(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099962
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】腐食促進装置、及び腐食促進方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214058
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 怜史
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050EB01
2G050EB02
2G050EC01
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で鋼材の腐食を促進すること。
【解決手段】腐食促進装置は、変動する磁場を発生する磁場発生機構と、内部に鋼材が設けられた対象物が配置される配置位置に対して、前記磁場発生機構が発生する磁場が届く位置に前記磁場発生機構を支持する支持部とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変動する磁場を発生する磁場発生機構と、
内部に鋼材が設けられた対象物が配置される配置位置に対して、前記磁場発生機構が発生する磁場が届く位置に前記磁場発生機構を支持する支持部と、
を有する腐食促進装置。
【請求項2】
前記磁場発生機構は、
コイルと、
前記コイルに交流電力を供給する交流電源と、
を備えた請求項1に記載の腐食促進装置。
【請求項3】
前記磁場発生機構は、
前記対象物に対して垂直方向に前記コイルを往復移動させる移動機構
をさらに備えた請求項2に記載の腐食促進装置。
【請求項4】
前記磁場発生機構は、
コイルと、
前記コイルに直流電力を供給する直流電源と、
前記対象物に対して垂直方向に前記コイルを往復移動させる移動機構と、
を備えた請求項1に記載の腐食促進装置。
【請求項5】
前記磁場発生機構は、
永久磁石と、
前記対象物に対して前記永久磁石を往復移動させる移動機構と、
を備えた請求項1に記載の腐食促進装置。
【請求項6】
内部に鋼材が設けられた対象物に対して、変磁場発生機構が発生する磁場が届く位置に前記磁場発生機構を配置し、
前記磁場発生機構が発生する変動する磁場を前記対象物に照射する
腐食促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食促進装置、及び腐食促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋などの鋼材が内部に設けられたコンクリート構造物において、鋼材の腐食は、コンクリート構造物の構造機能を著しく低下させる虞があり、事前に評価すべき劣化現象である。コンクリート構造物内の鋼材の腐食には、時間を要する。鋼材の腐食によるコンクリート構造物のリスクを評価するため、鋼材の腐食を促進する技術が提案されている。例えば、コンクリート構造物を模した、内部に鋼材が設けられた試験体を作成し、試験体に対して、乾湿を繰返して試験体内の鋼材の腐食を促進する方法が知られている。また、特許文献1には、試験体全体の温度を上げ腐食反応を促進させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、乾湿を繰返して鋼材を腐食させるには、比較的大掛かりな装置が必要となる。また、特許文献1の技術は、試験体全体の温度を上げるため、コンクリート等の変質が生じてしまい、また、比較的大掛かりな装置が必要となる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成で鋼材の腐食を促進できる腐食促進装置、及び腐食促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の腐食促進装置は、磁場発生機構と、支持部とを有する。磁場発生機構は、変動する磁場を発生させる。支持部は、内部に鋼材が設けられた対象物が配置される配置位置に対して、磁場発生機構が発生する磁場が届く位置に磁場発生機構を支持する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、簡易な構成で鋼材の腐食を促進できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、コンクリート構造物内の鉄筋の腐食を説明する概念図である。
【
図2】
図2は、コンクリート構造物内の鉄筋の腐食の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例に係る腐食促進装置の概略的な構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実験の概略的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る腐食促進装置、及び腐食促進方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例0010】
コンクリート構造物においては、コンクリート内に設けられた鉄筋などの鋼材が経年劣化により腐食し、腐食の進行に伴って鋼材が膨張することで、かぶりコンクリートの浮きやはく落を引き起こす虞がある。
【0011】
図1は、コンクリート構造物内の鉄筋の腐食を説明する概念図である。例えば、内部に鉄筋が設けられた塩害環境下のコンクリート構造物は、ひび割れや打継目、補修材近傍において、酸素や水、塩化物イオンの浸透が不均一となり、鉄筋位置の塩化物イオン濃度に差が出ることにより、塩化物イオン濃度の高い部分と低い部分が形成される。そして、塩化物イオン濃度の高い部分が陽極部(アノード部)となり、塩化物イオン濃度の低い部分が陰極部(カソード部)となって、鉄筋内に電位差が生じることで巨視的電池(マクロセル)が形成され、陽極部(アノード部)から陰極部(カソード部)へ腐食電流が流れることで、陽極部の腐食が促進されマクロセル腐食が発生する。
【0012】
図2は、コンクリート構造物内で予期せぬ早期の鉄筋の腐食が生じることがある断面補修の一例を示す図である。
図2には、鉄筋51が内部に設けられたコンクリート構造物50が示されている。コンクリート構造物50において、破線52の左側が補修材による補修が実施された補修部分50aであり、破線52の右側が当初の状態の未補修部分50bである。この場合、未補修部分50bには、補修部分50aとの境界(破線52)の近傍付近50cで鉄筋51にマクロセル腐食(鉄筋腐食)が発生しやすくなる。この補修材近傍でのマクロセル腐食(鉄筋腐食)による再劣化は、時に深刻で、十年未満で再劣化する場合もある。塩害環境下にあるコンクリート構造物に断面修復工法を適用する場合、未対策部に残存する塩化物がマクロセル腐食を誘発するため、再劣化の原因になるといわれている。
【0013】
鉄筋などの鋼材が内部に設けられたコンクリート構造物において、鋼材の腐食は、コンクリート構造物の構造機能を著しく低下させる虞があり、事前に評価すべき劣化現象である。しかし、コンクリート構造物内の鋼材の腐食には、時間を要する。そこで、以下に説明する腐食促進装置により、コンクリート構造物内の鋼材の腐食を促進する場合を説明する。
【0014】
[腐食促進装置]
本実施例に係る腐食促進装置10の構成を説明する。
図3は、実施例に係る腐食促進装置10の概略的な構成の一例を示す図である。腐食促進装置10は、磁場発生機構20と、支持部30とを有する。
【0015】
実施例に係る腐食促進装置10は、腐食を促進する対象物が隣接して配置される。例えば、腐食促進装置10は、腐食を促進する対象物として、内部に鋼材61が設けられたコンクリート構造物60が配置される。
【0016】
磁場発生機構20は、変動する磁場を発生する。支持部30は、コンクリート構造物60が配置される配置位置に対して、磁場発生機構20が発生する磁場が届く位置に磁場発生機構20を支持する。
【0017】
実施例に係る磁場発生機構20は、コイル21と、電源部22とを備える。また、実施例に係る支持部30は、フレーム31を備える。フレーム31は、コイル21を直接又は他の部材を介して間接的に支持する。電源部22は、フレーム31の外部に配置されている。なお、電源部22は、フレーム31内に配置してもよい。
【0018】
電源部22は、交流電源とする。電源部22は、配線を介してコイル21に接続され、コイル21に交流電力を供給する。コイル21は、交流電力が流れることで、交流電力の周波数に応じて変動する磁場を発生する。
【0019】
実施例に係る磁場発生機構20は、シリンダ23をさらに備える。シリンダ23は、伸縮可能なロッド23aが設けられている。シリンダ23は、フレーム31に設けられた支柱32により、ロッド23aが下側となるように支持されている。ロッド23aの先端には、コイル21が固定されている。シリンダ23には、ロッド23aが伸びた際に、コイル21がコンクリート構造物60の表面に接触せずに極力近くなるようにコイル21が固定されている。シリンダ23は、ロッド23aを伸縮させることで、コンクリート構造物60に対して垂直方向にコイル21を往復移動させる。実施例に係る磁場発生機構20は、コイル21に交流電力を流してコイル21から発生する磁場を変動させると共に、シリンダ23によりコイル21を往復移動させて磁場を変動させる。
【0020】
このように変動する磁場が発生することにより、コンクリート構造物60内の鋼材61には、変動する磁場が到達する範囲に電磁誘導により局所的に誘導電流が流れる。コンクリート構造物60内の鋼材61は、誘導電流が流れることで、鉄筋が腐食する。このように、実施例に係る腐食促進装置10は、コンクリート構造物60内の鋼材61に局所的に、誘導電流を発生させることができ、鋼材61の腐食を促進することができる。
【0021】
[実験結果]
ここで、腐食促進装置10による腐食の促進を実験した具体的な一例を用いて説明する。
図4は、実験の概略的な構成を示す図である。上述のコンクリート構造物60は、コンクリートを破壊しないと内部の鋼材61を取り出せない。このため、実験では、コンクリート構造物60を模擬した試験体70を複数製作した。試験体70では、コンクリートの代わりに、高吸水性ポリマーを用いた。試験体70としては、アクリル製の容器71内に、鋼材として鉄筋72を配置し、水酸化カルシウム、塩化ナトリウムを混ぜた溶液を吸収させた高吸水性ポリマー73で満たしたものを使用した。以下に試験体70の使用材料を記載する。
【0022】
使用材料:
・高吸水性ポリマー
・水酸化カルシウム(水道水に対して0.16kg/100kgの割合で溶解)
・塩化ナトリウム(10%)
・鉄筋(D10)
【0023】
試験体70は、表面から鉄筋72までのかぶり厚が1cmと4cmのものを複数製作した。実験では、試験体70に対して、腐食促進装置10により腐食を促進した場合と、腐食を促進しない場合を比較した。また、実験では、腐食促進装置10のコイル21の巻き数を5000回、20000回と変え、シリンダ23によるコイル21の上下運動の有無を変えてそれぞれ実施した。以下に実験を実施した環境条件を記載する。
【0024】
環境条件:
・温度:20℃
・電源部22:交流電圧100V、周波数50Hz
・上下運動:ストローク5センチ、最大速度300mm/s
【0025】
鉄筋72の腐食量は、初期の鉄筋72の重量から、腐食物を除去した鉄筋72の重量を減算して求めた。腐食物の除去は、JCI-SC1に準拠し、10%のクエン酸二アンモニウム水溶液に鉄筋72を24時間浸漬して腐食物を除去した。
【0026】
最初に、腐食促進装置10により腐食を促進した促進日数の影響について説明する。
図5は、実験結果を示す図である。
図5には、腐食が無い鉄筋72の腐食量と、腐食促進装置10により7日間と28日間腐食を促進した試験体70の鉄筋72の腐食量が示されている。腐食が無い鉄筋72の腐食量は、初期の鉄筋72の重量から、上述の腐食物の除去する手順を行った鉄筋72の重量を減算して求めた。鉄筋72は、腐食が無い場合でも、腐食物の除去する手順を行うことで、表面の被覆膜等が剥がれて重量が若干減少する。腐食が無い鉄筋72の腐食量は、腐食促進装置10により腐食を促進したことによる腐食の増加度合いを評価するためのリファレンスとなる。試験体70は、鉄筋72のかぶり厚を1cmとした。腐食促進装置10は、コイル21の巻き数を5000回とし、コイル21の上下運動を有りとした。
【0027】
図5に示すように、7日間の促進日数では、腐食があまり進行しておらず、28日間の促進日数では、腐食が進行している。このことから、鉄筋72の腐食は、促進日数に比例して増加するわけではなく、促進日数に対して指数的に増加すると推察できる。
【0028】
次に、コイル21の巻き数の影響について説明する。
図6は、実験結果を示す図である。
図6には、腐食を促進せずに28日間保管した試験体70と、腐食促進装置10により28日間腐食を促進した試験体70の鉄筋72の腐食量が示されている。腐食を促進しなかった試験体70の鉄筋72の腐食量は、腐食促進装置10により腐食を促進したことによる腐食の増加度合いを評価するためのリファレンスとなる。試験体70は、鉄筋72のかぶり厚を1cmとした。腐食促進装置10は、コイル21の巻き数を5000回と20000回としてそれぞれ実施し、コイル21の上下運動を有りとした。
【0029】
図6に示すように、腐食を促進した場合の方が何れも、腐食を促進せずに保管した場合よりも、腐食量が増加しており、腐食が進行している。また、コイル21の巻き数が20000回とした方が、コイル21の巻き数が5000回のよりも腐食量が増えている。このことから、コイル21の巻き数が増えると腐食の進行が速くなると推察できる。
【0030】
次に、鉄筋72のかぶり厚及びコイル21の上下運動の巻き数の影響について説明する。
図7は、実験結果を示す図である。
図7には、腐食を促進せずに28日間保管した試験体70と、腐食促進装置10により28日間腐食を促進した試験体70の鉄筋72の腐食量が示されている。腐食を促進しなかった試験体70の鉄筋72の腐食量は、腐食促進装置10により腐食を促進したことによる腐食の増加度合いを評価するためのリファレンスとなる。試験体70は、鉄筋72のかぶり厚を1cmと4cmとした。腐食促進装置10は、コイル21の巻き数を5000回とし、コイル21の上下運動を有りと無しでそれぞれ実施した。
【0031】
図7に示すように、促進した場合の方が何れも、腐食を促進せずに保管した場合よりも、腐食量が増加しており、腐食が進行している。また、鉄筋72のかぶり厚が1cmの方が、かぶり厚が4cmよりも腐食量が増えている。このことから、鉄筋72のかぶり厚が少ない方が腐食の進行が速くなると推察できる。なお、かぶり厚が4cmでも腐食は促進されている。また、鉄筋72のかぶり厚が1cmの場合でも、コイル21の上下運動有りの方と上下運動無しよりも腐食量が増えている。このことから、磁場の変動が多いと腐食の進行が速くなると推察できる。
【0032】
図5~
図7の実験結果から、コイル21の巻き数は、5000回から20000回の範囲でも腐食を促進でき、20000回よりも多くても腐食を促進できると推察できる。また、コイル21の巻き数が増えほど腐食をより促進できると推察できる。また、磁場の変動が多いと腐食の進行が速くなると推察できる。このことから、電源部22が供給する交流電力の周波数や電圧、コイル21の上下運動の周波数をそれぞれ高くする、コイルの巻き数を増やすと腐食をより促進できると推察できる。
【0033】
[効果]
このように、本実施例に係る腐食促進装置10は、磁場発生機構20と、支持部30とを有する。磁場発生機構20は、変動する磁場を発生する。支持部30は、内部に鋼材(鋼材61、鉄筋72)が設けられた対象物(コンクリート構造物60、試験体70)が配置される配置位置に対して、磁場発生機構20が発生する磁場が届く位置に磁場発生機構20を支持する。このように、腐食促進装置10は、従来のように乾湿を繰返して鋼材を腐食させる場合や、試験体全体の温度を上げ腐食反応を促進させる場合と比較して、対象物周辺の磁場の変化という簡易な構成で鋼材の腐食を促進できる。
【0034】
また、磁場発生機構20は、コイル21と、交流電源(電源部22)とを備える。交流電源は、コイル21に交流電力を供給する。このように、腐食促進装置10は、コイル21に交流電力を供給するという簡易な構成で変動する磁場を発生させることができ、鋼材の腐食を促進できる。
【0035】
また、磁場発生機構20は、移動機構(シリンダ23)をさらに備える。移動機構は、対象物に対して垂直方向にコイル21を往復移動させる。このように、腐食促進装置10は、移動機構によりコイル21を往復移動させるという簡易な構成で変動する磁場を発生させることができ、鋼材の腐食を促進できる。このように、腐食促進装置10は、交流電力を供給されたコイル21を往復移動させることで、磁場をより変動させることができ、鋼材の腐食をより促進できる。
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、開示の技術は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
磁場発生機構20は、変動する磁場を発生すれば、何れの構成であってもよい。例えば、上記の実施例では、電源部22を交流電源とし、電源部22からコイル21に交流電力を供給して変動する磁場を発生させる場合を例に説明したが、開示の装置はこれに限定されない。電源部22を直流電源とし、電源部22からコイル21に直流電力を供給し、シリンダ23でコイル21を往復移動させることで、変動する磁場を発生させてもよい。また、電源部22からコイル21へ供給する直流電力をオン、オフすることで、変動する磁場を発生させてもよい。
また、上記の実施例では、コイル21に電力を供給することでコイル21を電磁石として磁場を発生させる場合を例に説明したが、開示の装置はこれに限定されない。コイル21に代えて永久磁石を配置し、この永久磁石をシリンダ23でコイル21を往復移動させることで、変動する磁場を発生させてもよい。