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特開2022-9583酸素過剰型金属酸化物及びその製造方法と再生方法、並びに、酸素濃縮装置及び酸素吸脱着装置
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  • 特開-酸素過剰型金属酸化物及びその製造方法と再生方法、並びに、酸素濃縮装置及び酸素吸脱着装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009583
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】酸素過剰型金属酸化物及びその製造方法と再生方法、並びに、酸素濃縮装置及び酸素吸脱着装置
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20220106BHJP
   C01B 13/08 20060101ALI20220106BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20220106BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20220106BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20220106BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220106BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220106BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C01G51/00 A
C01B13/08
C01B13/02 B
B01D53/04 220
B01J20/06 C
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/34 H
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175586
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2017126359の分割
【原出願日】2017-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2016131927
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆
(72)【発明者】
【氏名】辻 秀人
(72)【発明者】
【氏名】山原 圭二
(72)【発明者】
【氏名】本橋 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 美和
【テーマコード(参考)】
4D012
4G042
4G048
4G066
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012CA05
4D012CD07
4D012CD10
4D012CE03
4D012CF03
4D012CF04
4D012CF05
4D012CF08
4D012CG01
4G042BA24
4G042BA26
4G042BA40
4G042BB02
4G048AA05
4G048AB02
4G048AB05
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE08
4G066AA12B
4G066AA16B
4G066AA17B
4G066AA27B
4G066AB07A
4G066AB23A
4G066BA32
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA37
4G066DA03
4G066FA03
4G066FA21
4G066FA34
4G066FA35
4G066FA37
4G066FA40
4G066GA16
4G066GA32
4G066GA33
(57)【要約】
【課題】酸素吸脱着速度に優れる新規な酸素過剰型金属酸化物及びその製造方法、酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着能力を再生する方法等を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるストイキオメトリを有し、昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満である、酸素過剰型金属酸化物。
j k m n 7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
j k m n 7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有し、昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満である、酸素過剰型金属酸化物。
【請求項2】
前記一般式(1)中のAがYを含む、
請求項1に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項3】
前記一般式(1)中のDがBaを含む、
請求項1又は2に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のEがCoを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項5】
粉末X線回折測定において、下記(a)~(d)のすべてを有する回折パターンで特徴付けられるLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有し、
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満である、
酸素過剰型金属酸化物。
【請求項6】
前記酸素過剰型金属酸化物の前駆体を酸素分圧10kPa以下で、700℃以上、950℃未満、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満で加熱処理して得られる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用いた
酸素吸脱着装置。
【請求項8】
350℃未満で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、350℃以上で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させる
請求項7に記載の酸素吸脱着装置。
【請求項9】
200℃以上400℃以下において、酸素存在下で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させる
請求項7に記載の酸素吸脱着装置。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用い、
350℃未満で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、350℃以上で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させることにより、酸素を濃縮する
酸素濃縮装置。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用い、
200℃以上400℃以下において、酸素存在下で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させることにより、酸素を濃縮する
酸素濃縮装置。
【請求項12】
下記一般式(1):
j k m n 7+δ ・・・(1)
(式中、
Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物の前駆体を酸素分圧10kPa以下で、700℃以上、950℃未満、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満で加熱処理することを特徴とする
酸素過剰型金属酸化物の製造方法。
【請求項13】
下記一般式(1):
j k m n 7+δ ・・・(1)
(式中、
Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物を、酸素分圧10kPa以下で、400℃以上、950℃未満で加熱することを特徴とする、
酸素過剰型金属酸化物の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素過剰型金属酸化物及びその製造方法と再生方法、並びに、酸素濃縮装置及び酸素吸脱着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池や排ガス浄化装置の三元触媒など幅広い技術分野において、温度変化により酸素の吸脱着を行うことができる材料の開発が求められている。このような材料としては、ZrO-CeO(CZ)、Bi11(BIMEVOX)、YBaCu6+δ(Y-123)等の金属酸化物(セラミックス材料)が知られている。
【0003】
このような金属酸化物として、YBaCo4 7+δ等の一般式A7+δで表される酸素過剰型金属酸化物が、500℃以下の低温域、特に200~400℃で多量の酸素を急速に吸収し、温度が上がると酸素を放出するという、顕著な熱重量変化特性を備え、これが高性能酸素貯蔵用又は酸素選択膜用のセラミックスとして適した性能を有することが報告されている(特許文献1参照。)。また、この酸素過剰型金属酸化物は、酸素の吸脱着時に相変化を生じさせていることが報告されている(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/004684号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】O. Chmaissem et al., J. Solid State Chem. 181, 664 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、さらなる検討を進め、上記の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着能力に影響を与える因子を模索した。そして、CO吸着量が多い場合に、酸素吸脱着能力のうち酸素吸脱着速度が大きく低減する課題が有ることを見出した。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、酸素吸脱着速度に優れる新規な酸素過剰型金属酸化物及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、上記の酸素過剰型金属酸化物を用いた、新規な酸素濃縮装置及び酸素吸脱着装置等を提供することにある。さらに、本発明の別の目的は、酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着能力を再生する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、上述した一般式A7+δで表される従来の酸素過剰型金属酸化物と同様のストイキオメトリ及び結晶構造を有しながらも、酸素脱吸着の裕度(Tolerance)に優劣を与える要因を見出し、二酸化炭素の吸着量の少ない酸素過剰型金属酸化物を用いることで上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下(1)~(20)に示す具体的態様を提供する。
(1)下記一般式(1):
j k m n 7+δ ・・・(1)
(式中、
Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有し、昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満である、酸素過剰型金属酸化物。
【0010】
(2)前記一般式(1)中のAがYを含む、上記(1)に記載の酸素過剰型金属酸化物。
(3)前記一般式(1)中のDがBaを含む、上記(1)又は(2)に記載の酸素過剰型金属酸化物。
(4)前記一般式(1)中のEがCoを含む、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物。
【0011】
(5)粉末X線回折測定において、下記(a)~(d)のすべてを有する回折パターンで特徴付けられるLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有し、
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満である、酸素過剰型金属酸化物。
なお、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物は、前記酸素過剰型金属酸化物の前駆体を酸素分圧10kPa以下で、700℃以上、950℃未満、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満で加熱処理して得られることが好ましい。
【0012】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用いた、酸素吸脱着装置。
(7)350℃未満で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、350℃以上で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させる、上記(6)に記載の酸素吸脱着装置。
(8)200℃以上400℃以下において、酸素存在下で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させる、
上記(6)に記載の酸素吸脱着装置。
(9)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用い、350℃未満で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、350℃以上で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させることにより、酸素を濃縮する、酸素濃縮装置。
(10)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を用い、200℃以上400℃以下において、酸素存在下で前記酸素過剰型金属酸化物に酸素を吸着させ、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下で前記酸素過剰型金属酸化物から酸素を放出させることにより、酸素を濃縮する、酸素濃縮装置。
【0013】
(11)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、酸素を貯蔵、分離及び/又は濃縮することを特徴とする、酸素貯蔵・分離・濃縮装置。
(12)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、貯蔵した酸素を用いて酸化反応を行うことを特徴とする、酸化反応装置。
(13)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する温熱を用いて加熱を行うことを特徴とする、加熱装置。
(14)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する冷熱を用いて冷却を行うことを特徴とする、冷却装置。
(15)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の酸素過剰型金属酸化物を備え、酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する温熱及び/又は冷熱を用いて熱交換を行うことを特徴とする、熱交換装置。
【0014】
(16)前記一般式(1)で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物を10kPa以下に真空引き下、700℃以上、950℃未満、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満で加熱処理することを特徴とする、酸素過剰型金属酸化物の製造方法。
(17)昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g以上である酸素過剰型金属酸化物を得ることを特徴とする、上記(16)記載の酸素過剰型金属酸化物の製造方法。
【0015】
また本発明の一態様では、酸素過剰型金属酸化物を触媒として使用し続けることに起因する性能劣化を防ぐこともできる。その場合の本発明の一態様は、触媒の再生方法として定義される。具体的には以下に示す(18)のとおりである。
(18) 下記一般式(1):
j k m n 7+δ ・・・(1)
(式中、Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物を、酸素分圧10kPa以下で、400℃以上、950℃未満で加熱することを特徴とする、酸素過剰型金属酸化物の再生方法。
【0016】
また、本発明は、以下(19)、(20)に示す態様としても定義可能である。
(19)Y、Ba及びCoを少なくとも0.8~1.2:0.8~1.2:3.2~4.8の化学量論比で含有し、
粉末X線回折測定において、下記(a)~(d)のすべてを有する回折パターンで特徴付けられるLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有し、
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満である、酸素過剰型金属酸化物。
(20)下記一般式(1):
j k m n 7+δ ・・・(1)
(式中、
Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)で表されるストイキオメトリを有し、上記(16)に記載の方法により製造された酸素過剰型金属酸化物。
【0017】
本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、500℃以下の温度範囲で温度または酸素分圧を上下動させると、低温度領域で異常な熱重量変化を示す。本発明者らの知見によれば、その異常な熱重量変化は、上述した酸素不定比性(不定比量:δ)の変化によるものであることが解明された。すなわち、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、典型的には、350℃未満で急速に多量の酸素を吸着し、350~400℃程度の高温度領域で急速に多量の酸素を放出する。また、200℃以上400℃以下において、酸素分圧0kPa以上酸素存在下で多量の酸素を吸着し、酸素吸着時より酸素分圧が低い圧力下では急速に多量の酸素を放出する。
【0018】
しかも驚くべきことに、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、CO吸着量の多い酸素過剰型金属酸化物と比較して、酸素吸脱着速度が非常に高いという優れた特性を有していることが見出された。
【0019】
すなわち、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、従来知られている上記一般式A7+δで表される酸素過剰型金属酸化物と同様に上記一般式(1)で表されるストイキオメトリを有することに加えて、昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満であることに一つの特徴がある。
【0020】
二酸化炭素の脱離量の合計が450μmol/g以上のものと比べて、本発明の上記各態様の酸素過剰型金属酸化物は、酸素の最大吸着能力にはほぼ差がみられないが、酸素吸脱着速度が速く、繰り返し吸脱着を短時間で繰り返すことによる単位時間内での最大酸素吸着能力の低下も見られず、実用上重要となる単位時間内での酸素の取出し能力に優れることが、本発明者らの知見により見出された。アルカリ土類金属酸化物の表面は塩基性であり、酸化性ガスであるCOが吸着しやすいことが知られており、アルカリ土類金属元素を含有する酸化物表面においても同様な現象がおこっていると推察される。表面に吸着したCOは、炭酸塩を形成する場合も多く、酸素の吸収放出を阻害しているものと推察される。但し、作用は、これらに限定されない。
【0021】
このような二酸化炭素の脱離量を有する本発明の酸素過剰型金属酸化物は、各種原料から一般式(I)で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物の前駆体を酸素分圧10kPa以下で、700℃以上、950℃未満、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満で加熱処理することにより容易に得ることができる。また、一般式(I)で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物、特に二酸化炭素の脱離量の合計が450μmol/g以上の一般式(I)で表されるストイキオメトリを有する酸素過剰型金属酸化物を、酸素分圧10kPa以下で、400℃以上、950℃未満で加熱処理することにより、容易に再生することができる。このとき、昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g以上である場合に特に有効であるが、それ以下であっても、より二酸化炭素の吸着による影響を低下させることができる。したがって、酸素過剰型金属酸化物の製造方法や再生方法においては、この二酸化炭素脱離量は限定的な要素とはならない。但し、得られる酸素過剰型金属酸化物による効果が大きくなる観点からは、酸素過剰型金属酸化物の二酸化炭素の脱離量が450μmol/g以上であることが好ましい態様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、酸素吸脱着速度に優れる新規な酸素過剰型金属酸化物及びその製造方法を提供することができる。より具体的には、酸素吸脱着速度が高い酸素過剰型金属酸化物を提供することができるので、酸素貯蔵用又は酸素選択用の実用的なセラミックス材料が実現される。しかも、本発明によれば、酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着能力を容易に再生することができるため、酸素過剰型金属酸化物のロングライフ化が図られ、経済性が殊に高められる。また、本発明によれば、酸素吸脱着速度の低い酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着速度を高くすることのできる実用的な製造方法を提供することができる。そして、本発明の酸素過剰型金属酸化物を用いることで、実用性能に優れる酸素濃縮装置及び酸素吸脱着装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】比較例1及び実施例1、2、3の酸素過剰型金属酸化物の粉末X線回折測定の結果を示す図である。
図2】比較例1の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸着量及び酸素吸脱着速度を示す図である。
図3】実施例1の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸着量及び酸素吸脱着速度を示す図である。
図4】実施例2の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着量及び酸素吸脱着速度を示す図である。
図5】実施例3の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着量及び酸素吸脱着速度を示す図である。
図6】比較例1の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着のサイクル特性を示す図である。
図7】実施例1の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着のサイクル特性を示す図である。
図8】実施例2の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着のサイクル特性を示す図である。
図9】実施例3の酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着のサイクル特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0025】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、下記一般式(1)で表されるストイキオメトリを有するものであって、昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満であることを特徴とする。
j k m n 7+δ ・・・(1)
(式中、
Aは、3価の希土類元素及びCaよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上であり、
E及びGは、それぞれ独立して、酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上であって、少なくとも1種は遷移金属元素であり、
j>0、k>0であり、それぞれ独立して、m≧0、n≧0であり、但し、j+k+m+n=6であり、0<δ≦1.5である。)
【0026】
ここで本明細書において、上記一般式(1)で表される「ストイキオメトリを有する」とは、化学量論的に上記一般式(1)中に示される各元素A、D、E、G及びOを上記一般式(1)に示す割合で少なくとも含み、これらA、D、E、G及びO以外の元素(以下、単に「他の元素」ともいう。)をさらに含有していてもよいことを意味する。すなわち、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、上記一般式(1)中に示される元素以外に、不可避不純物として或いは任意の配合成分として、他の元素を含有していてもよい。
【0027】
上記一般式(1)中、Aは、3価の希土類元素及び2価のCaよりなる群から選択される1種又は2種以上である。3価の希土類元素としては、Sc、Y及び原子番号57~71のランタノイドが挙げられ、これらの中でも、Yが好ましい。また、Aが占めるサイト(Aサイト)には複数の元素が固溶可能であるから、Aが、Y及びCaの2種であることも好ましく、さらにはAが3種以上の元素から構成されていてもよい。ここでAは、Yを50モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。なお、Yの含有割合の上限は特に限定されないが、Aは、Yを100モル%以下含むことが好ましく、より好ましくは99.9モル%以下、さらに好ましくは99.5モル%以下である。
【0028】
上記一般式(1)中、Dは、アルカリ土類金属元素から選択される1種又は2種以上である。アルカリ土類金属元素としては、Sr、Baが挙げられる。なお、本明細書において、Caは、上記一般式(1)中のAに該当するものとし、Dに該当しないものとする。ここでDは、Ba又はSrを含むことが好ましい。また、Dが占めるサイト(Dサイト)には、複数の元素が固溶可能であるから、Dが、Ba及びSrの2種であることも好ましく、さらにはDが3種以上の元素から構成されていてもよい。ここでDは、Baを50モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。なお、Baの含有割合の上限は特に限定されないが、Dは、Baを100モル%以下含むことが好ましく、より好ましくは99.9モル%以下、さらに好ましくは99.5モル%以下である。
【0029】
E及びGは、それぞれ独立して、酸素の4配位をとる元素、すなわち酸素4配位元素から選択される1種又は2種以上である。本明細書中で酸素4配位元素とは、「4個の酸素原子が配位又は結合した元素」の意味であり、以下も同様である。ここで、EとGは同一の元素とはならないものとして取り扱う。酸素4配位元素は、特に限定されないが、Co、Fe、Zn、Al等が好ましい。また、E及びGのうち、少なくとも1種は遷移金属元素である。ここでEは、Coを含むことが好ましい。また、EとGの合計を基準に、Coを50モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは87.5モル%以上である。なお、Coの含有割合の上限は特に限定されないが、EとGの合計を基準に、Coを100モル%以下含むことが好ましく、より好ましくは99.9モル%以下、さらに好ましくは99.5モル%以下である。
【0030】
上記一般式(1)中、j、k、m及びnは、これらの合計を6として規格化した値である。すなわち、j+k+m+n=6としたとき、それぞれ独立して、j>0、k>0、m≧0、n≧0である。ここで、1.2>j>0.8が好ましく、より好ましくは1.1>j>0.9である。また、1.2>k>0.8が好ましく、より好ましくは1.1>k>0.9である。さらに、4.8≧m+n≧3.2が好ましく、より好ましくは4.4≧m+n≧3.6である。また、nは0であってもよく、その場合は4.8≧m≧3.2が好ましく、より好ましくは4.4≧m≧3.6である。
【0031】
上記一般式(1)中、不定比量δは、0<δ≦1.5であることが好ましく、より好ましくは0<δ≦1.4、さらに好ましくは0<δ≦1.25である。
【0032】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の具体例としては、特に限定されないが、YBaCo7.0+δ、ScBaCo7.0+δ、YSrCo7.0+δ、ScSrCo7.0+δ等が挙げられる。さらに、M. Valldor, Solid State Sciences 6,251(2004) の第254頁の表2及び表3に記載されている化合物、例えばLuBaCo7.0+δ、YbBaCo7.0+δ、TmBaCo7.0+δ、ErBaCo7.0+δ、HoBaCo7.0+δ、DyBaCo7.0+δや、上記例示の化合物において、BaをSrに代えたものが挙げられる。また、具体的な元素の組み合わせとして、YBaCoZnO7.0+δ、YBaCoZn7.0+δ、YBaCoZn7.0+δ、YBaCoFeO7.0+δ、YBaZnFeO7.0+δ等が挙げられる。さらに、これらの化合物において、YをScに代えたもの、BaをSrに代えたもの、又は、YをScに代え、かつ、BaをSrに代えたものも挙げられる。具体的な元素の組み合わせの他の例としては、CaBaZnFe7.0+δ、CaBaZnFeAlO7.0+δ、CaBaCoZnAlO7.0+δ、CaBaCoZnAlO7.0+δ、CaBaCoAlO7.0+δ、CaBaCoFeO7.0+δ、CaBaCoZnFeO7.0+δ、CaBaCoZnFeO7.0+δ、CaBaCoFe7.0+δ、CaBaCoZnFe7.0+δ、CaBaCoZnO7.0+δ、及び、CaBaCoZn7.0+δ等が挙げられる。さらに、これらの化合物において、BaをSrに代えたものも挙げられる。
【0033】
本実施形態において、酸素過剰型金属酸化物のストイキオメトリは、例えば、ICP(Inductively coupled plasma)発光分析法や、ヨウ素滴定法等の酸化還元滴定等により測定することができる。なお、酸素については、製造条件、大気中での放置時間やその温度によって、多少の脱吸着が生じるため、不活性ガス中でアニール処理をした後に測定することが好ましいことは言うまでもない。
【0034】
本実施形態の特徴は、酸素過剰型金属酸化物それ自身の、二酸化炭素の吸着量が小さいことにある。二酸化炭素の吸着量は、昇温脱離法で二酸化炭素の脱離量を測定することにより同定することができる。この二酸化炭素の吸着量(脱離量)が小さい酸素過剰型金属酸化物は、酸素の吸脱着速度が高く、単位時間あたりの酸素供給能力に優れる。
昇温脱離法における二酸化炭素の脱離量の定量方法は、特に限定されないが、シュウ酸カルシウム1水和物を同一条件で昇温した際に得られる発生ガスのパルス面積との比較から算出することが好ましい。昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g以上であると、酸素放出速度、酸素吸着速度がともに遅くなるため、450μmol/g未満であることが好ましく、より好ましくは300μmol/g以下、さらに好ましくは150μmol/g以下である。
【0035】
酸素過剰型金属酸化物それ自身の二酸化炭素の昇温脱離量を低下させる方法としては以下の通りの方法が好ましく使用できる。すなわち酸素分圧が10kPa以下となるように真空引きまたはガス置換下、400℃以上、950℃未満で加熱処理することにより、酸素過剰型金属酸化物に吸着している二酸化炭素量を減少させることができる。これは、後述する再生処理と同様にして、二酸化炭素の吸着量が大きい酸素過剰型金属酸化物を、本発明の酸素過剰型金属酸化物として製造するための方法の一つである。
処理時間は、処理温度及び酸素分圧等に依存するが、設備負荷や生産性等を考慮すると、通常1~5時間が好ましい。同様に、真空度は、10kPa以下が好ましく、より好ましくは100Pa以下、さらに好ましくは10Pa以下である。真空度の下限値は、酸素過剰型金属酸化物が還元分解されない真空度であれば特に限定されないが、通常0.01Pa以上が好ましい。置換に使用するガスは、酸素分圧が10kPa以下であれば特に限定されないが、不活性ガス、例えばNガス、Arガス等が好ましい。また同様に、処理温度は、400℃以上、950℃未満が好ましく、より好ましくは600℃以上、850℃以下、さらに好ましくは650℃以上、800℃以下である。上述の下限値以上の温度で処理することにより、二酸化炭素が速やかに脱離するため好ましい。一方上限値以下とすることにより、粒子の成長が促進され、表面積が減少して吸着速度の低下が抑制されるため好ましい。
【0036】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、粉末X線回折測定においては、各ピークの解析は、六方晶LuBa(Zn,Al)型構造であるとして指数付けして行う。なお、粉末X線回折測定において使用する線源は、特に限定されないが、一般的に用いられているCuKαで測定することができる。また、本発明の酸素過剰型金属酸化物において、Mn、FeやCo等を多く含む場合には、蛍光X線が発生し、バックグラウンド強度が高くなってしまうことが有る。このような場合には、モノクロメータを用いたり、あるいはエネルギーフィルタ機能を持つ検出器を使用することにより、低エネルギーのX線をカットすることができる。また、XRD測定装置に蛍光X線低減モードが搭載されている場合には、それを使用することが好ましい。
また、X線の検出器としては、半導体検出器を用いることが、高感度である点から好ましい。また半導体検出器を用いることは、検出精度の点で、CuKβ線のカットに比較的シンプルなNiフィルターを使用しても検出精度が確保できる点からも好ましい。
そして、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、粉末X線回折測定において、下記(a)~(d)のすべてを有する回折パターンで特徴付けられるLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有し、昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が、450μmol/g未満である、酸素過剰型金属酸化物としても定義可能である。
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
このとき、Y、Ba及びCoを少なくとも0.8~1.2:0.8~1.2:3.2~4.8の化学量論比で含有することが好ましい。このY、Ba及びCoの比の意味するところは、化学量論組成から、20%程度の範囲で欠損や他の元素での置換などによる変動を許容しうるということである。
【0037】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、粉末X線回折測定において、従来知られた典型的な六方晶LuBa(Zn,Al)型の結晶構造と類似の回折ピークを有するが、六方晶構造の103のピーク強度が110のピーク強度より小さく、且つ、103のピークの半値幅が0.3°以上である点に一つの特徴がある。103のピークの半値幅は、0.4°以上が好ましく、より好ましくは0.5°以上、最も好ましくは0.7°以上である。
【0038】
ここで、103のピークの半値幅は、線源としてCuKαを用いた場合の値を意味する。したがって、CuKα以外の線源を用いた場合には、当該半値幅は、使用した線源の波長に応じて読み替えた値、すなわちCuKα換算した値とする。なお、粉末X線回折測定の2θの測定間隔は、特に限定されないが、測定精度の観点から0.02°以下が好ましい。なお、他のピーク(110、112、201等)についても同様である。
【0039】
本実施形態の酸素過剰型酸化物は、従来の酸素過剰型酸化物に対して、110ピークのピーク強度、特に最強線である112のピークに対する110のピークの相対強度はあまり差が無く、また、半値幅もそれほど大きくは変わらないが、103のピーク強度が非常に大きく変化したものとなっている点に一つの特徴がある。従来知られている酸素過剰型酸化物では、103のピーク強度は、最強線である112のピーク強度の8割以上であることが普通であるのに対し、110のピークは112のピーク強度の半分程度であることが多かった。また、110、103、112などの低角側の主要ピークの半値幅は、結晶性の粗悪なものでなければ0.2°以下であった。一方、本実施形態の酸素過剰型酸化物では、103ピークの半値幅は、0.3°以上に広がっている。この103のピーク形状の変化が、最も明確に検出できることが本実施形態の特徴の一つである。ここで、103のピーク強度は、112のピーク強度の80%以下であることが好ましく、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下、最も好ましくは50%以下である。
【0040】
また、本実施形態の酸素過剰型酸化物のより好ましい態様では、上述した103のピークのブロード化という特徴に加えて、従来の酸素過剰型酸化物に対する110の半値幅の変化が小さいという特徴を有する。すなわち、本実施形態の酸素過剰型酸化物は、110のピークの半値幅が、103のピークの半値幅より小さくなり、好ましくは1/2以下になる。好ましい半値幅の比の下限値は特に限定されないが、実用上は、1/100以上が一般的である。本実施形態の酸素過剰型金属酸化物において、特定の面のピークの半値幅が特に大きく変動していることは、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物が、単に結晶性が悪く、結晶子のサイズが小さいだけのものではないことを示している。
また絶対値でいえば、110ピークの半値幅が0.3°未満であることが好ましく、より好ましくは0.25°以下である。なお、110ピークの半値幅の下限値は、特に限定されない。従来の酸素過剰型酸化物と同様に、0.05°以上が好ましい。
【0041】
さらに、本実施形態の好ましい態様を別のピークで着目すると、本実施形態の酸素過剰型酸化物の201ピークの半値幅は0.25°以上が好ましく、より好ましくは0.3°以上である。201ピークも、従来知られていた酸素過剰型酸化物では、比較的ピーク強度の高いピークであり、最強線である112ピークの9割程度の強度を有していることが一般的であるが、本実施形態の好ましい態様では、ピーク強度は7割以下に低下し、110ピークと同じようなピーク高さに低下している。
【0042】
また、本実施形態の酸素過剰型酸化物は、他に213、205等のピークも現れるが、これらのピークは、最強線である112ピークに対する強度としてみた場合、従来知られているものでは強度比で0.3程度になっていたが、本実施形態の酸素過剰型酸化物としては、これらのピークが0.2以下、より好ましくは0.15以下になっていることが好ましい。
【0043】
上述した各種ピークの解析における具体的な測定手順としては、各ピーク(回折線)の極大値を抽出し、バックグラウンド強度を読み取り、各ピーク(回折線)の極大値から、バックグラウンド強度を引いた値を、各ピーク(回折線)のピーク強度(回折線強度)とする。この値が、本明細書において使用するピーク強度となる。各ピーク強度の比は、この比を取ることにより得ることができる。ここで、半値幅(FWHM)は、バックグラウンドを除去した後のピーク強度の半値における全幅として読み取る。なお、この各ピーク強度を、最強線である112のピーク強度と各ピーク強度の比を求めたものを、112ピーク強度に対する相対強度として示すこともある(“Relative I”)。
【0044】
なお、上記の粉末X線回折測定において、六方晶LuBa(Zn,Al)型の結晶構造と類似の回折ピークを有するとは、下記(a)~(d)の明確なピークをすべて有することを意味する。
(a)110のピーク
(b)103のピーク
(c)112のピーク
(d)201のピーク
【0045】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、上記(d)の201のピーク強度が、上記(c)の112のピーク強度より小さいことが好ましく、前記(d)の201のピーク強度が前記(c)の112のピーク強度の80%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは70%以下、特に好ましくは65%以下である。
【0046】
一方、上記(c)のピークは、大気焼成品と同様のシャープな形状であることが好ましい。より具体的には、上記(c)の半値幅は、0.05°以上0.3°以下であることが好ましく、より好ましくは0.1°以上0.27°以下である。
【0047】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、優れた酸素吸脱着能力を有し、500℃以下、好ましくは200℃~450℃の温度範囲で、温度を上下動させると、低温側で酸素を吸着(吸収)し、高温側で酸素を脱着(放出)する。すなわちこれは、大気中では、吸着速度と放出速度が400°近傍で平衡することを利用しており、大気中から酸素を吸脱着して取り出す場合、典型的には、350℃未満で酸素を吸着し、350~400℃程度の高温度領域で急速に酸素を放出することができる。そのため、温度上昇と下降を繰り返すことで、酸素濃度を大気中より高めた気体を作ることもできるし、また逆に、酸素濃度を下げることに使用することもできる。すなわち、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、繰り返しの使用サイクルが要求される酸素貯蔵用又は酸素選択膜用の実用化材料として、有利な特性を備えているものである。
【0048】
また、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、酸素放出速度が0.5wt%/分以上であることが好ましい。本明細書において酸素放出速度とは、350℃1気圧の窒素中に静置し重量変化を生じなくなった時点の重量を基準重量とし、次いで350℃1気圧の酸素中に静置し重量変化が起こらなくなるまで酸素吸収させた後、雰囲気ガスを350℃1気圧の窒素に切り替えたとき、前記基準重量より1.5wt%重い状態から前記基準重量より0.5wt%重い状態まで減少するまでの、単位時間あたりの重量変化(wt%/分)を意味する。
【0049】
さらに、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、酸素吸着速度が0.5wt%/分以上であることが好ましい。本明細書において酸素吸着速度とは、後述する実施例におけるサイクル特性評価を行った際の単位時間あたりの重量変化(wt%/分)で表されるものであって、3サイクル目の酸素吸着速度を意味する。
【0050】
酸素の吸着量及び脱着量の制御は、温度によるものと、酸素分圧によるものが使用できる。温度による場合は、圧力に関しては特に限定されないが、通常0~100気圧の範囲で行なわれる。典型的には、大気圧下で行えばよいが、使用条件に応じて、加圧条件下で或いは減圧条件下で行うこともできる。そして、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物を用いることで、例えば、350℃未満で酸素を吸着し350~400℃程度の高温度領域で酸素を放出させる酸素吸脱着装置や、350℃未満で酸素を吸着し350~400℃程度の高温度領域で酸素を放出させて酸素を濃縮する酸素濃縮装置を実現することができる。
次に酸素分圧を変化させることで制御する場合を説明する。200℃以上400℃以下において、酸素分圧を変化させると、酸素分圧の高い側で酸素を吸着(吸収)し、吸着時より低い側で酸素を脱着(放出)する。吸脱着の最適な酸素分圧は吸脱着時の酸素過剰型金属酸化物の温度に依存する。吸脱着時の温度が低いほど、低い酸素分圧で酸素を吸収する傾向を有し、高いほど、酸素分圧を増加させても、吸着する酸素量が減少する傾向を有する。典型的には、吸着時は大気圧(酸素分圧20kPa)下で行えばよいが、加圧条件下で行うこともでき、脱着時は吸着時より低い酸素分圧下で行えばよく、減圧条件下で行うこともできる。本実施形態の酸素過剰型金属酸化物では、酸素分圧が高いほど、吸着する酸素量が増加する傾向を有するため、酸素分圧の高低を繰り返すことで、酸素濃度を大気中より高めた気体を作ることもできるし、酸素濃度を下げることに使用することもできる。
また、温度と圧力の両方を変化させて制御しても良い。
【0051】
なお、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の使用態様は、特に限定されない。例えば、粉末、粉末を凝集させた凝集体或いは多孔質体、担体の表面に担持させた複合材、樹脂等のマトリックス中に分散させた膜として用いることができる。また、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、酸素貯蔵用セラミックスや酸素選択膜用セラミックスとして用いることができる。
【0052】
また、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の上述した酸素吸脱着原理を用いることで、酸素を貯蔵、分離及び/又は濃縮する酸素貯蔵・分離・濃縮装置;貯蔵した酸素を用いて酸化反応を行う酸化反応装置;貯蔵した酸素を用いて酸素富化を行う酸素濃縮装置;酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する温熱を用いて加熱を行う加熱装置;酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する冷熱を用いて冷却を行う冷却装置;酸素の貯蔵、分離及び/又は濃縮によって発生する温熱及び/又は冷熱を用いて熱交換を行う熱交換装置などを実現することができる。
【0053】
本発明の酸素過剰型金属酸化物を用いて製造される高濃度酸素は種々の産業分野で利用可能である。特に限定はされないが、例えば、高濃度酸素を用いると、反応性の高い高濃度の酸素中で燃料を燃焼させることになり、燃焼温度が上昇しボイラー等の効率が向上できる、使用する燃料が低減できる、それに伴い排ガス量が削減されるために装置全体が小型化、軽量化され、効率向上やコスト削減につながる、同伴窒素ガス含量が抑えられる為に有害な窒素酸化物を削減できる、等の利点がある。
【0054】
本発明の酸素過剰型金属酸化物を用いて製造される高濃度酸素の具体的な用途としては、特に限定はされないが、金属加工バーナー用途、各種炉吹込み用途(製鋼、非鉄金属溶解など)、水処理用途(酸素曝気)、硫化水素発生抑制用途、バイオ関連・培養・発酵用途、ガラス加工バーナー用途、製紙工業用途(漂泊)、酸化反応用途、オゾン発生器用途(水処理、漂泊他)、燃焼装置用途、ガソリンやディーゼルエンジン等の内燃機関用途、燃料電池用途、航空機での酸素発生用途、輸送関連用途、酸素富化空気を室内に導入する等の空調機用途、健康用酸素ガス用途、医療分野用途、活魚飼育用途、食品加工用途、ガス充填包装用途などが挙げられる。
【0055】
本実施形態の酸素過剰型金属酸化物の製造方法は、上述したストイキオメトリを有し、昇温速度40℃/分の昇温脱離法における室温から1000℃での二酸化炭素の脱離量の合計が450μmol/g未満である酸素過剰型金属酸化物が得られる限り、特に限定されない。そして特に原料に炭酸塩が含まれている場合は、焼成後の表面への二酸化炭素の吸着量が多くなりやすいため、効果が大きい。上述した二酸化炭素脱離量及び/又は粉末X線回折パターンを再現性よく簡易且つ低コストで得る観点からは、低温焼成プロセスを用いた製法が好ましい。以下、詳述する。
【0056】
好ましい低温焼成プロセスとしては、上記の酸素過剰型金属酸化物の前駆体を、酸素含有量が大気中より低い低酸素雰囲気下、従来よりも比較的に低温で焼成する製法が挙げられる。ここで、前駆体としては、前記A、D、E及びGの酸化物、炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、硝酸塩及び/又はこれらの水和物を少なくとも含むものを用いることができる。このとき、前駆体は、A、D、E、Gの酸化物や酢酸塩等を、前記一般式(1)で表されるストイキオメトリに対応する有効モル比で含むことが好ましい。ここでいう有効モル比とは、焼成処理後、前記一般式(1)で表されるストイキオメトリを実現するために必要とされるモル比を意味する。(イ)例えばYBaCo7+δの酸素過剰型金属酸化物を得る場合、Yの酸化物、Baの炭酸塩、Coの酸化物をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した混合物を、(ロ)Yの酢酸塩、Baの酢酸塩、Coの酢酸塩をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した水溶液を仮焼成した混合物を、(ハ)さらには該水溶液をクエン酸で塩交換した水溶液を仮焼成した混合物等を、(ニ)Yの硝酸塩、Baの硝酸塩、Coの硝酸塩をY:Ba:Coが1:1:4のモル比となるように混合した水溶液を仮焼成した混合物を、前駆体として用いることができる。また、前駆体の別の製造方法としては、所望の各元素を含む硝酸塩水溶液等にアンモニアやシュウ酸、炭酸アンモニウム等の沈殿剤を添加し、均一に混合された沈殿を得て、該沈殿物を回収、乾燥した、いわゆる共沈材料も好適に使用できる。
【0057】
上記の低温焼成プロセスにおける処理温度は、従来行われていた1050℃より低ければ特に限定されない。酸素吸脱着性能に優れ、繰り返し使用による酸素吸着量の低減が抑制された酸素過剰型金属酸化物を効率よく得る観点から、700℃以上、950℃未満であることが好ましく、より好ましくは720℃以上、930℃以下、さらに好ましくは750℃以上、850℃以下である。ここで、950℃未満の焼成温度とは、焼成時に保持される設定温度であり、焼成炉の設定温度である。このため焼成中の温度コントロールの際に、一時的に950℃を短時間超えてしまっても、それが極端に過度でない限り、例えば50K程度の温度上昇で、ごく短時間であれば、本発明において意図する「950℃未満の焼成温度」に包含されるものとする。なお、焼成時の昇温速度は、使用する焼成炉の特性や生産性等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。一般的には、0.5℃/分~10℃/分程度が目安とされる。
また、処理時間も特に限定されない。一般的には、5~24時間程度が目安とされる。なお、一定の処理温度で保持している間の時間を、上記の低温焼成プロセスにおける処理時間(焼成時間)とする。
【0058】
上記の低温焼成プロセスは、酸素含有量が大気中より低い低酸素雰囲気下、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満であれば、特に限定されない。ここで、酸素含有量が大気中より低い低酸素雰囲気とは、酸素含有量が20体積%以下であることを意味し、実質的に酸素を含有しない無酸素雰囲気(酸素含有量が0体積%)を含む概念である。酸素吸脱着性能に優れ、繰り返し使用による酸素吸着量の低減が抑制された酸素過剰型金属酸化物を効率よく得る観点から、低温焼成プロセス工程において、酸素含有量は5体積%以下が好ましく、より好ましくは3体積%以下、さらに好ましくは1体積%以下であり、特に好ましくは20ppm以下である。また、焼成温度、すなわち焼成工程の最高温度になる時点では、酸素濃度が5体積%以下であることがより好ましい。なお、酸素含有量の下限は、特に限定されず、0体積%以上であればよい。具体的には、酸素含有量が上記の好ましい範囲内にある不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、Nガス、Arガス等が例示される。また、処理圧力は、特に限定されない。一般的には常圧下で行えばよいが、加圧下や減圧下で行うこともできる。特に炉外からの酸素の流入を防ぐ点からは、加圧下で焼成することが好ましい。
さらに焼成温度で処理中の炉内雰囲気ガス中に二酸化炭素が存在すると、酸素過剰型金属酸化物に吸着し、酸素の吸脱着能力が低下するため、降温開始直前には炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度は0.01vol%未満が好ましく、0vol%がより好ましい。前駆体から二酸化炭素が発生する場合、特に原料に炭酸塩が含まれている場合には、その吸着を防ぐ点からは減圧下で焼成することが好ましい。
通常、酸素過剰型金属酸化物に吸着する二酸化炭素としては、炉外からの流入によるもの、または前駆体が反応して酸素過剰型金属酸化物となる過程で発生するものが挙げられる。なかでも前駆体から発生する二酸化炭素濃度の調整は困難であるが、本発明者らの検討により、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度を低く保つことができれば、本実施形態の酸素過剰型金属酸化物を得られることが明らかとなった。よって、低温焼成プロセスの昇温中、及び/又は焼成時間中に、二酸化炭素濃度が高くなったとしても、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満とすることで本発明の効果を得ることができる。降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度を0.01vol%未満とするためには、具体的には、処理時間、処理温度、前駆体の量、供給する雰囲気ガスの流量、減圧時の真空度等を適宜調整して、降温開始直前までに発生した二酸化炭素を十分に炉外へ排気すればよい。
【0059】
上記の低温焼成プロセスを行った後、大気中で冷却等することで本実施形態の酸素過剰型金属酸化物が得られる。本実施形態の酸素過剰型金属酸化物は、好ましくは酸素を脱着させたときにLuBa(Zn,Al)型の結晶構造を有する。
【0060】
なお、得られる酸素過剰型金属酸化物の化学組成は、常法にしたがって求めることができ、例えばヨウ素滴定法やICP発光分析法等によって求めることができる。具体的には、一般式A7+δで表される酸素過剰型金属酸化物(例えばYBaCo4 7+δ)の化学組成は、次の手順で求めることができる。
(1)ヨウ素滴定法でCoの平均価数を求める。
(2)ICP発光分析法により、Y、Ba及びCoのモル比を求める。
(3)前記モル比から、前記(1)式におけるj、k、m、nの値を、j+k+m+n=6を満たすように規格化する。
(4)Coの平均価数及び(3)で規格化したj、k、m、nの値から、電荷バランスを考慮して、酸素原子の数を求める。
(5)以上の計算結果から、化学組成を決定する。
【0061】
上述した本発明の知見は、使用環境により、酸素過剰型金属酸化物の能力が低下したときにも適用することができる。例えば本発明の酸素過剰型金属酸化物を大気中で温度を上下させることにより酸素を吸脱着させ、酸素の濃縮等に使用した場合、使用条件によっては大気中の二酸化炭素の吸着が生じ、酸素の吸脱着能力が低下してくることが考えられる。その際に、酸素分圧10kPa以下で、400℃以上、950℃未満で加熱することにより、酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着能力を再生することができる。
このような再生処理は、例えば酸素濃縮装置の単位時間当たりの酸素の濃縮量が、予め決めておいた量以下になった時、或いは濃縮回数がある一定の回数以上に達したときに行うことができ、酸素吸脱着能力を元のレベルに戻すことができるため好ましい。この再生処理時の好ましい条件は、製造方法の欄で説明した条件と同じである。
【0062】
すなわち、酸素分圧が10kPa以下となるように真空引きまたはガス置換下、400℃以上、950℃未満で加熱処理することにより、酸素過剰型金属酸化物に吸着している二酸化炭素量を減少させることができる。処理時間は、処理温度及び酸素分圧等に依存するが、設備負荷や生産性等を考慮すると、通常1~5時間が好ましい。同様に、真空度は、10kPa以下が好ましく、より好ましくは100Pa以下、さらに好ましくは10Pa以下である。真空度の下限値は、酸素過剰型金属酸化物が還元分解されない真空度であれば特に限定されないが、通常0.01Pa以上が好ましい。置換に使用するガスは、酸素分圧が10kPa以下であれば特に限定されないが、不活性ガス、例えばNガス、Arガス等が好ましい。また同様に、処理温度は、400℃以上、950℃未満が好ましく、より好ましくは600℃以上、850℃以下、さらに好ましくは650℃以上、800℃以下である。上述の下限値以上の温度で処理することにより、二酸化炭素が速やかに脱離するため好ましい。一方上限値以下とすることにより、粒子の成長が促進され、表面積が減少して吸着速度の低下が抑制されるため好ましい。
【実施例0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0064】
(比較例1)
出発原料として、Y(CHCOO)・4HO、Ba(CHCOO)、Co(CHCOO)・4HOを、Y:Ba:Co=1:1:4のモル比になるように秤量した。次に、これらを純水に溶解し、酢酸塩水溶液を作製した。作製した水溶液をスプレードライし、粉末とした。得られた粉末を空気中600℃で7時間仮焼成し、前駆体を作製した。得られた前駆体を窒素気流中800℃で12時間焼成した。800℃からの降温開始時の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度は0.44vol%であった。その後、メノウ乳鉢中で粉砕及び混合し、比較例1の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo4 7+δ)を得た。
【0065】
(実施例1)
比較例1の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo4 7+δ)をロータリーポンプで真空引き下(酸素分圧30Pa以下)、700℃で2時間熱処理を実施し、酸素過剰型金属酸化物の再生を行って実施例1の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo4 7+δ)を得た。
【0066】
(実施例2)
比較例1の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo4 7+δ)をロータリーポンプで真空引き下(酸素分圧30Pa以下)、750℃で4時間熱処理を実施し、酸素過剰型金属酸化物の再生を行って実施例2の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo4 7+δ)を得た。
【0067】
(実施例3)
比較例1で得られた前駆体を窒素気流中(酸素分圧0.1kPa以下)800℃で15時間焼成した。800℃からの降温開始時の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度は0vol%であった。その後、メノウ乳鉢中で粉砕及び混合し、実施例3の酸素過剰型金属酸化物(YBaCo4 7+δ)を得た。
【0068】
<粉末X線回折測定>
得られた比較例1及び実施例1,2,3の酸素過剰型金属酸化物の粉末X線回折測定を行った。図1に、各酸素過剰型金属酸化物の粉末X線回折パターンを示す。図1中、上から順に、比較例1(作製時、降温開始前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%以上)、実施例1(作製後に真空引き下700℃の加熱処理あり)、実施例2(作製後に真空引き下750℃の加熱処理あり)、実施例3(作製時、降温開始直前の炉内雰囲気ガス中の二酸化炭素濃度が0.01vol%未満)の粉末X線回折パターンをそれぞれ示す。
測定範囲は2θが10°から65°の範囲で行った。ただし、主要なピークは60°までに存在するため、図面には60°までを示している。測定の間隔は0.02°、使用した装置と条件は、以下のとおりである。
装置:オランダ PANalytical社製X‘Pert Pro MPD
加速電圧:45kV
電流:30mA
【0069】
図1に示されるように、比較例1及び実施例1,2,3のいずれにおいても、強度の強いすべての回折線を、六方晶LuBa(Zn,Al)と同じ単位格子の回折線に指数付けすることができた。
【0070】
<COガス濃度測定>
比較例1及び実施例3の前駆体焼成時に、炉内の中央付近に吸気管を挿入し、理研計器株式会社製のポータブルマルチガス測定器(RX-515)にて、昇温開始からサンプル取り出しまでの間、5分間隔で二酸化炭素濃度を測定した。
【0071】
<昇温時発生ガス測定1>
得られた比較例1及び実施例1の酸素過剰型金属酸化物を、直ちに測定装置にセットし、室温から1000℃まで昇温時発生ガス種及びその量の測定を行った。表1に発生ガス種とその量を示す。表1より、CO発生量は、比較例1では460μmol/gであるのに対し、実施例1では94μmol/gとなっている。すなわち、実施例1では、CO発生量が、約1/5まで大きく減少していることがわかる。
測定手法及び使用装置は以下のとおりである。試料を白金ボートに入れ、石英加熱管にセット後、He 80ccmフロー下、40℃/分で1000℃まで昇温した。その間の出口ガスを質量分析計に導入してガス成分を測定した。定量はOについては空気中のOの検量線から、HOについては空気中のNの検量線及び、Nとの相対感度係数を用いて計算した。CO,COについてはNと感度が同等と仮定してNの検量線を用いて計算した。なお、Oは2つのピークが検出されたため、低温域で発生したガス量,高温域で発生したガス量の順で表中に記した。
装置:キャノンアネルバ製:AGS-7000
【0072】
【表1】
【0073】
<昇温時発生ガス測定2>
得られた比較例1及び実施例1,2,3の酸素過剰型金属酸化物を、直ちに測定装置にセットし、室温から1000℃まで昇温時発生ガス種及びその量の測定を行った。表2に発生ガス種とその量を示す。表2より、CO発生量は、比較例1では543μmol/gであるのに対し、実施例1では69μmol/g、実施例2では10μmol/g、実施例3では73μmol/gとなっている。すなわち、実施例1、2、3では、CO発生量が、約1/5~1/50まで大きく減少していることがわかる。
測定手法及び使用装置は以下のとおりである。試料を白金ボートに入れ、石英加熱管にセット後、He 80ccmフロー下、40℃/分で1000℃まで昇温した。その間の出口ガスを質量分析計に導入してガス成分を測定した。Oについては空気中のOの検量線から、HO,CO,COについてはシュウ酸カルシウム1水和物を同一条件で昇温した際に得られる発生ガスピーク面積と比較して定量した。なお、Oは2つのピークが検出されたため、低温域で発生したガス量,高温域で発生したガス量の順で表中に記した。
装置:キャノンアネルバ製:AGS-7000
【0074】
【表2】
【0075】
<酸素吸着量・酸素放出速度の測定>
得られた比較例1及び実施例1、2、3の酸素過剰型金属酸化物を、直ちに測定装置にセットし、酸素吸着量及び酸素放出速度の測定を行った。ここでは、比較例1及び実施例1、2、3の酸素過剰型金属酸化物を、窒素気流中350℃で保持し、ガス雰囲気を酸素に切り換えた際の重量変化を計測した。図2、3、4、5は、比較例1及び実施例1、2、3の酸素過剰型金属酸化物の熱重量変化を示すグラフである。図2、3、4、5に示すとおり、比較例1及び実施例1、2、3のいずれにおいても、ガス切換直後から酸素吸収に伴う急激な重量増加を示した。このとき、酸素吸着時の飽和重量は、比較例1及び実施例1,2,3で大きな差異は認められず2wt%程度であった。続いて、酸素から窒素にガス切り替えをしたところ、酸素放出に伴う急激な重量減少が見られた。酸素吸着量を1.5wt%から0.5wt%にする際の酸素放出速度は、比較例1では0.25wt%/分であるのに対し、実施例1、2、3ではそれぞれ0.59wt%/分、0.60wt%/分、0.87wt%/分と約2.4から3.5倍に向上していることがわかる。
以上のことから、実施例1、2、3の酸素過剰型金属酸化物は、酸素放出速度は0.5wt%/分以上という優れた酸素吸収放出能力を有し、これらの酸素放出速度は、比較例1に対して、約2~4倍にも向上していることがわかる。
【0076】
<サイクル特性の評価>
次いで、得られた比較例1及び実施例1、2,3の酸素過剰型金属酸化物のサイクル特性をTG熱重量測定で評価した。その結果を、図6、7、8,9に示す。ここでは、空気中(酸素濃度21%)、9分間470-480℃に保って酸素を放出させた後、470℃→230℃を7分で降温させ、230℃→470℃を5分で昇温させることを3回繰り返した。温度と重量の測定間隔は1秒おきに行った。その際の酸素吸着脱着に伴う重量変化を測定した。図6、7、8、9中、温度変化は点線で示し、重量変化は実線で示す。
【0077】
図6に示すとおり、比較例1の酸素過剰型金属酸化物の重量変化は、約1.0wt%と小さかったが、サイクル数の増加に伴う最大酸素吸着量の低下は観測されなかった。また、酸素吸着時の温度スイングへの追随性(応答性)が悪く、酸素吸着速度が低いことも判明した。一方、図7,8,9に示すとおり、実施例1、2、3の酸素過剰型金属酸化物の重量変化は、約2wt%と大きく、また、サイクル数の増加に伴う最大酸素吸着量の低下は観測されなかった。さらに、酸素吸着時の温度スイングへの追随性(応答性)が良く、酸素吸着速度が高いことも判明した。以上のことから、実施例1、2、3の酸素過剰型金属酸化物は、最大酸素吸着量が大きく実用的であるのみならず、酸素吸着速度が高く、繰り返し使用の耐久性にも優れることが確認された。
【0078】
上記のサイクル特性評価における、比較例1及び実施例1、2,3の酸素吸着から放出に転じる温度を表3に示す。
【表3】
【0079】
この結果から、本発明の酸素過剰型金属酸化物は、比較例の酸素過剰型金属酸化物よりも、低温、つまり早い時期から酸素を放出することができることがわかる。
【0080】
また、各サイクルの酸素の最大吸着量と、3回目の吸着量維持率、そして1回目と3回目の酸素最大吸着量の差を表4に示す。
【表4】
【0081】
この結果から、本発明の酸素過剰型金属酸化物は、短時間での吸脱着を3回繰り返した時も吸着量がほとんど初期状態を維持しており、顕著に優れることが判明した。また、最大吸着量の絶対値を比較すると、本試験条件で酸素の吸脱着を行った場合、本発明の酸素過剰型金属酸化物は、比較例1に対して、約2倍の酸素吸着量を有することがわかる。このことは、本発明の酸素過剰型金属酸化物を用いて装置を構成する際、大きさや重量を約半分に削減可能であること、酸素吸脱着させるときの温度を上げ下げする際に必要なエネルギーが半減し、かつ装置の温度コントロールも容易(温度が均一にしやすい)になること、単位時間当たりの酸素吸脱着回数を増やせることを意味し、極めて大きな効果である。
【0082】
<酸素吸着速度の評価>
また、上記サイクル特性の結果から、比較例1と実施例1,2,3とで各サイクルにおける酸素吸着速度に大きな差が有ることは図から明らかであるが、特にその差が顕著に表れているデータとして、酸素吸着量を0.4wt%から0.9wt%にする際の酸素吸着速度に着目して、対比説明する。
【0083】
3サイクル目の酸素吸着速度は、実施例1、2、3は、それぞれ0.62wt%/分、0.66wt%/分、0.99wt%/分であるのに対し、比較例1は0.14wt%/分であった。このことから、本発明の酸素過剰型金属酸化物は、本試験条件で酸素吸着量を0.4wt%から0.9wt%にする際の酸素吸着速度が0.6wt%/分以上であることがわかる。それと同時に、本発明の酸素過剰型金属酸化物は、本試験条件で酸素の繰り返し吸脱着を繰り返しても、1.5wt%以上、より好ましくは1.7wt%以上の酸素吸着能力を発揮するものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の酸素過剰型金属酸化物は、酸素吸脱着能力に優れ、酸素吸脱着速度が非常に高く、その上さらに繰り返し使用時の耐久性が高いため、繰り返しの使用サイクルが要求される酸素貯蔵用、酸素濃縮用、酸素分離用又は酸素選択膜用の実用化材料として、広く且つ有効に利用可能である。また、従来と比べて酸素吸脱着能力が高められているので、これらの用途における小型化及び省エネルギー化にも資する。また酸素吸着量の維持率にも優れ、かつ本発明の再生方法により、酸素過剰型金属酸化物の酸素吸脱着能力を容易に再生することができるため、酸素過剰型金属酸化物のロングライフ化が図られ、経済性が殊に高められる。さらに、比較的に低温域で作動する材料であることから、燃料電池や自動車の排ガス浄化装置の三元触媒等、寒冷地用の実用化材料としても殊に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9