(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099500
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20220628BHJP
G02B 6/30 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213293
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】釘本 有紀
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
(72)【発明者】
【氏名】高野 真悟
【テーマコード(参考)】
2H137
2K102
【Fターム(参考)】
2H137AA05
2H137AB08
2H137BA36
2H137BA52
2H137BA54
2H137BA58
2H137BC01
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA18
2K102CA21
2K102DA05
2K102DB08
2K102DC05
2K102DD04
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA21
2K102EB16
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】
光導波路素子の小型化を図りながら、光ファイバ等との結合に係る挿入損失を抑制できると共に、光耐性、熱耐性、又は製造効率が高いSSC構造を有する光導波路素子を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路10を有する光導波路基板1と、前記リブ型の光導波路の入力端又は出力端が形成された位置に、該光導波路基板に重ねて配置固定される保持部材2を備えた光導波路素子において、該保持部材の前記リブ型の光導波路に対向する面には、前記リブ型の光導波路よりもモードフィールド径の大きい他の光導波路20が形成されており、該光導波路基板と該保持部材とは接着層30を介して接合されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路を有する光導波路基板と、前記リブ型の光導波路の入力端又は出力端が形成された位置に、該光導波路基板に重ねて配置固定される保持部材を備えた光導波路素子において、
該保持部材の前記リブ型の光導波路に対向する面には、前記リブ型の光導波路よりもモードフィールド径の大きい他の光導波路が形成されており、
該光導波路基板と該保持部材とは接着層を介して接合されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該光導波路素子を平面視した際に、前記リブ型の光導波路の端部は、該保持部材の内側に位置していることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、前記リブ型の光導波路の端部は、先端に向かって先細りとなっていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子において、該保持部材に形成された光導波路のモードフィールド径は3μm以上であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路素子において、前記リブ型の光導波路の屈折率は、該保持部材に形成された光導波路のコア層の屈折率よりも大きいことを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該接着層は、無機材料で構成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の光導波路素子において、該接着層の厚みは、前記リブ型の光導波路の高さと同じに設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光導波路素子において、前記リブ型の光導波路は、ニオブ酸リチウムの結晶で形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の光導波路素子において、該保持部材に形成される光導波路のコア層には、SiO2を含んでいることを特徴とする光導波路素子。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の光導波路素子は筐体内に収容され、該保持部材に形成された光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子は該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を備え、該光導波路素子の変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関し、特に、電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路を有する光導波路基板と、前記リブ型の光導波路の入力端又は出力端が形成された位置に、該光導波路基板に重ねて配置される保持部材を備えた光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信分野における情報量の増大に伴い、長距離伝送の光通信だけでなく、都市間やデータセンター間に用いている光通信の高速化、大容量化が望まれている。しかも、基地局のスペースによる制限もあることから、光変調器の広帯域化や低駆動電圧化、さらには小型化に対するニーズが高くなっている。
【0003】
特に、光変調器の小型化には、光導波路の光閉じ込め効果を強くすることで、光導波路の曲げ半径を小さくし、例えば、光導波路素子に入射する光波と出射する光波の方向を90度又は180度曲げるなど、小型化に適した光変調器を作製することができる。このような光閉じ込めを強め、導波光の曲げ損失を小さくするには、例えば、伝搬する光波のモードフィールド径(MFD)を3μm以下に設定するなど、光導波路の微細化が有効である。
【0004】
電気光学効果を有するLiNbO3(以下、LN)は、電気信号を光信号に変換する際に、歪みが少なく、光損失が低いことから、長距離向け光変調器として用いられているが、従来の光導波路のMFDは10μm程度であり、曲げ半径は数10mmと大きいことから、小型化が困難であった。しかしながら、近年では、研磨技術、貼り合わせ技術の向上によりLN薄板化が可能となり、MFDが1μm程度のLN光導波路素子の研究開発が進んでいる。
【0005】
一方、光ファイバのMFDは10μm程度であり、1μmよりも小さいMFDを有する微細光導波路を含む光導波路素子においては、両者のMFDは10倍もの差があるため、結合部分での結合損が非常に大きくなるという問題を生じる。素子端部にMFDを拡大させるレンズを取り付ける方法等があるが、1μmから10μmへMFDを10倍程度も変換するレンズは、設計上不可能であり、レンズで変換させるためには少なくとも素子端部におけるMFDは3μm以上である必要がある。
【0006】
光導波路素子上の入出射部付近において、光導波路の形状を変化させてスポットサイズコンバータ(SSC)構造を作りこみ、素子内で3μm程度までMFDを拡大し、素子と光ファイバとの結合部にはレンズを取り付け、さらに10μmのMFDまで変換することも可能である。一般的なSSCは、特許文献1乃至3に示すように、光導波路の端部に向かって、二次元的または三次元的に光導波路の幅や厚みを拡大するテーパー型が用いられる。この方法のメリットは、デザインが簡易であることが挙げられるが、光導波路を広げることで、マルチモードを誘起してしまうことから、使用可能なデザインに制限があり、光導波路素子には向いていない。
【0007】
また、光導波路素子上の入出射部付近に、光導波路とは別の材料を用い、素子上の入出射部にコア/クラッドの屈折率差が比較的小さいスポットサイズコンバータ(SSC)構造を作りこむことで、マルチモードの誘起を抑制しながら素子内で3μm程度までMFDを拡大することが可能である。しかしながら、SSC構成材料が有機物である場合には、光耐性や熱耐性等の信頼性に課題があり、しかも、光導波路基板上で別の材料によりSSC構造を形成することになるため、工程が複雑化し、工数や歩留にも課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2012/042708号
【特許文献2】国際公開WO2013/146818号
【特許文献3】特許第6369036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、光導波路素子の小型化を図りながら、光ファイバ等との結合に係る挿入損失を抑制できると共に、光耐性、熱耐性、又は製造効率が高いSSC構造を有する光導波路素子を提供することである。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイス並びに光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置は、以下の技術的特徴を有する。
【0011】
(1) 電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路を有する光導波路基板と、前記リブ型の光導波路の入力端又は出力端が形成された位置に、該光導波路基板に重ねて配置固定される保持部材を備えた光導波路素子において、該保持部材の前記リブ型の光導波路に対向する面には、前記リブ型の光導波路よりもモードフィールド径の大きい他の光導波路が形成されており、該光導波路基板と該保持部材とは接着層を介して接合されていることを特徴とする。
【0012】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該光導波路素子を平面視した際に、前記リブ型の光導波路の端部は、該保持部材の内側に位置していることを特徴とする。
【0013】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、前記リブ型の光導波路の端部は、先端に向かって先細りとなっていることを特徴とする。
【0014】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路素子において、該保持部材に形成された光導波路のモードフィールド径は3μm以上であることを特徴とする。
【0015】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光導波路素子において、前記リブ型の光導波路の屈折率は、該保持部材に形成された光導波路のコア層の屈折率よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
(6) 上記(1)乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該接着層は、無機材料で構成されていることを特徴とする。
【0017】
(7) 上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の光導波路素子において、該接着層の厚みは、前記リブ型の光導波路の高さと同じに設定されていることを特徴とする。
【0018】
(8) 上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の光導波路素子において、前記リブ型の光導波路は、ニオブ酸リチウムの結晶で形成されていることを特徴とする。
【0019】
(9) 上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の光導波路素子において、該保持部材に形成される光導波路のコア層には、SiO2を含んでいることを特徴とする。
【0020】
(10) 上記(1)乃至(9)いずれかに記載の光導波路素子は筐体内に収容され、該保持部材に形成された光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイスである。
【0021】
(11) 上記(10)に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子は該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を備え、該光導波路素子の変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0022】
(12) 上記(10)又は(11)に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路を有する光導波路基板と、前記リブ型の光導波路の入力端又は出力端が形成された位置に、該光導波路基板に重ねて配置固定される保持部材を備えた光導波路素子において、該保持部材の該光導波路に対向する面には、前記リブ型の光導波路よりもモードフィールド径の大きい他の光導波路が形成されており、該光導波路基板と該保持部材とは接着層を介して接合されているため、SSC構造を備えた光導波路素子が提供できる。しかも、当該SSC構造を組み込む際の製造工程が簡便であり、無機材料を利用したSSC構造にも適するため、SSC構造自体の光耐性や熱耐性も高めることができる。さらには、この優れた効果を備えた光導波路素子を用いた光変調デバイス並びに光送信装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の光導波路素子の構成の概略を示す斜視図である。
【
図2】本発明の光導波路素子の一例を示す、光導波路に沿った断面図である。
【
図3】
図2の光導波路素子を平面視した場合の各部材の配置を示す平面図である。
【
図4】本発明の光導波路素子に使用される光導波路基板の例を示す図である。
【
図5】本発明の光導波路素子に使用される保持部材の例を示す図である。
【
図6】本発明の光導波路素子における、光導波路基板上の光導波路と保持部材等との配置関係を説明する図である。
【
図7】本発明の光導波路素子の他の例を示す、(a)断面図、(b)平面図である。
【
図8】本発明の光導波路素子に対する比較例を示す、(a)断面図、(b)平面図である。
【
図9】本発明の光変調デバイス及び光送信装置を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
なお、以下の説明では、光導波路の端部の構造は、出力端を中心に説明するが、入力端であっても同様に構成できることは言うまでもない。
本発明の光導波路素子は、
図1乃至3に示すように、電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路10を有する光導波路基板1と、前記リブ型の光導波路の入力端又は出力端が形成された位置に、該光導波路基板に重ねて配置固定される保持部材2を備えた光導波路素子において、該保持部材の前記リブ型の光導波路に対向する面には、前記リブ型の光導波路よりもモードフィールド径の大きい他の光導波路20が形成されており、該光導波路基板と該保持部材とは接着層30を介して接合されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の光導波路素子に使用される光導波路を構成する材料としては、電気光学効果を有する強誘電体材料、具体的には、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの材料によるエピタキシャル膜などが利用可能である。また、半導体材料や有機材料など種々の材料も光導波路素子の基板として利用可能である。
【0027】
本発明で使用される光導波路10の厚みH1は、1μm以下の極めて細いものであり、LNなどの結晶基板を機械的に研磨して薄板化する方法や、LNなどのエピタキシャル膜を使用する方法がある。エピタキシャル膜の場合には、例えば、SiO2基板、サファイア単結晶基板やシリコン単結晶基板など、単結晶基板の結晶方位に合わせて、エピタキシャル膜を、スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法などで形成する。
【0028】
図4に光導波路基板の一例を示す。
図4(a)のように、光導波路10を含む導波層11の厚みが薄いため、光導波路素子の機械的強度を高めるため、導波層11の裏面側には、補強基板12が配置される。補強基板12は、SiO
2基板などのように、導波層11(光導波路10)より低屈折率の材料が好ましい。補強基板12の材料としてSi基板など導波層11(光導波路10)よりも高屈折率の材料を用いる場合には、補強基板12と導波層11(光導波路10)の層間に、導波層11(光導波路10)よりも低屈折率の材料による中間層を形成し、導波光が導波層11(光導波路10)に十分に閉じ込められるようにすることが必要である。また、導波層11と補強基板12とは直接接合や接着剤を用いて接合する方法も利用可能である。さらに、
図4(b)に示すように、補強基板12を結晶成長の土台として使用し、エピタキシャル膜の光導波路10を構成する層を設けることも可能である。
【0029】
光導波路10を構成するリブ型の突起の形成方法は、光導波路を形成する層(例えばLN層)を、ドライ又はウェットエッチングすることで形成することができる。また、リブ部の屈折率を高めるため、リブ部の位置にTiなどの高屈折率材料を熱拡散する方法も併せて使用することも可能である。
【0030】
本発明の光導波路素子の主な特徴は、
図1乃至3に示すように、光導波路基板1に貼り合わせる保持部材に、光導波路基板1の光導波路10よりもモードフィールド径の大きい別の光導波路20を設け、SSC機能を付与することである。
図1は、光導波路基板1と保持部材2とを接着層30で接合する前の状態を示す斜視図であり、
図2は、両者を接合した状態を示す、光導波路10に沿った断面図である。
図3は、
図2の平面視した図であり、光導波路基板1の光導波路10、保持部材2の光導波路(コア層)20、さらに接着層30の配置関係が明確にわかるように、透視図のように描かれている。後述する
図7の(a)と(b)、
図8の(a)と(b)も同様である。
【0031】
通常、光導波路基板1の光波の入出力部がある基板端面に沿って、保持部材2が光導波路基板上に重ね合わされて、接合されている。これは、基板の端面側の機械的強度を上げるだけでなく、基板端面にレンズや光ファイバを接合し易くするためである。なお、
図2及び
図3の白抜き矢印Aの位置にレンズ又は光ファイバが接合される。
本発明は、この保持部材にSSC構造を組み込むことにより、光導波路基板1に保持部材2を貼り合わせる作業だけで、容易にSSC機能付き光導波路素子を実現するものである。
【0032】
図1乃至3に示すように、SSC構造の一部を担う光導波路基板1には、上述したリブ型の光導波路10が形成され、光導波路の端部(入力端又は出力端)に向かって、先細りのテーパー形状となっている。光導波路10の端部の形状は、テーパー形状に限らず、後述するように、終端まで一定の幅W1×厚みH1とすることも可能であるが、発明者らが行った試験においては、先細の形状の方が光結合損失が低くなった。
図1のテーパー形状は、光導波路10の幅と厚みの両方を徐々に狭くする構成を採用しているが、勿論、一方のみを減少させる形状でも良い。
【0033】
保持部材2には、光導波路基板1との接合面側に、コア層(20)とクラッド層からなる光導波路20が形成されており、これがSSCとしての機能を有する。
各部における屈折率の関係は、各部の屈折率を以下のように定義すると、式1及び/又は式2の関係が成り立つ。
n1・・・光導波路基板1上のリブ型光導波路10の屈折率
n2・・・接着層30の屈折率
n3・・・保持部材に形成されたSSCのコア層の屈折率
n4・・・保持部材に形成されたSSCのクラッド層の屈折率
最低限の条件として、n1>n3>n4(式1)が満足される。
接着層の屈折率n2については、一般にn1>n2≧n3(式2)であり、n2とn3との屈折率差は、0~0.05程度が好ましい。また、接着層の厚みH3は1μm未満が好ましい。さらに、接着層には、SiO2と無機酸化物の混合物などの無機材料を用いる。なお、接着強度が不足している場合は、中間層を追加しても良い。特に、中間層の厚みが50nm未満であれば、中間層の屈折率は上式の限りではない。
【0034】
図5は、保持部材2を光波の進行方向から見た図であり、
図5(a)では、保持部材を構成する保持母材22上にコア層20とクラッド層21を形成したものである。この場合、保持母材22もクラッド層として機能する。
また、
図5(b)は、保持母材22の上にクラッド層23となる層を形成し、その上にコア層20及びクラッド層21を形成したものである。
さらに、コア層20の形状として幅W2及び厚みH2が一定の直方体を例示したが、これに限らず、例えば、幅W2又は厚みH2が、光波の入力端又は出力端に向かって徐々に広がる形状であっても良い。
保持母材やコア層及びクラッド層には、無機材料が使用され、コア層には、SiO
2を含むことが好ましい。保持部材を構成する材料としては、光導波路素子の温度特性向上の観点から、補強基板12と同一の材料、もしくは補強基板12と近い線膨張係数を有する材料が好適である。
【0035】
光導波路基板1の光導波路10は、W1≦1μm、H1≦1μmでMFDは1μm以下となっており、他方、保持部材の光導波路(コア層)20は、W2≧3μm、H2≧3μmでMFDは3μm以上となっている。
なお、保持部材の光導波路(コア層)20の最大MFDは7μm程度に設定することで、光導波路基板1の光導波路10と保持部材2の光導波路20との光結合損失が増加するのを抑制することが可能である
【0036】
図6は、光導波路基板1と保持部材2とを重ね合わせた際のリブ型光導波路10の配置を示したものである。点線Bの位置は光導波路10の先細りのテーパー形状が始まる位置であり、点線Eは光導波路10の先端位置である。最低限の条件として、点線Eの位置は、保持部材2の光導波路20の長さの範囲R内に位置することが好ましい。また、接着層30の端部位置Cは、保持部材の端部位置Dより、基板1の内側にはみ出す方が好ましい。なお、点線Bの位置は、点線Cより点線D側であっても、点線Dのさらに
図6の左側であっても良い。
なお、後述する実施例では、
図7に示すような、リブ型光導波路10が一定の幅及び厚みを維持し、保持部材2の途中で終端する場合も示している。
【実施例0037】
以下、実際に作成した光導波路素子の製造方法及び試験結果を説明する。
(保持持部材へのSSC用光導波路の形成)
保持母材であるSiO
2ガラス上に、火炎加水分解堆積法にて、任意の比率で四塩化ゲルマニウム(GeCl
4)とガラス原料ガス(SiCl
4)とを吹きつけ、GeO
2とSiO
2からなる硝材を5μm以上の厚みで形成し、これをSSC用光導波路の上部クラッド層(
図5(b)の符号23)とした。
【0038】
次に、同じくコア層としてGeCl
4量を変えることでクラッド層よりも屈折率が高くなるように調整した別の硝材を火炎加水分解堆積法により形成した。その後、リソグラフィ、反応性イオンエッチング等により、コア回路形成する。回路形成後に、コア上に上部クラッドと同じ方法で下部クラッド層をコア高さ以上の厚みで堆積する。そして、CMP(化学機械研磨)等によりコア層が表面に露出するまで研磨を行い、
図5の接合面S2を形成し、SSC機能付き保持部材を得た。
【0039】
GeO2とSiO2の比率を調整することで屈折率を変えた硝材A~F(表1参照)を用いて、4種類のSSC機能付き保持部材(表2参照)を作製した。なお、それぞれのコアサイズは、シミュレーション上、シングルモード光が導波できる最大サイズにて作製した。比較用として、SSC機能を作りこまない保持母材のみのものも準備した。
【0040】
【0041】
【0042】
(光導波路基板の形成)
光導波路基板は、
図4(a)に示すように、SiO
2ガラスからなる補強基板12上に直線のリブ型光導波路を形成したLN薄板11を貼り合わせたものを用いた。リブ型光導波路10は、1μm×1μmとした。この導波路のMFDは1μmであった。保持部材と接合する部分の光導波路10の形状については、
図1乃至3に示す通り、光導波路部分が結合端面に向かい先細形状となり、SSC機能付き保持部材2との接合部で先細部が消失する形状にした光導波路基板aと、
図7に示すように、SSC機能付き保持部材2との接合部までは同一形状で、接合部内でリブ型光導波路10が消失する光導波路基板bと、
図8に示すように、リブ型光導波路10が素子端面まで同じ形状を保った光導波路基板cの3種類を作製した。
【0043】
(光導波路基板とSSC機能付き保持部材との接合)
光導波路基板における保持部材と接合する部分に、表3に示す4種類の接着層を準備した。そのうち接着層(1)~(3)の3種類の材料を0.5μmの厚みで堆積し、CMP等によって表面を平滑化し、
図4(c)に示す接合面S1を有する光導波路基板1を得た。
図4(c)のように、接着層30の厚みを、リブ型の光導波路10の高さと同じに設定することで、接合面の平滑化を担保することが可能となる。
なお、表3の「硝材A」「硝材D」については、表1の該当する硝材を火炎加水分解堆積法で形成し、「Ta
20
5」の接着層については、スパッタリングによって形成した。
【0044】
その後、それぞれの加工を行った光導波路基板、及び保持基板を、接合面が所定の間隔を有した状態で向かい合うように接合チャンバに入れ、チャンバ内を真空状態にする。所定の真空度に到達した後、接合面(S1,S2)にArイオンビームを照射し、光導波路基板、保持基板における接合面側をそれぞれ活性化させる。その後、両基板を密着させることで基板同士を接合し、光導波路基板とSSC機能付き保持基板とを一体化させた。
【0045】
【0046】
(評価結果)
上記説明の方法で試作した「SSC機能付き保持部材」と「光導波路基板」を、表3の「接着層」を介して接合し、光導波路素子を試作した。各部材の組合せ及び光導波路素子の特性の評価結果については、表4に示す。特性評価においては、素子端面におけるMFDの測定と、20dBmの光を入れて85℃で2000hr保持した後のLoss差とで、評価した。
【0047】
【0048】
実施例1~7と比較例2及び3とを比較すると、MFDを拡大させるには、光導波路基板のリブ型光導波路10はSSC機能付き保持部材との接合面内で消失する必要があることがわかる。特に、光導波路素子の端面(例えば、光ファイバとの結合を行う端面)までリブ型光導波路10が伸びていた場合、光導波路を導波する光は保持部材のSSCに乗り移らず、SSC機能を発現させることが出来ない(比較例3参照)。
【0049】
また、リブ型光導波路はSSC機能付き保持部材との接合面内で消失すれば、先細形状の光導波路基板aでも、矩形の光導波路基板bでも、保持部材のSSC構造に光を乗り移らせ、MFDを拡大させることが出来る(特に、実施例1,2参照)。
ただし、光導波路基板bのような、リブ型光導波路10の端面での形状変化の大きい構造は、光導波路が消失する部分からSSCに光が乗り移る部分における結合損が大きくなるため、光導波路基板aのような緩やかな形状変化を有する構造が望ましい。なお、光導波路基板aの形状の場合、リブ型光導波路10はSSC機能付き保持部材と接合してから先細形状になっても良いし、接合前の段階から先細になっていても良い。
【0050】
以上のことからも、本発明の光導波路素子は、光導波路基板と保持部材とを接合するだけで、SSC構造を付与できるため、光導波路素子の製造ラインと別のラインで保持部材を製造ることが出来、製造工程を単純化でき製造効率を高めることが可能となる。
しかも、SSC構造を構成する材料は無機材料のみで構成することも可能であることから、光耐性や熱耐性も高い。
【0051】
次に、本発明の光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置について説明する。
上述した光導波路素子は、光導波路10を伝搬する光波を変調する変調電極を設け、
図9のように、筐体8内に収容される。さらに、光導波路に光波を入出力する光ファイバFを設けることで、光変調デバイスMDを構成することができる。
図9では、光ファイバは、筐体の側壁を貫通する貫通孔を介して筐体内に導入し、光導波路素子に直接接合されている。光導波路素子と光ファイバとは、空間光学系を介して光学的に接続することも可能である。
【0052】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光導波路素子に印加する変調信号は増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体8の外部に配置することも可能であるが、筐体8内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
以上説明したように、本発明によれば、光導波路素子の小型化を図りながら、光ファイバ等との結合に係る挿入損失を抑制できると共に、光耐性、熱耐性、又は製造効率が高いSSC構造を有する光導波路素子を提供することが可能となる。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイス並びに光送信装置を提供することが可能となる。