティクルは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られ、一般的に、カシューダストと称されることもある。
カシューパーティクルは、一般的に、硬化反応に使用する硬化剤の種類に応じて、茶系、茶黒系、黒系等に分類される。カシューパーティクルは、分子量等を調整することで、耐熱性及び音振性、さらに相手材であるロータへの皮膜形成性等を制御し易くすることが可能である。
カシューパーティクルの平均粒子径は、分散性の観点から、850μm以下であることが好ましく、750μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。カシューパーティクルの平均粒子径の下限値に特に制限はなく、200μm以上であってもよく、300μm以上であってもよく、400μm以上であってもよい。なお、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定の方法を用いて測定したd50の値(体積分布のメジアン径、累積中央値)を意味し、以下同様である。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置、商品名:LA・920(株式会社堀場製作所製)で測定することができる。
カシューパーティクルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記ゴムとしては摩擦材組成物に通常用いられるゴムが挙げられ、例えば、天然ゴム、合成ゴムが挙げられる。合成ゴムとしては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、タイヤトレッドゴムの粉砕粉等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、柔軟性及び製造コストのバランスの観点から、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、タイヤトレッドゴムの粉砕粉が好ましい。
【0035】
前記熱不溶融型フェノール樹脂において、「熱不溶融型」とは、粒子状のフェノール樹脂5gを、2枚の0.2mm厚ステンレス板間に挿入し、100℃に加温したプレス機で、50kgの総荷重で2分間プレスしたときに、粒子状のフェノール樹脂同士が互いに融着しない性質と定義される。
熱不溶融型フェノール樹脂は、熱不溶融という性質を有するため、その添加量を高めた場合においてもバリの発生を抑制できる。また、結合材との親和性に優れるため、得られる成形物中における有機充填材と結合材との接着界面を強固にすることができ、下張材の機械的強度を高めることができる。ゆえに、本実施形態の下張材に熱不溶融型フェノール樹脂を含有させることで、下張材の生産性及び機械的強度を良好に保ちながら、軽量化バックプレートの耐久性を向上させることができる。
なお、熱不溶融型フェノール樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
熱不溶融型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との反応生成物として得られる。
フェノール類としては、フェノール、ナフトール、ハイドロキノン、レゾルシン、キシレノール、ピロガロール等が挙げられる。これらの中でも、フェノールが好ましい。
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ダリオキサール、ベンズアルデヒド等が挙げられる。これらの中でも、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましい。
フェノール類及びアルデヒド類は、各々について、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
熱不溶融型フェノール樹脂の平均粒子径は、1~50μmが好ましく、5~40μmがより好ましく、10~30μmがさらに好ましい。
熱不溶融型フェノール樹脂の形状は特に限定されないが、球状であることが好ましい。
熱不溶融型フェノール樹脂の真球度は、0.5以上が好ましい。
ここで、本明細書中において「真球度」とは、走査型電子顕微鏡により、熱不溶融型フェノール樹脂50個の形状観察を行い、個々の粒子の最短径/最長径の比率を用いて算出した相加平均値である。
【0038】
熱不溶融型フェノール樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、水性媒体中でアルデヒド類とフェノール類とを反応させることで粒状フェノール樹脂を形成し、該粒状フェノール樹脂を含有する反応液を加熱して粒状フェノール樹脂を熱不溶融化した後、該熱不溶融型フェノール樹脂を単離する方法が挙げられる。より具体的な熱不溶融型フェノール樹脂の製造方法は、例えば、特開昭57-177011号公報、国際公開第2008/047700号等に記載の通りである。
【0039】
熱不溶融型フェノール樹脂は、メチロール基を有するものが好ましい。メチロール基は結合材のフェノール樹脂等との反応点となり得る官能基であり、該反応によって、有機充填材と結合材との接着界面が強固になり、下張材の機械的強度がより一層優れたものとなる。メチロール基の存在は、KBr錠剤法による赤外線吸収スペクトルにおいて、メチロール基に帰属する990~1015cm-1の吸収ピークの存在により確認することができる。メチロール基の量は、特に限定されないが、メチロール基に帰属する990~1015cm-1の赤外吸収ピーク強度D990~1015と、ベンゼン核に由来する1600cm-1の赤外吸収ピーク強度D1600との比〔D990~1015/D1600〕が、0.2~9.0の範囲であることが好ましい。
【0040】
下張材が有機充填材を含有する場合、その含有量は、特に制限されるものではないが、下張材中、好ましくは10~40質量%、より好ましくは10~35質量%、さらに好ましくは15~35質量%、特に好ましくは20~30質量%である。有機充填材の含有量を10質量%以上とすることで、下張材の断熱材としての機能がより一層高まる傾向にあり、また、40質量%以下とすることで、下張材自体の機械的強度の低下を避けられる傾向にある。
【0041】
(無機繊維)
無機繊維は、下張材の機械的強度を向上する効果を発現し得るものである。本実施形態では、無機繊維に金属繊維は含まれない。本実施形態において、下張り材は無機繊維を含有してもよいし、含有していなくてもよい。
無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、繊維状ウォラストナイト、鉱物繊維、炭素繊維、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、シリカアルミナ繊維、耐炎化繊維等が挙げられる。無機繊維としては、鉱物繊維が好ましい。
無機繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
また、前記繊維状ウォラストナイトは、CaSiOを主成分とする天然に産出されるケイ酸塩鉱物を粉砕分級し、繊維状に加工したものを指す。繊維状ウォラストナイトの平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、好ましくは8以上であり、より好ましくは8~20、さらに好ましくは9~20、特に好ましくは10~18である。平均アスペクト比を8以上とすることで、下張材の25℃及び高温(例えば300℃)におけるせん断強度並びに耐クラック性を効果的に向上させることができる。ここで、平均アスペクト比は、d50値(体積分布の累積中央値)を意味し、例えば、動的画像解析法により測定することができる。
繊維状ウォラストナイトの平均繊維長は、下張材への機械的強度付与の観点から、好ましくは20~1,000μm、より好ましくは40~850μm、さらに好ましくは100~850μmである。繊維状ウォラストナイトの平均繊維径は、下張材への機械的強度付与の観点から、好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下である。平均繊維径の下限値に特に制限はないが、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上である。また、結合材との親和性を高めるため、繊維状ウォラストナイトの表面は、アミノシラン、エポキシシラン等で処理されていてもよい。
本明細書において、平均繊維長及び平均繊維径はそれぞれ、用いる無機繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長及び繊維径を測定し、それから求められる平均値を示すが、市販品であればカタログ値を参照できる。なお、本明細書において、繊維径は、繊維の直径を指す。
【0043】
前記鉱物繊維は、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維である。鉱物繊維としては、例えば、SiO、Al、CaO、MgO、FeO、NaO等を含有する鉱物繊維、又はこれら化合物を1種もしくは2種以上含有する鉱物繊維等が挙げられる。鉱物繊維としては、アルミニウム元素を含む鉱物繊維が好ましく、Alを含有する鉱物繊維がより好ましく、AlとSiOとを含有する鉱物繊維がさらに好ましい。
下張材に含まれる鉱物繊維の平均繊維長が大きくなるほど、せん断強度が低下する傾向にある。そのため、鉱物繊維の平均繊維長は、好ましくは500μm以下、より好ましくは100~400μm、さらに好ましくは120~340μmである。また、鉱物繊維の平均繊維径(直径)には特に制限はないが、通常、1~20μmであり、2~15μmであってもよい。
【0044】
前記炭素繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維等が挙げられる。炭素繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。炭素繊維の平均繊維長に特に制限はないが、好ましくは0.1~6.0mm、より好ましくは0.1~3.0mmである。平均繊維長が前記範囲であれば下張材が欠け難く、機械的強度が保たれ易い。また、炭素繊維の平均繊維径に特に制限はないが、好ましくは5~20μmである。
【0045】
下張材が無機繊維を含有する場合、その含有量(合計含有量)は、機械的強度の観点から、下張材中、0.1~20質量%、0.1~15質量%、0.1~2質量%とすることができる。
なお、原料成分を混合撹拌した時に繊維の凝集による塊が発生することによってコンパウンドの均一性が失われてしまうのを避けるという観点から、前記有機繊維と無機繊維の合計含有量を40質量%以下とすることが好ましく、35質量%以下とすることがより好ましい。
【0046】
(無機充填材)
無機充填材は、下張材の耐熱性、耐摩耗性、摩擦係数の安定性等の悪化を避けるための摩擦調整材としての機能を発現し得るものである。ここで、本実施形態においては、該無機充填材は、金属を含まず、且つ、繊維形状のもの(例えば後述の無機繊維)を含まない。無機充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
該無機充填材としては特に制限はなく、下張材に通常用いられる無機充填材でよい。無機充填材としては、例えば、三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化ビスマス、硫化亜鉛等の金属硫化物;マイカ、硫酸バリウム、ドロマイト、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、クロマイト、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、四酸化三鉄、酸化亜鉛、γ-アルミナ、ガラス粒子などが挙げられる。これらの中でも、金属硫化物、マイカ及び硫酸バリウムからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。摩擦係数の安定性の観点から、無機充填材としてマイカを含有することが好ましい。
【0047】
本実施形態の下張材が無機充填材を含有する場合、その含有量(合計含有量)は、下張材中、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。無機充填材の含有量を1質量%以上とすることで、耐熱性の悪化を避け易くなる傾向にあり、30質量%以下とすることで、下張材の熱伝導性が低下し、それによって遮熱性が向上する傾向にある。
【0048】
(その他の材料)
本実施形態の下張材は、前記各成分以外に必要に応じてその他の材料を配合することができる。
その他の材料としては、例えば、耐摩耗性及び熱フェード特性向上の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系ポリマーなどの有機添加剤が挙げられる。
本実施形態の下張材が上記その他の材料を含有する場合、その含有量としては、下張材中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下であり、その他の材料を含有していなくてもよい。
【0049】
次に、前記下張材の上に設けられる摩擦材(上張材)2について詳述する。
<摩擦材(上張材)>
摩擦材(上張材)2としては、公知の摩擦材(上張材)を利用することができ、特に制限はない。上張材は、好ましくは、有機充填材、無機充填材、繊維基材及び結合材を含有する上張材であって、該上張材は、銅を含まないか、又は銅を含んでいても該銅の含有率は銅元素として0.5質量%未満であることが好ましい。
有機充填材、無機充填材及び結合材については、前記下張材において説明したものと同様のものを使用することができる。但し、上張材が含有し得る無機充填材としては、下張材において例示した物質の他にも、黒鉛、コークス、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及びチタン酸塩等も例示することができる。
繊維基材については、前記下張材において説明した有機繊維及び無機繊維の他、金属繊維を使用することもできる。
【0050】
(ディスクブレーキパッドの製造方法)
図2を用いて説明すると、上張材の材料と本実施形態の下張材の材料とを、一般に使用されている方法によって、ディスクブレーキパッドを製造することができる。
詳細には、上張材用の各成分と下張材用の各成分をそれぞれ別々に、レーディゲミキサー(「レーディゲ」は登録商標)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は登録商標)等の混合機を用いて混合し、上張材用混合物と下張材用混合物とを成形金型にて一体で予備成形し、次いで、得られた予備成形物とバックプレート1を熱圧成形により一体化させる。該熱圧成形では、バックプレート1の一面である予備成形物との接着面に予め接着剤を塗布しておき、例えば成形温度130~160℃、成形圧力20~50MPaの条件で2~10分間熱圧成形して一体化させて成形物を得る。こうして得られた成形物を例えば150~250℃で2~10時間熱処理することで、ディスクブレーキパッド100を製造することができる。
【0051】
本実施形態のディスクブレーキパッドは、特に制限されるものではないが、表面塗装が施されていることが好ましい。これは、軽量化バックプレートの耐腐食性を向上させるためである。さらに、バックプレートに予めジルコニウム化成処理を施しておくことにより、前記表面塗装による塗膜との密着性を向上させることが好ましい。
また、本実施形態のディスクブレーキパッドは、前記表面塗装の代わりに、バックプレートにめっき処理、クロメート処理及びジオメット処理のうちのいずれか1つ以上が施されている態様も好ましい。本実施形態のディスクブレーキパッドは、前記表面塗装がなされると共に、バックプレートにめっき処理、クロメート処理及びジオメット処理のうちのいずれか1つ以上が施されている態様も好ましい。
【0052】
(ディスクブレーキパッドの各層の厚み)
摩擦材(上張材)2の厚みは、耐久性の観点から、好ましくは4~15mm、より好ましくは6~15mm、さらに好ましくは7~13mmである。
また、下張材3の厚みは、摩擦材2とバックプレート1間の断熱効果が高くなり、それによってバックプレート1のクラック及び割れを効果的に抑制することができるという観点から、好ましくは1~5mm、より好ましくは1~3mm、さらに好ましくは1~2mmである。
【0053】
本実施形態のディスクブレーキパッドは、車のディスクブレーキパッドとして有用である。前記車としては、大型自動車、中型自動車、普通自動車、大型特殊自動車、小型特殊自動車、大型自動二輪車及び普通自動二輪車等の自動車が挙げられる。
【実施例0054】
以下、本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例によって何ら制限を受けるものではない。
【0055】
実施例及び比較例の各摩擦材試料について、以下の評価方法に従って評価を行った。
[測定方法又は評価方法]
(1)下張材のpHの測定
各例にて下張材を単独で成形(成形温度;145℃、成形圧力30MPa、成形時間4分)した後、JASO C458-86に基づいてpH測定を実施した。試験機には、pH測定装置「PHL-20」(東亜ディーケーケー株式会社製、商品名)を用いた。結果を表1に示す。
【0056】
(2)下張材の厚み方向の熱伝導率の測定
各例にて下張材を単独で成形(成形温度;145℃、成形圧力30MPa、成形時間4分)した後、厚み8mmになるまで研磨することによって、測定用試料を作製した。この測定用試料を用いて、大気圧下、室温(25℃)におけるプローブ法によって熱伝導率を測定した。試験機には、熱伝導率測定装置「QTM-D3」(京都電子工業株式会社製、商品名)を用いた。熱伝導率は、0.40W/m・K以下が好ましい。結果を表1に示す。
【0057】
(3)バックプレートの耐腐食性の評価
各例で作製したディスクブレーキパッドを用いて、下記方法に従って腐食試験を実施した。
腐食試験は、ディスクブレーキパッドを、塩水(濃度5質量%)へ浸漬させ、湿潤(温度50℃、湿度95%)させた後、乾燥(温度70℃)する、という1サイクルを繰り返し、バックプレートと下張材の固着面から、腐食進行度合いを外観検査にて観察した。
なお、前記腐食試験はディスクパッドをキャリパーに取り付けた状態で実施し、キャリパーごと腐食試験機「浸漬複合腐食試験機TQ-1」(板橋理化工業株式会社製)に投入した。
各試験時間は、塩水への浸漬は5分間、湿潤は60分間、乾燥は25分間とし、このサイクルを30日間連続で実施した。
バックプレートと下張材の固着面の錆発生面積を検査し、下記評価基準に従って評価した。評価はA又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。
A:錆面積10%未満
B:錆面積10%以上20%未満
C:錆面積20%以上50%未満
D:錆面積50%以上
【0058】
(4)ディスクブレーキパッドのせん断強度試験
各例で作製したディスクブレーキパッドについて、JIS D4422(2007年)に準拠しながら、ディスクブレーキパッドの温度25℃(室温)及び300℃におけるせん断強度を測定し、機械的強度の指標とした。25℃におけるせん断強度は40kN以上が好ましく、300℃におけるせん断強度は30kN以上が好ましい。
【0059】
実施例1[ディスクブレーキパッドの作製]
摩擦材(上張材)としては、ノンアスベストオーガニック材「HP63H」(昭和電工マテリアルズ株式会社製、商品名)を用いた。
下張材の成分として、結合材である熱溶融型フェノール樹脂40質量%、有機充填材である熱不溶融型フェノール樹脂24質量%、無機充填材であるマイカ5質量%及び有機繊維であるアラミド繊維31質量%を用いた。
また、バックプレートとしては、アルミニウム合金である「5454」(JIS材料記号)を用いた。
バックプレートに接着剤を塗布し、塗布した接着剤上に、摩擦材(上張材)及び下張材が一体となった予備成形体を下張材がバックプレート側となるように重ね合わせて熱圧成形(成形温度;145℃、成形圧力30MPa、成形時間4分)し、次いで加熱処理することで結合材を硬化させることにより、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚み:8mm、下張材の厚み:2mm、摩擦材投影面積51.7cm)を作製した。
得られたディスクブレーキパッドを用いて、前述の方法に従って耐腐食性の評価及びせん断強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0060】
実施例2~3、比較例1~6
実施例1において、下張材の成分の含有量を表1に記載の通りに変更したこと以外は同様にしてディスクブレーキパッドを作製し、同様の方法で各評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
参考例1
比較例6において、バックプレートの材質を鋼板材である「SAPH400」へ変更したこと以外は同様にしてディスクブレーキパッドを作製し、同様の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1より、金属を下張材中15質量%含有する比較例1では、腐食試験30日間経過時点で、バックプレートの接着面に錆が観察された。比較例1では、さらに、下張材の熱伝導率が高いために軽量化バックプレートの熱劣化の懸念がある。
下張材のpHが9.0を超える比較例2では、腐食試験30日間経過時点でバックプレートの接着面に錆が観察された。
金属を下張材中15質量%含有し、且つ下張材のpHが9.0を超える比較例3では、腐食試験30日間経過時点でバックプレートの接着面に錆が観察され、さらに、下張材の熱伝導率が高いために軽量化バックプレートの熱劣化の懸念がある。
結合材の含有量が下張材中30質量%未満である比較例4及び5では、ディスクブレーキパッドの25℃におけるせん断強度及び300℃におけるせん断強度が共に悪化した。
結合材の含有量が下張材中30質量%未満であり、有機繊維の含有量が下張材中20質量%未満であり、且つ下張材のpHが9.0を超える比較例6では、下張材の熱伝導率が高いために軽量化バックプレートの熱劣化の懸念がある。
一方、実施例1~3では、腐食試験30日間経過時点においても、バックプレートの接着面で錆が発生した領域が狭い範囲であるため、実用に耐え得る耐腐食性、ひいては耐候性を有することが確認された。実施例1~3では、ディスクブレーキパッドのせん断強度に優れており、さらに、下張材の熱伝導率が低いために軽量化バックプレートの熱劣化の懸念が小さい。
各実施例のディスクブレーキパッドの下張材は、結合材を30質量%以上含有し、且つ、有機繊維を20質量%以上含有しているため、ディスクブレーキパッドのせん断強度に優れており、且つ、上記の通り、断熱効果によってバックプレートの熱劣化も十分に抑制されている。
【0064】
また、参考例1では、鋼板からなるバックプレート、つまり軽量化していないバックプレートを用いた従来のディスクブレーキパッドの評価を行った結果である。耐腐食性に優れており、つまり、参考例1の場合にはそもそも錆が発生し難く、本開示の課題が生じていないことを示している。参考例1のディスクブレーキパッドにおける鋼製バックプレートの質量は250gで、実施例のディスクブレーキパッドにおける軽量化バックプレートの質量が90gであるため、従来のディスクブレーキパッドに替えて、実施例のディスクブレーキパッドを用いると、1つのディスクブレーキパッドあたり160gの質量の低減を図ることができ、燃費向上の観点から有利である。
【0065】
本実施形態のディスクブレーキパッドは、バックプレートの軽量化によってディスクブレーキパッドの軽量化がなされていると共に、耐腐食性、ひいては耐候性に優れながらも高強度を維持し、且つ、バックプレートの熱劣化が抑制されている。そのため、二輪車又は四輪自動車の制動に用いられているディスクブレーキパッドとして好適である。
【符号の説明】
【0066】
1 バックプレート
11 バックプレートの摩擦材が配置される面
12 バックプレートの他方の面
2 摩擦材(上張材)
3 下張材
100 ディスクブレーキパッド
図1
図2