(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097951
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】麺類用組成物、及び麺類
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20220624BHJP
【FI】
A23L7/109 Z
A23L7/109 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211220
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 誠也
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA02
4B046LA05
4B046LA09
4B046LC17
4B046LC20
4B046LG26
4B046LG28
4B046LG29
4B046LG30
4B046LG36
4B046LP03
4B046LP31
4B046LQ10
(57)【要約】
【課題】雑穀を含む穀物の粉砕物を含み、粒感等の外観上の特徴を有し、風味が良好な麺類を、良好な製麺性で製造可能な麺類用組成物、及びそれを用いる麺類を提供する。
【解決手段】麺類の製造に用いる麺類用組成物であって、大豆粉砕物及び大麦粉砕物を含む3種以上の穀物粉砕物からなり、粒径255μm以上の粒子を3質量%以上含み、且つ中位径が70μm未満であることを特徴とする麺類用組成物、並びに原料粉に本発明の麺類用組成物を含む麺類であって、前記原料粉中の前記麺類用組成物の含有率が2質量%以上である麺類。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺類の製造に用いる麺類用組成物であって、
大豆粉砕物及び大麦粉砕物を含む3種以上の穀物粉砕物からなり、
粒径255μm以上の粒子を3質量%以上含み、且つ中位径が70μm未満であることを特徴とする麺類用組成物。
【請求項2】
前記粒径255μm以上の粒子の含有率が3.5~20質量%である請求項1に記載の麺類用組成物。
【請求項3】
前記大豆粉砕物の含有率が5質量%以上である請求項1又は2に記載の麺類用組成物。
【請求項4】
前記大麦粉砕物の含有率が5質量%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の麺類用組成物。
【請求項5】
前記穀物粉砕物及び/又は前記穀物粉砕物の原料穀物の少なくとも1種が焙煎処理されている請求項1~4のいずれか1項に記載の麺類用組成物。
【請求項6】
前記大豆粉砕物が酵素失活処理されている請求項1~5のいずれか1項に記載の麺類用組成物。
【請求項7】
原料粉に請求項1~6のいずれか1項に記載の麺類用組成物を含む麺類であって、
前記原料粉中の前記麺類用組成物の含有率が2質量%以上である麺類。
【請求項8】
前記麺類の製造工程が、前記原料粉に加水して生地を調製する工程の後、加熱調理する工程の前のいずれかの段階で、1時間以上の保存工程を有する請求項7に記載の麺類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に雑穀を含む穀物の粉砕物を含み、粒感等の外観上の特徴を有し、風味が良好な麺類を、良好な製麺性で製造可能な麺類用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、健康イメージ、食感、風味等の特徴付けとして、大麦、ハト麦、大豆、ヒエ、アワ、トウモロコシ等の雑穀の粉砕物を含む米飯類やパン類が市販されている。しかしながら、麺類については、雑穀の粉砕物を含む製品はあまり普及していない。その理由としては、粒子が粗い雑穀の粉砕物を用いると、製麺性が著しく悪化し、機械製麺による大量生産が難しいためと考えられる。また、雑穀の粉砕物の粒子を細かくして用いると、製麺性は向上するものの、雑穀の風味が損なわれたり、粒感等の外観上の特徴が得難くなったりして雑穀を配合するメリットが低下する場合がある。さらに、配合する穀物種の組み合わせ次第では、熟成時間を設ける場合に、麺類の生地、麺帯、麺線、麺皮の強度が著しく低下したり、製麺性が悪化したりすることにより短麺が多く発生する。
【0003】
雑穀を用いる麺類の開発としては、例えば特許文献1では、でんぷんを使用しない高付加価値を有する独自の雑穀麺であって、麺のつながりを向上させると共に、雑穀麺としての商品価値を高めることができる雑穀麺の製造方法を提供することを目的とし、雑穀麺の製造方法において、雑穀を粉砕した雑穀粉末と小麦粉を混合して混合粉末とし、続いて水を加えて攪拌して生地とし、該生地を圧延して切り出しして麺とし、該麺を茹でた後に水洗冷却し凍結したことを特徴とする雑穀麺の製造方法が開示されている。また、特許文献2では、大麦、きび、あわ、黒米、黒豆等の雑穀類・豆類を単数、もしくは複数配合した雑穀類を用い、この雑穀類を粉砕することで得た雑穀粉に米麹と水を加えて発酵させた雑穀酒種材を製造し、この雑穀酒種材を小麦粉等に配合して練り合わせ、所定の太さに切出すことによって麺に仕上げることを特徴とする食味・食感に優れた雑穀麺の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-65932号公報
【特許文献2】特開2011-92153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、依然として製麺性が悪化する場合があり、特許文献2の技術では、酒種の独特な風味が生じることになり、所望の雑穀の風味が得られない場合もある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、雑穀を含む穀物の粉砕物を含み、粒感等の外観上の特徴を有し、風味が良好な麺類を、良好な製麺性で製造可能な麺類用組成物、及びそれを用いる麺類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、雑穀の粉砕物の種類、及び穀物の粉砕物の粒度分布について、種々検討した結果、所定の穀物粉砕物を含有し、所定の粒度分布を有する麺類用組成物によって、上記課題を解決することができることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、麺類の製造に用いる麺類用組成物であって、大豆粉砕物及び大麦粉砕物を含む3種以上の穀物粉砕物からなり、粒径255μm以上の粒子を3質量%以上含み、且つ中位径が70μm未満であることを特徴とする麺類用組成物によって達成される。また、上記目的は、原料粉に本発明の麺類用組成物を含む麺類であって、前記原料粉中の前記麺類用組成物の含有率が2質量%以上である麺類によって達成される。なお、本発明において、「穀物粉砕物」は、小麦、米、大麦、ハト麦、ライ麦、燕麦、そば、アマランサス、ヒエ、アワ、キビ、タカキビ、トウモロコシ、ホワイトソルガム、大豆、緑豆、小豆、えんどう、落花生、ゴマ、キヌア、チアシード等の穀物を全粒のまま、又は必要に応じて脱皮、脱胚芽等の分離精製(分離した外皮等を用いてもよい)、焙煎、脱脂等の前処理後、所望の粒度に粉砕した粉砕物、それらの粉砕物を篩分け等により選別・精製したもの、又はそれらの粉砕物を焙煎したもののことを称する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、雑穀を含む穀物の粉砕物を含み、粒感等の外観上の特徴を有し、風味が良好な麺類を、良好な製麺性で製造可能な麺類用組成物、及びそれを用いる麺類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[麺類用組成物]
本発明の麺類用組成物は、麺類の製造に用いる麺類用組成物であって、大豆粉砕物及び大麦粉砕物を含む3種以上の穀物粉砕物からなり、粒径255μm以上の粒子を3質量%以上含み、且つ中位径が70μm未満であることを特徴とする。本発明の麺類用組成物は、通常、小麦粉等の他の原料粉と共に麺類の製造に用いる。一般に、麺類用組成物に雑穀の粉砕物を用いた場合、含窒素量が低下し、製麺性が低下する。本発明においては、穀物粉砕物として大豆粉砕物を含むことにより、たん白質を増強することができ、且つ大麦粉砕物を含むことにより、吸水性が向上し、前記大豆粉砕物との組み合わせにより麺線・麺皮の強度を向上させ、麺線・麺皮が切れたり破れたりし難くなり、製麺性が向上する。また、粒径255μm以上の粒子を所定量含むことにより、麺類に粒感等の外観上の特徴や風味を付与することができ、全体として中位径を70μm未満とすることにより、製麺性を維持することができる。前記粒径255μm以上の粒子は、粒径が大き過ぎると製麺性が低下するため、515μm未満が好ましい。前記本発明の麺類用組成物の粒度分布は、粒度分布の異なる大豆粉砕物及び大麦粉砕物を含む3種以上の穀物粉砕物を適宜混合して調整することができる。なお、本発明において、粒径255μm以上の粒子の含有率、及び中位径は、後述する実施例に記載した方法によって測定された数値である。
【0011】
本発明の麺類用組成物において、前記粒径255μm以上の粒子の含有率は、高い程、麺類に粒感等の外観上の特徴や風味を付与することができるので、3.5質量%以上が好ましく、4質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上が特に好ましい。また、高過ぎると製麺性が低下する場合があるので、上限としては、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0012】
本発明の麺類用組成物の窒素含量は、1.5質量%以上が好ましく、1.75質量%以上がさらに好ましい。また、3.5質量%以下が好ましく、3.25質量%以下がさらに好ましい。本発明において、窒素含量は、常法に従いケルダール法によって測定された数値である。
【0013】
本発明の麺類用組成物において、前記大豆粉砕物の含有率は、高い程、たん白質を増強することができ、製麺性が向上されるので、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上が特に好ましい。また、高過ぎると風味に影響する場合があるので、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明の麺類用組成物において、前記大麦粉砕物の含有率は、高い程、吸水性が向上されるので、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上が特に好ましい。また、高過ぎると製麺性の悪化や、麺線・麺皮の強度が低下する場合があるので、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0015】
本発明において、前記大豆粉砕物は、大豆の粉砕物であればどのようなものでもよい。例えば、乾燥した大豆をそのまま粉砕したもの(大豆全粒粉)、脱皮処理又は脱皮脱胚芽処理、任意に、加熱脱臭した後、粉砕したもの(全脂大豆粉(含脂大豆粉ともいう))、大豆を焙煎した後粉砕したもの(きな粉)、任意に脱皮処理、脱胚芽処理、加熱処理をした後、脱脂し、粉砕したもの(脱脂大豆粉、低脂肪大豆粉)、上記のように粉砕したものを焙煎したもの等が挙げられ、上記の大豆粉砕物を複数種混合したものでもよい。本発明において、大豆粉砕物は、粉砕前又は粉砕後の加熱処理等により酵素失活処理されているものが好ましい。これにより、本発明の麺類用組成物の保存時や使用時において、リポキシゲナーゼの作用によるヘキサナール由来の青臭さの発生を抑制することができ、より風味の良好な麺類を製造することができる。
【0016】
本発明において、大麦粉砕物は、大麦を適当な粉砕方法により粉粒状に調製したものである。大麦の種類は、二条大麦、六条大麦、裸大麦等何れの種類でもよく、うるち性大麦でも、もち性大麦でもよく、大麦の品種もいずれでもよい。また、大麦の種類又は品種は、原料穀物の段階で、及び/又は穀物粉砕物の段階で、複数の種類又は品種を混合したものでもよい。大麦粉砕物は、原料穀物の段階で、及び/又は穀物粉砕物の段階で、焙煎処理されたものでもよい。
【0017】
本発明の麺類用組成物において、前記大豆粉砕物、及び前記大麦粉砕物以外の穀物粉砕物は、前記大豆粉砕物及び前記大麦粉砕物と合わせて、麺類用組成物として上述の粒度分布になるような粒度分布を有していれば、特に制限はなく、1種又は2種以上の穀物粉砕物を用いることができる。例えば、小麦、米、ハト麦、ライ麦、燕麦、そば、アマランサス、ヒエ、アワ、キビ、タカキビ、トウモロコシ、ホワイトソルガム、緑豆、小豆、えんどう、落花生、ゴマ、キヌア、チアシード等の穀物(存在すれば、もち性種を含む)を全粒のまま、又は必要に応じて脱皮、脱胚芽等の分離精製(分離した外皮等を用いてもよい)、焙煎、脱脂等の前処理後、所望の粒度に粉砕した粉砕物、又はそれらの粉砕物を焙煎したもの、及びそれらの穀物粉砕物の混合物が挙げられる。本発明の麺類用組成物は、前記大豆粉砕物、及び前記大麦粉砕物以外の穀物粉砕物として、米粉砕物(米粉、玄米粉等)、小麦粉砕物(小麦全粒粉等)、及びトウモロコシ粉砕物(コーングリッツ等)からなる群から選択される穀物粉砕物の1種以上を含むことが好ましい。また、本発明において、前記穀物粉砕物及び/又は前記穀物粉砕物の原料穀物の少なくとも1種は、焙煎処理されていることが好ましい。これにより、風味が向上した麺類を製造することができる。焙煎処理された穀物粉砕物としては、焙煎小麦全粒粉、焙煎玄米粉、焙煎大豆粉、焙煎ふすま、焙煎大麦粉等が挙げられる。本発明の麺類用組成物において、焙煎処理された前記穀物粉砕物及び/又は原料穀物が焙煎処理された穀物粉砕物の含有率は、高い程、麺類の風味が向上するので、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、高過ぎると焙煎香が強過ぎる場合があるので、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0018】
[麺類]
本発明の麺類は、原料粉に本発明の麺類用組成物を含む麺類であって、前記原料粉中の前記麺類用組成物の含有率が2質量%以上である。本発明の麺類は、雑穀を含む穀物の粉砕物を含み、粒感等の外観上の特徴を有し、風味が良好な麺類であり、且つ製造時の製麺性が良好である。原料粉に含まれるその他の材料としては、一般に麺類の原料粉に用いるものであれば、特に制限はなく、例えば、小麦粉、澱粉類等が挙げられる。小麦粉としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム粉等を適宜使用することができる。澱粉類としては、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉が挙げられる。製麺性が良好な点で小麦粉を含むことが好ましい。本発明の麺類において、前記原料粉中の前記麺類用組成物の含有率は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、上限としては、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。
【0019】
本発明の麺類の材料は、本発明の効果を損なわない限り、一般に製麺用に使用される材料を適宜含んでいてもよい。そのような材料として、卵白、卵黄、カゼイン、粉末グルテン等のたん白質;食用油脂;糖類;色素;グアガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;アラニン、グリシン、リジン等のアミノ酸;グルタミン酸ナトリウム、食塩等の調味料;香料;かんすい;アルコール製剤等が挙げられる。一般に、小麦粉以外の原料粉を用いる麺類の場合、製麺性の向上のため粉末グルテンを添加する場合があるが、上述の通り、麺類の原料粉に本発明の麺類用組成物を用いた場合、製麺性が良好であるため、粉末グルテンを添加する必要はない。粉末グルテンは、雑穀を含む穀物の粉砕物を含む麺類の風味を損なう場合があるので、本発明の麺類の材料として、粉末グルテンを含まないことが好ましい。
【0020】
本発明における麺類は、うどん、中華麺、パスタ類、そうめん、ひやむぎ、そば、冷麺等に用いられる麺線、麺帯だけでなく、餃子、焼売等に用いられる麺皮を包含する。また、麺類の形態に特に制限はなく、例えば、生麺、生麺皮、半乾燥麺、乾麺、茹で麺、蒸し麺、冷蔵麺(チルド麺)、冷凍麺、即席麺、調理麺、ロングライフ麺(LL麺)等が挙げられる。特に、生麺、生麺皮、半乾燥麺、乾麺等の未加熱で保存、流通する麺類が好ましい。
【0021】
本発明の麺類の製造方法は、どのような製麺方法でもよい。本発明の麺類は、製造時の製麺性が良好であるので、ロール式製麺機を用いる機械製麺によって、高い歩留まりで製造することができる。機械製麺は、常法に従って実施することができる。例えば、原料粉、及び必要に応じてその他の材料を混合機に入れ、撹拌しながら所定量の水を添加して、生地を調製する。液状の材料や食塩等の水溶性の材料は、予め水に溶解又は分散させて、水の添加の際に混合してもよい。加水量は、ロール式製麺機の圧延ロールに掛けることができれば、特に制限はない。次いで、生地をロール式製麺機に投入し、荒延、圧延して麺帯を製造し、得られた麺帯を、所望の麺の幅や皮の形状に切り出して生麺類を調製する。得られた生麺類は、そのまま生麺として流通させてもよく、乾燥室等で乾燥し、乾麺を製造してもよく、茹でて茹で麺として流通させてもよい。また、多数の孔が形成されたノズル体から生地を押出して製麺する押出式製麺機を用いて麺類を製造する場合は、生産性が低下する一方で、生地を強く圧着させて製麺することから、製麺性への懸念が減り、本発明の麺類用組成物の麺への配合量をより高めることができる。
【0022】
一般に、大麦粉砕物等の食物繊維が豊富な穀物粉砕物を麺類に配合した場合、吸水性が向上し、生地の伸展性が良くなり、通常の製麺工程では製麺性が向上する傾向がある。しかしながら、生地、麺帯、麺線・麺皮等の状態で熟成期間等、所定の時間保存する工程を設けると、経時的に生地、麺帯、麺線・麺皮等の強度が低下し、製麺性の低下や麺線・麺皮の強度の低下による短麺化が生じる。本発明の麺類は、上述の通り、大麦粉砕物と大豆粉砕物が併用された本発明の麺類用組成物を含むことで、生地、麺帯、麺線・麺皮等の強度が向上されているので、熟成期間等を設けても製麺性や麺線・麺皮の強度の低下を防止できる。したがって、本発明の麺類においては、前記麺類の製造工程が、前記原料粉に加水して生地を調製する工程の後、加熱調理する工程の前のいずれかの段階で、好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上、特に好ましくは6時間以上の保存工程を有する麺類に適している。特に、原料粉に上述の大豆粉砕物が酵素失活処理されている好ましい態様の麺類用組成物を含む場合、熟成期間等において、リポキシゲナーゼの作用によるヘキサナール由来の青臭さの発生も抑制することができるので好ましい。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.穀物粉砕物の分析
(1)粒度分布
麺類用組成物に用いる穀物粉砕物として、表1に示した穀物粉砕物を選択し、各穀物粉砕物の粒度分布をレーザー回折式の粒度分布測定装置(HELOS&RODOS、日本レーザー)を用いて、フラウンホーファー回折によって測定した。各穀物粉砕物の粒径255μm以上の粒子の含有率は、体積基準分布(頻度分布)から255μm以上の割合を測定し、中位径は、体積基準分布(頻度分布)から累積50%粒径を求めた。なお、分析条件は、分散圧2bar、測定レンジR5とした。各測定値を表1に示す。
(2)窒素含量
各穀物粉砕物の窒素含量をケルダール法で測定した。 各測定値を表1に示す。
【0024】
【0025】
2.麺類用組成物の調製
1.で示した穀物粉砕物を、表2及び3に示した配合で、必要に応じて全部又は一部を粉砕処理して混合し、各麺類用組成物を調製した。各麺類用組成物の粒径255μm以上の粒子の含有率、及び中位径は、1.に記載の方法で測定した。また、窒素含量は、表1の窒素含量を用いて、算出した。各結果を表2及び表3に示す。
【0026】
【0027】
【0028】
3.生麺類の調製
表4~7に示した原料粉の配合で、各実施例及び各比較例の生麺類を調製した。なお、参考例、実施例1~17、及び比較例1~4では「うどん」を調製し、実施例18~21では「中華麺」を調製し、実施例22~25では「餃子皮」を調製した。すなわち、まず、水以外の各材料を真空ピンミキサーに入れ、撹拌しながら、原料粉100質量部に対し、水35~40質量部を添加して、生地がそぼろ状になるまでミキシングして生地を調製した。加水量は各生地の状態を見て適宜調節した。生地を調製する際、その他の材料として、うどんの場合は、塩4質量%を添加し、中華麺の場合は、塩1質量%と粉末かんすい1質量%を添加し、餃子皮の場合は、塩1質量%を添加した。次いで、得られた生地を、ロール式製麺機に掛け、うどんの場合は、粗延1回、複合1回、圧延5回を経て、厚さ2mmの麺帯を調製し、切刃;角10番で麺線を切り出して生麺を調製し、中華麺の場合は、粗延1回、複合1回、圧延5回を経て、厚さ1.5mmの麺帯を調製し、切刃;角20番で麺線を切り出して生麺を調製し、餃子皮の場合は、粗延1回、圧延2回を経て、厚さ1mmに調整し、皮径90mmとなるように打ち抜き、生餃子皮を調製した。調製した生麺及び生餃子皮は、冷蔵(約10℃)で12時間、生麺・生麺皮熟成を行った。
4.茹で麺の調製
3.で得られた各実施例、及び各比較例の熟成後生麺100gを、沸騰水中でうどんの場合は8分間茹で調理したのち、水で冷却し、茹で麺を調製し、中華麺の場合は3分間茹で調理した後、温かいラーメンスープ300mlに投入して茹で麺を調製した。
5.餃子の調製
3.で得られた各実施例の熟成後の生餃子皮に、具材(豚挽き肉、キャベツ等から調製した餡)18gを包餡した生餃子を、サラダ油10gを敷き、熱したフライパンに10個並べ、熱湯150gを注ぎ、蓋を閉め5分間蒸し焼きにした後、蓋を開けて焼き目を付けて調理済みの餃子を調製した。
6.麺類の評価
各実施例、及び各比較例において、麺類の調製時の製麺性、得られた生麺類の外観及び強度、並びに加熱調理(茹で・蒸し)麺類の味・風味について、以下の評価基準で評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。結果を表4~7に示す。
(1)製麺性
5:作業性が非常に良好で、生地のロスがない
4:作業性が良好で、生地のロスがほとんどない
3:作業性が概ね良好で、生地のロスが認められるが、許容範囲である
2:作業性が劣り、生地のロスが多い
1:生地のロスが非常に多く、ほとんど製麺できない
(2)生麺類の強度
5:生麺類熟成後、小麦粉のみの麺類と同様の強度があり、短麺、破れの発生がない
4:生麺類熟成後、小麦粉のみの麺類よりわずかに強度が弱いが、短麺、破れの発生はない
3:生麺類熟成後、小麦粉のみの麺類より強度が弱いが、短麺、破れの発生はほとんどない
2:生麺類熟成後、小麦粉のみの麺類より強度が弱く、短麺、破れの発生はやや見られる
1:生麺類熟成後、小麦粉のみの麺類「より強度が非常に弱く、短麺、破れの発生が多い
(3)加熱調理(茹で・蒸し)麺類の外観
5:穀物由来の斑点が適度に存在し、多穀を使用した麺類であることが明確に視認できる
4:穀物由来の斑点を確認でき、多穀を使用した麺類であることが視認できる
3:穀物由来の斑点を少し確認でき、小麦粉のみの麺類と区別することができる
2:穀物由来の斑点をわずかに確認できるが、小麦粉のみの麺類と区別することは難しい
1:穀物由来の斑点が確認できず、小麦粉のみの麺類と区別がつかない
(4)加熱調理(茹で・蒸し)麺類の味・風味
5:苦味、えぐみが無く、穀物の自然な風味が強く感じられる
4:苦味、えぐみがほとんど感じられず、穀物の自然な風味が感じられる
3:苦味、えぐみをやや感じる、又は穀物の自然な風味をほのかに感じる
2:苦味、えぐみを強く感じる、又は穀物の自然な風味が少ない
1:苦味、えぐみが非常に強く、穀物の自然な風味もない
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
表4~7に示した通り、大豆粉砕物及び大麦粉砕物を含む3種以上の穀物粉砕物からなり、粒径255μm以上の粒子を4.0~15.3質量%含み、且つ中位径が30.1~64.5μmである製造例3~7、及び製造例10~17の麺類用組成物を、2~35質量%含有する原料粉を用いて調製した実施例1~25の麺類(うどん、中華麺、又は餃子皮)は、製麺性が良好で、生麺類の強度が良好であり、加熱調理(茹で・蒸し)麺類の外観、及び味・風味の評価も高かった。一方、上記と同様な種類の穀物粉砕物を配合していても、中位径が71.4μmの製造例1の麺類用組成物を20質量%含有する原料粉を用いて調製した比較例1の麺類では、製麺性、及び生麺類の強度が低く、粒径255μm以上の粒子の含有率が0.7質量%の製造例2の麺類用組成物を20質量%含有する原料粉を用いて調製した比較例2の麺類では、加熱調理麺類の外観、及び味・風味が低い評価であった。また、上記と同様な範囲の粒度分布を有していても、穀物粉砕物として大豆粉砕物を含まない製造例8の麺類用組成物を20質量%含有する原料粉を用いて調製した比較例3の麺類では、製麺性、及び生麺類の強度が低く、大麦粉砕物を含まない製造例9の麺類用組成物を20質量%含有する原料粉を用いて調製した比較例4の麺類では、製麺性が低かった。したがって、大豆粉砕物及び大麦粉砕物を含む3種以上の穀物粉砕物からなり、粒径255μm以上の粒子を3質量%以上含み、且つ中位径が70μm未満である麺類用組成物を用いることで、雑穀を含む穀物の粉砕物を含み、粒感等の外観上の特徴を有し、風味が良好な麺類を、良好な製麺性で製造できることが示唆された。なお、大麦粉砕物としてもち大麦から調製した大麦粉Aを含む製造例10の麺類用組成物を用いた実施例6と、うるち大麦から調製した大麦粉Bを含む製造例12(その他の配合は製造例10と同様)の麺類用組成物を用いた実施例8を比較すると、どちらも同様に良好な評価であったことから、大麦粉砕物の原料大麦は、うるち性でも、もち性でも良いことが示された。
【0034】
麺類用組成物に用いる大豆粉砕物の酵素活性の有無について調べたところ、酵素失活処理をした大豆粉Aを用いた製造例10の麺類用組成物を用いた実施例6と、未変性で酵素活性を有する大豆粉Bを用いた製造例11の麺類用組成物を用いた実施例7を比較すると、実施例6の方が、製麺性、生麺類の強度、及び加熱調理麺類の味・風味の評価が高かった。したがって、麺類用組成物に用いる大豆粉砕物は、酵素失活処理されていることが好ましいことが示唆された。また、麺類用組成物中の大豆粉砕物の含有率の影響を調べたところ、大豆粉砕物の含有率が、それぞれ、5質量%の製造例15、10質量%の製造例16、20質量%の製造例10及び30質量%の製造例17の麺類用組成物を用いた実施例11、実施例12、実施例6及び実施例13の麺類を比較すると、何れも良好な評価であったが、製麺性及び生麺類の強度は大豆粉砕物の含有率が高いほど良好な傾向であった。
【0035】
前記麺類用組成物に用いる穀物粉砕物の焙煎処理の影響を調べたところ、焙煎処理された原料穀物から得られた全粒粉Dを用いた製造例13の麺類用組成物、及び玄米粉を用いた製造例14の麺類用組成物を用いた実施例9及び実施例10の麺類は、加熱調理麺類の味・風味の評価が極めて高かった。したがって、前記麺類用組成物に用いる穀物粉砕物及び/又は穀物粉砕物の原料穀物の少なくとも1種は焙煎処理されていることが好ましいことが示唆された。
【0036】
麺類の原料粉に配合する麺類用組成物の含有率の影響を調べたところ、製造例4の麺類用組成物を、それぞれ、2質量%、5質量%、20質量%及び35質量%含有する原料粉を用いて調製した実施例14、実施例15、実施例16及び実施例17の麺類を比較すると、何れも良好な評価であったが、加熱調理麺類の外観及び味・風味は麺類用組成物の含有率が高いほど良好な傾向であった。また、製造例7の麺類用組成物を、それぞれ、2質量%、5質量%、20質量%及び35質量%含有する原料粉を用いて調製した実施例18、実施例19、実施例20及び実施例21の麺類(中華麺)、並びに製造例13の麺類用組成物を、それぞれ、2質量%、5質量%、20質量%及び35質量%含有する原料粉を用いて調製した実施例22、実施例23、実施例24及び実施例25の麺類(餃子皮)においても、同様な評価結果であった。したがって、種々の麺類において、同様な効果が得られることが示唆された。
【0037】
以上の実施例の結果により、大豆粉砕物及び大麦粉砕物を含む3種以上の穀物粉砕物からなり、粒径255μm以上の粒子を3質量%以上含み、且つ中位径が70μm未満である麺類用組成物を用いることにより、雑穀を含む穀物の粉砕物を含み、粒感等の外観上の特徴を有し、風味が良好な麺類を、良好な製麺性で製造することができることが示された。
【0038】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
本発明により、雑穀を含む穀物の粉砕物を含み、粒感等の外観上の特徴を有し、風味が良好な麺類を、良好な製麺性で製造可能な麺類用組成物、及びそれを用いる麺類を提供することができる。