(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095913
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】線維化の進行抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220621BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220621BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220621BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220621BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220621BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220621BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220621BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P17/00
A61P43/00 105
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K19/00
C07K16/46
C07K16/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067622
(22)【出願日】2022-04-15
(62)【分割の表示】P 2022500682の分割
【原出願日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/044406
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113908
【氏名又は名称】マルホ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 歩
(72)【発明者】
【氏名】久住 藍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 英基
(57)【要約】 (修正有)
【課題】線維化の進行を抑制するための新たな手段を提供する。
【解決手段】IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有する、全身性強皮症における線維化の進行抑制用の医薬組成物を提供する。別の態様において、本開示は、IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有する、全身性強皮症における線維化進行を抑制するためのTh2偏倚抑制用の医薬組成物を提供する。特定の態様において、前記抗体は、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有する、全身性強皮症における線維化の進行抑制剤。
【請求項2】
Th2偏倚を抑制する、請求項1に記載の線維化の進行抑制剤。
【請求項3】
前記抗体が、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である、請求項1~2のいずれかに記載の線維化の進行抑制剤。
【請求項4】
前記抗体が、
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む抗体;
(2) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む抗体;または
(3) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む抗体
である、請求項1~3のいずれかに記載の線維化の進行抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分とする医薬組成物に関する。一態様において、本開示は、IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有する全身性強皮症における線維化の進行抑制剤に関する。一態様において、本開示は、IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有する全身性強皮症における線維化進行抑制のためのTh2偏倚抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
全身性強皮症(Systemic sclerosis;SSc)は、皮膚および内臓におけるコラーゲンなどの細胞外マトリックスの過剰蓄積を特徴とする結合組織病である(非特許文献1~2)。この過剰蓄積の結果として起こる線維化は、患者を衰弱させ生命を脅かす可能性のある組織機能障害や臓器不全をもたらす。SScの病因は未だ不明であるが、自己免疫、血管障害、線維化の3つの異常が大きく関与する。免疫異常については、SSc患者および動物モデルの両方において、T細胞の活性化および偏倚(polarization、偏向、シフト)について広範な研究がなされている(非特許文献3)。例えば、SScの初期段階において、CD4+ T細胞が皮膚病変部に浸潤することが示されている(非特許文献4)。この浸潤したT細胞は、活性化マーカーを高発現していることが示されている(非特許文献5)。また、末梢血においても同様にT細胞の活性化が見出されている(非特許文献6)。さらに、SScにおける活性化したCD4+ T細胞は、T helper (Th) 2型に偏倚している(非特許文献3、7)。実際に、主なTh2サイトカイン(Th2細胞により産生されるサイトカイン)であるインターロイキン(IL)-4、IL-6、およびIL-13がSSc患者の皮膚および血清において過剰発現している(非特許文献8~11)。Th2サイトカインは、SSc様の動物モデルとして知られるブレオマイシン誘導性SScモデル(BLM-SSc)マウスにおける皮膚および肺の線維症との関連性も報告されている(非特許文献12~13)。メカニズム的にこれらTh2サイトカインは、線維芽細胞のコラーゲン産生を直接誘導する(非特許文献14~16)。さらに、IL-4およびIL-6は、ナイーブCD4+ T細胞をTh2細胞へと分化させ、Th2応答および線維化促進反応を持続させる(非特許文献17~18)。総合すると、これらの報告は、Th2優位であることは、線維化を進行させるSScの重要な免疫学的特徴であることを示唆している。
【0003】
Th2優位の疾患との関連性が示唆されている因子として、IL-4、IL-6、IL-13の他に、IL-6ファミリーTh2サイトカインであるIL-31が挙げられる。具体的には、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、および皮膚T細胞リンパ腫などのTh2優位の疾患においてIL-31が高発現していることが示されている(非特許文献19~24)。SScとの関連では、BLM-SScマウスの線維性の肺においてIL-31の発現が増加していることが報告されている(非特許文献25)。
SScの重要な病理学的特徴として、線維芽細胞によるコラーゲン等の細胞外マトリックスの過剰産生とその過剰蓄積が知られており、これにより皮膚および内臓の進行性の線維化がもたらされる(非特許文献26)。SScのコラーゲン等の過剰産生とその過剰蓄積におけるIL-31の役割を調べた報告はほとんどないが、最近になって、健康人由来の皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生がIL-31刺激によって促進されたことが報告された(非特許文献27、28)。しかし、これらの報告では、SSc患者由来の皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生は、IL-31刺激によって増加しなかった。このように、線維化におけるIL-31の役割は未だ明らかになっていない。また、抗IL-31受容体A抗体を投与することで線維化の進行が抑制できることを確認した報告もない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gabrielli A, Avvedimento EV, Krieg T. Scleroderma. N Engl J Med 2009; 360:1989-2003.
【非特許文献2】Yoshizaki A. Pathogenic roles of B lymphocytes in systemic sclerosis. Immunol Lett 2018;195:76-82.
【非特許文献3】O'Reilly S, Hugle T, van Laar JM. T cells in systemic sclerosis: a reappraisal. Rheumatology (Oxford) 2012;51:1540-9.
【非特許文献4】Roumm AD, Whiteside TL, Medsger TA, et al. Lymphocytes in the skin of patients with progressive systemic sclerosis. Quantification, subtyping, and clinical correlations. Arthritis Rheum 1984;27:645-53.
【非特許文献5】Kalogerou A, Gelou E, Mountantonakis S, et al. Early T cell activation in the skin from patients with systemic sclerosis. Ann Rheum Dis 2005;64:1233-5.
【非特許文献6】Fiocco U, Rosada M, Cozzi L, et al. Early phenotypic activation of circulating helper memory T cells in scleroderma: correlation with disease activity. Ann Rheum Dis 1993;52:272-7.
【非特許文献7】Barron L, Wynn TA. Fibrosis is regulated by Th2 and Th17 responses and by dynamic interactions between fibroblasts and macrophages. Am J Gastrointest Liver Physiol 2011;300:G723-8.
【非特許文献8】Sato S, Hasegawa M, Takehara K. Serum levels of interleukin-6 and interleukin-10 correlate with total skin thickness score in patients with systemic sclerosis. J Dermatol Sci 2001;27:140-6.
【非特許文献9】Hasegawa M, Fujimoto M, Kikuchi K, et al. Elevated serum levels of interleukin 4 (IL-4), IL-10, and IL-13 in patients with systemic sclerosis. J Rheumatol 1997;24:328-32.
【非特許文献10】Salmon-Ehr V, Serpier H, Nawrocki B, et al. Expression of interleukin-4 in scleroderma skin specimens and scleroderma fibroblast cultures. Potential role in fibrosis. Arch Dermatol 1996;132:802-6.
【非特許文献11】Koch AE, Kronfeld-Harrington LB, Szekanecz Z, et al. In situ expression of cytokines and cellular adhesion molecules in the skin of patients with systemic sclerosis. Pathobiology 1993; 61:239-46.
【非特許文献12】Yoshizaki A, Yanaba K, Iwata Y, et al. Cell Adhesion Molecules Regulate Fibrotic Process via Th1/Th2/Th17 Cell Balance in a Bleomycin-Induced Scleroderma Model. J Immunol 2010;185:2502-15.
【非特許文献13】Yamamoto T, Takagawa S, Katayama I, et al. Animal model of sclerotic skin. I: Local injections of bleomycin induce sclerotic skin mimicking scleroderma. J Invest Dermatol 1999;112:456-62.
【非特許文献14】Postlethwaite AE, Holness MA, Katai H, et al. Human fibroblasts synthesize elevated levels of extracellular matrix proteins in response to interleukin 4. J Clin Invest 1992;90:1479-85.
【非特許文献15】O'Reilly S, Ciechomska M, Cant R, et al. Interleukin-6 (IL-6) trans signaling drives a STAT3-dependent pathway that leads to hyperactive transforming growth factor-β (TGF-β) signaling promoting SMAD3 activation and fibrosis via Gremlin protein. J Biol Chem 2014;289:9952-60.
【非特許文献16】Lee CG, Homer RJ, Zhu Z, et al. Interleukin-13 induces tissue fibrosis by selectively stimulating and activating transforming growth factor β1. J Exp Med 2001;194:809-21.
【非特許文献17】Kopf M, Le GG, Bachmann M, et al. Disruption of the murine IL-4 gene blocks Th2 cytokine responses. Nature 1993;362:245-8.
【非特許文献18】Rincon M, Anguita J, Nakamura T, et al. Interleukin (IL)-6 directs the differentiation of IL-4-producing CD4+ T cells. J Exp Med 1997;185:461-9.
【非特許文献19】Lei Z, Liu G, Huang Q, et al. SCF and IL-31 rather than IL-17 and BAFF are potential indicators in patients with allergic asthma. Allergy 2008;63:327-32.
【非特許文献20】Lai T, Wu D, Li W, et al. Interleukin-31 expression and relation to disease severity in human asthma. Sci Rep 2016;6:22835.
【非特許文献21】Neis MM, Peters B, Dreuw A, et al. Enhanced expression levels of IL-31 correlate with IL-4 and IL-13 in atopic and allergic contact dermatitis. J Allergy Clin Immunol 2006;118:930-7.
【非特許文献22】Raap U, Wichmann K, Bruder M, et al. Correlation of IL-31 serum levels with severity of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol 2008;122:421-3.
【非特許文献23】Ohmatsu H, Sugaya M, Suga H, et al. Serum IL-31 levels are increased in patients with cutaneous T-cell lymphoma. Acta Derm Venereol 2012;92:282-3.
【非特許文献24】Nattkemper LA, Martinez-Escala ME, Gelman AB, et al. Cutaneous T-cell Lymphoma and Pruritus: The Expression of IL-31 and its Receptors in the Skin. Acta Derm Venereol 2016;96:894-8.
【非特許文献25】Shi K, Jiang J, Ma T, et al. Pathogenesis pathways of idiopathic pulmonary fibrosis in bleomycin-induced lung injury model in mice. Respir Physiol Neurobiol 2014;190:113-7.
【非特許文献26】Yoshizaki A, Yanaba K, Ogawa A, et al. The specific free radical scavenger edaravone suppresses fibrosis in the bleomycin-induced and tight skin mouse models of systemic sclerosis. Arthritis Rheum 2011;63:3086-97.
【非特許文献27】Yaseen B, Lopez H, Taki Z, et al. Interleukin-31 promotes pathogenic mechanisms underlying skin and lung fibrosis in scleroderma. Rheumatology (Oxford). [Epub ahead of print: 4 May 2020].
【非特許文献28】Taki Z, Gostjeva E, Thilly W, et al. Pathogenic Activation of Mesenchymal Stem Cells is induced by the Disease Microenvironment in Systemic Sclerosis. Arthritis Rheum [Epub ahead of print: 31 Mar 2020].
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示における発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、一態様において、線維化の進行を抑制するための新たな手段を提供することを目的とする。また、別の態様において、本開示における発明は、全身性強皮症における線維化進行のもう一つの重要な特徴であるTh2偏倚を抑制するための新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、全身性強皮症モデル動物への抗IL-31受容体A遮断抗体(blocking antibody)の投与により線維化の進行が抑制されることを見出した。さらに、本発明者らは、抗IL-31受容体A抗体の投与により、T細胞のTh2偏倚が抑制されることを見出した。
【0007】
本開示はこのような知見に基づくものであり、具体的には以下に例示的に記載する実施態様を包含する。
〔A1〕IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有する、全身性強皮症における線維化の進行抑制剤。
〔A2〕Th2偏倚を抑制する、〔A1〕に記載の線維化の進行抑制剤。
〔A3〕前記抗体が、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である、〔A1〕~〔A2〕のいずれかに記載の線維化の進行抑制剤。
〔A4〕前記抗体が、
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む抗体;
(2) 配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む抗体;または
(3) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む抗体
である、〔A1〕~〔A3〕のいずれかに記載の線維化の進行抑制剤。
〔B1〕IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有し、全身性強皮症における線維化の進行を抑制するTh2偏倚抑制剤。
〔B2〕前記抗体が、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である、〔B1〕に記載のTh2偏倚抑制剤。
〔D1〕IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有する、全身性強皮症における線維化進行抑制用の医薬組成物。
〔D2〕IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分として含有し、全身性強皮症における線維化の進行を抑制するための、Th2偏倚抑制用の医薬組成物。
〔D3〕前記抗体が、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である、〔D1〕~〔D2〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔E1〕IL-31受容体Aに対する抗体を投与することを含む、全身性強皮症における線維化の進行を抑制する方法。
〔E2〕IL-31受容体Aに対する抗体を投与することを含む、全身性強皮症における線維化進行抑制のために、Th2偏倚を抑制する方法。
〔E3〕前記抗体が、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である、〔E1〕~〔E2〕のいずれかに記載の方法。
〔F1〕全身性強皮症における線維化の進行抑制において使用するための、IL-31受容体Aに対する抗体。
〔F2〕Th2偏倚を抑制し、全身性強皮症における線維化の進行抑制において使用するための、IL-31受容体Aに対する抗体。
〔F3〕前記抗体が、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である、〔F1〕~〔F2〕のいずれかに記載の抗体。
〔G1〕全身性強皮症における線維化進行抑制剤の製造における、IL-31受容体Aに対する抗体の使用。
〔G2〕全身性強皮症における線維化進行抑制用のTh2偏倚抑制剤の製造における、IL-31受容体Aに対する抗体の使用。
〔G3〕前記抗体が、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である、〔G1〕~〔G2〕のいずれかに記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】抗IL-31RA抗体が、BLM-SScマウスにおいて誘導された線維化の進行を抑制したことを示す図である。(A)BLM-SScマウス、及びPBSで処置した対照(PBS-ctrl)マウス(各グループn=5)に、抗マウスIL-31RA抗体(αIL-31RA)又はアイソタイプ対照IgG(Iso)を、1日目、8日目、及び15日目に投与し、22日目に評価のために屠殺した。(B)各マウスから得られた組織切片を用いて、真皮の厚さ及び肺線維化スコアを検討した。ヘマトキシリン及びエオシンで染色した、皮膚及び肺の代表的な組織切片を示した(横方向スケールバー=100μm)。縦方向の矢印付きのバーは真皮の厚さを表す。(C)これらのマウスの皮膚及び肺におけるIL-4、IL-6、IL-10、IL-17A、TNF-α、TGF-β1及びIFN-γのmRNA発現を、リアルタイムPCRで評価した。棒グラフは平均+標準偏差を示す。*p<0.05、**p<0.01、及び***p<0.001。
【
図2】抗IL-31RA抗体が、BLM-SScマウスにおけるTh2偏倚を抑制したことを示す図である。(A)抗マウスIL-31RA抗体(αIL-31RA)又はアイソタイプ対照IgG(Iso)を投与したBLM-SScマウス及びPBSで処置した対照(PBS-ctrl)マウスの、脾臓におけるTh1、Th2、Th17、及びTreg細胞の割合を、フローサイトメトリーで分析した。脾細胞をCD3
+集団にゲーティングした後、IFN-γ
+CD4
+細胞をTh1細胞として同定し、IL-4
+CD4
+細胞をTh2細胞として同定し、IL-17A
+CD4
+細胞をTh17細胞として同定した。CD3
+CD4
+集団にゲーティングした細胞のうち、CD25
+Foxp3
+細胞をTreg細胞とした。棒グラフは平均+標準偏差を示す。(B)IL-4及びIL-6の血清中濃度を特異的ELISAアッセイで評価した。符号は、各マウスを表す。横線は平均値を表す。*p<0.05、**p<0.01、及び***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一態様において、本開示は、IL-31受容体Aに対する抗体を有効成分とする、全身性強皮症における線維化の進行抑制用の医薬組成物、および全身性強皮症における線維化進行抑制のためのTh2偏倚抑制用の医薬組成物(本明細書において、それぞれ、全身性強皮症における線維化進行抑制剤、全身性強皮症における線維化進行抑制のためのTh2偏倚抑制剤とも称される)を提供する。
一態様において、本開示の医薬組成物は、全身性強皮症における線維化の進行を抑制することができ、例えば皮膚や内臓(例えば肺)の硬化の進行、ならびに/または線維化の進行を抑制することができる。一態様において、本開示の医薬組成物は、全身性強皮症におけるTh2偏倚を抑制することができ、例えば全身性強皮症におけるTh2サイトカインの産生、および/または全身性強皮症におけるTh2優位の状態の進行を抑制することができる。
【0010】
線維化が起こる病変は「線維症」と呼ばれ、線維化が起こる組織によって、皮膚線維症、肺線維症、肝線維症などと呼ばれる。「全身性強皮症(Systemic sclerosis(SSc))」では、この線維化が皮膚や内臓において起こる。
【0011】
SScの発症においてはCD4+ T細胞が重要な役割を果たし、SScの初期段階でCD4+ T細胞が皮膚病変部に浸潤することが知られている。CD4+ T細胞には、Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞、制御性T細胞(Treg)等のサブタイプが知られており、各サブタイプに特徴的なサイトカイン分泌パターンが知られている。中でもTh1細胞とTh2細胞は、互いの機能を制御し平衡関係を保つことにより、生体の恒常性を維持している。この平衡関係(Th1/Th2バランス)がいずれかのサブタイプに偏ることにより、各サブタイプに特有の疾患が生じるといわれている。Th1/Th2バランスがTh1優位に偏ることは「Th1偏倚」と呼ばれ、Th2優位に偏ることは「Th2偏倚」と呼ばれる。また、Th1細胞とTh2細胞だけでなく、Th17細胞とTreg細胞を含めた各CD4+ T細胞サブタイプの間の平衡関係の偏りも疾患の発生に関与するといわれている。なお、「Th2偏倚」は、「Th2型への偏向」または「Th2型の免疫反応へのシフト」と表現することもでき、他のCD4+ T細胞サブタイプへの偏倚についても同様である。
【0012】
本明細書において「線維化」とは、コラーゲンなどの細胞外マトリックスが皮膚や内臓に蓄積した結果として皮膚や内臓が硬くなる現象を指す。一度線維化した部分は元の軟らかい組織に戻ることは無いことが知られている。
【0013】
本明細書において「線維化の進行を抑制する」および「線維化進行抑制」とは、線維化の進行を対照(例えば、本開示の線維化進行抑制剤を投与しない場合の対象または対象集団)と比べて抑制または阻害することを指す。
【0014】
線維化の程度を評価するための種々の方法が公知である。皮膚の線維化については、例えば、顕微鏡観察された皮膚組織サンプルにおける皮膚の厚さにより評価することができる。肺の線維化については、例えば、Ashcroftスコアとして公知の肺線維化スコアにより重症度を評価することができる。
【0015】
本明細書において「Th2偏倚を抑制する」および「Th2偏倚の抑制」とは、Th1/Th2バランスがTh2優位に偏るのを対照と比べて抑制、阻害することを指す。Th2偏倚を抑制する程度は、限定されないが、例えば、Th1/Th2バランスがTh2優位に偏るのを、対照と比べて10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%、抑制、阻害、または低減してもよい。一態様において、対照とは、本開示の全身性強皮症における線維化進行抑制のためのTh2偏倚抑制剤(本開示の医薬組成物)を投与しない場合の対象または対象集団(例えばTh2優位の疾患を有する全身性強皮症患者または全身性強皮症患者集団)におけるTh2偏倚の程度を指す。あるいは、Th1/Th2バランスがTh2優位に偏るのを、健康人と同等または類似のレベルまで、例えば健康人と比べて2.0倍、1.9倍、1.8倍、1.7倍、1.6倍、1.5倍、1.4倍、1.3倍、1.2倍、1.1倍、1.0倍のレベルまで抑制、阻害、または低減してもよい。
【0016】
Th細胞(ヘルパーT細胞)のTh1偏倚やTh2偏倚の程度を評価する方法は公知であり、例えば、対象から得られた生体試料における、Th1細胞、Th2細胞それぞれに特異的なサイトカイン発現量を測定し、それらの比を算出することによって評価することができる。同様に、Th17細胞、Treg細胞それぞれに特異的なサイトカイン発現量の比を算出することによって、Th17/Treg偏倚を評価することができる。
【0017】
本明細書において「全身性強皮症における線維化の進行を抑制する」および「全身性強皮症における線維化進行抑制」とは、全身性強皮症の進行を対照と比べて抑制、阻害することを指す。一態様において、対照とは、本開示の全身性強皮症における線維化の進行抑制剤(本開示の医薬組成物)を投与しない場合の対象または対象集団(例えば全身性強皮症患者または全身性強皮症患者集団)における全身性強皮症の重症度を指す。全身性強皮症における線維化の進行の程度を評価する方法は公知であり、例えば、皮膚および/もしくは内臓(例えば肺)の線維化の程度、Th2偏倚の程度、またはそれらの組合せにより評価することができる。
【0018】
「IL-31」は、IL-6サイトカインファミリーの新たなメンバーであり、最初はマウス皮膚炎の誘導因子として報告された。IL-31は主にTh2細胞によって産生されるが、線維芽細胞、角化細胞、マクロファージなどの様々な細胞で発現される。IL-31が細胞表面のIL-31受容体複合体に結合すると、JAK/STAT、PI3K/AKT、および他の細胞内シグナル伝達経路が活性化され、広範な免疫応答がもたらされる。
【0019】
IL-31受容体複合体は、「IL-31受容体A (IL-31RA)」および「オンコスタチンM受容体」からなるヘテロ二量体である。オンコスタチンM受容体はオンコスタチンMに対する受容体複合体にも含まれるが、IL-31RAはIL-31受容体に特有である。IL-31は主に、この2つの受容体サブユニットのうちIL-31RAに結合する。
【0020】
本明細書において、「抗IL-31受容体A抗体」および「IL-31受容体Aに対する抗体」は同義で用いられ、IL-31受容体A(IL-31RA)に対して特異的に結合する能力を有する抗体を指す。本開示の発明との関連において、IL-31受容体Aに対する抗体は、好ましくは、IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体である。本明細書において、「IL-31受容体Aに対する中和活性」とは、IL-31受容体AとそのリガンドであるIL-31との結合を阻害する活性であり、好ましくはIL-31受容体Aに基づく生理活性を抑制する活性である。したがって、「IL-31受容体Aに対する中和活性を有する抗体」は、IL-31RAとIL-31との結合を阻害し、それによって、IL-31RAを介して引き起こされる細胞内シグナル伝達を抑制、阻害、または遮断することができる。
【0021】
本明細書において「抗体」とは、特定の抗原決定基(エピトープ)に特異的に結合する分子を指し、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、および抗体断片を含む、種々の抗体構造が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本開示の発明との関連において、IL-31RAに対する抗体は、好ましくは哺乳動物のIL-31RAに対する抗体であり、より好ましくはヒトIL-31RAに対する抗体である。
ヒトIL-31RAに対する中和抗体の例としては、抗体Aが挙げられる。抗体Aは、臨床試験において、アトピー性皮膚炎の症状を改善することが示されている。抗体Aは、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。また、抗体Aは、配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む。また、抗体Aは、配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む。
マウスIL-31RAに対する中和抗体の例としては、配列番号:11に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む抗マウスIL-31受容体A機能遮断モノクローナル抗体が挙げられる。これら重鎖および軽鎖可変領域の塩基配列は、それぞれアクセッション番号LC554895およびLC554896として、DDBJ/EMBL/GenBank国際塩基配列データベースに登録されている。
【0023】
本明細書において引用される全ての技術文献は、参照としてその全体が本明細書に組み入れられる。
【実施例0024】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
マウス及び実験プロトコル
野生型C57BL/6マウスをジャクソン研究所(バーハーバー、メイン州、米国)から購入した。ブレオマイシン(BLM、日本化薬株式会社、東京、日本)を1 mg/mlの濃度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した。BLM誘発SScモデル(BLM-SSc)マウスを作成するために、既報(Yoshizaki A, Iwata Y, Komura K, et al. CD19 regulates skin and lung fibrosis via Toll-like receptor signaling in a model of bleomycin-induced scleroderma. Am J Pathol 2008;172:1650-63.)のように、雌マウスの背部の毛を剃り、そこに200μgのBLMを毎日皮下注射した。BLMの代わりにPBSで処置したマウス(PBS-ctrlマウス)をBLM-SScマウスの対照として使用した。IL-31シグナル伝達の遮断の影響を評価するために、抗マウスIL-31受容体A機能遮断モノクローナル抗体(重鎖可変領域:配列番号11;軽鎖可変領域:配列番号12;それぞれDDBJ/EMBL/GenBankアクセッション番号LC554895、LC554896として登録されている)、又はマウスIgG1κアイソタイプ対照(eBioscience、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)を、7日毎(1日目、8日目、及び15日目)に200 μgずつ腹腔内に注射した。本試験において使用したマウスはいずれも6週齢であった。各グループ5匹のマウスを試験した。
【0026】
ELISA
アッセイで使用するまで、血清サンプルを-80℃で凍結した。マウスにおけるIL-4及びIL-6の血清中濃度を、ELISAキット(R&D Systems)を用いて測定した。すべての実験を製造元の説明書に従って実施した。
【0027】
組織学的分析
皮膚及び肺組織をホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、ヘマトキシリン及びエオシンで染色して、組織学的評価に供した。表皮真皮接合部と真皮脂肪接合部との間の距離と定義される、真皮の厚さを計測した。肺線維化の重症度を、Ashcroftらの記載(Ashcroft T, Simpson JM, Timbrell V. Simple method of estimating severity of pulmonary fibrosis on a numerical scale. J Clin Pathol 1988;41:467-70.)のとおり、半定量的に評価した。簡潔に説明すると、グレードの判定基準は次のとおり:グレード0=正常な肺;グレード1=肺胞壁又は細気管支壁の最小限の線維性肥厚;グレード3=肺構造に明らかな損傷のない、中程度の壁の肥厚;グレード5=肺の構造に明確な損傷があり、線維帯又は小さな線維性の腫瘤形成を伴う線維化の増加;グレード7=構造の深刻な変形及び大きな線維性領域;及びグレード8=フィールドの完全な線維性閉塞。グレード2、4、及び6を、上記基準の間の中間像として使用した。
【0028】
RNAの単離とリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
製造元の説明書に従ってRNeasyスピンカラム(Qiagen、クローリー、英国)を用いて、組織から全RNAを単離した。各サンプルの全RNAをcDNAへと逆転写させた。ABI Prism 7000 sequence detector(Applied Biosystems、フォスターシティ、カリフォルニア州、米国)を用いたSYBR greenリアルタイムPCRによって、遺伝子発現を定量化した。ロードしたcDNAの量を標準化するため、内在性コントロールとしてGAPDHを用いた。既報(Yoshizaki A, Iwata Y, Komura K, et al. CD19 regulates skin and lung fibrosis via Toll-like receptor signaling in a model of bleomycin-induced scleroderma. Am J Pathol 2008;172:1650-63.)のように、比較Ct法を用いて相対値(fold difference)を計算した。プライマーの配列は以下のとおり:
Il4-フォワード5’-CAACGAAGAACACCACAGAG-3’(配列番号13)、
Il4-リバース5’- GGACTTGGACTCATTCATGG-3’(配列番号14);
Il6-フォワード5’- GATGGATGCTACCAAACTGGAT-3’(配列番号15)、
Il6-リバース5’- CCAGGTAGCTATGGTACTCCAGA-3’(配列番号16);
Ifng-フォワード 5’-TCAAGTGGCATAGATGTGGAAGAA-3’(配列番号17)、
Ifng-リバース 5’-TGGCTCTGCAGGATTTTCATG-3’(配列番号18);
Il17a-フォワード 5’-CAGCAGCGATCATCCCTCAAAG-3’(配列番号19)、
Il17a-リバース 5’-CAGGACCAGGATCTCTTGCTG-3’(配列番号20)、
Il10-フォワード 5’-TTTGAATTCCCTGGGTGAGAA-3’(配列番号21);
Il10-リバース 5’-ACAGGGGAGAAATCGATGACA-3’(配列番号22);
Tgfb1-フォワード 5’-GCAACATGTGGAACTCTACCAGAA-3’(配列番号23)、
Tgfb1-リバース 5’-GACGTCAAAAGACAGCCACTCA-3’(配列番号24);
Tnfa-フォワード 5’-ACCCTCACACTCAGATCATCTTC-3’(配列番号25)、
Tnfa-リバース 5’-TGGTGGTTTGCTACGACGT-3’(配列番号26);及び
Gapdh-フォワード 5’-CGTGTTCCTACCCCCAATGT-3’(配列番号27)、
Gapdh-リバース 5’-TGTCATCATACTTGGCA GGTTTCT-3’(配列番号28)。
【0029】
フローサイトメトリー
既報(Wen X, He L, Chi Y, et al. Dynamics of Th17 cells and their role in Schistosoma japonicum infection in C57BL/6 mice. PLoS Negl Trop Dis 2011;5:e1399.)のように、フローサイトメトリーによってCD4+ T細胞の分化を分析した。簡潔に説明すると、Th1、Th2、又はTh17細胞を検出するために、脾細胞を2×106個/mlでRPMI 1640培地に懸濁し、2 μMモネンシン(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)の存在下、5% CO2、37℃にて、25 ng/ml PMA(Adipogen、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)及び1 mg/mlイオノマイシン(Sigma、セントルイス、ミズーリ州、米国)で6時間刺激した。次に、サンプルの表面を抗CD3-PE mAb及び抗CD4-FITC mAb(eBioscience)で染色した。Cytofix/Cytopermバッファー(BD PharMingen、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)による固定化及び透過化処理後、Th1、Th2、又はTh17細胞を検出するために、サンプルの細胞内を、それぞれIFN-γ、IL-4、又はIL-17Aに対するAPC結合mAb(eBioscience)で染色した。アイソタイプをマッチさせたAPC結合mAb(eBioscience)を対照として使用した。Treg細胞を検出するために、製造元のプロトコルとしてMouse Regulatory T Cell Staining Kit(eBioscience)を使用した。簡潔に説明すると、2×106個/mlで懸濁した脾細胞の表面を、抗CD3-PE/Cy7 mAb、抗CD4-FITC mAb、及び抗CD25-APC mAb (eBioscience)を用いて染色した。その後Cytofix/Cytopermにて固定及び細胞膜透過処理を行い、細胞内を抗Foxp3-PE mAb又は対照としてラットIgG2a-PEを用いて染色した。サンプルを、FACS Verseフローサイトメーター(BD Biosciences、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)を用いて分析した。
【0030】
統計分析
データは平均±標準偏差として表す。2グループ間の比較にはマンホイットニーU検定を用いて統計分析を行った。P値が0.05未満の場合に有意とした。すべての分析はGraphPad Prism 7.03(GraphPad Software、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州、米国)を用いて行った。
【0031】
抗IL-31RA機能遮断mAbは、BLM-SScマウスにおける線維化及びTh2偏倚を抑制した。
SScの発症におけるIL-31の役割を明らかにするため、抗IL-31RA機能遮断mAbで処置したBLM-SScマウスにおける線維化及びTh2偏倚を評価した。3週間にわたり、BLMを毎日皮下注射すると共に、抗IL-31RA mAbを毎週投与した(
図1A)。アイソタイプ対照IgGと比べて、抗IL-31RA mAbはBLM-SScマウスの真皮の厚さを有意に減少させた(p<0.01;
図1B)。また、抗IL-31RA mAbは、BLM-SScマウスの肺の線維化スコアを顕著に減少させる効果を有した(p<0.001;
図1B)。皮膚及び肺組織におけるサイトカインmRNAの発現に関して、抗IL-31RA mAbは、BLM-SScマウスにおいて上方制御されていたIL-4、IL-6、IL-10、及びTGF-β1の発現を抑制した(
図1C)。更に、抗IL-31RA mAbは、BLM-SScマウスの脾臓T細胞において、Th2細胞の割合(p<0.01)、及びTh2/Th1比(p<0.05)を有意に低下させたが、Th17/Treg比を低下させなかった(
図2A)。また、抗IL-31RA mAbは、BLM-SScマウスにおける血清中IL-4及びIL-6の過剰産生を改善した(それぞれp<0.01及びp<0.001;
図2B)。全体として、抗IL-31RA mAbは、BLMによって誘導される線維化及びTh2偏倚を有意に低減した。
本開示の発明により、全身性強皮症の線維化モデル動物における抗IL-31RA抗体投与の効果が明らかとなった。特に、抗IL-31RA抗体を含有する本開示の医薬組成物は、例えば皮膚や肺の線維化の進行を抑制することから、全身性強皮症における線維化の進行抑制剤として有用である。さらに、抗IL-31RA抗体を含有する本開示の医薬組成物は、Th2偏倚を抑制することから、全身性強皮症における線維化進行抑制のためのTh2偏倚抑制剤として有用である。