IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本水産株式会社の特許一覧 ▶ 共立製薬株式会社の特許一覧

特開2022-97756スズキ目魚類の寄生虫駆除剤及び駆除方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097756
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】スズキ目魚類の寄生虫駆除剤及び駆除方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4184 20060101AFI20220623BHJP
   A61P 33/14 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61P33/14
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080256
(22)【出願日】2022-05-16
(62)【分割の表示】P 2021131549の分割
【原出願日】2018-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591047970
【氏名又は名称】共立製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】平澤 徳高
(72)【発明者】
【氏名】秋山 孝介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 良子
(72)【発明者】
【氏名】局 詩織
(57)【要約】
【課題】扁形動物門多後吸盤類ヘテラキシネ科ヘテロセルカの経口投与薬剤による駆除方法を提供する。
【解決手段】ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する魚類に寄生した扁形動物門単生綱多後吸盤類ヘテラキシネ・ヘテロセルカの駆除剤である。ベンゾイミダゾール系化合物は、アルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、フルベンダゾール、オキシベンダゾール、トリクラベンダゾール、リコベンダゾール及びチアベンダゾールから選択される1種又は2種以上の化合物が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する魚類に寄生した扁形動物門単生綱多後吸盤類ヘテラキシネ・ヘテロセルカの駆除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類(特に、養殖魚)の寄生虫の駆除剤及び寄生虫駆除方法に関する。詳細には、ブリ類に寄生する単生類であるヘテラキシネ・ヘテロセルカの寄生を経口投与により駆除する薬剤及び駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類養殖において寄生虫症は安定した生産の妨げとなるために、非常に大きな問題となっている。寄生虫症の中でもとりわけ扁形動物門単生綱に属する単生虫は多くの養殖魚で発生し最も大きな問題の一つとされる感染症である。単生虫では一般的にハダムシと呼ばれているものとエラムシと呼ばれているものがある。
ブリ類に寄生するエラムシと呼ばれている単生虫の1つが、扁形動物門単生綱多後吸盤類ヘテラキシネ科ヘテロセルカ(Heteraxine heterocerca)である。現場での症状としては、鰓の退色、魚の貧血、肥満度の低下などが挙げられる。また、生簀網に体をこすりつけるような異常遊泳が頻繁に見られる場合もある。生簀網などに体をこすりつけることから体表のスレ部位から病原菌の感染機会が増えるため、被害が拡大することもある。本虫の寄生が確認された場合は、過酸化水素水浴を行うことによって駆虫できる。しかし、魚の移し変え等処理に要する労力及び魚に与えるストレスが大きいため、経口投与できる薬剤による治療が強く望まれている。
【0003】
単生虫に対する経口投与用駆虫剤は、一般名プラジカンテル(特許文献1)がブリ類の体表に寄生するベネデニア・セリオレ(Benedenia seriolae)の駆除剤として、一般名フェバンテル(ベンズイミダゾール化合物)(特許文献2)がフグ目魚類の鰓に寄生するヘテロボツリウム・オカモトイの駆除薬として、販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-92309号
【特許文献2】WO02/005649
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブリ類に寄生するエラムシである、扁形動物門多後吸盤類ヘテラキシネ科ヘテロセルカの経口投与薬剤による駆除方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
経口投与時にブリ類の食欲を低下させることなくブリ類の養殖において重要な問題となっているヘテラキシネ・ヘテロセルカ駆虫に有効な経口投与薬剤を求めて、既存の動物用各種抗寄生虫薬や天然物由来物質等を探索した。その結果、動物用抗寄生虫薬として販売されているアルベンダゾールがブリの食欲を低下させることなく経口投与でき且つ駆虫効果が認められることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本願発明は、下記の(1)~(7)の扁形動物門単生綱多後吸盤類ヘテラキシネ・ヘテロセルカの駆除剤を要旨とする。
【0008】
(1)ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する魚類に寄生した扁形動物門単生綱多後吸盤類ヘテラキシネ・ヘテロセルカの駆除剤。
(2)ベンゾイミダゾール系化合物がアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾ
ール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、フルベンダゾール、オキシベンダゾール、トリクラベンダゾール、リコベンダゾール及びチアベンダゾールから選択される1種又は2種以上の化合物である(1)の駆除剤。
(3)魚類がスズキ目魚類である(1)又は(2)の駆除剤。
(4)スズキ目魚類がブリ類の魚類である(3)の駆除剤。
(5)ブリ類の魚類が、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、Seriola zonataである(4)の駆除剤。
(6)ベンゾイミダゾール系化合物が10~600mg/kg/日の投与量で投与される(1)ないし(5)のいずれかに記載の駆除剤。
(7)投与期間が3日以上である(1)ないし(6)のいずれかに記載の駆除剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ブリ類に寄生するヘテラキシネ・ヘテロセルカを経口投与で駆除することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の対照となる、扁形動物門多後吸盤類ヘテラキシネ科ヘテロセルカ(Heteraxine
heterocerca)は、ブリ類などの鰓に寄生することから、エラムシとも呼ばれている。
本発明の対象となる海産魚類は、ヘテラキシネ科ヘテロセルカが寄生する魚類である。そのような海産魚類としては、スズキ目に属する魚類が挙げられ、例えば、スズキ目アジ科ブリ属に属する魚類である。
ブリ属に属する魚種としては、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriolacarpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、Seriola zonataが例示される。好ましい態様において、本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は、特に多く養殖されているブリ、カンパチ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチなどに用いられる。
【0011】
本発明の寄生虫駆除剤の有効成分は、ベンゾイミダゾール系化合物に分類される化合物である。ベンゾイミダゾール系化合物とは、ベンゾイミダゾールを基本骨格として有する化合物であって、寄生虫駆除剤や殺菌剤として機能することが知られている。アルベンダゾール(Albendazole;methyl N-(5-propylsulfanyl-1H-benzimidazol-2-yl)carbamate)、フェバンテル(Febantel;methyl (NE)-N-[[2-[(2-methoxyacetyl)amino]-4-phenylsulfanylanilino]-(methoxycarbonylamino)methylidene]carbamate)、フェンベンダゾール
(Fenbendazole;methyl N-(5-phenylsulfanyl-1H-benzimidazol-2-yl)carbamate)、オ
クスフェンダゾール(Oxfendazole;methyl N-[5-(benzenesulfinyl)-1H-benzimidazol-2-yl]carbamate)、メベンダゾール(Mebendazole;methyl [5-(Benzoyl)benzimidazol-2-yl]carbamate)、フルベンダゾール(Flubendazole;methylN-[5-(4-fluorobenzoyl)-1H-benzimidazol-2-yl]carbamate)、オキシベンダゾール、トリクラベンダゾール、リコベ
ンダゾール、又はチアベンダゾールなどが挙げられ、これらの化合物の中から1種又は2種以上を適宜組合わせて用いることができる。フェバンテルはプロドラッグであることが知られており、その活性成分は、フェンベンダゾール及びオクスフェンダゾールである。
好ましい態様において、本発明の寄生虫駆除剤は、アルベンダゾールを有効成分とする。
【0012】
本発明の寄生虫駆除剤は経口投与で効果を発現することができる。また、薬剤を溶解した液に魚を漬ける薬浴による投与や注射による投与も可能である。
本発明の寄生虫駆除剤の投与量は、例えば、いずれの魚においても1日当たり魚体重1
kgに対してベンゾイミダゾール系化合物が10mg~600mgの投与量(以下「10~600mg/kg/日」として記載する。)であり、好ましくは10~120mg/kg/日、20~100mg/kg/日の範囲で経口投与する。投与期間は1~20日間、好ましくは3~10日間とする。
【0013】
本発明の寄生虫駆除剤は、有効成分である前記化合物を単独で用いる他、必要に応じて他の物質、例えば担体、安定剤、溶媒、賦形剤、希釈剤などの補助的成分と組み合わせて用いることができる。また、形態も粉末、顆粒、錠剤、カプセルなど、通常これらの化合物に使用されている形態のいずれでもよい。化合物の味や臭いに敏感な魚の場合は、コーティングなどの方法により、飼料の嗜好性の低下を防止し、化合物が漏出しにくくすることができる。
【0014】
魚類の場合、経口投与の薬剤は飼料に添加して用いるのが通常である。本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤を飼料に添加する場合、それぞれの魚種用に必要とする栄養成分や物性が考慮された飼料を用いるのが好ましい。通常、魚粉、糟糠類、でんぷん、ミネラル、ビタミン、魚油などを混合してペレット状にしたもの、もしくは、イワシなどの冷凍魚と魚粉にビタミンなどを添加した粉末飼料(マッシュ)とを混合してペレット状にしたものなどが使用されている。魚の種類、サイズによって、1日の摂餌量はほぼ決まっているので、上記の用法用量となるよう換算した量の本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤を飼料に添加する。本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は1日量を1回で投与しても、数回に分けて投与してもかまわない。本発明の治療剤は、魚の飼料に添加して用いるため、魚が1日当たりに摂取する飼料に適切な濃度を添加するのに適した製剤とするのが好ましい。具体的には、製剤中に有効成分が1~50重量%、好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは10~20重量%含有するように製剤化して用いるのが好ましい。
【0015】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例0016】
<アルベンダゾール投与のブリの摂餌性に及ぼす影響>
ブリを120リットル水槽に収容した。砂ろ過・紫外線殺菌海水を2.4リットル/分の条件で各水槽に注水した。アルベンダゾール投与の前日に魚体重を測定した。馴致後に各魚種および各区ともに5日間連続で試験飼料を給餌した。アルベンダゾールの投与は1日1回と
した。アルベンダゾール添加飼料の調製は、ポリエチレン袋に所定量の市販飼料およびアルベンダゾールを入れ、そこに2倍希釈した展着剤エスイー30(物産フードサイエンス株
式会社製)を飼料重量の4%量加え撹拌することで行った。対照区の飼料の調製は、希釈
したエスイー30のみを飼料重量の4%量加え撹拌することで行った。給餌量は、魚体重の2%とした。アルベンダゾールの摂餌に及ぼす影響評価は、摂餌状況を観察することで行った。水温、試験開始時の供試魚体重、供試尾数、アルベンダゾール投与量および結果を表1に示した。
【0017】
結果と考察
アルベンダゾール600mg/kg・5日間投与は摂餌性へ影響を及ぼさなかった。同様の試験を別の魚種について行ったところ、トラフグでは80mg/kg魚体重・5日間投与で、海産ト
ラウトやギンザケで10mg/kg・5日間投与で摂餌性に悪影響があった。アルベンダゾール
投与の摂餌に及ぼす影響は、魚種によって異なり、ブリでは600mg/kg魚体重と多い投与
量でも投与期間中に食欲を低下させないことが判明した。
【0018】
【表1】
【実施例0019】
<アルベンダゾールのヘテラキシネ・ヘテロセルカに対する駆虫効果>
平均体重23gのブリ稚魚45尾を200リットル水槽に収容した。その後、6回ヘテラキシネ
・ヘテロセルカ孵化幼生を水槽に投入し、本虫感染魚を作出した。最初の攻撃から31日後に、体重を測定しつつ各9尾で5群に分け、各群を別々の100リットル水槽に収容した。翌
日からアルベンダゾールの経口投与を5日間実施した。試験区を表2に示す。水槽への注水は実施例1と同じ条件で行った。試験期間中の水温は、25℃とした。
経口投与処理を完了した3日後に、全魚を取り上げ、ヘテラキシネ・ヘテロセルカを計
数した。また、本虫の計数は、体長1mm以上と1mm未満に分けて行い、1mm未満の本虫は本
試験で初期に感染した本虫が成虫となり、産卵して孵化した次世代が感染したものと判断した。評価は、対照区とアルベンダゾール経口投与区の本虫寄生数を比較することで行った。
【0020】
【表2】
【0021】
結果と考察
結果を表3に示した。アルベンダゾール20mg/kg魚体重・3日間および5日間投与区の1mm以上のヘテラキシネ・ヘテロセルカ寄生数は、対照区と比較して有意に少なかった。1mm未満の本虫寄生も対照と比較して少ない傾向を示した。80mg/kg魚体重・5日間の投与区
においては、寄生していた本虫をほぼ100%駆虫した。従って、アルベンダゾールはヘテ
ラキシネ・ヘテロセルカに対して経口で駆虫効果を発揮することが明らかとなった。
アルベンダゾールは、ブリの食欲を低下させず投薬が確実に実施できるため、本虫の駆虫を確実に実施できる。本発明は、産業上有益であると考える。
【0022】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0023】
養殖魚に寄生する寄生虫ヘテラキシネ・ヘテロセルカの経口投与で有効な駆除剤を提供することができる。