(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096317
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】医療用包装体および医療機器残留有機ガスの除去方法
(51)【国際特許分類】
B65D 81/26 20060101AFI20220622BHJP
A61L 2/20 20060101ALI20220622BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
B65D81/26 K
A61L2/20
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209360
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智一
【テーマコード(参考)】
3E067
3E086
4C058
【Fターム(参考)】
3E067AA11
3E067AB83
3E067AC05
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3E067BA12C
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4C058AA12
4C058BB07
4C058CC03
4C058CC06
4C058EE24
4C058JJ15
(57)【要約】
【課題】簡便な構成および簡単な工程で、医療機器への汚染性を低減し、かつ、医療機器に残留している有機ガス残留物を除去することが可能な医療用包装体、および、医療機器残留有機ガスの除去方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る医療用包装体1は、有機ガスを用いて滅菌された医療機器21を収容する医療用包装体1であって、医療機器21を気密に収容するための収容空間13が内部に形成された包装体本体11と、収容空間13内に収容されており、繊維状の炭素材料を含む吸着部材22と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ガスを用いて滅菌された医療機器を収容する医療用包装体であって、
前記医療機器を気密に収容するための収容空間が内部に形成された包装体本体と、
前記収容空間内に収容されており、繊維状の炭素材料を含む吸着部材と、
を有することを特徴とする医療用包装体。
【請求項2】
前記包装体本体の内部に形成された前記収容空間内に、前記医療機器と前記吸着部材とを隔てる隔壁部材を有することを特徴とする請求項1に記載の医療用包装体。
【請求項3】
前記吸着部材の表面が前記隔壁部材により覆われているか、または、前記医療機器の収納域と前記吸着部材の設置域とを区分する境界部に前記隔壁部材が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の医療用包装体。
【請求項4】
前記隔壁部材が、通気性素材からなることを特徴とする請求項2または3に記載の医療用包装体。
【請求項5】
前記隔壁部材が、前記包装体本体の外部から印加される力により破損可能な非通気性素材からなることを特徴とする請求項2または3に記載の医療用包装体。
【請求項6】
前記吸着部材に含まれる前記繊維状の炭素材料が活性炭からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の医療用包装体。
【請求項7】
前記医療機器の構成部材に高分子材料が用いられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の医療用包装体。
【請求項8】
有機ガスを用いて滅菌された医療機器に残留している有機ガス残留物を除去する医療機器残留有機ガスの除去方法であって、
内部に収容空間を形成する医療用包装体内に、前記医療機器と、繊維状の炭素材料を含む吸着部材とを収容するステップと、
前記吸着部材と前記医療機器とが収容された前記医療用包装体を気密に封止するステップと、
前記医療用包装体内で、前記医療機器に残留している有機ガス残留物を前記吸着部材に吸着させるステップと、
を有することを特徴とする医療機器残留有機ガスの除去方法。
【請求項9】
前記収容空間内に前記医療機器と前記吸着部材とを隔てる隔壁部材を設けるステップを有することを特徴とする請求項8に記載の医療機器残留有機ガスの除去方法。
【請求項10】
前記吸着部材の表面が前記隔壁部材により覆われているか、または、前記医療機器の収納域と前記吸着部材の設置域とを区分する境界部に前記隔壁部材が配置されていることを特徴とする請求項9に記載の医療機器残留有機ガスの除去方法。
【請求項11】
前記隔壁部材が、通気性素材からなることを特徴とする請求項9または10に記載の医療機器残留有機ガスの除去方法。
【請求項12】
前記隔壁部材が、前記包装体本体の外部から印加される力により破損可能な非通気性素材からなることを特徴とする請求項9または10に記載の医療機器残留有機ガスの除去方法。
【請求項13】
前記吸着部材に含まれる前記繊維状の炭素材料が活性炭からなることを特徴とする請求項8から12のいずれか1項に記載の医療機器残留有機ガスの除去方法。
【請求項14】
前記医療機器の構成部材に高分子材料が用いられていることを特徴とする請求項8から13のいずれか1項に記載の医療機器残留有機ガスの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ガスを用いて滅菌された医療機器を収容する医療用包装体および当該医療機器に残留している医療機器残留有機ガスの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療機器の製造時に、有機ガスを用いた滅菌処理が広く行われている。有機ガスを用いた滅菌処理は、高圧高温下での処理を行う必要がないことから、例えばプラスチック等の加熱処理に弱い材料を含む医療機器の滅菌に用いられている。また、一般的に、医療機器の滅菌処理においては、有機ガスとしてエチレンオキサイドガス(エチレンオキシドガス、酸化エチレンガスとも呼ばれる)が用いられている。
【0003】
有機ガスを用いた滅菌処理では、例えばエチレンオキサイドガス等の有機ガスを医療機器に曝すことで、医療機器の滅菌が行われる。エチレンオキサイドは人体に対して有害な物質であり、滅菌終了直後の医療機器には高濃度のエチレンオキサイドが付着していることから、滅菌処理後に、医療機器に付着したエチレンオキサイドを除去するための工程(エアレーションと呼ばれる)が実施される。エアレーションでは、例えばガスエアレーター等の滅菌器内に医療機器を入れ、長時間(例えば12~72時間)空気に晒してエチレンオキサイドを失活させることで、医療機器に付着したエチレンオキサイド(医療機器残留有機ガス、以下、有機ガス残留物と記載することもある)の除去が行われる。
【0004】
エアレーション後の医療機器は、無菌環境下で医療用包装体内に収容されて封止及び梱包され、医療現場で医療用包装体を開封することで、滅菌された状態の医療機器が医療現場に提供される。
【0005】
下記の特許文献1には、医療機器を包装するための包装袋が開示されている。特許文献1に開示されている包装袋は、酸素吸収層を有する酸素吸収積層フィルムと水分臭気吸収層を有する水分臭気吸収積層フィルムとが積層されて、袋状に成形されている。また、特許文献1には、酸素を吸収するための酸素吸収剤が活性炭であってもよいことが開示されている。
【0006】
下記の特許文献2には、ロキソプロフェンとメトカルバモールを有しながら、悪臭や、膨れ・割れ等の問題のない医薬製剤が開示されている。特許文献2に開示されている医薬製剤は、ロキソプロフェン若しくはその薬学的に許容される塩及びメトカルバモールを含有する医薬組成物を、ケイ酸塩若しくはアルミノケイ酸塩またはこれらと活性炭の混合物から選ばれる吸着剤とともに医薬容器中に含んでいる。
【0007】
下記の非特許文献1には、エアレーションの際に、遠赤外線照射による加温を行うことで、エチレンオキサイドガスの除去を迅速に行い、エアレーション時間を短縮できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-11737号公報
【特許文献2】特開2019-112373号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】石川泰嗣、吉田理香、大久保憲、「遠赤外線照射によるEOG滅菌後のエアレーション時間短縮効果の検討」、Journal of Healthcare-associated Infection 2017;10:38-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、上記のエアレーションには長時間を要しており、エアレーションに要する時間を短縮することが望まれている。
【0011】
特許文献1および特許文献2には、包装袋内の医療機器や医薬容器中の医薬組成物について、活性炭を用いて酸素、水分および臭気を吸着する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている技術はいずれも、有機ガスを用いた滅菌処理により医療機器に付着および残留している有機ガス残留物を除去する点に着目するものではなく、エアレーションに要する時間の短縮を実現するものではない。すなわち、特許文献1および特許文献2には、医療機器が医療用包装体内に収容された状態で、当該医療機器に残留している有機ガス残留物を除去するという発想は開示も示唆もされていない。
【0012】
一方、非特許文献1には、エアレーション時間を短縮する技術が開示されている。しかしながら、非特許文献1に開示されている技術には、遠赤外線による温度上昇を適切に制御する必要があるという問題や、設備を拡張して遠赤外線照射装置を滅菌器内に導入する必要があるという問題がある。また、非特許文献1においても、医療機器が医療用包装体内に収容された状態で、当該医療機器に残留している有機ガス残留物を除去するという発想は開示も示唆もされていない。
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、簡便な構成および簡単な工程で、医療機器への汚染性を低減し、かつ、医療機器に残留している有機ガス残留物を除去することが可能な医療用包装体、および、当該医療機器に残留している有機ガス残留物を除去する医療機器残留有機ガスの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明に係る医療用包装体は、有機ガスを用いて滅菌された医療機器を収容する医療用包装体であって、
前記医療機器を気密に収容するための収容空間が内部に形成された包装体本体と、
前記収容空間内に収容されており、繊維状の炭素材料を含む吸着部材と、
を有することを特徴とする。
【0015】
上記の医療用包装体を構成する包装体本体は、内部に医療機器を気密に収容することができる材料で形成された袋状、箱状、筒状等の任意の形状とすることができる。医療機器の収容空間が内部に形成された包装体本体において、医療機器とともに医療用包装体に同梱される吸着部材には、有機ガス残留物の吸着性に優れた繊維状の炭素材料が含まれており、医療機器とともに吸着部材が同梱された医療用包装体が実現される。
【0016】
医療用包装体内に収容された医療機器には、有機ガスを用いた滅菌処理による有機ガス残留物が残留している可能性がある。医療機器とともに吸着部材を医療用包装体内に同梱することで、医療用包装体内に収容された医療機器に残留している有機ガス残留物を吸着部材に吸着させることができ、医療機器に残留している有機ガス残留物を医療用包装体内で除去できるようになる。
【0017】
さらに、有機ガス残留物の吸着性に優れた炭素材料が繊維状であることにより、炭素材料(炭塵)による医療機器の汚染を防止できるようになる。吸着部材を構成する繊維状の炭素材料は、繊維塊であっても差し支えないが、繊維束、巻糸体、不織布、織物、編物等の一定の形態を有する繊維構造物であってもよい。また、繊維状の炭素材料と他の材料とを組み合わせたものでもよい。
【0018】
また、上記の医療用包装体は、前記包装体本体の内部に形成された前記収容空間内に、前記医療機器と前記吸着部材とを隔てる隔壁部材を有してもよい。
【0019】
上記の医療用包装体によれば、繊維状の炭素材料の一部が遊離した場合であっても、遊離した繊維状の炭素材料の一部を隔壁部材により遮って拡散を防止し、炭素材料が医療機器に付着することを防止できるようになる。
【0020】
また、上記の医療用包装体において、前記吸着部材の表面が前記隔壁部材により覆われているか、または、前記医療機器の収納域と前記吸着部材の設置域とを区分する境界部に前記隔壁部材が配置されていてもよい。
【0021】
上記の医療用包装体によれば、繊維状の炭素材料の一部が遊離した場合であっても、遊離した繊維状の炭素材料の一部を、隔壁部材により吸着部材の近傍または上記境界部で遮って拡散を防止し、遊離した炭素材料による医療機器の汚染を防止できるようになる。
【0022】
また、上記の医療用包装体において、前記隔壁部材が、通気性素材からなってもよい。通気性材料としては、例えば、通気性フィルム、紙、布帛等を用いることができる。
【0023】
上記の医療用包装体によれば、医療機器に残留している有機ガス残留物が通気性の隔壁部材を通過できるため、隔壁部材を介して医療機器に残留している有機ガス残留物を吸着部材に吸着させることができ、医療機器に残留している有機ガス残留物を医療用包装体内で除去できるようになる。
【0024】
また、上記の医療用包装体において、前記隔壁部材が、前記包装体本体の外部から印加される力により破損可能な非通気性素材からなってもよい。非通気性材料としては、例えば、非通気性フィルム等を用いることができる。
【0025】
上記の医療用包装体によれば、医療機器を使用する任意のタイミングで外部から力を加えることで隔壁部材を破損させて医療機器と吸着部材との間で気体が流通できる空間を作ることで、医療機器に残留している有機ガス残留物を吸着部材に吸着させることができ、医療機器に残留している有機ガス残留物を医療用包装体内で除去できるようになる。
【0026】
また、上記の医療用包装体において、前記吸着部材に含まれる前記繊維状の炭素材料が活性炭からなってもよい。
【0027】
上記の医療用包装体によれば、繊維状の炭素材料が含有する活性炭の優れた吸着性により、医療機器に残留している有機ガス残留物を確実に除去できるようになる。
【0028】
また、上記の医療用包装体において、前記医療機器の構成部材に高分子材料が用いられていてもよい。
【0029】
上記の医療用包装体によれば、特にエアレーションでは有機ガス残留物が除去しにくい高分子材料を有する医療機器を対象として、医療機器に残留している有機ガス残留物を医療用包装体内で除去できるようになる。
【0030】
また、上記の目的を達成するため、本発明に係る医療機器残留有機ガスの除去方法は、有機ガスを用いて滅菌された医療機器に残留している有機ガス残留物を除去する医療機器残留有機ガスの除去方法であって、
内部に収容空間を形成する医療用包装体内に、前記医療機器と、繊維状の炭素材料を含む吸着部材とを収容するステップと、
前記吸着部材と前記医療機器とが収容された前記医療用包装体を気密に封止するステップと、
前記医療用包装体内で、前記医療機器に残留している有機ガス残留物を前記吸着部材に吸着させるステップと、を有することを特徴とする。
【0031】
上記の医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、医療機器とともに医療用包装体に同梱される吸着部材には、有機ガス残留物の吸着性に優れた繊維状の炭素材料が含まれており、医療機器とともに吸着部材が同梱された医療用包装体で医療機器に残留している有機ガス残留物を吸着部材に吸着させる方法が実現される。
【0032】
医療用包装体内に収容された医療機器の表面や内部には、有機ガスを用いた滅菌処理による有機ガス残留物が残留している可能性がある。医療機器とともに吸着部材を医療用包装体内に同梱することで、医療用包装体内に収容された医療機器に残留している有機ガス残留物を吸着部材に吸着させることができ、医療機器に残留している有機ガス残留物を医療用包装体内で除去できるようになる。
【0033】
さらに、有機ガス残留物の吸着性に優れた炭素材料が繊維状であることにより、遊離した炭素材料による医療機器の汚染を防止できるようになる。吸着部材を構成する繊維状の炭素材料は、繊維塊であっても差し支えないが、繊維束、巻糸体、不織布、織物、編物等の一定の形態を有する繊維構造物であってもよい。また、繊維状の炭素材料と他の材料とを組み合わせたものでもよい。
【0034】
また、上記の医療機器残留有機ガスの除去方法は、前記収容空間内に前記医療機器と前記吸着部材とを隔てる隔壁部材を設けるステップを有してもよい。
【0035】
上記の医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、繊維状の炭素材料の一部が遊離した場合であっても、遊離した繊維状の炭素材料を隔壁部材により遮って拡散を防止し、遊離した炭素材料による医療機器の汚染を防止できるようになる。
【0036】
また、上記の医療機器残留有機ガスの除去方法において、前記吸着部材の表面が前記隔壁部材により覆われているか、または、前記医療機器の収納域と前記吸着部材の設置域とを区分する境界部に前記隔壁部材が配置されていてもよい。
【0037】
上記の医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、繊維状の炭素材料の一部が遊離した場合であっても、遊離した繊維状の炭素材料を隔壁部材により吸着部材の近傍または上記境界部で遮って拡散を防止し、医療機器に付着することを防止できるようになる。
【0038】
また、上記の医療機器残留有機ガスの除去方法において、前記隔壁部材が、通気性素材からなってもよい。通気性材料としては、例えば、通気性フィルム、紙、布帛等を用いることができる。
【0039】
上記の医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、医療機器の表面や内部に残留している有機ガス残留物が通気性の隔壁部材を通過できるため、隔壁部材を介して医療機器に残留している有機ガス残留物を吸着部材に吸着させることができ、医療機器に残留している有機ガス残留物を医療用包装体内で除去できるようになる。
【0040】
また、上記の医療機器残留有機ガスの除去方法において、前記隔壁部材が、前記包装体本体の外部から印加される力により破損可能な非通気性素材からなってもよい。非通気性材料としては、例えば、非通気性フィルム等を用いることができる。
【0041】
上記の医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、医療機器を使用する任意のタイミングで外部から力を加えて隔壁部材を破損させ、医療機器と吸着部材との間で気体が流通できる空間を作ることで、医療機器に残留している有機ガス残留物を吸着部材に吸着させることができ、医療機器に残留している有機ガス残留物を医療用包装体内で除去できるようになる。
【0042】
また、上記の医療機器残留有機ガスの除去方法において、前記吸着部材に含まれる前記繊維状の炭素材料が活性炭からなってもよい。
【0043】
上記の医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、繊維状の炭素材料が含有する活性炭の優れた吸着性により、医療機器に残留している有機ガス残留物を確実に除去できるようになる。
【0044】
また、上記の医療機器残留有機ガスの除去方法において、前記医療機器の構成部材に高分子材料が用いられていてもよい。
【0045】
上記の医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、特にエアレーションでは有機ガス残留物が除去しにくい高分子材料を有する医療機器を対象として、医療機器に残留している有機ガス残留物を医療用包装体内で除去できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明の実施形態における医療用包装体の一例を示す分解斜視図(収容前の状態を示す図)である。
【
図2】本発明の実施形態における医療用包装体の一例を示す模式的な斜視図(収容後の状態を示す図)である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0048】
<医療用包装体の構成>
本実施形態における医療用包装体1の構成の一例について説明する。医療用包装体1は、メーカーから医療機器21が製品として出荷される際のパッケージ(梱包物)として使用される。
【0049】
本実施形態における医療用包装体1は、
図1および
図2に示すように、包装体本体11、医療機器21、吸着部材22、隔壁部材31により概略構成されている。
図1には、包装体本体11、医療機器21、吸着部材22、隔壁部材31のそれぞれが図示されている。また、
図2には、医療機器21と袋状の隔壁部材31内に密封された吸着部材22とが包装体本体11内に収容されて密封された状態が図示されており、包装体本体11内に収容されている医療機器21、吸着部材22、隔壁部材31が点線で示されている。
【0050】
包装体本体11は、内部に収容空間13が形成された外装体である。包装体本体11は、内部に医療機器21を気密に収容することができる材料で形成されており、袋状、箱状、筒状等の任意の形状とすることができる。包装体本体11は、例えばアルミニウム合金やプラスチック等からなり、医療機器21の製造および出荷時に通常用いられるアルミ包材やプラスチック包材、あるいはアルミコーティングされたプラスチック包材等を用いることができる。包装体本体11の材料としては、内部に収容された医療機器21を気密に保護するために非通気性材料が用いられる。包装体本体11のサイズおよび形状は特に限定されるものではなく、内部に収容される収容対象物(医療機器21、同梱される吸着部材22および隔壁部材31)のサイズおよび形状に適合するように成形されてよい。
【0051】
包装体本体11は、例えば2枚のシート状部材を重ね合わせ、シーラント等を用いて辺縁部を熱癒着した構成を有しており、内部に収容対象物を気密に収容するための収容空間13が形成されている。
【0052】
図1には、一例として、同一矩形状に整えられた2枚のシート状部材の3辺が本体シール部12により癒着されている一方、残りの1辺が開放した状態が図示されている。包装体本体11は、この開放部を通じて包装体本体11内の収容空間13に収容対象物を収容できるようになっている。また、
図2には、
図1に示す開放部を含む4辺すべてが本体シール部12により熱癒着され、収容空間13内に収容対象物が気密に収容された状態(密封された状態)が模式的に図示されている。
【0053】
医療機器21は、医療用包装体1内に収容される前に、エチレンオキサイドガスやプロピレンオキサイド等の有機ガスを用いて滅菌処理されたものである。有機ガスを用いた滅菌処理を受けることにより、医療機器21の表面や内部には、有機ガス残留物が残留している可能性がある。医療機器21は、医療現場で使用される医療用器械および医療用器具の総称であり、特に限定されるものではないが、本発明の効果が顕著に現れることから、例えば有機ガスを用いた滅菌処理で付着した有機ガス残留物が除去しにくい高分子材料を構成要素として用いている医療機器21であることが望ましい。構成要素として高分子材料が用いられている医療機器21としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が用いられているカテーテルチューブや、ポリウレタンや天然ゴム等が用いられているバルーン等を挙げることができる。
図1および
図2には、医療機器21としてカテーテルチューブが例示されている。
【0054】
吸着部材22は、繊維状の炭素材料を含む部材である。より具体的には、吸着部材22は、少なくとも1本または複数本の繊維状の炭素材料を含んで構成されている。吸着部材22は、繊維状の炭素材料を束にしたもの(繊維束)であってもよく、繊維状の炭素材料を織り合わせたもの(織布)であってもよく、繊維状の炭素材料を絡み合わせたもの(不織布)であってもよい。より具体的には、吸着部材22を構成する繊維状の炭素材料は、繊維塊であっても差し支えないが、繊維束、巻糸体、不織布、織物、編物等の一定の形態を有する繊維構造物であってもよく、あるいは、繊維状の炭素材料と他の材料とを組み合わせたものでもよい。一例として、吸着部材22として、クラクティブ(登録商標)(株式会社クラレ製)、Kフィルター(株式会社東洋紡製)等を用いることができる。
【0055】
吸着部材22のサイズおよび形状は特に限定されるものではなく、収容時に医療機器21に付着していると推定される有機ガス残留物の量、および、包装体本体11の収容空間13や医療機器21の形状に従って適宜設定可能である。例えば包装体本体11の内面(収容空間13を形成する面)の一部または内面全面が、吸着部材22により構成されていてもよい。
【0056】
本実施形態における吸着部材22は、炭素材料が繊維状になっていることを特徴とする。繊維状とは細長い形状を有することを意味しており、繊維状の炭素材料は、炭素材料が連なった構造を有していることを意味している。
【0057】
粒子状の炭素材料では、比表面積を大きくするために粒子の大きさ(体積)を小さくする必要があるのに対し、繊維状の炭素材料は、細長い形状により比表面積を大きくすることができる。すなわち、繊維状の炭素材料は、粒子状の炭素材料と比べて、比表面積が大きく、その結果、有機ガス残留物の吸着性が高いという特徴がある。
【0058】
また、繊維状の炭素材料は、炭素材料が連なった構造を有しているため遊離しにくいとう特徴がある。炭素材料(炭塵)が遊離した場合には、収容空間13に同梱されている医療機器21に付着して医療機器21を汚染する原因となるが、炭素材料の遊離を抑制することで、医療機器21の汚染性を低減することができる。仮に炭素材料が吸着部材22から遊離した場合であっても、粒子状の炭素材料を用いた場合と比べて遊離した炭素材料のサイズが大きくなるため、隔壁部材31により炭素材料を確実に遮って拡散を防止し、医療機器21への付着を防止することができるようになる。
【0059】
吸着部材22に含まれる繊維状の炭素材料としては、例えば、繊維状の活性炭(活性炭繊維)、繊維状のカーボンウィスカー(カーボンウィスカー繊維)、繊維状の黒鉛(黒鉛繊維)、繊維状のカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブ繊維)等を用いることができ、特に有機ガス残留物に対して優れた吸着性を有することから、活性炭からなるものを用いることが好ましい。なお、活性炭は、炭素を含む物質に対して炭化焼成処理および賦活処理を実施することで得られる多孔質の炭素材料(多数の微細な細孔を有する炭素材料)である。活性炭は、多孔質である故に表面積が大きいという特性や、活性炭が持つ細孔よりも小さな粒状の有機物を選択的に吸着しやすいという特性を有しており、有機ガス残留物の吸着に好適な炭素材料である。
【0060】
ここでいう活性炭の好適例としては、その90重量%以上が炭素からなり、少なくともその表面に多数の微細孔を有し、その表面に種々の物質を吸着する性能を有する炭素材料を挙げることができる。繊維状の炭素材料として用いることができる活性炭繊維としては、例えば、田井和夫・進戸規文「活性炭繊維」(「繊維学会誌(繊維と工業)」第49巻第5号177-182頁,1993)に記載された各種の活性炭繊維を使用することができる。
【0061】
吸着部材22に含まれる1本の繊維状の炭素材料に着目した場合、その繊維長は、特に限定されるものではないが、通常1~100mm、好ましくは2mm以上であるときに、医療機器21への汚染性をより低減することができる。また、その繊維径は特に限定されるものではないが、通常5~30μm、好ましくは10~20μmであるときに、有機ガス残留物を効果的に吸着することができる。繊維状の炭素材料は、そのアスペクト比(繊維直径に対する繊維長の比)が5以上、好ましくは10以上のものを用いることが好ましい。
【0062】
本実施形態における吸着部材22に含まれる繊維状の炭素材料としては、特に、繊維状の活性炭(活性炭繊維)が好適に適用可能である。活性炭繊維は多くの細孔を有し、その細孔容積によりエチレンオキサイド等の有機ガス残留物の吸着性を高めることができる。本実施形態では、活性炭繊維は、一例として、平均細孔径における平均細孔容積が0.1~2.5ml/g、平均細孔径が10~60Å(オングストローム)、吸着性を示す指標として用いられるBET比表面積(平均細孔容積/平均細孔径)が500~2500m2/gを満たすものを用いることが好ましい。
【0063】
吸着部材22に含まれる炭素材料の原料としては、特に限定されるものではなく、活性炭の場合には、樹脂系(フェノール、レーヨン、ポリアクリロニトリル)、石油ピッチ系等の原料を用いることができ、特に不純物が少なく、かつ、医療機器21への汚染性を低減できることから、樹脂系の原料を用いることが好ましい。
【0064】
吸着部材22の作製方法は特に限定されるものではないが、例えば、あらかじめ炭化焼成処理および賦活処理を施した繊維状の炭素材料を準備し、この繊維状の炭素材料を所望の形状(繊維束、織布、不織布等)となるように加工することで吸着部材22を得てもよい。あるいは、繊維状の炭素材料の原料を準備して所望の形状(繊維束、織布、不織布等)に加工したうえで、炭化焼成処理および賦活処理を施すことで吸着部材22を得てもよい。
【0065】
隔壁部材31は、医療機器21および吸着部材22とともに包装体本体11の収容空間13に収容される部材である。隔壁部材31は、医療機器21と吸着部材22との間に介在して、医療機器21と吸着部材22とを隔てるように設けられる。隔壁部材31は、吸着部材22に含まれる繊維状の炭素材料の一部が遊離した場合であっても、遊離した繊維状の炭素材料を隔壁部材31により遮って拡散を防止し、炭素材料が医療機器21に付着することを防止する役割を有している。
【0066】
隔壁部材31は、任意選択的に設けることが可能である。
図1および
図2には、一例として医療用包装体1内に隔壁部材31が収容されているが、必ずしも隔壁部材31を収容する必要はない。上述したように、吸着部材22に含まれる炭素材料を繊維状とすることで炭素材料の遊離を抑制できるため、本発明では、隔壁部材31を設けない場合であっても、炭素材料が医療機器21に付着することを防止できるようになっている。すなわち、本発明では、隔壁部材31を設けない場合であっても炭素材料が医療機器21に付着することを防止でき、さらに隔壁部材31を設けることで、炭素材料が医療機器21に付着することをより確実に防止できるようになっている。
【0067】
図1および
図2には、一例として、隔壁部材31が袋状の構造を有して吸着部材収容空間33を形成し、袋状の隔壁部材31の内部に吸着部材22が収容した状態で、隔壁部材シール部32により熱癒着された状態が図示されている。このように吸着部材22の表面を隔壁部材31で覆うことで、隔壁部材31が、吸着部材22から遊離した繊維状の炭素材料を吸着部材22の近傍で遮って拡散を防止し、医療機器21に付着することを防止できるようになっている。
【0068】
隔壁部材31は、包装体本体11の収容空間13内において医療機器21と吸着部材22とが直接接触することを防ぐものであれば、そのサイズや形状、配置位置等は特に限定されるものではない。例えば、
図1および
図2では、袋状の隔壁部材31内に吸着部材22が収容されて隔壁部材31が吸着部材22全体を完全に覆う構成となっているが、シート状の隔壁部材31を吸着部材22に巻き付けて筒状にする等、隔壁部材31が吸着部材22の一部のみを覆う構成(隔壁部材31が吸着部材22を完全に覆わずに、医療機器21と吸着部材22との間で気体が流通できる空間が形成されている構成)としてもよい。また、例えば袋状の隔壁部材31の内部に医療機器21を収容する構成や、シート状の隔壁部材31を医療機器21に巻き付ける構成等のように、隔壁部材31が吸着部材22ではなく医療機器21を覆うように構成されてもよい。さらに、医療機器21の収納域と吸着部材22の設置域とを区分する境界部に隔壁部材31が配置されていてもよい。
【0069】
隔壁部材31の材料は、吸着部材22から遊離した繊維状の炭素材料の拡散を遮るものが選択され、通気性素材であってもよく、非通気性素材であってもよい。通気性材料としては、例えば、気体(特に、有機ガス残留物)を通過する貫通孔が設けられたPETフィルム等の通気性フィルム、紙、布帛(不織布、織編物)等を用いることができ、非通気性材料としては、PETフィルム等の非通気性フィルムを用いることができる。
【0070】
隔壁部材31が通気性素材からなる場合には、包装体本体11の収容空間13内に気密に収容された状態で、医療機器21に付着している有機ガス残留物が隔壁部材31を通過して、吸着部材22に吸着されるようになる。上述したように、隔壁部材31は、吸着部材22全体を完全に覆う構成であってもよく、隔壁部材31が吸着部材22の一部のみを覆う構成であってもよい。隔壁部材31が吸着部材22全体を完全に覆う構成の場合、吸着部材22には、隔壁部材31を通過した有機ガス残留物が吸着されるようになる。また、隔壁部材31が吸着部材22の一部のみを覆う構成の場合、吸着部材22には、隔壁部材31を通過した有機ガス残留物、および、隔壁部材31を通過せずに吸着部材22に到達した有機ガス残留物が吸着されるようになる。
【0071】
隔壁部材31が非通気性素材からなる場合には、医療機器21に付着している有機ガス残留物は、隔壁部材31を通過することが不可能である。このとき、隔壁部材31が吸着部材22の一部のみを覆う構成とした場合には、隔壁部材31を通過せずに吸着部材22に到達した有機ガス残留物が吸着されるようになる。
【0072】
一方、隔壁部材31が非通気性素材からなる場合であって、隔壁部材31が吸着部材22全体を完全に覆う構成とし、隔壁部材31内に吸着部材22を密閉収容した場合には、医療機器21に付着している有機ガス残留物は吸着部材22に到達できない状態となる。このように隔壁部材31内に吸着部材22を密閉収容する構成においては、隔壁部材31の材料として、包装体本体11の外部から印加される力により破損可能な非通気性素材を用いることが好ましい。この構成によれば、医療機器21を使用する任意のタイミングで外部から力を加えて隔壁部材31を破損させて、医療機器21と吸着部材22との間で気体が流通できる空間を作ることで、有機ガス残留物が吸着部材22に到達して吸着されるようになる。すなわち、医療用包装体1内には、医療機器21と非通気性素材からなる隔壁部材31により密封された吸着部材22とが収容されており、医療現場において医療機器21を使用する任意のタイミング(例えば、医療機器21を使用する前日等)に、医療従事者が外力を加えて隔壁部材31を破損させることで、吸着部材22による有機ガス残留物の吸着を開始させることができるようになる。
【0073】
<医療用包装体における医療機器残留有機ガス(有機ガス残留物)の除去方法>
次に、本実施形態における医療用包装体1における医療機器残留有機ガス(有機ガス残留物)の除去方法の一例について説明する。本実施形態における医療用包装体1を製造する際には、一例として、袋状の包装体本体11と、有機ガスを用いて滅菌処理が施された医療機器21と、繊維状の炭素材料を含む吸着部材22と、隔壁部材31とを準備する。隔壁部材31は、上述したように任意選択的に設けることが可能な部材であるが、ここでは、吸着部材22全体を収容することが可能な袋状の隔壁部材31を用いた例について説明する。医療機器21は、有機ガスを用いた滅菌処理後にエアレーションが施されていることが好ましいが、本発明によれば医療用包装体1内で有機ガス残留物を除去することが可能であることから、エアレーション工程を省略または簡略化(エアレーション時間の短縮等)してもよい。本発明に係る医療用包装体1に医療機器21を収容する場合には、例えばエアレーション時間を30%~100%(100%はエアレーション工程の省略を意味する)短縮することができる。
【0074】
まず、袋状の隔壁部材31内に、繊維状の炭素材料を含む吸着部材22を収容し、袋状の隔壁部材31を熱癒着等により封止して、吸着部材22が隔壁部材31内に収容された状態とする。隔壁部材31内への吸着部材22の収容および封止は、乾燥空気中および無菌下で行うことが好ましい。
【0075】
次に、袋状の包装体本体11内に、医療機器21と、隔壁部材31内に収容された状態の吸着部材22とを収容し、袋状の包装体本体11を熱癒着等により封止して、医療機器21と、隔壁部材31内に収容されている吸着部材22とが包装体本体11内に収容された状態とする。その結果、
図2に示すような医療用包装体1が製造される。包装体本体11内への医療機器21および吸着部材22の収容および封止は、乾燥空気中および無菌下で行うことが好ましい。
【0076】
以上の工程により製造された医療用包装体1は、医療現場等に向けて出荷される。医療用包装体1は、その内部において、医療機器21に残留している有機ガス残留物を吸着部材22に吸着させることができるようになっている。例えば、隔壁部材31が通気性素材からなる場合、隔壁部材31が吸着部材22の一部のみを覆っている場合、隔壁部材31が設けられていない場合等のように、医療機器21と吸着部材22との間で気体が流通できるようになっている場合には、医療用包装体1内で、医療機器21に付着している有機ガス残留物の除去が常に行われる状態となる。一方、例えば、隔壁部材31が非通気性素材からなり、隔壁部材31内に吸着部材22が完全に密封されている場合には、医療従事者が所望のタイミングで医療用包装体1に外力を加えて隔壁部材31を破損させることで、医療機器21と吸着部材22との間で気体が流通できる状態となり、医療用包装体1を開封することなく、医療機器21に付着している有機ガス残留物の除去が行われるようになる。
【0077】
<本実施形態に係る作用>
以下、本実施形態に係る作用について説明する。
【0078】
本実施形態に係る医療用包装体1は、有機ガスを用いて滅菌された医療機器21を収容する医療用包装体1であって、医療機器21を気密に収容するための収容空間13が内部に形成された包装体本体11と、収容空間13内に収容されており、繊維状の炭素材料を含む吸着部材22と、を有する。また、本実施形態に係る医療機器残留有機ガスの除去方法は、有機ガスを用いて滅菌された医療機器21に残留している有機ガス残留物を除去する医療機器残留有機ガスの除去方法であって、内部に収容空間13を形成する医療用包装体1内に、医療機器21と、繊維状の炭素材料を含む吸着部材22とを収容するステップと、医療機器21と吸着部材22とが収容された医療用包装体1を気密に封止するステップと、医療用包装体1内で、医療機器21に残留している有機ガス残留物を吸着部材22に吸着させるステップと、を有する。
【0079】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、医療機器21の収容空間13が内部に形成された包装体本体11において、医療機器21とともに吸着部材22を医療用包装体1内に同梱することで、医療用包装体1内に収容された医療機器21の表面や内部に残留している有機ガス残留物を吸着部材22に吸着させることができ、医療機器21に残留している有機ガス残留物を医療用包装体1内で除去できるようになる。さらに、有機ガス残留物の吸着性に優れた炭素材料を繊維状とすることで、炭素材料による医療機器21の汚染を防止できるようになる。
【0080】
本実施形態に係る医療用包装体1は、包装体本体11の内部に形成された収容空間13内に、医療機器21と吸着部材22とを隔てる隔壁部材31を有してもよい。また、本実施形態に係る医療機器残留有機ガスの除去方法は、包装体本体11の収容空間13内に医療機器21と吸着部材22とを隔てる隔壁部材31を設けるステップを有してもよい。
【0081】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、繊維状の炭素材料の一部が遊離した場合であっても、遊離した繊維状の炭素材料の一部を隔壁部材31により遮って拡散を防止し、遊離した炭素材料による医療機器21の汚染を防止できるようになる。
【0082】
また、本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法において、吸着部材22の表面が隔壁部材31により覆われているか、または、医療機器21の収納域と吸着部材22の設置域とを区分する境界部に隔壁部材31が配置されていてもよい。
【0083】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、繊維状の炭素材料の一部が遊離した場合であっても、遊離した繊維状の炭素材料の一部を、隔壁部材31により吸着部材22の近傍または上記境界部出遮って拡散を防止し、遊離した炭素材料による医療機器21の汚染を防止できるようになる。
【0084】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法において、隔壁部材31が、通気性素材からなってもよい。通気性材料としては、例えば、通気性フィルム、紙、布帛等を用いることができる。
【0085】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、医療機器21に残留している有機ガス残留物が通気性の隔壁部材31を通過できるため、隔壁部材31を介して医療機器21に残留している有機ガス残留物を吸着部材22に吸着させることができ、医療機器21に残留している有機ガス残留物を医療用包装体1内で除去できるようになる。
【0086】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法において、隔壁部材31が、包装体本体11の外部から印加される力により破損可能な非通気性素材からなってもよい。非通気性材料としては、例えば、非通気性フィルム等を用いることができる。
【0087】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、医療機器21を使用する任意のタイミングで外部から力を加えることで隔壁部材31を破損させて医療機器21と吸着部材22との間で気体が流通できる空間を作ることで、医療機器21に残留している有機ガス残留物を吸着部材22に吸着させることができ、医療機器21に残留している有機ガス残留物を医療用包装体1内で除去できるようになる。
【0088】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法において、吸着部材22に含まれる繊維状の炭素材料が活性炭からなってもよい。
【0089】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、繊維状の炭素材料が含有する活性炭の優れた吸着性により、医療機器21に残留している有機ガス残留物を確実に除去できるようになる。
【0090】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法において、医療機器21の構成部材に高分子材料が用いられていてもよい。
【0091】
本実施形態に係る医療用包装体1および医療機器残留有機ガスの除去方法によれば、特にエアレーションでは有機ガス残留物が除去しにくい高分子材料を有する医療機器21を対象として、医療機器21に残留している有機ガス残留物を医療用包装体1内で除去できるようになる。
【0092】
本実施形態に係る医療用包装体1は、有機ガスを用いた滅菌処理で医療機器21に付着した有機ガス残留物を、医療用包装体1内で吸着部材22を用いて積極的に除去するものであり、滅菌処理後の医療機器21にエアレーションを行うかどうかについて限定するものではない。例えば、有機ガス残留物を医療用包装体1内で除去することを前提として、エアレーション工程を省略または簡略化してもよく、この場合には、医療用包装体1の保管中および移送中においても有機ガスの除去が行うことが可能になるので、エアレーション時間を短縮することができるようになる。また、従来と同様に通常のエアレーション工程が実施されてもよく、この場合には、通常のエアレーション工程で除去しきれなかった有機ガス残留物を医療用包装体1内で除去することができるようになる。
【0093】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0094】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明について具体的に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
繊維状の炭素材料として長さ5cmの繊維状活性炭(株式会社クラレ製、製品名「クラクティブ」)100本、ガス透過性素材からなる隔壁部材として7cm×7cmのティッシュペーパーを準備した。長さ5cmの繊維状活性炭100本を7cm×7cmのティッシュペーパーで包み、温度60℃で12時間乾燥した後、その重量Wを測定した。
【0096】
次に、酸化エチレンを浸漬した10cm×10cmの布と、上記ティッシュペーパーで包んだ繊維状活性炭をアルミ包材パウチに同封し、温度25℃で24時間、振とう機によりアルミ包材パウチに微振動を与えた。その後、ティッシュペーパーで包んだ繊維状活性炭の重量W1を測定し、重量増加率(W1―W)/W×100(%)を算出し、下記の基準で評価1について評価を行った。
【0097】
評価1
A:重量増加率が5%以上
B:重量増加率が1%以上5%未満
C:重量増加率が1%未満
【0098】
また、振とう機により与えた上記の微振動において、布に付着する繊維状活性炭を目視観察し、下記の基準で評価2について評価を行った。
【0099】
評価2
A:白いままであった
B:布に繊維の毛羽立ちが若干みられる
C:布に活性炭が付着して、黒くなった
【0100】
[実施例2]
ティッシュペーパーを用いないこと以外は、実施例2と同様にして、評価1および評価2について評価を行った。
【0101】
[比較例]
繊維状活性炭を略同容積の粒子状活性炭(株式会社クラレ製、製品名「クラレコール(YP)」)に変更する以外は、実施例1と同様にして、評価1および評価2について評価を行った。
【0102】
上記の実施例1、実施例2および比較例のそれぞれについて、評価1および評価2の結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
評価1の結果によれば、繊維状活性炭は、粒子状活性炭に比べて、布に浸漬させた酸化エチレンの吸着量が高く、有機ガス残留物の除去に優れていることがわかる(実施例1および実施例2と比較例との比較)。
【0105】
評価2の結果によれば、ティッシュペーパーで繊維状活性炭を包んだ場合のほうが、ティッシュペーパーで繊維状活性炭を包まない場合に比べて、同封された布の汚染を低減できることがわかる(実施例1と実施例2との比較)。また、ティッシュペーパーで繊維状活性炭を包まない場合のほうが、ティッシュペーパーで粒子状活性炭を包まない場合に比べて、同封された布の汚染を低減できることがわかる(実施例2と比較例との比較)。