(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098707
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】構造色発現用組成物
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20220627BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
G02B5/28
C01B33/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212265
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】柴野 隆
(72)【発明者】
【氏名】保坂 正喜
【テーマコード(参考)】
2H148
4G072
【Fターム(参考)】
2H148GA03
2H148GA05
2H148GA12
2H148GA21
4G072AA25
4G072BB05
4G072DD05
4G072GG02
4G072HH14
4G072JJ28
4G072JJ47
4G072KK07
4G072KK17
4G072LL11
4G072MM02
4G072MM31
4G072QQ09
4G072TT01
4G072UU09
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】天然素材を用いた場合であっても、天然素材特有の素材のばらつき等によらず、安定したコアシェル構造を作製し、反射波長を制御した鮮やかな構造色を発現させることが可能となり、汎用性の高い構造色発現用組成物を提供することにある。
【解決手段】無機材料粒子を含むコア部と、カテコール基を含有する化合物と鉄を含有するシェル部、を有する構造色発現用組成物において、カテコール基を含有する化合物と鉄を含有するシェル部が褐色~黒色であることから散乱光を吸収し、構造色の発色性を高めることを見出し、さらに、従来技術の重合反応よりも反応が制御しやすく、工業化に適した構造色発現用組成物により、上記の課題を解決できたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造を有する構造色発現用組成物であって、
無機材料粒子を含むコア部と、
カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物と鉄を含有するシェル部、
を有する構造色発現用組成物。
【請求項2】
前記無機材料が、少なくともシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、酸化亜鉛から一つ選ばれる請求項1記載の構造色発現用組成物。
【請求項3】
前記カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物が、少なくともヘマテイン、没食子酸、没食子酸プロピル、クロロゲン酸、カルミン酸から選ばれる一つの化合物である請求項1または2記載の構造色発現用組成物。
【請求項4】
前記カテコール基を含有する分子量が110以上1000以下の化合物と鉄が錯体を形成し、無機材料粒子に吸着していることを特徴とする請求項1~3いずれか一項記載の構造色発現用組成物。
【請求項5】
前記コア部の無機材料粒子径が100~500nmであり、シェル部の厚さが1~30nmである、請求項1~4いずれか一項記載の構造色発現用組成物。
【請求項6】
請求項1~5いずれか一項記載の構造色発現用組成物を樹脂中に配列させた構造色発現材料または構造色発現粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は構造色発現用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
構造色は、染料や顔料などの色素を使わない発色で、光の波長相当の規則構造が発現する多層膜による周期構造や光の干渉作用、円偏光選択反射などによる光学効果であり、例として、CD表面やシャボン玉、玉虫の発色が挙げられる。染料や顔料などの色素では特定波長の光を吸収することで色を出すが、構造色は規則構造によって特定波長の光を選択的に反射し色を出している。それら規則構造が破壊されない限り色あせることがないことなどが特徴で、商業用途への応用も広がっている。
また、石油由来の合成染料・顔料とは異なり、その規則構造を制御することにより、天然素材のみでも様々な色を発現することが可能であり、環境や人体に優しいサステナブルな色材を作製できる可能性のある技術として、注目されている。
【0003】
構造色の従来技術として、コアシェル粒子を用いた構造色技術(特許文献1)がある。この技術は、1つの材料系で、様々な色相、マット調やグリッター調等の意匠を発現できる特徴がある。しかしながら、コア材料に石油由来の合成材料であるポリスチレンを用いており、コア材料、シェル材料ともに天然素材を用いたものではない。
【0004】
一方で、非特許文献1では、特許文献1と同じコンセプトのコアシェル粒子を、地球上に無尽蔵に存在するシリカを主成分とした粒子をコア部、植物由来のタンニン酸と鉄から得られるタンニン酸鉄をシェル部に用い、天然素材で作製している。
【0005】
しかし、天然素材を用いて構造色色材を作製する場合、特にシェル材料に天然素材を用いる場合に、天然素材特有の素材のばらつき等によって安定したコアシェル構造を作製することが困難であり、反射波長を制御した鮮やかな構造色を発現させる観点で改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-62271号公報
【非特許文献1】Sakai, M.; Seki, T.; Takeoka, Y. Colorful Photonic Pigments Prepared by using Safe Black and White Materials. ACS Sustainable Chem. Eng. 2019, 7, 14933-14940
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明が解決しようとする課題は、天然素材を用いた場合であっても、天然素材特有の素材のばらつき等によらず、安定したコアシェル構造を作製し、反射波長を制御した鮮やかな構造色を発現させることが可能となり、汎用性の高い構造色発現用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、無機材料粒子を含むコア部と、カテコール基を含有する化合物と鉄を含有するシェル部、を有する構造色発現用組成物において、カテコール基を含有する化合物と鉄を含有するシェル部が褐色~黒色であることから散乱光を吸収し、構造色の発色性を高めることを見出し、さらに、従来技術の重合反応よりも反応が制御しやすく、工業化に適した構造色発現用組成物により、上記の課題を解決できたものである。
【0009】
すなわち本願発明は、以下を含む。
【0010】
[1]コアシェル構造を有する構造色発現用組成物であって、
無機材料粒子を含むコア部と、
カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物と鉄を含有するシェル部、
を有する構造色発現用組成物。
[2]前記無機材料が、少なくともシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、酸化亜鉛から一つ選ばれる[1]記載の構造色発現用組成物。
[3]前記カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物が、少なくともヘマテイン、没食子酸、没食子酸プロピル、クロロゲン酸、カルミン酸から選ばれる一つの化合物である[1]または[2]記載の構造色発現用組成物。
[4]前記カテコール基を含有する分子量が110以上1000以下の化合物と鉄が錯体を形成し、無機材料粒子に吸着していることを特徴とする[1]~[3]いずれか一記載の構造色発現用組成物。
[5]前記コア部の無機材料粒子径が100~500nmであり、シェル部の厚さが1~30nmである、[1]~[4]いずれか一記載の構造色発現用組成物。
[6][1]~[5]いずれか一記載の構造色発現用組成物を樹脂中に配列させた構造色発現材料または構造色発現粒子。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の構造色発現用組成物は、様々な色相や意匠(マット調、グリッター調)を発現できる特徴があり、色材として化粧品用顔料、医薬品または農薬のコーティング材、食用顔料、食品包装インキ用顔料、印字マーカー、文房具、筆記具、インクジェットインキ、金属インキ、塗料、プラスチック着色剤、カラートナー用色素、または化学センサー等の幅広い産業分野に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コアシェル構造を有する構造色発現用組成物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に示す本願発明の実施形態は一部の実施形態を表すにすぎず、要旨を大幅に逸脱しない限りにおいて記載内容のみには限定されない。
【0014】
本願発明の構造色発現用組成物は、中心部を形成するコア部とその外郭を覆うような形でシェル部の構造を有するものである。
【0015】
[コア部]
本願発明のコア部は、無機材料粒子からなる。本願発明で使用される無機材料粒子は、平均粒子径を調整することで、構造色発現用組成物の色相を制御することができる。具体的には、Braggの式に、無機材料粒子の平均粒子径、屈折率を代入することで、構造色発現用組成物の反射波長を見積もることができる。有彩色をより鮮明に発色させるという観点から、平均粒子径は100~500nmが好ましく、150~400nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0016】
粒度分布の単分散性を示すCV値(変動係数)は、粒度分布における標準偏差σと平均粒子径Dを用いて、CV[%]=(σ/D)×100で得られる値である。この値が小さいほど粒度分布が狭く粒子径が均一であることを示し、CV値が10%以下、より好ましくは5%以下であると、構造色発現用組成物の発色性が向上する。
【0017】
本願発明で使用される無機材料粒子は、単独でも良いし、混合物や結合物でも良い。粒子の形態としては、単一構造、コア-シェル型、多層型、中空粒子のいずれでも良い。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を任意の組み合わせで併用しても良い。また、経時での無機材料粒子の沈降が起こりにくく、発色性に優れるものが好ましい。
【0018】
本願発明で使用される無機材料粒子としては、以下に限定されるわけではないが、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を任意の組み合わせで併用しても良い。
【0019】
本願で使用される無機材料粒子は、シェル部を構成する化合物との密着性を改善させるための接着剤等が塗布されていてもよい。接着剤等を使用する場合、構造色発現に悪影響を及ぼさないものを使用することが望ましい。
【0020】
[シェル部]
本願発明のシェル部は、カテコール基を含有する化合物と鉄を含有する。カテコール基を有する化合物としては、ヘマテイン、没食子酸、没食子酸プロピル、クロロゲン酸、カルミン酸等があげられる。分子量としては、110以上1000以下であり、さらに150以上500以下が好ましい。カテコール基を有する化合物は、単独でも何種類かを組み合わせても使用しうる。中でもヘマテインが無機材料粒子への吸着に優れるという観点から好適に使用される。
【0021】
上記シェル部はコア部の外郭にあたり、厚さとしては、薄すぎることにより十分に散乱光を吸収することができず色相が白っぽくなり構造色の発色性が悪くなる点と、厚すぎることにより多くの入射光を吸収し色相が黒っぽくなり構造色の発色性が悪くなる点を考慮し、1~30nmが好ましく、1~20nmがより好ましい。
上記の範囲内において、厚さを薄い方向に制御すると、コアシェル構造を有する構造色発現用組成物の表面凹凸が少なく、構造色ペレット作製時に配列構造がコロイド結晶構造となりやすくなり、その結果、入射した光がブラッグ回折することにより、観察する角度に応じて色が変化する、グリッター調の虹色構造色を得ることができる。
一方、厚さを厚い方向に制御すると、コアシェル構造を有する構造色発現用組成物の表面凹凸が増え、構造色ペレット作製時に配列構造がアモルファス構造となりやすくなり、その結果、観察する角度によらず同様の色を視認することのできる、マット調の単色構造色を得ることができる。
【0022】
カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物は、金属と不溶性錯塩を形成する。不溶性錯塩を形成する金属としては、鉄、アルミニウム、銅、スズ、コバルト、チタン等が挙げられるが、形成した錯塩が褐色~黒色を呈するという観点から、本願発明では鉄を用いた。
【0023】
また本願発明において、シェル部は、上記のとおり、コアを覆う材料であって、このコアと相まって発色性の高い構造色を呈することができるようになる。コアシェル構造形成のメカニズムとしては、下記に一例を示しているが、これに限定されるものではない。
無機材料粒子表面の水酸基とカテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物の水酸基の間で鉄錯体をつくりコアシェル構造を形成、もしくは、無機材料粒子表面の水酸基とカテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物の水酸基の間で水素結合によって相互作用し、コアシェル構造を形成、もしくは、その両方が同時に起こっていると考えている。
【0024】
上記の推定メカニズムより考えると、シェル部中では、モル比で、カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物が鉄に対し同等以上含まれているのが好ましい。具体的には、モル比で、カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物:鉄=80:20~20:80であってもよいが、80:20~50:50が好ましい。
【0025】
ここで、本願発明の構造色発現用組成物の製造方法の一例について説明する。
【0026】
本願発明の構造色発現用組成物の製造方法としては、(1)無機材料粒子を媒体中に分散させ、無機材料粒子分散液を作製する、(2)無機材料粒子分散液に、鉄を含有する化合物の溶液、カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物の溶液を添加、撹拌し、無機材料粒子を含むコア部を、カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物と鉄を含むシェル部で覆い、構造色発現用組成物を得る方法が挙げられる。
【0027】
本願発明で使用される無機材料粒子は、水や有機溶媒に分散させ使用する。有機溶媒としては、トルエンやキシレン、メトキシベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル系溶剤、エトキシエチルプロピオネート等のプロピオネート系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクタム、n-メチル-2-ピロリドン、アニリン、ピリジン等の窒素化合物系溶剤、γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶剤、水等を用いることができる。
なかでも、無機材料粒子の分散性の観点から、水、エタノール、エチレングリコールが好ましい。また、コアシェル構造作製時の無機材料粒子の濃度は、分散安定性の観点から、0.01~1.0%が好ましい。
【0028】
鉄を含有する化合物としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、酢酸第一鉄、リン酸第一鉄、シュウ酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、酢酸第二鉄などが用いられる。なかでも、後処理工程も含めた取扱いの容易さから、塩化第一鉄、塩化第二鉄が好ましい。
【0029】
鉄を含有する化合物の溶液とカテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物の溶液を添加する方法は、どちらが先でも良いし、2つの溶液を少量ずつ添加しても良い。また、一連の工程は、室温でもよいし加熱してもよい。
【0030】
シェル部の厚さの制御は、カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物と鉄を含有する化合物の添加量や、前記構造色発現用組成物の製造方法(1)、(2)の操作の繰り返し回数等によって適宜調整可能である。
【0031】
本願発明の構造色発現用組成物は、得られた構造色発現用組成物を含む分散液をそのまま使用しても良いし、ろ過、乾燥し、粉体として得たものを使用することもできる。ろ過、乾燥の方法は、通常の方法、装置であればいかなるものでも可能であり、限定されるものではない。
【0032】
また、本願発明の構造色発現用組成物は、顔料のように取り扱うことも可能である。一例として、重合性物質を含有した溶媒に構造色発現用組成物を分散、配列させ、前記重合性物質を重合させることにより、構造色発現用組成物を固定化した、構造色発現材料が得られる。例えば、この材料を一定の大きさに粉砕することで、構造色を発する球状粒子や薄片状粒子が得られ、顔料のように取り扱うことができる。
【0033】
本願発明の構造色発現用組成物を利用することで、様々な色相や意匠(マット調、グリッター調)を発現でき、色材として化粧品用顔料、医薬品または農薬のコーティング材、食用顔料、食品包装インキ用顔料、印字マーカー、文房具、筆記具、インクジェットインキ、金属インキ、塗料、プラスチック着色剤、カラートナー用色素、または化学センサー等の幅広い産業分野に使用することができるものである。下記詳述する用途は一例であり、本願発明の構造色発現用組成物を色材としていかなる用途へも使用することができる。
【0034】
(化粧品用途)
本願発明の構造色発現用組成物は、化粧品として使用できる。使用される化粧品には特に制限はなく、本願発明の構造色発現用組成物は、様々なタイプの化粧品に使用することができる。
【0035】
前記化粧品は、機能を有効に発現することができる限り、いかなるタイプの化粧品であってもよい。前記化粧品は、ローション、クリームゲル、スプレー等であってよい。前記化粧品としては、洗顔料、メーク落とし、化粧水、美容液、パック、保護用乳液、保護用クリーム、美白化粧品、紫外線防止化粧品等のスキンケア化粧品、ファンデーション、白粉、化粧下地、口紅、アイメークアップ、頬紅、ネイルエナメル等のメークアップ化粧品、シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、整髪剤、パーマネント・ウェーブ剤、染毛剤、育毛剤等のヘアケア化粧品、身体洗浄用化粧品、デオドラント化粧品、浴用剤等のボディケア化粧品などを挙げることができる。
【0036】
前記化粧品に使用される本願発明の構造色発現用組成物の量は、化粧品の種類に応じて適宜設定することができる。前記化粧品中の含有量が通常0.1~99質量%の範囲であり、一般的には、0.1~10質量%の範囲となるような量であることが好ましい。一方で、着色が目的のメークアップ化粧品では、好ましくは5~80質量%の範囲、さらに好ましくは10~70質量%の範囲、最も好ましくは20~60質量%の範囲となるような量であることが好ましい。前記化粧品に含まれる本願発明の構造色発現用組成物の量が前記範囲であると、着色性等の機能を有効に発現することができ、かつ化粧品に要求される機能も保持することができる。
【0037】
前記化粧品は、化粧品の種類に応じて、本願発明の構造色発現用組成物の他、化粧品成分として許容可能な、担体、顔料、油、ステロール、アミノ酸、保湿剤、粉体、着色剤、pH調整剤、香料、精油、化粧品活性成分、ビタミン、必須脂肪酸、スフィンゴ脂質、セルフタンニング剤、賦形剤、充填剤、乳化剤、酸化防止剤、界面活性剤、キレート剤、ゲル化剤、濃厚剤、エモリエント剤、湿潤剤、保湿剤、鉱物、粘度調整剤、流動調整剤、角質溶解剤、レチノイド、ホルモン化合物、アルファヒドロキシ酸、アルファケト酸、抗マイコバクテリア剤、抗真菌剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、鎮痛剤、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗刺激剤、抗腫瘍剤、免疫系ブースト剤、免疫系抑制剤、抗アクネ剤、麻酔剤、消毒剤、防虫剤、皮膚冷却化合物、皮膚保護剤、皮膚浸透増強剤、剥脱剤(exfoliant)、潤滑剤、芳香剤、染色剤、脱色剤、色素沈着低下剤(hypopigmenting agent)、防腐剤、安定剤、医薬品、光安定化剤、及び球形粉末等を含むことができる。
【0038】
前記化粧品は、本願発明の構造色発現用組成物およびその他の化粧品成分を混合することによって製造することができる。
また、本願発明の構造色発現用組成物を含む化粧品は、該化粧品のタイプ等に応じて、通常の化粧品と同様に使用することができる。
【0039】
(インキ、塗料用途)
本願発明の構造色発現用組成物は、インキ、塗料として使用できる。ただし、インキ、塗料の用途、組成について記述するが、これらに限定されるものではない。
また本願発明の構造色発現用組成物は、熱可塑性樹脂のみに分散させてもよいが、熱可塑性樹脂を必須成分として含有する印刷インキ用ビヒクルや塗料用ビヒクル等に分散させることも出来る。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、たとえばポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリアルキレンテレフタレートやポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂が分散用樹脂として使用できる。
【0041】
たとえば平版印刷用インキのビヒクルは、たとえばロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂等の樹脂を20~50質量%、アマニ油、桐油、大豆油等の動植物油を0~30質量%、n-パラフィン、イソパラフィン、ナフテン、α-オレフィン、アロマティック等の溶剤を10~60質量%、その他可溶化剤、ゲル化剤等の添加剤を数質量%の原料から製造される。
【0042】
またグラビア印刷インキ、フレキソ印刷インキ用ビヒクルの場合は、たとえばロジン類、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース等から選ばれる一種以上の樹脂を10~50質量%、アルコール類、トルエン、n-ヘキサン、酢酸エチル、セロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ等の溶剤30~80質量%の原料等から製造される。
【0043】
塗料用のビヒクルでは、たとえばアルキド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、水溶性樹脂等の樹脂20~80質量%、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、水等の溶剤10~60質量%の原料等から製造される。
【0044】
(プラスチック用途)
本願発明の構造色発現用組成物はプラスチック着色用途にも使用できる。着色プラスチック成形品を得る場合には、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンやポリ塩化ビニル樹脂等の、射出成形やプレス成形等の熱成形用の熱可塑性樹脂(プラスチック)が用いられるが、本願発明の構造色発現用組成物はこれらの樹脂に従来公知の方法で練り込んで使用することができる。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本願発明を更に詳述するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0046】
[平均1次粒子径の測定方法]
走査型電子顕微鏡(キーエンス株式会社、VE-7800)にて、作製した構造色ペレットを2万倍で撮影し、粒子の画像を得た。そして、二次元画像上の凝集体を構成する一次粒子50個の粒子径の最長の長さ(最大長)を求めた。個々の粒子の最大長の平均値を一次粒子の平均粒子径とした。
【0047】
[反射ピーク波長の測定方法]
分光特性測定装置(大塚電子株式会社、LCF-100)にて、作製した構造色ペレットの反射スペクトルを測定した。そのスペクトルのピークトップの値を反射ピーク波長とした。
【0048】
[コアシェル粒子の表面分析]
走査型X線光電子分光分析装置(アルバックファイ株式会社、Quantera SXM)にて、作製した構造色ペレットをスパチュラで崩し粉末化したサンプルを用い、試料表面を構成する元素の組成を測定した。
【0049】
(実施例1)
200mLナスフラスコに、シリカ粒子のSilbol250(富士化学株式会社)0.22g、エタノール50gを添加した。そのナスフラスコを超音波洗浄機に入れ、1時間運転しシリカ粒子をエタノール中に分散させ、A液を作製した。
50mLビーカーに、イオン交換水9.54g、塩化鉄(III)溶液(関東化学株式会社、純度34.0~36.0%)0.46gを添加し、撹拌子を入れスターラーで10分間攪拌し、B液を作製した。
50mLビーカーに、エタノール16.5g、ヘマテイン(Sigma-Aldrich株式会社、分子量300.26)0.10gを添加し、撹拌子を入れスターラーで10分間攪拌し、C液を作製した。
A液に撹拌子を入れ、スターラーで攪拌しているところに、B液0.50gを徐々に添加し、室温で30分間攪拌した。その後、C液2.5gを5分間かけて徐々に添加し、室温で5時間攪拌した。その後、遠心分離(9000G、10分間)、上澄み液の除去、イオン交換水への分散の3つの工程を、上澄み液が無色透明になるまで5回繰り返し、構造色発現用組成物の水分散液(1)(固形分濃度10%)を得た。
得られた分散液(1)0.1mLをシリコンラバーシート上に滴下し、24時間自然乾燥させると、構造色由来で、見る角度を変えると色が変化し、正面から観察するとグリッター調の緑色のペレット(1)が得られた。
【0050】
(実施例2)
実施例1で、A液に添加したB液、C液の量を、B液1.5g、C液7.5gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、構造色発現用組成物の水分散液(2)(固形分濃度10%)を得た。
得られた分散液(2)0.1mLをシリコンラバーシート上に滴下し、24時間自然乾燥させると、構造色由来で、見る角度を変えても色が変化しないマット調の緑色のペレット(2)が得られた。
【0051】
(実施例3)
200mLナスフラスコに、シリカ粒子のSilbol250を0.22g、イオン交換水50gを添加した。そのナスフラスコを超音波洗浄機に入れ、1時間運転しシリカ粒子を水中に分散させ、D液を作製した。
50mLビーカーに、イオン交換水19.81g、没食子酸一水和物(関東化学株式会社、分子量170.12)0.19gを添加し、撹拌子を入れスターラーで10分間攪拌し、E液を作製した。
D液に撹拌子を入れ、スターラーで攪拌しているところに、B液8.0gを徐々に添加し、室温で30分間攪拌した。その後、E液16.0gを5分間かけて徐々に添加し、室温で5時間攪拌した。その後、遠心分離(9000G、10分間)、上澄み液の除去、イオン交換水への分散の3つの工程を、上澄み液が無色透明になるまで5回繰り返し、構造色発現用組成物の水分散液(3)(固形分濃度10%)を得た。
得られた分散液(3)0.1mLをシリコンラバーシート上に滴下し、24時間自然乾燥させると、構造色由来で、見る角度を変えると色が変化し、正面から観察するとグリッター調の緑色のペレット(3)が得られた。
【0052】
(実施例4)
50mLビーカーに、イオン交換水19.29g、クロロゲン酸(東京化成工業株式会社、分子量354.31)0.71gを添加し、撹拌子を入れスターラーで10分間攪拌し、F液を作製した。
実施例3で、D液に添加したB液を0.50g、C液をF液に変更し0.50g添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、構造色発現用組成物の水分散液(4)(固形分濃度10%)を得た。
得られた分散液(4)0.1mLをシリコンラバーシート上に滴下し、24時間自然乾燥させると、構造色由来で、見る角度を変えると色が変化し、正面から観察するとグリッター調の緑色のペレット(4)が得られた。
【0053】
<比較例1>
実施例1で、A液に添加したB液、C液の量を、B液0.05g、C液0.25gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、構造色発現用組成物の水分散液(5)(固形分濃度10%)を得た。
得られた分散液(5)0.1mLをシリコンラバーシート上に滴下し、24時間自然乾燥させると、わずかに構造色由来のグリッター調が見える白色のペレット(5)が得られた。
【0054】
<比較例2>
実施例1で、A液に添加したB液、C液の量を、B液4.5g、C液22.5gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、構造色発現用組成物の水分散液(6)(固形分濃度10%)を得た。
得られた分散液(6)0.1mLをシリコンラバーシート上に滴下し、24時間自然乾燥させると、黒色のペレット(6)が得られた。
【0055】
<比較例3>
200mLナスフラスコに、シリカ粒子のSilbol250を1.0g、イオン交換水9.0gを添加した。そのナスフラスコを超音波洗浄機に入れ、1時間運転しシリカ粒子を水中に分散させ、G液を作製した。
G液0.1mLをシリコンラバーシート上に滴下し、24時間自然乾燥させると、わずかに構造色由来のグリッター調が見える白色のペレット(7)が得られた。
【0056】
構造色ペレット(1)~(7)を走査型X線光電子分光分析装置で測定した結果、原料のシリカ粒子のみを用いた構造色ペレット(7)と比べ、構造色ペレット(1)~(6)の方が炭素検出量が多かった。また、構造色ペレット(7)では鉄が未検出に対し、構造色ペレット(1)~(6)では鉄が検出された。
また、構造色ペレット(1)~(7)を走査型電子顕微鏡で撮影した画像では、ほぼ等しい大きさの粒子以外の形状の物質は観察されなかった。
以上より、構造色発現用組成物において、シリカ粒子、カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物、鉄が、別々に存在しているわけではなく、シリカ粒子を含むコア部と、カテコール基を含有する分子量110以上1000以下の化合物と鉄を含有するシェル部、を有するコアシェル構造を有していると考える。
【0057】
また、下記に、走査型電子顕微鏡で観察された粒子より測定したコアシェル粒子の平均粒子径、シェル部の厚さ、分光光度計で測定した反射ピーク波長を記載した。シェル部の厚さは、各コアシェル粒子の平均粒子径から比較例3(原料のシリカ粒子)の平均粒子径を引き、2で割った値である。
【0058】
【0059】
実施例1、2と比較例1~3を比較すると、カテコール基を含有した分子量110以上1000以下の化合物であるヘマテインの仕込量を調整することにより、コアシェル粒子の平均粒子径を調整できた。すなわち、コアシェル構造のシェル部の厚さを調整できた。
また、比較例1ではシェル部の厚さが薄く、散乱光がシェル部に吸収されず、構造色由来の発色が白くぼやけた。比較例2ではシェル部の厚さが厚く、シェル部に多くの入射光が吸収され褐色~黒色を呈し、構造色由来の発色が肉眼で観察できなかった。
一方、実施例1、2のようにシェル部の厚さを適切に調整すると、マット調やグリッター調の構造色が発現した。
実施例3、4に示す通り、ヘマテイン以外のカテコール基を含有した分子量110以上1000以下の化合物でも、シリカ粒子の表面に各化合物が吸着し、コアシェル構造を形成、構造色を発現した。