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特開2022-99892リニアモータの冷却構造及び該冷却構造を備えた可動コイル型リニアモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099892
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】リニアモータの冷却構造及び該冷却構造を備えた可動コイル型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20220628BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K9/19 Z
H02K9/19 A
H02K9/19 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213956
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小口 洋平
【テーマコード(参考)】
5H609
5H641
【Fターム(参考)】
5H609BB08
5H609BB19
5H609PP05
5H609QQ04
5H609QQ23
5H641BB06
5H641GG02
5H641GG07
5H641HH03
5H641JB05
(57)【要約】
【課題】可動コイル部材自体に冷却機能を有していない可動コイル型リニアモータに対する後付けが可能であり、後付けであっても高い冷却性能を発揮でき、冷媒の漏れもないリニアモータの冷却構造、及び、この冷却構造を備えた可動コイル型リニアモータを提供する。
【解決手段】それぞれの内部に設けられた段差部による空隙が連通する連通部に可動コイル部材3を収容する態様にて、第1ジャケット1及び第2ジャケッ2が重ね合わされており、この連通部に冷媒を通流して可動コイル部材3のコイルに発生する熱を放散する。ステイ4を貫通して、冷媒の流路を設ける。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動コイル部材を備える可動コイル型リニアモータに後付けされ、冷媒の流通にて前記可動コイル部材を冷却するためのリニアモータの冷却構造であって、
それぞれの内部に設けられた段差部による空隙が連通するように2つのジャケットが重ね合わされている重合体を備えており、前記重合体の前記空隙が連通する連通部に前記可動コイル部材を収容して、前記連通部へ前記冷媒を流すように構成されていることを特徴とするリニアモータの冷却構造。
【請求項2】
一端が注入口に連なり他端が前記連通部に連通する前記冷媒の第1ステイ流路と、一端が排出口に連なり他端が前記連通部に連通する前記冷媒の第2ステイ流路とが設けられているステイを更に備えており、前記第1ステイ流路は前記ステイ内部を貫通しており、前記第1ステイ流路、前記連通部、及び前記第2ステイ流路にこの順に前記冷媒を流すように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のリニアモータの冷却構造。
【請求項3】
冷媒の流路が内部を貫通して設けられているステイを更に備えていることを特徴とする請求項1に記載のリニアモータの冷却構造。
【請求項4】
前記2つのジャケットがボルトにて締結されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリニアモータの冷却構造。
【請求項5】
前記2つのジャケットの一方と前記可動コイル部材との接触部分、前記2つのジャケットの他方と前記可動コイル部材との接触部分、及び、前記2つのジャケットの一方と他方との接触部分のうちの少なくとも一つの接触部分に接着剤が塗布されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のリニアモータの冷却構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のリニアモータの冷却構造が後付けされていることを特徴とする可動コイル型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動コイル型リニアモータを冷却するための冷却構造、及び、この冷却構造を備えた可動コイル型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、液晶製造装置、または、半導体素子もしくは液晶ディスプレイ等の検査装置においては、各種部品の搬送機構として2軸のステージ装置、いわゆるX-Yステージが使用されている。X-Yステージは、定盤に対して所定方向(X方向)に移動するXステージと、X方向に直交する方向(Y方向)に移動するYステージとを備える。Xステージ、Yステージそれぞれは、駆動部により移動するキャリッジを含んでおり、これらのキャリッジをX方向またはY方向に直線移動させる手段として、リニアモータが使用されている。
【0003】
このようなリニアモータの一例として、ヨークに支持された複数の永久磁石を有する固定子と、永久磁石の磁界内を横切る電流が流れる空芯のコイルを有する可動子とを組み合わせた空芯の可動コイル型リニアモータが用いられている。この可動コイル型リニアモータにあっては、キャリッジを高速に移動させるために、コイルに流す駆動電流を増加させることが一般的に行われている。コイルに流す駆動電流が増加すると、発熱量は電流の二乗に比例するため、コイルの電気抵抗の増加、永久磁石の磁性劣化などにより、リニアモータの特性が悪くなる場合がある。よって、温度上昇を抑制してリニアモータの安定した特性を維持するために、冷却を行う必要がある。
【0004】
コイル側に冷媒を流して冷却を行う手法として、特許文献1には、コイルを樹脂でモールドしてなる可動コイル部材の両面をジャケットで挟み、可動コイル部材の内部に冷媒を流して駆動時のコイルの発熱を抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-184492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたリニアモータにあっては、可動コイル部材の内部に冷媒の流路を形成する必要がある、可動コイル部材とジャケットとの特別な嵌め合い構造を設ける必要があるなどの理由により、可動コイル部材及びジャケットそれぞれを専用に設計して作製しなければならず、作製コストが嵩むという問題がある。
【0007】
ところで、例えば特開2002-165434号公報にも開示されているように、可動コイル部材自体に冷媒による冷却機能を有していない空芯の可動コイル型リニアモータも存在する。この可動コイル型リニアモータでは、可動コイル部材を固定する固定板に冷媒通路を設けて温度上昇を抑制している。しかしながら、この構成では、コイルを効率よく冷却できる冷媒の流路が存在せず、十分な冷却効果を得ることが難しい。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、可動コイル部材自体に冷却機能を有していない可動コイル型リニアモータに対する後付けが可能であり、後付けであっても高い冷却性能を発揮でき、冷媒の漏れもないリニアモータの冷却構造、及び、この冷却構造を備えた可動コイル型リニアモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るリニアモータの冷却構造は、可動コイル部材を備える可動コイル型リニアモータに後付けされ、冷媒の流通にて前記可動コイル部材を冷却するためのリニアモータの冷却構造であって、それぞれの内部に設けられた段差部による空隙が連通するように2つのジャケットが重ね合わされている重合体を備えており、前記重合体の前記空隙が連通する連通部に前記可動コイル部材を収容して、前記連通部へ前記冷媒を流すように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明のリニアモータの冷却構造にあっては、内部に段差部が設けられた2つのジャケットを重ねて、段差部による空隙が連通する重合体の連通部に可動コイル部材を収容し、この連通部(可動コイル部材の収容領域)に冷媒を流して、可動コイル部材を冷却する。よって、可動コイル部材自体に冷却機能を有していない可動コイル型リニアモータに対して、高い冷却性能を果たし得る冷却構造を後付けすることが可能である。
【0011】
本発明に係るリニアモータの冷却構造は、一端が注入口に連なり他端が前記連通部に連通する前記冷媒の第1ステイ流路と、一端が排出口に連なり他端が前記連通部に連通する前記冷媒の第2ステイ流路とが設けられているステイを更に備えており、前記第1ステイ流路は前記ステイ内部を貫通しており、前記第1ステイ流路、前記連通部、及び前記第2ステイ流路にこの順に前記冷媒を流すように構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明のリニアモータの冷却構造にあっては、内部を貫通して重合体の連通部に連なる第1ステイ流路と、重合体の連通部に連なる第2ステイ流路とを有するステイを備えて、外部から、第1ステイ流路、重合体の連通部(可動コイル部材の収容領域)、第2ステイ流路の順に冷媒を循環させて、可動コイル部材を冷却する。可動コイル部材の端部に近接したステイ内にも冷媒を流す構成であるため、重合体内部の冷媒の流れだけでは冷却性能が低いコイル端部においても高い冷却性能が得られる。
【0013】
本発明に係るリニアモータの冷却構造は、冷媒の流路が内部を貫通して設けられているステイを更に備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明のリニアモータの冷却構造にあっては、重合体内部の冷媒の流れとは独立的に、可動コイル部材の端部に近接するステイ内に貫通して設けられた流路内に冷媒を流す。よって、重合体内部の冷媒の流れでは冷却性能が低いコイル端部においても高い冷却性能が得られる。
【0015】
本発明に係るリニアモータの冷却構造は、前記2つのジャケットがボルトにて締結されていることを特徴とする。
【0016】
本発明のリニアモータの冷却構造にあっては、ボルトによって2つのジャケットが締結されている。よって、2つのジャケットの封止性は高く、冷媒の漏れを抑止できる。
【0017】
本発明に係るリニアモータの冷却構造は、前記2つのジャケットの一方と前記可動コイル部材との接触部分、前記2つのジャケットの他方と前記可動コイル部材との接触部分、及び、前記2つのジャケットの一方と他方との接触部分のうちの少なくとも一つの接触部分に接着剤が塗布されていることを特徴とする。
【0018】
本発明のリニアモータの冷却構造にあっては、一方のジャケットと可動コイル部材との接触部分、他方のジャケットと可動コイル部材との接触部分、及び、両ジャケットの接触部分のうちの少なくとも一つの接触部分に接着剤が塗布されている。よって、封止における気密性が更に向上する。
【0019】
本発明に係る可動コイル型リニアモータは、上述したような冷却構造が後付けされていることを特徴とする。
【0020】
本発明の可動コイル型リニアモータにあっては、可動コイル部材自体に冷却機能を有していないタイプについても高い冷却性能を有する冷却構造を後付けすることが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可動コイル部材自体に冷却機能を有していない可動コイル型リニアモータに対して、冷却性能が高い冷却構造を後付けすることが可能である。よって、可動コイル型リニアモータにおける温度上昇を容易に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る冷却構造の構成を示す外観斜視図である。
図2】本発明に係る冷却構造の構成を示す分解斜視図である。
図3】第1ジャケットの構成を示す斜視図である。
図4】第2ジャケットの構成を示す斜視図である。
図5】第2ジャケット及び可動コイル部材の構成を示す斜視図である。
図6】第2ジャケット及びコイルの構成を示す斜視図である。
図7】第1ジャケット、可動コイル部材、及び第2ジャケットを重ねた構成を示す斜視図である。
図8】第1ジャケット、可動コイル部材、及び第2ジャケットを重ねた構成を示す部分破断斜視図である。
図9】接着剤を塗布した形態を示す断面図である。
図10】冷媒を通流している状態での冷却構造を示す模式的断面図である。
図11】第1実施の形態によるリニアモータの冷却構造の正面側(第1ジャケット側)を示す外観図である。
図12】第1実施の形態によるリニアモータの冷却構造の背面側(第2ジャケット側)を示す外観図である。
図13】第1実施の形態における第2ジャケット、コイル、及びステイの構成を示す斜視図である。
図14】第1実施の形態における冷媒の流路を模式的に示す斜視図である。
図15】第1実施の形態と比較例とにおける各部材の温度上昇を表す図表である。
図16】第2実施の形態によるリニアモータの冷却構造の正面側(第1ジャケット側)を示す外観図である。
図17】第2実施の形態によるリニアモータの冷却構造の背面側(第2ジャケット側)を示す外観図である。
図18】第2実施の形態における第2ジャケット、コイル、及びステイの構成を示す斜視図である。
図19】第3実施の形態の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明の冷却構造が適用される空芯の可動コイル型リニアモータの構成について簡単に説明する。
【0024】
この可動コイル型リニアモータは、固定子と可動子とを含んでいる。固定子は、強磁性材からなる平板状のヨークの一面に、磁化方向が可動子の可動方向と直交するメイン磁石と、磁化方向が可動子の可動方向と平行であるスペーサ磁石とを交互に固定させた構成をなす一対の磁石列を対向配置させた構成を有している。
【0025】
一方、可動子は、空芯の多相コイルを樹脂でモールドしてなる矩形板状の可動コイル部材を有している。そして、各コイルに電流を流すことにより、各コイルに発生する磁束と固定子の磁石との電磁作用により、固定子の内部に形成された磁気空隙内を可動子が直線的に移動する。
【0026】
以下、本発明に係る冷却構造について、その実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1及び図2はそれぞれ、本発明に係る冷却構造10の構成を示す外観斜視図及び分解斜視図である。この冷却構造10は、第1ジャケット1、第2ジャケット2、可動コイル部材3、及びステイ4を備えている。第1ジャケット1、可動コイル部材3、及び第2ジャケット2を上から順に重ねた重合体5に、言い換えると、第1ジャケット1と第2ジャケット2との間に可動コイル部材3を挟んだ重合体5に、ステイ4を取り付けて、冷却構造10は構成されている。
【0028】
図3は、第1ジャケット1の構成を示す斜視図である。第1ジャケット1は、矩形板状をなしており、第1ジャケット1の幅方向一端部及び長手方向両端部には段差部11が設けられている。この段差部11により第1ジャケット1の内部に空隙12が形成される。この空隙12内の底面には、長手方向の2列にわたって6個ずつ矩形状の凸部13が設けられ各凸部13には貫通孔14が形成されている。
【0029】
図4は、第2ジャケット2の構成を示す斜視図であり、第2ジャケット2は、第1ジャケット1と同形状である矩形板状をなしている。第2ジャケット2は、第1ジャケット1と同様に、その幅方向一端部及び長手方向両端部には段差部21が設けられており、この段差部21により第2ジャケット2の内部に空隙22が形成される。また、空隙12内の底面には、第1ジャケット1の凸部13及び貫通孔14に対応する位置に、長手方向の2列にわたって6個ずつ矩形状の凸部23が設けられ各凸部23にはネジ穴24が形成されている。なお、凸部23及びネジ穴24の代わりにインサートナットを設けても良い。
【0030】
第1ジャケット1及び第2ジャケット2は、剛性が高く、電気的絶縁性、耐水性を有する材料で作製されており、例えば、ガラスエポキシ樹脂で作製されている。
【0031】
図5は、第2ジャケット2及び可動コイル部材3の構成を示す斜視図であり、第2ジャケット2に可動コイル部材3を載置した態様を示している。また、図6は、第2ジャケット2及びコイル31の構成を示す斜視図であり、可動コイル部材3内の多相のコイル31の配置が明瞭となるように、図5からモールド用の樹脂32を除去した態様を示している。
【0032】
可動コイル部材3は、前述したように、空芯の多相のコイル31(図6参照)を樹脂32でモールドして構成され、矩形板状をなしている。可動コイル部材3には、第1ジャケット1及び第2ジャケット2の貫通孔14及びネジ穴24に対応する位置に、長手方向の2列にわたって6個ずつの貫通孔33が形成されている。
【0033】
樹脂32には、剛性が高く、電気的絶縁性、耐水性を有する材料が使用され、例えば、ガラスエポキシ樹脂が使用される。多相のコイル31は、3相コイルであって、6個の偏平形状の空芯コイル(U相コイル(U1~U2)、V相コイル(V1~V2)、W相コイル(W1~W2))を重ならないように配設した構成を有する。
【0034】
可動コイル部材3を間に挟み込んだ状態で第1ジャケット1と第2ジャケット2とが重ね合わせられて重合体5となる。この際、第1ジャケット1の段差部11と第2ジャケット2の段差部21とが接合するように、言い換えると、第1ジャケット1内部の空隙12と第2ジャケット2内部の空隙22とが連通するように、第1ジャケット1と第2ジャケット2とが重ね合わせられ、この空隙12及び空隙22が連通する連通部51(図8参照)に可動コイル部材3を収容する態様である。
【0035】
図7及び図8は、このように第1ジャケット1、可動コイル部材3、及び第2ジャケット2を重ねた構成を示す斜視図及び部分破断斜視図である。
【0036】
第1ジャケット1の貫通孔14、可動コイル部材3の貫通孔33、及び第2ジャケット2のネジ穴24にボルト6を通して、第1ジャケット1、可動コイル部材3、及び第2ジャケット2が締結される。
【0037】
これらを重ね合わせた重合体5の密閉度を高めるために、接着剤を用いても良い。図9は、接着剤7を塗布した形態を示す断面図である。第1ジャケット1と第2ジャケット2との接触部分(第1ジャケット1の段差部11及び第2ジャケット2の段差部21の一方または両方)、第1ジャケット1と可動コイル部材3との接触部分、及び、可動コイル部材3と第2ジャケット2との接触部分に接着剤7を塗布している。接着剤7としては、例えばシリコン系の材料を用いる。この接着剤7の塗布は、平坦性の矯正にも寄与する。なお、3箇所全ての接触部分に接着剤7を塗布する形態としたが、必要性に応じて、これらの3箇所の接触部分のうちの少なくとも一つの接触部分に接着剤7が塗布されておれば良い。
【0038】
上述したような構成を有する冷却構造10による冷却処理について説明する。図10は、冷媒8を通流している状態での冷却構造10を示す模式的断面図である。
【0039】
可動コイル部材3が収容されている領域、即ち、第1ジャケット1内部の空隙12と第2ジャケット2内部の空隙22とが連通する連通部51に冷媒8(図10にハッチングを付して示す)を流す。この際、一部の冷媒8は、可動コイル部材3の貫通孔33を流れる。コイル31の外周面に近接する位置を流動する冷媒8によって、コイル31の外周面から発する熱を取り去ることが可能となり、コイル31自体及びその周辺部の温度上昇を抑制できる。
【0040】
使用する冷媒8としては、熱的かつ化学的に安定しており、不燃性、無毒、無臭で、耐環境性に優れた液体が有効である。耐環境性の点からは自然冷媒(水)が好適であり、一方、伝熱性を考慮する場合にはフッ素系不活性液体が好ましい。
【0041】
以下、冷媒8の流路構成が異なる本発明のいくつかの実施の形態について説明する。
【0042】
(第1実施の形態)
第1実施の形態は、冷却構造10としてステイ4を含んでおり、重合体5及びステイ4内を一連に冷媒8を流動させる形態である。図11は第1実施の形態による冷却構造10の正面側(第1ジャケット1側)を示す外観図であり、図12は同じく冷却構造10の背面側(第2ジャケット2側)を示す外観図である。また、図13は第1実施の形態における第2ジャケット2、コイル31、及びステイ4の構成を示す斜視図である。さらに、図14は第1実施の形態における冷媒8の流路を模式的に示す斜視図である。
【0043】
駆動対象の外部装置に可動子(可動コイル部材3)を取り付けるためのステイ4は、略直方体状をなし、その長手方向を重合体5の長手方向に沿わせて設けられている。ステイ4の側面からのボルト9による螺合により(図12参照)、ステイ4と重合体5とが締結されている。ステイ4の上面(図11)及び側面(図12)に見られる複数の孔41は、外部装置への接続時に使用する孔である。なお、ステイ4は、例えばアルミニウム製である。
【0044】
ステイ4には、ステイ4内を長手方向に貫通する長寸の第1ステイ流路42と、ステイ4の一端部に形成された短寸の第2ステイ流路43とが設けられている(図14参照)。第1ステイ流路42の一方端は、ステイ4の一端に設けられた注入口44に連なり、第1ステイ流路42の他方端は、可動コイル部材3が収容されている重合体5の連通部51の一方側と連通している。一方、第2ステイ流路43の一方端は、ステイ4の一端に設けられた排出口45に連なり、第2ステイ流路42の他方端は、可動コイル部材3が収容されている重合体5の連通部51の他方側と連通している。このような構成により、冷媒8の流路として、図14に示すように、上流側から順に、注入口44、第1ステイ流路42、重合体5の連通部51、第2ステイ流路43、及び排出口45に至る流路が構成されており、この流路内を冷媒8が流動する。そして、この冷媒8の流動により、可動コイル部材3(コイル31)が冷却される。
【0045】
この第1実施の形態にあっては、重合体5内の冷媒8の流動では、十分に冷媒8が到達し得ないと考えられるコイル31の一方の端部に近接するステイ4内に流路(第1ステイ流路42)を設けているため、この部分でもコイル31に対して高い冷却性能を果たすことができる。
【0046】
第1実施の形態による冷却構造10を備えた構成(本発明例)にてコイル31に通電し、各構成要素(コイル31、ステイ4、樹脂32)の温度上昇Δtを測定した。また、このような冷却構造を備えていない構成(比較例)にてコイルに通電し、各構成要素(コイル、ステイ、樹脂)の温度上昇Δtを測定した。これらの測定結果を図15に示す。
【0047】
図15に示す測定結果から、本発明例では、発熱に伴う温度上昇が小さくて、高い冷却性能を発揮できていることが理解される。
【0048】
(第2実施の形態)
第2実施の形態は、重合体5内部だけで冷媒8を流動させる形態である。図16は第2実施の形態による冷却構造10の正面側(第1ジャケット1側)を示す外観図であり、図17は同じく冷却構造10の背面側(第2ジャケット2側)を示す外観図である。また、図18は第2実施の形態における第2ジャケット2、コイル31、及びステイ4の構成を示す斜視図である。なお、図16図18にあって、図11図13と同一または同様な構成要素には同一番号を付している。
【0049】
第2実施の形態では、上記第1実施の形態のようにステイ4内に流路が設けられておらず、重合体5の連通部51に連なって注入口15及び排出口25が設けられている。このような構成により、冷媒8の流路として、上流側から順に、注入口15、重合体5の連通部51、及び排出口25に至る流路が構成されており、この流路内を冷媒8が流動する。そして、この冷媒8の流動により、可動コイル部材3(コイル31)が冷却される。
【0050】
第2実施の形態では、ステイ4に流路を形成しない構成であるため、簡易な構成にて冷却性能を発揮することができる。
【0051】
(第3実施の形態)
第3実施の形態は、冷却構造10としてステイ4を含んでおり、ステイ4内と重合体5内とで冷媒8の流路を独立的に設ける形態である。図19は、第3実施の形態を示す斜視図である。なお、図19にあって、図11及び図16と同一または同様な構成要素には同一番号を付している。
【0052】
略直方体状をなすステイ4には、ステイ4内を長手方向に貫通するステイ流路46が設けられている。ステイ流路46の一方端はステイ4の一端に設けられた注入口44に連なり、ステイ流路46の他方端はステイ4の他端に設けられた排出口45に連なっている。このような構成により、注入口44からステイ流路46を経由して排出口45へ向けて冷媒8が流動する。
【0053】
また、上記第2実施の形態と同様に、重合体5の連通部51に連通する注入口15及び排出口25が設けられている。そして、上記第2実施の形態と同様に、上流側から順に、注入口15、重合体5の連通部51、及び排出口25を通って冷媒8が流動する。このように、第3実施の形態は、上記第2実施の形態にステイ4内の流路を独立的に追加した形態とも言える。
【0054】
第3実施の形態では、重合体5内の冷媒8の流動と、ステイ4(ステイ流路46)内の冷媒8の流動とにより、可動コイル部材3(コイル31)が冷却される。この第3実施の形態にあっては、第1実施の形態と同様に、コイル31の一方の端部に近接するステイ4内に冷媒8が流れるため、この部分でもコイル31に対して高い冷却性能を発揮できる。また、冷媒8の流路を2系統に分けているため、それぞれの流路を流れる冷媒8を独立的に制御できるので、それぞれの流路に応じた冷媒8の高精度の流量調整を行うことが可能である。
【0055】
上述したように、本発明の可動コイル部材3では、冷媒の流路を形成しておく必要がなく、特許文献1における可動コイル部材に見られるようなジャケット固定用のインサートナットが設けられておらず、また、第1ジャケット1及び第2ジャケット2に嵌め合わされるための特別な部材も必要でないため、低コストでの作製が可能である。そして、本発明の冷却構造10では、このように、可動コイル部材3に特別な構成を必要としないため、冷却機能を有していない種々の可動コイル型リニアモータへの冷却構造10の適用性は高い。
【0056】
また、本発明の冷却構造10では、重合体5の気密性が高いため、冷媒8の漏れが生じることはなく、高い冷却性能を発揮できる。さらに、本発明の冷却構造10は、種々のタイプの可動コイル型リニアモータへの後付けが容易である。
【0057】
なお、上述した形態では、ボルト6を用いて、第1ジャケット1、可動コイル部材3、及び第2ジャケット2を締結するようにしたが、この固定機構は例示であって、例えば、第1ジャケット1、可動コイル部材3、及び第2ジャケット2をクランプ部材にて挟み込んで固定するなど、他の固定機構を利用するようにしても良い。
【0058】
なお、上述した形態では、可動コイル部材3が、コイル31を樹脂32でモールドした構成であるとしたが、この可動コイル部材3の構成は例示であって、別の構成をなす可動コイル部材を有する可動コイル型リニアモータにも本発明の冷却構造は適用可能である。
【0059】
開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
1 第1ジャケット
2 第2ジャケット
3 可動コイル部材
4 ステイ
5 重合体
6 ボルト
7 接着剤
8 冷媒
10 冷却構造
11、21 段差部
12、22 空隙
13、23 凸部
14 貫通孔
15 注入口
24 ネジ穴
25 排出口
31 コイル
32 樹脂
33 貫通孔
41 孔
42 第1ステイ流路
43 第2ステイ流路
44 注入口
45 排出口
46 ステイ流路
51 連通部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図17
図18
図19