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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099512
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】水素燃焼触媒及び水素燃焼方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/42 20060101AFI20220628BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20220628BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20220628BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B01J23/42 M
B01J35/10 301J
B01J23/46 311M
B01J23/46 301M
B01J31/28 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213316
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】久保 仁志
(72)【発明者】
【氏名】原田 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】高根澤 豪紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】岩井 保則
(72)【発明者】
【氏名】枝尾 祐希
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE06B
4G169BE21B
4G169CD01
4G169DA05
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC02X
4G169EC02Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169ED01
4G169ED07
4G169EE01
4G169FA02
4G169FB04
4G169FB14
4G169FB27
4G169FB31
4G169FB44
4G169FB57
(57)【要約】
【課題】ヨウ素及び水素を含有するガスを処理する水素燃焼触媒について、従来以上の耐ヨウ素触媒被毒特性を有するものを提供する。
【解決手段】本発明は、無機酸化物からなる担体に、Rh、Pt、Ruのいずれかの貴金属又はこれらの合金からなる触媒金属粒子が担持されてなる水素燃焼触媒に関する。この水素燃焼触媒は、倍率30000倍で観察した場合において、3μm×3μmの視野範囲内で観察される粒径20nm以上200nm以下の前記触媒金属粒子の個数が20個以上となっている。本発明の水素燃焼触媒は、担体として、50質量%以上のα-アルミナを含む無機酸化物を適用することが好ましい。また、担体には、炭素数7以下の疎水性の低分子官能基が結合した状態にあることがより好ましい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物からなる担体に、Rh、Pt、Ruのいずれかの貴金属又はこれらの合金からなる触媒金属粒子が担持されてなる水素燃焼触媒において、
倍率30000倍で観察したとき、3μm×3μmの視野範囲内で観察される粒径20nm以上200nm以下の前記触媒金属粒子の個数が20個以上であることを特徴とする水素燃焼触媒。
【請求項2】
粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の粒子数を測定したとき、20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の合計粒子数が、粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の総粒子数に占める割合が1%以上である請求項1記載の水素燃焼触媒。
【請求項3】
粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の体積を測定したとき、20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の合計体積が、前記粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の総体積に占める割合が30%以上である請求項1記載の水素燃焼触媒。
【請求項4】
前記担体は、50質量%以上のα-アルミナを含む請求項1~請求項3のいずれかに記載の水素燃焼触媒。
【請求項5】
前記担体の比表面積が0.1m/g以上50m/g以下である請求項4記載の水素燃焼触媒。
【請求項6】
前記担体に、炭素数7以下の疎水性の低分子官能基が結合する請求項1~請求項5のいずれかに記載の水素燃焼触媒。
【請求項7】
前記疎水性の低分子官能基は、メチル基、エチル基である請求項6記載の水素燃焼触媒。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の水素燃焼触媒に水素含有ガスを通過させ、前記水素含有ガス中の水素を燃焼させる方法であって、
前記水素含有ガスは、0.01ppm以上のヨウ素を含むものであり、
反応温度を10℃以上300℃以下として水素を燃焼させる水素燃焼方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ヨウ素触媒被毒性に優れた水素燃焼触媒及び水素燃焼方法に関する。詳しくは、ヨウ素の触媒被毒による活性低下が従来以上に抑制された水素燃焼触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の原子力発電所においては、原子力事故が発生した際の原子炉建屋の水素爆発防止策として、水素燃焼装置(イグナイタ)の導入が実施又は検討されている。水素燃焼装置は、水素(同位体水素を含む)を酸化燃焼して水(水蒸気)に変化(再結合)させてガス中の水素濃度を低減させる機器であり、電源を必要としないことから、事故時の電源喪失状態にあっても有効な水素爆発防止策として期待されている。水素燃焼装置の主要構成は、触媒(水素燃焼触媒)が充填された触媒層(触媒プレート)である。この触媒層に使用される水素燃焼触媒としては、無機酸化物担体に触媒金属としてPt、Pd等の貴金属が担持された貴金属触媒が知られている。
【0003】
原子力発電所における原子力事故の中でも、特に重大なものとして懸念されているのが炉心溶融(メルトダウン)である。炉心溶融が発生すると、燃料棒被覆管(ジルコニウム合金等)と水・水蒸気との反応や、落下した溶融炉心とコンクリート等との反応により大量の水素が発生する。この大量発生した水素による水素爆発の危険が増大する。そのため、水素燃焼装置における水素燃焼触媒には、安定した触媒活性が要求される。
【0004】
ところで、炉心溶融が発生すると水素の大量発生と同時に、放射性ヨウ素の大量発生も予測されている。大量発生したヨウ素は、水素燃焼装置の触媒に対して触媒被毒として作用し、触媒の活性低下の要因となり得る。ヨウ素の触媒被毒による活性低下は不可逆的であり、反応温度を高温とした場合でも継続する。そのため、水素燃焼装置の運転条件(反応条件)の調整では対処できない。そこで、かかるヨウ素を含む水素含有ガスの処理においては、水素燃焼触媒に耐ヨウ素被毒性を具備させることが必要となる。
【0005】
本願出願人等は、上記した貴金属触媒粒子が担持された水素燃焼触媒について、耐ヨウ素被毒性を具備させたものとして特許文献1の水素燃焼触媒を開示している。この水素燃焼触媒は、触媒金属粒子としてPtとPdとを同時に担持し、更に、触媒に一定量の塩素を含有させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5780536号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来の耐ヨウ素被毒性を有する水素燃焼触媒は、ヨウ素及び水素を含むガスに対して、ヨウ素の影響を受け難く水素燃焼活性を発揮することができる。但し、炉心溶融等のシビアアクシデントが原子力発電所施設周辺に与える影響の重大性を考慮すると、より過酷な被毒環境を想定した対応が要求される。この点、上記従来の水素燃焼触媒でもヨウ素の触媒被毒が全く生じないわけではない。本発明者等の検討によれば、上記の水素燃焼触媒を高濃度のヨウ素を含むガスに暴露した場合には、触媒被毒によって失活が生じることが確認されている。
【0008】
本発明は、上記のような背景のもとになされたものであり、ヨウ素及び水素を含有するガスを処理する水素燃焼触媒において、耐ヨウ素触媒被毒特性が従来よりも優れており、良好な水素燃焼活性を維持し得るものを提供する。そして、かかる水素燃焼触媒を適用する水素燃焼方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決すべく、従来と同様、PtやRh等の貴金属を触媒金属粒子とした水素燃焼触媒を基礎としつつ、その製造プロセス及び触媒粒子の構成の見直しから検討を行った。その結果、触媒金属粒子を構成する貴金属種を特定の範囲に限定すると共に、触媒金属粒子を所定の粒径以上に粗大とすることで、耐ヨウ素触媒被毒性の向上がみられることを見出し本発明に想到した。
【0010】
即ち、本発明は、無機酸化物からなる担体に、Rh、Pt、Ruのいずれかの貴金属又はこれらの合金からなる触媒金属粒子が担持されてなる水素燃焼触媒において、前記水素燃焼触媒を倍率30000倍で観察したとき、3μm×3μmの視野範囲内で観察される粒径20nm以上200nm以下の前記触媒金属粒子の個数が20個以上であることを特徴とする水素燃焼触媒である。
【0011】
上記の通り、本発明に係る水素燃焼触媒は、所定の貴金属(Rh、Pt、Ru)からなる触媒金属粒子について、その粒径を意図的に粗大とすることを特徴とする。水素燃焼触媒に限らず一般的な触媒においては、数nm~10nm以下にまで微細化された触媒金属粒子を多く生成し、その割合を高くして微細粒子を分散することで活性点を増加させて触媒活性を確保している。本発明に係る水素燃焼触媒は、この一般的知見とは逆に、粒径20nm以上の粗大な触媒金属粒子を生成することで、耐ヨウ素被毒性を向上させつつ、触媒活性を維持している。20nm以上の粗大な触媒金属粒子において耐ヨウ素被毒性が向上する理由は、必ずしも明確ではない。この点に関し本発明者等は、粗大な触媒金属粒子は、ヨウ素分子の吸着が数nmサイズの触媒金属粒子よりも生じ難い状態、若しくはヨウ素分子の吸着が生じてもその影響を受け難い状態にあるためであると考察する。
【0012】
本発明に係る水素燃焼触媒について詳細に説明する。本発明に係る水素燃焼触媒は、基本的な構成は従来技術と同様、触媒金属粒子が無機酸化物担体に担持されることで構成される。以下、これらの構成について説明する。
【0013】
A.触媒金属粒子
A-1.触媒金属粒子の組成
本発明に係る水素燃焼触媒の触媒金属粒子は、Rh(ロジウム)、Pt(白金)、Ru(ルテニウム)のいずれかの貴金属又はこれらの合金からなる。本発明においては、触媒金属粒子の粒径制御によって耐ヨウ素被毒性を確保しているが、水素燃焼活性は、これらの貴金属のいずれか又は合金によって発揮される。触媒金属粒子は、これらの貴金属単独で構成することができる。この点、上記特許文献1記載の水素燃焼触媒のように、PtとPdの双方を担持することを前提する触媒とは相違する。但し、上記貴金属を2種以上担持しても良い。
【0014】
2種以上の貴金属を担持する場合、各貴金属からなる触媒金属粒子が独立して混在していても良いし、それら貴金属の合金からなる触媒金属粒子が存在していても良い。貴金属合金としては、Rh-Pt合金、Pt-Ru合金、Rh-Ru合金等が好ましい。これらの触媒金属粒子は、X線回折分析(XRD)等により、金属状態にあることが確認される。
【0015】
尚、本発明においては、貴金属の中でもPd(パラジウム)は触媒金属粒子の構成金属の対象外となる。Pdからなる触媒金属粒子は、水素燃焼活性は発揮し得るものの、20nm以上に粗大化することが困難である。そのため、耐ヨウ素触媒被毒性の確保が困難となる。よって、Pdが除外される点においても、本発明は上記特許文献1記載の水素燃焼触媒とは相違するものといえる。
【0016】
A-2.触媒金属粒子の粒径
A-2-1.粒径20nm以上200nm以下の触媒金属粒子
本発明に係る水素燃焼触媒においては、上記した貴金属で構成される触媒金属粒子として、粒径20nm以上200nm以下の粗大な触媒金属粒子の存在を必須とする。上述の通り、触媒活性(水素燃焼活性)を有しながら耐ヨウ素触媒被毒性を発揮し得るのは20nm以上の粗大な触媒粒子だからである。本発明で必須とされる粗大な触媒金属粒子としては、40nm以上及び50nm以上の触媒金属粒子を含んでいても良い。但し、200nmを超えても耐ヨウ素触媒被毒性を特段に向上させることはできない。また、200nmを超える粗大な触媒金属粒子の生成は困難である。
【0017】
そして、本発明に係る水素燃焼触媒の特定は、所定の観察条件における触媒金属粒子の個数(粒子数)によってなされる。具体的には、水素燃焼触媒を倍率30000倍で観察したとき、3μm×3μmの視野範囲内で観察可能な粒径20nm以上200nm以下の触媒金属粒子の個数が20個以上であることを要件とする。
【0018】
本発明の水素燃焼触媒を特定する手段として、倍率30000倍の観察結果を適用するのは、20nm以上の粗大な触媒金属粒子を広範囲で捕捉し計測するためである。この観察の具体的手段としては、SEM(走査型電子顕微鏡)による倍率30000倍の観察結果を適用するのが好ましい。SEM観察における30000倍という倍率は、比較的低倍率であり、10nm以下の微小粒子の捕捉・観察には不向きな設定である。しかし、本発明者等によれば、10nm以下の微小粒子は、耐ヨウ素触媒被毒性の観点からみればその存在を無視しても差し支えのない要素である。そこで、本発明は、低倍率でのSEM観察により、耐ヨウ素触媒被毒性を発揮し得る粒径20nm以上の触媒金属粒子の有無を広範囲で確認することとしている。
【0019】
本発明における水素燃焼触媒におけるSEM観察の詳細な手法は以下の通りである。SEM観察に使用されるSEM装置については、当然に限定はなされない。観察倍率は30000倍に設定するが、このときの加速電圧については、3KeV以上15keV以下とするのが好ましい。SEM観察においては、3μm×3μmの視野範囲の少なくとも中心近傍に触媒金属粒子が観察されるようにし、その上で視野範囲全域における触媒金属粒子を観察する。
【0020】
得られたSEM観察像から、触媒金属粒子の粒径と粒子数を測定する。本発明における触媒金属粒子の粒径の測定は、2軸平均法に基づく。2軸平均法では、粒子の長径(l)と短径(l)との平均((l+l)/2)によって、触媒金属粒子の粒径を算出する。ここで、本発明に係る水素燃焼触媒の触媒金属粒子の形状は、球形に近い粒子もあるが、楕円形や不定形の粒子も混在している。特に、本発明の水素燃焼触媒においては、アスペクト比が大きい棒状の粒子が観察されることがある。この棒状の触媒金属粒子は、複数の触媒金属粒子が触媒の製造過程で近接・融着して生成された触媒金属粒子である。触媒金属粒子の近接と融着は、特に、比表面積が小さい担体を適用することで生じる傾向がある。担体の比表面積が小さいと、触媒金属粒子間の粒子間距離が狭くなるため、触媒製造過程の熱処理により粒子が移動して融着し棒状の触媒金属粒子が生成されると考えられる。
【0021】
触媒金属粒子の個数のカウントについては、基本的に、2軸平均法により粒径が20nm以上となっている触媒金属粒子を1粒子とする。但し、上記の棒状の触媒金属粒子については、そのまま1粒子としてカウントすることは好ましくない。棒状の触媒金属粒子は、本来は複数の粒子からなるものであるので、これを1個の粒子とカウントしつつ粒径を測定すると、適切な粒径分布を得ることができないからである。
【0022】
そこで本発明では、触媒金属粒子の粒子数及び粒径の測定に際し、まず、各粒子の長径(l)と短径(l)との比であるアスペクト比(l/l)を確認する。そして、アスペクト比が2未満の触媒金属粒子は単一の触媒金属粒子として粒子数を1(個)とカウントする。そして、この触媒金属粒子の粒径は、長径と短径とから算出する。一方、アスペクト比が2以上である触媒金属粒子については、複数の触媒金属粒子で構成された粒子と判定し、長径を短径で除した数n(l/l:nは自然数であり1未満の端数は切り捨て)に分割し、粒子数をn個とカウントする。そして、分割された触媒金属粒子の粒径は、分割された長径(l/n)と短径とから算出する。以上の条件により、観察された触媒金属粒子の粒径及び個数を測定し、各粒径毎の粒子数を示す粒径分布を作成する。尚、この粒径分布の作成に際しては、算出された粒径値は端数処理(四捨五入等)して、10nm単位の粒径毎の粒子数を積算することが好ましい。
【0023】
以上のような詳細条件により、倍率30000倍のSEM観察における粒径20nm以上の触媒金属粒子の有無及び粒子数を得ることができる。本発明において、粒径20nm以上の触媒金属粒子の観察数について、20個以上とするのは、本発明者等による検討から良好な耐ヨウ素触媒被毒性においては20個以上の粗大粒子が生成されるからである。この観察される20nm以上の触媒金属粒子の個数については、40個以上が好ましく、60個以上がより好ましい。粒径20nm以上の触媒金属粒子の個数の上限については、制限されるべきではないが、製造の可能性の観点から200個以下とするのが好ましい。尚、本発明に係る水素燃焼触媒における、上記観察条件による触媒金属粒子の粒径分布においては、粒径20nm~30nmの触媒金属粒子の割合が比較的高い傾向がある。但し、より好適な耐ヨウ素触媒被毒性を示す触媒においては、粒径20nm~30nmの触媒金属粒子に加えて、これより粗大な粒径40nm、50nmの触媒金属粒子の生成も確認されている。
【0024】
尚、以上説明した倍率30000倍の観察結果において、粒径20nm未満の粒子が観察されていても良い。後述のとおり、本発明の水素燃焼触媒においても、粒径20nm未満の触媒金属粒子の存在は否定されないからである。但し、本発明におけるSEM観察においては、粒径20nm未満の触媒金属粒子の個数・粒径を測定する必要はない。
【0025】
A-2-2.粒径20nm未満の触媒金属粒子
以上の説明の通り、本発明に係る水素燃焼触媒は、粒径20nm以上の触媒金属粒子を備えることを必須とするが、粒径20nm未満、特に粒径1nm以上10nm以下の微細な触媒金属粒子の存在を否定するものではない。これらの微細な触媒金属粒子は、耐ヨウ素触媒被毒性が劣るだけであって、ヨウ素被毒による失活はしても、粒径20nm以上の触媒金属粒子の活性に悪影響を及ぼすことはないからである。また、製造プロセスで意図的に触媒金属粒子を粗大化しようとしても、微細粒子の生成を完全に抑制することはできない。よって、本発明では、粒径20nmの触媒金属粒子と共に、粒径20nm未満の触媒金属粒子を含み得る。
【0026】
粒径20nm未満の触媒金属粒子の特定においては、上述のSEM観察(倍率30000倍)では極めて困難である。そこで、粒径20nm未満の触媒金属粒子の特定に関しては、TEM(透過型電子顕微鏡)により検討するのが好ましい。この場合、TEM観察の倍率としては、500000倍以上2000000倍以下の倍率として微細粒子の有無や分布状態を観察することが好ましい。この高倍率観察の下では視野範囲は、0.4μm×0.6μm~0.08μm×0.12μmとなる。
【0027】
本発明に関し、耐ヨウ素触媒被毒性に乏しい粒径20nm未満の触媒金属粒子の粒子数は、それ自体はさほど意味のある要素ではない。但し、微細粒子の観察に際し、粒径20nm以上の粗大粒子の有無及び微細粒子との関係を評価することは、水素燃焼触媒の耐ヨウ素触媒被毒性の評価に有用である。
【0028】
本発明に係る水素燃焼触媒をTEMにより高倍率観察するとき、観察対象とする触媒金属粒子の粒径範囲は1nm以上30nm以下とするのが好ましい。上記したSEM観察(倍率30000倍)とは逆に、TEM観察では粗大粒子の観察には不適格である。TEM観察における粗大触媒金属粒子の有無やその多寡の確認には、20nm以上30nm以下の粒径の触媒金属粒子の観察で足りる。
【0029】
そして、本発明に係る水素燃焼触媒において、粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の粒子数を測定したとき、20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の合計粒子数が、粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の総粒子数に占める割合が1.0%以上であることが好ましい。この20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の個数基準の割合は、1.5%以上であるものがより好ましい。
【0030】
また、20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の割合は、触媒金属粒子の体積を基準としても評価することができる。即ち、本発明に係る水素燃焼触媒は、粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子のそれぞれの体積を測定したとき、20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の合計体積が、前記粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の総体積に占める割合が30%以上であることが好ましい。この20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の体積基準の割合は、50%以上がより好ましい。
【0031】
上述した従来の水素燃焼触媒(特許文献1)のような一般的な触媒においては、粒径10nm以下の微細な触媒金属粒子を主体とし、これより粗大な粒径20nm以上の触媒金属粒子の個数割合は極めて低い。本発明で好ましいとする粒径20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の個数割合は、この従来の水素燃焼触媒と明確に区別される。
【0032】
以上のTEMによる粒径20nm未満の微細粒子の観察においては、粒径及び粒子数の測定は、上述したSEM観察における観察条件を適用することが好ましい。粒径の測定では2軸平均法が適用できる。また、TEMによる高倍率観察でも、複数の触媒金属粒子の融着による棒状粒子がみられる可能性はあるが、その場合には上記した分割によって粒子数と粒径を算出できる。触媒金属粒子の体積は、粒子を球体近似して測定された粒径に基づき算出できる。そして、測定・算出した触媒金属粒子の粒子、粒径、体積によって、粒径20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の体積基準、粒子数基準の割合を得ることができる。
【0033】
B.無機酸化物担体
本発明に係る水素燃焼触媒において、担体として無機酸化物を適用するのは、触媒層内で反応熱による局所的加熱が生じた場合でも着火の危険性がなく、また、放射性物質による放射線損傷のおそれがないからである。また、無機酸化物担体は、各種触媒の担体としての使用例が多く、コスト面や触媒製造時におけるハンドリング性に優れている。尚、従来の水素燃焼触媒においては、担体としてスチレンジビニルベンゼン共重合体(SDB)等の疎水性樹脂を使用する例があるが、本発明では耐久性の観点から樹脂担体の適用はない。樹脂製の担体は、熱及び放射線に弱く反応層内での反応熱による燃焼損傷や、放射線環境での劣化の恐れがあるからである。
【0034】
B-1.担体の組成
担体となる無機酸化物としては、酸化アルミニウム(Al23)であるアルミナ(α-アルミナ、γ-アルミナ)、酸化ケイ素(SiO:シリカ)、多孔性結晶性アルミノケイ酸塩(Mn+ x/nAlSi2x+2y x-・zHO:ゼオライト)、酸化ジルコニウム(ZrO:ジルコニア)、酸化チタニウム(TiO:チタニア)等の無機酸化物が挙げられる。これらの無機酸化物は、従来から触媒担体として利用されており、多孔性、耐熱性に優れている。本発明では、前記の無機酸化物を単独又は混合して使用できる。本発明で特に好ましい無機酸化物担体は、α-アルミナを含む無機酸化物である。α-アルミナを含む無機酸化物を担体とするとき、α-アルミナの含有量は、担体全体の質量に対して50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。この場合、α-アルミナ以外の無機酸化物としては、上記の無機酸化物が挙げられる。例えば、本発明者等の検討によれば、結晶性の高いα-アルミナを含む無機酸化物担体としては、シリカとα-アルミナの混合物が挙げられる。こうしたα-アルミナを含む無機酸化物担体は、α-アルミナ粉末と他の無機酸化物の粉末とを混合処理して形成することができる。また、α-アルミナ粉末或いはα-アルミナ粉末担体に触媒金属粒子を担持した後に、他の無機酸化物を含む溶液を添加しても良い。具体的には、後述する触媒の疎水化処理の一例としては、α-アルミナ粉末担体に触媒金属粒子を担持した後にシランカップリング剤を添加している。この処理によってシランカップリング剤由来のシリカが担体に含まれることとなる。このような担体を有する触媒も、本発明の好適な態様となる。そして、このような場合においては、α-アルミナの含有量が50質量%以上であることが好ましい。
【0035】
B-2.担体の比表面積
上記無機酸化物担体は、比表面積として50m/g以下であることが好ましい。本発明では、粒径20nm以上の触媒金属粒子が所定数以上生成されることが要求されている。後述のとおり、本発明に係る水素燃焼触媒では、含侵法で担持された触媒金属の塩を熱処理して触媒金属粒子とする。触媒金属粒子の粗大化のためには、熱処理の際に近接する触媒金属粒子の移動と結合が必要となる。担体の比表面積を小さくすることで、触媒金属粒子の粒子間距離が短くなることから、前記の移動・結合により触媒金属粒子の粗大化を促進することができる。担体の比表面積は、30m/g以下であることがより好ましい。また、担体の比表面積の下限値は0.1m/g以上とすることが好ましい。担体の比表面積が小さ過ぎると、触媒としての有効な活性面積が低下し、本来発揮すべき水素燃焼活性そのものが悪化するおそれがあるからである。尚、無機酸化物担体の比表面積は、Nガス等を適用したガス吸着法により測定可能であり、測定結果についてのBET多点法等による解析から比表面積の値を得ることができる。
【0036】
尚、無機酸化物担体の比表面積は、無機酸化物粒子の粒径と表面の細孔の状態によって定まる。そのため、本発明においては、無機酸化物担体の粒径は、0.1μm以上10μm以下とすることが好ましい。尚、上記の好適な比表面積を発現し易い無機酸化物担体としては、α-アルミナが挙げられる。よって、上記した担体全体の質量に対して50質量%以上100質量%以下のα-アルミナを含み、前記比表面積を有する無機酸化物が、特に好ましい担体となる。
【0037】
尚、無機酸化物担体の形状については特に限定されない。担体の形状としては、無機酸化物粒子を円筒形、球形のペレット状に成形したものが一般的である。また、ハニカム、網等の適宜の支持体に無機酸化物粒子をコーティングし、このコーティング層を担体とすることも一般に知られている。
【0038】
B-3.担体への疎水化処理
本発明に係る水素燃焼触媒においては、無機酸化物担体に疎水化処理が施されていることが好ましい。本発明の水素燃焼触媒が搭載される水素燃焼装置においては、大気中の水分(水ミスト、水蒸気)や水素燃焼反応により生じる水が触媒に接触するようになっている。これらの水分は触媒金属の活性サイトを覆い触媒活性の低下の要因となる。また、処理対象ガス中の水素とヨウ素との反応が生じることがあり、このときヨウ化水素(HI)が生成される。このヨウ化水素は、上記の水分と反応してヨウ化水素酸となる。ヨウ化水素酸は、無機酸化物担体を侵食して触媒の損傷を引き起こすこととなる。これらの理由から、水素燃焼触媒の無機酸化物担体は、効果的に水分を排出することができるよう疎水化されていることが好ましい。
【0039】
疎水化された無機酸化物担体としては、担体表面に炭素数1以上7以下の疎水性の低分子官能基が付与されているものが好ましい。疎水性の低分子官能基としては、アルキル基、ビニル基、エポキシ基、アクリル基等が挙げられる。低分子官能基の炭素数を1以上7以下とするのは、炭素数が7を超える官能基は、触媒が高温となったときに疎水性を失う傾向にあり、それによって触媒活性が低下するおそれがあるからである。疎水性の低分子官能基の好ましい具体例は、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。これらのアルキル基は、担体表面の極性を低下させる効果に優れ、担体からの水分子の排出を有効に進行させることができる。これらの官能基は少なくとも1種が担体に付与されていれば良いが、複数の官能基を有していても良い。
【0040】
尚、この疎水性の低分子官能基としては、水酸基(OH)は含まれない。上述した水素とヨウ素との反応により生じるヨウ化水素酸は、水酸基と反応することでヨウ化水素酸を生成することがあり、この場合も担体の侵食の恐れがあるからである。
【0041】
上述した無機酸化物担体を疎水化する低分子量の官能基は、無機酸化物表面に存在していると推定される。本発明の水素燃焼触媒において、疎水性官能基の存在を観察・確認する方法としては、触媒に赤外線を照射したときの赤外線吸収スペクトルを測定する等が挙げられる。赤外線吸収スペクトルの測定法としては、フーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)が周知である。この測定方法より疎水性官能基を含む触媒を分析するとき、2900~3000cm-1付近において赤外吸収ピークが観察され、これにより官能基の存在が確認できる。
【0042】
C.触媒金属粒子の担持量
以上説明した貴金属からなる触媒金属粒子を無機酸化物担体に担持するときの担持量は、触媒全体の質量を基準に0.1質量%~5.0質量%であるものが好ましい。この担持量は、触媒中の全ての貴金属の含有量であり、粒径20nm以上の触媒金属粒子を構成する貴金属の量だけでなく、粒径20nm以下の微細な触媒金属粒子を構成する貴金属の量も含む。
【0043】
尚、本発明に係る水素触媒をメタルハニカム等の支持体に塗布・積層して使用する場合、触媒金属の合計担持量は、構造体の体積当たり0.5~10g/Lに調整するのが好ましい。但し、この条件は、支持体に塗布された触媒の全体質量に対して、貴金属の担持量が0.1質量%~5.0質量%とすることが前提となる。
【0044】
D.本発明に係る水素燃焼触媒の製造方法
次に、本発明の水素燃焼触媒の製造方法について説明する。本発明に係る水素燃焼触媒は、基本的には従来の水素燃焼触媒と同様の方法で製造可能である。即ち、触媒金属粒子を構成する金属(Rh、Pt、Ru)の金属化合物の溶液を無機酸化物担体に接触・含浸させ、その後、熱処理により原子状金属を担持する方法による。そして、触媒の好ましい形態として、疎水性の低分子官能基を触媒に付与する。
【0045】
金属化合物溶液を無機酸化物担体に含浸させる工程において、使用される金属化合物としては、Rh化合物としては、塩化ロジウム、硝酸ロジウム等が好ましい。Pt化合物としては、塩化白金酸、ジアミンジニトロ白金、テトラアンミン白金ジクロライド、ヘキサアンミン白金テトラクロライド、塩化白金酸カリウム、塩化白金等の白金化合物が好ましい。そして、Ru化合物としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム等が好ましい。これらの金属化合物を溶液化する溶媒としては、水又はアルコール等の有機溶媒の他、水と有機溶媒との混合溶媒が使用できる。
【0046】
金属化合物溶液の金属化合物濃度は、触媒金属の担持量に応じて調整される。好ましくは、溶液の濃度は、0.04~15.5質量%とする。また、無機酸化物担体に金属化合物溶液を含浸させるとき、金属化合物溶液の液量を、無機酸化物担体の吸水量の60%~150%とすることが好ましい。吸水量に対して過剰量の液分を含侵させると、担体上における金属濃度にムラが生じ易くなる。金属濃度が不均一であると、粗大粒子が形成されない領域が生じて、製造後の触媒に均一な触媒活性を付与できなくなる可能性がある。そのため、含侵時の液量を制限することが好ましい。
【0047】
尚、複数の触媒金属粒子を担持する場合には、それぞれの金属化合物溶液を個別に吸着させても良く、その順序は問わない。また、各化合物溶液を混合した混合溶液を担体に吸着させても良い。溶液の吸着の方法は、溶液に担体を浸漬しても良いし、担体に溶液を滴下しても良い。
【0048】
上記金属化合物溶液を無機酸化物担体に含浸後は、熱処理により金属原子として触媒金属粒子を生成するが、本発明の水素燃焼触媒の製造にあっては、熱処理前に溶媒を蒸発・揮発させる乾燥処理を行うことが好ましい。そして、この乾燥処理では、粗大な触媒金属粒子(20nm以上100nm以下)を効果的に形成するため、乾燥条件を適切にすることが好ましい。
【0049】
熱処理前の乾燥処理の条件としては、含浸後の無機酸化物担体を50℃以上100℃以下の比較的低温とすることが好ましい。金属化合物溶液が含浸された無機酸化物担体を加熱して乾燥するとき、水分(溶媒)は、担体表面から一様に蒸発することはなく、担体表面の凹凸の角部等の蒸発し易い部分(乾燥点)から優先的に蒸発する。そして、乾燥点周囲の金属化合物溶液が、乾燥点付近に移動して乾燥するようになっている。この乾燥点における金属塩溶液の移動と乾燥とのサイクルによって、乾燥点付近に金属化合物が凝集する。乾燥温度を比較的低温とすることで、前記のサイクルの進行速度を調整して金属化合物の凝集を促し、粗大な触媒金属粒子を形成することができる。
【0050】
また、この乾燥処理においては、金属化合物溶液を含侵させた無機酸化物担体を振動、搖動、回転させた状態で加熱することがより好ましい。無機酸化物担体を静置状態ではなく運動状態の下で乾燥することで、上記した金属化合物の移動及び凝集を促進し、効果的に粗大な触媒金属粒子を形成する。尚、上記の比較的低温で行う乾燥処理において、乾燥処理の時間は1時間以上24時間以下とすることが好ましい。比較的低温で処理しつつ、溶媒を十分に蒸発・揮発させるためである。この乾燥処理では、金属化合物溶液を含侵させた無機酸化物担体を十分に乾燥させることが好ましい。具体的基準としては、含水させた乾燥処理前の無機酸化物担体に対して95%以上99.5%以下の重量減率を示すまで乾燥させることが好ましい。
【0051】
そして、乾燥処理後の金属化合物が担持された無機酸化物担体を熱処理することで、原子状金属が析出し触媒金属粒子が生成される。また、2種類以上金属原子が担持されたとき、この熱処理の過程で合金化が生じることもある。この熱処理条件については、熱処理温度として300~700℃が好ましい。300℃以上である理由は、担持した金属化合物を分解して触媒金属粒子とし、更に、その粒径を粗大化させるためである。また、700℃以上で熱処理すると、金属粒子が過剰に粗大化するおそれがある。熱処理時間としては、0.5~10時間とするのが好ましい。0.5時間未満では十分な触媒金属の生成がなさないからである。また、10時間以上の熱処理は、効果に差異がないため、触媒の製造効率及びエネルギーコスト等の面から好ましくないからである。
【0052】
また、この熱処理は適切な還元雰囲気の下で行うことが必要である。好適な熱処理雰囲気としては、水素を3~100体積%含み残部が不活性ガス(窒素、アルゴン等)である混合ガス雰囲気が挙げられる。この混合ガスについては、水素濃度が低過ぎる雰囲気では、金属化合物の分解が進行しにくいことから3体積%を水素濃度の下限としている。
【0053】
以上の熱処理により、本発明で規定した粗大な触媒金属粒子の割合の高い水素燃焼触媒とすることができる。そして、この水素燃焼触媒に疎水性の低分子官能基を付与することで、疎水化された水素燃焼触媒を得ることができる。
【0054】
触媒の疎水化処理では、炭素数7以下のアルキル基等の低分子官能基を末端に有する化合物の溶液に、上記で製造した水素燃焼触媒を浸漬する方法が好ましい。これにより、無機酸化物担体表面に官能基を付与できる。
【0055】
疎水化処理のための化合物としては、シラン無機質表面改質剤が好ましく、末端に低分子の疎水性官能基を有するシラン無機質表面改質剤として、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルクロロシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、トリプロピルクロロシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジクロロシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシランのいずれが好ましい。プロピル基を有する化合物は直鎖状のもののみならず、分岐状のものを含む。
【0056】
疎水化処理の具体的な方法としては、上記の官能基を含む化合物を溶媒に溶解させた溶液に触媒を浸漬する。その後、触媒を溶液から取り出し、適宜に洗浄、乾燥を行う。尚、本発明に係る水素燃焼触媒では、担体表面上の水酸基に全面的に置換されていることが好ましい。溶液中に混合する化合物の量は、各化合物に規定されている被覆面積(m/g)と、担体の重量(g)及び比表面積(m/g)から算出することができるが((担体重量×担体比表面積)/化合物の被覆面積)、概算で担体100gに対して1.0~100gの化合物が使用される。また、溶液(溶媒)の液量は、担体が全面的に漬かる程度とするのが好ましい。
【0057】
尚、上記のように、本発明においては、疎水化処理は水素燃焼触媒の製造後に(担体に触媒金属粒子を担持させた後に)行うことが好ましい。無機酸化物担体そのものに官能基を付与することは、触媒製造前の無機酸化物担体をシラン無機質表面改質剤等で処理することで可能である。しかし、本発明の触媒製造工程では、上記の通り、金属化合物が担持された無機酸化物担体を熱処理する際の温度として700℃までの温度を想定しており、400℃以上で熱処理をすることもある。かかる高温では疎水基がダメージを受けるおそれがあるので、疎水化処理は触媒の製造後に行うことが好ましい。
【0058】
E.本発明に係る水素燃焼触媒を用いた水素含有ガスの処理方法
以上説明した本発明に係る水素燃焼触媒は、ヨウ素を含む水素含有ガスを処理対象とする水素燃焼プロセスに好適である。この水素燃焼方法では、水素含有ガスを上記水素燃焼触媒に通過させるものであり、これにより水素含有ガス中の水素が燃焼される。本発明における反応温度としては、50~300℃が好ましい。また、本発明の水素燃焼触媒は、比較的低温下でも燃焼反応の継続が可能であるので、反応温度を50℃以下と比較的低温にしても水素燃焼反応を継続させることができる。
【0059】
そして、本発明の水素燃焼触媒は、耐ヨウ素触媒被毒性に優れており、ヨウ素濃度が0.01ppm以上の水素含有ガスに対して有効である。処理対象ガスのヨウ素濃度の上限については、30ppmのものであっても触媒被毒による活性低下が抑制されている。
【0060】
また、本発明に係る水素燃焼触媒は、疎水化処理を施すことで、水素燃焼反応による生成水及び雰囲気中の水による影響を抑制することができる。本発明の水素燃焼方法では、処理対象となる水素含有ガスが、その反応温度における飽和水蒸気量の相当する水分を含んでいても有効に処理可能である。
【発明の効果】
【0061】
以上で説明したように、本発明に係る水素燃焼触媒は、Rh、Pt、Ru及びこれらの合金からなる触媒金属の粒径分布として、粗大粒子(20nm以上100nm以下)の数の割合を高めたものである。これにより、本発明に係る水素燃焼触媒は、ヨウ素に対する耐触媒被毒性に優れており、活性を大きく低下させることなく継続的に水素燃焼することができる。また、本発明に係る触媒は、疎水性処理をすることで、水分による活性低下も抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本実施形態で使用したα-アルミナ担体の粒径分布を示す図。
図2】本実施形態の実施例2の水素燃焼触媒のSEM像(30000倍)と棒状粒子についての測定方法を説明する図。
図3】本実施形態の実施例1、2、4と比較例1、3の水素燃焼触媒のSEM観察像(30000倍)を示す写真。
図4】SEM観察(30000倍)により得られた本実施形態の実施例1、2、4と比較例1、3の水素燃焼触媒の触媒金属粒子の粒径分布を示す図。
図5】本実施形態の実施例1、2、4と比較例1、3の水素燃焼触媒のTEM観察像(500000倍)を示す写真。
図6】TEM観察(500000倍)により得られた本実施形態の実施例1、2、4と比較例1、3の水素燃焼触媒の触媒金属粒子の粒径分布(粒径-粒子数)を示す図。
図7】TEM観察(500000倍)により得られた本実施形態の実施例1、2、4と比較例1、3の水素燃焼触媒の触媒金属粒子の粒径分布(粒径-体積率)を示す図。
図8】本実施形態の実施例5、比較例1、3の水素燃焼触媒の赤外線吸収スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、本発明における最良の実施形態について説明する。本実施形態では、無機酸化物担体としてα-アルミナ、γ-アルミナを用い、これにRh、Pt、Ruを担持して水素燃焼触媒を製造した。また、製造した水素燃焼触媒について疎水化処理を行ったものも製造した。そして、各触媒について、ヨウ素の影響による水素燃焼活性を評価した。
【0064】
実施例1(Pt/α―Al :無機酸化物担体として、市販のα-アルミナ粉末100gを用意した。図1に、このα-アルミナ担体について、走査型電子顕微鏡観察に基づき測定した粒径分布を示す。本実施例のα-アルミナ担体は、400nm近傍に粒径分布のピークを有し、平均粒径は約450nmであった。また、このα-アルミナ担体の比表面積は約1m/gであった。
【0065】
そして、この無機酸化物担体に、塩化白金酸エタノール溶液25g(Pt濃度4質量%、白金1g相当、担体吸水量の70%)加えて含浸させた。そして、乾燥処理を行った。乾燥処理は、金属化合物溶液含浸後の担体をエバポレーターのフラスコに入れ、フラスコを45度傾けた状態で70℃~80℃の温水に浸漬した。フラスコ内部は50mbar.に減圧している。そして、8時間ゆっくり(回転速度40rpm)回転させながら加熱した。この乾燥処理後、担体をカラムに入れて3体積%水素ガス(Nバランス)を300℃で2時間流通させ還元し水素燃焼触媒を製造した。
【0066】
実施例2(Rh/α―Al :実施例1と同じα-アルミナ100gに、塩化ロジウム溶液25g(Rh濃度4質量%、ロジウム1g相当)加えて含浸させた。そして、実施例1と同じ条件で乾燥処理を行った。乾燥処理後、担体をカラムに入れて100体積%水素ガスを400℃で2時間流通させ還元し水素燃焼触媒を製造した。
【0067】
実施例3(Ru/α―Al :実施例1と同じα-アルミナ100gに、塩化ルテニウム溶液50g(Ru濃度2質量%、ルテニウム1g相当、担体吸水量の145%)加えて含浸させた。そして、実施例1と同じ条件で乾燥処理を行った。乾燥処理後、担体をカラムに入れて100体積%水素ガスを600℃で4時間流通させ還元し水素燃焼触媒を製造した。
【0068】
実施例4(Pt/γ―Al :この実施例では、担体となる無機酸化物としてγ-アルミナを使用した。このγ-アルミナ担体の平均粒径は約450nmであった。また、比表面積は50m/gであった。そして、実施例1と同様にしてPtを担持して水素燃焼触媒を製造した。
【0069】
実施例5(Rh/疎水化α―Al :実施例2で製造した水素燃焼触媒を疎水化処理した触媒を製造した。疎水化処理は、触媒100gに、メチルトリメトキシシラン22.7gと純水60gとエタノール60gとを均一に溶解した混合液を加え振とうし、攪拌することにより行った。1日経過後取り出し、純水にて洗浄した後、200℃にて乾燥して疎水化処理有の水素燃焼触媒とした。尚、この疎水化処理による触媒の重量増加は約1gであり、担体中のα-アルミナの含有量は、実施例2の100質量%に対して、99質量%となった。
【0070】
比較例1(Pt/疎水化SiO :上記各実施例に対する比較例として、上述した従来の水素燃焼触媒に相当する触媒を製造した。担体としてシリカ担体(平均粒径0.3μm、比表面積230m/g)100gを用意し、これを疎水化処理した。疎水化処理は、担体に、メチルトリメトキシシラン40gと純水50gとエタノール50gとを均一に溶解した混合液を加え振とうし、攪拌することにより行った。1日経過後取り出し、純水にて洗浄した後、200℃にて乾燥した。
【0071】
次に、疎水化処理を施したシリカ担体に、塩化白金酸エタノール溶液25g(Pt濃度4質量%、白金1g相当)を加え含浸させた。その後、防爆式乾燥器にて120℃で乾燥処理してエタノールを蒸発させた。このとき、触媒は静置させてある。その後、カラムに入れ、3体積%水素ガス(Nバランス)を230℃で2時間流通させ還元し水素燃焼触媒を製造した。
【0072】
比較例2(PtPd/疎水化SiO
比較例1と同じ疎水化処理したシリカ担体に触媒金属粒子としてPtPd合金を担持した水素燃焼触媒を製造した。疎水化処理を施したシリカ担体に、塩化白金酸エタノール溶液25g(Pt濃度4質量%、白金1g相当)と塩化パラジウム溶液6.25g(Pd濃度8質量%、パラジウム0.5g相当)溶液を混合液の状態で加え含浸させた(白金、パラジウムの担持比はモル比で1:1とした)。その後、比較例1と同条件で乾燥処理及び熱処理して水素燃焼触媒を製造した。
【0073】
比較例3:(Pd/α―Al :実施例1と同じα-アルミナ担体に触媒金属粒子としてPdを担持した水素燃焼触媒を製造した。α-アルミナ担体100gに、塩化パラジウム溶液12.5g(Pd濃度8質量%、パラジウム1g相当)溶液を含浸させた。その後、実施例1と同条件で触媒を回転させながら70℃で乾燥処理し、400℃で熱処理して水素燃焼触媒を製造した。
【0074】
[触媒金属粒子の観察、粒径分布の測定]
上記で製造した実施例、比較例の水素燃焼触媒について、SEM観察及びTEM観察を行い、触媒金属粒子の粒径分布を検討した。
【0075】
[SEM観察]
各水素燃焼触媒について、SEM観察を行い、20nm以上の触媒金属粒子の有無、粒子数を測定した。観察条件は、倍率30000倍(加速電圧15keV)で3μm×3μmの視野範囲を観察して撮像した。得られたSEM像において、視認可能な触媒金属粒子(およそ10nm以上となる)について、長径及び短径を測定して2軸平均法により粒径を測定した。
【0076】
SEM観察による触媒金属粒子の粒径測定の例について説明する。図2は、実施例2(Rh/α―Al)の触媒のSEM像(30000倍)である。図2のSEM像において、担体上の白色コントラストの点が触媒金属粒子である。粒径分布測定に際しては、この30000倍のSEM像で認識可能な粒子を対象にしてその個数と粒径(2軸平均法)を測定した。触媒金属粒子は多くがアスペクト比2未満である。但し、アスペクト比が2以上の棒状の粒子も観られる(図2参照)。例えば、図2には長径150nm・短径50nmの棒状の粒子が観察される。このようなアスペクト比2以上の棒状の触媒金属粒子については、上記した通り、長径を短径で割った数値を粒子数とし、それぞれにについて粒径を算出した。図2の例では、粒子数は3個であり、それぞれ粒径50nmとした。そして、測定された触媒金属粒子の個数と粒径を基にして粒径分布を作成した。尚、このとき粒径の10nm未満の数値は四捨五入し、10nm毎の粒径分布を得た。
【0077】
[TEM観察]
各水素燃焼触媒について、TEM観察を行い、30nm以下の触媒金属粒子の分布状態を観察した。観察条件は、倍率500000倍(加速電圧100keV)で0.4μm×0.6μmの視野範囲を観察して撮像した。得られたTEM像において、視認可能な触媒金属粒子の粒径を測定した。ここでは、1nm以上30nm以下の触媒粒子を1nm単位で測定した。そして、1nm以上30nm以下の触媒粒子の粒径分布を作成した。子の粒径分布においては、粒径-粒子数の分布図と粒径-体積率(各粒径に属する触媒金属粒子の体積率の合計)の分布図を作成した。
【0078】
各水素燃焼触媒について行ったSEM観察(30000倍)の結果について、例示として実施例1、2、4と比較例1、3のSEM像を図3に示す。また、このSEM像に基づき測定した実施例1、2、4と比較例1、3における触媒金属粒子の粒径分布を図4に示す。図4からわかるように、実施例1、2、4の水素燃焼触媒においては、粒径20nm以上の触媒金属粒子が明確に生成されており、いずれも20個以上の粗大粒子の生成が確認される。これらの触媒では、粒径20nmの触媒金属粒子に加えて、粒径30~40nmの触媒金属粒子が多くみられる。特に、担体としてα-アルミナを適用した触媒(実施例1、2)においては、粒径50nm以上の触媒金属粒子の生成も確認されている。
【0079】
一方、比較例1の従来の水素燃焼触媒の場合、粒径20nm以上の触媒金属粒子も一応は生成しているがその数は極めて少ない。比較例1の水素燃焼触媒は、SEM観察では10nm程度の触媒金属粒子が主体となり、粒径30nm以上の触媒金属粒子は見られない。
【0080】
また、比較例3の水素燃焼触媒は、担体(α-アルミナ担体)及び製造方法は実施例1等と同じであり、触媒金属粒子としてPdを適用したものである。図4からわかるように、この触媒では、粒径20nm以上の触媒金属粒子の粒子数は20個未満と少ない。このことから、粒径20nm以上の粗大な触媒金属粒子の形成においては、製造方法に加えて触媒金属粒子を構成する金属種も重要であると考察される。
【0081】
次に、TEM観察(500000倍)の結果として、実施例1、2、4と比較例1、3のTEM像を図5に示す。更に、TEM像に基づき測定した実施例1、2、4と比較例1、3における触媒金属粒子の粒径分布を図6(粒径-粒子数)と図7(粒径-体積率)に示す。図5からわかるように、いずれの触媒においても、粒径10nm以下の微細な触媒金属粒子の生成・分散が確認される。但し、実施例の触媒においては、TEM観察であっても粒径20nm以上の触媒金属粒子が確認されるのに対し、比較例では、粒径20nm以上の粗大粒子は見られない。
【0082】
図6のTEM観察による粒径分布(粒径-粒子数)を確認すると、各実施例の触媒は、20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の合計粒子数が、粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の総粒子数に占める割合が2%以上となっている。比較例では20nm以上の触媒金属粒子は見られない。そして、この20nm以上の触媒金属粒子の存在は、各触媒金属粒子の体積率(図7)を見るとより明確になる。各実施例の触媒は、20nm以上30nm以下の触媒金属粒子の合計体積が、前記粒径1nm以上30nm以下の触媒金属粒子の総体積に占める割合が50%以上となっている。
【0083】
尚、図示のない実施例3、比較例2の触媒金属粒子のSEM及びTEMの観察結果及び粒径分布についても上記と同様の傾向を示していた。 以上のSEM観察及びTEM観察による各水素燃焼触媒の触媒金属粒子の粒径分布をまとめると表1のようになる。
【0084】
【表1】
【0085】
[疎水性官能基の確認]
触媒を疎水化処理した実施例5及び比較例1、3について、FT-IR分析による赤外吸収スペクトルの測定を行った。FT-IR分析は、拡散反射法を使用した。触媒をメノウ乳鉢で粉砕し、十分に粉末化した後、触媒体積の約2倍のKBr粉末を加え、均一になるまで混合した。それをアルミニウム皿に乗せ、平滑面を形成した後、分析装置内にセットし、室温及び大気下で赤外吸収スペクトルを測定した。
【0086】
図8に実施例5及び比較例1、3の水素燃焼触媒の赤外吸収スペクトルを示す。何れの触媒においても、2900~3000cm-1付近において疎水性官能基であるメチル基由来の吸収ピークが見られる。本発明に係る水素燃焼触媒において、疎水化処理の有無は、赤外吸収スペクトルの測定により確認できるといえる。
【0087】
[水素燃焼活性試験]
実施例1~実施例5及び比較例1で製造した各水素燃焼触媒について、水素燃焼活性の評価試験を行った。この評価試験では、予め、触媒をヨウ素含有ガスに暴露してヨウ素被毒を生じさせるヨウ素被毒処理を行い、その後、触媒を用いて水素含有ガスを試験ガスとする水素燃焼試験により触媒活性を評価した。
【0088】
ヨウ素被毒処理は、ヨウ素水溶液(ヨウ素濃度80mg/L)にキャリアガスをバブリングしてヨウ素含有ガスを生成し、このヨウ素含有ガスを水素燃焼触媒が充填されたカラムに流通させることにより行った。このヨウ素被毒処理においては、ヨウ素水をバブリングするキャリアガスとして、空気と水素混合ガス(1体積%水素+0.5体積%酸素+窒素バランス)の2種類のガスを使用した。後者の水素混合ガスによるヨウ素被毒処理は、低酸素雰囲気下での水素燃焼活性を評価するための試験である。酸素が不足した雰囲気においては、水素は燃焼(酸化)し難い。よって、水素混合ガスによるヨウ素被毒処理をすることで、触媒活性の優劣をより明確に確認することができる。ヨウ素被毒処理では、ヨウ素水をバブリングするキャリアガスの流量を300mL/minとし、触媒量を10ccとし、処理時間を15時間とした。
【0089】
水素燃焼試験では、上記のヨウ素被毒処理後の水素燃焼触媒をカラムに充填し、ここに水素を含む反応ガスを流通し、カラム出口側の反応ガスの組成を分析して水素燃焼率(触媒活性)を測定した。水素燃焼率は、「(反応前の水素濃度-反応後の水素濃度)/反応前の水素濃度×100」として算出した。導入した反応ガスは、水素濃度1000ppm(空気バランス)の水素混合ガスを使用した。その他の試験条件は以下の通りとした。
・反応ガス流量:800mL/min
・反応温度:室温、100℃
・試験方法:昇温速度を10℃/分とし、所定の反応温度到達後に1時間保持した後、反応ガスを分析した。
【0090】
以上の水素燃焼試験の結果を表2に示す。尚、本実施形態の水素燃焼試験では、各触媒の初期活性を確認するため、ヨウ素被毒処理を行っていない水素燃焼触媒についても実施した。
【0091】
【表2】
【0092】
表2を参照すると、ヨウ素被毒処理による触媒活性に対する影響の大きさが確認される。比較例1の水素燃焼触媒は、ヨウ素被毒のない状態の初期活性は、室温で98%、100℃では99%の水素燃焼率を示すが、空気をキャリアガスとするヨウ素被毒処理により水素燃焼率は15%(反応温度100℃)に低下した。そして、水素混合ガスをキャリアガスとするより過酷なヨウ素被毒処理をしたとき、反応温度が100℃であっても水素燃焼率は0%(活性無し)となった。
【0093】
上記の各比較例の結果と各実施例1~5の水素燃焼触媒の結果とを対比すると、これら実施例の触媒は、ヨウ素被毒処理を受けたときの水素燃焼率の低下幅が小さくなっている。これら実施例の触媒でも、基本的に反応温度が低い(室温)ではヨウ素被毒処理により水素燃焼活性を発揮しないが、反応温度を100℃とすることで水素燃焼活性を発揮し得る。水素混合ガスをキャリアガスとするヨウ素被毒処理を受けても、完全に失活することはない。各実施例の水素燃焼触媒において、粗大な(粒径20nm以上の)触媒金属粒子を形成したことで、耐ヨウ素触媒被毒性を獲得したといえる。
【0094】
特に、実施例5の水素燃焼触媒(Rh/α-アルミナ担体+疎水化処理)は、水素混合ガスをキャリアガスとするヨウ素被毒処理を受けても、反応温度を100℃とすることで、水素燃焼率88%と極めて高い活性を発揮する。実施例5の触媒は、実施例2の触媒を疎水化処理した触媒であり、疎水化により初期活性の向上と耐ヨウ素触媒被毒性の向上が発揮されることがわかる。
【0095】
もっとも、本発明者等の検討によれば、水素燃焼触媒にとって疎水化処理は必ずしも必須の処理ではない。実施例2の触媒でも、水素混合ガスをキャリアガスとするヨウ素被毒処理を受けても、反応温度を室温から100℃とすることで水素燃焼活性を発揮する。そこで、実施例2のみについて反応温度を150℃として同様の水素燃焼試験を行ったところ、35%以上の水素燃焼率を発揮することを確認している。この点を考慮すると、疎水化処理をしない場合でも、反応温度の調整によって、所望の用途に対応可能であることが確認される。疎水化処理は、重度のヨウ素被毒が予測される用途・環境に対して有効であるといえる。
【0096】
以上のとおり、粒径20nm以上の粗大触媒金属粒子を形成することで、水素燃焼触媒に高い耐ヨウ素触媒被毒性を付与できることが確認された。ここで、触媒金属粒子の粒径以外の要素である触媒金属粒子及び担体種類について確認すると、触媒金属粒子の金属種としては、実施例1~3の対比からRhが耐ヨウ素触媒被毒性の観点から特に好ましい貴金属であるといえる。特に、Pdを適用すると、初期活性及び耐ヨウ素触媒被毒性に乏しい触媒となる。これは、図4、5、6を参照すると分かるように、Pdは粗大化が困難な貴金属であることに基づくと考えられる。また、担体の種類については、実施例1と実施例4との対比からα-アルミナの適用が好ましいことが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上の通り、本発明に係る水素燃焼触媒は、水素ガスの燃焼において、ヨウ素による触媒被毒が従来技術以上に抑制された触媒である。本発明に係る触媒は、疎水化処理によってより効果的な水素燃焼活性を示す。
【0098】
そして、本発明に係る水素燃焼触媒は、水素燃焼のための各種機器に適用可能である。特に、原子力発電所内における水素燃焼装置(水素再結合装置)に実装される触媒として有用である。
【0099】
また、本発明に係る水素燃焼触媒は、水素の同位体である重水素(D2)、トリチウム(T)の燃焼にも有効である。これらの同位体水素は、核融合発電施設等の原子力関連施設で取り扱われる可能性があり、それらに設置される水素燃焼装置にも応用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8