(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099092
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】湿度変動を利用した発電方法及び発電素子
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20220627BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212853
(22)【出願日】2020-12-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050/湿度変動発電素子の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】駒▲崎▼ 友亮
(72)【発明者】
【氏名】金澤 賢司
(72)【発明者】
【氏名】延島 大樹
(72)【発明者】
【氏名】平間 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 雄一
(72)【発明者】
【氏名】植村 聖
(57)【要約】
【課題】 環境中の湿度変動を利用して起電力を得られ、動作安定性に優れた発電方法及び発電素子の提供。
【解決手段】潮解性を有するイオン性化合物の水溶液をイオン透過膜によって隔ててその両側にそれぞれ電極を挿入し、一方を外気と遮断して密閉するとともに他方を外気と接続させて、外気中の湿度変化によりイオン透過膜を挟んで水溶液中のイオン性化合物に由来するイオン濃度差を生じさせ電極間に起電力を生じさせる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境中の湿度変動を利用して起電力を得る発電方法であって、
潮解性を有するイオン性化合物の水溶液をイオン透過膜によって隔ててその両側にそれぞれ電極を挿入し、一方を外気と遮断して密閉するとともに他方を外気と接続させて、外気中の湿度変化により前記イオン透過膜を挟んで前記水溶液中の前記イオン性化合物に由来するイオン濃度差を生じさせ前記電極間に起電力を生じさせる、湿度変動を利用した発電方法。
【請求項2】
前記イオン透過膜は陽イオン交換膜である、請求項1記載の発電方法。
【請求項3】
前記イオン性化合物はハロゲン化物であり、前記電極は銀-ハロゲン化銀電極である、請求項1又は2に記載の発電方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化物はリチウムのハロゲン化物である、請求項3記載の発電方法。
【請求項5】
前記水溶液は多孔質体に浸透保持されている、請求項1乃至4のうちの1つに記載の発電方法。
【請求項6】
環境中の湿度変動を利用して起電力を得る発電素子であって、
潮解性を有するイオン性化合物の水溶液を隔てるイオン透過膜と、その両側の前記水溶液のそれぞれに挿入された電極と、を有し、
前記イオン透過膜で隔てられた前記水溶液の一方を外気と遮断して密閉するとともに他方を外気と接続させて、外気中の湿度変化により前記イオン透過膜を挟んで前記水溶液中の前記イオン性化合物に由来するイオン濃度差を生じさせ前記電極間に起電力を生じさせる、湿度変動を利用した発電素子。
【請求項7】
前記イオン透過膜は陽イオン交換膜である、請求項6記載の発電素子。
【請求項8】
前記イオン性化合物はハロゲン化物であり、前記電極は銀-ハロゲン化銀電極である、請求項6又は7に記載の発電素子。
【請求項9】
前記ハロゲン化物はリチウムのハロゲン化物である、請求項8記載の発電素子。
【請求項10】
前記水溶液は多孔質体に浸透保持されている、請求項7乃至11のうちの1つに記載の発電素子。
【請求項11】
内部抵抗が10オーム以下である、請求項6乃至10のうちの1つに記載の発電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境中の湿度変動を利用して起電力を得る発電方法及び発電素子に関し、特に、潮解性材料を用いた湿度変動を利用した発電方法及び発電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT技術の普及に伴って、膨大な数の小型のセンサや電子機器があらゆる場所に設置されるようになる。これら小型センサ等の駆動源として、電源から電線を配線し又は交換の必要な大型の電池を個々に組み込んでいくことは現実的ではない。そこで、長期間に亘って安定した動作を得られる一次電池としてのマイクロバッテリを利用することが求められた。
【0003】
例えば、特許文献1では、電力を供給するデバイスと同じ基板上に直接一体化することができるイオン液体ゲル電解質を用いたマイクロバッテリを開示している。室温でイオン液体電解質をポリマーに膨潤させて非水性ゲルを形成し、亜鉛-金属酸化物バッテリの従来のアルカリ性および酸性液体電解質(及びセパレータ)を置換した構造を採用している。かかるセルは1個あたり1.5V、5mAh程度の電力を安定して得られるとしている。
【0004】
ところで、太陽電池(太陽光パネル)のような光-電気変換素子、熱を電気に変換する熱電素子をはじめ、振動や電磁波等の環境中に存在するエネルギーを電力に変換する発電方法が数多く提案されている。これらは、環境発電やエネルギーハーベスティングなどとも称されている。かかる発電方法を利用した発電装置についても、上記したIoTセンサ等の駆動源に用いることが考慮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
環境発電については、例えば、太陽電池であれば、動作が天候に左右されやすいように、環境エネルギー源によっては、電池動作に環境変化の影響を大きく受け、間欠動作になるなどの安定性に欠けるといった問題が指摘される。一方、空気中の湿度の変化を起電力に変換することが出来れば、1日を通じて連続してある程度の変化を経ることになるから、一次電池としての一定の安定性を得られると考えられる。
【0007】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたもので、環境中の湿度変動を利用して起電力を得られ、動作安定性に優れた発電方法及び発電素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による発電方法は、環境中の湿度変動を利用して起電力を得る発電方法であって、潮解性を有するイオン性化合物の水溶液をイオン性透過膜によって隔ててその両側にそれぞれ電極を挿入し、一方を外気と遮断して密閉するとともに他方を外気と接続させて、外気中の湿度変化により前記イオン透過膜を挟んで前記水溶液中の前記イオン性化合物に由来するイオン濃度差を生じさせ前記電極間に起電力を生じさせることにある。
【0009】
また、本発明による発電素子は、環境中の湿度変動を利用して起電力を得る発電素子であって、潮解性を有するイオン性化合物の水溶液を隔てるイオン透過膜と、その両側の前記水溶液のそれぞれに挿入された電極と、を有し、イオン透過膜で隔てられた前記水溶液の一方を外気と遮断して密閉するとともに他方を外気と接続させて、外気中の湿度変化により前記イオン透過膜を挟んで前記水溶液中の前記イオン性化合物に由来するイオン濃度差を生じさせ前記電極間に起電力を生じさせることにある。
【0010】
上記した発明では、日内変動の大きい環境中の湿度変動を利用して起電力を得られ、動作安定性に優れるのである。しかも湿度変動は環境中のあらゆる場所で生じるから、その設置場所にも依存せず、利便性にも優れるのである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】本発明によるさらに他の発電素子の断面図である。
【
図5】本発明によるさらに他の発電素子の断面図である。
【
図6】本発明によるさらに他の発電素子の断面図である。
【
図7】本発明による発電素子に湿度変化を与えたときの開放電圧のグラフである。
【
図8】本発明による発電素子に湿度変化を与えたときの開放電圧のグラフである。
【
図9】(a)発電素子に負荷を接続したときの電圧及び電流のグラフ、及び、(b)得られた電圧及び電流から算出された出力のグラフである。
【
図10】本発明による発電素子を2つ直列接続したときの断面図である。
【
図11】本発明による発電素子に湿度変化を与えたときの開放電圧のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施例1]
以下に、本発明による1つの実施例である発電素子について、
図1を用いて説明する。
【0013】
図1に示すように、発電素子10は、水溶液9a及び水溶液9bをそれぞれ収容した閉鎖槽1及び開放槽2を備える。閉鎖槽1及び開放槽2は、互いにイオン透過膜3で隔てられる。閉鎖槽1及び開放槽2には、水溶液9a及び9bに接触するようそれぞれ電極4a及び電極4bが挿入されている。また、閉鎖槽1は、外気と遮断して密閉されており、開放槽2は外気と連通し、収容した水溶液を外気に接続させるようにされている。なお、電極4a及び電極4bは、これらの間に生じた起電力を外部に取り出すための配線等に接続される。
【0014】
水溶液9a、水溶液9bは、潮解性を有するイオン性化合物の水溶液である。そのため、開放槽2において外気と接続することで、外気中の湿度変化により水分を吸収又は排出して水溶液9bのイオン濃度を変化させる。また、潮解性を有するイオン性化合物としては、例えば塩化物や臭化物などのハロゲン化物を好適に用い得る。なお、開放槽2は、外部と水分のやり取りをできればよいので、水蒸気を透過し水溶液9bを透過させない膜体などによる蓋を設けてもよい。開放槽2内の水溶液9bの外部への流出を抑制でき、発電素子10の取り扱いを容易にせしめ得る。
【0015】
ここでは、閉鎖槽1を形成するための凹部を備える板体11とイオン透過膜3と開放槽2を形成するための孔を備える板体12とを順に重ね、板体11と板体12との間をパッキン14で封止しつつイオン透過膜3の外周を板体11及び板体12に固定して発電素子10を得るためのセルを形成している。
【0016】
次に、
図2を用いて、発電素子10を用いた発電方法について説明する。ここでは、水溶液9a、9bとして塩化リチウム水溶液を用い、電極4a、4bとして銀-塩化銀電極を用い、イオン透過膜3として陽イオン交換膜を用いた場合について説明する。
【0017】
発電素子10の外気の湿度を低とする場合、開放槽2の水溶液9bは水分を蒸発させ、溶質である塩化リチウムの濃度を高くする。一方、閉鎖槽1では水分の出入りはないため水溶液の濃度に変化はない。その結果、開放槽2の水溶液9bは、閉鎖槽1の水溶液9aに比べて濃厚になる。このとき、水溶液9bの陽イオンであるLi+の濃度についても水溶液9aに比べて高くなり、イオン透過膜3を挟んでLi+の濃度差を生じる。かかるイオン濃度差を駆動力として、Li+が閉鎖槽1の水溶液9aに向けてイオン透過膜3を透過する。
【0018】
開放槽2では、水溶液9b中の陰イオンであるCl-が陽イオンであるLi+に比べて過多となり、平衡を得るために以下の化学反応式(式1)に示すように電極4bの銀と反応して塩化銀と電子を生成する。
Ag+Cl-→AgCl+e- (式1)
【0019】
一方、閉鎖槽1では、Cl-がLi+に比べて少なくなり、平衡を得るために以下の化学反応式(式2)に示すように電子を用いて電極4aの塩化銀を分解し銀とCl-を生成する。
AgCl+e-→Ag+Cl- (式2)
【0020】
この場合、(式1)で得られた電子が開放槽2の電極4bから閉鎖槽1の電極4aに向けて回路13を流れる。換言すれば、電極4aから電極4bに向けて電流が流れる。つまり、電極4a及び電極4bによる電極間に起電力を生じさせることができる。
【0021】
他方、発電素子10の外気の湿度を高とする場合、開放槽2の水溶液9bはその潮解性によって水分を吸収し、溶質である塩化リチウムの濃度を低くする。一方、閉鎖槽1では水分の出入りはないため水溶液9aの濃度に変化はない。その結果、開放槽2の水溶液9bは、閉鎖槽1の水溶液9aに比べて希薄になる。このとき、水溶液9bの陽イオンであるLi+の濃度についても水溶液9aに比べて低くなり、これをバランスさせるようLi+が開放槽2の水溶液9bに向けてイオン透過膜3を透過する。
【0022】
すると、上記とは逆に、閉鎖槽1において(式1)の反応が起こり、開放槽2において(式2)の反応が起こる。つまり、上記とは逆向きに反応が進行し、逆向きの起電力を得ることができる。
【0023】
このように、発電素子10によれば、外気中の湿度変動によって閉鎖槽1と開放槽2との間で水溶液中のイオン性化合物由来のイオンに濃度差を生じさせ、電極間に起電力を生じさせることができる。特に、外気中の湿度が高くなったときと低くなったときとで化学反応の向きを逆にしてそれぞれ起電力を生じさせることができる。このような可逆反応を繰り返すことで起電力を得られるから、日内変動の大きい環境中の湿度変動を利用することで、動作安定性に優れる。しかも、湿度変動は環境中のあらゆる場所で生じるため、発電素子10の設置場所にも依存せず、利便性にも優れる。なお、発電素子10から失われる反応物質がないため、理論的には完全な可逆性を有する反応によって起電力を得られる。
【0024】
なお、(式1)及び(式2)のように、水溶液に溶解させるイオン性化合物に塩化物を用いた場合、電極にも塩化物を含むことで上記したような可逆反応を得ることができる。つまり、水溶液に用いるイオン性化合物と電極の材料とは同一のイオンによる化合物を含む組み合わせとなる。
【0025】
また、発電素子としてはその内部抵抗を小とするものが好ましく、例えば10オーム以下とすることが好ましい。上記した塩化リチウム水溶液、銀-塩化銀電極の組み合わせによれば、内部抵抗を数オーム程度にできる。
【0026】
[実施例2]
次に、他の実施例である縦型の発電素子について、
図3を用いて説明する。
【0027】
図3に示すように、発電素子10aは上記した発電素子10と同様に、発電素子10aにおいても閉鎖槽1を形成するための凹部を備える板体11とイオン透過膜3と開放槽2を形成するための孔を備える板体12とを重ね、板体11と板体12との間をパッキン14で封止しつつイオン透過膜3の外周を板体11及び板体12に固定している。ここで、開放槽2を形成する板体12においては、孔の開口の下側の一部を覆うように壁部12bを備え、縦型としても収容した水溶液9bを開放槽2内に保持することができる。また、電極4bは、水溶液9bを浸透させて保持できる多孔質体5bの板状の主面上に一体的に設けられる。多孔質体5bは、開放槽2内の下端から上端に亘って延びており、水溶液9bを上端まで浸透させて保持できる。そのため、電極4bは、多孔質体5b上で水溶液9bと確実に接することができる。閉鎖槽1においても同様に、電極4aは多孔質体5aの主面上に一体に設けられ、電極4aの接液を確実にされる。ここでは、多孔質体5bとしてろ紙を用い、ろ紙に印刷することで電極を形成し、一体とした。
【0028】
発電素子10aによれば、縦型の配置としても多孔質体5a及び多孔質体5bによって電極9a及び電極9bの接液を確実に得て、起電力を得ることができる。これによって、重力で下方に流れる水溶液9bを開放槽2に保持していても、発電素子10aについては配置の自由度を比較的高くできる。
【0029】
[実施例3]
さらに他の実施例として、3室型の発電素子について
図4及び
図5を用いて説明する。
【0030】
図4に示すように、発電素子10bは、密閉槽1を挟むように開放槽2b及び開放槽2cの2つが配置されて、密閉槽1とそれぞれとの間にはイオン透過膜として陰イオン交換膜3b及び陽イオン交換膜3cが配置されている。すなわち、板体11’に設けられた孔によって密閉槽1が形成され、陰イオン交換膜3b及び陽イオン交換膜3cを介して板体11’を挟むように配置される2つの板体12に設けられた孔によって開放槽2b及び2cが形成されている。開放槽2a及び開放槽2b内にはそれぞれ板状の多孔質体5b及び多孔質体5cが下端から上端に延びるように配置され、水溶液9b及び水溶液9bを浸透させている。多孔質体5b及び多孔質体5cは、それぞれ電極4b及び電極4cを一体に形成しており、電極4b及び電極4cの接液を確保している。
【0031】
さらに、
図5及び
図6を参照しつつ、発電素子10bを用いた発電方法について説明する。ここでは、水溶液9a、9b、9cとして塩化リチウム水溶液を用い、電極4b、4cとして銀-塩化銀電極を用いた場合について説明する。
【0032】
図5に示すように、発電素子10bの外気の湿度を低とする場合、開放槽2b及び開放槽2cの水溶液9b及び水溶液9cは水分を蒸発させ、溶質である塩化リチウムの濃度を高くする。一方、閉鎖槽1では水分の出入りはないため水溶液の濃度に変化はない。その結果、開放槽2b及び開放槽2cの水溶液9b及び水溶液9cは、閉鎖槽1の水溶液9aに比べて濃厚になる。このとき、水溶液9b及び水溶液9cの陽イオンであるLi
+の濃度及び陰イオンであるCl
-の濃度についても水溶液9aに比べて高くなり、陰イオン交換膜3b及び陽イオン交換膜3cを挟んでLi
+及びCl
-の濃度差を生じる。かかるイオン濃度差を駆動力として、Cl
-が閉鎖槽1の水溶液9aに向けて開放槽2bから陰イオン交換膜3bを透過し、Li
+が閉鎖槽1の水溶液9aに向けて開放槽2cから陽イオン交換膜3cを透過する。
【0033】
開放槽2bでは、水溶液9b中の陽イオンであるLi+が陰イオンであるCl-に比べて過多となり、平衡を得るために上記した化学反応式(式2)に示すように、電極4bの塩化銀を分解し銀とCl-を生成する。
【0034】
一方、開放槽2cでは、水溶液9c中の陰イオンであるCl-が陽イオンであるLi+に比べて過多となり、平衡を得るために上記した化学反応式(式1)に示すように電極4cの銀と反応して塩化銀と電子を生成する。
【0035】
この場合、(式1)で得られた電子が開放槽2cの電極4cから開放槽2bの電極4bに向けて回路13を流れる。換言すれば、電極4bから電極4cに向けて電流が流れる。つまり、電極4b及び電極4cによる電極間に起電力を生じさせることができる。
【0036】
他方、
図6に示すように、発電素子10bの外気の湿度を高とする場合、開放槽2b及び開放槽2cの水溶液9b及び水溶液9cはその潮解性によって水分を吸収し、溶質である塩化リチウムの濃度を低くする。一方、閉鎖槽1では水分の出入りはないため水溶液9aの濃度に変化はない。その結果、開放槽2b及び開放槽2cの水溶液9b及び水溶液9cは、閉鎖槽1の水溶液9aに比べて希薄になる。このとき、水溶液9b及び水溶液9cの陽イオンであるLi
+の濃度及び陰イオンであるCl
-の濃度についても水溶液9aに比べて低くなり、これをバランスさせるよう閉鎖槽1内の水溶液9aからCl
-が開放槽2bの水溶液9bに向けて陰イオン交換膜3bを透過し、Li
+が開放槽2cの水溶液9cに向けて陽イオン交換膜3cを透過する。
【0037】
すると、上記とは逆に、開放槽2bにおいて(式1)の反応が起こり、開放槽2cにおいて(式2)の反応が起こる。つまり、上記とは逆向きに反応が進行し、逆向きの起電力を得ることができる。
【0038】
このように、3室型の発電素子10bによっても、外気中の湿度変動によって閉鎖槽1と開放槽2b及び開放槽2との間で水溶液中のイオン性化合物由来のイオンに濃度差を生じさせ、電極4b及び電極4c間に起電力を生じさせることができる。また、外気中の湿度が高くなったときと低くなったときとで化学反応の向きを逆にしてそれぞれ起電力を生じさせることができる。
【0039】
[製造試験]
上記したような発電素子を実際に製造し、その性能について調査した結果について、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0040】
ここでは、上記した発電素子10や発電素子10aのような2室型と発電素子10bのような3室型の発電素子を製造し、水溶液とイオン透過膜の組み合わせを変えた試験を行った。水溶液には塩化リチウム水溶液又は塩化カルシウム水溶液を用いた。塩化リチウム水溶液は20%の濃度に調整し、閉鎖槽及び開放槽にそれぞれ0.75mLずつ収容させた。塩化カルシウム水溶液は30%の濃度に調整し、閉鎖槽及び開放槽にそれぞれ0.75mLずつ収容させた。2室型の発電素子では、陽イオン交換膜にはネオセプタCSE(登録商標、株式会社アストム社製)又はNafion117(登録商標、シグマアルドリッチ社製)を用いた。3室型の発電素子では、左記と同一の陽イオン交換膜を用いるとともに、陰イオン交換膜としてネオセプタASE(登録商標、株式会社アストム社製)を用いた。また、電極としては銀-塩化銀電極を用いた。電極は、ろ紙上に銀ペーストをメッシュ状に印刷した後、塩化リチウム水溶液中で陽極酸化を行って作製した。
【0041】
図7及び
図8には、得られた発電素子に湿度変化を与えたときの開放電圧を測定した結果を示した。発電素子を恒温恒湿槽に入れ、25℃に維持した上で、4時間ごとに湿度30%と90%とで交互に繰り返す湿度変化を与えた。その結果、2室型で塩化リチウム水溶液と陽イオン交換膜としてネオセプタCSEを用いたもので最も高い電圧を得ることができた。かかる電圧は、湿度30%のときに26~28mV程度、湿度90%のときに-18~-19mV程度であった。塩化カルシウム水溶液を用いた場合においても、ネオセプタCSEを用いた2室型の発電素子において最も高い電圧を得ることができた。
【0042】
図9には、2室型で塩化リチウム水溶液とネオセプタCSEを用いた発電素子から28mVの電圧を得られているときに負荷を接続して出力を測定した結果を示した。短絡電流は4.6mAであった(
図9(a))。また、電流及び電圧から算出された出力によると、最大値は負荷を5Ωとしたときに得られ、34μWであった(
図9(b))。
【0043】
図10に示すように、縦型の発電素子10aの2つを互いに背中合わせに配置し、直列に接続した発電素子を製造した。すなわち、一方(図視右側)の発電素子10a-1の開放槽2内の電極4bをGND接続とし、閉鎖槽1内の電極4aを他方(図視左側)の発電素子10a-2の開放槽2内の電極4bと接続する。そして、発電素子10a-2の閉鎖槽1内の電極4aの電圧を測定できるよう配線した。なお、水溶液には塩化リチウム水溶液を用い、陽イオン交換膜3にはネオセプタCSEを用いた。
【0044】
図11には、得られた発電素子に湿度変化を与えたときの開放電圧を測定した結果を示した。発電素子を恒温恒湿槽に入れ、25℃に維持した上で、4時間ごとに湿度30%と90%とで交互に繰り返す湿度変化を与えた。その結果、1つの発電素子よって得られる電圧の約2倍の電圧を得られたことを確認した。
【0045】
以上、本発明による代表的な実施例を説示したが、これに限定されることを意図せず、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0046】
1 閉鎖槽
2 開放槽
3 イオン透過膜
4a、4b 電極
9a、9b 水溶液
10 発電素子