(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100164
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/20 20060101AFI20230710BHJP
【FI】
H01L21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000653
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】土屋 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】曲 偉峰
【テーマコード(参考)】
5F152
【Fターム(参考)】
5F152LL03
5F152LL05
5F152LL09
5F152LL10
5F152LN01
5F152LN03
5F152LN05
5F152MM05
5F152NN03
5F152NN19
5F152NN30
(57)【要約】
【課題】シリコン単結晶基板を用いて窒化物半導体基板を製造した場合にエピタキシャル成長時やデバイス工程中の塑性変形による反り不良を抑制できる窒化物半導体基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】表面と裏面を有するシリコン単結晶基板の表面上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板であって、前記シリコン単結晶基板は、少なくとも前記表面と前記裏面に、炭素が注入されて前記シリコン単結晶基板のバルク部に比べて炭素濃度が高くなった炭素拡散層を有し、かつ、前記炭素拡散層の炭素濃度が5E+16atoms/cm
3以上であることを特徴とする窒化物半導体基板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と裏面を有するシリコン単結晶基板の表面上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板であって、
前記シリコン単結晶基板は、少なくとも前記表面と前記裏面に、炭素が注入されて前記シリコン単結晶基板のバルク部に比べて炭素濃度が高くなった炭素拡散層を有し、かつ、前記炭素拡散層の炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上であることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項2】
前記シリコン単結晶基板は、抵抗率が100Ωcm以上、かつ、酸素濃度が7E+17atoms/cm3以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体基板。
【請求項3】
前記炭素拡散層の厚さが1μm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体基板。
【請求項4】
前記シリコン単結晶基板の前記表面と前記窒化物半導体薄膜との間に、Al層を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項5】
前記Al層の厚さが1~5nmであることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体基板。
【請求項6】
表面と裏面を有するシリコン単結晶基板の表面上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板の製造方法であって、
(1)表面と裏面を有するシリコン単結晶基板を準備する工程、
(2)前記シリコン単結晶基板の少なくとも前記表面と前記裏面に、RTA法により炭素を注入して、炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上である炭素拡散層を形成する工程、及び
(3)前記炭素拡散層が形成されたシリコン単結晶基板の表面上に、気相成長により窒化ガリウムを含む窒化物半導体薄膜を成長させる工程
を含むことを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記工程(1)において、準備する前記シリコン単結晶基板を、抵抗率が100Ωcm以上、かつ、酸素濃度が7E+17atoms/cm3以下のものとすることを特徴とする請求項6に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記工程(2)において、前記炭素拡散層の厚さを1μm以上とすることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記工程(2)と前記工程(3)の間に、(2’)前記炭素拡散層が形成されたシリコン単結晶基板の前記表面上に、900℃以下の温度でトリメチルアルミニウム(TMA)を用いて、Al層を形成する工程を行うことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記工程(2’)において、前記Al層の厚さを1~5nmとすることを特徴とする請求項9に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波デバイスは、小型化、低コスト化に向けて、アンテナやアンプ、スイッチ、フィルター等のデバイスをインテグレーションする開発が進められている。また、周波数の高周波化に従い、回路が複雑化し、使用されるデバイスの材料もシリコンCMOS、III-V族半導体や窒化物半導体を用いたデバイス、圧電体を用いたフィルターなど多岐にわたっている。
【0003】
これらのデバイスの下地となる基板は、安価で大口径のウェーハが流通しているシリコン単結晶基板が適していると考えられる。特に、高周波デバイス用の基板としては、高抵抗で、サーマルドナーによる抵抗率の変化が少ない低酸素のシリコン単結晶基板が適していると考えられる。
【0004】
しかしながら、高抵抗低酸素のシリコン単結晶基板は、機械的特性が低抵抗CZ基板と比較して悪く、転位の伸長によって塑性変形を起こしやすいという問題がある。特にシリコン単結晶基板上のGaNの成長では格子定数差や熱膨張係数差による応力によって、反りの増大や塑性変形が起こりやすいので、成長条件や緩和層による応力低減が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1では、周期的に複数回積層された窒化ガリウム系化合物半導体の中間層を用いて、応力緩和を行い、反りやクラックが小さいウェーハを作製している。しかしながら、複雑な中間層を作製することにより、成長時間が長くなり、設計の自由度が小さくなることが懸念される。
【0006】
また、特許文献2では、バルク結晶段階で炭素ドーピングした後、RTAすることで強度の高いシリコン単結晶ウェーハを得る技術が開示されているが、炭素濃度をコントロールした結晶を得ることは難しく、歩留まりの低下が懸念される。
【0007】
また、特許文献3では、RTAによる炭素ドーピングの後、表層を除去する工程を入れている。表層を除去する工程により、エッチング残りによる欠陥や汚染が懸念され、表層を除去せずに鏡面状のGaNエピタキシャル層を成長する方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-79952号公報
【特許文献2】WO2004/008521号公報
【特許文献3】特開2021-008386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高周波デバイスでは、高周波特性を改善するため、デバイスやその支持基板、周辺のパッケージの寄生容量を減少させる必要がある。寄生容量の低減のため、サーマルドナーの発生しない高抵抗シリコン単結晶基板を支持基板やパッケージに利用すると、特性が改善されるとともに、コスト上もメリットがあると考えられる。
【0010】
一方、デバイスは基板上へのエピタキシャル成長や熱処理、貼り合わせなどの工程を含むが、その過程で異種の材料間の格子定数差や熱膨張係数差で基板に応力が発生する。しかしながら、高抵抗低酸素基板は、通常の低抵抗基板と比較して、有転位化した時に、塑性変形しやすいデメリットがある。塑性変形が起こるとウェーハが大きく歪み、形状が元に戻らないため、反り異常や接合不良が発生する恐れがある。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためなされたもので、シリコン単結晶基板を用いて窒化物半導体基板を製造した場合にエピタキシャル成長時やデバイス工程中の塑性変形による反り不良を抑制できる窒化物半導体基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、
表面と裏面を有するシリコン単結晶基板の表面上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板であって、
前記シリコン単結晶基板は、少なくとも前記表面と前記裏面に、炭素が注入されて前記シリコン単結晶基板のバルク部に比べて炭素濃度が高くなった炭素拡散層を有し、かつ、前記炭素拡散層の炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上である窒化物半導体基板を提供する。
【0013】
このような窒化物半導体基板であれば、シリコン単結晶基板を用いて窒化物半導体基板を製造した場合にエピタキシャル成長時やデバイス工程中の塑性変形による反り不良を抑制できる。
【0014】
また、前記シリコン単結晶基板は、抵抗率が100Ωcm以上、かつ、酸素濃度が7E+17atoms/cm3以下のものであることが好ましい。
【0015】
本発明では、高抵抗率で低酸素濃度の機械的強度が低いシリコン単結晶基板を用いた場合であっても、塑性変形や反りが抑制された窒化物半導体ウェーハとすることができる。
【0016】
また、前記炭素拡散層の厚さが1μm以上であることが好ましい。
【0017】
このような窒化物半導体基板であれば、少なくとも表裏面の1μmの領域の炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上となっているため、より確実にシリコン単結晶基板の転位の進展を防止して、塑性変形を防ぐことができる。
【0018】
また、前記シリコン単結晶基板の前記表面と前記窒化物半導体薄膜との間に、Al層を有するものであることが好ましい。
【0019】
シリコン単結晶基板の成長面側にAl層を有することで、シリコン単結晶基板とエピタキシャル層の密着性を向上させることができる。
【0020】
このとき、前記Al層の厚さが1~5nmであることが好ましい。
【0021】
厚さが5nm以下であれば、Al層の凹凸が小さくなりその上に成長する窒化物半導体層の表面粗さも小さくなる。また、厚さが1nm以上であれば、シリコン単結晶基板の表面が十分に被覆されて窒化物半導体薄膜の密着性をより向上させることができる。
【0022】
また本発明では、
表面と裏面を有するシリコン単結晶基板の表面上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板の製造方法であって、
(1)表面と裏面を有するシリコン単結晶基板を準備する工程、
(2)前記シリコン単結晶基板の少なくとも前記表面と前記裏面に、RTA法により炭素を注入して、炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上である炭素拡散層を形成する工程、及び
(3)前記炭素拡散層が形成されたシリコン単結晶基板の表面上に、気相成長により窒化ガリウムを含む窒化物半導体薄膜を成長させる工程
を含む窒化物半導体基板の製造方法を提供する。
【0023】
このようにシリコン単結晶基板にRTA法により高濃度の炭素を注入する製造方法であれば、シリコン単結晶の成長中に炭素をドープする方法のように単結晶化を阻害するようなこともなく、比較的容易で確実に塑性変形や反りが抑制された窒化物半導体ウェーハを製造することができる。
【0024】
また、前記工程(1)において、準備する前記シリコン単結晶基板を、抵抗率が100Ωcm以上、かつ、酸素濃度が7E+17atoms/cm3以下のものとすることが好ましい。
【0025】
本発明では、高抵抗率で低酸素濃度の機械的強度が低いシリコン単結晶基板を用いた場合であっても、塑性変形や反りが抑制された窒化物半導体ウェーハを製造することができる。
【0026】
また、前記工程(2)において、前記炭素拡散層の厚さを1μm以上とすることが好ましい。
【0027】
このような厚さとすれば、より確実にシリコン単結晶基板の転位の進展を防止することができるので、反りの抑制された窒化物半導体ウェーハを容易に製造することができる。
【0028】
また、前記工程(2)と前記工程(3)の間に、(2’)前記炭素拡散層が形成されたシリコン単結晶基板の前記表面上に、900℃以下の温度でトリメチルアルミニウム(TMA)を用いて、Al層を形成する工程を行うことが好ましい。
【0029】
このようにすれば、簡単にAl層を形成することができ、エピタキシャル層の密着性を向上させた窒化物半導体基板を製造することができる。
【0030】
このとき、前記工程(2’)において、前記Al層の厚さを1~5nmとすることが好ましい。
【0031】
厚さを5nm以下とすれば、Al層の凹凸が小さくなりその上に成長する窒化物半導体層の表面粗さも小さくなる。また、厚さを1nm以上とすれば、シリコン単結晶基板の表面が十分に被覆されて窒化物半導体薄膜の密着性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明であれば、高抵抗低酸素シリコン単結晶基板を用いて窒化物半導体基板を製造した場合にエピタキシャル成長時やデバイス工程中の塑性変形による反り不良を抑制できる窒化物半導体基板及びその製造方法を提供することができる。さらに、基板のエピタキシャル成長面上に中間層としてAl層を形成することによって、窒化物半導体薄膜との密着性をより一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の窒化物半導体基板の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明に用いるシリコン単結晶基板の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明に用いる窒化物半導体薄膜の一例を示す概略図である。
【
図4】実施例1と比較例1における、窒化物半導体薄膜の成長中における基板の曲率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上述のように、シリコン単結晶基板を用いて窒化物半導体基板を製造した場合にエピタキシャル成長時やデバイス工程中の塑性変形による反り不良を抑制できる窒化物半導体基板及びその製造方法の開発が求められていた。
【0035】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、RTA法により表面に炭素が注入されたシリコン単結晶基板であれば、窒化物半導体薄膜の成長時における塑性変形を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0036】
即ち、本発明は、表面と裏面を有するシリコン単結晶基板の表面上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板であって、前記シリコン単結晶基板は、少なくとも前記表面と前記裏面に、炭素が注入されて前記シリコン単結晶基板のバルク部に比べて炭素濃度が高くなった炭素拡散層を有し、かつ、前記炭素拡散層の炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上である窒化物半導体基板である。
【0037】
また本発明は、表面と裏面を有するシリコン単結晶基板の表面上に窒化物半導体薄膜が形成されたものである窒化物半導体基板の製造方法であって、(1)表面と裏面を有するシリコン単結晶基板を準備する工程、(2)前記シリコン単結晶基板の少なくとも前記表面と前記裏面に、RTA法により炭素を注入して、炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上である炭素拡散層を形成する工程、及び(3)前記炭素拡散層が形成されたシリコン単結晶基板の表面上に、気相成長により窒化ガリウムを含む窒化物半導体薄膜を成長させる工程を含む窒化物半導体基板の製造方法である。
【0038】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<窒化物半導体基板>
図1に示すように、本発明の窒化物半導体基板100は、表面1aと裏面1bを有するシリコン単結晶基板1の表面1a上に窒化物半導体薄膜3が形成されたものである。また、シリコン単結晶基板1の表面1aと窒化物半導体薄膜3との間に、中間層としてAl層2を有していてもよい。そして
図2に示すように、本発明におけるシリコン単結晶基板1は、少なくとも表面1aと裏面1bに、炭素が注入されてシリコン単結晶基板1のバルク部11に比べて炭素濃度が高くなった炭素拡散層12を有し、かつ、炭素拡散層12の炭素濃度は5E+16atoms/cm
3以上である。
【0040】
シリコン単結晶基板
シリコン単結晶基板は寄生容量を低減させるため、好ましくは抵抗率が100Ωcm以上で、酸素濃度7E+17atoms/cm3以下のシリコン単結晶基板である。炭素を注入する前のシリコン単結晶基板は、基板を通したリーク電流を低減するためにサーマルドナーの影響が少ない低酸素で高抵抗なシリコン単結晶基板、特にFZ法で作製されたものであることが望ましいが、高抵抗低酸素のシリコン単結晶基板であればCZ法で作製されたものでも良い。
【0041】
また、表面と裏面に、炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上の炭素拡散層を作り込んだ基板を使用する。炭素拡散層は、基板側面にも形成されていてよい。炭素濃度が5E+16atoms/cm3未満であれば、エピタキシャル成長中における塑性変形を抑制する効果を得ることができない。炭素拡散層における炭素濃度の上限としては特に制限はないが、例えば、2E+17atoms/cm3以下とすることができる。
【0042】
炭素拡散層の厚さとしては特に限定されないが、例えば1μm以上とすることができる。厚さの上限にも特に制限はないが、例えば20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下とすることができる。
【0043】
炭素拡散層の作製方法は特に限定されないが、RTA法を用いて、炭化水素を含む雰囲気中で熱処理する方法で作製するのが好ましい。
【0044】
シリコン単結晶基板の表面には、キャリアの寿命を低下させるトラップリッチ層が形成されていても良い。形成方法は特に限定されないが、イオン注入や電子線、X線、γ線などの電離放射線の照射によって形成することができる。
【0045】
Al層
本発明の窒化物半導体基板では、中間層としてAl層を設けてもよい。Al層は、窒化物半導体薄膜(デバイス層)の結晶性改善や応力の制御のために挿入される緩衝層として働く。RTA法により炭素を注入したシリコン単結晶基板の表面(上面)上に、Alを主成分とするAl層を形成することにより、窒化物半導体薄膜(エピタキシャル層)の結晶性や結晶のモフォロジを改善させるとともに、密着性を上げてエピタキシャル層の剥離をより確実に防止する。
【0046】
Al層の厚さは1~5nmであることが好ましい。厚さが5nm以下であれば、Al層の凹凸が小さくなりその上に成長する窒化物半導体層の表面粗さも小さくなる。また、厚さが1nm以上であれば、シリコン単結晶基板の表面が十分に被覆されて窒化物半導体薄膜の密着性をより向上させることができる。
【0047】
窒化物半導体薄膜
窒化物半導体薄膜は、シリコン単結晶基板又はAl層の上に、熱CVD法、MOVPE法、MBE法、真空蒸着法、スパッタリング法などの気相成長で作製される。窒化物半導体薄膜は、例えばGaN、AlN、InN、AlGaN、InGaN、AlInN、AlScNなどの窒化物、III-V族半導体を用いることができる。膜厚は特に限定されないが、例えば1~10μmで、デバイスに合わせて設計することができる。
【0048】
例えば、
図3に示すように、高移動度トランジスタ(HEMT)構造では、窒化物半導体薄膜(デバイス層)3は窒化ガリウム(GaN)31とその上に形成されるAlGaNからなる電子供給層32で構成される。窒化物半導体薄膜は、デバイス特性の向上のため、結晶欠陥が少なく、炭素や酸素などの不純物が少ない結晶が望ましく、MOVPE法を用いて900℃~1350℃で作製されたものが好ましい。
【0049】
窒化ガリウムは、Si(111)単結晶と格子定数差が17%、熱膨張係数差が116%あり、高温での成長中に薄膜や基板に応力がかかる。また、成長中1000℃以上に加熱されているため、ウェーハに応力がかかると脆性破壊せずに、延性を示すようになり、転位を発生させて塑性変形する。しかし本発明では、表裏面に炭素を注入することによって、シリコン単結晶基板の転位の進展を防止して、塑性変形を防ぐことができる。塑性変形を防ぐことによって、反り異常を低減して歩留まりを向上させることができる。また、基板が応力に耐えることができるので、エピタキシャル層の膜厚を厚くすることができて、デバイス設計の自由度が向上する。
【0050】
<窒化物半導体基板の製造方法>
本発明の窒化物半導体基板は、下記工程(1)~(3)、及び必要に応じて下記工程(2’)を含む本発明の窒化物半導体基板の製造方法によって製造することができる。
【0051】
工程(1)
工程(1)は、表面と裏面を有するシリコン単結晶基板を準備する工程である。本工程で準備するシリコン単結晶基板としては特に限定はされないが、例えば上述のような、寄生容量の小さい、抵抗率が100Ωcm以上で、酸素濃度7E+17atoms/cm3以下のシリコン単結晶基板とすることができる。シリコン単結晶は、FZ法、CZ法のいずれにより製造されたものであってもよいが、FZ法がより好ましい。
【0052】
工程(2)
工程(2)は、シリコン単結晶基板の少なくとも表面と裏面に、RTA法により炭素を注入して、炭素濃度が5E+16atoms/cm3以上である炭素拡散層を形成する工程である。
【0053】
本工程におけるRTA処理の条件は、シリコン単結晶基板の表面及び裏面に炭素注入が可能であれば特に制限はない。RTA処理における雰囲気は、例えば、炭化水素ガスとArを含む混合雰囲気とすることができる。また、RTA処理の温度及び時間は、例えば、1100℃以上シリコン融点以下の温度で、10秒以上150秒以下とすることができる。
【0054】
工程(2’)
工程(2)と工程(3)の間に、(2’)炭素拡散層が形成されたシリコン単結晶基板の表面上に、900℃以下の温度でトリメチルアルミニウム(TMA)を用いて、Al層を形成する工程を行ってもよい。Al層の厚さは、例えば1~5nmとすることができる。
【0055】
本工程では、シリコン単結晶基板の表面上にAl層を形成するために、炉内を高温にした状態で、Al原料としてトリメチルアルミニウムを導入して、所望の膜厚になるように流量、時間を調整する。キャリアガスとしては特に限定はないが、例えば水素を使用することができる。
【0056】
工程(3)
工程(3)は、炭素拡散層が形成されたシリコン単結晶基板の表面上に、気相成長により窒化ガリウムを含む窒化物半導体薄膜を成長させる工程である。
【0057】
本工程では、熱CVD法、MOVPE法、MBE法、真空蒸着法、スパッタリング法などの気相成長で、窒化ガリウムを含む窒化物半導体薄膜からなるデバイス層を作製する。薄膜は、例えばGaN、AlN、InN、AlGaN、InGaN、AlInN、AlScNなどの窒化物、III-V族半導体を用いることができる。膜厚は例えば1~10μmで、デバイスに合わせて設計することができる。
【0058】
エピタキシャル成長の際、Al源としてTMAl、Ga源としてTMGa、N源としてNH3を用いることができる。また、キャリアガスはN2およびH2、ないしはそのいずれかとし、プロセス温度は900~1350℃程度とすることができる。
【0059】
本工程では、シリコン単結晶基板に応力がかかるが、シリコン単結晶基板の表面には上述のような炭素拡散層が形成されているため、シリコン単結晶基板の転位の進展を防止して、塑性変形を防ぐことができる。したがって本発明では、反りの小さい窒化物半導体基板を製造することができる。
【実施例0060】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
抵抗率が100Ωcm以上で酸素が添加されていないFZ法によるシリコン単結晶基板を準備した。
【0062】
上記のシリコン単結晶基板にRTA法による熱処理で、表面と裏面に炭素を注入した。熱処理条件は、CH4とArの雰囲気で1250℃・10sec熱処理を行い、シリコン単結晶基板の表層に炭素濃度5E+16atoms/cm3の炭素拡散層を1μm形成した。
【0063】
表層の炭素濃度を高めたシリコン単結晶基板にMOVPE法で窒化物半導体薄膜のエピタキシャル成長を行った。成長温度は、1000~1200℃で、総膜厚2.8μmの窒化物半導体のエピタキシャル層を成長させた。より具体的な製造方法を以下に示す。
【0064】
[1]反応炉への導入
シリコン単結晶基板をMOVPE装置の反応炉内に導入した後、窒素ガスで炉内を満たして炉内のガスを排気した。
【0065】
[2]基板表面を炉内でクリーニングする工程
基板を反応炉内で加熱して、基板の表面のクリーニングを行った。クリーニングを行う温度は1050℃、炉内圧力は50mbarとし、炉内には、水素、窒素、アンモニアなどからなる混合ガスを供給した状態で10分間クリーニングを行った。
【0066】
[3]Al層形成工程
次に基板上にAl層を形成するために、炉内を高温にした状態で、Al原料としてトリメチルアルミニウムを導入して2nmの膜厚になるように流量、時間を調整した。キャリアガスは、水素を使用した。
【0067】
[4]エピタキシャル層を成長する工程
次に、炉内圧力は50mbar、基板温度1120℃で窒化物半導体薄膜のエピタキシャル成長を行った。Al源としてはトリメチルアルミニウム(TMAl)、Ga源としてはトリメチルガリウム(TMGa)、N源としてはアンモニア(NH3)を用いた。最初にTMAlの流量を標準状態で0.24L/min(240sccm)、NH3の流量は2.0L/min(2000sccm)でAlNの成長を行った。TMAl、TMGa、NH3のキャリアガスは水素を使用した。同様にして、TMAl、TMGaとNH3の流量と成長温度、成長時間を設定して、緩衝層と窒化ガリウム層を成長した。
【0068】
このようにしてGaNエピタキシャル基板を作製することにより、サーマルドナーが発生しづらい高抵抗低酸素シリコン単結晶基板で、高品質なGaNエピタキシャル基板を得ることができた。エピタキシャル成長中の曲率(Curvature(km
-1)の変化を
図4に示す。シリコン単結晶基板に炭素濃度が5E+16atoms/cm
3以上の炭素拡散層を設けておくことで、成長中に基板が塑性変形しないことが分かった。また成長後の反り量は41μmと後述する比較例1に比べて1/5程度であった。
【0069】
(実施例2)
シリコン単結晶基板のRTA法による熱処理において、熱処理条件をCH4とArの雰囲気で1250℃・30secとした以外は、実施例1と同様にして窒化物半導体基板を製造した。このとき炭素拡散層の炭素濃度は8E+16atoms/cm3であった。成長後の反り量は39μmであり、塑性変形を抑制できていることが分かる。
【0070】
(実施例3)
シリコン単結晶基板のRTA法による熱処理において、熱処理条件をCH4とArの雰囲気で1300℃・10secとした以外は、実施例1と同様にして窒化物半導体基板を製造した。このとき炭素拡散層の炭素濃度は2E+17atoms/cm3であった。成長後の反り量は35μmであり、塑性変形を抑制できていることが分かる。
【0071】
(比較例1)
実施例1のRTA法による表層へ炭素注入する工程を行わないことを除き、実施例1と同じ条件でGaNエピタキシャル層の成長を行った。
図4から分かるように成長中に基板が塑性変形していた。成長後の反り量は、213μmであった。
【0072】
(比較例2)
シリコン単結晶基板のRTA法による熱処理において、熱処理条件をCH4とArの雰囲気で1225℃・10secとした以外は、実施例1と同様にして窒化物半導体基板を製造した。このとき炭素拡散層の炭素濃度は2E+16atoms/cm3であった。成長後の反り量は192μmであり、炭素拡散層の炭素濃度が低い場合には塑性変形を抑制できないことが確認された。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。