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特開2022-99597鉱石スラリーの製造方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099597
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】鉱石スラリーの製造方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20220628BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20220628BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C22B23/00 101
C22B1/00 101
C22B3/06
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213445
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】若松 貴文
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA49
4K001DB02
(57)【要約】
【課題】ニッケル酸化鉱石等の金属鉱石を原料として含む鉱石スラリーを製造するに際し、凝集剤使用量等の増加させることなく、固体含有率及びスラリー密度を高めた鉱石スラリーを得ることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、金属鉱石を含むスラリーを濃縮して反応に供される鉱石スラリーを製造する鉱石スラリーの製造方法であって、少なくとも2つのシックナーを用い、スラリーのうち全量を含まない所定の割合を2段階でシックニングし、1段目のシックニングを経た所定の割合のスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合のスラリーに対するシックニングとを、同一のシックナーにより行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鉱石を含むスラリーを濃縮して反応に供される鉱石スラリーを製造する鉱石スラリーの製造方法であって、
少なくとも2つのシックナーを用い、
前記スラリーのうち全量を含まない所定の割合を2段階でシックニングし、
1段目のシックニングを経た前記所定の割合のスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合のスラリーに対するシックニングとを、同一のシックナーにより行う、
鉱石スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記残部の割合は、54質量%を超え78質量%未満である、
請求項1に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記金属鉱石は、ニッケル酸化鉱石を含む、
請求項1又は2に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記鉱石スラリーの鉱石粒径は、1.7mm以下である、
請求項3に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記鉱石スラリーは、酸浸出処理の反応に供される、
請求項1乃至4のいずれかに記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項6】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)を製造するスラリー製造工程と、
前記鉱石スラリーに酸を添加して浸出処理を施す浸出工程と、を含み、
前記スラリー製造工程では、
粉砕したニッケル酸化鉱石を含むスラリーを濃縮する処理を行い、
前記濃縮する処理では、
少なくとも2つのシックナーを用いて、前記スラリーのうち全量を含まない所定の割合を2段階でシックニングし、
1段目のシックニングを経た前記所定の割合のスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合のスラリーに対するシックニングとを、同一のシックナーにより行う、
湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属鉱石を含むスラリーを濃縮して反応に供する鉱石スラリーを製造する方法及びその方法を適用したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石(以下、単に「鉱石」ともいう)を原料とするニッケル湿式製錬の分野においては、近年、高温高圧下で酸浸出する高圧酸浸出(以下、「HPAL:High Pressure Acid Leach」という)法による、低品位のニッケル酸化鉱石からの有価金属の回収が実用化されている。そして、HPAL法によってニッケル酸化鉱石より浸出されたニッケル、コバルト等の有価金属の回収については、加圧下で有価金属を含む硫酸浴に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することにより、硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)として回収する方法が一般的に行われている。
【0003】
ニッケル・コバルト混合硫化物を回収する湿式製錬において、高圧酸浸出する工程(以下、単に「浸出工程」という)へと送液されるニッケル酸化鉱石のスラリー(以下、単に「鉱石スラリー」ともいう)に含まれるニッケル量をできるだけ多くすることは、ニッケル生産量を最大限とするために重要である。このため、鉱石スラリー中のスラリー濃度を高くすることが求められている。
【0004】
そこで、従来、シックナーを用いて鉱石スラリーの固体成分率を上げる濃縮処理を施してから浸出工程へ送液することが行われている。これにより、浸出工程への単位時間あたりのニッケル通過量を増加させることができ、ニッケル生産量を高めることができる。
【0005】
ところが、鉱石種によりシックニング挙動が異なるため、シックナーから得られる鉱石スラリーの固体含有率は、ブレンドした鉱石種、ブレンド比率、シックニングに用いる凝集剤の種類、添加量等に依存する。そのため、これまでは、ブレンドした鉱石種やブレンド比率に応じて、過去のデータや作業者の経験則を参考に凝集剤の種類や添加量を調整しながら、目的とする固体成分率の鉱石スラリーを得ていた。
【0006】
しかしながら、例えば鉱石種を変更した際には、凝集剤の調整が困難となり、鉱石スラリーの固体含有率や密度が低下したり、ばらつくことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-086457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石等の金属鉱石を原料として含む鉱石スラリーを製造するに際し、凝集剤使用量等を増加させることなく、固体含有率及びスラリー密度を高めた鉱石スラリーを得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、以下に示す手段によって上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、金属鉱石を含むスラリーを濃縮して反応に供される鉱石スラリーを製造する鉱石スラリーの製造方法であって、少なくとも2つのシックナーを用い、前記スラリーのうち全量を含まない所定の割合を2段階でシックニングし、1段目のシックニングを経た前記所定の割合のスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合のスラリーに対するシックニングとを、同一のシックナーにより行う、鉱石スラリーの製造方法である。
【0011】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記残部の割合は、54質量%を超え78質量%未満である、鉱石スラリーの製造方法である。
【0012】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記金属鉱石は、ニッケル酸化鉱石を含む、鉱石スラリーの製造方法である。
【0013】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記鉱石スラリーの鉱石粒径は、1.7mm以下である、鉱石スラリーの製造方法である。
【0014】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記鉱石スラリーは、酸浸出処理の反応に供される、鉱石スラリーの製造方法である。
【0015】
(6)本発明の第6の発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)を製造するスラリー製造工程と、前記鉱石スラリーに酸を添加して浸出処理を施す浸出工程と、を含み、前記スラリー製造工程では、粉砕したニッケル酸化鉱石を含むスラリーを濃縮する処理を行い、前記濃縮する処理では、少なくとも2つのシックナーを用いて、前記スラリーのうち全量を含まない所定の割合を2段階でシックニングし、1段目のシックニングを経た前記所定の割合のスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合のスラリーに対するシックニングとを、同一のシックナーにより行う、湿式製錬方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属鉱石を原料として含む鉱石スラリーを製造するに際し、凝集剤使用量等を増加させることなく、固体含有率及びスラリー密度を高めた鉱石スラリーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】鉱石スラリーに対する濃縮処理を行うシックナー設備の構成例を示すものであり、鉱石スラリーに対する濃縮処理の操作を説明するための図である。
図2図1に示すシックナー設備とは異なる別の態様として、3つのシックナーを備えた設備の構成例を示すものであり、鉱石スラリーに対する濃縮処理の操作の概要を説明するための図である。
図3図1に示すシックナー設備とは異なる別の態様として、4つのシックナーを備えた設備の構成例を示すものであり、鉱石スラリーに対する濃縮処理の操作の概要を説明するための図である。
図4】実施例における結果を示すものであり、第2シックナーへの送液比率を変動させたときの、得られるスラリー密度と、鉱石1tに対する第1シックナーと第2シックナーとで添加する凝集剤使用量の値とを、それぞれの基準値に対する増減比(%)で示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
≪1.鉱石スラリーの製造方法の概要≫
本実施の形態に係る鉱石スラリーの製造方法は、金属鉱石を含むスラリーを濃縮して反応に供される鉱石スラリーを製造する方法である。
【0020】
金属鉱石としては、例えばニッケル酸化鉱石が挙げられ、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける高圧酸浸出処理の反応に供する鉱石スラリーを製造する方法に好ましく適用することができる。なお、金属鉱石としては、ニッケル酸化鉱石に限られるものではなく他の金属鉱石であってもよく、浸出反応等の反応に供するために鉱石をスラリー化して濃縮する処理に適用できる。
【0021】
具体的に、本実施の形態に係る鉱石スラリーの製造方法では、少なくとも2つの凝集沈降槽(以下では「シックナー」という)を用いたシックニングにより濃縮する処理を行う。そして、スラリーのうち全量を含まない所定の割合を2段階でシックニングするようにし、1段目のシックニングを経た所定の割合のスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合のスラリーに対するシックニングとを、同一のシックナーにより行う、ことを特徴としている。
【0022】
ここで、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、高圧酸浸出を行う浸出工程へ供給される鉱石スラリー中のニッケル量は、以下の計算式から求められる。
浸出工程へ供給されるニッケル量(t/day)
=総スラリー供給量(m3/day)×ニッケル品位(質量%)×スラリー密度(density:g/cm3)×固体含有率(solid%:質量%)
【0023】
したがって、ニッケル生産量を高めて確保するには、ニッケル品位、スラリー密度、及びスラリー中の固体含有率を高めて維持することが重要となり、安定的かつ効率的な生産につながるといえる。
【0024】
この点において、本実施の形態に係る鉱石スラリーの製造方法によれば、反応に供する鉱石スラリーにおける固体含有率及びスラリー密度を高めることができる。そしてこれにより、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出工程での反応に供する鉱石スラリーを一例としたときには、その浸出工程へ送る単位時間あたりのニッケル通過量を増加させることができ、ニッケル生産量を高めることができる。
【0025】
以下では、製造する鉱石スラリーに関して、金属鉱石としてニッケル酸化鉱石を原料として含む鉱石スラリーを一例とし、その製造方法についてより具体的に説明する。なお、ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーは、湿式製錬プロセスにおける高圧酸浸出反応を行う浸出工程に供されるものとして説明する。
【0026】
≪2.鉱石スラリーの製造方法の各工程について≫
鉱石スラリーの製造方法は、原料のニッケル酸化鉱石(以下、単に「鉱石」ともいう)を所定の粒径に粉砕して分級する鉱石分級工程と、目的とする粒径以下に分級された鉱石に水を添加してスラリー状とするスラリー化工程と、鉱石を含むスラリーを濃縮するスラリー濃縮工程と、を含む。
【0027】
[鉱石分級工程]
鉱石分級工程では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を粉砕機や解砕機等を用いて粉砕し、粉砕後の鉱石を篩に掛けて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを得る。例えば、数種類のニッケル酸化鉱石に対して同様の分級処理を行い、所定のNi品位、不純物品位となるように混合する。
【0028】
ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8質量%~2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10質量%~50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0029】
分級方法については、所望とする粒径に基づいて鉱石を分級できれば特に限定されない。例えば、一般的な振動篩等を用いた篩分けによって行うことができる。
【0030】
また、分級点についても、特に限定されないが、鉱石スラリーに含まれる鉱石の粒径として1.7mm以下であることが好ましく、1.4mm以下であることがより好ましい。これにより、後述する工程を経て製造される鉱石スラリーを、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出工程での処理に供したときに、ニッケルを効率的に浸出させることができる。したがって、分級処理においては、1.7mm以下の鉱石粒子を分級できる篩目の篩を用いることが好ましい。
【0031】
したがって、分級処理においては、好ましくは1.7mm以下の鉱石粒子を分級できる篩目の篩を用いることが好ましい。なお、篩の篩目が小さすぎると、鉱石分級工程での処理における歩留まりの悪化、あるいは鉱石分級工程での処理で用いられる解砕機や篩等の設備の増強、また、増強された設備の運転や保全に係るコストが新たに必要となる。そのため、篩目の下限値としては、1.4mm以上であることが好ましい。
【0032】
[スラリー化工程]
スラリー化工程では、鉱石分級工程にて分級されて得られた所定の粒径以下の鉱石粒子に、水を添加してスラリー状として鉱石スラリーを得る。ここで得られる鉱石スラリーは、次のスラリー濃縮工程にて濃縮処理が行われる前の鉱石スラリーであり、浸出工程での反応に供される濃縮された鉱石スラリーと区別して、「希薄鉱石スラリー」とも称する。なお、次のスラリー濃縮工程での濃縮処理が施されて得られる鉱石スラリーを「濃縮鉱石スラリー」とも称する。
【0033】
スラリー化するために鉱石粒子に添加する水は、例えば工業用水を用いることができる。または、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて排出される工程水を用いてもよい。
【0034】
[スラリー濃縮工程]
スラリー濃縮工程では、希薄鉱石スラリーに対して濃縮処理を施し、スラリー中の固体含有率及びスラリー密度を高めて濃縮させた鉱石スラリー(濃縮鉱石スラリー)を得る。なお、希薄鉱石スラリー、すなわち濃縮処理に供する鉱石スラリーの固体含有率(solid%)は、特に限定されないが、例えば15質量%~20質量%程度である。
【0035】
スラリー濃縮工程では、シックナーを用いた処理(以下では「シックニング」ともいう)を行う。図1は、鉱石スラリーに対する濃縮処理を行うシックナー設備の構成例を示す図である。図1に示すシックナー設備1では、第1シックナー11と、第2シックナー12との2つのシックナーが設けられている例を示しているが、2つに限られない。
【0036】
シックナーの構成を、第2シックナー12(以下、単に「シックナー12」ともいう)を参照して簡単に説明する。シックナー12は、シックナー本体12aと、シックナー本体12aの内部に設けられるフィードウェル12bと、を備える。シックナー本体12aは、円筒状外枠と中心に向かって次第に低くなった円錐状の底部とからなる構造を有し、円錐状の底部の内面に沿ってレーキが配置されている。シックナー本体12aでは、フィードウェル12bから供給されたスラリーを、レーキを構成するブレードの回転によって、スラリーの沈降濃縮を促進させる。シックナー本体12aでは、スラリーの沈降濃縮に伴い、そのスラリーにおいて上澄み層と、沈降層と、圧縮層とが形成される。フィードウェル12bは、沈降濃縮させるスラリーを供給する供給部であり、必要に応じて、その処理対象のスラリーと共に凝集剤が添加される。シックナー12においては、シックナー本体12aでのスラリーの沈降濃縮によって固体含有率を高めたスラリーを生成させ、シックナー本体12aの底部に設けた抜出口から抜き出す。なお、図1に示すシックナー設備1において、第1シックナー11については具体的な構造を明示していないが、上述した第2シックナー12の構造と同様であり、固体含有率を高めたスラリーを生成させる。
【0037】
本実施の形態に係る鉱石スラリーの製造方法では、少なくとも2つのシックナーを用い、希薄鉱石スラリーのうち全量を含まない所定の割合を2段階でシックニングする。言い換えると、希薄スラリーのうちの全部ではない一部に対して、第1シックナー11と、第2シックナー12とを用いた2段階のシックニングを行う。
【0038】
具体的に、図1に示す例では、希薄鉱石スラリーの全量(100質量%)のうちの31質量%を第1シックナー11に送液し、残部の69質量%の割合のスラリーを第2シックナー12に送液する。第1シックナー11では、送液比率31質量%分の希薄鉱石スラリーに対してシックニングが行われ、固体含有率が例えば35質量%~40質量%のスラリーを生成する。すなわち、希薄鉱石スラリーの全量のうちの31質量%の割合分の希薄鉱石スラリーに対して1段目のシックニングが行われる。
【0039】
第2シックナー12では、第1シックナー11に送液されなかった残部の69質量%の割合分の希薄鉱石スラリー(固体含有率が15質量%~20質量%のスラリー)が送液されるとともに、第1シックナー11での1段目のシックニングを経て得られた鉱石スラリー(固体含有率が35質量%~40質量%のスラリー)が送液され、シックニングが行われる。したがって、第1シックナー11に送液した希薄鉱石スラリーの全量のうちの31質量%の割合分の希薄鉱石スラリーに対しては、この第2シックナー12において2段目のシックニングが行われる。
【0040】
すなわち、1段目のシックニングを経た所定の割合(31質量%)のスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合(69質量%)のスラリーに対するシックニングとが、同一のシックナーである第2シックナー12によって行われる。
【0041】
このように、本実施の形態に係る鉱石スラリーの製造方法では、希薄鉱石スラリーに対する濃縮処理において、並列的に設けた2つ以上のシックナーを用い、希薄鉱石スラリーのうちの一部を、2段階でシックニングする。そして、1段目のシックニングを経て濃縮されたスラリーと、1段目のシックニングに供さなかった残部のスラリーとを合わせて、同一のシックナー(第2シックナー12)によりシックニングする。
【0042】
ここで、例えば特許文献1には、第1シックナーと、第2シックナーとを直列に設けたシックナー設備を用い、第1シックナーにより鉱石スラリーを予備濃縮して中間鉱石スラリーを得たのち、第1シックナーよりもシックニング効果の高い第2シックナーにより中間鉱石スラリーを濃縮して濃縮鉱石スラリーを得る方法が開示されている。このような方法は、スラリー処理量を維持しつつ、固体含有率及び比重の高い鉱石スラリーを製造することができる優良な方法となっている。
【0043】
また、このような複数のシックナーを備える設備において、第1シックナーへ供給する希薄鉱石スラリーの流量を増加させたとき、より多量のスラリーが第1シックナーで濃縮されることになるため、第2シックナーへの流量負荷が小さくなり、第2シックナーでは滞留時間増加によるスラリー濃度向上を図ることができる。
【0044】
ところが一方で、この操作が過剰となると、第1シックナーから第2シックナーへ供給されるスラリーに含まれる鉱石量も増加するため、より濃度の高いスラリーが第2シックナーへ供給されることとなる。すると、第2シックナーにおいては、シックナー操業において重要な要素である上澄み層の清澄性が損なわれる可能性があり、シックナーに添加する凝集剤使用量の増加や沈降速度の低下をきたし、結果として第2シックナーで得られるスラリー濃度が低下することが考えられる。
【0045】
そこで、本実施の形態においては、上述したように、少なくとも2つのシックナーを並列的に設けた設備を用い、希薄鉱石スラリーの全量のうちの所定の割合からなる一部のみを、2段階でシックニングする。図1に例示する設備においては、2段階のシックニングが施されるその一部の希薄鉱石スラリーに対しては、第1シックナー11に供給されたのちに続いて第2シックナー12へと供給され、すなわち直列な関係で配置されたシックナーにより順次濃縮処理が施されることになる。他方で、その一部の希薄鉱石スラリー以外の残部割合の希薄鉱石スラリーに対しては、第2シックナー12のみに供給されて濃縮処理が施されることになる。つまり、所定の割合からなる一部の希薄鉱石スラリーと、それ以外の残部の希薄鉱石スラリーとでは、並列な関係で配置シックナーにより濃縮処理が施されることになる。
【0046】
このような方法によれば、第1シックナー11に供給されるスカリー量が過剰になることを抑え、第2シックナーにおいて上澄み層の清澄性が損なわれるといった可能性を防ぎ、凝集剤使用量の増加や沈降速度の低下を抑制しながら良好な沈降濃縮の操作を行うことができる。
【0047】
ここで、希薄鉱石スラリーの全量のうちの、第1シックナー11に供給して2段階のシックニングを行う所定の割合としては、特に限定されないが、全量を100質量%としたとき22質量%以上46質量%以下の割合とすることが好ましく、28質量%以上40質量%以下とすることがより好ましい。
【0048】
逆に言えば、希薄鉱石スラリーの全量のうち、2段階のシックニングを行わず、第2シックナー12に供給する希薄鉱石スラリーの割合、つまり上述した所定の割合以外の残部の割合は、54質量%を超え78質量%未満とすることが好ましく、60質量%を超え72質量%未満とすることがより好ましい。なお、希薄鉱石スラリーの全量のうち、2段階のシックニングを行わず、第2シックナー12に供給する希薄鉱石スラリーの割合は、後述する実施例における第2シックナー12への送液比率と同義である。
【0049】
希薄鉱石スラリーの全量のうち上述した割合からなる比率で送液制御することで、詳しくは後述の実施例にて示すように、より好ましく、凝集剤の使用量を抑えながら清澄性も維持して、より効果的に沈降濃縮の処理を行うことができる。
【0050】
さて、図1に示したシックナー設備及び処理操作について例では、第1シックナー11と第2シックナー12との2つのシックナーを備えた設備を用いた場合について説明したが、2つのシックナーに限られるものではない。
【0051】
例えば、合計で3つのシックナーを用いた設備(「シックナー設備2」とする)とした場合には、図2に示すように、希薄鉱石スラリーの全量のうちの所定の割合(例えば40質量%)からなる一部のスラリー、すなわち2段階のシックニングを行うスラリーが、第1シックナー21と、第2シックナー22とに、例えば等分量(例えば20質量%)でそれぞれ供給され、各シックナーにおいて1段目の濃縮処理が施される。そして、第1シックナー21での処理を経て得られたスラリーと、第2シックナー22での処理を経て得られたスラリーとが、第3シックナー23に供給されるとともに、その第3シックナー23には、第1シックナー21及び第2シックナー22に供給されなかった残部の割合(例えば60質量%)のスラリーが供給され、濃縮処理が施される。
【0052】
また例えば、合計で4つのシックナーを用いた設備(「シックナー設備3」とする)とした場合には、図3に示すように、希薄鉱石スラリーの全量のうちの所定の割合からなる一部のスラリー、すなわち2段階のシックニングを行うスラリーが、第1シックナー31と、第2シックナー32と、第3シックナー33に、例えば等分量でそれぞれ供給され、各シックナーにおいて1段目の濃縮処理が施される。そして、第1シックナー31での処理を経て得られたスラリーと、第2シックナー32での処理を経て得られたスラリーと、第3シックナー33での処理を経て得られたスラリーが、第4シックナー34に供給されるとともに、その第4シックナー34には、第1シックナー31、第2シックナー32、及び第3シックナー33に供給されなかった残部の割合のスラリーが供給され、濃縮処理が施される。
【0053】
なお、上述したように、少なくとも2つ以上のシックナーに関してその設置数については特に限定されないが、シックナーは一般的にその直径が20m以上のものもあり、設備投資に要する費用、またその運転や保全に要する費用も大きいことから、必要最低限の設備とすることが、経済効率性の観点から好ましい。したがって、シックナーの数としては、2つとすることがより好ましい。
【0054】
≪3.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスへの適用について≫
上述した鉱石スラリーの製造方法は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける鉱石スラリー製造工程での処理に適応することができる。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、例えばHPAL法を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。
【0055】
湿式製錬プロセスは、原料のニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーを調製する鉱石スラリー製造工程と、鉱石スラリーに酸を添加して浸出処理を施す浸出工程と、得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら浸出残渣を分離し、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程と、浸出液のpHを調整し不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケル及びコバルトを含む中和終液を得る中和工程と、中和終液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成させて回収するニッケル回収工程と、を有する。
【0056】
湿式製錬プロセスにおける鉱石スラリー製造工程では、原料のニッケル酸化鉱石を粉砕し所定の粒径以下となるように篩分けたのち、水を添加して鉱石スラリーを調製する。鉱石スラリーに対しては、次工程の浸出工程での処理に送液されるに先立ち、シックナーを用いた濃縮処理が行われ、スラリー濃度が高められる。
【0057】
このとき、鉱石スラリーの濃縮処理においては、少なくとも2つのシックナーを用いて、スラリーのうち全量を含まない所定の割合を2段階でシックニングする。そして、1段目のシックニングを経た所定の割合のスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合のスラリーに対するシックニングとを、同一のシックナーにより行う。なお、具体的な処理操作については上述した鉱石スラリーの製造方法と同じであるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0058】
鉱石スラリー製造工程では、このような処理操作によって鉱石スラリーに対する濃縮処理が行われ、効果的に、スラリー密度及び固体含有率を高めた濃縮鉱石スラリーを得ることができる。ここで、改めて説明するが、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、浸出工程へ供給される鉱石スラリー中のニッケル量は、以下の計算式から求められる。
浸出工程へ供給されるニッケル量(t/day)
=総スラリー供給量(m3/day)×ニッケル品位(質量%)×スラリー密度(density:g/cm3)×固体含有率(solid%:質量%)
【0059】
したがって、鉱石スラリー製造工程での上述した濃縮処理によって、効果的にスラリー密度及び固体含有率を高めることができることから、次工程の浸出工程へ供給されるニッケル量を増加させることができる。これにより、その浸出工程での処理を経て得られる浸出液中のニッケル量を増加させることができ、延いては当該湿式製錬プロセスによるニッケル生産量を有効に向上させることができる。
【実施例0060】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける鉱石スラリー製造工程での処理について、本発明を適用して以下のように濃縮鉱石スラリーを得た。
【0062】
具体的には、粉砕処理を施したニッケル酸化鉱石を篩に掛けて分級し、粒径が1.7mm以下の鉱石粒子を得た(鉱石分級工程)。次に、その鉱石に対して水を供給することで、希薄鉱石スラリーを得た(スラリー化工程)。ここで、同じ鉱石を処理する場合、スラリーとされる鉱石の比重は同じであるため、得られるスラリーの固体含有率(%)が増加するほどスラリー密度(g/cm)は増加する。すなわち、スラリーの固体含有率(%)とスラリー密度(g/cm)は比例関係となる。
【0063】
次に、希薄鉱石スラリーに対する濃縮処理を行った(スラリー濃縮工程)。図1に示すように、シックナー設備として、第1シックナー11と第2シックナー12の2つのシックナーを備える設備を用い、希薄鉱石スラリーの全量のうちの31質量%を第1シックナー11に供給し、残部の69質量%を第2シックナー12に供給した。第1シックナー11において1段目のシックニングを行ったのち、濃縮された鉱石スラリーの全量を第2シックナー12に送り、最終的に全量の希薄鉱石スラリーに対して第2シックナー12にてシックニングを施し、濃縮鉱石スラリーを得た。なお、第1シックナー11において1段目のシックニングが行われたスラリーについては、第2シックナー12にて2段目のシックニングが行われたことになる。
【0064】
このようなスラリー濃縮工程での処理操作において、希薄鉱石スラリーを第1シックナー11と第2シックナー12に振り分ける割合(送液比率)を変動させたときの、第1シックナー11及び第2シックナー12で必要な上澄み層の清澄度(「濁度」とよぶこともある)を維持する凝集剤使用量を調査した。
【0065】
図4は、第2シックナー12への送液比率、すなわち第2シックナー12に振り分ける割合を変動させたときの、第2シックナーから底抜きされたスラリー密度と、鉱石1tに対する第1シックナー11と第2シックナー12とで添加する凝集剤使用量の値とを、それぞれの基準値に対する増減比(%)で示したグラフ図である。
【0066】
図4に示すように、希薄鉱石スラリーのうち全量を含まない所定の割合を第1シックナー11に送液し、その第1シックナー11での1段目のシックニングを経たスラリーに対する2段目のシックニングと、残部の割合のスラリーに対するシックニングとを、第2シックナー12により行うようにすることで、凝集剤使用量を増加させることなく適度に抑えながら、得られる濃縮鉱石スラリーの密度を高めることができることがわかる。
【0067】
中でも特に、希薄鉱石スラリーの第2シックナー12への送液比率、すなわち第1シックナー11に送液しないスラリーの比率を54質量%を超え78質量%未満とすることで、凝集剤使用量を最小限に抑えながら、スラリー密度が高い濃縮鉱石スラリーを効果的に得ることができることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
1,2,3 シックナー設備
11,21,31 第1シックナー
12,22,32 第2シックナー
23,33 第3シックナー
34 第4シックナー
12a シックナー本体
12b フィードウェル
図1
図2
図3
図4