(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009532
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】圧縮試験治具、樹脂含浸ストランド圧縮試験片、および、圧縮試験片作製治具
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20220106BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
G01N3/04 A
G01N3/04 P
G01N3/08
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175114
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2017156117の分割
【原出願日】2017-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 慶喜
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】島本 太介
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061BA01
2G061CA15
2G061CB02
2G061CB05
2G061CC01
2G061DA16
(57)【要約】
【課題】荷重軸と圧縮試験片のストランド軸とを比較的簡単に一致させることができ、樹脂含浸ストランドの圧縮強度を精度良く評価可能な圧縮試験治具、試験片作製時に圧縮試験部に接着性樹脂が付着し難く、樹脂含浸ストランドをタブに固定しやすい圧縮試験片、圧縮試験片作製治具を提供する。
【解決手段】圧縮試験治具2は、タブ11の側面を把持、固定する把持部21を備える一対の圧盤11を有する。圧縮試験片1は、一対のタブ11により樹脂含浸ストランド10の両端部を保持する。タブ11は、貫通孔111、連通孔112を有する。樹脂含浸ストランド10の外周面と貫通孔111の内周面との間、連通孔112内には、接着性樹脂12が満たされている。圧縮試験片作製治具3は、ベース部30、複数のタブ11を互いに離間させて一方向に並べるガイド部31、タブ11をガイド部31に押し付け固定する固定部32を有する。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる樹脂含浸ストランド圧縮試験片を用い、上記樹脂含浸ストランドの圧縮強度を測定するために用いられる圧縮試験治具であって、
圧縮試験装置に取り付けられる一対の圧盤と、
各上記圧盤における上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片の取り付け側の盤面にそれぞれ設けられ、片方の上記タブの側面を把持して固定する複数の把持部と、を有しており、
各上記把持部は、上記圧縮試験装置の荷重軸と同軸にされる上記圧盤の圧盤軸に垂直な方向であって上記圧盤軸に向かう方向および上記圧盤軸から離れる方向に進退動自在に構成されているとともに、上記圧盤に対して固定可能に構成されている、圧縮試験治具。
【請求項2】
各上記圧盤は、各上記把持部を案内するための複数の溝部を備えており、
各上記把持部は、上記溝部に嵌合される嵌合部と、上記タブの側面に当接させる当接部とを備えている、請求項1に記載の圧縮試験治具。
【請求項3】
上記タブの側面を各上記把持部が把持した状態とされたときに、各上記把持部の高さは、上記圧盤軸方向の上記タブの高さよりも低い、請求項1または2に記載の圧縮試験治具。
【請求項4】
各上記把持部の高さは、上記圧盤軸方向の上記タブの高さよりも0.35mm以上低い、請求項3に記載の圧縮試験治具。
【請求項5】
繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の圧縮試験治具に用いられる樹脂含浸ストランド圧縮試験片であって、
各上記タブは、上記樹脂含浸ストランドを挿通するための貫通孔と、該貫通孔と上記タブの側面とを連通させる連通孔とを有しており、
上記樹脂含浸ストランドの両端部は、各上記貫通孔にそれぞれ挿通されており、
上記樹脂含浸ストランドの外周面と上記貫通孔の内周面との間および上記連通孔内に接着性樹脂が満たされている、樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
【請求項6】
上記貫通孔と上記連通孔とが互いに直交している、請求項5に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
【請求項7】
上記圧縮試験部のアスペクト比L/Dが、1以上7.3以下である、請求項5または6に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
但し、
上記L:上記圧縮試験部の長さ
上記D:上記樹脂含浸ストランドの直径
【請求項8】
上記樹脂含浸ストランドの直径が、0.3mm以上5mm以下である、請求項5~7のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
【請求項9】
上記貫通孔の孔径は、上記樹脂含浸ストランドの直径の1倍超1.5倍以下である、請求項5~8のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
【請求項10】
各上記タブは、ストランド軸方向に垂直な上記タブの断面視で上記タブの外形線に内接する内接円の半径に対する、上記ストランド軸方向の上記タブの高さの比が、3以下である、請求項5~9のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
【請求項11】
ストランド軸方向の各上記タブの高さが、1.5mm以上25mm以下である、請求項5~10のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
【請求項12】
各上記タブは、ストランド軸方向に垂直な上記タブの断面視で上記タブの外形線に内接する内接円の直径が、1mm以上である、請求項5~11のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
【請求項13】
繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる、請求項5に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片を作製するために用いられる圧縮試験片作製治具であって、
ベース部と、
上記ベース部に設けられており、複数の上記タブを互いに離間させて一方向に並べるためのガイド部と、
上記ガイド部に沿って並べられた複数の上記タブを上記ガイド部に押し付けて固定するための固定部と、
を有する圧縮試験片作製治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮試験治具、樹脂含浸ストランド圧縮試験片、および、圧縮試験片作製治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙航空分野をはじめとする様々な分野において、PAN系、ピッチ系などの炭素繊維や、高性能有機繊維・高性能無機繊維などが、複合材料の強化繊維として使用されている。複合材料が構造材料として使用される場合、複合材料の引張変形だけでなく、曲げ変形や圧縮変形も重要になってくる。そして、複合材料の基礎特性を把握するためには、繊維束に樹脂が含浸されてなる樹脂含浸ストランドの力学特性評価が重要となる。
【0003】
樹脂含浸ストランドの評価方法としては、例えば、JIS R 7608:2007に、「炭素繊維-樹脂含浸ヤーン試料を用いた引張特性試験方法」が規定されている。しかし、JISには、樹脂含浸ストランドの圧縮試験方法が未だ規定されていない。そのため、現行では、樹脂含浸ストランドを用いるのではなく、JIS K 7076:1991に規定される「炭素繊維強化プラスチックの面内圧縮試験方法」に準拠し、繊維強化プラスチックの形態にして圧縮試験を行うことが一般的である。この測定法によると、多量の繊維が必要となるばかりでなく、繊維強化プラスチックに成形するために大幅に時間がかかる。そのため、樹脂含浸ストランドの形態で圧縮特性を評価することが求められている。
【0004】
樹脂含浸ストランドの圧縮特性の評価法としては、例えば、特許文献1に、樹脂含浸ストランドの両端に接着剤を用いて金属製円筒状タブを接着して構成した試験片を用い、この試験片の両端を下ホルダーおよび上ホルダーにて保持し、これら両ホルダーを摺動自在に案内するガイド手段に装着し、上ホルダーを介して圧縮荷重を負荷する圧縮試験方法が提案されている。
【0005】
また例えば、非特許文献1には、エポキシ樹脂ブロックにドリルで円形孔を形成し、樹脂含浸ストランドの両端を円形孔にそれぞれ挿入し、エポキシ樹脂で接着して構成した試験片を用い、この試験片に一般的な圧縮試験装置によって一軸圧縮荷重を負荷する圧縮試験方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Shioya,M.Nakatani,「Compressive strengths of single carbon fibres and composite strands」,Composites Science and Technology 60(2000) 219-229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に提案される圧縮試験方法では、圧縮試験治具の上下ホルダーとガイド手段との摺動による摩擦によって、樹脂含浸ストランドの圧縮試験を精度良く実施することができない。また、圧縮試験を開始する前の無負荷状態において、はじめから圧縮試験治具の上ホルダーによる荷重が樹脂含浸ストランドに負荷されているため、これによっても樹脂含浸ストランドの圧縮試験を精度良く実施することができない。また、樹脂含浸ストランドの直径が変わると、タブの外径が変化するため、上下ホルダーおよびガイド手段を新たに作製し直す必要が生じ、圧縮試験治具の準備に時間と労力がかかる。
【0009】
一方、非特許文献1に提案される圧縮試験方法では、一般的な圧縮試験装置にて圧縮試験を行う。そのため、特許文献1に記載の圧縮試験方法に比べ、樹脂含浸ストランド圧縮試験片を簡易に設置することができる。しかし、非特許文献1の圧縮試験方法では、圧縮試験治具を用いずに樹脂含浸ストランド圧縮試験片を圧縮試験装置に目視にて配置するため、圧縮試験装置の荷重軸と樹脂含浸ストランド圧縮試験片のストランド軸とを一致させることが困難である。また、非特許文献1に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片の構造によると、樹脂含浸ストランド圧縮試験片の作製時に、タブとしてのエポキシ樹脂ブロックの円形孔に予め未硬化のエポキシ樹脂を入れておき、樹脂含浸ストランドの端部を円形孔に挿入すると、円形孔からはみ出したエポキシ樹脂が圧縮試験部に付着し、試験片の品質が低下してしまう。圧縮試験では、引張試験に比べ、座屈抑制のため、圧縮試験部の長さが短く設定されるのが通常である。そのため、非特許文献1の試験片構造では、圧縮試験部全体にエポキシ樹脂が付着してしまうおそれもある。なお、円形孔からはみ出したエポキシ樹脂を別途除去する方法も考えられるが、この場合には、試験片作製に時間がかかる上、未硬化状態でエポキシ樹脂の除去作業を行うことになるため、試験片のアライメントがずれてしまうおそれもある。また、エポキシ樹脂を表面に塗布した樹脂含浸ストランドの端部を、エポキシ樹脂ブロックの円形孔に挿通した場合には、円形孔の内周面と樹脂含浸ストランドの外周面との間にエポキシ樹脂が十分に行き渡らず、接着状態が不均一となり、樹脂含浸ストランドをタブにしっかりと固定することができない。また、樹脂含浸ストランドがタブに十分に固定されていない場合には、圧縮試験中に樹脂含浸ストランドがタブから剥離する。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、圧縮試験装置の荷重軸と樹脂含浸ストランド圧縮試験片のストランド軸とを比較的簡単に一致させることができ、樹脂含浸ストランドの圧縮強度を精度良く評価することが可能になる圧縮試験治具、また、樹脂含浸ストランド圧縮試験片の作製時に、圧縮試験部に接着性樹脂が付着し難く、樹脂含浸ストランドをタブに固定しやすい樹脂含浸ストランド圧縮試験片、また、当該樹脂含浸ストランド圧縮試験片の作製に適した圧縮試験片作製治具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる樹脂含浸ストランド圧縮試験片を用い、上記樹脂含浸ストランドの圧縮強度を測定するために用いられる圧縮試験治具であって、
圧縮試験装置に取り付けられる一対の圧盤と、
各上記圧盤における上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片の取り付け側の盤面にそれぞれ設けられ、片方の上記タブの側面を把持して固定する複数の把持部と、を有しており、
各上記把持部は、上記圧縮試験装置の荷重軸と同軸にされる上記圧盤の圧盤軸に垂直な方向であって上記圧盤軸に向かう方向および上記圧盤軸から離れる方向に進退動自在に構成されているとともに、上記圧盤に対して固定可能に構成されている、圧縮試験治具にある。
【0012】
本発明の他の態様は、繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる、上記圧縮試験治具に用いられる樹脂含浸ストランド圧縮試験片であって、
各上記タブは、上記樹脂含浸ストランドを挿通するための貫通孔と、該貫通孔と上記タブの側面とを連通させる連通孔とを有しており、
上記樹脂含浸ストランドの両端部は、各上記貫通孔にそれぞれ挿通されており、
上記樹脂含浸ストランドの外周面と上記貫通孔の内周面との間および上記連通孔内に接着性樹脂が満たされている、樹脂含浸ストランド圧縮試験片にある。
【0013】
本発明のさらに他の態様は、繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片を作製するために用いられる圧縮試験片作製治具であって、
ベース部と、
上記ベース部に設けられており、複数の上記タブを互いに離間させて一方向に並べるためのガイド部と、
上記ガイド部に沿って並べられた複数の上記タブを上記ガイド部に押し付けて固定するための固定部と、
を有する圧縮試験片作製治具にある。
【発明の効果】
【0014】
上記圧縮試験治具は、上記構成を有している。そのため、上記圧縮試験治具によれば、例えば、以下のようにして、圧縮試験装置に樹脂含浸ストランド圧縮試験片を設置することができる。
【0015】
先ず、圧縮試験装置の荷重軸と圧盤軸とが一致するように、圧縮試験装置の基台部に一方の圧盤を取り付ける。次いで、圧縮試験装置の荷重軸と圧盤軸とが一致するように、圧縮試験装置のクロスヘッド部に他方の圧盤を取り付ける。次いで、樹脂含浸ストランド圧縮試験片のストランド軸と圧盤軸とが一致するように、一方の圧盤に樹脂含浸ストランド圧縮試験片を配置する。次いで、一方の圧盤の各把持部を圧盤軸に向かう方向に移動させ、樹脂含浸ストランド圧縮試験片の一方のタブの側面を各把持部にて把持させ、この状態で圧盤に対して各把持部を固定する。次いで、同様にして、樹脂含浸ストランド圧縮試験片のストランド軸と圧盤軸とが一致するように、他方の圧盤に樹脂含浸ストランド圧縮試験片を配置する。次いで、他方の圧盤の各把持部を圧盤軸に向かう方向に移動させ、樹脂含浸ストランド圧縮試験片の他方のタブの側面を各把持部にて把持させ、この状態で圧盤に対して各把持部を固定する。
【0016】
上記圧縮試験治具によれば、圧縮試験装置の荷重軸と樹脂含浸ストランド圧縮試験片のストランド軸とを比較的簡単に一致させることができる。また、上記圧縮試験治具によれば、圧縮試験時に治具同士が摺動することがないため、摩擦による荷重の影響を受けることもない。さらに、上記圧縮試験治具によれば、圧縮試験を開始する前の無負荷状態において、はじめから圧縮試験治具の圧盤による荷重が樹脂含浸ストランドに負荷されることもない。よって、上記圧縮試験治具によれば、従来に比べ、樹脂含浸ストランドの圧縮強度を精度良く評価することが可能になる。
【0017】
また、上記圧縮試験治具は、各把持部が進退動自在かつ圧盤に対して固定可能に構成されている。そのため、上記圧縮試験治具によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片におけるタブの外径が異なる場合でも、タブの外径に合わせて各把持部の位置を適宜調節し、樹脂含浸ストランド圧縮試験片を固定することができる。それ故、上記圧縮試験治具によれば、タブの外径が変化した場合でも、治具を新たに作製し直す必要がなく、タブの外径変化に対する自由度も高い。
【0018】
上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片は、上記構成を有している。そのため、上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片は、その作製時に、各タブの貫通孔に樹脂含浸ストランドの端部を配置した状態で、連通孔を通じて貫通孔に未硬化の接着性樹脂を注入し、未硬化の接着性樹脂を硬化させることができる。
【0019】
そのため、上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片は、その作製時に、圧縮試験部に接着性樹脂が付着し難く、樹脂含浸ストランドをタブに固定しやすい。また、上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片は、その作製時に、必要な分だけ接着性樹脂を使用すればよい上、貫通孔からの未硬化の接着性樹脂のはみ出しを抑制することもできる。そのため、上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片によれば、未硬化の接着性樹脂の注入後における樹脂除去作業を不要とすることができる。
【0020】
上記圧縮試験片作製治具は、上記構成を有している。そのため、上記圧縮試験片作製治具によれば、例えば、以下のようにして、樹脂含浸ストランド圧縮試験片を作製することができる。
【0021】
先ず、ベース部が水平となるように圧縮試験片作製治具を配置する。次いで、ベース部の表面に、複数対のタブを、ガイド部に沿わせて一方向に並べる。この際、各タブの貫通孔は、いずれも上記一方向を向くように配置される。また、各対の各タブは、必要な圧縮試験部長さが得られるように適宜スペーサ等を挟むなどして離間させる。また、各対のタブ間は、適宜、所定距離だけ離間させる。また、各タブは、各タブの側面に形成された連通孔の開口部が鉛直方向上向きとなるように配置される。次いで、ガイド部に沿って並べられた各タブを、固定部によってガイド部に押し付けて固定する。次いで、ベース部の長手方向と同程度の長さを有する樹脂含浸ストランドを、各タブの各貫通孔に挿通する。次いで、上面に配置された各タブの側面から各連通孔内に、注射器等を用いて未硬化の接着性樹脂をそれぞれ注入する。連通孔に注入された未硬化の接着性樹脂は、連通孔内を通って樹脂含浸ストランドの外周面と貫通孔の内周面との間に十分に充填されるとともに、連通孔内にも充填される。次いで、未硬化の接着性樹脂を硬化させる。次いで、対のタブとその隣の対のタブの間にある樹脂含浸ストランドを、ダイヤモンドカッター等で切断する。次いで、固定部による固定を解除する。
【0022】
上記圧縮試験片作製治具によれば、圧縮試験部における接着性樹脂の付着が抑制された品質の高い樹脂含浸ストランド圧縮試験片を、効率良く作製することができる。また、上記圧縮試験片作製治具によれば、タブの貫通孔の孔径が樹脂含浸ストランドの直径よりも大きい場合でも、各タブを位置決めすることができるので、各タブ間で樹脂含浸ストランドのアライメントを揃えやすい。
【0023】
よって、上記圧縮試験片作製治具は、上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片の作製に好適に用いることができる。また、上記圧縮試験片作製治具によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片を一度に複数個作製することができるので、樹脂含浸ストランドの圧縮強度を効率良く評価することが可能になる。また、上記圧縮試験片作製治具によれば、アライメント精度の高い樹脂含浸ストランド圧縮試験片が得られるので、再現性の高い荷重変位曲線を取得するのにも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態1にかかる樹脂含浸ストランド圧縮試験片の正面図である。
【
図2】実施形態1にかかる樹脂含浸ストランド圧縮試験片の左側面図である。
【
図3】実施形態1にかかる樹脂含浸ストランド圧縮試験片の平面図(上面図)である。
【
図5】樹脂含浸ストランド圧縮試験片における圧縮試験部のアスペクト比L/Dと座屈応力との関係を説明するための説明図である。
【
図6】実施形態2にかかる圧縮試験治具の圧盤および把持部を、樹脂含浸ストランド圧縮試験片の取り付け側から見た説明図である。
【
図7】
図6におけるVII-VII線断面図である。
【
図8】実施形態2にかかる圧縮試験治具の圧盤を、樹脂含浸ストランド圧縮試験片の取り付け側から見た説明図である。
【
図10】実施形態2にかかる圧縮試験治具の圧盤を、樹脂含浸ストランド圧縮試験片の取り付け側とは反対側から見た説明図である。
【
図11】実施形態2にかかる圧縮試験治具の一方の圧盤を、圧縮試験装置の基台部へ取り付ける際に用いられる基台取付部材の一例を示した説明図である。
【
図12】圧縮試験装置の基台部の一例を上方から見て示した説明図である。
【
図13】実施形態2にかかる圧縮試験治具の他方の圧盤を、圧縮試験装置のクロスヘッド部へ取り付ける際に用いられるクロスヘッド部取付部材の一例を示した説明図である。
【
図14】圧縮試験装置のクロスヘッド部が備える筒状部にクロスヘッド部取付部材を取り付けた状態を断面で示した説明図である。
【
図15】実施形態2にかかる圧縮試験治具の把持部を示した説明図であり、(a)は、把持部の正面図、(b)は、把持部の平面図、(c)は、把持部の左側面図である。
【
図16】実施形態2にかかる圧縮試験治具を用い、実施形態1にかかる樹脂含浸ストランド圧縮試験片の両端のタブを把持、固定した状態を示した正面図である。
【
図17】実施形態2にかかる圧縮試験治具の変形例の一部を示した説明図である。
【
図18】実施形態2にかかる圧縮試験治具の他の変形例の一部を示した説明図である。
【
図19】実施形態3にかかる圧縮試験片作製治具を分解して示した説明図であり、(a)は、ベース部の平面図、(b)は、固定部の平面図である。
【
図20】実施形態3にかかる圧縮試験片作製治具を用い、実施形態1にかかる樹脂含浸ストランド圧縮試験片を作製する方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、説明の便宜上、樹脂含浸ストランド圧縮試験片、圧縮試験治具、圧縮試験片作製治具、圧縮試験方法の順で各実施形態、参考形態を説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて、数値範囲を示した時、その両端の数値を含む。
【0026】
(実施形態1)
実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片について、
図1~
図5を用いて説明する。
図1~
図4に示されるように、本実施形態の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1は、樹脂含浸ストランド10と、樹脂含浸ストランド10の両端部を保持する一対のタブ11とを有している。樹脂含浸ストランド圧縮試験片1では、一対のタブ11間に配置された樹脂含浸ストランド10の部分が圧縮試験部101とされる。各タブ11は、樹脂含浸ストランド10を挿通するための貫通孔111と、貫通孔111とタブ11の側面とを連通させる連通孔112とを有しており、樹脂含浸ストランド10の両端部は、各貫通孔111にそれぞれ挿通されている。樹脂含浸ストランド10の外周面と貫通孔111の内周面との間および連通孔112内には、接着性樹脂12が満たされている。以下、これを詳説する。
【0027】
樹脂含浸ストランド圧縮試験片1において、樹脂含浸ストランド10は、繊維束(不図示)と、繊維束に含浸された樹脂(不図示)とを有している。繊維束を構成する繊維は、短繊維および/または長繊維より構成することができる。繊維束は、撚り合わされていてもよいし、撚り合わされていなくてもよい。
【0028】
繊維としては、例えば、PAN系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系等の炭素繊維;アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維等の金属繊維;黒鉛繊維;ガラス繊維等の絶縁性繊維;アラミド繊維、PBO繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリチレン繊維等の有機繊維;液晶紡糸繊維;シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維等の無機繊維などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0029】
繊維束に含浸される樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂等の硬化性樹脂であってもよいし、さらには、熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との組み合わせであってもよい。熱可塑性樹脂としては、各種の結晶性樹脂、非晶性樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、熱可塑性エラストマー、これらの共重合体や変性体などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。上記結晶性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィン;ポリオキシメチレン(POM);ポリアミド(PA);ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド;ポリケトン(PK);ポリエーテルケトン(PEK);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリエーテルケトンケトン(PEKK);ポリエーテルニトリル(PEN);ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;液晶ポリマー(LCP)などを例示することができる。また、上記非晶性樹脂としては、スチレン系樹脂;ポリカーボネート(PC);ポリメチルメタクリレート(PMMA);ポリ塩化ビニル(PVC);ポリフェニレンエーテル(PPE);ポリイミド(PI);ポリアミドイミド(PAI);ポリエーテルイミド(PEI);ポリサルホン(PSU);ポリエーテルサルホン;ポリアリレート(PAR)などを例示することができる。上記熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素樹脂系、アクリロニトリル系等の熱可塑性エラストマーなどを例示することができる。硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド、これらの共重合体や変性体などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0030】
樹脂含浸ストランド10の直径Dは、具体的には、0.3mm以上5mm以下とすることができる。この構成によれば、他の繊維に比べて高い圧縮強度を有する炭素繊維からなる繊維束に樹脂を含浸させた樹脂含浸ストランド10を評価することができるので、炭素繊維以外の他の繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の圧縮強度の評価についても確実なものとすることができる。以下、これについて説明する。
【0031】
上述した非特許文献1や、他の非特許文献「A.Andres Leal,Joseph M.Deitzel,John W.Gillespie Jr,「Assessment of compressive properties of high performance organic fibers」,Composites Science and Technology 67(2007) 2786-2794」に記載されるように、炭素繊維の圧縮強度は、他の繊維の圧縮強度と比較して高い値を示すことが知られている。そのため、炭素繊維からなる繊維束に樹脂を含浸させた樹脂含浸ストランド10を評価することができる条件であれば、他の繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の圧縮強度を評価することができる。
そこで、炭素繊維の物性を用いて、試験対象とする樹脂含浸ストランド10の物性を計算する。なお、炭素繊維および含浸させる樹脂の圧縮弾性率は、それぞれ引張弾性率と同じとする。
一般的な炭素繊維の圧縮弾性率Efは、230~900GPaであり、炭素繊維を用いた樹脂含浸ストランド10における繊維体積分率vfは、0.3~0.8である。樹脂は、炭素繊維と比較すると十分に圧縮弾性率が小さい。そのため、炭素繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の圧縮弾性率Esは、次の複合則の式で与えられる。
Es=vf×Ef・・・(式1)
(式1)に、繊維体積分率vfおよび炭素繊維の圧縮弾性率Efを代入すると、炭素繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の圧縮弾性率Esは、69~720GPaとなる。
炭素繊維の圧縮強度σfは、炭素繊維の引張強度の半分であるとすると、炭素繊維の圧縮強度σfは、3.5~7GPaとなる。
炭素繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の圧縮破壊は、炭素繊維の強度が最大限発揮された場合において炭素繊維の圧縮破壊によって引き起こされる。そのため、炭素繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の圧縮強度σcsは、次の複合則の式で与えられる。
σcs=vf×σf・・・(式2)
(式2)に、繊維体積分率vfおよび炭素繊維の圧縮強度σfを代入すると、炭素繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の圧縮強度σcsは、0.35~3.15GPaとなる。
繊維体積分率vfが0.3~0.8の炭素繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の計算直径Dcは、次の式で与えられる。
Dc=d×√(F/vf)・・・(式3)
但し、d:炭素繊維1本の直径、F:炭素繊維束を構成するフィラメント数
一般的な炭素繊維1本の直径dが5~10μm、炭素繊維束を構成するフィラメント数Fが3000~50000本であるとすると、炭素繊維を用いた樹脂含浸ストランド10の計算直径Dcは、0.3~5mmとなる。
よって、樹脂含浸ストランド10の直径Dを0.3mm以上5mm以下とすることで、炭素繊維以外の他の繊維を用いた樹脂含浸ストランド10についての圧縮強度の評価を確実なものとすることができる。
【0032】
樹脂含浸ストランド10の圧縮試験を行う場合、樹脂含浸ストランド10に直接荷重を負荷すると、樹脂含浸ストランド10の端部に応力が集中し、樹脂含浸ストランド10の端部が破壊していまい、圧縮試験ができない。樹脂含浸ストランド圧縮試験片1において、タブ11は、上記応力集中を抑制して樹脂含浸ストランド10を保護するとともに、せん断力にて樹脂含浸ストランド10に荷重を伝えるなどの役割がある。
【0033】
各タブ11は、樹脂含浸ストランド10を挿通するための貫通孔111と、貫通孔111とタブ11の側面とを連通させる連通孔112とを有している。タブ11の側面は、樹脂含浸ストランド10を保持するタブ11の外表面のうち、ストランド軸周りの面のことである。タブ11を構成する材料としては、例えば、樹脂、金属材料などを例示することができる。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂、ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂を例示することができる。なお、上記硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などより構成することができる。タブ11が樹脂より構成されている場合には、貫通孔111、連通孔112を加工しやすい利点がある。また、タブ11の形状としては、例えば、角柱状、円柱状などを例示することができる。本実施形態では、各タブ11が、いずれも、四角柱状の形状を呈する例が示されている。なお、タブ11が角柱状や円柱状の場合、タブ11の側面は、樹脂含浸ストランド10を保持するタブ11の外表面のうち、ストランド軸102に平行な面となる。本実施形態では、各タブ11は、いずれも、エポキシ樹脂より構成することができる。
【0034】
各タブ11の貫通孔111は、樹脂含浸ストランド10のストランド軸102に沿って形成されている。具体的には、各タブ11の貫通孔111は、ストランド軸102に垂直な第1のタブ面110aと第2のタブ面110bとの間を貫通している。各タブ11の貫通孔111には、樹脂含浸ストランド10の両端部がそれぞれ挿通されている。つまり、一方のタブ11の貫通孔111には、樹脂含浸ストランド10の一方の端部が挿通されており、他方のタブ11の貫通孔111には、樹脂含浸ストランド10の他方の端部が挿通されている。
【0035】
各タブ11において、貫通孔111の孔径は、具体的には、樹脂含浸ストランド10の直径Dの1倍超1.5倍以下とすることができる。この構成によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の作製時における樹脂含浸ストランド10のアライメントの制御性と、接着性樹脂12による樹脂含浸ストランド10およびタブ11の固定性とのバランスに優れる。貫通孔111の孔径は、樹脂含浸ストランド10の外周面と貫通孔111の内周面との間への接着性樹脂12の充填性などの観点から、樹脂含浸ストランド10の直径Dの、好ましくは、1.05倍以上、より好ましくは、1.1倍以上、さらに好ましくは、1.15倍以上とすることができる。貫通孔111の孔径は、樹脂含浸ストランド10のアライメントの確保容易性などの観点から、樹脂含浸ストランド10の直径Dの、好ましくは、1.45倍以下、より好ましくは、1.4倍以下、さらに好ましくは、1.35倍以下とすることができる。
【0036】
各タブ11において、貫通孔111と連通孔112とは、互いに直交している構成とすることができる。この構成によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の作製時に、タブ11の側面から連通孔112を通じて最短距離で貫通孔111内に未硬化の接着性樹脂を流し込むことができる。また、各タブ11において、連通孔112における貫通孔111側の端部は、貫通孔111の軸方向における中央部に接続されている構成とすることができる。この構成によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の作製時に、貫通孔111内に注入された未硬化の接着性樹脂は、貫通孔111に到達後、貫通孔111の両端に向けて対称に流れ、その後、硬化する。そのため、この構成によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の作製時に、樹脂含浸ストランド10の外周面と貫通孔111の内周面との間に接着性樹脂12を十分に行き渡らせることができ、樹脂含浸ストランド10の剥離を抑制しやすくなる。
【0037】
各タブ11は、ストランド軸102方向に垂直なタブ11の断面視でタブ11の外形線に内接する内接円113の半径Rに対する、ストランド軸102方向のタブ11の高さleの比が、1.5以下となるように構成することができる。この構成によれば、樹脂含浸ストランド10の直径変動や極僅かなアライメントのずれ等によって実際に極僅かに生じうる曲げ変形のモーメントによってもタブ11が回転し難くなる。以下、これについて説明する。
【0038】
樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の両端部を保持するタブ11は、圧縮試験時において曲げ変形を抑制するため十分なモーメントに耐えることが重要となる。曲げ変形のモーメントに耐えて樹脂含浸ストランド10のアライメントにずれが生じない場合は、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の圧縮に伴う応力にモーメントは理想的には生じない。しかしながら、実際には、樹脂含浸ストランド10の直径変動や極僅かなアライメントのずれによって極僅かなモーメントが生じうる。そのため、この極僅かなモーメントによってタブ11が回転しないように、タブ11の外形線に内接する内接円113の半径Rに対するストランド軸102方向のタブ11の高さleの比を決定することが有効となる。
樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の端において、圧縮荷重の1/3の大きさの荷重が、ストランド軸と垂直な方向に負荷される場合、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1が回転しない条件は、次の式で表される。
R×P>le×f・・・(式4)
但し、(式4)中、R:ストランド軸102方向に垂直なタブ11の断面視で、タブ11の外形線に内接する内接円113の半径、P:圧縮荷重、le:ストランド軸102方向のタブ11の高さ(タブ11に埋め込まれる樹脂含浸ストランド10の長さと同じ)、f:樹脂含浸ストランド圧縮試験片1のストランド軸102方向に垂直な力
(式4)に、圧縮荷重Pおよびストランド軸102方向に垂直な力fの値を代入すると、タブ11の外形線に内接する内接円113の半径Rに対するストランド軸102方向のタブ11の高さleの比であるle/Rは、3以下となる。
よって、le/Rを3以下とすることにより、樹脂含浸ストランド10の直径変動や極僅かなアライメントのずれ等によって実際に極僅かに生じうる曲げ変形のモーメントによってもタブ11が回転し難い樹脂含浸ストランド圧縮試験片1が得られる。
【0039】
ストランド軸102方向の各タブ11の高さleは、具体的には、1.5mm以上25mm以下とすることができる。この構成によれば、0.3~5mmの直径Dを有する樹脂含浸ストランド10の保持を確実なものとすることができる。以下、これについて説明する。
【0040】
上述したJIS R 7608:2007「炭素繊維-樹脂含浸ヤーン試料を用いた引張特性試験方法」や、JIS K 7165:2008「プラスチック-引張特性の求め方-第5部:一方向繊維強化プラスチック複合材料の試験条件」には、引張試験におけるタブの埋め込み深さの例が示されている。ここから、タブ11による接着長さは、50mmあれば十分であることがわかる。これを圧縮試験に適用した場合、直径5mmの炭素繊維による樹脂含浸ストランド10における圧縮強度は引張強度の約半分であるため、タブ11に埋め込まれる樹脂含浸ストランド10の長さ、つまり、ストランド軸102方向のタブ11の高さleは、25mmで十分であるといえる。この時、界面せん断応力τと、樹脂含浸ストランド10の圧縮応力σsとの釣り合いを考えると、以下の式が導かれる。
τ×le=σs×D/4・・・(式5)
(式5)より、樹脂含浸ストランド10の直径Dと、ストランド軸102方向のタブ11の高さleとは、比例関係にあることがわかる。したがって、樹脂含浸ストランド10の直径Dを0.3~5mmとした場合、ストランド軸102方向のタブ11の高さleは、1.5~25mmと導かれる。
【0041】
各タブ11は、ストランド軸102方向に垂直なタブ11の断面視で、タブ11の外形線に内接する内接円113の直径が1mm以上である構成とすることができる。これは、上述した(式4)において、ストランド軸102方向のタブ11の高さleを1.5~25mmとした場合、タブ11の外形線に内接する内接円113の直径が1mm以上になることによる。
【0042】
樹脂含浸ストランド圧縮試験片1において、樹脂含浸ストランド10の外周面と貫通孔111の内周面との間および連通孔112内には、接着性樹脂12が満たされている。接着性樹脂12としては、例えば、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂、ビニル共重合樹脂やセルロース等の熱可塑性樹脂などを例示することができる。なお、上記硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などより構成することができる。また、樹脂含浸ストランド10の外周面と貫通孔111の内周面との間が接着性樹脂12によって満たされておれば、連通孔112は、必ずしも孔内全体が接着性樹脂12によって満たされていなくてもよい。
【0043】
樹脂含浸ストランド圧縮試験片1において、圧縮試験部101のアスペクト比L/Dは、具体的には、1以上7.3以下とすることができる。但し、圧縮試験部101のアスペクト比L/DにおけるLは、圧縮試験部101の長さであり、Dは、樹脂含浸ストランド10の直径である。この構成によれば、圧縮試験時に、樹脂含浸ストランド10が横方向にたわむ座屈変形を生じることなく圧縮強度を測定しやすくなる。また、圧縮試験時に、せん断破壊による破壊モードで樹脂含浸ストランド10に破壊を生じさせやすくなる。そのため、この構成によれば、樹脂含浸ストランド10の圧縮強度の評価を確実なものとすることができる。以下、圧縮試験部101のアスペクト比L/Dについて説明する。
【0044】
樹脂含浸ストランド10の圧縮途中で、樹脂含浸ストランド10が横方向にたわむ座屈変形が生じると、最終的には曲げ破壊が生じるため、圧縮試験ではなく、曲げ試験となって圧縮強度を求めることが困難になる。座屈変形することなく樹脂含浸ストランド10を圧縮可能な圧縮試験部101の長さLは、次のようにして求めることができる。なお、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1において、圧縮試験部101の長さLは、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の両端に配置された一対のタブ11間の距離と同じである。
円形断面を有する樹脂含浸ストランド10を備える樹脂含浸ストランド圧縮試験片1に座屈が起こる応力σ
buclingは、次に示されるEular座屈の式で求められる。
σ
bucling={(πD)/(2L)}
2×E・・・(式6)
但し、(式6)中、D:樹脂含浸ストランド10の直径、L:圧縮試験部101の長さ、E:樹脂含浸ストランド10の圧縮弾性率
なお、樹脂含浸ストランド10が円形断面を有していない場合には、樹脂含浸ストランド10の断面の最も細い部分の圧縮試験部101の長さを用いることで、安全側の座屈応力が求められる。樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を座屈させることなく樹脂含浸ストランド10の圧縮強度を測定するためには、圧縮強度が座屈強度よりも高くなること、つまり、座屈するときの圧縮試験部101の長さLよりも、一対のタブ11間の距離が短い樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を用いて圧縮試験を行えばよい。
図5に、圧縮弾性率が69GPa、圧縮強度が3.15GPaの場合における、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の圧縮試験部101のアスペクト比L/Dと座屈応力との関係を示す。なお、
図5は、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1による圧縮試験において、最も試験条件が制約される条件での圧縮試験部101のアスペクト比L/Dと座屈応力との関係を示している。また、
図5中、矢印Aは、市販の複合材料から想定される樹脂含浸ストランド10の最大圧縮強度を示している。矢印Cは、圧縮試験時に、樹脂含浸ストランド10が座屈変形しやすくなる領域である。両矢印Bは、圧縮試験時に、せん断破壊による破壊モードで破壊を生じさせることが困難な領域である。
図5によれば、圧縮試験部101のアスペクト比L/Dが7.3以下とされる場合には、圧縮試験時に、樹脂含浸ストランド10が座屈変形することなく圧縮強度を測定することができるといえる。一方、樹脂含浸ストランド10の圧縮試験では、本来、樹脂含浸ストランド10は、せん断破壊による破壊モードで破壊する必要がある。
図5によれば、圧縮試験部101のアスペクト比L/Dが1以上とされる場合には、圧縮試験時に、せん断破壊による破壊モードで樹脂含浸ストランド10に破壊を生じさせることができるといえる。よって、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1において、圧縮試験部101のアスペクト比L/Dを上記特定の範囲内とすることで、樹脂含浸ストランド10の圧縮強度の評価を確実なものとすることができる。
【0045】
圧縮試験部101のアスペクト比L/Dは、せん断破壊による破壊モードでの破壊を生じさせやすくするなどの観点から、好ましくは、1.2以上、より好ましくは、1.5以上、さらに好ましくは、1.7以上、さらにより好ましくは2以上とすることができる。また、圧縮試験部101のアスペクト比L/Dは、樹脂含浸ストランド10の座屈変形抑制などの観点から、好ましくは、7以下、より好ましくは、6.5以下、さらに好ましくは、6以下、さらにより好ましくは、5.5以下、さらにより一層好ましくは、5以下とすることができる。
【0046】
なお、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1において、圧縮試験部101の長さは、具体的には、1~250mmの範囲とすることができる。この構成によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の強度分布の長さ依存性を評価することができるなどの利点がある。
【0047】
樹脂含浸ストランド圧縮試験片1は、上記構成を有している。そのため、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1は、その作製時に、各タブ11の貫通孔111に樹脂含浸ストランド10の端部を配置した状態で、連通孔112を通じて貫通孔111に未硬化の接着性樹脂を注入し、未硬化の接着性樹脂を硬化させることができる。
【0048】
そのため、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1は、その作製時に、圧縮試験部101に接着性樹脂12が付着し難く、樹脂含浸ストランド10をタブ11に固定しやすい。また、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1は、その作製時に、必要な分だけ接着性樹脂12を使用すればよい上、貫通孔111からの未硬化の接着性樹脂のはみ出しを抑制することもできる。そのため、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1によれば、未硬化の接着性樹脂の注入後における樹脂除去作業を不要とすることができる。
【0049】
(実施形態2)
実施形態2の圧縮試験治具について、
図6~
図18を用いて説明する。なお、
図16における上方を上側、下方を下側とする。
【0050】
図16に示されるように、本実施形態の圧縮試験治具2は、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を用い、樹脂含浸ストランド10の圧縮強度を測定するために用いられる治具である。なお、
図16中、符号Nは、圧縮試験装置(不図示)の荷重軸である。樹脂含浸ストランド圧縮試験片1は、繊維束と繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランド10と、樹脂含浸ストランド10の両端部を保持する一対のタブ11とを有しており、一対のタブ11間に配置された樹脂含浸ストランド10の部分が圧縮試験部101とされる。本実施形態では、実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1が適用される。以下、これを詳説する。
【0051】
図6、
図7、および、
図16に示されるように、圧縮試験治具2は、一対の圧盤20と、各圧盤20の盤面にそれぞれ設けられた複数の把持部21とを有している。
【0052】
圧縮試験治具2において、一対の圧盤20は、圧縮試験装置(不図示)に取り付けられる。なお、圧縮試験装置は、圧縮荷重を負荷可能な試験装置であれば、引張荷重や繰り返し荷重などを負荷可能であってもよい。圧縮試験装置は、具体的には、後述の基台部4とクロスヘッド部とを備えている。そして、圧縮試験治具2は、その使用時に、一方の圧盤20(本実施形態では、下側に配置される圧盤20)が、圧縮試験装置の基台部4に直接または間接に接続され、他方の圧盤20(本実施形態では、上側に配置される圧盤20)が、クロスヘッド部に、直接または間接に接続される。
【0053】
図6~
図10に示されるように、本実施形態では、圧盤20は、具体的には、円盤状の形状を呈している。圧盤20は、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の取り付け側の盤面に、各把持部21を案内するための複数の溝部201を備えている。各図では、圧縮試験装置の荷重軸Nと同軸にされる圧盤20の圧盤軸23の周りに、四つの溝部201を備える例が示されている。複数の溝部201は、圧盤軸23を中心として周方向に等間隔で配置されている。また、複数の溝部201は、圧盤20の圧盤軸23を中心として放射状に延びている。
【0054】
本実施形態において、圧盤20は、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の取り付け側とは反対側の盤面に、圧盤軸23と同軸の中心ねじ穴202を有している。圧縮試験治具2の一方の圧盤20における中心ねじ穴202には、
図11に例示される基台取付部材24が螺合される。基台取付部材24は、
図12に例示される圧縮試験装置の基台部4における基台中心穴40に嵌め込まれる頭部240と、圧盤20の中心ねじ穴202に螺合される螺合部241とを有している。なお、本実施形態では、圧盤20は、中心ねじ穴202の外周に、貫通する複数の穴部203を有している。これら穴部203には、ボルト(不図示)が挿通される。そして、圧盤20は、各穴部203に挿通されたボルトを、それぞれ、基台部4の基台中心穴40の外周に形成された複数のボルト穴41に締結することにより、基台部4に固定できるようになっている。これにより、圧縮試験治具2は、一方の圧盤20が基台部4に取り付けられた際に、荷重軸N周りで圧盤20が回転しないように固定可能とされている。なお、圧縮試験装置のクロスヘッド部に取り付けられる他方の圧盤20については、本来であれば、穴部203は不要である。本実施形態において、一方の圧盤20および他方の圧盤20がいずれも穴部203を有しているのは、圧盤20の構成を同じにすることで、各圧盤20を基台部4またはクロスヘッド部のいずれに対しても取り付け可能としたものである。
【0055】
一方、圧縮試験治具2の他方の圧盤20における中心ねじ穴202には、
図13に例示されるクロスヘッド部取付部材25が螺合される。クロスヘッド部取付部材25は、
図14に例示されるように、圧縮試験装置のクロスヘッド部が備える筒状部42の筒内に嵌め込まれる頭部250と、圧盤22の中心ねじ穴202に螺合される螺合部251とを有している。頭部250は、
図13および
図14に例示されるように、頭部250の周方向に形成された周溝250aを有している。周溝250aには、筒状部42の外周側から筒状部42に螺合された留めねじ43の先端部が当接される。なお、上述した基台中心穴40の中心および筒状部42の筒軸420は、圧縮試験装置の荷重軸Nと一致している。
【0056】
図6、
図7、および、
図16に示されるように、複数の把持部21は、各圧盤20における樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の取り付け側の盤面にそれぞれ設けられ、片方のタブ11の側面を把持して樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を固定できるように構成されている。そして、各把持部21は、圧縮試験装置の荷重軸Nと同軸にされる圧盤20の圧盤軸23に垂直な方向であって圧盤軸23に向かう方向および圧盤軸23から離れる方向に進退動自在に構成されるとともに、圧盤20に対して固定可能に構成されている。
【0057】
図15に例示されるように、本実施形態では、各把持部21は、具体的には、圧盤20の溝部201に嵌合される嵌合部210と、タブ11の側面に当接させる当接部211とを備えている。嵌合部210は、より具体的には、互いに離間して配置された一対のレール部210aより構成されている。一対のレール部210aの一部が、圧盤20の溝部201に嵌合される。また、一対のレール部210aの内側には、それぞれ段差部210bが形成されている。段差部210bには、把持部21を圧盤20に固定するための固定ねじ210cの頭部が配置される。したがって、把持部21は、圧盤20の溝部201に形成された固定ねじ穴201aに固定ねじ210cが螺合された状態では、固定ねじ210cによって一対のレール部210aが押さえつけられることで圧盤20に対して固定可能とされている。また、把持部21は、固定ねじ210cが緩められた状態では、一対のレール部210aが圧盤20の溝部201に案内されることで圧盤軸23に向かう方向および圧盤軸23から離れる方向に進退自在に移動可能とされている。つまり、把持部21は、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1が有するタブ11の大きさに応じ、最適な場所でタブ11の側面を把持固定することが可能とされている。一方、当接部211は、嵌合部210における圧盤20の溝部201の外に配置される部位に連結されている。また、当接部211は、角部が面取りされてなる面取り部211aを有している。これにより、圧盤軸23に向かう方向に各把持部21を移動させた際に、各把持部21の当接部211同士が干渉しないようになっている。
【0058】
本実施形態の圧縮試験治具2は、上記構成を有している。そのため、本実施形態の圧縮試験治具2によれば、例えば、以下のようにして、圧縮試験装置に樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を設置することができる。
【0059】
先ず、圧縮試験装置の荷重軸Nと圧盤軸23とが一致するように、圧縮試験装置の基台部4に一方の圧盤20を取り付ける。次いで、圧縮試験装置の荷重軸と圧盤軸23とが一致するように、圧縮試験装置のクロスヘッド部に他方の圧盤20を取り付ける。次いで、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1のストランド軸10と圧盤軸23とが一致するように、一方の圧盤20に樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を配置する。次いで、一方の圧盤20の各把持部21を圧盤軸23に向かう方向に移動させ、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の一方のタブ11の側面を各把持部21にて把持させ、この状態で圧盤20に対して各把持部21を固定する。次いで、同様にして、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1のストランド軸102と圧盤軸23とが一致するように、他方の圧盤20に樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を配置する。次いで、他方の圧盤20の各把持部21を圧盤軸23に向かう方向に移動させ、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の他方のタブ11の側面を各把持部21にて把持させ、この状態で圧盤20に対して各把持部21を固定する。
【0060】
本実施形態の圧縮試験治具2によれば、圧縮試験装置の荷重軸Nと樹脂含浸ストランド圧縮試験片1のストランド軸102とを比較的簡単に一致させることができる。また、本実施形態の圧縮試験治具2によれば、圧縮試験時に治具同士が摺動することがないため、摩擦による荷重の影響を受けることもない。さらに、本実施形態の圧縮試験治具2によれば、圧縮試験を開始する前の無負荷状態において、はじめから圧縮試験治具2の圧盤20による荷重が樹脂含浸ストランド10に負荷されることもない。よって、本実施形態の圧縮試験治具2によれば、従来に比べ、樹脂含浸ストランド10の圧縮強度を精度良く評価することが可能になる。
【0061】
また、本実施形態の圧縮試験治具2は、各把持部21が進退動自在かつ圧盤20に対して固定可能に構成されている。そのため、本実施形態の圧縮試験治具2によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1におけるタブ11の外径が異なる場合でも、タブ11の外径に合わせて各把持部21の位置を適宜調節し、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を固定することができる。それ故、本実施形態の圧縮試験治具2によれば、タブ11の外径が変化した場合でも、治具を新たに作製し直す必要がなく、タブ11の外径変化に対する自由度も高い。
【0062】
また、本実施形態の圧縮試験治具2は、各圧盤20が、各把持部21を案内するための複数の溝部201を備えており、各把持部21が、溝部201に嵌合される嵌合部210と、タブ11の側面に当接させる当接部211とを備えている。そのため、本実施形態の圧縮試験治具2は、圧盤20の溝部201に嵌合部210を嵌合させた把持部21を、圧盤軸23に向かう方向および圧盤軸23から離れる方向に進退動自在に移動させ、把持部21の当接部211を、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1のタブ11の側面に当接させ、その位置にて、把持部21を圧盤20に対して固定することができる。それ故、本実施形態の圧縮試験治具2によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1におけるタブ11の外径が異なる場合でも、タブ11の外径に合わせて各把持部21の位置を適宜調節し、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を固定しやすい利点がある。
【0063】
また、本実施形態の圧縮試験治具2では、タブ11の側面を各把持部21が把持した状態とされたときに、各把持部21の高さは、圧盤軸23方向のタブ11の高さleよりも低い構成とすることができる。この構成によれば、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の圧縮が進んだときに、圧縮試験治具2の一方の圧盤20における把持部21と、他方の圧盤20における把持部21とが接触するのを防止することが可能になる。
【0064】
この際、タブ11の側面を各把持部21が把持した状態とされたときに、各把持部21の高さが、圧盤軸23方向のタブ11の高さleよりも0.35mm以上低い構成とされている場合には、各タブ11の高さが25mm以下とされた樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の圧縮時に、圧縮試験治具2の一方の圧盤20における把持部21と、他方の圧盤20における把持部21とが接触するのを防止しやすくなる。これは、タブ11の高さが25mmとされた樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を用いた場合に、各タブ11間における樹脂含浸ストランド10の最大変形量が0.35mm程度となることによる。
【0065】
また、本実施形態の圧縮試験治具2は、142GPa以上の圧縮弾性率を有する材料より構成することができる。実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を圧縮試験治具2に設置した場合、当該設置部分における平均応力の最大値は284MPaと見込まれる。そのため、圧縮試験治具2を142GPa以上の圧縮弾性率を有する材料より構成した場合には、圧縮試験中における圧縮試験治具2の変形を0.2%以下に抑制しやすくなる利点がある。
【0066】
なお、本実施形態の圧縮試験治具2は、
図6~
図16の形態に限定されるものではなく、把持部21の数、把持部21の形態などを適宜変更することが可能である。例えば、圧縮試験治具2は、
図17に例示するように変形することが可能である。
図17に示される圧縮試験治具2では、圧盤20が、圧盤軸23の周りに二つの溝部201を備えており、各溝部201にそれぞれ把持部21が設けられている例が示されている。また、各把持部21の当接部211は、タブ11の側面を掴むように保持可能に構成されている例が示されている。他にも例えば、圧縮試験治具2は、
図18に例示するように変形することが可能である。
図18に示される圧縮試験治具2では、圧盤20が、圧盤軸23の周りに三つの溝部201を備えており、各溝部201にそれぞれ把持部21が設けられている例が示されている。また、
図18では、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1のタブ11が円柱形状を呈しており、各把持部21の当接部211は、湾曲するタブ11の側面に沿うように形成された当接面にてタブ11の側面に当接している例が示されている。
【0067】
(実施形態3)
実施形態3の圧縮試験片作製治具について、
図19、
図20を用いて説明する。
【0068】
図19、
図20に示されるように、本実施形態の圧縮試験片作製治具3は、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を作製するために用いられる治具である。樹脂含浸ストランド圧縮試験片1は、繊維束と繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランド10と、樹脂含浸ストランド10の両端部を保持する一対のタブ11とを有しており、一対のタブ11間に配置された樹脂含浸ストランド10の部分が圧縮試験部101とされる。本実施形態では、圧縮試験片作製治具3を用いて、実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を複数作製することができる。以下、これを詳説する。
【0069】
図19、
図20に示されるように、本実施形態の圧縮試験片作製治具3は、ベース部30と、ガイド部31と、固定部32とを有している。
【0070】
ベース部30は、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の作製が行われる台となる部位である。本実施形態では、ベース部30は、長手方向を有する平板より構成されている。
【0071】
ガイド部31は、ベース部30に設けられており、複数のタブ11を互いに離間させて一方向に並べるための部位である。本実施形態では、ベース部30の長手方向に沿う一方の側縁部に、ガイド部31が設けられている。ガイド部31は、一方の端部が折れ曲がっており、ベース部30の短手方向に一部突出する突出部310を有している。この突出部310は、
図20に示されるように、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の作製時に、端に置かれたタブ11を押し当ててタブ11の位置決めをするためなどに使用される。
【0072】
固定部32は、ガイド部31に沿って並べられた複数のタブ11をガイド部31に押し付けて固定するための部位である。本実施形態では、固定部32は、長手方向を有する平板より構成されている。また、固定部32は、固定部32の長手方向に沿う一方の側縁部から他方の側縁部に向かって複数の切欠き溝320が形成されている。この切欠き溝320の位置に対応させて、ベース部30には、複数のねじ穴301が形成されている。固定部32は、切欠き溝320に通したねじ321をねじ穴301に螺合することにより、ベース部30に固定される。また、固定部32は、ねじ321が緩められることにより、ベース部30の短手方向に進退動自在に移動させることが可能とされている。
【0073】
本実施形態の圧縮試験片作製治具3は、上記構成を有している。そのため、本実施形態の圧縮試験片作製治具3によれば、例えば、以下のようにして、実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を作製することができる。
【0074】
図20に示されるように、先ず、ベース部30が水平となるように圧縮試験片作製治具3を配置する。次いで、ベース部30の表面に、複数対のタブ11を、ガイド部31に沿わせて一方向に並べる。この際、各タブ11の貫通孔111は、いずれも上記一方向を向くように配置される。また、各対の各タブ11は、必要な圧縮試験部101の長さが得られるように適宜スペーサ等を挟むなどして離間させる。また、各対のタブ11間は、適宜、所定距離だけ離間させる。また、各タブ11は、各タブ11の側面に形成された連通孔112の開口部が鉛直方向上向きとなるように配置される。次いで、ガイド部31に沿って並べられた各タブ11を、固定部32によってガイド部31に押し付けて固定する。次いで、ベース部30の長手方向と同程度の長さを有する樹脂含浸ストランド10を、各タブ11の各貫通孔112に挿通する。次いで、
図20に示されるように、上面に配置された各タブ11の側面から各連通孔112内に、注射器等を用いて未硬化の接着性樹脂をそれぞれ注入する。連通孔112に注入された未硬化の接着性樹脂は、連通孔112内を通って樹脂含浸ストランド10の外周面と貫通孔111の内周面との間に十分に充填されるとともに、連通孔112内にも充填される。次いで、未硬化の接着性樹脂を硬化させる。次いで、対のタブ11とその隣の対のタブ11の間にある樹脂含浸ストランド10を、ダイヤモンドカッター等で切断する(
図20中、矢印Yの位置が各切断箇所)。次いで、固定部32による固定を解除する。
【0075】
本実施形態の圧縮試験片作製治具3によれば、圧縮試験部101における接着性樹脂12の付着が抑制された品質の高い樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を、効率良く作製することができる。また、本実施形態の圧縮試験片作製治具3によれば、タブ11の貫通孔111の孔径が樹脂含浸ストランド10の直径Dよりも大きい場合でも、各タブ11を位置決めすることができるので、各タブ11間で樹脂含浸ストランド10のアライメントを揃えやすい。
【0076】
よって、本実施形態の圧縮試験片作製治具3は、実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の作製に好適に用いることができる。また、本実施形態の圧縮試験片作製治具3によれば、実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1を一度に複数個作製することができるので、樹脂含浸ストランド10の圧縮強度を効率良く評価することが可能になる。また、本実施形態の圧縮試験片作製治具3によれば、アライメント精度の高い樹脂含浸ストランド圧縮試験片1が得られるので、再現性の高い荷重変位曲線を取得するのにも有利である。
【0077】
(参考形態4)
参考形態4の圧縮試験方法について説明する。
【0078】
本参考形態の圧縮試験方法は、実施形態2の圧縮試験治具2と、実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1とを用いて、樹脂含浸ストランド10の圧縮強度を測定する方法である。以下、これを詳説する。
【0079】
本参考形態の圧縮試験方法では、圧縮試験治具2における一方の圧盤20に取り付けられた複数の把持部21によって、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の一方のタブ11が把持される。また、圧縮試験治具2における他方の圧盤20に取り付けられた複数の把持部21によって、樹脂含浸ストランド圧縮試験片1の他方のタブが把持される。次いで、圧盤20を介して樹脂含浸ストランド10に圧縮荷重が負荷される。具体的にては、圧縮試験装置のクロスヘッド部に取り付けられた圧盤20を介して、樹脂含浸ストランド10に圧縮荷重が負荷される。
【0080】
本参考形態の圧縮試験方法では、実施形態2の圧縮試験治具2と実施形態1の樹脂含浸ストランド圧縮試験片1とを用いて、樹脂含浸ストランド10の圧縮強度を測定する。よって、本参考形態の圧縮試験方法によれば、樹脂含浸ストランド10の圧縮強度を精度良く評価することができる。
【0081】
本発明は、上記各実施形態、参考形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
以下、参考形態の例を付記する。
項1.
繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる樹脂含浸ストランド圧縮試験片を用い、上記樹脂含浸ストランドの圧縮強度を測定するために用いられる圧縮試験治具であって、
圧縮試験装置に取り付けられる一対の圧盤と、
各上記圧盤における上記樹脂含浸ストランド圧縮試験片の取り付け側の盤面にそれぞれ設けられ、片方の上記タブの側面を把持して固定する複数の把持部と、を有しており、
各上記把持部は、上記圧縮試験装置の荷重軸と同軸にされる上記圧盤の圧盤軸に垂直な方向であって上記圧盤軸に向かう方向および上記圧盤軸から離れる方向に進退動自在に構成されているとともに、上記圧盤に対して固定可能に構成されている、圧縮試験治具。
項2.
各上記圧盤は、各上記把持部を案内するための複数の溝部を備えており、
各上記把持部は、上記溝部に嵌合される嵌合部と、上記タブの側面に当接させる当接部とを備えている、項1に記載の圧縮試験治具。
項3.
上記タブの側面を各上記把持部が把持した状態とされたときに、各上記把持部の高さは、上記圧盤軸方向の上記タブの高さよりも低い、項1または項2に記載の圧縮試験治具。
項4.
各上記把持部の高さは、上記圧盤軸方向の上記タブの高さよりも0.35mm以上低い、項3に記載の圧縮試験治具。
項5.
142GPa以上の圧縮弾性率を有する材料より構成されている、項1~項4のいずれか1項に記載の圧縮試験治具。
項6.
繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる樹脂含浸ストランド圧縮試験片であって、
各上記タブは、上記樹脂含浸ストランドを挿通するための貫通孔と、該貫通孔と上記タブの側面とを連通させる連通孔とを有しており、
上記樹脂含浸ストランドの両端部は、各上記貫通孔にそれぞれ挿通されており、
上記樹脂含浸ストランドの外周面と上記貫通孔の内周面との間および上記連通孔内に接着性樹脂が満たされている、樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
項7.
上記貫通孔と上記連通孔とが互いに直交している、項6に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
項8.
上記圧縮試験部のアスペクト比L/Dが、1以上7.3以下である、項6または項7に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
但し、
上記L:上記圧縮試験部の長さ
上記D:上記樹脂含浸ストランドの直径
項9.
上記樹脂含浸ストランドの直径が、0.3mm以上5mm以下である、項6~項8のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
項10.
上記貫通孔の孔径は、上記樹脂含浸ストランドの直径の1倍超1.5倍以下である、項6~項9のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
項11.
各上記タブは、ストランド軸方向に垂直な上記タブの断面視で上記タブの外形線に内接する内接円の半径に対する、上記ストランド軸方向の上記タブの高さの比が、3以下である、項6~項10のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
項12.
ストランド軸方向の各上記タブの高さが、1.5mm以上25mm以下である、項6~項11のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
項13.
各上記タブは、ストランド軸方向に垂直な上記タブの断面視で上記タブの外形線に内接する内接円の直径が、1mm以上である、項6~項12のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片。
項14.
繊維束と上記繊維束に含浸された樹脂とを有する樹脂含浸ストランドと、上記樹脂含浸ストランドの両端部を保持する一対のタブとを有しており、一対の上記タブ間に配置された上記樹脂含浸ストランドの部分が圧縮試験部とされる樹脂含浸ストランド圧縮試験片を作製するために用いられる圧縮試験片作製治具であって、
ベース部と、
上記ベース部に設けられており、複数の上記タブを互いに離間させて一方向に並べるためのガイド部と、
上記ガイド部に沿って並べられた複数の上記タブを上記ガイド部に押し付けて固定するための固定部と、
を有する圧縮試験片作製治具。
項15.
項1~項5のいずれか1項に記載の圧縮試験治具と、項6~項13のいずれか1項に記載の樹脂含浸ストランド圧縮試験片とを用いて、樹脂含浸ストランドの圧縮強度を測定する、圧縮試験方法。
【符号の説明】
【0082】
1 樹脂含浸ストランド圧縮試験片
10 樹脂含浸ストランド
101 圧縮試験部
102 ストランド軸
11 タブ
111 貫通孔
112 連通孔
12 接着性樹脂
2 圧縮試験治具
20 圧盤
21 把持部
23 圧盤軸
3 圧縮試験片作製治具
30 ベース部
31 ガイド部
32 固定部