(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099279
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】複合脂質結合性担体
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220627BHJP
G01N 33/92 20060101ALI20220627BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20220627BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20220627BHJP
C07K 17/08 20060101ALI20220627BHJP
C07K 17/06 20060101ALI20220627BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
G01N33/53 S ZNA
G01N33/92
G01N33/531 A
C12N11/02
C07K17/08
C07K17/06
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202508
(22)【出願日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020212667
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】相原 秀典
(72)【発明者】
【氏名】畑山 耕太
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 恵
(72)【発明者】
【氏名】荒木 怜子
(72)【発明者】
【氏名】河合 康俊
(72)【発明者】
【氏名】大竹 則久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】兜坂 健太
(72)【発明者】
【氏名】松永 太一
(72)【発明者】
【氏名】森本 篤史
【テーマコード(参考)】
2G045
4B033
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045DA60
2G045DA61
2G045FA37
2G045FB01
2G045FB03
4B033NA25
4B033NB33
4B033NC05
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4B033NF02
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4B063QQ70
4B063QR48
4B063QR83
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4B063QX02
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA57
4H045DA89
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】
細胞外小胞を高感度に検出する技術、および、高純度の細胞外小胞を簡便な操作で大量
に単離する技術を提供すること。
【解決手段】
タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が固定化され
てなる不溶性担体を含むことを特徴とする複合脂質結合性担体と、細胞外小胞を含む試料
液を接触させ、複合脂質結合性担体と細胞外小胞が結合した複合体を得る方法、および、
当該複合体をキレート剤で処理して細胞外小胞を脱着させて回収する方法により、前記課
題を解決する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が固定化されてなる不溶性担体を含むことを特徴とする複合脂質結合性担体。
【請求項2】
タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が、以下の
(a)から(d)の何れかに記載のタンパク質である、請求項1に記載の複合脂質結合性
担体。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、リン脂質および/または細胞外
小胞に結合性を有するタンパク質。
(b)前記(a)のタンパク質のアミノ酸配列において、そのN末端側および/またはC
末端側に配列番号4で示されるアミノ酸配列が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、
リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(d)前記(a)から(c)の何れかに記載のタンパク質と不溶性担体との結合能を有した固定化補助タンパク質との複合体であり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
【請求項3】
タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が、以下の(e)から(h)の何れかに記載のタンパク質である、請求項1に記載の複合脂質結合性担体。
(e)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、リン脂質および/または細胞外
小胞に結合性を有するタンパク質。
(f)前記(e)のタンパク質のアミノ酸配列において、そのN末端側および/またはC
末端側に配列番号4で示されるアミノ酸配列が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、
リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(g)前記(e)または(f)のタンパク質のアミノ酸配列において、1個若しくは複数
個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リ
ン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(h)前記(e)から(g)の何れかに記載のタンパク質と不溶性担体との結合能を有した固定化補助タンパク質との複合体であり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
【請求項4】
タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が、以下の(i)から(l)の何れかに記載のタンパク質である、請求項1に記載の複合脂質結合性担体。
(i)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(j)前記(i)のタンパク質のアミノ酸配列において、そのN末端側および/またはC末端側に配列番号4で示されるアミノ酸配列が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(k)前記(i)または(j)のタンパク質のアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(l)前記(i)から(k)の何れかに記載のタンパク質と不溶性担体との結合能を有した固定化補助タンパク質との複合体であり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
【請求項5】
複合脂質がリン脂質である、請求項1から4のいずれかに記載の複合脂質結合性担体。
【請求項6】
リン脂質がホスファチジルセリンを成分として含むリン脂質であることを特徴とする、請求項5に記載の複合脂質結合性担体。
【請求項7】
細胞外小胞がヒト細胞由来の細胞外小胞である、請求項2から6のいずれかに記載の複合脂質結合性担体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の複合脂質結合性担体を含む検出試薬。
【請求項9】
細胞外小胞の検出に使用するキットであって、請求項8に記載の検出試薬を含むことを特徴とする、細胞外小胞検出用キット。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載の複合脂質結合性担体を充填してなるカラム。
【請求項11】
細胞外小胞の単離に使用するキットであって、請求項10に記載のカラムを含むことを特徴とする、細胞外小胞単離用キット。
【請求項12】
以下の(A1)と(A2)の工程を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれかに
記載の複合脂質結合性担体の製造方法:
(A1)不溶性担体から反応性不溶性担体を製造する工程。
(A2)前記工程(A1)で得られた反応性不溶性担体に、請求項1から請求項4のいず
れかに記載のタンパク質を固定化する工程。
【請求項13】
不溶性担体に、前記(a)から(l)のいずれかに記載のタンパク質を物理的吸着によって固定化する工程を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の複合脂質結合性担体の製造方法。
【請求項14】
以下の(X1)から(X3)の工程を含むことを特徴とするリン脂質および/または細
胞外小胞の検出方法:
(X1)カルシウムイオン存在下、請求項1から7のいずれかに記載の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させ、該担体とリン脂質および/または細胞外小胞が結合した複合体を得る工程。
(X2)前記工程(X1)で得られた複合体から、複合脂質結合性担体に結合しなかった物質を分離除去する工程。
(X3)前記工程(X2)の終了後、前記工程(X1)で得られた複合体を検出する工程。
【請求項15】
検出方法として、ELISA法またはフローサイトメトリー法を用いることを特徴とする、請求項14に記載の検出方法。
【請求項16】
以下の(Y1)から(Y3)の工程を含むことを特徴とするリン脂質および/または細
胞外小胞の単離方法:
(Y1)カルシウムイオン存在下、請求項1から7のいずれかに記載の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させ、該担体とリン脂質および/または細胞外小胞が結合した複合体を得る工程。
(Y2)前記工程(Y1)で得られた複合体から、複合脂質結合性担体に結合しなかった物質を分離除去する工程。
(Y3)前記工程(Y2)の終了後、前記工程(Y1)で得られた複合体からリン脂質および/または細胞外小胞を脱着させ、リン脂質および/または細胞外小胞を回収する工程。
【請求項17】
工程(Y3)がカルシウムイオンキレート剤を用いて行なわれることを特徴とする、請求項16に記載の単離方法。
【請求項18】
複合脂質結合性担体を含む検出試薬を用いることを特徴とする、請求項14または15に記載の検出方法。
【請求項19】
複合脂質結合性担体を充填してなるカラムを用いることを特徴とする、請求項16または17に記載の単離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合脂質に結合性を有するタンパク質を不溶性担体に固定化した複合脂質結合性担体、ならびに、当該担体を用いた複合脂質および細胞外小胞の、検出方法および単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合脂質は細胞膜や細胞外小胞の脂質二重層の主な構成要素であり、リン酸エステル結合を有するリン脂質と糖が結合した糖脂質に大別される。リン脂質の一つであるホスファチジルセリンは、正常な細胞では細胞膜の細胞質側に存在しているが、細胞外小胞ではホスファチジルセリンがその膜表面に存在することが知られている(特許文献1、非特許文献1)。細胞外小胞は内部にマイクロRNAやメッセンジャーRNAなどの核酸やタンパク質などの物質を含み、細胞間の情報伝達を担っていると考えられていることから、がんなどの各種疾患のバイオマーカーとして注目されるだけでなく、新規治療薬やドラックデリバリーシステム(DDS)としての応用も期待されている(非特許文献2)。
【0003】
細胞外小胞の検出技術として、熱ショックタンパク質(HSP70、HSP90)やテトラスパニン(CD9、CD63、CD81)を細胞外小胞のマーカーとして利用する方法が知られているが、細胞外小胞を放出する細胞の種類によりこれらのマーカーの発現量は異なり、感度および定量性に欠けることが課題である(例えば非特許文献1)。また、細胞外小胞を単離する技術として、超遠心法、限外ろ過法、密度勾配遠心法、ポリマー沈殿法、免疫沈降法などの方法が知られているが、(1)高純度の細胞外小胞が得られること、(2)細胞外小胞が大量かつ安価に得られること、(3)操作が短時間且つ簡便であること、の3点すべてを満たす方法がないことが課題である。これらの方法以外に、ホスファチジルセリンに結合性を持つアネキシンVやTim4タンパク質を利用した細胞外小胞の検出方法および単離方法が知られているが(特許文献2、非特許文献1)、アネキシンVやTim4タンパク質は細胞外小胞の検出率や回収率に改善の必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-164145号公報
【特許文献2】WO2016/088689
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本薬理学雑誌 149巻3号、119-122頁、2017年
【非特許文献2】Proteomics 13巻、1637-1653頁、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、細胞外小胞の産業的利用を発展させるにあたり、細胞外小胞を高感度且つ高精度に検出する技術や、高純度の細胞外小胞を簡便な操作で大量に単離する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、複合脂質に結合性を有するタンパク質が不溶性担体に固定化されてなる複合脂質結合性担体を作製し、細胞外小胞を含む生体物質含有試料液を接触させて、複合脂質結合性担体と細胞外小胞が結合した複合体を得ることで、細胞外小胞を高感度かつ高精度に検出できることを見出した。さらに、前記複合体にキレート剤を含む緩衝液を添加して複合脂質結合性担体から細胞外小胞を脱着させることにより、簡便な操作で大量の高純度な細胞外小胞を単離できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]から[19]に記載した発明を提供するものである。
【0009】
[1]タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が固定化されてなる不溶性担体を含むことを特徴とする複合脂質結合性担体。
【0010】
[2]タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が、以下の(a)から(d)の何れかに記載のタンパク質である、前記[1]に記載の複合脂質結合性担体。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(b)前記(a)のタンパク質のアミノ酸配列において、そのN末端側および/またはC末端側に配列番号4で示されるアミノ酸配列が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(c)前記(a)または(b)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(d)前記(a)から(c)の何れかに記載のタンパク質と不溶性担体との結合能を有した固定化補助タンパク質との複合体であり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
【0011】
[3]タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が、以下の(e)から(h)の何れかに記載のタンパク質である、前記[1]に記載の複合脂質結合性担体。
(e)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(f)前記(e)のタンパク質のアミノ酸配列において、そのN末端側および/またはC末端側に配列番号4で示されるアミノ酸配列が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(g)前記(e)または(f)のタンパク質のアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(h)前記(e)から(g)の何れかに記載のタンパク質と不溶性担体との結合能を有した固定化補助タンパク質との複合体であり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
【0012】
[4]タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が、以下の(i)から(l)の何れかに記載のタンパク質である、前記[1]に記載の複合脂質結合性担体。
(i)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(j)前記(i)のタンパク質のアミノ酸配列において、そのN末端側および/またはC末端側に配列番号4で示されるアミノ酸配列が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(k)前記(i)または(j)のタンパク質のアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
(l)前記(i)から(k)の何れかに記載のタンパク質と不溶性担体との結合能を有した固定化補助タンパク質との複合体であり、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有するタンパク質。
【0013】
[5]複合脂質がリン脂質である、前記[1]から[4]のいずれかに記載の複合脂質結合性担体。
【0014】
[6]リン脂質がホスファチジルセリンを成分として含むリン脂質であることを特徴とする、前記[5]に記載の複合脂質結合性担体。
【0015】
[7]細胞外小胞がヒト細胞由来の細胞外小胞である、前記[2]から[6]のいずれかに記載の複合脂質結合性担体。
【0016】
[8]前記[1]から[7]のいずれかに記載の複合脂質結合性担体を含む検出試薬。
【0017】
[9]細胞外小胞の検出に使用するキットであって、前記[8]に記載の検出試薬を含むことを特徴とする、細胞外小胞検出用キット。
【0018】
[10]前記[1]から[7]のいずれかに記載の複合脂質結合性担体を充填してなるカラム。
【0019】
[11]細胞外小胞の単離に使用するキットであって、前記[10]に記載のカラムを含むことを特徴とする、細胞外小胞単離用キット。
【0020】
[12]以下の(A1)と(A2)の工程を含むことを特徴とする前記[1]から[7]のいずれかに記載の複合脂質結合性担体の製造方法:
(A1)不溶性担体から反応性不溶性担体を製造する工程。
(A2)前記工程(A1)で得られた反応性不溶性担体に、前記[1]から[4]のいず
れかに記載のタンパク質を固定化する工程。
【0021】
[13]不溶性担体に、前記(a)から(l)のいずれかに記載のタンパク質を物理的吸着によって固定化する工程を含むことを特徴とする、前記[1]から[7]のいずれかに記載の複合脂質結合性担体の製造方法。
【0022】
[14]以下の(X1)から(X3)の工程を含むことを特徴とするリン脂質および/または細胞外小胞の検出方法:
(X1)カルシウムイオン存在下、前記[1]から[7]のいずれかに記載の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させ、該担体とリン脂質および/または細胞外小胞が結合した複合体を得る工程。
(X2)前記工程(X1)で得られた複合体から、複合脂質結合性担体に結合しなかった物質を分離除去する工程。
(X3)前記工程(X2)の終了後、前記工程(X1)で得られた複合体を検出する工程。
【0023】
[15]検出方法として、ELISA法またはフローサイトメトリー法を用いることを特徴とする、前記[14]に記載の検出方法。
【0024】
[16]以下の(Y1)から(Y3)の工程を含むことを特徴とするリン脂質および/または細胞外小胞の単離方法:
(Y1)カルシウムイオン存在下、前記[1]から[7]のいずれかに記載の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させ、該担体とリン脂質および/または細胞外小胞が結合した複合体を得る工程。
(Y2)前記工程(Y1)で得られた複合体から、複合脂質結合性担体に結合しなかった物質を分離除去する工程。
(Y3)前記工程(Y2)の終了後、前記工程(Y1)で得られた複合体からリン脂質および/または細胞外小胞を脱着させ、リン脂質および/または細胞外小胞を回収する工程。
【0025】
[17]工程(Y3)がカルシウムイオンキレート剤を用いて行なわれることを特徴とする、前記[16]に記載の単離方法。
【0026】
[18]複合脂質結合性担体を含む検出試薬を用いることを特徴とする、前記[14]または[15]に記載の検出方法。
【0027】
[19]複合脂質結合性担体を充填してなるカラムを用いることを特徴とする、前記[16]または[17]に記載の単離方法。
【0028】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0029】
本発明の複合脂質結合性担体は、不溶性担体に、タンパク質リン酸化酵素(以降、PKCと略する場合もある)のC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が固定化されてなることを特徴とする。
【0030】
本発明の複合脂質結合性担体に使用するタンパク質(以降、複合脂質結合性タンパク質と略する場合もある)はPKCのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質であり、より詳しくは、当該タンパク質を形質転換大腸菌で発現させたものである。PKCのC2ドメインは、複合脂質、特にリン脂質の主な成分であるホスファチジルセリンに結合性を有することが知られており(例えば、Biochem Soc Trans. 42巻、1471-1476頁、2014年)、ホスファチジルセリンは細胞外小胞の外側に存在することが知られている。また、後述する参考例で示すとおり、PKCのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質を形質転換大腸菌で発現させた組換えタンパク質は、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール4-リン酸、ホスファチジルイノシトール4、5-ビスリン酸、スルファチドなどの複合脂質に結合することが明らかになっている。従って、本発明の複合脂質結合性担体は、複合脂質への結合性を損なうことなく複合脂質結合性タンパク質を不溶性担体に固定化することで、リン脂質および/または細胞外小胞に結合することができる。
【0031】
なお、本明細書における複合脂質は、真核細胞およびそれから分泌された細胞外小胞に由来する脂質二重膜であり、細胞外小胞は、脂質二重膜で構成される20nm以上1000nm以下、好ましくは50nm以上500nm以下の粒径を有する膜小胞であり、具体的には、エクソソーム、微小胞、エクトソーム、エクソソーム様小胞、アポトーシス性小胞、アジポソームを例示することができる。エクソソームは後期エンドソームに由来する脂質二重膜で構成され、膜表面にホスファチジルセリンを有し、CD63やCD9などのテトラスパニンなどのタンパク質を含む50nm以上200nm以下の粒径を有する。微小胞は細胞膜に由来する脂質二重膜で構成され、膜表面にホスファチジルセリンを有し、インテグリン、セレクチン、CD40リガンドなどのタンパク質を含む100nm以上ら800nm以下の粒径を有する。エクトソームは細胞膜に由来する脂質二重膜で構成され、膜表面にホスファチジルセリンを有し、CR1、タンパク質分解酵素を含むがエクソソームに含まれるCD63を含まない、50nm以上150nm以下の粒径を有する。エクソソーム様小胞は初期エンドソームに由来する脂質二重膜で構成され、膜表面にホスファチジルセリンを有し、TNFR1(Tumor Necrosis Factor Receptor 1)を含む20nm以上50nm以下の粒径を有する。アポトーシス性小胞はアポトーシス細胞に由来する脂質二重膜で構成され、膜表面にホスファチジルセリンを有し、ヒストンを含む50nm以上300nm以下の粒径を有する。アジポソームは脂肪細胞に由来する脂質二重膜で構成され、膜表面にホスファチジルセリンを有し、MFG-E8(Milk Fat Globule-EGF-factor 8)を含む100nm以上800nm以下の粒径を有する。文献(Proteomics 13巻、1637-1653頁、2013年)に開示されているように、これらの細胞外小胞はがんなどの各種疾患のバイオマーカーとして注目されていることから、細胞外小胞がヒト細胞由来である場合には、本発明の複合脂質結合性担体を各種疾患の診断に好適に用いることができる。
【0032】
前記PKCのC2ドメインとしては、カルシウムイオン依存的な複合脂質への結合性を有するPKCαのC2ドメインを構成するアミノ酸配列(配列番号1で示されるUniProt登録番号:P17252の155番目から293番目の領域のアミノ酸配列。以降、PKCαC2と略する場合もある。)、PKCβのC2ドメインを構成するアミノ酸配列(配列番号2で示されるUniProt登録番号:P05771の153番目から293番目の領域のアミノ酸配列。以降、PKCβC2と略する場合もある。)、PKCγのC2ドメインを構成するアミノ酸配列(配列番号3で示されるUniProt登録番号:P05129の153番目から293番目の領域のアミノ酸配列。以降、PKCγC2と略する場合もある。)や、カルシウムイオン非依存的な複合脂質への結合性を有するPKCεのC2ドメイン、PKCηのC2ドメイン、PKCδのC2ドメインおよびPKCθのC2ドメインを例示することができる。これらPKCのC2ドメインの中では、カルシウムイオンの添加および捕捉によりリン脂質および/または細胞外小胞の本発明の複合脂質結合性担体への吸脱着が制御可能な点で、PKCαC2、PKCβC2およびPKCγC2が好ましい。
【0033】
複合脂質結合性タンパク質は、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有する限り、配列番号1から3で示されるPKCα、βおよびγのC2ドメインの各アミノ酸配列を2箇所以上の複数箇所含んでいても良い。前記C2ドメインを複数箇所含む場合、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有する限り、同じ種類のPKCのC2ドメインであってもよく、異なる種類のPKCのC2ドメインであってもよい。前記複数箇所に特に制限はなく、複合脂質や細胞外小胞への結合性が向上する場合は2箇所以上が好ましいが、形質転換大腸菌での発現性を低下させない点では10箇所以下が好ましい。
【0034】
複合脂質結合性タンパク質は、配列番号1から3で示されるPKCα、βおよびγのC2ドメインの各アミノ酸配列のN末端側および/またはC末端側に、PKCのC2ドメイン以外のタンパク質のアミノ酸配列、具体的には、配列番号4(UniProt登録番号:P08515の3番目から218番目の領域のアミノ酸配列)で示されるグルタチオン S-トランスフェラーゼ(以降、GSTと略する場合もある。)のアミノ酸配列を付加することで、リン脂質および/または細胞外小胞への結合性を向上させることができる。リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有する限り、PKCのC2ドメインとGSTのアミノ酸配列上の位置関係に特に制限はなく、例えば、N末端側がPKCのC2ドメインでC末端側がGSTであってもよく、N末端側がGSTでC末端側がPKCのC2ドメインであってもよいが、リン脂質および/または細胞外小胞への結合性が高い点で、N末端側がPKCのC2ドメインでC末端側がGSTであることが好ましい。また、複合脂質結合性タンパク質は、配列番号4で示されるGSTのアミノ酸配列を複数箇所含んでいてもよく、複合脂質や細胞外小胞への結合性および形質転換大腸菌での発現性の点で、1から3箇所が好ましく、より好ましくは1箇所である。また、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有する限り、PKCのC2ドメインのアミノ酸配列とGSTのアミノ酸配列の間は直結されていても良く、1個から複数個のリンカーとなるアミノ酸配列が含まれていても良い。リンカーとなるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基数に特に制限はないが、アミノ酸残基数が多いとGSTのアミノ酸配列の付加によるリン脂質および/または細胞外小胞への結合性向上の効果が低くなり、また、複合脂質結合性タンパク質の形質転換大腸菌での発現性が低下することから、リンカーとなるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基数は1個から50個が好ましく、10個から30個がより好ましい。
【0035】
複合脂質結合性タンパク質は、配列番号1から3で示されるPKCα、βおよびγのC2ドメインの各アミノ酸配列を含むアミノ酸配列、および、配列番号1から3で示されるPKCα、βおよびγのC2ドメインの各アミノ酸配列を含むアミノ酸配列と配列番号4で示されるGSTのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列において、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有する限り、1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加してもよい。前記複数個に特に制限はないが、複合脂質や細胞外小胞への結合性が消失しない点で、20個以下が好ましく、10個以下がより好ましく、5個以下がことさらに好ましい。このアミノ酸残基の欠失、置換、挿入若しくは付加は、当業者に周知の遺伝子工学的な方法を用いて行なうことができる。
【0036】
複合脂質結合性タンパク質は、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有する限り、複合脂質非結合性タンパク質との複合体であってもよく、そのタンパク質の結合数や種類に制限はなく、2種類以上の複合脂質非結合性タンパク質との複合体であってもよい。
【0037】
前記複合体を構成する複合脂質非結合性タンパク質としては、PKCのC2ドメインの密度や配向を制御しPKCのC2ドメインの細胞外小胞への結合性を最適化する点で、固定化補助タンパク質が好ましく、3量体構造または9量体構造を有した固定化補助タンパク質が、PKCのC2ドメインの多価効果による親和性向上が得られ、かつ作製も容易な点から、さらに好ましい。固定化補助タンパク質の具体例として、配列番号33および配列番号37に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質があげられる。
【0038】
また、複合脂質結合性タンパク質は、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性を有する限り、配列番号1から3で示されるPKCα、βおよびγのC2ドメインの各アミノ酸配列に、前述のGSTのアミノ酸配列以外の付加的なアミノ酸配列を含んでいても良い。具体的には、前記C2ドメインのアミノ酸配列のN末端および/またはC末端に、複合脂質結合性タンパク質の製造時に有用な分離精製用タグのアミノ酸配列や、複合脂質結合性担体を作製する際に有用な担体固定化用タグのアミノ酸配列または担体固定化に有用なポリペプチドが付加されていてもよい。
【0039】
これらの分離精製用タグおよび担体固定化用タグとしては、マルトース結合タンパク質(MBP)、セルロース結合性ドメイン(CBD)、mycタグ、FLAGタグ、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド(ポリヒスチジンタグ)、システイン残基を含むオリゴペプチド、リジン残基を含むオリゴペプチド、ポリヒスチジン配列とシステイン残基の双方を含むオリゴペプチドを例示することができる。これら付加的なアミノ酸配列の中では、分離精製が容易になる点でポリヒスチジンタグやポリヒスチジン配列とシステイン残基の双方を含むオリゴペプチドが、複合脂質への結合性を損なうことなく複合脂質結合性タンパク質を不溶性担体に固定化できる点で、システインを含むオリゴペプチドやポリヒスチジン配列とシステイン残基の双方を含むオリゴペプチドが好ましく、ポリヒスチジン配列とシステイン残基の双方を含むオリゴペプチドがより好ましい。ポリヒスチジン配列とシステイン残基の双方を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数は、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が容易になる点で、ヒスチジン残基が5個から15個からなる繰返し配列であることが好ましく、5個から10個からなる繰返し配列であることがより好ましい。
【0040】
また、システイン残基の数は、不溶性担体への固定化が高選択的かつ高効率に行なえる点で、システイン残基を1残基以上5残基以下含むことが好ましく、1残基または2残基を含むことがより好ましい。前記ポリヒスチジン配列とシステイン残基の双方を含むオリゴペプチドの長さは、前記ヒスチジンの繰返し配列およびシステイン残基が含まれており、かつ、リン脂質および/または細胞外小胞に結合性が消失されなければ特に制限はなく、具体的には、配列番号39および配列番号40に示されるアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを例示することができる。また、前記ポリヒスチジン配列とシステイン残基の双方を含むオリゴペプチドが複合脂質結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、N末端側またはC末端側のいずれかであってもよいが、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製と不溶性担体への固定化が効率的に行なえる点で、C末端側に付加されていることが好ましい。
【0041】
担体固定化に有用なポリペプチドとしては、タンパク質分子表面に露出したシステイン残基やリジン残基、共有結合を形成するタンパク質タグのSpyTagおよびSpyCatcherを例示することができる。中でも、配向制御固定に適し細胞外小胞への結合性を最適化する点で、一般にタンパク質のアミノ酸配列中での出現頻度が低く、かつ結合部位の制御が容易なシステイン残基や、天然のタンパク質には存在しない配列であるSpyTagおよびSpyCatcherが好ましく、前述の固定化補助タンパク質と結合することにより、多量体構造を作製し細胞外小胞への結合性を最適化する点で、SpyTagがより好ましい。
【0042】
さらに、本発明の吸着剤に使用するタンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合における前記シグナルペプチドの例としては、PelB、DsbA、MalE、TorTなどといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる。
【0043】
複合脂質結合性タンパク質の複合脂質への結合性は、例えば、固相酵素免疫測定法(以降、ELISA法と略する場合もある。)、フローサイトメトリー法などの当業者に周知の方法を用いることで評価することができる。他にも、文献(Immunity 27巻、927-940頁、2007年)に記載の膜脂質ストリップ(Echelon Bioscience製、P-6002)を用いることにより、複合脂質結合性タンパク質について、多数の複合脂質への結合性を一度に評価することができる。
【0044】
複合脂質結合性タンパク質の具体例としては、
配列番号5(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に相当し、その155番目から160番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号7(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、142番目から153番目は発現ベクターpET28a(+)のマルチクローニングサイト由来の配列に、155番目から370番目は配列番号4のアミノ酸配列に、373番目から378番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号9(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、142番目から179番目はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインの下流のアミノ酸配列(Uniprot登録番号:P17252の294番目から331番目の領域のアミノ酸配列)に、193番目から408番目は配列番号4のアミノ酸配列に、411番目から416番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号11(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、146番目から159番目はGSリンカー(配列番号41)に、166番目から381番目は配列番号4のアミノ酸配列に、384番目から389番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号13(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、152番目から165番目はαヘリックスリンカー(配列番号42)に、171番目から386番目は配列番号4のアミノ酸配列に、389番目から394番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号15(その4番目から219番目までは配列番号4のアミノ酸配列に、222番目から235番目はGSリンカー(配列番号41)に、241番目から379番目は配列番号1のアミノ酸配列に、382番目から387番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号17(その2番目から142番目までは配列番号2のアミノ酸配列に相当し、その156番目から161番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号19(その2番目から142番目までは配列番号2のアミノ酸配列に、147番目から160番目はGSリンカー(配列番号41)に、167番目から382番目は配列番号4のアミノ酸配列に、385番目から390番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号21(その2番目から142番目までは配列番号3のアミノ酸配列に相当し、その156番目から161番目はポリヒスチジン配列に相当)、
配列番号23(その2番目から142番目までは配列番号3のアミノ酸配列に、143番目から154番目は発現ベクターpET28a(+)のマルチクローニングサイト由来の配列に、156番目から371番目は配列番号4のアミノ酸配列に、374番目から379番目はポリヒスチジン配列に相当)、
および配列番号31(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、146番目から159番目はGSリンカー(配列番号41)に、164番目から279番目はSpyCatcher(Protein Data Bank登録番号:4MLIのChain AおよびBの116アミノ酸残基)に、その282番目から287番目はポリヒスチジン配列に相当)のいずれかで示される複合脂質結合性タンパク質を挙げることができる。
【0045】
これらの複合脂質結合性タンパク質のうち、後述する実施例で示すように、細胞外小胞検出性能が高い点で、配列番号11および配列番号15で示されるアミノ酸配列からなる複合脂質結合性タンパク質が好ましく、細胞培養上清に含まれる細胞外小胞を濃縮できる点で、配列番号31に示されるアミノ酸配列からなる複合脂質結合性タンパク質が好ましい。
【0046】
複合脂質結合性タンパク質の製造法に特に制限はなく、例えば、特開2018-000038号公報などで開示されている当業者が通常用いる方法で行なえばよい。具体的には、複合脂質結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドにより形質転換された宿主細胞を培養して培養物(培養された形質転換体自体や分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる)を得る工程、得られた培養物を遠心分離して得られる宿主細胞を適切な緩衝液で懸濁し、超音波による物理的破砕や界面活性剤などの薬剤による破砕によって細胞を破砕したのち、遠心分離により破砕残渣を除去することで、複合脂質結合性タンパク質を含む可溶性タンパク質抽出液を得る工程、得られた可溶性タンパク質抽出液をイオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの液体クロマトグラフィーにより精製する工程により、目的とする複合脂質結合性タンパク質を製造すればよい。の複合脂質結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドにより形質転換する宿主とは、COS細胞やCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞に代表される動物細胞、バチルス(Bacillus)属(ブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌やパエニバチルス(Paenibacillus)属細菌のような広義のバチルス属細菌も含む)や大腸菌(Escherichia coli)に代表される細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属に代表される酵母、麹菌(Aspergillus oryzae)に代表される糸状菌が例示できるが、取扱いの簡便な大腸菌を宿主とするのが好ましい。また、界面活性剤などの薬剤により宿主細胞を破砕する際は、例えば、特開2013-252099号公報に開示した方法や、BugBuster Protein extraction kit(Merck製)等の市販の抽出試薬を用いて破砕してもよい。
【0047】
本発明の複合脂質結合性担体に使用する不溶性担体(以降、本発明の不溶性担体と略する場合もある。)は、後述する本発明のリン脂質および/または細胞外小胞の検出方法および単離方法(以降、本発明の検出方法および本発明の単離方法と略する場合もある。)に応じて適宜選択すればよく、シリカゲル、多孔性ガラス、金薄膜を蒸着させた無孔性ガラス、アルミナ、鉄、コバルト、ニッケル、マグネタイト、クロマイト等の磁性体、金属酸化物などの無機系担体、アガロース、セルロース、キチン、キトサン、デキストラン、プルラン、デンプン、アルギン酸塩、カラギーナンなどの多糖系担体、多糖系担体を架橋剤で架橋した架橋多糖系担体、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエチレンやポリプロピレンを含むポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレートを含むポリエステル、ポリアクリルアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリ塩化ビニール、ポリカーボネートなどの合成高分子系担体、合成高分子系担体を架橋剤で架橋した架橋合成高分子系担体、およびこれらをデキストランやプルラン、ポリビニルアルコールなどの親水性高分子で表面を修飾した親水性表面修飾合成高分子系担体およびそれらを架橋剤で架橋した親水性表面修飾架橋合成高分子系担体を例示することができる。後述する物理的吸着によって複合脂質結合性タンパク質を担体に固定化する場合には、効率的に複合脂質結合性タンパク質の固定化が行なえる点で、合成高分子系担体や架橋合成高分子系担体であることが好ましい。また、疎水性相互作用による担体への複合脂質や細胞外小胞の非特異的吸着が、リン脂質および/または細胞外小胞の検出および単離に悪影響を与える場合には、多糖系担体、架橋多糖系担体、親水性表面修飾合成高分子系担体および親水性表面修飾架橋合成高分子系担体であることが好ましい。
【0048】
本発明の複合脂質結合性担体の形状も、後述する本発明のリン脂質および/または細胞外小胞の検出方法および単離方法に応じて、粒子状、平板状、スポンジ状、平膜状、中空状、繊維状のいずれかから適宜選択すればよい。本発明の複合脂質結合性担体を、本発明の検出方法に使用する場合には、通常の免疫学的測定法で用いられる磁気を有する粒子状担体(以降、磁性微粒子と記載する場合もある。)または平板状担体を用いればよい。磁性微粒子の粒径は0.01μm以上500μm以下の範囲で適宜選択すればよく、入手容易な点で0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、平板状担体中の穴(ウェル)の数は6ウェル以上1536ウェル以下の範囲で適宜選択すればよく、入手容易な点で24ウェル以上384ウェル以下であることが好ましい。本発明の複合脂質結合性担体を、本発明の単離方法に使用する場合には、簡便な操作で効率的に単離が行なえる点で、通常の脂質やタンパク質などの生体由来試料の分離精製で用いられる粒子状担体を用いることが好ましく、粒径は1μm以上1000μm以下の範囲で適宜選択すればよい。なお、細胞外小胞の単離に使用する場合には、細胞外小胞が担体と十分接触し、かつ担体に結合しない細胞外小胞が担体の隙間を目詰まりすることなく通過できる点で、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0049】
本発明の複合脂質結合性担体の製造方法は、以下の(A1)と(A2)の工程を含むことを特徴とする。
(A1)不溶性担体から反応性不溶性担体を製造する工程。
(A2)前記工程(A1)で得られた反応性不溶性担体に、前記[1]から[4]のいずれかに記載のタンパク質を固定化する工程。
【0050】
以下に工程(A1)と工程(A2)を説明する。
【0051】
工程(A1)は、不溶性担体に複合脂質結合性タンパク質を固定化するための反応性官能基を導入する工程である。前記反応性官能基は、一般的なタンパク質固定化用の官能基であれば特に制限されず、エポキシ基、ホルミル基、カルボキシ基、活性エステル基、アミノ基、マレイミド基、ハロアセチル基、メルカプト基を例示することができる。また、担体に前記反応性官能基を導入する方法は、一般的な官能基導入方法であれば特に制限はされない。
【0052】
担体にエポキシ基を導入する方法としては、担体表面のヒドロキシ基とエピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1、6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテルなどのジグリシジルエーテル類、グリセロールトリグリシジルエーテル、エリスリトールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテルなどのトリグリシジルエーテル類、エリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルなどのテトラグリシジルエーテル類などのエポキシ基含有化合物を塩基性条件下で反応させることで担体にエポキシ基を導入したのち、エポキシ基と親水性高分子のヒドロキシ基を塩基性条件下で反応させる方法を例示することができる。
【0053】
担体にホルミル基を導入する方法としては、担体のヒドロキシ基をグルタルアルデヒドなどの2官能性アルデヒド類を反応させる方法や、担体を過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化剤と反応させる方法を例示することができる。また、前述の方法によりエポキシ基を導入した担体と、D-グルカミン、N-メチル-D-グルカミン、α-チオグリセロールなどの化合物を反応させて反応点の隣接炭素上にヒドロキシ基を導入した担体を、過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化剤と反応させる方法を例示することができる。
【0054】
担体にカルボキシ基を導入する方法としては、担体のヒドロキシ基とモノクロロ酢酸、モノブロモ酢酸などのハロ酢酸と塩基性条件下で反応させる方法の他に、前述の方法によりエポキシ基を導入した担体を、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸類、β-アラニン、4-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸などのアミノ基含有カルボン酸類、チオグリコール酸やチオリンゴ酸などの含硫黄カルボン酸類と塩基性条件下で反応させる方法を例示することができる。さらに、担体に導入したカルボキシ基を1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)などの縮合剤存在下でN-ヒドロキシスクシンイミドと反応させることにより、活性エステル基であるN-ヒドロキシスクシンイミドエステルへ誘導する方法を例示することができる。
【0055】
担体にアミノ基を導入する方法としては、前述の方法によりエポキシ基を導入した担体を、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリス(2-アミノエチル)アミンなどの少なくとも2つ以上のアミノ基を有する化合物と反応させる方法を例示することができる。担体にマレイミド基を導入する方法としては、ヒドロキシ基および/またはアミノ基を有する担体と、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸などのマレイミド基を有するカルボン酸類をEDCなどの縮合剤存在下で反応させる方法を例示することができる。さらに、前述のマレイミド基を有するカルボン酸類のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルやN-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルを反応させる方法を例示することができる。
【0056】
担体にハロアセチル基を導入する方法としては、例えば、ヒドロキシ基を有する担体や、前述の方法によりアミノ基を導入した担体と、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミドなどの酸ハロゲン化物を反応させる方法や、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸などのハロゲン化酢酸をEDCなどの縮合剤存在下で反応させる方法をあげることができる。さらに、前述のハロゲン化酢酸のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルやN-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルを反応させる方法をあげることができる。
【0057】
担体にメルカプト基を導入する方法としては、例えば、前述の方法によりアミノ基を導入した担体と、アミノ基を保護したシステインやチオグリコール酸をEDCなどの縮合剤存在下で反応させる方法をあげることができる。
【0058】
前述した不溶性担体に反応性官能基を導入する工程で使用する溶媒、反応温度や時間は、目的とする反応性官能基が導入できれば特に制限はなく、当業者が通常用いる溶媒や条件の中から、適宜選択すればよい。
【0059】
工程(A2)は、工程(A1)で得られた反応性不溶性担体に、複合脂質結合性タンパク質を固定化し、本発明の複合脂質結合性担体を得る工程である。具体的には、担体に導入したエポキシ基、ホルミル基、カルボキシ基、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルなどの活性エステル基とタンパク質のアミノ基を反応させる方法、担体に導入したアミノ基とタンパク質のカルボキシ基を反応させる方法、担体に導入したエポキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基、ハロアルキル基とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法を例示することができる。
【0060】
これらの固定化方法の中では、短時間に高収率で担体へのタンパク質固定化が行なえる点で、担体に導入したホルミル基、活性エステル基とタンパク質のアミノ基を反応させる方法、および、担体に導入したマレイミド基、ハロアセチル基とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法が好ましく、固定化反応をpHが中性付近で行なうことが可能であり、複合脂質結合性タンパク質の変性を抑制できることが可能である点で、担体に導入したマレイミド基、ハロアセチル基とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法がより好ましく、官能基の安定性が高い点で、担体に導入したマレイミド基とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法がことさらに好ましい。
【0061】
また、工程(A2)では、複合脂質結合性タンパク質に導入した反応性官能基と、工程(A1)で得られた反応性不溶性担体とを反応させ、複合脂質結合性タンパク質を固定化してもよい。具体的には、複合脂質結合性タンパク質と4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸、3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルナトリウム塩などのマレイミド基と活性エステル基の双方を有する化合物の活性エステル基とタンパク質のアミノ基を反応させてタンパク質にマレイミド基または活性エステル基を導入したのち、工程(A1)で得られたメルカプト基またはアミノ基が導入された担体と反応させる方法を例示することができる。
【0062】
さらに、工程(A2)では、抗原-抗体反応や、アビジン-ビオチン結合などのアフィニティー結合を利用して、複合脂質結合性タンパク質を担体に固定化してもよい。具体的には、工程(A1)で得られたエポキシ基、ホルミル基、カルボキシ基および活性エステル基、アミノ基などの反応性不溶性担体と、抗MBP抗体、抗CBD抗体、抗mycタグ抗体、抗FLAGタグ抗体、抗Hisタグ抗体などの抗体またはストレプトアビジンを反応させて抗体またはストレプトアビジン固定化担体を製造したのち、MBP、CBD、mycタグ、FLAGタグ、ポリヒスチジンタグを導入した複合脂質結合性タンパク質、または、ビオチン化した複合脂質結合性タンパク質を接触させる方法を例示することができる。タンパク質へのビオチンの導入方法は当業者が通常用いる方法から適宜選択すればよく、具体的には、9-(ビオチンアミド)-4、7-ジオキサノナン酸-N-スクシンイミジルなどの活性エステル基を有するビオチン化試薬とタンパク質のアミノ基を反応させる方法や、N-ビオチニル-N’-[2-(N-マレイミド)エチル]ピペラジン塩酸塩などのマレイミド基を有するビオチン化試薬とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法を例示することができる。
【0063】
加えて、本発明の複合脂質結合性担体の製造方法は、不溶性担体と複合脂質結合性タンパク質を接触させて、前記タンパク質を物理的吸着によって不溶性担体に固定化する工程を含む方法であってもよい。物理的吸着によってタンパク質を不溶性担体に固定化する方法は当業者が通常用いる方法から適宜選択すればよく、具体的には、特公平5-41946号公報に記載の方法を例示することができる。
【0064】
本発明の複合脂質結合性担体の製造方法は、後述する本発明のリン脂質および/または細胞外小胞の検出方法および単離方法に応じて適宜選択すればよいが、簡便である点で前記担体を本発明の検出方法に使用する場合には物理的吸着による製造方法が好ましく、本発明の単離方法に用いる場合には、反応性不溶性担体と複合脂質結合性タンパク質を反応させる製造方法、または、前述の抗原-抗体反応やアビジン-ビオチン結合などのアフィニティー結合を利用した製造方法が好ましい。
【0065】
前述した担体と、緩衝液に溶解した複合脂質結合性タンパク質とを反応または接触させることで、本発明の複合脂質結合性担体を製造することができる。前記タンパク質を溶解する緩衝液に特に制限はなく、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液や、D-PBS(-)(富士フイルム和光純薬製)などの市販の緩衝液を例示することができる。また、固定化反応の効率を高めることを目的として、緩衝液に塩化ナトリウムなどの無機塩類やポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween 20)などの界面活性剤を添加してもよい。本発明の複合脂質結合性担体の製造方法における反応または接触温度およびpHは、反応性官能基の反応性や複合脂質結合性タンパク質の安定性を考慮し、反応温度については0℃以上50℃以下、pHについてはpH4以上pH10以下の範囲の中から適宜設定すればよく、タンパク質の失活を抑制する点で、反応温度については15℃以上40℃以下、pHについてはpH5以上pH9以下の範囲が好ましい。
【0066】
本発明の複合脂質結合性担体における複合脂質結合性タンパク質の固定化量は、本発明の検出方法および本発明の単離方法によって適宜選択すればよい。例えば、本発明の検出方法においては、磁性微粒子の場合は、担体1mgに対して0.1μg以上50μg以下が好ましく、0.5μg以上30μg以下がより好ましく、1.0μg以上20μg以下がことさらに好ましい。平板状担体の場合は、1ウェル(2.7cm2)に対して0.05μg以上5μg以下が好ましく、0.1μg以上2μg以下がより好ましく、0.2μg以上1μg以下がことさらに好ましい。また、本発明の単離方法においては、水または緩衝液などの水溶液で膨潤させた担体1mLに対して0.01mg以上30mg以下が好ましく、0.05mg以上10mg以下がより好ましい。前記タンパク質の固定化量は、本発明の複合脂質結合性担体を製造する際のタンパク質の使用量や不溶性担体への活性官能基導入量を調節することにより調整することができる。また、前記タンパク質の担体への固定化量は、固定化反応後のタンパク質溶液を回収して未反応の前記タンパク質を求めたのち、固定化反応に使用した前記タンパク質量から未反応の前記タンパク質量を差し引くことで算出することができる。
【0067】
本発明のリン脂質および/または細胞外小胞の検出方法は、以下の(X1)から(X3)の工程を含むことを特徴とする。
(X1)カルシウムイオン存在下、本発明の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させ、該担体とリン脂質および/または細胞外小胞が結合した複合体を得る工程。
(X2)前記工程(X1)で得られた複合体から、複合脂質結合性担体に結合しなかった物質を分離除去する工程。
(X3)前記工程(X2)の終了後、前記工程(X1)で得られた複合体を検出する工程。
【0068】
以下に工程(X1)から工程(X3)を説明する。
【0069】
本発明の検出方法では、簡便な操作で効率的にリン脂質および/または細胞外小胞の検出が行なえる点で、磁性微粒子および/または平板上担体を用いることが好ましい。また、本発明の検出方法は、後述する工程(X1)から工程(X3)の操作を簡便に行なえる点で、後述する複合脂質結合性担体を含む検出試薬、および、当該検出試薬を含む細胞外小胞検出用キットを用いることが好ましく、当該検出用キットを用いて、通常の免疫学的測定法において、当業者が用いる方法を適宜選択して行なえばよい。
【0070】
本発明の検出方法における試料液は、複合脂質や細胞外小胞を含むものであれば特に制限はなく、生体組織、培養した細胞などの生体に由来するものや、培地や緩衝液等の溶液に複合脂質や細胞外小胞を溶解又は懸濁させたものであってもよい。
【0071】
複合脂質を含む試料液としては、具体的には、細胞および/または細胞外小胞の抽出物や破砕物を含む溶液を、また、細胞外小胞を含む試料液としては、例えば、血液、唾液、尿などの体液や、細胞培養上清を例示することができる。前記リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を調製するための溶液としては、カルシウムと結合して沈殿を生成する成分が含まれておらず、複合脂質や細胞外小胞を安定な状態で保持可能であり、かつ複合脂質結合性担体と複合脂質や細胞外小胞の結合を阻害しなければ特に制限はなく、具体的には、pH7.0以上pH8.0以下の範囲で緩衝能を持つトリス緩衝生理食塩水(TBS)や、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)を例示することができる。
【0072】
前記生理食塩水中の緩衝剤濃度に特に制限はなく、1mM以上200mM以下の範囲で適宜選択すればよい。また、生理食塩水中に含まれる塩化ナトリウムなどの塩濃度にも特に制限はなく、100mM以上200mM以下の範囲で適宜選択すればよい。さらに、前記生理食塩水中には複合脂質や細胞外小胞の安定性を維持するための界面活性剤が含まれていてもよく、具体的には、0.00001%(w/v)以上0.5%(w/v)以下の非イオン性界面活性剤、より具体的には、0.00001%(w/v)以上0.5%(w/v)以下のTriton X-100やTween 20(いずれも商品名)を例示することができる。
【0073】
本発明の検出方法における工程(X1)は、カルシウムイオン存在下、本発明の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させ、該担体と細胞外小胞が結合した複合体を得る工程である。検出感度が良い点で工程(X1)におけるカルシウムイオン濃度は0.1mM以上100mM以下であることが好ましく、1mM以上10mM以下であることがより好ましい。また、工程(X1)で使用する試料液の量としては、複合脂質結合性担体として磁性微粒子を用いる場合は、前記担体1mgに対して0.1mL以上1000mL以下が好ましく、0.1mL以上100mL以下であることがより好ましい。複合脂質結合性担体として平板上担体を用いる場合は、1ウェルに対して25μL以上300μL以下が好ましく、50μL以上100μL以下であることがより好ましい。工程(X1)において、本発明の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させる温度は2℃以上37℃以下が好ましく、2℃以上30℃以下がより好ましい。また、接触時間は0.1時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0074】
本発明の検出方法における工程(X2)は、具体的には、工程(X1)で得られた複合体と試料液とを分離する分離工程と、前記複合体を洗浄する洗浄工程を含む工程である。工程(X2)における分離工程は、通常の免疫学的測定法におけるB/F(Bound/Free)分離方法であれば特に制限はなく、当業者が通常用いる方法から適宜選択すればよい。具体的には、複合脂質結合性担体として磁性微粒子を用いる場合は、工程(X1)で複合体形成工程を行なったのち、磁力を用いて複合体を集積させて試料液を除く方法を例示することができる。また、複合脂質結合性担体として平板上担体を用いる場合は、工程(X1)で複合体形成工程を行なった平板上担体から、ピペットまたはプレートウォッシャーを用いて試料液を除く方法を例示することができる。
【0075】
工程(X2)における洗浄工程は、前記分離工程で得られた複合体を、カルシウムイオンを含有する洗浄液を用いて洗浄する工程である。洗浄工程を行なうことにより、複合脂質結合性担体に結合した試料液中の夾雑物を除去することができる。工程(X2)における洗浄工程は、カルシウムイオンを含有する洗浄液を用いる以外は、当業者が通常用いる方法から適宜選択すればよい。具体的には、複合脂質結合性担体として磁性微粒子を用いる場合は、磁力を用いて複合体を集積させて洗浄する方法を例示することができる。また、複合脂質結合性担体として平板上担体を用いる場合は、ピペットまたはプレートウォッシャーを用いて洗浄する方法を例示することができる。
【0076】
工程(X2)における洗浄工程で使用するカルシウムイオンを含有する洗浄液は、前記分離工程で得られた複合体が安定であれば特に制限はなく、具体的には、pH7.0以上pH8.0以下の範囲で緩衝能を持つTBSやHBSを例示することができる。前記洗浄液中のカルシウムイオン濃度は、前記分離工程で得られた複合体の安定性の点で0.1mM以上100mM以下であることが好ましく、1mM以上10mM以下であることがより好ましい。また、前記洗浄液中には複合体の安定性を維持するための界面活性剤が含まれていてもよく、具体的には、0.00001%(w/v)以上0.5%(w/v)以下の非イオン性界面活性剤、より具体的には、0.00001%(w/v)以上0.5%(w/v)以下のTriton X-100やTween 20(いずれも商品名)を例示することができる。
【0077】
本発明の検出方法における工程(X3)は、本発明の複合脂質結合性担体と試料液中のリン脂質および/または細胞外小胞との複合体を検出する工程である。工程(X3)における操作は、カルシウムイオンを含有し、且つ、カルシウムと結合して沈殿を生成する成分が含まれていない試薬類および測定溶液を用いる以外は、工程(X1)で得られた複合体の有無および/または複合体の量を検出できれば特に制限はなく、当業者が通常用いる方法から適宜選択すればよい。具体的には、エンザイムイムノアッセイ法、ELISA法、蛍光・発光免疫測定法、フローサイトメトリー法を例示することができる。これらの中では、精度および感度の点で、ELISA法、フローサイトメトリー法、であることがより好ましい。
【0078】
工程(X3)をELISA法またはフローサイトメトリー法により行なう場合も当業者が通常用いる方法で行なえばよく、具体的には、複合脂質または細胞外小胞に対して結合性を有する抗体を用いて、1次抗体を標識した標識1次抗体、当該1次抗体と当該1次抗体に対して結合する標識2次抗体、または当該1次抗体のビオチン標識物と当該1次抗体ビオチン標識物に対して結合する標識ストレプトアビジンを用いる方法を例示することができる。当該標識1次抗体、標識2次抗体及び標識ストレプトアビジンとしては、通常、ELISA法又はフローサイトメトリー法の標識抗体/ストレプトアビジンに用いられるものであれば特に制限はなく、具体的には、Cy3、Cy5、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、ローダミン、PE(Phycoerythrin)等の蛍光物質で標識した蛍光標識抗体/ストレプトアビジン、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した酵素標識抗体/ストレプトアビジンを例示することができる。これらの標識抗体/ストレプトアビジンに係る蛍光等は、当該標識抗体/ストレプトアビジンの標識方法に対応する公知の方法により測定すればよい。
【0079】
工程(X2)における検出工程で使用する標識1次抗体、1次抗体および標識2次抗体、または1次抗体ビオチン標識物および標識ストレプトアビジンの希釈倍率は、抗体の活性や濃度によって適宜選択すればよく、10倍以上106倍以下に希釈することが好ましく、1000倍以上105倍以下に希釈することがより好ましい。前記洗浄工程で得られた複合体と反応させる標識1次抗体、1次抗体および標識2次抗体、または1次抗体ビオチン標識物および標識ストレプトアビジン溶液の希釈溶液量は、複合脂質結合性担体として磁性微粒子を用いる場合は、前記担体1mgに対して0.1mL以上100mL以下であることが好ましく、0.1mL以上50mL以下がより好ましい。
【0080】
また、複合脂質結合性担体として平板上担体を用いる場合は、1ウェルに対して10μL以上300μL以下が好ましく、30μL以上100μL以下がより好ましい。また、反応温度は2℃以上40℃以下が好ましく、より好ましくは10℃以上40℃以下である。反応時間は0.5時間以上12時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上4時間以下である。
【0081】
本発明のリン脂質および/または細胞外小胞の単離方法は、以下の(Y1)から(Y3)の工程を含むことを特徴とする。
(Y1)カルシウムイオン存在下、本発明の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させ、該担体とリン脂質および/または細胞外小胞が結合した複合体を得る工程。
(Y2)前記工程(Y1)で得られた複合体から、複合脂質結合性担体に結合しなかった物質を分離除去する工程。
(Y3)前記工程(Y2)の終了後、前記工程(Y1)で得られた複合体からリン脂質および/または細胞外小胞を脱着させ、リン脂質および/または細胞外小胞を回収する工程。
【0082】
以下に工程(Y1)から工程(Y3)を説明する。
【0083】
本発明の単離方法で用いる試料液は、前述した本発明の検出方法における試料液と同じである。また、本発明の単離方法では、簡便な操作で効率的にリン脂質および/または細胞外小胞の単離が行なえる点で、粒子状の複合脂質結合性担体を用いることが好ましく、その粒径は10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。また、後述する工程(Y1)から工程(Y3)の操作を簡便に行なえる点で、本発明の単離方法は、後述する複合脂質結合性担体を充填してなるカラム、および当該カラムを含む細胞外小胞単離キットを用いることが好ましく、当該単離用キットを用いて、通常のクロマトグラフィー法による生体由来物質の単離方法を適宜選択して行なえばよい。
【0084】
本発明の単離方法における工程(Y1)は、カルシウムイオン存在下、本発明の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させ、該担体と細胞外小胞が結合した複合体を得る工程である。本発明の検出方法における工程(X1)と同様、工程(Y1)におけるカルシウムイオン濃度は0.1mM以上100mM以下であることが好ましく、1mM以上10mM以下であることがより好ましい。
【0085】
また、工程(Y1)で使用する試料液の量としては、水で膨潤させた担体1mLに対して1mL以上1000mL以下が好ましく、1mL以上100mL以下であることがより好ましい。工程(Y1)において、本発明の複合脂質結合性担体と、リン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を接触させる温度は2℃以上37℃以下が好ましく、2℃以上30℃以下がより好ましい。また、接触時間は0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0086】
本発明の単離方法における工程(Y2)は、本発明の検出方法における工程(X2)と同様、工程(Y1)で得られた複合体と試料液とを分離する分離工程と、前記複合体を洗浄する洗浄工程を含む工程である。工程(Y2)における分離工程は、通常のタンパク質や脂質などの生体由来物質の分離精製操作における分離方法であれば特に制限はなく、当業者が通常用いる方法から適宜選択すればよい。
【0087】
工程(Y2)における洗浄工程は、前記分離工程で得られた複合体を、カルシウムイオンを含有する洗浄液を用いて洗浄する工程である。洗浄工程を行なうことにより、複合脂質結合性担体に結合した試料液中の夾雑物を除去することができる。工程(Y2)における洗浄工程は、カルシウムイオンを含有する洗浄液を用いる以外は、当業者が通常用いる方法から適宜選択すればよい。具体的には、工程(Y1)で得られた複合体が充填されたカラムに、カルシウムイオンを含有する洗浄液を添加する方法を例示することができる。
【0088】
工程(Y2)における洗浄工程で使用するカルシウムイオンを含有する洗浄液は、前記分離工程で得られた複合体が安定であれば特に制限はなく、具体的には、pH7.0以上pH8.0以下の範囲で緩衝能を持つTBSやHBSを例示することができる。前記洗浄液中のカルシウムイオン濃度は、前記分離工程で得られた複合体の安定性の点で0.1mM以上100mMであることが好ましく、1mM以上10mM以下であることがより好ましい。また、前記洗浄液中には複合体の安定性を維持するための界面活性剤が含まれていてもよく、具体的には、0.00001%(w/v)以上0.5%(w/v)以下の非イオン性界面活性剤、より具体的には、0.00001%(w/v)以上0.5%(w/v)以下のTriton X-100やTween 20(いずれも商品名)を例示することができる。
【0089】
本発明の単離方法における工程(Y3)は、具体的には、前述した工程(Y1)および工程(Y2)で得られた複合体に対して、複合体を解離させる操作を行なうことによりリン脂質および/または細胞外小胞を脱着させて回収する工程である。前記複合体を解離させる操作は、細胞外小胞の構造を壊すことなく担体から解離できればよく、具体的には、複合体とタンパク質を変性することができる界面活性剤とを接触させる方法や、複合体中のカルシウムイオン濃度を低下させる方法を例示することができる。
【0090】
前記複合体と界面活性剤を接触させる方法では、工程(Y2)で洗浄した複合体と、前述したTBSやHBSなどの緩衝生理食塩水に界面活性剤を添加した溶液を接触させ、複合脂質結合性タンパク質を変性させることにより、リン脂質および/または細胞外小胞を回収することができる。前記界面活性剤は、当業者がタンパク質を変性させるために通常用いる界面活性剤であればよく、具体的には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの陰イオン性界面活性剤、Triton X-100やTween 20(いずれも商品名)などの非イオン性界面活性剤、CHAPS(3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate)などの両イオン性界面活性剤を例示することができる。
【0091】
これらの中では、低濃度でタンパク質を変性させることができる点で、SDSが好ましい。前記緩衝生理食塩水中の界面活性剤の濃度は、複合脂質結合性タンパク質の安定性を考慮して、0.01%(w/v)以上10%(w/v)以下の範囲で適宜選択すればよい。また、前記界面活性剤を含む緩衝生理食塩水と複合体とを接触させる温度や時間に特に制限はない。温度は2℃以上40℃以下が好ましく、より好ましくは10℃以上40℃以下である。時間は1分間以上60分間以下が好ましく、より好ましくは5分間以上30分間以下である。
【0092】
前記複合体中のカルシウムイオン濃度を低下させる方法では、工程(Y2)で洗浄した複合体と、複合体中のカルシウムイオン濃度を低下させることができる溶液を接触させ、複合体を解離させることにより、リン脂質および/または細胞外小胞を脱着させて回収することができる。前記複合体中のカルシウムイオン濃度を低下させることができる溶液としては、前述したTBSやHBSなどのカルシウムイオンを含まない緩衝液や、TBSやHBSにカルシウムイオンキレート剤を添加した緩衝液を例示することができるが、これらの中では高効率に複合体中のカルシウムイオンを低下させることができる点で、カルシウムイオンキレート剤を添加した緩衝液であることが好ましい。
【0093】
前記カルシウムイオンキレート剤としては、カルシウムイオンとキレート結合を形成することができれば特に制限はなく、具体的には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、グルタミン酸二酢酸(GLDA)を例示することができる。これらの中では、カルシウムイオンとの結合性の点で、EDTAおよびEGTAが好ましい。
【0094】
前記緩衝生理食塩水中のカルシウムイオンキレート剤の濃度は、前記複合体の安定性を考慮して、0.1mM以上100mM以下の範囲で適宜選択すればよい。また、前記カルシウムイオンキレート剤を含む緩衝生理食塩水と複合体とを接触させる温度や時間に特に制限はないが、温度は2℃以上40℃以下が好ましく、より好ましくは10℃以上40℃以下である。時間は1分間以上60分間以下が好ましく、より好ましくは5分間以上30分間以下である。
【0095】
本発明の単離方法における工程(Y3)で回収されたリン脂質および/または細胞外小胞が目的物であるかどうかの確認は、本発明の検出方法やウェスタンブロッティングなどの当業者が通常用いる方法により、必要に応じて行なえばよい。本発明の単離方法によって得られた細胞外小胞は、試料液がヒト間葉系幹細胞(hMSC)の培養液であった場合、例えば、文献(Drug Delivery System 29巻、140-151頁、2014年)に記載されているような、治療薬としてのMSC-エクソソームの原料として、好適に使用されることが期待できる。
【0096】
次に、本発明の複合脂質結合性担体を含む検出試薬(以降、本発明の検出試薬とする。)、および、当該検出試薬を含む細胞外小胞検出用キット(以降、本発明の細胞外小胞検出用キットとする。)について説明する。本発明の検出試薬は、本発明の複合脂質結合性担体の他に、前述した複合脂質結合性担体と試料液中のリン脂質および/または細胞外小胞との複合体を検出するための標識1次抗体、標識2次抗体、標識ストレプトアビジン、アジ化ナトリウムなどの防腐剤、アルブミンや界面活性剤などの安定化剤などが含まれていてもよい。
【0097】
また、本発明の細胞外小胞検出用キットには、前述した検出試薬以外に、通常、当該技術分野で使用される一般的な試薬類が含まれていても良く、具体的には、前述したリン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を調製するための緩衝生理食塩水およびカルシウムイオン水溶液、カルシウムイオン含有洗浄液、界面活性剤を含む緩衝生理食塩水などの水溶液、カルシウムイオンキレート剤を含む緩衝生理食塩水などの水溶液、酵素標識抗体/ストレプトアビジンを検出するための基質液および反応停止液、測定対象物質に対して検量線を作成するために使用される標準品を例示することができる。加えて、本発明の検出方法および試薬類の取扱い方法などを記載した説明書が含まれていてもよい。
【0098】
次に、本発明の複合脂質結合性担体を充填してなるカラム(以降、本発明のカラムとする。)、および、当該カラムを含む細胞外小胞単離用キット(以降、本発明の細胞外小胞単離用キットとする。)について説明する。本発明のカラムは、前述した細胞外小胞の単離方法を実施することができれば、その容量や形状に特に制限はなく、容量については、細胞外小胞を含む試料液の添加量や、複合脂質結合性担体の細胞外小胞結合量などによって決定した量の担体を、処理時間などを考慮して決定した大きさや形状のカラムに充填して行なえばよい。
【0099】
また、カラムの形状は、細胞外小胞を含む試料液の添加量や処理時間に応じて、カラム上端部が開放されている開放系カラムや、カラム両端部が閉鎖されている閉鎖系カラムなどを適宜選択すればよく、試料液の添加量が少ない場合は開放系カラムを、試料液の添加量が多く、短時間で処理したい場合はHPLC装置と接続することが可能な、両端部が閉鎖されている閉鎖系カラムが好ましい。
【0100】
また、本発明の細胞外小胞単離用キットには、前述したカラム以外に、通常、当該技術分野で使用される一般的な試薬類が含まれていても良く、具体的には、前述したリン脂質および/または細胞外小胞を含む試料液を調製するための緩衝生理食塩水およびカルシウムイオン水溶液、カルシウムイオン含有洗浄液、界面活性剤を含む緩衝生理食塩水などの水溶液、カルシウムイオンキレート剤を含む緩衝生理食塩水を例示することができる。さらに、通常、当該技術分野で使用される一般的な器具類が含まれていても良く、具体的には、試料液をカラムに注入するためのシリンジおよびアダプター、カラムから脱着した細胞外小胞を回収するためのマイクロチューブを例示することができる。加えて、本発明の単離方法および試薬類や器具類の取扱い方法などを記載した説明書が含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0101】
本発明の複合脂質結合性担体は、リン脂質などの複合脂質、および/または、リン脂質などの複合脂質が表面に存在する細胞外小胞に結合性を有するタンパク質を不溶性担体に固定化したものであり、当該担体を用いることにより、細胞外小胞を含む生体物質含有試料液から細胞外小胞を選択的に高感度かつ高精度に検出することができる。また、本発明の複合脂質結合性担体を充填したカラムに細胞外小胞を含む生体物質含有試料液を通液して細胞外小胞を担体に吸着させたのち、キレート剤で処理することにより、簡便な操作で大量の高純度な細胞外小胞を単離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【
図1】参考例3において、組換えタンパク質rPKCaC2-GST(配列番号7)を固定化したマイクロプレートによる細胞外小胞検出性能のカルシウムイオン濃度依存性を示す図。
【
図2】参考例3において、組換えタンパク質rPKCgC2-GST(配列番号23)を固定化したマイクロプレートによる細胞外小胞検出性能のカルシウムイオン濃度依存性を示す図。
【
図3】参考例4において、組換えタンパク質rPKCaC2-GST(配列番号7)を固定化したマイクロプレートによる細胞外小胞検出サンドイッチELISAの検量線を示す図。
【
図4】参考例4において、組換えタンパク質rPKCgC2-GST(配列番号23)を固定化したマイクロプレートによる細胞外小胞検出サンドイッチELISAの検量線を示す図。
【
図5】実施例15において、組換えタンパク質を固定化していない担体と、組換えタンパク質rPKCaC2(配列番号5)を固定化した担体からの回収液のウェスタンブロッティングを示す図。
【
図6】実施例15において、組換えタンパク質を固定化していない担体と、組換えタンパク質rPKCaC2-GST(配列番号7)を固定化した担体からの回収液のウェスタンブロッティングを示す図。
【
図7】参考例5において、組換えタンパク質rPKCaC2(配列番号5)、rPKCbC2(配列番号17)およびrPKCgC2(配列番号21)のSolid-Phase ELISAの結果を示す図。
【
図8】参考例5において、組換えタンパク質rPKCaC2-GST(配列番号7)、rPKCbC2-gs-GST(配列番号19)およびrPKCgC2-GST(配列番号23)のSolid-Phase ELISAの結果を示す図。
【
図9】参考例6において、膜脂質ストリップを用いた組換えタンパク質rPKCaC2(配列番号5)の複合脂質結合性を示す図。
【
図10】参考例6において、膜脂質ストリップを用いた組換えタンパク質rPKCbC2(配列番号17)の複合脂質結合性を示す図。
【
図11】実施例17において、本発明の複合脂質結合性担体を用いた培養上清中の細胞外小胞の分離結果を示す図。
【
図12】実施例18において、本発明の複合脂質結合性担体を用いた培養上清中の細胞外小胞の分離結果を示す図。
【実施例0103】
以下、作製例、実施例、比較例および参考例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)タンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質発現ベクターおよびそれらのEscherichia coli BL21(DE3)形質転換体の作製
タンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質発現ベクターは、タンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質を発現させるための発現ベクターであり、具体的には、表1に示した6種類の発現ベクターである。発現ベクターはpET28a(+)(Merck製)を用い、特開2018-000038号公報などで開示されている一般的な方法により各発現ベクターを作製し、大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。
【0104】
[実施例1]
実施例1はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインの組換えタンパク質rPKCaC2を発現させるための発現ベクターであり、rPKCaC2のアミノ酸配列は配列番号5(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に相当し、その155番目から160番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号6)を含む発現ベクターをpPKCaC2とした。さらに、発現ベクターpPKCaC2を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCaC2を作製した。
【0105】
[実施例2]
実施例2はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインとGST(グルタチオン S-トランスフェラーゼ)タンパク質との融合タンパク質rPKCaC2-GSTを発現させるための発現ベクターであり、rPKCaC2-GSTのアミノ酸配列は配列番号7(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、142番目から153番目は発現ベクターpET28a(+)のマルチクローニングサイト由来の配列に、155番目から370番目は配列番号4のアミノ酸配列に、373番目から378番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号8)を含む発現ベクターをpPKCaC2-GSTとした。さらに、発現ベクターpPKCaC2-GSTを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCaC2-GSTを作製した。
【0106】
[実施例3]
実施例3はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインとGSTとの融合タンパク質rPKCaC2-L-GSTを発現させるための発現ベクターであり、rPKCaC2-L-GSTのアミノ酸配列は配列番号9(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、142番目から179番目はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインの下流のアミノ酸配列(Uniprot登録番号:P17252の294番目から331番目の領域のアミノ酸配列)に、193番目から408番目は配列番号4のアミノ酸配列に、411番目から416番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号10)を含む発現ベクターをpPKCaC2-L-GSTとした。さらに、発現ベクターpPKCaC2-L-GSTを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCaC2-L-GSTを作製した。
【0107】
[実施例4]
実施例4はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインとGSTタンパク質との融合タンパク質rPKCaC2-gs-GSTを発現させるための発現ベクターであり、rPKCaC2-gs-GSTのアミノ酸配列は配列番号11(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、146番目から159番目はGSリンカー(配列番号41)に、166番目から381番目は配列番号4のアミノ酸配列に、384番目から389番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号12)を含む発現ベクターをpPKCaC2-gs-GSTとした。さらに、発現ベクターpPKCaC2-gs-GSTを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCaC2-gs-GSTを作製した。
【0108】
[実施例5]
実施例5はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインとGSTタンパク質との融合タンパク質rPKCaC2-h-GSTを発現させるための発現ベクターであり、rPKCaC2-h-GSTのアミノ酸配列は配列番号13(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、152番目から165番目はαヘリックスリンカー(配列番号42)に、171番目から386番目は配列番号4のアミノ酸配列に、389番目から394番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号14)を含む発現ベクターをpPKCaC2-h-GSTとした。さらに、発現ベクターpPKCaC2-h-GSTを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCaC2-h-GSTを作製した。
【0109】
[実施例6]
実施例6はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインとGSTタンパク質との融合タンパク質rGST-gs-PKCaC2を発現させるための発現ベクターであり、rGST-gs-PKCaC2のアミノ酸配列は配列番号15(その4番目から219番目までは配列番号4のアミノ酸配列に、222番目から235番目はGSリンカー(配列番号41)に、241番目から379番目は配列番号1のアミノ酸配列に、382番目から387番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号16)を含む発現ベクターをpGST-gs-PKCaC2とした。さらに、発現ベクターpGST-gs-PKCaC2を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pGST-gs-PKCaC2を作製した。
【0110】
【0111】
(2)タンパク質リン酸化酵素βのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質発現ベクターおよびそれらのEscherichia coli BL21(DE3)形質転換体の作製
タンパク質リン酸化酵素βのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質発現ベクターは、タンパク質リン酸化酵素βのC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質を発現させるための発現ベクターであり、具体的には、表2に示した2種類の発現ベクターである。発現ベクターはpET28a(+)(Merck製)を用い、(1)と同様にして各発現ベクターを作製し、大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。
【0112】
[実施例7]
実施例7はタンパク質リン酸化酵素βのC2ドメインの組換えタンパク質rPKCbC2を発現させるための発現ベクターであり、rPKCbC2のアミノ酸配列は配列番号17(その2番目から142番目までは配列番号2のアミノ酸配列に相当し、その156番目から161番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号18)を含む発現ベクターをpPKCbC2とした。さらに、発現ベクターpPKCbC2を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCbC2を作製した。
【0113】
[実施例8]
実施例8はタンパク質リン酸化酵素βのC2ドメインとGSTタンパク質との融合タンパク質rPKCbC2-gs-GSTを発現させるための発現ベクターであり、rPKCbC2-gs-GSTのアミノ酸配列は配列番号19(その2番目から142番目までは配列番号2のアミノ酸配列に、147番目から160番目はGSリンカー(配列番号41)に、167番目から382番目は配列番号4のアミノ酸配列に、385番目から390番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号20)を含む発現ベクターをpPKCbC2-gs-GSTとした。さらに、発現ベクターpPKCb2-gs-GSTを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCbC2-gs-GSTを作製した。
【0114】
【0115】
(3)タンパク質リン酸化酵素γのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質発現ベクターおよびそれらのEscherichia coli BL21(DE3)形質転換体の作製
タンパク質リン酸化酵素γのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質発現ベクターは、タンパク質リン酸化酵素γのC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質を発現させるための発現ベクターであり、具体的には、表3に示した2種類の発現ベクターである。発現ベクターはpET28a(+)(Merck製)を用い、(1)と同様にして各発現ベクターを作製し、大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。
【0116】
[実施例9]
実施例9はタンパク質リン酸化酵素γのC2ドメインの組換えタンパク質rPKCgC2を発現させるための発現ベクターであり、rPKCgC2のアミノ酸配列は配列番号21(その2番目から142番目までは配列番号3のアミノ酸配列に相当し、その156番目から161番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号22)を含む発現ベクターをpPKCgC2とした。さらに、発現ベクターpPKCgC2を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCgC2を作製した。
【0117】
[実施例10]
実施例10はタンパク質リン酸化酵素γのC2ドメインとGSTタンパク質との融合タンパク質rPKCgC2-GSTを発現させるための発現ベクターであり、rPKCgC2-GSTのアミノ酸配列は配列番号23(その2番目から142番目までは配列番号3のアミノ酸配列に、143番目から154番目は発現ベクターpET28a(+)のマルチクローニングサイト由来の配列に、156番目から371番目は配列番号4のアミノ酸配列に、374番目から379番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号24)を含む発現ベクターをpPKCgC2-GSTとした。さらに、発現ベクターpPKCgC2-GSTを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCgC2-GSTを作製した。
【0118】
【0119】
[実施例11] 組換えタンパク質の製造
前記(1)から(3)で作製したEscherichia coli形質転換体(表1から3)を、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行なった。前培養液は、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、IPTG(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside)を0.5mM添加したのち、5時間培養することで各組換えタンパク質(表1から表3に記載した10種類の組換えタンパク質)を発現させた。超音波破砕またはBugBuster Protein extraction kit(Merck製)を用いて、それぞれの菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中からの組換えタンパク質の精製は、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行なった。
【0120】
(4)種々のタンパク質発現ベクターおよびそれらのEscherichia coli BL21(DE3)形質転換体の作製
タンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質(比較例2)発現ベクターおよびタンパク質リン酸化酵素のC2ドメインを含まないタンパク質(比較例1および3)発現ベクターを作製した。具体的には、表4に示した比較例1から3とする、3種類の発現ベクターである。発現ベクターはpET28a(+)(Merck製)を用い、(1)と同様にして各発現ベクターを作製し、大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。
【0121】
[比較例1]
比較例1はGSTの組換えタンパク質rGSTを発現させるための発現ベクターであり、rGSTのアミノ酸配列は配列番号25(その3番目から218番目までは配列番号4のアミノ酸配列に、221番目から226番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号26)を含む発現ベクターをpGSTとした。さらに、発現ベクターpGSTを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pGSTを作製した。
【0122】
[比較例2]
比較例2はタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインとマルトース結合タンパク質(Maltose Binding Protein、MBP)を構成するアミノ酸配列(GenPept登録番号:EER8245063の27番目から392番目の配列)との融合タンパク質rPKCaC2-gs-MBPを発現させるための発現ベクターであり、rPKCaC2-gs-MBPのアミノ酸配列は配列番号27(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、146番目から159番目はGSリンカー(配列番号41)に、165番目から530番目はMBPタンパク質のアミノ酸配列に、533番目から538番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号28)を含む発現ベクターをpPKCaC2-gs-MBPとした。さらに、発現ベクターpPKCaC2-gs-MBPを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pPKCaC2-gs-MBPを作製した。
【0123】
[比較例3]
比較例3はMBPの組換えタンパク質rMBPを発現させるための発現ベクターであり、rMBPのアミノ酸配列は配列番号29(その3番目から368番目まではMBPタンパク質のアミノ酸配列に、371番目から376番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号30)を含む発現ベクターをpMBPとした。さらに、発現ベクターpMBPを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、形質転換体EC/pMBPを作製した。
【0124】
【0125】
[比較例4] 組換えタンパク質の製造
前記(4)で作製したEscherichia coli形質転換体(表4)について、前記実施例11に記載の方法により発現培養を行ない、組換えタンパク質を調製した。
【0126】
[参考例1] 各種細胞培養上清由来の細胞外小胞の調製
表5の条件a~gに示した細胞株を、AMICON ULTRA-15、100KDa (Merck製)で限外ろ過したウシ胎児血清(FBS)を5%(v/v)添加した表5に記載された培地を用いて37℃、5%CO2条件下にて48時間培養した後に、以下の方法で細胞外小胞(large EV、およびsmall EV)を回収した。
【0127】
[1]培養液60mLを、4℃、2000×gで30分間遠心し、上清を回収した。
【0128】
[2]上記の遠心上清を、4℃、16000×gで30分間遠心し、上清と沈殿を分離した。
【0129】
[3]上記[2]で得られた沈殿にPBSを60mL添加し、4℃、16000×gで30分間遠心し、上清を除去して沈殿を回収した。
【0130】
[4]上記[3]で得られた沈殿にPBSを200μL添加し、ピペッティングにより懸濁し、16000×g画分の細胞外小胞(large EV)を回収した。
【0131】
[5]上記[2]で得られた遠心上清を、4℃、100000×gで16時間超遠心を行ない、上清を除去して沈殿を回収した。
【0132】
[6]上記[5]で得られた超遠心沈殿にPBSを60mL添加し、4℃、100000×gで3時間超遠心を行ない、上清を除去して沈殿を回収した。
【0133】
[7]上記[6]で得られた超遠心沈殿にPBSを200μL添加し、ピペッティングにより懸濁し、100000×g画分の細胞外小胞(small EV)を回収した。
【0134】
【0135】
[参考例2] 細胞外小胞のタンパク質濃度定量
参考例1で調製した細胞外小胞のタンパク質濃度を、Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific製)を用いて、以下の方法で測定した。
【0136】
[1]BCA Reagent AとBCA Reagent Bを50:1で混合してWorking Reagent(WR)を調製した。
【0137】
[2]濃度既知のウシ血清アルブミン(BSA)標準液をPBSで希釈し、終濃度が1000、500、250、125、62.5、31.25、15.625、および0μg/mLとなるように希釈系列を作製した。
【0138】
[3]96ウェルマイクロプレートに、上記[2]で調製したBSA標準液の希釈系列および細胞外小胞溶液を、1ウェルあたり25μLずつ、各サンプルについて2ウェルに分注した。
【0139】
[4]上記[1]で調製したWRを200μL/ウェル添加して、直ちに30秒間振盪撹拌した後、プレートに蓋をして37℃で30分間インキュベートした。
【0140】
[5]プレートを室温に戻した後、吸光プレートリーダーにて562nmの吸光度を測定した。
【0141】
[6]吸光度からブランク(0μg/mL BSA標準液の吸光度)を差し引いた補正値を用いて、BSA標準液の希釈系列の値から検量線を作成した。この検量線を用いて、細胞外小胞溶液に含まれるタンパク質濃度を算出した。
【0142】
[実施例12] タンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質を固定化したELISAプレートによる細胞外小胞検出性能の評価
実施例11で製造した組換えタンパク質を固定化したマイクロプレートおよびビオチン標識した市販の抗テトラスパニン抗体(CD9、フロンティア研究所製)を用いて、参考例1において293T細胞の培養上清から調製した細胞外小胞(small EV)を検出するサンドイッチELISAを実施した。サンドイッチELISAの具体的な操作方法を以下に示す。
【0143】
[1]Maxisorp 96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific製)に、TBS(トリス緩衝生理食塩水)(pH7.4)で希釈したタンパク質を、1ウェルあたり50μLずつ分注し、4℃で一晩静置して固定化した。
【0144】
[2]TBSにより3回洗浄を行ない、ブロッキング溶液(SuperBlock(PBS)、Thermo Fisher Scientific製)を300μL/ウェル添加し、室温で1時間静置した。
【0145】
[3]TBSにより3回洗浄を行ない、各リガンドタンパク質を固定化したウェルに対して、希釈液(1%(w/v)BSAおよび2mM CaCl2を含むTBS、pH7.4)で希釈した測定試料を、それぞれ50μL/ウェル添加し、室温で2時間静置した。
【0146】
[4]洗浄液(2mM CaCl2を含むTBS、pH7.4)により3回洗浄を行ない、希釈液で希釈したビオチン標識検出抗体を50μL/ウェル添加し、室温で1時間静置した。
【0147】
[5]洗浄液により3回洗浄を行ない、希釈液で50000倍希釈したStreptavidin-PolyHRP40(Stereospecific Detection technologies製)を50μL/ウェル添加し、室温で1時間静置した。
【0148】
[6]洗浄液により3回洗浄を行ない、基質液(SureBlue Reserve TMB、SeraCare Life Sciences製)を50μL/ウェル添加し、室温で10分間静置した。
【0149】
[7]1Mリン酸水溶液を50μL/ウェル添加して反応を停止した。
【0150】
[8]吸光プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
【0151】
[比較例5] 比較例4で製造した種々の組換えタンパク質を固定化したELISAプレートによる細胞外小胞検出性能の評価
比較例4で製造した組換えタンパク質を固定化したマイクロプレート若しくはタンパク質を固定化しないマイクロプレート、およびビオチン標識した市販の抗テトラスパニン抗体(CD9、フロンティア研究所製)を用いて、参考例1において293T細胞の培養上清から調製した細胞外小胞(small EV)を検出するサンドイッチELISAを実施した。サンドイッチELISAの操作方法は実施例12と同様である。
【0152】
実施例12および比較例5の評価条件と結果を表6に示す。
【0153】
【0154】
マイクロプレートに固定化された組換えタンパク質がタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインのアミノ酸配列を含む条件a~fのうち、C2ドメインのN末端側またはC末端側にGSTタンパク質のアミノ酸配列を融合した組換えタンパク質を用いた条件b~fにおいて細胞外小胞が存在する場合に吸光度が増大し、これらの組換えタンパク質を用いたサンドイッチELISAによって細胞外小胞を検出可能であることが示された。これらのうち条件b~eで使用した組換えタンパク質は、N末端側に存在するタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメイン(配列番号1のアミノ酸配列に相当)とC末端側に存在するGSTタンパク質(配列番号4のアミノ酸配列に相当)の間にはさまれたアミノ酸配列が異なるものであるが、これらを比較すると、タンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインとGSTタンパク質の間をGSリンカー(配列番号41)で連結した場合(条件d、配列番号11)に最も高い細胞外小胞検出性能が得られた。また条件dおよびfは、GSTタンパク質をタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインのC末端側に融合した組換えタンパク質(条件d、配列番号11)とN末端側に融合した組換えタンパク質(条件f、配列番号15)を比較したものであるが、どちらも同程度の感度で細胞外小胞を検出可能であった。
【0155】
組換えタンパク質がタンパク質リン酸化酵素βのC2ドメインのアミノ酸配列を含む条件gおよびhのうち、C2ドメインのC末端側にGSTタンパク質のアミノ酸配列を融合した組換えタンパク質を用いた条件h(配列番号19)において細胞外小胞が存在する場合に吸光度が増大し、サンドイッチELISAによって細胞外小胞を検出可能であることが示された。
【0156】
組換えタンパク質がタンパク質リン酸化酵素γのC2ドメインのアミノ酸配列を含む条件iおよびjのうち、C2ドメインのC末端側にGSTタンパク質のアミノ酸配列を融合した組換えタンパク質を用いた条件j(配列番号23)において細胞外小胞が存在する場合に吸光度が増大し、サンドイッチELISAによって細胞外小胞を検出可能であることが示された。
【0157】
一方で、マイクロプレートに固定化された組換えタンパク質がタンパク質リン酸化酵素のC2ドメインを含まない場合(条件k(配列番号25)およびm(配列番号29))およびタンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインのC末端側にMBPタンパク質のアミノ酸配列を融合した場合(条件l、配列番号27)、ならびにマイクロプレートにタンパク質を固定化しない場合(条件n)においてはいずれも、細胞外小胞が存在しても吸光度が増大しなかった。
【0158】
[実施例13] 各種細胞株から調製した細胞外小胞(small EV)検出性能の評価
実施例11で製造した組換えタンパク質rPKCaC2-gs-GST(配列番号11)を固定化したマイクロプレートおよびビオチン標識した市販の抗テトラスパニン抗体3種類(CD9、CD63およびCD81、いずれもフロンティア研究所製)を用いて、参考例1において各種細胞の培養上清から調製した細胞外小胞(small EV)を検出するサンドイッチELISAを実施した。サンドイッチELISAの操作方法は実施例12と同様である。評価条件と結果を表7に示す。
【0159】
【0160】
組換えタンパク質rPKCaC2-gs-GSTを固定化したプレートは、ビオチン標識検出抗体としてCD9、CD63、CD81いずれかの抗テトラスパニン抗体を用いることによって、本実施例で使用した細胞株が異なるsmall EVのいずれも検出可能であることが示された。
【0161】
[実施例14] 細胞外小胞(large EV)検出性能の評価
実施例11で製造した組換えタンパク質rPKCaC2-gs-GST(配列番号11)を固定化したマイクロプレートおよびビオチン標識した市販の抗テトラスパニン抗体3種類(CD9、CD63およびCD81、いずれもフロンティア研究所製)を用いて、参考例1において293T細胞(表5の条件a)およびAGS細胞(表5の条件d)の培養上清から調製した細胞外小胞(large EV)を検出するサンドイッチELISAを実施した。サンドイッチELISAの操作方法は実施例12と同様である。評価条件と結果を表8に示す。
【0162】
【0163】
組換えタンパク質rPKCaC2-gs-GSTを固定化したプレートは、ビオチン標識検出抗体としてCD9、CD63、CD81いずれかの抗テトラスパニン抗体を用いることによって、293T細胞およびAGS細胞の培養上清から精製したlarge EVを検出可能であることが示された。
【0164】
[参考例3] 組換えタンパク質を固定化したマイクロプレートによる細胞外小胞検出性能のカルシウムイオン濃度依存性
実施例11で製造した組換えタンパク質rPKCaC2-GST(配列番号7)若しくはrPKCgC2-GST(配列番号23)を固定化したマイクロプレート、およびビオチン標識した市販の抗テトラスパニン抗体(CD9、フロンティア研究所製)を用いて、参考例1においてAGS細胞(表5の条件d)の培養上清から調製した細胞外小胞(small EV)を検出するサンドイッチELISAを実施した。サンドイッチELISAの操作方法は実施例12と同様であるが、希釈液および洗浄液に含まれるCaCl2の濃度を表9に記載の通りとした。評価条件と結果を表9に示す。
【0165】
【0166】
組換えタンパク質rPKCaC2-GSTおよびrPKCgC2-GSTのそれぞれについて、吸光度を最小値が0、最大値が1となるように正規化してCaCl
2濃度に対してプロットしたものを
図1および
図2にそれぞれ示す。
【0167】
条件a~hにおいて、rPKCaC2-GST(配列番号7)を固定化したプレートは、
図1に示す通り、希釈液および洗浄液に含まれるCaCl
2濃度が1×10
-5M、すなわち0.01mM以上の場合に細胞外小胞の検出が可能となり、2×10
-3M、すなわち2mM以上の場合に検出性能が最大となることが示された。
【0168】
また条件i~pにおいて、rPKCgC2-GST(配列番号23)を固定化したプレートは、
図2に示す通り、希釈液および洗浄液に含まれるCaCl
2濃度が1×10
-5M、すなわち0.01mM以上の場合に細胞外小胞の検出が可能となり、1×10
-4M、すなわち0.1mM以上の場合に検出性能が最大となることが示された。
【0169】
[参考例4] 組換えタンパク質を固定化したマイクロプレートによる細胞外小胞検出サンドイッチELISAの検量線
実施例11で製造した組換えタンパク質rPKCaC2-GST(配列番号7)若しくはrPKCgC2-GST(配列番号23)を固定化したマイクロプレート、およびビオチン標識した市販の抗テトラスパニン抗体(CD9、フロンティア研究所製)を用いて、参考例1において293T細胞(表5の条件a)の培養上清から調製した細胞外小胞(small EV)を検出するサンドイッチELISAを実施した。サンドイッチELISAの操作方法は実施例12と同様である。評価条件と結果を表10に示す。
【0170】
【0171】
組換えタンパク質rPKCaC2-GSTおよびrPKCgC2-GSTのそれぞれについて作成した検量線を
図3および
図4にそれぞれ示す。本参考例におけるサンドイッチELISAの条件において、1ng以上1000ng以下の範囲で細胞外小胞を定量的に検出可能であることが示された。
【0172】
[実施例15] ポリエチレングリコール固定化担体を用いた複合脂質結合性担体による細胞外小胞の単離
(1)組換えタンパク質の製造
実施例1および実施例11と同様の方法により、組換えタンパク質rPKCaC2のC末端に、6個のヒスチジン残基からなるポリヒスチジン配列と1個のシステイン残基からなるアミノ酸配列(配列番号39)を付加した組換えタンパク質rPKCaC2-6HCを製造した。同様に、実施例2および実施例11と同様の方法により、組換えタンパク質rPKCaC2-GSTのC末端に、6個のヒスチジン残基からなるポリヒスチジン配列と1個のシステイン残基からなるアミノ酸配列(配列番号39)を付加した組換えタンパク質rPKCaC2-GST-6HCを製造した。製造した2種類のタンパク質は、AMICON ULTRA-0.5、10KDa(Merck製)を用いた限外ろ過によりD-PBS(-)(富士フイルム和光純薬社製)に置換した。
【0173】
(2)ポリエチレングリコール固定化反応性不溶性担体の製造
Sephadex G-25 Fine(Cytiva製、粒径20μm~80μm)は、水で膨潤させたのち、グラスフィルターでろ過したものを使用した。100mL容のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製容器に2.5g(ろ過後の含水重量)のSephadex G-25 Fine(Cytiva製)、5.0mLの水、0.5mLのテトラエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX-821、ナガセケムテックス製)、52μLの48%(w/v)NaOH水溶液を添加(最終濃度:0.5%(w/v))したのち、振盪機内で50℃、120rpmの条件で6時間振盪することによりエポキシ化を行なった。
【0174】
反応終了後、担体をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄したのち、エポキシ化したSephadex G-25 Fine全量を100mL容のPTFE製容器に添加した。次に、反応容器に5.0mLの水と166.5μLのエチレンジアミン(濃度:0.5M、東京化成製無水エチレンジアミンから調製)を添加したのち、振盪機内で40℃、120rpmの条件で15時間振盪することによりアミノ化を行なった。反応終了後、担体をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄したのち、アミノ化したSephadex G-25 Fine全量を100mL容のPTFE製容器に添加した。
【0175】
次に、反応容器に5.0mLの3-マレイミドプロピオン酸N-スクシンイミジル(富士フイルム和光純薬製)のDMSO溶液(濃度:10mg/mL)を添加したのち、振盪機内で35℃、120rpmの条件で4時間振盪することによりマレイミド化を行なった。反応終了後、担体をグラスフィルター上で20mLのDMSOで3回、30mLの水で5回洗浄することにより、目的のポリエチレングリコール固定化反応性不溶性担体である。マレイミド化Sephadex G-25 Fineを作製した。
【0176】
(3)複合脂質結合担体の製造
複合脂質結合担体の製造に使用する組換えタンパク質rPKCaC2-6HCおよび組換えタンパク質rPKCaC2-GST-6HCのD-PBS(-)溶液に、最終濃度が0.5mMとなるようトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)水溶液(濃度:0.1M)を添加して室温で1時間放置して還元処理を行ない、複合脂質結合担体製造用の組換えタンパク質溶液を調製した。
【0177】
マレイミド化Sephadex G-25 Fineの50%(w/v)スラリー(100μL)を反応容器(ミニバイオスピンクロマトグラフィー用カラム、Bio-Rad製)に添加した(ゲル体積:50μL)。150μLの固定化用緩衝液(0.2M Na3PO4、0.5M NaCl、20mM EDTA、pH7.4)を添加し、遠心分離により反応性不溶性担体を緩衝液で置換した(同様の操作を4回繰り返し)。
【0178】
次に、マレイミド化Sephadex G-25 Fineが入った反応容器に、予め調製した複合脂質結合担体製造用の組換えタンパク質溶液50μL(濃度:0.5mg/mL-担体)を添加し、4℃で終夜撹拌振盪することにより組換えタンパク質rPKCaC2-6HCを固定化したSephadex G-25 Fine(以降、rPKCaC2-Sephadexとする。)および組換えタンパク質rPKCaC2-GST-6HCを固定化したSephadex G-25 Fine(以降、rPKCaC2-GST-Sephadexとする。)を製造した。
【0179】
固定化反応終了後、反応容器をスピンダウンして反応液を回収し、続いて、反応容器にD-PBS(-)を150μL添加し、5分間撹拌振盪した後、スピンダウンして洗浄する作業を3回繰り返すことにより、合計0.5mLの反応液と洗浄液を回収した。回収した洗浄液中の組換えタンパク質の濃度をMicro BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific製)を用いて測定し、担体製造時に仕込んだ組換えタンパク質量から回収した組換えタンパク質量を差し引くことにより担体1mL当りの組換えタンパク質固定化量を算出した結果、表11に示す通り、rPKCaC2-SephadexにおけるrPKCaC2-6HCの固定化量は0.34mg/mL、rPKCaC2-GST-SephadexにおけるrPKCaC2-GST-6HCの固定化量は0.24mg/mLであり、目的とする複合脂質結合担体が製造できていることが明らかとなった。
【0180】
【0181】
(4)複合脂質結合性担体による細胞外小胞の単離
[4-1]複合脂質結合性担体の洗浄
前記(3)で製造したrPKCaC2-SephadexおよびrPKCaC2-GST-Sephadexの50%(w/v)スラリー(40μL)を1.5mLチューブに添加した(担体の体積:20μL)。150μLの2mM CaCl2を含むTBS溶液(TBS溶液の組成:137mM NaCl、2.68mM KCl、25mM Tris-HCl、pH8.0)を添加し、タッピング、スピンダウンによる分離、上清廃棄の操作を4回繰り返すことによって、担体を洗浄した。比較対照として、組換えタンパク質を固定化していないSephadex G-25 Fineも同様の操作を行なった。
【0182】
[4-2]複合脂質結合性担体への細胞外小胞の吸着
次に、洗浄したrPKCaC2-SephadexおよびrPKCaC2-GST-Sephadexに、20μLのヒト由来精製細胞外小胞(Lyophilized exosomes from K562 cell culture supernatant、HansaBioMed製)を含む懸濁液(前記エクソソーム2μLと、2mMの塩化カルシウムを含むTBS溶液18μLの混合物)を添加し、4℃の冷蔵庫内に設置したチューブローテーター(アズワン製、型番TR-350)を利用して、3時間反応させた。また、比較対照として、組換えタンパク質を固定化していないSephadex G-25 Fineについても同様の操作を行なった。
【0183】
反応終了後、スピンダウンにより担体(rPKCaC2-Sephadex、rPKC
aC2-GST-Sephadexおよび組換えタンパク質を固定化していないSeph
adex G-25 Fine)を沈殿させ、上清を回収した(回収液1)。
【0184】
[4-3]キレート剤処理による複合脂質結合性担体に吸着した細胞外小胞の回収
次に、150μLの2mMの塩化カルシウムを含むTBS-T溶液(TBS-T溶液の組成:137mM NaCl、2.68mM KCl、25mM Tris-HCl、0.05% Tween 20(商品名)、pH8.0)を添加し、タッピング、スピンダウンによる分離、上清廃棄の操作を4回繰り返すことによって、担体を洗浄した。
【0185】
次に、洗浄した担体に、溶出液として5mMのEDTAを含むTBS溶液を20μL添加後、ボルテックスミキサーで懸濁、卓上遠心機でスピンダウンし、室温で15分間静置した。15分後、ボルテックスミキサーで再度懸濁し、スピンダウンにより担体を沈殿させ、上清を回収した(回収液2)。回収液2を回収したのち、さらに、担体への5mMのEDTAを含むTBS溶液20μLの添加、ボルテックスミキサーによる懸濁、卓上遠心機によるスピンダウン、室温での15分間静置、ボルテックスミキサーによる再度懸濁、スピンダウンによる担体の沈殿までの一連の操作を繰り返し、上清を回収した(回収液3)。
【0186】
次に、担体に、溶出液として2%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液を20μL添加後、ボルテックスミキサーで懸濁、スピンダウン後、室温で15分間静置した。15分後、ボルテックスミキサーで再度懸濁し、スピンダウンにより担体を沈殿させ、上清を回収した(回収液4)。
【0187】
[4-4]回収液のウェスタンブロッティング
次に、回収液1から回収液4を95℃で5分間処理することにより変性させたのち、市販の電気泳動用ポリアクリルアミドゲル(e-PAGEL E-R520L、ATTO製)を用い、30mA、55分間の条件で電気泳動した。なお、電気泳動の分子量マーカーとして、EzProtein Ladder(WSE-7020、ATTO製)を用いた。
【0188】
電気泳動終了後、転写バッファー(EzFastBlot、ATTO製)を用いてゲルを洗浄し、転写バッファーに浸したろ紙をブロッティング装置(PoweredBlot Ace、WSE-4115、ATTO製)に置き、その上にPVDF膜(クリアブロット・Pプラス膜、WSE-4051、ATTO製)、ゲル、転写バッファーに浸したろ紙の順番で重ね、Fastモードにて10分間、ゲルからPVDF膜への転写を行なった。転写後のPVDF膜はTBS-T溶液で洗浄し、3%(w/v)スキムミルクを含むTBS-Tによって4℃で1晩ブロッキングした。
【0189】
その後、3%(w/v)スキムミルクを含むTBS-T溶液を用いて調製した、抗CD81抗体(Novus Biologicals製、商品コード:NB100-65805H、HRP(Horseradish peroxidase)標識)溶液と、ブロッキング後のPVDF膜をポリプロピレン製容器に入れ、室温で1時間振盪することにより抗体と結合させた。抗体との反応後、未反応の抗体を洗浄除去するためにTBS-T溶液にPVDF膜を浸し、室温で5分間振盪する操作を3回行なった。
【0190】
洗浄後、高解像度化学発光専用機GeneGnome(GGNOME-XRQ-NPC、SYNGENE製)を用いて、HRP用検出試薬(EzWestLumiOne、WSE-7110、ATTO製)の発光により細胞外小胞を示すバンドを検出した(
図5および
図6)。
【0191】
図5および
図6からも明らかなように、組換えタンパク質を固定化していないSephadex G-25 Fineでは、細胞外小胞と接触させた直後に回収した回収液1(
図5および
図6におけるレーン番号2)に細胞外小胞に由来するバンドが検出されたため、細胞外小胞は当該担体に非特異的な吸着をしないことが明らかとなった。
【0192】
一方、rPKCaC2-Sephadex、rPKCaC2-GST-Sephadexでは、細胞外小胞と接触させた直後に回収した回収液1(
図5および
図6におけるレーン番号7)に細胞外小胞に由来するバンドがほとんど検出されておらず、キレート剤であるEDTAを含む緩衝液を添加して回収した回収液2(
図5および
図6におけるレーン番号8)では細胞外小胞に由来するバンドが確認されたことから、キレート剤で処理することにより、複合脂質結合性担体に吸着した細胞外小胞を回収できることが明らかとなった。
【0193】
[参考例5] 組換えタンパク質のホスファチジルセリン結合性評価
文献(Immunity、27巻、927-940頁、2007年)に記載の方法に従い、実施例11で製造した6種類の組換えタンパク質(rPKCaC2(配列番号5)、rPKCbC2(配列番号17)、rPKCgC2(配列番号21)、rPKCaC2-GST(配列番号7)、rPKCbC2-gs-GST(配列番号19)および組換えタンパク質rPKCgC2-GST(配列番号23))の、ホスファチジルセリン(以下、PSとする。)に対する結合性をSolid-Phase ELISAにより評価した。
【0194】
25μg/mLのPS溶液(Sigma-Aldrich製1,2-Diacyl-sn-glycero-3-phospho-L-serineをクロロホルムで5mg/mLの濃度に溶解後、メタノールで200倍希釈)を100μL/wellずつELISA用プレート(MaxiSorp 96-well plate、Thermo Fisher Scientific製)に添加し、風乾することによりプレートへPSを固相化した。
【0195】
次に、0.5%(w/v)BSAを含む20mM Tris-HCl(pH7.5)を200μL/wellずつ添加し、30℃で2時間放置することでブロッキングした後、バッファーW(0.05%(w/v)Tween 20(商品名)、150mM NaCl、20mM Tris-HCl、pH7.5)を350μL/wellずつ添加して合計3回洗浄した。
【0196】
次に、バッファーA(2mM CaCl2を含む20mM Tris-HCl、pH7.5)で希釈した前記6種類の組換えタンパク質を添加し、30℃で90分間、加温したのち、バッファーWC(0.05%(w/v)Tween 20(商品名)、150mM NaCl、2mM CaCl2を含む20mM Tris-HCl、pH7.5)を350μL/wellずつ添加して合計3回洗浄した。
【0197】
次に、HRP標識抗6-His抗体(Bethyl Laboratories製、0.5%(w/v)BSA含有バッファーWCで5000倍希釈した溶液)を100μL/wellずつ添加し、30℃で1.5時間、加温したのち、バッファーWCを350μL/wellずつ添加して合計3回洗浄した。
【0198】
TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を50μL/wellずつ添加して発色させた後、1Mリン酸を50μL/wellずつ添加することにより反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
【0199】
図7に組換えタンパク質rPKCaC2(配列番号5)、rPKCbC2(配列番号17)およびrPKCgC2(配列番号21)の、
図8に組換えタンパク質PKCaC2-GST(配列番号7)、rPKCbC2-gs-GST(配列番号19)およびrPKCgC2-GST(配列番号23)のSolid-Phase ELISAの結果を示すが、いずれの組換えタンパク質でも濃度依存的に吸光度が上昇しており、評価した6種類の組換えタンパク質全てがPSに結合することが明らかとなった。
【0200】
[参考例6] 組換えタンパク質の脂質結合性評価
文献(Immunity、27巻、927-940頁、2007年)に記載の方法に従い、市販の膜脂質ストリップ(P-6002、Echelon Bioscience社製)を用いて、実施例11で製造した組換えタンパク質rPKCaC2(配列番号5)およびrPKCbC2(配列番号17)の複合脂質への結合性を評価した。
【0201】
容器に前記膜脂質ストリップと10mLのBlocking Buffer(20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、3%(w/v)BSA)を入れて室温で1時間振盪し、膜脂質ストリップのブロッキングを行なった。
【0202】
次に、Blocking Bufferを廃棄後、9mLの組換えタンパク質溶液(0.5μg/mL組換えタンパク質と2mM CaCl2を含むBlocking Buffer)を添加し室温で1時間振盪することにより、組換えタンパク質を膜脂質ストリップに結合させた。
【0203】
次に、組換えタンパク質溶液を廃棄後、10mLのWashing solution(20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05%(w/v)Tween 20(商品名)、2mM CaCl2)を添加し、室温で10分間振盪することにより洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。
【0204】
3回の洗浄後、Washing solutionを廃棄後、10mLの抗ポリヒスチジンタグ抗体溶液(Rabbit anti-6-His Antibody HRP conjugated(以降、「抗6-His抗体」とも表記)、カタログ番号A190-114P、Bethyl Laboratories製)と2mM CaCl2を含むBlocking Bufferを添加して室温で1時間振盪し、膜脂質ストリップに結合した組換えタンパク質に抗6-His抗体を結合させた。
【0205】
1時間振盪後、過剰の抗6-His抗体を廃棄し、10mLの前記Washing solutionを添加し、室温で10分間振盪することを3回繰り返して、膜脂質ストリップを洗浄した。
【0206】
洗浄後の膜脂質ストリップは高解像度化学発光専用機(GeneGnome、SYNGENE製)を用い、膜脂質ストリップに結合した組換えタンパク質をHRP用検出試薬(EzWestLumiOne、型番WSE-7110、ATTO製)の発光により検出した。
【0207】
組換えタンパク質rPKCaC2(配列番号5)の脂質結合性評価の結果を
図9に、rPKCbC2(配列番号17)の脂質結合性評価の結果を
図10に示す。
図9および
図10において、濃く発色されているスポットに組換えタンパク質が結合していることを示唆している。
図9からも明らかなように、組換えタンパク質rPKCaC2は、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール4-リン酸、ホスファチジルイノシトール4、5-ビスリン酸、スルファチド、カルジオリピンにも結合することが明らかとなった。また、
図10からも明らかなように、組換えタンパク質rPKCbC2はホスファチジルセリン(PS)に強く結合し、ホスファチジルイノシトール4-リン酸、カルジオリピンにも結合することが明らかとなった。
【0208】
[実施例16] タンパク質リン酸化酵素αのC2ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質とSpyCatcherとの融合タンパク質の発現ベクター、そのEscherichia coli BL21(DE3)形質転換体、および前記融合タンパク質の製造
[1]発現ベクターpPKCaC2-SpyCとその形質転換体EC/pPKCaC2-SpyCの作製
まずPKCαのC2ドメインとSpyCatcher(SpyC)との融合タンパク質rPKCaC2-SpyCを製造するための発現ベクターを作製した。rPKCaC2-SpyCのアミノ酸配列は配列番号31(その3番目から141番目までは配列番号1のアミノ酸配列に、146番目から159番目はGSリンカー(配列番号41)に、164番目から279番目はSpyCatcher(Protein Data Bank登録番号:4MLIのChain AおよびBの116アミノ酸残基)に、その282番目から287番目はポリヒスチジン配列に相当)であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号32)を、pET28a(+)(Merck製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、rPKCaC2-SpyCを大腸菌で発現可能なベクターpPKCaC2-SpyCを作製した。さらに、発現ベクターpPKCaC2-SpyCを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えタンパク質rPKCaC2-SpyCを製造可能な形質転換体EC/pPKCaC2-SpyCを作製した。
【0209】
[2]組換えタンパク質rPKCaC2-SpyCの製造
前記[1]で作製した形質転換体EC/pPKCaC2-SpyCについて、前記実施例11に記載の方法により発現培養を行ない、組換えタンパク質を調製した。調製したタンパク質は、AMICON ULTRA-0.5、10KDa(Merck製)を用いた限外ろ過によりTBS緩衝液(25mM Tris-HCl、137mM NaCl,26.8mM KCl、pH8.0)に置換した。
【0210】
[作製例1]固定化補助タンパク質の作製
[1]Cys-(SpA-Z)-3SpyTの作製
[1-1]発現ベクターpGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTとその形質転換体EC/pGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTの作製
発現ベクターpGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-1SpyTは、N末端側にビオチン標識用システイン残基(Cys)を付加したStaphylococcus aureus由来Protein AのZドメイン(SpA-Z、GenBank Accession登録番号:AL052730の4番目から61番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)とSpyTag(Protein Data Bank登録番号:4MLIのChain B[13残基]、SpyT)がタンデムに3コピーならんだポリペプチドとの融合タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyTを製造するための発現ベクターであり、そのアミノ酸配列は配列番号33であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号34)を、pBR322系プラスミドのpGEX(Cytiva製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、Cys-(SpA-Z)-3SpyTを大腸菌で発現可能なベクターpGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを作製した。
【0211】
なおpGEXは、マルチクローニングサイトの上流側にGST(Glutathione S-transferase、GenBank Accession登録番号:QLV95778の1番目から218番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)をコードするポリヌクレオチドおよびプロテアーゼ認識部位を有しており、前記挿入により作製した発現ベクターpGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTは、GSTとCys-(SpA-Z)-3SpyTとの融合タンパク質GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号35)を大腸菌で発現可能なベクターである。GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTをコードする塩基配列を配列番号36に示す。
【0212】
発現ベクターpGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを用いてEscherichia coli BL21を形質転換し、組換えタンパク質GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを製造可能な形質転換体EC/pGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを作製した。
【0213】
[1-2]組換えタンパク質の製造
[1-1]で作製したEscherichia coli形質転換体EC/pGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを、60μg/mLのカルベニシリンを添加したLB培地に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行なった。前培養液は、それぞれ60μg/mLのカルベニシリンを添加したLB培地に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、IPTGを0.5mM添加したのち、5時間培養することで組換えタンパク質GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを発現させた。超音波破砕またはBugBuster Protein extraction kit(Merck製)を用いて、それぞれの菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。
【0214】
可溶性タンパク質抽出液中からの組換えタンパク質の精製は、グルタチオン固定化担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより行ない、固定化担体に結合したGST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを、GST融合HRV 3Cプロテアーゼ(Merck製)を用いてメーカープロトコルに従い消化し、上清を回収することで、Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号33)溶液を得た。得られたタンパク質は、AMICON ULTRA-0.5、10KDa(Merck製)を用いた限外ろ過によりD-PBS(-)(富士フイルム和光純薬製)に置換した。
【0215】
[2](BC2LCNm2)-3SpyTの作製
[2-1]発現ベクターp(BC2LCNm2)-3SpyTとその形質転換体EC/p(BC2LCNm2)-3SpyTの作製
発現ベクターp(BC2LCNm2)-3SpyTは、変異型BC2LCNレクチンBC2LCNm2(GenBank Accession登録番号:WP_006490828の2番目から156番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドのホモ3量体を形成するタンパク質、ただし当該アミノ酸残基において40番目のグルタミンがロイシンに、82番目のグルタミン酸がシステイン(ビオチン標識用)に、それぞれ置換したポリペプチド)とタンデムに並んだ3コピーのSpyTagとの融合タンパク質(BC2LCNm2)-3SpyTを製造するための発現ベクターであり、そのアミノ酸配列は配列番号37であり、そのアミノ酸をコードする塩基配列(配列番号38)を、pET28a(+)(Merck製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、(BC2LCNm2)-3SpyT(配列番号37)を大腸菌で発現可能なベクターp(BC2LCNm2)-3SpyTを作製した。発現ベクターp(BC2LCNm2)-3SpyTを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えタンパク質(BC2LCNm2)-3SpyTを製造可能な形質転換体EC/p(BC2LCNm2)-3SpyTを、作製した。
【0216】
[2-2]組換えタンパク質の製造
[2-1]で作製したEscherichia coli形質転換体EC/p(BC2LCN-m2)-3SpyTを、30μg/mLのカルベニシリンを添加したLB培地(10g/L Tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行なった。前培養液は、30μg/mLのカナマイシンを添加したTB(Terrific broth)培地(24g/L Yeast extract、12g/L Tryptone、9.4g/L K2HPO4、2.2g/L KH2PO4および4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。
【0217】
培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を20℃に切り替え、IPTGを0.1mM添加したのち、一晩培養することで組換えタンパク質(BC2LCN-m2)-3SpyTを発現させた。回収した菌体から実施例11と同様にして組換えタンパク質(BC2LCN-m2)-3SpyTを調製し、D-PBS(-)に置換した(BC2LCN-m2)-3SpyT(配列番号37)溶液を得た。
【0218】
[実施例17] 固定化補助タンパク質を用いた複合脂質結合性担体による細胞外小胞を含む溶液からの細胞外小胞の単離
[1]固定化補助タンパク質とPKCαのC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質の構造体の作製
作製例1で作製した固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号33)および(BC2LCN-m2)-3SpyT(配列番号37)を、それぞれ限外ろ過フィルターを用いてD-PBS(+)緩衝液に置換後、EZ-Link Maleimide-PEG2-Biotin(Thermo Fisher Scientific製)を用いて、メーカープロトコルに従って、前記固定化補助タンパク質中に存在するシステイン残基のスルフヒドリル基にビオチンを標識した。
【0219】
作製したビオチン標識固定化補助タンパク質と、実施例16で作製したPKCαのC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質rPKCaC2-SpyC(配列番号31)とを、以下に示す方法で結合させることで、不溶性担体に固定化させる、固定化補助タンパク質とrPKCaC2-SpyCとが結合した構造体(以下、「PKCαC2ドメイン構造体」とする。)を作製した。なおPKCαC2ドメイン構造体の作製に用いた、rPKCaC2-SpyCと固定化補助タンパク質との組み合わせと、得られるPKCαC2ドメイン構造体を表12にまとめる。
【0220】
【0221】
表12に記載の組み合わせに基づき、前記のビオチン標識固定化補助タンパク質と実施例16で作製した組換えタンパク質rPKCaC2-SpyCとを結合させた。具体的には、ビオチン標識固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号33)および(BC2LCNm2)-3SpyT(配列番号37)と、組換えタンパク質rPKCaC2-SpyC(配列番号31)とを、それぞれ濃度0.3mg/mL以上となるよう、D-PBS(+)またはpH7.0以上8.0以下のTBS-T(0.15M NaClおよび0.05%(w/v)Tween 20(商品名)を含む25mM Tris-HCl(pH7.2))に懸濁し、表12の実施例17の条件aまたはbに記載の組み合わせでビオチン標識固定化補助タンパク質とrPKCaC2-SpyCの溶液を混合後、4℃で一昼夜以上放置することでタンパク質タグSpyTとSpyCの結合反応によりPKCαC2ドメイン構造体を作製した。
【0222】
なお混合時のモル比は、ビオチン標識固定化補助タンパク質1に対し、rPKCaC2-SpyCを9とした。混合時のモル比は、タンパク質タグSpyTとSpyCの結合反応が十分に進むように、SpyC配列をもつ組換えタンパク質rPKCaC2-SpyCを過剰量添加した。固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyTおよび(BC2LCNm2)-3SpyTは1分子あたり3コピーのSpyTag配列をもつため、分子内の全SpyTag配列にSpyCを結合させるためには、モル比として固定化補助タンパク質1に対し、SpyC配列をもつ組換えタンパク質rPKCaC2-SpyCが3必要であり、結合反応を円滑に行なうため、必要量の3倍のモル比として9倍量添加した。
【0223】
SpyTとSpyCとの結合反応により、ビオチン標識固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyTと組換えタンパク質rPKCaC2-SpyCの結合によるPKCαC2ドメイン構造体(表12の実施例17の条件a、rPKCaC2/3SpyT-Biotin)は、固定化補助タンパク質1分子当たりに3分子のPKCαのC2ドメインが結合した3量体型PKCαC2ドメイン構造となる。また、ビオチン標識固定化補助タンパク質(BC2LCNm2)-3SpyTと組換えタンパク質rPKCaC2-SpyCの結合によるPKCαC2ドメイン構造体(表12の実施例17の条件b、rPKCaC2/3SpyT_BC2LCNm2-Biotin)は、固定化補助タンパク質1分子当たりに3分子のPKCαのC2ドメインが結合し、さらに固定化補助タンパク質に含まれるBC2LCNレクチンのアミノ酸配列がホモ3量体構造を形成するため、9量体型PKCαC2ドメイン構造となる。
【0224】
[2]複合脂質結合性担体の製造
不溶性担体として、ストレプトアビジン固定化磁性微粒子であるMagnoshere MS300/Streptavidin(JSR Life Sciences製)を用い、当該磁性微粒子のスラリー溶液(微粒子含有率1%(w/v))100μLを採取し、上清を除去した。
【0225】
上清を除去した磁性微粒子を、固定用緩衝液(0.5mM EDTA、1M NaClおよび0.05%(w/v)Tween 20(商品名)を含む10mM Tris-HCl(pH7.4))で洗浄した。
【0226】
あらかじめ限外ろ過膜などを用いて固定用緩衝液に置換した[1]で作製したPKCαC2ドメイン構造体rPKCaC2/3SpyT-Biotin(表12の実施例17の条件a)またはrPKCaC2/3SpyT_BC2LCNm2-Biotin(表12の実施例17の条件b)を、固定化補助タンパク質の濃度に換算して0.1mg/mL以上の濃度に調整後、前記の洗浄した磁性微粒子に、固定化補助タンパク質量に換算して4.5μg添加し、室温で10分間混和した。
【0227】
上清を除去し、固定用緩衝液で3回洗浄後、エクソソーム結合用緩衝液(10mM HEPES[4-(2-HydroxyEthyl)-1-PiperazineEthaneSulfonic acid]、pH7.3)で1回洗浄し、PKCαC2ドメイン構造体を固定化した担体を作製した。
【0228】
コントロールとして、PKCαC2ドメイン構造体と結合していないビオチン標識固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyTおよび(BC2LCNm2)-3SpyTを、同様な方法でそれぞれ磁性微粒子に固定化し、ビオチン標識固定化補助タンパク質3SpyT-Biotin(表12の比較例6の条件c)および3SpyT_BC2LCNm2-Biotin(表12の比較例6の条件d)固定化担体を作製した。
【0229】
[3]細胞外小胞溶液の調製
前立腺がん細胞株(PC3細胞)を、ウシ胎児血清(FBS)を15%添加したHam’s F-12K培地(富士フイルム和光純薬製)を用いて37℃で培養した。培養したPC3細胞を2.5×105cells/mLとなるようHam’s F-12K培地で懸濁後、6ウェルプレートに2mL/ウェルで播種、懸濁し、さらに3日間培養した。
【0230】
培養後、培養上清を全量(約2mL)回収し、300×Gで10分間、室温で遠心分離して浮遊細胞を除去後、上清1.5mLを回収した。回収した上清をさらに3000×Gで10分間、4℃で遠心分離して細胞デブリを除去後、上清1.2mLを回収し、さらに16000×Gで60分間、4℃で遠心分離し、上清1mLを別のチューブに移した。
【0231】
別のチューブに移した上清1mLとPBS(Phosphate buffered saline)1mLとを混合し、259000×Gで70分間、4℃で超遠心分離し、上清1.8mLを除去した。残った沈殿物をPBS1.8mLで懸濁し、259000×G、70分間、4℃で超遠心分離して洗浄後、上清1.8mLを除去し、残った沈殿物を含む0.2mLを細胞外小胞溶液とした。
【0232】
[4]細胞外小胞の分離
上記[2]で作製したPKCαC2ドメイン構造体固定化担体(表12の実施例17の条件a、b)ならびに比較例6の固定化補助タンパク質固定化担体(表12の比較例6の条件c、d)をそれぞれ入れた容器に、上記[3]で作製した細胞外小胞溶液20μLを添加後、当該容器を10℃で3時間、振とうした。振とう後に7.5μLの上清を採取し、これを「上清液」とした。
【0233】
残りの上清も除去した後、TBS-T緩衝液で2回洗浄した。7.5μLの5%(w/v)EDTA水溶液を添加し、ボルテックスミキサーで激しく撹拌した後、7.5μLの上清を採取し、これを「EDTA溶出液」とした。
【0234】
残りの上清も除去した後、7.5μLの2%(w/v)SDS水溶液を添加し、再度ボルテックスミキサーで撹拌し、7.5μLの2×sample buffer(DTT非含有)(ATTO社製)を添加後、全量を回収し、これを「SDS溶出液」とした。
【0235】
上清液およびEDTA溶出液、SDS溶出液を熱処理後、電気泳動用ポリアクリルアミドゲル(e-PAGEL E-R520L、ATTO製)を用いて電気泳動を行ない、(4)[4-4]と同様にしてウェスタンブロッティングを行なった。ただし、細胞外小胞の検出抗体は抗CD9マウス抗体を1次抗体とし、HRP標識抗マウス抗体を2次抗体とした。
【0236】
実施例17および比較例6の固定化担体による細胞外小胞分離の結果を
図11に示す。
【0237】
実施例17のビオチン標識3量体PKCαC2ドメイン構造体rPKCaC2/3SpyT-Biotinを固定化した複合脂質結合性担体(表12の実施例17の条件a)からキレート剤であるEDTAを含むEDTA溶出液で細胞外小胞の溶出を行なったとき(レーン番号5)、細胞外小胞溶液中に含まれる細胞外小胞(レーン番号4)に相当する明瞭なバンドが確認されたことから、実施例17の複合脂質結合性担体は細胞外小胞溶液中に含まれる細胞外小胞を吸着したことが示された。さらに、上記複合脂質結合性担体からEDTAにより細胞外小胞を含む溶出液を溶出した後に続けて変性剤であるSDSを含むSDS溶出液で担体表面の吸着タンパク質の溶出を行なったとき(レーン番号6)の細胞外小胞に相当するバンドがほぼ確認できないことから、複合脂質結合性担体に吸着した細胞外小胞の多くはEDTAにより回収できることが示された。
【0238】
一方、コントロールとして作製した、ビオチン標識固定化補助タンパク質3SpyT-Biotinのみを固定化した担体(表12の比較例6の条件c)で細胞分離を行なったとき、EDTA溶出液(レーン番号2)およびSDS溶出液(レーン番号3)には細胞外小胞溶液中に含まれる細胞外小胞(レーン番号1)に相当するバンドがほぼ確認できないことから、細胞外小胞が、使用した不溶性担体および3SpyT-Biotinへの非特異的吸着をしないことわかる。
【0239】
実施例17のビオチン標識9量体PKCαC2ドメイン構造体rPKCaC2/3SpyT_BC2LCNm2-Biotinを固定化した複合脂質結合性担体(表12の実施例17の条件b)およびそのコントロールである固定化補助タンパク質のみを固定化した担体(表12の比較例6の条件d)も、前記3量体PKCαC2ドメイン構造体と同様の結果であった。9量体PKCαC2ドメイン構造体固定化担体のEDTA溶出液(レーン番号11)のバンドのシグナル強度は上清液(レーン番号10)およびSDS溶出液(レーン番号12)と比較して顕著に強く、9量体PKCαC2ドメイン構造体固定化担体に細胞外小胞が吸着し、その多くがEDTAにより回収されたことが示された。
【0240】
一方、コントロールとして作製した、ビオチン標識固定化補助タンパク質3SpyT_BC2LCNm2-Biotinのみを固定化した担体(表12の比較例6の条件d)で細胞分離を行なったとき、EDTA溶出液(レーン番号8)でバンドがあり、これは3量体PKCαC2ドメイン構造体用のコントロールを固定化した担体(比較例6の条件c、レーン番号2)と比較してシグナル強度が強いことから、3SpyT_BC2LCNm2-Biotinを固定化した担体では若干の非特異的吸着が起きていることが示唆された。しかし吸着した細胞外小胞量はPKCのC2ドメインを含む担体(表12の実施例17の条件b)の方が多いことから、9量体PKCαC2ドメイン構造体を固定した複合脂質結合性担体においても、細胞外小胞を吸着、回収できることが明らかとなった。
【0241】
[実施例18] 固定化補助タンパク質を含む複合脂質結合性担体による細胞培養上清からの細胞外小胞の単離
[1]固定化補助タンパク質とタンパク質リン酸化酵素のC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質の構造体およびその固定化担体
実施例17[1]および[2]と同様にして、リン酸化酵素C2ドメイン構造体PKCaC2/3SpyT(表12の実施例17の条件a)および固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyT(表12の比較例6の条件c)を作製した。
【0242】
[2]PKCαC2ドメイン構造体PKCaC2/3SpyT-Biotinの不溶性担体への固定化
不溶性担体として、ストレプトアビジン固定化磁性微粒子であるMagnoshere MS300/Streptavidin(JSR Life Sciences製)を用い、当該磁性微粒子のスラリー溶液(微粒子含有率1%(w/v))100μLを採取し、上清を除去した。上清を除去した磁性微粒子を、2mM CaCl2を含む固定用緩衝液(0.5mM EDTA、1M NaClおよび0.05%(w/v)Tween 20(商品名)を含む10mM Tris-HCl(pH7.4))で洗浄した。
【0243】
あらかじめ限外ろ過膜などを用いてCaCl2を含む固定用緩衝液に置換した[1]で作製したPKCαC2ドメイン構造体rPKCaC2/3SpyT-Biotin(表12の実施例17の条件a)の溶液を、固定化補助タンパク質の濃度に換算して0.1mg/mL以上の濃度に調整後、前記の洗浄した磁性微粒子に、固定化補助タンパク質量に換算して4.5μg添加し、室温で10分間混和した。
【0244】
上清を除去し、2mM CaCl2を含む固定用緩衝液で3回洗浄後、2mMのCaCl2を含むTBS-T緩衝液で1回洗浄し、PKCαC2ドメイン構造体ドメイン構造体PKCaC2/3SpyT-Biotin固定化担体を作製した。
【0245】
コントロールとして、PKCαのC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質と結合していないビオチン標識固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyTを同様な方法で磁性微粒子に固定化し、ビオチン標識固定化補助タンパク質3SpyT―Biotin固定化担体(表12の比較例6の条件c)を作製した。
【0246】
[3]細胞培養上清の調製
前立腺がん細胞株(PC3細胞)を、ウシ胎児血清(FBS)を15%添加したHam’s F-12K培地(富士フイルム和光純薬製)を用いて37℃で培養した。培養したPC3細胞を、15%(v/v)のFBS(あらかじめ限外濾過膜処理によりエクソソームを除去済)を含むHam’s F-12K培地で2日間培養後、培養上清を回収した。
【0247】
回収した培養上清を300×Gで10分間、室温で遠心分離して浮遊細胞を除去後、上清を回収した。さらに1200×Gで20分間、4℃で遠心分離して細胞デブリを除去後、上清を回収した。回収した上清をさらに10000×Gで30分間、4℃で遠心分離して粒径の大きい細胞外小胞を除去後、上清1.2mLを回収し、さら16000×Gで60分間、4℃で遠心分離し、上清を回収し、これを細胞培養上清とした。
【0248】
[4]細胞外小胞の分離
上記[2]で作製したPKCαC2ドメイン構造体PKCaC2/3SpyT固定化担体ならびに固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyTを固定化した担体をそれぞれ入れた容器に、上記[3]で作製した1mLの細胞培養上清に2mM CaCl2を添加したものを入れ、当該容器を10℃で3時間、振とうした。振とう後に7.5μLの上清を採取し、これを「上清液」とした。
【0249】
残りの上清も除去した後、2mM CaCl2を含むTBS-T緩衝液で2回洗浄した。7.5μLの5%(w/v)EDTA(Sodium Dodecyl Sulfate)水溶液を添加し、ボルテックスミキサーで激しく撹拌した後、7.5μLの上清を採取し、これを「EDTA溶出液」とした。
【0250】
残りの上清も除去した後、7.5μLの2%(w/v)SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)水溶液を添加し、再度ボルテックスミキサーで撹拌し、7.5μLの2×sample buffer(DTT非含有)(ATTO製)を添加後、全量を回収し、これを「SDS溶出液」とした。
【0251】
上清液およびEDTA溶出液、SDS溶出液および細胞外小胞標品として実施例17[3]で作製した細胞外小胞溶液および[3]で作製した細胞培養上清を熱処理後、実施例17[4]と同様にして、電気泳動およびウェスタンブロッティング、抗体による細胞外小胞の検出を行なった。
【0252】
PKCαC2ドメイン構造体PKCaC2/3SpyT-Biotinを固定化した複合脂質結合性担体(表12の実施例17の条件a)および比較例6の固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyT固定化担体(表12の比較例6の条件c)による細胞外小胞分離の結果を
図12に示す。
【0253】
rPKCaC2/3SpyT-Biotinを固定化した複合脂質結合性担体(表12の実施例17の条件a)(表12の実施例17の条件a)からキレート剤であるEDTAを含むEDTA溶出液(レーン番号3)で細胞外小胞の溶出を行なったとき、細胞外小胞(
図8のレーン0)に相当する明瞭なバンドが確認されたことから、キレート剤で処理することにより、PKCαC2ドメインを含む複合脂質結合性担体に吸着した細胞外小胞を回収できることが明らかとなった。また、細胞培養上清(レーン番号1)に含まれる細胞外小胞のバンドと比較し顕著にシグナル強度が強いことから、細胞培養上清中に含まれる細胞外小胞を前記複合脂質結合性担体上に選択的に濃縮できることが示唆される。さらに、上前記複合脂質結合性担体からEDTAにより細胞外小胞を含む溶出液を得た後に続けて変性剤であるSDSを含むSDS溶出液(レーン番号5)で担体表面の吸着タンパク質の溶出を行なったとき、細胞外小胞に相当するバンドはEDTA溶出液と比較し薄いことから、複合脂質結合性担体に吸着した細胞外小胞の多くはEDTAにより回収できることが示された。
【0254】
一方、3SpyT-Biotinのみを固定化した担体(表12の比較例6の条件c)で細胞分離を行なったとき、EDTA溶出液(レーン番号2)およびSDS溶出液(レーン番号4)の細胞外小胞に相当するバンドは確認できるが、前記複合脂質結合性担体を用いた場合(EDTA溶出液:レーン番号3、SDS溶出液:レーン番号4)と比較し薄いことから、細胞外小胞は使用した不溶性担体およびそれに固定化した固定化補助タンパク質へ若干の吸着をするものの、その量はPKCαのC2ドメインのアミノ酸配列を含む組換えタンパク質を固定化した担体と比較しごく少ないことが示された。