(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097037
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】熱伝導部材、放熱用筐体、熱伝導部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20220623BHJP
【FI】
H05K7/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210385
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】畠中 優介
(72)【発明者】
【氏名】川口 順二
【テーマコード(参考)】
5E322
【Fターム(参考)】
5E322AA03
(57)【要約】
【課題】本発明は、軽量、かつ熱伝導性に優れた電子機器用の金属筐体を提供することができ、熱伝導性および放熱性に優れた金属筐体を提供することを課題とする。
【解決手段】基板表面に複数の非貫通孔を有するアルミニウム板であり、比重が2.00以下であり、上記アルミニウム板の深さ方向への熱伝導率が100W/mK以上であり、上記アルミニウム板の平面方向の熱伝導率に対する上記深さ方向への熱拡散率との比が1.1倍超である、熱伝導部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に複数の非貫通孔を有するアルミニウム板であり、
比重が2.00以下であり、
前記アルミニウム板の深さ方向への熱伝導率が100W/mK以上であり、前記アルミニウム板の平面方向の熱伝導率に対する前記深さ方向への熱拡散率との比が1.1倍超である、熱伝導部材。
【請求項2】
開孔面の孔径平均が10μm以上600μm以下であり、表面孔密度が1個/mm2以上50個/mm2以下であって、空隙率が26%以上である、請求項1に記載の熱伝導部材。
【請求項3】
平均板厚が0.5mm以上5.0mm以下である、請求項1または2に記載の熱伝導部材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導部材を用いた放熱用筐体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導部材を製造する、熱伝導部材の製造方法であって、
アルミニウム基材の表面に水酸化アルミニウム皮膜を形成する皮膜形成工程と、
前記皮膜形成工程の後に孔形成処理を行う孔形成工程と、
前記水酸化アルミニウム皮膜を除去する皮膜除去工程と、
をこの順に有する、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スマートフォンやデジタルビデオカメラ等の電子機器用筐体として、特に筺体内の電子部品からの発熱を伝熱させるための金属筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォンやデジタルカメラ等の電子機器用放熱筐体としては軽量性かつ高強度の観点から、マグネシウム合金(AZ91D等)が使用される。本マグネシウム合金の熱伝導率は50~55W/mK程度と、金属の中では決して高い熱伝導率ではないが、比重が1.83程度と、軽金属種の中で最も軽量なため、使用されている。
【0003】
一方で、こうした電子機器のカメラモジュールは4K/8K化動画へ対応する高演算性のGPUが使用されており、従来よりも発熱量が増加している。そのため筐体の熱伝導率が不十分な場合には、カメラモジュールからの放熱が不十分となり、GPUのクロック数を下げることで対応せざるを得ず、動画の再生速度等が低下してしまう。そのため、マグネシウム合金のような低比重で、かつ少しでも熱伝導性の高い金属筐体が要求されている。
【0004】
こうした課題に対して、特許文献1等では、高熱伝導率のポテンシャルが高いアルミニウム(粉末)と未発泡前駆体とを混合加熱することで、軽量性に優れたアルミニウムが知られているが、空隙がランダムに形成されるため、発生する熱の伝熱性(放熱性)のロスとなってしまう。また、空隙同士が連結し、板の両面で貫通部が生じているため、電子機器の筐体としては密閉性に影響するため好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、軽量、かつ熱伝導性に優れた電子機器用の金属筐体を提供することができ、熱伝導性および放熱性に優れた金属筐体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段は、以下の態様を含む。
【0008】
<1> 基板表面に複数の非貫通孔を有するアルミニウム板であり、
比重が2.00以下であり、
上記アルミニウム板の深さ方向への熱伝導率が100W/mK以上であり、上記アルミニウム板の平面方向の熱伝導率に対する上記深さ方向への熱拡散率との比が1.1倍超である、熱伝導部材。
【0009】
<2> 開孔面の孔径平均が10μm以上600μm以下であり、表面孔密度が1個/mm2以上50個/mm2以下であって、空隙率が26%以上である、上記<1>に記載の熱伝導部材。
【0010】
<3> 平均板厚が0.5mm以上5.0mm以下である、上記<1>または<2>に記載の熱伝導部材。
【0011】
<4> 上記<1>~<3>のいずれか一つに記載の熱伝導部材を用いた放熱用筐体。
【0012】
<5> 上記<1>~<3>のいずれか一つに記載の熱伝導部材を製造する、熱伝導部材の製造方法であって、
アルミニウム基材の表面に水酸化アルミニウム皮膜を形成する皮膜形成工程と、
上記皮膜形成工程の後に孔形成処理を行う孔形成工程と、
水酸化アルミニウム皮膜を除去する皮膜除去工程と、
をこの順に有する、製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、軽量、かつ熱伝導性に優れた電子機器用の金属筐体を提供することができ、熱伝導性および放熱性に優れた金属筐体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<アルミニウム板>
本発明の熱伝導部材は、基板表面に複数の非貫通孔を有するアルミニウム板である。
熱伝導部材を構成するアルミニウム板は、基板表面に深さ方向に複数、かつ垂直方向に延びる非貫通孔が形成され、比重が2.00以下、深さ方向への熱伝導率が100W/mK以上の特性を有し、深さ方向に対する面方向の熱拡散率が1.1倍超であることを特徴とするアルミニウム板である。
【0015】
また、アルミニウム板は、開孔面の孔径平均が10μm以上600μm以下であり、表面孔密度が1個/mm2以上50個/mm2以下であり、かつ、空隙率が26%以上であることが好ましい。これらの条件を満たすことで、深さ方向への熱伝導性、面方向への熱拡散性、および軽量性(低比重)に優れたアルミニウム板を提供できる。
【0016】
開孔面の平均孔径、および平均孔密度は、アルミニウム板の開孔面から、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてアルミニウム板の表面を倍率200倍で撮影し、得られたSEM写真において、周囲が環状に連なっている貫通孔を少なくとも20個抽出し、その開孔径を読み取って、これらの平均値を平均開孔径として算出する。なお、開孔径は、孔部分の端部間の距離の最大値を測定した。すなわち、孔の形状は略円形状に限定はされないので、開孔部の形状が非円形状の場合には、孔部分の端部間の距離の最大値を開口径とする。従って、例えば、2つ以上の孔が一体化したような形状の孔の場合にも、これを1つの孔とみなし、孔部分の端部間の距離の最大値を開孔径とする。また、平均孔密度は、SEM写真中における20mm×20mmの視野にある孔数を読み取り、単位面積当たりの個数として算出する。
【0017】
平均孔径は、熱伝導性およびアルミニウム板の強度の観点から、10μ以上600μm以下が好ましく、30μm以上550μm以下がより好ましく、50μm以上500μm以下が特に好ましい。
【0018】
平均孔密度は、製造コストおよびアルミニウム強度の観点から、1個/mm2以上50個/mm2以下が好ましく、3個/mm2以上40個/mm2以下がより好ましく、5個/mm2以上30個/mm2以下が特に好ましい。
【0019】
なお、本発明のアルミニウム板の深さ方向への孔形状は、アルミニウム板の破断面を、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率500倍で撮影し確認することができる。孔形状が深さ方向に対してランダムに形成されている場合は、深さ方向への熱伝導性の観点から好ましくない。
【0020】
また、比重については、アルキメデス法による市販の比重測定装置を使用することができ、例えば、A&D社の比重測定キットAD-1653等を用いて測定する。
【0021】
比重は、軽量性の観点から、2.00以下が好ましく、1.90以下がより好ましく、1.85以下が特に好ましい。比重の下限は特に限定されないが、本発明の製造方法では、熱伝導率の観点から、比重を1.50以上とすることが好ましい。
【0022】
なお、比重を算出することで、下記式により空隙率を算出する。アルミニウムの基本比重値は、その合金成分により異なるため、軽金属協会編の「アルミニウム技術便覧」等の値を使用する。
【0023】
(式1) 空隙率(%)= 比重 ÷ アルミニウム基本比重
【0024】
また、本発明のアルミニウム板の厚みは、その切削加工性や強度、軽量性の観点から、0.5mm以上5.0mm以下が好ましく、0.8mm以上4.0mm以下がより好ましく、1.0mm以上3.0mm以下が特に好ましい。正確な厚みの測定には、テクロック社のJIS K 6250準拠「低圧厚さ測定器」等を用いる。
【0025】
先述した孔形状を有するアルミニウム板を作製することにより、深さ方向への熱伝導率が100W/mK以上の特性を有し、深さ方向に対する面方向の熱拡散率が1.1倍超となるアルミニウム板を提供することができる。
【0026】
深さ方向の熱伝導率は、例えばレーザーフラッシュ法(京都電子工業社の熱伝導率測定装置LFA-502)や、温度波伝搬位相差法(日立ハイテクノロジー社のai-Phase Mobile M3)等で熱拡散率を測定し、下記式で計測算出する。なお、アルミニウムの密度や比熱容量は、その合金成分により異なるため、軽金属協会編の「アルミニウム技術便覧」等の値を使用する。
【0027】
(式2) 熱伝導率(W/mK) = 熱拡散率(m2/s) × 密度(kg/m3) × 比熱容量(J/kgK)
【0028】
また面方向の熱拡散率は、例えばスキャニングレーザ加熱AC法等の手法により直接計測でき、アルバック社のLaserPIT-R等で測定でき、先述の深さ方向の熱拡散率との比率を算出できる。
【0029】
面方向に対する深さ方向の熱拡散率は、スマートフォンやデジタルビデオカメラ等の筐体としての放熱特性の観点から、1.1倍超が好ましく、1.3倍超がより好ましく、2.0倍超が好ましい。深さ方向に対する面方向の熱拡散率の比率の上限は特に限定されないが、GPUの熱を筐体面方向へ発散させる観点から5.0以下とすることが好ましい。
【0030】
<アルミニウム基材>
本発明に使用する上記アルミニウム基材は、特に限定はされず、例えば、JIS規格H4000に記載されている公知のアルミニウム基材を用いることができ、強度に優れたA6000系アルミニウム、熱伝導性の高いA1000系アルミニウム等、電子デバイスの特性や筐体の設計等により適宜使い分けて使用することができる。
【0031】
<アルミニウム板の製造方法>
次に、本発明のアルミニウム板の製造方法について説明する。本発明のアルミニウム板の製造方法は、厚み方向に複数の非貫通孔を有するアルミニウム板の製造方法であって、アルミニウム基材の表面に水酸化アルミニウムを主成分とする水酸化アルミニウム皮膜を形成する皮膜形成工程と、皮膜形成工程の後に、深さ方向への孔形成処理を行う孔形成工程と、孔形成工程の後に、水酸化アルミニウム皮膜を除去する皮膜除去工程とを有するアルミニウム板の製造方法である。
【0032】
孔形成するための電解溶解処理においては、まず孔形成の起点となりうる凹みを有するアルミニウムよりも電気抵抗率が大きい被膜を、開口面に設ける方法が好ましい。電気抵抗率が大きい被膜としては、処理簡易性の観点から水酸化アルミニウム皮膜を用いることが好ましい。水酸化アルミニウム被膜は、アルミニウム基材に比べて抵抗率が大きい。そのため、電解溶解処理によってアルミニウム基材に形成される孔は、水酸化アルミニウム皮膜に接している領域よりも、内側の領域でより電流が拡散されて、内部で最大径となる形状に形成される。
【0033】
ここで、水酸化アルミニウム皮膜には小さな孔ができやすいため、孔形成工程で、アルミニウム基材を貫通しない非貫通の穴が生じやすい。すなわち、上述の0.1μm~10μmの凹部(孔形成の起点)を容易に形成することができる。
【0034】
<皮膜形成工程>
本発明において、アルミニウム板の製造方法が有する皮膜形成工程は、アルミニウム基材の表面に皮膜形成処理を施し、水酸化アルミニウム皮膜を形成する工程である。
【0035】
(皮膜形成処理)
上記皮膜形成処理は特に限定されず、例えば、従来公知の水酸化アルミニウム皮膜の形成処理と同様の処理を施すことができる。皮膜形成処理としては、例えば、特開2011-201123号公報の[0013]~[0026]段落に記載された条件や装置を適宜採用することができる。
【0036】
本発明においては、皮膜形成処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1~80質量%、液温5~70℃、電流密度0.5~60A/dm2、電圧1~100V、電解時間1秒~20分であるのが適当であり、所望の皮膜量となるように調整される。
【0037】
本発明においては、電解液として、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、シュウ酸、あるいは、これらの酸の2以上の混酸を用いて電気化学的処理を行うのが好ましい。硝酸、塩酸を含む電解液中で電気化学的処理を行う場合には、アルミニウム基材と対極との間に直流を印加してもよく、交流を印加してもよい。アルミニウム基材に直流を印加する場合においては、電流密度は、1~60A/dm2であるのが好ましく、5~50A/dm2であるのがより好ましい。連続的に電気化学的処理を行う場合には、アルミニウム基材に、電解液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。
【0038】
本発明においては、皮膜形成処理により形成される水酸化アルミニウム皮膜の量は0.05~50g/m2であるのが好ましく、0.1~10g/m2であるのがより好ましい。
【0039】
<孔形成工程>
孔形成工程は、皮膜形成工程の後に電解溶解処理を施し、非貫通孔を形成する工程である。
【0040】
(電解溶解処理)
上記電解溶解処理は特に限定されず、直流または交流を用い、酸性溶液を電解液に用いることができる。中でも、硝酸、塩酸の少なくとも1以上の酸を用いて電気化学処理を行うのが好ましく、これらの酸に加えて硫酸、燐酸、シュウ酸の少なくとも1以上の混酸を用いて電気化学的処理を行うのが更に好ましい。
【0041】
本発明においては、電解液である酸性溶液としては、上記酸のほかに、米国特許第4,671,859号、同第4,661,219号、同第4,618,405号、同第4,600,482号、同第4,566,960号、同第4,566,958号、同第4,566,959号、同第4,416,972号、同第4,374,710号、同第4,336,113号、同第4,184,932号の各明細書等に記載されている電解液を用いることもできる。
【0042】
酸性溶液の濃度は0.1~2.5質量%であるのが好ましく、0.2~2.0質量%であるのが特に好ましい。また、酸性溶液の液温は20~80℃であるのが好ましく、30~60℃であるのがより好ましい。
【0043】
また、上記酸を主体とする水溶液は、濃度1~100g/Lの酸の水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物または塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸化合物、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の硫酸イオンを有する硫酸化合物少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。また、上記酸を主体とする水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、酸の濃度0.1~2質量%の水溶液にアルミニウムイオンが1~100g/Lとなるように、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等を添加した液を用いることが好ましい。
【0044】
電気化学的溶解処理には、主に直流電流が用いられるが、交流電流を使用する場合にはその交流電源波は特に限定されず、サイン波、矩形波、台形波、三角波等が用いられ、中でも、矩形波または台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。
【0045】
(硝酸電解)
本発明においては、硝酸を主体とする電解液を用いた電気化学的溶解処理(以下、「硝酸溶解処理」とも略す。)により、容易に、孔径平均が10μm以上600μm以下であり、表面孔密度が1個/mm2以上50個/mm2以下であって、空隙率が26%以上となる非貫通孔を形成することができる。ここで、硝酸溶解処理は、貫通孔形成の溶解ポイントを制御しやすい理由から、直流電流を用い、平均電流密度を5A/dm2以上とし、かつ、電気量を50C/dm2以上とする条件で施す電解処理であるであるのが好ましい。なお、平均電流密度は100A/dm2以下であるのが好ましく、電気量は400000C/dm2以下であるのが好ましい。また、硝酸電解における電解液の濃度や温度は特に限定されず、高濃度、例えば、硝酸濃度15~35質量%の硝酸電解液を用いて30~60℃で電解を行ったり、硝酸濃度0.7~2質量%の硝酸電解液を用いて高温、例えば、80℃以上で電解を行うことができる。また、上記硝酸電解液に濃度0.1~50質量%の硫酸、シュウ酸、燐酸の少なくとも1つを混ぜた電解液を用いて電解を行うことができる。
【0046】
(塩酸電解)
本発明においては、塩酸を主体とする電解液を用いた電気化学的溶解処理(以下、「塩酸溶解処理」とも略す。)によっても、容易に、孔径平均が10μm以上600μm以下であり、表面孔密度が1個/mm2以上50個/mm2以下であって、空隙率が26%以上となる非貫通孔を形成することができる。
ここで、塩酸溶解処理は、貫通孔形成の溶解ポイントを制御しやすい理由から、直流電流を用い、平均電流密度を5A/dm2以上とし、かつ、電気量を50C/dm2以上とする条件で施す電解処理であるであるのが好ましい。なお、平均電流密度は100A/dm2以下であるのが好ましく、電気量は400000C/dm2以下であるのが好ましい。また、塩酸電解における電解液の濃度や温度は特に限定されず、高濃度、例えば、塩酸濃度10~35質量%の塩酸電解液を用いて30~60℃で電解を行ったり、塩酸濃度0.7~2質量%の塩酸電解液を用いて高温、例えば、80℃以上で電解を行うことができる。また、上記塩酸電解液に濃度0.1~50質量%の硫酸、シュウ酸、燐酸の少なくとも1つを混ぜた電解液を用いて電解を行うことができる。
【0047】
<皮膜膜除去工程>
皮膜除去工程は、化学的溶解処理を行って水酸化アルミニウム皮膜を除去する工程である。上記皮膜除去工程は、例えば、後述する酸エッチング処理やアルカリエッチング処理を施すことにより水酸化アルミニウム皮膜を除去することができる。
【0048】
(酸エッチング処理)
上記溶解処理は、アルミニウムよりも水酸化アルミニウムを優先的に溶解させる溶液(以下、「水酸化アルミニウム溶解液」という。)を用いて水酸化アルミニウム皮膜を溶解させる処理である。
【0049】
ここで、水酸化アルミニウム溶解液としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、シュウ酸、クロム化合物、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、リチウム塩、セリウム塩、マグネシウム塩、ケイフッ化ナトリウム、フッ化亜鉛、マンガン化合物、モリブデン化合物、マグネシウム化合物、バリウム化合物およびハロゲン単体からなる群から選択される少なくとも1種を含有した水溶液が好ましい。
【0050】
具体的には、クロム化合物としては、例えば、酸化クロム(III)、無水クロム(VI)酸等が挙げられる。ジルコニウム系化合物としては、例えば、フッ化ジルコンアンモニウム、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウムが挙げられる。チタン化合物としては、例えば、酸化チタン、硫化チタンが挙げられる。リチウム塩としては、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウムが挙げられる。セリウム塩としては、例えば、フッ化セリウム、塩化セリウムが挙げられる。マグネシウム塩としては、例えば、硫化マグネシウムが挙げられる。マンガン化合物としては、例えば、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カルシウムが挙げられる。モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン酸ナトリウムが挙げられる。マグネシウム化合物としては、例えば、フッ化マグネシウム・五水和物が挙げられる。バリウム化合物としては、例えば、酸化バリウム、酢酸バリウム、炭酸バリウム、塩素酸バリウム、塩化バリウム、フッ化バリウム、ヨウ化バリウム、乳酸バリウム、シュウ酸バリウム、過塩素酸バリウム、セレン酸バリウム、亜セレン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、亜硫酸バリウム、チタン酸バリウム、水酸化バリウム、硝酸バリウム、あるいはこれらの水和物等が挙げられる。上記バリウム化合物の中でも、酸化バリウム、酢酸バリウム、炭酸バリウムが好ましく、酸化バリウムが特に好ましい。ハロゲン単体としては、例えば、塩素、フッ素、臭素が挙げられる。
【0051】
中でも、上記水酸化アルミニウム溶解液が、酸を含有する水溶液であるのが好ましく、酸として、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、シュウ酸等が挙げられ、2種以上の酸の混合物であってもよい。酸濃度としては、0.01mol/L以上であるのが好ましく、0.05mol/L以上であるのがより好ましく、0.1mol/L以上であるのが更に好ましい。上限は特にないが、一般的には10mol/L以下であるのが好ましく、5mol/L以下であるのがより好ましい。
【0052】
溶解処理は、水酸化アルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム基材を上述した溶解液に接触させることにより行う。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。
【0053】
浸せき法は、水酸化アルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム基材を上述した溶解液に浸せきさせる処理である。浸せき処理の際にかくはんを行うと、ムラのない処理が行われるため、好ましい。浸せき処理の時間は、10分以上であるのが好ましく、1時間以上であるのがより好ましく、3時間以上であるのが更に好ましく、5時間以上であるのが特に好ましい。
【0054】
(アルカリエッチング処理)
アルカリエッチング処理は、上記水酸化アルミニウム皮膜をアルカリ溶液に接触させることにより、表層を溶解させる処理である。
【0055】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム(カセイソーダ)、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、メタケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点および安価である点から、カセイアルカリの溶液、および、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。
【0056】
アルカリ溶液の濃度は、0.1~50質量%であるのが好ましく、0.2~10質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液中にアルミニウムイオンが溶解している場合には、アルミニウムイオンの濃度は、0.01~10質量%であるのが好ましく、0.1~3質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液の温度は10~90℃であるのが好ましい。処理時間は1~120秒であるのが好ましい。
【0057】
水酸化アルミニウム皮膜をアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、水酸化アルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム基材をアルカリ溶液を入れた槽の中を通過させる方法、水酸化アルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム基材をアルカリ溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、アルカリ溶液を水酸化アルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム基材の表面(水酸化アルミニウム皮膜)に噴きかける方法が挙げられる。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
厚さ1.0mm、幅200mm、長さ150mmのアルミニウム基材(A6061)に、以下に示す処理を施し、アルミニウム基材を作製した。
【0060】
(皮膜膜形成工程)
上記アルミニウム基材に硝酸濃度13.5g/Lで、硫酸アルミニウム濃度4.5g/Lの溶液を用い、アルミニウム基材を陽極として、52℃の条件下で、直流電流密度15A/dm2を25秒間印加して、上記アルミニウム基材の片側の表面(片面)に水酸化アルミニウム膜(皮膜量:2.4g/m2)を形成した。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0061】
(孔形成工程)
次いで、52℃に保温した電解液(硝酸濃度:13.5g/L、硫酸アルミニウム濃度4.5g/L)を用いて、アルミニウム基材を陽極として、電気量総和が75000C/dm2の条件下で電解処理を施し、アルミニウム基材の酸化膜面から深さ方向へ孔を形成させた。なお、電解処理は、直流電源で行った。電流密度は、2.6A/dm2とした。その後、スプレーによる水洗を行い、乾燥させることにより、孔を有するアルミニウム基材を有するアルミニウム板を作製した。
【0062】
(皮膜除去工程)
次いで、電解溶解処理後のアルミニウム基材を、水酸化ナトリウム:50.0g/L、水酸化アルミニウム5.0g/Lの水溶液(液温:35℃)中に3秒間浸漬させることにより、水酸化アルミニウム膜を溶解し、除去した。その後、スプレーによる水洗を行い、乾燥させることにより、非貫通孔を有する実施例1のアルミニウム板を作製した。詳細を表1に示す。また、非貫通孔構造の確認については、卓上型のシャウカステンにアルミニウム板を載せて、光学的に非貫通構造であることを確認した。
【0063】
<実施例2~10、比較例1~5>
表1に記載の内容に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2~10、比較例1~5のアルミニウム板、またはマグネシウム板を作製した。詳細を表1に示す。
【0064】
〔開口面の孔径平均、孔密度の測定〕
作製した実施例1~10および比較例1~5のアルミニウム板またはマグネシウム板について、表面20mm×20mmの視野を、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)の倍率200倍で孔径を撮影測定し平均値と孔数を算出した。本平均値を孔径平均[μm]、面積当たりの孔数を孔密度[個/cm2]とした。結果を表1に示す。
【0065】
〔比重の測定〕
作製した実施例1~10および比較例1~5のアルミニウム板またはマグネシウム板について、A&D社の比重測定キットAD-1653を使用し、アルキメデス法で測定した。結果を表2に示す。
【0066】
〔深さ方向の熱伝導率〕
作製した実施例1~10および比較例1~5のアルミニウム板またはマグネシウム板について、京都電子工業社の熱伝導率測定装置LFA-502を使用し、レーザーフラッシュ法で測定した。結果を表2に示す。
【0067】
〔面方向に対する深さ方向の熱拡散率〕
作製した実施例1~10および比較例1~5のアルミニウム板またはマグネシウム板について、京都電子工業社の熱伝導率測定装置LFA-502を使用し、レーザーフラッシュ法で深さ方向の熱拡散率を測定した。また、面方向の熱拡散率は、アルバック社のLaserPIT-Rを使用し、スキャニングレーザ加熱AC法で別途測定し、面方向に対する深さ方向の熱拡散率の比率を算出した。結果を表2に示す。
【0068】
〔孔形成処理後の板厚〕
作製した実施例1~10および比較例1~5のアルミニウム板またはマグネシウム板について、テクロック社のJISK6250準拠低圧厚さ測定器を使用し、測定した。結果を表2に示す。
【0069】
〔引張強度〕
作製した実施例1~10および比較例1~5のアルミニウム板またはマグネシウム板について、JIS Z2201「金属材料引張試験片」の規定に基づいて測定資料を作成した。その後、島津製作所社の金属引張試験AG-Xplusを用いて、2mm/min条件で、弾性率(250-500N)[GPa]、最大点応力[N/mm2]、および0.2%耐力点応力[N/mm2]を測定した。結果を表2に示す。
【0070】
上記の実施例1~10および比較例1~5のアルミニウム板またはマグネシウム板を用いて、特開2016-206364号公報記載の「放熱構造体(400)」として使用し、軽量感(比重)、動作クロック性(熱伝導性)、埃等の外部汚染からのシャットアウト性(非貫通孔)を確認したところ、比較例1~5に対し実施例1~10は良好な結果を得た。
【0071】
【0072】