(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098421
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】がん罹患者の全生存期間を予測する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220624BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20220624BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20220624BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220624BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220624BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
G01N33/53 N
B01J20/281 R
G01N30/88 J
G01N33/574 A
C12N15/12 ZNA
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157791
(22)【出願日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020211466
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】308038613
【氏名又は名称】公立大学法人和歌山県立医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】洪 泰浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 信之
(72)【発明者】
【氏名】小柳 潤
(72)【発明者】
【氏名】秋山 泰之
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QR72
4B063QS17
(57)【要約】
【課題】 がんを患っている被検者の血液由来試料から当該被検者の予後、特に全生存期間を精度よく予測する方法を提供すること。
【解決手段】 抗体医薬品の投与前に採取した、がんを患っている被検者の血液由来試料をFc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに供し当該試料中に含まれるガンマグロブリンを分離することで前記ガンマグロブリンの分離パターンを得る第一工程と、第一工程で得られた分離パターンから各ピーク面積を算出し当該面積の比を算出する第二工程と、第二工程で得られた比に基づき前記患者における全生存期間を予測する工程とを含む方法により、前記課題を解決する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを患っている被検者の全生存期間を予測する方法であって、
以下の(1)から(3)の工程を含み、
(1)前記被検者から採取された血液由来試料を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに供し、当該試料中に含まれるガンマグロブリンを分離することで、前記ガンマグロブリンの分離パターンを得る工程;
(2)(1)で得られた分離パターンから各ピーク面積を算出し、当該面積の比を算出する工程;
(3)(2)で得られた比に基づき、前記被検者の全生存期間を予測する工程;
かつ、前記血液由来試料は、前記被検者への抗体医薬品の投与前に採取された試料である、方法。
【請求項2】
前記被検者が化学療法前治療歴のある患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記がんが肺がんである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記Fc結合性タンパク質がヒトFcγレセプターである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ヒトFcγレセプターが、以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるポリペプチドである、請求項4に記載の方法:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも配列番号1に記載の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換されたポリペプチド;
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも配列番号1に記載の176番目のバリンのフェニルアラニンへの置換を有し、さらに当該176番目以外の1もしくは数個の位置にて、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(iii)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列において、配列番号1に記載の176番目のバリンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されており、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん罹患者の全生存期間を予測する方法に関する。特に本発明は、がん罹患者の血液由来試料に含まれる成分を解析することで、当該罹患者の全生存期間を精度よく予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん患者の予後を明らかにする診断は、治療方針や治療効果のモニタリングにおいて重要な情報を与えることから、最適な療法の選択を行なう上での有用な指標となる。予後診断は、患者が抱える病状における危険性や生存の確率に関する情報を医師に与え、最適な療法を選択できるため、不必要な治療を患者に行なうリスクを低減させることに繋がる。そのため、不必要な治療に対する費用の節約だけでなく、最適な治療選択による患者の予後改善に寄与できる。
【0003】
治療を補助するための診断として、可溶性腫瘍抗原による診断が行なわれている。可溶性腫瘍抗原は、腫瘍細胞から分泌されるため、血液中または組織試料中で検出でき、治療効果のモニターなど多くの診断に対する試みがなされている。例えば、消化器癌に対する腫瘍マーカーとしてCEA(Carcinoembryonic Antigen)やCA19-9(Carbohydrate Antigen 19-9)などが用いられている。しかし、可溶性腫瘍抗原は腫瘍細胞の破壊によっても放出されるため、がんを患っている患者の予後を十分に反映しているとは限らない。
【0004】
可溶性腫瘍抗原に代わる癌診断マーカーとして、血液由来試料中に存在する循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell、以下CTC)が用いられている。特許文献1では、転移性乳癌を患っている患者における上皮系マーカーを発現したCTCの絶対数やその変化を評価することで、疾患増悪および死亡率に関する予後指標を提供する方法を開示している。また引用文献2では、血液由来試料中に存在する白血球マーカーおよび上皮系マーカーの発現がほとんどないCTCを検出し計数することにより、がんを患っている患者の予後を精度良く予測する方法を開示している。しかしながら、血液由来試料中に存在するCTCは極めて少なく、血液由来試料1mLあたり10個程度しか含まれない。そのため、血液由来試料中に含まれるCTCの回収が適切でないと、がん患者の予後予測が精度よくできないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008-533487号公報
【特許文献2】特開2017-129584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、がん罹患者の血液由来試料から当該罹患者の予後、特に全生存期間を精度よく予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、がん罹患者の血液由来試料中に含まれるガンマグロブリンが有する糖鎖構造の違いに基づき、前記罹患者の全生存期間を精度よく予測できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通り例示できる。
【0009】
[1] がんを患っている被検者の全生存期間を予測する方法であって、
以下の(1)から(3)の工程を含み、
(1)前記被検者から採取された血液由来試料を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに供し、当該試料中に含まれるガンマグロブリンを分離することで、前記ガンマグロブリンの分離パターンを得る工程;
(2)(1)で得られた分離パターンから各ピーク面積を算出し、当該面積の比を算出する工程;
(3)(2)で得られた比に基づき、前記被検者の全生存期間を予測する工程;
かつ、前記血液由来試料は、前記被検者への抗体医薬品の投与前に採取された試料である、方法。
【0010】
[2] 前記被検者が化学療法前治療歴のある患者である、[1]に記載の方法。
【0011】
[3] 前記がんが肺がんである、[1]または[2]に記載の方法。
【0012】
[4] 前記Fc結合性タンパク質がヒトFcγレセプターである、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
【0013】
[5] 前記ヒトFcγレセプターが、以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるポリペプチドである、[4]に記載の方法:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも配列番号1に記載の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換されたポリペプチド;
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも配列番号1に記載の176番目のバリンのフェニルアラニンへの置換を有し、さらに当該176番目以外の1もしくは数個の位置にて、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(iii)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列において、配列番号1に記載の176番目のバリンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されており、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、がん罹患者から、抗体医薬品の投与前に採取した血液由来試料を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに供することで、当該試料中に含まれるガンマグロブリンの分離パターンを取得し、当該分離パターンから各ピークの面積比を算出し、当該比に基づき前記罹患者の全生存期間を予測することを特徴としている。前記全生存期間を予測することで、予後が良好または不良な罹患者を層別化できることから、治療方針を決める上での指標や、新たな治療薬の開発ターゲットを選定する上での指標となり得る。特に本発明の方法は、抗体医薬品投与前の血液由来試料を用いることから、治療を行なう前に治療方針を定める指標が得られ、罹患者に対して不要な治療を行なうリスクを低減できる。また本発明の方法は、血液由来試料に多く含まれているガンマグロブリンを測定対象としていることから、測定に供する血液由来試料の量が非常に少なく済み、採血に伴う罹患者の負担を抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】Fc結合性タンパク質固定化ゲル充填カラムで抗体を分析して得られる標準物質および測定サンプルの分離パターンの一例を示した図。
【
図2】健常者および肺がん患者由来ガンマグロブリンをFc結合性タンパク質固定化ゲルを充填したカラムで分析した際の第1ピーク面積%値および第3ピーク面積%値の箱ひげ図を示した図。
【
図3】肺がん患者由来ガンマグロブリンをFc結合性タンパク質固定化ゲルを充填したカラムで分析して得られた第1ピーク面積/全面積に対して、各患者から得られた当該測定値の中央値で高値の群と低値の群とに分けた際の無増悪生存期間および全生存期間をカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法により示した図。
【
図4】肺がん患者由来ガンマグロブリンをFc結合性タンパク質固定化ゲルを充填したカラムで分析して得られた第2ピーク面積/全面積に対して、各患者から得られた当該測定値の中央値で高値の群と低値の群とに分けた際の無増悪生存期間および全生存期間をカプラン・マイヤー法により示した図。
【
図5】肺がん患者由来ガンマグロブリンをFc結合性タンパク質固定化ゲルを充填したカラムで分析して得られた第3ピーク面積/全面積に対して、各患者から得られた当該測定値の中央値で高値の群と低値の群とに分けた際の無増悪生存期間および全生存期間をカプラン・マイヤー法により示した図。
【
図6】肺がん患者由来ガンマグロブリンをFc結合性タンパク質固定化ゲルを充填したカラムで分析して得られた第3ピーク面積/第1ピーク面積に対して、各患者から得られた当該測定値の中央値で高値の群と低値の群とに分けた際の無増悪生存期間および全生存期間をカプラン・マイヤー法により示した図。
【
図7】肺がん患者由来ガンマグロブリンをFc結合性タンパク質固定化ゲルを充填したカラムで分析して得られた第3ピーク面積/第2ピーク面積に対して、各患者から得られた当該測定値の中央値で高値の群と低値の群とに分けた際の無増悪生存期間および全生存期間をカプラン・マイヤー法により示した図。
【
図8】肺がん患者由来ガンマグロブリンをFc結合性タンパク質固定化ゲルを充填したカラムで分析して得られた第2ピーク面積/第1ピーク面積に対して、各患者から得られた当該測定値の中央値で高値の群と低値の群とに分けた際の無増悪生存期間および全生存期間をカプラン・マイヤー法により示した図。
【
図9】健常者、肺がん患者およびCOPD患者由来ガンマグロブリンをFc結合性タンパク質固定化ゲルを充填したカラムで分析した際の第1ピーク面積%値および第3ピーク面積%値の箱ひげ図を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明は、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を利用して血液由来試料に含まれるガンマグロブリン(以下、「抗体」とも記載)を分離して得られる分離パターンから各ピークの面積比を算出し、当該面積比から、がん罹患者の全生存期間を予測する方法を提供する。
【0018】
本発明の方法は、具体的には、以下の工程<1>から<5>を含む、前記罹患者(被検者)の全生存期間を予測する方法であってよい:
<1>被検者の血液由来試料を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに添加し、当該試料に含まれる抗体を当該担体に吸着させる工程;
<2>前記カラムに平衡化液を添加し、前記カラムを平衡化する工程;
<3>前記カラムに溶出液を添加し、前記担体に吸着した抗体を溶出させ、抗体の分離パターンを得る工程;
<4>前記分離パターンから各ピーク面積を算出し、当該面積の比を算出する工程;
<5>前記面積比に基づき、前記被検者における全生存期間を予測する工程。
【0019】
以下、工程<1>から<5>を、それぞれ、「吸着工程」および「平衡化工程」、「溶出工程」、「ピーク面積算出工程」、「予測工程」ともいう。
【0020】
<被検者の血液由来試料>
本発明の方法の対象となる「被検者」とは、がんを患っており、全生存期間予測の対象とするヒト個体を意味する。被検者は、男性であってもよく、女性であってもよい。被検者は、子供、若者、中年、老人等、いずれの年代の個体であってもよい。
【0021】
本発明の方法に供される血液由来試料は、被検者から抗体医薬品の投与前に採取されたものであることを特徴としている。抗体医薬品の投与前に採取した血液由来試料に含まれるガンマグロブリンを対象とすることで、被検者の全生存期間を精度よく予測でき、さらに抗体医薬品投与による治療開始前に予後を予測できるため、不要な治療を行なうことなく適した治療方針を策定する指標として用いることも可能となる。特に、化学療法前治療歴があり、かつ抗体医薬品の投与前に採取した患者からの血液由来試料を用いると、さらに精度よく全生存期間を予測できる点で好ましい。
【0022】
ここで「化学療法前治療歴」とは、がんを患っている被検者のうち、本発明の予測方法を行なう前に、化学療法を受けたことを意味する。前記化学療法で用いる化学療法剤は、低分子医薬であれば特に制限はない。がんが肺がんである場合の化学療法剤の一例として、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチンなどのプラチナ製剤や、エトポシド、イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、アムルビシン、ノギテカン、ペメトレキセド、ナブパクリタキセル、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムがあげられる。
【0023】
「血液由来試料」とは、被検者から得られた抗体を含む、もしくは含み得る血液由来の試料を意味する。血液由来試料としては、血液(全血)、希釈血液、血清、血漿、髄液、臍帯血、成分採血液等の血液試料;尿、唾液、精液、糞便、痰、羊水、腹水等の血液由来成分を含み得る試料;それらから分離された抗体もしくはそれらに含む抗体を含み得る試料が挙げられる。血液由来試料は、そのまま、または適宜前処理に供してから、吸着工程に用いてよい。前処理は、例えば、定法により実施してよい。前処理としては、遠心分離やカラムによる精製が挙げられる。具体的には、例えば、ガンマグロブリンを精製して吸着工程に用いてもよい。血液由来試料は、抗体を含む溶液の形態で吸着工程に用いられる。すなわち、血液由来試料は、適宜、抗体を含む溶液の形態に調製して吸着工程に用いてよい。例えば、上記例示したような血液由来試料またはその前処理物を、適宜、液体媒体で溶解、懸濁、分散、または溶媒交換等して、抗体を含む溶液として吸着工程に用いてよい。そのような液体媒体については、例えば、後述する平衡化液についての記載を準用できる。液体媒体は、平衡化液と同一であってもよく、同一でなくてもよい。前記前処理を行なった血液由来試料や前記抗体を含む溶液を含めて、本明細書では「血液由来試料」という。
【0024】
「抗体医薬品」とは、被検者に投与される抗体医薬品を意味し、特に制限はない。抗体医薬品の一例として、abagovomab、abatacept、abciximab、ABT-414、adalimumab、adalimumab、adalimumab-atto、aducanumab、afelimomab、aflibercept、aflibercept、alefacept、alemtuzumab、alemtuzumab、alirocumab、altumomab、ALX-0061、amatuximab、amivantamab、anifrolumab、arcitumomab、atezolizumab、avelumab、bapineuzumab、basiliximab、bavituximab、begelomab、belatacept、belimumab、benralizumab、besilesomab、bevacizumab、bezlotoxumab、bimagrumab、blinatumomab、bococizumab、brentuximab vedotin、Briakinumab、brodalumab、canakinumab、capromab、catumaxomab、certolizumab pegol、cetuximab、crenezumab、daclizumab、daclizumab、daratumumab、demcizumab、denosumab、denosumab、denosumab、dinutuximab、dupilumab、durvalumab、dusigitumab、eculizumab、edrecolomab、efalizumab、efungumab、elotuzumab、epratuzumab、etanercept、etanercept、etanercept-szzs、etaracizumab、etrolizumab、evolocumab、fresolimumab、gantenerumab、gemtuzumab ozogamicin、gevokizumab、girentuximab、golimumab、golimumab、GSK2398852、guselkumab、ibritumomab tiuxetan、idarucizumab、igovomab、imciromab pentetate、infliximab、infliximab、infliximab、infliximab-dyyb、inotuzumab ozogamicin、ipilimumab、ixekizumab、labetuzumab、lampalizumab、lebrikizumab、lifastuzumab vedotin、lintuzumab、lorvotuzumab mertansine、lulizumab pegol、margetuximab、mavrilimumab、mepolizumab、milatuzumab、mitumomab、mogamulizumab、motavizumab、moxetumomab pasudotox、muromonab-CD3、natalizumab、natalizumab、necitumumab、necitumumab、nesvacumab、nimotuzumab、nivolumab、nivolumab、nofetumomab、obiltoxaximab、obinutuzumab、ocrelizumab、ofatumumab、olaratumab、omalizumab、otelixizumab、ozanezumab、palivizumab、panitumumab、pascolizumab、pembrolizumab、pemtumomab、pertuzumab、pidilizumab、polatuzumab vedotin、racotumomab、ramucirumab、ranibizumab、raxibacumab、reslizumab、rilonacept、rilotumumab、rituximab、romiplostim、romosozumab、sacituzumab govitecan、satumomab、secukinumab、seribantumab、sifalimumab、silutuximab、simtuzumab、sirukumab、solanezumab、sulesomab、tabalumab、tanezumab、tarextumab、tildrakizumab、tilmanocept、tocilizumab、tositumomab、tralokinumab、trastuzumab、trastuzumab emtansine、trastuzumab deruxtecan、tremelimumab、ustekinumab、vantictumab、vedolizumab、veltuzumab、votumumab、yttrium(90Y) clivatuzumab tetraxetanがあげられる。
【0025】
<1>吸着工程
吸着工程は、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに前記被検者から採取した血液由来試料を添加し、当該試料に含まれる抗体を当該担体に吸着させる工程である。
【0026】
「抗体(ガンマグロブリン)」とは、Fc領域を含む分子を意味する。抗体は、Fc領域からなるものであってもよく、Fc領域に加えて他の領域を含んでいてもよい。Fc領域としては、免疫グロブリンのFc領域が挙げられる。抗体は、糖鎖が付加されていてよい。抗体は、例えば、少なくともそのFc領域に糖鎖が付加されていてよい。抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。抗体としては、免疫グロブリンが挙げられる。免疫グロブリンとしては、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEが挙げられる。免疫グロブリンとしては、特に、IgGが挙げられる。IgGとしては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が挙げられる。抗体に付加される糖鎖のうち、特に抗体の分離に寄与し得る糖鎖としては、G0、G0F、G1、G0F+GN、G1Fa、G1Fb、G1F+GN、G2、G2F、G1F+SA、G2F+SA、G2F+2SA、G2F+GN、G2+SA、G2+2SA、S1、S2、S3などが挙げられる(GNはバイセクティングGlcNAcの、Fはフコースの、SAはシアル酸の、それぞれ略)。
【0027】
ヒト由来の抗体は、通常、シアル酸(SA)を有する抗体を含む。ヒト由来の抗体におけるシアル酸を有する抗体の含有量は、例えば、抗体の総含有量に対して、重量比で、0.1から20%程度であり得る。ヒト由来の抗体においては、シアル酸が糖鎖末端に2つ結合することが多い。さらに、ヒト由来の抗体は、通常、バイセクティングGlcNAc(GN)を、抗体の総含有量に対して、重量比で、1から20%程度含み得る。一方、ハムスターおよびマウス由来の抗体には、通常、バイセクティングGlcNAcは存在せず、糖鎖末端のシアル酸結合数は0または1個である。
【0028】
吸着工程に供される抗体は、複数種類の抗体分子を含む混合物であってよい。吸着工程に供される抗体は、具体的には、糖鎖構造の異なる複数種類の抗体分子を含む混合物であってよい。吸着工程に供される抗体は、より具体的には、Fc領域に付加された糖鎖構造の異なる複数種類の抗体分子を含む混合物であってよい。
【0029】
「Fc結合性タンパク質」とは、試料中に含まれる抗体のFc領域に対する結合能を有し、かつ抗体の糖鎖構造(例えば、Fc領域の糖鎖構造)の違いを認識できるポリペプチドであれば、特に制限はない。例えば、前記抗体がヒト由来の抗体である場合、Fc結合性タンパク質として、ヒトFc結合性タンパク質が挙げられる。ヒトFc結合性タンパク質の好ましい例として、ヒトFcレセプターが挙げられる。ヒトFcレセプターには、ヒト免疫グロブリンG(IgG)に対するレセプターであるヒトFcγレセプター、ヒト免疫グロブリンA(IgA)に対するレセプターであるヒトFcαレセプター、ヒト免疫グロブリンD(IgD)に対するレセプターであるヒトFcδレセプター、ヒト免疫グロブリンE(IgE)に対するレセプターであるヒトFcεレセプター等が挙げられるが、いずれのレセプターも本発明におけるヒトFc結合性タンパク質として利用可能である。なお本明細書において「ヒト由来の抗体」とは、少なくともヒト由来のFc領域を有したガンマグロブリン(抗体)であればよく、ヒト抗体でもよく、ヒト化抗体でもよく、キメラ抗体であってもよい。
【0030】
ヒトFcγレセプターの具体例として、ヒトFcγRI(CD64)、ヒトFcγRIIa(CD32a)、ヒトFcγRIIb(CD32b)、ヒトFcγRIIc(CD32c)、ヒトFcγRIIIa(CD16a)またはヒトFcγRIIIb(CD16b)の細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチド、ならびに当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入および/または付加したポリペプチドが挙げられる。中でも、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチドや、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入おび/または付加したポリペプチドが、本発明でヒトFc結合性タンパク質として用いるヒトFcγレセプターとして好ましい。
【0031】
ヒトFcγRIIIaの細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチドや、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入および/または付加したポリペプチドの具体例として、以下の(i)から(iii)に記載のポリペプチドが挙げられる。
(i)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも配列番号1に記載の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換されているポリペプチド;
(ii)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも配列番号1に記載の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換され、さらに当該176番目以外の1若しくは数個の位置にて、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(iii)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列において、配列番号1に記載の176番目のバリンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されており、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0032】
前記(ii)に記載のポリペプチドの一例として、
配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目から199番目までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
特開2015-086216号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2016-169197号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2017-118871号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2018-197224号公報で開示のFc結合性タンパク質、
WO2019/083048号で開示のFc結合性タンパク質、
があげられる。
【0033】
また前記(ii)に記載の置換、欠失、挿入および付加の例として、前述した公報(特開2015-086216号公報、特開2016-169197号公報、特開2017-118871号公報、特開2018-197224号公報およびWO2019/083048号)で開示しているアミノ酸残基の置換があげられる。前記(ii)における「1もしくは数個」とは、例えば、1から50個、好ましくは1から40個、より好ましくは1から30、更に好ましくは1から20個、特に好ましくは1から10個であってよい。
「1もしくは数個」のアミノ酸残基の置換は、例えば、抗体結合活性を有する限り、前述した公報で開示のアミノ酸残基の置換以外の位置に生じてよい。
【0034】
前記(iii)において「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味し、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラムを用いて決定できる。例えば、「アミノ酸配列の同一性」とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。相同性は70%以上であればよく、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有していてもよい。
【0035】
また、本発明において、各アミノ酸残基の「何番目」とは、各配列番号に記載のアミノ酸配列において最初のメチオニンを1番目とする順番を意味する。したがって、本発明にかかる「176番目」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列の176番目を意味する。さらに、「配列番号1の176番目のバリンに相当するアミノ酸残基」とは、前記70%以上の相同性を有するアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該アミノ酸配列と配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列とのアラインメントにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列における176番目のバリンと同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。
【0036】
Fc結合性タンパク質は、例えば、Fc結合性タンパク質をコードする遺伝子を有する宿主に同遺伝子を発現させることで製造できる。Fc結合性タンパク質をコードする遺伝子は、例えば、クローニング、化学合成、変異導入、またはそれらの組み合わせにより取得できる。宿主は、Fc結合性タンパク質を発現できるものであれば、特に制限されない。宿主としては、動物細胞、昆虫細胞、微生物などが挙げられる。動物細胞としては、COS細胞、CHO細胞、Hela細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞などが挙げられる。昆虫細胞としては、Sf9細胞、BTI-TN-5B1-4細胞などが挙げられる。微生物としては、酵母や細菌が挙げられる。酵母としては、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属酵母、Pichia Pastoris等のPichia属酵母、Schizosaccharomyces pombe等のSchizosaccharomyces属酵母などが挙げられる。細菌としては、Escherichia coli等のEscherichia属細菌などが挙げられる。Escherichia coliとしては、W3110株、JM109株、BL21(DE3)株などが挙げられる。また、Fc結合性タンパク質は、例えば、Fc結合性タンパク質をコードする遺伝子を無細胞タンパク質合成系で発現させることでも製造できる。
【0037】
「不溶性担体」とは、本発明においてカラムに通液される液体(例えば、平衡化液や溶出液等の、抗体の吸着または溶出に用いる液体)に対して不溶性である担体を意味する。不溶性担体は、Fc結合性タンパク質を共有結合で固定化するための官能基(例えばヒドロキシ基)を備えていてよい。不溶性担体としては、ジルコニア、ゼオライト、シリカ、皮膜シリカ等の無機系物質に由来した担体、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然有機高分子物質に由来した担体、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリレート、ビニルポリマー等の合成有機高分子物質に由来した担体などが挙げられる。
【0038】
Fc結合性タンパク質は、不溶性担体に固定化されている。前記担体へのFc結合性タンパク質の固定化は、例えば、不溶性担体が有する、Fc結合性タンパク質を共有結合で固定化するための官能基(例えばヒドロキシ基)を利用して、共有結合で不溶性担体に固定化できる。例えば、不溶性担体が表面にヒドロキシ基を有する場合、活性化剤を用いて当該ヒドロキシ基からFc結合性タンパク質と共有結合可能な活性化基を形成し、当該活性化基とFc結合性タンパク質とを共有結合させることで固定化できる。ヒドロキシ基に対する活性化剤の具体例として、エピクロロヒドリン(活性化基としてエポキシ基を形成)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(活性化基としてエポキシ基を形成)、トレシルクロリド(活性化基としてトレシル基を形成)、ビニルブロミド(活性化基としてビニル基を形成)などが挙げられる。また、ヒドロキシ基をアミノ基やカルボキシル基等に変換した後、活性化剤を作用させて活性化することもできる。アミノ基やカルボキシル基等に対する活性化剤の具体例として、3-マレイミドプロピオン酸 N-スクシンイミジル(活性化基としてマレイミド基を形成)、1,1’-カルボニルジイミダゾール(活性化基としてカルボニルイミダゾール基を形成)、ハロゲン化酢酸(活性化基としてハロアセチル基を形成)などが挙げられる。
【0039】
Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体(以下、「抗体分離剤」とも記載)を充填したカラム(以下、「抗体分離剤カラム」とも記載)に、試料採取工程で被検者から採取した血液由来試料を添加することで、当該試料に含まれる抗体を抗体分離剤に吸着できる。血液由来試料は、例えば、ポンプ等の送液手段を用いてカラムに添加できる。液体をカラムに添加することを、「液体をカラムに送液する」ともいう。血液由来試料の添加量、液相の種類、液相の送液速度、カラム温度等の吸着工程の実施条件は、前記試料に含まれる抗体が抗体分離剤に吸着できる限り、特に制限されない。吸着工程の実施条件は、抗体の種類、Fc結合性タンパク質の種類、不溶性担体の種類、カラムのスケール等の諸条件に応じて適宜設定できる。液相としては、後述する平衡化液が挙げられる。送液速度は、例えば、カラムの内径が4.6mmの場合に、0.1mL/分以上2.0mL/分以下、0.2mL/分以上1.5mL/分以下、または0.4mL/分以上1.2mL/分以下であってよい。送液速度は、例えば、カラムの内径の2乗に比例するように設定してよい。カラム温度は、例えば、0℃以上から50℃以下であってよい。
【0040】
<2>平衡化工程
平衡化工程は、吸着工程で抗体分離剤に吸着した抗体を平衡化液(同様の意味で「平衡化緩衝液」とも記載)を用いて、抗体分離剤カラムを平衡化する工程である。抗体を含む溶液を前記カラムに添加する前に、平衡化液を用いて平衡化してよい。すなわち、本発明は、吸着工程の前に、前記カラムに平衡化液を添加し平衡化する工程を含んでいてよい。
【0041】
平衡化することで、不溶性担体に固定化されたFc結合性タンパク質とは結合しない、または吸着工程では抗体分離剤に吸着できたが平衡化緩衝液では吸着できない抗体を抗体分離剤カラムから除ける。平衡化工程で抗体分離剤に吸着できない(脱離した)抗体を含む画分を未吸着画分といい、血液由来試料を前記カラムに添加後、検出されるピークが平衡化中に最小値を取るまでの領域の画分のことをいう。未吸着画分と溶出液添加後に検出されるピーク領域とは分離時間として離れている方が分離精度が高く好ましく、特に未吸着画分と溶出液添加後に検出されるピーク領域との間の検出値が一定値を取っていると、平衡化工程により未吸着画分が前記カラムから十分に除かれたことがわかる点で好ましい。「一定値」とは、同一の値以外にも検出値が一定の傾きをもって変化する状態をも含める。
【0042】
平衡化液(平衡化緩衝液)としては、水性緩衝液が挙げられる。平衡化液はpH5.0より大きくpH9.0未満の弱酸性から弱アルカリ性緩衝液であり、好ましくはpH5.2以上pH8.0以下の緩衝液であり、さらに好ましくはpH5.4以上pH7.5以下の緩衝液である。緩衝液の成分は、緩衝液のpH等の諸条件に応じて適宜選択できる。緩衝液の成分としては、リン酸、酢酸、ギ酸、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)、クエン酸、コハク酸、グリシン、ピペラジンなどが挙げられる。また、緩衝液にさらに塩を加えてもよく、当該塩も塩化ナトリウムや塩化カリウム等の同業者が容易に想定し得る塩であれば特に限定されない。
【0043】
<3>溶出工程
溶出工程は、平衡化工程で平衡化した抗体分離剤カラムに、溶出液(以下、「溶出緩衝液」とも記載)を添加し、前記分離剤に吸着した抗体を溶出させ、抗体の分離パターンを得る工程である。
【0044】
すなわち、前記カラムに溶出液を添加することにより、抗体分離剤に吸着した抗体を溶出できる。溶出液の種類、溶出液の送液形式、液相の送液速度、カラム温度等の溶出工程の実施条件は、所望の態様で抗体が分離される限り、例えば、所望の分離パターンが得られる限り、特に制限されない。溶出工程の実施条件は、抗体の種類、Fc結合性タンパク質の種類、不溶性担体の種類、カラムのスケール等の諸条件に応じて適宜設定できる。溶出液としては、抗体とFc結合性タンパク質との親和性を弱める溶液を利用できる。溶出液としては、溶出前の液相(例えば、平衡化液)よりもpHが低い水性緩衝液が挙げられる。溶出液として、具体的には、pH2.5以上4.5以下の酸性緩衝液が挙げられる。例えば、溶出前の液相(例えば、平衡化液)がpH5.0以上8.0以下の弱酸性から弱アルカリ性緩衝液である場合、溶出液がpH2.5以上4.5以下の酸性緩衝液であってよい。緩衝液の成分は、緩衝液のpH等の諸条件に応じて適宜選択できる。緩衝液の成分としては、リン酸、酢酸、ギ酸、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)、クエン酸、コハク酸、グリシン、ピペラジンなどが挙げられる。溶出液の送液形式は、例えば、グラジエント(gradient)であってもよく、イソクラティック(isocratic)であってもよい。溶出液の送液形式は、特に、グラジエントであってよい。すなわち、溶出は、特に、液相中の溶出液の比率を増大させることにより実施されてよい。グラジエントは、例えば、リニアグラジエントであってもよく、ステップワイズ(stepwise)グラジエントであってもよく、それらの組み合わせであってもよい。グラジエントは、具体的には、例えば、10分以上60分以下、15分以上から50分以下、または20分以上40分以下で、液相中の溶出液の比率が0%(v/v)から100%(v/v)に増大するよう、設定されてよい。送液速度は、例えば、カラムの内径が4.6mmの場合、0.1mL/分以上2.0mL/分以下、0.2mL/分以上1.5mL/分以下、または0.4mL/分以上1.2mL/分以下であってよい。送液速度は、例えば、カラムの内径の2乗に比例するように設定してよい。カラム温度は、例えば、0℃以上50℃以下であってよい。
【0045】
溶出工程により、分離された抗体が得られてよい。分離された抗体は、例えば、同抗体を含む溶出画分として得られてよい。すなわち、分離された抗体を含む溶出画分を分取することにより、分離された抗体が得られる。溶出画分は、例えば、常法により分取できる。溶出画分は、具体的には、例えば、オートサンプラー等の自動フラクションコレクターで分取できる。さらに、分離された抗体を溶出画分から回収してもよい。分離された抗体は、例えば、常法により溶出画分から回収できる。分離された抗体は、具体的には、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法により溶出画分から回収できる。
【0046】
抗体の分離パターンは、検出器により抗体を検出することにより得られる。検出器としては、紫外可視検出器や質量検出器などが挙げられる。抗体の分離パターンとしては、抗体の溶出時のクロマトグラムが挙げられる。
【0047】
<4>ピーク面積算出工程
ピーク面積算出工程は、溶出工程で得られた抗体の分離パターンから溶出ピークを抽出し、抽出した各溶出ピークの面積を算出後、ピーク面積比を算出する工程である。溶出ピーク検出に用いる抗体の分離パターンは、そのまま、あるいは適宜、ベースラインの補正等の補正を実施してから、溶出ピークの抽出に用いてよい。ピーク面積を算出する対象となる溶出ピークを、以下「対象ピーク」ともいう。なお後述するピーク面積%が1%未満の溶出ピークは対象ピークから除外してもよい。
【0048】
対象ピークは、諸条件に応じて適宜選択できる。一例として、抗体分離剤として、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチド、または当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入おび/または付加したポリペプチド(以下、「ヒトFcγRIIIaリガンド」とも記載)を固定化した不溶性担体を用いた場合、抗体の分離パターンから、3つの溶出ピークが抽出される(ヒトFcγRIIIaリガンドとの結合能が低いピーク順に、第1ピーク、第2ピーク、第3ピークと命名する)が、対象ピークとしては、当該第1ピークから第3ピークのいずれを用いてもよい。また抗体分離剤として、前述したヒトFcγRIIIaリガンドを固定化した不溶性担体を用い、溶出工程をpH変化に基づくグラジエント溶出で行なう場合、例えば、液相のpHが5.4以下、5.2以下、5.0以下、または4.8以下になって最初に溶出するピークを第1ピークと命名してもよく、液相のpHが5.4から4.4、5.2から4.5、または5.0から4.6である期間に溶出するピークを第1ピークと命名してもよい。なお、液相のpHは、溶出の開始前の液相(例えば、平衡化液)のpHがX、溶出液のpHがY、液相中の溶出液の比率がZ%である場合、下記式(I)で算出されるものとする。また、ピークが溶出したpHは、カラムの容積等の流路の容積を考慮して、適宜補正されるものとする。
【0049】
液相のpH=X-((X-Y)×Z[%]) ・・・ (I)。
【0050】
本発明は、対象ピーク面積の絶対値ではなく、相対値を用いることで全生存期間を予測する。相対値としては、特定の対象ピーク面積に対する他の対象ピーク面積の比や、対象ピーク面積全ての合計に対する特定の対象ピーク面積の比などが挙げられる。他の対象ピークとしては、1つの対象ピークを用いてもよく、2つまたはそれ以上の対象ピークを組み合わせて用いてもよい。ピーク面積比の一例として、具体的には、ピーク面積%が挙げられる。「ピーク面積%」とは、対象ピーク面積全ての合計に対する特定の対象ピークの面積比(%)を意味する。
【0051】
なお対象ピーク面積の算出にあたり、内部標準物質で得られたピークに基づく補正や被検者の性質に基づく補正等の、補正がなされていてもよい。例えば、ピーク面積を被検者の年齢に基づいて補正がなされていてもよい。すなわち、例えば、ピーク面積が被検者の年齢に影響を受ける場合、ピーク面積を被検者の年齢に基づいて補正してから、予測工程に用いてよい。
【0052】
<5>予測工程
予測工程は、ピーク面積算出工程で得られたピーク面積比(対象ピーク面積の相対値)を指標として、がんを患っている被検者における全生存期間を予測する工程である。
【0053】
がんとしては、脳腫瘍、乳がん、子宮体がん、子宮頚がん、卵巣がん、食道がん、胃がん、虫垂がん、大腸がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、副腎がん、消化管間質腫瘍(GIST)、中皮腫、頭頚部がん、腎がん、肺がん、骨肉腫、ユーイング(Ewing)肉腫、軟骨肉腫、前立腺がん、精巣腫瘍、腎細胞がん、膀胱がん、横紋筋肉腫、皮膚がん、肛門がんが挙げられる。がんとしては、特に、肺がんが挙げられる。
【0054】
前記被検者における全生存期間の予測とは、臨床試験において治療法の割り付け開始日もしくは治療開始日から前記被検者が生存する期間を予測することをいい、生存予後が良いか悪いかのリスク判定を行なうことも含む。例えば、肺がん患者において、ピーク面積比として第3ピーク面積/全面積が≧43.6%であった場合、全生存期間(中央値)は900日以上となる(生存予後が良い)と判定することができる。一方、第3ピーク面積/全面積が<43.6%であった場合、全生存期間(中央値)は600日以下となる(生存予後が悪い)と判定することができる。
【0055】
予測工程は、例えば、ピーク面積比の値の高低(すなわち、ピーク面積比の値が高いか低いか)を指標として実施できる。ピーク面積比の値の高低は、例えば、ピーク面積比の値を所定の閾値と比較することで決定できる。言い換えると、予測工程は、例えば、ピーク面積比の値を閾値と比較する工程を含んでいてよい。すなわち、「ピーク面積比の値が高い」とは、例えば、ピーク面積比の値が閾値を基準として高いことを意味してよい。「ピーク面積比の値が閾値を基準として高い」とは、例えば、ピーク面積比の値が閾値以上であること、ピーク面積比の値が閾値を超えること、またはピーク面積比の値が閾値よりも統計学的に有意に高いことを意味してよい。「ピーク面積比の値が閾値を基準として高い」とは、具体的には、例えば、ピーク面積比の値が閾値の1.01倍以上、1.02倍以上、1.03倍以上、1.05倍以上、1.07倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、1.7倍以上、2倍以上、2.5倍以上、または3倍以上であることを意味してもよい。また、「ピーク面積比の値が低い」とは、例えば、ピーク面積比の値が閾値を基準として低いことを意味してよい。「ピーク面積比の値が閾値を基準として低い」とは、例えば、ピーク面積比の値が閾値以下であること、ピーク面積比の値が閾値未満であること、またはピーク面積比の値が閾値よりも統計学的に有意に低いことを意味してよい。「ピーク面積比の値が閾値を基準として低い」とは、具体的には、例えば、ピーク面積比の値が閾値の0.99倍以下、0.98倍以下、0.97倍以下、0.95倍以下、0.93倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、または0.3倍以下であることを意味してもよい。
【0056】
ピーク面積比の値は、例えば、閾値を基準に、危険範囲に区分されてよい。ピーク面積比の値は、例えば、閾値を基準に、非危険範囲に区分されてよい。ピーク面積比の値は、具体的には、例えば、閾値を基準に、危険範囲と非危険範囲とに区分されてもよい。「危険範囲」とは、ピーク面積比の値について、被検者において全生存期間が短いというリスク(以下、単に「リスク」という)がある可能性が高い範囲を意味してよい。「非危険範囲」とは、ピーク面積比の値について、被検者においてリスクがない可能性が高い範囲を意味してよい。すなわち、ピーク面積比の値が危険範囲にあれば、被検者においてリスクがある、またはリスクが高いと判定してよい。一方、ピーク面積比の値が非危険範囲にあれば、被検者においてリスクがない、またはリスクが低いと判定してよい。例えば、肺がん患者において、ピーク面積比として第3ピーク面積/全面積が≧43.6%であった場合、3年生存率は40%以上となる(リスクが低い)と判定することができる。一方、第3ピーク面積/全面積が<43.6%であった場合、3年生存率は20%以下となる(リスクが高い)と判定することができる。
【0057】
閾値は、例えば、ピーク面積比の内容や所望の判定精度等の諸条件に応じて、当業者が適宜設定できる。閾値は、例えば、疾患や加齢等の判定対象の症状ごとに設定されてよい。閾値を決定する手段は、特に制限されない。閾値は、例えば、集団を2群に区分するためのデータ解析に利用される公知の手法に従って決定することができる。
【0058】
閾値は、例えば、対照者から得た抗体試料のピーク面積比の値に基づいて決定できる。対照者から得られたピーク面積比を、「対照ピーク面積比」ともいう。対照ピーク面積比は、閾値の決定に用いられることにより、検出工程に用いられてよい。対照ピーク面積比は、具体的には、閾値の決定に用いられることにより、ピーク面積比との比較に用いられてよい。言い換えると、検出工程は、例えば、ピーク面積比を対照ピーク面積比と比較する工程を含んでいてよい。なお、2つの異なるデータ群を比較する場合、統計的確率(P値)を用いて2つの異なる検体群から得られた前記ピーク面積比の差が有意な差であるかを評価できる。P値が小さくなると、前記評価結果は有意になるといわれており、P値が有意水準未満の場合、前記評価結果は統計的に有意な差があるといえる。有意水準は一般的に10%である。
【0059】
対照者としては、陽性対照や陰性対照が挙げられる。「陽性対照」とは、リスクがある、または高いと判定され得る個体を意味してよい。「陰性対照」とは、リスクがない、または低いと判定され得る個体を意味してよい。陽性対照としては、がんを患っている、または患ったことがある個体や、がんの病態が進行した個体、それらの組み合わせの性質を有する個体が挙げられる。陰性対照としては、がん(特に、リスクの検出対象となるがんと同一のがん)を患っていない、または患ったことがない個体や、がんの病態が進行していない個体、それらの組み合わせの性質を有する個体が挙げられる。閾値は、陽性対照を測定し算出したピーク面積比の値のみに基づいて決定してもよく、陰性対照を測定し算出したピーク面積比のみに基づいて決定してもよく、陽性対照と陰性対照の両方を測定し算出したピーク面積比の値に基づいて決定してもよい。閾値は、通常、陽性対照と陰性対照の両方の血液由来試料を測定し算出したピーク面積比の値に基づいて決定してよい。陽性対照と陰性対照の測定人数は、リスクの判定が所望の精度で可能となる閾値が得られる限り、特に制限されない。陽性対照と陰性対照の測定人数は、それぞれ、1人であってもよく、2人またはそれ以上であってもよい。陽性対照と陰性対照の人数は、それぞれ、通常、複数名であってよい。陽性対照と陰性対照の人数は、それぞれ、例えば、5人以上、10人以上、20人以上、または50人以上であってもよい。陽性対照と陰性対照の人数は、それぞれ、例えば、10000人以下、1000人以下、または100人以下であってもよい。
【0060】
陽性対照を測定し算出したピーク面積比の値のみに基づいて閾値を決定する場合には、例えば、陽性対照の複数個体で測定し算出したピーク面積比の値の上限から下限までの範囲から選択される値、例えば平均値、を閾値として設定してもよい。また、例えば、陽性対照の複数個体で測定し算出したピーク面積比の値の分布において、陽性対照の所定の割合が危険範囲に含まれるように閾値を決定してもよい。所定の割合とは、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または100%であってよい。
【0061】
陰性対照について測定し算出したピーク面積比の値のみに基づいて閾値を決定する場合には、例えば、陰性対照の複数個体で測定し算出したピーク面積比の値の上限から下限までの範囲から選択される値、例えば平均値、を閾値として設定してもよい。また、例えば、陰性対照の複数個体で測定し算出したピーク面積比の値の分布において、陰性対照の所定の割合が非危険範囲に含まれるように閾値を決定してもよい。所定の割合とは、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または100%であってよい。
【0062】
陽性対照について測定し算出したピーク面積比の値と陰性対照について測定し算出したピーク面積比の値の両方に基づいて閾値を決定する場合には、例えば、陽性対照の所定の割合が危険範囲に含まれ、且つ、陰性対照の所定の割合が非危険範囲に含まれるように閾値を決定してもよい。陽性対照の内の危険範囲に含まれるものの割合、および、陰性対照の内の非危険範囲に含まれるものの割合は、いずれも高い方が好ましい。これらの割合は、それぞれ、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または100%であってよい。これらの割合の両方を高くすることが難しい場合は、例えば、本発明による予測結果の利用目的等の諸条件に応じて、いずれかの割合が優先的に高くなるように閾値を設定してもよい。例えば、偽陰性率を下げるためには、陽性対照の内の危険範囲に含まれるものの割合が優先的に高くなるように閾値を設定してよい。
【0063】
閾値の決定は、例えば、ソフトウェアを用いて実施してもよい。例えば、統計解析ソフトウェアを用い、陰性対照と陽性対照とを統計学的に最も適切に判別できるような閾値を決定してもよい。そのようなソフトウェアとしては、「R」等の統計解析ソフトウェアが挙げられる。
【0064】
また、対照者としては、被検者自体(例えば、過去の被検者)も挙げられる。すなわち、例えば、被検者における分離データの変動を指標として、被検者におけるリスクを判定してもよい。「ピーク面積比の値が高い」ことには、ピーク面積比の値が増大した場合が含まれてよい。「ピーク面積比の値が増大した」とは、具体的には、ピーク面積比の値が過去の値と比較して増大したことを意味してよい。また、「ピーク面積比の値が低い」ことには、ピーク面積比の値が低下した場合が含まれてよい。「ピーク面積比の値が低下した」とは、具体的には、ピーク面積比の値が過去の値と比較して低下したことを意味してよい。すなわち、閾値としては、過去の値も挙げられる。「過去の値」とは、標的被検者から過去の或る時点で得た抗体試料のピーク面積比の値を意味する。過去の或る時点における標的被検者は、例えば、陽性対照であってもよく、陰性対照であってもよい。
【0065】
被検者におけるピーク面積比の変動を指標とする場合、被検者におけるリスクの増減を判定してもよい。「リスクがある、または高い」ことには、リスクが増大した場合が含まれてよい。「リスクが増大した」とは、具体的には、リスクが過去の或る時点と比較して増大したことを意味してよい。また、「リスクがない、または低い」ことには、リスクが低下した場合が含まれてよい。「リスクが低下した」とは、具体的には、リスクが過去の或る時点と比較して低下したことを意味してよい。
【0066】
なお、「ピーク面積比が一定の値を得てリスクの検出の指標とする」とは、当該ピーク面積比の値そのものを得てリスクの検出の指標とする場合に限られず、当該ピーク面積比の値を反映する他の値を得て検出の指標とすることも含まれる。例えば、抗体分離剤として、前述したヒトFcγRIIIaリガンドを固定化した不溶性担体を用いた場合、溶出ピークとして第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが抽出されるが、その場合、「第1ピークのピーク面積%を得てリスクの検出の指標とする」とは、第1ピークのピーク面積%の値そのものを得てリスクの検出の指標とする場合に限られず、第2から第3ピークのピーク面積%の合計値等の、第1ピークのピーク面積%の値を反映する他の値を得て検出の指標とすることも含まれる。いずれの場合にも、リスクの検出に用いられるピーク面積比が第1から第3ピークからなる場合や閾値等の数値は、ピーク面積比の内容に応じて、適宜補正して用いられる。例えば、溶出ピークが第1から第3ピークからなる場合、第1ピークのピーク面積%の値をX、第2から第3ピークのピーク面積%の合計値をYとすると、「X=100%-Y」の関係が成立する。よって、第1ピークのピーク面積%の値そのもの(すなわち、「X」)に代えて第2から第3ピークのピーク面積%の合計値(すなわち、「Y」)を検出の指標とする場合、「Xが一定の基準を満たす(例えば、低いもしくは高い、または或る範囲にある)」とは、「Yの補正値(すなわち、「100%-Y」)が当該基準を満たす」と読み替えるものとする。
【0067】
リスクの検出結果は、被検者に対してリスクを低減するための処置(以下、「リスク軽減処置」ともいう)を実施するかを決定するための指標として用いてもよい。言い換えると、本発明の予測方法を実施することで、被検者に対してリスク軽減処置を実施するかを決定するための指標が得られる。すなわち、例えば、本発明における検出方法により被検者においてリスクがある、または高いと判定された場合に、被検者に対してリスク軽減処置を実施すると決定してよい。本発明における検出方法は、例えば、単独で、または他の手段と組み合わせて、被検者に対してリスク軽減処置を実施するかを決定するための指標として用いてよい。例えば、本発明の予測方法により被検者においてリスクがある、または高いと判定された症状について、他の手段により確定診断を実施してから、被検者に対してリスク軽減処置を実施すると決定してもよい。リスク軽減処置は、医療行為であってもよく、非医療行為であってもよい。前記医療行為としては、投薬の開始・中止・変更や放射線治療や外科治療への治療法の選択・変更が例示でき、非医療行為としては食事内容の変更や運動の開始・中止・変更が例示できるが、同業者が容易に想定し得る範囲であれば特に制限はない。
【実施例0068】
以下、実施例および比較例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0069】
<抗体分離剤カラム(FcR9_Fカラム)の作製>
特開2018-197224号公報の方法で得られたFc結合性タンパク質FcR9_F_Cys(配列番号2)を、以下に示す方法で不溶性担体(ゲル)に固定化し、FcR9_Fカラムを作製した。なおFcR9_F_Cys(配列番号2)において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までが改良PelBシグナルペプチドであり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがFc結合性タンパク質FcR9_F(特開2018-197224号公報)のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。また前記FcR9_Fは、配列番号1に示す天然型ヒトFcγRIIIaの17番目から192番目までのアミノ酸残基であり、ただし以下に示す10箇所のアミノ酸置換を有したポリペプチドである:
配列番号1の27番目(配列番号2では34番目)のバリン(Val)をグルタミン酸(Glu)に置換
配列番号1の29番目(配列番号2では36番目)のフェニルアラニン(Phe)をイソロイシン(Ile)に置換
配列番号1の35番目(配列番号2では42番目)のチロシン(Tyr)をアスパラギン(Asn)に置換
配列番号1の48番目(配列番号2では55番目)のグルタミン(Gln)をアルギニン(Arg)に置換
配列番号1の75番目(配列番号2では82番目)のフェニルアラニン(Phe)をロイシン(Leu)に置換
配列番号1の92番目(配列番号2では99番目)のアスパラギン(Asn)をセリン(Ser)に置換
配列番号1の117番目(配列番号2では124番目)のバリン(Val)をグルタミン酸(Glu)に置換
配列番号1の121番目(配列番号2では128番目)のグルタミン酸(Glu)をグリシン(Gly)に置換
配列番号1の171番目(配列番号2では178番目)のフェニルアラニン(Phe)をセリン(Ser)に置換
配列番号1の176番目(配列番号2では183番目)のバリン(Val)をフェニルアラニン(Phe)に置換。
【0070】
(1)2mLの分離剤用親水性ビニルポリマー(東ソー社製:液体クロマトグラフィ用充填剤)の表面の水酸基をヨードアセチル基で活性化後、特開2018-197224号公報の方法で得られたFcR9_F_Cysを4mg反応させることで、FcR9_F固定化ゲルを得た。
【0071】
(2)(1)で作製したFcR9_F固定化ゲル1.2mLをφ4.6mm×50mmのステンレスカラムに充填してFcR9_Fカラムを作製した。
【0072】
(参考例1) <肺がん患者と健常者由来のガンマグロブリン分離>
(1)インフォームドコンセントを得た免疫チェックポイント阻害薬投与前の肺がん患者97検体(化学療法前治療歴のある75検体含む)および東北メディカルメガバンク機構から分譲を受けた健常者50検体から得た血清を、PBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)で20倍希釈後、0.2μm径のフィルター(Merck Millipore社製)に通すことで血清サンプルを調製した。
【0073】
(2)上記にて作製したFcR9_Fカラムを高速液体クロマトグラフィ装置(東ソー社製)に接続し、100mMの塩化ナトリウムを含む10mMのクエン酸緩衝液(pH6.5)(以下「平衡化液」とも表記)で平衡化後、標準物質として1mg/mLのリツキシマブ(rituximab、全薬工業製、販売名:リツキサン点滴静注100mg)抗体溶液を流速1.2mL/minにて10μL添加した。検出器による測定間隔は、1/5秒毎にデータを取得することで行なった。
【0074】
(3)流速1.2mL/minのまま平衡化液で7分間洗浄後、500mMの塩化ナトリウムを含む10mMのクエン酸緩衝液(pH4.5)(以下「溶出液」とも表記)を用いたpHグラジエント(11分で溶出液が100%となるグラジエント)で吸着したガンマグロブリンを溶出し、分離パターンを得た。
【0075】
(4)標準物質の分析後、(2)および(3)と同様な手順で、測定サンプルとして(1)で調製した血清サンプルを10μL添加することで分析し、ガンマグロブリンの分離パターンを得た。標準物質と測定サンプルを交互に測定することで分析を行なった。
【0076】
(5)(3)および(4)で得た分離パターンを、pHグラジエントを開始した時間(溶出開始後7分)、およびpHグラジエントが終了した(すなわち溶出液が100%となった)時間(溶出開始後18分)がともに検出値0となるよう、ベースライン補正した。
【0077】
(6)ベースライン補正した標準物質の分離パターン(
図1)から、溶出開始後7分から18分までの間に検出される3つのピーク間(溶出時間が短い(FcR9_Fとの結合能が低い)順に第1ピーク、第2ピーク、第3ピーク)の谷領域で導関数が0を取る2つの溶出時間で分割した領域をピーク領域とした。すなわち第1ピーク領域は溶出開始後7分から第1ピークと第2ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間までの範囲とし、第2ピーク領域は第1ピークと第2ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間から第2ピークと第3ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間までの範囲とし、第3ピーク領域は第2ピークと第3ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間から溶出開始後18分までの範囲とした。当該標準物質で定義付けたピーク領域を標準物質の分析直後に測定した測定サンプル(
図1)に適用することで、当該測定サンプルのピーク領域の定義付けを標準物質を用いて行なった。
【0078】
(7)(6)で定義付けた測定サンプルの各ピーク領域のピーク面積を算出し、当該ピーク面積を溶出開始後7分から18分までの間のピーク面積の合計値(すなわち第1ピーク面積、第2ピーク面積および第3ピーク面積の和)で割った値から各ピーク面積%を算出した。
【0079】
参考例1の結果を
図2に示す。健常者と比較して、肺がん患者では血液に含まれるガンマグロブリンの第1ピーク面積%の値が有意に高く、第3ピーク面積%の値が有意に低い結果となった。
【0080】
(実施例1) <FcR9_Fカラムを用いた血中抗体分析(ピーク面積比)>
(1)検体として、免疫チェックポイント阻害薬であるNivolumab、Pembrolizumab、Atezolizumabのいずれかを投与前のインフォームドコンセントを得た肺がん患者97検体(化学療法前治療歴のある75検体含む)のみを用いた他は、参考例1(1)から(6)と同様な方法で測定サンプルのピーク領域の定義付けを行なった。
【0081】
(2)(1)で定義付けた測定サンプルの各ピーク領域のピーク面積を算出し、当該ピーク面積を溶出開始後7分から18分までの間のピーク面積の合計値で割った値、および各ピーク面積同士で割った値から各ピーク面積比を算出した。
【0082】
(3)(2)で算出した前記各ピーク面積比を基に、全生存期間との相関をスピアマン(Spearman)の順位相関係数を求めることで評価した。なお求めたスピアマンの順位相関係数の有意性は、P値<0.1を有意性あり、P値<0.05をさらに有意性ありとして評価した。
【0083】
(比較例1) <FcR9_Fカラムを用いた血中抗体分析(ピーク面積)>
実施例1(3)において、全生存期間との相関を、各ピーク面積の絶対値を基に評価した他は、実施例2と同様な方法でスピアマンの順位相関係数を求めた。
【0084】
実施例1および比較例1の結果をまとめて表1および2に示す。表1は測定に供した全検体を対象に解析した結果であり、表2は化学療法前治療歴のある検体を対象に解析した結果である。
【0085】
表1から、第2ピーク面積/全面積、第3ピーク面積/全面積、第3ピーク面積/第2ピーク面積のピーク面積比において全生存期間との間に有意差が認められた(実施例1)。一方、各ピーク面積の絶対値を基に評価したところ、全生存期間との間に有意差が認められなかった(比較例1)。以上の結果から、評価指標として各ピーク面積比の方が全生存期間と高い相関性を有することがわかる。
【0086】
表2から、第1ピーク面積/全面積、第2ピーク面積/全面積、第3ピーク面積/全面積、第3ピーク面積/第1ピーク面積、第3ピーク面積/第2ピーク面積において全生存期間との間に有意差が認められた(実施例1)。一方、各ピーク面積の絶対値を基に評価したところ、全生存期間との間に有意差が認められなかった(比較例1)。以上の結果から、評価指標として各ピーク面積比の方が全生存期間と高い相関性を有することがわかる。また、化学療法前治療歴のある検体で評価を行なった方が、測定に供した全検体で評価を行なうより、相関係数の値がより強く相関を示す値となっており、さらにP値もより有意性を示す結果となっていることから、全生存期間の予測精度が向上していることがわかる。
【0087】
【0088】
【0089】
(比較例2) <FcR9_Fカラムを用いた血中抗体分析(無増悪生存期間)>
実施例1(3)において、無増悪生存期間との相関を、各ピーク面積比および各ピーク面積を基に評価した他は、実施例1と同様な方法でスピアマンの順位相関係数を求めた。
【0090】
比較例2の結果を表3および4に示す。表3は測定に供した全検体を対象に解析した結果であり、表4は化学療法前治療歴のある検体を対象に解析した結果である。化学療法前治療歴のある検体を対象に解析を行なった結果(表4)において、第3ピーク面積/第2ピーク面積で無増悪生存期間との間に有意差が認められた(P=0.080)他は、有意差は認められなかった。以上の結果から、全生存期間とは異なり無増悪生存期間では相関性に乏しいことがわかる。
【0091】
【0092】
【0093】
(比較例3) <FcR9_Fカラムを用いた血中抗体分析(抗体医薬品投与後)>
実施例1(1)において、免疫チェックポイント阻害薬であるNivolumab、Pembrolizumab、Atezolizumabのいずれかを投与後の肺がん患者から採血した血液を用い、実施例1(3)において、無増悪生存期間および全生存期間との相関を、各ピーク面積比および各ピーク面積を基に評価した他は、実施例1と同様な方法でスピアマンの順位相関係数を求めた。
【0094】
比較例3の結果を表5および6に示す。表5は測定に供した全検体を対象に解析を行なった結果であり、表6は化学療法前治療歴のある検体を対象に解析を行なった結果である。無増悪生存期間ではいずれも有意差が確認できず、全生存期間も第2ピーク面積/全面積において有意差が認められるのみであった(全検体のP=0.055[表5]、化学療法前治療歴のある検体のP=0.084[表6])。抗体医薬品投与前の結果(実施例1)と比較して、各ピーク面積比で有意差が得られなくなっていることから、抗体医薬品の投与後より投与前の血液由来試料を用いたほうが、全生存期間と高い相関性を有することがわかる。
【0095】
【0096】
【0097】
(実施例2) <FcR9_Fカラムを用いた血中抗体分析(カプラン・マイヤー法、全生存期間)>
実施例1(3)において、実施例1(2)で算出した各ピーク面積比の中央値を閾値として高値の群と低値の群とに分けた検体に対して、全生存期間との相関をカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法により評価し、有意性をログランクテスト(log-rank test)によりP値を求めた他は、実施例1と同様な方法で評価した。
【0098】
(比較例4) <FcR9_Fカラムを用いた血中抗体分析(カプラン・マイヤー法、無増悪生存期間)>
無増悪生存期間との相関をカプラン・マイヤー法により評価した他は、実施例2と同様な方法で評価した。
【0099】
実施例2および比較例4の結果をまとめて
図3から8に示す。
図3は第1ピーク面積/全面積の、
図4は第2ピーク面積/全面積の、
図5は第3ピーク面積/全面積の、
図6は第3ピーク面積/第1ピーク面積の、
図7は第3ピーク面積/第2ピーク面積の、
図8は第2ピーク面積/第1ピーク面積の、それぞれ結果である。また各図において(a)と(b)は測定に供した全検体の、(b)と(d)は化学療法前治療歴のある検体の、それぞれ結果であり、(a)と(c)は無増悪生存期間の、(b)と(d)は全生存期間の、それぞれ結果である。各図における、高値と低値の群の閾値としての中央値は、それぞれ第1ピーク面積/全面積:25.1%、第2ピーク面積/全面積:30.9%、第3ピーク面積/全面積:43.6%、第3ピーク面積/第1ピーク面積:1.73、第3ピーク面積/第2ピーク面積:1.38、第2ピーク面積/第1ピーク面積:1.24である。無増悪生存期間との相関は、いずれも有意差が認められなかった(
図3から8の(a)および(c))。一方、全生存期間は、測定に供した全検体を対象に第1ピーク面積/全面積で解析した結果(
図3(b))を除き、P値が0.1未満となり有意差が認められた(
図3(d)ならびに
図4から8の(b)および(d))。なお、
図3(b)の結果もP=0.1006であり、ほぼ有意差があるともいえる。
【0100】
図3(d)、
図4(b)および(d)から、第1ピーク面積/全面積および第2ピーク面積/全面積の値が低いほど全生存期間が長いことが、
図5(b)および(d)から、第3ピーク面積/全面積の値が高いほど全生存期間が長いことが、それぞれわかる。
【0101】
(比較例5) <COPD患者由来のガンマグロブリン分離)>
患者検体として、インフォームドコンセントを得たCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者42検体を用いた他は、参考例1と同様な方法で各ピーク面積%を算出した。
【0102】
参考例1および比較例5の結果をまとめて
図9に示す。図に記載のP値は1-way ANOVAにより求めた値である。喫煙歴が肺がん患者集団と似ているCOPD患者と比較しても、肺がん患者では血液に含まれるガンマグロブリンの第1ピーク面積%の値が有意に高く、第3ピーク面積%の値が有意に低い結果となった。この結果は、健常者と比較した場合と同様な傾向であることから、喫煙歴ではなくがんに罹患することが要因となりガンマグロブリンの各ピーク面積%の値が有意に変化したことがわかる。
以上説明したように、本発明によれば、がん罹患者の予後、特に全生存期間を精度よく予測することが可能となる。がん患者の予後を明らかにすることは、治療方針や治療効果のモニタリングにおいて重要な情報を与えることから、最適な療法の選択を行なう上での有用な指標となる。予後診断は、患者が抱える病状における危険性や生存の確率に関する情報を医師に与え、最適な療法を選択できるため、不必要な治療を患者に行なうリスクを低減させることに繋がる。このように、不必要な治療に対する費用の節約だけでなく、最適な治療選択による患者の予後改善に寄与できる。そのため、本発明は、コンパニオン診断、並びにそれに用いられる医薬品及び医療機器の開発等において有用である。