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特開2022-98204抗ウィルス繊維構造体およびその製造方法、抗ウィルス加工製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098204
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】抗ウィルス繊維構造体およびその製造方法、抗ウィルス加工製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/46 20060101AFI20220624BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20220624BHJP
   A41D 13/12 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
D06M13/46
A41D13/11 M
A41D13/12 109
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211616
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000205432
【氏名又は名称】大阪化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】浅見 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】神田 知秀
(72)【発明者】
【氏名】山神 安令
(72)【発明者】
【氏名】合志 修
(72)【発明者】
【氏名】戸高 玲子
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 慧
(72)【発明者】
【氏名】片山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】花木 秀明
【テーマコード(参考)】
3B011
4L033
【Fターム(参考)】
3B011AB09
4L033AA02
4L033AA03
4L033AA05
4L033AA06
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB07
4L033AC02
4L033AC05
4L033AC06
4L033AC10
4L033BA85
(57)【要約】
【課題】短時間の接触であっても確実に抗ウィルス性を発揮し、安全性の高い抗ウィルス繊維構造体およびその製造方法、抗ウィルス加工製品の提供をその目的とする。
【解決手段】抗ウィルス性化合物(A)と繊維構造体とを有する抗ウィルス繊維構造体であって、上記抗ウィルス性化合物(A)が分子量3000以下の第四級アンモニウムハロゲン化物であり、上記繊維構造体の目付が120g/m2以下である抗ウィルス繊維構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ウィルス性化合物(A)と繊維構造体とを有する抗ウィルス繊維構造体であって、上記抗ウィルス性化合物(A)が分子量3000以下の第四級アンモニウムハロゲン化物であり、上記繊維構造体の目付が120g/m2以下であることを特徴とする抗ウィルス繊維構造体。
【請求項2】
上記抗ウィルス性化合物(A)を上記繊維構造体100重量部に対し0.1~8重量部の割合で有している請求項1記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項3】
上記抗ウィルス性化合物(A)が上記繊維構造体の少なくとも表面に担持されている請求項1または2記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項4】
上記抗ウィルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物が、アニオンとカチオンの塩である請求項1~3のいずれか一項に記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項5】
上記抗ウィルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物を構成するアニオン種が、ヨーダイド、ブロマイドおよびクロライドからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1~4のいずれか一項に記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項6】
対象とするウィルスが、インフルエンザウィルス、ノロウィルス、コロナウィルスからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1~5のいずれか一項に記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項7】
上記繊維構造体が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、アセテート樹脂、綿、麻、羊毛、絹からなる群から選ばれた少なくとも一つからなる繊維を有するものである請求項1~6のいずれか一項に記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項8】
上記繊維構造体が、不織布である請求項1~7のいずれか一項に記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項9】
さらに、繊維加工用助剤を有する請求項1~8のいずれか一項に記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項10】
上記繊維加工用助剤が、帯電防止剤、難燃剤および柔軟剤からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項9記載の抗ウィルス繊維構造体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗ウィルス繊維構造体を製造する方法であって、上記抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液を準備する工程と、上記処理液に上記繊維構造体を接触させる工程とを有することを特徴とする抗ウィルス繊維構造体の製造方法。
【請求項12】
上記処理液に上記繊維構造体を接触させる工程の後に、さらに常圧または加圧下において40~230℃の処理を含む加熱処理工程を有する請求項11記載の抗ウィルス繊維構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗ウィルス繊維構造体を加工してなることを特徴とする抗ウィルス加工製品。
【請求項14】
上記抗ウィルス加工製品が、医療用品、衛生用品および調理用品からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項13記載の抗ウィルス加工製品。
【請求項15】
上記抗ウィルス加工製品が、防護服である請求項13または14記載のウィルス加工製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間の接触であっても確実に抗ウィルス性を発揮し、安全性の高い抗ウィルス繊維構造体およびその製造方法、抗ウィルス加工製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人インフルエンザウィルス、鳥インフルエンザウィルス(人インフルエンザウィルスと同属)、コロナウィルス、ノロウィルス、エボラ出血熱ウィルス、エイズウィルス等のウィルスや、サルモネラ菌や病原大腸菌等の菌による、人、家畜の生命的、経済的損失は甚大である。また、コロナウィルスや鳥インフルエンザウィルスによるパンデミックの危険性がWHOにより指摘されている。
【0003】
このようなウィルスの脅威から人や家畜等を守るために、以前より、様々な抗ウィルス
性消毒液が生活環境で用いられている。古くは、エンベロープ型ウィルス(人インフルエンザウィルス、鳥インフルエンザウィルス等)に対し、次亜塩素酸ソーダ、ヨードホール(iodophor)やカチオン界面活性剤等を用いることが知られている。
また、最近では、非エンベロープ型ウィルス(ノロウィルス等)に対し、ポリアルキレンビグアナイドハイドロクロライド(PHMB)と第四級アンモニウム塩化合物との複合剤による液体スプレーが有効であることが報告されている(特許文献1を参照)。
【0004】
一方、抗ウィルス性化合物を、手指や硬表面にスプレーしたり塗布したりして消毒を行う消毒液として用いるのではなく、衣料を含む各種の家庭用品、医療用品、産業用資材等に、直接抗ウィルス性を付与する方法についても、様々な検討がなされている。
例えば、繊維品を、抗菌成分と特定のポリカルボン酸類と架橋剤で処理する方法(特許文献2を参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-14551号公報
【特許文献2】特開2003-105674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、スプレーなどの消毒液であれば、効率的にウィルスを死滅させることが可能であるが、衣料を含む各種の家庭用品、医療用品、産業用資材等に用いられる繊維構造体に抗ウィルス性を付与した場合には、効率的にウィルスを死滅させることが困難であり、即効性を有する抗ウィルス繊維構造体の提供に課題が残されている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、衣料や医療用品等の用途に好ましく用いることができ、しかも人体に対する安全性が高い、即効性を有する抗ウィルス繊維構造体およびその製造方法、抗ウィルス加工製品の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、以下の[1]~[15]を提供する。
[1] 抗ウィルス性化合物(A)と繊維構造体とを有する抗ウィルス繊維構造体であって、上記抗ウィルス性化合物(A)が分子量3000以下の第四級アンモニウムハロゲン化物であり、上記繊維構造体の目付が120g/m2以下である抗ウィルス繊維構造体。
[2] 上記抗ウィルス性化合物(A)を上記繊維構造体100重量部に対し0.1~8重量部の割合で有している[1]記載の抗ウィルス繊維構造体。
[3] 上記抗ウィルス性化合物(A)が上記繊維構造体の少なくとも表面に担持されている[1]または[2]記載の抗ウィルス繊維構造体。
[4] 上記抗ウィルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物が、アニオンとカチオンの塩である[1]~[3]のいずれかに記載の抗ウィルス繊維構造体。
[5] 上記抗ウィルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物を構成するアニオン種が、ヨーダイド、ブロマイドおよびクロライドからなる群から選ばれた少なくとも一つである[1]~[4]のいずれかに記載の抗ウィルス繊維構造体。
[6] 対象とするウィルスが、インフルエンザウィルス、ノロウィルス、コロナウィルスからなる群から選ばれた少なくとも一つである[1]~[5]のいずれかに記載の抗ウィルス繊維構造体。
[7] 上記繊維構造体が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、アセテート樹脂、綿、麻、羊毛、絹からなる群から選ばれた少なくとも一つからなる繊維を有するものである[1]~[6]のいずれかに記載の抗ウィルス繊維構造体。
[8] 上記繊維構造体が、不織布である[1]~[7]のいずれかに記載の抗ウィルス繊維構造体。
[9] さらに、繊維加工用助剤を有する[1]~[8]のいずれかに記載の抗ウィルス繊維構造体。
[10] 上記繊維加工用助剤が、帯電防止剤、難燃剤および柔軟剤からなる群から選ばれた少なくとも一つである[9]記載の抗ウィルス繊維構造体。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の抗ウィルス繊維構造体を製造する方法であって、上記抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液を準備する工程と、上記処理液に上記繊維構造体を接触させる工程とを有する抗ウィルス繊維構造体の製造方法。
[12] 上記処理液に上記繊維構造体を接触させる工程の後に、さらに常圧または加圧下において40~230℃の処理を含む加熱処理工程を有する[11]記載の抗ウィルス繊維構造体の製造方法。
[13] [1]~[10]のいずれかに記載の抗ウィルス繊維構造体を加工してなる抗ウィルス加工製品。
[14] 上記抗ウィルス加工製品が、医療用品、衛生用品および調理用品からなる群から選ばれた少なくとも一つである[13]記載の抗ウィルス加工製品。
[15] 上記抗ウィルス加工製品が、防護服である[13]または[14]記載のウィルス加工製品。
【0009】
なお、本発明において、「繊維構造体」とは、繊維または繊維からなる糸により構成される繊維製品をいう。
上記繊維構造体には、例えば、互いに直交した縦糸と横糸で構成される「織物」、一方向の糸が網目(ループ)を連続させて構成される「編物」、繊維を交絡、接着、溶着などにより結合させてシート状にして構成される「不織布」等が含まれる。
また、上記繊維には、例えば、綿、麻、羊毛、絹その他の天然繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン、レーヨン、スフ、ナイロン、ビニロン等の化学繊維が含まれる。
【0010】
すなわち、本発明者らは、人体に対する安全性が高く、衣料やインテリア用途に好ましく用いる抗ウィルス繊維構造体を開発すべく鋭意検討を重ねた。その結果、従来、抗菌剤として知られている第四級アンモニウム塩のなかでも特に、所定の大きさ以下の分子量を有する第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウィルス性化合物(A)を、水等の溶媒中に溶解したり分散させたりした状態で含有させることによって処理液を調製し、その処理液を特定の目付の繊維構造体に接触させれば、上記ウィルス性化合物(A)が繊維構造体に担持され、即効性を有することを見いだした。
そして、上記抗ウィルス性化合物(A)を担持した上記繊維構造体が、近年、猛威を振るSARS-CoV-2ウィルス(以下「新型コロナウィルス」と称することがある)に対して、優れた抗ウィルス性を発揮することを見いだし、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明の抗ウィルス繊維構造体によれば、抗ウィルス性化合物(A)として特定のものを用い、かつ、繊維構造体として特定の目付のものを用いているため、対象とするウィルスが繊維構造体内部をマイグレーションしやすくなり、繊維構造体に担持された上記抗ウィルス性化合物(A)との接触確率が高くなると考えられることから、対象とするウィルスを短時間で不活性化させることができ、とりわけ、新型コロナウィルスに対して優れた抗ウィルス性を発揮することができる。
さらに、その製造には、特殊な装置等を用いる必要がなく、繊維構造体に対し、上記抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液を接触させる設備(繊維構造体に対する染色処理設備等)があれば、それをそのまま流用することができるため、製造コストを低く抑えることができる。また、上記抗ウィルス性化合物(A)を担持させるための被膜形成用化合物(いわゆるバインダー樹脂)が不要であるため、余分な材料コストがかからないという利点も有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
<繊維構造体>
まず、本発明が抗ウィルス性を付与することを対象とする繊維構造体は、前述のとおり、繊維または繊維からなる糸により構成される繊維製品をいい、このようなものとしては、例えば、織物、編物、不織布、組物、レース、網等があげられ、好ましくは、織物、編物、不織布であり、より好ましくは不織布である。すなわち、不織布は一般的に繊維がランダムに配向されていることから、繊維が自由に移動・変形しにくいため、上記抗ウィルス性化合物(A)の担持性を損なわず、より優れた抗ウィルス性を長期間にわたって保つことができる傾向がみられる。また、繊維構造体が不織布であると、使い捨ての加工製品に好適に用いることができ、衛生面と保管性に優れるため使い勝手がよい。
【0014】
上記繊維構造体に用いられる繊維は、前述のとおり、化学繊維であっても、天然繊維であってもよい。上記化学繊維としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、アセテート樹脂等の合成樹脂からなるものがあげられ、これらの混合物を用いることもできる。上記天然繊維としては、例えば、綿、麻、絹、羊毛等があげられ、これらの混合物を用いることもできる。また、上記化学繊維および上記天然繊維、これら以外の成分(金属や無機物質等)を混合したものであってもよい。
【0015】
なかでも、上記繊維構造体は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、アセテート樹脂、綿、麻、羊毛、絹からなる群から選ばれた少なくとも一つからなる繊維を有するものからなると、上記繊維構造体に対する上記抗ウィルス性化合物(A)の担持性と繊維の通気性および手触りのよさを兼ね備えたものとなる傾向がみられ、好適である。これらの中でも、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、アセテート樹脂、綿、麻、羊毛、絹からなる群から選ばれた少なくとも一つからなる繊維であることがより好ましく、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、綿、麻、羊毛、絹からなる群から選ばれた少なくとも一つからなる繊維であることがさらに好ましい。
【0016】
上記繊維構造体の目付は120g/m2以下であり、好ましくは10~100g/m2の範囲であり、20~80g/m2の範囲であることがより好ましい。上記繊維構造体の目付が上記の範囲内にあると、上記ウィルス性化合物(A)を水等の溶媒中に溶解したり分散させたりした状態で含有させた処理液を特定の目付の繊維構造体に接触させるだけで、上記ウィルス性化合物(A)を繊維構造体に担持させることができる。これにより、ウィルスと上記抗ウィルス性化合物(A)の接触確率がより向上し、とりわけ、短時間(例えば、5~10分間程度)の接触であっても、新型コロナウィルスに対する優れた抗ウィルス性を発揮させることができる傾向がみられる。
なお、上記繊維構造体の目付は、JIS L 1096(2010) 8.3.2に規定されている「標準状態における単位面積当たりの質量」に準拠して測定することができる。
【0017】
上述のとおり、本発明は、その繊維構造体として不織布を用いることが好ましいが、不織布を用いる場合、その好ましい目付は10~80g/m2の範囲にあることであり、15~70g/m2の範囲がより好ましく、20~60g/m2の範囲がさらに好ましい。
【0018】
そして、上記繊維構造体として、織物または編物を用いる場合、その好ましい目付は、いずれも50~120g/m2の範囲にあることであり、60~110g/m2の範囲がより好ましく、70~100g/m2の範囲がさらに好ましい。
なお、上記繊維構造体として、織物または編物を用いる場合、その目付(g/m2)は、上記繊維構造体に用いられる織物または編物の密度、織物または編物の体積、繊維の密度から下記のとおり算出することもできる。なお、下記d(m)は繊維の直径を示している。
織物または編物の目付(g/m2
=織物または編物の密度×2(縦・横)×織物または編物の体積×繊維の密度
=織物または編物の密度(本(網目)/2.54cm)×(100/2.54)×2×π×(d(m)/2)2×1m×繊維の密度(g/m3
【0019】
上記繊維の直径d(m)は、織物または編物に用いられる繊維の繊度から算出することができる。すなわち、上記繊維の断面が真円であると仮定し、上記繊維の直径をd(cm)とし、上記繊維の比重(g/cm3)をpとし、繊維の単糸繊度をTexとした場合に、1000mで1gの繊維の直径d(cm)は、繊維の単糸繊度Texを用いて下記のとおり表すことができる。
π×(d(cm)/2)2×100000×p=Tex
よって、d(cm)=√{4×Tex/(π×100000×p)}として示すことができる。
【0020】
上記繊維構造体に用いられる繊維の単糸繊度は、0.1~400dtexの範囲にあることが好ましく、0.3~200dtexの範囲にあることがより好ましく、0.4~100dtexの範囲にあることがさらに好ましい。上記繊維構造体の繊度が上記範囲にあると、抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液の担持性(保液性)が向上するため、対象とするウィルスの、上記抗ウィルス性化合物(A)との接触確率をより高めることができる。よって、短時間(例えば、5~10分間程度)の接触であっても、対象とするウィルスに対して優れた抗ウィルス性をより発揮させることができる。
【0021】
なかでも、上記繊維構造として不織布を用いる場合の好ましい繊維の単糸繊度は、0.1~20dtexの範囲にあることであり、0.5~10dtexの範囲がより好ましく、1~5dtexの範囲がさらに好ましい。
また、上記繊維構造として織物または編物を用いる場合の好ましい繊維の単糸繊度は、いずれも30~400dtexの範囲にあることであり、35~350dtexの範囲がより好ましく、40~300dtexの範囲がさらに好ましい。
【0022】
上記繊維構造体は、その比表面積が0.01~1m2/gであることが好ましく、0.02~0.5g/m2の範囲であることがより好ましく、0.03~0.1m2/gの範囲であることがさらに好ましい。上記繊維構造体の比表面積が上記範囲にあると、抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液の担持性(保液性)が向上するため、対象とするウィルスの、上記抗ウィルス性化合物(A)との接触確率をより高めることができる。よって、とりわけ短時間(例えば、5~10分間程度)の接触であっても、対象とするウィルスに対して優れた抗ウィルス性をより発揮させることができる。
【0023】
上記繊維構造体の比表面積は、以下のようにして求めることができる。なお、下記の式においては、繊維の側面の面積を近似的に0として計算している。
繊維構造体の比表面積(m2/g)
=繊維表面積の総和/重量の総和(繊維体積の総和×比重)
=(繊維の糸密度[本/m2]×2π(d/2)[m]×1[m])/(繊維の糸密度[本/m2]×π×(d/2)2[m2]×1[m]×繊維構造体の密度[g/m3])
=4/(d[m]×繊維構造体の密度[g/m3])
【0024】
なお、上記繊維構造体として織物を用いる場合、経方向および緯方向のそれぞれのカバーファクター(CF)の和(トータルCF)が500~4000の範囲に設定されるように製織することが好ましく、1000~3000の範囲に設定されるように製織することがより好ましく、更に1200~2000の範囲に設定されるように製織することがより好ましい。トータルCFが上記範囲内に設定されていると、上記抗ウィルス性化合物(A)を担持するために必要な繊維間距離を充分に保つことができる傾向がみられる。
なお、上記トータルCFは、下記の式により求めることができる。
【0025】
【数1】

上記トータルCFは、繊維構造体の表面が繊維で占められている面積の割合であり、繊維の直径をdとし、本数をnとしたときに、n×dで表せるものである。
先述のとおり、繊維の直径dは繊度の平方根に比例するため、n×√DをトータルCFと定義することができる。ここで、上記Dはデニールを意味する。
【0026】
また、上記繊維構造体として編物を用いる場合、その好ましいコース密度は、40~200個/2.54cmであり、より好ましくは50~150個/2.54cm、さらに好ましくは60~120個/2.54cmである。また、好ましいウェール密度は、30~180個/2.54cmであり、より好ましくは40~160個/2.54cm、さらに好ましくは50~140個/2.54cmである。
なお、上記コース密度およびウェール密度は、JIS-L1096 8.6.2編物の密度に準拠して測定することができる。そして、目視で測定する際、ウェール方向(又はコース方向)に組織図上で最もニットループが多いところを選んで、そのニットループ数を測定して密度とする。
【0027】
<抗ウィルス性化合物(A)>
つぎに、本発明に用いられる抗ウィルス性化合物(A)は、分子量3000以下の第四級アンモニウムハロゲン化物である。
【0028】
このような第四級アンモニウムハロゲン化物としては、例えば、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(以下「DDAC」と略すことがある)、ポリヘキサメチレンビグアニジンクロライド(以下「PHMB」と略すことがある)、テトラメチルアンモニウムヨーダイド、トリメチルデシルアンモニウムブロマイド、ジデシルジメチルアンモニウムブロマイド(以下「DDAB」と略すことがある)、ドデシルジメチル-2-フェノキシエチルアンモニウムブロマイド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、トリメチルセチルアンモニウムクロライド、トリメチルセチルアンモニウムブロマイド、トリメチルセチルアンモニウムヨーダイド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムブロマイド、トリメチルステアリルアンモニウムヨーダイド、セチルピリジニウムクロライド、トリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムブロマイド、アルキルジメチルハイドロキシエチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイド、オクチルデシルジメチルアンモニウクロライド、オクチルデシルジメチルアンモニウムブロマイド、メチルベンゼトニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(以下「BAC」と略すことがある)、アルキルピリジニウムアンモニウムクロライド、ジアルキルメチルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルジアミノエチルグリシンクロライド、アルキルジアミノエチルグリシンブロマイド、アルキルジアミノエチルグリシンヨーダイド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムヨーダイド等があげられる。
また、ポリマーであるポリ-オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド(以下「PDIEC」と略すことがある)、ポリ〔オキシエチレン(ジメチルイミニオ)トリメチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド〕、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、N,N-ジデシル-N-メチル-ポリ(オキシエチル)アンモニウムクロライド等も、その分子量が3000以下であれば用いることができる。
【0029】
これらのなかでも、上記抗ウィルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物を構成するアニオン種が、ヨーダイド、ブロマイド、クロライドのいずれかであると、ウィルスの型にかかわらず、上記ウィルスを構成するタンパク質のアミノ酸に強く吸着して変性させることができるため、より優れた抗ウィルス性を発揮することができ、ブロマイド、クロライドのいずれかであると、さらに好ましい。とりわけ、DDAC、PHMB、DDAB、BAC、PDIEC等が、上記抗ウィルス性化合物(A)として好ましく用いられ、なかでもDDAC、PHMBがより好ましく用いられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0030】
上記抗ウィルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物が、アニオンとカチオンの塩であると、上記繊維構造体により強固に上記抗ウィルス性化合物(A)を担持させることができ、抗ウィルス性をより持続させることができる。
【0031】
なお、上記第四級アンモニウムハロゲン化物は、公知の方法にしたがって製造したものを用いることができるが、市販の製品を用いてもよい。また、上記第四級アンモニウムハロゲン化物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0032】
本発明の抗ウィルス繊維構造体は、上記抗ウィルス性化合物(A)を、上記繊維構造体100重量部に対し0.1~8重量部の割合で有することが好ましく、0.1~4.4重量部の割合で有することがより好ましく、0.1~1重量部の割合で有することがさらに好ましく、0.2~0.8重量部の割合で有することが一層好ましい。上記抗ウィルス性化合物(A)と上記繊維構造体との割合が上記の範囲に設定されていると、より優れた抗ウィルス性を発揮することができる傾向がみられる。なお、上記抗ウィルス性化合物(A)の含有割合が高すぎると、抗ウィルス繊維構造体の異常(硬化、縮み、変色等)を引き起こすおそれがあり、好ましくない。
【0033】
上記抗ウィルス繊維構造体における、上記繊維構造体に対する抗ウィルス性化合物(A)の割合は、例えば、所定量の抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液を、100%の絞り率で繊維構造体に担持させることで、上記繊維構造体に上記所定量の抗ウィルス性化合物(A)が担持された、抗ウィルス繊維構造体が得られることから求めることができる。
【0034】
すなわち、上記「絞り率」とは、一般に、繊維構造体や糸等に対して特定の処理剤(例えば染料等)を付与して繊維加工(染色加工等)を行う場合に、処理剤を水溶液や分散液の状態にした処理液を繊維構造体等に含浸させた後、繊維構造体等をマングルで絞る等の脱水時に、繊維構造体等にどの程度の処理液を残して脱水するか、の目安となるものである。なお、脱水された繊維構造体等(ある程度の処理液を含む)を乾燥して水分を除去することにより、処理剤が繊維構造体等に残留し付着、担持されて、目的とする処理加工品が得られる。このような絞り率は、以下の式により算出することができる。
絞り率(%)=[(B-A)/A]×100
A:最初の(処理前の)繊維構造体重量 B:脱水後の繊維構造体重量
【0035】
そして、「絞り率が100%」ということは、処理後の(繊維構造体等+処理液)が、脱水によって、処理前の、乾燥した繊維構造体等の重量(例えば100重量部)に対して等量の処理液(例えば100重量部)が繊維構造体等に保持された状態になる(上記の式において、B=2Aになる)ことを示している。
上記脱水後の繊維構造体等に保持されている処理液100重量部のうち、例えば5重量部が処理剤である場合(=処理液濃度が5重量%)、この処理液を含む「脱水後の繊維構造体等」を乾燥させて水分を除去すると、繊維構造体等(最初の繊維構造体等の重量:100重量部)に、5重量部の処理剤が担持された、処理済繊維構造体が得られることによる。
【0036】
また、本発明の抗ウィルス繊維構造体のうち、上記抗ウィルス性化合物(A)が上記繊維構造体の少なくとも表面に担持されていると、対象とするウィルスと短時間の接触であっても優れた抗ウィルス性を発揮することができる傾向がみられる。なお、上記「少なくとも表面に担持される」とは、対象となる繊維構造体の繊維の内部まで浸透することまでは要求されないことを意味し、例えば、繊維が疎水性の材料からなるものであっても、その表面に担持されていればよいことを意味する。もちろん、繊維の内部まで浸透するものであってもよい。
【0037】
本発明の抗ウィルス繊維構造体には、適宜、被膜形成用化合物を用いてもよい。被膜形成化合物は、接合効果を有する化合物をいい、例えば、メラミン系化合物、グリオキサール系化合物、ウレタン系化合物、ブロック化イソシアネート系化合物、シリコーン系化合物、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、オルガノシロキサンとしてシリコーンを含有するアクリル系樹脂があげられる。
上記被膜形成用化合物のなかでも、メラミン系化合物やグリオキサール系化合物のように架橋反応を生じさせて繊維構造体と抗ウィルス性化合物(A)との間に化学的に結合を生じさせるものであると、抗ウィルス性化合物(A)の接合性がより向上するため、好ましい。
しかし、本発明で用いることができる被膜形成用化合物としては、必ずしも化学結合を起こす物質に限定されるものではなく、抗ウィルス性化合物(A)と繊維構造体との間の親和性を高めて、抗ウィルス性化合物(A)を繊維構造体の表面に担持させるものであれば架橋反応しないものであっても用いることができる。
これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0038】
本発明の抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液に上記被膜形成用化合物を含有させる場合の、上記被膜形成用化合物の含有割合は特に限定するものではないが、上記処理液における被膜形成用化合物の濃度が0.01重量%以上0.5重量%以下であることが好ましく、0.03重量%以上0.3重量%以下であることがより好ましい。
すなわち、上記処理液は、対象とする繊維構造体に対し、上記被膜形成用化合物を絞り率100%として0.01%owf以上0.5%owf以下とすることができるものが好ましく、0.03%owf以上0.3%owf以下とすることができるものがより好ましい。
【0039】
本発明の抗ウィルス繊維構造体には、これら以外にも、必要に応じて、抗ウィルス性の向上や効果の持続性等を図るため、例えば、繊維加工用助剤、消臭剤、防腐剤、香料、油性成分、増粘剤、保湿剤、色素、pH調整剤、セラミド類、ステロール類、抗酸化剤、一重項酸素消去剤、紫外線吸収剤、美白剤、抗炎症剤、抗菌剤、他の抗ウィルス剤等の公知の任意成分を配合することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0040】
上記繊維加工用助剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、フィックス剤(Fixer)、防汚剤、緩染剤、蛍光増白剤、膨潤剤、浸透剤、乳化剤、分散剤、金属イオン封鎖剤、均染剤、沈殿防止剤、マイグレーション防止剤、キャリアー、防染剤、防しわ剤、風合い加工剤等があげられる。上記繊維加工用助剤を用いると、上記繊維構造体の変色、硬化、縮化等の異常や、抗ウィルス性化合物(A)の抗ウィルス性の喪失等を防止することができる傾向がみられる。
【0041】
このような繊維加工用助剤として、具体的には、無水炭酸ナトリウムで代表されるアルカリ塩化合物等;硫酸ナトリウム(芒硝)で代表される中性塩化合物等;アルキルエーテル型、多環フェニルエーテル型、ソルビタン誘導体、脂肪族ポリエーテル型等で代表される非イオン界面活性剤;第四級アンモニウム塩系で代表されるカチオン界面活性剤[抗ウィルス性化合物(A)として用いる第四級アンモニウムハロゲン化物を除く];ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等で代表されるアニオン界面活性剤;ビス(トリアジニルアミノ)スチルベンジスルホン酸誘導体、ビススチリルビフェニル誘導体、クマリン誘導体やピラゾリン誘導体等で代表される蛍光増白剤等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0042】
そして、本発明で用いる繊維構造体が不織布である場合には、上記繊維加工用助剤のうち、帯電防止剤、難燃剤および柔軟剤からなる群から選ばれた少なくとも一つを用いることが好ましい。とりわけ、カチオン性の帯電防止剤であれば、抗ウィルス性を阻害させることなく機能を追加することが可能となるため好ましい。
【0043】
<抗ウィルス繊維構造体の製造方法>
このような抗ウィルス繊維構造体は、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、上記抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液を準備し(処理液準備工程)、上記処理液に上記繊維構造体を接触させることにより(処理液接触工程)、本発明の抗ウィルス繊維構造体を得ることができる。
【0044】
(処理液準備工程)
上記抗ウィルス性化合物(A)を有する処理液は、例えば、抗ウィルス性化合物(A)を、水に溶解した水溶液が用いられるが、場合によっては、有機溶剤を溶媒とした溶液や、分散液等が用いられる。そして、上記処理液には、対象とする繊維構造体の種類や処理条件等に応じて、前記の繊維加工用助剤および任意成分を配合することができる。
【0045】
さらに、上記処理液において、使用する繊維加工用助剤および任意成分の種類、対象とする繊維構造体の繊維の材質等によっては、水とともに、あるいは水に代えて、エタノール、n-プロパノール、エチレングリコール等の水溶性有機溶剤を用いることができる。場合によっては、非水系溶剤を用いることもできる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0046】
(処理液接触工程)
例えば、上記繊維構造体を、上記処理液に浸漬する方法(第1の方法)をあげることができる。また、他の方法として、上記繊維構造体に対し、上記処理液をスプレー、コーティング等によって付着させる方法(第2の方法)があげられる。
【0047】
上記第1の方法において、処理液に含有させる抗ウィルス性化合物(A)の含有割合は、0.005~20.0%owf(on weight of fiber、繊維構造体に対する重量。w/w)となるよう設定することが好ましく、0.01~10.0%owfがより好ましい。浴比(対象素材に対する溶液量、重量比)は、1:5~1:30が好ましく、1:5~1:20がより好ましい。
【0048】
また、上記第2の方法において、繊維構造体に対し、上記処理液を、常圧下で、スプレー、コーティング等によって付着させる場合、用いる処理液に対する抗ウィルス性化合物(A)の割合は、0.005~20.0%ows(on weight of solution、処理液中の抗ウィルス性化合物(A)濃度。w/w)であることが好ましく、0.01~10.0%owsがより好ましい。
【0049】
(加熱処理工程)
かくして本発明の抗ウィルス繊維構造体を得ることができるが、上記抗ウィルス繊維構造体は、上記処理液に上記繊維構造体を接触させる工程の後に、さらに常圧または加圧下において40~230℃のキュア処理を含む、加熱処理が行われることが好ましい。
【0050】
上記第1の方法で得られた抗ウィルス繊維構造体に対しては、上記処理液に浸漬した状態での加熱処理が行われることが好ましい。そして、その温度、時間、圧力等の処理条件は、繊維の材質や形態に応じて適宜設定されるが、通常、40~230℃、0.1~60分間の範囲内に設定され、高温、高圧になるほど、加熱処理時間は短く設定される。
したがって、高温・長時間加熱が好ましくない繊維からなる繊維構造体を処理する場合は、圧力をかけて加熱条件を緩和することが好適である。また、化学繊維からなる繊維構造体を連続的に処理する場合は、設備上、常圧で処理を行うことが好ましく、バッチ式で処理を行う場合は、加圧処理によって処理時間の短縮を図ることが好ましい。なお、繊維構造体を加圧する際の圧力に制限はなく、例えば密閉系で加熱した際に生じる圧力の範囲であっても差し支えない。
【0051】
上記第2の方法で得られた抗ウィルス繊維構造体に対しては、マングル、あるいは遠心分離等で所定の絞り率で絞った後、常圧または加圧下で、加熱処理することが好ましい。上記加熱処理は、例えば、40~230℃の処理温度で行うことが好ましく、具体的には、例えば、100~130℃で、1~3分間の乾燥(目付量が少ない場合は予備乾燥を実施しない場合がある)することが好ましい。
【0052】
上記第1の方法および第2の方法で得られた抗ウィルス繊維構造体は、上述のとおり、いずれも加熱処理工程の後、40~230℃でキュア処理することが好ましく、より好ましくは80~130℃でキュア処理することである。
上記キュア処理の時間は、繊維構造体の目付、物性により30秒~1時間程度が好ましい。キュア処理の温度、時間が不足すると抗ウィルス性が乏しくなる傾向がみられる。一方、キュア処理の温度、時間が上記の範囲を超えると、繊維構造体の異常(硬化、縮み、変色等)を引き起こす傾向がみられる。
【0053】
なお、上記抗ウィルス性化合物(A)を上記繊維構造体に充分に固着させるには高温(80℃以上)でのキュア処理を行うことが好ましいが、使い捨て用途に用いるものであれば、繰り返して用いる必要がなく洗濯耐久性が要求されないため、低温(70℃未満)で行ってもよく、40~230℃で行うことがより好ましく、80~130℃で行うことがさらに好ましい。
【0054】
このようにして得られた抗ウィルス繊維構造体は、上記抗ウィルス性化合物(A)が上記繊維構造体の少なくとも表面に担持されており、エンベロープ型、非エンベロープ型の両ウィルスに対して抗ウィルス性を発揮することができる。しかも、人体に対する安全性が高く、衣料やインテリア用途に好ましく用いることができる。また、繊維構造体として特定の目付のものを用いているため、対象とするウィルスが繊維構造体内部をマイグレーションしやすくなり、繊維構造体に担持された上記抗ウィルス性化合物(A)との接触確率が高くなると考えられることから、対象とするウィルスを短時間で不活性化させることができる。さらに、新型コロナウィルスに対して、短時間で優れた抗ウィルス性を発揮できる。
【0055】
<抗ウィルス加工製品>
本発明の抗ウィルス繊維構造体は、種々の加工製品に用いることができる。
このような加工製品としては、例えば、医療用品(防護服、滅菌袋等)や、衛生用品(ダストボックス、使い捨て手袋、使い捨てマスク等)、調理用品(トレー等)があげられる。また、寝装寝具(カーテン、シーツ、タオル、布団地、布団綿、マット、カーペット、枕カバー等)、衣料(コート、スーツ、セーター、ブラウス、ワイシャツ、肌着、帽子、マスク、靴下、手袋等)、ユニフォーム(白衣、作業着、学童服等)等があげられる。
さらに、医療用品以外の防護服、おむつ、介護シート、シャワーカーテン、車シート、シートカバー、天井材等の内装材、テント、防虫・防鳥ネット、間仕切りシ-ト、空調フィルタ、掃除機フィルタ、マスク、テーブルクロス、机下敷き、前掛け、壁紙、包装紙等があげられる。
なかでも、新型コロナウィルスに対して、抗ウィルス繊維構造体の表面での接触だけで効果的に抗ウィルス性を発現しうることが期待できる点から、医療用品(防護服、滅菌袋等)、(ダストボックス、使い捨て手袋、使い捨てマスク等)、調理用品(トレー等)、医療用品以外の防護服に用いることが好ましく、とりわけ防護服(医療用品を含む)として好ましく用いられる。
【0056】
<抗ウィルス繊維構造体の性能とその評価>
本発明の抗ウィルス繊維構造体は、抗ウィルス性を有しているが、抗ウィルス性については、とりわけエンベロープ型ウィルスに対して優れた効果を示す。また、抗ウィルス性が短時間(例えば、5~10分間)の接触であっても認められるため、上記抗ウィルス繊維構造体は、より慎重な対応が求められるウィルスに対する医療用品に好ましく用いることができる。
【0057】
本発明の抗ウィルス繊維構造体が効果を奏するウィルスの種類をより詳しく述べるとエンベロープを有するウィルスである、ポックスウィルス、オルソミクソウィルス(代表例として、人インフルエンザウィルス、鳥インフルエンザウィルス)、コロナウィルス、パラミクソウィルス、アレナウィルス、ラブドウィルス、レトロウィルス、ブニヤウィルス、ヘルペスウィルス、トガウィルス、パポーバウィルス、ポルボウィルス、フィロウィルス等があげられ、とりわけ、人インフルエンザウィルス、鳥インフルエンザウィルスおよびコロナウィルスに対して高い効果が認められ、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)に対しても極めて効果的である。また、エンベロープを有しないウィルスである、アデノウィルス、ポリオウィルス、ノロウィルス、ロタウィルス等もあげられる。
【0058】
つぎに、本発明において、抗ウィルス性を評価するための試験方法について説明する。
【0059】
<抗ウィルス性評価のための試験方法>
本発明における抗ウィルス性の評価は、後記に示す抗ウィルス測定法によって求められる抗ウィルス活性値によってその有効性を判断するものである。なお、上記抗ウィルス活性値が5であるとは、ウィルスの感染価(細胞感染性を持つウィルス粒子の数)が1/100000に減少した(ウィルスの不活化が実現した)ことを意味する。
【0060】
(抗ウィルス測定法)
対象ウィルスは、新型コロナウィルス(エンベロープ型)とする。なお、上記新型コロナウィルスは、SARS-CoV-2(JPN/TY/WK521)を用いる。そして、測定の対象である繊維構造体と上記ウィルスを含有する液(以下「ウィルス液」とすることがある)を室温の条件下で10分間接触させた後、上記ウィルス液をVeroE6/TMPRSS2細胞で後培養し、培養細胞でウィルスの増減(感染価)を算出し、ブランク(未処理素材)との対数値差を算定して抗ウィルス活性値を求めるものとする。
【実施例0061】
つぎに、本発明の実施例を、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1~11、比較例1~3]
まず、表1に示すとおりに、抗ウィルス性化合物(A)と繊維構造体とを用いて本発明の抗ウィルス繊維構造体を後記に示す手順で作製した。なお、表1の抗ウィルス性化合物(A)の値は、繊維構造体100重量部に対する重量部で示している。
使用した抗ウィルス性化合物(A)の略称と繊維構造体の詳細を下記に示す。
【0063】
・抗ウィルス性化合物(A)
DDAC:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(分子量:362)
PHMB:ポリヘキサメチレンビグアニジンクロライド(分子量:2000)
BAC:アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(分子量:354)
PDIEC:ポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルエチレンイミノ)エチレンジクロライド(分子量:4000以上)
【0064】
・繊維構造体
不織布1:ポリエチレンテレフタレート(PET)100%、単糸繊度3dtex、目付50g/m2
不織布2:ポリプロピレン(PP)100%、単糸繊度3dtex、目付40g/m2
不織布3:PP/ポリエチレン(PE)混紡、単糸繊度3dtex、目付20g/m2
不織布4:PET/PE混紡、単糸繊度3dtex、目付32g/m2
不織布5:PET/レーヨン混紡、単糸繊度3dtex、目付50g/m2
織物1:PET65%・綿35%の混紡(T/C)、単糸繊度45dtex、目付75g/m2、トータルCF1644。
織物2:PET65%・綿35%の混紡(T/C)、単糸繊度157dtex、目付200g/m2、トータルCF2683。
織物3:綿100%、単糸繊度197dtex、目付250g/m2、トータルCF3000。
【0065】
そして、各抗ウィルス性化合物(A)を表1に示す割合となるように加えた処理液を作製した。上記処理液に各繊維構造体を2秒間浸漬した後、マングルで100%絞りとし、不織布(1~5)は130℃で1分間キュア処理(キュアリング)を実施した。織物(1、2)は180℃で1.5分間キュアリングを実施した。織物3は100℃で1.5分間キュアリングを実施した。なお、加工時の圧力は、いずれの段階においても常圧(加圧も減圧もしていない状態)である。
【0066】
このようにして得られた各抗ウィルス繊維構造体について、前述の抗ウィルス測定法により抗ウィルス活性値を測定し、その抗ウィルス性を下記の指標に基づき評価した。その結果を下記の表1に併せて示す。
×:抗ウィルス活性値が2.0未満。
△:抗ウィルス活性値が2.0以上3.0未満。
〇:抗ウィルス活性値が3.0以上5.0未満。
◎:抗ウィルス活性値が5.0以上。
【0067】
【表1】
【0068】
上記表1の結果から、本発明の実施例品である実施例1~11は、いずれも優れた抗ウィルス性を発揮していることがわかる。しかも、本発明の実施例品は、短時間の接触であっても充分な効果を発揮し、とりわけ新型コロナウィルスに対して優れた効果を発揮することがわかった。
一方、繊維構造体として、目付が120g/m2を超えるものを用いている比較例1、2では、抗ウィルス性を発揮できなかった。また、抗ウィルス性化合物(A)として、第四級アンモニウムハロゲン化物を用いているものの、その分子量が3000を超えるものを用いている比較例3は、抗ウィルス性を発揮できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、短時間の接触であっても確実に抗ウィルス性を発揮し、安全性の高い抗ウィルス繊維構造体として利用することができる。