(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096382
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】希土類磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220622BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20220622BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220622BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20220622BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220622BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/059 160
B22F3/00 F
B22F3/02 R
B22F1/00 Y
B22F1/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209452
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正朗
(72)【発明者】
【氏名】一期崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
(72)【発明者】
【氏名】木下 昭人
(72)【発明者】
【氏名】久米 道也
(72)【発明者】
【氏名】前原 永
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA10
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC19
4K018CA02
4K018CA04
4K018EA01
4K018FA08
4K018KA43
5E040AA03
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN18
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG02
(57)【要約】
【課題】改質材粉末の使用による磁化の低下を抑制しつつ、配向度が向上したSm-Fe-N系希土類磁石及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Sm-Fe-N系の磁性粉末を準備すること、金属亜鉛を含有する改質材粉末を準備すること、前記磁性粉末と前記改質材粉末を混合して、混合粉末を得ること、前記混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得ること、前記磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得ること、及び、前記焼結体を熱処理すること、を含み、前記改質材粉末中の前記金属亜鉛の含有割合が、前記混合粉末に対して10~30質量%であり、かつ、前記熱処理の条件に関し、温度及び時間を、それぞれ、x℃及びy時間としたとき、y≧-0.32x+136及び350≦x≦410を満足する、希土類磁石の製造方法及びそれによって得られた希土類磁石。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がTh2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える磁性粉末を準備すること、
金属亜鉛を含有する改質材粉末を準備すること、
前記磁性粉末と前記改質材粉末を混合して、混合粉末を得ること、
前記混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得ること、
前記磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得ること、及び
前記焼結体を、熱処理すること、
を含み、
前記改質材粉末中の前記金属亜鉛の含有割合が、前記混合粉末に対して10~30質量%であり、
前記熱処理の条件に関し、温度及び時間を、それぞれ、x℃及びy時間としたとき、
y≧-0.32x+136及び
350≦x≦410
を満足する、
希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
前記xが、350≦x≦400を満足する、請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
前記yが、y≦40を満足する、請求項1又は2に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
前記磁場成形体を、1000~1500MPaの圧力及び300~400℃の温度で、1~30分にわたり加圧焼結する、請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項5】
前記磁性粉末中で、1.0μm以下の粒径を有する磁性粒子の割合が、前記磁性粉末の全磁性粒子数に対して1~20%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項6】
Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がTh2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を備え、
10~30質量%の亜鉛成分を含有し、
前記磁性相と前記亜鉛成分とが結晶相粒子を形成しており、かつ、
1.0μm以下の粒径を有する前記結晶相粒子の割合が、前記結晶相粒子の全数に対して10.00%以下である、希土類磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類磁石及びその製造方法に関する。本開示は、特に、Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がTh2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える希土類磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能希土類磁石としては、Sm-Co系希土類磁石及びNd-Fe-B系希土類磁石が実用化されているが、近年、これら以外の希土類磁石が検討されている。
【0003】
例えば、Sm、Fe、及びNを含有する希土類磁石(以下、「Sm-Fe-N系希土類磁石」ということがある。)が検討されている。Sm-Fe-N系希土類磁石は、例えば、Sm、Fe、及びNを含有する磁性粉末(以下、「SmFeN粉末」ということがある。)を用いて製造される。
【0004】
SmFeN粉末は、Th2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える。この磁性相は、Sm-Fe結晶にNが侵入型で固溶していると考えられている。そのため、SmFeN粉末は、熱によってNが乖離して分解され易い。このことから、Sm-Fe-N系希土類磁石は、SmFeN粉末を樹脂及び/又はゴム等を用いて成形して製造されることが多い。
【0005】
それ以外のSm-Fe-N系希土類磁石の製造方法としては、例えば、特許文献1に開示されている製造方法が挙げられる。この製造方法は、SmFeN粉末と金属亜鉛を含有する粉末(以下、「金属亜鉛粉末」ということがある。)を混合し、その混合粉末を磁場中で成形し、その磁場成形体を焼結(液相焼結を含む)する。
【0006】
また、SmFeN粉末の製造方法は、例えば、特許文献2におよび3にて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2015/199096号
【特許文献2】特開2017-117937号公報
【特許文献3】特開2020-102606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁場成形体の焼結方法には、大別して、無加圧焼結法と加圧焼結法がある。いずれの焼結法においても、磁場成形体を焼結することによって、高密度の希土類磁石(焼結体)が得られる。無加圧焼結法においては、焼結中の磁場成形体に圧力を付与しないため、高密度の焼結体を得るには、900℃以上の高温で6時間以上の長時間にわたり磁場成形体を焼結することが一般的である。一方、加圧焼結法においては、焼結中の磁場成形体に圧力を付与するため、600~800℃の低温でも0.1~5時間の短時間で磁場成形体を焼結しても、高密度の焼結体を得られることが一般的である。
【0009】
SmFeN粉末と金属亜鉛粉末の混合粉末の磁場成形体を焼結する場合、SmFeN粉末の熱による分解を避けるため、加圧焼結を採用するが、通常の加圧焼結の焼結温度よりもさらに低温かつ短時間で焼結する。このような低温かつ短時間でも焼結が可能であるのは、焼結時に金属亜鉛粉末中の亜鉛成分が磁性粉末の表面に拡散して、焼結(固化)するためである。このように、磁場成形体中の金属亜鉛粉末は、バインダとしての機能を有する。また、磁場成形体中の金属亜鉛粉末は、SmFeN粉末中のαFe相を改質し、SmFeN粉末中の酸素を吸収して保磁力を向上させる、改質材としての機能も有する。以下、Sm-Fe-N系希土類磁石の製造時に用いられ、バインダとしての機能と、改質材としての機能の両方を有する粉末を、単に、「改質材粉末」ということがある。
【0010】
Sm-Fe-N系希土類磁石をはじめとする永久磁石がモータに使用される場合、永久磁石は周期的に変化する外部磁場環境下に配置される。そのため、永久磁石は外部磁場の増加により減磁される。これを、図面を用いて説明する。
【0011】
図1は、永久磁石の磁化-磁場曲線(M-H曲線)を模式的に示した説明図である。実線は、高い配向度を有する永久磁石の磁化-磁場曲線を示し、破線は、低下した配向度を有する永久磁石の磁化-磁場曲線を示す。
【0012】
図1の「モータの動作領域」で示される範囲の外部磁場環境下で、モータ中の永久磁石は使用される。そのため、
図1の破線で示した永久磁石のように、モータの動作領域内で、磁化の変動が大きいと、モータのステータ側の電流制御が複雑になり、モータに接続するインバータの負荷が大きくなる。そうすると、容量の大きいインバータが必要になり、経済性を損なう。
【0013】
また、配向度が低下すると、リコイル透磁率が低下して、モータの動作領域内で、外部磁場の絶対値の大きい側の磁化が低下することから、モータの出力(トルク)が低下する。そして、Sm-Fe-N系希土類磁石の磁化を発現する、Th2Zn17型及び/又はTh2Ni17型の結晶構造を有する磁性相は、異方性磁界が大きいため、配向させ難い。
【0014】
永久磁石の磁化の向上には、磁化を発現する磁性相の体積率を向上することが有効である。そのためには、永久磁石の密度を向上することが有効である。永久磁石が、磁性粉末を成形して得られる場合、永久磁石の密度を向上するには、磁性粉末を焼結することが有効である。しかし、SmFeN粉末の焼結体を得るには、SmFeN粉末の熱による分解を避けるため、通常の加圧焼結よりも、低温かつ短時間で加圧焼結する。低温かつ短時間での加圧焼結を成立させるため、上述したように、バインダとしての機能と改質材としての機能の両方を有する金属亜鉛粉末等の改質材粉末を用いる。このような改質材粉末を用いると、その分、磁化が低下する。このことから、焼結体(Sm-Fe-N系希土類磁石)の配向度が低下したとき、
図1の「モータの動作領域」で、外部磁場の絶対値の大きい側(
図1の左側)での磁化の低下が一層深刻になる。
【0015】
これらのことから、改質材粉末の使用による磁化の低下を抑制しつつ、配向度が向上したSm-Fe-N系希土類磁石が望まれている、という課題を、本発明者らは見出した。
【0016】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本開示は、改質材粉末の使用による磁化の低下を抑制しつつ、配向度が向上したSm-Fe-N系希土類磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示の希土類磁石及びその製造方法を完成させた。本開示の希土類磁石及びその製造方法は、次の態様を含む。
〈1〉Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がTh2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える磁性粉末を準備すること、
金属亜鉛を含有する改質材粉末を準備すること、
前記磁性粉末と前記改質材粉末を混合して、混合粉末を得ること、
前記混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得ること、
前記磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得ること、及び
前記焼結体を、熱処理すること、
を含み、
前記改質材粉末中の前記金属亜鉛の含有割合が、前記混合粉末に対して10~30質量%であり、
前記熱処理の条件に関し、温度及び時間を、それぞれ、x℃及びy時間としたとき、
y≧-0.32x+136及び
350≦x≦410
を満足する、
希土類磁石の製造方法。
〈2〉前記xが、350≦x≦400を満足する、〈1〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈3〉前記yが、y≦40を満足する、〈1〉又は〈2〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈4〉前記磁場成形体を、1000~1500MPaの圧力及び300~400℃の温度で、1~30分にわたり加圧焼結する、〈1〉~〈3〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈5〉前記磁性粉末中で、1.0μm以下の粒径を有する磁性粒子の割合が、前記磁性粉末の全磁性粒子数に対して1~20%である、〈1〉~〈4〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈6〉Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がTh2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を備え、
10~30質量%の亜鉛成分を含有し、
前記磁性相と前記亜鉛成分とが結晶相粒子を形成しており、かつ、
1.0μm以下の粒径を有する前記結晶相粒子の割合が、前記結晶相粒子の全数に対して10.00%以下である、希土類磁石。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、改質材に由来する亜鉛成分を所定範囲にし、微小な結晶相の存在を所定割合以下にすることにより、改質材粉末の使用による磁化の低下を抑制しつつ、配向度が向上したSm-Fe-N系希土類磁石を提供することができる。また、改質材粉末を所定の範囲で配合し、加圧焼結で得られた焼結体を低温かつ短時間で熱処理することにより、改質材粉末の使用による磁化の低下を抑制しつつ、配向度が向上したSm-Fe-N系希土類磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、永久磁石の磁化-磁場曲線(M-H曲線)を模式的に示した説明図である。
【
図2】
図2は、SmFeN粉末の走査型電子顕微鏡像を示す説明図である。
【
図3】
図3は、本開示の希土類磁石の製造方法で得た、SmFeN粉末と改質材粉末の混合粉末の焼結体の走査型電子顕微鏡像を示す説明図である。
【
図4】
図4は、SmFeN粉末を樹脂埋めした試料の光学顕微鏡像を示す説明図である。
【
図5】
図5は、熱処理後の焼結体の断面の光学顕微鏡像を示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施例1~6及び比較例1~6の試料の準備に用いたSmFeN粉末の粒度分布を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1の試料(熱処理後の焼結体)について、結晶相粒子の粒径分布を調査した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例1の試料(熱処理後の焼結体)について、結晶相粒子の粒径分布を調査した結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、改質材粉末の配合量が10質量%の試料について、熱処理温度と熱処理時間の関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例6の試料の磁化-磁場曲線(M-H曲線)の一部を示すグラフである。
【
図11】
図11は、改質材粉末の配合量と外部磁場が-1600kA/m時の磁化との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、改質材粉末の配合量と配向度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の希土類磁石及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の希土類磁石及びその製造方法を限定するものではない。
【0021】
SmFeN粉末と改質材粉末の混合粉末の焼結体に配向性を付与するには、混合粉末を磁場中で圧縮成形をして得た磁場成形体を加圧焼結する。このとき、本開示の希土類磁石の製造方法によれば、焼結体の配向度が向上する理由について、図面を用いて説明する。
【0022】
図2は、SmFeN粉末の走査型電子顕微鏡像を示す説明図である。
図3は、本開示の希土類磁石の製造方法で得た、SmFeN粉末と改質材粉末の混合粉末の焼結体の走査型電子顕微鏡像を示す説明図である。
【0023】
図2に示す走査型電子顕微鏡像は、全体的にさらざらした不鮮明な画像である。このことから、SmFeN粉末は、微粉粒子を含むことを理解できる。一方、
図3に示す走査型電子顕微鏡像は、全体的に鮮明であり、SmFeN粉末中の微粉粒子に由来する微小な組織(微小な結晶相)が非常に少ない。そして、
図3に示すような組織を有する焼結体(本開示の希土類磁石)は、改質材粉末の使用による磁化の低下が抑制されており、かつ、配向度が向上している。このような希土類磁石が得られる理由について、理論に拘束されないが、本発明者らは次のように考えている。
【0024】
微粉粒子は、磁場中で圧縮成形しても、配向させることが一般的に難しい。また、SmFeB粉末中の磁性相は異方性磁界が非常に高いため、配向させるのに強い磁場を必要とする。これらのことから、強い磁場中で圧縮成形しても、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)は配向するものの、微粉粒子を配向させることは難しい。なお、本明細書では、特に断りのない限り、配向の度合いを示す配向度は、(外部磁場1000kA/mでの磁化)/(外部磁場6000kAでの磁化)で定義される。
【0025】
改質材粉末と微粉粒子を含有するSmFeN粉末との混合粉末を圧縮成形して得た磁場成形体を加圧焼結した際、微粉粒子に由来する磁性相がそのまま残留していると、得られた焼結体の配向度は著しく低下する。これは、焼結体を着磁したとき、微粉粒子に由来する磁性相が磁気的に不規則な方向で存在することによって、粒径が比較的大きい粒子が磁気的に配向していることによって生じる強い磁化の一部を、微粉粒子に由来する磁性相が打ち消してしまうためである。言い替えると、これは、磁性相が配向すると、着磁で強い磁化を生じるが、微粉粒子に由来する磁性相が磁気的に不規則な方向で存在すると、その分だけ磁化が低下するだけでなく、配向した磁性相で生じた強い磁化の一部を打ち消してしまうことを意味する。
【0026】
上述したような微粉粒子の弊害を回避するためには、SmFeN粉末中の微粉粒子を除去した混合粉末を加圧焼結する方法が考えられるが、微粉粒子は静電気を帯びている場合が多く、微粉粒子の除去には、多大な工数を要する場合が多い。
【0027】
そこで、微粉粒子と、混合粉末中の改質材粉末を適度に反応させることによって、微粉粒子中の磁性相を非磁性相にして無害化できることを、本発明者らは知見した。また、そのためには、改質材粉末を所定の範囲で配合し、加圧焼結で得られた焼結体を低温かつ短時間で熱処理すればよいことを、本発明者らは知見した。そして、このようにして得た、熱処理後の焼結体(本開示の希土類磁石)においては、微粉粒子に由来する結晶相(非磁性相)の多くは、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)の表面を被覆している改質相(非磁性相)と一体化していると考えられる。そのため、配向度が向上している本開示の希土類磁石は、微粉粒子に由来する微小な結晶相(非磁性相)が非常に少ないことを、本発明者らは知見した。なお、改質相については、後程、詳述する。
【0028】
これまで述べてきた知見等によって完成された、本開示の希土類磁石及びその製造方法の構成要件を、次に説明する。
【0029】
《希土類磁石の製造方法》
本開示の希土類磁石の製造方法(以下、単に「本開示の製造方法」ということがある。)は、磁性粉末準備工程、改質材粉末準備工程、混合工程、磁場成形工程、加圧焼結工程、及び熱処理工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0030】
〈磁性粉末準備工程〉
磁性粉末(SmFeN粉末)を準備する。本開示の製造方法に用いる磁性粉末(SmFeN粉末)は、Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がTh2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を備えていれば、特に制限はない。磁性相の結晶構造としては、前述の構造のほかに、TbCu7型の結晶構造を有する相等が挙げられる。なお、Smはサマリウム、Feは鉄、そして、Nは窒素である。また、Thはトリウム、Znは亜鉛、Niはニッケル、Tbはテルビウム、そして、Cuは銅である。
【0031】
SmFeN粉末中には、例えば、組成式(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相を含有してもよい。本開示の製造方法で得られる希土類磁石(以下、「成果物」ということがある。)は、SmFeN粉末中の磁性相に由来して、磁化を発現する。なお、i、j、及びhは、モル比である。
【0032】
SmFeN粉末中の磁性相には、本開示の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を阻害しない範囲で、Rを含有していてもよい。このような範囲は、上記組成式のiで表される。iは、例えば、0以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。Rは、Sm以外の希土類元素並びにY及びZrから選ばれる一種以上である。本明細書で、希土類元素とは、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuである。なお、Yはイットリウム、Zrはジルコニウム、Scはスカンジウム、Laはランタン、Ceはセリウム、Prはプラセオジム、Ndはネオジム、Pmはプロメチウム、Smはサマリウム、Euはユウロビウム、Gdはガドリニウム、Tbはテルビウム、Dyはジスプロシウム、Hoはホルミウム、Erはエルビウム、Tmはツリウム、Ybはイッテルビウム、そして、Luはルテニウムである。
【0033】
(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhについては、典型的には、Sm2(Fe(1-j)Coj)17NhのSmの位置にRが置換しているが、これに限られない。例えば、Sm2(Fe(1-j)Coj)17Nhに、侵入型でRの一部が配置されていてもよい。
【0034】
SmFeN粉末中の磁性相には、本開示の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を阻害しない範囲で、Coを含有してもよい。このような範囲は、上記組成式で、jで表される。jは、0以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.52以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。
【0035】
(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhについては、典型的には、(Sm(1-i)Ri)2Fe17NhのFeの位置にCoが置換しているが、これに限られない。例えば、(Sm(1-i)Ri)2Fe17Nhに、侵入型でCoの一部が配置されていてもよい。
【0036】
SmFeN粉末中の磁性相は、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17で表される結晶粒に、Nが侵入型で存在することによって、磁気特性の発現及び向上に寄与する。
【0037】
(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhについては、hは1.5~4.5をとり得るが、典型的には、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17N3である。hは、1.8以上、2.0以上、又は2.5以上であってもよく、4.2以下、4.0以下、又は3.5以下であってもよい。(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nh全体に対する(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17N3の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%がより一層好ましい。一方、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhのすべてが(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17N3でなくてもよい。(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nh全体に対する(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17N3の含有量は、98質量%以下、95質量%以下、又は92質量%以下であってよい。
【0038】
SmFeN粉末は、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相の他に、本開示の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を実質的に阻害しない範囲で、酸素及びM1並びに不可避的不純物元素を含有してもよい。成果物の磁気特性を確保する観点からは、SmFeN粉末全体に対する、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相の含有量は、80質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上であってよい。一方、SmFeN粉末全体に対して、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相の含有量を過度に高くしなくとも、実用上問題はない。したがって、その含有量は、97質量%以下、95質量%以下、又は93質量%以下であってよい。(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相の残部が、酸素及びM1の含有量となる。また、酸素及びM1の一部は、侵入型及び/又は置換型で、磁性相に存在していてもよい。
【0039】
上述のM1としては、Ga、Ti、Cr、Zn、Mn、V、Mo、W、Si、Re、Cu、Al、Ca、B、Ni、及びCから選ばれる1種以上が挙げられる。不可避的不純物元素とは、原材料及び/又は磁性粉末を製造等するに際し、その含有を回避することが避けられない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。これらの元素は、置換型及び/又は侵入型で上述した磁性相に存在していてもよいし、上述した磁性相以外の相に存在していてもよい。あるいは、これらの相の粒界に存在していてもよい。なお、Gaはガリウム、Tiはチタン、Crはクロム、Znは亜鉛、Mnはマンガン、Vはバナジウム、Moはモリブデン、Wはタングステン、Siはシリコン、Reはレニウム、Cuは銅、Alはアルミニウム、Caはカルシウム、Bはホウ素、Niはニッケル、そして、Cは炭素である。
【0040】
SmFeN粉末の粒径D50は、成果物が所望の磁気特性を有する限りにおいて、特に制限はない。D50は、例えば、1.00μm以上、2.00μm以上、3.00μm以上、3.08μm以上、4.00μm以上、5.00μm以上、6.00μm以上、7.00μm以上、8.00μm以上、又は9.00μm以上であってよく、20.00μm以下、19.00μm以下、18.00μm以下、17.00μm以下、16.00μm以下、15.00μm以下、14.00μm以下、13.00μm以下、12.00μm以下、11.00μm以下、又は10.00μm以下であってよい。なお、D50は、メジアン径を意味する。
【0041】
SmFeN粉末のD50は、SmFeN粉末の粒度分布から算出されるが、SmFeN粉末の粒度分布は、次のような方法で測定(調査)される。本明細書において、特に断りのない限り、SmFeN粉末の粒子の大きさ(粒径)に関する記載は、次の測定方法(調査方法)に基づくものとする。
【0042】
SmFeN粉末を樹脂埋めした試料を準備し、その試料の表面を研磨して、光学顕微鏡で観察する。
図4は、SmFeN粉末を樹脂埋めした試料の光学顕微鏡像を示す説明図である。
図4において、明視野がSmFeN粉末の粒子を示し、暗視野が樹脂を示す。
【0043】
図4に示したように、光学顕微鏡像に直線を引き、直線がSmFeN粒子(明視野)で区切られる線分の長さを測定し、線分の長さの度数分布から、SmFeN粉末の粒度分布を求めた。この方法で求めた粒度分布は、交線法によって求めた粒度分布にほぼ等しい。
【0044】
SmFeN粉末には、製造上の都合等から、微粉粒子が存在するが、本開示の製造方法で、微粉粒子を無害化することができるため、SmFeN粉末中の1.0μm以下の粒径を有する磁性粒子(微粉粒子)の割合は、特に制限はない。SmFeN粉末中の1.0μm以下の粒径を有する磁性粒子(微粉粒子)の割合は、SmFeN粉末中の全磁性粒子数に対して、1.0%以上、3.0%以上、5.0%以上、7%以上、又は10.0%以上であってよく、20.0%以下、18.0%以下、16.0%以下、14.0%以下、13.4%以下、又は12.0%以下であってよい。
【0045】
本開示の製造方法では、SmFeN粉末に、後述する改質材粉末を混合する。SmFeN粉末中の酸素は、改質材粉末中の金属亜鉛又は亜鉛合金粉末に吸収されることで、成果物の磁気特性、特に保磁力を向上させることができる。SmFeN粉末中の酸素の含有量は、製造工程中で、改質材粉末が、SmFeN粉末中の酸素を吸収する量を考慮して決定すればよい。SmFeN粉末の酸素含有量は、SmFeN粉末全体に対して、低い方が好ましい。SmFeN粉末の酸素含有量は、SmFeN粉末全体に対して、2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がより一層好ましい。一方、SmFeN粉末中の酸素の含有量を極度に低減することは、製造コストの増大を招く。このことから、SmFeN粉末の酸素の含有量は、SmFeN粉末全体に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。
【0046】
SmFeN粉末は、これまで説明してきたことを満足すれば、その製造方法に特に制限はなく、市販品を用いてもよい。SmFeN粉末の製造方法としては、例えば、サマリウム酸化物及び鉄粉から還元拡散法でSm-Fe粉末を製造し、窒素と水素の混合ガス、窒素ガス、及びアンモニアガス等の雰囲気中で600℃以下の加熱処理をして、Sm-Fe-N粉末を得る方法等が挙げられる。あるいは、例えば、溶解法でSm-Fe合金を製造し、その合金を粗粉砕して得た粗粉砕粒を窒化し、それを所望の粒径になるまで、さらに粉砕する方法等が挙げられる。粉砕には、例えば、乾式ジェットミル、乾式ボールミル、湿式ボールミル、又は湿式ビーズミル等を用いることができる。これらを組み合わせて用いてもよい。
【0047】
SmFeN粉末は、前述の製造方法の他に、例えば、SmとFeを含む酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理することにより、部分酸化物を得る前処理工程、前記部分酸化物を、還元剤の存在下で熱処理することにより、合金粒子を得る工程、および、前記合金粒子を窒素またはアンモニア含有雰囲気下、400℃以上470℃以下の第一温度で熱処理した後、480℃以上610℃以下の第二温度で熱処理して窒化物を得る工程を含む製造方法により得られる。特に粒子径の大きい合金粒子、たとえばLaを含む合金粒子では、窒化が酸化物粒子の内部にまで充分に進行しないことがあるが、2段階の温度で窒化すると、酸化物粒子の内部も充分に窒化され、粒度分布が狭く、高残留磁化の異方性のSmFeN粉末を得ることができる。
【0048】
〈前処理工程〉
前処理工程で使用するSmとFeを含む酸化物は、例えば、Sm酸化物とFe酸化物を混合することにより作製してもよいが、SmとFeを含む溶液と沈殿剤を混合し、SmとFeとを含む沈殿物を得る工程(沈殿工程)、および、前記沈殿物を焼成することにより、SmとFeを含む酸化物を得る工程(酸化工程)によって、製造することが好ましい。
【0049】
〈沈殿工程〉
沈殿工程では、強酸性の溶液にSm原料、Fe原料を溶解して、SmとFeを含む溶液を調製する。Sm2Fe17N3を主相として得る場合、SmおよびFeのモル比(Sm:Fe)は1.5:17~3.0:17が好ましく、2.0:17~2.5:17がより好ましい。La、W、Co、Ti、Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luなどの原料を上述した溶液に加えても良い。残留磁束密度の点で、Laを含むことが好ましい。保持力と角型比の点で、Wを含むことが好ましい。温度特性の点で、Co、Tiを含むことが好ましい。
【0050】
Sm原料、Fe原料としては、強酸性の溶液に溶解できるものであれば限定されない。例えば、入手のしやすさの点で、Sm原料としては酸化サマリウムが、Fe原料としてはFeSO4が挙げられる。SmとFeを含む溶液の濃度は、Sm原料とFe原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整することができる。酸性溶液としては溶解性の点で硫酸などが挙げられる。
【0051】
SmとFeを含む溶液と沈殿剤を反応させることにより、SmとFeを含む不溶性の沈殿物を得る。ここで、SmとFeを含む溶液は、沈殿剤との反応時にSmとFeを含む溶液となっていればよく、たとえばSmとFeを含む原料を別々の溶液として調製し、各々の溶液を滴下して沈殿剤と反応させても良い。別々の溶液として調製する場合においても各原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整する。沈殿剤としては、アルカリ性の溶液でSmとFeを含む溶液と反応して沈殿物が得られるものであれば限定されず、アンモニア水、苛性ソーダなどが挙げられ、苛性ソーダが好ましい。
【0052】
沈殿反応は、沈殿物の粒子の性状を容易に調整できる点から、SmとFeを含む溶液と、沈殿剤を、それぞれ水などの溶媒に滴下する方法が好ましい。SmとFeを含む溶液と沈殿剤との供給速度、反応温度、反応液濃度、反応時のpH等を適宜制御することにより、構成元素の分布が均質で、粒度分布が狭く、粉末形状の整った沈殿物が得られる。このような沈殿物を使用することによって、最終製品であるSmFeN粉末の磁気特性が向上する。反応温度は、0℃以上50℃以下とすることができ、35℃以上45℃以下が好ましい。反応液濃度は、金属イオンの総濃度として0.65mol/L以上0.85mol/L以下が好ましく、0.7mol/L以上0.85mol/L以下がより好ましい。反応pHは、5以上9以下が好ましく、6.5以上8以下がより好ましい。
【0053】
SmとFeを含む溶液は、磁気特性の点で、さらにLa、W、CoおよびTiからなる群から選ばれる1種以上の金属を含むことが好ましい。例えば、残留磁束密度の点で、Laを含むことが好ましく、保磁力の点で、Wを含むことが好ましく、温度特性の点で、Co、Tiを含むことが好ましい。La原料としては、強酸性の溶液に溶解できるものであれば限定されず、例えば、入手のしやすさの点で、La2O3、LaCl3などが挙げられる。Sm原料とFe原料とともに、La原料、W原料、Co原料、Ti原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整し、酸性溶液としては溶解性の点で硫酸が挙げられる。W原料としては、タングステン酸アンモニウムが挙げられ、Co原料としては、硫酸コバルトが挙げられ、チタン原料としては硫酸チタニアが挙げられる。
【0054】
SmとFeを含む溶液が、さらにLa、W、CoおよびTiからなる群から選ばれる1種以上の金属を含む場合、Sm、Feと、La、W、CoおよびTiからなる群から選ばれる1種以上を含む不溶性の沈殿物を得る。ここで、該溶液は、沈殿剤との反応時にLa、W、CoおよびTiからなる群から選ばれる1種以上を含んでいればよく、例えば各原料を別々の溶液として調製し、各々の溶液を滴下して沈殿剤と反応させても良いし、SmとFeを含む溶液と一緒に調整しても良い。
【0055】
沈殿工程で得られた粉末により、最終的に得られるSmFeN粉末の粉末粒子径、粉末形状、粒度分布がおよそ決定される。得られた粉末の粒子径をレーザ回折式湿式粒度分布計により測定した場合、全粉末が0.05μm以上20μm以下、好ましくは0.1μm以上10μm以下の範囲にほぼ入るような大きさと分布であることが好ましい。
【0056】
沈殿物を分離した後は、続く酸化工程の熱処理において残存する溶媒に沈殿物が再溶解して、溶媒が蒸発する際に沈殿物が凝集したり、粒度分布、粉末粒子径等が変化したりすることを抑制するために、分離物を脱溶媒しておくことが好ましい。脱溶媒する方法として具体的には、例えば溶媒として水を使用する場合、70℃以上200℃以下のオーブン中で5時間以上12時間以下の時間、乾燥する方法が挙げられる。
【0057】
沈殿工程の後に、得られる沈殿物を分離洗浄する工程を含んでもよい。洗浄する工程は上澄み溶液の導電率が5mS/m2以下となるまで適宜行う。沈殿物を分離する工程としては、例えば、得られた沈殿物に溶媒(好ましくは水)を加えて混合した後、濾過法、デカンテーション法等を用いることができる。
【0058】
〈酸化工程〉
酸化工程とは、沈殿工程で形成された沈殿物を焼成することにより、SmとFeとを含む酸化物を得る工程である。例えば、熱処理により沈殿物を酸化物に変換することができる。沈殿物を熱処理する場合、酸素の存在下で行われる必要があり、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。また、酸素存在下で行われる必要があるため、沈殿物中の非金属部分に酸素原子を含むことが好ましい。
【0059】
酸化工程における熱処理温度(以下、酸化温度)は特に限定されないが、700℃以上1300℃以下が好ましく、900℃以上1200℃以下がより好ましい。700℃未満では酸化が不十分となり、1300℃を超えると、目的とするSmFeN粉末の形状、平均粒子径および粒度分布が得られない傾向にある。熱処理時間も特に限定されないが、1時間以上3時間以下が好ましい。
【0060】
得られる酸化物は、酸化物粒子内においてSm、鉄の微視的な混合が充分になされ、沈殿物の形状、粒度分布等が反映された酸化物粒子である。
【0061】
〈前処理工程〉
前処理工程とは、上述のSmとFeを含む酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理することにより、酸化物の一部が還元された部分酸化物を得る工程である。
【0062】
ここで、部分酸化物とは、酸化物の一部が還元された酸化物をいう。部分酸化物の酸素濃度は特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。10質量%を超えると、還元工程においてCaとの還元発熱が大きくなり、焼成温度が高くなることで異常な粒子成長をした粒子ができてしまう傾向がある。ここで、部分酸化物の酸素濃度は、非分散赤外吸収法(ND-IR)により測定することができる。
【0063】
還元性ガスは、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)等の炭化水素ガスなどから適宜選択されるが、コストの点で水素ガスが好ましく、ガスの流量は、酸化物が飛散しない範囲で適宜調整される。前処理工程における熱処理温度(以下、前処理温度)は、300℃以上950℃以下が好ましく、下限は400℃以上がより好ましく、750℃以上がさらに好ましい。上限は900℃未満がより好ましい。前処理温度が300℃以上であるとSmとFeを含む酸化物の還元が効率的に進行する。また950℃以下であると酸化物粒子が粒子成長、偏析することが抑制され、所望の粒子径を維持することができる。熱処理時間は、特に限定されないが、1時間以上50時間以下とすることができる。また、還元性ガスとして水素を用いる場合、使用する酸化物層の厚みを20mm以下に調整し、更に反応炉内の露点を-10℃以下に調整することが好ましい。
【0064】
〈還元工程〉
還元工程とは、前記部分酸化物を、還元剤の存在下で熱処理することにより、合金粒子を得る工程であり、例えば部分酸化物をカルシウム融体またはカルシウムの蒸気と接触することで還元が行われる。熱処理温度は、磁気特性の点より、920℃以上1200℃以下が好ましく、950℃以上1150℃以下がより好ましく、980℃以上1100℃以下がさらに好ましい。
【0065】
還元剤である金属カルシウムは、粒状又は粉末状の形で使用されるが、その粒子径は10mm以下が好ましい。これにより還元反応時における凝集をより効果的に抑制することができる。また、金属カルシウムは、反応当量(希土類酸化物を還元するのに必要な化学量論量であり、Fe成分が酸化物の形である場合には、これを還元するために必要な分を含む)の1.1~3.0倍量の割合で添加することが好ましく、1.5~2.5倍量がより好ましい。
【0066】
還元工程では、還元剤である金属カルシウムとともに、必要に応じて崩壊促進剤を使用することができる。この崩壊促進剤は、後述する水洗工程に際して、生成物の崩壊、粒状化を促進させるために適宜使用されるものであり、例えば、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、酸化カルシウム等のアルカリ土類酸化物などが挙げられる。これらの崩壊促進剤は、サマリウム酸化物当り1質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上30質量%以下の割合で使用される。
【0067】
〈窒化工程〉
窒化工程とは、還元工程で得られた合金粒子を、窒素またはアンモニア含有雰囲気下、400℃以上470℃以下の第一温度で熱処理した後、480℃以上610℃以下の第二温度で熱処理して窒化処理することにより、異方性の磁性粒子を得る工程である。上述の沈殿工程で得られる粒子状の沈殿物を用いていることから、還元工程にて多孔質塊状の合金粒子が得られる。これにより、粉砕処理を行うことなく直ちに窒素雰囲気中で熱処理して窒化することができるため、窒化を均一に行うことができる。第一温度で窒化することなく、第二温度の高温で熱処理すると、窒化が急激に進行することにより異常発熱が生じ、SmFeNが分解し、磁気特性が大きく低下することがある。また、窒化工程における雰囲気は窒化の進行をより遅くできることから、実質的に窒素含有雰囲気下であることが好ましい。ここでいう実質的にとは、不純物の混入等に起因して不可避的に窒素以外の元素が含まれることを考慮して使用しており、例えば、雰囲気における窒素の割合が95%以上であり、97%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0068】
窒化工程における第一温度は、400℃以上470℃以下であるが、410℃以上450℃以下が好ましい。400℃未満では、窒化の進行が非常に遅く、470℃を超えると、発熱により過窒化または分解が起こりやすくなる。第一温度での熱処理時間は、特に限定されないが、1時間以上40時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましい。1時間未満では、窒化が十分に進行しない場合があり、40時間を超えると、生産性が悪くなる。
【0069】
第二温度は、480℃以上610℃以下であるが、500℃以上550℃以下が好ましい。480℃未満では、粒子が大きいと窒化が十分に進行しない場合があり、610℃を超えると、過窒化または分解が起こりやすい。第二温度での熱処理時間は、15分以上5時間以下が好ましく、30分以上2時間以下がより好ましい。15分未満では、窒化が十分に進行しない場合があり、5時間を超えると、生産性が悪くなる。
【0070】
第一温度による熱処理と第二温度による熱処理は連続で行っても良く、これらの熱処理間において、第二温度より低い温度での熱処理を含むこともできるが、生産性の点で、連続で行うことが好ましい。
【0071】
〈後処理工程〉
窒化工程後に得られる生成物には、磁性粒子に加えて、副生するCaO、未反応の金属カルシウム等が含まれ、これらが複合した焼結塊状態となっている場合がある。窒化工程後に得られる生成物を冷却水中に投入して、CaO及び金属カルシウムを水酸化カルシウム(Ca(OH)2)懸濁物として分離することができる。さらに残留する水酸化カルシウムは、磁性粉末を酢酸等で洗浄して充分に除去してもよい。生成物を水中に投入した際には、金属カルシウムの水による酸化及び副生CaOの水和反応によって、複合した焼結塊状の反応生成物の崩壊、すなわち微粉化が進行する。
【0072】
〈アルカリ処理工程〉
窒化工程後に得られる生成物をアルカリ溶液中に投入してもよい。アルカリ処理工程に用いるアルカリ溶液としては、たとえば水酸化カルシウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などが挙げられる。なかでも、排水処理、高pHの点で、水酸化カルシウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。生成物のアルカリ処理により、酸素をある程度含有するSmリッチ層が残存して保護層として機能するため、アルカリ処理による酸素濃度が増大することを抑制している。
【0073】
アルカリ処理工程に用いるアルカリ溶液のpHは特に限定されないが、9以上が好ましく、10以上がより好ましい。pHが9未満では、水酸化カルシウムになる際の反応速度が速く、発熱が大きくなるため、最終的に得られるSmFeN粉末の酸素濃度が高くなる傾向がある。
【0074】
アルカリ処理工程において、アルカリ溶液で処理した後に得られたSmFeN粉末は、必要によりデカンテーションなどの方法で水分を低減することもできる。
【0075】
〈酸処理工程〉
アルカリ処理工程の後に、さらに酸で処理する酸処理工程を含んでもよい。酸処理工程では、前述のSmリッチ層の少なくとも一部を除去して、SmFeN粉末全体中の酸素濃度を低減する。また、本発明の実施形態にある製造方法では、粉砕等を行わないため、SmFeN粉末の平均粒子径が小さく、粒度分布が狭く、また粉砕等で生じる微粉を含まないため、酸素濃度の増加を抑制することが可能となる。
【0076】
酸処理工程に用いる酸としては、特に限定されず、たとえば塩化水素、硝酸、硫酸、酢酸などが挙げられる。なかでも、不純物が残留しない点で、塩化水素、硝酸が好ましい。
【0077】
酸処理工程に用いる酸の使用量は、SmFeN粉末100質量部に対して3.5質量部以上13.5質量部以下が好ましく、4質量部以上10質量部以下がより好ましい。3.5質量部未満では、SmFeN粉末の表面の酸化物が残り、酸素濃度が高くなり、13.5質量部を超えると、大気に暴露した際に再酸化が起こりやすく、また、SmFeN粉末を溶解するため、コストも高くなる傾向がある。酸の量をSmFeN粉末100質量部に対して3.5質量部以上13.5質量部以下とすることにより、酸処理後に大気に暴露した際に再酸化が起こりにくい程度に酸化されたSmリッチ層がSmFeN粉末表面を覆うようにすることができるので、酸素濃度が低く、平均粒子径が小さく、粒度分布の狭いSmFeN粉末が得られる。
【0078】
酸処理工程において、酸で処理した後に得られたSmFeN粉末は、必要によりデカンテーションなどの方法で水分を低減することもできる。
【0079】
〈脱水工程〉
酸処理工程の後に、脱水処理する工程を含むことが好ましい。脱水処理によって、真空乾燥前の固形分中の水分を低減させ、真空乾燥前の固形分が水分をより多く含むことにより生じる乾燥時の酸化の進行を抑制することができる。ここで、脱水処理は、圧力や遠心力を加えることで、処理前の固形分に対して処理後の固形分に含まれる水分値を低減する処理のことを意味し、単なるデカンテーションや濾過や乾燥は含まない。脱水処理方法は特に限定されないが、圧搾、遠心分離などが挙げられる。
【0080】
脱水処理後のSmFeN粉末に含まれる水分量は特に限定されないが、酸化の進行を抑制する点から13質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0081】
酸処理して得られたSmFeN粉末、または、酸処理後、脱水処理して得られたSmFeN粉末は、真空乾燥することが好ましい。乾燥温度は特に限定されないが、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。乾燥時間も特に限定されないが、1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましい。
【0082】
〈改質材粉末準備工程〉
改質材粉末を準備する。本開示の製造方法で用いる改質材粉末は、金属亜鉛を含有する。金属亜鉛とは、合金化されていない亜鉛のことを意味する。改質材粉末中の金属亜鉛によって、SmFeN粉末の粒子を結合及び改質するだけでなく、磁気的配向に関して、SmFeN粉末中の微粉粒子を無害化する。理論に拘束されないが、主として、後述する熱処理工程で、SmFeN粉末のFeと金属亜鉛がFe-Zn合金相を形成する。金属亜鉛の純度は100質量%が理想であるが、実用的には、例えば、95.0質量%以上、96質量%以上、又は97.0質量%以上であってよく、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99.0質量%以下、98.5質量%以下、又は98.0質量%以下であってよい。
【0083】
SmFeN粉末の粒子に関し、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)では、その表面でFe-Zn合金相が形成される。SmFeN粉末の粒子の表面には、Th2Zn17型及び/又はTh2Ni17型等の結晶構造が完全でない部分があり、その部分にはα-Fe相が存在しており、保磁力の低下の原因となる。このα-Fe相が金属亜鉛とFe-Zn合金相を形成し、保磁力の低下を抑制する。すなわち、Fe-Zn合金相が改質相として作用する。SmFeN粉末の粒子と改質材粉末の粒子との間で、FeとZnが相互に拡散して、Fe-Zn合金相が形成される。そのため、SmFeN粉末の粒子と改質材粉末の粒子を、強固に結合することができる。すなわち、改質材粉末は、バインダとして機能する。
【0084】
一方、SmFeN粉末の粒子に関し、微粉粒子では、ほぼ粒子全体で、Fe-Zn合金相が形成されると考えられる。これは、微粉粒子においては、Th
2Zn
17型及び/又はTh
2Ni
17型等の結晶構造が完全でない部分の割合が大きいと考えられるためである。そして、微粉粒子に由来するFe-Zn合金相の多くは、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)で形成されたFe-Zn合金相と一体化される。そのため、SmFeN粉末では
図1に示したような微粉粒子が存在しているが、焼結体では、
図2に示したように、微粉粒子に由来する微細なFe-Zn合金相が概ね認められないと考えられる。
【0085】
改質材粉末中の金属亜鉛の含有割合が、混合粉末に対して、10質量%以上であれば、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)の表面のほぼ全周が金属亜鉛で覆われ、均質なFe-Zn合金相が形成されるため、保磁力が向上する。すなわち、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)の表面には、改質相としての均質なFe-Zn合金相が被膜状に形成される。また、改質材粉末中の金属亜鉛の含有割合が、混合粉末に対して、10質量%以上であれば、微粉粒子の表面にも金属亜鉛が行き渡り、微粉粒子の無害化が促進される。この観点からは、改質材粉末中の金属亜鉛の含有割合は、混合粉末に対して、12質量%以上、14質量%以上、16質量%以上、18質量%以上、又は20質量%以上であってもよい。
【0086】
一方、改質材粉末中の金属亜鉛の含有割合が、混合粉末に対して、30質量%以下であれば、改質材粉末の使用による磁化の低下を抑制することができる。この観点からは、改質材粉末中の金属亜鉛の含有割合は、混合粉末に対して、28質量%以下、26質量%以下、24質量%以下、又は22質量%以下であってもよい。
【0087】
改質材粉末は、金属亜鉛の他に、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意で、バインダ機能及び/又は改質機能並びにその他の機能を有する金属及び/又は合金を含有してもよい。その他の機能としては、例えば、耐食性の向上機能等が挙げられる。
【0088】
金属亜鉛以外の金属及び/又は合金としては、典型的には、亜鉛合金が挙げられる。亜鉛合金をZn-M2で表すと、M2は、Zn(亜鉛)と合金化して、亜鉛合金の溶融開始温度を、Znの融点よりも降下させる元素及び不可避的不純物元素を選択してもよい。これにより、後述する加圧焼結工程で、焼結性が向上する。Znの融点よりも降下させるM2としては、ZnとM2とで共晶合金を形成する元素等が挙げられる。このようなM2としては、典型的には、Sn、Mg、及びAl並びにこれらの組み合せ等が挙げられる。Snはスズ、Mgはマグネシウム、そして、Alはアルミニウムである。これらの元素による融点降下作用、及び、成果物の特性を阻害しない元素についても、M2として選択することができる。また、不可避的不純物元素とは、改質材粉末の原材料に含まれる不純物等、その含有を回避することが避けられない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。
【0089】
Zn-M2で表される亜鉛合金において、Zn及びM2の割合(モル比)は、焼結温度が適正になるように適宜決定すればよい。亜鉛合金全体に対するM2の割合(モル比)は、例えば、0.05以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。
【0090】
改質材粉末の粒径は、特に制限されないが、SmFeN粉末の粒径よりも細かい方が好ましい。これにより、SmFeN粉末の粒子間に、改質材粉末の粒子が行き渡り易い。改質材粉末の粒径は、例えば、D50(メジアン径)で、0.1μm以上、0.5μm以上、1μm以上、又は2μm以上であってよく、12μm以下、11μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、又は4μm以下であってよい。また、改質材粉末の粒径D50(メジアン径)は、例えば、乾式レーザ回折・散乱法によって測定される。
【0091】
改質材粉末の酸素含有量が少ないと、SmFeN粉末中の酸素を多く吸収できて好ましい。この観点からは、改質材粉の酸素含有量は、改質材粉末全体に対し、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%がより好ましく、1.0質量%以下がより一層好ましい。一方、改質材粉末の酸素の含有量を極度に低減することは、製造コストの増大を招く。このことから、改質材粉末の酸素の含有量は、改質材粉末全体に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。
【0092】
〈混合工程〉
SmFeN粉末と改良材粉末を混合して、混合粉末を得る。混合方法に、特に制限はない。混合方法としては、乳鉢、マラーホイール式ミキサー、アジテータ式ミキサー、メカノフュージョン、V型混合器、及びボールミル等を用いて混合する方法が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。なお、V型混合器は、2つの筒型容器をV型に連結した容器を備え、その容器を回転することにより、容器中の粉末が、重力と遠心力で集合と分離が繰り返され、混合される装置である。
【0093】
〈磁場成形工程〉
混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得る。これにより、磁場成形体に配向性を付与することができ、成果物(希土類磁石)に異方性を付与して残留磁化を向上させることができる。
【0094】
磁場成形方法は、周囲に磁場発生装置を設置した成形型を用いて、混合粉末を圧縮成形する方法等、周知の方法でよい。成形圧力は、10MPa以上、20Pa以上、30MPa以上、50MPa以上、100MPa以上、又は150MPa以上であってよく、1500MPa以下、1000MPa以下、又は500MPa以下であってよい。印加する磁場の大きさは、500kA/m以上、1000kA/m以上、1500kA/m以上、又は1600kA/m以上であってよく、20000kA/m以下、15000kA/m以下、10000kA/m以下、5000kA/m以下、3000kA/m以下、又は2000kA/m以下であってよい。磁場の印加方法としては、電磁石を用いた静磁場を印加する方法、及び交流を用いたパルス磁場を印加する方法等が挙げられる。
【0095】
〈加圧焼結工程〉
磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得る。加圧焼結の方法は、特に限定されず、周知の方法を適用することができる。加圧焼結方法としては、例えば、キャビティを有するダイスと、キャビティの内部を摺動可能なパンチを準備し、キャビティの内部に磁場成形体を挿入し、パンチで磁場成形体に圧力を付加しつつ、磁場成形体を焼結する方法等が挙げられる。
【0096】
磁場成形体に圧力を付与しつつ、磁場成形体を焼結(以下、「加圧焼結する」ということがある。)できるように、加圧焼結条件を適宜選択すればよい。
【0097】
焼結温度が300℃以上であれば、磁場成形体中で、SmFeN粉末の粒子表面のFeと改質材粉末の金属亜鉛とが僅かに相互拡散して、焼結に寄与する。この観点からは、焼結温度は、例えば、310℃以上、320℃以上、340℃以上、又は350℃以上であってよい。一方、焼結温度が400℃以下であれば、SmFeN粉末の粒子表面のFeと改質材粉末の金属亜鉛とが過剰に相互拡散することはなく、後述する熱処理工程に支障を生じたり、得られた焼結体の磁気特性に悪影響を及ぼしたりすることはない。これらの観点からは、焼結温度は、390℃以下、380℃以下、370℃以下、又は360℃以下であってよい。
【0098】
焼結圧力については、焼結体の密度を高めることができる焼結圧力を、適宜選択すればよい。焼結圧力は、典型的には、100MPa以上、200MPa以上、400MPa以上、600MPa以上、800MPa以上、又は1000MPa以上であってよく、2000MPa以下、1800MPa以下、1600MPa以下、1500MPa以下、1300MPa以下、又は1200MPa以下であってよい。
【0099】
焼結時間は、SmFeN粉末の粒子表面のFeと改質材粉末の金属亜鉛とが僅かに相互拡散するよう、適宜決定すればよい。焼結時間には、熱処理温度に達するまでの昇温時間は含まない。焼結時間は、例えば、1分以上、2分以上、又は3分以上であってよく、30分以下、20分以下、10分以下、又は5分以下であってよい。
【0100】
焼結時間が経過したら、焼結体を冷却して、焼結を終了する。冷却速度は、速い方が、焼結体の酸化等を抑制することができる。冷却速度は、例えば、0.5~200℃/秒であってよい。
【0101】
焼結雰囲気については、磁場成形体及び焼結体の酸化を抑制するため、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0102】
〈熱処理工程〉
焼結体を熱処理する。これにより、SmFeN粉末の粒子に関し、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)では、その表面で被膜状にFe-Zn合金相が形成され、SmFeN粉末の粒子と改質材粉末の粒子とをより一層強固に結合する(以下、これを「固化する」又は「固化」ということがある。)と同時に、改質が促進される。また、SmFeN粉末の粒子に関し、微粉粒子では、ほぼ粒子全体で、Fe-Zn合金相が形成され、その多くは、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)で形成された被膜状のFe-Zn合金相と一体化される。これにより、熱処理後の焼結体(本開示のSm-Fe-N系希土類磁石)の配向度に対し、磁場成形体中に存在していた、SmFeN粉末の微粉粒子が無害化される。
【0103】
熱処理の条件に関し、温度及び時間を、それぞれ、x℃及びy時間としたとき、次の式(1)及び式(2)を満足すると、固化及び改質並びに微粉粒子の無害化を達成できる。 y≧-0.32x+136 ・・・式(1)
350≦x≦410 ・・・式(2)
【0104】
熱処理温度x℃が、350℃以上であれば、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)の表面及び微粉粒子のほぼ全体でFe-Zn合金相が適切に形成され、固化及び改質並びに微粉粒子の無害化が達成できる。この観点からは、熱処理温度x℃は、360℃以上、370℃以上、又は380℃以上であってもよい。
【0105】
一方、熱処理温度x(℃)が、410℃以下であれば、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)の表面及び微粉粒子で、FeとZnとが過剰に相互拡散することはない。ただし、熱処理温度x(℃)が410℃では固化及び改質並びに微粉粒子の無害化が達成できるものの、クニックが発生することから、熱処理温度x(℃)は、400℃以下又は390℃以下であることが好ましい。なお、クニックとは、磁化-磁場曲線(M-H曲線)の保磁力を示す領域以外の領域において、磁場の僅かな減少に対して、磁化が急激に低下することをいう。
【0106】
熱処理温度x(℃)が350~410℃の範囲(式(2)の範囲)では、熱処理時間x(℃)と熱処理時間y(時間)は、式(1)を満足する。式(1)は、実験によって確認されたものであり、固化及び改質並びに微粉粒子の無害化の達成には、熱処理温度が高いほど熱処理時間は短いことを、具体的に示すものである。
【0107】
SmFeN粉末中の磁性相は、Th2Zn17型及び/又はTh2Ni17型の結晶構造を有しており、基本的には安定である。しかし、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)の表面には、前述の結晶構造が僅かに乱れ、単独のFe(α-Fe相)が存在している場合がある。また、微粉粒子は、粒径が比較的大きい粒子が破砕した粒子が多い。そのため、微粉粒子では、その大部分で前述の結晶構造が乱れ、単独のFe(α-Fe相)が微粉粒子中で多く存在している場合がある。いずれの場合でも、単独のFe(α-Fe相)の存在量は限られており、熱処理時間y(時間)が40時間で、Fe-Zn合金相の形成が飽和する。経済性の観点から、熱処理時間y(時間)は、40時間以下、35時間以下、30時間以下、25時間以下、又は24時間以下であることが好ましい。
【0108】
焼結体の酸化を抑制するため、真空中又は不活性ガス雰囲気中で焼結体を熱処理することが好ましい、不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。焼結体の熱処理は、加圧焼結に用いた型内で行ってもよいが、熱処理中は焼結体に圧力を負荷しない。これにより、上述した熱処理条件を満足すれば、正常な磁性相が分解してα-Fe相を生成し、その生成の結果、FeとZnとが過剰に相互拡散することはない。
【0109】
これまで説明してきた本開示の製造方法で得られた希土類磁石について、以下に説明する。
【0110】
《希土類磁石》
本開示の希土類磁石は、Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がTh2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える。磁性相の組成等は、「《希土類磁石の製造方法》」で説明したとおりである。
【0111】
本開示の希土類磁石は、SmFeN粉末と金属亜鉛を含有する改質材粉末との混合粉末を用いて得られる。そのため、改質材粉末の金属亜鉛に由来する亜鉛成分を含有する。上述したように、SmFeN粉末の粒子の一部と、改質材粉末の金属亜鉛の一部とは、相互に拡散して、Fe-Zn合金相を形成する。このことから、本開示の希土類磁石では、金属亜鉛として存在する亜鉛と、Fe-Zn合金相の構成元素として存在する亜鉛が存在する。そのため、これらの亜鉛の合計を、本明細書では、特に断りのない限り、「亜鉛成分」という。「亜鉛成分」の含有割合(含有量)は、Zn(亜鉛元素)の含有割合(含有量)である。本開示の希土類磁石の亜鉛成分は、改質材粉末の金属亜鉛に由来する。そのため、亜鉛成分の含有割合の範囲が10~30質量%である理由は、「《希土類磁石の製造方法》」で説明したとおり、改質材粉末中の金属亜鉛の含有割合が、混合粉末に対して10~30質量であるのと同じである。
【0112】
本開示の希土類磁石は、混合粉末の磁場成形体を加圧焼結して得た焼結体を、さらに、所定の条件で熱処理して得られる。磁場成形体中で、SmFeN粉末の粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)の表面は、金属亜鉛と合金化した改質相(Fe-Zn相)で被覆され、結晶相粒子を形成している。また、SmFeN粉末の微粉粒子も、金属亜鉛と合金化して、Fe-Zn相を形成しており、微粉粒子に由来するFe-Zn相の多くは、粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)の表面を被覆している改質相と一体化している。このことから、微粉粒子に由来するFe-Zn相、すなわち、1.0μm以下の粒径を有する結晶粒子は非常に少ない。この観点から、1.0μm以下の粒径を有する結晶相粒子の割合は、結晶相粒子の全数に対して10.00%以下、9.08%以下、9.00%以下、又は8.95%以下である。結晶相粒子の全数とは、改質相で被覆された磁性相を備える結晶相粒子の数と、微粉粒子に由来するFe-Zn相を備える結晶相粒子の数の合計である。また、結晶相粒子は、光学顕微鏡観察で粒子として認識されればよく、一つの結晶相粒子中には、一つ以上の結晶相を含有する。結晶相は、磁性相及び/又はFe-Zn相である。このことから、結晶相粒子としては、SmFeN粉末の粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)に由来する、改質相(Fe-Zn相)で被覆されている結晶相粒子と、微粉粒子に由来するFe-Zn相で、改質相と一体化していない結晶相粒子とが存在する。すなわち、本開示の希土類磁石では、SmFeN粒子の磁性相と、改質材粉末の亜鉛成分とが、結晶相粒子を形成しており、SmFeN粉末の粒径が比較的大きい粒子(微粉粒子以外の粒子)に由来する、改質相(Fe-Zn相)で被覆されている結晶相粒子と、微粉粒子に由来するFe-Zn相で、改質相と一体化していない結晶相粒子とが存在する。
【0113】
結晶相粒子の粒径は、次のような方法で測定(調査)される。本明細書において、特に断りのない限り、結晶相粒子の粒径に関する記載は、次の測定方法(調査方法)に基づくものとする。
【0114】
熱処理後の焼結体の断面を研磨して、光学顕微鏡で観察する。
図5は、熱処理後の焼結体の断面の光学顕微鏡像を示す説明図である。
図5において、明視野が結晶相粒子である。
図5に示した光学顕微鏡像を画像解析し、結晶相粒子の長径について、度数分布かを求め、結晶相粒子の粒径を測定(調査)する。
【0115】
《変形》
これまで説明してきたこと以外でも、本開示の希土類磁石及びその製造方法は、特許請求の範囲に記載した内容の範囲内で種々の変形を加えることができる。
【0116】
例えば、SmFeN粉末中の微粉粒子の一部を、磁場成形前に、予め除去しておいてもよい。微粉粒子は完全に除去できないことが多く、微粉除去操作後に、SmFeN粉末に残留した微粉粒子を、本開示の製造方法で無害化することができる。微粉除去操作(微粉除去方法)に、特に制限はない。微粉除去操作(微粉除去方法)としては、サイクロン(登録商標)分級装置を用いる方法、ふるいを用いる方法、磁場を利用する方法、及び静電気を利用する方法等が挙げられる。これらの組合せであってもよい。
【実施例0117】
以下、本開示の希土類磁石及びその製造方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の希土類磁石及びその製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0118】
《試料の準備》
希土類磁石の試料を次の要領で準備した。
【0119】
〈実施例1〉
【0120】
純水2.0kgにFeSO4・7H2O 5.0kgを混合溶解した。さらにSm2O30.49kg、70%硫酸0.74kg、La2O30.035kgを加えてよく攪拌し、完全に溶解させた。次に、得られた溶液に純水を加え、最終的にFe濃度が0.726mol/L、Sm濃度が0.112mol/Lとなるように調整し、SmFeLa硫酸溶液とした。
【0121】
〈沈殿工程〉
温度が40℃に保たれた純水20kg中に、調製したSmFe硫酸溶液全量を反応開始から70分間で攪拌しながら滴下し、同時に15%アンモニア液を滴下させ、pHを7~8に調整した。これにより、SmFeLa水酸化物を含むスラリーを得た。得られたスラリーをデカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離した。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。
【0122】
〈酸化工程〉
沈殿工程で得られた水酸化物を大気中1000℃で1時間、焼成処理した。冷却後、原料粉末として赤色のSmFeLa酸化物を得た。
【0123】
〈前処理工程〉
SmFeLa酸化物100gを、嵩厚10mmとなるように鋼製容器に入れた。容器を炉内に入れ、100Paまで減圧した後、水素ガスを導入しながら、前処理温度の850℃まで昇温し、そのまま15時間保持した。非分散赤外吸収法(ND-IR)(株式会社堀場製作所製のEMGA-820)により酸素濃度を測定したところ、5質量%であった。これにより、Smと結合している酸素は還元されず、Feと結合している酸素のうち、95%が還元される黒色の部分酸化物を得たことがわかった。
【0124】
〈還元工程〉
前処理工程で得られた部分酸化物60gと平均粒子径約6mmの金属カルシウム19.2gとを混合して炉内に入れた。炉内を真空排気した後、アルゴンガス(Arガス)を導入した。1090℃の第一温度まで上昇させて、45分間保持し、その後、冷却してSmFe合金粒子を得た。
【0125】
〈窒化工程〉
引き続き、炉内温度を100℃まで冷却した後、真空排気を行い、窒素ガスを導入しながら、第一温度の430℃まで上昇させて、3時間保持した。続いて第二温度の500℃まで上昇させて1時間保持した後、冷却して磁性粒子を含む塊状生成物を得た。
【0126】
〈後処理工程〉
窒化工程で得られた塊状の生成物を純水3kgに投入し、30分間攪拌した。静置した後デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを10回繰り返した。次いで99.9%酢酸2.5gを投入して15分間攪拌する。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを2回繰り返した。
【0127】
〈酸処理工程〉
水洗工程で得られた粉末100質量部に対して、塩化水素として4.3質量部となるように、6%塩酸水溶液を添加して、1分間、撹拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを2回繰り返した。固液分離した後80℃で真空乾燥を3時間行い、Sm9.2Fe77.1N13.59La0.11を組成とするSmFeN粉末を得た。
【0128】
得られたSmFeN粉末を、パラフィンワックスと共に試料容器に詰め、ドライヤーにてパラフィンワックスを溶融させた後、16kA/mの配向磁場にてその磁化容易磁区を揃えた。この磁場配向した試料を32kA/mの着磁磁場でパルス着磁し、最大磁場16kA/mのVSM(振動試料型磁力計)を用いて、室温にて磁気特性を測定したところ、残留磁化1.44T、保磁力750kA/mであった。
【0129】
得られたSmFeN粉末の粒度分布を上述の方法で調査したところ、
図6に示すとおりであった。また、SmFeN粉末のD
50及び1.0μm以下の粒径を有する粒子の割合を表1に示す。なお、1.0μm以下の粒径を有する粒子の割合は、SmFeN粉末の全粒子数に対する割合(%)である。また、表1では、1.0μm以下の粒径を有する粒子の割合を、略して、「1.0μm以下の割合(%)」と記述した。
【0130】
改質材粉末として、金属亜鉛粉末を準備した。金属亜鉛粉末のD50は0.5μmであった。また、金属亜鉛粉末の純度は99.9質量%であった。
【0131】
SmFeN粉末と改質材粉末を混合して、混合粉末を得た。混合粉末全体に対する金属亜鉛の混合量は、表1に示すとおりであった。
【0132】
混合粉末を磁場中で圧縮成形し磁場成形体を得た。圧縮成形の圧力は50MPaであった。印加した磁場は1600kA/mであった。
【0133】
磁場成形体を表1に示した条件で加圧焼結し、焼結体を得た。そして、その焼結体を表1に示した条件で熱処理した。熱処理後の焼結体を実施例1の試料とした。
【0134】
〈実施例2~6及び比較例1~6〉
改質材粉末の配合量及び熱処理条件が表1に示すとおりであること以外、実施例1と同様に試料を準備した。
【0135】
《評価》
各試料(熱処理後の焼結体)について、磁気特性を測定し、磁性相の粒径分布を調査した。磁気特性は振動試料型磁力計(VSM)を用いて、室温で測定した。磁性相の粒径分布は上述した方法で調査した。
【0136】
評価結果を表1に示す。表1において、磁気特性の欄の「-1600kA/m時の磁化」は「外部磁場が-1600kA/m時の磁化」を意味し、熱処理後の焼結体の欄の「1.0μ以下の割合(%)」は「1.0μm以下の粒径を有する磁性相の割合(%)」を意味する。
【0137】
表1には、参考例1として、混合粉末の圧粉体の磁気特性を表1に併記した。表1に示したように、参考例1では、SmFeN粉末のD50、改質材粉末の配合量、及び磁場成形条件が実施例1と異なる。なお、表1に示したように、加圧焼結温度は23℃であるため、実際には焼結しておらず、また、熱処理も実施していないため、圧粉体のままである。すなわち、参考例1の圧粉体の磁気特性は、混合粉末の磁気特性と考えてよい。なお、磁気特性の「-1600kA/m時の磁化」が負の値であるのは、圧粉体は加熱されていないため、改質が全くされておらず、保磁力が小さいため、外部磁場が-1600kA/mのとき、磁化が負の値になるためである。
【0138】
また、
図6は、実施例1~6及び比較例1~6の試料の準備に用いたSmFeN粉末の粒度分布を示すグラフである。
図7は、実施例1の試料(熱処理後の焼結体)について、結晶相粒子の粒径分布を調査した結果を示すグラフである。
図8は、比較例1の試料(熱処理後の焼結体)について、結晶相粒子の粒径分布を調査した結果を示すグラフである。
図9は、改質材粉末の配合量が10質量%の試料について、温度と時間の関係を示すグラフである。
図10は、実施例6の試料の磁化-磁場曲線(M-H曲線)の一部を示すグラフである。
図11は、改質材粉末の配合量と外部磁場が-1600kA/m時の磁化との関係を示すグラフである。
図12は、改質材粉末の配合量と配向度の関係を示すグラフである。なお、
図6~
図8の「データ区間」において、「0」は「0μm超0.5μm以下」、「0.5」は「0.5μm超1.0μm以下」、及び「1」は「1.0μm超1.5μm以下」(以下、同様。)を意味する。
【0139】
【0140】
表1から、実施例1~6の試料はすべて、1.0μm以下の粒径を有する微小な結晶相の割合が低くなっており、配向度が高くなっていることを理解できる。また、表1及び
図12から、配向度の向上には、所定含有割合以上の金属亜鉛の配合が必要であることを理解できる。
【0141】
実施例1~6及び比較例1~6の試料の準備において、表1から、すべて同じSmFeN粉末を用いており、このSmFeN粉末は、表1及び
図6に示したように、比較的多くの微粉粒子(1.0μm以下の粒径を有する粒子)を含有する。しかし、表1及び
図7に示したように、実施例1~6では、微粉粒子に由来する、1.0μm以下の粒径を有する微小な結晶相の割合が低くなっていることを理解できる。これに対し、表1及び
図8に示したように、比較例1~5では、微粉粒子に由来する、1.0μm以下の粒径を有する微小な結晶相が多く残留していることを理解できる。
【0142】
表1及び
図11から、金属亜鉛の配合量が過剰である(比較例6)と、配向度は良好であるものの、外部磁場が-1600kA/mであるときの磁化が低下することを理解できる。このことから、改質材粉末の使用による磁化の低下を抑制するには、金属亜鉛の配合を所定割合以下にする必要があることを理解できる。
【0143】
表1及び
図9から、熱処理時の温度x及び時間yが、上述の式(1)及び(2)を満足すれば、微小な結晶相の存在が所定割合以下になり、改質材粉末の使用による磁化の低下を抑制しつつ、配向度が向上した希土類磁石が得られることを理解できる。
【0144】
表1及び
図10から、熱処理時の温度x(℃)が上限付近である(実施例6)と、クニックが発生し、減磁曲線(磁化-磁場曲線の第3象限)の外部磁場の絶対値が小さい領域で、磁化が局所的に低下する。表1及び
図9から、熱処理時の温度x(℃)が400℃以下であれば、本発明の効果を一層明瞭に享受できることを理解できる。
【0145】
以上の結果から、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を確認できた。