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特開2022-95795光学素子、光配向パターンの形成方法および光学素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095795
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】光学素子、光配向パターンの形成方法および光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220621BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061730
(22)【出願日】2022-04-01
(62)【分割の表示】P 2020532510の分割
【原出願日】2019-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018141677
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 克己
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亮司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大きな回折角度で、従来よりも高い回折効率の回折光を得ることができる光学素子を提供すること、その光学素子を用いた光配向パターンの形成方法およびその光学素子を用いた新たな光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の液晶化合物を含む組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層を備え、第1の光学異方性層は、波長550nmの光で計測した屈折率異方性Δn550が0.24以上であり、第1の液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転変化した第1の液晶配向パターンを有し、第1の液晶配向パターンにおいて、光学軸の向きが面内で180°回転する長さΛを1周期とした場合の、1周期の長さΛが1.6μm以下である光学素子、光配向パターンの形成方法および光学素子の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の液晶化合物を含む組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層を備え、
前記第1の光学異方性層は、波長550nmの光で計測した屈折率異方性Δn550が0.24以上であり、
前記第1の液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転変化した第1の液晶配向パターンを有し、
該第1の液晶配向パターンにおいて、前記光学軸の向きが面内で180°回転する長さΛを1周期とした場合の、該1周期の長さΛと、前記第1の光学異方性層の膜厚dとが、1≦Λ/d≦1.85を満たし、
前記第1の液晶化合物が、一般式(I)で表される化合物である光学素子。
【化1】

一般式(I)中、PおよびPは、それぞれ独立に、重合性基を表す。
およびLは、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表す。
Xは、-CH-であり、
Yは、-CH-または-O-であり、
~Rは、それぞれ独立に、置換基を表す。
~mは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。
~Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在するR~Rは、それぞれ同一でもよく異なっていてもよい。
【請求項2】
前記1周期の長さΛが1μm以下である請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1の光学異方性層の膜厚dが1μm以下である請求項1または請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第1の光学異方性層は、最大モル吸光係数を示す波長λmaxが310nm以下であり、かつ、モル吸光係数が1000を示す波長λ(1000)が350nm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記第1の液晶化合物が厚み方向にコレステリック配向している請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光学素子を、複屈折性マスクとして光配向膜に対向させて配置し、
該複屈折性マスクを介して前記光配向膜に光を照射することにより、前記光配向膜の表面に、前記光学素子の前記第1の液晶配向パターンに応じた光配向パターンを形成する、光配向パターンの形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の光配向パターンの形成方法を使用した光学素子の製造方法。
【請求項8】
支持体の一表面に光配向膜を形成し、
請求項1から請求項5のいずか1項に記載の光学素子を、複屈折性マスクとして前記光配向膜に対向させて配置し、前記複屈折性マスクを介して前記光配向膜に光を照射することにより、前記光配向膜の表面に、前記光学素子の前記第1の液晶配向パターンに応じた光配向パターンを形成し、
前記光配向パターンが形成された前記光配向膜の表面に、第2の液晶化合物を含む組成物を塗布し、該組成物を硬化させることにより、該組成物の硬化層からなる、前記光配向パターンに応じた第2の液晶配向パターンを有する第2の光学異方性層を形成し、該第2の光学異方性層を備えた光学素子を製造する、光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2の液晶化合物として、一般式(I)で表される化合物を用いる請求項8に記載の光学素子の製造方法。
【化2】

一般式(I)中、PおよびPは、それぞれ独立に、重合性基を表す。
およびLは、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表す。
Xは、-CH-であり、
Yは、-CH-または-O-であり、
~Rは、それぞれ独立に、置換基を表す。
~mは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。
~Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在するR~Rは、それぞれ同一でもよく異なっていてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、光学素子を用いた光配向パターンの形成方法および光学素子を用いた新たな光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの光学デバイスあるいはシステムにおいて、偏光が利用されており、偏光の反射、集光および発散などの制御を行うための光学素子の開発が進められている。
【0003】
特表2017-522601号公報(以下において、特許文献1という。)には、液晶化合物を含み光学的異方性を有する薄膜をパターニングすることによって形成された光学回折素子が開示されている。
【0004】
特許第5651753号公報(以下において、特許文献2という。)には、ホログラフィによってパターン化された重合性液晶マスク層を用いたフォトリソグラフィにより、配向層をパターン化する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような面内で棒状液晶化合物の配向パターンを変化させて光を回折させる素子は、仮想現実(Augmented Reality:AR)映像投影装置などの光学部材としての適用が期待される。しかしながら、従来知られている液晶化合物を用いた配向パターンでは、回折角度が大きくなると回折効率が低下する、すなわち回折光の強度が弱くなるという問題がある。従って、大きな回折角度で、かつ、高い回折効率の回折光を得ることができる光学素子が求められている。
また、特許文献2に開示されている重合性液晶マスク層を用いて配向層のパターニングを行う場合、マスク層の厚みによって形成精度に差が生じることが本発明者らの検討により明らかになってきた。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、大きな回折角度で、従来よりも高い回折効率の回折光を得ることができる光学素子を提供すること、その光学素子を用いた光配向パターンの形成方法およびその光学素子を用いた新たな光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 第1の液晶化合物を含む組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層を備え、
上記第1の光学異方性層は、波長550nmの光で計測した屈折率異方性Δn550が0.24以上であり、
上記第1の液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転変化した第1の液晶配向パターンを有し、
第1の液晶配向パターンにおいて、上記光学軸の向きが面内で180°回転する長さΛを1周期とした場合の、1周期の長さΛが1.6μm以下である光学素子。
<2> 上記1周期の長さΛが1μm以下である<1>に記載の光学素子。
<3> 上記第1の光学異方性層の膜厚dが1μm以下である<1>または<2>に記載の光学素子。
<4> 上記第1の光学異方性層は、最大モル吸光係数を示す波長λmaxが310nm以下であり、かつ、モル吸光係数が1000を示す波長λ(1000)が350nm以下である<1>から<3>のいずれかに記載の光学素子。
<5> 上記第1の液晶化合物が、一般式(I)で表される化合物である<1>から<4>のいずれかに記載の光学素子。
【化1】

一般式(I)中、PおよびPは、それぞれ独立に、重合性基を表す。
およびLは、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表す。
Xは、-C(Rxa)(Rxb)-を表す。RxaおよびRxbは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
Yは、-C(Rya)(Ryb)-、-O-、-NRyn-、または、-S-を表す。RyaおよびRybは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。Rynは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、置換基を表す。
~mは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。
~Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在するR~Rは、それぞれ同一でもよく異なっていてもよい。
<6> 上記第1の液晶化合物が厚み方向にコレステリック配向している<1>から<5>のいずれかに記載の光学素子。
<7> <1>から<6>のいずれかに記載の光学素子を、複屈折性マスクとして光配向膜に対向させて配置し、
複屈折性マスクを介して上記光配向膜に光を照射することにより、上記光配向膜の表面に、上記光学素子の上記第1の液晶配向パターンに応じた光配向パターンを形成する、光配向パターンの形成方法。
<8> <7>に記載の光配向パターンの形成方法を使用した光学素子の製造方法。
<9>支持体の一表面に光配向膜を形成し、
<1>から<6>のいずかに記載の光学素子を、複屈折性マスクとして上記光配向膜に対向させて配置し、上記複屈折性マスクを介して上記光配向膜に光を照射することにより、上記光配向膜の表面に、上記光学素子の上記第1の液晶配向パターンに応じた光配向パターンを形成し、
上記光配向パターンが形成された上記光配向膜の表面に、第2の液晶化合物を含む組成物を塗布し、組成物を硬化させることにより、組成物の硬化層からなる、上記光配向パターンに応じた第2の液晶配向パターンを有する第2の光学異方性層を形成し、第2の光学異方性層を備えた光学素子を製造する、光学素子の製造方法。
<10> 上記第2の液晶化合物として、一般式(I)で表される化合物を用いる<9>に記載の光学素子の製造方法。
【化2】

一般式(I)中、PおよびPは、それぞれ独立に、重合性基を表す。
およびLは、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表す。
Xは、-C(Rxa)(Rxb)-を表す。RxaおよびRxbは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
Yは、-C(Rya)(Ryb)-、-O-、-NRyn-、または、-S-を表す。RyaおよびRybは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。Rynは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、置換基を表す。
~mは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。
~Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在するR~Rは、それぞれ同一でもよく異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、大きな回折角度で、従来よりも高い回折効率の回折光を得る光学素子を提供することができる。また、その光学素子を用いた光配向パターンの形成方法およびその光学素子を用いた新たな光学素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の光学素子の一実施形態を模式的に示す図である。
図2図1に示す光学素子の光学異方性層の平面模式図である。
図3図1に示す光学素子の光学異方性層の作用を示す概念図である。
図4図1に示す光学素子の光学異方性層の作用を示す概念図である。
図5】配向膜に対して干渉光を照射する露光装置の概略構成図である。
図6】本発明の光学素子の他の一実施形態を模式的に示す図である。
図7】本発明の光学素子のさらに他の一実施形態の平面模式図である。
図8】本発明の光配向パターンの形成方法を説明するための概念図である。
図9】本発明の光配向パターンの形成方法において形成される光配向パターンを説明するための図である。
図10】本発明の光学素子の製造方法の一実施形態の工程を示す図である。
図11】光強度の測定方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の光学素子の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、角度について「直交」および「平行」とは、厳密な角度±10°の範囲を意味するものとする。
【0011】
本明細書において、Re(λ)は、波長λにおける面内のレターデーションを表す。特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。
本明細書において、Re(λ)は、AxoScan(Axometrics社製)において、波長λで測定した値である。AxoScanにて平均屈折率((nx+ny+nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
が算出される。
なお、R0(λ)は、AxoScanで算出される数値として表示されるものであるが、Re(λ)を意味している。
【0012】
[光学素子]
図1および図2に、本発明の光学素子の一実施形態を模式的に示す。図1は、光学素子の積層構造を模式的に示す側面図であり、図2図1に示す光学素子10の液晶配向パターンを模式的に示す平面図である。なお、図面において、シート状の光学素子10のシート面をxy面、厚み方向をz方向と定義している。
【0013】
図1に示す通り、一実施形態の光学素子10は、支持体20、配向膜24および第1の液晶化合物を含む組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層26を備えている。なお、図示例の光学素子10は、支持体20および配向膜24を有しているが、支持体20を剥離して、配向膜および光学異方性層のみで、または、配向膜も剥離して、光学異方性層のみで、本開示の一例の光学素子を構成してもよい。
【0014】
第1の光学異方性層26は、波長550nmの光で計測した屈折率異方性Δn550が0.24以上であり、第1の液晶化合物30に由来する光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転変化した第1の液晶配向パターンを有する。そして、第1の液晶配向パターンにおいて、光学軸の向きが面内で180°回転する長さΛを1周期とした場合の、1周期の長さΛが1.6μm以下である。
【0015】
図1(および、後述する図3図4)においては、図面を簡略化して光学素子10の構成を明確に示すために、第1の光学異方性層26においては、配向膜の表面の液晶化合物30(液晶化合物分子)のみを示している。しかしながら、第1の光学異方性層26は、通常の液晶化合物を含む組成物を用いて形成された光学異方性層と同様に、配向された液晶化合物30が積み重ねられた構造を有する。なお、以下において、第1の光学異方性層26を単に光学異方性層26ともいう。
【0016】
既述の通り、光学異方性層26は、液晶化合物を含む組成物を用いて形成されたものである。光学異方性層26は、面内レターデーションの値をλ/2に設定した場合に、一般的なλ/2板としての機能、すなわち、光学異方性層に入射した光に含まれる互いに直交する2つの直線偏光成分に半波長すなわち180°の位相差を与える機能を奏する。
【0017】
図2に示すように、光学異方性層26は、その光学異方性層26の面内において、液晶化合物30に由来する光学軸30Aの向きが、一方向に連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。ここでは、光学軸30Aが回転変化する一方向をxy平面におけるx軸の方向と一致させている。本実施形態において、光学軸30Aが回転変化する一方向をx方向として説明する。
【0018】
なお、液晶化合物30に由来する光学軸30Aとは、液晶化合物30において屈折率が最も高くなる軸、いわゆる遅相軸である。図1に示すように、液晶化合物30が棒状液晶化合物である場合には、光学軸30Aは、棒形状の長軸方向に沿っている。
以下の説明では、液晶化合物30に由来する光学軸30Aを、液晶化合物30の光学軸30A、または単に、光学軸30Aとも言う。
【0019】
図2に示す光学素子10の平面模式図においては、光学素子10の構成を明確に示すために、図1と同様、配向膜24の表面の液晶化合物30のみを模式的に示している。
【0020】
光学軸30Aの向きがx方向に連続的に回転しながら変化しているとは、具体的には、x方向に沿って配列されている液晶化合物30の光学軸30Aと、x方向とが成す角度が、x方向における位置によって異なっており、x方向に沿って、光学軸30Aとx方向とが成す角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで、徐々に変化していることを意味する。ここで、「角度が徐々に変化する」とは、一定の角度間隔で変化するものであってもよいし、連続的に変化するものであってもよい。但し、x方向に互いに隣接する液晶化合物30の光学軸30Aの角度の差は、45°以下であるのが好ましく、15°以下であるのがより好ましく、より小さい角度であるのがさらに好ましい。
【0021】
一方、光学異方性層26を形成する液晶化合物30は、面内においてx方向と直交するy方向、すなわち光学軸30Aが連続的に回転する一方向(x方向)と直交するy方向では、光学軸30Aの向きが等しい液晶化合物30が等間隔で配列されている。
言い換えれば、光学異方性層26を形成する液晶化合物30において、y方向に配列される液晶化合物30同士では、光学軸30Aの向きとx方向とが成す角度が等しい。
【0022】
光学素子10においては、このような液晶化合物30の液晶配向パターンにおいて、面内で光学軸30Aの向きが連続的に回転して変化するx方向において、液晶化合物30の光学軸30Aが180°回転する長さ(距離)を、液晶配向パターンにおける1周期の長さΛとする。言い換えれば、液晶配向パターンにおける1周期の長さは、液晶化合物30の光学軸30Aとx方向とのなす角度がθからθ+180°となるまでの距離により定義される。具体的には、図2に示すように、x方向と光学軸30Aの方向とが一致する2つの液晶化合物30の、x方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。以下の説明では、この1周期の長さΛを「1周期Λ」あるいは単に「周期Λ」とも言う。
本開示の光学素子10において、光学異方性層26の液晶配向パターンは、この1周期Λの液晶配向が、x方向に繰り返されたパターンである。
【0023】
前述のように光学異方性層26において、y方向に配列される液晶化合物30同士は、その光学軸30Aと液晶化合物30の光学軸の向きが回転するx方向とが成す角度が等しい。この光学軸30Aとx方向とが成す角度が等しい液晶化合物30が、y方向に配置された領域を、領域Rとする。
この場合に、それぞれの領域Rにおける面内レタデーション(Re)の値は、光学素子によって回折させたい光(以下において、対象光といい、)の半波長すなわち、対象光の波長がλであるとき、面内レターデーションReはλ/2であるのが好ましい。これらの面内レターデーションは、領域Rの屈折率異方性Δnと光学異方性層の厚み(膜厚)dとの積により算出される。ここで、光学異方性層における領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差とは、領域Rの面内における遅相軸の方向の屈折率と、遅相軸の方向に直交する方向の屈折率との差により定義される屈折率差である。すなわち、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差Δnは、光学軸30Aの方向の液晶化合物30の屈折率と、領域Rの面内において光学軸30Aに垂直な方向の液晶化合物30の屈折率との差に等しい。つまり、上記屈折率差Δnは、液晶化合物に依存するものであり、各領域Rの面内レターデーションは略同等である。但し、既述の通り、各領域R間では光学軸30Aの方向が異なっている。
【0024】
光学異方性層26においては、面内において光学軸30Aの向きが回転しているため、その全体としての面内レターデーションの測定は困難である。光学異方性層26の原料である組成物を、別途に用意した測定用の配向膜付き支持体上に塗布し、液晶化合物の光学軸を支持体の面に水平配向して固定化して得た硬化層のレターデーション値およびその硬化層の膜厚を測定して求めることができる。
なお、光学異方性層26の面内レターデーションは周期および回折効率から推定することが可能である。
【0025】
このような光学異方性層26に円偏光が入射すると、光は、屈折され、かつ、円偏光の方向が変換される。
この作用を、図3に光学異方性層26を例示して概念的に示す。なお、光学異方性層26の面内レターデーションがλ/2であるとする。
この場合、図3に示すように、光学異方性層26に左円偏光PLである入射光L1が入射すると、入射光L1は、光学異方性層26を通過することにより180°の位相差が与えられて、透過光L2は、右円偏光Pに変換される。
また、入射光L1は、光学異方性層26を通過する際に、それぞれの液晶化合物30の光学軸30Aの向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光学軸30Aの向きは、x方向に沿って回転しながら変化しているため、光学軸30Aの向きに応じて、入射光L1の絶対位相の変化量が異なる。さらに、光学異方性層26に形成された液晶配向パターンは、x方向に周期的なパターンであるため、光学異方性層26を通過した入射光L1には、図3に示すように、それぞれの光学軸30Aの向きに対応したx方向に周期的な絶対位相Q1が与えられる。これにより、x方向に対して逆の方向に傾いた等位相面E1が形成される。
そのため、透過光L2は、等位相面E1に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L1の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、左円偏光PLの入射光L1は、入射方向に対してx方向に一定の角度だけ傾いた、右円偏光PRの透過光L2に変換される。
【0026】
一方、図4に概念的に示すように、同様の面内レターデーションを有する光学異方性層26に右円偏光PRの入射光L4が入射すると、入射光L4は、光学異方性層26を通過することにより、180°の位相差が与えられて、左円偏光PLの透過光L5に変換される。
また、入射光L4は、光学異方性層26を通過する際に、それぞれの液晶化合物30の光学軸30Aの向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光学軸30Aの向きは、x方向に沿って回転しながら変化しているため、光学軸30Aの向きに応じて、入射光L4の絶対位相の変化量が異なる。さらに、光学異方性層26に形成された液晶配向パターンは、x方向に周期的なパターンであるため、光学異方性層26を通過した入射光L4は、図4に示すように、それぞれの光学軸30Aの向きに対応したx方向に周期的な絶対位相Q2が与えられる。
ここで、入射光L4は、右円偏光Pであるので、光学軸30Aの向きに対応したx方向に周期的な絶対位相Q2は、左円偏光でPある入射光L1とは逆になる。その結果、入射光L4では、入射光L1とは逆にx方向に傾斜した等位相面E2が形成される。
そのため、入射光L4は、等位相面E2に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L4の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、入射光L4は、入射方向に対してx方向とは逆の方向に一定の角度だけ傾いた左円偏光の透過光L5に変換される。
【0027】
既述の通り、光学異方性層26において、面内レターデーションの値は、対象光の波長の半波長であるのが好ましい。面内レターデーションの値が対象光の半波長に近いほど対象光の回折において高い回折効率を得ることができるからである。x方向波長がλnmである入射光に対する光学異方性層の面内レターデーションRe(λ)=Δnλ×dは下記式に規定される範囲内であるのが好ましく、適宜設定することができる。
0.7×(λ/2)nm≦Δnλ×d≦1.3×(λ/2)nm
【0028】
ここで、光学異方性層26に形成された液晶配向パターンの1周期Λを変化させることにより、透過光L2およびL5の屈折の角度を調節できる。具体的には、液晶配向パターンの1周期Λが短いほど、互いに隣接した液晶化合物30を通過した光同士が強く干渉するため、透過光L2およびL5を大きく屈折させることができる。さらに、x方向に沿って回転する、液晶化合物30の光学軸30Aの回転方向を逆方向にすることにより、透過光の屈折の方向を、逆方向にできる。周期Λは1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。
屈折率異方性Δnが0.24以上であるので、周期Λが1.6μm以下と小さい範囲でも十分な回折効率を得ることができる。
【0029】
光学異方性層26の膜厚dは、所望の面内レターデーションを得るために適宜設定すればよいが、1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。特に、光学素子を複屈折性マスクとして光配向パターンの形成に用いる場合には、膜厚dが小さいほど好ましい。膜厚dが小さいほど、光配向パターンの形成精度を向上させることができる。
なお、周期Λと光学異方性層の膜厚dとの比はΛ/dが1以上であることが好ましい。
【0030】
光学異方性層26における液晶配向パターンの周期Λは、偏光顕微鏡にて、クロスニコル条件下で明部と暗部の明暗周期パターンを観察し、明暗の周期から求めることができる。観察される明暗周期パターンの周期の2倍が液晶配向パターンの周期Λに相当する。
また、光学異方性層26膜厚dは例えば、光学異方性層の断面を走査型電子顕微鏡にて観察して測定することができる。
【0031】
また、光学異方性層26に使用する液晶化合物は、最大モル吸光係数を示す波長λmaxが310nm以下であり、かつ、モル吸光係数εが1000を示す波長λ(1000)が350nm以下であることが好ましい。これを満たす光学異方性層26は、着色性を抑制することができ、好ましい。
液晶化合物の最大モル吸収係数を示す波長λmaxおよびモル吸光係数εが1000を示す波長λ(1000)は次のようにして測定した溶液吸収スペクトルから算出することができる。
各化合物の溶液吸収スペクトルを、島津製作所(株)社製分光光度計UV-3100PCを用いて測定した。溶媒としてクロロホルムを用い、所定量の化合物を溶かした溶液を、1cmセルにて測定し、得られたスペクトルと分子量からλmaxおよびλ(1000)を算出する。
【0032】
支持体20上に配向膜を形成し、配向膜上に液晶化合物を含む組成物を塗布、硬化することにより、組成物の硬化層からなる光学異方性層を得ることができる。
【0033】
光学異方性層を形成するための組成物は、第1の液晶化合物を含み、さらにその他の液晶化合物、液晶化合物以外のレベリング剤、配向制御在、重合開始剤および配向助剤などのその他の成分を含有していてもよい。以下に、組成物に含まれる成分について詳述する。
【0034】
<<組成物>>
―第1の液晶化合物―
第1の液晶化合物は、その液晶化合物を含む組成物の硬化層からなる光学異方性層の屈折率異方性Δn550≧0.24を実現できるものであれば、種類は特に制限されない。棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよい。また、2種以上の棒状液晶化合物、2種以上の円盤状液晶化合物、または、棒状液晶化合物と円盤状液晶化合物との混合物を用いてもよい。
【0035】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基の両方を表す表記である。
【0036】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さない基と共に置換基を有する基をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。
本明細書において、単に置換基という場合、置換基としては、例えば、下記置換基Tが挙げられる。
【0037】
(置換基T)
置換基Tとしては、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基及びアニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、及び、シリル基などが挙げられる。
【0038】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、置換基中の水素原子の部分が、更に、上記いずれかの置換基で置換されていてもよい。
【0039】
第1の液晶化合物として、特に好ましい例について以下に説明する。第1の液晶化合物としては、一般式(I)で表される化合物(以下において、「化合物A」と称する。)が特に好ましい。この化合物Aを用いることにより、高い屈折率異方性Δnと、着色性の抑制とを両立できる。このような効果が得られる理由は必ずしも明確ではないが、特定の連結基でトラン骨格を連結することにより、化合物の吸収波長を長波化することなく、屈折率異方性Δnを向上させられていると考えられる。
【0040】
【化3】

一般式(I)中、PおよびPは、それぞれ独立に、重合性基を表す。
【0041】
重合性基の種類は特に制限されず、公知の重合性基が挙げられ、反応性の点から、付加重合反応が可能な官能基が好ましく、重合性エチレン性不飽和基または環重合性基がより好ましい。重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、マレイミド基、アセチル基、スチリル基、アリル基、エポキシ基、オキセタン基、および、これらの基を含む基などが挙げられる。なお、上記各基中の水素原子は、ハロゲン原子など他の置換基で置換されていてもよい。
重合性基の好適な具体例としては、以下の一般式(P-1)~(P-19)で表される基が挙げられる。なお、以下式中の*は結合位置を表す。
【0042】
【化4】
【0043】
およびLは、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表す。
上記2価の連結基としては、例えば、エーテル基(-O-)、カルボニル基(-CO-)、エステル基(-COO-)、チオエーテル基(-S-)、-SO-、-NR-(Rは、水素原子、または、アルキル基を表す)、2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基等の飽和炭化水素基、アルケニレン基(例:-CH=CH-)、アルキニレン基(例:-C≡C-)、および、アリーレン基)、ならびに、これらを組み合わせた基が挙げられる。
上記2価の連結基のうちの一般式(1)中のベンゼン環基と直接結合する原子は、炭素原子が好ましく、上記炭素原子はsp3炭素原子(一重結合のみを有する炭素原子)が好ましい。
上記2価の連結基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基が好ましい。上記2価の炭化水素基のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよい。なお、1つのメチレン基が-O-で置換され、それに隣り合うメチレン基が-C(=O)-で置換されて、エステル基を形成してもよい。
上記2価の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子が好ましい。
上記2価の炭化水素基の炭素数は、1~20であり、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。
上記2価の炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、環状構造を有していてもよい。
【0044】
中でも、Lは式(A)で表される基を表し、Lは式(B)で表される基を表すのが好ましい。
式(A) *-Z-Sp-**
式(B) *-Z-Sp-**
およびZは、それぞれ独立に、-C(Rza)(Rzb)-を表す。
zaおよびRzbは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、水素原子が好ましい。
SpおよびSpは、それぞれ独立に、フッ素原子を有していてもよい炭素数1~19の2価の炭化水素基、または、単結合を表す。上記2価の炭化水素基のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよい。なお、1つのメチレン基が-O-で置換され、それに隣り合うメチレン基が-C(=O)-で置換されて、エステル基を形成してもよい。
上記2価の炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、環状構造を有していてもよい。
*は、それぞれ、LまたはLと直接結合するベンゼン環基との結合位置を表し、**は、それぞれ、PまたはPとの結合位置を表す。
【0045】
Xは、-C(Rxa)(Rxb)-を表す。RxaおよびRxbは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
xaおよびRxbは、水素原子が好ましい。
【0046】
Yは、-C(Rya)(Ryb)-、-O-、-NRyn-、または、-S-を表す。RyaおよびRybは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。Rynは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基(直鎖状でも分岐鎖状でもよく、環状構造を有していてもよい。また、さらに置換基を有していてもよい)を表す。
中でも、Yは、-C(Rya)(Ryb)-または-O-が好ましく、化合物の着色をより抑制できる点からは、-C(Rya)(Ryb)-がより好ましい。
【0047】
~Rは、それぞれ独立に、置換基を表す。
上記置換基としては、それぞれ独立に、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数2~5)のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルカノイル基、炭素数1~20のアルカノイルオキシ基、炭素数1~20(好ましくは炭素数2~6)のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルアミノ基、炭素数1~20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1~20のアルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、または、重合性基を有する基(重合性基としては、例えば、PおよびPの説明で例示した基が挙げられる)が好ましい。
上述した置換基が、直鎖状にも分岐鎖状にもなり得る場合、上述した置換基は、直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。また、可能な場合、環状構造を有していてもよい。
上記アルキル基および上述した置換基のアルキル基部分(例えば、上記アルコキシ基における-O-以外の部分)のうちの1個以上のメチレン基は、それぞれ独立に、-O-または-C(=O)-で置換されていてもよい。
また、上述した置換基は、可能な場合、さらに置換基(好ましくはフッ素原子)を有していてもよい。例えば上記アルキル基が、フルオロアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基などの炭素数1~10のパーフルオロアルキル基)となるのも好ましい。また、例えば、上述した置換基のアルキル基部分がフッ素原子を有するのも好ましい。
中でも、化合物の液晶性および溶解性が優れる点から、置換基としては、上記アルキル基、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基が好ましく、炭素数が2以上のアルキル基、フルオロメチル基(好ましくはトリフルオロメチル基)、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基がより好ましく、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基がさらに好ましく、上記アルキルオキシカルボニル基が特に好ましい。
【0048】
~mは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。m~mが2以上であることによって対応するR~Rがそれぞれ複数存在する場合、複数存在するR~Rは、それぞれ同一でもよく異なっていてもよい。
化合物の液晶性および溶解性が優れる点から、m~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表すのが好ましい。中でも、mが1以上の整数を表すのが好ましい。
中でも、m~mのうちの少なくとも1つが1以上の整数を表し、1以上の整数を表すm~mのうちの少なくとも1つに対応するR~Rのうちの少なくとも1つが、上記アルキル基、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基であるのが好ましく、炭素数が2以上のアルキル基、フルオロメチル基(好ましくはトリフルオロメチル基)、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基であるのがより好ましく、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基であるのがさらに好ましく、上記アルキルオキシカルボニル基であるのが特に好ましい。特に、mが1以上の整数を表し、Rのうちの少なくとも1つが、上記アルキル基、上記アルキルオキシカルボニル基、または、上記アルキルアミノカルボニル基であるのが好ましい。
なお、1以上の整数を表すm~mのうちの少なくとも1つに対応するR~Rのうちの少なくとも1つとは、例えば、mが1以上の整数を表し、m~mが0である場合、mに対応するRが上述した基である態様が挙げられる。また、別の例としては、m~mが1以上の整数を表し、m~mが0である場合、mに対応するRおよびmに対応するRの少なくとも1つが上述した基である態様が挙げられる。
【0049】
化合物Aの屈折率異方性Δnは特に制限されないが、0.23以上が好ましく、0.28以上がより好ましく、0.30以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、0.60以下の場合が多い。
Δnの測定方法としては、液晶便覧(液晶便覧編集委員会編、丸善株式会社刊)202頁に記載の楔形液晶セルを用いた方法が一般的である。なお、結晶化しやすい化合物の場合は、他の液晶との混合物による評価を行い、その外挿値からΔnを見積もることもできる。
なお、上記Δnは、30℃における波長550nmでの測定値に該当する。
【0050】
化合物Aの具体例としては、例えば、以下の化合物A-1~A-16が挙げられる。
【0051】
【化5】

【0052】
なお、組成物には、化合物A以外の成分が含まれていてもよい。
組成物中での化合物Aの含有量は特に制限されないが、組成物中の固形分の全質量に対して、20~100質量%が好ましく、40~100質量%がより好ましい。
なお、固形分とは、組成物A中の溶剤以外の成分(不揮発分)を意図する。溶剤以外であれば、その性状が液体状の成分であっても固形分とみなす。
組成物は、化合物Aを1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
以下、組成物に含まれる他の成分について詳述する。
【0053】
<その他の液晶化合物>
組成物は、化合物A以外のその他の液晶化合物を含んでいてもよい。
その他の液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよいが、棒状液晶化合物であることが好ましい。また、その他の液晶化合物は、重合性基を有する液晶化合物(その他の重合性液晶化合物)であるのが好ましい。
その他の液晶化合物である棒状液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。上記棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、または、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましい。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0054】
重合性基を有する液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、一般式(1)のPおよびPにおいて例示した重合性基が挙げられる。
重合性基を有する液晶化合物が有する重合性基の個数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
その他の液晶化合物は、屈折率異方性Δnが高いことが好ましく、具体的には、0.15以上が好ましく、0.18以上がより好ましく、0.22以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、0.60以下の場合が多い。
また、化合物Aとその他の液晶化合物とを混合して使用することで、全体としての結晶化温度を大きく低下させることもできる。
その他の液晶化合物の例としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、米国特許第4983479号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、および、特開2001-328973号公報などに記載の化合物が挙げられる。
組成物がその他の液晶化合物を含む場合、組成物中でのその他の液晶化合物の含有量は特に制限されないが、化合物A全質量に対して、10~200質量%が好ましく、50~150質量%がより好ましい。
組成物は、その他の液晶化合物を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0055】
<重合開始剤>
組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。
重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、α-カルボニル化合物、アシロインエーテル、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物、多核キノン化合物、フェナジン化合物、および、オキサジアゾール化合物が挙げられる。また、オキシムエステル構造を有する化合物も好ましい。
組成物が重合開始剤を含む場合、組成物中での重合開始剤の含有量は特に制限されないが、化合物A全質量に対して(組成物がその他の重合性液晶化合物を含む場合は、化合物Aとその他の重合性液晶化合物との合計質量に対して)、0.1~20質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましい。
組成物は、重合開始剤を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0056】
<界面活性剤>
組成物は、安定的または迅速な液晶相(例えば、ネマチック相、コレステリック相)の形成に寄与する界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤としては、例えば、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、WO2011/162291号に記載の一般式(X1)~(X3)で表される化合物、特開2014-119605の段落0082~0090に記載の一般式(I)で表される化合物、および、特開2013-47204号の段落0020~0031に記載の化合物が挙げられる。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減させる、または、液晶化合物を実質的に水平配向させることができる。
なお、本明細書で「水平配向」とは、液晶化合物の分子軸(液晶化合物が棒状液晶化合物である場合、液晶化合物の長軸に該当。)と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、膜面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなる。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、例えば、コレステリック相とする場合は、その螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大または回折性を示したりするため好ましくない。
界面活性剤として利用可能な含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマーとしては、特開2007-272185号公報の段落0018~0043に記載されるポリマーも挙げられる。
組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は特に制限されないが、化合物A全質量に対して(組成物がその他の液晶化合物を含む場合は、本化合物Aとその他の液晶化合物との合計質量に対して)、0.001~10質量%が好ましく、0.05~3質量%がより好ましい。
組成物は、界面活性剤を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0057】
<キラル剤>
組成物は、キラル剤を含んでいてもよい。組成物がキラル剤を含む場合、コレステリック相を形成できる。
キラル剤の種類は、特に制限されない。キラル剤は液晶性であっても、非液晶性であってもよい。キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含む。ただし、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物を、キラル剤として用いることもできる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物としては、例えば、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が挙げられる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。
組成物がキラル剤を含む場合、組成物中でのキラル剤の含有量は特に制限されないが、化合物A全質量に対して(組成物がその他の液晶化合物を含む場合は、化合物Aとその他の液晶化合物との合計質量に対して)、0.1~15質量%が好ましく、1.0~10質量%がより好ましい。
組成物は、キラル剤を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0058】
<溶剤>
組成物は溶剤を含んでいてもよい。溶剤は、組成物の各成分を溶解できるのが好ましく、例えば、クロロホルムが挙げられる。組成物が溶剤を含む場合、組成物中の溶剤の含有量は、組成物の固形分濃度を0.5~20質量%とする量が好ましく、1~10とする量がより好ましい。
組成物は、溶剤を1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。2種以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0059】
上記以外にも、組成物は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、安定剤、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、難燃剤、界面活性剤、分散剤、ならびに、染料および顔料などの色材、などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0060】
また、組成物に捩れ成分を付与することにより、また、異なる位相差層を積層することにより、入射光の波長に対して光学異方性層を実質的に広帯域にすることも好ましい。例えば、光学異方性層において、捩れ方向が異なる2層の液晶を積層することによって広帯域のパターン化されたλ/2板を実現する方法が特開2014-089476号公報等に示されており、本開示の光学素子において好ましく使用することができる。
【0061】
<硬化方法>
上記組成物を硬化(重合硬化)する方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、所定の基板と組成物とを接触させて、基板上に組成物層を形成する工程Xと、組成物層に加熱処理を施し、化合物Aを配向させた後、硬化処理を施す工程Yとを有する態様が挙げられる。本態様によれば、化合物Aを配向させた状態で固定化することができ、光学異方性層を形成することができる。
【0062】
以下、工程Xおよび工程Yの手順について詳述する。
【0063】
工程Xは、所定の基板と組成物とを接触させて、基板上に組成物層を形成する工程である。使用される基板の種類は特に制限されず、公知の基板(例えば、樹脂基板、ガラス基板、セラミック基板、半導体基板、および、金属基板)が挙げられる。
基板と組成物とを接触させる方法は特に制限されず、例えば、基板上に組成物を塗布する方法、および、組成物中に基板を浸漬する方法が挙げられる。
なお、基板と組成物とを接触させた後、必要に応じて、基板上の組成物層から溶剤を除去するために、乾燥処理を実施してもよい。
【0064】
工程Yは、組成物層に加熱処理を施し、化合物Aを配向させた後、硬化処理を施す工程である。
組成物層に加熱処理を施すことにより、化合物Aが配向し、液晶相が形成される。例えば、組成物層にキラル剤が含まれる場合は、コレステリック液晶相が形成される。
加熱処理の条件は特に制限されず、化合物Aの種類に応じて最適な条件が選択される。
【0065】
硬化処理の方法は特に制限されず、光硬化処理および熱硬化処理が挙げられる。なかでも、光照射処理が好ましく、紫外線照射処理がより好ましい。
紫外線照射には、紫外線ランプなどの光源が利用される。
【0066】
上記処理により得られる硬化物は、液晶相を固定してなる層に該当する。特に、組成物がキラル剤を含む場合は、コレステリック液晶相を固定してなる層が形成される。
なお、これらの層は、もはや液晶性を示す必要はない。より具体的には、例えば、コレステリック液晶相を「固定化した」状態は、コレステリック液晶相となっている化合物Aの配向が保持された状態が最も典型的、且つ、好ましい態様である。より具体的には、通常0~50℃、より過酷な条件下では-30~70℃の温度範囲において、層に流動性が無く、また、外場もしくは外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態であることが好ましい。
【0067】
次に、光学素子10の他の構成要素について説明する。
【0068】
<<支持体>>
支持体20は、配向膜24、ならびに、光学異方性層26を支持するものである。
【0069】
支持体20は、配向膜および光学異方性層を支持できるものであれば、各種のシート状物(フィルム、板状物)が利用可能である。
支持体20としては、透明支持体が好ましく、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリル系樹脂フィルム、セルローストリアセテート等のセルロース系樹脂フィルム、シクロオレフィンポリマー系フィルム(例えば、商品名「アートン」、JSR社製、商品名「ゼオノア」、日本ゼオン社製)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、および、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。支持体は、可撓性のフィルムに限らず、ガラス基板等の非可撓性の基板であってもよい。
【0070】
支持体20の厚さには、制限はなく、光学素子10の用途および支持体20の形成材料等に応じて、配向膜および光学異方性層を保持できる厚さを、適宜、設定すればよい。
支持体20の厚さは、1~1000μmが好ましく、3~250μmがより好ましく、5~150μmがさらに好ましい。
【0071】
<<配向膜>>
光学素子10において、支持体20の表面には配向膜24が形成される。
配向膜24は光学異方性層26を形成する際に、液晶化合物30を所定の液晶配向パターンに配向するための配向膜である。既述の通り、光学素子10において、光学異方性層は、液晶化合物30に由来する光学軸30A(図2参照)の向きが、面内の一方向(x方向)に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する。従って、配向膜は、光学異方性層が、この液晶配向パターンを形成できるように、形成される。
【0072】
配向膜は、公知の各種のものが利用可能である。
例えば、ポリマーなどの有機化合物からなるラビング処理膜、無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、ならびに、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチルなどの有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB(Langmuir-Blodgett:ラングミュア・ブロジェット)膜を累積させた膜、等が例示される。
【0073】
ラビング処理による配向膜は、ポリマー層の表面を紙または布で一定方向に数回こすることにより形成できる。
配向膜に使用する材料としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-97377号公報、特開2005-99228号公報、および、特開2005-128503号公報記載の配向膜等の形成に用いられる材料が好ましく例示される。
【0074】
光学素子10においては、配向膜は、光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜が好適に利用される。すなわち、光学素子10においては、配向膜として、支持体20上に、光配向材料を塗布して形成した光配向膜が、好適に利用される。
偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向または斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0075】
光配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号公報および特許第4151746号公報に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報および特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号および特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報および特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミドおよび光架橋性エステル、ならびに、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、国際公開第2010/150748号、特開2013-177561号公報および特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物およびクマリン化合物等が、好ましい例として例示される。
中でも、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミド、光架橋性エステル、シンナメート化合物、および、カルコン化合物は、好適に利用される。
【0076】
配向膜の厚さには制限はなく、配向膜の形成材料に応じて、必要な配向機能を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
配向膜の厚さは、0.01~5μmが好ましく、0.05~2μmがより好ましい。
【0077】
配向膜の形成方法には、制限はなく、配向膜の形成材料に応じた公知の方法が、各種、利用可能である。一例として、配向膜を支持体20の表面に塗布して乾燥させた後、配向膜をレーザ光によって露光して、配向パターンを形成する方法が挙げられる。
【0078】
図5に、配向膜を露光して配向パターンを形成する露光装置の一例を概念的に示す。なお、図5に示す例では、一例として、第1の光学素子10の配向膜24の露光を例示している。
【0079】
図5に示す露光装置50は、レーザ52を備えた光源54と、レーザ52が出射したレーザ光70を光線72Aおよび72Bの2つに分離するビームスプリッター56と、分離された2つの光線72Aおよび72Bの光路上にそれぞれ配置されたミラー58Aおよび58Bと、λ/4板60Aおよび60Bと、を備える。
なお、光源64は直線偏光P0を出射する。λ/4板60Aおよび60Bは、互いに直交する光学軸を備えている。λ/4板60Aは、直線偏光P0(光線72A)を右円偏光PRに、λ/4板60Bは直線偏光P0(光線72B)を左円偏光PLに、それぞれ変換する。
【0080】
配向パターンを形成される前の配向膜24を有する支持体20が露光部に配置され、2つの光線72Aと光線72Bとを配向膜24上において交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜24に照射して露光する。
この際の干渉により、配向膜24に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これにより、配向膜24において、配向状態が周期的に変化する配向パターンが得られる。
露光装置50においては、2つの光線72Aおよび72Bの交差角βを変化させることにより、配向パターンの周期を調節できる。すなわち、露光装置50においては、交差角βを調節することにより、液晶化合物30に由来する光学軸30Aが一方向に沿って連続的に回転する配向パターンにおいて、光学軸30Aが回転する1方向における、光学軸30Aが180°回転する1周期の長さ(1周期Λ)を調節できる。
このような配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する配向膜上に、光学異方性層を形成することにより、後述するように、液晶化合物30に由来する光学軸30Aが一方向に向かって連続的に回転する液晶配向パターンを有する、光学異方性層26を形成できる。
また、λ/4板60Aおよび60Bの光学軸を各々90°回転することにより、光学軸30Aの回転方向を逆にすることができる。
【0081】
なお、本開示の光学素子において、配向膜は、好ましい態様として設けられるものであり、必須の構成要件ではない。
例えば、支持体20をラビング処理する方法、支持体20をレーザ光等で加工する方法等によって、支持体20に配向パターンを形成することにより、光学異方性層26が、液晶化合物30に由来する光学軸30Aの向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する構成とすることも、可能である。
【0082】
[光学素子の他の態様]
図6は、本発明の他の一実施形態の光学素子12を模式的に示した側面図である。
光学素子12は、第1の光学異方性層として、液晶化合物30が厚み方向にコレステリック配向した光学異方性層28を備えている。図6に示した光学素子12においても、支持体上に形成された配向膜上に光学異方性層28が備えられた構成であってもよい。
【0083】
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。選択反射の中心波長(選択反射中心波長)λは、コレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、この螺旋構造のピッチを調節することによって、選択反射中心波長を調節することができる。
【0084】
コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
【0085】
また、選択反射を示す選択反射帯域(円偏光反射帯域)の半値幅Δλ(nm)は、コレステリック液晶相のΔnと螺旋のピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射帯域の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。
【0086】
すなわち、光学異方性層28は、特定の円偏光(右円偏光もしくは左円偏光)の所定の波長域の光を選択的に反射する機能を奏する。
【0087】
一方で、光学素子12の面内方向における光学軸30Aの配向パターンは図2に示した光学素子10における配向パターンと同様であるため、光学素子10と同様の作用を生じる。すなわち、光学素子12は、既述の光学素子10と同様に、入射した光の絶対位相を変化させて所定の方向に屈曲させる作用を奏する。従って、光学素子12は、入射光を入射方向とは異なる方向に屈曲させる作用と上記コレステリック配向による作用とを併せ持ち、鏡面反射の反射方向に対して所定方向に角度を有して光を反射する。
【0088】
例えば、光学異方性層28のコレステリック液晶相が右円偏光を反射するように設計されているとする。この場合、図6に示すように、本光学素子12の光学異方性層28の主面に垂直に、すなわち法線に沿って右円偏光Pである光Lを入射させると、法線方向に対して傾きを有する方向に反射光Lが生じる。すなわち、光学素子12は反射型の回折格子として機能する。
【0089】
本構成の光学素子12においても、光学異方性層の屈折率異方性Δnが0.24以上であることによって、大きな回折角度、例えば、30°以上の回折角度においても、屈折率異方性Δnが0.24未満である光学異方性層を用いた場合と比較して良好な回折効率を得ることができる。
【0090】
図1図4および図6に示す光学素子は、光学異方性層の液晶配向パターンにおける液晶化合物30の光学軸30Aは、面内においてx方向のみに沿って、連続して回転している。
しかしながら、本開示の光学素子は、これに制限はされず、光学異方性層において、液晶化合物30の光学軸30Aが一方向に沿って連続して回転するものであれば、各種の構成が利用可能である。
【0091】
図7は、設計変更例の光学素子の光学異方性層34の平面模式図である。図7において、液晶配向パターンを液晶化合物の光学軸30Aによって示している。光学異方性層34は、光学軸30Aの向きが同一である領域が同心円状に設けられ、光学軸30Aの向きが連続的に回転しながら変化する一方向が、光学異方性層34の中心から放射状に設けられた液晶配向パターンを有する。
光学異方性層34では、光学軸30Aの向きは、光学異方性層34の中心から外側に向かう多数の方向、例えば、矢印Aで示す方向、矢印Aで示す方向、矢印Aで示す方向…に沿って、連続的に回転しながら変化している。
この液晶配向パターンを有する光学異方性層34に入射した円偏光は、液晶化合物30の光学軸の向きが異なる個々の局所的な領域において、それぞれ、絶対位相が変化する。この際に、それぞれの絶対位相の変化量は、円偏光が入射した液晶化合物30の光学軸の向きに応じて異なる。
【0092】
このような、同心円状の液晶配向パターン、すなわち、放射状に光学軸が連続的に回転して変化する液晶配向パターンを有する光学異方性層34は、液晶化合物30の光学軸の回転方向および入射する円偏光の方向に応じて、入射光を、発散光または集束光として透過できる。
すなわち、光学異方性層の液晶配向パターンを同心円状とすることにより、光学素子は、例えば、凸レンズまたは凹レンズとして機能を発現する。
【0093】
ここで、光学異方性層の液晶配向パターンを同心円状として、光学素子を凸レンズとして作用させる場合には、液晶配向パターンにおいて光学軸が180°回転する1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くするのが好ましい。
前述のように、入射方向に対する光の屈折の角度は、液晶配向パターンにおける1周期Λが短いほど、大きくなる。従って、液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くすることにより、光学異方性層34による光の集束力を、より向上でき、凸レンズとしての性能を、向上できる。
【0094】
また、例えば凹レンズとする場合など、光学素子の用途によっては、液晶配向パターンにおいて光学軸が180°回転する1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する方向を逆方向に回転させ、1方向の外方向に向かって、漸次、短くするのが好ましい。
前述のように、入射方向に対する光の屈折の角度は、液晶配向パターンにおける1周期Λが短いほど、大きくなる。従って、液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くすることにより、光学異方性層34による光の発散力を、より向上でき、凹レンズとしての性能を、向上できる。
【0095】
なお、例えば光学素子を凹レンズとする場合など、入射する円偏光の旋回方向を逆にするのも好ましい。
【0096】
なお、逆に、同心円状の液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、長くしてもよい。
さらに、例えば透過光に光量分布を設けたい場合など、光学素子の用途によって、光学軸が連続的に回転する1方向に向かって、1周期Λを、漸次、変更するのではなく、光学軸が連続的に回転する1方向において、部分的に1周期Λが異なる領域を有する構成も利用可能である。
加えて、本開示の光学素子は、1周期Λが全面的に均一な光学異方性層と、1周期Λが異なる領域を有する光学異方性層とを有してもよい。
【0097】
このように、光学軸が連続的に回転する1方向において、光学軸が180°回転する1周期Λを変更する構成は、図1~5に示す、x方向の一方向のみに液晶化合物30の光学軸30Aが連続的に回転して変化する構成でも、利用可能である。
例えば、液晶配向パターンの1周期Λを、x方向に向かって、漸次、短くすることにより、集光するように光を透過する光学素子を得ることができる。また、液晶配向パターンにおいて、光学軸が180°回転する方向を逆にすることにより、x方向にのみ拡散するように光を透過する光学素子を得ることができる。なお、入射する円偏光の旋回方向を逆にすることでも、矢印のX方向にのみ拡散するように光を透過する光学素子を得ることができる。
さらに、例えば透過光に光量分布を設けたい場合など、光学素子の用途によって、x方向に向かって、1周期Λを漸次、変更するのではなく、x方向において、部分的に1周期Λが異なる領域を有する構成も利用可能である。
【0098】
「光配向パターンの形成方法」
本発明の「光配向パターンの形成方法」の一実施形態は、上記本発明の一実施形態の光学素子を、複屈折性マスクとして光配向膜に対向させて配置し、複屈折性マスクを介して光配向膜に光を照射することにより、光配向膜の表面に、光学素子の第1の液晶配向パターンに応じた光配向パターンを形成する、方法である。
【0099】
図8は、上記光学素子を用いた光配向パターンの形成方法の一実施形態を示す図であり、図9は、光配向パターン形成時の照射光の偏光パターンを説明するための模式図である。ここでは、先に説明した光学素子10を、複屈折性マスクとして用いている。光学素子10を、支持体120上に備えられた光配向膜124の表面と、光学素子10の光学異方性層側の面10aが対向するように配置する。光源装置150から平行光201を出力させて、この平行光201を、直線偏光子152を透過させることにより、直線偏光202に変換し、この直線偏光202を、光学素子10を介して光配向膜124に照射する。
光源装置150は、例えば、高圧水銀灯などの紫外線源と、線源から出射された光を平行光とするための平行ルーバーなどとの組み合わせにより構成することができる。
【0100】
図9においては、光学素子10および光配向膜124の面内における光学軸を、並びに、光学素子10入射前後における直線偏光の透過軸方位の変化を模式的に示している。
直線偏光子152を透過した光の偏光学軸は直線偏光子152の透過軸方位に沿っているため、光学素子10に入射する前の直線偏光の偏光学軸の向きは一様である。この直線偏光が通過する光学素子10の領域における液晶化合物の光学軸の向きによって出射時の偏光学軸の向きが変化する。入射時の偏光学軸が液晶化合物の光学軸の向きと一致している箇所では偏光学軸は変化せず、偏光学軸と光学軸とのなす角度が45°の箇所では出射時の偏光学軸が入射時の偏光学軸と直交する方向となる、などである。光学素子10を通過した直線偏光の偏光学軸のx方向における180°回転の周期Λは光学素子10の第1の液晶配向パターンの一周期Λの半分となる。そして、周期Λで偏光学軸がx軸方向に回転するパターンを有する光が光配向膜124に照射される。これによって、光配向膜124には、第1の液晶配向パターンに応じた光配向パターン、詳細には、第1の液晶配向パターンの周期Λの1/2の周期Λ=Λ/2の光配向パターンが形成される。
【0101】
光学素子10は、光学異方性層26の屈折率異方性Δnが大きいので、薄い膜厚で、λ/2の面内レターデーションを実現することができる。光学異方性層26が薄いほど、マスクとして利用した際の光配向パターンの形成精度を向上することができる。
【0102】
「光学素子の製造方法」
本発明の光学素子の製造方法の一実施形態は、上記光配向パターンの形成方法を使用することを特徴とする。
また、本発明の光学素子の製造方法の他の一実施形態は、支持体の一表面に光配向膜を形成し、上記本発明の一実施形態の光学素子を、複屈折性マスクとして光配向膜に対向させて配置し、複屈折性マスクを介して光配向膜に光を照射することにより、光配向膜の表面に、光学素子の第1の液晶配向パターンに応じた光配向パターンを形成し、
光配向パターンが形成された光配向膜の表面に、第2の液晶化合物を含む組成物を塗布し、組成物を硬化させることにより、組成物の硬化層からなる、光配向パターンに応じた第2の液晶配向パターンを有する第2の光学異方性層を形成し、第2の光学異方性層を備えた光学素子を製造する、光学素子の製造方法である。
【0103】
上記光学素子の製造方法においては、第2の液晶化合物として、第1の液晶化合物として用いた上述の式(I)で表される化合物を用いることができる。この場合、光学素子の製造方法において製造される新たな光学素子は、上記式(I)で表される化合物を含む組成物の硬化層からなる光学異方性層を備えた光学素子となる。
すなわち、本発明の「光学素子の製造方法」は本発明の「光学素子」を用い、本発明の「光学素子」の製造にも適用できる。
【0104】
図10は本発明の「光学素子の製造方法」の一実施形態の工程を示す図である。図10に沿って、光学素子の製造方法の一実施形態を説明する。
まず、支持体120上に配向膜124aを塗布形成する(step1)。次に、上記光配向パターンの形成方法で説明したように、光学素子10を、配向膜124aの表面と光学素子10の光学異方性層が対向するように配置する。光学素子10の光学異方性層は配向膜124aと接触していてもよいし、所定距離で離隔されていてもよい。但し、距離が近いほど好ましく、両者を接触させることが特に好ましい。そして直線偏光の平行光201を光学素子10を介して光配向膜124aに照射する(step2)。本工程は、図8および図9を用いて説明した光配向膜への光配向パターンの形成工程である。ここで、光学素子10の第1の光学異方性層の液晶配向パターンにおける周期Λの1/2の周期Λの光配向パターンが形成され、パターン化された光配向膜124となる(step3)。
【0105】
次に、パターン化された光配向膜124の表面に第2の液晶化合物を含む組成物を塗布し組成物層126aを形成し(step4)、紫外線照射等により組成物層126aを硬化させ、硬化層126bとする(step5)。step4およびstep5は、既述の組成物層を形成する工程Xおよび工程Yを採用することができる。この組成物層126aの塗布および硬化を複数回繰り返し、所望の厚みの硬化層からなる第2の光学異方性層126を得る(step6)。工程Yにおいて液晶化合物を配向させる加熱処理により、組成物中の液晶化合物は、光配向膜124に形成された光配向パターンに応じた第2の液晶配向パターンに配向する。ここで、光配向パターンに応じた第2の液晶配向パターンは、光配向パターンと同等の周期Λで液晶化合物の光学軸の向きが面内の一方向に沿って連続的に回転変化したパターンである。
【0106】
以上の工程により、第2の光学異方性層126を備えた光学素子110を製造することができる。
【0107】
光学素子10をマスクとする露光法を用いて新たな光学素子110を製造する方法は、光学素子10の作製方法において説明した、光干渉露光法を用いた光配向膜への光配向パターンの形成方法を用いた製造方法と比較して、光学軸調整等の煩雑な調整が不要であり、非常に簡便である。また、既述の通り、屈折率異方性が大きい光学異方性層を備えた光学素子10を用いているので、光配向パターンを精度良く形成することができる。そして、その結果として、第2の液相配向パターンを精度よく形成することができる。
【実施例0108】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0109】
まず、最初に本発明の実施例に好適な化合物Aのうち、上記具体例に挙げた液晶化合物A-1~A-7の合成および各化合物A-1~A-7の特性について説明する。
【0110】
〔化合物の合成〕
<合成例1:化合物A-1の合成>
化合物A-1を以下のスキームに従って合成した。
【0111】
【化6】
【0112】
(1)化合物1の合成
4-アミノフェニル-2-エタノール(132.1g、0.96mol)を水(1056mL)および濃硫酸90mL(1.69mol)中で溶解させた。温度を5℃以下に保ちながら、この溶液に、亜硝酸ナトリウム(83.0g、1.20mol)を水(264mL)に溶かした水溶液を滴下し、ジアゾ化を行った。その後、この溶液に、ヨウ化カリウム(545.1g、3.28mol)を水(660mL)に溶かした水溶液を滴下し、室温で2時間撹拌した。得られた溶液を酢酸エチルで2回抽出した後、得られた有機相を合わせ、10質量%チオ硫酸ナトリウム水溶液、および、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製して、淡黄色オイル状の化合物1(195.4g、0.79mol)を得た。収率は81.8%であった。
【0113】
(2)化合物2の合成
窒素雰囲気下にて、化合物1(195.4g、0.79mol)およびトリメチルシリルアセチレン(116.0g、1.18mol)をテトラヒドロフラン(1974mL)およびトリエチルアミン(796.9g、7.88mol)の混合溶液に溶解させた。得られた溶液に窒素バブリングを30分間行った後、Pd(PPhCl(27.6g、39.4mmol)およびCuI(15.0g、78.8mmol)を溶液に加えて、溶液を55℃で2時間撹拌した。溶液を室温に冷却後、溶液から不溶物をろ過により除いた。得られた溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液で1回、水および飽和食塩水で1回それぞれ洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製して、淡黄色オイル状の化合物2(163.4g、0.75mol)を得た。収率は94.7%であった。
【0114】
(3)化合物3の合成
化合物2(163.4g、0.75mol)をテトラヒドロフラン(820mL)に溶解させた。得られた溶液にテトラブチルアンモニウムフルオリドの1Mテトラヒドロフラン溶液(822.9ml、0.82mol)を加えた後、溶液を室温にて1時間撹拌した。得られた溶液に1N塩酸を加え、その後、酢酸エチルで4回抽出した。抽出により得られた有機相を食塩水で1回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製して、淡黄色オイル状の化合物3(103.7g、0.71mol)を得た。収率は94.6%であった。
【0115】
(4)化合物4の合成
4,4‘-エチレンジアニリン(2.00g、9.42mmol)を1N塩酸水(113mL中)で溶解させた。温度を5℃以下に保ちながら、この溶液に、亜硝酸ナトリウム(1.95g、28.3mmol)を水(10mL)に溶かした水溶液を滴下し、ジアゾ化を行った。その後、ヨウ化カリウム(4.24g、28.3mmol)を水(10mL)に溶かした水溶液を滴下し、室温で2時間撹拌した。析出した固体を一旦ろ過し、水で洗浄した後、酢酸エチルに再溶解させ、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物4(0.45g、1.04mmol)を得た。収率は11.0%であった。
【0116】
(5)化合物5の合成
窒素雰囲気下にて、化合物4(0.40g、0.92mmol)および化合物3(0.30g、2.05mmol)をジメチルアセトアミド(10mL)およびトリエチルアミン(0.93g、9.18mmol)の混合溶液に溶解させた。得られた溶液の窒素バブリングを30分間行った後、Pd(PPhCl(32.3mg、0.046mmol)およびCuI(17.5mg、0.092mmol)を溶液に加えて、溶液を55℃で2時間撹拌した。溶液を室温に冷却後、溶液から不溶物をろ過により除いた。得られた溶液に水を加えて析出した固体をろ過した後、メタノール中で懸濁洗浄を行い、化合物5(0.25g、0.53mmol)を得た。収率は57.7%であった。
【0117】
(6)化合物A-1の合成
化合物5(0.25g、0.53mmol)をジメチルアセトアミド(10ml)に溶解させた。氷冷下にて、塩化アクリル(0.37ml、4.6mmol)およびトリエチルアミン(0.64mL、4.6mmol)を加え、溶液を室温にて2時間撹拌した。得られた溶液に1N塩酸を加え、その後、酢酸エチルで抽出した。抽出により得られた有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で1回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物A-1(0.18g、0.31mmol)を得た。収率は58.7%であった。
【0118】
得られた化合物A-1をH-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)を用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.82(t、4H)、3.00(t、4H)、4.37(t、4H)、5.82(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、7.10(d、4H)、7.20(d、4H)、7.45(m、8H)
【0119】
<合成例2:化合物A-2の合成>
化合物A-2を以下のスキームに従って合成した。
【0120】
【化7】
【0121】
(7)化合物6の合成
4-ヨードベンジルアルコール(30.0g、0.128mol)をテトラヒドロフラン(150mL)に溶解させて溶液を得た。氷冷下にて、得られた溶液に、メタンスルホニルクロリド(15.4g、0.135mol)およびトリエチルアミン(14.3g、0.141mol)を加え、室温にて3時間撹拌した。得られた溶液に酢酸エチルおよび水を加えて抽出した後、有機相を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣にヘキサンを加えて懸濁洗浄した後、化合物6(38.4g、0.123mol)を得た。収率は96.1%であった。
【0122】
(8)化合物7の合成
化合物6(5.00g、16.0mmol)および4-ヨードフェノール(3.52g、16.0mmol)をジメチルアセトアミド(30mL)に溶解させて溶液を得た。溶液に炭酸カリウム(2.65g、19.2mmol)およびヨウ化カリウム(0.27g、1.63mmol)を加え、85℃にて2時間撹拌した。溶液を室温に冷却後、酢酸エチルおよび水を加えて抽出した後、有機相を1N塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣にメタノールを加えて懸濁洗浄した後、化合物7(4.84g、11.1mmol)を得た。収率は69.4%であった。
【0123】
(9)化合物8の合成
化合物5の合成(5)における、化合物4の代わりに化合物7を用いること以外は(5)と同様にして、化合物8を合成した。
(10)化合物A-2の合成
化合物A-1の合成(6)における、化合物5の代わりに化合物8を用いること以外は(6)と同様にして、化合物A-2を合成した。
【0124】
得られた化合物A-2をH-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)を用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.99(t、4H)、4.38(t、4H)、5.10(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.92(d、2H)、7.20(m、4H)、7.44(m、8H)、7.55(d、2H)
【0125】
<合成例3:化合物A-3の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、2-メチル-4-ヨードフェノールを用いたこと以外は同様にして、化合物A-3を合成した。
【0126】
得られた化合物A-3をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.29(s、3H)、2.99(t、4H)、4.38(t、4H)、5.10(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.83(d、1H)、7.20(m、4H)、7.32(d、2H)、7.44(m、6H)、7.55(d、2H)
【0127】
<合成例4:化合物A-4の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、2-トリフルオロメチル-4-ブロモフェノールを用いたこと以外は同様にして、化合物A-4を合成した。
【0128】
得られた化合物A-4をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.99(t、4H)、4.38(t、4H)、5.23(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.98(d、1H)、7.21(m、4H)、7.44(m、6H)、7.52(d、2H)、7.60(d、1H)、7.75(s、1H)
【0129】
<合成例5:化合物A-5の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、下記の方法で合成した2-ターシャリーブチル-4-ブロモフェノールを用いること以外は同様にして、化合物A-5を合成した。
【0130】
(11)2-ターシャリーブチル-4-ブロモフェノールの合成
2-ターシャリーブチルフェノール(10.0g、66.6mmol)をクロロホルム(100mL)に溶解させた溶液を得た。溶液にテトラブチルアンモニウムトリブロミド(38.6g、80.0mmol)を添加した。溶液を、室温で1時間撹拌した後、1N塩酸水を加え、クロロホルムで抽出した。得られた有機相をさらに1N塩酸水、10%食塩水および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーにて精製し、2-ターシャリーブチル-4-ブロモフェノール(6.60g、28.8mmol)を得た。収率は43.3%であった。
【0131】
得られた化合物A-5をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=1.40(s、9H)、3.00(t、4H)、4.38(t、4H)、5.13(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.88(d、1H)、7.21(m、4H)、7.35(d、1H)、7.45(m、7H)、7.56(d、2H)
【0132】
<合成例6:化合物A-6の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、2-メトキシカルボニル-4-ヨードフェノールを用いること以外は同様にして、化合物A-6を合成した。
【0133】
得られた化合物A-6をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=2.99(t、4H)、3.89(s、3H)、4.38(t、4H)、5.21(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.98(d、1H)、7.21(m、4H)、7.48(m、6H)、7.52(d、2H)、7.60(d、1H)、8.00(s、1H)
【0134】
<合成例7:化合物A-7の合成>
化合物A-2の合成における4-ヨードフェノールの代わりに、下記の方法で合成した2-ターシャリーブトキシカルボニル-4-ヨードフェノールを用いること以外は同様にして、化合物A-7を合成した。
【0135】
(12)2-ターシャリーブトキシカルボニル-4-ヨードフェノールの合成
2-カルボキシル-4-ヨードフェノール(5.00g、18.9mmol)およびジメチルアミノピリジン(0.12g、0.95mmol)をターシャリーブタノール(50mL)に溶解させた溶液を得た。溶液に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(5.44g、28.4mmol)をテトラヒドロフラン(25mL)に溶かした溶液を滴下した。室温で2時間撹拌した後、蓚酸(2.56g、28.4mmol)を加え、さらに1時間撹拌した。不溶物をろ過にて取り除いた後、溶媒を減圧留去し、得られた残渣を水および酢酸エチルで抽出した。有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機相をろ過した後、溶剤を減圧留去し、得られた残渣にノルマルヘキサンを加えて、析出物をろ過にて取り除いた。ろ液を減圧留去し、結晶化した2-ターシャリーブトキシカルボニル-4-ヨードフェノール(2.70g、8.43mmol)を得た。収率は44.6%であった。
【0136】
得られた化合物A-7をH-NMRを用いて同定した結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl):δ=1.55(s、9H)、2.99(t、4H)、4.38(t、4H)、5.17(s、2H)、5.81(d、2H)、6.10(dd、2H)、6.38(d、2H)、6.92(d、1H)、7.21(m、4H)、7.45(m、6H)、7.53(m、3H)、7.85(s、1H)
【0137】
〔特性評価〕
上述した化合物A-1~A-7について、以下の特性評価を実施した。
【0138】
<Δn(屈折率異方性)測定>
各化合物のΔnは、液晶便覧(液晶便覧編集委員会編、丸善株式会社刊)202頁に記載の楔形液晶セルを用いた方法にて測定した。なお、結晶化しやすい化合物の場合は、他の液晶との混合物による評価を行い、その外挿値からΔnを見積もった。結果を表1に示す。表中の値は、550nm、30℃におけるΔnを表す。
【0139】
<溶液吸収スペクトル測定(着色性評価)>
各化合物の溶液吸収スペクトルを、島津製作所(株)社製分光光度計UV-3100PCを用いて測定した。溶媒としてクロロホルムを用い、所定量の化合物を溶かした溶液を、1cmセルにて測定し、得られたスペクトルと分子量からλmaxおよびλ(1000)を算出した。なお、λmaxは300nm以上の領域における最大吸光係数を示す波長を表し、λ(1000)は300nm以上の領域において、吸光係数εが1000を示す波長を表す。λmaxおよびλ(1000)の波長が小さいほど(短波側であるほど)、その化合物の着色性が抑制されていると評価できる。
例えば、λmaxは310nm以下が好ましい。また、λ(1000)は、350nm以下が好ましく、325nm以下がより好ましい。
下記表に結果を記載する。
【0140】
【表1】
【0141】
表1に示すように、化合物Aは、高い屈折率異方性Δnと、着色性の抑制(λmaxが310nm以下、λ(1000)が350nm以下)とを両立できることが確認された。
一般式(1)中、Yが-C(Rya)(Ryb)-である場合、本発明の化合物は、着色性をより抑制できることが確認された(化合物A-1の結果)。
【0142】
次に、本発明の光学素子の実施例および比較例について説明する。
【0143】
[比較例1]
<光学素子の作製>
(支持体、および、支持体の鹸化処理)
支持体として、市販されているトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製、Z-TAC)を用意した。
支持体を、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させて、支持体の表面温度を40℃に昇温した。
その後、支持体の片面に、バーコーターを用いて下記に示すアルカリ溶液を塗布量14mL(リットル)/m2で塗布し、支持体を110℃に加熱し、さらに、スチーム式遠赤外ヒーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)の下を、10秒間搬送した。
続いて、同じくバーコーターを用いて、支持体のアルカリ溶液塗布面に、純水を3mL/m2塗布した。次いで、ファウンテンコーターによる水洗およびエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンを10秒間搬送して乾燥させ、支持体の表面をアルカリ鹸化処理した。
【0144】
アルカリ溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――
水酸化カリウム 4.70質量部
水 15.80質量部
イソプロパノール 63.70質量部
界面活性剤
SF-1:C1429O(CH2CH2O)2OH 1.0 質量部
プロピレングリコール 14.8 質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0145】
(下塗り層の形成)
支持体のアルカリ鹸化処理面に、下記の下塗り層形成用塗布液を#8のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗膜が形成された支持体を60℃の温風で60秒間、さらに100℃の温風で120秒間乾燥し、下塗り層を形成した。
【0146】
下塗り層形成用塗布液
――――――――――――――――――――――――――――――――
下記変性ポリビニルアルコール 2.40質量部
イソプロピルアルコール 1.60質量部
メタノール 36.00質量部
水 60.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0147】
【化8】
【0148】
(配向膜の形成)
下塗り層を形成した支持体上に、下記の配向膜形成用塗布液を#2のワイヤーバーで連続的に塗布した。この配向膜形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を60℃のホットプレート上で60秒間乾燥し、配向膜を形成した。
【0149】
配向膜形成用塗布液
――――――――――――――――――――――――――――――――
光配向用素材 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0150】
-光配向用素材D-
【化9】
【0151】
(配向膜の露光)
図5に示した露光装置を用いて配向膜を露光して、配向パターンを有する配向膜P-1を形成した。
露光装置において、レーザとして波長(325nm)のレーザ光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を2000mJ/cm2とした。なお、2つのレーザ光およびの干渉により形成される配向パターンの1周期(液晶化合物由来の光学軸が180°回転する長さ)は、2つの光の交差角(交差角β)を変化させることによって制御した。
【0152】
(光学異方性層の形成)
光学異方性層を形成する組成物として、下記の組成物E-1を調製した。
【0153】
組成物E-1
――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 927.7 質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0154】
液晶化合物L-1
%は質量基準である。
【化10】
【0155】
レベリング剤T-1
【化11】
【0156】
光学異方性層は、組成物E-1を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。多層塗布とは、先ず配向膜の上に1層目の組成物E-1を塗布、加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことを指す。多層塗布により形成することにより、液晶層の総厚が厚くなった時でも配向膜の配向方向が液晶層の下面から上面にわたって反映される。
【0157】
先ず1層目は、配向膜P-1上に上記の組成物E-1を塗布して、塗膜をホットプレート上で120℃に加熱し、その後、60℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を2000mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の1層目の液晶層の膜厚は0.3μmであった。
【0158】
2層目以降は、この液晶層に重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層(硬化層)を作製した。このようにして、総厚が1.8μmになるまで重ね塗りを繰り返し、光学異方性層を形成して、光学素子G-1を作製した。
【0159】
なお、組成物E-1の硬化層の複素屈折率Δn550は、0.16であった。
複素屈折率Δn550は、組成物E-1を別途に用意したレターデーション測定用の配向膜付き支持体上に塗布し、液晶化合物のダイレクタ(光学軸)が支持体の面に水平となるよう配向させた後に紫外線照射して固定化して得た液晶固定化層(硬化層)のレターデーション値および膜厚を測定して求めた。レターデーション値を膜厚で除算することによりΔn550を算出できる。レターデーション値はAxometrix 社のAxoscanで550nmの波長で測定し、膜厚は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて測定した。以降、リタ―デーション値は適宜目的の波長で測定を行った。
本例の光学異方性層のΔn550×厚さ(=Re(550))が280nmであった。以下、特に記載が無い場合には、『Δn550×d』等の測定は、同様に行った。
【0160】
本例の光学異方性層については、図3に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期Λは、1.0μmであった。周期Λは偏光顕微鏡を用いクロスニコル条件下で観察される明暗パターンの周期を測定して求めた。
【0161】
[比較例2]
表1に記載の通り、膜厚を0.9μmとなるようにした以外は比較例1と同様にして、光学素子G-2を作製した。
【0162】
[比較例3]
表1に記載の通り、液晶配向パターン周期Λが2.00μmとなるように、配向膜の露光時の交差角を調整した以外は比較例1と同様にして、光学素子G-3を作製した。
【0163】
[実施例1~6]
液晶化合物L-1に代えて、前述の液晶化合物A-2~A-7をそれぞれ用いた以外は比較例1と同様にして、光学素子G-4~G-9を作製した。
【0164】
[実施例7]
液晶配向パターン周期Λが1.60μmとなるように、配向膜の露光時の交差角を調整した以外は比較例6と同様にして、光学素子G-9-2を作製した。
【0165】
[参考例1]
液晶配向パターン周期Λが2.00μmとなるように、配向膜の露光時の交差角を調整した以外は比較例6と同様にして、光学素子G-9-3を作製した。
【0166】
[実施例8]
液晶化合物L-1に代えて下記液晶化合物B-1を用いた以外は比較例1と同様にして、光学素子G-10を作製した。
【0167】
液晶化合物B-1
【化12】
【0168】
なお、液晶化合物B-1は、特開2005-15406号の合成例1に従って合成した。
【0169】
上記実施例1~8、参考例1および比較例1~3の光学素子について、以下の評価を行った。
【0170】
<回折角度、回折効率の測定>
回折角度および回折効率は以下のようにして求めた。
530nmに出力中心波長を持つレーザ光Lを出力する光源装置100を、レーザ光Lを光学素子Sの一面に垂直に入射させるように設置し(図11参照)、光学素子Sの他面から100cm離隔した位置に、他面に平行にスクリーンを配置した。光源装置100から出力したレーザ光Lを光学素子Sの一面に垂直に、すなわち法線に対する角度0°で入射させ、透過した光をスクリーン上で捉えた。このスクリーン上の透過光の位置から透過光の出射角度θを算出した。透過光の出射角度θが回折角度θであり、透過角度θともいう。
次に、図11に示すように、透過光を受光できる位置に光検出器102を設置し、透過角度θで透過された透過光Ltの光強度を光検出器102で測定した。そして、透過光Ltの光強度と入射光(レーザ光L)の光強度との比をとり、透過光Ltの入射光(レーザ光L)に対する相対光強度値を求めた(透過光Lt/レーザ光L)。透過光Ltの入射光に対する相対光強度値×100[%]を回折効率とした。
【0171】
なお、光強度は、光源から出力したレーザ光を、その波長に対応する円偏光板に垂直入射させて、円偏光にした後に、すなわち、円偏光したレーザ光を入射光Lとして実施例および比較例の光学素子Sに入射させて測定した。
【0172】
<溶液吸収スペクトル測定(着色性評価)>
各化合物の溶液吸収スペクトルを、島津製作所(株)社製分光光度計UV-3100PCを用いて測定した。溶媒としてクロロホルムを用い、所定量の化合物を溶かした溶液を、1cmセルにて測定し、得られたスペクトルと分子量からλmaxおよびλ(1000)を算出した。なお、λmaxは250nm~700nmの領域における最大吸光係数を示す波長を表し、λ(1000)は吸収スペクトルにおいて、モル吸収係数εが最大値を示すピークの長波長側の裾部領域であって、モル吸光係数εが1000を示す波長を表す。λmaxおよびλ(1000)の波長が小さいほど(短波側であるほど)、その化合物の着色性が抑制されていると評価できる。
例えば、λmaxは310nm以下が好ましい。また、λ(1000)は、350nm以下が好ましく、325nm以下がより好ましい。
【0173】
実施例1~7および比較例1~3の光学素子について、光学異方性層の構成および評価結果を表2にまとめて示す。
【表2】
【0174】
上記評結果に示すように、光学異方性層の屈折率異方性Δnが0.24以上を満たす実施例1~8および参考例1の光学素子では、いずれも75%以上と良好な回折効率が得られた。液晶配向パターン周期Λが小さくなると回折角度が大きくなり、回折効率が低下する傾向があるが、33°という大きな回折角度においても良好な回折効率が得られた。特に屈折率異方性Δnが0.3以上である場合には、特に好ましい回折効率が得られた。
一方、光学異方性層の屈折率異方性Δnが小さい比較例1~3の光学素子の場合、比較例3のように周期が大きければ、良好な回折効率が得られるが、比較例1、2のように、配向パターン周期Λが1.0μmと小さくなると、回折効率が大きく低下した。
【0175】
さらに、本発明の光学素子の実施例および比較例を用いた第2の光学素子の製造方法に関する実施例および比較例について説明する。
【0176】
[実施例9]
<複屈折マスクとなる光学素子の作製>
複屈折マスクとして、光学素子G-11を作製した。この時、光学異方性層を形成する組成物としては以下の組成物を用いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物A-6 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 1369.5 質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0177】
複屈折マスク(光学素子G-11)の光学異方性層(第1の光学異方性層)の面内レターデーションが露光波長である波長365nmに対して半波長となるように設定した。光学素子G-11における第1の光学異方性層の膜厚は0.5μmであった。また、この第1の光学異方性層の第1の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期は、1.6μmとなるように設定した。その他は、実施例5の光学素子G-8と同様の方法で、光学素子G-11を作製した。
【0178】
<第2の光学素子の作製>
支持体、および支持体の鹸化処理、並びに、配向膜の形成までの工程は、上記実施例1の光学素子と同様とした。
【0179】
(配向膜の露光)
得られた配向膜の上に、複屈折マスクとして作製した光学素子G-11を、光学異方性層が配向膜と接するように配置する。
この状態で、複屈折マスクを通して、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を2000mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、複屈折マスクで作製した配向パターンに応じたパターンを、配向膜上に転写した。より詳細には、高圧水銀灯から出射された紫外線を平行ルーバーを介して平行光化し、さらに、直線偏光子を透過して、直線偏光子の透過軸に沿った偏光学軸の直線偏光として複屈折マスクに入射させた。
【0180】
パターン化された配向膜上への光学異方性層の形成は実施例5の光学素子の製造工程と同様として、新たな光学素子G-12を作製した。
光学素子G-12について、上記実施例1~7と同様にして、回折角度および回折効率を求めた。新たな光学素子(第2の光学素子)G-12は、第2の液晶配向パターンとして、マスクとして用いた光学素子G-11の第1の液晶配向パターンの周期の半分の周期のパターンを容易に得ることができ、結果として非常に小さい周期の液晶回折パターンを得ることができ、40°を超える大きな回折角度を得ることができた。また、40°を超える大きな回折角度においても高い回折効率を得ることができた。
【0181】
[比較例4]
<複屈折マスクの作製>
複屈折マスクとして用いる光学素子G-13を作製した。この時、光学異方性層を形成する組成物としては以下の組成物を用いた。
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液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 1369.5 質量部
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【0182】
複屈折マスク(光学素子G-13)の光学異方性層の面内レターデーションは、露光波長である波長365nmに対して半波長となるように設定した。光学素子G-13における光学異方性層の膜厚は0.8μmであった。
上記以外は、実施例9の光学素子と同様の方法で、比較例4の光学素子G-14を作製した。
【0183】
実施例9および比較例4の複屈折マスクとした第1の光学素子およびそのマスクを用いて製造された第2の光学素子の構成および評価を表3にまとめて示す。
【表3】
【0184】
比較例4において、光学素子G-13をマスクとして用いて製造した新たな光学素子G-14を偏光顕微鏡にて観察したところ、配向方向に周期性が見られなかった。すなわち、光学素子G-13において、第1の液晶配向パターンに応じた第2の液晶配向パターンが形成できていなかった。この要因は明確ではないが、マスク層の膜厚が厚いために、マスク層内での光の回折、及び拡散の影響により、正しい光学像が配向膜上に転写されなかったためと推定される。
【0185】
2018年7月27日に出願された日本出願特願2018-141677号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11