(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009613
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】膜付き曲げ基材および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20220106BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20220106BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20220106BHJP
【FI】
G02B5/02 B
G02B1/18
G02B1/113
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175895
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2018167256の分割
【原出願日】2016-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2015227440
(32)【優先日】2015-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016049747
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕介
(72)【発明者】
【氏名】前重 和伸
(72)【発明者】
【氏名】村上 貴章
【テーマコード(参考)】
2H042
2K009
【Fターム(参考)】
2H042BA03
2H042BA12
2H042BA20
2K009AA02
2K009BB02
2K009CC26
2K009CC42
2K009DD02
2K009DD06
(57)【要約】
【課題】美観に優れ面内において均一で優れた視認性を有する膜付き曲げ基材、およびその製造方法、ならびに画像表示装置を提供する。
【解決手段】第一の主面と第二の主面と端面を有する基材と、前記第一の主面に設けられた防眩膜および防汚膜とを備え、基材は曲率0でない屈曲部のみから構成されるガラスであり、屈曲部に設けられた防眩膜のヘイズの面内の標準偏差が0%以上10%以下である防眩膜付き曲げ基材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の主面と第二の主面と端面を有する基材と、前記第一の主面に設けられた防眩膜および防汚膜とを備え、
前記基材は曲率0でない屈曲部のみから構成されるガラスであり、
前記屈曲部に設けられた防眩膜のヘイズの面内の標準偏差が0%以上10%以下である
ことを特徴とする防眩膜付き曲げ基材。
【請求項2】
強化処理されている、請求項1に記載の防眩膜付き曲げ基材。
【請求項3】
前記防汚膜は含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる、請求項1または2に記載の防眩膜付き曲げ基材。
【請求項4】
前記防汚膜は膜厚が20nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の防眩膜付き曲げ基材。
【請求項5】
前記防眩膜上にさらに機能膜を備え、前記機能膜上に前記防汚膜は設けられ、前記機能膜は反射防止膜である、請求項1~4のいずれか一項に記載の防眩膜付き曲げ基材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の防眩膜付き曲げ基材を備えた表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付き曲げ基材およびその製造方法、ならびに画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機器(たとえば、テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、携帯電話等)に備え付けられた画像表示装置(たとえば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等)においては、室内照明(蛍光灯等)、太陽光等の外光が表示面に映り込むと、反射像によって視認性が低下する。近年、湾曲や屈曲した表示面を有する画像表示装置が使用されつつあり、この映り込み抑制がより重要となっている。
外光の映り込みを抑制する方法として、凹凸構造を表面に有する防眩膜を、画像表示装置の表示面に配置し、外光を拡散反射させることで、反射像を不鮮明にする方法がある。
【0003】
防眩膜の形成方法としては、アルコキシシランの加水分解縮合物等のシリカ前駆体を含む組成物をスプレー法にて基材上に塗布し、焼成する方法が知られている(たとえば特許文献1参照)。スプレー法により防眩膜を形成する場合、二流体スプレーノズルが使用されることが多い。
しかし、均質な防眩膜を形成するため二流体スプレーノズルを走査するロボットが必要となり高価かつコーティング時間が長時間となる。また、得られる防眩膜については均質性が不十分で所望の特性を得るのが困難であった。
【0004】
一方、特許文献2では、組成物に界面活性剤を混合することで液を広がり易くし、湾曲や屈曲した曲げ基材に塗布する方法が提案されている。多量の界面活性剤を使用して所望の表面張力とした組成物組成とするため、所望の光学特性を有する防眩膜を得られず、またこの防眩膜の光学的な均一性も不十分であるという問題点がある。
【0005】
また、防眩膜付き曲げ基材の作製法として特許文献3には、ガラス平板上に、ガラス平板よりもガラス転移温度の高い防眩膜を形成した後に、高温にしてガラス平板に屈曲部を形成し防眩膜付き曲げ基材を作製する工程が開示されている。防眩膜を形成したガラス平板を成形して一部に屈曲部を形成すると、平坦部と屈曲部の外観が異なる問題点がある。これは成形時に防眩膜を形成したガラス板を高温にさらす、特に屈曲部を形成する部位では平坦部より高温にすることで、防眩膜の構造が破壊されてしまうためである。また、ガラス平板よりもガラス転移温度の高い防眩膜を形成しているため、成形工程では、防眩膜自体の柔軟性が不足し、クラックなど多数の欠陥が発生するという問題点がある。
【0006】
加えて、反射防止膜も曲げ基材上に設けると、見る方向によって反射色の色調が変化するという問題があり、表示面に正対した場合、曲げ基材の場所によって色調が異なるという問題があった(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開2009-058640号公報
【特許文献2】日本国特開2006-113145号公報
【特許文献3】国際公開第2015/133346号
【特許文献4】日本国特開2015-121512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑み、美観に優れ面内において均一で優れた視認性を有する膜付き曲げ基材、およびその製造方法、ならびに画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係る膜付き曲げ基材は、第一の主面と第二の主面と端面を有する基材と、前記第一の主面に設けられた防眩膜とを備え、前記基材は平坦部と屈曲部を有し、
屈曲部の反射像拡散性指標値Rを、屈曲部の反射像拡散性指標値Rおよび平坦部の反射像拡散性指標値Rの和で除した値が、0.3以上0.8以下であることを特徴とする。
ここで、反射像拡散性指標値Rは、基材の第一の主面を基準(0°とする)として、+45°となる方向から基材に光を照射し、基材表面で反射する正反射光(45°正反射光という)の輝度を測定し、続いて同様に+45°となる方向から基材に光を照射し、受光角度を0°~+90°の範囲で変化させ基材表面で反射される全反射光の輝度を測定し、以下式(1)から算定される。
反射像拡散性指標値R=(全反射光の輝度-45°正反射光の輝度)/(全反射光の輝度) ・・・(1)
また、本発明の別態様に係る膜付き曲げ基材は、第一の主面と第二の主面と端面を有する基材と、前記第一の主面に設けられた防眩膜とを備え、前記基材は全体が曲率0でない屈曲部のみからなり、前記屈曲部に設けられた防眩膜のヘイズの面内の標準偏差が0%以上10%以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係る膜付き曲げ基材の製造方法は、第一の主面と第二の主面と端面とを備える屈曲部を有する曲げ基材を準備する工程と、シリカ前駆体(A)および粒子(C)の少なくとも一方と、液状媒体(B)とを含む組成物を準備する工程と、前記曲げ基材を前記第二の主面の屈曲部と接触するように導電性基材上に載置する工程と、静電塗装装置を用いて前記組成物を帯電させ噴霧することにより前記導電性基材上に載置された前記曲げ基材上に塗膜を形成する工程と、前記塗膜を焼成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
美観に優れ面内において均一で優れた視認性を有する膜付き曲げ基材、およびその製造方法、ならびに画像表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)及び(b)は本発明の実施形態における膜付き曲げ基材の一例の断面模式図であり、
図1(a)は屈曲部と平坦部を組み合わせた形状を有する膜付き曲げ基材、
図1(b)は屈曲部のみから形成された形状を有する膜付き曲げ基材を示す。
【
図2】
図2(a)及び(b)は曲げ基材の一例の断面模式図であり、
図2(a)は屈曲部と平坦部を組み合わせた形状を有する曲げ基材、
図2(b)は屈曲部のみから形成された形状を有する曲げ基材を示す。
【
図3】
図3は静電塗装装置の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は
図3の静電塗装装置が備える静電塗装ガン17の断面模式図である。
【
図5】
図5は
図4の静電塗装ガン17を前方から見た正面模式図である。
【
図6】
図6は
図3の静電塗装装置のチェーンコンベア上流から見た側面模式図である。
【
図7】
図7(a)及び(b)は曲げ基材の各部位を説明する図であり、
図7(a)は斜視模式図、
図7(b)はA-A断面における断面模式図である。
【
図8】
図8(a)及び(b)は例1により得られた膜付き曲げ基材の外観写真を示し、
図8(a)は平面図、
図8(b)は側面図である。
【
図9】
図9(a)は例2により得られた膜付き曲げ基材の平面図、
図9(b)は例3により得られた防眩膜付き曲げ基材の平面図である。
【
図10】
図10は曲げ基材にスプレー塗布をする際のノズル軌跡を説明する図である。
【
図11】
図11は本発明の実施形態における膜付き曲げ基材の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「屈曲部」とは、平均曲率がゼロでない部分を意味する。
「シリカ前駆体」とは、焼成することによってSiO2を主成分とするマトリックスを形成し得る物質を意味する。
「SiO2を主成分とする」とは、SiO2を90質量%以上含むことを意味する。
「ケイ素原子に結合した加水分解性基」とは、加水分解によって、ケイ素原子に結合したOH基に変換し得る基を意味する。
「鱗片状粒子」とは、扁平な形状を有する粒子を意味する。粒子の形状は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMとも記す。)を用いて確認できる。
「60゜鏡面光沢度」は、JIS Z8741:1997(ISO2813:1994)に記載された方法によって、裏面(防眩膜が形成された側とは反対側の面)反射を消さずに測定される。
「ヘイズ」は、JIS K7136:2000(ISO14782:1999)に記載された方法によって測定される。
「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2001(ISO4287:1997)に記載された方法によって測定される。
「平均粒子径」は、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径(D50)を意味する。粒度分布は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定した頻度分布および累積体積分布曲線で求められる。
「ベアリング高さ」は、レーザ顕微鏡で101μm×135μm~111μm×148μmの領域(以下、「観察領域」ともいう。)を測定して得られる、観察領域の表面形状のxyzデータから求められる高さ分布ヒストグラムにて、最も優勢な高さzの値である。xyzデータにおける高さzは、観察領域の最低点を基準とした高さ(高さzを測定する位置から、観察領域における基材の主面に平行な平面であって最低点を含む平面に下した垂線の長さ)であり、以下において特に基準を規定しない場合の表面形状における高さの意味も同様である。ベアリング高さ算出時のヒストグラムの刻み(bin)は1000に設定した。
「アスペクト比」は、粒子の厚さに対する最長長さの比(最長長さ/厚さ)を意味し、「平均アスペクト比」は、無作為に選択された50個の粒子のアスペクト比の平均値である。粒子の厚さは、原子間力顕微鏡(以下、AFMとも記す。)によって測定され、最長長さは、TEMによって測定される。
「反射像拡散性指標値R」は、以下に記載する方法で算出される。まず基材表面を基準(0°とする)として、+45°となる方向から基材に光を照射し、基材表面で反射する正反射光(45°正反射光という)の輝度を測定する。続いて、同様に+45°となる方向から基材に光を照射し、受光角度を0°~+90°の範囲で変化させ基材表面で反射される全反射光の輝度を測定する。これらの測定値を「反射像拡散性指標値R=(全反射光の輝度-45°正反射光の輝度)/(全反射光の輝度)」の式に代入することで、反射像拡散性指標値Rを求められる。
「解像度指標値T」は、以下に記載する方法で算出される。測定対象である第一の主面と第二の主面を有する基材の第二の主面側から、基材の厚さ方向と平行な方向(角度0°の方向、という)に第一の光を照射し、第一の主面から透過する透過光(0°透過光、という)の輝度を測定する。続いて、第一の主面に対する受光角度を-90°~+90°の範囲で変化させ、第一の光の第一の主面側から透過する全透過光の輝度を測定する。これらの測定値を「解像度指標値T=(全透過光の輝度-0°透過光の輝度)/(全透過光の輝度)」の式に代入することで、解像度指標値Tを求められる。
「ギラツキ指標値S」は、以下のように求められる。測定対象である第一の主面と第二の主面を有する基材の第二の主面を、所望の表示装置の表示面側になるようにして配置する。次に基材の第一の主面側から撮影し、画像を取得する。この画像をソフトウェアEyeScale-4W(株式会社アイ・システム製)により解析し、これにより出力されるISC-Aの値をギラツキ指標値Sとした。
【0013】
本発明の実施形態の防眩膜付き曲げ基材の製造方法により得られる防眩膜付き曲げ基材は(以下、膜付き曲げ基材とも記載する。)、曲げ基材と、曲げ基材上に形成された防眩膜とを備えるものであり、
図1は、本発明の実施形態の製造方法により得られる防眩膜付き曲げ基材の一例を示す断面模式図である。
この例の防眩膜付き曲げ基材1は、屈曲部9を有する曲げ基材3と、曲げ基材3上に形成された防眩膜5とを備える。
図1(a)は屈曲部9と平坦部7を組み合わせた形状を示し、
図1(b)は全体が屈曲部9となる形状を示す。
【0014】
<曲げ基材>
曲げ基材3は、第1の主面3aと第2の主面3bと端面とを有し少なくとも1つ以上の屈曲部9を備える形状である。
図2(a)に示すような屈曲部9と平坦部7を組み合わせた形状、
図2(b)に示すような全体が屈曲部9となる形状などが挙げられるが、屈曲部9を有すれば特に形状は限定されない。最近では、各種機器(たとえば、テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等)において、画像表示装置の表示面が曲面とされたものが登場しており、画像表示装置の形状や画像表示装置の筺体の形状などに合わせて曲げ基材3を作製すればよい。
曲げ基材3の形態としては、板、フィルム等が挙げられる。
【0015】
曲げ基材3の材料としては、ガラス、金属、樹脂、シリコン、木材、紙等が挙げられる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。中でも安全性や強度の観点からガラスが好ましい。さらにガラスを車載用基材として使用するには高い耐熱性、高い耐候性の観点からも好ましい。
【0016】
曲げ基材3がガラスである場合、例えば車載用表示部材のカバーガラスとして必要な機械的強度および耐擦傷性を確保するため、曲げ基材3が強化処理されていることが好ましい。強化処理としては物理強化処理、化学強化処理ともに使用できるが、比較的に薄いガラスでも強化処理できる点から化学強化処理が好ましい。
【0017】
曲げ基材3のガラス組成は、化学強化処理を実施しない場合には無アルカリガラス、ソーダライムガラスが、化学強化処理を行う場合には、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラスが挙げられる。厚みが薄くても強化処理によって大きな応力が入りやすく薄くても高強度なガラスが得られ、画像表示装置の視認側に配置される物品として好適である点から、アルミノシリケートガラスが好ましい。
【0018】
曲げ基材3は、表面圧縮応力の最大値が400MPa以上であり、500MPa以上が好ましく、600MPa以上がより好ましい。また圧縮応力層深さ(DOL)は10μm以上である。これにより表面圧縮応力および圧縮応力層深さを当該範囲とすることにより、曲げ基材3の主面に優れた強度と耐擦傷性を付与できる。
【0019】
[ガラス組成]
曲げ基材3のガラス組成の具体例としては、モル%で表示した組成で、SiO2を50~80%、Al2O3を0.1~25%、Li2O+Na2O+K2Oを3~30%、MgOを0~25%、CaOを0~25%およびZrO2を0~5%含むガラスが挙げられるが、特に限定されない。より具体的には、以下のガラスの組成が挙げられる。なお、例えば、「MgOを0~25%含む」とは、MgOは必須ではないが25%まで含んでもよい、の意である。(i)のガラスはソーダライムシリケートガラスに含まれ、(ii)および(iii)のガラスはアルミノシリケートガラスに含まれる。
(i)モル%で表示した組成で、モル%で表示した組成で、SiO2を63~73%、Al2O3を0.1~5.2%、Na2Oを10~16%、K2Oを0~1.5%、Li2Oを0~5.0%、MgOを5~13%及びCaOを4~10%を含むガラス
(ii)モル%で表示した組成が、SiO2を50~74%、Al2O3を1~10%、Na2Oを6~14%、K2Oを3~11%、Li2Oを0~5.0%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrO2を0~5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiO2を68~80%、Al2O3を4~10%、Na2Oを5~15%、K2Oを0~1%、Li2Oを0~5.0%、MgOを4~15%およびZrO2を0~1%含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成が、SiO2を67~75%、Al2O3を0~4%、Na2Oを7~15%、K2Oを1~9%、Li2Oを0~5.0%、MgOを6~14%およびZrO2を0~1.5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71~75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
【0020】
曲げ基材3は、化学強化処理を適切に行うため、そのガラス組成におけるLi2OとNa2Oの含有量の合計が12モル%以上であることが好ましい。さらに、ガラス組成におけるLi2Oの含有率が増加するにしたがって、ガラス転移点が下がり、成形が容易となるため、Li2Oの含有率を0.5モル%以上とすることが好ましく、1.0モル%以上とすることがより好ましく、2.0モル%以上とすることがさらに好ましい。さらに、表面圧縮応力(Compressive Stress: CS)および圧縮応力層深さ(Depth of Layer: DOL)を大きくするため、曲げ基材3のガラス組成がSiO2を60モル%以上、Al2O3を8モル%以上含有することが好ましい。
【0021】
[ガラスの製造方法]
次に、曲げ基材3を作製するための平板状ガラスの製造方法について説明する。先ず、各成分の原料を前述した組成となるように調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。ガラスの成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法、ダウンドロー法及びロールアウト法が挙げられる。特に、大量生産に適したフロート法が好適である。また、フロート法以外の連続成形法、すなわち、フュージョン法およびダウンドロー法も好適である。任意の成形法により平板状に成形されたガラス部材は、徐冷された後、所望のサイズに切断される。なお、より正確な寸法精度が必要な場合等には、切断後のガラス部材に後述の研磨加工や端面加工を施してもよい。これにより、成形工程などでのハンドリングにおいて割れや欠けを低減でき歩留まりを向上できるようになる。
【0022】
(成形工程)
曲げ基材3は、平板状の基材から所定の形状に成形することが好ましい。例えば平板状の基材として板ガラスを選択した場合、使用する成形法としては、自重成形法、真空成形法、プレス成形法から、成形後の曲げ基材3の形状に応じて、所望の成形法を選択すればよい。
自重成形法は、成形後の曲げ基材3の形状に応じた所定の金型上に板ガラスを設置した後、該板ガラスを軟化させて、重力により板ガラスを曲げて金型になじませて、所定の形状に成形する方法である。
【0023】
真空成形法は、板ガラスを軟化させた状態で板ガラスの表裏面に差圧を与えて、板ガラスを曲げて金型になじませて、所定の形状に成形する方法である。真空成形法では、成形後の曲げ基材3の形状に応じた所定の金型上に板ガラスを設置し、該板ガラス上にクランプ金型を設置し、板ガラスの周辺をシールした後、金型と板ガラスとの空間をポンプで減圧することにより、板ガラスの表裏面に差圧を与える。この際に、補助的に、板ガラスの上面側を加圧してもよい。
【0024】
プレス成形は、成形後の曲げ基材3の形状に応じた所定の金型(下型、上型)間に板ガラスを設置し、板ガラスを軟化させた状態で、上下の金型間にプレス荷重を加えて、板ガラスを曲げて金型になじませて、所定の形状に成形する方法である。
これらのうち真空成形法は、曲げ基材3の所定の形状に成形する方法として優れており、曲げ基材3の二つの主面のうち、一方の主面は成形型と接触せずに成形できるため、傷、へこみなどの凹凸状欠点を減らせる。
なお、成形後の曲げ基材3の形状に応じて、適切な成形法を選択すればよく、2種以上の成形法を併用してもよい。
また、使用する平板状の基材には、エッチング処理層やウェットコートやドライコートによるコーティング層などを有する基材を用いてもよい。
【0025】
(研磨加工工程)
曲げ基材3を成形する前の平板状の基材や成形後に得られた曲げ基材3など対象物の少なくとも一方の主面を研磨加工してもよい。
研磨加工工程では、回転研磨ツールの研磨加工部を一定圧力で接触させて、一定速度で移動させて行う。一定圧力、一定速度の条件で研磨を行うことにより、一定の研磨レートで研削面を均一に研磨できる。回転研磨ツールの研磨加工部の接触時の圧力としては、経済性及び制御のし易さ等の点で1~1,000,000Paであることが好ましい。速度は、経済性及び制御のし易さなどの点で1~10,000mm/minが好ましい。移動量は基材の形状などに応じて適宜決められる。回転研磨ツールは、その研磨加工部が研磨可能な回転体であれば特に限定されないが、ツールチャッキング部を有するスピンドル、リューターに研磨ツールを装着させる方式等が挙げられる。回転研磨ツールの材質としては、少なくともその研磨加工部がセリウムパッド、ゴム砥石、フェルトバフ、ポリウレタン等、被加工物を加工除去でき、且つヤング率が好ましくは7GPa以下、更に好ましくは5GPa以下のものであれば種類は限定されない。回転研磨ツールの材質をヤング率7GPa以下の部材を用いることにより、圧力により研磨加工部を対象物の形状に沿うように変形させて、底面及び側面を上述した所定の表面粗さに加工できる。回転研磨ツールの研磨加工部の形状は円又はドーナツ型の平盤、円柱型、砲弾型、ディスク型、たる型等が挙げられる。
【0026】
基材に回転研磨ツールの研磨加工部を接触させて研磨を行う場合、研磨砥粒スラリーを介在させた状態で加工を行うことが好ましい。この場合、研磨砥粒としてはシリカ、セリア、アランダム、ホワイトアランダム(WA)、エメリー、ジルコニア、SiC、ダイヤモンド、チタニア、ゲルマニア等が挙げられ、その粒度は10nm~10μmが好ましい。回転研磨ツールの相対移動速度は、上述したように、1~10,000mm/minの範囲で選定できる。回転研磨ツールの研磨加工部の回転数は100~10,000rpmである。回転数が小さいと加工レートが遅くなり、所望の表面粗さにするのに時間がかかりすぎる場合があり、回転数が大きいと加工レートが速くなり、ツールの磨耗が激しくなるため、研磨の制御が難しくなる場合がある。
【0027】
なお、基材の形状に沿うように回転研磨ツールと基材とを相対的に移動させて研磨加工してもよい。移動させる方式は移動量、方向、速度を一定に制御できる方式であればいかなるものでもよい。例えば、多軸ロボット等を用いる方式等が挙げられる。
【0028】
(端面加工工程)
また曲げ基材3の端面は、面取加工などの処理がなされていてもよい。曲げ基材3がガラスの場合、機械的な研削により一般的にR面取、C面取と呼ばれる加工を行うのが好ましいが、エッチングなどで加工を行ってもよく、特に限定されない。
【0029】
(化学強化工程)
曲げ基材3は、化学強化することで、表面に圧縮応力層を形成し、強度及び耐擦傷性が高められる。化学強化は、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換によりガラス表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)を、イオン半径のより大きなアルカリ金属イオン(典型的には、Kイオン)に交換することで、ガラス表面に圧縮応力層を形成する処理である。化学強化処理は従来公知の方法によって実施できる。
【0030】
(機能層形成工程)
防眩膜付き曲げ基材1の作製工程において必要に応じて各種機能膜を形成する工程を実施してもよい。このような機能膜の具体例としては、反射防止膜、防汚膜、赤外線カット膜、紫外線カット膜、撥水膜、静電防止膜などが挙げられる。
【0031】
[反射防止膜]
反射防止膜とは反射率低減の効果をもたらし、光の映り込みによる眩しさを低減するほか、画像表示装置に使用した場合には、画像表示装置からの光の透過率を向上でき、画像表示装置の視認性を向上できる膜のことである。
反射防止膜が形成される場合、防眩膜5上に形成されることが好ましい。反射防止膜の構成としては光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と屈折率が1.6以下の低屈折率層とを積層した構成、もしくは、膜マトリックス中に中空粒子や空孔を混在させた波長550nmでの屈折率が1.2~1.4の層を含む構成とすることができる。
【0032】
反射防止膜における高屈折率層と低屈折率層との膜構成はそれぞれ1層ずつを含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上を含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態であることが好ましい。また、低屈折率層1層のみでも構わない。
【0033】
反射防止性を高めるためには、反射防止膜は複数の層が積層された積層体であることが好ましく、積層数が多い程、より広い波長範囲で、より低反射性を発現する膜構成の光学設計が可能となる。例えば該積層体は全体で2層以上8層以下の層が積層されていることが好ましく、2層以上6層以下の層が積層されていることが、反射率低減効果および量産性の観点からより好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体であることが好ましく、高屈折率層、低屈折率層各々の層数を合計したものが上記範囲であることが好ましい。
【0034】
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されず、要求される反射防止性の程度や生産性等を考慮して適宜選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、窒化ケイ素(SiN)から選択された1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料から選択された1種以上を好ましく使用できる。
【0035】
生産性や、屈折率の観点から、高屈折率層が酸化ニオブ、酸化タンタル、窒化ケイ素から選択される1種からなり、低屈折率層が酸化ケイ素からなる層である構成が好ましい。
【0036】
反射防止膜を形成する方法としては、防眩膜5上またはその他機能膜上に形成された密着層の表面に、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレーコート法、静電噴霧堆積法(ESD法)等により塗布した後必要に応じて加熱処理する方法、または密着層の表面に化学的気相蒸着法(CVD法)、スパッタリング法やPLD法のような物理的気相蒸着法(PLD法)等が挙げられる。
【0037】
なお、本実施形態の曲げ基材は、
図11に示すように、平坦部7と、平坦部7に対して角度θを持って設けられる傾斜部8(角度の異なる他の平坦部)を有する曲げ基材3とその上に設けられた防眩膜(図示せず)と防眩膜の上に設けられた反射防止膜6を備える。また、平坦部7と傾斜部8を有する曲げ基材3とその上に直接設けられた反射防止膜6を備えても良い。いずれの場合も、平坦部7上の反射防止膜6の膜厚が、傾斜部8上の反射防止膜6の膜厚よりも厚くなっている。また、平坦部7に対し垂直方向から見た場合の平坦部7、傾斜部8、屈曲部9それぞれの基材の反射防止膜と反対側の主面の反射を消してa
*およびb
*を測定した際の最も差が大きい2点の差をそれぞれΔa
*およびΔb
*とした場合に、Δa
*<5.6かつΔb
*<5.4を満たす。加えて、JIS Z 8729(2004年)においてΔE=[(ΔL)
2+(Δa
*)
2+(Δb
*)
2]
0.5の式で規定される色差ΔEがΔE<18を満たす。Δa
*およびΔb
*はJIS Z 8729(2004年)における視感反射率である。特に、平坦部と傾斜部とのなす角度θが50°以下の場合には、ΔEが5以下であることがより好ましい。
【0038】
上記のΔa*、Δb*およびΔEの条件を同時に満たすことで、平坦部7、傾斜部8、屈曲部9のいずれにおいても良好な視認性を確保することが出来る。上記のΔa*およびΔb*は-6.5≦a*≦6.5かつ-8≦b*≦8を満たすことが好ましい。さらに、平坦部7および傾斜部8の反射防止膜6の成膜面における面内でのa*のバラつき(差の絶対値)が0.2以下でありかつb*のバラつきが0.5以下であることが好ましい。ここで、面内のバラつきは平坦部7、傾斜部8、屈曲部9を少なくとも1点ずつを含む任意の5点によって測定される。
【0039】
前記した平坦部7上の膜厚と傾斜部8上の膜厚との関係は、全体の層の合計がこのような関係となっているという意味である。各層毎に比較した場合、傾斜部8上の膜厚の方が平坦部7上の膜厚よりも薄くなっている層が存在していても構わない。各層の膜厚は平坦部7と傾斜部8とのなす角度によって適宜調整することが出来る。
【0040】
前記したような本実施形態の曲げ基材は、例えば、曲げ基材の形状に応じて、複数のターゲットの角度および位置が独立に調整可能であるスパッタリング装置を用いることにより製造することが出来る。このスパッタリング装置は各ターゲットにおける製膜条件を独立制御することにより、平坦部7と傾斜部8の膜厚を独立に制御(成膜パワー等)出来ることが好ましい。
【0041】
平坦部7と傾斜部8とを接続する領域である屈曲部9上の膜厚Tは、反射防止膜6の各層において平坦部7上の膜厚と傾斜部8上の膜厚との間の膜厚となっている。これは、平坦部7上と傾斜部8上のどちらの膜厚が大きい場合であっても各層毎に満たすものである。これにより、平坦部7から傾斜部8に膜厚が連続的に変化するため、傾斜部8を有する曲げ基材であっても、全体として自然な色調とすることができる。このような膜厚構成とするためには、平坦部7と傾斜部8を別々に成膜するよりも、同時に成膜することが好ましい。平坦部7と傾斜部8を別々に成膜すると、スループットの低下や屈曲部9上の厚膜化等が懸念される。
【0042】
上記した反射防止膜6の構成は、反射防止膜に限らず、上記赤外線カット膜、紫外線カット膜、撥水膜、静電防止膜でも同様の効果が期待出来る。
【0043】
[防汚膜]
防汚膜とは表面への有機物、無機物の付着を抑制する膜、または、表面に有機物、無機物が付着した場合においても、ふき取り等のクリーニングにより付着物が容易に除去できる効果をもたらす膜のことである。
防汚膜が形成される場合、防眩膜5上またはその他機能膜上に形成されることが好ましい。防汚膜としては、得られる防眩膜付き曲げ基材1に防汚性を付与できるものであれば特に限定されない。なかでも含フッ素有機ケイ素化合物を加水分解縮合反応により硬化させて得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなることが好ましい。
【0044】
防汚膜の厚さは、特に限定されないが、防汚膜が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、膜厚で2~20nmであることが好ましく、2~15nmであることがより好ましく、2~10nmであることがさらに好ましい。膜厚が2nm以上であれば、防汚層によって均一に覆われた状態となり、耐擦り性の観点で実用に耐えるものとなる。また、膜厚が20nm以下であれば、防汚膜が形成された状態での防眩膜付き曲げ基材1のヘイズ値等の光学特性が良好である。
【0045】
含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する方法としては、パーフルオロアルキル基;パーフルオロ(ポリオキシアルキレン)鎖を含むフルオロアルキル基等のフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の組成物を、防眩膜5上またはその他機能膜上に形成された密着層の表面に、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレーコート法等により塗布した後必要に応じて加熱処理する方法、または含フッ素有機ケイ素化合物を密着層の表面に気相蒸着させた後必要に応じて加熱処理する真空蒸着法等が挙げられ、被膜形成の手法は問わない。
【0046】
被膜形成用組成物は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物であって、被膜形成が可能な組成物であれば、特に制限されない。被膜形成用組成物は含フッ素加水分解性ケイ素化合物以外の任意成分を含有してもよく、含フッ素加水分解性ケイ素化合物のみで構成されてもよい。任意成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で用いられる、フッ素原子を有しない加水分解性ケイ素化合物(以下「非フッ素水分解性ケイ素化合物」という。)、触媒等が挙げられる。
【0047】
なお、含フッ素加水分解性ケイ素化合物、および、任意に非フッ素加水分解性ケイ素化合物を被膜形成用組成物に配合するにあたって、各化合物はそのままの状態で配合されてもよく、その部分加水分解縮合物として配合されてもよい。また、該化合物とその部分加水分解縮合物の混合物として被膜形成用組成物に配合されてもよい。
【0048】
また、2種以上の加水分解性ケイ素化合物を組み合わせて用いる場合には、各化合物はそのままの状態で被膜形成用組成物に配合されてもよく、それぞれが部分加水分解縮合物として配合されてもよく、さらには2種以上の化合物の部分加水分解共縮合物として配合されてもよい。また、これらの化合物、部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物の混合物であってもよい。ただし、真空蒸着などで成膜する場合、使用する部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物は、真空蒸着が可能な程度の重合度のものとする。以下、加水分解性ケイ素化合物の用語は、化合物自体に加えてこのような部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物を含む意味で用いられる。
【0049】
本発明の含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成に用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜が、撥水性、撥油性等の防汚性を有するものであれば特に限定されない。
【0050】
具体的には、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。これらの基は加水分解性シリル基のケイ素原子に連結基を介してまたは直接結合する含フッ素有機基として存在する。市販されているパーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)として、KP-801(商品名、信越化学工業社製)、X-71(商品名、信越化学工業社製)、KY-130(商品名、信越化学工業社製)、KY-178(商品名、信越化学工業社製)、KY-185(商品名、信越化学工業社製)、KY-195(商品名、信越化学工業社製)、Afluid(登録商標)S-550(商品名、旭硝子社製)、オプツ-ル(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)などが好ましく使用できる。上記したなかでも、KY-185、KY-195、オプツ-ルDSX、S-550を用いることがより好ましい。
【0051】
このような含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物を、密着層表面に付着させ反応させて成膜することで、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が得られる。反応を促進させるために、成膜後に、必要に応じて加熱処理や加湿処理を行っても良い。なお、具体的な成膜方法、反応条件については従来公知の方法、条件等が適用可能である。
【0052】
防汚層を形成した最表面の静止摩擦係数が1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。静止摩擦係数が1.0以下であれば、人間の指が防眩膜付き曲げ基材1の最表面に触れる際に指滑り性が良い。また、第1面の屈曲部の動摩擦係数が0.02以下であることが好ましく、0.015以下であることがより好ましく、0.01以下であることがさらに好ましい。動摩擦係数が0.02以下であれば、人間の指が第1面の屈曲部に触れる際に指滑り性が良い。
【0053】
[その他機能層]
防眩膜付き曲げ基材1は少なくとも一部にその他機能層を有するものであってもよい。
機能層としては、アンダーコート層、密着改善層、保護層等が挙げられる。
アンダーコート層は、アルカリバリア層やワイドバンドの低屈折率層、高屈折率層としての機能を有する。
他に曲げ基材3の第二の主面3bに防曇処理などの機能膜の形成、機能付与処理、印刷等がなされていてもよい。
【0054】
後述の防眩膜形成工程を成形工程後に実施すること以外は、焼成工程を含め、前記工程の順序は特に限定されない。前記工程のうち成形工程以外の工程を省略してもよく、他の工程を追加してもよい。
曲げ基材3の材質としてガラスを用いる場合、防眩膜5は成形後の未強化の曲げ基材3に形成してもよく、成形後に強化処理した曲げ基材3に形成してもよい。
前者の場合には成形後の未強化の曲げ基材3に防眩膜5を形成してから強化処理を行ってもよい。また防眩膜5を形成していない曲げ基材3の主面の研磨加工および端面加工を行ってもよい。イオン交換により化学強化を施したガラスには、その表面に欠陥が発生することや、最大で1μm程度の微細な凹凸が残留することがある。さらに、曲げ基材3に力が作用する場合、前述の欠陥や微細な凹凸が存在する箇所に応力が集中し、理論強度よりも小さな力でも割れることがある。そのため、化学強化後の曲げ基材3に存在する、欠陥及び微細な凹凸を有する層(欠陥層)を研磨により除去してもよい。研磨の方法としては前述の方法を使用できる。なお、欠陥が存在する場合の欠陥層の厚さは、化学強化の条件にもよるが、通常、0.01~0.5μmである。防眩膜形成工程後に化学強化工程を行う場合、ガラスの化学強化だけでなく、化学強化時の加熱により形成した防眩膜の加熱に利用できる。これにより防眩膜の縮重合や焼結が促進でき、耐摩耗性や耐候性等に対して強度の高い膜が得られる。この化学強化工程において防眩膜を加熱する場合、防眩膜形成した曲げ基材3を強化塩に浸漬すると大気中で加熱する以上の高強度化の効果がある。前記高強度化機構の詳細については明らかではないが、化学強化により、膜中にカリウム等のイオンが侵入し膜自体にも応力が入ることや、強化塩が弱アルカリ性のため膜の防眩膜の縮重合が促進されるためと考えられる。
後者の場合には、前者の順序で曲げ基材3を処理する際に生じる防眩膜中の欠点の発生や、防眩膜5の存在による強化工程での曲げ基材3の反りの発生といった課題が無く、高い生産性が得られる。また前者の場合と同様に防眩膜5を処理する前に、曲げ基材3の研磨加工や端面加工を行ってもよい。
【0055】
<防眩膜付き曲げ基材>
[防眩膜]
防眩膜とは主に反射光を散乱させ、光源の映り込みによる反射光の眩しさを低減する効果をもたらす膜のことである。
防眩膜5は、シリカ前駆体(A)および粒子(C)の少なくとも一方と、液状媒体(B)とを含有し、必要に応じて、シリカ前駆体(A)および粒子(C)以外の他の成分を含んでいてもよい組成物の塗膜を焼成して得られたものである。組成物がシリカ前駆体(A)を含む場合、防眩膜5のマトリックスは、シリカ前駆体(A)に由来する、シリカを主成分とするマトリックスを含む。防眩膜5は、粒子(C)から構成されてもよい。防眩膜5は、前記マトリックス中に粒子(C)が分散したものであってもよい。
組成物は、液状媒体(B)として、沸点150℃以下の液状媒体(B1)を含む。また、液状媒体(B1)の含有量は、前記液状媒体(B)の全量に対して86質量%以上である。
【0056】
防眩膜5の表面における60゜鏡面光沢度は、15%以上140%以下が好ましく、40%以上130%以下がより好ましい。防眩膜5の表面における60゜鏡面光沢度は、防眩効果の指標であり、60゜鏡面光沢度が130%以下であれば、防眩効果が充分に発揮される。
【0057】
防眩膜5の表面の算術平均粗さRaは、0.03μm以上が好ましく、0.05~0.7μmがより好ましく、0.07~0.5μmがさらに好ましい。防眩膜5の表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上であれば、防眩効果が充分に発揮される。防眩膜5の表面の算術平均粗さRaが前記範囲の上限値0.7μm以下であれば、画像のコントラストの低下が充分に抑えられる。
【0058】
防眩膜5の表面の最大高さ粗さRzは、0.2~5μmが好ましく、0.3~4.5μmがより好ましく、0.5~4.0μmがさらに好ましい。防眩膜5の表面の最大高さ粗さRzが前記範囲の下限値以上であれば、防眩効果が充分に発揮される。防眩膜5の表面の最大高さ粗さRzが前記範囲の上限値以下であれば、画像のコントラストの低下が充分に抑えられる。
防眩膜付き曲げ基材1の平坦部7のヘイズは、0.1~50%以上が好ましく、0.1~30%がより好ましく、0.1~20%がさらに好ましい。ヘイズが0.1%以上であれば、防眩効果が発揮される。ヘイズが50%以下であれば、防眩膜付き曲げ基材1を保護板や各種フィルタとして画像表示装置本体の視認側に設けた場合に、画像のコントラストの低下が充分に抑えられる。
【0059】
防眩膜付き曲げ基材の屈曲部9のヘイズは、0.1~50%以上が好ましく、0.1~30%がより好ましく、0.1~20%がさらに好ましい。ヘイズが0.1%以上であれば、防眩効果が発揮される。ヘイズが50%以下であれば、防眩膜付き曲げ基材を保護板や各種フィルタとして画像表示装置本体の視認側に設けた場合に、画像のコントラストの低下が充分に抑えられる。
【0060】
防眩膜付き曲げ基材1が
図1(a)のような平坦部7と屈曲部9を有する曲げ基材3の場合には、反射像拡散性指標値Rの比(屈曲部9の反射像拡散性指標値R/平坦部7と屈曲部9の反射像拡散性指標値Rの和)が0.3~0.8であることが好ましく、0.4~0.7であることがさらに好ましく、0.4~0.6であることが特に好ましい。この範囲であれば、使用者側から防眩膜付き曲げ基材1を視認した際に、均質な防眩膜処理がされているように視認でき、美観性に優れる。また、防眩膜の凹凸によるタッチ感も損なわない。また、特にヘイズの高い防眩膜付き曲げ基材1では反射像拡散性指標値Rの比が0.4~0.7であることがより好ましく、0.4~0.6であることがさらに好ましい。高ヘイズな防眩膜の場合には光の散乱により白味が強くなり陰影が付きやすく目視による外観の均一性に影響がでる。反射像拡散性指標値Rの比が前記の範囲であれば目視での外観均一性が陰影により影響を受けにくく優れた外観となる。
【0061】
防眩膜付き曲げ基材1は、ヘイズの面内の標準偏差が0~10%であり、0~6%であることがより好ましい。この範囲であれば、使用者側から防眩膜付き曲げ基材1を視認した際に、均質な防眩膜処理がされているように視認でき、美観性に優れる。また、防眩膜の凹凸によるタッチ感も損なわない。
防眩膜付き曲げ基材1が
図1(b)のような曲率0でない屈曲部9のみからなる場合には、前記屈曲部に設けられた防眩膜のヘイズの面内の標準偏差が0%以上10%以下である。
【0062】
防眩膜付き曲げ基材1は、ギラツキ指標値Sの面内の標準偏差が0~10%であり、0~6%であることがより好ましい。この範囲であれば、液晶等の表示画面を違和感なく視認できる。
【0063】
防眩膜付き曲げ基材1は、解像度指標値Tの面内の標準偏差が0~10%であり、0~6%であることがより好ましい。この範囲であれば、液晶等の表示画面を違和感なく視認できる。
【0064】
防眩膜付き曲げ基材1は、60°鏡面光沢度の面内の標準偏差が0~20%であり、0~15%であることがより好ましい。この範囲であれば、光沢の違和感なく液晶等の表示画面を視認できる。
【0065】
<防眩膜付き曲げ基材の製造方法>
本発明の防眩膜付き曲げ基材の製造方法は、
シリカ前駆体(A)および粒子(C)の少なくとも一方と、液状媒体(B)とを含む組成物を準備する工程(以下、組成物調製工程ともいう。)と、
静電塗装装置を用いて前記組成物を帯電させ噴霧することにより前記基材上に塗布して塗膜を形成する工程(以下、塗布工程ともいう。)と、
前記塗膜を焼成する工程(以下、焼成工程ともいう。)と、を有する。必要に応じて、防眩膜を形成する前に基材本体の表面に機能層を形成して基材を作製する工程を有していてもよく、防眩膜を形成した後に公知の後加工を施す工程を有していてもよい。
【0066】
(組成物調製工程)
組成物は、シリカ前駆体(A)および粒子(C)の少なくとも一方と、液状媒体(B)とを含む。
組成物が、シリカ前駆体(A)を含まず、粒子(C)を含む場合、粒子(C)の平均粒子径は、30nm以下であることが好ましい。
組成物は、必要に応じて、シリカ前駆体(A)以外の他のバインダ(D)、その他の添加剤(E)等を含んでいてもよい。
【0067】
(A)シリカ前駆体
シリカ前駆体(A)としては、ケイ素原子に結合した炭化水素基および加水分解性基を有するシラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物、アルコキシシラン(ただしシラン化合物(A1)を除く。)およびその加水分解縮合物(ゾルゲルシリカ)、シラザン等が挙げられる。
【0068】
シラン化合物(A1)において、ケイ素原子に結合した炭化水素基は、1つのケイ素原子に結合した1価の炭化水素基であってもよく、2つのケイ素原子に結合した2価の炭化水素基であってもよい。1価の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基等が挙げられる。
炭化水素基は、炭素原子間に-O-、-S-、-CO-および-NR’-(ただしR’は水素原子または1価の炭化水素基である。)から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた基を有していてもよい。
【0069】
ケイ素原子に結合した加水分解性基としては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が挙げられる。これらの中では、シラン化合物(A1)の安定性と加水分解のしやすさとのバランスの点から、アルコキシ基、イソシアネート基およびハロゲン原子(特に塩素原子)が好ましい。
アルコキシ基としては、炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。
シラン化合物(A1)中に加水分解性基が複数存在する場合には、加水分解性基は、同じ基であっても異なる基であってもよく、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
【0070】
シラン化合物(A1)としては、後述する式(I)で表される化合物、アルキル基を有するアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等)、ビニル基を有するアルコキシシラン(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、エポキシ基を有するアルコキシシラン(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等)、アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシラン(3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等)等が挙げられる。
【0071】
シラン化合物(A1)としては、膜厚が厚くても防眩膜のクラックや膜剥がれが生じにくい点から、下式(I)で表される化合物が好ましい。
R3-pLpSi-Q-SiLpR3-p ・・・(I)
【0072】
式(I)中、Qは、2価の炭化水素基(炭素原子間に-O-、-S-、-CO-および-NR’-(ただし、R’は水素原子または1価の炭化水素基である。)から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた基を有していてもよい。)である。2価の炭化水素としては、上述したものが挙げられる。
Qとしては、入手が容易であり、かつ膜厚が厚くても防眩膜のクラックや膜剥がれが生じにくい点から、炭素数2~8のアルキレン基が好ましく、炭素数2~6のアルキレン基がさらに好ましい。
【0073】
式(I)中、Lは、加水分解性基である。加水分解性基としては、上述したものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
Rは、水素原子または1価の炭化水素基である。1価の炭化水素としては、上述したものが挙げられる。
pは、1~3の整数である。pは、反応速度が遅くなりすぎない点から、2または3が好ましく、3が特に好ましい。
【0074】
アルコキシシラン(ただし、前記シラン化合物(A1)を除く。)としては、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等)、パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン(パーフルオロポリエーテルトリエトキシシラン等)、パーフルオロアルキル基を有するアルコキシシラン(パーフルオロエチルトリエトキシシラン等)等が挙げられる。
【0075】
シラン化合物(A1)およびアルコキシシラン(ただしシラン化合物(A1)を除く。
)の加水分解および縮合は、公知の方法により実施できる。
たとえばテトラアルコキシシランの場合、テトラアルコキシシランの4倍モル以上の水、および触媒として酸またはアルカリを用いて行う。
酸としては、無機酸(HNO3、H2SO4、HCl等。)、有機酸(ギ酸、シュウ酸、モノクロル酢酸、ジクロル酢酸、トリクロル酢酸等。)が挙げられる。アルカリとしては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。触媒としては、シラン化合物(A)の加水分解縮合物の長期保存性の点では、酸が好ましい。
【0076】
シリカ前駆体(A)としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリカ前駆体(A)は、防眩膜のクラックや膜剥がれを防止する観点から、シラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方を含むことが好ましい。
シリカ前駆体(A)は、防眩膜の耐摩耗強度の観点から、テトラアルコキシシランおよびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方を含むことが好ましい。
シリカ前駆体(A)は、シラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方と、テトラアルコキシシランおよびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方と、を含むことが特に好ましい。
【0077】
(B)液状媒体
液状媒体(B)は、組成物がシリカ前駆体(A)を含む場合は、シリカ前駆体(A)を溶解または分散するものであり、組成物が粒子(C)を含む場合は、粒子(C)を分散するものである。組成物がシリカ前駆体(A)および粒子(C)の両方を含む場合、液状媒体(B)は、シリカ前駆体(A)を溶解または分散する溶媒または分散媒としての機能と、粒子(C)を分散する分散媒としての機能の両方を有するものであってもよい。
【0078】
液状媒体(B)は、少なくとも、沸点150℃以下の液状媒体(B1)を含む。液状媒体(B1)の沸点は、50~145℃が好ましく、55~140℃がより好ましい。
液状媒体(B1)の沸点が150℃以下であれば、組成物を、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを備える静電塗装装置を用いて基材上に塗布し、焼成して得られる膜がより好ましい防眩性能を有する。液状媒体(B1)の沸点が前記範囲の下限値以上であれば、組成物の液滴が基材上に付着した後、液滴形状を十分に保ったまま凹凸構造を形成できる。
【0079】
液状媒体(B1)としては、たとえば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、1-ペンタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、グリコールエーテル類(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等)等が挙げられる。
液状媒体(B1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
液状媒体(B)は、必要に応じて、液状媒体(B1)以外の他の液状媒体、すなわち沸点が150℃超の液状媒体をさらに含んでいてもよい。かかる沸点が150℃超の液状媒体の含有割合は、液状媒体(B)の全量に対して14質量%未満である。
他の液状媒体としては、たとえば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。
アルコール類としては、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、エチレングリコール等が挙げられる。
含窒素化合物としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
含硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
他の液状媒体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
シリカ前駆体(A)におけるアルコキシシラン等の加水分解には水が必要となるため、加水分解後に液状媒体の置換を行わない限り、液状媒体(B)は、液状媒体(B1)として少なくとも水を含む。
この場合、液状媒体(B)は、水のみであってもよく、水と他の液体との混合液であってもよい。他の液体としては、水以外の液状媒体(B1)でもよく、他の液状媒体でもよく、たとえば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。これらのうち、シリカ前駆体(A)の溶媒としては、アルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが特に好ましい。
【0082】
(C)粒子
粒子(C)は、単独で、またはシリカ前駆体(A)に由来するマトリックスとともに、防眩膜を構成する。
組成物が、シリカ前駆体(A)を含まず、粒子(C)を含む場合、粒子(C)の平均粒子径は、30nm以下であることが好ましい。
粒子(C)としては、鱗片状粒子(C1)、鱗片状粒子(C1)以外の他の粒子(C2)等が挙げられる。
【0083】
鱗片状粒子(C1):
鱗片状粒子(C1)の平均アスペクト比は、50~650が好ましく、100~350がより好ましく、170~240がさらに好ましい。鱗片状粒子(C1)の平均アスペクト比が50以上であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックや膜剥がれが充分に抑えられる。鱗片状粒子(C1)の平均アスペクト比が650以下であれば、組成物中における分散安定性が良好となる。
【0084】
鱗片状粒子(C1)の平均粒子径は、0.08~0.42μmが好ましく、0.17~0.21μmがより好ましい。鱗片状粒子(C1)の平均粒子径が0.08μm以上であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックや膜剥がれが充分に抑えられる。鱗片状粒子(C1)の平均粒子径が0.42μm以下であれば、組成物中における分散安定性が良好となる。
【0085】
鱗片状粒子(C1)としては、鱗片状シリカ粒子、鱗片状アルミナ粒子、鱗片状チタニア、鱗片状ジルコニア等が挙げられる。
【0086】
鱗片状シリカ粒子は、薄片状のシリカ1次粒子、または複数枚の薄片状のシリカ1次粒子が、互いに面間が平行的に配向し重なって形成されるシリカ2次粒子である。シリカ2次粒子は、通常、積層構造の粒子形態を有する。
鱗片状シリカ粒子は、シリカ1次粒子およびシリカ2次粒子のいずれか一方のみであってもよく、両方であってもよい。
【0087】
シリカ1次粒子の厚さは、0.001~0.1μmが好ましい。シリカ1次粒子の厚さが前記範囲内であれば、互いに面間が平行的に配向して1枚または複数枚重なった鱗片状のシリカ2次粒子を形成できる。
シリカ1次粒子の厚さに対する最小長さの比(最少長さ/厚さ)は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
【0088】
シリカ2次粒子の厚さは、0.001~3μmが好ましく、0.005~2μmがより好ましい。
シリカ2次粒子の厚さに対する最小長さの比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
シリカ2次粒子は、融着することなく互いに独立に存在していることが好ましい。
【0089】
鱗片状シリカ粒子のSiO2純度は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
組成物の調製には、複数の鱗片状シリカ粒子の集合体である粉体、または該粉体を液状媒体に分散させた分散体が用いられる。分散体中のシリカ濃度は、1~80質量%が好ましい。
【0090】
粉体または分散体には、鱗片状シリカ粒子だけでなく、鱗片状シリカ粒子の製造時に発生する不定形シリカ粒子が含まれることがある。鱗片状シリカ粒子は、たとえば、鱗片状シリカ粒子が凝集して不規則に重なり合って形成される間隙を有する凝集体形状のシリカ3次粒子(以下、シリカ凝集体とも記す。)を解砕、分散化することによって得られる。不定形シリカ粒子は、シリカ凝集体がある程度微粒化された状態であるが、個々の鱗片状シリカ粒子まで微粒化されていない状態のものであり、複数の鱗片状シリカ粒子が塊を形成する形状である。不定形シリカ粒子を含むと、形成される防眩膜の緻密性が低下してクラックや膜剥がれが発生しやすくなるおそれがある。そのため、粉体または分散体における不定形シリカ粒子の含有量は、少ないほど好ましい。
不定形シリカ粒子およびシリカ凝集体は、いずれも、TEM観察において黒色状に観察される。一方、薄片状のシリカ1次粒子またはシリカ2次粒子は、TEM観察において透明または半透明状に観察される。
【0091】
鱗片状シリカ粒子は、市販のものを用いてもよく、製造したものを用いてもよい。
鱗片状シリカ粒子は、日本国特開2014-094845号公報に記載された方法によって製造されたものが好ましい。これに開示された製造方法によれば、公知の製造方法(たとえば、日本国特許第4063464号公報に記載の方法)に比べて、製造工程での不定形シリカ粒子の発生が抑えられ、不定形シリカ粒子の含有量の少ない粉体または分散体を得られる。
【0092】
粒子(C2):
鱗片状粒子(C1)以外の他の粒子(C2)としては、金属酸化物粒子、金属粒子、顔料系粒子、樹脂粒子等が挙げられる。
【0093】
金属酸化物粒子の材料としては、Al2O3、SiO2、SnO2、TiO2、ZrO2、ZnO、CeO2、Sb含有SnOX(ATO)、Sn含有In2O3(ITO)、RuO2等が挙げられる。金属酸化物粒子の材料としては、本発明の防眩膜におけるマトリックスがシリカであるため、屈折率がマトリックスと同じSiO2が好ましい。
金属粒子の材料としては、金属(Ag、Ru等)、合金(AgPd、RuAu等)等が挙げられる。
顔料系粒子としては、無機顔料(チタンブラック、カーボンブラック等)、有機顔料が挙げられる。
樹脂粒子の材料としては、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラニン樹脂等が挙げられる。
【0094】
粒子(C2)の形状としては、球状、楕円状、針状、板状、棒状、円すい状、円柱状、立方体状、長方体状、ダイヤモンド状、星状、不定形状等が挙げられる。他の粒子は、各粒子が独立した状態で存在していてもよく、各粒子が鎖状に連結していてもよく、各粒子が凝集していてもよい。
粒子(C2)は、中実粒子でもよく、中空粒子でもよく、多孔質粒子等の穴あき粒子でもよい。
【0095】
粒子(C2)の平均粒子径は、0.1~2μmが好ましく、0.5~1.5μmがより好ましい。粒子(C2)の平均粒子径が0.1μm以上であれば、防眩効果が充分に発揮される。粒子(C2)の平均粒子径が2μm以下であれば、組成物中における分散安定性が良好となる。
【0096】
多孔質球状シリカ粒子を添加する場合、BET比表面積は、200~300m2/gが好ましい。
多孔質球状シリカ粒子の細孔容積は、0.5~1.5cm3/gが好ましい。
多孔質球状シリカ粒子の市販品としては、日産化学工業社製のライトスター(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0097】
粒子(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
粒子(C)は、鱗片状粒子(C1)を含むことが好ましく、さらに粒子(C2)を含んでもよい。鱗片状粒子(C1)を含むことで、防眩膜のヘイズが高まり、より優れた防眩性能が得られる。また、粒子(C2)に比べて、鱗片状粒子(C1)を含ませた場合、防眩膜の膜厚を厚くしたときにクラックや膜剥がれが生じにくい。
【0098】
(D)バインダ
バインダ(D)(ただしシリカ前駆体(A)を除く。)としては、液体媒体(B)に溶解または分散する無機物や樹脂等が挙げられる。
無機物としては、たとえばシリカ以外の金属酸化物前駆体(金属:チタン、ジルコニウム、等)が挙げられる。
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等が挙げられる。
【0099】
(E)添加剤
組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤(E)をさらに含んでいてもよい。
添加剤(E)としては、たとえば、極性基を有する有機化合物(E1)、紫外線吸収剤、赤外線反射剤、赤外線吸収剤、反射防止剤、レベリング性向上のための界面活性剤、耐久性向上のための金属化合物等が挙げられる。
【0100】
組成物が粒子(C)を含有する場合、組成物に極性基を有する有機化合物(E1)を含ませることによって、組成物中における静電気力による粒子(C)の凝集を抑制できる。
極性基を有する有機化合物(E1)としては、粒子(C)の凝集抑制効果の点から、分子中に水酸基および/またはカルボニル基を有するものが好ましく、分子中に水酸基、アルデヒド基(-CHO)、ケトン基(-C(=O)-)、エステル結合(-C(=O)O-)、カルボキシル基(-COOH)からなる群から選ばれる1種以上を有するものがより好ましく、分子中にカルボキシル基、水酸基、アルデヒド基およびケトン基からなる群から選ばれる1種以上を有するものがさらに好ましい。
【0101】
極性基を有する有機化合物(E1)としては、不飽和カルボン酸重合体、セルロース誘導体、有機酸(ただし、不飽和カルボン酸重合体を除く。)、テルペン化合物等が挙げられる。有機化合物(E1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
レベリング性向上のための界面活性剤としては、シリコーンオイル系、アクリル系等が挙げられる。
耐久性向上のための金属化合物としては、ジルコニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、アルミニウムキレート化合物等が好ましい。ジルコニウムキレート化合物としては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムトリブトキシステアレート等が挙げられる。
【0103】
[組成]
組成物中のシリカ前駆体(A)と粒子(C)との合計の含有量は、組成物中の固形分(100質量%)(ただし、シリカ前駆体(A)はSiO2換算とする。)のうち、30~100質量%が好ましく、40~100質量%がより好ましい。シリカ前駆体(A)と粒子(C)との合計の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、防眩膜の曲げ基材との密着性に優れる。シリカ前駆体(A)と粒子(C)との合計の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、防眩膜のクラックや膜剥がれが抑えられる。
【0104】
組成物がシリカ前駆体(A)を含む場合、組成物中のシリカ前駆体(A)(SiO2換算)の含有量は、組成物中の固形分(100質量%)(ただし、シリカ前駆体(A)はSiO2換算とする。)のうち、35~95質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましい。シリカ前駆体(A)の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、防眩膜の曲げ基材との充分な密着強度が得られる。シリカ前駆体(A)の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックや膜剥がれが充分に抑えられる。
【0105】
組成物がシリカ前駆体(A)を含み、かつシリカ前駆体(A)がシラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方を含む場合、シリカ前駆体(A)中のシラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物の割合は、シリカ前駆体(A)のSiO2換算固形分(100質量%)に対し、5~100質量%が好ましい。シラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物の割合が前記範囲の下限値以上であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックや膜剥がれが充分に抑えられる。
【0106】
組成物中の液状媒体(B)の含有量は、組成物の固形分濃度に応じた量とされる。
組成物の固形分濃度は、組成物の全量(100質量%)のうち、0.01~50質量%が好ましく、0.01~6質量%がより好ましい。固形分濃度が前記範囲の下限値以上であれば、組成物の液量を少なくできる。固形分濃度が前記範囲の上限値以下であれば、防眩膜の膜厚の均一性が向上する。
組成物の固形分濃度は、組成物中の、液状媒体(B)以外の全成分の含有量の合計である。ただし、シリカ前駆体(A)の含有量は、SiO2換算である。
【0107】
組成物中の沸点150℃以下の液状媒体(B1)の含有量は、液状媒体(B)の全量に対して86質量%以上である。液状媒体(B1)を86質量%以上の割合で含むことにより、組成物を、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを備える静電塗装装置を用いて曲げ基材上に塗布し、焼成したときに、より好ましい性能を有する防眩膜が形成される。液状媒体(B1)の割合が86質量%未満であると、溶媒揮発乾燥前に平滑化するため凹凸構造が形成できず、焼成後の膜が防眩膜とはならないおそれがある。
液状媒体(B1)の含有量は、液状媒体(B)の全量に対して90質量%以上が好ましい。液状媒体(B1)の含有量は、液状媒体(B)の全量に対して100質量%であっても構わない。
【0108】
組成物が粒子(C)を含む場合、粒子(C)の含有量は、組成物中の固形分(100質量%)(ただし、シリカ前駆体(A)はSiO2換算とする。)のうち、1~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。粒子(C)の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、防眩膜付き曲げ基材のヘイズが充分に高くなり、かつ防眩膜の表面における60°鏡面光沢度が充分に低くなることから、防眩効果が充分に発揮される。粒子(C)の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、充分な耐摩耗強度が得られる。
【0109】
組成物が粒子(C)を含み、かつ粒子(C)が鱗片状粒子(C1)を含む場合、鱗片状粒子(C1)の含有量は、粒子(C)の全量(100質量%)のうち、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。鱗片状粒子(C1)の割合が前記の下限値以上であれば、防眩効果がより優れたものとなる。また、膜厚が厚くても防眩膜のクラックや膜剥がれが充分に抑えられる。
【0110】
組成物は、たとえば、シラン前駆体(A)が液体媒体(B)に溶解した溶液を調製し、必要に応じて追加の液状媒体(B)、粒子(C)の分散液等を混合することによって調製できる。
粒子(C)を含み、シリカ前駆体(A)がテトラアルコキシシランの加水分解縮合物を含む場合は、所望の性能を有する防眩膜を高いレベルで再現性よく製造できる点から、テトラアルコキシシランの溶液、またはテトラアルコキシシランおよびその加水分解縮合物の混合物の溶液と、粒子(C)の分散液とを混合した後、粒子(C)の存在下でテトラアルコキシシランを加水分解し、縮合させることが好ましい。
【0111】
(防眩膜形成工程)
基材上への前記組成物の塗布は、静電塗装装置を用いて、特に回転霧化頭を備える静電塗装ガンを備える静電塗装装置を用いて、前記組成物を帯電させ噴霧することにより行われる。これにより、基材上に、前記組成物の塗膜が形成される。
【0112】
静電塗装装置:
図3は、静電塗装装置の一例を示す概略図である。
静電塗装装置10は、コーティングブース11と、チェーンコンベア12と、複数の静電塗装ガン17と、高電圧発生装置18と、排気ボックス20とを具備する。
チェーンコンベア12は、コーティングブース11を貫通し、導電性基板21およびこの上に載せられた曲げ基材3を所定方向に搬送するようになっている。
複数の静電塗装ガン17は、チェーンコンベア12の上方のコーティングブース11内に、曲げ基材3の搬送方向に交差する方向に並んで配置され、それぞれに高電圧ケーブル13、組成物の供給ライン14、組成物の回収ライン15、および2系統のエアの供給ライン16a、16bが接続されている。
高電圧発生装置18は、高電圧ケーブル13を介して静電塗装ガン17に接続され、かつ接地されている。
排気ボックス20は、静電塗装ガン17およびチェーンコンベア12の下方に配置され、排気ダクト19が接続されている。
【0113】
静電塗装ガン17は、ノズルセットフレーム(図示略)に固定されている。ノズルセットフレームによって、静電塗装ガン17のノズル先端から曲げ基材3までの距離、曲げ基材3に対する静電塗装ガン17の角度、曲げ基材3の搬送方向に対する複数の静電塗装ガン17が並ぶ方向等を調整できるようになっている。
静電塗装ガン17のノズル先端部および組成物の供給ライン14、および回収ライン15には高電圧が印加されるため、静電塗装ガン17、供給ライン14、および回収ライン15と、金属からなる部分(たとえば、ノズルセットフレーム、コーティングブース11の側壁貫通部分等の金属部分)との接続部分は、樹脂等で絶縁処理されている。
静電塗装ガン17が曲げ基材3に追従して運動してもよい。例えばロボットのアーム先端部に固定またはレシプロケータ―に固定されていてもよい。
【0114】
チェーンコンベア12は、複数のプラスチックチェーンからなる、複数のプラスチックチェーンの一部または全部が導電性プラスチックチェーンである。導電性プラスチックチェーンは、プラスチックチェーンを嵌め込む金属チェーン(図示略)およびその駆動モータ(図示略)の接地ケーブル(図示略)を介して、接地されている。
チェーンコンベア12は金属製でもよく、例えば複数の金属チェーンである。金属はコート液に耐性のある材質が好ましく、例えばステンレス(SUS)である。金属チェーンは、その駆動モータ(図示略)の接地ケーブル(図示略)を介して、接地されている。
【0115】
導電性基板21は、その上に曲げ基材3を載置可能な、少なくとも表面に導電性が付与され、その表面が曲げ基材の第二の主面3b(接触面)と一致する形状に構成された台座であり、チェーンコンベア12の導電性プラスチックチェーン、金属チェーンおよび駆動モータの接地ケーブルを介して充分に接地するために用いられる。導電性基板21は接地されていればチェーンコンベアと直接接触する必要はなく、例えば角パイプ上に置いても良い。曲げ基材3が充分に接地され、すなわち導電性基板21と曲げ基材3との間が空隙無く密着した状態で成膜することで、組成物が均一に曲げ基材3上に付着する。
導電性基板21の材質は特に限定されないが、導電性を付与するため、また加熱源からの熱量を効率的に伝達するため、金属やカーボンからできていることが好ましい。ガラスへの傷を防ぐにはガラスよりビッカース硬度が小さいカーボンが好ましい。また、ガラスなどの絶縁性の台座をアルミ箔のような金属フィルムにより覆ったものや銅などの金属を蒸着などによりコーティングしたものも導電性基板21として使用できる。
【0116】
導電性基板21としては、さらに曲げ基材3の温度降下を抑制し、かつ温度分布を均一化できることから、また組成物を均一に曲げ基材上に付着できるように電気的均一性を確保することから、曲げ基材3の第二の主面3b全体と接触するような表面を有する導電性基板21が好ましい。この導電性基板21は柔軟性のあるフィルム材でもよいが、予め目的の曲げ基材3の第2の主面全体と接触するような表面に加工された台座を用いることが好ましい。さらに、導電性基板21は柔軟性のあるバルク材を用いると曲げ基材の形状に応じて適宜調整可能となるのでより好ましい。曲げ基材3の第二の主面3bと導電性基板21表面が前面に渡って接触する必要はないが、第一の主面3aに均一な膜を形成するためには、少なくとも屈曲部9においては均一に接触させるのが好ましい。屈曲部9および傾斜部8に均一に接触させるのがより好ましい。
【0117】
静電塗装ガン:
図4は、静電塗装ガン17の断面模式図である。
図5は、静電塗装ガン17を前方から見た正面模式図である。
静電塗装ガン17は、ガン本体30と、回転霧化頭40とを備える。回転霧化頭40は、ガン本体30の前端部に、軸線を前後方向に向けて配置されている。
静電塗装ガン17においては、回転霧化頭40を回転駆動することにより、回転霧化頭40に供給された組成物を遠心力により霧化して放出(すなわち、噴霧)するようになっている。
なお、静電塗装ガン17の説明において、前方、前端等における「前」は、組成物の噴霧方向を示し、その反対方向が後方である。
図3、4中の下方が、静電塗装ガン17中の前方である。
【0118】
ガン本体30内には、回転霧化頭40と同軸上に、組成物供給管31が固定して収容されている。
ガン本体30内には、図示しないエアタービンモータが設けられ、このエアタービンモータには回転軸32が設けられている。また、エアタービンモータには、2系統のエアの供給ライン16a、16bのうちの1系統(たとえば、供給ライン16a)が接続され、供給ライン16aからのエア圧によって回転軸32の回転数を制御できるようになっている。回転軸32は、回転霧化頭40と同軸上に、組成物供給管31を包囲するように配置されている。
なお、ここでは回転軸32の回転駆動手段としてエアタービンモータを用いる例を示したが、エアタービンモータ以外の回転駆動手段を用いてもよい。
【0119】
ガン本体30には、シェービングエア(シェーピングエアともいう。)の吹出口33が複数形成され、複数の吹出口33それぞれにシェービングエアを供給するためのエア供給路35が形成されている。また、エア供給路35には、2系統のエアの供給ライン16a、16bのうちの1系統(たとえば、供給ライン16b)が接続され、エア(シェービングエア)を、エア供給路35を介して吹出口33に供給できるようになっている。
複数の吹出口33は、静電塗装ガン17の正面視において、軸心を中心とする同心円上に等間隔で開口するように形成されている。また、複数の吹出口33は、静電塗装ガン17の側面視において、静電塗装ガン17の前方に向かって次第に軸心から離れるように形成されている。
【0120】
回転霧化頭40は、第1部品41と、第2部品42とを備える。第1部品41および第2部品42はそれぞれ筒状である。
第1部品41は、軸取付部43と、軸取付部43から前方に延出した形態の保持部44と、保持部44から前方に延出した形態の周壁45と、周壁45から前方へ延出した形態の拡径部47と、周壁45と拡径部47の境界位置において第1部品41の中心孔を前後に区画する形態の前面壁49とが一体に形成されたものである。
【0121】
保持部44は、第2部品42を第1部品41に対して同軸状に保持するものである。
周壁45の内周面は、回転霧化頭40の軸線方向における全領域に亘り、前方に向かって次第に拡径するテーパ状の誘導面46となっている。
拡径部47は、前方に向かってカップ状に拡径した形態であり、拡径部47の前面は、前方に向かって次第に拡径した形態の拡散面48となっている。
拡径部47の拡散面48の外周縁48aには、全周にわたって、組成物の微粒化のための微細な切り込みが多数、略等間隔に設けられている。
前面壁49には、前面壁49の外周縁を前後に貫通した形態の流出孔50が形成されている。流出孔50は、円形をなし、周方向において等角度ピッチで複数形成されている。また、流出孔50の貫通方向は、周壁45の誘導面46の傾斜方向と平行である。
前面壁49の後面のうち中央部分は、後方に向かって突出した円錐状となっている。また、この中央部分には、前面壁49の前面の中心部から後方に延び、途中で3つに分岐して円錐状の部分の周面上に開口する貫通孔53が形成されている。
【0122】
第2部品42は、筒状部51と後面壁52とを一体に形成したものである。後面壁52は、筒状部51の前端部に配置されている。後面壁52の中央には、円形の貫通孔が形成されており、組成物供給管31の前端部を挿入できるようになっている。
回転霧化頭40においては、前面壁49、周壁45及び後面壁52によって囲まれた空間が貯留室Sとされている。この貯留室Sは、複数の流出孔50を介して拡散面48に連通している。
静電塗装ガン17においては、組成物供給管31の前端の吐出口31aが貯留室S内に開口するように、組成物供給管31の前端部が後面壁52の中央の貫通孔に挿入されている。これにより、組成物供給管31を介して組成物を貯留室S内に供給できるようになっている。
【0123】
なお、静電塗装装置および静電塗装ガンは、図示例のものに限定はされない。静電塗装装置は、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを備えるものであれば、公知の静電塗装装置を採用できる。静電塗装ガンは、回転霧化頭を備えるものであれば、公知の静電塗装ガンを採用できる。また、静電塗装ガンは、例えば6軸塗装用ロボット(例えば川崎ロボティックス社製)などに把持させて組成物の噴霧を行ってもよい。
【0124】
塗布方法:
静電塗装装置10においては、下記のようにして曲げ基材3上に組成物が塗布される。
図6に示すように曲げ基材3を、導電性基板21上に設置する。また、高電圧発生装置18によって、静電塗装ガン17に高電圧を印加する。同時に、組成物の供給ライン14から組成物を静電塗装ガン17に供給するとともに、2系統のエアの供給ライン16a、16bそれぞれからエアを静電塗装ガン17に供給する。
エアの供給ライン16bから供給されるエアは、ガン本体30内のエア供給路35にエアが供給され、シェービングエアとして吹出口33の開口から吹き出される。
エアの供給ライン16aから供給されるエアは、ガン本体30内のエアタービンモータを駆動させ、回転軸32を回転させる。これにより、組成物の供給ライン14から組成物供給管31を通して貯留室S内に供給された組成物が、遠心力により周壁45の誘導面46に沿って前方へ移動し、流出孔50を通過して拡散面48へ供給される。組成物の一部は、中央部分の貫通孔53を通過して拡散面48へ供給され得る。ここで、周壁45の誘導面46は、流出孔50に向かって拡径したテーパ状をなすので、貯留室S内の組成物は、遠心力により、貯留室S内に残留することなく確実に流出孔50に到達する。
そして、拡散面48に供給された組成物は、遠心力により拡散面48に沿って拡散されながら外周縁48a側へ移動し、拡散面48に組成物の液膜を形成し、拡径部47の拡散面48の外周縁48aにおいて微粒化され、液滴となって放射状に飛散する。
回転霧化頭40から飛散した組成物の液滴は、シェービングエアの流れによって曲げ基材3方向に導かれる。また、前記液滴は、マイナス電荷を帯びており、接地された曲げ基材3に向かって静電引力によって引き寄せられる。そのため、曲げ基材3の表面に組成物が効率よく付着し、屈曲部も平坦部も均一均質な防眩膜を形成できる。
【0125】
静電塗装ガン17から噴霧されなかった一部の組成物は、組成物の回収ライン15を通って組成物タンク(図示略)に回収される。また、静電塗装ガン17から噴霧され、曲げ基材3に付着しなかった一部の組成物は、排気ボックス20に吸引され、排気ダクト19を通って回収される。
【0126】
曲げ基材3の表面温度は、15~50℃が好ましく、20~40℃がより好ましい。曲げ基材3の表面温度が前記範囲の下限値以上であれば、組成物の液状媒体(B)がすばやく蒸発するため、充分な凸凹を形成しやすい。曲げ基材3の表面温度が前記範囲の上限値以下であれば、曲げ基材3と防眩膜5との密着性が良好となる。
【0127】
曲げ基材3の搬送速度は、0.6~20m/分が好ましく、1~15m/分がより好ましい。曲げ基材3の搬送速度が0.6m/分以上であれば、生産性が向上する。曲げ基材3の搬送速度が20m/分以下であれば、曲げ基材3上に塗布される組成物の膜厚を制御しやすい。
【0128】
曲げ基材3の搬送回数、すなわち曲げ基材3に静電塗装ガン17の下を通過させて組成物を塗布する回数は、所望のヘイズ、光沢度等に応じて適宜設定できる。防眩性の点では、1回以上が好ましく、2回以上がより好ましい。生産性の点では、6回以下が好ましく、5回以下がより好ましい。
【0129】
静電塗装ガン17のノズル先端(すなわち、組成物の噴霧方向における回転霧化頭40の前端)から曲げ基材3までの距離は、曲げ基材3の幅、曲げ基材3上に塗布される組成物の膜厚等に応じて適宜調整され、通常は、150~450mmである。曲げ基材3までの距離を近づけると塗布効率は高まるが、近づけ過ぎると放電を起こす可能性が高くなり安全上の問題が発生する。一方、曲げ基材3までの距離が離れるにしたがって塗布領域は拡大するが、離れ過ぎると塗布効率の低下が問題となる。
【0130】
静電塗装ガン17に印加される電圧は、曲げ基材3上に塗布される組成物の塗布量等に応じて適宜調整され、-30kV~-90kVの範囲が好ましく、-40kV~-90kVがより好ましく、-50kV~-90kVがさらに好ましい。電圧の絶対値が大きくすると塗布効率が高まる傾向にある。
【0131】
静電塗装ガン17への組成物の供給量(以下、コート液量ともいう。)は、曲げ基材3上に塗布される組成物の塗布量等に応じて適宜調整され、3~200mL/分が好ましく、5mL/分~100mL/分がより好ましく、10mL/分~60mL/分がさらに好ましい。コート液量が少な過ぎると膜切れが発生するおそれがある。最大のコート液量は、塗布膜厚、塗布スピード、液特性等によって最適な値を選択できる。
【0132】
2系統のエアの供給ライン16a、16bそれぞれから静電塗装ガン17に供給されるエアの圧力は、曲げ基材3上に塗布される組成物の塗布量等に応じて適宜調整され、0.01MPa~0.5MPaが好ましい。
2系統のエアの供給ライン16a、16bそれぞれから静電塗装ガン17に供給するエア圧によって、組成物の塗布パターンを制御できる。
組成物の塗布パターンとは、静電塗装ガン17から噴霧された組成物の液滴によって基材上に形成されるパターンを示す。
静電塗装ガン17内のエアタービンモータに供給されるエアのエア圧を高くすると、回転軸32の回転速度が上昇し、回転霧化頭40の回転速度が上昇することにより、回転霧化頭40から飛散する液滴の大きさが小さくなり、塗布パターンが大きくなる傾向を示す。
静電塗装ガン17内のエア供給路35に供給されるエアのエア圧を高くし、吹出口33から吹き出されるエア(シェービングエア)のエア圧を高くすると、回転霧化頭40から飛散する液滴の広がりが抑制され、塗布パターンが小さくなる傾向を示す。
【0133】
エアタービンモータに供給するエアのエア圧は、回転霧化頭40の回転速度(以下、カップ回転数ともいう。)が5000~80000rpmの範囲内となる圧力とすることが好ましい。カップ回転数は、7000~70000rpmがより好ましく、10000~50000rpmが特に好ましい。カップ回転数が前記範囲の下限値以上であれば、表面凹凸形成能に優れる。カップ回転数が前記範囲の上限値以下であれば、塗布効率に優れる。
カップ回転数は、静電塗装装置10に付属の計測器(図示略)により測定できる。
【0134】
エア供給路35に供給するエアのエア圧は、シェービングエアのエア圧(以下、シェーブ圧ともいう。)が0.01~0.3MPaの範囲内となる圧力とすることが好ましい。シェーブ圧は、0.03~0.25MPaがより好ましく、0.05~0.2MPaが特に好ましい。シェーブ圧が前記範囲の下限値以上であれば、液滴の飛散防止効果向上による塗布効率向上に優れる。シェーブ圧が前記範囲の上限値以下であれば、塗布幅を確保できる。
【0135】
(焼成工程)
焼成工程では、塗布工程で基材上に形成された、組成物の塗膜を焼成して防眩膜とする。
焼成は、組成物を基材に塗布する際に基材を加熱することによって塗布と同時に行ってもよく、組成物を基材に塗布した後、塗膜を加熱することによって行ってもよい。
焼成温度は、30℃以上が好ましく、たとえば基材がガラスである場合は100~750℃がより好ましく、150~550℃がさらに好ましい。
【0136】
[作用効果]
以上説明した本発明の防眩膜付き曲げ基材の製造方法にあっては、回転霧化頭を備える静電塗装ガンで噴霧する組成物として、シリカ前駆体(A)および粒子(C)の少なくとも一方と、液状媒体(B)とを含み、かつ液状媒体(B)が、沸点150℃以下の液状媒体(B1)を、液状媒体(B)の全量に対して86質量%以上含む組成物を用いることにより、防眩膜を形成できる。これは、組成物の液滴が基材上に付着した後、迅速に液状媒体(B1)が揮発することで、液滴が基板上で広がりにくく、付着した時点の形状を充分に保った状態で成膜される(すなわち、液状媒体(B)の全体が除去される。また、シリカ前駆体(A)を含む場合にはシリカ前駆体(A)がマトリックスになる。)ためと考えられる。
【0137】
本発明の防眩膜付き曲げ基材の製造方法にあっては、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを用いるため、塗布パターンの大きさ(たとえば、幅)が大きい。例えば、防眩膜の形成に従来汎用されている2流体スプレーノズルを用いたスプレー法では、塗布パターンの幅が最大で7mm程度である。これに対し、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを用いた場合は、塗布パターンの幅を例えば350mmにできる。
また、前記静電塗装ガンから噴霧された組成物の液滴は、マイナス電荷を帯びているため、接地された基材に向かって静電引力によって引き寄せられる。そのため、帯電させずに噴霧する場合に比べて、基材上に効率よく付着する。
そのため、本発明の防眩膜付き曲げ基材の製造方法にあっては、任意のヘイズや60°鏡面光沢度の防眩膜を形成するに際して必要な塗布回数や組成物の塗布量を低減できる。
【0138】
また、本発明の防眩膜付き曲げ基材の製造方法により得られる防眩膜付き曲げ基材の防眩性能と、2流体スプレーノズルを用いて形成される防眩膜付き曲げ基材の防眩性能とを比較すると、ヘイズや60°鏡面光沢度が同等であっても、本発明の防眩膜付き曲げ基材の製造方法により得られるものの方が、外光や屋内照明等が表示面に映り込んで、反射像によって視認性が低下するのをより抑制でき、防眩性能が高い傾向がある。
これは、防眩膜の凹凸形状の違いによるものと考えられる。すなわち、本発明者らの検討によれば、2流体スプレーノズルを用いたスプレー法では、液滴が基材上にたたきつけられるため、組成物の基材への着弾時に液滴が王冠状になる。これとともに液状媒体が揮発して王冠状の凹凸が形成される。他方、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを用いる場合、液滴は、比較的緩やかに基板上に落下するため、基材への着弾時に液滴がドーム状になる。これとともに液状媒体が揮発してドーム状の凸部が形成される。このような形状の違いが生じることが、防眩性能に影響していると考えられる。特に曲げ基材3のように平坦部7と屈曲部9がある場合でも、静電塗装法によれば静電力を利用するため液滴が均一に着弾でき均質かつ均一な防眩膜を作製できる。
【0139】
また、前述のとおり、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを用いて作製した防眩膜の表面構造には特徴がある。この手法により得られた防眩膜の表面構造をレーザ顕微鏡などにより観察すると、ドーム状の凸部による「第一の凸部」と、第一の凸部上に形成された島状の凸部による「第二の凸部」が観察される。
【0140】
例えば、ヘイズ10%以上の防眩膜を回転霧化頭を備える静電塗装ガンを用いて作製した場合には、以下のような第一の凸部と第二の凸部を有する表面凹凸構造となる。
第一の凸部:ベアリング高さ+0.05μmの高さでの断面における直径(真円換算)が10μm超185μm以下であり、かつ観察領域内で最も低い部分の高さを標準とした最大高さが0.2~8.0μmとなる。
第二の凸部:ベアリング高さ+0.5μmの高さでの断面における直径(真円換算)が1μm超であり、1μm2あたり0.0004~1.2個であり、ベアリング高さを基準とした平均高さが0.1~8μmとなる。
なお、回転霧化頭を備える静電塗装ガンを用いて作製したヘイズ10%未満の防眩膜でも同様であり、前述のヘイズ10%以上の場合の防眩膜とはサイズが異なるが「第一の凸部」と「第二の凸部」が観察される。
【0141】
<用途>
本発明の防眩膜付き曲げ基材の用途としては、特に限定されない。具体例としては、車両用透明部品(ヘッドライトカバー、サイドミラー、フロント透明基板、サイド透明基板、リア透明基板、インスツルメントパネル表面等。) 、メータ、建築窓、ショーウインドウ、ディスプレイ(ノート型パソコン、モニタ、LCD、PDP、ELD、CRT、PDA等)、LCDカラーフィルタ、タッチパネル用基板、ピックアップレンズ、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラ部品、ビデオ部品、CCD用カバー基板、光ファイバ端面、プロジェクタ部品、複写機部品、太陽電池用透明基板(カバーガラス等。)、携帯電話窓、バックライトユニット部品(導光板、冷陰極管等。)、バックライトユニット部品液晶輝度向上フィルム(プリズム、半透過フィルム等。)、液晶輝度向上フィルム、有機EL発光素子部品、無機EL発光素子部品、蛍光体発光素子部品、光学フィルタ、光学部品の端面、照明ランプ、照明器具のカバー、増幅レーザ光源、反射防止フィルム、偏光フィルム、農業用フィルム等が挙げられる。
【0142】
本実施形態の画像表示装置は、画像を表示する画像表示装置本体と、画像表示装置本体の視認側に設けられた本発明の防眩膜付き曲げ基材とを具備する。
【0143】
画像表示装置本体としては、液晶パネル、有機EL(エレクトロルミネッセンス)パネル、プラズマディスプレイパネル等が挙げられる。
膜付き曲げ基材は、画像表示装置本体の保護板として、画像表示装置本体に一体に設けられてもよく、各種フィルタとして、画像表示装置本体の視認側に配置されてもよい。また、膜付き曲げ基材の平坦部と傾斜部に異なる画像表示部を備えた画像表示装置であっても構わない。
【0144】
以上説明した画像表示装置にあっては、優れた防眩性能を有する本発明の膜付き曲げ基材が画像表示装置本体の視認側に設けられているため、視認性が良好である。
【実施例0145】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載によっては限定されない。
例1~3のうち、例1および例2は実施例であり、例3は比較例である。
各例で使用した評価方法および材料を以下に示す。
【0146】
<評価方法>
(目視観察)
蛍光灯下に設置された台の上に、防眩層付き曲げ基材を、防眩層側を上にして置き、防眩層付き曲げ基材への蛍光灯の映り込みを目視により観察し、平坦部での均質性、平坦部と屈曲部での均質性などを下記の基準で判定した。
○:膜ムラや欠点がなく均質である。
△:若干の膜ムラや欠点はあるものの全体としては均一である。
×:不均一である。または膜が形成できていない部位がある。
(反射像拡散性指標値R測定)
反射像拡散性指標値R測定はDisplay-Messtechnik&Systeme社製、SMS-1000 Ver.3.0を用い、曲げ基材の平坦部および屈曲部について測定した。
反射像拡散性指標値Rの比は、上記の反射像拡散性指標値R測定により得られた結果から、(屈曲部の反射像拡散性指標値R/平坦部と屈曲部の反射像拡散性指標値Rの和)として算出した。
【0147】
<静電塗装法により成膜した基材の作製;例1および例2>
[使用材料]
(鱗片状シリカ粒子分散液(a)の製造)
日本国特開2014-094845号公報に記載された実施例1と同様の工程により、シリカ分散体を作製後、酸処理して洗浄、アルカリ処理、湿式解砕し、最後にカチオン交換したシリカ分散体を作製した。カチオン交換後のシリカ分散体を限外濾過膜(ダイセンメンブレンシステム製、MOLSEP(登録商標)、分画分子量:150000)にて処理し、濃度調整した。
得られたシリカ分散体(鱗片状シリカ粒子分散液(a))からシリカ粒子を取り出し、TEMにて観察したところ、不定形シリカ粒子を実質的に含まない鱗片状シリカ粒子のみであることが確認された。
鱗片状シリカ粒子分散液(a)に含まれる鱗片状シリカ粒子の平均粒子径は、湿式解砕後と同じであり、0.182μmであった。平均アスペクト比は188であった。
赤外線水分計で計測した鱗片状シリカ粒子分散液(a)の固形分濃度は5.0質量%であった。
【0148】
(ベース液(b)の調製)
変性エタノール(日本アルコール販売社製、ソルミックス(登録商標)AP-11、エタノールを主剤とした混合溶媒、沸点78℃。以下同じ。)の34.3gを撹拌しながら、シリケート40(多摩化学工業社製、テトラエトキシシランおよびその加水分解縮合物の混合物、固形分濃度(SiO2換算):40質量%、溶媒:エタノール(10%以下)。以下同じ。)の4.2gおよび鱗片状シリカ粒子分散液(a)の2.0gを加え、30分間撹拌した。これに、イオン交換水の3.6gおよび硝酸水溶液(硝酸濃度:61質量%)の0.06gの混合液を加え、60分間撹拌し、固形分濃度(SiO2換算)が4.0質量%のベース液(b)を調製した。なお、SiO2換算固形分濃度は、シリケート40のすべてのSiがSiO2に転化したときの固形分濃度である。
【0149】
(シラン化合物溶液(c)の調製)
変性エタノールの3.85gを撹拌しながら、イオン交換水の0.4gおよび硝酸水溶液(硝酸濃度:61質量%)の0.01gの混合液を加え、5分間撹拌した。次いで、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン(信越化学工業社製、KBM-3066、固形分濃度(SiO2換算):37質量%)の0.5gを加え、ウォーターバス中60℃で15分間撹拌し、固形分濃度(SiO2換算)が4.3質量%のシラン化合物溶液(c)を調製した。
【0150】
(組成物(d)の調製)
ベース液(b)の44.1gを撹拌しながら、シラン化合物溶液(c)の4.8gを加え、60分間撹拌した。これに、変性エタノールの146.7gを加え、室温で30分間撹拌し、固形分濃度(SiO2換算)が1.0質量%の組成物(d)を得た。
【0151】
[基材の準備]
曲げ基材として、
図7に示すような屈曲部と平坦部を備えた形状のアルミノシリケートガラス(ドラゴントレイル(商品名);旭硝子社製、サイズ:x=150mm、y=100m(曲げ深さh=10mm)、厚さt=1.1mmのガラス基板。)を用意した。前記曲げ基材について化学強化処理を行い、CS750MPa,DOL28μmの圧縮応力層を形成した。該ガラスの表面を酸化セリウム分散水で洗浄後、イオン交換水でリンスし、乾燥させた。
【0152】
[静電塗装装置]
図3に示した静電塗装装置10と同様の構成の静電塗装装置(液体静電コーター、旭サナック社製)を用意した。静電塗装ガンとしては、回転霧化式自動静電ガン(旭サナック社製、サンベル、ESA120、70φカップ)を用意した。
導電性基板21として、(I)カーボン製の導電性基板21と(II)ガラス製の基板をアルミ箔で覆った導電性基板21を用意した。これら導電性基板は成膜を行う曲げ基材との接触面と一致する形状となるように加工した。
【0153】
[静電塗装]
(例1)
静電塗装装置のコーティングブース内の温度を25±1℃、湿度を50%±10%に調節した。
静電塗装装置のチェーンコンベア上に、(I)カーボン製の導電性基板21を介して置いた。チェーンコンベアで等速搬送しながら、曲げ基材のトップ面(フロート法による製造時に溶融スズに接した面の反対側の面)に、表1に示す塗布条件による静電塗装法によって組成物(d)を塗布した後、大気中、450℃で30分間焼成し、防眩膜付き曲げ基材を得た。
図8に得られた基板の外観写真を示す。
【0154】
(例2)
導電性基板21として(II)の基板を用いた以外は、例1と同様の条件で静電塗装を行った。
図9(a)に得られた基板の外観写真を示す。
例1および例2の条件について表1に示す。
【0155】
【0156】
<スプレー法により成膜した基材の作製;例3>
[使用材料]
(ベース液(e)の調製)
変性エタノールの34.3gを撹拌しながら、シリケート40の4.5gを加え、30分間撹拌した。これに、イオン交換水の3.6gおよび硝酸水溶液(硝酸濃度:61質量%)の0.06gの混合液を加え、室温で60分間撹拌し、固形分濃度(SiO2換算)が4.0質量%のベース液(e)を得た。なお、SiO2換算固形分濃度は、シリケート40のすべてのSiがSiO2に転化したときの固形分濃度である。
【0157】
(組成物(f)の調製)
ベース液(e)に、変性エタノールの151.1gを加え、室温で30分間撹拌し、固形分濃度(SiO2換算)が1.0質量%の組成物(f)を得た。
【0158】
[スプレー装置]
スプレー装置として、6軸塗装用ロボット(川崎ロボティックス社製、JF-5)を用いた。ノズルとしては、VAUノズル(二流体スプレーノズル、スプレーイングシステムジャパン社製)を用いた。
【0159】
[スプレー塗布]
(例3)
組成物(f)を、
図10にノズル軌跡60のように移動させ、スプレー塗布を実施した。
VAUノズルのエア吐出圧を0.4MPaに設定し、洗浄済みの曲げ基材3上を750mm/分の速度で横方向に移動し、次いで、前方へ22mm移動し、そこから曲げ基材3上を750nm/分のスピードで横方向に移動する。VAUノズルの移動は、あらかじめ90℃±3℃に加熱しておいた洗浄済みの曲げ基材3の全面をVAUノズルがスキャニングするまで実施する。この方法で基材の全面に組成物を塗布したものを1面コート品と呼ぶ。1面コート品の上に、さらに同じ方法でもう1回組成物を塗布したものを2面コート品と呼ぶ。同様に2面コート品の上に、塗り重ねしていくことで、3面以上のコート品が得られる。
表2に示す塗布条件によって組成物(f)を塗布した後、大気中、450℃で30分間焼成し、防眩膜付き曲げ基材を得た。
図9(b)に得られた基板の外観写真を示す。
【0160】
【0161】
<評価結果>
例1~3で得られた防眩膜付き曲げ基材について、目視観察と反射像拡散性指標値Rについての評価を行った。結果を表3に示す。例1で得られた防眩膜付き曲げ基材は、平坦部、屈曲部それぞれにおいて目視で違和感のない均質な防眩性が観察された。欠点なども観察されず美観に優れた防眩膜であった。平坦部および屈曲部の全体を観察した際の目視での均質性も非常に良好で美観に優れていた。
例2で得られた防眩膜付き曲げ基材は、平坦部、屈曲部にて若干の膜ムラが観察されたが、平坦部および屈曲部の全体を観察した際の目視での均質性も非常に良好であった。
一方、例3で得られた防眩膜付き曲げ基材は、平坦部において均質な外観となったが、屈曲部では膜が全く形成されない部分が観察された。
【0162】
例1ないし例3で得られた防眩膜付き曲げ基材それぞれについて平坦部および屈曲部の反射像拡散性指標値R測定を行った。これら反射像拡散性指標値Rの測定値を「反射像拡散性指標値Rの比」の式に代入し求めたところ表3の結果となった。この比は目視観察の結果を反映していると考えられ、0.5に近いほど均質な防眩膜となる。例1および例2は0.5に近く均質であり、例3では不均一であることが本算出結果から判明した。
【0163】
【0164】
続いて、他の実施例について以下に説明する。例4~例12は本発明の他の実施形態の実施例および比較例である。例4~例6が実施例であり、例7~例12が比較例である。表4~表6は、それぞれの例の膜構成を表している。例4~12の各例は平坦部に対向したターゲットと、傾斜部に対向したターゲットを備え、それぞれに調整可能な分布修正板を備えたスパッタリング装置を用いて製造した。実施例である例4~例6は、平坦部に対向したターゲットと、傾斜部に対向したターゲットにおける成膜条件を別々に制御し、それぞれの分布修正板を別々に調整し、同時に成膜を行うことで製造した。本実施形態では、高屈折率層を酸化ニオブ(Nb2O5)、低屈折率層を酸化ケイ素(SiO2)とした。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
表7に各例の光学特性を示す。表7中に示すΔL、Δa*、Δb*は、平坦部に対し垂直方向から見た場合の平坦部、傾斜部、屈曲部それぞれの位置において、基材の反射防止膜と反対側の主面の反射を消して、L、a*およびb*を測定した際の最も差が大きい2点の差をそれぞれΔL、Δa*およびΔb*とした。色差ΔEは、ΔE=[(ΔL)2+(Δa*)2+(Δb*)2]0.5の式で算出した。表7に示すように、例4~6はいずれもΔa*<5.6かつΔb*<5.4を満たし、かつJIS Z 8729(2004年)における色差ΔEがΔE<18を満たしているため、色ムラが無く全面にわたって好ましい外観であった。特に、θが50°以下である例4および例5はさらにΔE<5であり好ましい外観であった。
【0169】
【0170】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2015年11月20日出願の日本特許出願(特願2015-227440)、及び2016年3月14日出願の日本特許出願(特願2016-049747)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。