(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098453
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】フロートガラス製造装置、フロートガラス製造方法、及びフロートガラス
(51)【国際特許分類】
C03B 18/18 20060101AFI20220624BHJP
C03B 18/16 20060101ALI20220624BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20220624BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20220624BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C03B18/18
C03B18/16
C03C3/091
C03C3/087
C03C3/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197094
(22)【出願日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2020211416
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽平
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 哲史
(72)【発明者】
【氏名】川崎 直哉
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA15
4G062BB01
4G062BB06
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4G062NN29
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4G062NN33
(57)【要約】
【課題】平面視サイズが大きく、反りが小さいフロートガラスを得る、技術を提供する。
【解決手段】フロートガラス製造装置は、浴槽と、複数のトップロールと、天井と、複数のヒータと、複数の制御器と、を備える。前記浴槽は、下流端から上流側に向けて、ナロー域と、中間域と、ワイド域と、をこの順番で有する。前記ナロー域は、下流端から上流側に向けて、深底部と、浅底部と、ポケット部と、をこの順番で有する。前記天井を前記ガラスリボンの流れ方向と幅方向に分割してなる各区画には、前記区画毎に選択される1つの前記制御器で一括に制御される複数の前記ヒータが設けられる。前記流れ方向に隣り合う2つの前記列を分割する第1分割線であって前記ポケット部の下流端に最も近い前記第1分割線と、前記ポケット部の下流端との前記流れ方向の間隔は、前記ポケット部の前記流れ方向の長さの0%~15%である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を収容する浴槽と、前記溶融金属の液面に帯板状のガラスリボンの幅方向端部を押さえる複数のトップロールと、前記ガラスリボンの上方に設けられる天井と、前記天井から吊り下げられる複数のヒータと、複数の前記ヒータを制御する複数の制御器と、を備えるフロートガラス製造装置であって、
前記浴槽は、下流端から上流側に向けて、前記液面の幅方向寸法が一定のナロー域と、前記液面の幅方向寸法が徐々に大きくなる中間域と、前記液面の幅方向寸法が前記ナロー域よりも大きく且つ一定のワイド域と、をこの順番で有し、
前記ナロー域は、下流端から上流側に向けて、深底部と、前記深底部よりも前記溶融金属の深さが浅い浅底部と、前記浅底部よりも前記溶融金属の深さが深いポケット部と、をこの順番で有し、
前記天井を前記ガラスリボンの流れ方向に複数の列に分割し、各前記列を前記ガラスリボンの幅方向に分割してなる各区画には、前記区画毎に選択される1つの前記制御器で一括に制御される複数の前記ヒータが設けられ、
前記流れ方向に隣り合う2つの前記列を分割する第1分割線であって前記ポケット部の下流端に最も近い前記第1分割線と、前記ポケット部の下流端との前記流れ方向の間隔は、前記ポケット部の前記流れ方向の長さの0%~15%である、フロートガラス製造装置。
【請求項2】
前記ポケット部における前記溶融金属の深さは、前記深底部における前記溶融金属の深さよりも、深い、請求項1に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項3】
前記ポケット部における前記溶融金属の深さは、前記浅底部における前記溶融金属の深さの1.5倍~2.5倍である、請求項1又は2に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項4】
前記ポケット部の前記流れ方向の長さは、前記ナロー域の前記流れ方向の長さの15%~35%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項5】
前記深底部における前記溶融金属の深さは、前記浅底部における前記溶融金属の深さの1.5倍~2.5倍である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項6】
前記深底部の前記流れ方向の長さは、前記ナロー域の前記流れ方向の長さの40%~60%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項7】
前記ガラスリボンは、前記幅方向の中央部にフロートガラスが切り出される平坦部を有し、前記幅方向の両端部に前記平坦部よりも肉厚の耳部を有し、
前記流れ方向で最下流の前記列は、前記幅方向に5個以上の前記区画を含み、
平面視にて、最下流の前記列において前記幅方向に隣り合う2つの前記区画を分割する第2分割線は、前記ガラスリボンの前記耳部と重なる、請求項1~6のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項8】
前記第1分割線は、前記ポケット部の前記下流端よりも上流側に設けられる、請求項1~7のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項9】
前記第1分割線は、前記ポケット部の前記下流端よりも下流側に設けられる、請求項1~7のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項10】
前記ポケット部は全部が前記ナロー域に設置される、請求項1~9のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項11】
溶融金属を収容する浴槽と、前記溶融金属の液面に帯板状のガラスリボンの幅方向端部を押さえる複数のトップロールと、前記ガラスリボンの上方に設けられる天井と、前記天井から吊り下げられる複数のヒータと、複数の前記ヒータを制御する複数の制御器と、を備えるフロートガラス製造装置であって、
前記浴槽は、下流端から上流側に向けて、深底部と、前記深底部よりも前記溶融金属の深さが浅い浅底部と、前記浅底部よりも前記溶融金属の深さが深いポケット部と、をこの順番で有し、
前記天井を前記ガラスリボンの流れ方向に複数の列に分割し、各前記列を前記ガラスリボンの幅方向に分割してなる各区画には、前記区画毎に選択される1つの前記制御器で一括に制御される複数の前記ヒータが設けられ、
前記流れ方向に隣り合う2つの前記列を分割する第1分割線であって前記ポケット部の下流端に最も近い前記第1分割線と、前記ポケット部の下流端との前記流れ方向の間隔は、前記ポケット部の前記流れ方向の長さの0%~15%である、フロートガラス製造装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置を用いる、フロートガラス製造方法であって、
前記溶融金属の上で、帯板状の前記ガラスリボンを成形することと、
前記ヒータで、前記ヒータの下方を通過する前記ガラスリボンを加熱することと、
を有するフロートガラス製造方法。
【請求項13】
前記ポケット部を通過する際に、前記ガラスリボンの幅方向中心線の平均冷却速度は、60℃/分~120℃/分である、請求項12に記載のフロートガラス製造方法。
【請求項14】
縦寸法が2900mm以上、横寸法が3200mm以上、及び平均板厚が0.75mm以下の平面視矩形状のフロートガラスであって、
歪点が650℃以上の無アルカリガラスであり、
主面全体において、主面に対して平行な平面方向の残留応力が2.0MPa以下である、フロートガラス。
【請求項15】
主面全体において、主面に対して平行な平面方向の残留応力が1.5MPa以下である、請求項14に記載のフロートガラス。
【請求項16】
前記平均板厚が0.55mm以下である、請求項14又は15に記載のフロートガラス。
【請求項17】
前記無アルカリガラスは、酸化物基準の質量%表示で、
SiO2:54%~68%
Al2O3:10%~23%
B2O3:0%~12%
MgO:0%~12%
CaO:0%~15%
SrO:0%~16%
BaO:0%~15%
MgO+CaO+SrO+BaO:8%~26%
を含有する、請求項14~16のいずれか1項に記載のフロートガラス。
【請求項18】
前記無アルカリガラスは、酸化物基準の質量%表示で、B2O3の含有量が5%以下である、請求項17に記載のフロートガラス。
【請求項19】
請求項12又は13に記載のフロートガラス製造方法によって製造された、フロートガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フロートガラス製造装置、フロートガラス製造方法、及びフロートガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
フロートガラス製造装置は、浴槽内の溶融金属の上に溶融ガラスを連続的に供給し、溶融金属の上で溶融ガラスを流動させ、溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形する。ガラスリボンを徐冷した後、ガラスリボンの幅方向両端部を切除し、フロートガラスが得られる。フロートガラスは、フラットパネルディスプレイ(FPD)のガラス基板等に用いられる。
【0003】
特許文献1には、フロートガラスの反りを低減する方法として、フロートバスと徐冷炉との間で、ガラスリボンを積極的に冷却し、ガラスリボンの搬送方向の温度分布を最適化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FPDの大画面化等に伴い、平面視サイズの大きいフロートガラスが望まれている。しかし、フロートガラスの平面視サイズが大きくなるほど、フロートガラスの平面歪が大きくなりやすく、フロートガラスの反りが大きくなりやすい。
【0006】
本開示の一態様は、平面視サイズが大きく、反りが小さいフロートガラスを得る、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るフロートガラス製造装置は、溶融金属を収容する浴槽と、前記溶融金属の液面に帯板状のガラスリボンの幅方向端部を押さえる複数のトップロールと、前記ガラスリボンの上方に設けられる天井と、前記天井から吊り下げられる複数のヒータと、複数の前記ヒータを制御する複数の制御器と、を備える。前記浴槽は、下流端から上流側に向けて、前記液面の幅方向寸法が一定のナロー域と、前記液面の幅方向寸法が徐々に大きくなる中間域と、前記液面の幅方向寸法が前記ナロー域よりも大きく且つ一定のワイド域と、をこの順番で有する。前記ナロー域は、下流端から上流側に向けて、深底部と、前記深底部よりも前記溶融金属の深さが浅い浅底部と、前記浅底部よりも前記溶融金属の深さが深いポケット部と、をこの順番で有する。前記天井を前記ガラスリボンの流れ方向に複数の列に分割し、各前記列を前記ガラスリボンの幅方向に分割してなる各区画には、前記区画毎に選択される1つの前記制御器で一括に制御される複数の前記ヒータが設けられる。前記流れ方向に隣り合う2つの前記列を分割する第1分割線であって前記ポケット部の下流端に最も近い前記第1分割線と、前記ポケット部の下流端との前記流れ方向の間隔は、前記ポケット部の前記流れ方向の長さの0%~15%である。
【0008】
本開示の一態様に係るフロートガラスは、縦寸法が2900mm以上、横寸法が3200mm以上、及び平均板厚が0.75mm以下の平面視矩形状のフロートガラスであって、歪点が650℃以上の無アルカリガラスであり、主面全体において、主面に対して平行な平面方向の残留応力が2.0MPa以下である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、溶融金属の上でガラスリボンの温度分布を適切に制御でき、平面視サイズが大きく反りが小さいフロートガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るフロートガラス製造装置の断面図である。
【
図2】
図2は、ガラスリボンの流れと、ガラスリボンの流れ方向における溶融金属の深さ分布とを示す図である。
【
図3】
図3は、天井の区画の一例を示す平面図である。
【
図4】
図4は、ガラスリボンの流れ方向で最下流の区画の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、ガラスの線膨張係数と温度との関係の一例を示す図である。
【
図6】
図6(A)はガラスの線膨張係数が大きくなる過程でガラスリボンに生じる応力の一例を示す平面図であり、
図6(B)はガラスの線膨張係数が小さくなる過程でガラスリボンに生じる応力の一例を示す平面図である。
【
図7】
図7(A)は浴槽のナロー域の構造とヒータの区画の一例を示す断面図であり、
図7(B)はナロー域におけるガラスリボンの温度変化の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、一実施形態に係るフロートガラスの採板模式図である。
【
図9】
図9は、一実施形態に係るフロートガラスの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。各図面において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は互いに垂直な方向であって、X軸方向及びY軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向である。X軸方向がガラスリボンGRの流れ方向、Y軸方向がガラスリボンGRの幅方向である。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
図1を参照して、本実施形態に係るフロートガラス製造装置1について説明する。フロートガラス製造装置1は、溶融ガラスGを帯板状のガラスリボンGRに成形する成形装置2と、成形装置2で成形したガラスリボンGRを徐冷する徐冷装置3と、成形装置2と徐冷装置3とを接続する接続装置4と、を備える。接続装置4は、ドロスボックス41と、ドロスボックス41の内部に配列される複数本のリフトアウトローラ42と、を備える。ガラスリボンGRは、複数本のリフトアウトローラ42の上を斜め上に搬送される。徐冷装置3は、徐冷炉31と、徐冷炉31の内部に配列される複数本の搬送ローラ32と、を備える。ガラスリボンGRは、複数本の搬送ローラ32の上を水平に搬送される。ガラスリボンGRは、徐冷炉31を通過した後、不図示の加工装置で所望の寸法に切断される。その結果、製品であるフロートガラスが得られる。
【0013】
フロートガラスの用途が後述するFPD用ガラス基板である場合、さらにフロートガラスに対して切り折り加工と、面取り加工と、研磨加工とをこの順番で施す。研磨加工では、フロートガラスの両主面の少なくとも一方を研磨し、フロートガラスの主面に存在する微小な凹凸やうねりを除去する。研磨加工で得られるガラス基板は、いわゆるマザーガラスであり、FPDの製造工程の途中で、さらに分割される。
【0014】
フロートガラスのガラスの種類としては、例えば無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス又はソーダライムガラスなどが挙げられる。無アルカリガラスとは、Na2O、K2O等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないガラスを意味する。ここで、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、アルカリ金属酸化物の含有量の合量が0.1質量%以下を意味する。
【0015】
フロートガラスの用途は、特に限定されないが、例えば液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)であり、例えばFPD用ガラス基板である。フロートガラスの用途がFPD用ガラス基板である場合、フロートガラスのガラスの種類は無アルカリガラスである。
【0016】
無アルカリガラスは、例えば、酸化物基準の質量%表示で、SiO2:54%~68%、Al2O3:10%~23%、B2O3:0%~12%、MgO:0%~12%、CaO:0%~15%、SrO:0%~16%、BaO:0%~15%、MgO+CaO+SrO+BaO:8%~26%を含有する。無アルカリガラスは、高い歪点を得るため、好ましくは、酸化物基準の質量%表示で、B2O3の含有量が5%以下である。
【0017】
無アルカリガラスの歪点は、低い熱収縮率を得るため、例えば650℃以上である。歪点は、1014.5dPa・sの粘度に相当する温度であり、日本工業規格JIS R3103-02:2001に準拠して測定する。無アルカリガラスの歪点は、好ましくは670℃以上であり、より好ましくは690℃以上であり、さらに好ましくは700℃以上である。また、無アルカリガラスの歪点は、成形装置2内の温度が高くなり過ぎないようにするため、好ましくは750℃以下である。
【0018】
次に、
図1~
図4を参照して、本実施形態に係る成形装置2について説明する。
図1に示すように、成形装置2は、浴槽20を備える。浴槽20は、溶融金属Mを収容する。溶融金属Mとしては、例えば溶融スズが用いられる。溶融スズの他に、溶融スズ合金なども使用可能であり、溶融金属Mは、溶融ガラスGよりも密度の大きいものであればよい。浴槽20は、上方に開放された箱状のボトムケーシング20aと、ボトムケーシング20aの側壁を溶融金属Mから保護するサイドレンガ20bと、ボトムケーシング20aの底壁の上に設置されるボトムレンガ20cと、を有する。
【0019】
成形装置2は、スパウトリップ21と、ツイール22と、を備える。スパウトリップ21は、浴槽20内の溶融金属Mの上に溶融ガラスGを連続的に供給する。ツイール22は、スパウトリップ21に対して上下に移動自在であり、スパウトリップ21の上を流れる溶融ガラスGの流量を調整する。ツイール22とスパウトリップ21との間隔が狭くなるほど、スパウトリップ21の上を流れる溶融ガラスGの流量が少なくなる。ツイール22は、耐火物で構成される。ツイール22には、ツイール22と溶融ガラスGとの接触を防止する保護膜が形成されてよい。保護膜は、例えば白金又は白金合金で形成される。
【0020】
図2に示すように、浴槽20は、下流端から上流側に向けて、ナロー域X1と、中間域X2と、ワイド域X3と、をこの順番で有する。ナロー域X1は、溶融金属Mの液面の幅方向寸法が一定の領域である。中間域X2は、ナロー域X1からワイド域X3にかけて、液面の幅方向寸法が徐々に大きくなる領域である。ワイド域X3は、液面の幅方向寸法がナロー域X1よりも大きく且つ一定の領域である。
【0021】
成形装置2は、トップロール23を備える。トップロール23は、ワイド域X3に設けられる。トップロール23は、溶融金属Mの液面にガラスリボンGRの幅方向端部を押さえながら回転し、X軸方向にガラスリボンGRを送り出す。ガラスリボンGRは、X軸方向に移動しながら、徐々に冷却され、固くなる。
【0022】
トップロール23は、ガラスリボンGRの幅方向両側に一対設けられ、ガラスリボンGRの幅方向の収縮を抑制する。ガラスリボンGRの板厚を平衡厚みよりも薄くできる。平衡厚みとは、重力と、表面張力のバランスで、自然に到達する厚みである。一対のトップロール23は、ガラスリボンGRの流れ方向に間隔をおいて複数設けられる。
【0023】
トップロール23は、回転部材23aと、回転軸23bと、を有する。回転部材23aは、例えば円盤状であって、その外周にて、ガラスリボンGRの幅方向端部を押さえ、ガラスリボンGRの流れ方向にガラスリボンGRを送り出す。ガラスリボンGRは、X軸方向に移動しながら、徐々に冷却され、固くなる。回転軸23bは、不図示の駆動装置によって回転駆動され、回転部材23aを回転させる。
【0024】
図4に示すように、ガラスリボンGRは、幅方向の中央部にフロートガラスが切り出される平坦部GR1を有し、幅方向の両端部に平坦部GR1よりも肉厚の耳部GR2を有する。耳部GR2は、複数対のトップロール23を用いてガラスリボンGRの板厚を薄くする過程で形成される。ガラスリボンGRは、徐冷炉31を通過した後、不図示の加工装置で所望の寸法に切断される。加工装置は、ガラスリボンGRの耳部GR2を切除する。その結果、板厚の均一なフロートガラスが得られる。
【0025】
図1に示すように、成形装置2は、ガラスリボンGRの上方に設けられる天井24を備える。天井24は、浴槽20の上方空間Sの上面を形成する。上方空間Sは、溶融金属Mの酸化を防止するため、還元性ガスで満たされる。還元性ガスは、例えば窒素ガスと水素ガスとの混合ガスであり、窒素ガスを85体積%~98.5体積%、水素ガスを1.5体積%~15体積%含んでいる。還元性ガスは、天井24上の空間から天井24のレンガ同士の目地及び天井24に設けられるヒータ25の挿通孔を介して上方空間Sに供給される。
【0026】
成形装置2は、ヒータ25を備える。ヒータ25は、天井24から吊り下げられ、下方を通過するガラスリボンGRを加熱する。ヒータ25は、電気ヒータであって、通電加熱される。ヒータ25は、例えばSiCヒータである。ヒータ25は、ガラスリボンGRの流れ方向と幅方向に行列状に複数配列される。
【0027】
複数のヒータ25の出力を制御することにより、ガラスリボンGRの温度分布を制御でき、ガラスリボンGRの板厚分布を制御できる。ヒータ25の出力とは、単位時間当たりの熱量(単位:kW)を意味する。複数のヒータ25の出力は、区画毎に制御される。区画毎に制御器26が1つずつ用いられる。
【0028】
次に、
図3及び
図4を参照して、天井24の区画の一例について説明する。
図3には、平面視にてナロー域X1と重なる区画のみ図示するが、平面視にて中間域X2又はワイド域X3と重なる区画が存在してもよい。
図3において、白抜き矢印は、ガラスリボンGRの流れ方向を示す。
【0029】
図3に示すように、天井24は、ガラスリボンGRの流れ方向に複数の列A、Bに分割される。各列A、Bは、ガラスリボンGRの幅方向に複数の区画A1~A7、B1~B3に分割される。各列A、Bは、ガラスリボンGRの幅方向中心線CLを中心に左右対称に分割されることが好ましい。ガラスリボンGRの温度分布を左右対称に制御できる。
【0030】
各区画A1~A7、B1~B3には、区画A1~A7、B1~B3毎に選択される1つの制御器26で一括に制御される複数のヒータ25が設けられる。一括に制御することは、同一の出力に制御することを含む。1つの制御器26で複数のヒータ25を一括に制御することにより、制御器26の数を低減できる。制御器26は、例えばマイクロコンピュータである。
【0031】
ガラスリボンGRの流れ方向に隣り合う2つの列A、Bの境界線D1を、第1分割線D1とも呼ぶ。また、ガラスリボンGRの幅方向に隣り合う2つの区画の境界線D2を、第2分割線D2とも呼ぶ。第1分割線D1を挟んで、列Aと列Bとで、第2分割線D2がガラスリボンGRの幅方向にずれていることが好ましい。
【0032】
例えば、第1分割線D1を挟んで、区画B1と区画B2の境界線D2と、区画A2と区画A3の境界線D2とは、ガラスリボンGRの幅方向にずれている。従って、上流の列Bにおいて、区画B1と区画B2の境界線D2の下方を通過したガラスリボンGRの部位は、下流の列Aでは、区画A3の下方を通過することになる。
【0033】
上流の列Bにおいて、区画B1と区画B2とで単位面積当たりのヒータ25の出力(単位:kW/m2)が異なると、区画B1と区画B2とで温度差が生じる。この温度差は、区画B1と区画B2の境界線D2の下方を通過するガラスリボンGRの部位にも生じる。その部位は、下流の列Aにおいて区画A3の下方を通過し、その際、上記温度差が緩和される。
【0034】
なお、平面視にてナロー域X1と重なる天井24は、本実施形態では2列(列A、B)に分割されるが、3列以上に分割されてもよい。
【0035】
次に、フロートガラスの平面歪について説明する。平面歪とは、ガラス基板の熱履歴によって生じる残留応力であり、ガラス基板の主面に対して平行な平面方向の残留応力である。平面歪は、光学的な複屈折の測定、すなわち直交する2つの直線偏光波の光路差の測定で見積ることができる。各直線偏光波の光軸は、ガラス基板の主面に対して垂直である。
【0036】
直交する2つの直線偏光波の光路差をR(nm)とすると、平面歪F(MPa)は、
F=R/(C×D)
として表される。Dは、直線偏光波が通過した距離(cm)であり、ガラス基板の厚みである。Cは、ガラス基板の化学組成によって決まる比例定数で光弾性定数と呼ばれる。Cは、通常、20~40(nm/cm)/(MPa)である。
【0037】
ガラス基板にかかる平面方向の応力が、ゼロであるか、等方的である場合には、2つの直交する直線偏光波は同一速度でガラス基板を通過する。一方、ガラス基板にかかる平面方向の応力が異方的である場合には、圧縮応力方向では直線偏光波が速く通過し、引張応力方向では直線偏光波はゆっくり通過する。すなわち、2つの直交する直線偏光波に光路差が発生する。光路差が最大となる方位とその大きさを測定することで、応力の異方性(方向と大きさ)を測定できる。
【0038】
平面歪Fは、応力の異方性を表す指標であり、光軸と垂直な面内で応力差が最大となる方向と、その応力差として求められる。ある方向(例えばX軸方向)に圧縮応力が残留している場合と、それと垂直な方向(例えばY軸方向)に同じ大きさの引張応力が残留している場合とでは、平面歪Fの値は同じになる。また、直交する2軸方向(例えばX軸方向とY軸方向)に同じ量の圧縮応力又は引張応力が残留している場合、平面歪Fの値はゼロになる。
【0039】
上記の通り、平面歪Fは、光軸と垂直な面内において直交する2つの方向の応力差である。平面視矩形状のガラス基板の各辺の近傍では、各辺においてガラスが切れているので、各辺に対して垂直な方向に応力は残留せず、各辺に対して平行な方向にのみ応力が残留する。従って、各辺の近傍での平面歪は残留応力とほぼ等しい。一方、平面視矩形状のガラス基板の中心付近では、面内のあらゆる方向から応力が加わり、応力同士が打ち消し合うので、平面歪は小さい値になる。
【0040】
平面歪Fは、例えばユニオプト社製ABR-10A複屈折測定器を用いて測定する。ABR-10A複屈折測定器は、横ゼーマンレーザー光を照射し、直交する直線偏光波の位相差を検出することにより、複屈折の光路差と主軸方位を測定する装置である。分解能として、光路差0.01nm、主軸方位0.1度の精度を有する。測定方法としてセナルモン法を用いる場合とは異なり、0.1MPa~5MPa程度の平面歪をも測定できる。平面歪は、ガラス基板の主面全体において、例えば縦横に50mm間隔で行列状に配列される複数点で測定する。全ての測定点での平面歪の最大値を、最大平面歪とも呼ぶ。平面歪は、ガラスリボンGRの耳部GR2の切除後、アニール処理を施さない状態で測定する。
【0041】
次に、
図5及び
図6を参照して、フロートガラスの平面歪の発生原因について説明する。
図5に示すように、ガラスの線膨張係数は、一般的に、高温にピークを有する。ガラスリボンGRは、その冷却過程で、
図5に矢印で示すように、ガラスの線膨張係数のピークを通過する。そのピークを通過する場所は、成形装置2の出口2a(
図1参照)付近である。なお、出口2a付近におけるガラスリボンGRの温度は、ガラス転移点近傍の温度である。
【0042】
ガラスリボンGRが成形装置2の内部で冷却される過程で、ガラスの線膨張係数がピークに向けて徐々に大きくなる。その過程で、
図6(A)に矢印で示すように、ガラスリボンGRの耳部GR2に、引張応力が作用する。ガラスリボンGRの耳部GR2は平坦部GR1に比べて厚みが厚く、耳部GR2には大きな引張応力が作用する。
【0043】
一方、ガラスリボンGRが接続装置4又は徐冷装置3の内部で冷却される過程で、ガラスの線膨張係数はピークから徐々に小さくなる。その過程で、
図6(B)に矢印で示すように、ガラスリボンGRの耳部GR2に、圧縮応力が作用する。ガラスリボンGRの耳部GR2は平坦部GR1に比べて厚みが厚く、耳部GR2には大きな圧縮応力が作用する。
【0044】
フロートガラスの平面歪は、主に、
図6(A)に矢印で示す引張応力の大きさと、その引張応力が作用する時間と、
図6(B)に矢印で示す圧縮応力の大きさと、その圧縮応力が作用する時間と、で決まる。引張応力が作用する時間が長いほど、引張応力が残留しやすい。また、圧縮応力が作用する時間が長いほど、圧縮応力が残留しやすい。
【0045】
ガラスリボンGRの耳部GR2には、通常、圧縮応力が残留する。そこで、本実施形態では、ガラスリボンGRの耳部GR2に残留する圧縮応力を低減すべく、ガラスリボンGRの耳部GR2に引張応力が作用する時間を長くする。具体的には、
図7(A)に示すような浴槽20のナロー域X1の構造と、ヒータ25の区画と、を採用する。
【0046】
まず、
図7(A)を参照して、浴槽20のナロー域X1の構造について説明する。
図7(A)に示すように、浴槽20のナロー域X1は、下流端から上流側に向けて、深底部X1aと、深底部X1aよりも溶融金属Mの深さが浅い浅底部X1bと、浅底部X1bよりも溶融金属Mの深さが深いポケット部X1cと、をこの順番で有する。ポケット部X1cの全部がナロー域X1に設けられており、ポケット部X1cがワイド域X3まで広がっていなければ、ワイド域X3の下流域でもトップロール23がガラスリボンGRを十分にグリップできる程度にガラスリボンGRの温度が高く、ガラスリボンGRの成形性が良い。
なお、ポケット部X1cは、本実施形態では
図2に示すように全部がナロー域X1に設けられるが、一部が中間域X2に設けられ、残部がナロー域X1に設けられてもよい。なお、本実施形態の浴槽20はナロー域X1と中間域X2とワイド域X3とを有するが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、浴槽20はナロー域X1とワイド域X3の間に中間域X2を有しなくてもよく、ナロー域X1とワイド域X3の間で液面の幅方向寸法が不連続に変化してもよい。液面の幅方向寸法が一定である領域の数は、2つには限定されず、1つでもよいし、3つ以上でもよい。浴槽20の上流端から下流端まで、液面の幅方向寸法が変化し続けてもよい。
【0047】
深底部X1aは、例えば、水平な底面と、垂直な2つの段差面とを有する。深底部X1aの段差面は、底面から垂直に立ち上がるが、傾斜していてもよい。ポケット部X1cも、例えば、水平な底面と、垂直な2つの段差面とを有する。ポケット部X1cの段差面は、底面から垂直に立ち上がるが、傾斜していてもよい。浅底部X1bは、深底部X1aの底面とポケット部X1cの底面よりも高い、水平な頂面を有する。
【0048】
ポケット部X1cにおける溶融金属Mの深さDcが深く、溶融金属Mの熱容量が大きく、溶融金属MがガラスリボンGRの熱を吸収しやすい。従って、
図7(B)に示すように、ポケット部X1cにおけるガラスリボンGRの冷却速度を大きくできる。ひいては、ナロー域X1の流れ方向の長さLを維持しつつ、深底部X1aにおけるガラスリボンGRの冷却速度を小さくできる。その結果、成形装置2の出口2aの直前でガラスリボンGRを緩やかに冷却でき、ガラスリボンGRの耳部GR2に引張応力が作用する時間を長くでき、フロートガラスの平面歪を低減できる。
【0049】
ポケット部X1cを通過する際に、ガラスリボンGRの幅方向中心線CLの平均冷却速度は、例えば60℃/分~120℃/分であり、好ましくは70℃/分~110℃/分であり、より好ましくは80℃/分~100℃/分であり、さらに好ましくは88℃/分~100℃/分である。平均冷却速度が60℃/分~120℃/分だと、ガラスリボンGRの搬送速度を大きくでき、フロートガラスの生産性を高められるとともに、深底部X1aにおけるガラスリボンGRの冷却速度を小さくでき、フロートガラスの平面歪を低減できる。
【0050】
浅底部X1bにおける溶融金属Mの深さDbは、ポケット部X1cにおける溶融金属Mの深さDcと、深底部X1aにおける溶融金属Mの深さDaとの両方よりも、浅い。つまり、「Db<Dc」と「Db<Da」の関係が成立する。
図7(B)に示すように、浅底部X1bは、ポケット部X1cと深底部X1aとで、ガラスリボンGRの冷却速度に差を付ける役割を果たす。ポケット部X1cでは、深底部X1aに比べて、ガラスリボンGRの冷却速度が大きい。
【0051】
深底部X1aにおける溶融金属Mの深さDaは、浅底部X1bにおける溶融金属Mの深さDbよりも、深い。つまり、「Da>Db」の関係が成立する。従って、溶融金属Mの熱容量が大きく、ヒータ25の出力変動などによるガラスリボンGRの温度変化を抑制できる。
【0052】
ポケット部X1cにおける溶融金属Mの深さDcは、深底部X1aにおける溶融金属Mの深さDaよりも、深くてもよい。つまり、「Dc>Da>Db」の関係が成立してもよい。DcがDaよりも小さい場合に比べて、ポケット部X1cにおける溶融金属Mの熱容量が大きく、溶融金属MがガラスリボンGRの熱を吸収しやすい。従って、ポケット部X1cにおけるガラスリボンGRの冷却速度を大きくできる。ひいては、ナロー域X1の流れ方向の長さLを維持しつつ、深底部X1aにおけるガラスリボンGRの冷却速度を小さくできる。
【0053】
ポケット部X1cにおける溶融金属Mの深さDcは、例えば、浅底部X1bにおける溶融金属Mの深さDbの1.5倍~2.5倍である。つまり、Dc/Dbは、1.5~2.5である。Dc/Dbは、好ましくは1.5~2.0であり、より好ましくは1.7~1.8である。
【0054】
深底部X1aにおける溶融金属Mの深さDaは、例えば、浅底部X1bにおける溶融金属Mの深さDbの1.5倍~2.5倍である。つまり、Da/Dbは、1.5~2.5である。Da/Dbは、好ましくは1.5~2.0であり、より好ましくは1.7~1.8である。
【0055】
ポケット部X1cの流れ方向の長さLcは、例えば、ナロー域X1の流れ方向の長さLの15%~35%である。Lcは、好ましくはLの20%~30%である。長さLcが長さLの15%~35%だと、ポケット部X1cにおけるガラスリボンGRの冷却速度を大きくできる。
【0056】
深底部X1aの流れ方向の長さLaは、ナロー域X1の流れ方向の長さLの40%~60%である。Laは、好ましくは49%~56%である。長さLaが長さLの40%~60%だと、深底部X1aにおけるガラスリボンGRの冷却速度を小さくできる。
【0057】
次に、
図7(A)に加えて、
図3及び
図4を参照して、ヒータ25の区画について説明する。
図7(A)に示すように、流れ方向に隣り合う2つの列A、Bを分割する第1分割線D1であってポケット部X1cの下流端X1dに最も近い第1分割線D1と、ポケット部X1cの下流端X1dとの流れ方向の間隔Eは、ポケット部X1cの流れ方向の長さLcの0%~15%である。
【0058】
間隔Eが長さLcの0%~15%であれば、平面視にて第1分割線D1がポケット部X1cの下流端X1dとほぼ一致する。それゆえ、ポケット部X1cと深底部X1aとで、ガラスリボンGRの冷却速度に差を付けやすい。
成形装置2は、上流側のポケット部X1cにおけるガラスリボンGRを急冷すると共に下流側の深底部X1aにおけるガラスリボンGRを徐冷するために、上流側のヒータ25の出力よりも下流側のヒータ25の出力を上げる。仮に間隔Eが長さLcの0%~15%の範囲外の場合、下流側のヒータ25による上流側のポケット部X1cにおけるガラスリボンGRの加熱量が大きく、ポケット部X1cと深底部X1aとで、ガラスリボンGRの冷却速度に差を付けにくい。
間隔Eは、好ましくは長さLcの0%~10%であり、より好ましくは長さLcの0%~5%である。
【0059】
間隔Eは、小さいほど、好ましい。間隔Eは、例えば0mm~500mmであり、好ましくは0mm~250mmであり、より好ましくは0mm~125mmである。
【0060】
なお、第1分割線D1は、本実施形態ではポケット部X1cの下流端X1dよりも上流側に設けられるが、ポケット部X1cの下流端X1dよりも下流側に設けられてもよい。
【0061】
図3に示すように、流れ方向で最下流の列Aは、幅方向に5個以上(例えば7個)の区画A1~A7を含む。列Aに含まれる区画の個数が5個以上であれば、成形装置2の出口2aの直前で、ガラスリボンGRの幅方向に温度差を付けやすい。列Aに含まれる区画の個数は、好ましくは7個以上である。また、列Aに含まれる区画の個数は、制御器26の個数の観点から、好ましくは11個以下である。
【0062】
平面視にて、最下流の列Aにおいて幅方向に隣り合う2つの区画を分割する第2分割線D2は、ガラスリボンGRの耳部GR2と重なる。成形装置2の出口2aの直前において、ガラスリボンGRの耳部GR2と平坦部GR1とで温度差を付けやすく、平坦部GR1を耳部GR2よりも低い温度に冷却できる。
【0063】
その結果、成形装置2の出口2aの直前において平坦部GR1を硬くできる。また、耳部GR2を緩やかに冷却でき、耳部GR2に引張応力が作用する時間を長くでき、フロートガラスの平面歪を低減できる。
【0064】
本開示に係るフロートガラス製造装置及びフロートガラス製造方法は、
図8に示すように、ガラスリボンGRから第11世代(G11)以上の基板サイズのフロートガラスを、ガラスリボンGRの幅方向に2枚(部位L及び部位R)採板するのに好適である。この場合、ナロー域X1におけるガラスリボンGRの幅方向寸法は6m以上であり、フロートガラスの平面歪を低減するのが容易でないからである。
【0065】
第11世代(G11)の基板サイズは、切り折り加工の前に、縦(短辺)2972mm、横(長辺)3404mmであり、切り折り加工の後に、縦(短辺)2940mm、横(長辺)3370mmである。また、第6世代(G6)の基板サイズは、切り折り加工の前に、縦(短辺)1524mm、横(長辺)1880mmである。
【0066】
次に、
図9を参照して、本実施形態に係るフロートガラス10について説明する。フロートガラス10は、上記のフロートガラス製造装置1を用いて製造される。フロートガラス10は、いわゆるマザーガラスであって、FPDの製造工程の途中で、例えば
図9に破線で示す位置で、2枚に切断される。フロートガラス10は、FPDの製造工程の途中で、4枚以上に切断されてもよく、複数枚に切断されればよい。FPDの生産効率を向上できる。
【0067】
フロートガラス10は、平面視矩形状である。矩形は、一組の2辺の長さと別の一組の2辺の長さとが異なる長方形であるが、4辺の長さが等しい正方形であってもよい。また、矩形は、4辺の角を面取りしたものを含む。
【0068】
フロートガラス10は、縦寸法T1が2900mm以上であり、横寸法T2が3200mm以上であり、且つ平均板厚が0.75mm以下である。縦寸法T1及び横寸法T2は、平面視サイズを表す。縦寸法T1は、好ましくは3000mm以上である。また、縦寸法T1は、好ましくは4500mm以下である。横寸法T2は、好ましくは3300mm以上である。また、横寸法T2は、好ましくは5000mm以下である。平均板厚は、好ましくは0.55mm以下であり、0.45mm以下であってもよい。また、平均板厚は、好ましくは0.05mm以上である。
【0069】
フロートガラス10の最大平面歪は、例えば2.0MPa以下である、最大平面歪が2.0MPa以下であれば、平面視サイズが大きく、平均板厚が小さい場合であっても、切断前後でのガラスの変形を抑制できる。従って、カラーフィルター又は薄膜トランジスタ(TFT)のパターンがガラス基板の切断によってずれるのを抑制できる。
【0070】
フロートガラス10の最大平面歪は、好ましくは1.5MPa以下である。最大平面歪が1.5MPa以下であれば、平面視サイズが大きく、平均板厚が小さい場合であっても、フロートガラス10の反りが小さい。よって、FPDの製造工程において、フロートガラス10(ガラス基板)の真空吸着不良を抑制できる。
【0071】
本発明者は、FPDの製造工程において、マザーガラスの真空吸着不良が発生した原因を調べた。その結果、本発明者は、縦寸法T1が2900mm以上であり、横寸法T2が3200mm以上であり、且つ平均板厚が0.75mm以下であるマザーガラスの最大平面歪が1.5MPaを超える場合に、マザーガラスの反りが大きく、真空吸着不良が生じることを見出した。そして、上記のフロートガラス製造装置1を用いることで、マザーガラスの最大平面歪を低減できた。
【0072】
フロートガラス10の最大平面歪は、より好ましくは1.0MPa以下である。また、フロートガラス10の最大平面歪は、好ましくは0.1MPa以上である。
【実施例0073】
以下、実験データについて説明する。例1~例3では、上記実施形態に係るフロートガラス製造装置1を用い、表1に示す「冷却速度」以外、同じ条件で、縦寸法が2972mm、横寸法が3404mm、及び平均板厚が0.5mmの平面視矩形状のフロートガラスを製造した。フロートガラスは、歪点が670℃の無アルカリガラスであり、酸化物基準の質量%表示で、SiO2:60%、Al2O3:17%、B2O3:8%、MgO:3%、CaO:4%、SrO:8%を含有する。
【0074】
例1~例3において、ポケット部X1cの下流端X1dに最も近い第1分割線D1と、ポケット部X1cの下流端X1dとの流れ方向の間隔Eは、ポケット部X1cの流れ方向の長さLcの0%であった(
図7(A)参照)。例1~例3は、いずれも、実施例である。表1に、実験条件と、実験結果を示す。
【0075】
【表1】
表1において、「冷却速度」は、ポケット部X1cを通過する際の、ガラスリボンGRの幅方向中心線CLの平均冷却速度である。また、表1において、「η1」はドロスボックス41の下流域におけるガラスリボンGRの幅方向中心線CLの粘度([dPa・s])であり、「η2」は徐冷炉31の最上流端から下流側に向けて3m離れた位置におけるガラスリボンGRの幅方向中心線CLの粘度([dPa・s])である。
【0076】
表1から明らかなように、例1~例3では、最大平面歪が2.0MPa以下のフロートガラスが得られた。
【0077】
また、例2~例3では、例1よりも、ポケット部X1cにおけるガラスリボンGRの冷却速度が大きく、深底部X1aにおけるガラスリボンGRの冷却速度が小かった。その結果、例1よりも、成形装置2の出口2aの直前でガラスリボンGRを緩やかに冷却でき、ガラスリボンGRの耳部GR2に引張応力が作用する時間を長くでき、最大平面歪が1.5MPa以下のフロートガラスが得られた。
【0078】
以上、本開示に係るフロートガラス製造装置、フロートガラス製造方法、及びフロートガラスについて説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。