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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099610
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】酸化カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/06 20060101AFI20220628BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20220628BHJP
   C04B 2/10 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C01F11/06
B01D53/14 311
C04B2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213462
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598132048
【氏名又は名称】一般財団法人石炭フロンティア機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】市原 克彦
(72)【発明者】
【氏名】林 石英
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼元 尚土
【テーマコード(参考)】
4D020
4G076
【Fターム(参考)】
4D020AA02
4D020BA02
4D020BA03
4D020BA04
4D020BA05
4D020BA10
4D020BB01
4D020BC01
4D020CA06
4D020CC21
4D020DA03
4D020DB02
4D020DB06
4G076AA02
4G076AB09
4G076BA39
4G076BD02
4G076BE20
4G076DA02
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】酸化カルシウムを製造する際に生じる二酸化炭素を、簡易な構成で、低コストに高濃度化することが可能な酸化カルシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】酸化温度以上の環境で空気に含まれる酸素を還元状態の酸素キャリアに結合させて、酸素キャリアを酸化状態に変化させる空気燃焼工程と、酸素キャリアの熱エネルギーによって、炭酸カルシウムを酸化カルシウムと二酸化炭素に分解するか焼反応工程と、炭化水素、および水を混合して、酸素キャリアに結合された酸素によって燃焼させ、酸化温度未満の還元温度の環境で酸素キャリアを還元状態にする燃料反応工程と、空気燃焼部からか焼反応部および燃料反応部に向けて酸化状態の酸素キャリアを供給する第1供給工程と、燃料反応部から空気燃焼部に向けて還元状態の酸素キャリアを供給する第2供給工程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素に対する酸素元素の結合数に応じて酸化状態と還元状態との間で変化することが可能な、金属酸化物を含む酸素キャリアを用い、
還元状態の前記酸素キャリアと空気とを混合して、酸化温度以上の環境で前記空気に含まれる酸素を前記酸素キャリアに結合させて、前記酸素キャリアを酸化状態に変化させる空気燃焼工程と、
前記空気燃焼工程で加熱された酸化状態の前記酸素キャリアの熱エネルギーによって、炭酸カルシウムを酸化カルシウムと二酸化炭素に分解するか焼反応工程と、
炭化水素、および水を混合して、前記空気燃焼工程で加熱された酸化状態の前記酸素キャリアに結合された酸素によって燃焼させ、前記酸化温度未満の還元温度の環境で酸化状態の前記酸素キャリアの結合酸素数を減らして前記酸素キャリアを還元状態にする燃料反応工程と、
前記空気燃焼工程から前記か焼反応工程および前記燃料反応工程に酸化状態の前記酸素キャリアを供給する第1供給工程と、
前記燃料反応工程から前記空気燃焼工程に還元状態の前記酸素キャリアを供給する第2供給工程と、を有することを特徴とする酸化カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記か焼反応工程と燃料反応工程とは1つの反応器で同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項3】
前記か焼反応工程で分解生成した酸化カルシウムと二酸化炭素とを互いに分離する分離工程を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項4】
前記分離工程で分離された酸化カルシウムと、系外の二酸化炭素を含む排ガスとを混合して、前記排ガスの二酸化炭素と前記酸化カルシウムとを反応させて炭酸カルシウムを生成して前記か焼反応工程に供給する二酸化炭素吸収工程を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項5】
前記酸素キャリアは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化マンガン、硫酸カルシウムのうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項6】
前記空気燃焼工程は、1000℃以上、前記酸素キャリアの焼結温度以下の範囲で前記酸素キャリアを還元状態から酸化状態に変化させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項7】
前記か焼反応工程では、酸化状態の前記酸素キャリアに加えて、さらに別な熱媒体を供給することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭酸カルシウムを含む原料から酸化カルシウムを製造するための酸化カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生石灰(CaO)は、製鉄、セメント製造、製紙、農業、建設など、幅広い分野で利用されている。こうした生石灰を産業レベルで製造する際には、一般的に石灰石(CaCO)をか焼して熱分解することより行う(下記の参考式を参照)。
CaCO→CaO+CO(参考式)
このように、石灰石を熱分解して生石灰を生成する際には、多量の二酸化炭素(CO)が発生する。このため、地球温暖化防止の観点から、生石灰を生成する際に発生する二酸化炭素を大気中に放出させずに回収することが重要になっている。
【0003】
回収した二酸化炭素は、地中に貯留したり、植物や藻類の育成、液体炭酸として食品原料、工業原料に用いるなど、幅広く再利用することができる。一方、回収した二酸化炭素を産業的に有効利用するためには、二酸化炭素の純度を例えば95~100vol%といった高純度に高める必要がある。例えば、セメント製造プロセスで生じる排ガスに含まれる二酸化炭素は、石炭や石油コークス、可燃性廃棄物の燃焼により発生するもの以外にセメント原料精粉に含まれる石灰石から発生する二酸化炭素を含むため、一般の燃焼ガスより高いものの、その濃度は20vol%程度である。また、回収した二酸化炭素を植物や藻類の育成や食品原料に用いる場合、有害成分を含まないことも重要である。
【0004】
石灰石を熱分解して生石灰を生成する際に生じる二酸化炭素以外のガス成分も混合した排ガス中の二酸化炭素の濃度を高める濃縮方法として、例えば、アミン吸収法が挙げられる(例えば、特許文献1を参照)。アミン吸収法は、アミン等のアルカリ性水溶液(吸収液)に二酸化炭素を含むガスを接触させて二酸化炭素を選択的に吸収させた後、この吸収液を加熱して、高濃度の二酸化炭素を分離、回収するものである。
【0005】
また、石灰石のか焼の際に、燃焼ガスと石灰石との接触を遮断し、間接加熱によって石灰石のか焼により生じた排ガスに含まれる二酸化炭素の純度を高めて回収する方法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-194388号公報
【特許文献2】特表2014-522802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、アミン吸収法によって二酸化炭素を高濃度に濃縮する場合、吸収液が多量に必要であったり、吸収液から二酸化炭素を脱離するのに多量のエネルギーが必要であるなどコストが高く、産業レベルで低コストに排ガス中の二酸化炭素の濃度を高める濃縮方法としては、未だに実用化には至っていない。
【0008】
また、特許文献2のように、燃焼ガスと石灰石とを分離して間接的に加熱する方法では、熱伝導だけで熱を石灰石に供給することになり、石灰石を分解温度まで昇温させるには大きな伝熱面が必要になり、装置が巨大化するなど設備コストが高くなるという課題がある。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、カルシウムを含む原料を熱分解して酸化カルシウムを製造する際に生じる二酸化炭素を、簡易な構成で、低コストに高濃度化することが可能な酸化カルシウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の酸化カルシウムの製造方法は、金属元素に対する酸素元素の結合数に応じて酸化状態と還元状態との間で変化することが可能な、金属酸化物を含む酸素キャリアを用い、還元状態の前記酸素キャリアと空気とを混合して、酸化温度以上の環境で前記空気に含まれる酸素を前記酸素キャリアに結合させて、前記酸素キャリアを酸化状態に変化させる空気燃焼工程と、前記空気燃焼工程で加熱された酸化状態の前記酸素キャリアの熱エネルギーによって、炭酸カルシウムを酸化カルシウムと二酸化炭素に分解するか焼反応工程と、炭化水素、および水を混合して、前記空気燃焼工程で加熱された酸化状態の前記酸素キャリアに結合された酸素によって燃焼させ、前記酸化温度未満の還元温度の環境で酸化状態の前記酸素キャリアの結合酸素数を減らして前記酸素キャリアを還元状態にする燃料反応工程と、前記空気燃焼工程から前記か焼反応工程および前記燃料反応工程に酸化状態の前記酸素キャリアを供給する第1供給工程と、前記燃料反応工程から前記空気燃焼工程に還元状態の前記酸素キャリアを供給する第2供給工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、炭酸カルシウムを熱分解する際に、熱分解温度以上に加熱された酸素キャリアに炭酸カルシウムを直接接触させることにより、簡易な構成で、効率的かつ低コストに、高濃度な酸化カルシウムを製造することができる。また、同時に生成する二酸化炭素は、不純物が少なく高純度であるので、濃縮加工などの後工程を行うことなく、低コストで高純度な二酸化炭素源として利用することができる。
【0012】
また、本発明では、前記か焼反応工程と燃料反応工程とは1つの反応器で同時に行ってもよい。
【0013】
また、本発明では、前記か焼反応工程で分解生成した酸化カルシウムと二酸化炭素とを互いに分離する分離工程を更に備えていてもよい。
【0014】
また、本発明では、前記分離工程で分離された酸化カルシウムと、系外の二酸化炭素を含む排ガスとを混合して、前記排ガスの二酸化炭素と前記酸化カルシウムとを反応させて炭酸カルシウムを生成して前記か焼反応工程に供給する二酸化炭素吸収工程を更に備えていてもよい。
【0015】
また、本発明では、前記酸素キャリアは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化マンガン、硫酸カルシウムのうち、少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明では、前記空気燃焼工程は、1000℃以上、前記酸素キャリアの焼結温度以下の範囲で前記酸素キャリアを還元状態から酸化状態に変化させてもよい。
【0017】
また、本発明では、前記か焼反応工程では、酸化状態の前記酸素キャリアに加えて、さらに別な熱媒体を供給してもよい。
【0018】
なお、本発明の酸化カルシウムの製造方法を実施するための酸化カルシウムの製造システムの一例は、金属元素に対する酸素元素の結合数に応じて酸化状態と還元状態との間で変化することが可能な、金属酸化物を含む酸素キャリアと、還元状態の前記酸素キャリアと空気とを混合して、酸化温度以上の環境で前記空気に含まれる酸素を前記酸素キャリアに結合させて、前記酸素キャリアを酸化状態に変化させる空気燃焼部と、前記空気燃焼部で加熱された酸化状態の前記酸素キャリアの熱エネルギーによって、炭酸カルシウムを酸化カルシウムと二酸化炭素に分解するか焼反応部と、炭化水素、および水を混合して、前記空気燃焼部で加熱された酸化状態の前記酸素キャリアの熱エネルギーによって燃焼させ、前記酸化温度未満の還元温度の環境で酸化状態の前記酸素キャリアの結合酸素数を減らして前記酸素キャリアを還元状態にする燃料反応部と、前記空気燃焼部から前記か焼反応部および前記燃料反応部に酸化状態の前記酸素キャリアを供給する第1供給部と、前記燃料反応部から前記空気燃焼部に還元状態の前記酸素キャリアを供給する第2供給部と、を有することを特徴とする。
【0019】
また、前記か焼反応部と前記燃料反応部とは一体に形成されていてもよい。
【0020】
また、前記か焼反応部で分解生成した酸化カルシウムと二酸化炭素とを互いに分離する分離部を更に備えていてもよい。
【0021】
また、前記分離部で分離された酸化カルシウムと、系外の二酸化炭素を含む排ガスとを混合して、前記排ガスの二酸化炭素と前記酸化カルシウムとを反応させて炭酸カルシウムを生成して、前記か焼反応部に供給する二酸化炭素吸収部を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、カルシウムを含む原料を熱分解して酸化カルシウムを製造する際に生じる二酸化炭素を、簡易な構成で、低コストに高濃度化することが可能な酸化カルシウムの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態の酸化カルシウムの製造システムを示す概略構成図である。
図2】本発明の第2実施形態の酸化カルシウムの製造システムを示す概略構成図である。
図3】本発明の第3実施形態の酸化カルシウムの製造システムを示す概略構成図である。
図4】本発明の第4実施形態の酸化カルシウムの製造システムを示す概略構成図である。
図5】実施例の燃料反応塔から排出される排ガスの組成を示すグラフである。
図6】実施例の空気燃焼塔から排出される排ガスの組成を示すグラフである。
図7】CaCOとCaOの平衡温度と組成のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の酸化カルシウムの製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本発明の酸化カルシウムの製造方法を実施する第1実施形態の酸化カルシウムの製造システムを示す概略構成図である。
本実施形態の酸化カルシウムの製造システム10は、金属元素に対する酸素元素の結合数に応じて酸化状態と還元状態との間で変化することが可能な、金属酸化物を含む酸素キャリアを、酸素供給媒体および熱供給媒体として循環させて用いる。
【0026】
本実施形態では、酸素キャリアとして酸化鉄を用いる。こうした酸化鉄は、酸化カルシウムの製造システム10の系内を循環する間に、鉄元素に対する酸素元素の結合数が多い酸化状態の酸素キャリア(以下、酸化状態の酸素キャリアと称する)であるFe(酸化鉄(III))と、これよりも酸素元素の結合数が少ない還元状態の酸素キャリア(以下、還元状態の酸素キャリアと称する)であるFeO(酸化鉄(II))の2つの状態に変化する。
【0027】
酸化カルシウムの製造システム10は、空気燃焼部11と、か焼反応部および燃料反応部が一体に形成されたか焼・燃料反応部12と、この空気燃焼部11とか焼・燃料反応部12との間で酸素キャリアを移動させる第1供給路13、第2供給路14と、か焼・燃料反応部12に接続される分離部15と、を備えている。
【0028】
空気燃焼部11は、例えば反応塔から構成される。空気燃焼部11には、か焼・燃料反応部12と繋がる第2供給路14から、還元状態の酸素キャリアであるFeOが導入される。また、空気燃焼部11には、例えばファンによって空気(外気)等が導入される。
【0029】
空気燃焼部11は、酸化温度、例えば900℃以上、酸素キャリアの焼結温度以下(例えば1200℃以下)の温度環境で、空気に含まれる酸素をFeOに結合させて、酸化状態の酸素キャリアであるFeに変化させる(空気燃焼工程)。即ち、FeOと、空気中の酸素とが反応して、式(1)のようにFeが生成される。
4FeO+O→2Fe(-577kJ/mol)・・・(1)
【0030】
上述したFeOからFeへの反応は発熱反応であり、空気燃焼部11はこうした発熱反応により生じた熱エネルギーによって、1000℃~1200℃といった酸化温度に保たれる。
そして、空気燃焼部11で生成された酸化状態の酸素キャリアであるFeは、第1供給路13を介してか焼・燃料反応部12に供給される。
【0031】
また、空気燃焼工程によって空気から酸素が除かれた後の窒素は、そのまま空気燃焼部11の反応塔から排出されてもよく、窒素源又は熱源として利用することもできる。
【0032】
か焼・燃料反応部12は、か焼反応部と燃料反応部とが一体になったものであり、例えば反応塔から構成される。か焼・燃料反応部12には、空気燃焼部11と繋がる第1供給路13から、酸化状態の酸素キャリアであるFeが導入される。
【0033】
また、か焼・燃料反応部12には、酸化カルシウム(CaO)の生成原料である炭酸カルシウム(CaCO)が、例えば粉末状態で供給される。更に、か焼・燃料反応部12には、燃料である炭化水素源として例えば石炭と、水蒸気とが供給される。
【0034】
か焼・燃料反応部12は、空気燃焼部11で加熱された酸化状態の酸素キャリアの供給によって、例えば850℃~1000℃未満の温度環境で、炭酸カルシウムを熱分解して、式(2)のように酸化カルシウムと二酸化炭素とを生成する(か焼反応工程)。
CaCO→CaO+CO(+178kJ/mol)・・・(2)
【0035】
こうしたか焼反応工程によって生成する二酸化炭素は、炭酸カルシウムを熱分解したものであるから純度が高く、例えば、95~100vol%といった高純度の二酸化炭素が生成される。
【0036】
また、か焼・燃料反応部12は、空気燃焼部11で加熱された酸化状態の酸素キャリアの供給によって、空気燃焼部11の酸化温度よりも低い還元温度、例えば850~1000℃未満の温度環境で、燃料である石炭に含まれる炭素と水蒸気とを反応させて、式(3)のように一酸化炭素と水素とを生成し、更に、この一酸化炭素および水素と酸化状態の酸素キャリアであるFeとを反応させて、式(4)のように還元状態の酸素キャリアであるFeOと二酸化炭素とを生成する(燃料反応工程)。
C+HO→CO+H(+131kJ/mol)・・・(3)
2Fe+CO+H→4FeO+CO+HO(+52kJ/mol)・・・(4)
【0037】
か焼・燃料反応部12で生じるか焼反応工程、燃料反応工程は、上述した式2に示すように、大きな吸熱反応であるため、反応を連続して適切に維持するために、反応熱源となる酸化状態の酸素キャリア(Fe)は、理論値よりも多く循環させることが好ましい。例えば、投入する原料であるCaCOを1モルに対して、反応熱源であるFeを8モル程度供給する。こうしたか焼反応工程での熱収支の一例を式(5)に示す。
CaCO(原料:800℃)+8Fe(反応熱源:1100℃)+0.5C(43℃)=CaO+2FeO+7Fe+1.5CO(生成物合計:850℃)・・・(5)
【0038】
か焼・燃料反応部12の燃料反応工程で生成された還元状態の酸素キャリアであるFeOは、第2供給路14を介して空気燃焼部11に向けて供給される(第2供給工程)。なお、こうした第2供給工程では、FeO以外にも、か焼・燃料反応部12で未反応のFeも空気燃焼部11に還流される。
【0039】
か焼・燃料反応部12に接続される分離部15は、か焼・燃料反応部12のか焼反応工程でCaCOの熱分解により生じたCaOおよびCOと、燃料反応工程で生じたCOとを導入して、CaOとCOとに固気分離する。分離部15には、例えば、サイクロン式固気分離装置や、フィルター式固気分離装置を用いることができる。
【0040】
このような分離部15を経て、高純度のCaOが製造される。また、分離されたCOは純度が高く(例えば、95~100vol%)、特に濃縮処理等を行わずにそのまま産業用の二酸化炭素源として用いることができる。
【0041】
以上のように、本実施形態の酸化カルシウムの製造方法によれば、炭酸カルシウムを熱分解する際に、熱分解温度以上に加熱された酸素キャリアに炭酸カルシウムを直接接触させることにより、簡易な構成で、効率的かつ低コストに、高濃度な酸化カルシウムを製造することができる。
また、同時に生成する二酸化炭素は、不純物が少なく高純度であるので、濃縮加工などの後工程を行うことなく、産業用の低コストな二酸化炭素源として利用することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、酸素キャリアとして酸化鉄を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、酸素キャリアとして酸化ニッケル、酸化銅、酸化マンガンを挙げることができる。
酸化ニッケル:NiO(還元状態の酸素キャリア)、Ni(酸化状態の酸素キャリア)
酸化銅:CuO(還元状態の酸素キャリア)、CuO(酸化状態の酸素キャリア)
酸化マンガン:MnO(還元状態の酸素キャリア)、MnO(酸化状態の酸素キャリア)
【0043】
また、本実施形態では、燃料である炭化水素源として石炭を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、固体燃料、液体燃料、ガス燃料等を用いることができる。固体燃料としては石炭の他に、バイオマス、廃プラスチック、可燃ゴミなどが挙げられる。液体燃料としては、アルコール、軽油、重油などが挙げられる。ガス燃料としては、天然ガス、メタンガスなどが挙げられる。
【0044】
また、本実施形態で酸化カルシウムの生成原料として用いる炭酸カルシウムは、天然鉱石である石灰石、ドロマイト、およびプロセス中でCaOとCOとが再結合して生成されるCaCOなどが含まれる。
【0045】
(第2実施形態)
図2は、本発明の酸化カルシウムの製造方法を実施する第2実施形態の酸化カルシウムの製造システムを示す概略構成図である。
なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態の酸化カルシウムの製造システム20は、空気燃焼部11と、か焼反応部21と、燃料反応部22と、空気燃焼部11とか焼反応部21との間、およびか焼反応部21と燃料反応部22との間で酸化状態の酸素キャリアをそれぞれ移動させる第1供給路13A,13Bと、燃料反応部22と空気燃焼部11との間で還元状態の酸素キャリアを移動させる第2供給路14と、か焼反応部21に接続される分離部15と、を備えている。
【0046】
か焼反応部21は、例えば反応塔から構成される。か焼反応部21には、空気燃焼部11と繋がる第1供給路13Aから、酸化状態の酸素キャリアであるFeが導入される。また、か焼反応部21には、酸化カルシウム(CaO)の生成原料である炭酸カルシウム(CaCO)が、例えば粉末状態で供給される。
【0047】
か焼反応部21では、空気燃焼部11で加熱された酸化状態の酸素キャリアの供給によって、例えば900℃~1050℃の温度環境で炭酸カルシウムを熱分解して、上述した式(2)のように酸化カルシウムと二酸化炭素とを生成する(か焼反応工程)。
か焼反応部21のか焼反応工程でCaCOの熱分解により生じたCaOおよびCOは、分離部15に導入された後、CaOとCOとに固気分離される。
【0048】
燃料反応部22は、例えば反応塔から構成される。燃料反応部22には、か焼反応部21と繋がる第1供給路13Bから、酸化状態の酸素キャリアであるFeが導入される。また、燃料反応部22には、燃料である炭化水素源として例えば石炭と、水蒸気とが供給される。
【0049】
燃料反応部22は、か焼反応部21で炭酸カルシウム(CaCO)の熱分解のための熱を供給した後の酸化状態の酸素キャリアの供給によって、空気燃焼部11の酸化温度よりも低い還元温度、例えば800℃~900℃の環境で、燃料である石炭に含まれる炭素と水蒸気とを反応させて、上述した式(3)のように一酸化炭素と水素とを生成し、更に、この一酸化炭素および水素と酸化状態の酸素キャリアであるFeとを反応させて、上述した式(4)のように還元状態の酸素キャリアであるFeOと二酸化炭素とを生成する(燃料反応工程)。燃料反応部32で生成された還元状態の酸素キャリア(FeO)は、第2供給路14を介して空気燃焼部11に導入される。
【0050】
こうした構成の第2実施形態では、か焼反応部21と燃料反応部22とをそれぞれ独立して設け、空気燃焼部11で加熱された酸化状態の酸素キャリアを、吸熱量がより大きい吸熱反応(式(2))が生じるか焼反応部21に先に供給し、その後、か焼反応部21で若干温度の下がった酸化状態の酸素キャリアを燃料反応部22に供給して、吸熱量が小さい吸熱反応(式(3)、式(4))の熱源として用いている。
こうした構成により、炭酸カルシウム(CaCO)の処理効率を高め、空気燃焼部11で加熱された酸化状態の酸素キャリアの熱をより有効に利用することができる。
【0051】
(第3実施形態)
図3は、本発明の酸化カルシウムの製造方法を実施する第3実施形態の酸化カルシウムの製造システムを示す概略構成図である。
なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態の酸化カルシウムの製造システム30は、空気燃焼部11と、か焼反応部31と、燃料反応部32と、空気燃焼部11とか焼反応部31との間、および空気燃焼部11と燃料反応部32との間で酸化状態の酸素キャリアをそれぞれ移動させる第1供給路13C,13D,13Eと、燃料反応部32と空気燃焼部11との間で還元状態の酸素キャリアを移動させる第2供給路14と、か焼反応部31に接続される分離部15と、を備えている。
【0052】
か焼反応部31は、例えば反応塔から構成される。か焼反応部31には、空気燃焼部11と繋がる第1供給路13Cから、酸化状態の酸素キャリアであるFeが導入される。本実施形態では、か焼反応部31に供給される酸素キャリアは、反応に寄与しない熱媒体(熱源)であり、空気燃焼部11から第1供給路13Cを介してか焼反応部31に供給され、か焼反応部31から第1供給路13Dを介して空気燃焼部11に還流されるまで、酸素キャリア(熱媒体)の組成は変化しない。
【0053】
こうした熱媒体としては、か焼反応部31に供給する酸素キャリアとは異なる組成のものであってもよい。例えば、か焼反応部31に供給される熱媒体としては、酸化鉄以外にも、酸化アルミニウムや酸化ケイ素なと、熱容量の大きなものを用いることができる。
なお、か焼反応部31を流れる熱媒体と、燃料反応部32に流れる酸素キャリアとを異なる物質にする場合、空気燃焼部11の出口部分に粒度によって分級を行う分離装置などを設けて、熱媒体と酸素キャリアとを分離すればよい。
【0054】
か焼反応部31には、酸化カルシウム(CaO)の生成原料である炭酸カルシウム(CaCO)が、例えば粉末状態で供給される。そして、か焼反応部31では、空気燃焼部11で加熱された熱媒体としての酸素キャリアの供給によって、例えば900℃~1050℃の温度環境で炭酸カルシウムを熱分解して、上述した式(2)のように酸化カルシウムと二酸化炭素とを生成する(か焼反応工程)。
か焼反応部31のか焼反応工程でCaCOの熱分解により生じたCaOおよびCOは、分離部15に導入された後、CaOとCOとに固気分離される。
【0055】
燃料反応部32は、例えば反応塔から構成される。燃料反応部32には、空気燃焼部11と繋がる第1供給路13Eから、酸化状態の酸素キャリアであるFeが導入される。また、燃料反応部32には、燃料である炭化水素源として例えば石炭と、水蒸気とが供給される。
【0056】
燃料反応部32は、空気燃焼部11から酸化状態の酸素キャリアであるFeの供給によって、空気燃焼部11の酸化温度よりも低い還元温度、例えば800℃~900℃の環境で、燃料である石炭に含まれる炭素と水蒸気とを反応させて、上述した式(3)のように一酸化炭素と水素とを生成し、更に、この一酸化炭素および水素と酸化状態の酸素キャリアであるFeとを反応させて、上述した式(4)のように還元状態の酸素キャリアであるFeOと二酸化炭素とを生成する(燃料反応工程)。燃料反応部32で生成された還元状態の酸素キャリア(FeO)は、第2供給路14を介して空気燃焼部11に導入される。
【0057】
こうした構成の第3実施形態では、か焼反応部31と燃料反応部32とをそれぞれ独立して設け、か焼反応部31には組成が変化しない熱媒体としての酸素キャリアを供給し、燃料反応部32には酸化状態の酸素キャリアを供給して還元状態の酸素キャリアに変化させて空気燃焼部11に還流させる構成にすることで、炭酸カルシウム(CaCO)の処理効率を高め、空気燃焼部11で加熱された酸素キャリアの熱をより有効に利用することができる。
【0058】
(第4実施形態)
図4は、本発明の酸化カルシウムの製造方法を実施する第4実施形態の酸化カルシウムの製造システムを示す概略構成図である。
なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態の酸化カルシウム製造システム40は、空気燃焼部11と、か焼反応部および燃料反応部が一体に形成されたか焼・燃料反応部12と、この空気燃焼部11とか焼・燃料反応部12との間で酸素キャリアを移動させる第1供給路13、第2供給路14と、か焼・燃料反応部12に接続される分離部15と、二酸化炭素吸収部41と、を備えている。
【0059】
二酸化炭素吸収部41は、例えば反応塔から構成される。二酸化炭素吸収部41には、か焼・燃料反応部12で生成された酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO)とが分離部15で固気分離されたCaOが導入される。また、二酸化炭素吸収部41には、COを含む排ガスが導入される。
【0060】
二酸化炭素吸収部41は、例えば400~600℃の温度環境で、排ガスに含まれるCOをCaOに結合させて、炭酸カルシウム(CaCO)に変化させる(二酸化炭素吸収工程)。即ち、CaOとCOとが反応して、式(6)のようにCaCOが生成される。
CaO+CO→CaCO(-178kJ/mol)・・・(6)
【0061】
そして、二酸化炭素吸収部41で生成されたCaCOは、か焼・燃料反応部12に供給され、空気燃焼部11から供給される酸化状態の酸素キャリアであるFeの熱によって、再びCaOとCOに熱分解される。
【0062】
こうした構成の第4実施形態では、生成したCaOを排ガスに含まれるCOの吸収に用いることにより、COを多量に含む排ガス中のCOを取り除いて、温室効果ガスを低減したクリーンなガスとして大気中に放出させることができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0064】
以下、本発明の効果を検証した。
内部の温度が950℃になるように設定した燃料反応塔(内容積0.02m)と、内部の温度が1100℃になるように設定した空気燃焼塔(内容積0.03m)との間に、酸化鉄からなる酸素キャリア(酸化状態Fe、還元状態FeO)を循環させた。燃料反応塔には石炭および水蒸気、空気燃焼塔には空気をそれぞれ導入した。
【0065】
そして、燃料反応塔から排出される排ガス、および空気燃焼塔から排出される排ガスをそれぞれ採取し、組成を分析した。燃料反応塔から排出される排ガスの組成を図5に、空気燃焼塔から排出される排ガスの組成を図6にそれぞれ示す。なお、実施例では、実験開始1時間後に石炭の単位時間当たりの投入量を2倍に増加させている。
【0066】
図5および図6に示す結果から、燃料反応塔からの排ガス組成はCOが殆どであり、空気燃焼塔の排ガス中の酸素が石炭供給量の増加とともに減少していることがわかる。こうした結果から、酸化状態の酸素キャリア(Fe)が石炭中の炭素と水素に反応したこと(式(3)、式(4)を参照)、および還元状態の酸素キャリア(FeO)が空気燃焼塔で空気中の酸素によって再び酸化されたこと(式(1)を参照)が確認できた。
【0067】
次に、第1実施形態に示すか焼・燃料反応部について、CaCOとCaOの平衡温度と組成に関してシミュレーションを行った。この結果を図7に示す。
図7に示す結果によれば、750℃付近でCaCOとCaOとが平衡になる。CaCOとCaOの分圧比が2:8になる850℃以上で、かつ空気燃焼部の温度未満の範囲になるようにか焼・燃料反応部の温度を設定することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、セメント製造プラントなど、酸化カルシウムを必要とする各種製造プラントに幅広く適用することができる。また、製造した酸化カルシウムを用いて二酸化炭素を吸収できるので、二酸化炭素を含む排ガスを排出する各種製造プラントの排ガス浄化処理にも適用することができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7