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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094421
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】肝機能改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/17 20060101AFI20220620BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220620BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/232 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/234 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/744 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/634 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/534 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/708 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/284 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/346 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/539 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20220620BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
A61K36/17
A61P1/16
A61P43/00 111
A61K36/232
A61K36/65
A61K36/234
A61K36/744
A61K36/634
A61K36/534
A61K36/9068
A61K36/185
A61K36/23
A61K36/708
A61K36/284
A61K36/346
A61K36/539
A61K36/484
A61P3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207287
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 美咲
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴大
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB04
4C088AB12
4C088AB14
4C088AB26
4C088AB30
4C088AB38
4C088AB40
4C088AB41
4C088AB43
4C088AB58
4C088AB60
4C088AB64
4C088AB81
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA16
4C088MA23
4C088MA27
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA41
4C088MA43
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA75
4C088ZC02
4C088ZC33
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】本発明は、肝機能を改善できる漢方薬を新たに提供することを目的とする。
【解決手段】防風通聖散エキスは、肝機能を改善できるPPARα発現増加作用を示すため、肝機能改善剤の有効成分として有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防風通聖散エキスを含有する、肝機能改善剤。
【請求項2】
肝臓の脂肪を代謝するために用いられる、請求項1に記載の肝機能改善剤。
【請求項3】
ALT値が正常の対象に用いられる、請求項1又は2に記載の肝機能改善剤。
【請求項4】
防風通聖散エキスを含有する、α型ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝機能改善剤に関する。より具体的には、本発明は、肝機能改善効果を有する漢方薬に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、病気が進行しないと症状が出ない沈黙の臓器ともいわれ、肝臓に異常があっても気付かず、気付いたときには病気がかなり進んでいる場合が多い。
【0003】
日本人間ドック学会が2016年に発表した「全国集計結果」(非特許文献1)では、人間ドックを受診した人の33.2%で「肝機能異常」がみられ、「高コレステロール」(33.4%)に続いて多かった。「肝機能異常」のある人は、20年前と比較すると10.5ポイント上昇しており、男性の40.2%、女性の22.8%にみられるという。このため、肝機能のケアに対する重要性はますます増加しているといえる。
【0004】
肝臓に高発現しているペルオキシソーム受容体増殖剤受容体(PPAR)は、肝臓での脂肪酸代謝、細胞周期調節(非特許文献2)、抗炎症(非特許文献3,4)に関与している。これらの先行文献に記載のあるように、PPARαは、肝機能と関連する因子として知られている。
【0005】
近年では、PPARαの機能維持や活性化を基軸とした、肝疾患に対する新規治療法の開発がなされている。例えば、特許文献5には、新規PPARαモジュレーター(SPPARMα)K-877のマウスとヒト肝臓のトランスクリプトーム解析が示されており、特許文献6には、PPARα modulator-ペマフィブラートによる肝炎・肝機能障害抑制効果が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】全国集計結果、日本人間ドック学会、2016年
【非特許文献2】Carcinogenesis 19 :1989-1994,1998
【非特許文献3】Curr Opin Lipidol 10:151-159,1999
【非特許文献4】J BiolChem 275:36703-36707,2000
【非特許文献5】The Lipid Vol.27 No.4, 23-32, 2016
【非特許文献6】第26回肝細胞研究会抄録、2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肝臓が沈黙の臓器と呼ばれることからも、肝機能の低下は、なるべく早期の段階でケアすることが望まれる。しかしながら、肝機能を改善するための治療薬の適用はハードルが高く、手軽に選択することはできない。
【0008】
一方、セルフメディケーションの時代である昨今、手軽に利用できる体調管理のツールとして漢方薬が注目されている。肝機能の改善について漢方を適用することができれば、日頃からの肝機能のケアが格段に手軽になる。しかしながら、肝機能と関連する因子に基づいた薬理学的な作用が実証された漢方薬は現状知られていない。
【0009】
そこで、本発明は、肝機能を改善できる漢方薬を新たに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、防風通聖散エキスに、肝機能を改善できるPPARα発現増加作用を見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 防風通聖散エキスを含有する、肝機能改善剤。
項2. 肝臓の脂肪を代謝するために用いられる、項1に記載の肝機能改善剤。
項3. ALT値が正常の対象に用いられる、項1又は2に記載の肝機能改善剤。
項4. 防風通聖散エキスを含有する、α型ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体発現促進剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、肝機能を改善できる漢方薬が新たに提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の肝機能改善剤は防風通聖散エキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の肝機能改善剤について詳述する。
【0014】
有効成分
本発明の肝機能改善剤は、防風通聖散エキスを有効成分として含有する。防風通聖散を構成する生薬は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)によれば、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウ、及びカッセキである。書簡によっては、前記生薬の内、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)がある。また、防風通聖散の処方によっては、ボウフウの代わりにハマボウフウを含むものや、ビャクジュツの代わりにソウジュツを含むものもある。本発明で用いることができる防風通聖散エキスは、これらのいずれの防風通聖散から得られるものであってもよいが、より一層高い肝機能改善剤を得る観点から、防風通聖散がビャクジュツ及びオウゴンを含む処方であることが好ましい。
【0015】
防風通聖散を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)、「第十七改正日本薬局方」等によれば、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ショウキョウ0.3~1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部又はハマボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部、及びカッセキ3~5重量部である。また、書簡によっては、前記分量中、1.2重量部を全て1.5重量部としているものもある(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)。さらに、上記書簡に示されている各生薬の分量のうち、ショウキョウの分量を0.6~1.5重量部としてもよい。
【0016】
本発明で用いることができる防風通聖散エキスは、上記の生薬を混合した生薬調合物を公知の手法で抽出することによって得ることができる。例えば、生薬調合物に対して、約10~20倍量の水を加え、80~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。
【0017】
上記の生薬又は生薬調合物から抽出されたエキスの形態及び形状は特に制限されず、溶媒を含む液状又は粘稠形態(エキス液形態又は軟エキス形態)、及び乾燥形態(エキス末形態)のいずれであってもよい。これらの形態のエキスは、上記の抽出方法により得られた抽出液を、必要に応じて濃縮処理や乾燥処理に供することによって得ることができる。乾燥処理の具体的な方法としては、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際には、必要に応じて、抽出液にデキストリン等の賦形剤を添加してもよい。
【0018】
その他の成分
本発明の肝機能改善剤は、有効成分である上記の生薬エキスのみからなるものであってもよいし、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、肝機能改善剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0019】
また、本発明の肝機能改善剤は、有効成分である上記の生薬エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0020】
製剤形態
本発明の肝機能改善剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。本発明の肝機能改善剤をこれらの製剤形態に調製するには、有効成分である上記の生薬エキス、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0021】
用途
本発明の肝機能改善剤は、肝機能を改善する目的で使用される。肝機能は、PPARα(α型ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)の発現促進により改善される機能であれば特に限定されない。例えば、肝機能の改善の具体的な態様として、肝臓における、脂肪酸代謝、炎症抑制等が挙げられる。
【0022】
本発明の肝機能改善剤は、好ましくは、肝臓の脂肪を代謝する目的で使用することができる。肝臓の脂肪を代謝することで肝臓への脂肪の蓄積が抑制されるため、より具体的には、本発明の肝機能改善剤は、脂肪肝の改善、脂肪肝から脂肪肝炎や肝硬変への進行の抑制、又は、脂肪肝に至らない症状から脂肪肝への進行の抑制等の目的で使用することができる。ここで、上記の脂肪肝としては、アルコール性脂肪肝及び非アルコール性脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝[NAFL]、非アルコール性脂肪性肝疾患[NAFLD])が挙げられる。
【0023】
本発明の肝機能改善剤は、ALT値が正常(具体的にはALT値が30U/L以下)の対象に対してもPPARαの発現を促進することができる。従って、本発明の肝機能改善剤は、ALT値が正常の対象に対しても好ましく用いられる。本発明の肝機能改善剤がALT正常の対象に対して用いられる場合の具体例としては、上記の脂肪肝に至らない症状から脂肪肝への進行の抑制等の目的で用いる場合が挙げられ、より具体的には、将来的に脂肪肝を生じやすい生活習慣を行っている人に適用される場合が挙げられる。将来的に脂肪肝を生じやすい生活習慣を行っている人の生活習慣の例としては、過食、アルコール摂取、低栄養状態維持(例えば、急激なダイエット)等が挙げられる。
【0024】
本発明の肝機能改善剤が適用される人は、上記の例に該当するのであれば、肥満の人だけでなく、肥満でない人も含む。
【0025】
用量・用法
本発明の肝機能改善剤は経口投与によって使用される。本発明の肝機能改善剤の用量については、有効成分の種類、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、肝機能改善剤の有効成分である防風通聖散エキスの総量で、例えば1~10g程度、好ましくは3~8g程度、より好ましくは4~6g程度となる量で、1日1~3回、好ましくは2又は3回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(1)防風通聖散エキスの調製
原料生薬として、トウキ1.2(重量部、以下同じ)、シャクヤク1.2、センキュウ1.2、サンシシ1.2、レンギョウ1.2、ハッカ1.2、ショウキョウ1.2、ケイガイ1.2、ボウフウ1.2、マオウ1.2、ダイオウ1.5、硫酸ナトリウム無水物1.5、ビャクジュツ2.0、キキョウ2.0、オウゴン2.0、カンゾウ2.0、セッコウ2.0及びカッセキ3.0の割合で用い、これらを刻んだ後、水12倍重量を用いて約100℃で30分間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮し、スプレードライヤーを用いて乾燥した。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給することによって行った。
【0028】
(2)実験方法
マウス(C57BL/6Jマウス、5週齢、雄)に高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)を4週間自由摂食させて飼育し、コントロール群及び試験群の2群(各群6匹)に分けた。これらのマウスは、肝臓等の内臓に白色脂肪組織が増量している一方で、高脂肪食の給餌期間を短くすることでALT値を正常(高脂肪食に代えて通常飼料を給餌して飼育した群との有意差がつかない)に抑えているため、肝臓での脂肪増加があるもののALTが未だ正常で脂肪肝には至っていないモデルといえる。
【0029】
試験群では、前記高脂肪食に防風通聖散エキスを2重量%となるように配合した飼料を1週間給餌した。コントロール群では、防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を1週間給餌した。
【0030】
1週間の給餌の後、肝臓組織を摘出し、RNA抽出を行いPPARαの発現量を解析し、コントロール群におけるPPARαの発現量を1として試験群におけるPPARαの発現量相対値を導出した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示す通り、コントロール群と比較して、防風通聖散を投与した試験群で、PPARαの発現量が顕著に増加した。